───冒険の書48/それぞれの現状───
【ケース193:弦月彰利/エネルギッシュ】 アアキョウモイイテンキダナァっと。 彰利 「やぁ、しかしまいったね。せっかくステキな根城を見つけたと思ったら。     よもや中井出たちが関係してる場所だったとは」 それにしても強ぇえ強ぇえ。 よもや中井出たちがあんなに強くなってるとは思わなかった。 せっかく書状で世界を脅かしましょう作戦のため、 各地を回ってみてたのに……こりゃ計算外じゃわい。 彰利 「ふむ。んじゃあそろそろ装備を獣人装備にして歩きますか」 聖&椛『うん』 娘2人(?)を引き連れての旅も……もうヤケクソじみててコンチクショーって感じだ。 フフフ……足掻いてダメなら順応しろって造語を知ってるかい? もちろん今俺が作った造語だから誰も知らないわけだけどね? 彰利 『FUUUUM……やはり一度身につけるとクセになるねぇ獣人装備……』 フオオ、このフィット感……きっと変態仮面じゃなくてもフオオと言ってしまうぜ? 公務仮面に次ぐフィット感……いや、公務仮面にフィット感もなにもなかったな。 紙袋だし。 聖  『パパ、何処に向かってるって言ってたっけ』 彰利 『周りに影響のある町とか村だ。     そこいらに王国は書状を盗まれるようなダメ国家だと言い触らす!!』 椛  『おとうさん……それはちょっと人として危ういんじゃないかな……』 彰利 『椛……お前はちと解ってないことがある。よいかね?     人が魔物を敵視できるのなら、獣人にとっての人はまさに敵!!     敵との戦いに策を凝らすのは当然のことなり!』 椛  『それは……そうかもしれないけど』 聖  『椛ちゃん……パパの言うことが信じられないの?』 椛  『なっ……何を言うんですか!そんなことありません!!     あ、あなたのように惚れやすい人と一緒にしないでくださいメルティアさん!!』 聖  『惚れっ───な、なんてことを言い出すんですかっ!!それは確かに!     わたしはあ、ぁあああなたの夫である凍弥さんに惹かれたこともありました!!     それでもわたしはもう今の想い以外を抱くことなんてありません!!     だいたいもうわたしはメルティア=ルウェインフォードじゃありません!!』 椛  『父親を恋の対象にするなんて何を考えてるんですか!!』 聖  『わたしがなにをどう思おうがわたしの勝手でしょう!!』 椛  『〜〜っ……おとうさん!なにか言ってあげてください!!』 聖  『パパ!この解らず屋さんになにか───!!』 モグモグモグモグ 彰利 『モグモグゥ、オーダンゴってオイシイナー……って、え?なに?なんか言った?』 団子をモムモムと食っていたら、呼ばれたような気がして振り向いた。 したっけ……なんデショ? 物凄い形相で娘たちがこっちを見ておるでよ……。 彰利 『な、なんだぁてめぇらその目はぁ〜〜〜っ!!     どれだけ睨んでもこの団子はやらねぇぜ〜〜〜っ!!』 聖&椛『………』 彰利 『あの……とりあえずキン肉マンキャラっぽく演出して、     場の空気を軽くしようと思ったんだけど……』 ……失敗したらしい。 ジョ、ジョワ……ジョワジョワジョワ……すげぇ。 悠介って晦神社に居た時、こんな重苦しい雰囲気の中で生活してたのか。 そら、微妙に女が苦手になるのも解る気がする。 聖  『パパ!』 彰利 『なんぞね!!』 聖  『椛ちゃんにわたしの方が正しいって言ってあげて!!』 彰利 『断る!!なんだか知らんが断る!!』 聖  『えっ───そんな!!どうして!?』 彰利 『え?どうして?わ、解らん!もうなんだか解らんから断る!!     ただ喧嘩はダメ!!じいやは貴様らをそんな娘に育てた覚えはねぇぜ〜〜〜っ!!     ───で!?喧嘩の原因はなんなんだい!     このじいやめにこっそり言ってみなされ!』 椛  『おとうさん!聖ちゃんが融通が利かなすぎるの!!』 聖  『なにを言うんですか!