───冒険の書45/水の精霊が驚愕した日───
【ケース187:中井出博光/アイルネバービート】 ピチョンッ……ピチョ、ピッチョン……ヒュゴォオオオ…… 総員 『ざわ……!』 やってぇんきました、水の神殿! いやまあ神殿って言っても洞窟の中に立てられてるようなものだから、 上手く表現できない場所だが───神殿だ。 ホラ、ちゃんとパルテノンの一部みたいな柱もあるし。 けど足場には絶えず水が流れていて、気をつけないとコケで滑りそうであった。 夏子 「これは……疲れるね」 藍田 「肉体は疲れはしないんだけど、精神的に疲れるっつーか……」 麻衣香「バランスとるのって難しいからね……」 丘野 「これしきのことで情けないでござるよおさん方!!     歩こうと思えば歩けないところなど皆無でござる!」 藍田 「……で、丘野くんよ。その足に履いてるそれはなんだ?」 丘野 「水蜘蛛でござる!!     かつて忍者はこれを足に履くことで、水の上を歩いたというでござる!」 藍田 「……いいな、それ。幅があってバランスも取れそうだし───貸せ!!」 丘野 「ダメでござる!秘仙丹は秘密の丸薬なんでござる!!」 藍田 「そんなもん要らんから!!」 父さん母さん、じーさんばーさん、あの世でどんな暮らしをしてるだろうか。 いつも通り騒がしい日々が続きますが、俺は今日も元気です。 殊戸瀬「現実を逃避するとあとが怖い……」 中井出「そこでピンポイントなツッコミは勘弁して!」 言いつつも直進。 水辺の村の中心に建ててあった銅像の下から入ることの出来たこの神殿は、 そこが本当に村の下なのかと疑いたくなるほどに広かった。 そら最初に嫌ってくらの自然階段を下りたが───こりゃ相当だ。 ナギー『のうヒロミツ。あの結晶、綺麗なのじゃ。持って帰ってもいいかの』 中井出「ああいう水晶って案外価値ないぞ?それでもいいのか?」 ナギー『なにを言うか。価値なぞわしが決めるものじゃ。     綺麗だから欲しいと願ってなにが悪いのじゃ』 中井出「あ、なるほど。確かにそうかも。じゃあナギー、レッツゴーだ」 ナギー『イェッサーなのじゃ!』 大きく広い空洞の天井を見ていたナギーが、ふよふよと浮いて水晶に近寄る。 するとバクゥッ!! 声  『ふぎゃっ!?』 中井出「オワァーーーーーッ!!?」 水晶が割れた───と思ったらそれは牙を剥き、 ナギーの頭から膝あたりまでを一気に口に含んだのだ!! 丘野 「なにごとでござる!?サ、サーチライト!オォーーーーン!!」 マカァーーン!!───丘野くんの“調べる”が発動!! モリモリと食べられていっているナギーと、モリモリと食べていってる水晶を見る! 丘野 「す、スイショウモドキ!!水晶の振りをして光ものに弱い人を近寄らせ、     一気に食らいつく───モンスターでござる!!」 中井出「なんとまあ……」 藍田 「マジすか?」 高い高い天井を見つめる。 しかし俺達ではあんな場所まで届く筈もなく─── 麻衣香「あ、ちょっと待って。試してみたいことがあるから」 中井出「麻衣香?」 聞き返すより早く、麻衣香は杖を横にして前に突き出し、目を閉じて集中を開始した。 ───途端、麻衣香を中心に魔法陣が展開され、それが回転を始める。 中心にある陣は右回転を、その外側にある陣は左回転を。 魔法陣は詠唱すると回転するわけだが、しかし麻衣香は一向に口を動かしてはいない。 だが、それでも回転する魔法陣。 い、いったいこれは何事なんだ〜〜っ!! 麻衣香「チェーンスペル!!」 と、脳内でキン肉マンが騒ぎ始めた頃。 麻衣香は魔法陣を解放し、魔力を一気に解放! するとスイショウモドキ目掛けて五つの初級魔法が一気に飛翔してゆく! それは全てウィンドカッターだった。  ザシィンッ!ザシィンッ!ザシィンッ!ザシィンッ!ザシィンッ! スイショウモドキ『キギャアーーーーーッ!!!!』 ナギー     『うわわわわゎぁあーーーーっ!!!』 風の刃がスイショウモドキに炸裂する。 と、当然噛まれていたナギーも解放され─── 突然のことに浮遊することも忘れ、重力に従って落下してくる!! 