───冒険の書34/ヨットコサメ太郎───
【ケース162:裕希刹那/克服“(ガイ)
”はナイス“(ガイ)”】 ザムゥ〜…… 刹那 「あぁ〜、あったけぇ〜」 豆村 「氷河を抜けただけでこうも暖かいとは……」 孤島に辿り着いた俺達は、荷物を先に地面に投げてからディオ様が如く華麗に降り立った。 もちろんググゥ〜〜と起き上がり、バ〜〜〜ン!!と振り向くのも忘れない。 アイルー『それじゃあこれからこの島で素材集めをするニャ。      まずこれと同じカタチの薬草を摘んでくるニャ』 そんな俺達を完全に無視して話を進めるのは、ご存知アイルー師匠。 精神の世界のネコ型守銭奴である。 刹那  「タダってわけにゃあいかねぇなぁ〜〜〜っ!!」 豆村  「薬草一つにつき金を所望する!このままじゃこっちは破滅だ!」 アイルー『それじゃあ一つにつき70$を払うニャ』 豆村  「な、なんと半端な!せめて100にしない!?ね!?もう一声!」 アイルー『ダメニャ』 即答だった。 なんて金に厳しい猫なんだコノヤロー。 アイルー『数回に分けてそれぞれ素材を探すニャ。      一回目は薬草で、二回目はエニックの湧き水、三回目はヨットコの牙ニャ』 刹那  「ヨットコってのは?」 豆村  「オッコトヌシ様の親戚?」 アイルー『……誰ニャ?』 豆村  「“乙事主”……と書くのだが」 刹那  「や、そんな烈海王が“擂台(らいたい)”の文字を説明するように言わんでも」 空中に文字を描いてるビーンにとりあえずツッコんどく。 それに対して『ツッコミ細かいなぁ』とか言ってくるが、 そもそも細かいツッコミをされる時点で 貴様の行為が細かいってことに何故気づかないのかこの豆は。 俺の忍耐(対呆れセービングスロー)にも限界があるってもんだい。  ◆セービングスロー  ダイス、カードゲームなどで知られる“緊迫のダイスロール”チックなこと。  敵の状態異常魔法の魔力に対しての、こちら側の対魔力などといった事柄の末。  毒魔法をかけられた時に毒にかかるかどうかとかの確率みたいなもの。  つまり、カードゲームで敵に毒魔法とかを掛けられたら、  それを防ぐために既定以上のダイスを出しやがれっていうセーブ&ガードシステム。  攻撃の際にも威力判定のために振るったりもする。  なお、現実的にイタイ言葉やサムイ言葉を言われた際、  思わず硬直してしまう事態を防ぐ忍耐を“対石化セービングスロー”と呼ぶ。と思う。  *神冥書房刊『波駆ける黄金の忍耐』より アイルー 『ヨットコっていうのはこの孤島に多く生息する空飛ぶ鮫ニャ』 刹那&豆村『サメぇっ!?』 そんな無茶な! 鍛冶屋としては成長して来た俺達に、冒険者として立ち振る舞ってサメと戦えと!? 豆村  「馬鹿かてめぇ猫コノヤロー!!俺達に死ねというのか師匠!」 刹那  「俺達ゃ鍛冶の腕はあるけど戦闘は初心者なンすよ!?      それをそんな、空飛ぶ海産軟骨魚と戦えだなんて!!」 アイルー『大丈夫ニャ。ヨットコは大人しすぎるくらいのモンスターで、      牙だってそこらへんを探してれば簡単に見つかるニャ。      ヨットコは一日に10回も牙が生え変わるニャ。      だから地面を探してればいくらでも手に入るニャ。      でも念のため、ヨットコには攻撃しないようにするニャ』 豆村  「な、なんだ……それならそうと早く言やぁいいんだよぉ〜〜〜っ」 刹那  「いちいちねちっこいよな、お前」 豆村  「親父の影響だ。忘れてくれ」 それだけじゃない気もするんだけどな。 ま、いいけど。 アイルー『それじゃあ開始するニャ。出来るだけ多くの薬草摘んできてほしいニャ。      薬草は、根は取らないように葉だけを取ってくるニャ』 豆村  「え?なんでさ。      どうせなら根っ子ごとモブチャアと引っこ抜いたほうが楽じゃん」 アイルー『薬草は強い草ニャ。      葉を取られてもまたどれくらいか日にちが経てば生えるニャ。      