椛ちゃんのほうがよっぽど融通が利きません!!』 モグモグモグモグ…… 彰利 『はははははははは、そいでさー。貴様の妻と我が娘が喧嘩しちゃってさー。     聞いてっかー?小僧〜。え?なにか食ってんのかって?───美味い!団子!』 聖&椛『聞いてるの!?パパ(おとうさん)!!』 彰利 『そうは言われてもなぁ』 小僧に繋いでいたtellを解除して向き直る。 しかしね、融通の利く人間なんてそうそう居ないし。 そげなことで喧嘩されてもこっちが困るわい。 彰利 『喧嘩なんて虚しいだけですじゃ。仲良くしなせぇ』 聖&椛『誰がこんな解らず屋と!!』 彰利 『誰が解らず屋だこの野郎!!』 聖  『えっ……ち、違うよ!?パパのことじゃなくて───』 椛  『わたしは聖ちゃんのことを言ったの!おとうさんのことじゃないよ!』 彰利 『つーかさ、俺と双方とで喋り方変えるのって面倒臭くない?     俺にも敬語使うか、それとも双方で敬語を使わなくするかしたらどうかね?』 聖&椛『ヤ!!』 一言即答だった。 こりゃあ困ったね、宗次みたいにならんようにと出来るだけ愛情込めて育てては来たが…… こうも父親べったりになるとは予想外。 あ、父親べったりって言葉って“お歯黒べったり”と語呂が似てるね?あなくちおしやー。 椛  『おとうさん!現実逃避しないで!』 彰利 『それくらいさせてほしいんですがね……。じいやは聖も椛も大好きですぞ?     だから些細なことでの喧嘩なぞよしてほしいのですじゃ』 椛  『好っ……わ、わたしもおとうさんのことは大好きっ!』 聖  『わたしはその好きよりもっと好き!!』 椛  『───!!』 聖  『パパへの“好き”なら誰にも負けません。当然、あなたなんかには───』 彰利 (あ……団子無くなった) 椛  『なんなんですか!どうしてそう突っ掛かってくるんですか!』 彰利 (困ったなぁ……今無性にラーメン食いてぇ) 聖  『それは……───パパはわたしのパパだからです!!』 彰利 (ライトくん!お腹減ったよ!) 椛  『な、なんですかそれ!!おとうさんはわたしのおとうさんです!!』 彰利 (あ〜……衣川さんとこのラーメン食いてぇ……。     スッピーに頼んだら、出前注文してここにまで送ってくれっかなぁ……) 聖  『わたしなんか田吾作どんさんの頃から大好きでした!!     そのあとに生まれた椛ちゃんなんかにこの気持ちは負けません!!』 彰利 (……そうだ!この世界でオリジナルラーメンを作ればいいんだ!!     ブタは解らんが、鳥なら居るから鳥ガラスープは作れるだろうし!     あぁ、でもなぁ……今この話題出したら空気が読めてないとか言われるだろうね) 椛  『過ごした時間なら負けません!!わたしだって───!!』 彰利 (ていうかさっきからなにをピチクパーチクと……。     真面目な話より我々の空腹のほうが問題だと思うんだが) 考えてみりゃあここ数日、ろくに食い物と呼べるものを食ってない。 さっきの団子だって、癒しの大樹の関所にあったのをかっぱらっただけだし。 失敗したなぁ、どうせならあそこで料理でも出してもらえばよかった。 あ、でも肉料理とか麺類は一切でなさそうな雰囲気があったな。 神の社……とはかなり違うが、 それでも高位精霊にラーメン食わせる馬鹿は居ないだろうし。 あ〜あ……腹減ったなぁ……。 みんなは何食ってるんだかなぁ。 【ケース194:閏璃凍弥/皆様】 ゴゾォ……!! 凍弥 「まさに絶景なり!!」 ドドンッ!! 遥一郎「へぇ……じゃあみんな、自然の精霊に会いに?」 無視された。まあいいんだけど。 ───というわけで現在、癒しの大樹前。 凍弥 「やっぱ自由になったんなら、一度はこの大樹を見てみたいって思うだろ」 真穂 「わたしたちは弦月くんの目撃情報を提督さんたちから聞いたから、     かなり遠回りして戻ってきたんだけど」 夜華 「ここか……!?ここに彰衛門は居るのか……!?」 凍弥 「って……あれ?