───冒険の書36/ようこそ魔王さま───
【ケース167:中井出博光/ヒロミチュード-アルテマミックス-】 ───ある人が言っていた。 その森には魔王が住んでいると。 その森は、今俺達が居る場所より遠く離れた場所にあり、 世界の中心からかなりの南東に行った場所にあるのだと。 そして───俺達は─── 中井出「……なぁ〜、何処だよここ」 ナギー『魔王の巣窟じゃ』 中井出「迷いの森の間違いだろ絶対……」 どっかで見たことのある森に居た。 つーかここ、死人の森だと思う。 丘野 「漂う死臭、吹き抜ける腐敗臭……キツッ!たまらんでござる!     は、吐くでござる!拙者、もう吐くでござるよ!!」 殊戸瀬「だ、だめ、眞人……」 丘野 「ご、後生でござるー!!吐かせてほしいでござるー!!」 言うほど腐敗臭は無いが、先ほど食った“モツ鍋”が利いているんだろう。 俺はべつにそういうのを気にする性質じゃないから平気だが。 もちろん他のやつらも。 だが丘野は意外に繊細だったらしい。 藍田 「や、しっかしここに来る時にミノタウロスに会ったのは驚いたよな〜。     よりにもよって全滅。まあ、金をナギーに渡して空に逃がしたのは     かなりのナイス判断だよ殊戸瀬」 殊戸瀬「減られると困るから」 麻衣香「……?なにか買いたいものでもあるの?」 殊戸瀬「……べつに」 ふい、と顔を背ける殊戸瀬二等。 残念だが俺ではヤツの本音を探り出すことは出来ない。 が!丘野二等ならばあるいは─── 丘野 「エ、エチケット袋をこんなに欲したのは初めてでござるよ……」 それ以前にこんな調子である。 無理に喋らせたら今にも吐きそうだ……だめだなこりゃ。 中井出「で……何処をどう進めば魔王とやらに会えるんだ?     まさかあのジュノーンってのが魔王ってことはないよな?」 ナギー『ジュノーンか。あやつは魔王なぞではないぞ。     人々の負の思念から産まれた最悪の災いじゃ』 藍田 「ほへー……そんなヤツだったんか、アイツって」 ナギー『そうじゃ。じゃから攻撃されても痛みを感じないし、それに───』 麻衣香「死なないってこと?」 ナギー『……う、うむ。そう……なるのかの』 中井出「?」 ナギーの様子がふとおかしくなった。 けど特に何かを言おうとするわけでもなく…… 俺はそれを促すのはヤボかと判断し、やめておいた。 言いたくないことなのかもしれないしな。 中井出「さてナギーよ、また分かれ道だ。どっちへ進んだらいいと思う?」 ナギー『だめじゃと言うとろうが。ここの自然はわしになにも教えてくれん。     道は己の直感のみで進むのじゃ』 中井出「直感ときたか。直感といえば原中が誇る───     あぁだめだ、丘野二等はぐったりマイハートだったな」 丘野 「すこぶる申し訳ないでござる……」 中井出「では───殊戸瀬二等」 殊戸瀬「……ん」 促すと、すぐさま道を示す殊戸瀬。 根拠は無いが、なにやら物凄い説得力があったような無かったようなだったので、 疑ることもなく付いていったのだった。 麻衣香「あ、そういえばさ、睦月。さっき木になに彫ってたの?」 夏子 「さっきって言っても、時間的には結構経つけどね」 殊戸瀬「……面白い噂を耳にしたから、獣人伝言板にそのことを彫っただけ」 藍田 「そのことって?」 殊戸瀬「セントールとエトノワールが同盟を結ぼうとしているっていうこと」 総員 (……鬼だ) そんなことしたら獣人たちは喜んで妨害工作に出るだろう。 可哀相に、セントールとエトノワールの人々め。 中井出「まあなんつーかそのー」 藍田 「イエスです提督。