でも根っ子を取ったら生えるものも生えないニャ』 刹那  「それくらい小学生でも解りそうなもんだろ。よっ!大馬鹿者!」 豆村  「やーありがとうありがとう!つーわけで薬草探そう。      ここが俺達の数少ない稼ぎ時ってやつだ!」 刹那  「オッケーィ!!」 こうして俺達は薬草探しの旅に出たのだった!! 孤島っつっても結構デカイから、旅と言えば旅である。 ───……。 ……。 というわけで採取開始。 俺達は早速草のある場所を探しまくり、見本の葉っぱのついた物を探しまくった。 刹那 「よし、十二枚目」 しかしこれがまたなかなか難しい。 葉っぱってくらいだから一つにぎっしり付いてるものかと思ったら、 これが案外枚数が少ない。 一つの薬草についてる葉っぱなんて精々で三、四枚だ。 しかもこう単純作業だとかえって疲れる。 どうしたもんか。 なにかこう……聴覚にも刺激が欲しいところだ。 音楽聴きながらだとか話しながらだとか。 刹那 「といっても……」 ビーンは別の方で採取してる。ここには居ない。 さてどうしたもんか。 刹那 「……ってそうだ、tellで誰かに───」 って言っても誰がいいだろうか。 やっぱ愉快な人か? 刹那 「うん。今どんな常態かってのが気になる人にでも」 ということで、tellに意思をぶつけて“中井出博光”という名前を入力。 ややあって─── 声  『俺が原沢南中学校提督!中井出博光であるーーーーっ!!!』 予想以上に大きな返事が返ってきた。 刹那 「あ、提督さんッスか?」 声  『ヌウ何用か!こちらは今、敵と遭遇中でいろいろあるんだが!』 刹那 「あ、すんません、じゃあ後で───」 声  『NOそれはダメ!用件が気になるだろう!言ってから切るのだ少年!!』 刹那 「いや、用ってほどのものでないっていうか。     ただ退屈だったから連絡入れてるだけで」 声  『おおそうか。退屈しのぎに我らを選ぶとはなかなかの根性』 声  『ヒイイ提督殿!やつめ、どんどん骨どもを破壊してきてるでござるよ!!』 声  『攻撃力重視モンスターって怖ぇええーーーーーッ!!!』 声  『ええい狼狽えるな!歌えィヒヨッ子ども!!』 声  『Sir(サー)!!YesSir(イェッサー)!!』 刹那 「え?あのー……」 声  『ET!!』 声  『ET!!』 声  『ET!!』 声  『ET!!』 声  『ET!!』 声  『ET!!』 声  『ET!!』 声  『ET!!』 声  『I've never been to M-78♪』 声  『ア〜イブネェ〜バビーントゥーエ〜ムセ〜ブンエ〜イ♪』 声  『Give me figures nurse and maid♪』 声  『ギ〜ブミ〜フィ〜ギュア〜ズナースアンドメ〜イ(ド)♪』 声  『M78星雲には行ったことがなぁーーーーーい♪』 声  『M78星雲には行ったことがなぁーーーーーい♪』 声  『オ〜レ〜にナースとメイドフィギュアをお〜くれ〜♪』 声  『オ〜レ〜にナースとメイドフィギュアをお〜くれ〜♪』 声  『と〜さんに“俺はオタクだ”と伝えて〜くれ〜♪』 刹那 「………」 切っていいんだろうか。 つーかどういう歌なんだこれ。 ファミコンウォーズを彷彿とさせる歌だったが……。 刹那 「まあとりあえず……オタクだったんすか?」 声  『違うわ!!』 違ったらしい。 声  『この歌は、歌うことで己の恥を晒し、     これほどの恥を大声で歌うことでなにも怖くないと暗示をかける魔法!     大丈夫!僕ならやれる!!───やれるよね!?』 刹那 「や、俺に訊かれても」 声  『だ、だめであります提督!!     やはりミノタウロスに挑むのは早すぎギャアーーーーーーッ!!!!』 声  『ヒイ!?藍田殿!?藍田殿ォオーーーーッ!!!』 声  『そんな!亮ーーーーッ!!!』 声  『麻衣香!回復!麻衣香ァーーーッ!!』 