───冒険の書15/調理と雷とコンソメと───
【ケース102:弦月彰利/ネブラスカ親子】 コトコトコトコト…… 彰利 『ふぅっ……ずっと野営続きだったから、     久しぶりに人間らしい食事にありつけた気がするよ』 悠介 『今も野営だろうが』 さて……テントを広げてからの翌朝、オイラたちは早速朝食の用意をしておりました。 オイラたちっつーても、今日の当番はオイラだから『たち』って喩え方はおかしいけどね。 彰利 『有り合わせの材料で作ったけど、いいかね?』 悠介 『ああ』 硬イモムシを、適当な木の実を砕いた香辛料を溶かしたスープでじっくりと煮る。 硬イモムシはかなり硬いが、熱すると柔らかくなる体質にある。 だからこうして煮込めば煮込むほど弾力を含み、柔らかく美味しく食べれるようになる。 どうですこの生態変化。素晴らしいでしょう、後悔なさい。 なんて冗談はともかく。や、実際ステキな出来栄えさ。 ちと味見してみたけど、こんな有り合わせのモンでここまでのものを作れりゃステキすぎ。 と……そこまで考えて、ふと思った。 彰利 『そういや……俺達ゃこうして適当に料理作ってるけどさ。     他のやつらはもう調理ギルドとかに入って、作ったりしてるのかな』 悠介 『どうだろな。     案外一人くらい空腹で死んで神父送りにされたやつが居るかもしれないぞ』
【Side───その頃の彼ら】 野中 「へぇえっくしょんっ!!」 中村 「んあ?どしたー野中、風邪か?」 野中 「えと……なんだろ。誰か噂でもしてるのかな」 中村 「空腹で精神枯渇して神父送りにされたヤツが居るか〜?とかか?」 野中 「うるさいよ、もう」 【Side───End】
彰利 『……そんなヤツ居るんかね。まあいいや、ほい』 悠介 『サンキュ』 悠介の分を椀によそり、それを渡す。 おお、この馨しい香りに大感謝。 腹の虫が触発されたようにオォオ〜〜〜と鳴いとうぜ。 彰利 『ほいじゃあ今日もメシを食えることを、     我らが主神・イーヴィルバーグ様に感謝しつつ』 悠介 『いただきます』 彰利 『いただきます』 ズパァンと手を合わせたのちに食事を始める。 ああついでに言っておくと、イーヴィルバーグってのは獣人神だ。 悠介 『ん───やっぱお前の作る料理って美味いな』 彰利 『フフフ、すげぇだろ。もっと褒めて』 悠介 『調子に乗るから断る』 彰利 『調子に乗る……?違うな、既に乗ってるのよ』 悠介 『あ〜ぁお前らしいお前らしい』 彰利 『……ねぇノーちゃん……最近ダーリンが冷たいの』 悠介 『なにも無いところに言葉放ってもしゃあないだろ?ほら、さっさと食おう』 彰利 『うう……ちくしょう』 不良モード悠介ったらほんにぶっきらぼうなんだからもう……。 彰利 『けどさ、実際他のやつらはどうしてるんだろうね。     ほら、俺や悠介は元から調理スキルは高かったわけじゃん?     精霊野郎にしたって閏璃凍弥にしたって。     じゃけんど他のやつらはどうなんかね。     俺としては提督とかのパーティーがなんか心配』 悠介 『俺としてはルナたちが居るパーティーだな……。     あそこは総じて料理上手いヤツが居ないだろ……』 彰利 『ルナっち……ダメ。粉雪……ダメ。春菜……自殺行為。仁美さん……結構美味い。     真穂さん……なかなか。……バランスがいいのか悪いのか解らんけど、     夜華さんに至っては口内江戸っ子症候群だしなぁ』 悠介 『へぇ、日余って料理ダメなのか』 彰利 『メシはもっぱら俺が作ってたしね。     妻に苦労かけないのも俺のポリスーのひとつじゃけぇ』 悠介 『それを言うならポリシーだ』 彰利 『キャアもうダーリンたらいちいちツッコミが細かいんだから!     まあでも仁美さんと真穂さんが居れば大丈夫かな。これで一安心』 悠介 『……ルナとか先輩とかがしゃしゃり出なけりゃいいけどなー……』