中井出「い、いか〜〜〜ん!!藍田二等!!」 藍田 「イェッサァッ!!」 落下地点に一番近いのは藍田二等だ。 彼は瞬時に地面を蹴って落下地点まで駆けると足を振り上げ───って! なんで足!?普通手だよね!?もしかしてアンチマナーキックコース!?何故!? などと心配するのも束の間。 藍田 「甘いっ!」 パッシィイイイイインッ!!! 総員 『オッ……オォオオオオオオッ!!!』 なんと、ピンと振り上げた足の裏でナギーの背をやさしく受け止めたのである。 それはまるでKOFのクリザリッドの技のようで───思わず拍手をしてしまった。 中井出「ブラボ〜〜〜……」 丘野 「ブラボ〜〜〜……」 藍田 「や、どーもどーも」 と、藍田二等へ拍手を贈る中、 遙か先の天井ではスイショウモドキが麻衣香の魔法で木っ端微塵と化していた。  ぺぺらぺっぺぺ〜♪ 麻衣香「あっと、レベルア〜ップ」 中井出「おうおめでとさん」 丘野 「おめでとうでござる。ところで綾瀬殿?さっきの魔法の連発はいったい……?」 藍田 「あ、それ俺も気になってた。詠唱なんてしてなかったみたいだけど」 麻衣香「うん、詠唱破棄。ていっても頭の中で唱えてから撃ったんだけどね?     でも口で詠唱するのと頭の中で並べるのとじゃあやっぱり速度が違うね。     一回の詠唱分で五回魔法が撃てたし」 中井出「おお、あれは正直驚いたぞ。     てっきりエキストラスキルの“ストック”を使ったのかとか思ったけど、     今そのエキストラスキルのためにここに来てるんだもんな」 当初の目的をうっかり忘れてしまった。 でも……そっか、詠唱さえしっかりしてれば連続魔法は可能ってことか。  ◆ストック  名の通り、能力でもなんでも装填しておけるエキストラスキル能力。  イメージだろうが“ためる”で蓄積した力だろうが置いておくことが出来る。  もちろん他人の武器を借りて、その潜在能力をストックさせることも可能。  武器合成を用いる必要もないので安心。  ただし一度使えば無くなるため、再び使いたい場合は封入し直す必要がある。  この方法を用いて魔法使いに魔法を封入してもらえば、剣士も魔法を放つことが可能。  が、もう一度言うが一度使えば使った分のストックはカラになるため、  もう一度封入し直さなければならない。  使いたい時はストックを解除するだけでOK。  なおストックしておけるものの数はスキルの星の数だけ増加。  五ツ星で5つまで。つまり最大5つ。  どこぞの諸刃野郎が“ためる”と“練気”を同時に行使していたのはこれの応用である。  10分アビリティも封入可能なので、10分毎にストックしておくと便利。  特に漢神の祝福などをストックしておくと乱戦時に重宝するだろう。  *神冥書房刊:『“あったらいいと思う能力大百科”』より 中井出「しかし深いなここ。何処まで続いてるんだ?《ピチョンッ》うひゃあぉぅっ!!     な、なに!?水滴!?水滴が首に《ズルドシャア!!》ゲフォーーーリ!!     いってぇ……!なんでここだけこんなにコケが《ゾグシュ》ギャアーーーッ!!     自然水晶が何故か落下してきて頭に刺さったぁああっ!!!」 麻衣香「水晶とかが淡く輝いて、水を照らしたりしてる……」 夏子 「綺麗でいい場所だよね。景色は綺麗だし水の流れる音もなんだか落ち着くし」 殊戸瀬「提督もはしゃいでるし」 中井出「悲鳴上げてんだよ!!」 藍田 「乙女だ……」 丘野 「七瀬という名の乙女でござるな……」 僕らの中に蒼髪ツインテールの乙女の姿が浮かんできた瞬間だった。 いやそんなことはさておきだ。 中井出「でも実際深いよな。どれくらい潜ったか解らん」 藍田 「こういう場合、降りたと言うべきではなかろうか提督」 丘野 「細かいツッコミはいいでござるよ藍田殿」 麻衣香「長くてもいいよ、疲れない限りは」 夏子 「うんうん」 殊戸瀬「……旅は気長にするものだし」 中井出「だよな。旅っていいなぁ」 丘野 「疲れないってのが最高でござるよ」 藍田 「ほんなこつー」 ナギー『ぬしらは人の心配をするということを知らぬのかっ!』 やっぱり怒られた。 