───冒険の書33/それが出来た時、キミは勇者になる───
【ケース160:Interlude/止まることなく動く世界-殺戮嗜好-】 鮮血が鮮血で覆われる瞬間を知っている。 喩えるならそれは雨。 振るい、振るわれる度に鮮血が舞う様は地獄のようであり、 だが現実はここにあり───立っている場もまた現実であった。 現実の世に地獄というものが存在するのならば喩えよう。 今、この場こそが地獄だと。 兵士 「ッ───はぁああああっ!!!」  ゾバァッ!!バキメキベキャアッ!!! 兵士 「ひぎっ───!?ぎゃああああっ!!!」 振るう剣ごと胴体が断絶される。 振るわれた凶々しい黒剣は兵士の血を吸い、メゴモゴと蠢いている。 だがそんな景色を見てもまだ、他の兵士は逃げ出すことなく襲い掛かった。 勝てぬと解っていようが、王のためにと。 ───だが。  ゾガァンッ!ゾガァンッ!!バギィンッ!!! 兵士×3『ギ───!!』 剣を振るった兵士たちはやはり、血を舞わせて絶命した。 兵士 「……!バケモノめ……!!はぁああああっ!!!」 ゾフィィンッ!!───兵士の剣が対象の胸を裂く。 だが相手はなんの反応も示さないまま、 ただ無造作に剣を振るうと、鎧ごと兵士を両断した。 ……まるで悪夢。 城下町は既に血に塗れ、城は門から城内まで既に血の海。 動くものがあればなんであろうと滅ぼすその様は、真実動く悪夢のようだった。  ザゴォンッ!! 兵士 「は、はぁっ……!!と、殺っ《ザゴォンッ!!》───」 心の臓を穿たれた。 だがそれがなんだというのだ。 ソイツは無関心に剣を振るい、背後から己の心臓を貫いたソイツを破壊した。 骨を斬り裂く感触が腕に残るが、ソイツは気にも留めずに歩いてゆく。 傷は見る間に塞がり、流れた血も即座に止まる。 ジュノーン『クッ……クハハハハハハ!!!!』 赤く染まった外套が揺れる。 その全ては血液であり、呪われているかのように蠢いている。  バガァンッ!!ゴガァッ!ゴシャアンッ!! 無造作に振るわれた拳が城内への扉をいとも容易く砕く。 途端、待ち構えていた兵士が飛び掛かり、黒き死仮面を串刺しにしてゆく───!! ジュノーン『───ソニックブレスト』 バガッシャァアアッ!!!───だが、その軍勢までもが一撃で葬られる。 距離を空けて待機していた兵士でさえ余波に触れただけで絶命。 己の領土で放った力とはくらぶるべくも無い威力である。 ブラーグ元帥「不死王ジュノーン……面白い。一度戦ってみたかった。        弓兵構え!合図など待たず、続けて放て!!」 弓兵    『ハッ!!』 キリ───バヅンッ!!───降り注ぐは矢の雨。 だがそんなものを目にしてもまだ、動揺すら浮かべないソイツは笑いながら歩く。 ブラーグ元帥「ハッ!余裕のつもりか!屠れ烈風!“ソニックブレスト”!!」 矢の雨をさらに上回る威力が、風の刃となって迫る。 ジュノーン『ハ───ハ、ハハハハハハハ!!ハハハハハハハハ!!!!』 ───そして。 とうとうソイツは爆発的に駆け出した。 風の刃をその身に受けて、なお笑いながら。  ゴバシャアンッ!! ブラーグ元帥「馬鹿めが!まともに喰ら《ザゴォン!!》ギ───……」 弓兵    「ひぃっ!?ブ、ブラーグ元帥!?」 上半身と下半身が離れかけてなお速度を止めずに振るわれた剣は、 元帥の頭蓋をあっさりと破壊した。 さらに、返す剣が弓兵の喉を裂き、振るう拳が頭蓋を砕く。 地を弾く足刀は肋骨を軽く破壊し───転がっている扉を手に取ったその腕は、 己の四倍はあろうソレをフリスビーのように容易く投擲。 そこかしこに居た人間を巻き込んでミンチにすると、壁に突き刺さって血を撒き散らした。 サイナート「っ……なんてことだ……!       ジュノーンよ……いったい何が目的でこのような……!!」 ジュノーン『………』 謁見の間の最奥。 そこに座っていた王が立ち上がり、ゆっくりと歩く。 その手には剣。 だが、そんなものが今さら通用する相手ではないことくらい、サイナートは知っていた。 ジュノーン『何処でもいい……。我が城が攻められたのなら責め返すのが礼儀だ……』 サイナート「馬鹿な……!!あれはエトノワールがやったことだろう……!!       我らの国になんの罪がある……!!」 ジュノーン『聞け、人間よ……。貴様ら人間は生きることこそが罪……。       故に死ね……その理を……我がくれてやる……』 サイナート「っ……そのような理由でこれほどの虐殺を……!?