───冒険の書28/奇才葛藤のモード───
【ケース149:桐生真穂/クワットロ・スタジオーニ=下田】 本日は晴天なり。 ファンタジーの天気はそうそう変わらないらしく、 綺麗な蒼空が今日もお空を支配していた。 現実の季節が夏でも、こっちの季節はどうなのかは正直解らない。 ルナ 「また悠介と離れ離れ……悠介……ゆーすけぇ……」 夜華 「しまった……彰衛門に居場所を聞くのを失念していた……」 一方こっちはところにより暗雲。 頭のすぐ上に真っ黒な雲でも装備しているかのような暗さが、とにかく目立ってます。 春菜 「現実世界に居る時、もっと積極的にアタックすればよかったのに」 ルナ 「波動娘には解らないわよぅ……。     悠介はああいう人垣の中で抱きつかれたりするのが嫌いなんだから……」 粉雪 「それは晦くんじゃなくてもそうだと思うけど。     原中のみんなの前でそんなことしたら、彰利みたいにからかわれるだけだし」 真穂 「あ、あはは……」 ズバリである。 原中はイチャつく存在には、これがたとえ一方が嫌がってたとしても容赦しない。 というよりはブラボ〜と拍手しながら褒め称えるに決まっている。 面白く、相手を深く傷つけないものならばなんでもいいのだ。 もっともそういうのは、冗談が通じるサワヤカな人でなくては通用しないんだけど。 普通の人にやったら怒られるに決まってるし。 真穂 「あ、見えてきたよ?あれじゃないかな」 さて、そんなわたしたちが向かっていたのは癒しの樹の関所。 然の精霊が居るっていう大樹を間近で見てみようってことになった一行は、 山を越え谷を越え、ここまで来たわけです。 とはいえ……癒しの樹にはおいそれと近づいていいわけではないらしく、 関所───って言うのかな。 とにかく適合者以外は通れないような場所が設けられている。 蒼空から降り注ぐ陽光を身に受けたその場所は美しい。 大きな関所の先に見える大きな樹が、キラキラと輝いて見えた。 仁美 「わー……綺麗だねー」 真穂 「うん……」 仁美 「これは是非間近で見ないと。行くよ、真穂」 真穂 「うん。みんなも準備───」 ルナ 「ゆ〜すけぇええ……」 夜華 「何処に居るのだ彰衛門……わたしは貴様と旅を……」 粉雪 「聞いてないみたいだけど」 真穂 「そうみたいだね……」 それでも付いてきてくれてはいるみたいだから、なんかもうそのまま入ることにした。 ───……。 ……。 ギヂリ……ギチギチギチ……ザアアア……!! 入り口らしき場所を通ろうとすると、木々たちが避けて道が出来た。 その先には広い自然聖堂のような場所。 大樹の枝と葉の傘から降りる木漏れ日が、影を照らして綺麗だった。 真穂 「うわ……うわゎわわぁああ〜〜〜……!!」 素直な感動がそこにあった。 晦くんの記憶の中でなら確かに見たような光景だ。 だけどそれも、自分がそこに立つのとは大違いだ。 風を感じられるし、静かな木々の囁きが聞こえる気もする。 なにより空気。 他とはまるで違うそれは、否応無しにわたしの中のワクワクさんに栄養を与えた。 森人 『然の聖堂へようこそ。初めて来られた方ですね?説明を受けますか?』 真穂 「あ、あの……はい、是非……」 うわ言のように呟く。 だってしょうがない。 話し掛けてきた人よりも、目の前の景色がとにかく感動を与えてくれている。 話なんかよりももっと景色を眺めていたいと思うのは当然じゃないだろうか。 森人 『この聖堂は精霊ドリアードが治める自然聖堂です。     ドリアードは癒しの大樹を守るため、自らの力で自然の壁を生成し、     癒しの大樹を囲んでいます。この聖堂の木々は大変頑丈で、     魔法や大砲なども弾いてしまうので、私たちも安心して守ることが出来ます』 真穂 「………」(聞いてない) 森人 『ここでは癒しの樹の見物や、病の治療などが可能です。     もっとも、冒険者などは自らで治癒することくらいできるでしょうが。     他には身体自体に然の属性を宿してもらうことも可能です。     然は、宝玉とは別に手に入れられる属性のひとつです。     宝玉の力と他属性の力を合わせて初めて完成する能力もあるので、     試してみてはいかがでしょう』 真穂 「えっ?