───冒険の書39/それからしばらく───
【175:弦月彰利/そうして再び時は流れ───】 再びヒロラインに降りてどれくらい経ったのか……。 数えるのも適当に過ごし、それぞれの勢力がそれぞれの利益になることをする中で、 俺達は目的地と決めていた場所に辿り着いた。 彰利 『ここが完全無比超人になれるトロフィー球根のある黄金の国ジパングか〜〜っ!』 悠介 『どれ、明日は大暴れしてやるとするか〜〜〜っ!』 などとブキャナンとマスクドアラジンの真似をしてる場合ではなく。 しかし何故無意味に語尾を延ばしてんだろね、あの言葉。 それはそれとしても、悠介も大分ノリがよくなったもんだ。 聖  『パパに近づかないで!』 椛  『おじいさま!おとうさんを独り占めしないでください!』 ……相変わらず人間には嫌われてるけどね。 けど悠介はそんなことはお構いなしって感じだ。 嫌ってくれるなら是非嫌ってくれって、そんな感じ。 悠介 『………』 ふと目が合うと、肩を竦めて“気にすんな”って目で語りかけてきた。 ノリに付き合ってはくれるが、“娘のためにも俺には干渉すんな”って顔だ。 はぁ……なんだかんだでやっぱ危ういんだよなぁ、今の悠介。 感情だって蘇ったわけでもない。 ただ、意識して沈んでない感情だけを表に出してるだけだ。 彰利 『………』 はぁ〜あ……いつからこんなんなっちまったんだろな。 俺達は、普通なら平々凡々に暮らす人間として生まれてくる筈だったんだろうに。 月の家系に産まれた所為? それともいろんな世界の出来事に首を突っ込んだ所為? ……はは、どれもだろうな。 でも後悔だけはしてやらない。 したって遅いから後悔なんだ、どうしようもない。 過去に飛んで過去を変えて、その過去の住人になろうだなんて思わないし、 そもそも俺はこの世界の最果てこそを見てみたい。 その時に自分がどうなってるかなんざ知ったこっちゃない。 俺はまだまだ“親友”を語るには遠いけど、なにか───大きな出来事を。 それこそ未来が変わっちまうような出来事を乗り越えられた時、胸を張って…… 彰利 『まあいいケド!そんなことよりこの書状使って、     残りの二国を引っ掻き回してやろうぜ〜〜〜っ!!     もちろん今まで使わなかったのは相手が油断するのを待っていたため───     クォックォックォッ、王様どもめ……度肝を抜かれるがいいぜ〜〜〜っ!!』 聖&椛『わたしも手伝(う)(います)!!───〜〜〜!!』 はっはっは、危ないぜマッハウィンディー。 今日もボクの可愛い娘たちがボクを取り合って闘争本能爆裂さ。 悠介は相も変わらず我関せずだし。 でもさ、そうするとキミってばなんのために我らと同じところに残ったの? 悠介 『……ふむ。よし、じゃあ俺このパーティー抜けるから』 彰利 『あらそう?って!えぇえええっ!!?』 聖  『さよーなら。二度と現れないでくださいね』 悠介 『ああ。改めて言われるまでもないな。んじゃなー』 彰利 『ちょちょちょちょっと待ってボクのキミ!!     なんで!?何故いきなりそげなことに!?もしや俺の心を読んだ!?     はたまた俺の心がキミに届いた!?ハートに届いたプラクティッス!?』 などと言ってる間に、みるみる全速力で遠ざかる彼。 もはや返答する気も無かった……いや。 元々こうするために仕組んだとしか言いようがないくらいに鮮やかな逃走だった。 やべぇ……今の彼の考えがまるで読めん。 もしや可愛い娘たちにドメスティックなバイオレンスをされていた?って、ちと違うか。 椛  『………』 聖  『………』 彰利 『えぇと……うう……』 そして残された俺は、娘たちにガッチリホールド状態で動けない、と……。 是非事情を訊きたかったが、これではままらなんね……諦めよう。 彰利 『フフフ……よぅし!