おのれっ!!       もはや許せぬ!!受けてみよ、ランダークに伝わる秘奥義───!!」 ───ゴォッキィン!! 景色が暗転する。 サイナートが手の中に構える剣は代々ランダークに伝わる宝剣。 威力もさることながら、そこに秘められた力は計り知れるものではない───!! サイナート「咆哮せよシュヴァルツレイヴ!」 一本の宝剣が二本の双剣へと変わる。 まるで分離したかのような特殊能力───王はその双剣を以って、床を強く蹴った!! サイナート「これぞ秘奥義!“双牙旋空衝”!!」 剣から幾重もの剣が実体となって放たれる!! 一閃が六閃になるほどのその強力な秘奥義を以って、破壊せんとするは不死の戦士!! ───だが。  ドプシュウッ───…… サイナート「あ、がっ……!?な───に……!?」 目を疑った。 振るえば抗える者など無しと謳われるほどの秘奥義が、 無造作に振るわれた突きによって終局に向かわされたのだ。 見下ろしてみれば、己の心臓を貫いている黒塗りの剣。 血が、膨らむように流れ出し、やがて噴き出す。 サイナート「ぐ、く……!すまぬ、民たちよ……!」 サイナートは死を覚悟した。 否、覚悟するまでもなく彼は絶命する。 人間である以上、心臓を潰されて生きていられるわけがないのだ。 彼は霞む視界の中、ただ民のことを思い、せめてもう一撃と剣を握る手に力を込めた。 ───そんな時だった。 ギチッ───バカァンッ!! サイナート「───!!」 秘奥義が命中していたのか、目の前の死仮面の面が真っ二つに割れたのだ。 仮面は床に音を立てて落ち、サイナートは霞んでゆく景色の中───その顔に驚愕した。 サイナート「っ……それが……貴様の素顔か……!!       一人の剣士として情けない限りだ……!よもや、貴様のような……!!」  メキィッ!! サイナート「ぐはぁあっ!!が、は……っ……ぐっ……あ───」 心臓を貫通している剣が捻られた。 その時点でサイナートは絶命し、もはや何も語らなくなった。 ジュノーン『クッ……クハハハハハハ……!!ハハハハハハハ!!!!』 笑い声が木霊する。 喉が裂けんと思わせるほどの咆哮めいた笑いと、景色一面が血に覆われた城内。 こうしてランダーク王国はたった一人のバケモノの手によって終局を向かえ─── その様は、やはり地獄のような光景だったいう。 【ケース161:穂岸遥一郎/火事場の……】 ───ガカァン……《ランダーク王国が没落しました》 遥一郎「うわっと!?」 戦闘中、突然虚空に浮かぶ文字に驚いた。 けどそれを改めて見てみれば───ランダークが潰れたという事実が記されている。 雪音 「え、えぇえ……?サイちゃん負けちゃったの……?」 見た目から強さが測れるほど、自分に能力があるとは思ってない。 でも、虚空に映っている文字には“国民などを含んだ全てが惨殺”とある。 いったいどんな軍勢だったのか、どんな相手だったのか……。 と思った時、文字の続きが虚空に映し出された。  《ランダークがジュノーン支配の領土になりました》 ───と。 つまりランダークを落としたのは、死人の森で会った不死戦士だということ。 一時でも国に身を置けば必ず聞くという“不死戦士”の異名。 実際……こうもあっさり落としてくるとは思わなかった。 遥一郎「こりゃまいったな。     やっぱり人間の軍事力なんて、異端には通用しないってことか」 けど、それに順応していくのも人間だ。 こうなれば後は他の国に期待するしかない。 まあ自由人状態の俺達にしてみれば、 “ストーリー”として楽しむ感覚で見守らせてもらおうって感じだが。 機会があったら戦争に参加してみるのもいいかもしれない。 というわけで。  ガボォンッ!! スネークマン『ス、スネーク!?』 スネークマンが落とし穴に落ちたところで一気に仕掛ける!! 遥一郎「戦いってのは何も力だけじゃないんだぜ!ここさ!ここを使わねば!!」 雪音 「頭突き?わー、ホギッちゃんがえーと、あぐれっしぶだよー」 遥一郎「頭脳だっ!!力だけじゃないって言ったばっかりだろうがっ!!」 雪音 「どちらにしろホギッちゃんがスーパーフェニックスだよー!!     今こそ唸れ知識の神!マッスルリベンジャー!!」 遥一郎「俺で遊んでないで戦えばかっ!!」 雪音 「ば、馬鹿じゃないよぅ!馬鹿って言った方が馬鹿だよー!!」 遥一郎「そんな屁理屈こねるヤツが真性馬鹿って言うんだ!!     