───冒険の書24/トニートニー博光───
【ケース129:中井出博光/猫耳は眠らない8】 さて……STRをMAXにして、 強引に壁から抜け出してきたという丘野二等とともに町へ戻ったのが15分前。 飛竜の卵を依頼者に渡し、3G$という大金を得たのが2分前。 そして……猫の店にやってきたのが今現在。 中井出 「そもさん!」 アイルー『せっぱニャ!───いらっしゃいニャ。あ、さっきのお客さんニャ』 中井出 「うむ。名を中井出博光という」 アイルー『アイルーだニャ。それで、今度はなんの用なのニャ?』 中井出 「うむ。金が手に入ったから早速鍛冶を頼みたい。風切りの刃はあるか?」 アイルー『残念だニャ……ついさっき売れちゃったニャ』 中井出 「なんだと貴様ァーーーーーーッ!!!!」 がばしーーーっ!!! アイルー『ゴニャーーーッ!!!?』 丘野  「おわーーーっ!!提督がいきなりキレたぁーーーっ!!!」 藍田  「しかもアイルー相手にネックハンギングツリー!?すげぇ!勇者だ!!」 中井出 「ええいこの馬鹿猫!何処だ!誰が買っていった!言え!言わないとヒドイぞ!」 丘野  「ジャイアンか?」 アイルー『と、とにかくまず離すニャーーーッ!!!苦しいニャ!離すニャ!!』 中井出 「ぬ……!!」 ハタと気づいてパッと離す。 だが悲しみの波は依然消えない。 おのれ誰が……!いったい誰が……!! アイルー『ニャニャ……さっき船旅でここまで来たっていう、      のほほんとした顔のふたり組みの男が買っていったニャ……』 中井出 「名前は!?」 アイルー『確か……シマダとヒムラって言い合ってたニャ』 丘野  「シマダと……島田と灯村か!!あいつらそんなに金持ってたのか!?」 アイルー『マタタビと5個と交換したニャ』 中井出 「この馬鹿ァーーーーーーッ!!!」  ボゴシャア!! アイルー『ゴニャア!!?』 総員  『なっ……殴ったぁああーーーーーーっ!!!!』 中井出 「おンのれこのクソ猫ォオオオオッ!!この中井出博光、もう辛抱たまらん!!」 アイルー『た、たすけてニャーーーッ!!弟子たち、見てないで助けるニャーーッ!!!』 豆村  「ちょっ……気持ちはよく解るけど落ち着いて!!」 刹那  「こんなヤツでも一応俺達の師匠なんだから!!」 アイルー『こんなヤツでもってなにニャ!?ヒドイ言い様ニャ!!』 中井出 「そんなことよりどうしてくれるんだこの野郎!!      お、おれのブラッシュデイムの強化がぁああっ!!!      死ぬ思いして卵運んだ俺たちの苦労をどうしてくれるーーーーっ!!!!」 アイルー『ゴ、ゴニャアアアアーーーーーーーーーーーッ!!!!!』 ……その日。 一匹の猫がSTRMAXジャイアントスイングの餌食となって、町を飛翔したという。 ───……。 ……。 麻衣香「あ、あはは……まあ、しょうがないよ、売れちゃったんだもん。     諦めてさ、泉の方でレアモンスターが出るの待と?ね?」 そうして……俺はトボトボとフィールドを歩いていた。 あれだけ大騒ぎしたっていうのに結局強化出来なかったんだ、当然だ。 自分がどうとかよりも、みんなに申し訳ない。 藍田 「俺はむしろ飛竜の巣に行けて良かったって思ってるぞ?気にするなよ提督」 丘野 「そーそー、なんだかんだで緊張感最大で面白かったし。顔痒いけど」 夏子 「それに睦月のジョブのために、     まずは野良ルルカっていうのを探さなきゃいけないわけだしさ。     