丘野 「ナギー殿は素直な反応をするでござるなぁ」 藍田 「あえて無視してた俺達の気持ちも浮かばれるってもんさ」 夏子 「亮、それって気持ちが死んでるみたいに聞こえる」 中井出「そィでナギーよ、どこぞか怪我でもしたのか?」 ナギー『あ、う、うむ……べ、べつに怪我はしてないのじゃ。     精霊であるわしをそう下に見るでない』 中井出「うむよし!ならば再び前進を開始するものとする!」 総員 『イェッサァッ!!』 決意も新たに前進再開。 さて……この水の神殿の内部にウンディーネが居ると踏んで間違いなかろう。 改めて見るとデカイよなぁ……よくもまあこんな場所に作る気になったもんだ。 いくら天井までの距離があるからって、さすがに無茶があるだろ。 藍田 「これって……この支柱とか破壊したら天井が崩れたりするのかな」 麻衣香「地上で言う地盤自体が崩れるかもね」 丘野 「やはり建物に必要なのは柱というわけでござるな」 夏子 「それより早く入ってみよ?早く終わらせて靴乾かしたいかも……」 藍田 「同じく」 麻衣香「水が流れるのは勝手だけど、もっと少なくしてほしかったね……」 流れる水は、丁度靴の中に染み込んでくるくらいの高さがあった。 お蔭で後ろから流れてくる水が踵に当たる瞬間に抵抗を受けて波打ち、 靴の中に侵入してくるのだ。 歩けばきっとガッポガッポと奇妙な音が鳴るに違いない。 喩えるなら長靴の中に水が浸入した時のような……なぁ? しかしまあここで外観だけを見てても始まらんし、早速中に入ってみよう。 藍田 「洞窟の中にさらに洞窟……じゃない、神殿ってのもヘンな感じだな」 中井出「あ、同感」 丘野 「神殿なら神殿で、ドドーンと建てておけばいいでござるのに」 夏子 「でもそれだとあまりありがたみが無いかもね」 麻衣香「それこそ同感」 丘野 「そうでござるか?」 話しながらも中へ。 しかし神殿の中もしっかりと水が流れていて、これがまたよく滑る。 現にズベシャア!! 藍田 「ウギャーーーリ!!」 夏子 「だ、大丈夫!?りょ《ドゴシャア!!》へきゅうっ!!」 麻衣香「うわわっ……!ちょっと大丈夫!?今顔から《ズルゥッ!!》ひあっ!?」 中井出「《ガシィッ!》おぉわっ!?《ドゴシャア!!》ギャアーーーーーッ!!!」 丘野 「おお……綾瀬殿のSTOが見事に提督殿に決まったでござる……」 現に、嫌ってくらいコケている。 こりゃひどい、下がコケだらけだ。 神殿特有のツルツルの床にさらにコケなんか生えた日にゃあ、そりゃ滑る。 しかし滑ったからって俺にしがみついてSTOするのはどうかと思うのだ、麻衣香。  ◆STO───えすてぃーおー  スペース・トルネード・オガワの略。名の通り、小川直也の技。  編み出した(?)のがヤツだけあって、名称の意味もへったくれもあったもんじゃない。  大外刈りにラリアットを追加しただけの技。  ラリアットを追加とあるが、同時に大外刈りをしなければならないために  ラリアットに大事な勢いはあまりつけられない。  そして普通にやって当たってくれる人はまず居ない。  なにがどうトルネードなのかは解らない。  変則大外刈りのほうがまだ的を射ているツッコミどころ満載の技。  彼はこれをプロレス技だと言い張っているんだとかなんとか。  *神冥書房刊:『トレーニングパンツのことをトレパン言う』より 中井出「おぉいぢぢ……!!顔面から落ちると顔にコケがついて、それすらイタイ……」 藍田 「むしろこれってスケートみたいに滑りながら行ったほうがいいんじゃないか?」 丘野 「それなら既に睦月がやってるでござる」 藍田 「や、そりゃ無茶だろ。スケートで滑るのとコケを滑るのとは違うだろうし」 殊戸瀬「…………《しゅごー!ごしゃー!しゅばばー!》」 藍田 「……………………滑ってる……な」 中井出「…………器用……だな……」 麻衣香「これって器用云々の問題なのかな……」 夏子 「なんていうか……水の上を走るっていう昔の伝説、     睦月なら平気でやれそうな気がしてきた……」 丘野 「睦月はなんでもソツ無くこなすでござるからな。     