【Side───桐生真穂】 仁美 「はい、今日の料理できたよー」 春菜 「はふ……もうお腹ペコペコだよ……」 粉雪 「へぇ……今日はカレーなんだ」 仁美 「今日は桐生家特性カレー!ほらほらー、食べて食べてー」 春菜 「じゃあ、いただきまーす」  ぱくドシャア…… 一口で1メートル……どころか1センチ。 春菜先輩はその場に倒れた。 仁美 「……?あれ?春菜ちゃん?」 粉雪 「うわわぁっ!?春菜っ!?ちょっと春菜っ!!」 夜華 「どうしたっ!?まさか毒物が───!?     おのれ貴様っ!よもや彰衛門を独り占めにしたいがためにこんな罠を……!?」 仁美 「むっ。夜華ちゃん?それは失礼ってものだよ?     そりゃアキちゃんを独り占めにしたいって気持ちはあるけど、     わたしはそんなことしないし、そもそもほら、カレーだってこんなに美味しく」  ぱくドシャア…… 真穂 「わぁぁっ!!お母さん!?お母さん!!」 続いてお母さん。 笑みを浮かべたままにピクピクと痙攣している。 夜華 「な、なにごとだ……!?まさか知らぬ間に毒物が混入させられていたのか!?」 粉雪 「……ねぇ真穂。これって───」 真穂 「ごめんねみんな……。今日、ルナさんがどうしても手伝うとか言い出して……」 総員 『っ……!!』 ……その時、確かにわたしたちの身には戦慄が奔ったんだと思いました。 粉雪 「こっ……これが……桐生家の味っ……!!!」 夜華 「なんと凶々しい……!!中空を飛んでいた虫が絶命したぞ……!!」 真穂 「えぇっ!?ち、違うよ!?違うってば!     桐生家のカレーは殺虫剤なんかじゃないってば!!」 夜華 「だが見ろ……!瘴気を発しているばかりか───!!」 カレー『オォオオ〜〜〜……フォオオルェエエエエ……』 真穂 「ひぃっ!?ななななんか意思持っちゃってるーーーーっ!!!」 粉雪 「ちょっ……作った本人は!?何処に行ったの!?」 真穂 「作り終えるや否や、そそくさと逃亡を……」 粉雪 「うわぁ……」  ピピンッ♪《桐生真穂は死霊使い(ネクロマンサー)
の称号を手に入れた!!》 真穂 「やだぁあああっ!!なんでわたし!?」 粉雪 「作った人と手伝った人が逃亡したり気絶したりしてるからでしょ……。     こんなサブイベントがあったなんて……」 夜華 「死霊使いか……確かにこの“かれー”を見れば、死霊という名称も頷ける……」 真穂 「頷いてる場合じゃないってばぁーーーっ!!     うわぁあああん!!なんかこの世界に来てから全然いいことが無いよぅ!!」 ……空が蒼く、死臭漂うその日───わたしは不名誉な称号に本気で泣いた。 【Side───End】
悠介 『しかしこのスープ美味いな』 彰利 『だろ?や、正直有り合わせのものでここまで出来たのが信じられんくらいだ。     ンマッ!?なにせっ!?俺にゃあ料理の才がありますからねィェーーーッ!!』 悠介 『……ただ単に金欠時のサバイバル生活が長かった故の知識じゃなかったんだな』 彰利 『いや、それもある』 悠介 『あるのか……』 彰利 『しかしここでこのDIOは考える。     こういう料理にも特殊効果とかってあるんかな。     ホレ、HP最大値が一時的上昇するとか、攻撃力が上がるとかさ』 悠介 『材料や作り方によっては変わったりするんじゃないか?』