それはそれで面白いので最強にオッケーかと」 中井出「おお、やっぱりそう思うか」 むしろそれを知っていたのなら自由人である俺達も妨害したかったくらいだ。 *楽しいことには意地でも首を突っ込みたまえ *少年よ、大志を強奪せよ *楽しさは買ってでも手に入れろ それが原中大原則。 つまり相手の迷惑になることは極力避けつつ、 だが迷惑になると解るや否や暴走せよというもの。 もちろん謝罪の心は忘れません。 迷惑かけっぱなしの人々とは違うのだ。 殊戸瀬「……ん」 さて、そんな遣り取りゥェ〜ンドュ(&)思考展開をしつつも、 殊戸瀬二等が促すままに歩を進めた。 やがて─── 中井出「うお……」 藍田 「うあ……」 丘野 「フベェオヴァッ!!」《ゴプシャア!!キラキラ……》 麻衣香「キャーーーッ!!?丘野くんが吐いたぁーーーーっ!!!」 夏子 「うわわわわ!!いくら腐敗した森だからって、     やっていいことと悪いことがぁああっ!!」 殊戸瀬「………」 人々が騒ぐ中、殊戸瀬二等は黙って丘野二等の背中をさする。 けどまあ……仕方ない。 何故って、目の前には凶々しく巨大な球体があり、 そこからは他の場所とは比べ物にならないほどの悪臭を放っているのだから。 おそらく丘野二等の忍耐(対嘔吐セービングスロー)に限界が来てしまったのだろう。 ナギー『……魔王の巣じゃ』 中井出「これが……?臭いぞ?」 ナギー『う、うむぅ……わしも鼻がひんまがる思いじゃ……』 藍田 「やっぱ魔王って臭いもんなんかな。     そういや魔王と会う勇者ってのは戦って倒すってだけで、     親友が敵の親玉になる〜とかいう漫画、     アニメ、ゲームなどの話以外は大した繋がりがないんだよな。     なんつーの?出会ってもすぐ倒す、とかさ」 中井出「そうだな」 丘野二等が女性陣に介抱される中、 俺と藍田二等とナギーは魔王の在り方についての談義を始めた。 中井出「そう考えると……やっぱ魔王ってのは臭いもんなのかな」 藍田 「清潔そうな魔王もいるけどさ、大体が凶々しいカタチの魔王ばっかだろ?     人の形っつーか顔をしてるヤツってダオス様くらいじゃないか?     ダオス様にしたって周りが魔王って言ってるだけで、     きちんとデリスカーラーンの住人なわけだし」 中井出「じゃあつまり、これだけ臭い巣の中に居る魔王ってのは……」 藍田 「イエスサー、おそらく凶々しいほうのカタチかと思われます」 ナギー『巣、とはいっても封印されてる状態じゃな。     喩えで言うなら孵化しようとしているような状態じゃ』 中井出「じゃあこれって卵か?」 ナギー『そうなるの』 藍田 「勇ゥウウウウ者ァアーーーーーーーーッ!!!!」  メゴシャァアーーーーーーンッ!!!  どごごしゃばきべきごしゃーーーん!!! 中井出&ナギー『おわぁーーーーーーーっ!!!!』 藍田二等が蹴り込んだ卵(?)が宙を地面と平行にスッ飛び、 奥の大木へとぶつかって転がり滑ってドクドクと謎の液体を吐き出した……!! 中井出「ってなにやってんだお前ぇえっ!!」 藍田 「イェッッサァッ!!魔王とはいえ卵で孵化する前ならばザコかと!     通常のRPGでは有り得ない行動に出てみました次第であります!!」 中井出「うむぅ!よくぞやった藍田二等!!     じゃなくて!ぬおお……!俺もやってみたかったのに半歩行動が遅れた……!!」 藍田 「そっ……それは失礼しました!サー!!」 腰の双剣に手を掛けている俺を見て合点がいったのか、藍田二等は納得気味に敬礼。 そしてゴポゴポと、割れた先から汁を吐き出す卵。 ナギー『む、無茶苦茶よの……ヒロミツたちはいつもこんな行動をしているのか……?』 