横から見られた時の滑稽さを知らんのか!!     他の人から見るとよっぽど馬鹿っぽいぞその対応!!」 雪音 「ガ、ガッデムーーーーッ!!!」 遥一郎「ああもう自分で屁理屈こねといて逆切れするな!───ノア!」 ノア 「解っています」 バァッ───!!───メイド武具を手にしたノアが跳躍する!! というより高い位置からジャンプしたってだけなんだが。 ノア 「フライパンストライク!!」  ベゴキャッ!! スネークマン『ズネ゙ッ!!?』 丁度落下地点に居たスネークマンの頭の上に落とされるのは、調理用抗菌フライパン。 脂汚れもグングン落とせます。……じゃなくて。 スネークマン『グ、グゲゲ……スネーク……!!目が回るスネーク……!!』 ノア    「そのまま絶命してください。ゴー・トゥ・ヘル」 スパッ───ブッシャァアアアアアアアッ!!!! スネークマン『スッ……スネェーーーーーク!!!』 スネークマンの喉から血が吹き出る! その勢いは凄まじく、やはり鬼切り包丁の威力は凄まじいなぁと思った瞬間だった。 雪音 「うわわ頚動脈切った!!今物凄い暗黒顔して頚動脈切ったよ!!」 遥一郎「…………」 ……さて、この世界の何処かでいろいろやっているであろう、 我が知り合いたちよ……───元気だろうか。 再びこの世界に降り立って以降───いや、降り立つ以前から兆候はあったにはあった。 こうして旅を続ける以上、炊事係りと回復役ってのは必要になってくるもので…… 気づけば俺と蒼木は魔法使いになっていた。 他のやつらがどんなものになっているのかといえばこれがまた滑稽であり─── 全員が全員、メイド服に身を包んでいるのである。 これがまた異様であることこの上無しであり。 俺は若干、自分が立っている現状を呪いたくなった次第である。 だが一言。 これだけは言わせてもらおう。 遥一郎「観咲。お前弦月に会ったら絶対に怒られる」 雪音 「え?なんで?」 解ってないならべつにいいのかもしれない。 だがメイドたるもの淑女としてあれって感じの弦月は、 絶対にこいつのメイド服姿を許しはしないだろう。 近年の馬鹿者どもは萌えだの属性だのと吼えているが、 あいつの場合はメイドの本質を望んでいるのであり…… 邪な考えや邪推を用いる煩悩など必要ではないのである。 だからこそ言おう。 こいつがメイドとして振舞う気は絶望的にゼロである。 雪音 「ともあれやったーノアちゃん!」 遥一郎「ああこらこらっ!!     そんなにバタバタと走るなっ!!もっと慎ましやかにだなっ……!!」 雪音 「んう?あ、もしかしてホギッちゃんってば、     スカートの中とかが気になったり《デゴシィッ!!》あいたぁっ!!」 遥一郎「下着なんぞに興味を持つか馬鹿者!!」 雪音 「な、殴ったー!!ホギッちゃんが殴ったー!その上馬鹿者とまで言ったー!!」 正直エロスに走る男どもの気持ちは、俺には到底理解出来なかった。 ほんとな、なんで下着に興奮するんだ? 俺には下着泥棒の気持ちが一番理解出来んかもしれん。 ノア 「マスター、排除……完了しました」 遥一郎「……ありがと」 鬼包丁とフライパンを仕舞うノアを見て、微妙な笑顔で迎える。 なんにせよ一息。 俺と蒼木は携帯調理セットを取り出すと、戦闘前に決めていた調理を開始することにした。 遥一郎「今回は俺の番だったな」 澄音 「うん、お願いしていいかな」 遥一郎「お願いされなくてもやるよ。……二度と彼奴めらに調理させないためにも」 雪音 「ぶーぶー!ホギッちゃんおーぼー!!」 ノア 「マスター……!わ、わたしだってその……練習すれば!」 雪音 「そーだそーだー!個人の成長を見る機会を刈り取るとは何事!!     かねてよりの遺恨、覚えたるかー!!」 遥一郎「何処の忠臣蔵だお前は……とにかく。調理は俺と蒼木だけでやる。     男なのに回復役に回された俺達の立場も少しは考えろ、ばか」 雪音 「むきー!また馬鹿って言ったぁ〜〜〜っ!ノアちゃん悔しいよぅ!言い返して!」 ノア 「ばか」 雪音 「わたしにじゃなくてホギッちゃんにだよぅ!!」 まあ……平和ってことにしておこう。 ということでバックパックから取り出した調理器具一式に、 魔法で燃やした焚火の熱が伝わる頃。 俺は腕まくりをして調理を始めたのだった。 雪音 「……男の人に魔法使いの格好って似合わないね」 遥一郎「なんだよ、藪から棒に」 雪音 「んーん、率直な意見をちょっと。