案外その泉に野良ルルカが居るかもしれないでしょ?」 麻衣香「そうそう、気を落とさないで博光」 中井出「お、お前ら……!!」 ああ……あったかい……ここは暖かいなぁ……。 思わず涙がホロリと……。 人の情けが身に染みるってなぁこのことだぁなぁ……!! 殊戸瀬「悔やむより次に集中して」 中井出「そしてお前はいつでも冷たいと……」 丘野 「素直じゃないだけだって。なぁ?」 殊戸瀬「………」 丘野 「はは、しょうがないなぁ」 ツンとそっぽ向いたままの殊戸瀬を、丘野がポムポムと撫でる。 丘野のどういうところが気に入ったのかは知らんが、本当にベタ惚れ状態だ。 殊戸瀬が丘野二等に送る視線は、他の人に向けるソレとは既に次元レベルで違うと思う。 麻衣香「じゃあ……向かう場所はエトノワール北の泉でいいのかな?」 丘野 「依存なーし」 藍田 「だな。よっしゃ、のんびり行こうや」 中井出「あ、ああ……」 手伝ってくれる仲間が居るって……ステキだ。 しかもそれが原中なら今さら遠慮は無用。 楽しむためのことを全力でやればそれでいいのだから。  と……再び前を向いた時。 ゴルベーザ『ゴルダークヨ。次ハ何処ヘ向カウ?』 ゴルダーク『ソウダナ、一度オルクヴィレッジニ戻ルノモイイカモシレナイ』 ドカッ、ドカッとルルカを駆る獣人ふたりを発見した。 すぐさま丘野二等が“調べる”を発動───結果は“野良ルルカ”。 藍田 「レンタベイビーーーーーッ!!!!」  ドゴシャアッ!! ゴルベーザ『ヘブシィーーーーーーッ!!!!』 そして結果が解るや否や、飛び蹴りをかます藍田二等。 獣人の一人は野良ルルカ上から吹き飛ばされ、大地を転がった。 ゴルダーク『何者ダ!?』 藍田   「フッ……ただの冒険者さ」 ゴルダーク『“タダノ冒険者”トユウ名前カ。ヘンテコダナ』 藍田   「あ、すんません……藍田亮っていいます」 正直なヤツだった。 ……さて、気を取り直して───と! 中井出  「故あって!その野良ルルカを頂戴しに来た!!       交渉でなんとかなるなら譲ってくれ!」 ゴルダーク『ダメダ』 中井出  「即答!?」 丘野   「卑怯だぞてめぇ!何が望みだ!金か!?」 ゴルダーク『イヤ、卑怯ッテ……』 獣人は混乱してる! ……そりゃするわ。 ゴルダーク『大方、EXジョブノコトヲ聞キツケテ来タノダロウ。       残念ダガコノルルカデハ、ルルックナイトニハナレンゾ』 藍田   「そうなん!?」 ゴルダーク『ソウナン』 中井出  「じゃあここらで野良ルルカが居る場所は?」 ゴルダーク『ココラ、我ラ獣人族ノ支配区域ジャナイ。ダカラ解ラナイ』 中井出  「ぬ、ぬうう」 カタコトのように喋る獣人。 一方の獣人はノロリと起き上がると臨戦態勢を取った! 藍田   「あ……スマン。今のは早とちりだ。話せば解る」 ゴルベーザ『俺、オ前ノ言ッテルコト、解ラナイ。俺、オ前、ブッチギリ』 藍田   「解ってるだろ絶対!!普通に返してるじゃねぇか!!」 ゴルベーザ『一発ハ一発!俺、殴ラレルノ、好マナイ!!』 藍田   「ええいくそ!この解らず屋めが!!くらえ!バース・コー───」 ゴルベーザ『“渾身諸刃カウンター!!”』  ゴバシャドゴォンッ!!! …………死ュ〜…… 中井出  「あ、藍田二等ォオーーーーッ!!」 丘野   「藍田が───い、一撃で沈んだァーーーーッ!!!」 ゴルベーザ『向カッテクル、知ッテレバ、ダメージ受ケルマデモナイ』 藍田   「だったら不意打ちするまでだ!“首肉(コリエ)
