───冒険の書31/人の苦労と自分の苦労───
【ケース154:裕希刹那/犬の黄金にサムワン・デコピンをやったら噛まれた】 はらはらはらはら…… 刹那 「ごぉおおおおお……!!寒ぃ……!!」 豆村 「わなばばバばばばズばバばばばババば……!!」 氷河近くの町、ノースノーランド。 最初はノースノー・ランドって読んでたから“雪が無い”って意味だと思ってた。 が、来てみりゃびっくり雪だらけ。 意味的には“ノース(北)”と“スノー(雪)”を混ぜて読んでいたらしい。 つまり“北にある雪の町”。 それがノースノーランド。 けっして、“北にあるモンブラン・ノーランドの町”ではない。 寒いです大佐(誰?)。とても寒い。 アイルー『しっかりするニャ、情けない』 刹那  「体毛と毛皮のマントでヌクヌクの師匠に言われたくねぇよ!!」 豆村  「こちとら修行中だから金が無くて、      満足な防寒具が手に入れられなかったっつーのに!!」 アイルー『出世払いってことでボクからお金借りるニャ?』 二人  『アンタ弟子を弟子とも思ってないッスね!!』 で、結局震えるしかない俺達。 あのさぁ師匠、せめて家の中とか借りられなかったのかよぅ。 旅人  「すまん、アップルグミとポーションを10個ずつ売ってほしいのだが」 アイルー『毎度アリ〜ニャ。お客様は神様ニャー』 今の俺達にとっては、暖こそが神様だ。 豆村 「はぁ……しっかし、そろそろ冒険が恋しくなってきたな」 刹那 「それを言うなっての。俺達ゃ望んで鍛冶職人になったんだから」 豆村 「けどよぅ。親父とか提督さんとかは今頃、楽しい冒険とかしてるんだろうぜ?」 刹那 「ナマクラー作るんだろ?我慢しろって」
【Side───その頃の提督さん】 中井出「こっちは行き止まりだったぞー!」 丘野 「こっちもでござるー!!」 麻衣香「こっちもダメー!仕掛けの“し”の字もないよー!」 さて……大地の洞穴に入ってからしばらく。 露明石に照らされた洞窟の中は長く、そして険しいものだった。 敵は比較的ザコ……というかこのレベルでは完璧ザコだったのだが、 いかんせんダンジョン性が高く───仕掛けなどを攻略していかねばならなかった。 そして現在。 仕掛けもなにも無い状態のまま、パーティーは立ち往生状態となっていた。 中井出「あっちには道があるんだが……この亀裂じゃあ渡るのは無理だよな」 集合した大きな空洞には、巨大な亀裂を境に挟み、向こう側に通路があった。 だがその亀裂の大きさはとてもじゃないが、人がジャンプしようが届く距離ではない。 丘野 「───……おお!いいことを考えたでござるよ!」 中井出「おおなんだ丘野二等!なにぞいい策でも!?」 丘野 「まあ見てるでござるよ!!10分アビリティ発動!生分身!!」 ズシャアアアアアアッ!!!───丘野二等が26人に分裂する!! 丘野A「ではいくでござる!分裂合身-塔の舞-!!」 さらに分裂した丘野二等が次々と肩車をしてゆき、一つの人の塔を完成させる! ナギー『おお!すごいのじゃー!丘野は分身が出来るのか!』 丘野A「忍者でござるからな!!というわけでとりゃーーーーっ!!!」 そして亀裂の前に立つと倒れ込み、人橋を完成させビタァーーーン!! 丘野A「ギャアーーーーーーッ!!!」 中井出「お、丘野二等ォオーーーーーーッ!!!」 ……否。 完成させた人の塔が高すぎたため、 てっぺんに乗っていた丘野二等本体が向こう側の地面に叩きつけられて気絶。 分身はあっさりと消え、渡る手段はいきなり消滅した。 総員 『………』 先ほどの興奮はどこへやら。 俺達はただ、 現代へ帰る手段を無くした漂流教室の子供たちのような表情で、静かに沈黙した。 中井出「───っと、そうだ藍田二等!アレだ!アレがあった!」 藍田 「アレ?───おお!アレでありますな!?」 夏子 「え……なに?」 殊戸瀬「提督が亀裂に飛び降りるの?」 中井出「それ俺が死ぬ以外になんの意味があるの!?飛び降りないよ俺!!」 藍田 「OK提督!こっちはいつでも来いだ!」 中井出「よ、よぅし!では速やかにGO!!なにやらあっちに仕掛けらしきものが見える!     あれを発動させれば、きっとここにも道が出来る筈!」 藍田 「じゃあいくぞ!」 中井出「よっしゃあ!!」 構える藍田二等に向かって走る! やがて跳躍し、藍田二等が構えていた足に乗る! そこから繰り出されるのはあの合体技!! 藍田 「“空軍・(アルメ・ド・レール)