ホギッちゃんが女の子だったら、     もっと“きゃるーん♪”って感じで魔法少女ー!って感じだったのにね」 神様、今こそこいつに天罰を与えてやってくれ。 遥一郎「漫画やアニメの見すぎだ。しかも知識が偏ってる」 雪音 「わたしだってカワイイものはカワイイって言うんだよ?     そんな、ぶっさいくな犬だろうがちっこければカワイイなんてこと言わないもん」 遥一郎「とりあえずお前、全国のぶっさいくな犬たちに謝っとけ」 雪音 「あのねホギッちゃん。わたし思ってたんだけどね?     女の子ってなんでもかんでもカワイイって言うよね?」 遥一郎「そうだな。判断基準が曖昧すぎて正直引く」 雪音 「現実でネット用語を多用された時くらい?」 遥一郎「お前がそういうヤツじゃないって事実では、一応安心はしてる」 雪音 「そんなの使わないよぅ。でね、思ったんだけど───     そういう“カワイイ”を連発する女の子ってさ、     他に喩えられる言葉を知らないんじゃないかなって」 ……なんだそりゃ。 遥一郎「そういうことはないだろ。女っていったら───     カワイイ、ちっちゃくてカワイイ、とにかくカワイイ……あぁ、そうかも」 雪音 「ね?なんでもかんでもとにかくカワイイ付けたがるんだよね。     今の女の子っていったら“ウザい”と“死ねば”さえ揃ってれば十分って感じ」 遥一郎「世も末だな……」 雪音 「そこで雪音ちゃんの一口講座ー!!わー!はうー!ひゅーひゅー!!」 遥一郎「………」 雪音 「うわぁああん!!そこで可哀相なものを見る目で見ないでよぅ!!     ホギッちゃんが小さな反応しかしてくれないから     必死に盛り上げようとしてるのに!!」 遥一郎「そんなもん無理に盛り上げる必要なんてないだろ……。     解った、聞くから続けろ。お前の場合、ただでさえ脱線が激しいんだから」 雪音 「うぅ……なんか悟られてるよぅ」 悟らいでか。 意味が解らんが。 雪音 「あのねホギッちゃん。主に女子高生とかに浸透してる“ウザい”ってあるよね?」 遥一郎「あるな」 雪音 「あの言葉の意味を、わたしこと雪音ちゃんはずっと考えてきたのです」 遥一郎「へー」 雪音 「ほとんど反射的にウザいウザいと唱えられている昨今、     わたしはその意味を知ろうと頑張ったのです」 遥一郎「ほー」 身振り手振りで熱く語る観咲。 俺はそれに適当に相打ちを駆けながら、調理を進めていた。 雪音 「えっとねホギッちゃん。     わたし的に“ウザい”はどんな時に使うべきかを研究したんだけど……     やっぱりここだと思うの。インターネットとかでよくあるよね?     えーと、“笑い”って意味を模した“w”って。     文字の最後尾に大抵付いてるあれ」 遥一郎「ああ。初心者ならまず“(笑)”なんだけどな。それがどうした?」 雪音 「あれがいっぱいある時にこそ使うべきなんだと思うんだよー!     昨今の掲示板やフラッシュアニメで見かけるあの文字の多さ……!!     “w”は一個だけでいいと思うのに、“ちょwwwwおまwwww”とかって!     許せないよ!見てるだけでもう本当に“ウザい”って感じだよー!!     あれこそ“ウザい”のウゲェだと思うんだよ!!」 遥一郎「ウゲェ?……ああ、具現な」 雪音 「う、うん、それそれ」 教訓。 慣れない言葉は使うもんじゃない。 “ウゲェーーーッ!!”って、ザンギエフかと思ったじゃないか。 雪音 「とにかく、なんでもかんでも略されていくのって、     便利だけどつまんない気がするんだよ。わたし、そんなの嫌だと思うな」 遥一郎「ホギッちゃんホギッちゃん言ってるお前に言われたくない言葉だな」 雪音 「え?やだなーホギッちゃんてば。これは略じゃなくてあだ名だよぅ」 遥一郎「同じだと思うんだが」 雪音 「ホギッちゃんってば解ってないなぁ。     略っていうのはホギッちゃんで言う“与一”みたいなものでしょ?     あだ名っていうのは名前が加藤でも顔がロドリゲスって感じだったら     ロドリゲスって呼ぶって、そんな感じだよ」 なんつー喩えだ。 そもそもどうしてこいつの脳内は喩えの時点でこう雄々しいんだ? 普通の女は喩える名前にロドリゲスは使わないだろ。 遥一郎「……よし出来た。観咲、話もいいけどメシにしよう」 雪音 「うん」 即答だった。 どうやら言いたいことの大体は言い終えていたらしい。 サクラ「今日はなにです?」 