───冒険の書19/一方彼らは──────
【ケース113:清水国明/生きてるって素晴らしい】 ゴコォン…… レイナート「よく生きて帰ってきてくれた。大変だっただろう」 清水   「当たり前だ王様てめぇ!!」 岡田   「不死戦士があんなに強ぇなんて聞いてねぇぞ王様てめぇ!!」 田辺   「最初から最後までそこで踏ん反り返ってたんだろ王様てめぇ!!」 レイナート「そうだ」 三人   『言い切ったァーーーーーーーーッ!!!!』 ───戦場から戻ってきた俺達は、早速国王レイナートの前に案内された。 戦争の結果は死者一名……だが悲しんでる暇も無い。 戦争を始めたからには、犠牲が出るってことは解ってた筈だ。 レイナート「ともあれ、ご苦労。キミたちには無料ルルカパスと5G$を贈ろう。       これからもこの国のため、助力を惜しまぬ姿勢で居て欲しい」 ソナナニス「これが無料ルルカパスだ。そしてG$金貨を5枚ずつ。受け取るがいい」  ペッペケペー!《無料ルルカパスを手に入れた!》 清水   「ルル……なに?」 ソナナニス「ルルカパスだ」 田辺   「なにそれ」 ソナナニス「城下町のルルカ牧場に行ってみるといい。説明はそこでしてもらえ」 岡田   「……王様に負けず劣らず偉そうだなこの大臣……」 清水   「確かに。こいつがなにしたっていうんだろうな」 田辺   「偉そうだぞこの野郎」 ソナナニス「私にはここで王をお守りするという大切な使命があるのだ」 田辺   「それって王国に攻め込まれない限りは仕事が無いってことじゃん」 清水   「その間ずっと側に立ってるだけか」 岡田   「退屈そうだなそれ……」 ソナナニス「黙れ!」 岡田   「黙れクズが!」 清水&田辺『死ね!!』 ソナナニス「な、なんだと貴様ら!!」 レイナート「構わん、ソナナニス。       これくらい元気があった方が冒険者としては評価出来る」 岡田   「とにかくもう用はないんだろー?帰っていいか?」 レイナート「ああ構わない。っと、そうだ。       暇になったらまたここを訊ねてくれ。私も案外暇なんだ」 清水   「まー……考えときます」 ペコリと一応お辞儀をしたのちにさっさと逃走した。 ───……。 ゴコォン……後ろで謁見の間の扉が閉まる。 そうすることでようやく緊張が解け、俺達は長い長い溜め息を吐いた。 清水 「……なんにせよ、終わったな」 岡田 「だなー……」 田辺 「あー……なんつーか今、国民になんてなるんじゃなかったって思ってる……」 清水 「提督たちはどこにも所属してなさそうだったしなぁ……」 羨ましい限りだ。 実に自由そうだった。 岡田 「ま、しゃあないだろ。悪いことばっかじゃないさ。     こうしてタダで金もなんたらパスも貰ったわけだし」 田辺 「ルルカパス……だっけ」 ヒラヒラと平べったい物体を揺らす。 貰えるものは貰っておくべきだとはよく言ったもんだが……なんだろなぁコレ。 清水 「いいか。ルルカ牧場に行ってみりゃ解るよな」 岡田 「そういうことになるかな」 田辺 「ほんなこつー」 ───。 ……。 で。 清水 「というわけで城下町のルルカ牧場だ」 男  「ルルカを利用するんかい?」 田辺 「ちなみにこの人はマサイ族のペットゥァズッキィーニさんだ」 岡田 「ペタジーニじゃないのな」 田辺 「ズッキーニなのが特徴だ」 男  「俺の名前はランドリンだが」 田辺 「うっさいズッキーニ」 傍若無人だった。 ズッキーニ「はぁ……時々居るんだよなぁ、お前さんらみたいな客。       で?乗るのか乗らんのか」 田辺   「まぁ待てズッキーニ。まずはルルカってのがなんなのか聞かせてくれ」 ズッキーニ「いや、俺はランドリン───」 岡田   「うっさいズッキーニ」 傍若無人者が増えた。 ズッキーニ「はぁ……いいかい?ルルカってのはここに居る動物のことだ。       ルルカパスがあれば、金さえ払ってくれりゃあ貸し出すことが出来る。       ただし。王国製のパスは無料扱いになってて、       金を払わんでも乗ることが出来る」 田辺   「そうなのかズッキーニ」 岡田   「説明サンキューズッキーニ」 ズッキーニ「………」 ズッキーニが静かに泣いた。 一般の方々には原中の勢いは理解出来んかやっぱ。 ズッキーニ「と、ともかく。ルルカに乗ったら一度だけ乗り継ぎが可能だ。       降りて乗って降りたら、       ルルカはそこから一番近い牧場に戻るように躾られている」 岡田   「そうなのかズッキーニ」 田辺   「わざわざ詳しく説明してもらって、なんだか悪いなズッキーニ」 岡田   「ところでだズッキーニ。       一度降りるだけの用事で乗った場合はどうするんだズッキーニ」 田辺   「おおそういやぁ。そこんところはどうなんだズッキーニ」 ズッキーニ「……降りた状態で三回手綱を引いてやれば“戻れ”の合図だ」 岡田   「そうなのかズッキーニ」 田辺   「説明サンクスズッキーニ」 岡田   「それじゃあ早速乗らせてもらうぞズッキーニ」 ズッキーニ「そ、そうか。