声  『だだだだめだめ間に合わないぃいいいいっ!!!!』 声  『こ、こっちももう生分身-空蝉-の数が保たないでござギャアーーーーーッ!!!』 声  『───!?眞人!そんな!!』 声  『うおぉ強ぇえ!!つーか強すぎだぁあーーーーーっ!!!     い、今こそ発動せよ羅生門!秘奥義炸裂だぁーーーーっ!!!     ……あれ!?ちょ、そりゃないでしょ!え───なんで発動しないの!?     やっぱ会心発動確率が0.5%だから!?やっ───出て!出てぇ!!     出てぇ羅生門!!羅生門!!出てぇえーーーーーーっ!!!!』 声  『グゥォオオオオゥウウ!!!!』 声  『ほぎゃああああーーーーーーっ!!!!!』 ブチッ……───ザーー…… 刹那 「………」 やがて自動で切れたtellに、俺は静かに十字を切ったのだった。 ミノタウロスを相手にするなんて、無茶するなぁとか思いながら。 耳に刺激が欲しいだなんて贅沢だったな、うん。 普通に薬草積もう、うん。 モシリ、モシリモシリ…… 刹那 「十四、十五、十六……と」 ちくちくともじってゆく。 茎は残して葉っぱだけ取るってのもなかなかどうして、面倒といえば面倒だ。 こんなもんがポーションになるっていうんだからおかしなものだ。 刹那 「これだけ噛んでも回復すんのかな」 さすがにそのまま噛むのはどうかと思ったからやめておくが。 これをそのままグミに加工できたりするんだろうか。 グミの素とかで。 まあそんなアイテムがあるのかも知らんわけだが。 それがどうあれ採取は続くわけである。 俺はあっちに行っては葉を千切り、こっちに来ては葉を千切りを延々と続けるわけだ。 正直退屈極まりない。 こんなことをしていると案外何気ない物事を思い出したりするものであり、 俺はこの時、家庭での出来事なぞを思い出したりしていた。 母親に頼まれた草むしりだのなんだののことだが、 蜂に刺されたことがあるのでいい記憶とは言えない。 幸いにしてこの島には蜂型モンスターなぞ居ないようであり、 やはり敵らしい敵は居ないのだと安堵する。 なお、こんな風にあからさまに居ない居ないと豪語している限りにおいては、 よくよくモンスターが出たりするわけなのだが。 この状況においてそのようなことは断じてないと言い切っておくことにしよう。 刹那 「ふう」 さて、気づけば結構薬草の葉を摘んでいたわけだが。 集合の合図はまだ鳴っていない。 刹那 「………」 ここらへんにはもう薬草が無さそうだし、次行くか。 ───と、軽く移動した先でのことだった。 刹那 「これって……神殿?」 そう。 巨大な石作りの、漫画とかでようある神殿があったのだ。 言うなればパルテノン? よ、よし。とりあえず時間は余ってるわけだし、ちょっとだけ。 ちょっとだけ入ってみよう。 実は話を聞いていた時から気にはなっていたのだ。 外観はなにも無いという感じのものであり、 実際には本当に何もねぇんじゃねぇかコノヤローという雰囲気は確かにあった。 しかしながら光の差し込まない奥の方にはなにやら怪しさが爆発であったわけであり─── 気になってしまったものは仕方ない。 結局俺はこういう好奇心を掻き立てることには弱い性質にあり、 人の大半とはそうやって出来ているものなのだろうとブツブツ考えながら、 扉もなにもないその場所に足を踏み入れたのであった。 刹那 「………」 しかしながらまことに遺憾であるが…… いや、正直遺憾の意味などよくは解っていないスーパー鳥頭である俺ではあるが、 使ってみたい言葉などは確かにあるのだ。 さて、そんなくだらないことをブツブツと考えてしまうあたり、 今の俺はちと混乱している。 もちろん別にこの神殿に罠があって脳がイカレたなどでは断じてない。 どういう原理なのか、一歩足を踏み入れた途端に足音が神殿に響いたのだ。 出入り口だぞ、どうなってんだコノヤローなどと、 思わず思ってしまうのは俺だけではあるまい。 