遥一郎「有り合わせのものを適当にだな。そろそろ食材を調達しないといけない」 レイラ「それでしたら、この先にある風車の町に寄りましょうか」 雪音 「風車の町ナットクラックだっけ?」 澄音 「そうだね。木工が盛んな町らしくて、職人さんに好まれているらしいよ」 雪音 「木工かぁ……」 遥一郎「調合系は俺達に任せとけ。武器でもなんでも作ってやるから。     だからお前は今まで通りアグレッシヴにモンスターを滅ぼしていけ」 雪音 「慎ましやかにっていうのは?」 遥一郎「すまん、無理なことを押し付けるもんじゃないよな」 雪音 「ガッ……ガッデムーーーッ!!!」 とまあ、それはそれとしてと。 遥一郎「いただきまーす」 総員 『いただきます(です)』 いただきますを言うと黙って食事を開始する観咲に、なんだか笑いが込み上げた。 雪音 「ご飯食べ終わったらどうしよっか」 遥一郎「そうだな……一応世話にはなった王国だし、亡骸を葬るくらいは───」 ノア 「平気でしょうか。ジュノーンという存在の領土になってしまったのなら、     近づいてはわたしたちまで───」 遥一郎「いや、大丈夫だ。なんていうのかな、第一印象だが───     あいつ自身に“執着心”みたいなのはあまり無かった気がする。     あるのは“戦う心”って……そんな感じだ。     だからランダークを滅ぼしたっていっても今じゃ亡霊王国になってるだけだろう。     行ってみたところで誰も居ないと思う」 サクラ「そですか?」 遥一郎「そです」 心配なら遠目から見て、平気そうだったら行ってみればいい。 もしジュノーンに遭遇したら、確実に逃げる方向で。 レイラ「けど……一国を滅ぼす力ですよ?勢力はそれなりにあったのでは───」 遥一郎「それも違うと思う。多分相手はジュノーン一人だったよきっと」 レイラ「え……何故です?」 遥一郎「これも第一印象かな。     何処かに責め行く時に、雑魚を従えて歩くような感じじゃない」 精霊だった頃の能力なんて何ひとつ残ってない。 けど、直感めいたものは確かに残ってる。 雪音 「じゃあ次に向かう場所はランダーク王国だね。     その前にナットクラックに行くとしても」 澄音 「そうだね。食材と回復アイテムと、あれば魔法も覚えておきたいしね」 遥一郎「ここまで立場が真逆だと、もうなんでも来いだな」 雪音 「あはははー!ホギッちゃんてば守られっぱなしのお姫さまみたいだよー!」 遥一郎「(かゆ)
!粥!粥!粥!粥!粥!粥!粥!!」 雪音 「わひゃー!?どどどうしてわたしにだけお粥ばっか奨めるのー!?」 遥一郎「お前が人のことをお姫さまとか言うからだ!!」 サクラ「お粥とお姫さまと、どんな関係があるです?」 遥一郎「それは秘密だ」 雪音 「それでも切っても切れない関係にあるんだよー……!!」 サクラ「……?」 サクラは首を傾げるだけだった。 そりゃそうだ。 遥一郎「ランダーク、か……」 あのまま国を抜け出さずに居たらどうなっていたんだろう。 俺は……ただそんなことを考えながら、軽く作った食事を口運ぶのだった。 ───……。 ……。 それからしばらくして、俺達はランダーク王国跡に辿り着いた。 どうせ見に行くだけなのだからと、ナットクラックに行くより先に来た故だ。 だが……正直見れたものじゃない。 人の死体なんてものはゲーム上、 残しておくのは目の毒だからかさすがに残っちゃいないが─── あれほど活気に溢れていた王国が、今ではまるで幽霊屋敷のようだ。 生活感というものの全てが欠落している。 人の気配のカケラすらも無い。 雪音 「……ひどいよ……」 さすがの観咲も、言葉も無いのだろう。 今回ばかりは騒ぐでもなく、ゆっくりと横を歩いていた。 澄音 「でも……穂岸くんの言うとおりだったね。どうやら敵は居ないみたいだ」 遥一郎「ああ……」 でも油断は出来ない。 俺はいつでも魔法を発動出来るよう、魔法の言を途中まで呟きながら歩いていた。 ……やがて、俺達の歩みが城下町から王城に辿り着く頃。 破壊された巨大な扉と、真っ赤に染まった謁見の間を見て愕然とした。 そしてさらに俺達を混乱の渦に巻き込む者の姿が───そこにはあった。 丘野 「おお!なにやら綺麗なカタチの剣を拾ったでござるー!!」 藍田 「おおマジだ!!なにやら強そーだ!!」 中井出「これで我らはまた強くなれる!!」 ……いわゆる、火事場泥棒というやつだろう。 