【Side───中井出博光】 殊戸瀬「ごはん、出来たわよ」 中井出「あれ?今日の朝食って殊戸瀬が当番だったっけ」 丘野 「や、急に変わってくれっていうから」 そか、そうだよな。 確か今日は丘野二等の当番だった筈だ。 藍田 「い〜い匂いだなぁ。殊戸瀬って料理上手かったんだっけ?」 丘野 「いや、料理は全てコックが作ってくれてたから……」 藍田 「……でもいい匂いだよな」 殊戸瀬「どういう意味?……まあ、いいわ。食べてよ」 藍田 「ほいほい。美味けりゃ文句なんてないしな。いただきますっと」 殊戸瀬二等が人数分のスープを椀によそり、配るのを受け取る。 具材も綺麗に切られ、 じっくり煮込まれたそれらは適度にスープに溶け、いい具合にトロトロ感を出していた。 これは確かに美味そうだ。 素直じゃない殊戸瀬のことだ、 丘野二等に隠れるように料理の努力をしてきたんだろう。 それがたまたま、今日が披露の日になった───そういうことだと思う。 殊戸瀬二等も丘野二等のことになると、 可愛いところがあるのは原中の猛者の中では周知の事実だ。  ズズッ…… 藍田 「はふっ……おお!美味ぇ!美味ぇよこれ!!」 丘野 「ほんとか?へぇえ〜〜……睦月、もしかして隠れて努力してたのか?」 殊戸瀬「……っ……」 丘野 「はは、なんだよ。だったら俺に一番に披露してくれりゃ良かったのに。     多少カタチが悪くても全部食べたぞ?」 殊戸瀬「ば、ばかっ……そんな半端なの、一番に食べさせられるわけないでしょ……っ」 丘野二等の言葉に、殊戸瀬二等は真っ赤だ。 なんていうかこういう時の殊戸瀬は見ていて和む。 ───だが待て? よく見ると丘野二等の手には椀が無くて……しかも今なんて言った?  『そんな半端なの、“一番に”食べさせられるわけないでしょ』 中井出「………」 マテ。 落チ着ツイテ整理シヨウ。 スープを配ってるのは殊戸瀬。 で、丘野二等以外の猛者たちには配られ……えっと。  メキィッ!! 藍田 「あぐあぁあっ!?」 中井出「ひいっ!?」 思考中、隣でグビグビとスープを飲み下していた藍田二等が叫んだ。 見れば、コメカミあたりがピクピクと痙攣し、体がメキメキと音を立てて 総員 『ギャッ……ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』 藍田 「あががぎぎゃあああああああああっ!!!!」 あ……藍田が……藍田二等が……ムキムキマッチョに!! 中井出「こここ殊戸瀬二等ォオッ!!?貴ッ様このスープになに入れたぁあっ!!!!」 殊戸瀬「ドーピングコンソメスープ。     なにかを入れたんじゃなくて、このスープ自体がマッスルの素なだけ」 総員 『ひぃっ!!?』 椀を持っていた総員が、椀をゴパシャアとひっくり返した。 つーか持ってるだけで怖い。 殊戸瀬「調合で増強剤が出来たから、     怪力の種を砕いて入れたスパイスを溶かしたスープに混ぜてみたの」 総員 『妙な細工すんなぁあああーーーーーーっ!!!!』 藍田 「アオオ……!!」 ビリリムクムク……!! 丘野 「ヒィイ!!     藍田が柿野くんが女になってゆく過程で鳴っていた効果音を出してる!!」 殊戸瀬「攻撃力アップの食事のレシピの完成ね。実験は成功と」 中井出「あぁあああ!!サワヤカな朝食の場が一気にカオスな状況に!!」 麻衣香「なんかもうこんなことばっかり……」 夏子 『麻衣香……気にしてたら前向いてられなくなるよ……』 麻衣香「うん……解ってる……」 その朝。 ひとりの執事がムキムキマッチョ紳士への変貌を遂げたのだった。 【Side───End】