”!!」  タンッ───ゴボキュッ!! ゴルベーザ『ゲハァッ!?』 起き上がり様の反動を付けた蹴りが、獣人の首に鋭く突き刺さる! つーか─── 中井出  「藍田二等!?貴様、気絶していたわけじゃ───!?」 藍田   「カウンターが当たる前にVITをMAXにしました!サー!!」 中井出  「ヌウウ!!よくぞやった藍田二等!!この博光も騙されてしまったわ!!」 藍田   「サンキューサー!!つーわけでくたばれぇええっ!!!」 ゴルベーザ『グググ……オノレヨクモ我ガ喉仏ヲ……!!       アノ一瞬デ防御ニ集中スルトハアッパレ!!       ナラバコチラモ全力ヲ以ッテ相手ヲシヨウ!!闇ノ“闘法(モード)”!!』  ヴ───ゥウウウウン……!!! 藍田 「へ───な、なんだぁっ!?」 闇の力がゴルベーザの前に集中してゆく! ───キィンッ♪《ゴルベーザの攻撃に闇属性の追加攻撃が加わった!》 中井出「なんと!?」 つーかマジでなんだこれ!なんで一介のモンク獣人がこんな魔法めいたのを!? ゴルベーザ『我ラ獣人、キサマラ弱イニンゲンタチガ強クナル様、       黙ッテ見テルワケジャアナイ。トクト知レ弱イニンゲン。       世界ハキサマラガ思ッテイル以上ニ動キ続ケ、       我ラモマタ強クナッテイルトユウコトヲ』 藍田   「こっちだってなにもせず強くなったわけじゃあねぇ!!いくぞ!」 中井出  「い、いかん藍田二等!なにやら嫌な予感が───」 ゴルベーザ『“ストック”解除……“常ニ溜メル”ヲ解放───!       ソシテ喰ラエ!!錬気ニヨッテ最大ニマデ高メラレタ勁ヲ!!』 藍田   「どうせまた諸刃カウンターってやつだろ!       そんなもんはVITを最大にして───」 ゴルベーザ『───闘覇……-喪心砲撃-』  トンッ───ドッコォオオンッ!!! 藍田 「ッ───!?はっ……!!」 向かっていった藍田の胸。 そこに軽く当てられた掌から、背中へと突き抜ける黒い衝撃が飛んだ。 ……漫画やアニメ、テレビでも、恐らく格闘技ファンなら大抵のヤツが知っている。 あれは……勁だ。 ゴルベーザ『己ヲ痴レ。打撃全テガ、斬撃全テガ攻撃ダト夢想シタニンゲンヨ。       コレガ現実ダ。拳ニハ未ダ未知ノ世界ガアル。       練ルニ練ッタ気ハ相手ノ防御ヲ徹リ、内側ヲ穿ツ。       防御力ヲ上ゲルダケデ全テヲ防ゲルト勘違イシテイタ時点デ、       貴様ノ負ケナド確定シテイタノダ』 藍田   「あ───く、っそ……!体が動かねぇ……!!」 ゴルベーザ『コレ以上ハ無為。コレデ不意打チサレタコトハ忘レルトシヨウ。       ……一度勝テタ相手ダカラト逆上セ上ガリ、我ラヲ落胆サセルナニンゲン』 それだけ言うと獣人は野良ルルカに跨り、去ろうとする。 ───その時。 丘野 「待てよ……まだ俺達は全滅しちゃいないぜ」 去ろうとする姿を止める丘野二等の姿があった。 中井出「よせ丘野二等!こいつらは……以前のこいつらじゃない!!」 丘野 「それは俺達も同じでありますサー!!     このまま苦虫を噛み締めた雰囲気で負けを認めるのは悔しすぎるであります!!」 中井出「ここは抑えるんだ……!!怒りに心を飲まれれば、その隙を狙われるだけだぞ!」 丘野 「それでもであります!!───参る!!」 中井出「丘野二等!止まれ!止まらんかぁーーーっ!!!!」 