───冒険の書21/ミスティックケージ───
【ケース118:中井出博光(再)/猫耳は眠らない1】 ジャジャーーン!! 中井出「完成!」 夏子 「………」 そうして、既に諦めモードに入ってる木村夏子が黄泉路孵りの杖を装備したのが現在。 買い物から戻ってくるなり強引に着てもらった。 相当に嫌がってたが、どの道木村夏子には呪い装備以外にまともな装備が無かったのだ。 それが了承の半分以上を占めていたのは記憶に新しい事実である。 中井出「しかし……おおお、本当に呪い系が大丈夫になったんだな」 夏子 「“才能”が開花してさ……マナの祝福っていうのを開花してくれたお蔭で、     呪い効果無視って特性がついたんだけど……はぁ」 溜め息が蒸気とともにゴファーと吐かれた。 あの蒸気は装備によって出るものらしく、呪いがどうとかは関係なかったらしい。 殊戸瀬「まあ、いいんじゃない……?     まだ残り経験値ギリギリ1で30レベルにはなってないんだから、     これで30になればネクロマンサーの仲間入りになるわよ」 夏子 「聖職者がネクロマンサーやってどうすんの……」 麻衣香「そもそも睦月と夏子って全然アコライトっぽくないし……」 殊戸瀬「わたしはもうマジシャンだから」 夏子 「わたしは必死にアコライトしようと思ってたわよ……」 藍田 「そういやクラスチェンジしてないのは綾瀬と夏子だけだな。     あと少しならレベル稼ぎにでも行くか?     提督もなんつーか物凄く試し斬りしたそーにうずうずしてるし」 藍田の指摘はまさにその通りだった。 ブラッシュデイムを手にした俺は、もはや好奇心の塊と言っても過言じゃない。 こう……ファイティングスピリッツが膨らんでいくようだ。 中井出「そうと決まれば早速旅の準備をせよ!     これよりエトノワールを出て、さらなる冒険の旅へと出発する!」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「各員、武具の手入れは完了しているか!?」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「アイテムの買い忘れも無いか!?」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「うむよし!いい返事だ!     ならばこれよりエトノワールより南西に存在する、     闇側の町アトモノスに向かうものとする!!総員、ロマンを持って行動せよ!     イェア・ゲッドラァック!ライク・ファイクミー!!」 ザザッ!! 総員 『Sir(サー)!!YesSir(イェッサー)!!』 ある人は言った。 風来坊こそが人間本来の生き方なのだと。 責任だとか使命だとか夢だとか、そんな荷物を背負うのは億劫すぎると。 五体全てと五臓六腑全てを以って体験することが全てッッ!! 目で見、耳で聴き、鼻で嗅ぎ、口で味わい、痛覚で体感せよッッ!! 冒険とは即ちッッ!!己のロマンとの戦いッッ!! ロマンを捨てぬ者こそが、いつしかロマンを消化することが出来るのだッッ!! だから我らの中では、浪漫倶楽部は愛されております。 終わってしまった時は悲しんだものだ。 と、それはそれとして───俺達はこうして、新たな旅のために歩き始めたのだった─── ───……。 ……。 ───そうしてフィールドを歩くこと数分。 俺達は遠方に見える暗空を見て、一様に『うおう……』と声を漏らした。 マップ情報だけでなら知っていたが、まさか本当に常闇の領域があるとは。 丘野 「っはぁ〜〜〜……こういうの見るとファンタジーって気がするよなぁ〜!」 うずうずと期待に胸を膨らませているのは、なにも丘野二等だけじゃない。 沸き立つ興奮!気になる浪漫の行方! そして殊戸瀬の情報で得た“エキストラスキルボーナス”の存在! この世界には!まだまだ浪漫が隠されている! 藍田 「早速行ってみようぜ!?あぁもう溢れる心が押さえられーーーん!!」 