ならば次会う時は彼の度肝を抜く超人になっててやるぜ!』 悠介がなんぼのもんじゃい!今度の俺はちょっと凄いよ!? というわけでまずはこの書状を使って二国を大いに揺さぶります!! もはや俺の中に慈悲の文字は無ぇぜ〜〜〜っ!! 彰利 『……というわけで離して?』 聖&椛『ヤ』 彰利 『一言な上に即答ですか……』 早速頓挫しそうな状況に泣けそうだった。 ゴッド、どうか俺を助けてくれ。 そしたら貴様をチェーンソーで斬殺してあげるから。 【ケース176:晦悠介/フランネール】 ───そうして、一人になった現状に改めて溜め息。 悠介 「〜〜〜……っはぁあああ〜〜〜……」 ぐぅっと大きく伸びをして、身体を少し休ませた。 さて、これで一人になったわけだが─── 悠介 「目的通り、って言っていいやら悪いやら」 ただもう、彰利と居る理由は希薄だ。 あいつはどうやら考えるところがあるようで、もう俺を親友としては見ていない。 だから一人になった、なんて子供みたいな意地を張ったわけじゃない。 ただ俺は俺で、自分探しをしておきたいだけだ。 それに彰利を巻き込む道理はもう存在しない。 悠介 「さてと、じゃあ───俺は俺でこの世界を旅するかね」 獣人の衣服はもう脱いである。 あとは好き勝手に冒険するだけだ。 元々“どっかの勢力”ってので縛られるのは性に合わない。 獣人勢力に戻るのは気が向いた時だけで十分だろう。 悠介 「よし……まずは自分の在り方に逆らうとこから始めてみようか」 そのために彰利と別れた。 守りたいものから離れることで、“自分”ってものを見つけたかったからだ。 自分のことを後回しに考えるこの思考を砕くために、 俺は俺を守るためにこの世界を生きてみる。 それが、この世界で俺が見つけた新しい俺の生き方だ。 悠介 「ここには誰の助けもない。だったら……思う存分自分を試せる。     お誂え向きだ、なんで気づかなかったんだか解らんくらいだ」 彰利を一人にして何処ぞへ行くのが嫌だった〜、なんて理由はポリバケツ行きだ。 考えたところで無駄ってもんだ。 つまらん理由詮索なんてそれこそ捨てちまおう。 悠介 「よーーーっしゃ!!俺は自由だぁーーーっ!!」 叫び、そして走り出す。 既存破壊の号令が今こそ高鳴る!! 既存!コレ即ち俺自身!!破壊!今までの俺の法則! ……うん、普通に考えて無理だな。 地道に行こう地道に。 悠介 「金も彰利に全部渡してたし、武器も獣人武器以外……     となると、本気の本気でレベル以外は最初っからだな」 ああ、あと知識はそこまで初心じゃあ無い筈。 あとはじっくりと自分を探していきゃあいいだけだ。 よぅし、とりあえず魔王だ。 魔王討伐をしてみよう。 夢はおっきくだ!(注:中井出ら一向に既に屠られていることは知らない) レベルももう60以上だし、より精進していきゃあ魔王だって一人で潰せる筈。 ……と、そんなわけで俺の独り旅が始まった。 人として回ること自体少なかったから、これはこれで新鮮な旅の始まり始まり〜…… 悠介 「あ、でも───そうだな。全然構ってやれなかったし」 始めるのはもう少し経ってからだ。 さて、あいつら何処に居るかな……。 【ケース177:桐生真穂/前略するほどの思いも今では希薄のマイハート】 ───前略、居もしないお父様。 わたしたちも晴れて60レベルになった昨今…… 提督さんたちのレベルが怖いくらいに気になります。 あのドリアードの大樹で別れてから一体何日経ったのか……。 夏の終わりまでに攻略しきれそうにないからと、 現実世界とヒロラインの時間の流れを さらに圧縮するという通知を受け取ってからというもの、 もうこの世界で何日経ったかも忘れてしまった。 仁美 「ムツゴローーーッ!!」 魔物衆『ウオォオオーーーーーーーッ!!!』 