───精霊休憩期間/紅茶とビスケットはいかが?───
【ケース134:イセリア=ゼロ=フォルフィックス/は〜いうぇ〜いすぅたぁ〜】 イセリア「ええとこっちのヴォル火山に修正入れて……あぁっ!こっちも敵多すぎ!      ちょっとイドーリアン!?死を好むからって敵増やしまくるのやめて!」 イド  『黙れ』 イセリア「うあ……即答ですよこの精霊」 さて……ツンツン頭たちが精神世界ヒロラインに入ってから早一週間。 本体の方はノーちゃんによる生命維持処置が施されているらしく、 全員眠りこけたまま放置状態になっている。 汗とか空腹とかその他のアレコレも調整してくれてあるらしく、 大変なことになったりしなくてこっちはありがたい限り。 にしても……全員分の精神の管理って楽じゃない。 よくもまあ悠ちゃんってば最初、こんなのをひとりでやろうなんて考えたもんだ。 ドリアード『中村さん、宝箱のデストラップで死亡……神父のもとへ送ります』 ナイアード『蒲田さん……落とし穴に落ちて絶命……神父のもとへ』 アルセイド『……瀬戸さん…………イドさんのデストラップで死亡……神父さんに……』 そして今現在も絶好調で死にまくってるみんな。 その原因の大半がイドにあるのは、精霊の中で周知の事実だったりする。 サラマンダー  『おお……ようやく火山に来てくれたやつが居る。          ぐおっ……!デストラップでマグマの海に落ちて絶命……!』 セルシウス   『氷河には可愛い猫さんが来てくれました。          わたしの創った町で商いをしてくれるみたいです……嬉しい』 ニーディア   『むう……マスター以外に我が領地に来る者が居ない……つまらん』 ウンディーネ  『うぅううう……悠介さま……悠介さまぁああ……!!!          なぜぇええ……なぜわたしの属性の宝玉を          受け取ってくださらなかったのですかぁあああ……!!』 ウィルオウィスプ『女々しい青肌だ。過ぎたことをぐだぐだと』 ウンディーネ  『なっ……一番にショックを受けて絶叫していたあなたに          言われたくはありませんよウィルオウィスプ!!』 オリジン    『静まれ。集中出来ん……』 ノート     『やれやれだ……マスターが居てもやかましい、          マスターが居なくてもやかましい……救いが無いほどのたわけだな』 ノーム     『言っても仕方ないと思うぞー、ムッチー』 ノート     『ムッチーと呼ぶのはやめろ、ノーム……』 精霊達もよく休み無しで出来るよね、うん。 わたしだったら放り投げちゃうね。 でもそろそろ限界だと思う。 マナの樹と癒しの樹があるからって、ここは空界ほどマナの密度は高くない。 実際精霊たちにも疲労が見え隠れしてる。 イセリア「えっとさ、そろそろ休憩とらない?みんなかなり疲れてそうだし」 シルフ 「な、なにを言う。わたしはまだまだ……うぐっ……」 ぼてっ。 あ、死んだ……じゃなくて倒れた。 シェイド  『休憩には賛成だ。このまま無茶を続け、シルフのように倒れれば───        我らだけではない。精神世界に居る人間たちが死ぬことになるだろう』 イド    『クク……では続けよう』 ゼクンドゥス『……否だ、イド。マスターを危機に晒すことは許さん』 イド    『チッ……ただなんとなくでマスターに付いてるお前と違って。        俺にはちゃんと死を見届けるって役目があるんだよ。        それを、精神世界の時の流れのみを見守るお前なんかに……        どうこう言われる筋合いなんざ無いんだよぉっ!!』 ゼクンドゥス『……無為。争いたいなら止めはしない』 イド    『ヒャハハハハ!!上等だ!こんな擬似の死なんかじゃなくて        本物の死を今ここで拝ませてもらうぜぇえっ!!!』 ノート   『……イド』 ───ビタァッ!! イド 『アァ……?なんだスピリットオブノートォ……。     これから俺は極上の死をこの手この目で導き見届けるんだぁ……。     邪魔ァ……すんじゃあねぇよ』 ノート『……永劫に死を見られなくなっていいなら実行しろ。     それこそ止めはしない。だが、一歩でもそれ以上踏み込めば、     汝の望む死……そして汝が齎すことの出来る極上の死とやら。     それを超越して汝自身で試すことになる』 イド 『ハッ!