金持ちの娘だからと妙な視線で見られるのが嫌で、     いろいろ努力をしてきたんでござるよ」 殊戸瀬「ま、眞人っ……!余計なことは言わないでっ……!」 丘野 「余計じゃないから言ったでござる!」 殊戸瀬「あぅぅうぅ……!」 殊戸瀬二等は真っ赤であった。 トマトとまではいかないが、それでも赤かった。 丘野が居なければ絶対にこんな顔しないんだろうな、うん。 ともあれ確かに…… 中井出「よっ……《つつー……》ほっ……《つつー……》」 うん、歩くよりは確かに滑ったほうが進める。 バランス感覚と時の運が相当に必要だが、とりあえずは安心だ。 丘野 「はっはっはっはっは!ニンニンでござるよー!!」 一方で丘野くんは殊戸瀬二等と同じく、ごしゃー!と素早く滑っていた。 やはりアレか?あの水蜘蛛がいいのか? 丘野 「たーたららたったった、た〜らららたた〜んちゃっちゃっちゃちゃっ♪」 殊戸瀬「…………〜♪」 そしてお次は殊戸瀬二等と手と腰を取り合って、 スケート上のペアダンスみたいなのを開始した。 そうまで見せられてはこの博光、もう辛抱たまらん! 中井出「よ、よし!藍田二等!一本足ですべるのだ!     両足を着く時は滑る足を変える時のみにせよ!     一本足に全体重が回るようにして滑るのだ!」 藍田 「おおなるほど!重力の法則だな!?足に関することなら俺に任せろ!そりゃー!」  ズビー!! 中井出「おお!藍田二等が奇妙な格好で滑ってゆく!!」  ズルドグシャーーーーッ!! 藍田 「ギャアーーーーーーーーッ!!!」 そして大方の予想通りコケた。 しかし藍田二等は諦めない!! 再び起き上がると地面を強く蹴り、勢いのみで神殿の奥へと駆けていったのだ!! 丘野 「おっ……おおお!!凄いでござる藍田殿!     このコケ床をああも蛮勇に駆け抜けるなど!」 麻衣香「すごいすごい!さっすが蹴りの達人!」 夏子 「亮、かっこいいーーーっ!!」 人々が羨望の眼差しで藍田を見る! そう、今この時、彼はぼくらの英雄だった!───んだが。 藍田 「あっ!おわっ!あ、ああぁーーーーーーーーっ!!!」 ……ハタと気づけば彼の表情はいっぱいいっぱいだった。 ええとつまりだ。 駆け抜けていたのではなく、 走ってなけりゃ体勢を保っていられなかったわけだズルベシャドグシャア!! 藍田 「ギャアーーーーーーーーーッ!!!!」 あ、顔面で滑ってった……。 丘野 「藍田殿ー!?一人で進んだら危険でござるよー!?     あ……まったく……み、みんな、行くでござるよ?」 中井出「なんでここでアルベインくんの真似をするのかは知らんが、     確かに一人で進むのは危険だな」 丘野 「そうでござる。楽しみはやはり共有するべきでござる」 飽きもせず顔面で床を滑走してゆく藍田二等を見送りつつ、ニンニンと頷く丘野くん。 どうやら彼はあれを楽しみの一つだと受け取ったらしい。 俺はあんなのゴメンだぞ、と言ってやりたかったのだが…… どうしてかああいうのもいいと思えてしまう、よく解らん原中マジック。 だが待てゴッド。 これはぼくらの童心を謀る……もとい、計る試練なのですか? ならば……否!我らの行動などとうに決まっているのだ! 中井出「ふっ……ふふふ……ふははははは!!」 殊戸瀬「提督が壊れた……」 中井出「壊れてないよ!笑っただけだよ!!」 麻衣香「それで、どうしたの博光。急に笑い出したりして」 ナギー『転んだ拍子に笑いゴケでも食うたか?』 殊戸瀬「それはマズイわ提督……暴食にもほどがある」 中井出「なにか言い出す前に勝手に話を解決に導いて、     そのうえ人が普段から暴食家みたいな言い回ししないでよ!     お、俺普通だよ!?普通に三食食べるだけだよ!?     麻衣香に『博光って男なのに小食だよね』って言われるくらいなんだよ!?」 殊戸瀬「麻衣香、夏子、コツを教える。言う通りにやって」 麻衣香「う、うん」 中井出「無視かよ!ちょ、自分から話振っといてそりゃないよ!     ───え?突然奇妙に笑った俺が悪い?き、奇妙じゃないよ!普通に笑ったよ俺!     そりゃ『ふはははは』なんて笑い方、普通はしないけど───殊戸瀬!     