パワーシュートォッ”!!」 勢いよく足を振るう藍田二等! そしてその勢いで宙を飛ぶこの博光!! やがて亀裂など簡単に飛び越え─── 中井出「おぉわ!しまった!!また着地のこと考えてなか───あぁあーーーーーっ!!」  ドゴォンッ!! 中井出「うわらば!!」 ズルズル……ドシャア。 正確無比に仕掛けに顔面から激突し、ズルズルと地面に落ちた。 しかも相当勢いがついてた所為でダメージがデカい。 中井出「い、いぢぢぢぢ……!!こ、これ……!     現実だったら絶対に鼻がぐしゃぐしゃに折れてるぞ……!?」 でも生きてることに感謝。 そんな俺の後方では仕掛けが発動したらしく、 亀裂の横にある壁が縦に割れて倒れ、見事に亀裂を埋めたのだった。 藍田 「丘野ー!提督ー!大丈夫かー!?」 そうなれば恐れるものもなし。 猛者どもは次々とこちら側に渡ってきて、丘野二等と俺に駆け寄った。 殊戸瀬「眞人……?眞人っ……大丈夫?しっかり……」 丘野 「うむむ……だ、大丈夫大丈夫……少しクラクラしてるけど」 殊戸瀬「よかった……」 藍田 「顔面強く打ち付けてたみたいだったから、さすがに心配したぞ……」 麻衣香「うん、よかった」 夏子 「顔も腫れてないみたいだし、歩いてれば治りそうだね」 丘野二等はどうやら無事らしい。 一安心だ。 藍田 「提督、そっちも大丈夫か?」 中井出「うむ。この通りピンピンである。ちと鼻を強打した所為か鼻血が出てるけど」 殊戸瀬「……こんな洞窟でなに考えてるの、変態」 夏子 「提督さん、冒険中はエッチなことから離れようよ……」 麻衣香「博光……時と場所っていうものを考えないと……」 藍田 「解ってる、解ってる……。疲れると大変なことになるって言うもんな……」 ナギー『ほんに助平よの、ヒロミツは』 中井出「なにこの扱いの差!     俺が鼻血出したらなんでもエロ関係として扱うのやめようよ!     ていうか俺鼻強打したって言ったよね!?どうしてそこで間違えられるの!?」 こっちは全然一安心じゃなかった。 ……この後俺は、しばらく提督像について一人で考えることにした。 ナギー『そも、わしに頼めばあのような亀裂……     簡単に飛び越え、仕掛けを動かしたというのに。     ほんに人間とは無鉄砲な冒険が好きよの。わしはあんな危ない真似はしとうない』 中井出「もっと早く言いましょうねそういうことは!!」 ナギー『わしは自然の精霊じゃぞ。     浮くことも出来れば、大木を根付かせ、橋にすることくらい造作もなかったわ。     それくらい、ちぃと考えれば解りそうなものであろうに。     ほんにヒロミツはそそっかしいのぅ。     やはりこの旅、わしが居なければ波乱に満ちることは目に見えて明らかよの』 中井出「………」 ……さらに、人生についてのことも考えることにした。 【Side───End】
刹那 「まあ……あれだ。冒険っていっても色々あるだろうしさ。     まずは下地をしっかり慣らしていこう」 豆村 「そんなもんかな」 どうあれ、まず考えるべきことは─── 刹那&豆村『ああっ……!それにしても暖が欲しいっ……!!』 これだった。 寒くて仕方ない。 くそう……精霊さんがたも、なにもこんなに感覚をリアルにしなくたっていいじゃないか。 アイルー『ありがとうございましたニャー』 そうこうしてる間に客は去り、また俺達は震えながら客を待つ。 と─── アイルー『むむ。今のでポーションが尽きたニャ……』 刹那  「え……へぇえ珍しい。師匠が在庫切らすなんて」 アイルー『ここに来る前に仕入れておくのを忘れてたニャ。      というわけでこれから材料調達と調合の旅に出るニャ!』 豆村  「おっ───了解了解!この寒い場所から出られるなら大歓迎だ!」 刹那  「で、次の目的地は?」 アイルー『時の神殿方面ニャ!!      あそこらへんには薬草から解毒草まで幅広い草があるんだニャ!!』 豆村  「時の神殿っつーと?」 