あ、はあ……」(少し聞いてた) 森人 『もちろんタダで貰えるわけではありません。     ドリアードの頼みごとを受け、     それを達成した者のみが属性を受け取ることが出来るのです』 真穂 「頼みごと?」(ちゃんと聞いてた) 森人 『そうです。ドリアードは歌が大変好きでして。     今は森人の歌だけではなく、外の歌も知りたいと思っているらしいのです。     ですから、今の願いは“歌を知ること”です』 真穂 「歌……」 と聞いて、ちょっと頭を痛めた。 このパーティーで歌が得意そうな人が居ない気がするからだ。 少なくともルナさんと篠瀬さんはダメだと思う。 お母さんは、言っておくがとんでもないくらいの音痴だ。 わたしと粉雪はなんだかんだで原中で替え歌とか歌ってたから、 奇妙な音程には自信があったりする。 更待先輩は───どうだろう。 森人 『ドリアードはあそこの、樹木階段を登った先におります。     もし覚悟が決まったらどうぞ。───私たちは平和を望みます。     ですから、暖かであり賑やかな歌を歌えばきっと心を打つことが出来るでしょう』 真穂 「………」 アドバイスをどうも。 でも正直、初対面の人の前で歌うのはちょっと……などと思ってた時だった。 声  「ええい情けなや!!貴様それでも原中生か!!」 ───と、何処かで聞いたような声がこの聖堂に轟いたのでした。 何事かと振り向いてみれば───そこに居るのは原中が誇る伝説の提督その人だった。 中井出「やあ」 そして何故か気安い挨拶。 最初に放った気迫を込めた声とのギャップに、わたしは脱力するのみだった。 真穂 「て、提督さん……どうしてここに?」 中井出「いやなに、普通の精霊から宝玉が貰えるのなら、     精霊欄に記されていない精霊の場合はどうなるのかなぁと思った故だ」 丘野 「ルルカに乗ってきたからあっと言う間だったさ」 ……こっちは歩いてきたから、ちょっとその状況が羨ましかった。 中井出「聞けばこの聖堂、歌を歌えば属性が貰えるらしいじゃないか。     そうと聞けば黙ってはいられない」 藍田 「貰えるものは貰っておこうということで。     でも自然を織り交ぜる能力ってなんとなく『癒し』ってイメージあるよな」 中井出「うむ!ということでこの聖堂の属性は回復役の麻衣香に譲るものとする!!」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「うむ!問題は歌なわけだが───誰ぞ歌に自信のある者!前へ出よ!」 丘野 「ハッ!」 藍田 「ここに!」 中井出「うむよし!ならば貴様らに“賑やかな歌”の歌唱を命じよう!!     敵は高位精霊である!心してかかれ!!」 二人 『Sir(サー)!!YesSir(イェッサー)!!』 中井出「突貫ンンンーーーーーッ!!!!」 ドタタタタタタ……!! 後から来た提督さん一行が樹木階段を登ってゆく。 わたしたちもせっかくだからと、顔を見合わせたのちに頷いて追いかけることにした。 ───……。 ……。 ドリアード『よくきたの。わしが然の精霊ドリアードじゃ』 総員   『………』 で、昇っていった先に子供。 ちょこんと玉座に座ったその子供は、 漫画の老人のような言葉遣いをしてムンと胸を張った。 ……現実世界のドリアードとは似ても似つかない。 中井出  「……子供、だな」 丘野   「だな……」 藍田   「ああ……」 ドリアード『そちらだな?今回わしに外の歌を教えてくれるのは。       ああ、楽しみだぞ。さあ、歌ってみるのじゃ』 中井出  「………」 ドリアード『な、なんじゃ?さっきからジロジロと……』 中井出  「………はぁ〜〜〜〜ぁあああ……」 提督さんが深淵から湧き出したような深い深い溜め息を吐いた。 それは、ドリアードの身体を下から上まで見てからの行為だった。 中井出  「や……なんつーか貧弱……」 ドリアード『なっ……無礼者!!わしを誰だと思っておるのじゃ!       わしは精霊の中でも特に徳の高い高位精霊、ドリアードじゃぞ!!』 