それじゃあ料金5S$を───」 岡田   「バカズッキーニ!!てめぇ何処に目ェ付けてんだズッキーニ!!」 田辺   「あ・このォ!王国製ルルカパァスがぁっ!       あ・目ェに入らァアアぬかぁあああ〜〜〜っ!!!よよい!!ズッキーニ!」 清水   「いや、今のはわざわざ最後にズッキーニ付ける意味なかっただろ」 岡田   「楽しいことは全力でやれ。By原中大原則経典1ページ1項目目」 田辺   「経典の教えが我らの心に刻まれている限り、俺達は無敵だ」 ズッキーニ「ランドリンなのに……」 田辺&岡田『うっさいズッキーニ』 ズッキーニ「………」 やっぱり泣くズッキーニだった。 【ケース114:閏璃凍弥/サトゥルヌス=悟】 凍弥 「男とはなんぞや!!よし答えよう!     男とは海に生き陸に生き荒々しく生きる者のことを言う!!」 鷹志 「見よ!この広大なる外宇宙!俺達の前に広がる青!これこそが男コスモ!!」 柿崎 「そして聞け!この波が揺れる音!これぞ船を揺らす男のロマン!!」 凍弥 「おお海よ!貴様はどうして海なのだ!!叫べ海!海ィーーーッ!!」 鷹志 「海ィーーーーーッ!!!」 柿崎 「うーーーみぃいいーーーーーーーっ!!!!」 来流美「……なにやりたいわけ?」 いつもながら、来流美のツッコミは的確だった。 凍弥 「というわけで霧波川さん。今日は海に来ております。感想をどうぞ」 来流美「あんたらちょっとは黙りなさい」 凍弥 「はい、えー、海に対して情のカケラも無い言葉でした。     きっと霧波川さんは海に恨みでもあるんでしょうね」 来流美「そうじゃなくて……!わたしは海にじゃなくてアンタに───」 凍弥 「前言撤回か。男らしくないぞ」 来流美「わたしゃ女よ!!何度言わせりゃ気が済むの!!」 凍弥 「………」 来流美「……ちょっと凍弥?なに、黙りこくって」 凍弥 「今まで……散々のらりくらいとはぐらかしてきた俺だったが……来流美。     今日は真面目に答えさせてもらうよ」 鷹志 「お、おお……!凍弥がいつになく真剣な目に……!」 来流美「そう……で?どれほど言えば気が済むのかって質問だったけど。いい加減───」 凍弥 「未来永劫気が済まん」  コッパァン!! 凍弥 「はぶぅいっ!!」 正直者は馬鹿を見るとはよく言ったもんだ。 頬をスリッパで叩かれてしまった。 真由美「閏璃くんは何処までいっても閏璃くんだね……」 鷹志 「こいつから“からかい”を抜いたらただの普通の色男だ。     容姿がいいのに馬鹿だから凍弥なんだよ。     ていうかさ。ずっと気になってたんだが……凍弥。     お前そのスリッパどこで調達したんだ?」 凍弥 「前半の言葉全てにとっかかりを感じるが。まあいいや。     このスリッパなら、王城の王様の私室に不法侵入してかっぱらってきたものだ。     ほら、名前もちゃんと“王国制式国王スリッパ”。見つかったら打ち首獄門」 来流美「ひえぇえええっ!!?」 凍弥 「どわぁっと!!」 来流美が突如手離したスリッパを危ういところでキャッチ。 凍弥 「このたわけめが!!貴様このスリッパ様をどなたと心得る!!     傷でもつけたら牢獄行きぞ!?」 鷹志 「捕まるのはお前だけだろうけどな」 凍弥 「そんな時こそパーシモン」 柿崎 「友人を生贄に捧げる気満々で居るんじゃねぇよ!!」 真由美「そもそもスリッパくらいで打ち首獄門にする王様なんて居ないと思うよ?」 凍弥 「甘い。甘いぞ橘真由美よ」 真由美「たちばなまゆみ……」 凍弥 「はい、そこで顔真っ赤にしない。いつまで経っても初々しいのはもういいから。     で、このスリッパだが実は、表面にダイヤが鏤められている」 由未絵「えぇっ!?わっ……ほ、ほんとだ……」 凍弥 「しかもどうやら貴重種のダイヤらしくてな。     俺は今からシーフにでも転職しようかと悩んでるんだ。案外天職かもしれない」 鷹志 「言葉が途中から繋がってないが……とりあえず俺達巻き込むのはやめろよ?     そんなことしたら俺達まで犯人扱いにされる」 凍弥 「そんな時こそパーシモン」 柿崎 「囮になんぞならんわ!!」 当然の返答だった。 凍弥 「で、話を戻すけど。なんの目的で海まで来たんだっけか」 鷹志 「戻しすぎだっ!!」 凍弥 「そ、そうか?今一番大事な話だと思うんだが」 柿崎 「お前さ、頼むから話に脈絡くらいつけてくれ……」 由未絵「で、でも大事なのは確かだよ?」 来流美「由未絵?あんたがそうやって甘やかすから、     この子がいつまで経っても成長しないのよ?」 凍弥 「小学生か、俺は」 鷹志 「精神年齢ならそんなもんだろ」 凍弥 「違いない」 真由美「わっ……認めた」 凍弥 「……橘真由美よ。俺は少年の心を決して忘れはしない。     何故ならば童心こそが全ての原動力であり、     童心を持たない者はなにもかもにやる気を無くすからである」 来流美「素直に“人一倍好奇心が旺盛なだけ”って言いなさいよ」 凍弥 「ちなみに今の雑音は無視していい」 来流美「だぁれが雑音よっ!!