なんのかんので宝玉を貰い、さらに高みを目指していたわたしたち─── その中でもお母さんは滅茶苦茶で、魔物と出会うと意地でも仲間にしていた。 もちろん同じモンスターは仲間には居ない。 軽いコレクション感覚で仲間を集めてるらしかった。 このヒロラインにおける仲間とは───どうやらダイの大冒険で言うところの…… なんだったっけ?あのホイポイカプセルみたいな筒。 ともかくアレに収納できるらしい。 仲間にすることに成功するとモンスターは筒になって、それに呼びかけると出現する。 ただし筒から出した状態では回復しないらしく、わたしたちと同じように 外に出したままで連続戦闘なんてやろうものなら、ものの見事に筒ごと崩壊する。 呼び出し文句はお決まりの“デルパ”。 でもそれを言うと全部の筒から全員が出てきちゃうので、 筒を持ってモンスターの名前を呼んで出すのが今では定着している。 お母さんは妙なところでぬけているけど、教師になれるくらいには頭はいいので…… 実際、今まで仲間にしたモンスターの名前を全て覚えてる。 筒の形と名前が一致してるならこれほど呼び出しやすい環境はないだろう。 ───などと思っていた時。 悠介 「やあ」 ルナ 「悠介!?」 夜華 「悠介殿!?」 晦くんらしからぬ登場の仕方で登場したのは……まあ、晦くん。 なにを言ってるんだろうかわたしは。 ルナ&夜華『今まで何処に行って彰衛門は何処に一緒に行って教えてください怒るよ!?』 悠介   「何言ってるか解らんから一人ずつ喋ってくれ」 現状では的確なツッコミだったと思う。 真穂 「晦くん、今まで何処でなにやってたの?連絡も全然繋がらないし───」 悠介 「ん?んー……ちょっとな。気にしないでくれ」 真穂 「それは無理」 悠介 「じゃあ気にするな」 真穂 「わぁ」 お願いが一変して命令系になった。 もちろん命令する気なんてさらさら無いんだろうけど。 悠介 「まあそんなわけでルナ貰ってくけど。いいか?     いや、有無も言わさず奪う。さらばじゃぁあーーーーーーっ!!!」 真穂 「え?ぃやちょ《ドシュウウゥウウン!!!!》速ァアーーーーーッ!!!?」 …………えーと…… 夜華 「悠介殿!?悠介殿ーーーっ!!彰衛門の居場所を───」 物凄い速度でルナさんを攫った晦くんは、やっぱり物凄い速度で見えなくなってしまった。 ……晦くんってこんなに強引な実行力のある人だったっけ。 それは別にいいんだけど、パーティーが急に5人編成になってしまった。 そりゃあ、あまり積極的に戦闘に参加してくれるような人……人? 死神さんじゃなかったけど、居なくなったら居なくなったで戦力不足にはなるわけで…… でもいいか、このまま進もう。 ちょっとひどいけど、 一人だけでも“何処何処星人”が居なくなったのはいいことだと思う。 仁美 「あれ?ルナちゃん連れ去られちゃったの?」 真穂 「……みたい」 春菜 「……珍しく暴走してたね、悠介くん。どうしたのかな」 粉雪 「一緒に彰利が居なかったのもちょっと気になるかも」 夜華 「……ぶつぶつぶつぶつ……」 総員 『怖ッ!!篠瀬さん!怖いよ!!暗黒のオーラ出しながらブツブツ言わないで!』 こんなことがわたしたちの近況。 ルナさんがパーティーから抜けて、 改めてこのパーティーは弦月くんの妻パーティーになったのです。 ……あんまり嬉しくないかも、このパーティー名。 【ケース178:中井出博光/マキマキとジョワジョワとマホーミックの法則】 ドコトントンッ!! 総員 『オォッ!!』 というわけで68レベル。 飛竜の病気に利くという薬草を探す旅と、 飛竜のエサになるものの調達のために篭った洞窟の中で、 我らは凄まじきパワーアップを果たした。 でもいい加減、野営続きの食事も辛くなってきた。 人間らしい食事が恋しいっていうかなんていうか。 