刹那 「からーん、ころーん、からんからんころん♪」 そんなわけだから少々怖くなった俺は、歌とは呼べない歌を口ずさんでみたわけだが─── この歌までもが中途半端に反響し、 戻ってくる頃にはおよそ人の声とは思えんものとなっていたので、 余計に恐怖であったのは記憶に新しい。 ああまあ今現在の話をしているのだから当然と言えば当然なのだが。 刹那 「ええいそもさん!!」 気合を込める意を以って声を上げた!そして意味不明!! だが気合は入ったので走ることにする。 トラップ、なにするものぞ! ───と、勇んで駆けたはいいが……そこはそう広くもなかったのである。 ただ奥に行った場所には薄暗い空間と、石造があるだけ。 刹那 「これって───」 アレだろうか。 悠介さんが解放したゼクンドゥスって精霊の石像。 などと思いつつコンコンとノックをしてみるが───なんの反応もない。 声  『貴様では役不足だ。早々に立ち去るがいい』 と思ったら反応があった。 とても不本意だが的を射てる反応だコノヤロー。 刹那 「えーと、話だけでも聞かない?」 声  『貴様では役不足だ。早々に立ち去るがいい』 刹那 「や、そーじゃなくて」 声  『貴様では役不足だ。早々に立ち去るがいい』 刹那 「あの」 声  『貴様では役不足だ。早々に立ち去るがいい』 刹那 「………」 声  『貴様では役不足だ。早々に立ち去るがいい』 同じことしか言わねぇよこの石像。 まるでハマジリの町の奇妙な人みたいだ。 喩えが古いが、それでもハマジリの町の奇妙な人という印象はピッタリだと思う。 刹那 「……はぁ」 でもしゃーない。 旅らしい旅もしないでレベルも10の位にも行ってない俺だ。 こう邪険にされても仕方ない。 刹那 「出来るなら魔物と契約してみたかったんだけどな」 それこそしゃーないな、よし、とっとと戻って薬草でも摘もう。 今はこっちの方が大事なわけだし。 残高なんて思い出したくもないわけだし。 ───……。 ……。 さて、しばらくして号令を聞いた俺達は、アイルー師匠のもとへと集まっていた。 アイルー『ごくろうさまニャ。早速薬草の数を数えるニャ』 刹那  「たのんます」 豆村  「刹那刹那!!それより向うに滅茶苦茶綺麗な滝がさぁ!」 刹那  「あとでなー」 ───などという遣り取りの中、師匠がズバーと高速で枚数を数えることおよそ45秒。 おいー、どういう指捌きだー。 というかそれは指捌きと言っていいのかー。 アイルー『ビーンが12枚、刹那が45枚だニャ』 刹那  「なぁにやってたんじゃこの野郎ォオオーーーーっ!!!」 豆村  「《ぼぐしー!!》ヘブラァナァーーーッ!!!」 刹那  「12枚ってお前!!普通にやったら四つの茎発見するだけで十分すぎるだろ!      何処で何やってたんだコノヤロー!!」 豆村  「フッ……実はな、綺麗な滝を見つけたもんだから、      裏の方に秘密の入り口が無いかを探したり、      釣りをしたりと《ぼぐしー!!》ブレンダァーーーッ!!」 刹那  「言い出しっぺがそんなんでどうするんだコノヤロー!!      真面目に採取してた俺が馬鹿みたいだろうがコノヤロー!!」 豆村  「いでででで……!!そんなゴスゴス殴るなよ……!!      鍛冶屋漬けだった俺たちにとって外の世界はまさに浪漫の結晶!!      これに興奮しねぇヤツは人間じゃねぇ!そうだろ!?《ボゴス!》へぼっし!」 刹那  「それにしたって12枚はないだろうがコノヤロー!!      お前それって最初の頃こそは探してたけど、      滝を見つけたらずっと遊んでたってことだろうがコノヤロー!!」 豆村  「お、落ち着けぇえーーーっ!!      なんか知らんけど俺さっきからコノヤローって言われすぎだって!!」 刹那  「師匠!こいつとの勘定は別々にしてくれ!」 豆村  「そげな!せ、刹那ぁあ〜〜〜〜っ!!俺達トモダチだろ!?親友だろ!?      