中井出「うむ!概ね間違いない!」 藍田 「さっすが提督!そこで胸を張れるとは!そこに痺れる憧れるゥ!!」 中井出「ちなみにこれはノリで言ってるだけで、     実際はそんなことないので気にしないように」 藍田 「我ら原中はノリを大切にします」 中井出「……な?否定してくれないだろ……?」 ナギー『ヒロミツもいろいろ大変なんじゃな……』 中井出「いや……もうこの話やめよ……?それよりさ、あの魔王をどうするかだけど」 未だにゴポリゴポリと汁を吐き出してる卵を見る。 こうなってしまっては、さすがの魔王も無惨だなぁ。 藍田 「む……!?提督に報告します!あの卵───動きました!サー!」 中井出「なにぃ!?もしやゴキブリ!?」 ナギー『それはないじゃろ』 俺もそう思う───つーかそうであってほしい。 えーと、どうしよう。 1:トドメを刺す 2:熱して卵焼きにする(玉子焼きじゃないのがミソ) 3:助ける(苦しまぬよう、一撃で) 4:様子を見る 結論:───1! 中井出&藍田『死ねぇええーーーーーっ!!!』 やはりここはRPGでは絶対にない行動!! 殺れ!ツブしちまえ!!魔王がなんぼのもんじゃーーーい!! 卵  『〜〜〜!!』 ───と、襲いかかろうとしたまさにその時! 卵がゴガガッと動き、ガッシャァアアアアアアアンッ!!!と破裂したのだ!! 中井出「な、なにぃ!?」 藍田 「じ、自爆したぁーーーーーっ!!!」 そう……傍から見れば明らかに自爆! いったいなにが……!? 中井出   「す、すげぇ……まさか産まれる前から自爆する習性を持ってるなんざ……        ルガールの旦那もびっくりだぜ……!!」 藍田    「魔王が自爆しちまった……冒険の目的はどうなるんだ……?」 声     『うおおおおおおお!!!!』 中井出&藍田『む───!?』 サブタイトル:振り向けばそこに。 名の示す通り、声のした方を見てみれば─── なんとそこには力を溜めてるような体勢の老人が居るではないか! 魔王?『ナーヴェルブラング───ふっかぁーーーーつ!!!』 ……名前はナーヴェルブラングというらしい。 つーかいつの間に後ろに? 中井出「……あいつが魔王?」 ナギー『そ、そうじゃ。ナーヴェルブラング……     かつてこの世界を滅ぼそうとしていた不死王じゃ……!』 ……の、割にはかわいそうなくらいヨボヨボのようだが……。 魔王 『出れた……やっと出れた……はあはあ……!     ち……ちくしょー!ちくしょーーー!!     あのくそ忌々しい勇者どもめ……!!     このわしを封印した上にこんなところに閉じ込めやがって……!!』 中井出「……なんか語ってるようなんだが」 ナギー『かつてこの世界に居た勇者たちが、あやつを封じたのじゃ。     そして何かの卵に見せかけることで、誰かが割ったりしないようにと……』 魔王 『皆殺しだーー!!皆殺しにしてやる!人間どもめ!!     それもただ殺すだけでなく、     ネチネチジワジワ味わわせてなぶり殺してやるーーーーっ!!     わしの受けた屈辱を百倍にして返してやるぞーーーっ!!』 中井出「……なんかセリフが滅茶苦茶三流なんだが……」 ナギー『ヒ、ヒロミツは解っておらんのじゃ!あれこそが純粋な魔王ということに……!』 ……まあ、いろんな意味で三流っぽい言葉を吐くのが魔王ってのはよく解るが。 確かに俺が見てきたどのゲームの魔王よりも魔王っぽいと言えば魔王っぽいかも。 ……つーかこっちに気づいた。ようやく。 なんて反応の鈍い魔王さまだ。 魔王 『ガ……ガキだ!丁度いい……人間どもへの人質にしてやる!!     