……真由美さんも、     橘の苗字で名前呼ばれる度に顔真っ赤にして嬉しそうにしない」 真由美「うう……だって嬉しくて……。知り合い仲でもなんでも、     フルネームで呼んでくれる人なんて居なかったし……」 凍弥 「可哀相そうに……。よし鷹志!ここは夫として呼んでやるんだ!     何気にポイントアップもする模様!そのヘン抜かりなく!」 鷹志 「あ、ああ!ってなんで夫である俺が妻をフルネームで呼ばなきゃならんのだ!!」 凍弥 「喜ぶからに決まってるだろうが!馬鹿か貴様!」 鷹志 「お前に馬鹿とか言われたくねぇ!!」 物凄いことを平気で言う友人仲だった。 こういう関係はほんと、重くなくていい。 凍弥 「ところで……船酔い中の博樹はどうしてる?」 来流美「相変わらず好き勝手に話変えるわね……。     御手洗くんなら中の方のベッドで寝てるわよ」 凍弥 「よしヒゲだ」 来流美「寝てると決まったらいきなりマジックペン出す馬鹿が何処に居ンのよッ!!」 凍弥 「目の前に居るが。お前の目はイグアナか?」 鷹志 「凍弥、それ節穴な」 来流美「どうすればこんな馬鹿に育つのか教えてほしいわ……。     ほんと、顔とか体系ばっか整ってても中身がこれじゃあね……」 鷹志 「コレ扱いだな」 凍弥 「こいつにこういう言われ方するのは慣れてるからなー」 柿崎 「腐れ縁ってやつか。     俺としてはそういうやつらこそがくっつくって思うんだけどな」 来流美「冗談でしょ?凍弥と結婚なんかしたら毎日からかわれ続けて胃に穴が空くわ」 凍弥 「失礼なヤツだな。     俺は自分の妻にだけはそんなことをしないって座右の銘を持ってるくらい、     妻には優しいんだぞ?当社比25%くらい」 来流美「相手が由未絵だからでしょ?」 凍弥 「いや。これはガキの頃から決めてたことだ。     当時の親父がよく言ってた言葉がな、     “いいかぁ?どれだけ曲っても妻だけは大切にしろ?     じゃないと薙刀でボッコボコにされるからな……”だったんだ」 鷹志 「生々しいな……」 凍弥 「当時の俺は、     母親というものは誰しもが薙刀を持ってるもんだと本気で恐れていたもんだ」 来流美「……あー、そういえば一時期、妙にわたしや由未絵を避けてた頃があったっけ」 そう……“母親が薙刀を持つ=母親になる前の女でも持ってる”という、 余にも恐ろしい方程式が俺の中で完成してしまったのだ。 そうなればもうどうしようもなかったわけで。 俺は避けた。 可能な限り避け、さらに避け、避けて避けて避けまくって───由未絵に泣かれて折れた。 懐かしいものぞ。 凍弥 「まあそんなことは忘れよう。博樹にはドクターが付いてるんだよな?」 来流美「ほんと好き勝手に話変えるわね。     まあ、そうね。船医がきちんと付いてくれてる筈よ」 凍弥 「そうか……じゃあヒゲは無理だな」 真由美「まず仲間の安否を気遣おうよ」 凍弥 「大丈夫、博樹はあれで結構丈夫だ。     外国の方ではボディービルダー選手権で優勝を飾ったモノノフだぞ」 由未絵「ふわぁ……そ、そうなんだ……!」 来流美「由未絵ぇ……お願いだからこんなデタラメ信じないでよ……。     アンタも!人の歴史を勝手に捏造するのやめなさいっての!」 凍弥 「実はな由未絵。来流美はずっと昔、     寝小便したベッドシーツを俺のベッドシーツと交換し、     全てを俺の所為にしたことが」 来流美「うわわわわきゃあああーーーーーっ!!!     ななななに言い出してんのっ!!ぶっ叩くわよ!?」 凍弥 「しかしだな。     捏造がダメだと言われた以上、実話を話す以外なにもないじゃないか」 来流美「人を陥れるのをやめろって言ってんのよ!!」 凍弥 「ちなみに俺には、寝巻きまで交換しようとした来流美に     寝巻きを剥がれてる最中に目を覚ましたっていう悲しい過去がある」 由未絵「く、来流美ちゃん……!!」 来流美「あわわちちち違うのよ由未絵!あ、あれは事故っ!事故でっ……!!」 鷹志 「それはその……下着、までもか?」 凍弥 「当時の俺はブリーフ派だったんだがな。目覚めた時には既にソウルフルだった」 柿崎 「それはまた……なんと言っていいやら……」 来流美「あんたなんでそんなくだんないことばっか覚えてんのよ!!」 凍弥 「それは人体七不思議のひとつだ」 人ってのは嫌なことばっか覚えてたり、 くだらんどうでもいいことばっかり覚えてるもんなのだ。 だから“なんで”とか言われても、正直返す言葉が無い。 声  「すまんが静かにしてもらえんかね?     あんたらのお仲間さんが今ようやく寝たところじゃ」 と、その時。 小さく放たれた言葉が俺達の意識を別の方向へと向けさせた。 鷹志  「あ……あんたが船医の───」 じいさん「ご紹介が遅れたの。ワシはブリューデント=ブリッツゲーデン」 凍弥  「略してブリブリ博士だよ?」 ───次の瞬間。 俺は船医と仲間全員に集団リンチをくらうこととなった。 【ケース115:橘鷹志/ブリッツゲーデンさん】 死ュ〜…… 鷹志 「えーと……ウチの馬鹿が失礼しました」 HP1を残してボコボコにされた凍弥が甲板に転がる中、 俺達は気を取り直してブリッツゲーデン船医に話し掛けた。 