中井出  「だがなぁ……。       現実世界のドリアードさんのスタイルを見てからじゃあ……なぁ?」 総員   『《コクコク》』(頷く総員) ドリアード『なにを訳の解らないことを言っておるのじゃ!!       〜〜〜っ……無礼者!貴様、名をなんという!!』 中井出  「むう!訊ねらてば答えずにはいられない!       遠き者は耳に聞け!近き者は目にも見よ!       我が名は───原沢南中学校提督!!中井出博光であるーーーーっ!!!」 ババーーーン!!! ドリアード『なっ……て、提督とな……。そ、それは偉いのか……?』 中井出  「偉い!!……偉いよね?」 丘野   「や……何故こちらに聞くでありますか提督殿」 中井出  「いや……今までの経験が……。……とにかく偉い!偉いよ!?偉いとも!」 ドリアード『そ、そうか……。だがわしを侮辱した罪は重いぞ!!       もし歌をろうじて、それが聴くに耐えんものだったら……       ひっとらえてくれようぞ!!ヒロミツとやら!!』 中井出  「───え!?俺だけ!?」 ドリアード『さあ、誰が歌うのじゃ!わしは今機嫌が悪いぞ!       よっぽどいい歌でなければ満足せんかもしれんなぁ!!』 中井出  「いやちょ───待って!こういう時って普通一蓮托生だよね!?       なんで俺だけ固定目標なの!?もちろんみんなも捕らえるんだよね!?       ちょ……なんで無視するのこっち向きなさい!!話聞いてぇーーーっ!!」 とことん無視される提督さんがあまりに不憫だった。 でもここまで来たら納得させるしかないんだろうと思う。 でも……ほんとに、 現実世界のドリアードさんを見た後にこれじゃあ溜め息も吐きたくなるってものだ。 丘野 「フフフ……では“原中の歌の流れ星”と呼ばれた───」 藍田 「この藍田と丘野が、貴様の度肝をブチ抜く歌を披露してやろうじゃないか」 で、ズシャリと前に出るのは宣言通りに丘野くんと藍田くん。 ニヤリと余裕の笑みを浮かべる彼らに、ドリアードもムッ……と構える。 ドリアード『ふふん、豪気よの。では早速始めてもらおうか?       それから解っていると思うが、歌を歌っている最中は如何なる発言も許さん。       ……いや。せっかくじゃ、口は封じてしまおう。“サイレンス”』 ピィンッ♪ 真穂 「───……?───!?」 中井出「……!?」 何事かと喋ろうとしたけれど、声は出なかった。 けど丘野くんと藍田くんは発声練習などをしている。 ……どうやら口を封じられたのは見物人だけのようだ。 ドリアード『どれ。では始めてもらうとするかの。       まずは歌のタイトルを聴いておくとする。なんという歌じゃ?』 丘野&藍田『学級王ヒロミツ!!』 中井出  「!?」 その瞬間、提督さんの余裕の笑みは吹き飛んだという。 ドリアード『ヒロミツ……?そこの無礼千万の男か?』 藍田   「イエス!この歌は提督を称える歌である!!」 丘野   「心して聞け!!」 ドリアード『面白い……いいじゃろう!さあ歌うがよい!』 提督さんはなにやら嫌な予感に襲われてるらしく、あわあわと挙動不審になっていた。 丘野 「ん゙、ん゙、ん゙ん〜〜っ!!」 藍田 「───いざ!!」 構え、そして開始する歌。 なんていうかタイトルからして提督さんの未来が予測されてるようで、 わたしは静かに心の中で十字を切った。 ───やがて息を吸う藍田くん。 もちろん音楽などは無いから、そのまますぐに歌うんだろう。 わたしたちはもう、なにがあっても生暖かく見届けようと、 心に決めた目で行く末を見守った。 藍田 「ヒーーーーーーーロミツい〜ち〜ばーーーーん!!     ヒーーーーーーーロミツい〜ち〜ばーーーーんっ!!     ヒーーーーーーーロミツいぃちぃばん!     ヒッ・ロッ・ミッ・ツ〜〜いっちぃ〜〜〜ばん〜〜〜!!」 丘野 「ヒーーーーーーーロミツい〜ち〜ばーーーーん!!」 藍田 「エッローーーイ!!!」 丘野 「ヒーーーーーーーロミツい〜ち〜ばーーーーん!!」 藍田 「最強ーーーゥ!!!」 丘野 「ヒーーーーーーーロミツいぃちぃばん!」 