丘野 「ワーイ僕自由だーーーーっ!!!」 丘野二等と藍田二等が、まるで初めて来た沖縄の海に感激する若人のように駆け出す。 待てキサマラー!と声をかけてはみたものの、まだ見ぬトキメキファンタジーの前では、 男の浪漫なんてというのはとっても無防備なのだ。 夏子 「……オトコノコって元気ねー。子供みたい」 殊戸瀬「……提督は行かないの?」 中井出「い、いや、俺は……」 麻衣香「モンスター探してるんでしょ、博光」 一瞬にしてバレた。 父さん母さん、俺の連れ添いはとっても俺のことを理解しているらしいです。 夏子 「だからさっきからキョロキョロと……」 殊戸瀬「ダークボトルくらいなら調合ですぐ作れるけど」 中井出「ぬっ!?そ、それなら是非頼む!もはやこの中井出博光、辛抱たまらん!」 殊戸瀬「……変態、なに考えてるの」 と、突如自分の肩を抱くようにして後退る殊戸瀬。 ……え? 中井出「って!そうじゃなくてだな!!     俺はただ普通にこの武器の威力を確かめたいだけで───違うよ!?     ていうかなんでキサマはすぐそうやって     俺をエロマニアに仕立て上げようとするんだ!」 殊戸瀬「面白いから」 愚問ね、とばかりに言う殊戸瀬二等。 表情を変えずにしれっと言うその様は、なんていうか物凄く殊戸瀬らしかった。 つーか本当に楽しんでるのかこれで。 俺は少し、殊戸瀬睦月という存在のハートの行方が気になったりし《ドポドポドポ》─── 中井出「って何!?なにすんの殊戸瀬!!これ何!?なにかけてんの俺に!!     え───なにこの凶々しい黒い液体!!     墨汁!?はっ───でもなんか布地に染み込まない!なにこれ!!」 殊戸瀬「ダークボトル」 中井出「なぁあっ!?い、いやちょ───えぇっ!?     ダークボトルって普通自分の周りに撒くものだよね!?そうだよね!?     俺ちゃんと既製品のラベルと説明文読んだもん!!違うよ!?違うよコレ!!     違うから黙々とダークボトル傾けないで!臭い!これ物凄く臭いよ!?     ぐあっ!目に染みる!!しかも口の中に入ったらピリピリと謎の痛みが!!」 夏子 「……提督って慌てると口調がヘンになるよね」 麻衣香「心の準備が出来て無い時に不意打ちくらうと慌てすぎるんだってさ」 夏子 「そうなんだ……」 中井出「そ、そんなんじゃないぞ!?おぉお俺は慌ててなんてオヒャァアアッ!!!!     ななななにすんの殊戸瀬!!脇腹突付かないで!地味に痛いから!!」 麻衣香「睦月ってさ」 夏子 「うん」 麻衣香「なんていうか……学生時代とかってヤケに晦くんにツンケンしてたよね」 夏子 「そだね」 麻衣香「これはイジる相手が居なくなった暇潰しなのかな」 夏子 「1000円賭けてもいいかな」 中井出「そんなトトカルティックな会話は後にしろ後にーーーっ!!     なんか遠方から様々な皆様がいらっしゃったーーーっ!!」  ドドドドドドドド…… モンスターども『ウォオオオルエェエエエエエエエエッ!!!!』 その数およそ30!! 土煙を上げて突っ込んでくるさまは、さながら戦に吼えるモノノフの如し!! もちろんこのダークボトルの刺激的な香りに誘われて到来してきたと見ていいと思う! 中井出「よ、よし!今こそ蒼剣ブラッシュデイムの力を見せ付ける時!!     さあ殊戸瀬二等!俺の脇腹を突付いてる暇があったら戦闘体勢に、って居ねぇ!」 スバッと辺りを見渡すと、 麻衣香や木村夏子と一緒になって離れた位置に立っている殊戸瀬二等が。 既に戦闘体勢を取っていたのか、と───後衛を守れる位置に下がろうとしたその時。 殊戸瀬「臭うから寄らないで」 中井出「ひでぇ!!ちょ───これキミがつけたんだよ!?」 あまりに無情。 俺は思わず泣きそうになりながらもブラッシュデイムを構え、敵を迎え撃つことにした。 モンスターたちはダークボトルの香りの所為か、 通常よりも興奮しているように猛っている。 