うおおおおおおおおおおおっ!!!!』 ていうかこっちに向かって走ってきた。 魔王 『うおおおおおおお《ガツッ!!》おぉおおっ!!!?』 ビタァーーーーーン!!! ……そして、木の根元に足を取られて顔面から転倒。 なんだかもう見てられないほどに可哀相になってきた。 中井出「なんだこいつ……」 藍田 「変態か?」 魔王 『変態じゃねぇーーーっ!!』 ガバリと起き上がる魔王さま。 その鼻には鼻血が流れていた。 おお、ちゃんと紫っぽい血だ。 ちゃんと、って喩えもヘンなもんだが。 魔王 『貴様らーーーっ!!事の重大さが解っているのかーーーーっ!!     わしはかつて世界を恐怖のドン底に陥れた不死の王!     ナーヴェルブラングさまだぞーーーーっ!!!』 藍田 「なにそれ」 中井出「ナーヴェルブラング?知らねー」 魔王 『家に帰ったらおじいちゃんかおばあちゃんに訊いてみろ!きっと知ってる!!     しかし帰さん!貴様らは大事な人質なんでなーーー!!     腐敗せし大地より生まれよ!我がしもべ……“アンデッドウォリアー”!!     はーーーーーーーーーーーーっ!!!!』 総員 『!!』 魔王が凶々しく輝く左手を前に突き出す!! やがて─── 中井出「………」 藍田 「………」 ナギー「………」 やがて…… 魔王 『───あれ?アンデッドウォリアーがでねー』 中井出「なにが『はーーっ!!』だコノヤロォーーーッ!!」 藍田 「エクササイズドナルドかてめーはーーーーっ!!!」  バゴシャメゴキャア!!! 魔王 『ギャアーーーーーッ!!!!』 何気にドキドキと期待と不安に胸を膨らませていた俺と藍田は、 気づけば落ちていた太目の木の棒で魔王の顔面をブン殴っていた。 中井出「やっちまえーーーーっ!!オラーーーーッ!!!」 藍田 「オラオラーーーーッ!!!」 ドゴバキゴスバスドゴドゴ!! 魔王 『うぎゃーーーっ!やめろーーーっ!わしはナーヴェルブラングだぞーーーっ!!』 やがて四つん這いになって頭を守るように屈み込んだ魔王を、 俺と藍田でボコボコにしてゆく。 や、なんつーか……この体勢の時点で魔王としての威厳はゼロだった。 丘野 「ふぅ、スッキリでござる……ってなにをしているでござる!ご老体になんという」 中井出「魔王だ!」 丘野 「勇ゥウウウ者ァアアアアアッ!!!!」 丘野くんが仲間に加わった!! それに続き、麻衣香、木村夏子、殊戸瀬までもが仲間に!! 魔王 『うぎゃーーーっ!!やめろーーーーっ!!!     貴様ら誰に向かってこんなことをしているのか解っているのかーーーーっ!!     わしはかつて世界を《ゴバキャア!!!》ぶべら!!』 総員 『オラオラーーーーッ!!オラオラ!!』 魔王 『うぎゃー!やめろー!わしはナーヴェルブラングだぞーーーーっ!!』 ───……。 ……。 プスプス…… 魔王 『ヘルプミ〜〜……ジェントルメェ〜〜〜ン……』 やがて動かなくなった魔王を見下ろして、 俺達はつい調子に乗ってしまったことに頭を痛めた。 うーむ、相手が魔王だからとはいえ、やりすぎたか? 魔王はぐったりと倒れながら、 いろんな場所にあるタンコブから煙のようなものを出していた。 魔王 『ウググ……!よもや再び人間どもにやられようとは……!!     わしの不死の能力も長い封印の所為で錆び付いていたらしい……!     わしはどうやらここまでのようだ───が!!』 ボゴッ!ゲファリ───ボゴォン!! ───なんと!魔王が口から卵を吐き出し、遠くの空へと飛ばズボシィ!! 殊戸瀬「……ないすきゃっち」 魔王 『ホゲェーーーーーッ!!?』 ……否。 