支左見谷まで攻撃に加わるとは思わなかったが、まあこんな時くらいはな。 ブリッツ「ああいや、いいんじゃ。こっちもスッキリしたわい」 そして何気にヒドイ船医さんだった。 自業自得だから別にいいが。 鷹志  「で、博樹はどんな感じで?」 ブリッツ「元々ただの船酔いじゃからな。まあ休めばなんとかなるじゃろ」 鷹志  「じゃあこのままミラニウム海域に行っても大丈夫か」 ブリッツ「そうじゃな」 ミラニウム海域……珍しい魚が居るっていう綺麗な海域のことだ。 今回の任務ってのがそこに生息するルビーフィッシュっていう魚を釣ること。 それが第三ミッションでの内容だ。 ルビーフィッシュってのは卵がルビーのような形と色をしているところから、 ルビーフィッシュと名付けられたらしい。 一匹あたり1G$で取り引きされているらしい。 柿崎 「けどさ。ほんとこんなのがミッションでいいのかな。     エトノワールの方では戦争があったっていうじゃないか」 鷹志 「アレと同じだろ。ほら、FF11あたりのバストゥークミッション」 柿崎 「ああ、トカゲの卵……だっけ?」 鷹志 「そうそう」 敵は確かに手強いが、戦うよりも買ってしまえば楽というあのミッションだ。 さすがにミッションランク3のミッションが魚釣りだとは思わなかったが。 船長 「もうそろそろで着くぞい。釣竿は持ってきとるんか?」 鷹志 「万事抜かりなく」 柿崎 「なにが抜かりなくだ。忘れてたところを郭鷺に教えてもらったんだろうが」 鷹志 「うぐっ……う、うるさいよ」 来流美「ほんと。橘くんって真由美さんが居ないとなにも出来ないんだから。     逆に真由美さんは一人でもなんでも出来そうだけど」 真由美「………」(ふるふる) 来流美「え?違うの?」 鷹志 「お前らは表面しか見てないからそう言えるんだよ。     言っとくけど二人きりになった時の真由美は本気で甘えん坊だぞ?」 由未絵「ふわ……全然想像出来ないよ」 鷹志 「俺達ゃ互いが居なけりゃ落ち着かないんだよ。     つーか俺は真由美が側に居てくれたらそれだけでいい」 真由美「うん、鷹志……わたしもだよ」 鷹志 「真由美……」 真由美「鷹志……」 真由美の肩を抱き、それからゆっくりと胸に抱き締める。 ああ、俺は幸せ者だ。 こんないいヤツと一緒に生きていられるんだから。 やがて俺と真由美は見つめ合い、ゆっくりと口付けを交わした。 来流美「あーはいはい、新婚さんいらっしゃーい」 柿崎 「どうでもいいけど人目くらい憚れっつの……目に毒だ」 由未絵「〜〜……」 来流美「ほら、由未絵も真っ赤になっちゃってるからそれくらいにしといて。     それより釣りの準備しましょ」 鷹志 「あ、ああ……そだな。悪い」 猫だったら絶対に喉を鳴らしてそうな、 ほんわか笑顔で俺に抱きついている真由美の頭を撫でる。 そうしてから、名残惜しいけど離れて釣竿を手に取る。 凍弥は……まだ痙攣中か。 とりあえずアップルグミでも口の中に押し込んでおこう。  グイグイ……カポンッ。  モグ、モグ……シャキィンッ!! 凍弥 「アイアムライデン」 そして後悔。 復活させるんじゃなかった。 静かに釣りを楽しむなら、こいつはぐったりさせとくべきだった。 凍弥 「……もう着いたのか?」 鷹志 「一応な。……いいか?今回は釣りをしに来ただけってことを忘れるなよ?」 凍弥 「任せろ」 100%胡散臭い返事だったという。 ───……。 ……。 凍弥 「ちゃらららららららら〜らら〜♪ら〜んらら〜ららら〜んらら〜♪」 で、釣りを始めてから僅か1分で“つり太郎”の音楽を口ずさむ友が居た。 鷹志 「凍弥〜、うっさいぞ〜」 凍弥 「なにぃ、釣りと言えばつり太郎だろう。     つり太郎を愚弄する気なら柿崎が黙ってないぞ」 柿崎 「俺がなにするってんだよ」 凍弥 「見ろ、黙ってなかった」 柿崎 「言葉通りにしたかっただけなのか……」 相変わらず脳内に桜が咲き乱れてる友、閏璃凍弥。 こいつとの付き合いも随分になるが、本当に変わらない。 唯一変わったと思えたのは支左見谷と恋仲になった時くらいか。 それ以外はトントだな。 こいつは変わらん。 むしろ、変わったら俺達の調子が崩れる。 なんでも言い合えて、なんでも受け流せるからこそこうやってつるんでられるわけだし。 ある意味、滅多に真剣にならないヤツってのはそこんところがありがたい。  クンッ! 凍弥 「魚ーーーっ!!魚!魚ァーーーーッ!!」 来流美「うっさいわね!なんだってのよ!」 凍弥 「え?魚がかかった時って“魚”って叫ぶんじゃなかったっけ」 鷹志 「……凍弥。それ“フィッシュ”な」 凍弥 「意味は間違ってないと思うんだが……日本人なら日本語だろ?」 柿崎 「頼むから普通にフィッシュって言うか黙っててくれ」 凍弥 「ぬう……」 トパァン、と、凍弥が魚を釣り上げる。 残念ながらルビーフィッシュじゃなかったが、 調理材料や資金源とするべくバックパックに放り込む。 濡れたまま放り込んでも他のアイテムが濡れたりしないのが、 このバックパックのいいところと言えるだろう。  