同じ想いを背負って好きなおなごを置いて旅立った戦友だろぉっ!?」 刹那  「ああ、“とも”だな。ただし、漢字で書くとこうだコノヤロー!!」 豆村  「ゲゲェエ、そ、その文字は“強敵”!?」 刹那  「そんなわけだから師匠、勘定」 アイルー『解ったニャ、ご苦労さまニャ』 ガシャガシャチンッ♪《刹那は3150$を手に入れた!!》 ガシャガシャチンッ♪《ビーンは840$を手に入れた!!》 豆村  「ホゲェーーーッ!!?      位からして違いすぎる!!しまったぁ!真面目にやっとくんだったぁ!!」 アイルー『先に立つ後悔なんて無いニャ。さ、次はエニックの湧き水ニャ。      澄んだ水色をしている湧き水を汲んできてほしいニャ』 豆村  「エスニック?」 アイルー『エニックニャ』 豆村  「そんな“ス”が語尾についただけで大会社になりそうな水があるのか」 刹那  「名前がそうでも永劫そこには辿り着けないだろ。      じゃなくて、湧き水か。えっと、何で汲めばいいすかね」 アイルー『ここに皮袋があるニャ。それを───』 刹那  「それを?」 アイルー『クックック、有り金全部でボクから買うニャ』 豆村  「よーし刹那ァ、木でも削って器でも作るかぁ」 刹那  「そーだなー」 アイルー『待つニャ!冗談だニャ!!』 刹那  「うそをつけコノヤロー!!目がマジだったぞ今!!」 豆村  「そうだそうだコノヤロー!!      師匠だからって弟子がやさしいと思ったら大間違いだぞコノヤロー!!」 アイルー『だから冗談だって言ってるニャ!!コレ貸すから早く取ってきてほしいニャ!』 コシャンッ♪《イベントアイテム“大きな皮袋”を手に入れた!!》 刹那  「……こんな皮袋に入れて、なにかの菌とか付かないのか?」 アイルー『滅菌素材で作られてる特別製ニャ。だからなんの心配もないのニャー』 豆村  「うむむなるほど。んじゃあ早速行くか」 刹那  「───っと、そうだ師匠。エニックの湧き水があるのって一箇所だけか?」 アイルー『以前来たままだったら結構あるニャ。頑張って探すニャ』 豆村  「おーーーっ!!……ってちょっと待て猫テメェ……貴様はどうすんだ」 アイルー『し、師匠に向かってなんて失礼ニャ!ボクはちゃんと別のものを探すニャ!!      ポーション用の素材をキミたちに任せてるだけだから、      ボクはボクで探すものがあるんだニャ!!』 豆村  「なぁんだそっか」 刹那  「………」 多分どころか確実に、そっちの方が物価が高いんだろうな。 師匠のことだ、そこんところはちゃっかりしてると思う。 アイルー 『それじゃあ行くニャ』 刹那&豆村『おーーーっ!!』 それでも俺達は俺達に与えられた仕事をするべきということで。 ビーンが颯爽と森の中へ駆けてゆくなか、 俺はそそくさと歩いてゆく師匠の項を掴んで持ち上げた。 アイルー『うにゃ〜……』 刹那  「うにゃーじゃなくて。湧き水にもきっちり金払ってもらえるんすよね?」 アイルー『わ、忘れてなかったニャ……?』 刹那  「しーしょーうー?セコイことして金をケチるのは、      師匠の商売人魂に反することじゃあなかったんすか?」 アイルー『弟子には当てはまらないってことでどうニャ?』 刹那  「却下です」 アイルー『わ、解ったニャー……それじゃあ皮袋10杯分の水を      この“歪んだ壷”に汲んでくれたら1000$払うニャ』 刹那  「じゅっ……10杯はちょっとキツイんじゃ……」 アイルー『イヤならいいニャ、払わないニャ。      それと、たとえ汲んでも9杯だったら1$も払わないニャ。      その代わり、10杯分ならきちんと払うニャ』 刹那  「………」 ……ふむふむ、なるほど。 ───よし!やったろうじゃないか!! 刹那  「了解!!これより水汲みを開始します!」 アイルー『その意気ニャ!!』 刹那  「と、その前に。この壷ってどれだけ水入るんすか?      