俺がいつまでもそんな脅しに』  ジャギギギギギギギギギギギギィインッ!!! イド 『───……』 一瞬……それこそ刹那、イドの輪郭を完全に囲むように、槍が虚空より創造された。 ノート 『脅しだと誰が言った?……あまり私を見くびるなよイド。      本来私はマスターと弦月彰利以外の全てを嫌う。      それは相手が人間だろうが精霊だろうが変わることなど無い。      確かに人間に比べれば精霊には心を許しているだろうな。      だがだ。人間に人間関係の好き嫌いがあるように、      虫の好かない存在が居れば精霊とて容赦はしない』 イド  『……チッ、シラケた。好きにしろ、俺は抜けさせてもらう』 イセリア「そう?だったら今の出来事全部悠ちゃんに教えちゃっても文句ないよね?」 イド  『───』 ピタリ。 ───逃げ出そうとした体が制止した。 そして…… イド 『よしっ……もっと頑張ろう!』 総員 『キモッ!!』 輝かしい笑顔で頑張ることを決意した彼。 そんな彼に、わたしたちは口を揃えて気持ち悪さを訴えた。 普段の沈んだ口調を一変した声は、不気味以外のなにものでもなかった。 イセリア「なんだかんだで離れられないんじゃない」 イド  『黙れメスブタ……俺は居心地のいい場所を選んでいるだけだ』 イセリア「メスッ……!?言うにコトかいてメスブタぁっ!?」 イド  『チッ……とんだ失敗だ。どうあっても契約なんざするべきじゃあなかった』 イセリア「……あっさり負けたくせに」(ボソリ) イド  『……口に気をつけろよ女。枷が無ければ刹那に殺しているところだ』 イセリア「脅しても怖くないわよ?だってあなた、絶対にもう誰も殺せない」 イド  『………』 イセリア「あれ?自覚あるんだ」 イド  『殺せるさ。……マスターの前に敵が現れればな』 そっぽを向き、すごい形相のままにイドは言う。 でも悠ちゃん、敵が来ても誰かに頼んで殺してもらうなんてことは絶対にしないと思う。 それを考えると……やっぱりイドが誰かを殺すことなんて無いんだと思う。 結局、なんだかんだ言ってもイドは悠ちゃんの側が気に入ってるのだ。 ほんと、人外にだけは脅威的に好かれてるみたいだねー、悠ちゃんてば。 イセリア「さて。それじゃあ今回のヒロラインはここまでー!」 精霊たち『バーイセンキュウ!!』 イセリア「……なにそれ」 わたしの掛け声に、精霊の大半が反応した。 なんのこっちゃ、って感じだったけど、なんか面白かったからいいことにした。 ───……。 ……。 ややあって───  メキメキメキメキ……!! 中井出「ごっ……!!ぐおおおお……!!か、からだが……!からだがナマッて……!!」 凍弥 「いぢぢぢぢ……!!顔がヒリヒリする……!」 遥一郎「いででっ……ででぇえっ!!って……閏璃、顔に畳の跡ついてる……!」 精神世界に通達した第一次ヒロライン終了のお報せを届けたのち、 みんなが休憩を取り始めてから終了。 精神を身体に戻すと、生命維持を解除してもらった。 ……もちろんみんなの身体は、丸一週間動かしてなかった所為かナマケ状態。 少し動かすだけでも難儀してるように見えた。 中井出「いででで……っと、よう、晦に彰利……お前ら何処に居たんだ?     探したりtellしてみたりしたのに、全然掴まらなかった」 悠介 「………」 彰利 「………」 時折に聞こえるそんな会話も、事情を知ってるわたしや精霊にしてみれば笑い話だ。 その一方で─── 刹那 「まぁああさぁああきぃいい〜〜〜……!!」 豆村 「チミ、ちょっとそこ座ンなさい」 柾樹 「え……いや、座ってるけど……」 刹那 「お黙り!今日という今日はお前に説教せねば気が済まん!!」 豆村 「つーかお前、ヒロラインじゃ何処に居たんだ?」 刹那 「大体だな!どーしてお前はああやってすぐに自分を犠牲に!!」 柾樹 「あの……頼むから一人ずつ一つずつ質問してくれ……」 島田 「おぉ清水ー!エトノワールに行った時、お前の噂をよく耳にしたぞー!」 灯村 「頑張ってたみたいだなー。なんでもミッションランクが結構あるとか」 夜華 「彰衛門貴様何処に居たのだ!わたしがいったいどれだけ探し回ったと……!!」 凍弥 「ていうかさ、博樹。精神の中で酔うってどんな感じだった?」 御手洗「苦しさ二倍……かな。なんていうかね、体感したことのない酔いかただった」 凍弥 「ぬお……」 紗弥香「刹那くん!!