───冒険の書32/おめでとう筋肉───
【ケース158:中井出博光/アッケラカーノ】 キラキラ…… 中井出「ぬお!?な、何事!?」 麻衣香「え───ちょ、夏子!?睦月!?───丘野くん!藍田くん!?」 ナギー『ど、どうしたのじゃ!何事なのじゃ!』 突如、俺と麻衣香とナギーを残したパーティーメンバー全員が死亡……!! 光に包まれ、消えていった……!! 中井出「こ、これは一体……?なにかのトラップか……?」 麻衣香「もしかして管理者側の方でトラブルがあったとか……?」 ナギー『な、なんじゃ?かんりしゃ?』 中井出「うむむ……いや、考えていても始まらん。ここは猛者どもの到着を待つべきだ。     やつらのことだ、すぐにここに駆けつけるだろう」 麻衣香「……そうだね。多分なにかのバグか、それともトラップだったのかもしれないし。     どちらにしろ光になって飛ばされたなら、近場の町にでも降りてると思うし」 ナギー『のう、なんの話じゃと聞いておるのじゃー。わしをのけ者にするでないー』 中井出「うむナギー。実は者ども総じて拾い食いしたものに当たってな。     今はちと事情があって、ログオーレンあたりに戻っていると思われる」 ナギー『なんじゃそうなのか?いやしいものよの。     ヒロミツと麻衣香は拾い食いしなかったのかの?』 麻衣香「博光……」 中井出「日頃のお返しくらいいいだろが……」 とまあそんなわけで。 比較的広場のようになっている洞窟の一端に腰を下ろし、猛者どもを待つことにした。 ───……。 ……。 ───ややあって、露明石に照らされた洞窟の奥から、 バタバタと走ってくる猛者どもの姿を確認。 中井出「These beginners(このヒヨッ子どもが)!!! It hangs until when(いつまでかかってやがる)!!!」 総員 『Sir(サー)!!YesSir(イェッサー)!!』 藍田 「しかし提督!先ほどのアレは原因不明の死亡!     我らも気づけば死に至っていたため、これは我らの責任ではないであります!」 中井出「うむ!言ってみたかっただけだから案ずることはない!!」 ナギー『……なんなのじゃ?今の掛け声は』 中井出「うむ実はなぁナギーよ。     我ら原中が使う号令、“イェアゲッドラックライクファイクミー”はな。     かつてのゲームであった“WARTRAN TROOPERS”というものの中、     テリー教官が新兵どもにかけていた声を耳で覚えただけのものなのだ」 ナギー『そ、そうなのか?』 中井出「うむ。かつてはそれでもいいということで、     散々とライクファイクミーで通していたんだがな。     ある時、よく聞いてみれば違うことに気づいたのだ。     だが既にライクファイクミーで定着していた我らは、     その言葉自体に“訳”が存在しないとしても号令として使い続けたのだ」 ナギー『とすると……さっきのよく解らない言葉が本当の号令なのかの?』 中井出「そう。解ってみればどうということも無し……。     テリー教官は訓練を始める度、準備の遅い新兵たちを叱っていたのだ。     “このヒヨッ子どもが!いつまでかかってやがる!”と」 藍田 「で、それに新兵たちは“はい教官”と叫んでるわけだな」 ナギー『ヒヨッ子とはなんじゃ?』 中井出「まあ……初心者、新米……と、そんな感じだろうな」 ナギー『なるほどの、理解できたのじゃ』 ……それはそれとして、思い切り話が逸れたな。 中井出  「話を戻そう。身体の方はなんともないのか?」 藍田&丘野『平気であります!サー!』 夏子   「ただほんとに、       戦闘不能状態になって町まで戻されたって……そんな感じみたい」 麻衣香  「……なんなんだろうね」 と、麻衣香が小さくこぼした時だった。  じゃーんちゃかーちゃーちゃーちゃちゃーん♪ 中井出「むっ!?」 藍田 「お……これは」 丘野 「手紙でござるな?」 どうやらナビに手紙が届いた模様。 俺達はそれぞれナビを開き、物珍しそうにナギーに見つめられる中で手紙を開いた。 それによると─── 殊戸瀬「……空界で大事故が起きたため、     騒動にならない内に千年の寿命を汝らに溶け込ませるものとする。     戦闘不能状態になったのはその後遺症だと思え……」 ……とのこと。 中井出「なるほど、千年の寿命を埋め込まれたのか」 麻衣香「あ、あはは……あれすっごく苦しいからね……。なんていうかこう……     身体構造が一から書き換えられていってるような、そんな感じ」 俺も人体実験まがいに埋め込まれたが、あれは本気で苦しい。 そりゃ急にやられれば、精神が負けを認めて死亡確認状態になったりするだろう。 とまあそれは済んだこととして。 丘野 「空界での大事故ってなんでござろうな」 それだ。 いったい何が起きたのか─── 地界と違って、 空界で大事故っていったらちょっとシャレにならないくらいの規模って感じがする。 殊戸瀬「続きがあるみたい。……空界人男性のほぼ全てが全滅、だって」 総員 『メルヘンか……』 いきなり納得できてしまった。 あー、そーかー、メルヘンが残ってたかー……。 考えてみりゃあベヒーモスとかと交配したヤツがドラゴンとかと交配して、 そりゃもう大変なメルヘンが誕生してたんだったよなぁ。 藍田 「どうするんだろうな、これ……。     