もちろん紳士なボクは、こんな仕打ちを受けてもまだ、 後衛に居るオンナノコたちだけは絶対に守ろうと力を込めます。 だけどおかしいのです。 30も居るモンスターさんたちは後ろのオンナノコたちには一瞥もくれず、 咆哮をあげながらボクだけに襲い掛かってくるようで─── 中井出「ちょ、ちょっと待てーーーーっ!!!なんで俺だけ!?     ダークボトルの効果だとしてもおかしいよこれ!!     戦闘が始まったら分け隔てなく襲うのがモンスター魂じゃないの!?     こんなのおかしいよ!パーティーバトルってこんなのじゃないだろ!?     殊戸瀬キサマ!これ見越して俺にダークボトルを!?」 殊戸瀬「良かったわね。思う存分試し斬りが出来て」 中井出「殊戸瀬ぇえええっ!!てめぇええええーーーーーっ!!!!」 なんだかもう泣きそうだった。 だがどれだけキッツイ事態が起ころうが楽しむのが原ソウル。 こんな境地に陥れられてもめげない自分はブレイバーとして合格に値する、と思いたい。 けれど確かに後衛に敵が行かないという事実は、戦闘にだけ集中することが出来る状況! 俺は迷わず思いっきり武器を振るうことにした。 中井出「武器はしっかり二刀流!!」  ジャギィンッ!! 頭上でブラッシュデイムが交差する。 それとともにブラッシュデイムからは赤いオーラが出るようになり、鬼人化が完了する。 中井出「火の“闘法(モード)
”、“炎刃若火(ヒートソード)”!!」 さらに技を使用して、群がる敵へと剣を一閃!ニ閃!三閃!! ザフィンゾフィンと軽快でいて軽い手応えとともに、 ザコモンスターが火に包まれて塵と化してゆく!! 中井出「おっ……お、おぉおおおおっ!!!」 恐らくその景色に一番心を打たれたのは俺自身。 自分が振るう剣が、こうも簡単に相手を屠る瞬間…… 俺はこの武器を育てると誓ってよかったと思えたのだ。 中井出「なんたる軽さっ……なんたる力!!」 マグニファイを使っているとはいえ、双剣でこの威力! 俺は思わず子供のように胸を躍らせながら、 高鳴る鼓動を抑えきれずにモンスターの海へと突っ込んだ!! 中井出「攻撃力は十分!ならばステータスは速度に回し、     武器の威力のみと俺の速度で貴様らに勝負を挑む!!     行こうブラッシュデイム!俺達のロードはまだ始まったばかりだぁーーーっ!!」 ワクワクが止まらない!! これが───これが武器に道を託す男の心境か!! 解る……解るぜ晦!!俺、今すげぇ自分が喜んでるのが解る!! STRが下がり、確かに敵を一撃で倒せなくはなった。 それでもダメージを受けようが敵を攻撃すると、 “回復”の付加属性が発動することがあって回復する。 さらに連撃を加えることで“鬼靭モード”まで発動して、俺はもう止まれなくなった。 毒を与え麻痺を与え、銭に変えて我が礎とする。 振り回すモンスターハンター流双剣乱舞が向かってくる周りの敵を屠りまくる中、 俺はもう双剣が奔るままに身を振り続けた。  シュフィィンッ───ザバシャシャシャァッ!! 中井出「おぉっ!?」 そして、20%の確率で発生するという鎌鼬現象も拝めることが出来て、 俺はもう幸せいっぱい夢いっぱいだった。 間隙を突かれて顔面ドツかれようが、飛び掛られて頭を噛まれようが待った無し。 むしろ頭に噛み付いたロンリーウルフって名前のモンスターの尻尾を掴み、 STRをMAXに振り分けてジャイアントスィングし、 吹き飛ばされたモンスター目掛けてロンリーウルフを投擲したのち、 怯んだモンスターの海に再びダイヴ。 中井出「俺が原沢南中学校提督!!中井出博光であるーーーーーーっ!!!!」 もはや誰にも俺の荒れ狂う感情(パトス)を止めることは出来なかった。 再び速度重視にステータスを振り分けた俺は、それはもう暴れた。 群がるモンスターには回転剣舞!胴にしがみついてきたモンスターにはDDT! 足を掴もうとするやつにはやっぱりアイアンシューズシュート! 再び顔面に噛み付こうと跳躍してきたウルフにはむしろこっちからヘッドバット!!  