中井出「属性の宝玉も取らんと、なにやってるのかね俺達は……」 麻衣香「でもエルリニスは喜んでるし、いいじゃないたまには」 中井出「ウムムム〜〜〜ッ」 藍田 「グウウ〜〜〜ッ」 エル(正式名称:エルリニス)が、散々入手したマモトカダケを食う。 マモトカダケってのはキノコ種で、 人間は食えないけど子飛竜にとっちゃあ大好物のものらしい。 しかも飛竜の成長にステキな効果を齎すとかで、 しかしそんなものが簡単に手に入るわけもなく─── こうしてはるばるモール湿地帯洞穴まで来たわけだ。 そこがまたジメジメしてるわ地面は滑るわで戦いづらいったらない。 しかし来なければならんかったのだ。 何故ならマモトカダケってのは、 マモトカコオイムシってヤツの背中にしか生えないからである。  ピキィンッ♪《飛竜のレベルが上がりました》 エル 『クキィ〜〜〜ッ♪』 しかしこの飛竜…… エサを食っただけでレベルアップするなんて、冒険者ナメてんのかコノヤロー。 俺達が今までどれだけ苦労……苦労?いや、楽しんでたけど。 ともかくどれだけの苦難の末にレベルアップしてきたと思ってるんだか。  ピピンッ♪《飛竜が進化します。エサをあげてください。        それにより、成長する能力が変わります》 殊戸瀬「……ん」 迷わずブランゴの根っ子をあげる殊戸瀬二等。 それを食べると、エルが進化を始める。 これも何度か見てきたが、 光に包まれて変貌してゆく飛竜は……まあその、見ていて面白い。 最初見た時なんて全員で爆笑したものだ。 ちなみにブランゴの根っ子を上げて成長するのは力と魔力。 代わりに防御と最大HPが下がるが、そこのところはドーピングでなんとかしている。 バハムートラグーンであった、毒ドーピングである。 毒キノコか毒草だかは忘れたが、 それを食べさせることでHPアップを謀る禁断の技である。 そんなことを強要されたためか、エルは好き嫌いが無くなった。 ……そりゃ毒ばっか食わされてりゃなんでも美味かろうよ。 丘野 「しかし、だいぶ大きくなってきたでござるなぁ」 エル 『クァゥ……』 藍田 「もしやっぱり主従関係のために戦うことになったらどうするんだ?」 殊戸瀬「………《クスッ》」 エル 『!!《ビビクゥッ!!───ガタガタガタガタ……!!》』 総員 『……その心配もなさそうだねぇ……』 そしてボクらは思うのだ。 子供の頃のトラウマとは、世にも恐ろしいものだと。 牙を剥こうにも剥けないだろ、これじゃあ。 中井出「ではそろそろどっか村か町にでも寄って、人間らしい食事にありつこう。     腹持ちがいいからってこの数日間ずっとナーゲル焼きばっかだったし」 藍田 「最初は軍人のノリで食ってたけど、さすがに飽きるよなぁ」 丘野 「白米を食したいでござる」 中井出「なんと貴様!ただの米が食いたいと申すか!」 藍田 「ええいこのコクゾウムシめ!!者ども!出会え!出会えい!!」 丘野 「ハッ!殿!賊でござるか!?」 中井出「うむ!相手は───……誰だっけ?」 藍田 「あぁ〜……まともなメシ食てぇ〜……」 そろそろ本気で人間らしい食事が恋しい。 まともな思考回路が働かないのは興奮状態故以外にも原因はあると思う。 中井出「ラーメンタベタイラーメンタベタイ!!!」 藍田 「ニクニクギューニク!!ニクニクギューニク!!」 丘野 「カツドンカツドンモリモリタベタイ!!」 麻衣香「あは……そろそろ本気で危険みたい……。もう戻ろうか。いいよね睦月」 殊戸瀬「……ん」《コクリ》 夏子 「わたしもいい加減お風呂入りたかったし。じゃあ帰ろっか」 中井出「フッ……この世は乱世よ。冒険者である我々に帰る家などあるものか」 夏子 「ものの喩えってやつなんだけど……     提督さん、どうしてツッコミの時はシャッキリしてるの?」 中井出「まあまあそれより早く帰ろう早く。