クンッ…… 鷹志 「おっ……と」 凍弥 「魚ァーーーーッ!!!」 鷹志 「うるせぇ!叫ぶのは自分の時だけにしろ!!」 凍弥 「いや、俺はお前の隠れた気持ちを代弁してやろうとだな」 鷹志 「しなくていいから静かにしてくれ」 凍弥 「ぬう……」 船がゆらゆらと揺れていた。 凍弥さえ騒がなければ静かな時間と空気。 蒼い空の下、暖かな日差しに当てられながら釣りをする……こたえられん。 凍弥 「撒き餌でも撒いて、一気に網で掬うのはどうだろうか」 鷹志 「釣りの楽しみなさそうだな。まあお前の考えそうなことだけど」 凍弥 「なにぃ、絶対に俺の他にも考えてるやつがいるぞ、きっと、多分」 鷹志 「絶対って言ったくせになんだよ、その自信の無さは」
殊戸瀬「へっくし!」 丘野 「っと……睦月、風邪か?」 殊戸瀬「……?なんだろ」
鷹志 「けどさ。冒険って言やぁモンスター退治とか討伐だとかって印象もあるけど、     こうやって釣りするだけってのもいいよな」 凍弥 「争いなんて醜いだけです。お偉い方にはそれが解らんのですよ」 柿崎 「なぁ、いっちょ提案していいか?」 凍弥 「だめだ」 柿崎 「頷くとこだろここ!話進まないだろうが!」 鷹志 「凍弥にツッコミ入れてたらそれこそ話が進まんだろ。で、どした柿崎」 柿崎 「あ、あ……ああ。このまま王国抜け出して、     調合とかそっち方面に生きるのも悪くないんじゃないか、って」 真由美「それも賛成だけど……わたしはもっと刀のこと学びたいかな」 由未絵「わたしは魔法のこと学びたいかな……」 来流美「クラスチェンジの時にもらえる奥義ってのが気になって仕方ないのよね。     わたしは断然冒険方面を推すけど」 鷹志 「俺もだ」 柿崎 「そうか?結構こんなのも悪くないんじゃないかって思ったんだけどな」 柿崎がエサが無くなった針を持ち上げながら言う。 確かにそれはもっともなんだが。 柿崎 「べつにさ、ほら。強くなっても敵の経験値が下がるわけじゃないだろ?     だったら素材集めながらザコ敵倒してって生活続ければ、     レベルアップも自然にするんじゃないか?強くなって魔王を倒すっつっても、     べつに俺その魔王になにかされた訳じゃねぇし」 鷹志 「……そういやそうだな」 魔王は確かに居るそうなんだが、正直言えばべつに何かされたわけじゃない。 なのに倒すのってなんかヘンだ。 凍弥 「きっと国に内緒で麻薬の売買をしてたんだ」 鷹志 「セコイ魔王だなオイ……」 柿崎 「しかも現実的すぎるぞそれ……ファンタジーの名が号泣する」 凍弥 「あー……じゃあコンビニ強盗だ」 鷹志 「最近の魔王はコンビニで買い物するのか」 真由美「あのさ……そもそもファンタジー世界にコンビニが無いことに気づこうよ」 凍弥 「ぬおお、これは盲点だった。じゃあラーメン屋の壷の中にゲロ吐いたとか」 鷹志 「や、そんなどっかで聞いたような実話はいいから」 来流美「そもそもラーメン食べてる魔王の姿が想像出来ないわよ」 凍弥 「俺もだ。じゃあアレだな。この世界は俺のもんだー!とか言って、     世界中から税金をふんだくってるとか」 鷹志 「……お前の中の魔王像ってどれもセコイのな」 凍弥 「って言ってもな。俺達にしてみりゃお偉い方が魔王みたいなもんだろ?     税金取るだけとったら自分の金儲けのためにでっけぇビルだの作ってるヤツとか。     しかもそのビルとかも無駄に建ってるだけで、特に使われもしないとくる。     これが魔王じゃなくてなんだ」 それもそうなんだが……なんで魔王の話から税金の話になるのかをツッコミたかった。 どちらにせよセコイ。 鷹志 「税金問題なんて忘れろよ。     そりゃ、空界にだってそういうもんはあるだろうけどさ。     そんなのと魔王をくっつけて考えるのはお前くらいだ、絶対に」 凍弥 「そうか?けど、それじゃあいったい何が魔王を魔王と呼ばせているのかだ」 柿崎 「あれじゃないか?生贄を差し出せー、とか言ってるとか」 鷹志 「……それは三流のボスがよくやる手だろ」 柿崎 「じゃあ姫さんを攫う?」 凍弥 「まだ三流だな……」 柿崎 「お前にだけは言われたくない。……じゃあさ、何が三流から脱してるってんだ?」 鷹志 「そりゃお前、世界規模の企み事とかだろ。世界征服とか」 凍弥 「へー。で、征服してどうすんだ?」 鷹志 「え?そりゃ……」 柿崎 「そりゃ?」 鷹志 「………」 柿崎 「………」 凍弥 「………」 鷹志 「……俺、世界征服したいヤツの気持ち、今まさに解らねぇわ……」 二人 『そうだな……』 征服したからどうだってことも無かった。 世界征服したいヤツは一体なにがしたいんだろうか。 征服したらそれでいいのか? 凍弥 「思うに……征服した時点で色んな物事は他人任せになるだろ?     で、自分は玉座に座ってワッハッハ?……つまんねぇなそれ」 柿崎 「今時ワッハッハとか笑う魔王もあったもんじゃないと思うが」 鷹志 「全世界の魔王さま達に謝れお前ら」 でも実際そうなのだ。 征服した後の世界ってとてつもなくつまんなそうだ。  