刹那  「えぇっと……こっから海渡った先の孤島だな」 アイルー『ここよりは寒くないから安心するニャ。それより長い船旅になるのニャ。      酔いやすかったら酔い止めようにネネ草を噛んでおくニャ。      ニガイけど絶対に船酔いはしないニャ』 刹那  「へええ……あ、じゃあ俺一個もらっていいっすか?」 アイルー『毎度ありーニャー。20$ニャ』 刹那  「20デット?デットって位なんてあったっけ」 アイルー『なんか知らないけど売買ルートから連絡が来たニャ。      A$〜M$って読み方は今まで通り使っていいけど、      面倒なら1からどの位まででも$読みしていいそうニャ』 ……?それってつまり……どういうことだ? 豆村  「えーと師匠?それって今までみたいに、      100A$を1S$とか呼ばなくていいってこと?」 アイルー『そうニゃ。100A$は100$、1S$も100$にゃ』 刹那  「文字は“$(ドル)”でいいのか?」 アイルー『ドル?───そうニャ、その文字ニャ』 雪に描いてみせると頷く師匠。 どうやら$でいいらしい。 けどこれじゃあほんとに“ドル”って読むよなぁ……。 刹那  「もっと解りやすい名前、無いのかな」 アイルー『今検討中らしいのニャ。      要望があれば候補として手紙を送るけど、どうするニャ?』 豆村  「あ、じゃあ金の読み方を“ノーツ”にしてくれ」 刹那  「お前、またそんな知ってる人の方が少なそうなことを……」 アイルー『ノーツニャ?他になにか候補はあるニャ?』 刹那  「えーと……マツオカ硬貨とか」 豆村  「余計に知らねぇだろそれ!!」  ◆マツオカ硬貨───まつおかこうか  100マツオカ溜めると探偵の助手になれる、とても要らないメダル。  硬貨の表面に松岡くんの顔が刻まれている。  なおこのネタについての質問、  問い合わせは返答のしようがないので一切受け付けないものとする。  *神冥書房刊:『そういや女が主役でも“主人公”っていうのかな』より アイルー『マツオカ硬貨、……と、ニャ。他にあるニャ?』 豆村  「あっさり候補に仲間入り!?」 刹那  「……ここは敢えてツッコミ入れないようにしよう」 豆村  「じゃああれ……メセタとかケロもありか?」 刹那  「それ言うんだったらガネーはどうなんだ?あ、オーラムもあったな。      ガルドとかギタンとかギャラとかギルとか、      クラウンとかクレジットとかゴッズとかコルロとか……あ、フォルもあったな」 豆村  「全部ゲーム通貨かよ」 刹那  「ガネーと聞いてゲームと来るとは。貴様なかなかの通だな?      普通ならばエレメンタルジェレイドを思い出すだろうに」 豆村  「親父のクソゲーコレクションの中にあったとあるゲームで知った」 刹那  「親から子へ受け継がれるクソゲーか……。      確かにありゃクソゲーとして好評らしいな」 まあ某テンションのことは忘れよう。 それよりもとっとと準備整えて、この氷河地帯を抜けよう。 じゃないと凍える。冗談抜きで。 声  「ね、猫はっけぇーーーん!!」 声  「おおー!アイルーだアイルー!常闇の町に居たのと同じ猫かー!?」 声  「そうみたいだぞー!ちゃんと小僧どももおるでよー!!」 それは準備を整えようとしたまさにその時だった。 突如声が聞こえ、そちらを見てみれば…… 少し強く吹雪いてきた雪の中、清水国明さんたちが歩いてくるではないか。 清水 「よー!こんなところで奇遇だなー!」 刹那 「そりゃこっちのセリフっすよ!どうしたんすかこんなとこで!」 岡田 「はっはっはっはっは!いやーいやー!     世界を探索するつもりでルルカに乗ってきたんだけどなぁ!     無茶な乗り方した所為か途中で振り落とされて、気が付いたら氷河地帯だった!」 田辺 「いやーあ、いきなり吹雪いてくるもんだからびっくりしたさ!」 豆村 「あ、そうだ。ちょっと一つだけ聞いておきたいことがあったんすけど」 清水 「へ?なんだー?今耳痛いからちょっと待て」 あまり聞こえてないのか、ゴシゴシと耳を摩擦する清水さん。 それが終わると『よしこーーーい!』と胸を叩いて聞く体勢を取る。 