ハヤクハヤクハヤハヤハヤヤヤヤ」 夏子 「キャーーーッ!!?提督さんが壊れた蓄音機みたいに!!」 藍田 「ハッハッハッハ!!ハッハッハッハッハ!!メシクイタイメシ!!」 丘野 「コウナッタラ粥デモヨロシ!!粥粥粥粥粥粥粥粥!!!」 麻衣香「なんでカタコト中国語!?そして粥!?」 殊戸瀬「……早く帰りましょ」 麻衣香「ああもうっ!なんで睦月はそう、丘野くんのことになると迅速行動なのっ!?」 殊戸瀬「………正気?人前でそんなこと、言える筈ない」 麻衣香「な、なんでここでわたしの正気が疑われるのかなぁ!!」 夏子 「お風呂ーーーっ!!お風呂入りたいぃーーーーーーっ!!!」 麻衣香「ああっ……!パーティーがかつてないほどのワガママ集団に……!!     わたしだってご飯食べたりだとかお風呂入ったりだとかしたいの我慢してるのに!     ていうかなんでみんなわたしに言うの!?     魔法使いだからってそんなもの用意出来ないのが解らないかな!     ───そんな声揃えて“解らん”って断言しないでよ!!     とにかく今は一刻も早く宿に行って───博光ダメ!     そのキノコは食べられるものじゃないから!!     丘野くん!それお米じゃなくてコメコメムシだから食べちゃダメ!!     藍田くん!怖いからザンギエフの真似して     ウゲェーッ!って叫びながらオリバに変身しないで!!     ななな夏子ぉおっ!!そこはお風呂じゃなくて底なし沼っ!!     入っちゃダメ!!ああもう助けてぇえーーーーーーっ!!!!」 ……その時、パーティーはある意味全滅してたんだと思う。 ───……。 ……。 カチャカチャ……モグ、モニュモニュ……グ、グググ……ギゥウウウ……ナポ…… 中井出「っはぁ〜〜……ずっと野営続きだったから……     久しぶりに人間らしい食事にありつけた気がするよ……」 丘野 「なんのかんのでお金も溜まっていたでござるしね。     今日くらいは贅沢をしてもいいでござる」 麻衣香「だからって……」 夏子 「ねぇ……?」 スク……モニュ……モニュ……モグ……モニュ…… 中井出「……ミスターは傷を負ったようだな……怪我をされたときはいつもそうだ……。     メニューは全てステーキに統一される……」 麻衣香「肉とワイン……それだけ食し、傷を塞ぎ……快復される……」 丘野 「トカゲだな、まるで……」 中井出「シィッ……聞こえるぞ」 ズ…… 丘野 「ミスター……適量かと」 総員 (いったい何キロ食べたんだ……) 最後にワインを飲み終えたあたりで言っておいた。 もう説明するまでもないと思うが、 宿のテーブルの一部分に綺麗に積まれている皿は全てステーキ用のものである。 さらに言えばステーキとワインと言えば、食べるヤツは一人なわけで─── 俺達の視線の先に居るのは、タンクトップも着ないでパンツ一丁のままの怪力無双である。 麻衣香(うわぁ……これ結構お金飛ぶよ……) 中井出(ていうかな。傷も負ってないのに傷を塞ごうとする意味が解らんのだが……) 丘野 (拙者も同じことを言おうとしていたところでござるよ……) 夏子 (オリバになると、なりきっちゃうから……亮は) この場にナギーとシードが居たら、きっと頷いていたことだろう。 何故居ないのかと言えば、現在ナギーとシードは木村夏子の召喚精霊として、 木村夏子の中にもぐっているからである。 といっても、出てきたいと思えばいつでも出てこれるわけだが。 ……そうだな、食事ってのはみんなで囲むもんだ。 とりあえずあの物凄いスピードでメシを食った怪力無双はほうっておくとして─── オリバ「オゲェッホゲッホゲッホ!!」 丘野 「はうあ!?ミ、ミスターが(むせ)