藍田 「エロエロエロエロ!!」 丘野 「ヒロミ〜〜ツ〜いぃ〜〜ちぃ〜〜〜ば〜〜〜ん!!」 藍田 「エロマニヨーーーン!!」 ───提督さんはもう泣いていた。 それでも無情に続く歌を、わたしたちももう涙無しには聞けやしなかった。 丘野 「きぃ〜〜〜〜みにも見ぃ〜〜〜える〜〜〜♪     ヒ〜〜〜〜〜ロミツの〜〜〜星ぃ〜〜♪     ゆ〜〜〜〜〜くぞヒロ〜〜〜ミツゥ、     おっの〜〜〜れぇ〜〜のぉ〜た〜〜〜めに〜〜〜♪」 藍田 「ゆ〜〜〜〜〜めはデカ〜〜〜〜イぜ〜〜〜♪     せ〜〜〜〜〜かいせい〜〜〜ふく〜〜っ♪     め〜〜〜〜〜ざせヒロ〜〜〜ミツゥ、     おのれっのったっめっにぃ〜〜〜〜〜〜〜っ♪」 丘野 「ヒーーーーーーーロミツい〜ち〜ばーーーーん!!     ヒーーーーーーーロミツい〜ち〜ばーーーーん!!     ヒーーーーーーーロミツいぃちぃばん!     ヒッロッミッツゥ、いっちぃ〜〜〜ばん〜〜〜!!」 藍田 「ヒーーーーーーーロミツい〜ち〜ばーーーーん!!」 丘野 「エッローーーイ!!!」 藍田 「ヒーーーーーーーロミツい〜ち〜ばーーーーん!!」 丘野 「最強ーーーゥ!!!」 藍田 「ヒーーーーーーーロミツいぃちぃばん!」 丘野 「エロエロエロエロ!!」 藍田 「ヒロミ〜〜ツ〜いぃ〜〜ちぃ〜〜〜ば〜〜〜ん!!」 丘野 「エロマニヨーーーン!!」 ───……そして終わりを迎える歌(?)。 全てが終わった時、 ドリアードはコメカミあたりをヒクヒクと痙攣させながらも笑顔を作っていた。 ドリアード『ちと訊ねたいんじゃがな……エロマニヨンとはなんじゃ……!?』 丘野   「押忍!エロマニヨン人の略です!!」(略と言えるほど略してない) 藍田   「エロマニヨン人はエロマニアなのだ!!」 ドリアード『助平、ということかの……?』 藍田&丘野『イグザクトリィ〜〜(その通りでございます)』 ドリアード『そうか……』 ドリアードがサッと手を掲げる。 すると、待機していた森人たちがザザッとわたしたちを囲み─── ドリアード『口封じを解いてやる。助平目的で世界征服を夢見るヒロミツら一行よ。       なにか言い残すことはあるかの?』 中井出  「え───俺エロで世界征服なんて目指してないよ!?       なんでそんな簡単に信じちゃうの!?」 殊戸瀬  「申し訳ございません……っ。今だから白状しますが、       わたしたちはそこの中井出博光提督に脅されて仕方なく……」 ドリアード『……見下げたヤツよの、ヒロミツ……』 中井出  「殊戸瀬ぇええええっ!!!てめぇええーーーーーーっ!!!!」 叫んでる内に提督さんのみが囲まれ、ずいずいと追い詰められてゆく。 中井出  「あっ───やっ!違う!違うよ!?俺エロで世界征服を夢見てないし、       そもそもみんなを脅してなんてないよ!?」 ドリアード『おぬしの目は節穴か?       見てみるがよいぞ、周りの皆は怯えるあまり、涙を流しておるじゃろう』 中井出  「た、確かに流してくれてるけど違う!違うの!信じてお願い!!       ああくそなんかもうマジで泣けてきた!!       みんなの涙が嬉しかったのに今はとても悲しい!!       あっ───ちょっと森人さん!?なんで俺の腕掴むの!?       違うよ!?違うんだってば!!あんたら騙されてるよ!       俺悪くないよ!?ほんとだよ!?       ちょっ───なんで引きずったまま牢屋に直行してんの!?       人の話を聞く余裕くらい持とうよ!俺無実だよ!?       まさか放り込んだりしないよね!?       “道間違えた〜”とか言って、オチャメなギャグをやりたいだけだよね!?       そうだよね!?そうだって言ってぇえーーーーーーっ!!!」 ガシャーーーーン!!! 中井出「やっぱりぃいいーーーーーーっ!!!」 哀れ、提督さんはお縄についたのだった。 そこだけ何故か鉄製の牢屋に閉じ込められた提督さんの姿は、 まさに某4コマのトルネコさんを彷彿とさせる姿だった。 ───……。 ……。 