いつの間にか木の上に昇っていた殊戸瀬二等がジャンプしてそれを抱きかかえた。 魔王 『な、なななんてことを!     貴様ら悪魔か!!それにはわしの果たせなかった野望の全てが!!     くっ……!こうなったら最後の力を振り絞り、貴様らもろとも自爆してやる!!』 総員 『なにぃ!?』 魔王の目……こりゃマジだ!! つーか卵のことはいいのか!? 魔王 『我が散り様を見よ!!我が究極の秘奥義───“アルテマメガンテ”!!     はーーーーーーーーーーーーっ!!!!』 総員 『───!!』 逃げ───間に合わない!! このままじゃ─── 総員 『………』 魔王 『………』 このままじゃ…… 魔王 『……あれ?アルテマメガンテがでねー』 ボゴボギャア!! 魔王 『うぎゃあーーーーーっ!!!』 中井出「なにが『はーーっ!!』だコノヤロォーーーッ!!」 藍田 「エキササイズドナルドかてめーはーーーーっ!!!」 魔王 『うぎゃーー!!やめろーーー!!わしはナーヴェルブラングだぞーーーっ!!』 丘野 「やっちまえーーー!!!オラーーーッ!!」 総員 『オラオラーーーッ!!!』 こうして我らは、反応がいちいち漫★画太郎キャラっぽい魔王をボコボコにし、 やがては塵にして葬ったのであった。 ───……。 ……。 ぺぺらぺっぺぺ〜♪ そうして物心ついた時には、僕らのレベルは60に達していたのであった。 ……魔王なのにそれ以上の経験値を持ってなかったってのも サギもいいところだとは思ったものの、 まああんな魔王じゃあしょうがないのかもしれないと諦めることにした。  ジャッチャーンチャチャーンチャーンチャチャーーーーン♪ 《隠しスキルに“秘奥義”が追加されました!!》 中井出「はぁ〜〜〜ぁああ……ようやく60か……」 精霊倒したりモンスター倒したりして地味にコツコツ上がってはいたが、 ようやくって感じだ。 正直ノーム戦以外に一向に出ない羅生門よりも、普通の秘奥義の方が期待してはいた。 もちろん羅生門も好きなんだが、ここぞという時に全然出ないと目も当てられん。 なんとかして鎌鼬のスキルとボマースキルと、特に会心スキルを上げないと。 中井出「さて殊戸瀬……その卵どうするんだ?」 殊戸瀬「……ん」 ドスリ。 中井出「オウ?」 殊戸瀬「臭いからあげる」 中井出「えっ───ちょ、なにそれ!!臭いと俺に渡すの!?なんで!?     これだけ人数が居るのになんで敢えて俺に渡すの!?     それじゃ俺が同類で臭いみたいに聞こえるよ!?     ち……違うよ!?俺ちゃんと身体洗ってるもん!!」 麻衣香「お、落ち着いて博ちゃん……言動が幼児退行してるから」 中井出「あ、あ、あぁ、えっと、ゴホリ。つーかなんで俺に渡すんだ?マジで」 殊戸瀬「臭いから」 中井出「これは魔王の唾液が臭いだけだよ!     そういうことは卵を見ながら言おうよ!なんで俺を見て言うの!!     つーか臭っ!臭い!ほんと臭いよこれ!なにこれ!な《ビシィッ!》ヒィッ!?」 なんだかんだで抱きかかえていた卵に亀裂が───!! う、産まれる!?馬鹿な!吐き出されてまだ少ししか経ってないのに!! 口から吐き出すことからもさながら、生まれてくる子はピッコロさん!?  ミシッ!メキッ!バキッ!ガシャアン!! 総員 『───!!』 奔る緊張!!キンチョウといえばリキッド!リキッドといえば───パプワ!? ああやばい!頭が混乱してる!俺の聖地(ジハード)