つーかこんな状態なのに俺達に寿命を埋め込むって……」 夏子 「も、もしかして……」 丘野 「せ、拙者たちに退治を依頼……!?」 殊戸瀬「なお、メルヘンたちは既に殲滅済みなので気にする必要は皆無である」 総員 『それ早く言いましょうね!?どうしてわざわざ溜めるの!!』 殊戸瀬「少しずつファンタジーに慣れてきた心に潤いを」 中井出「い、言うほど慣れてないやい!!未だこの世は乱世よ!!」(動揺中) 丘野 「でも、空界人男性がほぼ全滅……」 藍田 「確かに大事件だよな」 麻衣香「生き返らせたりするのかな」 夏子 「んー……わたしはしないと思うけど」 麻衣香「え?なんで?」 夏子 「や、なんとなく意外性を」 まあ騒ぎは置いておくとしても、俺も生き返らせるってことはないと思う。 ましてそれが、精霊達がする行動だっていうなら絶対に。 精霊達にしてみれば人間が居なくなるのはむしろありがたいことだと思うし。 薄情だと思うだろうけど、 精霊達にしてみれば“削る者”が居なくなるのは真実ありがたいことだ。 俺も空界生活は結構長い。 だから、空界の連中がどんなことの上で、 いろいろな研究を進めてきたのかくらい知ってる。 あれは言わば削岩機だ。 自然を破壊して、その上で理論を固めてゆくような。 犠牲無しに上に上がれない生き物を、精霊達は好き好んで蘇らせたりはしないだろう。 とりあえずどっかの馬鹿貴族とか、 エラぶってるだけの馬鹿どもはほっといてもいいだろう。 ただ心配なのはカルナだな。 無事だといいんだけど。 あいつは空界には必要な男だ。 自分勝手な愚行の先に捨てられた子供を預かる身…… あいつが居なくなったら子供たちはそれこそ路頭に迷うだろう。 中井出「手紙に無事な男性の名簿でも書いてないもんかな」 殊戸瀬「無かった」 中井出「そ、そか」 即答だった。 ナギー『のうヒロミツ、先ほどからなにを話しておるのじゃー……。     わしをのけものにするでないぞー……』 中井出「のけ者にしてたわけじゃないんだけど。     まあいいや、ここで気にしてたって始まらん」 丘野 「……それもそうでござるな。とりあえず冥福くらいは祈っておくでござるよ」 藍田 「だな」 夏子 「うん」 合掌。 メルヘンに狙われたことこそが悪夢だと思って諦めてくれ。  じゃーんちゃかーちゃーちゃーちゃちゃーん♪ 総員 『…………』 また来た。 合掌中に届けられてもな、と思いつつも開く───と。 麻衣香「えと……なお?夫の死や恋人の死、     家族の死や思い人の死によって……自殺する女性が多発!?     空界の人口は激減……した……」 総員 『………』 もはや言葉もなかった。 ───……。 ……。 じゃんじゃがじゃんじゃんじゃんがじゃんじゃんじゃんじゃがじゃんじゃんじゃーん!! 中井出「ライトッタァーーーン!!レフトッタァーーーン!!     クルッと回ってボンパッパー!!」 ナギー『ぼんぱっぱー!』 中井出「ぼんぱらぱらぱらボンパッパー!!」 ナギー『ぱっぱー!!』 さて……状況整理中、 話にも混ざれずかまってももらえなかったナギーがイジケ始めたところで、 俺が無理矢理ダンスに誘うハメに。 踊りはいたって適当。 社交ダンスなんざ知らないし、 そもそもダンスという名前を聞いた時点でもう別次元が想像される。 殊戸瀬「それじゃあ頭が暖かくなってしまった提督は置いといて」 中井出「暖かくなってないよ!ていうか温度が無けりゃ死んじゃうでしょ!?     頑張って立ち回ってる人を可哀相な感じに言うのやめようよ!!」 ナギー『楽しいのじゃー!ヒロミツ、もっとやるのじゃ!』 中井出「ああもうマジで泣くぞ俺……」 クルクル回転しながら両手で持ち上げたナギーの腹を手の平に乗せて掲げるような感じで、 さらにクルクルと回転する。 重力は回転のために多少は左右に分散されるため思うほど重くないし、 そもそもナギーは軽かった。 中井出&ナギー『ボンパラパラパラボンパッパー!!』 つーかもうダンスですらなかった。 丘野 「えーと、整理するとこうか?     空界では晦や精霊が居なくなった時を狙ったメルヘンの手によって、     空界人男性のほぼ全員が襲われて死亡。     けどそれによって増殖したメルヘンは既に……     多分スピリットオブノートあたりの手によって殲滅。     “人を生き返らせる”なんて能力が無かった空界では、     次々と想い人の死に嘆いて自殺する女性も多発。現在人口は激減、と……」 殊戸瀬「追加して届けられた手紙によれば、     そんな時だっていうのに地位に目が眩んだ女性騎士団が戦争起こして、     この大半が死滅。なお、リアナ、リオナの両名は、     このたわけた戦争には参加しなかったとのこと」 総員 『馬鹿だねぇ……』 そんな時に地位がどうのなんて言ってりゃ世話無い。 そうして見てみれば、マグベストル姉妹は賢明だ。  だんたかたんたかたんたかたんたか・ダンタカタンタカタンタカタンタンタンッ♪ 中井出&ナギー『オ・レイ!!』 そして俺は馬鹿だった。 丘野 「おおお……!美しいフィニッシュが決まったでござるな!!」 藍田 「さすがだぜ提督……!暗い気分もなんつーか吹き飛んだ!!」 殊戸瀬「それじゃあ先に進みましょう」 中井出「ひでえ!!」 なにかこうフォローっぽい言葉があってもいいんじゃないデスカ殊戸瀬サン!! ……まあいいんだけどさ。 中井出「うむよし!