ホリュリュリュン───ピピンッ♪ゴォッパァアアンッ!!! 中井出「オギャアアーーーーーーッ!!!!?」 その瞬間に“爆弾パチキ”とか閃いた日には、それはもう心臓の鼓動も早まった。 しかもこれ自分自身にもダメージがある。 だがそれでも一歩も引かぬ力強さ!! 中井出「俺は今───猛烈にぃいいっ!!冒険してるぅううーーーーーっ!!!!」 訳の解らないことを叫ぶこともしばしば。 だがこれほどの興奮を前にして黙ってられようものか。 俺は双剣を幾度も奔らせ、10、20と次々と屠ってゆく。 ダークボトルの効果の所為か、 逃げようともしないモンスターたち…… そして回復の付加スキルが中々発動しなくなったためにHPがそろそろヤバイ俺。 そんな時!  ゴォッ───ジュパァンッ!! 中井出「うおっ!?こ、これは……!?」 発動したのは背水スキル。 鬼人化効果で赤く輝くブラッシュデイムに、さらに蒼の光が点った。 ───鬼人化+鬼靭モード+背水……攻撃力は約5倍! 俺はもう……なんていうかあまりの興奮に笑顔を隠しきれず、 腕が奔る通りに剣を振るいまくった。 すると燃えるわ斬れるわ刻まれるわの大騒ぎ。 結局───ガシィッ!! 中井出「消し飛びなァ!!」  ゴォッパァアアアアアアンッ!!! モンスター『ギャアアアアアッ!!!』 中井出  「〜〜っ……キくぜぇっ……!!」 最後の一体を爆弾パチキでブチコロがすと、残すHP3の状態で戦闘は終了した。 中井出「……至福……!」 俺はもう嬉しさに包まれてた。 これがいわゆる感無量?ああ俺……俺、剣士選んでよかった……!!  ぺぺらぺっぺぺ〜♪ 中井出「オ?」 夏子 「あ……レベルアップだ」 麻衣香「わたしも」 マグニファイの効果が丁度無くなったところで終わったバトル。 その末には、ふたりのアコライトのレベルアップが待っていた。 そして……木村夏子に自然と注がれる、奇妙な期待の視線。 夏子 「な、なにかなその目は……わたしネクロマンサーになんかならないわよ!?     ならないんだからね!?」 中井出「いいやなるんだ!ここはなるべきだ!!」 殊戸瀬「……変態」 中井出「なんで!?」 その瞬間、彼女には俺がどう映ったというのだろう。 確かに嫌がる女性に新たな成長を望むのは言葉だけを見ればいやらしいかもしれないが。 俺はもうそんなエロマニアな自分は卒業したんだ! しかしながらそんなことを言われるのはいささかどころか深く悲しいので、 もうなにも言わないことにした。 夏子 「……それじゃ、いってくる」 麻衣香「ちゃんとここで待ってなきゃダメだからね、博光」 中井出「いーからとっとと行ってこい。……っと、べつにそんな急がなくていいからなー?     ちゃんと師範の話は聞いて……って殊戸瀬!?     なんで急がなくていいからって言った途端に自分の肩抱いて後退ってるの!?     俺べつになにもしないよ!?つーかもうエロマニアとして見るのやめてよ!!     ふたりきりなのをいいことに襲い掛かるとかそんなこと!!     ちくしょう麻衣香!なにか言ってや───居ねぇ!!あれ!?もう行ったの!?     そりゃ確かに俺、とっとと行けって行ったけどさ!!     せめて誤解を解いてからとか───待て殊戸瀬!キミまた人になにかけてんの!?     ……ダークボトル!?またかよ!!     なんでそんなにダークボトルばっか調合してんのキミ!!     え……調合のスキルアップのため!?     だったらべつにダークボトルじゃなくてもいいよね!?     ちょ……ぶはっ!!話してる時くらいかけるのやめようよ!!     や、やめ───ヒィ!!さっきの倍くらいのモンスターの軍勢が!!     しかも一直線に俺だけ狙って!!む、無理!無理だよ!?     いくら強くなっててもあんな数無理だってばーーーっ!!!!     い、いや!俺はこの双剣を信じると誓ったんだ!やってやる!!     