なにそのヘンな笑い方!俺の真似!?ち、違うよ!俺そんな笑い方しないよ!?     そんな冥府から響いてくるような凶々しい笑い方なんて誰もしないよ!     お、俺はただあの頃の青春を思い出して笑っただけなんだ!     ───違うよ!?エロじゃないよ!!なんで俺の青春イコールエロになるの!!     童心だよ童心!そう!童心!水のある場所でコケて転んでも、     それが楽しいと感じられたあの頃を思い出してただけだよ!     え?濡れた服が身体に張り付いた女性に興奮してたのが青春なのかって?     違う!エロじゃないって言ってるでしょ!!なんで学習しないのキミたち!!」 ───などと、俺が自分の尊信を保つために懸命に四苦八苦しているときだった。 中井出「───……あ、れ?」 丘野 「な、なんでござるか……?今、なにかが……」 そう、なにかが聞こえたのだ。 聞こえたものをなにかに置き換えるとしたらなにに喩えよう。 悲鳴?絶叫?断末魔?よし、全て合ってる。 中井出「い、いかん!これはヤバイ!走るンだッッ!!」 丘野 「ラジャーでござる提督殿!!」 麻衣香「急ごっ!?」 夏子 「無事でいてっ……!」 殊戸瀬「………」 それぞれが前へ前へと進んでゆく! 誰一人転ぶことなく、器用に滑って! 中井出「ま、待ってぇーーーーーーーっ!!!俺だけ独りなんてやだぁーーーーーっ!!」 ……そして、滑るコツを教えてもらえなかった俺だけがその場に残された。 い、否!!童心にかえったボクは無敵さ!無敵だよ!?……無敵だよね? だからこんなところで燻ってる暇があるならシャンドラの火を灯す!! 中井出「うおおおお!!ナメんなぁあーーーーーーっ!!!」 見よ!───もうみんな景色の果てに行っちゃったけど、誰でもいいから見ててお願い! 俺だって!俺だってなぁ! 本気になればこんな水とコケごときにゃ負けズゴシャア!! 中井出「ギャアーーーーーーーーーッ!!!!」 転倒。しかし俺は諦めない!! 中井出「うおお!根性ォオーーーーーーーッ!!!」 ゴッドよ!今こそ俺に類稀なるパワーを寄越せ!! このコケ床を攻略するパワーを!! 中井出「技巧の神の力を!ゼブラの芸術的テクニックを与えたまえぇーーーーっ!!!」 俺は走った!滑った! 諦めることなく進んだ!そしてドグシャア!! 中井出「ゲファーーーーリ!!」 見事に転んだ。 さっきから脇腹ばっか打ってるもんだから、 腹から酸っぱいものが込み上げてきて切ない気分炸裂。 既に見えない猛者たちや妻を思い、 俺は水の流れる床の上で体育座りをして、やっぱり少し人生について考えてみた。 ナギー『しようもないのぅヒロミツは。どれ、わしが運んでやる。掴まるがよい』 中井出「ナ、ナギー……!!」 いや、希望の光はまだあった! ボクを見捨てずに居てくれる人が───人?まあいいや、見捨てずに居てくれる人が居た! 俺は感激を胸に浮いているナギーに抱きつくと、先へと促した! 中井出「ゴー!ニクガクゴー!!」 ナギー『な、なんじゃそのニコガクというのは……まあよいわ、進むぞ』 中井出「おうさ!」 ナギーが力を込める! するとナギーの体がさらに浮き、俺の体が持ち上がってゆく! 中井出「お、おおお!すごいぞナギー!頑張れナギー!!」 ナギー『わしを誰だと思っているのじゃ。精霊としての力を行使せずとも、     人一人の体重を持ち上げるくらいわけないのじゃ』 中井出「そ、そうか〜〜〜っ!それは恐れいったぜ〜〜〜っ!!」 ナギー『そ、そうか?そ……そうじゃろそうじゃろ!存分に尊敬するがよいぞ!』 中井出「おお!自分に出来ないことが出来るヤツはそれだけで素晴らしい!     そして俺は空なぞ浮けん!というわけですごいぞナギー!頑張れナギー!!」 ナギー『まかせるのじゃー!!』 ナギーがさらに力を込めて加速する! 俺も負けじと、振り落とされんようによりキツくナギーの体を…… まあそのなんだ、抱擁する! ……下心なんてないよ!?ボクはエロマニアなんかじゃないもん! ナギー『う、わっわっわ……!!こ、これヒロミツ!