ホームレス時代はいろいろ大変だった。 だが俺もこうして、妻や息子を持つ身になった。 俺としちゃあおなごが良かったんだけどね。 でもまあ今となっては男で良かったと思ってる。 うん、思ってる。 だっておなごが産まれたとして、 そやつを可愛がってたら絶対に妻のみなさんが嫉妬して俺のことボコボコにするし。 そんな状況が簡単に想像出来る分、 なんつーか椛って案外普通だったのかなぁとか思うわけでして。 彰利 『そういやさ。悠介は深冬ちゃんのこと可愛がったりしてたか?     俺の見解じゃあ竹トンボ教えたりなんだりって、     子供の遊びばっか研究して教えてた気がするけど』 悠介 『しょうがないさ。なにせ深冬は病弱だった。     それなのに普通の子供と同じことをさせるのは無茶ってもんだろ。     どこぞの一部の医者やら研究者やらなら、     “同じことをさせて克服させるべき”とか言うんだろうけどな。     人と死神の混血として産まれるってのは     人の知識でどうこうできるようなもんじゃない。そうだろ?死神王』 彰利 『そりゃそうだ。     今でこそ創造の理力とか月操力、精霊の力とかでなんとか出来てるけどね。     異界の病とか死神の力ってのはそう生易しいもんじゃあねぇんだぜ?     もし俺達が月操力しか使えないようなら、深冬ちゃんは今でも病に蝕まれてたよ』 悠介 『………』 悠介は特に何を言うでもなく空を見上げた。 スープを未だに温め続けている焚火がパキパキと音を鳴らす静けさの中、 俺もそれに習って空を見上げる。 彰利 『………』 ただ無言に。 空を飛ぶ鳥や、その遙か上空を飛翔する飛竜を見送った。 ……いい天気だった。 こんな風に落ち着いた調子で空を見るなんてどれくらいだろう、と思えるくらいに。 それはきっと、最後に落ち着いた空を見上げた瞬間ってのが随分前だから、なのだろう。 いつだって身の回りに起きる奇妙ごとは秋にこそあり─── でもその秋が過ぎてみれば、こうした暖かい日差しがあった。 聞こえる自然の音に耳を傾けながら目を閉じるなんて、どれくらいぶりだろう。 急ぎ足や早歩きの毎日が、今ようやく息を潜めてくれた───そんな気がした。 そうした夏の気配の中───俺は。 俺達が拓いてゆく未来は、いったいどんな世界へと続いているのだろうかと─── ただぼんやりと、考えていた───…… 【ケース103:晦悠介/ヴァン様って聞くとハイパーレストランを思い出す】 かちゃかちゃ……ボフンッ。 彰利 『よ〜っしゃ、収納終了〜』 早朝の食事ののち、用済みとなったテントをバックパックの中に便利に収納すると、 俺と彰利は向き合って頷き合った。 目の前に聳え立つのはテインジングマウンテン。 山頂のさらに上にずっと雷雲が漂っているという異常空間だ。 俺と彰利はここにこそ雷の精霊ヴォルトが居るんじゃないかと仮説を立て、 こうして町外れの山まで来た。 雷雲があるってことは、いつ雷が落ちるか解らないってことだ。 だからこんな場所の周りには誰も住まないし、町から遠く離れた場所に存在する。 普通に考えて、仕方の無いことだ。 が……それはつまり、 回復アイテムが尽きても買いに行くには遠すぎるってことにイコールしているわけで。 いささか、あとのことが心配になっていたりする。 悠介 『……っしゃあっ!!気合入れて一気に行くか!!』 彰利 『オウヨ!!むしろシコルスキーにでもなるかのように、     モンスター無視して岸壁上っていくとか!!』 悠介 『や……それはそれで名案だが、     ここはちゃんと経験積むためにも山登っていったほうがいいんじゃないか?     雷属性の敵とも戦ってみたほうがいいと思う』 彰利 『ノンノンノン!!雷の弱点と言えば水!そしてキミは無形物創造者!!     水創造して包み込んじまえば楽勝!!あれ?雷の弱点って地だったっけ?     まあいいや、それにさ、精霊の宝玉貰ってないのに経験積むのって、     なんつーか……ねぇ?もったいなくねぇかい?』 『あたしゃそう思うね!』と、どこぞのいかついおばさんのように胸を張る彰利。 こいつはこう、言い出したら聞かないところがあるからな……。 悠介 『解った、じゃあそれで行こう。     ただし、途中で記憶陣を見つけたらきちんとホームポイント設定をすること。     