しくしくしくしく…… 牢屋の中で、何故か体育座りをしながら泣いている提督さんの声を聞きつつ、 今度はわたしたちが歌う番となった。 ドリアード『先ほどのような破廉恥な歌だったら承知せんからの。心して歌うがよい』 丘野&藍田(面白い歌だと思うんだけどなぁ……) 藍田くんと丘野くんの囁きは、幸いにしてドリアードに届くことはなかった。 というわけでわたしたちの番。 わたし、更待先輩、粉雪、お母さんの順に歌った───んだけど、 どれもドリアードの心をくすぐる歌にはならなかったらしい。 だったらわたしが───ともう一度歌おうとするも、 一人一回ずつしか歌うことは許されないらしい。 ともすれば……あとはルナさんと篠瀬さんだけ。 わたしたちはその旨を二人に伝えてみた。 夜華 「な、なに!?歌を歌えだと!?人前でそんなことが出来るか馬鹿者っ!!」 篠瀬さん、脱落。 最後の希望はルナさんに託され─── ルナ 「えぇ……?歌……?めんどいからヤー……」 真穂 「そ、そんなこと言わないでっ。ほら、綺麗な歌だったら、     その歌に釣られて晦くんが来るかもしれないしっ!」 ルナ 「えぇ……?うぅ……───しょうがないなぁ……」 マフー、と溜め息を吐いて、とうとう立ち上がるルナさん。 全ては彼女の歌声に託された───!! というか引き受けてくれたこと自体が奇跡なので、 もうどれだけ音痴だったとしても拍手は贈ろう。 ルナ 「───」 すぅ、と息を吐くルナさん。 頭の上で揺れる空き缶は、そんな動作の度に髪の毛を揺らしていた。 ルナ 「空き缶言わない!!」 真穂 「ひえっ!?」 ……言ってないんだけど。 ともあれ歌は開始され─── 春菜 「え……え、えぇっ!?」 麻衣香「うそ……凄く綺麗な歌声……」 夏子 「聞いたこともない歌だけど……これって外国の歌?」 ───やがて。 それはわたしたちの困惑と囁きに包まれながら終わりを告げた。 ドリアード『……………』 ルナ   「?……ねぇ、どうかした?もう歌い終わったんだけど」 ドリアード『はっ!あ、いや……うむ。……今の歌はなんという歌じゃ?』 ルナ   「人の言葉で唱えられる名前じゃないから。ちょっと言えない」 ドリアード『そ、そうか……うん。いい歌じゃった。思わず聞き惚れてしまったぞ。       文句無しじゃ。どれ、属性の加護が欲しい者は前に出てくるがよいぞ?       わしは気前がいいからの。この場に居る者なら、       ヒロミツ以外の全員に属性の加護をやってもよいのじゃ』 泣き声が悲痛になった。 麻衣香  「あ、じゃあわたし……貰っちゃっていいかな」 真穂   「じゃあ、こっちはわたしとお母さんで」 ドリアード『なんじゃ、たった三人だけか?気にすることはないぞ?       属性といっても加護じゃ。宝玉を渡すより造作もない。       精霊の宝玉は一個しか受け取れんが、       属性の加護ならばいくらでも受け取れるのじゃ』 総員   『是非ください』 ドリアード『そうじゃろそうじゃろ。わしのありがたい加護を欲さぬ者なぞおらんのじゃ。       もっとも、どれだけ乞おうがヒロミツにはやらんがの』 ふふん、とドリアードが胸を張って、牢屋の提督さんを見下した───その時だった。 中井出  「うっさいやいペチャパイ!!なんだよもう!!」 ドリアード『なっ……ペチャパイじゃとーーっ!!?』 提督さんが反撃をした。 何気に気にしていたのか、 ドリアードが顔を真っ赤にさせるとずかずかと牢屋の前に立った。 ドリアード『ききき貴様!無礼にもほどがあるぞ!人の身体的なことを罵倒するなど!       そ、それにわしはこれからもっと大きくなる!!       そうすれば背だってばーんと、胸だってぼいーんと!!』 中井出  「うーるーせー!!現在ペチャパイのチビにペチャパイって言って       なにが非正論だってんじゃーーーっ!!」 ドリアード『き、貴様っ……!!言ったな!?今チビと言ったな!?』 中井出  「違う!妙な誤解はせんでもらおう!俺はペチャパイのチビと言ったのだ!!」 ドリアード『ギ、ギギギギィイイーーーーーーッ!!!!』 原中生  『あぁ……』 ダメだ、終わった。 