女の子をほっぽって旅に出るのはいけないと思うよわたしは!!」 刹那 「ふはははは!!なんとでも吼えるがいい!知らんもんは知らん!!」 深冬 「みっ……!み、みずきさん……あ、の……わたし……」 豆村 「いーって。な〜んも言うな。心の整理はきちんとつけたから。     混乱させっぱなしで悪かった。でももう大丈夫だから」 中村 「つーかあのデストラップなんだったんだ!?ひでぇよあれ!」 飯田 「俺なんかデストラップでマグマダイバーだぞ!?本気でちびるかと思ったわ!!」 佐野 「いやいや俺なんてな!」 佐知子「こっちなんて───!」 俊也 「あれはサチ姉ェが俺を後ろからっ……!!」 だめだ……みんな一斉に喋り出すと、もう収拾つかない……。 わたしはそうしてしばらく、場の空気が落ち着いてゆくのを待ったのだった……。 【ケース135:晦悠介/3月27日に終わってしまったとある法則の法則】 ───……現実世界に戻ってきたら、余計に熱は引かなかった。 というよりは……まあその、お互いに体験した出来事を熱く語り続けてるような状況だ。 飯田 「なぁなぁみんな聞いてくれー!俺、ついにジョブチェンジしたんだぜー!」 佐野 「あ、それなら俺もしたぞ。今31レベル」 飯田 「なにっ!?ぐっ……俺の他に既に30いってるやつが……!」 藍田 「甘い!俺なんか44だ!」 中村 「ぶはっ!?どういう戦い方すりゃそこまで上がるんだよ!」 藍田 「提督なんてもっと凄いぞ?なんと47レベル」 総員 『なんと!?』 清水 「すげぇ……!さすが提督……!」 岡田 「ああ……驚きだ……」 田辺 「さすがだぜ提督……」 殊戸瀬「さすがエロマニア……」(ボソリ) 飯田 「さすが提督……エロイぜ……」 佐野 「やっぱ提督だな……エロだ……」 灯村 「提督には敵わないな……エロの腕前は一級品だぜ……」 島田 「略して見事なエロ前だぜ……」 中村 「ああ……エロだな……提督はエロだ……」 蒲田 「さすがエロマニアだってところだよな……」 丘野 「エロ……」 藍田 「エロマニア……エロマニア!!」 総員 『エッロマッニア!!エッロマッニア!!』 総員 『エッロマッニア!!エッロマッニア!!』 中井出「エロマニア言うな!ちょ……やめれーーーっ!!!     待て!いいから待て!!なんで途中からエロがどうとかに変わってんだ!!」 島田 「え?なんでって……そういやなんでだ?……飯田?」 飯田 「あ、いや……なんか途中で“さすがエロマニア”とか誰かが言ってたような……」 中井出「またお前か殊戸瀬よ……」 殊戸瀬「知らない」 一度喋り出すと止まらないのは相変わらずの原中の猛者ども。 俺はというと、久しぶりの生身を慣らすのに身体を軽く動かしたりしてる。 それは彰利も同じだ。 彰利 「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はっはぁっ!!」 何故か一定のパターンを以って、拳を突き出したり体勢を変えたりしているんだが。 なんだったかなこれ。どっかで見た覚えがある。 中井出「そういやこん中で精霊の宝玉手に入れたヤツって居るか〜?」 真穂 「篠瀬さんが風をとったよ〜」 総員 『流石だ……』 夜華 「なっ……なんだ貴様らその目は!欲しいと思ったものを手に入れたなにが悪い!」 ルナ 「精霊戦って結構大変だったから、もう全員風にしちゃおうと思ったんだけどねー。     波動娘が“それじゃあ面白くないわいな”とか言い出すから」 春菜 「……わたし、“わいな”なんて言ってないんだけど」 中村 「晦と弦月はどうだー?やっぱ雷と闇かー?」 中井出「雷と……」 丘野 「闇……?」 藍田 「あれ……なんか物凄く嫌な記憶がフツフツと」 彰利 「んにゃー!俺たちゃまだ宝玉なんざ手に入れてねぇぜ!?」 そして放たれるウソ八百。 俺はなにも言わないほうがいいかもしれない。 なにせウソは苦手だ。 彰利 「そういう提督はどうなん?」 中井出「いやー……俺は武器鍛えるのに燃えてたからなー。     いやもう聞いてくれ彰利一等兵。     武器強化の素晴らしさ、俺が今ここで熱弁してやる」 彰利 「あ、いや……それはなんつーか(見たから解るっつーか)」 中井出「燻るな!むしろそのハートに火をつけよ!」 彰利 「さ、サーイェッサー!!」 そして始まるそれぞれの所有武器の話。 