豆村 「えーと、親父の部屋に“日本ふかし話”って本があったんすけど。     あれって1巻しか無いんすかね。     無駄知識の宝庫たる原中の猛者なら知ってるんじゃないかって思ったんすけど」 田辺 「無駄知識の宝庫とは失礼な……当たってるけど」 岡田 「ああ、あの人なら病気休載中に亡くなったらしいぞ?     それで連載終了になっちまったから1巻しか出てないんだと」 豆村 「なにわ小吉は?」 岡田 「ピンクバンカーって読み切り以降見てないな……」 清水 「絵柄が変わってからは興味が無くなったからなぁ……」 田辺 「不思議なもんで、漫画家が描くものって大体が第一作目が一番面白いんだよな」 刹那 「で、二作目が大抵つまらないと」 それはなんだか解る気がする。 だからこそ昔活躍した漫画家さんは、 その昔の漫画の続編みたいなのを今やってるんだろうし。 絵柄が変わりすぎてると目も当てられないわけだけど。 豆村 「でもそっかぁ……ふかし話の作者は亡くなってたのか……。     地味に続きが気になったから見たかったのに」 清水 「いやぁ〜……でもな。     正直打ち切りにされるのも時間の問題だったんじゃないかと俺は思うが」 豆村 「え……続き知ってンすか?」 岡田 「そらぁ全盛期だったわけだし。     でもな、打ち切りが時間の問題だと思ったのは事実だぞ?」 田辺 「なんつーかな、描き方が今思い出してもそんな感じだった。     ネタのマンネリ……って言えるかは微妙だけどさ。     桃さんの反応もキビシーしか無かったし」 岡田 「ポチのテッポは絶対外れる」 清水 「キジはオロローンとしか反応しなくなるし……」 豆村 「サル(ノビッチ)は?」 岡田 「………」 清水 「………」 田辺 「………」 ……あれ? 清水   「猫よ。毛皮のマントをくれ」 アイルー 『はいニャー』 刹那&豆村『えぇっ!?ここで流すの!?』 岡田   「すまん……正直サル(ノビッチ)の後半の影の薄さといったら……」 田辺   「ツッコミ役なのかボケ役なのか酷く曖昧なキャラだったために、       作者的にも使いどころが難しかったんだろうな……」 清水   「や、そりゃ出てたよ?出てたけど……       活躍らしい活躍なんてしてなかったしなぁ……」 岡田   「金目当てで付いてきたようなもんなのに、       桃さんやポチやオロロもいつの間にか金の亡者になってたから、       全員が全員キャラ被ってて使いどころどころじゃなかったんだろうな……。       主人公たちよりもサブキャラの方が映えてたっつーか」 刹那&豆村『………』 そ、そんなもんスか……。 確かにあの漫画、全員がボケキャラみたいなもんだからバランスは相当悪い。 今にして思えば随分と無茶な漫画だった。 面白かったけど。 アイルー『他に買いたいものはないのかニャ?だったらそろそろこっちは出発するニャ』 清水  「おや旅か?今度はどこに行くのさ」 豆村  「船で孤島まで。時の神殿に行くそうですわ」 田辺  「時の神殿ね……ゼクンドゥスとかが思いっきり居そうだな」 アイルー『時の神殿はとっても危険なところなのニャ。      外観を見る程度ならいいけど、神殿の中に入ったりしたら、      別の次元に飛ばされちゃうこともあるそうなのニャ』 清水  「ほほう……それは面白そうな」 アイルー『そこでは称号が勝手に書き換えられて、      そこに居る限りはずっとその称号になってるらしいのニャ。      ただしその称号になってると、      その別次元に生息する魔物を仲間に出来たりするらしいニャー』 田辺  「……それってさ。魔物使いとなにが違うんだ?」 アイルー『魔物一匹とだけ“契約”が出来るらしいのニャ。      契約を済ませれば、いつでも好きな時に召喚することが可能らしいんだニャ。      うーん……称号はなんていったっけニャー……』 ……それってもしかして─── 刹那  「……サマナー?」 アイルー『そう!それニャ!』 総員  『マジすか!?』 そ、それじゃあ……会話とかしたら『ナンダ、サマナーカ』とか言われたりするのか!? 『今後トモ、ヨロシク』とか言われるのか!? 