てるでござる!!」 麻衣香「ミ、ミスターが葉巻で咽てる!!」 夏子 「ああもう!煙草嫌いなくせに無理するからっ!!」 丘野 「……それってミスターとしてどうなんでござるか?」 麻衣香「行動でなりきれても、好き嫌いまでは克服できなかった、と……」 宿の部屋の一角に寂しい風が吹きました。 と、それはいいとして─── 中井出「木村夏子二等、ナギーとシードを召喚しておくれでないかい」 夏子 「え?あ、そっか。賑やかな方が楽しいもんね。了解しましたサー!」 にこやかに笑った木村夏子二等がその場で魔法陣を展開。 長ったらしい詠唱ののち、ナギーとシードを召喚した。 ナギー『このたわけーーーっ!!!』 夏子 「《ぼかー!》あいたぁーーーっ!!」 そして殴られるの巻。 ナギー『契約がここまで退屈なものだとは思わんかったわ!!     なにが“きっと楽しいよ〜”じゃ!!破棄してくれようか!』 夏子 「ま、待ってぇええ〜〜〜やめてぇえ〜〜〜っ!!」 中井出「退屈なのか?」 ナギー『大樹に居た時となんら変わらん!召喚されるまでず〜〜〜っと待ってるだけじゃ!     狭いし静かだし退屈だし眠いし!やっておれんわ!破棄するのじゃ!』 夏子 「やぇえええめぇええてぇええええ〜〜〜〜〜〜っ!!!!」  バグリッ!ピピンッ♪《ドリアードとの契約が破棄されました》 夏子 「あぁあーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」 絶叫。そして沈黙。 木村夏子はテーブルに突っ伏すと、なにやらしくしくと泣き始めたのであった。 中井出「シードはどうする?」 シード『召喚される度に“十ツ星神器、魔王”と叫ばれるのが少し苦手で……。     ですが集中して瞑想するには適しています。父上、僕はこのままで構いません』 夏子 「!!」 そんな言葉を聞いた木村夏子二等がガバーと起き上がり、 シードの手を握って 夏子 「謝謝!謝謝魔王くん!!」 と叫ぶ。 何故中国語なのかは解らんけど─── シード『気安く触るな、馴れ馴れしい』 やっぱりこんなもんである。 相変わらず俺以外となると冷たい態度…… パシッと払った木村夏子二等の手が所在無げにプラプラと揺れる。 夏子 「むー……まあいっか」 それでも残ってくれることには多大な感謝があるのか、木村夏子二等は満面の笑みだった。 一方ナギーはといえば─── オリバ「………」 ナギー『………』 いつの間に注文したやら、ミスターと一緒になってステーキの馬鹿食い対決をしていた。 しっかりワインも飲んでるが───大丈夫か? 中井出「ナギうおっ!?物凄い勢いで顔面が真っ赤になってゆく!」 麻衣香「ちょ、ナギちゃん大丈夫!?」 ナギー『───』 カァー、と真っ赤になってゆく熱にやられてるのか、 ナギーはポカンと口を開けたまま動かなくなった。 そんな彼女を見て平然として居られる我らではない。 もちろん我らはすぐさまに───辛し大根を用意した。 オリバもすぐに藍田二等に戻ると混ざる始末。 我らの好奇心には誰も敵わんのだ。 丘野 「サー!摩り下ろし完了であります!!」 藍田 「サー!スポイトの用意も出来ました!!」 中井出「うむ!セットイン!!」 総員 『ラジャー・ビュー!!』 早速丘野二等が辛し大根の摩り汁をスポイトで吸収! それをナギーの鼻の中に持っていき─── 中井出  「全砲門一斉射撃!撃ェーーーーーッ!!!」 藍田&丘野『サー!イェッサー!!』 藍田二等と丘野二等がそれぞれのスポイトを圧迫する!! すると─── ナギー『ふぎゃああああーーーーーーーーっ!!!?』 ナギー絶叫!! ヤー!!ミッションコンプリート!! これぞ世に言う“嗅覚消滅中・山岡さん地獄”!! かつて美味しんぼで嗅覚を無くした山岡さんに処置した荒療治である!! ナギー『なにをするか無礼者ーーーーっ!!!!』 丘野 「《ドゴォーーン!!》ヘナップ!!」 藍田 「《バゴォーーン!!》