───冒険の書56/武器考察とナギー考察───
【ケース210:中井出博光/見よ華麗なこのハイキック】 コキュウウウン───マキィンッ♪《稀黄剣シュバルドライン+147が合成された!》 中井出「147!?」 どうも、皆様に微妙な態度を取られて数十年、中井出博光です。 今日はそう、早速万屋マホーミックに訪れて、合成をしたというところを語ってみよう。 ……いや落ち着け、慌てるな俺。 中井出「ッ…………やっぱ無理!落ち着いてなどいられまへんえ!!」 藍田 「ど、どうしたんだ提督!」 丘野 「なにやら言葉が奇妙な京都弁になってるでござるよ!?」 中井出「だってこれ!見ろ!+147って!バグ!?」 ナギー『落ち着くのじゃヒロミツ!他の客に迷惑なのじゃ!』 中井出「ククク、平穏に暮らす人々を地味に恐怖させるのがこの博光の最大の喜び……!」 麻衣香「本当に地味だね……」 シード『こんな時でも人々を混沌の渦に巻き込む精神を忘れないとは……さすが父上』 夏子 「シーちゃんそれでいいの?ホントに」 いやまあ本当にまず落ち着こう俺。 こんなものはナビを見てみりゃ解ることだろ。 さて……以前丘野二等に見せてもらった部分と似通った場所は飛ばし読みだ。  ◆稀黄剣シュバルドライン+147───きこうけんしゅばるどらいん(略)  双剣の状態と通常の剣の状態とで秘奥義が存在する世にも珍しい剣。  長剣での秘奥義は極光吼竜閃といい、HPとTPが最大の状態でしか放てない。  実行には1を残したHPとTP全てを必要とする。  双剣時の秘奥義は双牙旋空衝といい、六閃化した双剣から荒れ狂う剣閃乱舞を放つ。  実行には一閃につきTP20を消費する。この場合六閃化への誓約があるわけではなく、  六閃だから120消費するというわけではない。  一閃が六閃に変わる能力がプラスされているから一振り20TP。  ◆レアウェポン豆知識  こういった世界に一つしか無いとされる武具にはレベルアップの規制がなく、  +99になろうが気にせず鍛えていける。  +99から昇華した武器を合成させた場合は数値が100を超えた状態から始まる。  合成させた能力を実直に再現するのもレアウェポンの特徴とされている。  ◆現在実装されているスキル  潜在能力が鬼人化時間+1分、羅生門、六閃化。  技術スキルが毒3、麻痺3、回復2、銭1、金─、  背水2、会心0.5、ボマー2、火2、鎌鼬2、蟹キラー5。  長剣時には刀身が鎌鼬と炎を纏うような状態であり、  双剣時には鎌鼬の剣と炎の剣とに分かれる。六閃化は双剣時、長剣時ともに使用可能。  羅生門は長剣時に発動可能状態になった場合、一刀流居合い“獅子歌歌(シシソンソン)
”に変化。  ボマースキルは火属性、または爆発系のものが実行された時には確実に発動。  ボマースキルの★の数は威力を表す。  ◆マグニファイ  鬼人化、黄竜剣、黄竜斬光剣。  黄竜斬光剣は双剣時のみ。黄竜剣は長剣時のみ使用可能。鬼人化は両方で可能。  レアウェポンの特殊能力として、合成させた能力は実直に再現するものとし、  それはマグニファイの効果も変わらない。  効果時間はそれぞれの能力によって異なり、  鬼人化と黄竜斬光剣を同時に発動させたからといって、  黄竜斬光剣の規制として10秒経ったからといって鬼人化まで消えることはない。  頑張ってスキルコンプリートとマグニファイコンプリートを目指してみよう。 中井出「素ン晴らCィイイイーーーーーーッ!!!」  ドゴォオーーーーーーン!!! 藍田 「ヒィッ!?提督が突然トキメキだした!!」 殊戸瀬「とうとう帰ってこれない場所まで……」 中井出「違うよ!!僕はただ純粋に感動してただけだよ!     ホラ見てこれ!こともあろうにマグニファイコンプリート!     マグニファイコンプリートときやがったよこの剣ホラ!!     目指せマグニファイコンプリート!!ホラ!!!     クハァアこりゃ戦士である俺を誘ってるって事実に他ならないだろホラ!!」 殊戸瀬「提督以外にも戦士なんて腐るほど居るけどね」 中井出「たッ……たった一言で興奮状態ブチ壊し!!」 総員 (鬼だ……子供のようにハシャいでた提督が一気に悲しみの目に) 俺の心を鷲掴んだ武器愛……それが俺の巴里を捉えて離さない。 それは殊戸瀬二等に鼻で笑われようとも止まらないのさチキショー!! 中井出「つーわけでオヤジ!!」 オヤジ「あ〜ん?なんだ?」 