見た感じ、そう入るようには見えないんだけど」 アイルー『“歪み壷”の名前は伊達じゃないニャ!      特殊加工された異次元空間が実装されてるニャ!      だからどれだけ入れても大丈夫だし重さも何故か変わらないニャ。      ミステリーニャ。まあさすがに限界はあるけどニャ』 自分の持ち物のことくらい把握しておこうや。 とまあ心の中で小さくツッコミつつも。 俺は動き出したわけである。 ……まあその、師匠が何処かへ歩いていったのを見計らい、ちっこい壷を抱えて。 フフフ、師匠め……10杯分で1000$と言ったこと……後悔するがいい!! ───……。 ……。 ガヴォガヴォォオオオ……!!! 豆村 「考えたなぁ刹那。まさか壷に直接湧き水を入れる方法で来るとは……!」 刹那 「サバイバルってのはなにも力だけじゃないんだぜ?ここさ、ここを使わねば!」 豆村 「頭突き?」 刹那 「………」 なんだろう。 今、ビーンが“取り返しの付かないくらいの馬鹿”という存在に至ってしまったような。 同レベルに至ってしまったというか。 刹那 「とにかくこうすれば10杯分なんて軽い軽い」 豆村 「つーか重くないのか?」 刹那 「いや、これが全然。軽くヒョイと持ち上げられるぞ」 豆村 「……この中ってどうなってるんだろうな」 刹那 「ヘタに首突っ込むと異次元空間に飛ばされて出てこれなくなるかもな」 豆村 「うおっと!こ、怖いこと言うなよ!」 刹那 「ビーンも月操力が使えなくなったらただの豆だなぁ、うんうん」 豆村 「ただの豆言うな。     俺だってこれからが男を磨く時期っつーのか、とにかく頑張りどころなんだから。     さらば青春!フォ〜〜エヴァ〜〜♪」 刹那 「青春は満喫しないと。じゃあこれからどうすんだ?」 豆村 「強い男になる!もう筋肉だって親父くらいにムキッと!     いやぁ、ジャック=ハンマーのダイヤモンドマッスルって憧れだったのよ。     無駄な脂肪も無く、かといって筋肉がバカみたいに太いわけでもない。     最大トーナメント編終盤じゃなきゃ見れないマッスルだが、あれは貴重だ」 刹那 「腕が折れててもか?」 豆村 「ダイヤモンドマッスルになりたいだけで、腕折りたいなんて誰が言ったか」 それもそうだ。 さて、それはそれとしてだ。 この壷はいったいどれほどまでに水が入るというのだろう。 あとで膨張して爆発するなんてことにはならないだろうかと、いささか不安ではある。 豆村 「まあアレだな。一応皮袋に水を満たして、しばらく持ち上げてよう。     そうすれば、たるんだ皮袋を見て師匠も納得すること請け合いぞ……!!」 刹那 「クックック、そちもワルよのぅぉ〜〜〜っ」 豆村 「クォックォックォッ、お代官さまこそ」 刹那 「……妙なところで血は受け継いでんのな、お前って」 豆村 「え?なにが?」 そのクォックォックォッってところがだ。 というツッコミというか返答はそのままに、俺はやっぱり壷に集中するのであった。 ───……。 ……。 さて、作戦をより完璧にするために壷を元あった場所に置き、 それから皮袋に水を詰めて運ぶこと数回。 集合の合図を聞いて、俺達はニヤリと笑いつつ元の場所へと戻ったのであった。 豆村 「わっせ、わっせ、わっせ、わっせ」 刹那 「ちぃ〜〜〜っす」 何故ここでムッキーの真似をするのかと問われれば、 些かどころか明らかに首を捻る俺達だが〜……まあ、場のノリは人類の至宝ということで。 納得しておくとしよう、今この場では。 アイルー『ご苦労さまニャ。それじゃあ早速水の量を測るニャ』 刹那  「え───っと、そうだよ。測るって、一体どうやって」 アイルー『壷に付属されてる重力観測器があるニャ。      この体温計みたいなものの先を壷の中にそっと───』  ピピンッ♪《計測が終了しました》 アイルー『こうなるわけニャ』 刹那  「おお、なるほど」 豆村  「便利なアイテムには面倒がついてまわるもんだと思ってたけど」 刹那  「俺も」 アイルー『さて、量は……マンタン近くニャ!?      