そして……第一戦では回復アイテムを使用しないこと。     様子見のために全力で、だが回復無しで戦う』 彰利 『マジすか!?……キツイっすねそれ……!!     でも金は半分取られるわけっしょ?どうするん?』 悠介 『どうするもなにも。倒せば金は戻ってくるんだから、倒せばいい』 彰利 『……時々、悠介って物凄く強気に出るよね。     なに?もう勝つ気でいるのかね?やつは精霊……きっと強ぇえぜ?』 悠介 『んー……?ああ、そうだろうな。     けど負けることを想定して行くより覚悟は決まるだろ?     俺はいっつも、負けるより勝つ気で挑んでる。     じゃないと全力でぶつかってくる相手に失礼だ。     少なくとも俺は全力で戦った相手に、     “まぐれで勝っちまった〜”なんて風に言われたくない。     勝てるわけがないのに勝っちまった、なんて……     それこそ全力で挑んでなけりゃ失礼だろ』 彰利 『………』 彰利は俺の言葉にポカンとすると、苦笑とともに鼻の頭をコリコリと掻いた。 彰利 『や、なんつーか……はは。悠介だなぁ』 悠介 『……?なんだよそれ』 彰利 『人間に対してはあまり敬意なんて示さないくせに、     なんだって人外相手だとこう素直なんかね、ってね。     相手に対して失礼だ〜、なんて。普通に考えて悠介しか言わねぇって』 悠介 『そんなことないだろ。騎士道とか武士道とかを志すヤツなら誰だって───』 彰利 『誰だって言うだろうねぇ。ただし人に対してのみだけど』 悠介 『うぐ……』 それは、そうかもしれない。 人なんてものは、人外を見れば敵だとか希少生物だとか言うばかりだ。 相手がどれだけ強かろうが、それは“狩るべき相手”でしかなく─── 彰利 『あ、だからかね?悠介が人外に好かれるのって。     もちろんアタイも既に人外だから、ダーリンあなたにフォーリンラァーーヴ!!』 悠介 『寝言は寝て言え』 彰利 『ねごっ……!?』 ……どちらにしろ、全力でぶつかるのは礼儀ってものだ。 以前の俺だったら“女は殴らない”だとか言ってただろうけど、 その躊躇はもう過去に置いてきた。 対峙するからには全力で。 誰であろうが打ちのめす、なんてことは断言出来やしないが、 手を抜こうだなんて思わない。 それはルナたちとの戦いで実践出来た。 悠介 『………』 いつか、守ろうと思っていたものと戦うのは正直辛い。 辛いけど、いつかは振り切らなきゃいけないことだって解ってるから。 “守りたいものを守る”───俺はかつてそう言った。 けどそれは、ずっと、いつまでも続けられるようなものじゃない。 友人だから守って、友人の息子だから守って、その親戚や友人だから守って、なんて…… そんなことをやっていたら、いつか俺はなにも守れなくなるだろう。 だからきちんと意思を持とうと思った。 守るだけの人形になるわけでもなく、 体のいい道具になるわけでも英雄になるわけでもない。 俺は俺の意思を持って、俺が本当に守りたい未来だけを守っていこうと。 だから子供たちは地界に置いていく。 辛い思いばかりさせると思うけど、それは我慢してもらおう。 そして、友達や知り合いで助け合って生きていってほしい。 悠介 『……ヒロラインが終わったら、俺達はどうなるんだろうな』 彰利 『む……せやねぇ。とりあえず俺はキミに付き合って空界に行くさね。     いい思い出もそりゃああるけど、悪い思い出も随分あるでよ。     空界で新たなスタートをするのも悪かぁねぇと思っとります』 悠介 『そっか』 彰利 『ちなみに子供を作る気はさらさら無いよ?』 悠介 『ああ、俺もだ。今のメンバーだけでいいと思ってる』 彰利 『正直、そっからいろいろ広がっていかれると困るっつーのかね。     なによりも悠介が困りそうっつーか』 悠介 『俺が?