丘野がゴルベーザと呼ばれた獣人に向かって駆け出す! だが───その軌道を塞ぐ影が、横からゆっくりと現れた……!! ゴルダーク『……退ケ。無為ナ戦イは獣人ト貴様ラニンゲンノ関係ヲ悪クスルダケダ』 丘野   「構うか!くらえ必殺!アルゴ流十字斬り!!」 ゴルダーク『───』  ザゴシィンッ!! 中井出「え……?」 丘野二等の攻撃が、もう一人の獣人の体にヒットする。 絶対に避けると思ってた……でも避けようともしなかった。 いったいなに考えて…… ゴルダーク『……熱ハ冷メタカ?ナラバ退ケ』 丘野   「断る!生憎まだ熱は冷めてないんでね!」 ゴルダーク『……無為』 ドシャ、ドシャンッ……と、ルルカから降りる獣人。 その眼は既に、さっきまでの戦闘に無関心だった眼じゃあなかった。 ゴルダーク『加減ハシナイ。雷ノ“闘法(モード)”』 まただ。 今度は闇じゃあなかったが、獣人の体に雷が集ってゆく。 丘野は─── 丘野 「隙ありゃぁあああああっ!!!」 ───なんと!その集雷の隙を突いて攻撃に移った!! ゴルダーク『───戦武来迎』 だが───獣人は焦るでもなく片足を浮かせると、迫り来る丘野に向けて蹴りを奔らせる!  バパパパパパパパパパパパァンッ!!! 丘野 「いっづ……!?こ、この───」 そして、怯んだ丘野二等へと……唸るほど溜めた雷を込めた足で─── 中井出  「いかん!退け丘野二等!!丘野二等ォオーーーーッ!!!」 ゴルダーク『“超武技-光勁-”』  キュォオオオオオッ!!!ゴバァッッシャァアアアアアンッ!!!!! 丘野 「っ───!!くあぁあああああっ!!!」 中井出「丘野二等ォオオオオッ!!!」 丘野二等が雷を込めた踵落としにより、俺の足元まで吹き飛ばされてきた。 死んでこそいないものの、その威力は相当だ。 ゴルダーク『知レ。退クコトモマタ勇気ダ』 ゴルベーザ『ソモソモ我ラハ、       未ダ精霊ノ宝玉ヲ持ッテイナイ弱イニンゲンニ負ケハシナイ』 中井出  「精霊の宝玉……?エキストラスキルのことか……!」 ゴルベーザ『強クナルガイイ。ソシテ……上ガッテ来イ。ココマデ……ナ』 トントン、と自分の喉を突付くゴルベーザ。 それはまるで、暗黒武術大会で戸愚呂(弟)が浦飯幽助にやった行為のようだった。 中井出  「じゃあさっきの闇と雷は……」 ゴルベーザ『フフフ、ソノ通リダ。我ラハ貴様ラノ遙カ上ニ居ル。       ナンテユウカ……一度負ケタコトデ何カシラノパワーアップヲ果タシ、       強クナッタ主人公……トユウ遊ビ?』 中井出  「………」 なんだろうな……こいつ、物凄く誰かさんに似てる。 けど目の前のこいつは間違い無く獣人なわけだし……やっぱり精霊たちのお遊びか? そうこう考えてるうちに、丘野を打倒した獣人がルルカに跨り移動を始める。 俺は─── 中井出  「待て!……名前を聞いておく」 ゴルベーザ『ゴルベーザ』 ゴルダーク『ゴルダークトユウ』 中井出  「ゴルベーザにゴルダークか……。       フ、フフフ……身ぐるみ全部置いていけぇえええっ!!!」 獣人×2 『ナニィ!?』 スマン脳内神!俺やっぱ辛抱たまらん!! そうやってスイッチを切り替えるように疾駆すると、 虚を突かれたのか慌ててルルカから降りようとするゴルベーザに ジャンピングドロップキィーーーク!!!  ゴバシャア!! ゴルベーザ『ブゲェィッ!!?』 シュゴォオオーーードゴシャシャシャアアアア!!!! ゴルベーザ『アゴゴゲゲゲゲゲ!!!!』 再び地面を滑走するゴルベーザ。 