岡田 「もうなんでもありだなヒロライン……」 刹那 「ところで仲間にした魔物は───」 原中生『仲間じゃない!仲魔だ!!』 刹那 「だ、だから仲間って言ってるじゃないすか」 原中生『違う!なにかが違う気がする!!貴様漢字間違ってるだろ!     女神転生シリーズの“なかま”の文字は“仲間”ではなく“仲魔”と書く!』 刹那 「あ───な、なるほど、そういう意味スか……」 原中生『───いや。解ってくれればいいんだ』 刹那 「………」 妙なところで徹底してるんだな……さすが彰利さんの級友。 清水 「ところで話は変わるけどさ。提督に会わんかったか?」 刹那 「えっと……たしか原中のリーダーさんだったっけ。     最後に会ったのは常闇の町でですよ。     あ、いや……あそこが闇に包まれてるわけじゃないから、常闇側の町か」 清水 「つーとエトノワール方面か。まだあそこらへんに居たんだな……しくった」 岡田 「ま、いいんじゃねぇの?確かに提督と一緒に居るといろいろ退屈しないけど、     俺達ゃ俺達の冒険を楽しんだほうが後々の話でネタになるし」 田辺 「そうそう。そんなわけで、まずは氷の聖堂に行ってみよう。     一応毛皮のマントも買ったことだし」 清水 「っていっても、報酬金が無ければ思いっきり買えなかった値段だよな」 岡田 「ありがとう王様……貴様がくれた5G$は、確かに俺達を救っている……」 刹那 「あ、金の呼び方変わるそうッスよ?」 原中生『なにぃ!?』 ……やっぱり知らなかったか。 俺達も今知ったくらいだからしょうがないけど。 原中生『で?どんな呼び方になるのだ』 豆村 「今現在では$ってことになってるらしいス」 清水 「デットか……思ったんだけどこの通貨ってデッドと間違えやすいよな」 岡田 「デッドじゃ死んでるよな」 田辺 「ちなみにお前らはどんな通貨がいいんだ?」 豆村 「ノーツ」 清水 「……ギャルゲーはほどほどにな」 豆村 「うおうさすが……一発で解るとは。でも一応ほら、あれもファンタジーだし」 岡田 「甘い……俺だったら素直に“ポッキリ”だ」 豆村 「ポッ……?なんすかその風俗っぽい呼称」 刹那 「一回5000ポッキリだよ〜ってか。お前少しはそっち側から脳を移動させろ」 清水 「若いなぁ」 岡田 「ポッキリってのは半熟英雄の通貨だ」 豆村 「〜〜〜……!!」 思い出したのか、カアアと顔を真っ赤にさせる豆村。 恥ずかしがるなら言うなっつーの。 田辺  「いやいや、やはりここはマッカだろ。サマナーネタも出てきたことだし」 アイルー『まあまあもういいニャ。ここで立ち話してても始まらないニャ。      そろそろ僕は出発するニャー。だから話はここまでニャ』 岡田  「おっとそりゃすまん。じゃーな小僧どもー。達者でこの乱世を生き延びろー」 刹那  「いや、それどういう激励っすか」 ともあれ出発。 といってもこの町から船に乗って孤島に行くだけなんだが。 刹那  「ところで師匠?船代は師匠が出してくれんですか?」 アイルー『出世払いニャ』 二人  『ひでぇ!!』 なんだか師匠が移動を語るたびに、 どんどんと極貧になっていってる気がする俺達なのでした……。 【ケース155:霧波川凍弥/スカシカシパンとアガリスクダケの法則】 ぺぺらぺっぺぺ〜♪ 志摩 『だっしゃぁーーーーーっ!!!』 戦闘が終わってみればレベルアップ。 とはいえ、一気に10も上がったりするので本気で驚いた。 このゲーム、高レベルプレイヤーが手伝っても基本的に経験値は減ったりしないらしい。 これはありがたい。 俺達もただ何もせずに立ってるわけじゃないから、 必死に戦ってレベルアップすればそりゃ嬉しい。 攻撃一度でも受ければ死にそうってくらいの状況で、全力で敵の攻撃を躱して攻撃する。 久しく忘れていた緊張感が俺の中に蘇った瞬間だった。 凍弥 『ゲームでは楽しんだけど、実体験だとここまで面白いんだな……』 浩介 『然り。デスクワークばかりだった身体や精神が伸び伸びと解放される思いぞ』 浩之 『つくづく然り。我の大木槌も血を求めて猛っておるわ』 佐古田『どういう木槌ッス』 浩之 『うむ実はな、佐古田好恵よ。