お月さんは?」 真穂 「お月?ああ、ルナさんね。ルナさんなら晦くんが連れてっちゃった」 凍弥 「へぇ……」 深冬 「…………そう……ですか」 紗弥香「まあまあ深冬ちゃん。気にしちゃだめだよ。     それより柾樹くんとみずきくんと刹那くん、見なかった?」 清水 「いや。氷河で見たのが最後だな。猫と一緒に旅してた。     柾樹ボーヤは……やっぱ死人の森以来ずっと見てないな」 田辺 「そだなー。こっちはこっちでいろいろ大変だったし」 鷹志 「そっちは王国に縛られたりしてなかったのか?」 岡田 「あー全然。むしろ自由に飛び回って、     気になることがあったら報告してくれって場所だったし」 柿崎 「そりゃ羨ましい」 ぞろぞろと歩きつつ大樹の……なんだ?関所?を目指す。 凍弥 「で、オメガさん。この大樹にはなにがあるん?」 真穂 「オメガ!?え……な、なんでわたしオメガなのかな……」 凍弥 「なんでって……なぁ?」 遥一郎「何故そこで俺に振る」 清水 「真穂って名前だから、某レベッカ学園漫画のマホマホ人が連想されたんだろう」 真穂 「そんな急に細かいこと言われても反応出来ないってば」 凍弥 「原中の猛者なら確実にと思ったんだが」 清水 「男に比べて女の方はそこまで染まってないからな。     でも通常の女性の三倍はそっち側に染まってるぞ」 真穂 「そういう言い方は引っかかるからやめて……」 そんなこんなで、木々が分かれた先の関所の中へ───!! ───……。 清水 「……ありゃ?」 遥一郎「うおお、なんだこの惨状は!!」 雪音 「わー……みんな死亡中?」 真穂 「生きてる生きてる!!殺しちゃだめだって!」 森の人っぽい人々がぐったりと倒れていた。 おまけに天井が破壊されてたり玉座が大木に潰されてたり……なんだいこりゃあ。 凍弥 「もしや何者かに襲撃を受けた……とか?」 鷹志 「外観とは雲泥の差だな……ボロボロすぎて目を当てられん」 真穂 「あんな高いところにあるガラス貼りの天井が壊れてるってことは……魔法?」 遥一郎「おーい!こっちに意識のあるヤツが居るぞー!」 清水 「おお!それは是非介抱せねば!!」 田辺 「トド───介抱なら我ら原中に任せろ!!」 遥一郎「待て!お前ら今トドメって言おうとしてただろ!!」 岡田 「なにをおっしゃるラビットさん!そんなことはねぇぜ〜〜〜っ!!」 凍弥 「キン肉魂なら原中に長があるな。ともかく……」 我らは“うう……”と呻く森な人へと駆けつけた。 で─── 凍弥 「どうした!?ヤバイものでも拾い食いしたのか!?」 来流美「あんたの脳内じゃあヤバイもの拾い食いしただけで景色が崩壊するの!?」 森人 『う……ぐ……っ!がっ……が、が……』 凍弥 「が?が、が───ガルダンディー!!」 遥一郎「そりゃ絶対にない」 森人 『が、が……学級……王……ヒ……ロ───』 凍弥 「学級王?なんだいそりゃ。ヤマザキ?」 猛者達『───……』 我らが困惑する中、原中の猛者たちだけは……なにかに感づいたようだった。 清水 (聞いたか、みんな……) 田辺 (ああ……これをやったのは提督……ってことになるのか?) 岡田 (いったいなにが目的で……?) 森人 『ド、ドリアードさまが……ヤツに攫われた……!!』 猛者達『───!!』 凍弥 「?……なんだ?その合点がいったァ!って顔」 清水 (すげぇ……!さすがエロマニア……!) 田辺 (まさかおなご攫いまでするとは……!) 岡田 「参考までに……ドリアードさんはやはりスタイルのいい美しい人なのか?」 森人 『な……にを言っている……!ドリアードさまは……まだ幼いだろう……!』 猛者達『幼女!?』 ざわ……!! 清水 (す……《ゴクリ……》すげぇ……!!) 田辺 (さすが提督だぜ……!!) 岡田 (まさか幼女にまで幅広いエロ嗜好を持っていたとは……!!) 真穂 (提督さん……既にわたしたちの想像の範疇なんか超越してるんだね……!!) 