それではこれより大地の洞穴の探索を再開するものとする!!     総員!暗い雰囲気の廃棄は済んだか!」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「よし!ならば今は空界のことは忘れてこの乱世を楽しむこととする!!     イェア・ゲッドラァック!ライク・ファイクミー!!」 ザザッ!! 総員 『Sir(サー)!!YesSir(イェッサー)!!』 もはや誰にも俺達を止めることは出来ん! そのくらいの意思をもっと慎重かつダイナミックに進軍を進めるものとする!! ナギー『やったのじゃ!一緒に言えたのじゃー!』 とまあそんなわけで。 敬礼と魂の叫びを一緒に出来たことを身体全体で表現してるナギーを連れ、 一行はさらに奥へ奥へと歩みを進めていったのだった。 【ケース159:中井出博光(再)/成分解析 on WEB“中井出提督”】 ナギー『いけどもいけども岸壁ばかり……長い洞穴よの』 丘野 「大地の洞穴という立派な名前がついてるくらいでござるからな。     ナギーどの、窪みには気をつけめされよ。     体力がスペランカーならば、少しの段差も絶命に繋がるでござる」 ナギー『なにをワケの解らぬことを言っておるのじゃ……?』 藍田 「しっかし随分降りるよな。どこまで続いてんだこの坂」 夏子 「自然に出来た坂って下りるのが難しいね」 麻衣香「おまけに長いし」 中井出「コケたりしたら痛そうだな……気をつけよう」 殊戸瀬「大丈夫。もし提督が先頭で転んでも、     わたしたちはあなたの生身を踏み超えてゆくわ」 中井出「屍でも無い人を越えてゆくのはやめようよ!!痛いだけだよそれ!!     ていうか転んだ人に手を差し伸べないで踏みつけたら異常者だよそれ!!     ……え!?そういうのが好きなんでしょ!?好きじゃないよ!!     エロ好きだった時でもそんな嗜好無かったよ!!」 ナギー『静まるのじゃヒロミツ。この洞窟で叫ばれると響くのじゃ。     ───……?なんじゃ?これは』 ガコッ、コォン……!! ナギー『?』 丘野 「いやぁ……しかし本当に長いでござるな」 藍田 「疲れないのがありがたいけど、意識するだけでも筋肉痛になりそうだ」 夏子 「ほんと……」 中井出「気をつけろー?今まで“通るための仕掛け”しか無かったけど、     そろそろトラップっぽい仕掛けがあってもおかしくないと思う。     無闇矢鱈とそこらへんのものをいじったりしないように」 総員 『ラーサー』 ナギー『……、………、………』 麻衣香「……?ナギちゃん?どうしたの、なんか汗がダラダラ出てるけど」 ナギー『し、知らぬぞ?わしは知らぬ!』 麻衣香「?」  ドゴォンッ!! 中井出「どわっと!!な、なんだぁっ!?」 丘野 「まるでなにかが落下したような衝撃……!これは……?」 夏子 「ひえっ!?……え、あ、あはは……ね、ねぇ……ちょっとぉおおお!!」 丘野 「むっ!?どうしたでござる木村殿!……よもや敵襲!?敵襲でござるか木村殿!」 藍田 「どうしたんだ夏オワァーーーーーッ!!!」 サブタイトル:振り向けばそこに。 藍田二等の叫びに促されるように振り向いた我らの目に映ったもの……それは───!! 総員 『がっ……岩石球だぁーーーーーっ!!!!!』 そう、洞窟やトラップダンジョンで毎度おなじみのあの巨大な岩の玉!! 坂の上から転がってきては、冒険者を追い詰めるという“あの”トラップである!! もちろん我らは坂になっている道を大激走!! 中井出「くっ……!!まさかこんなところでトラップに遭うとはっ……!!」 藍田 「何者かが俺達の侵入を拒んでるに違いないっ……!!」 丘野 「それは恐らく暗躍する意思……!!レジテント・オブ・サン!!」 夏子 「だが我らは負けないでしょう……!!」 麻衣香「何故ならば、トラップに打ち勝ってこそ冒険者……!!」 殊戸瀬「どんなトラップでも受けて立つわ……!!」 ナギー『……のう。何故このような状況だというのに嬉しそうなんじゃ?』 総員 『原中だからだ!!』 ああもう最高!! 晦の記憶の映像の中で見てからずっと、一度は体験したいって思ってた感動が今まさに!! 俺はナギーを抱え、 それこそ心ドキドキ胸ワクワク、一歩違えりゃ即絶命の状況に酔いしれていた。  ───とまあ、それがほんの数分前の話である。 で、現在。  ドゴォンドゴォンドゴォンドゴォン!!ドゴゴゴゴゴゴ!!!! ところどころの窪みや段差で揺れながら転がってくる岩石! 襲い掛かる緊張感!!そして─── 総員 『はっ……速ぇえーーーーーーーっ!!!!』 あまりに速すぎる旋回速度!! 岩石は既にすぐ後ろまで来ていて、このままでは絶命必死だった!! 中井出「ステータス振り分け───オォーーーーーーンッ!!!」 総員 『サーイェッサー!!』 緊張感はそりゃ大事!だがここで潰れてしまっては意味が無い!! 殊戸瀬「提督!」 中井出「むっ!?どうした殊戸瀬二等!なにぞ策でも!?」 殊戸瀬「ええ!あの巨大な岩玉に乗ってイナバウアーをして!!」 中井出「やらないよ!!そんなことしたら潰れるだけだよ!!     イ、イモムシ野郎の冒険はフィクションなの!ホントにやったら死ぬの!解る!?     終わり方の画面がNHK教育テレビっぽくても死ぬもんは死ぬんだってば!!」 殊戸瀬「……42%が明太子のくせに」 中井出「何が!?」 明太……え? 