俺はそれを見届けると追撃することもなくゴルダークへと向き直った。 ゴルダーク『ドウシテモヤルノカ?』 中井出  「今さら命乞いか?」 ゴルダーク『ナニ?』 中井出  「………」 ゴルダーク『………』 申し合わせたわけでもないのにKOFの某バトルシーンが完成した。 まあそれはそれとして!! 中井出  「全力でかからせてもらう!武器はしっかり二刀流!!」 ジャギィンッ!!───マグニファイ発動!鬼人化セットイン!! ゴルダーク『馬鹿ナ……何故解ラナイ。ココデ無闇ニ戦ウコトガ無為ダト───』 中井出  「死めぇえええええええっ!!!!!」 ゴルダーク『ナッ……!?待テ!マダ喋リ途中……!!』 中井出  「お黙り!ここは戦場!不意打ちされてもくっちゃべってる方が悪い!!」  フォンッ───チッ! 振るった双剣が敵に掠る。 ゴルダークは素早くバックステップしたが、ウックック……!! ゴルダーク『チィッ……!確カニ貴様ノ言ウ通リ……ヌ?何ガ可笑シイ』 中井出  「フフフ……当たったね?鬼靭モード・オォオオ〜〜〜ン……!!」 ゴォッ───キィンッ♪ ゴルダーク『ナッ!?チョ、待テ!ナンダソレハ!!』 中井出  「トニーだけの秘密の製法、ビタミンパワーのエネルギーだ。       よもや……卑怯とは言うまいね?つーわけで突撃ィイイイイッ!!!」 ゴルダーク『ヌオッ!?オ、オノレェエエエッ!!!!』 走る俺!迎え撃つ獣人! モンスターに比べりゃ人型の方がまだ戦いやすし!! ゴルダークはどこからか突如武器を取り出し、俺目掛けて振るってきた! 中井出「甘いわぁあああっ!!!」 それを片方の剣で弾いて、もう片方の剣で先制攻撃!! しかしゴルダークはそれを見切っていたかのようにバックステップでそれを躱し───  ヒィン!ズバシャアッ!! ゴルダーク『グハッ!?ナッ……鎌鼬!?』 偶然発生した鎌鼬のスキルに驚愕していた。 中井出  「フフフ……貴様こそ知るがいい……。       俺がかつてまでの中井出博光ではないことを……。       俺が原沢南中学校提督!中井出博光であるーーーーーーっ!!!!」 ゴルダーク『カッ……コウナッタラモウヤケダ!!ブッ潰シテクレルワァーーーッ!!!』 中井出  「やかましぃいいーーーーーっ!!!!」 こうして。 僕らの大乱闘騒ぎは幕を開けたのだった。 【ケース130:弦月彰利/僕らに愛を】 ドゴシャガギゴギガシュンゴシャベキャズシャアアアア!!!! 悠介 『オォオオオオオッ!!!!』 中井出「ヌォオオオオオッ!!!!」 起き上がってみれば巻き起こる大乱闘。 えーと……なんつーか提督が輝いて見える。 多少押され気味だけど、悠介とやり合ってるよ。 と、感心してる場合じゃないね。 無駄なダメージが増える前に後ろから不意打ちでもかけて───ズシャア。 彰利 『おや?』 なにやら僕の前に影が……なにこれ。 彰利 『……タレ?』 視線を上に上げてみる。 すると───なにやらムキムキマッチョな謎の人物が!! 彰利 『キャッ……キャーーーーッ!!?なにこれぇえーーーーーっ!!!』 藍田 『ドーピングコンソメスープだ……』 彰利 『そんな!声まで変わって……!!』 つーか……え!?藍田くん!? コレ藍田くんなの!? などと混乱しつつ辺りを見てみれば、 悠介がせっかく倒した丘野くんを黙々と回復する綾瀬さんと殊戸瀬さんの姿が!! しかも丘野くんが殊戸瀬に何かを言って、 嫌がる殊戸瀬の手から無理矢理何かを奪って飲んで…… 丘野 「アオオ……!!」 