この大木槌はヒル原木という、     虫や動物の亡骸から養分を啜って成長する木から作られたものでな』 浩介 『ブラザーよ。支給品に壮大なストーリーを加えるのは虚しくなるだけだぞ』 浩之 『なにを言うブラザーよ。その方が武器が強くなった気がするだろう』 佐古田『心の中でだけッス』 浩之 『やかましいわオックスベア!!』 佐古田『誰がッス!!』 斧を主流武器として扱う佐古田は、 いつの間にやらオックスベアというあだ名をつけられていた。 とはいってもオックスベアは斧なんぞ装備してないんだが、 志摩兄弟から見た斧を持った佐古田は、 ミノタウロスというよりはオックスベアだったらしい。 もちろんそう呼んでるのは志摩兄弟だけであり、 それだって頻繁に呼んでるわけじゃない。 椛  『でも、面白いですね。こうしてゲーム感覚で戦えるのも』 凍弥 『椛には辛いんじゃないか?元からあった能力が全部リセットされてるんじゃあ』 椛  『普通の女の子として凍弥と旅が出来るんです。望むところですよ』 そう言う椛の顔は確かに笑みだった。 ……やっぱり、生まれてからずっと“月の家系”として生きてきた人ってのは─── こういう普通の自分に憧れたりすることは少なからずあるんだろうな。 それが女の子だったら余計かもしれない。 彰利 『あーそこ。ラブコメらないように』 悠介 『気にすんなよ彰利。若いってないいことだ。     むしろパーティーに花があるみたいでいいじゃないか』 彰利 『だ、誰だてめぇ!!』 悠介さんと彰衛門はこんな感じである。 確かに悠介さんの豹変っぷりには凄まじいものがあり…… ニコニコ笑顔でさっきみたいなことを言うなんてこと、まずなかった。 それが彰衛門にとっては異常以外のなにものでもないんだろう。 彰利 『まあいい。とにかくこの調子でまずは戦闘に慣れてもらうヨ。     小僧はまあ前世の問題もあって、結構戦いには慣れてるかもしれんがネ。     他のやつらはそうもいかないだろうヨ』 悠介 『志摩兄弟と佐古田の前世も戦闘経験はあるさ。     志摩兄弟は平良平丸で、佐古田は喜兵衛だ』 佐古田『前世のことなんざ知らねーッス!!』 志摩 『然り!我らは我らである!』 彰利 『わーったわーった!もはや問答は埒もなし!悔いるより敵に集中なさい!』 佐古田『敵なんざ居ねぇッス』 彰利 『そうね』 悠介 『ホントそう』 彰衛門と悠介さんはなんだかニマ〜っと笑い合い、 手をバチィンと叩き合わせたのちにガッハッハと笑い始めた。 二人の間になにがあったのかは解らない。 けど───楽しそうだったから首はツッコまないことにした。 彰利 『ん〜じゃ、この調子でレベル安定させていくかぁ』 悠介 『オーケーリーダー』 彰利 『む、むぐぐ……あのさダーリン?リーダーっての痒いからやめない?』 悠介 『ダメネ、断る』 彰利 『(なんでカタコト?)いや、けどさ───     つーか“ダーリン”に反応しない!?だ、誰だてめぇ!!』 悠介 『晦悠介───探偵さ!』 彰利 『ウソおっしゃい!!貴様どっかの名探偵か!?     それともポッケにベビースターラーンメン詰めてるエセ探偵か!?』 悠介 『あっはっはっはっは!!そんな喩えじゃ誰にも解らんぞ彰利!!     つーかいい歳してポッケって───だぁっはっはっはっはっはっはっは!!!!』 彰利 『わ、笑うなぁーーーーーーっ!!!』 椛  『………』 凍弥 『………』 ああ……悠介さんがどんどんコワレてゆく。 気にしたら負けか?負けなのか? 彰利 『ギャアもうとにかく!』 悠介 『ど、どうしたポッケ!!』 彰利 『ポッケ言うな!!話進まんから黙ってなさい!     つーかなんで俺がこんなこと言ってんだ訳解らん!!     今までとまるで逆じゃねぇの!アカーーン!こいつありえへーーーん!!』 あ。彰衛門がコワレた。 椛  『お、おとうさん落ち着いて!』 彰利 『椛!パパのパパはパパじゃない!!』 椛  『え、えぇ!?言ってることが解らないよ!』 悠介 『よぉし凍弥!!次の得物探してブッ潰すぞー!』 凍弥 『うわちょっ───悠介さん!?なんでそんなハイなんですか!?』 悠介 『新たな冒険が俺達を呼んでいるからだ!