凍弥 「………」 なにやら知らんが、あの提督の先のことが思い遣られた瞬間だった。 遥一郎「ありゃ、気絶しちまった。どうする?このままここに居ても情報は得られないし」 清水 「メシ食いたい!!作ってくれ!!」 遥一郎「すまん、こっちにも大食漢が居るから材料が切れててな」 雪音 「えぇ!?わたしそんなに食べてないよぅ!!」 凍弥 「おお!“漢”という部分は否定しないのか!!」 鷹志 「おっとっこ!!おっとっこ!!」 柿崎 「おっとっこ!おっとっこ!!!」 雪音 「ギムーーーッ!!漢ってゆーなぁっ!!」 遥一郎「そうだ!こいつは漢じゃない!漢女と書いてオトメだ!!」 雪音 「ホギッちゃんそれ違うぅ!!」 由未絵「あはは……に、賑やかだね」 来流美「それじゃ。さっさと料理作っちゃいますか」 凍弥 「貴様!まさか暗殺を企んでいたのか!?」 来流美「どうしていきなりそうなるのよ!!」 柿崎 「勘弁してくれ……霧波川の料理はもう二度と食いたくない……」 澄音 「それじゃあ僕が作ろうか。これでも料理には自信があるんだ」 遥一郎「じゃあ俺も。材料はあるか?」 来流美「材料だけなら無駄にね」 清水 「いや。ここは原中名物“黄泉路鍋”を」 凍弥 「黄泉路鍋?なんだいそりゃ」 闇鍋なら知ってるが…… 清水 「う、うむ。黄泉路鍋とは……」 岡田 「集まった者どもから嫌いなものを聞き、     あえて嫌いな物のみを入れるという原中に伝わる地獄の儀式の一つだ」 鷹志 「お前らの学校ってほんとなんでもありなのな……」 田辺 「アレルギーがあろうがなんだろうが入れるのが原ソウル」 真穂 「もちろん学校にガスコンロも常備してあります。最強!」 凍弥 「や、最強じゃないって」 清水 「ふむふむ……ほんと材料だけならごっちゃりあるんだな」 凍弥 「料理作れないくせに妙に食べることには拘ってる男女が居るからなー」 来流美「うっさいばか。おいしいものを食べたいって心にウソついてどうすんの」 清水 「ちなみにこの中で嫌いなものは?」 来流美「う…………」 凍弥 「ああ。そこの苦瓜だ」 来流美「そこっ!!即答で答えないっ!!」 言わなきゃ言わんだろうに。 代弁してやったんだからもっと嬉しそうにだな…… 来流美「〜〜〜〜……あぁそう。そっちがそう来るなら……凍弥の苦手なものは山芋よ!」 凍弥 「うわっ!こらっ!なに言ってるんだっ!!     ……ああ、ちなみに鷹志の嫌いなものはニンニクだ」 鷹志 「うおお!?なんで俺まで巻き込むんだ!!     ……柿崎はレモン食うと寒気に襲われる奇妙なアレルギーがだな」 柿崎 「鬼かてめぇ!!む、無関係キメこんでたのになんてことを!!」 清水 「よっしゃよっしゃ!そんじゃあ久しぶりに!原中名物黄泉路鍋を開始しよう!!」 岡田 「おぉーーーっ!!」 田辺 「どーんとやったるでぇい!!」 真穂 「でも……やっぱり号令は提督さんじゃないとしっくり来ないね」 猛者達『同感……』 こうして……俺達はなし崩しに、原中名物黄泉路鍋というものを食すこととなった。 用意している時点で卒倒者続出、臭いを嗅いだだけで吐き気を訴える者続出の状況下…… 俺達は、ただ無事に食事を終えられることを祈っていた。 【ケース195:晦悠介/未来への分岐を知る者】 悠介 「うぅらぁっ!!!」 ゾフィィイインッ!!! 魔物 『ルゥウォオオオオ……』 ボシュゥウウン…… 悠介 「だぁっ……はぁっ……はぁああ……!!」 ルナ 「あぅー……もう疲れたー。ねーゆーすけー、もう休もうよぅー」 悠介 「ここで……最後だから……」 さて……時の回廊をずっとずっと進み続けていた俺とルナは、 今現在時の回廊の最奥とも呼べる場所まで来ていた。 雑魚も強敵も倒しつつの攻略は面倒を極め、 ともかくこの回廊のあまりの敵の多さに泣けていた。 しかも…… ルナ 「はぁ……結局一体も仲魔にならなかったね……」 悠介 「俺って人徳無いンかな……」 そうなのだ。 どの状況下であろうと友好的な会話が成立せず、敵は一体も仲魔になりはしなかった。 