ビリリムクムク……!!って謎の超変身を遂げていらっしゃる!! あれですか!?あれがドーピングコンソメスープ!? 藍田 『ご忠告は確かに聞き入れよう……。     俺達はまだまだ井の中の蛙だったらしい……だがここで死ぬのは貴様らだ』 彰利 『は、はああ……!!』 すげぇマッスルだ……!! ドーピングは解るけど、どうしてコンソメスープじゃなけりゃいけなかったのかが 謎なくらいにすげぇマッスルだ……!!  ドゴシャアッ!! 中井出「げはっ……!!」 悠介 『ふう……!お前はよくやったよ……!だがこれで最後───』 悠介が、倒れた中井出にトドメを───ゴコォッキィンッ!! 悠介 『───へ!?』 中井出「背水スキル発動ォオオオ……!!」  《中井出の攻撃力が二倍になった!!》 悠介 『なっ……ちょっと待てぇえーーーーっ!!お前いくらなんでもそりゃ卑怯だろ!!     攻撃してくる度に回復するお前をどれだけ苦労して追い詰めたと───!!』 中井出「黙れ獣人風情が!!俺とブラッシュデイムは既に一心同体!!     そして今度こそ貴様がくたばる番だおりゃぁああああっ!!!!」 悠介 『あぁもうお前最悪だ!!こうなりゃとことんまで付き合ってやるわぁああっ!!』 ……再び始まる大乱闘。 あっちもかなり大変なようだが、こっちもかなり大変だ。 なにせムキムキマッチョさんが、今や二人も目の前に。 藍田 『二対一……』 丘野 『卑怯とは言うまいね?』 彰利 『卑怯だぁああーーーーーーーーーっ!!!!!』 素直な言葉を発したその後、俺は筋肉な人達にボコボコにされた。 【ケース131:中井出博光/猫耳は眠らない9】 ───そうして、戦いは五分のままに終わった。 藍田 「あ……あが……!あががが……!!」 丘野 「いがっ……いがだだだ……!!」 散々ゴルベーザをボコっていた二人は、その途中で副作用に襲われてこの有様。 俺はというと……途中でマグニファイの効果が切れてしまい、 完全に詰めるには至らなかった。 いやもう驚いた。 力任せに剣を弾き飛ばすこと12回…… その12回とも、次々と武器を出すもんだから驚きの連続だ。 どこにあんなに武器持ってたんだか、あの獣人は。 今や既にマメツブほどの大きさと化している、 ルルカを駆る獣人たちを見送りつつも……俺は安堵の溜め息を吐いていた。 それにしても…… 中井出「はふ〜……嗚呼、やっぱ武器を育てといてよかった……」 マグニファイに背水スキル、そして回復スキルや毒や麻痺…… その全てが今回の引き分けを可能にしてくれた。 それとドーピングコンソメスープ。 これらが無ければ絶対にあのままやられてた。 エキストラスキルがあんなにまで脅威のシロモノだったとは……。 ヒドイ目に遭ったが、逆に欲しくなったのも事実だ。 確か精霊を倒せば貰えるんだったよな。 中井出「………」 マップを見て、それっぽい場所を探してみる。 火山、雷雲下の山、常闇の領域、大地の洞穴、光の塔、水の神殿、風の谷…… そんでもって氷河、時の大地……くらいか。 死と無の属性が関連する場所は特に無い。 けど、世界の中心にはやっぱりマナの樹と癒しの樹ってのがあった。 ここから近いのは雷の山と常闇の領域……だな。 でもあの獣人たちと同じのをとってもつまらない気がする。 だったら……どうせなら一番遠い『火山』がいいかもしれない。 つまり火の精霊イフリート。 名前からして骨が折れそうだが……やっぱキツイ方が手に入れた時の喜びも一入だろうし。 