中井出「ここにある武器全種を一個ずつ《がばしぃ!》もがごっぐ!?」 藍田 「わぁああ待て待て提督落ち着け!!」 丘野 「そんなことしたらせっかく集めたファイトマネーが一気に無くなるでござるよ!」 中井出「だったら今すぐ金を山分けし、俺の分で買えるだけ買う!それで解決!!」 麻衣香「うーわー……すっかりエロマニアから武器マニアに変わっちゃってまあ……」 夏子 「世の中には武器マニアって結構居そうだから、案外顔の幅が利いていくかもね」 殊戸瀬「それをきっかけに出会った武器マニアの女性を茂みに誘いこんでおもむろに」 中井出「押し倒さないよ!!     なんで武器マニアに変わったって言われた矢先に     エロマニアに戻るようなこと言われなきゃならないの!!」 殊戸瀬「武器マニア兼、エロマニアだから」 中井出「兼用なんてしてないよ!!武器マニアでいいからエロマニア卒業させてよもう!」 殊戸瀬「……そんなの提督じゃない」 中井出「なんで!?俺が俺たる証ってエロマニアなの!?     そんなアイデンティティなんか嫌だぁあ!!!」 夏子 「山分けできたよー」 総員 『ヒャッホォーーーウィ!!!』 中井出「いや聞いてよ!人をエロマニアにしたまま別の話出さないでよ!!」 麻衣香「もう……博ちゃん?あんまり騒ぐつもりならお金あげないよ?」 中井出「え゙っ……や、あげないよって……なんかすっごく可哀相なボク……」 あの……麻衣香サン? そのお金、三分の一は僕が稼いだものだって解ってて言ってマス? ……ウフフ……解ってるんだろうなぁ……。 なんでだろうね……涙が止まらないよ神様……。 オヤジ「で?どうすんでぃ」 中井出「あの……まず試着させてください……」 一応山分けされた金を手に、試着というよりは試し装備をしてみた。 涙は中々止まらなかったが、いつしか装備に夢中になってくると涙も止まっていた。 中井出「ふむふむ……この武器のマグニファイはさっきの武器と同じだな……。     こっちの武器は……おお!毒効果二倍!地味だけど面白そうだ!     こっちのは戦闘中一回だけTP無消費で剣閃実行可能!おおマーヴェエラス!!」 藍田 「ああ……提督が帰ってこれない自分の世界に旅立ってしまった……」 丘野 「どうするでござるか……?」 殊戸瀬「無視」 夏子 「じっくり楽しみたいだろうし、わたしたちは別のところで別のことしてよっか」 麻衣香「賛成」 ナギー『わしはヒロミツと一緒に居るのじゃ』 シード『僕は夏子からそう遠くには離れられないから一緒に行く』 藍田 「そか。じゃあナギ助は提督と一緒で、俺達は別行動ってことで」 ナギー『うむ。気をつけるのじゃぞ』 藍田 「おう。んじゃーなー」 ピピンッ♪《藍田、丘野、麻衣香、夏子、殊戸瀬が仲間から外れました》 中井出「ありゃ?なんの音?」 ナギー『気にすることないのじゃ。没頭せい』 中井出「……そか?じゃあ遠慮無く」 一度は止めた鑑定眼を再び行使して、ナビによるマグニファイ効果探知を再開。 すると……フオオ、あるわあるわ、様々なマグニファイ。 俺は早速目を引く武器を買い揃えると、躊躇することなく合成を開始した!!  コキュウウウン───マキィンッ♪《稀黄剣シュバルドライン+147が合成された!》 中井出「ウ……ウフフ……ウフフフフフ……!!」 ナギー『……ヒロミツ、武器を持ちながら笑うでない……怖いぞ』 中井出「いやいやいやそう言ってくれるなナギーよ。     やっぱこうして武器が強くなる様ってのは嬉しいもんだ。     俺としてはルドルグニスのままで強くしたかったけど、     世界に一本しかないならやっぱ尊重するならこっちだろ?」 ナギー『わしは世界のあり方よりヒロミツの意思を尊重するべきだと思うがの』 中井出「いやいや、元々俺ゃグレートソード使いだったんだ。     双剣使い始めたきっかけはそりゃ双剣ガザミだし、思い出深いもんだったけどさ。     でも稀黄剣をベースにしないと長剣型が使えないっつーんだから仕方ないだろ?     ルドルグニスをベースにしたら双剣として分類されちまうんだからしゃあない」 ナギー『むう……わしには武器のことはよく解らんが、そうなのか』 中井出「そうなのだ!よし!今から武器の素晴らしさについてみっちりと教授してやろう!     受け入れづらいのなら詩や詩人の在り方についても語ってやってもいい!」 ナギー『おお!詩には興味があるのじゃ!」 