はどこ!?TDLじゃないのは確かだ! *TDL=東京デズニィ〜ランドゥ ともかく割れた卵から出てきたのは───なんと!!……子供だった。 子供 『う……んぐ……』 こんな薄暗い景色の中でも眩しそうに目を瞑り、 しかしゆっくりと、ふるふると震えながら辺りを見渡す。 その様はまるで……そう、仔猫のようだった。 女性陣『かっ……』 中井出「カワイイ禁止」 女性陣『………』 図星だったらしい。 女ってなんでちっこいものとか見ると『かわいい〜』って言いたがるんだろうか。 ともかく。 なにやら魔王(子供)は、自分を抱えている俺を見上げる。 そんな彼に俺から言えることはただひとつ! 中井出「やあ、マイサン。パパだよ」 総員 『な、なんだってぇーーーーーっ!!?』 こんなことくらいだった。 そして今にして思えば……何故そんなことを言ってしまったのかと後悔する。 魔王 『ぱぱ……ちち……うえ……───父上!』 中井出「あれ?」 総員 『………』 属に言う、“スリコミ”ってやつが成立しちまったらしい。 最初に言っておくがこの魔王は男である。 最近のRPGのボスは女が多いが、それに対しての配慮だと思いたい。 ともかく俺は今、この時を以って─── ヒロラインにおける魔王の父というポジションに立ってしまったのだった……。 ───……。 ……。 ヒソヒソヒソヒソ……ヒソヒソ……ヒッソォ……!! 丘野 「信じられんでござるな……!よもや魔王の父になるなど……!」 藍田 「発想がブッ飛びすぎてるぜ……!さすが提督だ……!」 麻衣香「それじゃあわたしが母親……?これって巻き添えって言っていいのかな……」 夏子 「さすが提督よね、ほんとに……」 丘野 「別に母親が居たら襲う気だったでござるよきっと……!」 藍田 「さすが……」 丘野 「エロ……」 麻衣香「エロイ族……」 夏子 「エロマニア……」 殊戸瀬「ウエストポーチ……」 中井出「あ、あのさ……全部聞こえてるからさ……。     内緒話したいならせめて見えない場所でしようよ……。     それとウエストポーチってなにさ……」 さて……裸だった魔王に殊戸瀬二等が裁縫スキルで服を作り、着せたのが数分前。 そして、整った顔立ちの、 いわゆる二枚目に育つであろう資質を持った魔王が俺の隣に座ったのがたった今。 その目は俺を父だと思い疑わぬものとなり、今や俺は猛者どもの恰好のネタだった。 魔王 『父上。父上の現在の状況を教えてもらえますか?     僕はまだ何も知りません。こうして言語能力は備わってはいますが───     やはりあれですか?“世界征服”を目論んでいるのでしょうか』 中井出「むう……」 どうしよう。 ここはやはり華麗に騙すべきか? ていうか標準で世界征服回路は組み込まれてんのね、キミの脳内って。 中井出「我らは現在、世界中をゆっくりと旅している。それだけである」 魔王 『旅を……?何故そのようなことを。一気に支配してしまえば───』 中井出「まだまだ器が小さいな、マイサン……。     ならば逆に問おう。貴様は支配者になったその先で、いったい何がしたい?」 魔王 『えっ───あ、いえ、それは───』 中井出「支配してしまった先で何を望む。     永久の堕落か?はたまた支配した状況を楽しむだけか?」 魔王 『……なるほど。失礼しました父上、確かに父上の言う通りだ。     支配したところで目的が無ければなんの意味もない……。     すいません父上、僕はまだまだ未熟者のようです……』 中井出「無理もないだろそりゃ……」 産まれたばっかだし。 魔王 『目から鱗が落ちた気分です。闇雲に支配支配と謳っていても意味はないのですね。     ───では父上はどういった目的で旅を……?』 中井出「この世界を知るための旅だ。支配するのではなく、一から十までを知るための旅。     