何処を触っておるのじゃ!!』 中井出「む!?胴だ!」 ナギー『うくっ……くふっ……!     や、やめよ!わしは脇腹が弱いのじゃ……!くすぐったいであろ……!!』 中井出「じゃあ足か!?足にしがみつけと!?」 俺は一旦手を離すと、滑らんように見事着地。 それからナギーの両脚を一方ずつ片手で掴んでぶらさがるような状態に安定した! ナギー『………』 中井出「………」 ナギー『……上を見たら殺すぞ』 中井出「しないよそんなこと!!」 ナギーはべつにスカートとかそういったものを装着してるわけではないのだが、 やっぱり男だろうが女だろうが、どんなものを装備してようがしてまいが─── 足の下から自分を見上げられて嬉しいヤツなど居ないのだ。 よっぽどの異常な精神嗜好のヤツ以外は。 たとえば女王サマとか。正直踏みつけられて喜ぶ人の気持ちが俺には解らん。 などと思ってる最中もナギーはふよふよと浮き、前へ前へと前進している。 しかし俺が自分を見上げているかどうか不安に思うこともしばしばなのか、 さっきから何度も何度も俺を見下ろす気配を感じる。 で、肝心の俺はと言えば───ナギーの足首を掴んだ状態でボ〜っとしているのみ。 上を見るなんてことは再びエロマニア疑惑を沸騰させるだけなので、意地でもやらない。 中井出「………」 しかし、神殿の中にはモンスターの“モ”の字もないんだな。 そこのところはウンディーネらしいって感覚はあるけど。 うーん、しかし退屈。 中井出(さて……───どうしたものか……って、おお) ハタと思いついた。 今俺が握っているこの足首。 そして思い返されるあのインチキ海王。 ならばこそ─── 中井出「三陰光圧痛(さんいんこうあっつう)
”!!」 俺は掴んでいるナギーの足首のスネの内側、 足首から訳10センチにあるとされる急所を指で“グリィッ!”と圧迫する!! ナギー『ふぎゃあーーーーーーーっ!!!!』 中井出「はわっ!?ほぅわぁーーーーーーーっ!!!!」 しかし当然のことながら、 突然訪れた“烈海王でも転倒へと屈してしまう激痛”にナギーが耐えられるわけもなく。 俺達は二人仲良く床へと落下してゆく! しかしなんたること!調子に乗ってかなり高い位置に浮いていた我らは落ちる筈だった! それなのにナギーは咄嗟に自分だけ助かろうと自らを浮かせたのだ! 当然、突然の落下に驚いた俺は、ついナギーの足首から手を離していて─── 中井出「させるかぁああああああっ!!!」 ナギー『《ガシィッ!!》うひゃあっ!?こ、これヒロミツ!急に掴むでない!     や、やめよ!よじ登ってくるでないぃっ!!わ、脇腹は弱いと言ったであろ!』 中井出「黙れ!この博光、ひとりでは逝かん!!」 一人助かろうとしたナギーに有無を言わさぬ速度でしがみつく! さらにはナギーの身体をよじ登るようにし、丁度脇腹に触れた時だった。 ナギー『うきゃあああああああっ!!!!』 よっぽど弱かったのか、ナギーはくすぐったさに悲鳴をあげて───俺ごと落下!! メ、メーデー!!再び危機到来!? だがどうせナギーのことだ!すぐに体勢を立て直して浮くに違いない!! 故に俺はナギーの背後に回ろうとする。 浮いた時にベストな体勢になるであろう“子泣きジジイスタイル”を─── 中井出「───」 ───とろうとして、ふと沸いた小宇宙に心を奪われた。 思い立ったら即実行!! 中井出「不死鳥落とし(フェニックスドライバー)”!!」 俺はナギーの両腕両脚を固めると、 体勢を立て替えて頭が地面に向くように身体を回転させた!  ───だが張り切ったのがマズかった!! 突然上下反転した世界にナギーはよっぽど驚いたのか、 反応が遅れゴコシャア!!! 中井出「ギョアァーーーーーーーッ!!!」 ナギー『ふぎゃあっ!!』 俺達は今度こそ、助かる筈の未来を棒に振ってまで仲良く床に激突したのだった。 ……当然コーナーポストなんぞ無いから、それこそ二人仲良く頭から床に激突。 ナギー『……!……!!───〜〜〜〜!!』 中井出「ッ……!!ッ……!!」 俺とナギーは声にならな絶叫を喉の奥から搾り出し、 しばらくそこで水に濡れながらもんどりを打つハメになった。 