猛者どもは早速変身すると自分の武器を取り出し、あーだこーだと議論を始めた。 ……これが始まると長い。 俺は自分の武器が創造武器だと悟られる前に部屋を出て、 精霊達が休んでいる庭へと歩いた。 ───……。 ……。 チュンチュンチュン、チ、チチチ…… 小鳥が囀り、トンボが飛び、 インビシブルで隠れた召喚獣たちが小さく欠伸をする朝の風景。 そんな庭に降り立って、マナの樹の下で話し合いをする境界側の精霊と、 癒しの樹の下で話し合いをする空界側の精霊に声をかける。 ドリアード「マスター、もう大丈夫なのですか?」 悠介   「ああ。悪い、迷惑かけた。他の連中ももう体力取り戻してハシャぎ合ってる」 癒しの樹が側にあるからか、ナマっていた身体は案外早くに回復した。 もちろん癒しの力だけに限ったことじゃないが、 どうあれ体が普通に動かせるっていうのはいいことだ。 櫻子 「あらあらあらあら悠介さんも来たのね?だったら新しくお茶を用意しましょ」 悠介 「え?あ、いや、べつにいい───」 櫻子 「すぐに用意しますからね?ここで待ってるのよ〜?」 悠介 「ぐあ……」 老人だとはとても思えないスピードで、蒼空院邸に消える櫻子さん───相変わらずだ。 既に精霊やらなにやらの事情は知っているとはいえ、 こうまであっさり信じられると感心の領域を超越してる。 (ベヒーモスは未だに猫として認識されているわけだが) ノート『どうした?マスター。     汝は私たちと違って精霊としての力を消費したわけでもないだろう』 悠介 「ん、ちょっと部屋に居づらくなったから逃げてきた。     俺が獣人勢力だってことは秘密にしておきたいから」 ノート『なるほど。ウソをつき通す自信が無くて逃げてきたか』 悠介 「まあ、そんなとこか」 大き目のテーブルを囲むようにチェアに座る精霊達。 普通じゃ見れる光景じゃないが、俺もまたそれに混ざってゆく。 悠介 「……ふう」 ……ここらが穏やかなのは変わらない。 ドリアードの隣の空いてるチェアに座り、吹いてきた風に身を任せた。 ゆったりと身体を撫でる風は、夏にはとても有り難い。 加えて、自然の匂いにやマナに溢れたこの屋敷の庭に吹く風は、 他の場所とは次元が違った。 ……ここは、ひどく居心地がいい。 でも、いつかは去らないといけない。 それが……少し寂しく思えた。 悠介 「なぁノート。自分たちの我が儘で娘や息子たちを親無しにするのは───」 ノート『許されることだろうさ』 悠介 「へ……?ノート?」 言葉を全て言う前に、いつものように俺の心を読んだかのような言葉。 俺は数瞬呆気にとられたのち、返された言葉の真意を探った。 ノート『確かに子供にしてみれば迷惑な話だろう。     だが汝は一度空界に移ったら二度と戻ってこない、と言うつもりでもあるまい?     気が向いた時だけでいい、子供が本当に“辛い”と訴えかけてきた時、     一緒に居てやれれば───親というのはそれでいい』 悠介 「……それって放任じゃないか?」 ノート『……ふ、ははははははっ……!!思考の回転が鈍行してるぞマスター……!     クッ……くくっ……!……難しく考えすぎなんだ、汝は。     子供を残して家を出る親が、今さら放任だとかを考えてどうする』 悠介 「いや……そりゃそうだけど。     一緒に居るってのに一緒に居るだけって、それでいいのか?」 ノート『人というのはな、マスター。側に居る大きな存在に安心するように出来ている。     それが憎むべき相手だろうがなんだろうが、     自分に害を及ぼさない限りは側に居ると安心するものだ。     まして、汝は間違っても“家族”に害を与えないだろう。     側に居るだけで安心するのはあながち間違いでもあるまい』 悠介 「む」 そんなことは解らない。 けど───俺はあの人の背中を思い出した時、確かに安心したのだ。 小さな遊び事に付き合ってくれる以外、なにもしてくれなかった名前も思い出せない父親。 でも……そうだ。 俺にとってはただ一人の父親であり───正義だった。 そう───俺はそんな父親が側に居るだけで安心出来ていた筈だ。 そんなことも忘れてたなんて───…… 悠介  「……そうだな。本当の親が居るっていうのは……いいことかもしれない。      害を及ぼさない限りってのも解るよ。俺や彰利はそういう道を歩んできた」 ノート 『忘れないようにしていけばいい。