解るか息子よ。世界はこんなにも広く大きい。     その大地を一歩一歩踏みしめ、知ってゆくのが目的なのだ。     人々と同条件で強くなり、やがて頂きへと辿り着く……。     その方が達成感はあるだろう」 魔王 『おお……!なるほど!そういうことだったのですね!さすが父上だ!』 中井出「うむ!ということでまずは貴様に名を授けたいと思う。     魔王魔王じゃあ個性に欠けるだろう」 魔王 『はっ!ありがたき幸せ!』 片膝を付き、バッと片方の拳を地面に付ける魔王。 ……なんか俺、ヘンなスイッチ入りそうで怖い。 中井出「名前は……そうだなぁ」 丘野 「ゴメスだ!」 藍田 「ロドリゲスだ!」 麻衣香「セニョール・パンチョス!」 夏子 「パンチョでムーチョ!」 殊戸瀬「トバル2にちなんで“オーマ”で」 ナギー『時折おぬしらが夜毎魘されている“ダニエル”でどうじゃ?』 総員 『大!却!下!』 中井出「というわけで決まり!貴様の名前はルウェイン=ヴァルドレット!     略して“ルー”!OK!?」 丘野 「もっと凶々しい名前のほうがいいでござるよ提督殿」 藍田 「ゴメスって凶々しいのか?」 丘野 「知らんでござる!」 麻衣香「どことなく語呂がトレイン=ハートネットに似てるね」 中井出「あ、確かに。じゃあ却下」 魔王 『………!』 魔王は自分の名前に考えを巡らせている俺を見て、なにやら嬉しがっている。 偉大な父(と思われてる)が自分のために悩んでくれているのが嬉しいんだろう。 魔王 『あ、あの、父上!談義中のところを失礼!     ち、父上の名前は、その……どういったものなのでしょう!』 中井出「むう!いい質問だ!誰ぞと問うなら応えよう!     遠き者は耳に聞け!近き者は目にも見よ!     俺が原沢南中学校提督!中井出博光であるーーーーーーっ!!!!」 どーーーん!! 魔王 『は、はああ……!!』 精一杯自分を大きく見せようと振舞ってみました。 すると魔王はなにやら驚いたのか、ぺたりと尻餅をついて俺を見上げていた。 中井出「ええい貴様なにをしている!男児が易々と尻餅をつくとは何事か!!」 魔王 『!は、はい!失礼しました!』 中井出「“はい”ではない!“イェッサー”だ!」 魔王 『イ、イエッサー!!』 中井出「声が小さいぞヒヨッ子めが!!もう一度!サーイェッサー!!復唱!!」 魔王 『サッ───サー!イェッサー!!』 中井出「うむよし!いい返事だ!!」 麻衣香(あぁ……ここにまた原中の犠牲者が……) 藍田 (こうしてこの魔王もナギーみたいに別の方向へと邁進してゆくんだろうなぁ……) 丘野 (南無ゥでござる……) ナギー『おおぉ……こうなると魔王はわしの後輩みたいなものなのかの?     なにやら嬉しいのじゃー』 一方は案外平和だった。 丘野 「まぁそうは言うけど、ナギーはまだ新兵だしなぁ」 藍田 「俺達も二等兵暦長いけど、経験からするともう兵長あたりも夢じゃないし」 麻衣香「でも指揮者ってガラじゃないから二等兵続けてるんだけどね。面白いし」 夏子 「うんうん。号令かけたりするのは提督さんだけで十分って感じかな。     もうそれに慣れちゃったし」 ナギー『そうなのか』 魔王 『すごい……!父上は皆に信頼されているのですね!』 中井出「そうだろう、父さんは凄いだろう。……凄いよね?」 丘野 「いや……だから何故拙者に訊くでござるか」 当然、信頼されてるのかが疑問だったからなんだが。 中井出「で……名前だが。シード=アルファーフォートっていうのはどうか」 殊戸瀬「シード……種?アルファはギリシャ語で1……意味は?」 