どっと溢れた精神的疲れに耐え切れず、 俺はその場に崩れ落ちて両手両脚を床につけるほど呆れ返ってしまった。 丘野 「おお!?なにやら剣が二つに分裂したでござるよ!?     名前は……“宝剣シュヴァルツレイヴ”!     特殊能力は分裂剣と秘奥義でござるか!素晴らしいでござる!!     最近提督殿と藍田殿への差を感じていたところでござる!     これは拙者がいただくでござる!!」 麻衣香「こっちも装備中の杖よりいい杖見つけたよー!」 夏子 「こっちは装飾品見つけたー!」 殊戸瀬「宝物庫の奥にいい槍が大事に保管されてたわ」 ???『こっちでは綺麗な宝石を見つけたのじゃー』 中井出「うーむ!最初はランダムワープ魔法陣に悲しまされたものだが、     こんな宝物殿の近くに飛ばされるとは!これはなんと運のいい!!」 遥一郎「なんと運のいい!じゃないだろがぁーーーーーっ!!!」 気づけば叫んでました。 総員 『ヌウ何ヤツ!?ここがランダーク王国王城と知っての狼藉か!?』 遥一郎「ええい何処からツッコんでいいやら!!ていうかなにしとんのだお前らは!!」 中井出「なにって……勇者イズム?」 丘野 「おお見るでござる提督!     この武器二刀流状態になるときちんと忍者武器としても扱われるようでござる!」 中井出「おおそれはよかったな丘野二等!!」 遥一郎「よかったなじゃないだろっ!!     亡くなった人達の武具とかを拾っていくなんて、なに考えて───」 中井出「実はな、穂岸……さっきまでここに生きた人が居て、俺達に言ったんだ……。     “我らの仇を撃ってくれ……!     ここにある物、なにを持っていっても構わないから……!”と、苦しげに……!」 遥一郎「───!」 ……そうだったのか。 なんて早合点だ、これじゃあ俺の方が場違い─── 中井出「という切ないストーリーを思い描きつつ拾ってみてるんだが」 遥一郎「お前の想像かよ!!ええいもう一瞬でも自分を責めた俺が馬鹿だった!!     お前ら真実と嘘の境目が曖昧すぎるんじゃぁあーーーーーっ!!!!」 雪音 「わわわ!ホギッちゃんがキレたーーーっ!!」 中井出「間違ってもらっては困るぞ穂岸遥一郎よ!!     我らは純粋にこのゲームを楽しんでいる!!     そう……ここは地界では味わうことの出来ないものが相当数体験出来る場所。     そうなったらもう普段は絶対やらないことをやるべきだろう。男として」 それが火事場泥棒なんだからツッコミどころが満載だって言ってるんだが……。 中井出「まあアレだよ。死んでしまった奴らには残念だとしか言えやしない。     だったらせめて、生前使ってた武器を使用してやるのは情けじゃないか?」 遥一郎「む……そりゃそうだが」 中井出「それから本気で誤解したりはしないでくれ。     俺達だってゲームの中とはいえ、     人が殺されても穏やかでいられるほどノホホンとしちゃいない」 殊戸瀬「だからって暗い気持ちを引きずったまま旅をするなんて、そんなのは変だわ。     わたしたちはそんなことをするためにこの世界に降り立ったの?違うでしょう」 藍田 「旅ってのは浪漫だ。     そして、暗い気持ちで貫き通す浪漫なんてこの世にゃ存在しちゃならない」 丘野 「暗いことが起ころうと、楽しめる部分では楽しむべきなのでござるよ。     人間は辛いこと暗いことには弱く出来てるでござる。     だがかつて、某ゲームで某ジャグラーが言っていたでござる。     こういう時こそ笑顔が必要なのだと」 夏子 「───わたしたちは、(己の)正義のために戦います」 麻衣香「たとえそれが、命を賭ける戦いであっても。わたしたちは───」 総員 『即座に逃げます』 遥一郎「オイ」 直前まで言ってた“いい言葉”が台無しになった。 中井出「ああまあその、なんだ。     こうやって武器防具とかを頂戴しておいて死ぬことこそ、よっぽど薄情だろ。     だから情けなくても生き延びることを優先させる。     もちろん覚悟があるなら突貫するけど」 丘野 「ノーム戦の時の提督のようにでござるな?」 藍田 「秘奥義が発動しなけりゃ絶対死んでたあの突貫な……」 中井出「耳が痛いから勘弁してください」 遥一郎「………」 掴み所の無い集団だ、原中ってのは。 でも、不思議と嫌悪感は抱かなかった。 むしろそうやって割り切れるところは見習いたいと思ったくらいだ。 ……何処まで本気か解らないところは相変わらずのようだが。 