今の汝に必要なのは絆だ。      感情も成長し、だが砕けたままの感情だけが過去に置き去りされている。      そうして少しずつ思い出していけ。そうすれば……必ず未来は変わるだろう』 悠介  「……ノート?未来って───」 ノート 『さて。櫻子がそろそろ来る。話はここまでにするとしよう』 悠介  「む……まあ、いいか」 ノーム 『今日はどんなお菓子かなー、楽しみだぞー』 ネレイド『この香り……恐らく今朝はイチゴのタルトですね』 精霊  『ざわっ……!!』 精霊たちが騒ぎ出す。 静かだった空気が一気に賑やかになった。 ……櫻子さんの作るお菓子の中で、精霊たちに一番人気なのがイチゴのタルト……らしい。 どういう原理かは知らんが、精霊が好む要素が程好く溶け出していて美味いんだとか。 ノート曰く、“この味は精霊にしか理解出来ん”……らしい。 以前の俺ならばそうか、と引き下がるところだ。 だがしかし───しかしだ!! 悠介 (今の俺は精霊……!試してくれようぞ、イチゴタルト!!) なにやら俺の中で熱い何かが暴れ出した。 見れば、他の精霊もなにやら落ち着かない様子。 ……え?もしかしてこれって既に、香りだけでやられてる? 櫻子 「はいはいはいはい、お待ちどうさまね〜?     丁度お菓子も焼けたから、紅茶と一緒に持ってきたの。よかったらどうぞ、はい」 いつでも明るい表情の櫻子さんがカチャカチャと紅茶とタルトを分けてくれる。 その間、我慢が効かなくなったのか、イドがタルトに手を伸ばし───!! 櫻子 「…………」 イド 『ウオッ!?』 櫻子 「あらあらイドちゃん?     食べたいのは解るけど、まだお茶会自体を始めてもいないわよ?」 そうすることが予想出来てたのか、イドの側まで行って囁く櫻子さん。 その速度や予測は既に老人技じゃあなかった。 櫻子 「やんちゃな子にはあげませんよ?」 イド 『なっ───解った!よせ!それは俺のものだ!!よせっ!!』 そしてすっかり餌付けされているイド。 いや……イドに限らず、精霊全員が餌付け済みなんだろう。 ……もちろん、それには俺も含まれている。 今に始まったことじゃない……今さらどうこう言っても始まりはしないんだが。 櫻子 「それではいただきましょう?     タルトも紅茶もたくさん焼いてあるから、どんどん食べてくれていいからね」 にこりと笑いながら言う櫻子さん───を余所に、 物凄い気迫でタルトを食し始める精霊達。 俺も既に我慢の限界だった。 香りだけで頭がどうにかしてしまう───というか既にどうにかなってた頭は、 一刻も早いタルトの咀嚼を促した。 そして食った。 噛み、咀嚼し、飲み下した。 すると───なんとも言えない味と、 それに震える快感とじんわりと頬を刺激する旨みが体中を支配してゆく。 こんなこと、精霊体になるまではなかったというのに。 正直な感想を述べよう。死ぬほど美味い。 これじゃあイドが骨抜き状態にされるのも解る気がする。 恐らく最初は抵抗したんだろう。 こんな人間臭くてガキっぽいものが食えるかー、とか。 結果は…… イド 『うぐぐっ!ぐふっ!がふっ!!』 櫻子 「あらあらイドちゃん?そんなに急いで食べなくてもまだまだあるから」 イド 『げふっ!ごふげふっ!ぐふっ!!』 喉に詰まるほど勢いよく食べる……それほどまでに好きになってしまったと。 ああ、でも解る。 これ、紅茶と一緒に飲むと、それこそ死ぬほど美味く感じる。 あまりの美味さに涙が出てくるほどだ。 なにがそうさせてるのかは解らないが、分析するのも無粋ってもんだ。 恐らくそれは、ノートもそう思っていることだろう。 悠介 (はは……こういうのも、なんていうか……うん。悪くない) タルトで咽るイドの声を聞きながら、俺は穏やかに微笑んだのだった。 【ケース136:桐生真穂/ニューヨークシティ+分割+接着=ヨークシン()