俺、42%が明太子だったの!? ナギー『ヒロミツは明太子じゃったのか!?』 中井出「ち、違うよ!?ボク人間だもん!!明太子じゃないもん!!」 丘野 「ああっ!提督殿が壊れたでござる!!」 ナギー『ところで明太子ってなんじゃ?』 中井出「なんでもないから忘れなさい!!」 つーかどこまで続くんだこの坂!!いくらなんでも長すぎ───はうあ!! 藍田 「メ、メーデー!!提督殿に報告いたします!     目の前に壁───つーか行き止まりが!!」 殊戸瀬「て、提督!岩がもうすぐ後ろに!今こそ───」 中井出「イナバウアーならやりませんよ!?」 殊戸瀬「……チッ」 中井出「ちょ、殊戸瀬!?キミ今なんか大変失礼な反応しなかった!?」 麻衣香「ってそうこうしてる間に岩がぁあああっ!!!!」 夏子 「任せて!おいでませ!百鬼夜行の皆さん!!“縁の下の11人(イレブンブラックチルドレン)”!!」 木村二等のネクロマンシーが発動!! 地面から次々と骨が現れ、現れては潰されてゆく!! 麻衣香「わぁあ!!だめだーーーっ!!!」 ゴシャシャシャシャシャシャ……ゴ、ゴシャ…… 麻衣香「……あれ?」 で、気づいてみれば岩玉は止まっていた。 何事かと見てみれば……なんのことはない。 砕けた骨が岩と地面の間に挟まり、 岩玉のてっぺんが天井につっかえて動かなくなっていたのだ。 だが砕けた骨はやがて塵となってゆく……!! 中井出「ホワッ!?い、いかん!すぐに先へ進む道を探すのだ!!」 総員 『イ、イェッサー!!』 タイムリミットはものの数秒! これだけ巨大な岩玉なら、少し転がるだけでも我らを潰すこと確実!! ならば脱出するほか無し!! 中井出「よしナギーよ!どこか怪しい場所はあるか!?」 ナギー『う、うむう……!天井じゃ!』 丘野 「ぬ!?おお!確かに妙なデッパリがあるでござるな!しからば!!」 丘野二等が地面にあった石を投擲し、デッパリに衝撃を与える! すると───ゴコッ!!ズゴゴゴゴゴゴゴ……!! 総員 『オワッ!?』 なんと!左右の壁までもがこちらへ向けて動く始末!! このままでは圧殺必死!? 丘野 「あわわヤバイでござる!!     こうなったら怪しいものを手当たりしだい発動させるでござるよ!!」 藍田 「よ、よし───オッ!     丁度いいスイッチ発見!!我が祖国に栄光あれぇーーーっ!!!」 藍田二等がスイッチのように飛び出たデッパリを拳の横で叩き殴る!! すると───ゴコッ!!ウゴゴゴゴゴ……!! 中井出「ヒ、ヒイ!!今度は天井が降りてきた!!」 夏子 「どどどうするの《ガコン!》……ひえっ!?」 とその時、後退りした木村二等が背中で仕掛けを発動させた! ボタタタタタ!!! 麻衣香「ひきゃああああああっ!!!?ヘ、ヘビッ!?蛇蛇蛇ぃいいいいいっ!!!!」 今度は毒蛇地獄だった。 殊戸瀬「大丈夫、落ち着くのよ麻衣香。襲い掛かる蛇は全て提督が噛まれてくれるわ」 中井出「噛まれるだけ!?それじゃあただの無駄死にだよ!!     ウソでもいいから“退治してくれるわ”とか言おうよ!!」 殊戸瀬「提督が退治されてくれるわ」 中井出「ちょ、なんでどうあっても俺が死ぬの!!     退治されてくれるって、それじゃまるで願われてるみたいだよ!!」 丘野 「というか今さら疑問なんでござるが、     こういう蛇ってよく閉じ込められた状態でスタンバッてて死なないでござるよな」 夏子 「そんな無駄に納得出来る無駄知識はいいよぅ!!」 殊戸瀬「………《カチッ》」 ガッ───コォンッ!! 総員 『……あれ?』 全ての仕掛けが止まった。 岩玉の方も、少し離れた天井からデッパリが降りたために、 それがつっかえ棒になる感じで止まり─── 正面の壁がゴリゴリと地面に埋まるように沈んでゆくと、その先に大きな空洞が。 ……つーか。 中井出「殊戸瀬二等……仕掛けがあったんならすぐに押してくれ頼むから……」 殊戸瀬「提督の影に隠れてて見えなかったの」 中井出「え……なんだそうだったのか───     ってさっきの仕掛けって俺の反対側にあったんですけど」 丘野 「どうしたでござるかー!?早くしないと置いていくでござるよー!」 殊戸瀬「うん、今行く」 中井出「無視!?」 殊戸瀬「……人生楽しく。刺激が無い冒険なんてつまらないだけだわ」 中井出「あー……そりゃ同感だけどさ」 殊戸瀬「それを教えてくれたのは原中だから、わたしはその事実を大事にしたいだけ」 中井出「あのー、それで俺が毎回犠牲になるのはどうかと」 殊戸瀬は俺の返答にはクスリと笑うだけで、 特にのちを語ることも無く丘野二等のもとへ駆けていった。 ……まあ、いいか。 なんだかんだで楽しくやってるのは確かだし。 ナギー『どうしたのじゃヒロミツ、ボーっとして』 中井出「んー?なーんでーもなーい」 なんとはなしにナギーを抱きかかえ、そのまま肩車をして走り出した。 広い空洞は高さも結構あり、 天井なんて遙か先といった感じなので、肩車くらい余裕である。 ナギー『ん……のうヒロミツ。あの天井にある亀裂……大きさといい、見覚えがないかの』 中井出「ウヌ?どれだ?……って、あれか」 丘野 「言われてみれば……といっても亀裂なんて、     渡るのに苦労したアレくらいでござろう」 藍田 「……え?つーことは?」 夏子 「……あの亀裂の下がここだった……ってこと?」 殊戸瀬「だから飛び降りるの?