……なんでだ?』 彰利 『ふむぅん。キミが俺のことよく知ってるように、     俺だってキミのこと知ってるってこったよ。     俺を守るとか言っておいても、結局知り合いとか友達、     クラスメイツとかの子孫とかは守ろうとか思っちまうだろ』 悠介 『いや、そんなことは───』 大体今心に決めたばっかりだ。 そんなことは───……多分、しないと思う。 彰利 『無駄、無駄無駄無駄。キミが晦悠介である限り、     よっぽどのことがないとそげなことは出来んよ。     昨日言ったばっかだろ?俺達ゃそういう生き方をしてきたんだ。     見捨てるだとか見過ごすだとか、そんなことはその状況になったら出来やしない。     だってさ、そうじゃないと俺の親友の“晦悠介”はなりたたないんだ』 しゃあないだろ、と続けて、彰利は笑った。 ……俺は苦笑するしかない。 だって、言われてみると妙になるほどと思えてしまったのだから。 彰利 『だからさ、悠介。俺だけを守る、なんて言わないで他のやつらも守ってほしい。     もちろん俺だって協力するし、俺はお前の未来を守っていく。     でもその先にクラスメイツたちが居ないのは……やっぱ寂しいだろ。     きっと、なにかの拍子で見捨てたりしたら後悔する時が来るよ』 悠介 『……ん』 彰利 『今俺達が進んでるこの時間軸はやり直しなんて効かないんだ。     あの無限地獄の時みたいに、     俺の魂だけが過去に飛ばされてやり直せる、なんてことには繋がらない。     だから、取り返しのつかない失敗だけはやっちゃならない。そうだろ?     だからさ、もっと広く考えていこうや。     俺と悠介は、俺達と猛者どもや知り合い仲───空界に渡るやつらの未来を守る。     そうしてれば、悲しいことがあったとしても悔いはそう残らないと思うんだ。     でっけぇ意思を貫こうと精一杯努力したんならさ、きっと自分も許せるだろ?』 悠介 『……経験者は語る、か』 彰利 『ま、そんなとこ』 いつもの彰利っぽくじゃなく、俺と一緒の時だけに見せる無邪気な笑顔で言う彰利。 頭の後ろで腕を組み、ケラケラと笑うその様子は…… ずっと昔に見たあの頃の笑顔とまるで変わってなかった。 彰利 『さて、いつまでもここでこうしてても始まらんし。レッツシコルス?』 悠介 『ああ、レッツシコルス』 こいつとの付き合いももう随分になる。 それでも変わらずこうして馬鹿やっていられることを、今は喜ぼう。 まあ、これからやることが登山じゃなくてロッククライミングってのが悲しいところだが。 そこんところは喜べない。 ───……。 ……。 ズズ……ズシャリ、ズズ……ズリャアッ!! 彰利 『オワッ!?』 悠介 『───!だぁっ!!』  ガッシィッ!! 絶壁を登る中、手を滑らせた彰利の手首を掴んだ。 悠介 『っ……!ファイッットォオオオッ!!!!』 彰利 『いっぱぁああーーーーーーーつ!!!』 悠介 『───マイナス五千発』 彰利 『イヤァアアアアアッ!!!!』 いつかの恐怖が思い返されたのだろうか。 彰利は恐怖の顔でギャアギャア叫び始め、俺の手首を超握力で握り締めてきた。 悠介 『うゎだいだだだだっ!!こ、こらっ!単なる冗談だから、とっとと手ェ離せ!!』 彰利 『ギャア神様!!!ここで離したら俺の命がねぇーーーっ!!     このままでは俺が地よりも深い底の底の獄、強制労働施設にーーーっ!!!     ギャアそれにしても金が欲しいぃいいーーーーーーっ!!!     助けてぇええ!!助けてパーーマーーン!!!』 悠介 『助かりたかったらとっとと岸壁を掴み直せたわけぇっ!!』 俺の手首のみに掴まり、ジタバタと足を揺らす目下の馬鹿者。 いっそ本当に手を離してくれようかとか思ったが───さすがにそれはマズイよな。 