遥一郎「まあ、いいか。べつに俺の持ち物ってわけでもないし。     考えてみれば俺がどうこう言う筋合いもなかった」 中井出「や、や、や、そう言うな。     ここのところはツッコんでくれなきゃ盛り上がらなかった。     それに、お前さんはな〜〜〜んも間違ったこと言ってないよ。     俺達ゃそれを解っててやってるんだ。気にいらなきゃ罵倒が飛ぶのは当然だろ。     俺達ゃ人間だ、感情論の上じゃあどれだけ頑張ったって、     いつまで経っても自分の制御なんて出来やしない」 遥一郎「……意外だ。案外冷静なんだな、お前」 中井出「これでも悲惨な人生経験には自信があるんで。     他より少し悟った気になってるだけだって。     どうせその実、本当はなんにも解ってないに決まってんだ」 中井出は苦笑をすると頭をポリポリと掻いて、他の連中のところへと歩いていった。 ……驚いた。 日々なにも考えずにただ馬鹿やってるだけだと思ってたのに─── 遥一郎(……あんな、人の汚さとか日々の辛さを知ったような顔が……出来たんだな) 知ろうともしなかったのは俺の方なのかもしれない。 そりゃあ直接的に話し合うことなんて無かったが、 俺は何処かで自分以外の存在の不幸を軽く見ていたのかもしれない。 人は自分が辛い思い出を持つと───他人の辛さが解っているようで、 その実心の中では自分の方が辛い目に遭ったんだと考えるように出来ているっていう。 俺は……ヒナやフレアの想いの上で立っているこの現状を、 いつしかそんな風な目で見ていたのかもしれない。 遥一郎「俺は《ドス》おごぉっ!?」 雪音 「ホギッちゃん暗いぞー……。あの人たちの言うとおりだよー?     こんな時だからこそ明るくならなきゃ気が滅入っちゃうよ」 遥一郎「………」 違いない。 俺は貫手をされた脇腹をさすりつつ、一度思いっきり溜め息を吐いてから顔を上げた。 中井出「けどさー。お前らよく無事だったなー」 遥一郎「うん?ん、ああ」 離れたところで振り返った中井出が言う言葉に相槌を打つ。 俺は自分がランダークを抜け出したことを伝え、そのお蔭で無事だったことも伝えた。 もう取るものは取ったのか、彼らは俺達の方に歩いてきてからニコリと笑う。 中井出「な〜んか微妙な空気が漂ってるよな。もしかして今のお前はどんよりか?」 遥一郎「かなり」 丘野 「この国が潰れたのは穂岸殿の所為ではないでござるよ」 雪音 「そうだよホギッちゃん。     大体ホギッちゃんが居たってなんの役にも立てなかったよ」 グサァッ!! 雪音 「……あれ?ホ、ホギッちゃん?どうしていきなり俯くの?」 中井出「容赦の無いおなごよ……」 藍田 「観咲……!こわいコ……!!」 丘野 「イジメ!?今のは立場を利用したイジメでござるか!?」 雪音 「え?え?えぇ?」 本当に容赦無い。 けど直接攻撃よりも魔法系が性に合ってると思ったのは、 紛れもなく自分自身なわけで……そこんところがやってられない。 中井出「まあいいや。俺達が言うのもなんだけど、     自分がそれでいいって思えてるならそれでいいんじゃないか?     冒険は花見と一緒さ!花見する時なんて騒ぐことだけ考えてりゃいいんだ。     小難しいことなんて考えずにさ、一度思いっきり楽しんでみたらどうだ?」 遥一郎「ああそれは言われるまでもない。     そもそもこいつが退屈させてくれないんだからしょうがない」 雪音 「……言いながら頭叩くのはどうかなぁ」 でも……花見か。 そういえば自分が桜だった時、目の前で花見をするやつらは楽しく騒いだり、 景色を見て笑みを浮かべるだけだったっけ。 遥一郎「……一応、あんがとって言っとく。忘れてたことをいろいろ思い出せたよ」 丘野 「おお、それはよかったでござるよ」 遥一郎「というわけでまず疑問を晴らさせてくれ。そこの子供って誰だ?」 ???『?なんじゃ、わしか?』 視線が集中する場所に、その子は居た。 外見は子供。着ている服は……皮のマントですっぽり隠れてて解らない。 ???『わしのことが知りたいとはなかなかよい心がけよの。     よいじゃろ、特別に名乗ってやるぞ。わしの名は』 総員 『“ナギー”だ』 遥一郎「…………マテ。今思いっきりその子の名乗りを遮らなかったか?」 中井出「ハハハ、ナニヲ馬鹿ナ」 思いっきりカタコトな反応だった。 遥一郎「ん……風貌から察するに───精霊か?」 ナギー『ほう、わしのことが解るか。