中井出「無い」 丘野 「おおギリシャ語でござるか!     なら拙者は“エプシロン=ラジオタイソウ”がいいでござる!」 麻衣香「丘野くん。ギリシャで言うとエプシロンじゃなくてイプシロンだよ」 殊戸瀬「ラムダかシグマかオメガも捨てがたい……」 藍田 「じゃあ“シングマ選手”で」 夏子 「やっぱりここは手堅く“アズマシンボリ”で」 中井出「そんな博打狙いの名前を宅のカワイイ魔王ちゃんにはつけられません!!     というわけでシード!シードに決定!」 藍田 「フルネームはシード=ヴァン=ジルエット」 中井出「違う!ナギーと同じでシードだけ!     考えてみりゃあフルネームまで考える必要なかったわ!」 ナギー『じゃの。ナーヴェルブラングもフルネームはナーヴェルブラングのみじゃ。     気にすることでもなかったのじゃ』 中井出「……よし、決まりだ。     今日から貴様はシードと名乗れ。魔王のヒヨッ子である貴様は種だ。     いつまでも初心を忘れぬ男であれ」 シード『はい!父上!!』 その時のシードの目は───魔王と呼ぶにはあまりにも眩しすぎる眼差しだったという。 麻衣香「じゃあ……これからどうしよっか」 中井出「ひとまず……シード用の装備を手に入れに行こう。     どうせなら黒っぽい胸当てとマントとかを着せてやりたい」 麻衣香「あ、うん、それいいかも。イメージにピッタリ」 夏子 「カッコイイ子に育つよ、きっと」 シード『……なんだ貴様ら馴れ馴れしい。僕は今父上と話しているんだ。     関係の無いヤツが話し掛けるな《ゴツン!》うあッ!?』 夏子 「ゴメン……中身は結構シビアかも」 麻衣香「なんていうか男版のノアちゃんみたい……」 中井出「あ……うん……それいいかも……。イメージにピッタリ……」 ゲンコツの痛みに頭を抑えているシードを見やりつつ。 性格は多分悪くはないんだが、隠し事が苦手な性質と見た。 だから思ってることを素直に言ったりするわけで……。 はぁ……魔王なのになんて素直なヤツなんだ。 いや、魔王だからか? 中井出「シードよ。彼ら彼女らは我が同胞。無礼な言葉は禁物ぞ」 シード『そ、そうでしたか父上……失礼いたしました』 でも態度を改めるつもりはあまりないと見た。 いやぁ……こうなってみると晦や彰利の苦労が身に染みて解るっつーかなんつーか。 絶対、ウィルオウィスプと契約した時の晦の気持ちってこんなんだったんだろうなぁ。 丘野 「ではここでこうしているのもなんでござる。そろそろ動くでござる」 ナギー『そうじゃの。わしはもっと綺麗な空気の場所に行きたいのじゃ』 麻衣香「こんな場所で焚火を囲む方がどうかしてるのよ……」 夏子 「そうよね……アンデッドたちはやたらと懐いてくるし……」 総員 『それはキミだけだから』 ネクロマンサーの性質故なのか、何故かアンデッドモンスターに好かれている木村夏子。 その目は既に涙目というか、目と同じ幅の涙をタパーと出してる。 中井出「そら、行くぞ。ぼやっとするな馬鹿者め」 シード『は、はいっ!父上!』 一度言ってみたかったセリフを言うと、シードは跳ね上がるようにして立った。 いやね?実は俺、息子も欲しかったのよ。 麻衣香は断然娘派だったらしいがね。 だからなんつーかこう……言ってみたかった言葉って結構あったりする。 特にこう……ぼやぼやしている息子に“ぼやぼやするな、馬鹿者め”と言うのは、 一種の叶わぬ夢っていうくらいの域に達した言葉だったのだ。 かっ……感無量!? まあそれはそれとして───こうして我らは新しく入った愉快…… かどうかはまだ解らない仲間とともに、旅を再開させたのであった。 Next Menu back