ペサァーーーーッ!!!」 でもやっぱり、普通は報復は受けるだろう。 平和を愛する精霊の拳を受けた両名は突然の出来事に対処出来ず、 予想外の痛さに悶絶するのみだった。 ……ナックルで来るのは俺も予想外だった。 げに恐ろしきは怒りによる人物パターンの狂いよな……。 怒りは人を怖くする……ナギー、怖いコ……!! ナギー『はぁっ……はぁっ……それにしても……のうヒロミツ……。     この部屋、暑いぞ……。もう少し涼しゅうしろぅ……』 中井出「冒険者で、しかも剣士の俺に何を願いたいのですかキサマは」 そういうことは魔法使いに言ってほしい。 そして暑いのは貴様がワインをクピクピと飲んだりするからだ。 オリバと同じペースで飲めば、そりゃ悪酔いもするだろう。 今は辛し大根の刺激で酔いが紛れてる気分だろうが、そろそろ…… ナギー『………………ぅっく』 ……やっぱり。 刺激が無くなるにつれ、酔った思考がぶり返してきたのである。 ナギー『な、なんなのじゃ……?頭がボゥっとするのじゃ……。     耳の中でごぉおおお……と何かが鳴っている気分なのじゃー……』 丘野 「ほわたっ!」 ナギー『《ゾス。》ひきゃうぁっ!!な、なにをするか不埒者め!!』 丘野 「いかんでござる!その症状はまさに“アルコール過剰摂取反応”!!     体内にて立ち上るアルコールさえ吸収してしまわないよう、     脇腹に貫手をキメ、呼吸を促した次第でござる!!」 麻衣香「胃と呼吸は関係無いと思うなぁ……」 ナギー『うぅう……よく解らんが一言断ってからにしろ……。     わしはびっくりするのが嫌いなのじゃ……』 丘野 「では貫手するでござる」 ナギー『《ゾス。》あうぅうぁああっ!!なにをするかぁっ!!』 丘野 「む?ちゃんと断ったでござる!怒られる謂れはないでござるよ!!」 ナギー『もう少しやさしゅうに出来んのかと申しておるのじゃ!!この痴れ者がぁっ!!』 我らの前で、どっかで見たような遣り取りがなされる。 まあほうっておいてもよさそげだ。 中井出「シードは?なにを食う?」 シード『……僕もこのステーキというものを。基本的に肉が好きなので』 中井出「そっか。そんじゃ───っと」 テーブル脇のボードに注文を書き連ねてゆく。 そうしてから右下にある確認のボタンを押すと、 しばらくしてからステーキが二枚届けられる。 ───ここは魔法都市カポリトカステ。 こういった魔法技術で大抵のものをこなしてゆく、 いわば俺達ブレイバーにとっちゃあ奇跡みたいな町である。 ここでは子供でさえ魔法が使えるのが常識ってくらいで、 相手方もむしろ俺達ブレイバーは珍しいんだとか。 サインまでねだられた時はどうしたもんかと焦ったもんだけど─── なかなかどうして、慣れてみるとこういった町もなるほど、便利なもんだ。 町の名前を逆に読むとステキな言葉になると知ったのはついさっきだが、 まあそれはそれだ。 俺はステーキ二枚をシードの前に置き、食事を促した。 そして俺も食べ途中だった自分の食事に取り掛かると、 シードも礼儀正しくいただきますと言って食事を始める。 中井出「………」 見るたびに思うけど、やっぱこいつって魔王っぽくない。 魔王ってのは……なぁ? こう、ステーキだろうが素手で掴んで、 ガヴゥウウリと徐に噛み付いてるイメージが…… 中井出「………」 《思考中───……》 魔王 『わしはナーヴェルブラングだぞーーーっ!!』 ドヂュウウウ!!! 魔王 『うぎゃーーーーっ!!!』 《───……停止》 中井出「ダメ……だな」 あの魔王じゃあ、ステーキを素手で掴む以前に熱くて触れそうにない。 こいつもじーさんになったらあんな風になるんかなぁ。 シード『……?父上、なにか?……もしや作法が間違っていましたか?     それとも顔になにか付いて……?』 