やはり本質とは隠せぬものよの』 中井出「や、彼は特別なだけだから」 遥一郎「───ほんとに精霊なのか!?」 ナギー『なんじゃ信じられぬか?わしは第二代自然象徴精霊、ドリアードじゃ。     故あって現在はヒロミツたちと旅をしておるがの、     これでも癒しの大樹の管理者にして自然界の皇女なのじゃ』 遥一郎「ドリアード!お前が!?」 ナギー『……なんじゃ。随分と解りやすい反応をするのぅ』 遥一郎「あ、いやこれは……」 ナギー『ふん、よいわ。どうせヒロミツたちと同じく、     わしの身体が貧相だと言うのじゃろう?男なぞ女の顔と身体しか見んのじゃ』 中井出「俺は性格重視派だが」 藍田 「俺も」 丘野 「拙者もでござる」 ナギー『だ、だったら何故初見の際に斯様な振る舞いをしていたのじゃ!!』 総員 『………』 総員が目を逸らした。 そこから解ることはつまり……性格が悪かったってことなんだろう。 レイラ「ですが……あの、平気なのですか?精霊が旅に付いて回るということは、     他の冒険者たちは癒しの大樹では属性が受け取れないということに……」 ナギー『?なんじゃ、欲しいのなら今わしに願えばよかろうに。     今のわしは解放感でいっぱいじゃ。欲する者には等しく譲るぞよ?』 レイラ「そういう意味ではなくてですね……」 澄音 「それじゃあ折角だから僕ら全員に加護をくれないかな」 レイラ「あ、あぁぅ……澄音さんまで……」 ナギー『うむうむ。素直なヤツは好きなのじゃ』 総員 (素直じゃないヤツに言われてもなぁ……) というわけで、ドリアード(ナギーというらしい)に属性の加護を頂いた。 その儀式は随分と簡単なもので、光の玉を身体に埋め込まれただけですぐに終わった。 ノア 「これにはいったい、どういった効果が?」 サクラ「ヘルニアが治るです」 遥一郎「治らん」 ナギー『へる……?よく解らんが、戦闘中だろうとHPが回復するようにはなる。     もちろんTPもじゃ。あとは戦い方次第で能力が開花することもあるのじゃ。     頑張って開花させてゆくのじゃぞ』 レイラ「癒しの力、というわけですか。いったいどういった真価が隠されて……?」 サクラ「雪音の頭が治るです」 遥一郎「治らん」 雪音 「うわぁあん澄ちゃぁああん!!     サクラちゃんとホギッちゃんに間接的中傷を受けたよぅ〜〜っ!!」 澄音 「まず学ぼうとする姿勢から身に着けないといけないね」 雪音 「話が飛びすぎてるよぅ澄ちゃん!!」 中井出「やー……なんつーかドラえもんとのび太くんみたいな泣き付き方だったな」 殊戸瀬「……スミえもん」 遥一郎「ぶふっ!?」 蒼木が青と白のタイツを装着して、 “のび音ちゃ〜ん”とか言ってる光景を想像したら思わず噴き出した。 言うまでも無いが、“のび音ちゃん”というのは観咲のことである。 ぐっ……くふっ……!ヤバイ……!地味にツボだったらしい……!笑いが止まらん……! 丘野 「オオッ!?穂岸殿が悶絶しているでござるよ!!     もしや敵襲!?敵の忍術を密かに喰らったでござるか!?」 麻衣香「いやー……どう見ても地味にツボにヒットして笑いをこらえてる男の子でしょ」 丘野 「ム?そうでござるか?」 藍田 「じゃあアレの発動だな。笑ってるヤツに無理に話し掛けると笑撃が極端に減るし」 中井出「笑ってる人にはヘタに手を出さず、素直に笑わせてやるのが礼儀。     これぞ世に言う原中大原則『笑う角は放置しろ』である」 藍田 「いつ聞いてもこの大原則の名前は大好きだ……」 丘野 「というわけで拙者たちはそろそろ行くでござるよ」 サクラ「行くですか」 丘野 「行くです」 中井出「ではまた何処かでお会いしましょう!生きた奇跡のお嬢さん!」 藍田 「サギーか」 丘野 「サギーでござるな」 サクラ「闇道化師です?」 丘野 「違うです」 そうして、謎の遣り取りをしつつ───中井出一行はランダーク王国跡地を去っていった。 俺はそんな姿を笑いながら見送り、最後には観咲に仏骨やられて黙らされることになる。 ……ちなみに仏骨っていうのは少林寺拳法の奥義であり、 鍛えた親指で相手の喉仏を容赦なく思い切り、 喉に指がめり込むくらいに突き刺す技である。 ……当然俺は昏倒。 対する観咲はノアに散々っぱらアーク・ガトリングを撃たれるハメになり─── 俺はこのパーティーのチームバランスというものを、改めて考えることとなった。 Next Menu back