むしろ敵を大勢倒せる喜びで心も身体もウキウキだよ!?ほんとだよ!?     HPも自然回復したし、アイテムだって───しまった!     武器が強くなった喜びのあまり回復アイテム買うの忘れてた!!     くそう!だが俺は負けないぞ!?マグニファイが無くても貴様らごときーーーっ!     ───ダメ!やっぱダメ!多勢に無勢にも程がある!殊戸瀬!殊戸瀬ぇーーっ!!     アイテム!回復アイテムを───サンキュウ!!元気リンリンパワー百倍だ!!     《メコォッ!!》いたっ!?あ、あれ!?なんか体がメキメキってギャアアアア!     いたっ!痛い!なにこれ!!ちょ、殊戸瀬!?     今のアイテム───え、えぇっ!?ドーピングコンソメスープグミ!?     なんでそんなもの調合してるの!捨てなさい!!     そりゃダークボトルじゃなくてもいいよねって言ったのは俺だよ!?     だけどあふぅうあぁああっ!!俺が俺じゃなくなってゆくぅううーーーーーっ!!     え!?敵を倒せる喜びで心も身体もウキウキしてくるでしょって!?     違うよこんなの!これじゃただのムキムキだよ!!助けて!助けてぇーーっ!!」 ───……。 ……。 キィイイイ……シュパァンッ。 麻衣香「ただいまー……って、どうしたの博光。そんな汗だくになって倒れて」 殊戸瀬「提督が……ふたりきりだねって急に抱きついてきて無理矢理……!」 中井出「ぜはっ……がはっ……お前なぁああああっ!!!」 ただいまドーピングコンソメスープグミの副作用で全身筋肉痛状態。 既に塵となったモンスターを見送った俺は、地面に倒れ込んで痙攣していた。 つーか……なんだって殊戸瀬は俺をエロマニアにしたがるんだか……って、 面白いからだろうな。絶対そうだ。 中井出「い、ぢぢ……!!さっき殊戸瀬にまたダークボトルかけられて……!!     さっきの倍の数の敵と戦う破目になって、     そしたらドーピングコンソメスープグミ食わされたんだよ……!!     これはその後遺症だ……!!」 麻衣香「……なるほど、ありありと状況が浮かんでくるわね」 殊戸瀬「倒れて汗流しながらハァハァ言ってると誤解されるわよ」 中井出「お前が言うなぁっ!!───あいぃっ!!い、いででで……!!」 神様、俺頑張ったよね?泣いていい? ……などと思っていると、 ふと……俺なんかよりよっぽど不幸を背負ってそうな木村夏子が居ることに気づいた。 中井出「こ、これで全員第一段階クラスチェンジは終了したわけか……って木村夏子……?     なにやら物凄く暗いようだが……」 夏子 「………」 木村夏子が無言で、しかも俯いたままにナビを呼び出し、 自分のステータス画面を回転させて俺達に見せてくる。 で……自然と職業の部分に目が行った俺達が見たものは───“死霊使い(ネクロマンサー)”の文字だった。 総員 『………』 辺りにあった雰囲気が急激に冷えた気がした。 夏子 「なんかね……師範のところじゃなくて、妙な水晶がある場所に飛ばされてさ……。     よくぞ条件を満たした。今から汝はネクロマンサーだ、って……     人の話も聞かないで無理矢理……」 中井出「あ……いや……それはまたなんとも……」 殊戸瀬「男なんだからもっと気の利いた言葉をかけて」 中井出「や、それは藍田の役目だろ」 殊戸瀬「ここに居ない人のことを言ってもどうしようもないでしょ?早く」 それは確かにそうなのかもしれないが。 男というのはなんと悲しい生き物だろう。 こんな時には気の利いた言葉を捻出して語ってやらなきゃいけないらしい。 俺は俯きながら必死に考えを纏め、 やがて顔をあげ、考えに考え抜いたフォローを口にした! 中井出「き、気にすることないぞ木村夏子よ!     それは隠しジョブなんだから、むしろ決められたジョブに至るよりは───     って待て!待って!なんで三人で手ェ繋いで遠ざかってるの!?     俺今とってもいいこと言おうと───ヒイ!!     