中井出「じゃあとりあえず泉に行ってみて、     シザーイーゼルってやつが居るかどうか調べよう。     居なかったらそのままヴォル火山に直行。OK?」 丘野 「いいのか提督。それじゃあ風切りの刃がかなり後回しになるが」 中井出「惜しいがそれも仕方あるまい。なにもそんな急ぐ必要もないだろうし。     というか丘野二等兵。貴様いつの間に復活した」 丘野 「睦月がすぐに回復してくれた」 中井出「………」 丘野二等の言葉に、チラリと視線を動かした。 するとその場でまだ倒れている藍田二等。 殊戸瀬「なに……?これ……?これが欲しいの……?ねえ……」 藍田 「欲しいっ……!欲しいから早くくれっ……!」 殊戸瀬「今なら漏れなくダークボトルもプレゼントするけど……」 藍田 「それは要らん……っ!!」 殊戸瀬「そう。だったら知らない」 藍田 「殊戸瀬ぇええっ!!てめぇええええええっ!!!」 そして、彼の目の前では薬瓶をチラつかせて遊ぶ殊戸瀬二等の姿が。 ……これは本当に素直じゃないだけなんだろうか。 ともあれそんな状況も丘野二等の言葉で丸く収まり、 俺達は再び泉目指して歩き始めたのだった。 ───……。 ……。 ───で。 総員     『あ』 シザーイーゼル『ギチュッ!?』 驚くほどあっさりと、ソイツは見つかった。 ともなれば、現在地はエトノワール北のリィンシーターの泉。 そいつは両手に持った光輝く刃を泉で洗っていたのだ。 姿はまんまイタチが巨大化したような姿。 殊戸瀬「……持ってる刃に傷をつけないように倒すといいらしいわ」 中井出「OK!!」 もちろん我らは既に戦闘モードよ!! 素早く疾駆し、刃を構える前にこちらの剣を奔らせ───ビタァッ!! 中井出「……!!」 丘野 「なっ……何故止める提督!そのまま振り切っていればダメージを……ぐはっ!!」 なんとこのイタチ……我が攻撃を、 こともあろうに風切りの刃で受け止めようとしていたのだ! 殊戸瀬「さらに言えばイタチの持ってる風切りの刃は未成熟で折れやすいらしいわ。     それを鍛冶屋に渡して鍛えてもらって、ようやく武器として使えるらしいから」 中井出「そっ……それじゃあ攻撃したら───」 殊戸瀬「一撃でアウト」 総員 『ざわっ……!!』 ちょっと待て!! じゃあ本気で刃に攻撃を当てないようにしなけりゃいけないってことか!? そんな、無茶だろ! いくらイタチを巨大化、とか言ったって……刃自体は人が手に持って振って、 丁度刀みたいになる大きさだぞ!? このイタチの体、普通に隠れるような感じになってるのに! こんなの狙えってほうが無茶だ!! おのれ清水二等兵め……!こんな相手からどうやって奪ったと……!? イーゼル『ギチュゥイッ!!』 中井出 「はうあ!?や、やめろ!攻撃をするんじゃない!!」  シュフィィンッ!! 中井出「ひょぉおおおおう!!?」 間一髪!! 振るわれた刃をなんとか避けた!! あ、危ねぇ……!当たったりして刃こぼれしたらどうしてくれるんだこのイタチめが……! その刃には俺のロマンがギッシリなんだぞ……!!もっと低調に扱え!! 中井出「くっ……こうなったら……!」 殊戸瀬「“バインド”」  ピキィンッ♪───バジュンッ!! イーゼル『ギチュッ!?ギッ……ギチュウウウ!!!』 中井出 「───何事!?」 突如、イーゼルがまったく動かなくなった! いや、動けないのはその場からだけで、手とかは動いてる。 殊戸瀬「……これじゃダメなのね。