トパァンッ…… 柿崎 「オ……ルビーフィッシュゲット」 凍弥 「なにぃ!?」 鷹志 「マジか!?ってうわぁマジだ!」 見れば、確かに柿崎の糸の先には太陽の光を受けて輝くルビーフィッシュが。 魚自体がこんなに綺麗だなんて、逆に気持ち悪い。 鷹志 「卵は……無さそうだな」 柿崎 「残念。戻すか」 凍弥 「食ってみるか?」 鷹志 「表面はルビーのように硬いって説明文があるが。それでも食うか?」 凍弥 「なんでも噛み砕く今井の歯じゃないとダメそうだな……やめとこう」 柿崎が器用に針を取り、魚を海へと─── 凍弥 「待て。キャッチアンドリリースをする際には魚にガムを食わせるのが基本だ」 鷹志 「お前それで一度ブラックバス窒息させただろうが!!」 凍弥 「逃がした時は元気に泳いでいったのになぁ。後のほうからプカーって」 そんな話を聞くや否や、柿崎が即座に魚を海に逃がした。 懸命な判断だ、柿崎。 凍弥 「しかし静かだ……」 鷹志 「お前が騒がなければなー」 凍弥 「まったくだ」 柿崎 「妙なところで潔いよな、凍弥って。人をからかう時はひねくれまくってるくせに」 凍弥 「俺は悪を悪と決め付ける心は持ってるつもりだぞ」 来流美「それと、悪じゃない者も悪って捏造する心もね」 凍弥 「解ってるじゃないか」 来流美「解りたくもないわよ」 真由美「そういえばずっと訊きたかったんだけど……     鷹志と閏璃くんはどんなことがきっかけで友達になったの?」 凍弥 「うむ、よくぞ訊いてくれた、橘真由美よ。     あれはそう……冬の寒い日のことだった。     俺がいつものように来流美のサンドバッグになってた時、     止めようとして走ってきた鷹志が車に跳ねられたのが出会いだ」 鷹志 「どんな劇的ドラマだよそりゃあ!!」 来流美「出会いは中学の頃だったわよね?」 鷹志 「そう、そうだよ」 凍弥 「曹操?」 鷹志 「やかましい」 よくもまあポンポンと言葉のネタが出てくるもんだ。 きっとこいつの口は戯言ホワイトホールで出来てるに違いない。 凍弥 「えーと……まあ、そうなるか。出会いは中学だった。     俺が落とした消しゴムを拾おうとして、     互いの指が触れ合った時が出会いの瞬間。おおロマンテック」 鷹志 「男同士で指絡めて、なぁ〜にがロマンテックだこの馬鹿」 由未絵「それに凍弥くん、     落とした消しゴムを拾おうとした時点で同じ教室なんだから、もう出会ってるよ」 凍弥 「当時の俺と鷹志は盲目だったんだ」 由未絵「それじゃ出会ったのかも解らないよぅ」 凍弥 「いや感じたね。ああ、この滑らかな手触りと剛毛は間違い無く鷹志だと」 柿崎 「お前実は毛深かったのか……」 鷹志 「滑らかな手触りの剛毛者なんて居るか!真に受けるなよ!!     大体初対面って設定で、手ェ握って俺だって解る方が異常だ!」 凍弥 「その時俺の頭に神の声が聞こえてきたんだ」 鷹志 「ただの電波だ。真に受けるな」 凍弥 「……橘真由美よ。     実は鷹志はな、中学の時俺の部屋に泊まりがけの豪遊に来てだな。     みんなが寝静まったあと、     俺が鷹志の顔にステキアートでも描こうとしてた時にな。     寝言で“真由美、真由美……愛してるよ”とか言ってたんだぞ」 真由美「えぇっ!?」 鷹志 「ぐっはぁああーーーーーーっ!!!!ととととと凍弥てめぇ!!     暴露していいことと悪いことがあるだろっ!!」 凍弥 「のちの証言に寄れば、確かにその時真由美穣の夢を見ていたらしく、     顔を真っ赤にしながら俺が録音したテープを正座で聴いていた」 柿崎 「なんで正座なんだ?」 凍弥 「俺も疑問に思ったんだが、面白かったから敢えてツッコミは入れなかった」 鷹志 「凍弥ぁあっ!お前なぁっ!!」 凍弥 「ただの電波だ。真に受けるな」 鷹志 「電波どころか今まさに暴露してるだろうが!!つーか俺の恥は電波扱いかよ!!」 凍弥 「大丈夫だ!あの時のテープはまだしっかりと保存してある!」 鷹志 「お前あの時ちゃんと燃やしてただろうが!!」 凍弥 「うむ。保存用と聴用とで録音しておいたからな。     お前が燃やせと言ってきた聴用は確かに燃やしたぞ」 鷹志 「お前ってどうしてこういうところばっかズル賢いんだろうな……」 時々泣けてくる。 柿崎 「なんかさ、凍弥のことで暴露話とか無いのか?仕返しくらいはしたい」 鷹志 「それがな。こいつって人の暴露話は散々あるくせに自分は隙を見せないんだ」 凍弥 「へっへっへ、世間では“情報通の越後屋”で通っておりますゆえ」 来流美「ネタならあるわよ?幼馴染ならではのヤツが」 柿崎 「そうなのかっ!?」 鷹志 「ぜ、是非聞かせてくれ!」 凍弥 「うむ仕方ない……そこまで言うなら聞かせよう。     あれはまだ肌寒い冬のある日のことだった。     小遣いを使い果たして金欠だった来流美は、親父殿が風呂に入ってる時───」 来流美「解った!!言わないからそれ以上言ったらダメ!!」 凍弥 「OK幼馴染。貴様が俺の情報を知るように、     逆もまた然りということをその身に刻めコンチクショウ」 来流美「ぐくっ……!