そりゃ、俺が人に好かれないのは確かだが…… まさかここに来て、人外にまで嫌われるとは……。 ルナ 「んー……ちょっといい?ゆーすけ」 悠介 「え?あ、おいっ───」 ルナが後ろから抱き付いてきいて、しかも俺のステータス画面を勝手にいじくり始める。 手馴れた手つきで開いたそれは───エキストラスキルの項目だった。 ルナ 「ふむふむ……あ、やっぱり」 悠介 「ルナ?」 ルナ 「ほらほらゆーすけ?ここ。ここ見て」 悠介 「……?ここって……ぐあ」 促されるままにスキル項目を見てみた。 するとそこにあるのは───“人外に好かれやすくなる”という奇妙なスキルが……。 しかし逆に、“人に好かれやすくなる”という文字はカケラも存在していなかった。 ……ノート。これは新手のイジメか? そりゃ俺は決定的に人に好かれないが。 悠介 「はぁ……じゃ、ここで最後だ。他の道は全て回ったわけだし」 ルナ 「無駄に広いからもう来たくない……」 悠介 「だから……ここで終わるんだからもういいだろ……」 ルナ 「この扉の先が、また道だったら……?」 悠介 「……考えたくないな」 だが、ここで躊躇してたらまた勝手に魔物が出てくるだけ。 もはや止まってなどいられんのだぁーーーっ!!!! 悠介 「チェストォーーーーーッ!!!」 ズバァアアンッ!! ルナ 「───!」 悠介 「……!」 高い音を立てて、扉が開く。 わざわざ蹴り開けることもなかろうとか言われるだろうが、 ここまでの経緯を考えてみればそんなことはチャラにしたってお釣りがくる。 つーか寄越せ。 そんな思考の葛藤はどうあれ、扉は開き……先の景色を俺達に見せ付けた。 ルナ 「広……間……?」 悠介 「ああ……しかもそれだけじゃない」 あれを見よとばかりに先の景色をズビシと指差す。 そこには……嗚呼、そこには!! 精霊の波動を確かに感じさせてくれる少年の姿が!! ルナ 「ゆーすけ!」 悠介 「ルナッ!!」 俺とルナは手を叩き合わせ、それはもう全速力で大激走。 精霊の少年の前に立つと、 あらかじめ何度も頭の中で繰り返し構成していた言葉を口から吐き出した。 悠介 「精霊の加護をくれ!そして今すぐこっから出せ!!」 まるで脅迫である。 まあ、現状の心境を考えればそんなこともしたくなるのは仕方の無いことで─── 問題はそれを普通に受け取ってくれるだけの度量がこの子供にあるかどうかなのだ。 で、肝心の子供の反応はといえば─── ゼクンドゥス『解りました』 少年特有……それもかなりの偏った、希少価値のある素直で冷静な少年の笑みをこぼし、 あっさりと……そう、それはもうあっさりと俺の言葉に頷いたのだった。 ……微妙に後悔したのは内緒だ。 こんなことなら普通に静かに冷静に語りかけておけばよかったとか、 後の祭りっていうのはこんな時に使うのだと思う。 ゼクンドゥス『ここまでご苦労さまでした。        ここを攻略できたのは今のところあなたと黒竜王のみです。        それでは加護を渡しますね』 悠介    「黒竜王……ゼットか。へぇ、あいつもここに……」 あいつも頑張ってるんだな。 俺も頑張らないと。 前はそうでもなかったけど、今は“男”として強さでは負けたくない。 自惚れは敵だが、向上心は味方。 今はそう思えるようになったから。 ゼクンドゥス『はい、お疲れ様でした。加護の注入が済みました』  ピピンッ♪《悠介とルナに時の加護が付きました》  ピピンッ♪《“万象担う創世の法鍵”の力がひとつ解放されました》 悠介 「お?これって……」 ルナ 「あれ?悠介ってば加護を受け取るのって初めてなの?」 悠介 「ああ。ず〜っと獣人生活だったからな。     闇と雷の精霊のところ以外はとくに行ってなかった。     宝玉関連の精霊以外に会うと加護が貰えるって情報だけは聞いてたんだけどな」 ルナ 「そっか」 でもまさか万象担う創世の法鍵の能力が向上するとは。 