ドリアードは絶対に負ける。 なんたって、ああなった提督さんはとても強いから。 屁理屈を言わせたら、それはもう弦月くんと双肩を並べるほどの人物だ。 これはもう先が見えてるだろう……。 ───……。 ……。 ドリアード『うぐっ……う、うわぁあああああああん!!!       チビじゃっ……ひぐっ……ペチャパイじゃないもぉおおおん!!!』 総員   『なっ……泣かせたぁあーーーーーっ!!!』 そして巻き起こる現状。 子供のように悪口のようなものを言い合ってた提督さんとドリアードだったが、 ドリアードはあっさりと負けた。 まあ結果的には相打ちだったというか…… 口で勝てないと悟ったのか別の理由だったのか、 ドリアードは提督さんを牢屋ごと大木で潰していた。 奇跡的に助かったのか、一応無事といえば無事なんだけど…… ドリアード『ヒロミツなんてキライ!キライだ、ばかーーー!!』 もうこっちには神々しさのカケラも無かった。 うーん……やっぱり相手が悪すぎたのだろう。 でも相手が閏璃くんじゃなかっただけマシだと思う。 あの人は屁理屈大魔王だ、相手をしてたらこの程度で済んだかどうか。 丘野 「えーと、提督ー?無事でありますかー?」 中井出「は、はは……な、なんとか……」 押し潰された牢屋と大木の隙間……丁度人が一人立っていられるような場所で、 目の前に落ちてきた大木に震えながらもなんとか無事な提督さん。 中井出「ふう……危うく死ぬところだった……」 藍田 「まさに急死に一生スペシャルだった」 殊戸瀬「あと20センチだったのに……」 中井出「なにが!?」 と、なんだかんだとわやわや騒ぎつつも、提督さんは泣いているドリアードへ一直線。 へたりこんでぐしぐしと泣いているドリアードの前に跪くと、アクセスを求めた。 中井出  「いい勝負だった……戦いが終われば敵も無い」 ドリアード『さ、触るでないっ!わしを手篭めにする気か!?』 中井出  「するかぁっ!!……あのね、キミ。よ〜く聞きなさい。       さっき俺がエロマニヨン人だとかエロマニアだとか言ってたのは、       ぜ〜んぶあいつらの戯言なの。キミはそれに簡単に騙されただけ。解る?」 ドリアード『ウソを言うな!』 中井出  「うわヒデェ!!澱みの一切無い瞳でそんな!!       おのれ貴様!この俺が原中の提督と知っての無礼か!!」 ドリアード『貴様こそわしが然の精霊ドリアードと知っての無礼か!』 中井出  「ムキキー!真似すんなー!!」 ドリアード『どっちが真似か無礼者!!』 中井出  「おのれ貴様!もはや手加減はすまいぞ!」 ドリアード『望むところじゃ!!ふふん、勝負となれば話は別じゃ!       わしが精霊としてどれほどの高位に立っているのか、身を以って───』 中井出  「勝負方法はTHE・オセロ!!」 ドリアード『知るが……え?』 中井出  「ぬ!?まさか貴様……高位精霊ともあろう者が、       オセロを知らんってこたぁないよなぁああ〜〜〜!!えぇーーーーっ!!?」 ドリアード『ぐっ……!し、知っているぞ!?もちろん知っているのじゃ!!       なにを言っておるのじゃ!わしは高位精霊じゃぞ!?』 中井出  「では始めよう!なおルール外のことをしたら即刻失格!」 ドリアード『うっ……う、うぅう……!!』 そして始まるオセロ大戦。 真穂   「どこからオセロなんて……」 丘野   「うむ。提督が武器を強化してもらってる間、宿屋でちょいと作ったのだ」 藍田   「すぐ飽きたけど」 中井出  「ハイお手つき!!貴様の負けだ高位精霊!!」 ドリアード『ば、馬鹿な!なにがいけなかったというのじゃ!何かの間違いじゃ!!       き、ききき貴様!適当なことを言うと許さんぞ!!』 中井出  「もしかしてルール知らない?」 ドリアード『そ、そんなことはないのじゃ!!わしはなんでも知っておるわ!!』 ……バトルはしばらく続きそうだった。 とはいえ、まだ属性を貰ってないわたしたちは移動するわけにもいかず…… 総員 『はぁ……』 高位精霊の凄まじい負けっぷりを、じっくりと見させられる羽目となったのだった。 Next Menu back