なんて思っているうちに彰利は岸壁に掴まってくれて、とりあえずは助かった。 彰利 『しっかしまいったねこりゃ……!     STRをMAXにしてりゃあ楽かと思ってたのに……!』 悠介 『疲れることはないものの、掴む場所を間違えると本気で落ちるな……』 彰利 『岸壁とかがポリボリしかったら、掴み損ねることなんて無かったんだろうに。     ちゃんと崩れるように作成されてる分、本気で怖ェエよ』 いいつつ登り、さらに登る。 で、登る前から気になってたことを訊いてみることにした。 もちろん登りながらだが。 悠介 『……なぁ。思ったんだけどさ。     もしこの山の中に宝箱とかあったら……どうする?』 彰利 『どうするってそりゃアータ……後悔?』 悠介 『……はぁああ……』 重苦しい溜め息が出た。 ったく……どうしてこいつはこう……。 彰利 『うーわー、なんつーか悠介のそういう呆れを含んだ重苦しい溜め息、     久々に聞いた気がする』 悠介 『あー……そうか?お前と一緒に居ると絶えることなんざないと思うが』 彰利 『んーにゃ?俺が夜華さんの過去への旅に出るちっと前……そうさね、     丁度グレゴリオの村から戻ってきたあとの秋かね。     あの頃はよく聞いてたもんだけど、空界に行く前や行ったあとはトント』 ……そうか? 溜め息の数なら誰にも負けない自信が……あるのも悲しいな。 悠介 『まあ……溜め息のことで問答してもしょうがないだろ。     それよりほら、頂上が見えてきた』 彰利 『お、マジかね?』 登る手に力が篭る。 そうして登りきってみると───  ズゴロロロロロロロ………… 彰利 『…………』 悠介 『…………』 すぐ上空には雷雲。 見える景色は荒れ果て、小さな磁気嵐に削られたような様子にも見えた。 彰利 『……強いかな』 悠介 『強いだろうな……』 なんてったって相手は精霊。 しかも実体を持ってるのか持ってないのか解らない相手である。 そもそも攻撃が通じるのかどうか。 前回───ニーディアとは戦わずに契約できた。 だから相手の実力なんて解らなかったし、 そもそもタイヤキ野郎とモミアゲ馬鹿を黒コゲにしたあの雷に、 イレヴナルラインゲートの威力はハッキリ言って規格外のものだった。 それを考えると…… 悠介 『そういや……雷自体、超自然現象によるもの……なんだよな?』 彰利 『んあ?そうデショ?』 悠介 『お前さ、音速に動く大気に勝てる自信は?』 彰利 『…………』 サァッ、と彰利の顔が青ざめる。 そりゃそうだ、俺も勝てる気がしない。 けどこれがゲームの中だっていうのなら、少しは勝てる要素はあるのかもしれない。 悠介 『気ィ引き締めていけよ、彰利……!     未来を詠むことこそしないが、相手は神・エネル級だ……!』 彰利 『ウハーイ……なんか物凄く嫌な予感しかしねぇやー……』 ともあれ気合は十分だ。 俺と彰利は、頂上の中心よりやや外れた場所にある、紫色に光る魔法陣へと歩き出した。 闇の精霊の時と同じだ。 この魔法陣の中に入ったら戦いが始まる。 悠介 『……いいか?』 彰利 『え?あ』  バヂュジギギィイイインッ!!!! ……確認するより早く、彰利が魔法陣の端っこを踏んでいた。 彰利 『ギャアしまったぁあああっ!!!心の準備まだだったのにぃいいいっ!!!』 悠介 『叫んでる場合か!来るぞ!』 大気が震動する。 雷雲は紫と黒を混ぜ合わせたように気味悪く蠢き、 ニーディアや月鳴力のような青白さなど一切無い。 そして……その雷雲の一部が、円球を象りつつ降りてくる。 彰利 『ゴ……ゴクッ!!』 悠介 『………』 やがてそれは両の目を持った蒼紫色の雷鳴の球体となり、俺と彰利を睨みつけた。 彰利 『う……わー……思いっきりヴォルトじゃん』 丸く、大きな球体の精霊。 