中井出「や、や、や、気ぃ〜にす〜んな〜って」 ポムポムとシードの頭を軽く叩き、 なんだかこぼれる笑みを噛み締めるようにして息を吐く。 いつかはこいつにも貴様のパパはパパじゃないことを教えないといけないんだよな。 そして“そんな!父上は僕を騙していたのですか!?”と言われるのが僕の夢です。 ……って、確かどっかの漫画かアニメかで居なかったか?こんな夢持ったキャラ。 思い出せないからどうでもいいけど。 中井出「はぁ、けどようやく落ち着けたな」 シード『……あちらはまだ騒がしいようですが』 中井出「そうか?こんなの原中にとっては茶飯事だ。有って無いようなもんだ」 シード『そうなのですか。さすが父上だ。この五月蝿さでも平然としていられるなんて』 中井出「普通のことでさすがって言われてもな……」 そこに達成感が無いと素直に喜べない。 人間って複雑なんだぜベイベー。 などとハイカラな思考回路を展開させつつ、 横目で顔を真っ赤にしながらギャーギャー騒ぐナギーを見る。 ……なぁ〜んか、平和だよな。 こんな日がいつまでも続けばいいって思う瞬間こそが幸せって、誰かが言ってたっけ。 ……だな。俺、一丁前に幸せ感じてるわ。 自然に笑む顔が全然元に戻ってくれやせん。 い〜いもんだよな、人と人との繋がりって。 ここは素直に彰利と晦に感謝。 あいつらが居なけりゃ、原中なんてただの退屈な中学校だった。 俺も両親の居ない状況にグレたりしたんかねぇ。 中井出「………」 ま、そりゃないな。 俺にはばーさんに償えないくらいの借りがある。 そして、仲良く老後を連れ添う筈だったじーさんにもだ。 グレたり出来る状況なんかじゃなかった。 そう考えると俺は、あんな目に遭ったけど周りには恵まれてたんだろうと思える。 中井出「ごっつぉさん」 さて、つまらない思考はここまでだ。 ナイフとフォークを皿の上に置くと、俺は椅子から立ち上がって大きく伸びをした。 寝る前に、鍛冶屋でも探して武器を鍛えてもらおうと思ったからである。 が─── 中井出(…………どうせ鍛えるなら猫の店がいいよな) ボマースキルは依然低いままである。 こうなるとあそこのスキル加算がとってもステキなわけで───トントン。 中井出「お?」 丘野 「お客人でござるか?───ハッ!もしや刺客!?敵勢力の刺客でござるか!?」 突然のノック───しかし料理の追加なんぞしてないし、 そもそも宿の部屋に客が来るなんて普通じゃ考えられないことだ。 いったい───? とか考えてると丘野二等がドア横の壁に背を付け─── 丘野 「……山」 声  『……南アルプスの天然水』 丘野 「おのれスパイめ!!」 声  『げっ───じゃ、じゃあ川!!』 丘野 「おのれスパイめ!!」 声  『ぬおっ!?じゃあ山菜そば!!』 丘野 「おのれスパイめ!!」 声  『どぉしろっつぅんスカ!!』 理不尽な問答の先に聞こえたのは……聞き覚えのある声だった。 というよりも、今の俺の心を満たしてくれる声だったのだ。 丘野 「ど、どうするでござる提督殿!きっと暗殺者でござる!!     これはかつてアサシンだった拙者に対する挑戦!挑戦でござるよ!!     フオオ拙者の心の巴里が今、業火のクソ力に焼き猛られていくでござる……!!     こうなったら忍法で吹き飛ばしてやるでござるよ!!忍法!微塵隠れ!!」 中井出「へ?やっ!馬鹿やめ」 チュゴォオオゴバシャァアアアアアンッ!!! ……死んだ。  ◆微塵隠れ───みじんがくれ  FF11の忍者の2時間アビリティ。爆発して死ぬ。  *神冥書房刊:『あなた死ぬわ』より 総員 『………』 キラキラと神父のもとへと飛ばされてゆく丘野二等を見送りながら、 衝撃で開いたであろうドアの向こうの人物に…… まあその、かける声なんて無かったわけだが。 Next Menu back