・シティ】 中井出「マーヴェェラス!!ヒヨッ子ども、よくぞオノレをここまで高めた!!     貴様らの頑張りは等しく評価されるべきものであり、勲章ものである!!」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「バトルに身を費やす者!旅に浪漫を求める者!鍛冶に魂を込める者!     調合に命をかける者!その全てがファンタジーでは輝いている!!     ヒヨッ子ども!よくぞ無事生還した!!グッドジョブだ!!」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「うむ!それではこれより原中名物“魔苦羅納夏(まくらなげ)”を開始するものとする!!     総員!ただちに布団を敷き詰め、枕を手に持ち吼え猛ろ!!」 総員 『Sir(サー)!!YesSir(イェッサー)!!』 みんなノリノリで布団を敷いてゆく。 といっても敷くというよりは乱雑に放り投げるって感じだ。 これらはわたしたちがヒロラインに行く前に晦くんが創造したもの。 そして次元干渉能力っていうので拡張された晦くんの部屋は、 わたしたち原中生や、ノリの解る友の里の皆様にしてみれば格好の遊び場だった。 中井出「それでは闘技全開能力者バトル改め、原中名物“魔繰羅那解(まくらなげ)”を開始する!!」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「心の準備は出来たか!!」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「変身は済んでいるか!?」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「心の巴里は燃えているか!?」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「うむよし!!では総員、枕を強く握れ!!     ライフポイントはひとりにつき5!ルールは至って簡単!     相手に5発当てるのみ!5発当てられたものは速やかに部屋の端に正座せよ!     当てられた数を誤魔化す者には負け犬(アンドゥドッグ)の称号を授ける!!     ヒヨッ子ども!これは戦争である!!各々手加減など忘れて全力で闘え!!     イェア!ゲッドラァック!!ラァーーーイクッ!!ファイクミィーーーッ!!」 ザシャア!! 総員 『Sir(サー)!!YesSir(イェッサー)!!』 でも、なんだか今日は雰囲気が違った。 多分みんな───ナマってた身体を動かすこともそうだけど、 ヒロラインの中でこれからやる筈だったことを気にかけてて、気が高ぶってるんだろう。 ……あとのことがちょっとだけ心配になった。  ───そして始まる、まるで悪夢のような枕投げ。 全員ステータス割り振りを器用にこなすもんだから、 飛翔する枕は今まで投げてきたものとは速度そのものが違った。 ごひゅぅん!!と音を立てて飛翔する枕を、それでもズバムと受け止める猛者な人達。 もう……普通ではいられなくなってる気がした。 べつにそれを嫌がってるわけじゃないからいいんだけど。 能力が邪魔になったらカリスマか知力だけを上げておくのもいいし。 事故にあっても死なないくらいにバイタリティを上げておくのもいい。 中井出「ショラショラショラショラショラショラァアーーーーーーッ!!!!     ストレングスとアジリティに振り分けて尚、     貴様らヒヨッ子どもに負けぬ剛球を見よォーーーッ!!!!」 清水 「うおお汚ぇ!!誰か!誰か提督を止めろォーーーーッ!!!」 こっちはこっちで相変わらずだ。 結局わたしたちはパーティーごとのメンバーを募ることになって、 その上でこの広い部屋で枕投げをし合ってる。 その中でも……提督さんのパーティーは軍を抜いて脅威だった。 彰利   「おやおや横が隙だらけよォーーーッ!!ショラァッ!!」 夏子   「パパトスカーニ!GO!!」 トスカーニ『キョェエエーーーーッ!!!』  ゴパキャアッ!!───カラカラ…… 守りも鉄壁……というか、夏子が召喚するスケルトンが大体盾になって砕けてる。 癒しの力が充満してるからか、一撃で砕けちゃうみたいだけど。 彰利 「ゲェエエーーーーーッ!!!?なっ……スケルトン!?なんで!?」 丘野 「木村夏子は現在ネクロマンサーだからだ」 彰利 「隠しジョブっすか!?なんとまあいつの間《バゴチャア!!》ブシェーラ!!」 と───喋り途中だった弦月くんの顔面に枕がブチ当たった。 投げられた方向を見れば…… オリバ「余所見ヲシテルト火傷スルゼ?」 満面の笑みの、オリバへと変身を果たした藍田くんの姿が。 佐野 「ヒィッ!なんかただでさえムキムキのオリバがさらにムキムキに!?」 岡田 「なっ……何事!?」 