その周りには青白く光る魔法陣のようなものが回転している。 そんな中でギロリと動く双眼は、既に俺達しか見ちゃいなかった。 ヴォルト『Ich, die Energie zaubert Blitz des Donners weg』 彰利  『なにぃ!?マジか!?』 悠介  『え……お前、なんて言ってるか解るのか?』 彰利  『さっぱり解らん!!』  ボゴシャア!! 彰利 『モルスァ!!』 悠介 『だったら黙ってろダァホ……!!』 彰利 『ソ、ソーリー……だがちょほいと待ってくれ……。     もしや、動作や雰囲気だけでも理解は届くかもしれない……。     そ、そうすれば戦わずに済むかもしれねぇぜ〜〜〜っ!!』 悠介 『………』 お前に任せるだけで、それは絶対に無理になると思う……という言葉は飲み込んでおこう。 ともあれ彰利はザッ……と一歩を踏み出し─── ヴォルト『………』 彰利  『………』 ジッと見つめあい、やがて─── ヴォルト『The human being who came on business to our sacred precincts how』 彰利  『…………』 ヴォルトはやはりよく解らない言葉を放っている。 一方の彰利は─── 彰利 『ブ……?ベイ……?カモ……ぬう……?     ぶ……ぶ?ぶ……こ……?ベイ……グ、グウウ……?』 言われた言葉を自分的に解釈しようと一生懸命だ。 で、ややあって出た結論といえば─── 彰利 『ファー……!ブルスコ……ファー!!ブルスコ……ファー!!     ブルスコ……ファー!!ブルスコファー!!』 謎の奇妙生物・ファービーの真似だった。 しかも直後に雷を召喚されゴロロガバッシャァアアアンッ!!!!』 彰利 『うぎゃあああーーーーーーーっ!!!!!>』 盛大に焦げた。 さらにはヴォルトが放電をし始め、震え出したのだ。 ヴォルト『Insult is a crime!!! It is punished!!!!』  ゴロロギシャァアアアアアアアアッ!!!!! 悠介 『っておいこらぁっ!!お前なに言ったんだ!?     ヴォルトのやつ物凄く怒ってるぞ!?』 彰利 『し、知らない!僕は知らないぞ!!大友くん!キミがなにかをやったのだ!     僕に罪をなすりつけようったってそうはいかないぞ!!』 悠介 『言ってる場合か!来るぞ!!』 彰利 『ひうっ!!』 彰利が三国志の人々みたいな声を上げる。 俺はすぐさま武器を創造するとヴォルトに向き直り───  ビジィッ!!ゴロロガバァッシャァアアアンッ!!! 悠介 『だわぁああああっ!!!』 彰利 『キャーーーッ!!!!』 逃げた。 彰利 『無理無理無理無理!!冗談じゃねぇやいこいつ!!     攻撃が雷雲から落ちてくるんじゃあ予測なんて出来ねぇじゃん!!     ダーリンちょっとダーリン!!なんだってヴォルトなんかにしたの!!     ここは手堅くウンディーネあたりにしときゃあ───』 悠介 『お前がシャドウじゃなくてイフリートにしろとか言われたら納得してたのかよ!』 彰利 『せん!!』 悠介 『あのなぁあああっ!!!』 雷鳴が轟く。 耳障りには程遠い聞き慣れたシンボルの音。 ルナと再会し、逝屠の代わり───人形として生きてきた数年から今まで、 きっと、俺が一番創造した自然現象。 それが今、敵となって襲い掛かる。 彰利 『えーと、無理だから全部悠介に任せていい?』 悠介 『たわけ!気を引き締めろ!!“戦闘開始(セット)
”!!』 ランクプレートもないのに唱えるセット。 だがその一言は確実に俺の気を引き締めてくれて、 武器を握る手にいつも通りの力が篭る。 大丈夫だ……覚悟をしろ。 いつだって同じだ───負ける気でやるんじゃなく、たとえ無茶でも勝つ気で挑む───! Next Menu back