耳を澄ませてみろ……聞こえるだろう?     俺達を呼ぶ冒険の声が……!!     ククク……冒険の野郎め、今ぞ今ぞと猛っておるわ……!!』 凍弥 『どんな毒電波受信してるんですか!』 悠介 『ピピピ電波だ!さぁ行こうぜリーダー!全ての責任は貴様にある!』 彰利 『え!?俺!?つーかほんとリーダー言われると痒いからやめようや!』 悠介 『ダメさ!!』 彰利 『悠介ぇええええっ!!!てめぇえええーーーーーっ!!!』 凍弥 『………』 二人が地界に帰ってからの十数年……いったいなにがあったんだろうなぁ。 そんなことを思わずにはいられない俺だった。 彰利 『大体キミね!感情が成長したからって豹変しすぎ───』 悠介 『おお敵発見!!彰利ミサイルァーーーーーッ!!!』 彰利 『え!?や、ちょ───ギャアーーーーーーッ!!!!』 ……ともかく。 普段受け止める側の人が暴走側に入ることほど、性質の悪いことってないんだと思う。 現状を見るだけでも十分すぎるけど。 彰利 『ええいもうこうなったら八つ当たりじゃーーーっ!!!     このモンスターめ!俺様のパンチに今こそ惚れろ!!』 悠介 『マグネットパワー・プラス!!』 彰利 『《バヂィッ!!》うわっちゃあーーーっ!!!     な、何スカこりゃ!腕が勝手に動く!?』 悠介 『フフフ……人間とは電気信号で動く生命体。……なっ?』 彰利 『なっ?じゃねぇーーーーーーっ!!!!     でもマグネットパワー・マイナス!!』 魔物 『ピュギィイイーーーーーッ!!!』 二人の間で魔物が浮き上がってゆく。 ていうか……もう何を見ても驚かない気がした。 それくらい、今の悠介さんはインパクトが強すぎた。 彰利&悠介『クロォーーース!ボンバァーーーッ!!!』  バゴシャーーーーンッ!!! 魔物 『ギョエェエーーーーーーッ!!!』 哀れ、魔物は二人のラリアットの挟み撃ちによって悶絶。 二人はさらに敵を上空へ放ると、二人して跳躍した。 彰利   『そおりゃあーーーっ!!!』 悠介   『キン肉マン!俺も加わらせてもらうぜ〜〜〜っ!!』 彰利&悠介『巌流島ドロ《ドゴシャア!!》ゲファーーーリ!!!』 だが人間の跳躍力なんてタカが知れてる。 二人は喋り終える間も無く地面に落下し、二人仲良く脇腹を強打していた。 彰利 『何をやっているのかネ!キミは!エ!?     せっかくワタシがお膳立てをしてやったというのに!!     キミは何だネ!?ワタシを馬鹿にしているのかネ!エ!?』 悠介 『超人じゃない限りあんなものが出来るものかネ!!     キミはその時点で最大のミスにワタシを巻き込んでいたのだヨ!!     これが侮辱じゃなくてなんだネ!?エ!?』 彰利 『ムキキーーー!!真似すんなーーーっ!!』 悠介 『まったく浅ましいネ!!真似はどっちだネ!!』 どっちもだと思う。 凍弥 『あーのー、悠介さんに彰衛門、そろそろ歩き出したほうがいいんじゃ───』 彰利 『なんだネ!?オマエまでワタシを馬鹿にしようというのかネ!!エ!?』 凍弥 『は、はは……はぁああ……』 結論。 収拾は付きそうになかった。 凍弥 『あーのー。本気で移動する気ないんですか?     このままじゃ陽が暮れちゃいますって』 悠介 『ああそれなら大丈夫だ。ところで凍弥よ。     執事服を脱いで獣人状態ってことは、今は誰も主人として決めてないってことだ』 凍弥 『え?あ、はあ……まあそれは。     ちゃんと説明読んだから何を言いたいのかは解りますけど』 悠介 『うむ。というわけで、     レベルも大分安定した頃だろうしパーティーを分けようと思うのだ』 凍弥 『………』 あ、あのー……なにが『というわけで』なのか全然解らないんですけどー……? おかしい……これは明らかにおかしいだろ。 悠介さんといえば、きっちりと話に前後を持つような人だった筈。 それが何故……?何故なのグレース。 凍弥 『分けるにしたって、どんな風に?』 悠介 『まあその前にだ。椛』 椛  『はい?なんでしょうかおじいさま』 悠介 『とりゃ』 ぴとっ。 彰利 『ムオ?……悠介?』 椛  『あの……おじいさま?』 悠介さんが椛を彰衛門の胸に押し付ける。 