って、普通に考えて当たり前か? これは精霊の力を周りから集めることで、初めて真価を見せる能力なんだから。 ということは、加護を受け取れば受け取るほど力は増す……と。 そういうことか。 悠介 「……うん、いいな。そういう話の早い物事は今では大好きだ」 ルナ 「ゆーすけ?」 悠介 「よし!次行くぞルナ!ゼットと彰利にゃあ負けん!!」 ルナ 「らじゃー!って、それはいいけど何処に行くの?」 悠介 「加護をくれる精霊のところ全てだ!」 新たな目的は手に入れた。 ルナは“べつにやりたいことはないから悠介についてくー”とか言ってる。 それはそれでありがたい。 お言葉に甘えて、思う存分に上を目指そう。 そう……守りたいものを守るために。 周りのみんなはまた呆れるだろうけど、 結局───俺にはこんな生き方しか出来ないんだろうから。 生き物には起源ってものがあって、それを軸にそれぞれの人は違ってゆく。 そして俺は───子供の頃、起源の根元から壊れてしまったであろう俺は、きっと─── 他人を気遣い守ることでしか、希薄な自分を保っていられないのだ。 それが今の……“晦悠介”という存在の起源。 ……解ってる。 俺は“今”を楽しむことしか出来ない。 それがそれぞれの未来に繋がってくれるなら、俺はそれを喜んで楽しめるだろう。 精霊になった時に眺めることが出来た未来───俺はきっと実現させてみせる。 それが叶えられた時、きっと俺は、今度こそ幸せになれると思うから。 悠介 (千里眼、か……便利なんだかどうなのか) あの一瞬以降、遠い未来の姿は見えない。 それはきっと、近い将来に大きな“軸”の分岐点があるからだろう。 その時、“運命”から外れることが出来るのか、 それとも“偶然”には届かず、望んだ未来に辿り着くことなく堕ちてしまうのか……。 今となっては、その答えはもう届かないところに行き過ぎていた。 【ケース196:中井出博光/マッキンビー】 ンビンビンビンビ…… 中井出「プッハァーーーーッ!!」 藍田 「フヒィーーーッ!!生き返ったァーーーッ!!」 復活したはいいけど、喉が渇いていた我らは水を飲んでスッキリしていた。 おお、この喉と食道を満たしてゆく冷たさが今は愛しい。 満たされたら浮気しなきゃいかんのは人間の構造上のものだが。 そんなわけで、まず水を飲んだのちにメシ。 最近食ってばっかな気もするが、 旅になったらいつ食えるかなんて解らんのだから仕方ない。 中井出「そィで……結局のところ、戦利品はこの短剣だけか」 藍田 「んー……パッと見て剣みたいなんだろうけど……これ刀だぞ?短刀っつーのかな」 中井出「そうか?ところどころ溶けててよく解らん」 麻衣香「サラマンダーに飛び込んだりするからだよ」 夏子 「敵が口の中に入れてた状態のようなものだったから、一緒に溶けたってこと?」 殊戸瀬「そう。そういうところは融通利かなさそうだから、ヒロラインは」 そうなのだ。 携帯している武器が溶岩で溶けることがないのとは別に、 アイテムとして持つ前のものは、やはり溶けるし折れもする。 あ、もちろん敵の攻撃力に武器の耐久力が耐えられなければ武器も壊れるんだが…… なんにせよ、こうして溶けた戦利品を眺めてはメシをむさぼる俺らである。 中井出「やれやれ……。金になるものなんにも無しか。     宝玉は手に入れたけど、出費がかさんだな」 殊戸瀬「提督が何度も死んで何度もルルカを借りるから」 中井出「俺だけの所為じゃないでしょ!?     藍田二等にカミソリパスされなきゃ一回分は浮いてたよ!!」 藍田 「やぁ〜、丁度蹴りやすい位置に脇腹がさらされたもんだから」 中井出「丁度よさで人をコロがさんでくれ頼むから……」 貴重な体験ではあるが……まあそれもオモシロさのひとつか? 夏子 「……ところでさ。ナギちゃんとシーちゃん、ほっといていいの?」 藍田 「集中したいからほっといてくれって言われてるんだ。仕方ないだろ」 つい、と隣のテーブルを見る。 そこでは───対面した椅子に座りながら俯き、力を放出しているナギーとシード。 