って訊いたのに」 中井出「どちらにせよこの高さじゃ死ぬわ!!」 見上げる天井のそこかしこには、呆れるくらいに巨大な露明石が点在していた。 それはまるでこの部屋自体を明るくさせるために存在するようで───  ボゴッ!ボゴゴゴゴッ!!! 中井出「とわっ!?な、なんだ!?」 丘野 「地面に───地面になにか居るでござる!!」 夏子 「えぇっ!?この硬い地面に!?     ていうかこれ地面っていうよりはほとんど石じゃない!」 と───木村二等が言った、まさにその時だった!!  ゴゴッ───ゴバァンッ!! 地鳴りと破壊音と同時に、地面から何かが飛び出してきたのだ!! そしてそいつは我らの前の中空に浮くと、 ???『の〜〜〜〜ん!!』 という、ハイパーレストラン第一話の店長のような声を出したのだ!! 総員 『おのれ何奴!?』 もちろん怪しさ抜群である!! 我らは瞬時に戦闘体勢を取り、目の前の物体を睨んだ!! ???『オイラ、ノームだの〜ん。大地の精霊やってるの〜ん』 総員 『ウソつけ!!』 ノーム『即答はひどいの〜〜〜ん。でも退屈してたから許してあげるの〜〜〜ん。     そんなわけで、ここにはなにしに来たの〜〜〜ん?』 総員 『………』 話のテンポが合わない。 即座に我らはそう感じた。 なにより話すのがとんでもなく遅い。 中井出「さ、さあ藍田二等」 藍田 「あ、ああ。その、大地の宝玉を貰いに来た!」 ノーム『いいよ〜〜ん、あげるよ〜〜〜ん』 藍田 「え!?そんな簡単に!?いいの!?」 ノーム『ただし〜〜〜、ボクを倒せたらだの〜〜〜ん』 藍田 「なにぃ!?一度くれると言ったものに対して条件を出すなど……!!     てめぇの血は何味だぁーーーーーーっ!!!!」 ノーム『ミラクルフルーツを使わないと飲めないくらいに酸っぱいんだの〜〜〜ん』 中井出「そうなん!?」 注:ミラクルフルーツとは酸っぱいものを甘く感じさせる、小さな実のこと。   種を取って舌になすりつけるように2〜3分転がすと、   レモンだろうが酢だろうが甘く感じることが出来る。 ノーム『それじゃあいくよ〜〜〜ん。     ボクに勝てたら〜〜、宝玉はちゃ〜〜んとあげるよ〜〜ん』 中井出「死ねぇええええええっ!!!!!」 ノーム『の、ののっ!?』  ゴバァンッガァッ!!! ノーム『の〜〜〜ん!!』 中井出「っ〜〜〜……!!かってぇえええええっ!!!」 炸裂爆弾パチキが弾き返される思い!! つーか硬い!!どういう石頭だコイツ!! 見かけはムーミンが進化したようなカタチのくせに!! ナギ−『ヒ、ヒロミツ!戦闘開始か!?』 中井出「うむそうだ!存分に吟遊詩人の力を披露されませい!!」 ナギー『う、うむ!すーは、すーは……うん。     Es kann gehen,───あ、う……こ、これヒロミツ!!     あまりジロジロ見るでない!恥ずかしいじゃろ!!』 中井出「恥ずかしがってる場合ではなぁーーーい!!さあ歌え!!」 ナギー『う、うぅう……よ、よし、やってくれようぞ……!!     とくと見るがいい!わしの勇姿を!     ───こ、言葉のアヤじゃ!こ、これっ!見るな!見るでない!!』 顔を真っ赤にさせながら狼狽えるナギー。 そうこうしてる間にノームの攻撃は始まり、 我らはナギーを庇いながらもひとまず様子見に出た。 ノーム『あれ〜〜〜?なぁんでドリアードが人間たちと一緒にいるのかの〜〜〜ん?     どういうことだの〜〜〜〜ん?』 ナギー『だ、黙るのじゃ!ゆくぞ皆の者!ノームごときに遅れを取るでない!     Es kann gehen,bek?mpfen Sie Person.     Es gibt Hoffnung in die Weise, durch die Sie fortschreiten.     Haben wir Mut, und Fortschritt, auch wenn Sie eine Mauer trafen.』 付いて来た理由が“遊びたかったから”じゃあ格好が付かないと思ったからか、 ナギーは恥ずかしさを押しのけ、やがて歌いだした。 するとどうだろう。 我らの体を赤い光が包み、身体に力が漲ってくるではないか。 中井出「おお〜〜〜っ!こ、これは〜〜〜っ!!」 丘野 「か、からだに力が漲ってくるぜ〜〜〜っ!!」 藍田 「これならばどんな悪行超人にも負けやしねぇ〜〜〜っ!!」 ナギー『妙な喋り方しておる場合か!さっさと戦うのじゃ!』 中井出「よっしゃあ任せろ!!とぉおおおりゃぁああああっ!!!」 丘野 「生分身-空蝉-!!」 藍田 「ナギーは空中で安全に歌っててくれ!     ッシャア!!永続アビリティだからこのままシュゥーーーート!!」 ゴバァンッ!! ノーム『のーーーん!!?』 瞬時に駆けた藍田二等がノームの顔面に鋭いシュート!! だが少し怯んだだけで、すぐに体勢を立て直す。 殊戸瀬「妙技-連突-」 そこへ殊戸瀬二等が使い始めたばかりの槍の連撃!! だがスキル不足の所為か、思うようにダメージが通らない。 でもスキルはしっかり上がるようなので、 懲りずに妙技アビリティを駆使したままとことん連撃を加えまくっている。 ノーム『の〜〜〜ん!しつこいんだの〜〜〜ん!!』 殊戸瀬「───!」 もちろんノームもやられっぱなしなわけがない。 チクチクと槍で攻撃をする殊戸瀬二等に向かい、大きな鼻を振り回して攻撃を加える!! 丘野 「ウォーーーリャ!!