またダークボトルに誘われた哀れな子羊が!───デケェ!子羊じゃないよこれ!     俺の身長の二倍はあるよ!?ちょ、待って!     何も聞こえないみたいに無視して遠ざからないで!!     殊戸瀬キサマ覚えてろ!?いつかその優雅な靴に歯磨き粉で名前を描いてやる!!     洗っても落ちないガンコな汚れに泣いて悔やめ!     ……ウソ!ウソです!これ以上ダークボトル撒かないで!!     あぁああさらにまたモンスターが───えぇっ!?     なんでまた俺のところに一直線なの!?撒かれたのはここじゃないよ!?     や、ちょ、待ってぇええーーーーーーーーっ!!!!!」 ……その日。 俺は再び、自分が提督と思われているのかどうかを神に問いたのだった……。 【ケース119:中井出博光(茶流再々)/猫耳は眠らない2】 ……死の淵より生還した俺は、 他のメンバーが町に入っていたこともあって経験値を独り占めにし、 レベルアップを果たしていた。 漲る力と回復するHP&TP……だが精神の疲れはそう癒されたもんじゃあなかった。 よく生きてた、俺……。ああ俺、生きてる……生きてるって素晴らしい……。 もう何気にパーティーの中でレベルが一番高くてもいいよ俺。 レベルアップを喜ぶ前に、よく生きてたって自分自身を褒めてやりたい。 そしてありがとうブラッシュデイム。 キミの付加属性と破壊力が無ければ絶対に死んでた。 中井出「うむ……よし。HPも自然回復したし、武器の強さも測れた。あとは───」 そう、後は。 敵を散々コロがして手に入れた$で、ブラッシュデイムにさらに磨きをかけるだけ!! ウフフフフ……自分の防具なんて後回しさ。 いいかいキッド、パパはね、 自分がトロフィーを貰うよりもブラッシュデイムが強くなる方が嬉しいんだよ。 幸い“銭”属性のお蔭で、結構な$が集まった。 もちろんそれも独り占めに出来たわけだから、もう怖いものなんて無い。 中井出「そうと決まれば善は急げだー!鍛冶屋は何処だー!」 こうして俺は、パーティーメンバーと合流することもなく町の中を走り回ったのだった。 ───……。 そして───鍛冶屋が無いことに、気づいた。 中井出「Nooooooooooooo!!!!」 叫ぶより他無い。 金はあるのに強化出来ないこの悲しみ……誰が知ろう。 それはあたかも、山頂の町では金が無くて武器が鍛えられなかったのに、 その後のダンジョンでヤケに金を手に入れまくった風来のシレンのようだった。 山頂の町以降、鍛冶屋が居ないんだよな、あのゲーム。 と───そんな時だった。 アイルー『ゴニャッ、いらっしゃいませニャー!お客様は神様ニャー!!      雑貨屋“猫の旅人”だニャー!雑貨、武器、防具の売買、      それから鍛冶や合成までお任せニャー!』 ……我が目を疑る光景を目にしたのは。 アイルーが居る……しかも鍛冶……鍛冶や合成……鍛冶!! 中井出「お……お、おおおお……」 俺は喜びのあまりにふるふると震えつつ、ゆっくりとアイルーのもとへと歩いた。 もう、その後ろで汗水たらして鉄を打ってるどっかで見た小僧どもなんてお構いなしだ。 中井出「し、失礼……ここは鍛冶もやっているのか……?」 緊張のためか、何故かどこか丁寧になる俺。 だが恥じるな……これは喜びを隠すためのド根性だ。 よし訳が解らん、落ち着け。 アイルー『やってるニャ。お客様ですかニャ?』 中井出 「う、うむ。名を中井出博光という」 アイルー『アイルーだニャ。よろしくニャー』 ゴニャニャとお辞儀をする猫。 このちっこい身体で鍛冶をするというのか……? し、信じられん……。 アイルー『武器防具、どっちの強化を行うニャ?』 中井出 「武器だ。この武器なんだが……」 俺は腰に納めておいたブラッシュデイムをアイルーに見せ、出来そうか?と訊ねる。 案外エトノワールじゃなければ出来ない技術だったかもしれない、と思ったからだ。 だがアイルーは右へ左へとジャンプし、喜んだ様子で『もちろんだニャー』と言った。 