自然の増幅と、死人の森の縮小……その行使中がソレである。 実際見てるだけじゃあ対面してうんうん唸りあってるだけなのだが…… 見る人が見ればお見合いの席で互いに緊張し合ってるウブなやつらに見えなくもない。 ここで俺は“あとはお若いのに任せて”とか言いたいところだが、 残念ながら同じ席に居るわけでもなければ、 これが本当にお見合いならずっと様子を見ていたいのが本音である。 魔王と自然の精霊……奇妙で意外なカップルだろう。 生まれてくる子はハーフか?名前は……って、なにを突飛した思考巡らしてるのか。 ナギー『ふふん……なんじゃ、魔王の子というからどれほどの魔力を持つのかと思えば。     なんのことはない、ゴールデンフンゴロガシのほうがまだ魔力を持っておるぞ』 シード『それはこちらの台詞だ、アレイシアス。     高位精霊の中でも自然を司る、     世界の五分を支配するお前の力がこの程度とは笑わせる』 ナギー『言いおるわ。ならばおぬしの力、よもやその程度ではあるまいな』 シード『……近くの町に強い邪を感じる。     その存在に当てられ、思うように行使が出来ないだけだ。     存在感が強すぎる。死人の森の所有権の大半がそいつに奪われている』 ナギー『ほう……名は?』 シード『───斉王』 ブッファーーーーーーッ!!!! ナギー『うわっ!?』 シード『ち、父上っ!?』 名前を聞いた途端に吹き出した。 ちょっ……斉王!?斉王ってアイツか!? 中井出「斉王って……エーテルアロワノンの、あいつか?」 シード『え……父上知っておられるのですか?』 丘野 「知ってるもなにも……一番最初に会った最大級のボスでござるし……」 中井出「死人の森の所有が斉王に流れるって言ったよな、シード。それって───」 シード『あ、はい。てっきり父上が所有を得ていると思ったのですが……』 中井出「グ───そ、それよりもだ!     エーテルアロワノンはその……まだ斉王に支配されてるのか?」 シード『……はい。おっしゃる通りです父上。地名、エーテルアロワノン。     少し前までは花舞う都として栄えていましたが、斉王の襲撃により没落……』 中井出「あ……そういや。あそこで助けられた住人は───」 シード『シグマという傭兵に助けられながら死人の森を抜けたらしいですが……。     なにせ都一つ分の住人です。小さな町では匿うことも出来ない。     そのために国に行き───ジュノーンに殺されたそうです』 中井出「……やっぱりか。話の雲行きから、そうじゃないかとは思ってたけど」 藍田 「シングマ選手は?」 シード『当てもなくブラブラと旅をしているようだ。死んではいない』 藍田 「うおお……やっぱ提督とでは物凄い口調の差だ」 しかもシングマ選手で通じてるし。 どこでなにやってんだかな、あの傭兵。 中井出「で。これで宝玉は全員分揃ったわけだけど。どうする?これから」 藍田 「もちろん!世界を───この目で見るんだ!!」 丘野 「トニートニーでござるな」 麻衣香「高位精霊全員に会うっていうのはどうかな」 夏子 「うん、やっぱり世界をこの目で見るってことだよね」 殊戸瀬「……近場で巨人の里とか」 ざわ……!! 中井出「あ、いやぁ……それよりもエーテルアロワノンの斉王をなんとかするほうが……」 ナギー『無理じゃな。今のヒロミツたちでは一秒保たずに殺されるだけじゃ』 中井出「……マジすか?」 丘野 「でも以前、拙者が襲われた時は結構翻弄できたでござるよ?」 ナギー『退屈しのぎしておっただけじゃろうな。     あやつ……斉王は、そう容易い者ではない。     少なくともせめてゼプシオン=イルザーグを倒せるくらいの力なくしては倒せん』 総員 『や、無理だから』 ナギー『……?臆していては高みは目指せぬぞ?』 中井出「ま、ま、ま、それはひとまず置いといてだ。     ……口ぶりからするに、ナギーは斉王のことを知ってるみたいだけど」 ナギー『ふむ……』 そうじゃな、と言って、ナギーは再び俯いた。 難しい顔をしながら腕を組んで溜め息を吐くと、 なんだかこれだけちっこくても俺達よりは大人なのかもなぁと……やっぱ思えん。 ナギー『斉王はの、古の大戦で命を落とした英雄の亡骸じゃ』 中井出「英雄?いったい誰の……」 ナギー『解らぬか?一度見たのじゃろう、ヤツの巨体を。     まあ、そうは言っても少なからず巨人族の歴史を知っていなければ、     理解も出来ぬじゃろうが……』 殊戸瀬「……アハツィオン=イルザーグ」 総員 『───!?』 ナギー『……驚いたの。知っておったのか、殊戸瀬』 殊戸瀬「予想で言ってみただけだけど」 ……マジ? アハツィオンって……狭界での大戦で、 竜王の中の竜王、皇竜王レヴァルグリードと互角に戦ったっていう巨人族の英雄だろ……? ナギー『朽ちたために生前ほどの強さはないじゃろうがな、それでも強い。     ゼプシオンと同等か、はたまた───』 それ以上、か……あっちゃぁ……。 中井出「勝てる?」 ナギー『現時点では無理じゃと言っておる。まずは───』 藍田 「ゼプシオン?」 夏子 「まずは、なんて言えるほどの相手じゃないよぅ……」 麻衣香「晦くんの記憶の映像見たあとじゃ、ちょっと試して、みたいな戦いは出来ないし」 中井出「あんなにバカデカイ巨体なのにあの速さ。悪夢だよなぁ」 殊戸瀬「……提督、その認識はちょっと違う」 中井出「お……殊戸瀬?」 ナギー『そうじゃな。おぬしもいっぱしの戦士ならば、少しは知識を絞るのじゃ』 ……はて? 知識…… 中井出「マンホールの蓋が丸いのは、     四角いやつだと何かの拍子で落下してしまうからなんやでぇ!!」 藍田 「知識は知識でも無駄知識だぞ提督。     しかもそんな、酔っ払いの中年が女子学生に語って悦に入るようなものを……」 中井出「や、急に言われてもな。知識って?」 ナギー『考えれば解ることじゃろ。体がデカイから遅いのではない。     デカイからこそそれだけ力があるのじゃ。     巨大な力は全ての力の原動となろう。     じゃがもちろん、巨大だからこそ消費も激しいのじゃ。     筋力があって、負けることなど普通はありはしないのじゃ。     すばしっこさが筋力に勝るのは、持久力のみの問題じゃろうて』 中井出「む……そりゃ確かに」 記憶の映像のゼプシオンを見れば、そんなことは解りきっているのだ。 速さも持久力も攻撃力も防御力も、まさに英雄だ。 神魔竜人。それを束ねて昇華させたような晦を随分追い詰めてたし。 つーかそれ=神魔竜人くらいじゃなけりゃ勝てない、ってことだよな? 中井出「……にしたってここでこうしてても始まらんし。     まずは巨人の里、行ってみるか?ここから近いんだよな、ナギー」 ナギー『そうじゃの。そう遠くはない。     ただ気をつけるのじゃぞ、巨人族はそれこそ戦闘集団じゃ。     どいつもこいつも気の荒い者ばかりじゃ』 夏子 「ひゃああ……それホント?」 ナギー『普通に話すことの出来る竜族、と考えたほうがよいかもの。     普通にそれだけの力は持っているのじゃ』 麻衣香「うわぁ……」 竜族か……今の俺達で太刀打ち出来るかな。 ちと解らんが、いっちょやってみたいのも確かだ。 面白そうだし。 でも、もしやられるにしても食べられるのはいやだなぁ。 中井出「じゃ、ま、行くか。どちらにしろ僕らの旅はまだまだ続く!」 藍田 「その通りであります提督!!」 丘野 「行く場所などまだまだあるであります!!提督!」 中井出「うむよし!では今すぐ巨人の里目指してしゅっぱぁーーーつ!!」 総員 『サーイェッサー!!』 心機一転!!───心機一転か?まあいい! 俺達は勢いよく立ち上がり、軽食屋を出て─── 店員 「あぁちょいとあんたらぁっ!?お金払ってもらわないと困るよ!!」 総員 『あ……すんません』 早くもその勢いは殺されたのだった。 Next Menu back