分身魔球ゥーーーーッ!!!」 ノーム『のん!?』 と、そこへ横から丘野二等が分身魔球で車輪の刃を投擲!! まるで独眼鉄の大円盤のような武器が、分裂してノームを襲った!!  ゴスザスゴスゴスゾス!! ノーム『のーーーん!!痛いんだなぁーーーーっ!!』 中井出「オラやっちめぇーーーーっ!!!」 総員 『Sir(サー)!!YesSir(イェッサー)!!』 集団私刑開始。 相手が一体なんだから当然だが、それぞれがそれぞれを庇いながら一体をボコる。 しかし敵もまた精霊ってこともあり、一筋縄ではいかないのも当然だった。 麻衣香「唸れ烈風!大気の刃よ、切り刻め!“タービュランス”!!」  コキィンッ♪ズバシュシュシュシュシュシュ!! ノーム『のーーーん!!』 丘野 「攻撃する度に“のーーん”って五月蝿いでござるよ!!」 風の刃に切り刻まれているノームへ、さらに丘野二等が投げる投げる!! 反撃を受けても現れるのは“ミス”の文字だけで、 丘野二等は全然全くダメージを受けていなかった。 ノーム『ちょ、ちょこざいなんだなぁ〜〜〜っ!!     大地の咆哮!其は怒れる地竜の双牙!“グランドダッシャー”!!』 ゴコッ─── 総員 『ういぃっ!?』 地面が……高鳴る!!波打つ!! 砕けた岩盤が津波みたいに吹き飛んでくる!! 中井出「ちょッッ……!!待ァアアッ!!───おわぁあーーーーーーっ!!!!」 ゴガガガガガガァァアァアッ!!!! 総員 『ギャアーーーーーッ!!!!』 ノームを中心に放たれた大地の咆哮は、 それこそ空中以外に死角無しといった感じに我らを巻き込んだ。 そのダメージはさすがとしか言えないものであり───だが。 声  「“(ブロ)───」 ノーム『のん!?』 藍田 「焼き(シェット)ォッ”!!」  ドゴォッッシャァアアアアアンッ!!!! ノーム『のぎょぉおおおおおむ!!?』 既に跳躍していた藍田二等には通用せず、そのまま回転を加えた一足刀を叩き落とした!! ウハー……相変わらずの強さ。 大地の精霊が大地にクレーター作るほどの威力だ。 ノーム『のッ……ののののののーーーん!!怒ったんだのーーーん!!』 藍田 「ど、おぉわっ!!?」 しかしそれでも致命傷には程遠かったらしい。 ノームは頭の上の藍田二等を振り落とすと、地面にモゴモゴと潜っていった。 麻衣香「優しき癒しの風よ……“ヒールウィンド”」 当然我らはその内に回復。 ドリアードの加護もあってか、それはすぐに終了した───と安心した途端!!  ボォッゴォオオオオオンッ!!!! 総員 『うひぃえぇえっ!!?』 一箇所に集まっていた我らの足元の地盤が突如炸裂!! 俺達は高い高い中空に弾き飛ばされ、空を掻くこととなった。 って───ンな無茶な───!! ノーム『このまま落下して潰れるがいいの〜〜〜ん!!     下は砕けた岩盤でいっぱいだのん!そのまま落ちれば大ダメージ必死だのん!!』 相当勢いを付けたのだろう。 大地から同じ高さくらいに飛び上がってきたノームが、俺達を見て笑う。 ───が。 藍田 「ふう……だったら柔らかいクッションが必要だな。     時にお前───頭は固いが身体は柔らかそうだ───決定」 ノーム『の、のん!?』 藍田 「“目”(ウイユ)!!」 ゴシャア!! ノーム『のぎゅっ!?』 藍田 「“鼻”()!!」 ゴチャア!! ノーム『のがっ!?』 藍田 「“頬”(ジュー)“口”(ブージュ)“歯”(ダン)“顎”(マントン)“整形(バラージュ)ショットォッ”!!」 メキャゴシャボギバガァッ!! バパパパパパパパパパパパァンッ!!!! ノーム『のぉーーーん!!!』 宣言する通りの箇所を的確に蹴り、さらに高速蹴りで次々と蹴り打つ!! 藍田 「“三点───切分”(デクパージュ)!!」  ドドドォンッ!! ノーム『のッ……!!』 そしてトドメとばかりに足刀三弾で ノームの首、胸、腰あたりを打ち抜き、地面に向けて蹴り弾くと─── 藍田 「“串焼き(ブロシェット)ォーーーッ”!!!!」  ゴバゴォッシャァアアアアアアンッ!!!! ノーム『…………!!!』 ノームの着地とほぼ同時に、再び一本足を串に見立てるが如き蹴り技で大地に叩きつけた。 そんな光景を見てる間に俺達も落下し、中々に大きいノームの身体へと次々と着陸した。 中井出「あー……おーい、ノーム〜……?生きてるか〜……?」 ツイツイと突いてみるが、胃液のようなものを吐き出した状態のまま痙攣するのみだった。 ああ、だめだ、完全にオチてる。 そりゃそうだよなぁ、柔らかい腹を大地に串刺しされちゃあ吐くよなぁ。 しかも落下とほぼ同時なら衝撃も素直に通ったことだろう。 ……敵ながら同情する。  ぺぺらぺっぺぺ〜♪ 藍田 「オッ……レベルア〜ップ」 そしてどうやらやっぱり戦闘終了した様子。 しっかりと経験値をもらった我らは、みんな仲良くレベルアップを果たしていた。 ナギー『ど、どうじゃ?わしは役に立ってたか?立ってたであろっ?なぁっ』 中井出「おうもちろんだナギーよ。これからもこの調子で歌を歌っておくれでないかい」 ナギー『任せるのじゃ!』 ストンと降りてきたナギーは、それはもう尻尾を千切らんほどに喜ぶ犬のようだった。 でもな……今はまず、ちゃんと宝玉が貰えるかどうかだろ。 中井出「……どうしようか、コレ」 殊戸瀬「起こす」 ゾグシュ。 ノーム『痛いんだなぁーーーーっ!!!』 あ、起きた……まあ、尻に槍刺されればそりゃ起きるか。 