アイルー『鍛えるのかニャ?それとも強化ニャ?』 中井出 「ぬ……これはまだ強化が可能なのか?」 アイルー『蒼竜の生物素材があればなんとか出来そうだニャ。      蒼竜の鱗と風切りの刃があれば、      潜在能力の鎌鼬を引き上げることが可能だと思うニャ〜』 中井出 「蒼竜の鱗って……ちと無理じゃないか?      あ、じゃあ風切りの刃ってどうやって手に入れるか知ってるか?」 アイルー『……それはちょっと言えないニャ。何か買ってくれれば口が滑るかもなのニャ』 中井出 「ぬぐっ……あ、足元見やがってこの猫……!!」 猫とはいえ、しっかりと商人のようだった。 仕方なく俺はアップルグミとオレンジグミを10個ずつ買うことにした。 アイルー『ありがとニャ。風切りの刃はエトノワールの北にある泉に、      一日に一回だけ出るっていうシザーイーゼルが持ってるって聞いたニャ』 中井出 「参考までに、誰から?」 アイルー『シミズクニアキとか言ってたニャ。      ちゃんと装備してたから多分ホントの情報ニャ』 ……シミーズ!? じゃなくて清水!? まさかあやつめが既にレアウェポンを持っていたとは……驚きだ。 中井出 「……ちなみに、蒼竜の鱗は?」 アイルー『ボクが拾ったのがまだ結構残ってるニャ。      ……言っておくけど貴重だから、安くはないニャ』 中井出 「………」 目の前の猫が悪魔に見えた瞬間だった。 アイルー『強化に必要な鱗が二枚ニャ。      風切りの刃も“マグニファイ使わなきゃ大して使えない”とか言って      シミズに売ってもらったから手元にあるニャ。      あとは鍛冶の値段も合わせて……占めて5G$で仕事するニャ!』 中井出 「高ェよ!!      〜〜……大体っ!レアアイテムは売れないんじゃないのか!?」 アイルー『それは通常のお店の話ニャ。      彼らはレアアイテムにどう値段をつけていいかを知らないニャ。      でも僕はきちんと重要性を見極めて、      既製品と照合したのちに値段を決めてるニャ。だから売買も可能なんだニャ』 中井出 「………」 マテ。 俺の手元には1G$も無いんだぞ? なのに5G$って……クハァ、エトノワールの鍛冶屋が神に見える! さすが商売に生きる猫、アイルー……!金がらみではとても厳しい……!! アイルー『どうするニャ?風切りの刃はこれでもレアウェポンだから、      誰かが買っていくかもしれないニャ。もちろん蒼竜の鱗もだニャ』 中井出 「グッ……ぐ、ぐおおお……!!!」 完成品が見たい!手ェ出したい!!若さに任せて無茶してぇ!! ああ武器よ……! キミを育てる時っていうのはどうしてこう無茶が出来るような気分になってくるんだ……! でも金が無い!無いんだ!ここは涙を呑んで諦めるしかないっ……!! 5G$なんて、俺の持ち物も装備も全部売っても手に入る額じゃない……!! 中井出 「くっ……!悔しいが金が無い……!強化は無しだ……!」 アイルー『残念だニャ。それじゃあお金が溜まったらまた来るニャ。      その時に蒼竜の鱗と風切りの刃が残ってたら強化してあげるニャ』 中井出 「……頼む」 心に悲しい風が吹いた。 この瞬間ほど残念な瞬間があるだろうか……強化を目の前にして出来ないだなどと……! 中井出「───否!!」 そう、ブラッシュデイムはまだ産まれたばかりじゃないか! それをいきなり成長させるのは酷! そう、酷というもの!! ああだが……だがっ……残念残念……残念至極………………っ!!! ……思わず顔がカイジになってしまいそうだった。 【ケース120:中井出博光(再ンはV)/猫耳は眠らない3】 結局その日、パーティーと合流した俺はその町でいろいろな噂を収拾したのちに就寝。 翌日になってから噂をもとにいろいろなことに取り掛かっていた。 