い、いったいどういう汲み方したニャ!?』 豆村  「皮袋に水を詰めて、二人で半分半分の距離を保ちリレーをしたんだぜ〜〜っ」 刹那  「ジョワジョワジョワ〜〜、      俺とビーンにかかればこんなもの屁でもねぇぜ〜〜〜っ」 豆村  「……ジョワジョワってどう考えても笑い方としては不可能だよな」 刹那  「それを言うならギゴガゴーもそうだろ」 アイルー『随分いっぱい汲んでくれてありがとニャ。      素材を提供してくれる分には弟子も業者も関係無いニャ。      この壷はアイテム収納量50個までが限界だから、      50杯分ということになるニャ。      ニャニャ、それじゃあこれは報酬の5000$ニャ』 ガシャガシャチンッ♪《刹那は5000$を手に入れた!》 豆村 「おお〜〜っ、師匠太っ腹〜!」 刹那 「じゃあこの金は山分けだな」 豆村 「センキュー」 ガシャンッ、コサッ……《刹那はビーンに2500$を渡した!》 豆村 「……なんで俺、普通にビーンって認識されてるんだろうな」 刹那 「さあ」 そこのところは俺も謎である。 とまあそんなこんなで二つ目の素材集めが終了。 次は?という視線を師匠に向けると、師匠はコクリと頷いた次第である。 アイルー『それじゃあ最後は浮遊魚・ヨットコの牙ニャ』 豆村  「おうさー!」 アイルー『探してみればヨットコの行動範囲内なら何処にでも落ちてる可能性があるニャ。      でもどうしても見つからない場合は戦わなきゃいけなくなるニャ。      そうなった場合のことも考えて、武器と防具を支給するニャ』 ガシャンッ♪《刹那とビーンはハンティングソードとアイアン防具一式を受け取った!》 刹那  「おお、これは……!」 豆村  「ハンティングソードって……師匠の店の上物装備じゃないっすか!      あ───て、師匠はいいんすか?武器らしい武器を持って無くて」 アイルー『心配ご無用ニャ。ボクは素材集めのためならどんな場所にも行く猫ニャ。      独自に強化したこの爪さえあれば、怖いものは無いニャ』 言って、ウルヴァリンのように爪をジャギィン!と出す師匠。 念のために言っておくが、猫に元々ある爪ではなくナックル系の爪である。 バグナウを強化したようなアレだ。 アイルー『あ、これがヨットコの牙だニャ。      これと同じものを取ってきてほしいニャ。それじゃあ健闘を祈るニャ〜』 豆村  「それって思いっきり戦うことを想定した言い方じゃないっすか〜……?」 アイルー『実はこの時期、ヨットコの牙が中々生え変わらないことで有名な時期ニャ。      だから拾って手に入れられる分以外は倒すしかないのニャ』 刹那  「ゲェ、マジすか?」 アイルー『マジニャ』 言うだけ言うとテコテコと走って言ってしまう師匠。 何故絶対に両手を上げながら走っていくのかは、解明されることのない謎なんだろう。 刹那 「……ふむぅ」 豆村 「んじゃあ……行くか?」 刹那 「おうともさ」 こうなってしまっては拾うか戦うかするしかない。 さて、そんじゃあいっちょやったりますか。 ───……。 ……。 豆村 「ところでさ、俺思ったんだけど……サメの歯って繋がってるのか?」 刹那 「なんだよ突然」 ゴサリゴサリと散策してる中、突如ビーンが語りかけてきた。 豆村 「いやほら、思い出してみろって。ONE PIECEあるだろ?     あれの某ノコギリザメ野郎さ。バキンボキンと歯を取ってたけど、     あれって明らかに歯茎を無視してないか?」 刹那 「ああ、アー○ンな」 豆村 「そう、アー○ンだ」 刹那 「きっと歯茎にも超再生能力が備わってるんだろ。     で、アゴの骨ごともぎ取ってるから歯も繋がってる」 豆村 「なるほど。