屈辱だわ……!!」 鷹志 「………」 それはそれで気になる話だったが…… 立ち入ったことは聞けない雰囲気だったからやめといた。 柿崎 「なぁ凍弥。お前ってさっきから霧波川の暴露話ばっか言ってるけど、     支左見谷の方はどうなんだ?」 凍弥 「腐るほどある。だが誰にも教えん。この思い出は俺のモンだ」 由未絵「凍弥くん……」 真由美「ほんと、閏璃くんって由未絵ちゃんには甘々だよね」 凍弥 「大事なものを大事と言ってなにが悪い。それを我が身で表現してるだけだが」 真由美「うん、ちゃんとそう見えるよ。本当に大事なんだね、由未絵ちゃんが」 凍弥 「ああ。こればっかりは俺以外には誰にも任せられん」 来流美「昔っから由未絵のこととなると人が変わるからね、凍弥は。     そのくせそれが恋心だって知るまで物凄い時間がかかってるんだもの」 凍弥 「うーさい」 顔を真っ赤にしてそっぽ向く凍弥。 支左見谷が弱点ってのは俺達の中で周知の事実だ。 が、それをネタにからかうと本気で怒るから困りものだ。 確かに大切なもののことでからかわれたら俺だって怒るし、そりゃしゃあない。 凍弥 「……ふむぅ。しっかし釣れん」 来流美「誤魔化した」 凍弥 「ええい、人の恋路で遊ぶな。あの頃の俺は馬鹿だったんだ」 鷹志 「今でも馬鹿なお前が言うなよ」 凍弥 「言うだけならタダだ」 真由美「馬鹿ってところは否定しないんだね……」 凍弥 「否定しても実力が伴わないんじゃ虚しいだけだからなー……」 そこんところの自覚があるから救いがあるっていうか無いっていうか。 天才って公言する馬鹿よりゃマシか。  トパァンッ…… 鷹志 「っと、おお、ルビーフィッシュ……でも卵無しだな。リリース」 釣った魚をすぐ戻す。 これ、太公望の知恵。 真由美「あっと、わたしも……ううん、卵無しだね。リリース」 来流美「あぁわたしも───って卵無し。リリース」 由未絵「わわっ、わたしもだよ凍弥くん───でも卵無し……リリース」 パシャパシャ、と釣った魚が戻ってゆく。 そんな中……トパァン! 凍弥 「おお見ろ!錆びたサブリガを釣ったぞ!!」 来流美「……誰が履いてたのか物凄く気になるわよね」 凍弥 「まったくだ」 サブリガの表面の脇には“ランドリン”と書いてあった。 なんのこっちゃ。 凍弥 「リリース」 来流美「あ、ちょ、こらっ!ゴミ捨ててどうすんの!」 凍弥 「なにぃ、釣ったものはリリースするものだと貴様が耳打ちしてきたんだろうが」 来流美「言ったけど戻すのは魚だけ!!なに考えてんの!」 凍弥 「なぁ鷹志。来流美がまるで自分の非を認めない汚い大人みたいなんだ。     なんとかしてくれ。人体情報を無視して、遠足とかで     “どうして出発前にトイレに行かなかったんだ”とか言いやがる先生みたいだ。     もよおしてなかったんだから行かないのは当たり前なのに」 鷹志 「喩えが長いんだよお前は……」 凍弥 「じゃあアレだ。マズイことをした時に反省して、     『ハイ……』としおらしく真面目に答えたのに     『ハイじゃないでしょお!?』とか怒る大人」 鷹志 「ああそりゃ霧波川が悪い」 来流美「それ言ったのがわたしじゃないってことを視野に納めた上で言ってる?」 鷹志 「すまんが俺も、返事を返したのに     『ハイじゃないでしょ!?』とか言って怒るヤツって大嫌いなんだ。     返事して怒られるなんて物凄く嫌じゃないか。     ハイじゃなかったらなんて言えばいいんだ、って感じだよな」 凍弥 「もちろん俺はその論理をブチ破ってみたんだが……     『ハイじゃないでしょ!?』って言われたあとに『ウス』って言ったら叩かれた」 鷹志 「むかつくよなぁ〜」 凍弥 「だよなぁ〜」 柿崎 「そういう大人にだけはなりたくねぇよなぁ〜」 凍弥 「続く言葉がこれだ。『真面目に反省してるの!?』だ」 鷹志 「矛盾してるよなぁ〜」 柿崎 「馬鹿にしてるよなぁ〜」 凍弥 「一番真面目じゃないヤツにそんなこと言われたかないよなぁ〜」 来流美「ねちっこいわね……男ならスパッと忘れなさいよ」 凍弥 「ああ、だからお前はそんなにサッパリした性格なのか」 来流美「話を蒸し返すんじゃないの!!」 話が振り出しに戻りかけたところで、俺の竿がクンッと引かれる。 あまり期待せずに引き上げてみれば……お腹がポッコリ膨らんだルビーフィッシュが。 鷹志 「お……おおっ!!卵付き!!」 柿崎 「A定か!?」 鷹志 「違う!!なんでここでA定が出てくるんだよ!」 柿崎 「今のA定には玉子が一個おまけされててお得なんだ」 鷹志 「……お前って相変わらずA定好きなのな」 柿崎 「あの味は忘れられん」 ともあれ、これを届けりゃミッションコンプリーツ。 俺はなんだか慎重になりつつルビーフィッシュをバックパックに入れて、溜め息を吐いた。 鷹志 「ふぅよし、じゃあ戻るか」 柿崎 「そだな。あ、そういや結局凍弥だけはルビーフィッシュ釣れなかったな」 凍弥 「───」(ピクリ) 鷹志 「うわ馬鹿っ!せっかくこのまま帰れる雰囲気だったのに───」 凍弥 「いや、帰ろう。