ノーム『な、なんなんだのん!?……あれ?』 ガバリと起き上がったノームはあたりをキョロキョロと見渡し、 俺達を見ると……ポカンとした。 藍田 「さあ……約束通り宝玉を渡しなさい」 一方の藍田二等は何故かターちゃんのような丁寧な口調で宝玉を欲した。 それに対してノームは─── ノーム『いやだの〜〜〜ん。だってまだ負けてないの〜〜〜ん』 己の敗北への絶対拒否を行ったッッ!! 再戦開始ッッ!! 藍田 「“整形(バラージュ)ショット”!!!」 ドパラパパパパパパパパァンッ!!!! ノーム『のぶおぉおおおおっ!!!!』 で、再戦直後に藍田二等の蹴りにボコボコにされてゆくノーム。 どうやら腹の痛みが引いていたわけではないらしく、 思うように動けずにホントボコボコだった。 ノーム『の……のがが……』 藍田 「……まだやるかい」 ノーム『げ……元気イッパイ……だぜ……』  バガァンッ!! ノーム『ノブッ!!』 何故かスペックの真似をしていたノームの鼻っ柱が蹴り付けられた。 アー……ありゃ痛い。 藍田 「まだやるかい」 ノーム『ま、負けてないんだな……!ボクが負けるわけがないんだな……!     ボクは精霊ノームだの〜〜〜ん!!!!』 ───ゴキィンッ!! 総員 『───!?』 周囲の気配が凍った。 薄っすらと暗転した景色に、まるで肌に直接冷気が通ったかのような寒気が走る。 ノーム『来るの〜〜〜ん!!ボクのかわいいしもべたち〜〜〜〜っ!!』 ゴッ……ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!! 中井出「ゲッ───なにか来るぞ!ちっこいのがいっぱい!!」 ナギー『いかん秘奥義じゃ!!避けるかガードに徹するのじゃ!!』 総員 『なっ───なんだってぇーーーーっ!!?』 秘奥義と来たわこの精霊め!! まさかこんなとっておきを取っておいたとは!さすがとっておき!! ノーム『クレイアイドルの攻撃力はとても小さいの〜ん!     でもこれだけの数に、一度ずつとはいえ攻撃されれば無事では済まないの〜ん!』 総員 『ギャ、ギャアーーーーーーッ!!!!』 それはまさにノームの言う通りだった。 ちっこい土の人形みたいなクレイアイドルは、 俺達をポコポコと殴ったり頭突きしたりととにかくしょぼい攻撃を加えた。 その全てが1ダメージだが、問題はその数にあった。 ───やがてクレイアイドルの波が消えると───俺達は既に瀕死状態にあった。 中井出「あぁ……!くそ……!なんだってんだ……!」 ノーム『の〜〜んののののの!!ざまぁないんだなぁ〜〜!!     ボクを甘く見るからこんなことになるんだなぁ〜!!』 ゴォッキィン!! ノーム『の〜ん?なんなんだの〜〜ん?』 中井出「………!」 背水スキルが発動した。 だが今の状況じゃあ意味が無いにも程がある。 麻衣香「優しき癒しの風よ───“ヒールウィンド”!!」 ノーム『の〜んののののの!回復なんて無駄なんだなぁ〜!     もういっちょ来るんだなぁ!ボクのかわいいしもべたち〜〜!!』 ゴキィン!! 再び景色が凍る。 つーかこのままじゃ確実に負ける! どうする玄奬!ヤバイぞ玄奬!! 中井出「てぇえい!こうなったら全て叩き落とす!武器はしっかり二刀流!!」  ジャギィンッ!!《中井出のステータスが二倍になった!》 丘野 「い、いかんでござる!むざむざ死ぬつもりでござるか提督殿ーーーっ!!」 中井出「ふっ……丘野二等よ。男にはな……立たねばならん時があるのだぁーーーっ!!」 迫り来るクレイアイドル! その先頭を仕切るように随分早めに駆けてきたクレイアイドルを斬りつけ、 鬼靭モードを解放する。 ───と。 ───ギヒュゥンッ!! 中井出「───……」 暗転した世界がさらに暗転した。 その暗い景色の中、ただ輝くのはブラッシュデイム。 そして───俺の頭の中に響く声。 どう構え、どう放てばいいのかが俺の中に瞬く!! 中井出「───っし!」 何がなんだか解らん! だがやれというならこの博光、やってくれよう!! 中井出「“荒廃の世の自我(エゴ)、斬り裂けり……”」 まずは双剣を逆手に持って腹の前で交差させる! そう、あたかも鞘に納刀した刀を交差させて持つように! 中井出「“二刀流居合い───」 そして口ずさむはその言葉。 途端、双剣が瞬き、物凄い量の風を放出する!! それに促され、弾かれるように振るった風は鎌鼬!! 蒼く巨大な風の刃が双剣から一気に放たれた!!  ゾバァアザシャシャフィィインッ!!!! 中井出「───羅生門(らしょうもん)”」 やがて、その真名を唱え終えると暗転が消え─── ボガァッ!!ボガガガガガガガォオオオオンッ!!!! クレイアイドル『ピギャアーーーーッ!!!!』 鎌鼬に切り刻まれたクレイアイドルたちが総じて爆発。 一匹たりとも残らず塵と化した。 ノーム『の、のーーーん!?』 何が起こったのか解らないノームや猛者どもは唖然。 当然俺も唖然として……でてーんてーんててーんでげでってーん♪ でげでてーん!でげてーん!てーんてーんでげてーーーーん!! でんてんてけんててんっ!!ワシャーーン♪  《ブラッシュデイムの固有秘奥義、羅生門を引き出した!!》 中井出「え?え……?あ、あれぇ……?」 もうなにがなにやら。 俺はやっぱり唖然とするばかりで、本気で何が起こったのか解っちゃいなかった。 ノーム『ひ、卑怯だのーーーん!!