オリバ「ドーピングコンソメスープダ……」 それはそれは、深い絶望が込められた言葉でした。 凍弥 「つーかオイ!!弦月が壁に激突したまま動かなくなったぞ!?」 鷹志 「うおっ!?マジだ!!痙攣すらしてねぇ!!」 柿崎 「どういう力で投げればここまで人が飛ぶんだよ!!」 島田 「か、怪力無双……!!」 灯村 「これほどのものか……!!」 飯田 「胸が……まるでケツだ……」 中村 「腕が……頭よりデカい……」 佐野 「大体技が通用するのか……?」 総員 (ていうかなんでご丁寧にパンツ一丁なんだろう……)  ルオベパァンッ!! 飯田 「ヘギューリ!!」 真穂 「……え?」 ヴゥウォオンッ!!───と、なにかが頬を掠めて飛んでいった。 それは少し離れた後方の壁にゴバァンとぶつかると、ズリズリと畳みに落ちる。 よくよく見てみれば……それは枕で空を飛んだらしい飯田くんだった。 夜華 「ば、馬鹿な……!投げるまでの瞬間が見えなかった……!!」 オリバ「ど〜〜〜よソノダ。見事なイッポンだったろう」 田辺 「い、いや……一本つーか……枕投げで人を倒すのって一本って言うのか……?」 オリバ「オイオイ気は確かかい?イッポンじゃない…………って」 田辺 「ゴリモリマッチョに気を疑われたかないわ!!     そもそもどう見たって一本って認識を度外した飛び方だったろ今の!!     ありゃどう見ても“一本!”っつーよりゃ“一殺!”って感じだったわ!!」 オリバ「解ったよ……。ミスター飯田、もう一度だ」 そう言って、もう一度枕を手に飯田くんを標的に振り被る藍田くん───って!! 真穂 「まままま待ったぁーーーっ!!さすがにそれやったらトドメになっちゃうよ!!」 オリバ「ワカってるじゃないかソノダ〜〜」 真穂 「ソノダ!?」 田辺 「と、ともかく!提督のグループは危険だ!ここはみんなで先に潰すべきなり!!」 佐野 「異議無し!くらえィイイイイン!!!」 雪音 「ホギッちゃん!一斉射撃ーーーッ!!!」 遥一郎「お前も投げるんだよっ!!」 雪音 「解ってるよぅ!」 そうして───オリバ効果で魔苦羅納夏が提督さんチーム対全員と化した。 黒竜王さんとみさおちゃんは参加してないけど、 もちろん投擲者の中にはわたしの姿もあった。 とりあえず女の子に向かってソノダはないと思うのだ。 丘野 「な、なんと卑劣な!」 夏子 「任せて!“縁の下の11人(イレブンブラックチルドレン)”!!」 モゴモゴ……ドバァアーーーーンッ!!! スケルトン×11『ケキョォオオオーーーーーーッ!!!!』 夏子の召喚!場に11体のスケルトンが現れた! ……ご丁寧に畳みをブチ破って。 畳から出てくるアンデッドモンスターってなんていうか物凄く情けない。 スケルトンA  『大丈夫さぁ前に進も〜ぅぉ〜♪』 スケルトンB  『太陽をいつもむぅ〜ねぇ〜にぃ〜♪』 スケルトンC  『嵐が来たら肩組〜ん〜で〜♪』 スエルトンD  『そのさ〜きの〜♪』 スケルトン×11『光を見よぅぉ〜〜〜っ♪』 ドゴゴシャバキベキゴシャメシャゴバキャア!!! スケルトン×11『ケキャァアアアアアッ!!!!』 ガラガラゴシャア…… 現れたスケルトンさんたちは、歌通りに肩を組んで提督さんたちの盾になった。 もちろんみんながみんな手加減無しで枕を投げたもんだから、 スケルトンさんたちは既に見る影もない。 中村 「な、なんと厄介な……!!こうなったら木村だ!木村夏子を狙え!きむ───」 オリバ「攻守交替……」 中村 「らァッ!?え?あ、や、ちょ───」 総員 『散ッ!!』 シュバァム!! 中村 「あ、あれ!?みんな何処行くの!?お、俺だけ独りなんてやだぁあーーーっ!!」  ヴオバゴシャアン!! 中村 「じゅぎゅっ───」 ゴパァンッ!!……ズルズルズル……ガクッ。 散り散りに散開した人垣の中、 ひとり反応が遅れた中村くんだけが怪力無双ショットの餌食となった。 ……もちろん既に見る影もない。 一瞬で壁まで吹き飛ばされて激突し、崩れ落ちるように動かなくなった。 総員 『ヒ、ヒィイ!!』 次は我が身……そう考えると、もうライフポイントが5とかが関係なくなってくる。 実際、一撃喰らえば気絶は免れない威力なんだから仕方が無い。 オリバ「筋力ハ元カラ十二分……。ドーピングコンソメスープデソノ“力”モ向上……。     ト、クレバ……次ニワタシガ取ル行動モ解ルダロウ……?」 総員 『ざわっ……』 嫌な予感が疾走した。 