俺にはステキな友、船酔い中の博樹が居るんだからな」 鷹志 「そう来たか……」 柿崎 「船酔いで釣りも出来なかったヤツに仲間意識出すのはどうかと思うが……」 鷹志 「だぁっ!だからやめろって!」 凍弥 「いや、帰ろう。そういや博樹はずっと苦しいの我慢してくれてたんだもんな。     早く陸に着いてやらないと」 鷹志 「……あら?なんだよ、やけに物分りがいいな」 凍弥 「いいんだ。帰る最中ずっと釣りしてるから。     釣れたらキミたちはぼくのフレンド、釣れなかったら貴様らは俺と博樹の敵だ」 鷹志 「………」 やっぱり凍弥は凍弥だった。 ───……。 ……。 それから心配していたバトル等も無く岸に着き─── そのまま城に戻ってルビーフィッシュを献上すること数分。 レックナート「ご苦労だった。        わざわざ卵を抱えたルビーフィッシュを釣ってきてもらってすまない」 凍弥    「すまんで済んだら警察はいらねぇぜ」 ごすっ! 凍弥 「痛い!」 来流美「失礼なこと言わないのっ……!!」 すぐ横で霧波川の拳が凍弥の頭を捉えた。 なかなか痛そうな音だったが…… レックナート「いやいい。それも確かな意見だ。ではこちらからも報酬を贈ろうか」 凍弥    「それより謁見の間って王様だけ座ってて卑怯じゃないか?        ここでは客を座らせることも知らんのか。茶ァ出せ茶ァ」 ごすがすっ!! 凍弥 「痛い!」 来流美「だからっ……!失礼なこと言わないのっ……!!」 柿崎 「俺達まで怒られるだろうがっ……!」 今度は柿崎の拳も混ざってた。 レックナート「面白いやつだ。私を王とも思っていないような口調だな」 凍弥    「自分だけ座って話するのは教師だけで十分だろ。        立てこの野郎。話す時は相手と同じ高さで話すって礼儀を知らんのか。        立つのが嫌だったら椅子出せ椅子。俺達ゃ長旅で疲れてんだ」 ごすがすごすどすっ!! 凍弥 「痛い!」 来流美「あんたねぇええ……!!」 柿崎 「正直すぎるにもほどがあるぞお前っ……!!」 凍弥 「だ、だからって二回も殴ることないだろ……」 今度は二回ずつだった。 レックナート「はっはっはっは、よいよい。私は別に気分を害した訳じゃない。        きちんと報酬も贈るし、何より楽しんでいる」 凍弥    「人を立たせることに喜びを感じるなんて、とんだ変態だな王様」 モボゴシャア!! 凍弥 「ぉゎいってぇえっ!!」 今度はコークスクリューが双方から脇腹に決まったようだ。 たまらずに凍弥は一星龍(イーシンロン)
のような声を上げ、本気で痛がっていた。 来流美「あんたちょっと黙ってなさい……!!」 凍弥 「いでででで……お、俺は真実の探求者で……」 来流美「いいから黙る!!」 凍弥 「怒るとシワが増えるぞ」 ボゴシャア!! 凍弥 「うわらば!!」 今度は顔面だった。 ───……。 ……。 死ュ〜…… 結局再びHP1の状態でぐったりと動かない凍弥を引きずり、 謁見の間を閉じたところで溜め息。 なにもなぁ、こんなになるまで己を通さなくてもいいと思うんだが……。 鷹志 「どうする?貰うもんは貰ったわけだけど」 柿崎 「無料ルルカパスと5G$か……それが七人分とすると35G$か」 来流美「35万円か……たかだか魚一匹に太っ腹ねぇ」 御手洗「そ……そうだね……。僕は力になれなかったけど……うぷっ……」 来流美「あぁほらほら、辛いなら喋らない」 御手洗「でも……ごめん。凍弥には悪いことをしたね。     僕のために座らせろとか茶を出せとか言ってくれてたのに」 来流美「え……そうなの?」 御手洗「うん。正直立ってるのも辛くて。     それで凍弥と目が合った時、親指立てて任せろ、って」 来流美「ぅあっちゃ〜……」 霧波川と柿崎が、痙攣してる凍弥を見る。 いらんことは率直に口に出すくせに、 なんだってこういうことは秘密裏にやろうとするんだろうかこいつは。 まあ、こんな性格だから俺達もこいつを見捨てたりはしないんだが。 鷹志 「……どうする?こいつ」 来流美「まず宿に行きましょ。起こすのはそれからでもいいでしょ」 鷹志 「それはいいけど、どうやって運ぶんだ?」 来流美「ああ、その点なら大丈夫。凍弥って見かけによらず女の子並に軽いから」 言って、ひょいと凍弥を抱え、体勢を変えると背中におぶる霧波川。 ……なるほど、STRにステータスを振り分ければ現実世界よりは簡単に持ち上げられる。 こりゃあ便利だ。 凍弥 「妖怪垢舐めぇええ……」 ベロンチョ。 来流美「ひきゃぁああああーーーーーーっ!!!!」 が、その体勢が悪かった。 HP1とはいえ意識のある凍弥だ、なにもしないわけがない。 凍弥は霧波川の背におぶられてるのをいいことに、霧波川の首筋をベロォリと舐めたのだ。 当然そんな不意打ちをされれば誰だって驚くわけで。 凍弥は最後に俺に向かって親指を立ててみせ、 STR最大一本背負い投げを喰らって神父送りにされたのだった。 さらば友よ……胸を張って説教を受けてこい。 貴様は死ぬその瞬間まで閏璃凍弥であり続けたのだ……。 Next Menu back