そんな技隠し持ってるなんて卑怯だのーーーん!!』 ナギー『おぉおお!!ヒロミツ!おぬしそのような技を使えたのか!!     あんな秘奥義初めて見たのじゃー!!』 中井出「え?え?ひ、秘奥義?え……?」 周りの反応にオロオロするばかり。 だがなんとか正気を保とうと頭をブンブカと振って、気を奮い立たせた。 藍田 「えと……ふ、ふははははーーー!!どうだ見たかわりゃわりゃーーーっ!!     提督が本気になれば貴様なんぞいつでもコロがせたのだーーーっ!!」 ノーム『そ、そうだったのかのーーーん!?』 藍田 「その通り!!……そうだよね?」 中井出「えっ!?あ、いやそのえっとグムー」 いきなり話を振らないで欲しい。 だがここで自信が無さそうに振舞うと、再戦続行ってことになりかねないし─── 中井出「そ、その通りだーーーっ!!」 藍田 「どうだぁーーっ!!さあ宝玉を渡しなさい!     じゃなきゃおいさん、優しいだけじゃ済まなくなるぜ〜〜〜っ!!」 ノーム『う……わ、解ったの〜〜〜ん、殺さないで欲しいの〜〜ん』 藍田 「そうそう、それでいンだよボケが……」 丘野 「ホッホォ〜〜〜、持っとるのォォォォ」 でってけてぇん♪《藍田は地の宝玉を手に入れた!!》 藍田 「うっしゃーーーっ!!宝玉だ宝玉ーーーっ!!     くぅう、苦労した甲斐があったーーーっ!!     そんじゃあ早速!えっへっへっへぇっ、どんなことが出来るんかなぁ」 藍田二等が早速宝玉をいじくり、新しいメニューバーを展開する。 で、どうやら戦闘終了したのに無理矢理戦った所為かボーナスポイントがあったらしく…… それに気づいた藍田二等がとろけそうな笑顔で、 エキストラスキルボーナスをどれに振り分けるかを選び始めた時。 ナギー『やったのう藍田!』 ドカァッ!! 藍田 「どわっと!?《ピピンッ♪》」 突如としてナギーに後ろから抱きつかれ、 その拍子にポイント振り分けを終了してしまったらしかった。 藍田 「こ、こらっ!いきなり後ろからだな……!!     って、あれ?ポイント振り分けが終わって……───、……」 その時の藍田二等の顔を、我らはきっと忘れないだろう。 硬直とも落胆とも取れない、ともかく微妙でしかない顔で……彼は動かなくなっていた。 そして……そっと覗いたエキストラスキルボーナス。 ズラッと並ぶ空欄の中で、ただ一つだけ“★”があった。 それは……“変身”のスキルだった。 まあ、なんだ……その。 総員 『……おめでとう、オリバ』 全員が全員、哀れみを込めたような顔で彼の肩を叩いた時、彼は泣いたという。 丘野 「それはそれとして、提督殿?さっきの技はなんだったでござるか?     拙者、提督殿があのような技を使えるなんて初めて知ったでござる」 麻衣香「わたしも」 中井出「や、俺もなんだけど……ほら、     ブラッシュデイムのスキルの中に“???”ってのがあっただろ?     それって多分“秘奥義”ってことだったんだと思う。     たった今閃いたばっかりだから俺も確信なんて持てないんだけどさ」 夏子 「秘奥義!すごいじゃない提督さん!!」 丘野 「どんな条件なんでござるか!?見せるでござる!」 中井出「ま、まあまあそう焦るでない」 と言いつつも、俺も焦りながらナビを開く。 すると───  ◆二刀流居合い-羅生門-───にとうりゅういあい-らしょうもん-  荒ぶる高密度の鎌鼬を放ち、対象を両断し爆発させるという風の秘奥義。  鬼人化中、鬼靭モード、背水が発動し、  尚且つ会心スキルとボマースキルが発動確定な時、  鎌鼬スキルが発動すれば完成するブラッシュデイムの固有秘奥義。  条件が厳しすぎるため実戦で狙うことは極めて不可能に近い。  さらにこの秘奥義を放つと、  鬼人化、鬼靭モード、背水スキルなどの効果の一切が解除される。  構えた状態から放たれる密度の高い鎌鼬が風の鞘を作り、  それに弾かれるように放つ様から“居合い”の名がつけられている。  両断した対象がボマーのスキルで爆発する様は爽快で、  “爆発する鎌鼬”───その秘奥義に憧れる者は多い。 ───ナビにはこう書かれていた。 中井出「つーか本気で条件厳しいなこれ!!会心スキルなんてほとんど奇跡だぞ!?」 麻衣香「あちゃー……」 夏子 「大戦力になると思ったのに……」 中井出「発動してくれりゃあ万々歳っていう、ある意味博打性を秘めた奥義だな……」 藍田 「強かったのは事実だしな。いや、驚いた」 丘野 「武器に対する愛情があれば、おのずと自分も強くなるんでござるな」 ナギー『精進あるのみじゃな』 中井出「じゃあ用も済んだことだし、ノームもいつの間にかとんずらしたみたいだし……」 ナギー『うむ。戻るかの』 殊戸瀬「でも来た道は岩玉で塞がってるわよ」 総員 『あ……』 どうしよう……ってそうか!! 中井出「そ、そうだ〜〜〜っ!!ダンジョンといえば、     “奥深くにはワープポイント”が昔のゲームのセオリーだぜ〜〜〜っ!!」 丘野 「そ、そうでござった〜〜〜っ!!」 藍田 「おお〜〜〜っ!お誂え向きにそれっぽい魔法陣があるぜ〜〜〜っ!!」 中井出「それでは───これより帰還する!」 総員 『YesSir(イェッサァッ)!!』 魔法陣に乗ると、我らの体が転移され始めたのを感じた。 こうして───第一回精霊大戦は総員壮健のうちに終了したのだった。 Next Menu back