じゃあ鼻の骨折られるくらいがなんだっつーのって感じだな」 刹那 「まったくだ───っと、牙発見。一個みつけると結構落ちてるもんだな」 豆村 「どらどら?おお、確かに」 ひょいと覗き込んできたビーンの視界に映るのは、砂に小さく埋もれた牙の数々。 俺達はそれを回収すると、次へ次へと歩き回った。 ───……そして、やがて牙が見つからなくなってきた頃。 豆村 「突ゥウウき突き突き突き突き突きィイイーーーーーッ!!!!」 フォンッ!フォンッ!フォンッ!フォンッ!フォンッ! 豆村 「だぁあ当たらねぇえーーーーーっ!!!!」 俺達はヨットコと戦っていた。 が、レベルがザコそのものの俺達では、まず攻撃を当てること自体が難しすぎた。 相手のスピードにまるで付いていけてないのである。 ヨットコ『ロゴォオオオッ!!!』 刹那  「シャラッ!!」 バサァッ!!《刹那の砂かけ!》 ヨットコ『ギアアアアア!!』 ───成功!ヨットコは盲目状態になった! 刹那 「よっしゃやっちめぇーーーーーっ!!!」 豆村 「オーラァーーーイ!!」 空飛ぶ奇妙なサメを、それこそ剣で串刺しにでもするつもりで斬る突く裂く!! だがしかし悲しいかな。武器は強くても俺達のSTR不足で相当に苦労してる。 刹那 「こんの!くそ!か、硬ってぇえーーーーっ!!!」 豆村 「はっ!そ、そうだ!こんな時こそスカーフェイス!!死ねぇえーーーーっ!!!」  ───ザゴシゾシュンッ!! ヨットコ『───……!!』 ドシッ!ドズゥンッ……!! 刹那 「え……た、倒した?」 ぺぺらぺっぺぺ〜♪ 豆村 「よ〜〜っしゃあ!よ〜〜っしゃあ!つーかレベルが一気に6上がった!すげぇ!」 刹那 「や、つーか今の……ってそうか、スカーフェイスか」 名前聞いた途端に思い出したのはキン肉マン二世だが、 よくよく考えてみればサメ+スカーフェイスっていったらアレしかなかった。 つまり目を潰して、そこからヨットコの脳を破壊したわけだ。 恐るべし、バキ外伝。 豆村 「さぁて、そんじゃあ牙を剥いで、と」 ガシュリ……ガシュッ、ショリッ……ピピンッ♪《ヨットコの牙×32を手に入れた!》 で、一度剥ぎ取っただけで塵となるヨットコ。 どうやら牙以外に役に立つ部位が無いらしい。 豆村 「えーと、これから先、ちっとばかし不安だし……レベル上げでもやっとく?」 刹那 「……賛成」 一気に32個も手に入るならと、俺達は駆け出した。 もちろん花山さん戦法を用いて、である。 刹那 「砂かけババァーーーーッ!!ヒィーーッヒッヒッヒッヒ!!!」 バザシャア!! ヨットコ『ギアアアアム!!』 豆村  「オラ死ねぇえ!!」 ザゴシィン!! ヨットコ『ギョェエエーーーーッ!!!』 そんな感じでトントン拍子。 俺としてはヨットコの断末魔の声が異様に気になったりするわけだが…… ともかく俺達は採取と戦いを楽しんだのであった。 ───……。 ……。 刹那 「よっしゃあ師匠!早速換金してくれー!」 ややあって、集合の合図を耳にした俺達はホクホク笑顔で戻ってきた。 牙の数は既に100を越え、これならばと期待に胸を膨らませている故であった。 そう、“あった”なのだ。 アイルー『ヨットコの牙は入手がそう難しいものじゃないから薬草より安いニャ』 過去形って寂しいですね先生。 ヨットコの牙の取り引き額は、2つで50$ってものだった。 結局もらえた金は予想をかなり下回るものの、7500は貰えた。 それをビーンと山分けし、レベルも上がったからいいかぁと思いつつ─── アイルー 『それじゃあ武具も返してもらったことだし、そろそろ帰るニャ〜』 刹那&豆村『その前に防寒具を貸してくれ』 アイルー 『買うニャ?』 刹那&豆村『格安レンタルで』 アイルー 『……二人とも、きっといい商人に育つニャ……』 喜んでるのか呆れているのか微妙な境の顔をされつつ、 貸してもらった毛皮のマントを羽織りっていざ凱旋。 俺達はノースノーランドへと戻ったのだった。 Next Menu back