眞人、お願いしていい……?」 丘野 「おう、任せとけ」 中井出「丘野二等……?なにを……」 丘野 「まーまー。奥義……“生分身-空蝉-”」 丘野二等が手で印を結ぶ。 すると丘野二等の姿が26体となり、だが増えた先から丘野二等へと重なってゆく!! ってそうか!生分身の空蝉の術バージョンなら、 25回攻撃されない限り攻撃が当たらない! 丘野 『では行ってきますサー!』 中井出「うむ!頼むぞ丘野二等兵!今は貴様だけが頼りだ!」 丘野 「サーイェッサー!!」 丘野二等が駆ける! もちろんイーゼルは迎え撃ち、がむしゃらに刃を振るう! だが───ミスミスミスミスミスミス!! その攻撃の全てが空振りに終わる!! 丘野 「ポォッ!」 ズビシィッ!! イーゼル『ギチュウッ!?』 そんなイーゼルの、刃を持っているほうの腕に唐竹割りチョップをキメる丘野二等。 その拍子に落とした風切りの刃をしっかりとキャッチし、すぐさまに俺目掛けて放った!!   ピピンッ♪《丘野は【強引に盗みし者】の称号を手に入れた!》 中井出「ぬお!?ば、ばばば馬鹿者!丘野二等貴様!!     剥き出しの刃を人に放る馬鹿があるかぁーーーっ!!」 丘野 「あ」 落としたら台無し!! 故に取る!! 武器好きの全ての人々よ……今こそ俺に力を!! 中井出「真剣ッ……白刃取りィイイーーーーーーーッ!!!」  コォオオオッ……パッシィイイイイイインッ!!!! 総員 『…………』 中井出「………………はっ!!」 刹那、静寂に包まれた。 落とした時のことを考えていた所為か閉じていた目を、ゆっくりと開ける……すると!! 中井出「お───おぉおおおおっ!!おっしゃああああああっ!!!!」 見事成功していた白刃取り!! そして俺は……嗚呼俺は!! 中井出「念願の風切りの刃を手に入れたぞぉおーーーーーーーっ!!!!」  ジャンジャーンジャチャーンチャーンチャチャーン♪《風切りの原結晶を奪った!!》 殊戸瀬「殺して奪う。アンサー」 中井出「やめてぇええええええええっ!!!!」 それがからかいだと解っていても反応してしまうこの悲しきサガ……。 だがそれほどこれは大事なものなのだ……!!壊すわけにゃあいかねぇ……!! つーかこれって“風切りの原結晶”って名前だったのか。 なんにしても、俺はゆっくりとゆっくりとソレをバックパックに収納。 安堵の溜め息を吐いたのだった。 丘野  「でー、提督ー?このイタチどうするー?」 イーゼル『ギチュウウ!!ギチュウウウウ!!!』 既に武器が無くなったシザーイーゼルは、 丘野二等兵に首根っ子を掴まれて持ち上げられていた。 もがくような攻撃も全てミス。 武器が無ければとってもザコだった。 中井出「無益な殺生はよしておこう。ほっとけばまた原結晶作るんだろうし。     そうなったらまたなにかの時に貰うことになるかもしれないだろ?」 丘野 「なるほど」 そんなわけで解放されるシザーイーゼル。 手を振って攻撃をしてきたが、やはり全てがミスだった。 丘野  「フハハハハ!!無駄!無駄だイタチよ!我が身は分身の影に守られている!」 藍田  「おーい丘野ー、遊んでないで行くぞー」 丘野  「おっと、そんなわけなんでサラバだイタチよ。いい夢を」 イーゼル『ギチュウウウーーーーーッ!!!』 手を振り、別れる我ら。 最後の絶叫は、それはもう武器を返せーと言っているようにも聞こえ、 なんだかちょっぴり切ない気分になったりした夏の日だった。 Next Menu back