俺と彰衛門と椛は疑問の視線を投げかけるが、悠介さんはまあまあと笑うだけだ。 悠介 『組み合わせはこうだ。凍弥は志摩兄弟と佐古田と。     で、彰利が椛、俺、そして───』 ザシャア! 聖  「パァアアアパァアアア〜〜〜……!!?」 彰利 『キャアアアーーーーーーーッ!!!?』 悠介 『俺がtellで呼んでおいた聖だ』 異常なまでの殺気に振り返れば、そこに居るのはメル───じゃない、聖。 随分と大きくなったが、確かな面影がある。 まず間違いないだろう。 彰利 『わ、わざとだろっ!テメェわざとだろぉおーーーーーっ!!!』 悠介 『すまん彰利……お前には言っておかなきゃならないことがあるんだ……』 彰利 『オッ……な、なにかね急に改まって……』 悠介 『実は俺───原中なんだ!だからからかいもするし無茶もする!     グッドラック親友!!せめて強く生きろ!     俺はその様を近くで生暖かく見守ることにした!!』 彰利 『悠介ぇええええっ!!てめぇええええーーーーーーっ!!!』 ……そういうことらしい。 悠介さんは再び笑い出し、彰衛門はそんな悠介さんに何かを言おうとするが、 やがて近づいてきた聖と椛の悶着騒ぎに挟まれ、身動き取れなくなっていた。 浩介 『ふむ。提案の方は我は賛成である』 浩之 『我もである同志。年齢調整されているとはいえ、     目上の人物と一緒では思い切り動けぬわ』 凍弥 『それは俺も同じなんだけどさ』 佐古田『だったら納得するッス。     それともなにッス?“妻が恋しくて戦えなァい”とか言う気ッス?』 凍弥 『言わんわ!!』 浩介 『うむうむ。同志はちと“愛ラブ・子供”すぎなのだ。     子供が居ない場合は“愛ラブ・妻”になる。     そのままでは骨が抜けるだろう。だから変わるなら今ぞ』 浩之 『うむ。同志よ、この世界でくらい、妻も子も忘れよ。     我らはとっくに心の切り替えはできておるわ』 佐古田『アチキもッス』 夫は居ないけどな。 佐古田『……なにか言いたそうな顔ッスね』 凍弥 『なんでもないぞーぅ。貴様に夫が居ないことくらい知ってるなんて、     そんなことは思ってないぞーぅ』 佐古田『激思ってるじゃねぇッスか!!     というよりそんなことをムナミーに心配される覚えはねぇッス!!』 凍弥 『まあまあ落ち着け、か弱い漢女』 佐古田『……なにやら今、“おとめ”の部分に雄々しさを感じたッスが……?』 凍弥 『気の所為だ』 佐古田『なんか納得いかねぇッス……』 なにはともあれ。 俺たちと彰衛門たちのパーティーの組み合わせは決まった。 俺達の方は俺、志摩兄弟、佐古田。 彰衛門たちの方は彰衛門、悠介さん、椛、聖。 丁度四人ずつになったわけだ。 凍弥 『で……悠介さん。まずは弱い敵で経験積みたいんですけど。     ここらに俺達のレベルで丁度いいような弱い敵って居ますかね』 悠介 『あっはっはっはっは……あ、ああ……。     えっとな、オススメは三国付近だ。     城の近くのモンスターは弱く出来てるらしいから、     戦闘のコツを掴むには丁度いい』 凍弥 『なるほど……ここからだと近いのはエトノワールか』 志摩 『うむ!そうと決まれば同志よ!早速エトノワールまで全速前進!』 凍弥 『オーケイ!!じゃあ悠介さんに彰衛門に椛に聖!またどっかで会おう!』 彰利 『あ、こ、これ!去るなら椛をなんとかしてからにしなされ!!     じいやは貴様をそげな薄情者に育てた覚えは───聞けぇえーーーーっ!!!     待って!待ってぇええーーーーーーっ!!!!』 聖  「パパ!!今はわたしと話してるんだから他の人と話しちゃダメ!!」 椛  『おとうさん!!わたしとの話を無視しないでください!!』 悠介 『ふはははは!!せいぜい苦労するがいいさ親友!思い知れ!苦労人の苦労を!』 彰利 『うおお思わぬところで思わぬ反撃!?キミねぇ少しは助けようとか───』 聖  「パパ!!」 椛  『おとうさん!!』 彰利 『ギャアもう収拾つかねぇーーーーーーっ!!!』 ……そうして駆け出した俺は、 彰衛門のそんな絶叫を耳にしながら新たなる旅に出たのだった。 Next Menu back