【ケース188:丘野眞人/ゴリモルジェフ】 バシャアッ───!! 丘野 「藍田殿っ!!」 悲鳴を聞いて駆けつけた拙者たちは、先の先にあった巨大空間の先を見て唖然とする。 嫌な予感が炸裂して的中してしまった……! なんてこと!ああジョジョ、なんてことでしょう!ジョジョったらいけない人っ!! ウンディーネ『消えなさい───スプレッドソード!!』 景色の先にはウンディーネさんが居た。 床の水を一点に集め、それを水塊にしてからいくつもの水の剣を放つ! そして、剣が向かう先には藍田殿の姿が───!!  ゾバババババァッ───!!! 幾つもの水の剣が藍田殿を切り刻んでゆく! が─── オリバ   「銃が小さすぎるぜ……なぁジェフ」 ウンディーネ『えっ……えぇーーーーーっ!!?』 まるで効いていなかったのでござった……。 悲鳴(ウンディーネの)が聞こえてきたときはもしやと思ったでござるが、 こうも予想通りだったとは……。 ちなみに悲鳴が聞こえてきた理由は、藍田殿のオリバ化によるものだと推測するでござる。 あれを目の前でやられて驚かないヤツは居ないと思うし。 ウンディーネ『そんな……まさか!わたしの魔法が通用しないなんて……!        他属性の魔法ならともかく、水属性の魔法が───まるで効かない!?        ど、どんな高度な魔法障壁を───』 オリバ   「私の筋肉の厚さは世界一だ。        こんな水ごときではとてもとても内臓には……」 ウンディーネ『筋肉!?え───筋肉!?冗談でしょう!?        わたっ……わたしの魔法がき、ききき筋肉だけに防がれ……!?』 神様、あそこにバケモノが居るでござる。 ウンディーネさんも大絶賛混乱中でござるな……そりゃ混乱するなって方が無理でござる。 初めて生オリバを見た人は誰だって驚愕するものでござるよ。 ウンディーネ『───認めない。認められません!!』 総員    (……そりゃそうだ) ウンディーネ『魔法をっ……!偉大なる古代の英知をっ……!!        そ、そんな筋肉なんかで受け止められるなんて!        わたしは絶対に認めません!!』 総員    (その通りだね、うん……認めたくないのはみんな一緒だよ……) ウンディーネ『……?ふ、ふふふ……!そう……そうでした……!!        もし本当に筋肉で防いだというのなら、        その筋肉自体の力を緩めてやればいいのです!        怠惰を齎す無情の豪雨!“アシッドレイン”!!』 総員    『おおっ!その手があった!!』 もうどっちがどっちの味方だか解らなかった。 少なくともウンディーネに同情したのは確かである。 ともあれウンディーネさんの魔法が発動するとともに魔法陣が弾け、 その場に赤っぽい水滴がまるで幕のように降り注ぐ。 目の前の景色さえ見えなくなる雨量に驚愕する。 そして───降り終えてみれば、拙者の体からは相当な力が失われていたのでござった。 魔力に比例するものなのか、その怠惰というか衰弱っぷりは相当だ。 他の皆様方もそのようで、思うように身体に力が入らないらしい。 ともなれば─── オリバ   「ナァ龍サン……オマエサンハ少シ……」 ウンディーネ『は、離しなさい!!離《ゴコチャア!!》うぴっ!?』 オリバ   『───スマートサガ足リネェ』 ……ああいや……もはや何も言うまい。 張り切りすぎたのがいけなかったのだろう。 視界が完全に埋まるほどのアシッドレインなんて出すからでござる。 発動させた自分が相手を見失ってるんじゃあ、 そりゃあ捕まりもするし頭突きだってされるでござるよ……。 そもそも基準となる筋力が拙者たちとは超規格外なんでござる。 拙者たちがダルくなったところで、ミスターはきっと未だに怪力無双に違いないでござる。 などと思っていた時でござった。 オリバの両手に頭を掴まれているウンディーネさんが動き出したのは! ウンディーネ『ふ……ぐぐぐ……!!』 総員    『おおっ!?ま、まだやれる!ウンディーネがまだ戦える!!』 ウンディーネ『こ……の……!無礼……───!』  ───ゴコォッキィン!! 丘野 「はうあ!」 夏子 「景色の暗転……秘奥義!?」 麻衣香「精霊ってレベル30代かそれ以下でも倒せるのに、     どうして秘奥義持ってるんだろ……」 殊戸瀬「ミステリー」 などと言ってる場合ではござらん!暗転した景色の果てから巨大な大津波が来て───! 丘野 「み、みんな!支柱をよじ登るでござるよ!!     アレを喰らったら、いくらレベルが高くても相当のダメージを受けるでござる!」 麻衣香「うん、解ってる!」 必死に逃げる! 無様だと言われようが構わんでござる! 避けられる攻撃を避けないのは愚かでござるよ!! ウンディーネ『ふ、ふふふふふ!そうです!逃げ惑いなさい!あははははは!!        逃げ惑う人々はまるで撹乱した蟻の行列!!        海に帰りなさい!脆弱なる人間《ギュリィッ!!》痛ァッ!!?        ちょ───いつまで掴んでいるのです!いい加減に離しなさい!!        このっ……離せと言うのが解らないのですか!!』 ウンディーネとミスターの間で水が弾ける! 恐らく高圧縮した水の魔法が放たれたのでござろう! ───だが。 オリバ「無理ダ……オマエサンガコノ魔法ヲ身ニ付ケルタメ     ドレホド精神ヲ鍛エ込ンダノカ知ランガ───     俺ガ本気(リアル)で腹筋ヲ固メタトキニハアキラメタ方ガイイ……」 腹筋で、恐らく壁にすら穴を開けるであろう水を弾いたオリバが居た。 オリバ   「オマエサンガ強クナルタメニ想像ヲ絶スルトレーニングヲシタヨウニ───        俺ハ俺デ色々ヤッテイルノサ……幾度モ、幾度モ、幾度モ……」 ウンディーネ『あ、あわ……あわわわわ……!!』 オリバ   「サテ……ココデミスターウンディーネニ質問」 ウンディーネ『ミスター!?』 オリバ   「今、巨大ナ津波ガ我々ニ向カッテ荒レ狂イ流レテキテイル。        モチロン私モ流サレルダロウ。        ダガ、キミノ頭ヲ意地デモ離サナイ状態デ濁流ニ飲マレタラ、        果タシテ───キミハ無事デ居ラレルダロウカ居ラレナイダロウカ」 ウンディーネ『───……』 サァア……!と、ウンディーネさんの血の気が引いて行くのが目に見えた気がした。 ───迫りくる津波! 柱を登る我ら! 取り残されたミスターとウンディーネ! ───暴れるウンディーネ! しかし意地でも離さないミスター!! 魔法を乱射してオリバを離そうとするウンディーネ! しかしリアルに固めた腹筋で全て吹き飛ばすミスター!! ───響く絶叫!! 訪れる困惑!! やがて轟音とともに二人の姿は津波に飲まれ───…… どこかで、轟音に紛れて首が折れるような音が聞こえたような気がした。 ついでにレベルアップの音も。 総員 (南無……) 結局出来たのは冥福を祈ることくらいだった。 ───……。 ……。 ややあって。 ウンディーネ『あの……宝玉なら差し上げますから……もう二度と来ないでください……』 復活したウンディーネさんはびしょ濡れのままに、 意気消沈といった感じで宝玉を差し出してきた。 拙者の隣で強烈なデモンストレーションをしているミスターは完全に視界から外している。 麻衣香「えーと……その、さ、災難……だったね?」 綾瀬殿の言葉にも反応せず、ウンディーネさんはさっさと宝玉を手渡して消えてしまった。 丘野 「トラウマにならねばよいでござるが……」 総員 『悪いことしたなぁ……』 別段……というか事実、拙者達が悪いことをしたわけではないのでござるが…… どうしてもオリバ関連だと、 その関係者に罪悪感が浮かんでくるのはどうしてなのでござろうかな……。 そんなことを思いながら、拙者たちは元来た道を滑っていったのでござった。 ……さて。 こうして神殿をあとにしようとしていた拙者達が、 ピクリとも動かなくなっていた提督殿とナギーを見つけたのは、 それからしばらくのことでござった。 恐らくタイダルウェイヴの余波をくらってしまったのでござろうなぁと納得する中、 とりあえずは死んでないことを喜ぶことにするのでござった。 Next Menu back