たとえば───交易品ってのがあって、普通に売買する分には安いが、 コレクターに売ると中々高値で売れたりするだとか…… 飛竜などが生息している場所やその付近では、時折竜の鱗が拾える、だとか。 もちろん向かう限りは飛竜に襲われる覚悟も決めなきゃいけない、だとか。 で、今は何に取り掛かってるかといえば……ピピンッ♪《薬草を手に入れた!》 ……いわゆるひとつの勇者式伝統行事? タイトルにすると《突撃!となりの茶箪笥(ちゃだんす)!》って感じだ。 どうやらこの町はまだ誰の手にも汚されていないらしく、 箪笥や引き出しにはアイテムが残ってた。 続いてタルや壷なども調べてアイテムを集めてゆく。 見つからんように努めるのが最大のコツ……この緊張感がたまらねぇYO!!  ジャッジャガジャ〜ンッ♪《“隠密”の才能が開花しました!》 中井出「……喜んでいいのか?これ」 開花する確率なんてのは知らんが、べつに開花したくてしたわけでもない。 これは丘野あたりに有効な才能だと思う。 あいつ、アサシンのくせに隠密行動に向いてなさすぎだし。 それはともかく、俺は武器の成長のために頑張った。 中井出「というわけで麻衣香、この金を預かっといてくれ」 麻衣香「え?あ、う、うん……いいけど……なにかするの?」 中井出「ザ・グレイトバトル」 俺はそれだけを言い残すと、町からさらに南西に位置する山、 ナーヴァルヘイム山へと赴いたのだった。 一応、皆様と一緒に。 ───……。 これは町の人々から情報収集をしているとき、偶然受諾してしまったひとつのクエスト。 その名も……“飛竜の卵を手に入れろ!”である。 藍田 「うーお……ここが蒼飛竜の巣か……」 丘野 「提督も思い切ったことするな……見つかって逃げ遅れたら即アウトだぞ?」 中井出「ロマンと死はいつも隣り合わせなんだ」 これは本音だ。 なにせ、今の自分がそうなのだから。 中井出「べつにご丁寧に卵を手に入れよう、なんて言わない。     依頼を受諾したのはこの山の場所を教えてほしかったからだ。     もちろん奪還できそうならするけど」 丘野 「なるほど。先に言ってた蒼竜の鱗ってやつだな?」 中井出「こんなことに巻き込んでしまってすまないと思ってる……だが……だが!」 藍田 「ストップそこまでだ提督。水臭いぜ……俺達は冒険者だろ?     人は言った。そこに山があるから登るのだと。     だったら冒険者がすることとは何か!?それは冒険!!     そこにロマンがあるから冒険するのだ!!」 中井出「お、おお……藍田二等……!」 丘野 「鱗だけ取るだなんて小さいことは無しだぜ提督!     ここはいっちょガツンと卵も取ってやろうぜ!」 中井出「丘野二等……!貴様まで……!よ、よぅし!     こんなクラスメイツを持った俺は幸せだ!やってやろうぜエイオー!!」 二人 『エイオー!!』 男三人でズパシィと手を弾き合った。 これでもう怖いものは───腐るほどあるけど、とりあえず無いって言っておこう! そして登ってゆく。デコボコした山道を。 さすがに飛竜の巣だけあって人が寄り付かないんだろう。 まるで道らしき道が無い。 だがそれでも登ってゆく。 ……金は全て木村夏子二等に預けて。 なにせ一番防御力あるし、周りにはアンデッドモンスター連れてるし。 夏子 「なにか奇妙で巨大な陰謀を感じる……」 ネクロマンサーな彼女は、既になんというか諦めた人のような顔になっていた。 夏子 「こうなりゃネクロマンサーでもなんでもやったろうじゃない!!     ザコモンスターがなんだってのー!」 そしてキレた。 カラ元気のようにも見えるが、ある意味で吹っ切ったらしい。 夏子   「ほらっ!いくわよ!」 ゾンビ  『ジアアアアアア……』 グール  『ルェエエエ……』 スケルトン『ケカカカカッ……』 夏子   「……盛り上がらないよぅ……」 おともにアンデッドモンスターを従えている彼女だったが、 掛け声を出しても唸るような声が戻ってくるだけで、 イマイチどころか全然気力は沸いてこなかったようだった。 Next Menu back