藍田くん……否、オリバはゆっくりと虚空にシステムナビを出現させ─── 蒲田 「い、いかん!!ヤツめ、アジリティに全てをつぎ込む気だ!!     そうなったらもはや俺達の手には負えーーーん!!」 アジリティ……というとやっぱり速度!? オリバ「モウ終ワッチマッタゼ。闘志満々ダ」 総員 『ゲェエエーーーーーーーッ!!!!』 ……そうして。 みんなの心からの絶叫で、その殺戮の宴は始まったのだった。 【ケース137:晦悠介/マッタリあ・ろ〜んぐティータイムあごー】 ドゴォオオンッ!! ドゴシャアッ!!どしぃいんっ!!ドゴォン!!バガァンッ!!ゴシャバキメシャ!! 声  『ギャァアアアアアアアアアッ!!!!!』 悠介 「………」 俺の部屋から、妙な炸裂音と猛者どもの絶叫が響いた。 時折、窓ガラスをブチ破って落下してくる人や枕。 さらには何故か骨のカケラなどが吹き飛んできたり、 魔法の輝きが溢れたりと……もう大変である。 ノート   『……騒々しいな』 ウンディーネ『せっかく、お茶の時間を楽しんでいるというのに……』 悠介    「元々静かに出来ないやつらなんだ、しょうがない。        それに、家主の櫻子さんはむしろ嬉しそうだ」 櫻子    「悠介さんのお友達は賑やかでいいわねぇ。        やっぱり五月蝿いくらいのほうが楽しくていいわ」 悠介    「な?」 ノート   『……そのようだ』 静かなお茶会、とはいかないが……それでもこれが俺達の日常だ。 うるさいくらいじゃなけりゃあしっくりこない。 声  「うわぁああああ!!りょ、りょ、呂布だぁーーーっ!!」 ドゴォンッ!! 声  「ゲアァアアアアアッ!!!!!」 バッシャァアアアアアアアアンッ!!───ドザァッ!! 訳の解らん言葉を最後に、 壊れた窓をさらに破壊して吹き飛んできたのは岡田だった。 俺の部屋でいったい何が起こってるのやら……。 知りたい気もするが、嫌な予感しかしなかったからお茶の続きを楽しむことにした。 ノート『……賢明だ』 そんな俺に呟くノート。 伊達に苦労人生活は長くない。 こういうパターンではどこでどう俺に負担が降りるのかくらい解ってるつもりだ。 声  「なぁソノダよッッ!!いいじゃないかッッ!!     全員に勝ったらブラックベルトだ!!」 声  「片手デ振リ回サレテル……ッッ!!80キロヲ越エルワタシガッ……!!     ってうわぁああちょっと待ったあぁああああっ!!!死ぬ!!これ死ぬって!!     速い!怖い!かつて小学校にあった回旋塔のMAXスピードより速ェよコレ!!」 声  「お、落ち着けぇええっ!!落ち着くんだオリバァーーーーッ!!     こ、これは枕投げだった筈ッッ!!さすがに直接攻撃はどうかと───」 声  「解ったよ……」 声  「でぉわぇあっ!?い、いきなり離《ボギャァンッ!!》へぶしぃーーーーっ!!」  ガシャアッ───ドザザザザァーーーーーーッ!!! 清水 「グビグビ……」 清水が枕とともに飛んできた。 既に残り少ない窓の面積をさらに削ったソイツは、既に気絶中。 ……そうか、オリバか。 そりゃ騒ぎもするわ……。 声  「く、空中に放った相手に枕投げ……!!」 声  「怪力無双……!!これほどのものかッッ……!!」 声  「胸が……まるでケ《バゴォンッ!!》つべっちゃぁあーーーーーーっ!!!?」 シュゴォオオオーーーーードグシャアッ!!! 佐野 「グビグビ……」 悠介 「…………」 どうでもいいが、なんで意地でも窓から吹き飛ばすんだ? しかも喋り途中だったのに。 声  「佐野ォーーーーッ!!?」 声  「さ、佐野ォオーーーーーーッ!!!」 声  「わ、わたし達は忘れない……。     佐野くん……貴様のような温泉好きが居たこと《ゴバシャア!》ヲヴァアーーッ!!」 声  「野中ァアーーーーーーッ!!!」 声  「の、野中が美しき壁画な人にィイーーーーーッ!!!」 声  「み、みんな!やっぱ怯えてるだけじゃダメなんだ!!     勇気を出そう!みんなで力を合わ《ベゴシャア!!》ぶぼぁーーーッ!!!」 声  「ヒィ!!せっかくいいことを言ってた三島が《ドゴォン!!》ぎゃぶっ!!」 声  「キャーーーッ!?た、たすけてぇえええええっ!!!!」 やがて聞こえてくるのは阿鼻叫喚と炸裂音のみ。 ……俺はもう、本気でお茶会に集中することにした。 Next Menu back