中井出「うむ!なかなか元気なナギッ子だ!サブリガを履きたまえ!!」 ナギー『さぶりが?なんなのじゃそれは』 中井出「うむ!サブリガとはな!」 この後、俺は詩人と詩についてを話して聞かせる前に、 サブリガの素晴らしさについてkittyさんの代わりに身振り手振りを加えて熱弁した。 ……もちろん、と言っていいのか当然と言っていいのか。 俺は熱弁の最中に真っ赤になったナギーの手によって 木々の群れに襲われて気絶することとなった。 なおその際、妙な嗜好を持っているとして、 エロマニア疑惑をより一層磐石のものにしてしまったのは─── 俺の人生の汚点の中でも最上位を記録した悪夢のような出来事だったことを追言しておく。 ───……。 ……。 さて、そんなわけで時とともにズビーと回復したHPに安心しつつ、 合成し終えて輝いている稀黄剣を手に、 周りの迷惑も考えず幸せ光線を所構わず放射していた。 中井出「ああ……幸せ」 手に入ったマグニファイは既製品合成だったため、案外ショボいもんだが─── それでも顔が緩むのを止められない。 追加されたのは結構あったのだ、緩むなってのは酷だろう。 猛毒(毒効果倍化)、一発剣閃、衝撃波(小)、アーマーキラー(小)、 オーガインパクト(一撃のみ通常攻撃4倍)、 ガンランス(突き攻撃時、爆発ダメージ追加)、 ストライクブラスト(次の攻撃が確実にクリティカル+ボーナスダメージ)など。 しょぼい中にも輝くものもあり、俺の心は潤いっぱなしであった。 斧も棍棒も槍も剣も、武器だったらなんでも合成させたもんだから統一性はない。 ガンランスなんて特にだ。槍のマグニファイだと丸解りすぎだ。 ただ俺としては斧のマグニファイ“オーガインパクト”と、 巨大ハンマーのマグニファイ“ストライクブラスト”を合わせた時のダメージが、 今から楽しみでしょうがない。 ちなみにアーマーキラーは“溜め”を必要とするが、 敵に防御力無視のダメージを与えられる上に、敵の防御力を低下させてくれるのだ。 効果が小だから大して下げてもくれないけど。 ナギー『それで、これからどうするのじゃ?』 中井出「早速確かめてみたいんだが……試し切りってやつ?」 ナギー『では外に出てみるのじゃ。外なら腐るほど魔物がおるじゃろ』 中井出「いや、ここはむしろ───」 そう、むしろ─── ───……。 ……。 ズドォンッ!! ゼプシオン『再び挑むか。勇ましいことだ』 中井出  「く、くくく来るなら来い!!出来れば来ないで!!」 エントリーナンバー1番! 中井出博光───強くなった自分を試すため、敢えて強者に立ち向かいます! たったひとりで!!もちろん金はナギーに預けてあります!! 審判 「それではランクキング!!始めェーーーーーイ!!!」 ドワァッシャァアアアアアンッ!!!! 中井出「よっしゃあ!吼えろ稀黄剣!マグニファイ!!」 ゴシャアッ───キィンッ!! ドラの音とともにマグニファイ発動!! 瞬時に身体を包む鬼人化の効果と、剣にやどる眩い光!! 狙うはたったの一撃───!気合を込めてその一瞬のみを望む!! ゼプシオン「では行くぞ───!!」 ドゴォン!!───前回と同じく武舞台の一部が砕ける。 踏み込んだ場所さえ砕くその力は信じられない速度を巻き起こし、 目にも留まらぬ速さで文字通り視界から消え失せる。 だが───! 中井出「スピードポイント!───右ッ!!」 ヴオドッガァアッ!! 自分の右に現れ、振り下ろされた剣を全速力で躱す。 だが安心はしない。 次に来る攻撃に備えて意識を尖らせ───ヴオッ!! 中井出  「ッ───!?後ろ!?」 ゼプシオン「大した反応だ!!だが躱せるか!?」 気づいたところでもう遅い。 既に剣は、見上げる視線の目の前まで来ている……! 中井出「ぬぅ……あぁあああああっ!!!」 ゾブシャアッ!! 中井出「ギッ───!!〜〜〜っ……ツガァアアアアアアアッ!!!!」 振り落とされた剣が肩を斬り削る。 だが狙う一撃のためにもこれしきの痛み!! ゼプシオン「どうした!?避けるばかりでは勝つことは出来んぞ!!」 勝つことなんて望んじゃいない! ただそう───男として、出来ることを最大限にやりたいだけだ! 中井出  (マグニファイから1分……!残り1分のうちになんとか───!) ゼプシオン「戦闘中に考え事か!隙だらけだ!!」 再度。 120ものレベルであっても目に留めることが出来ない速度で後ろに回った英雄王。 続く攻撃は剣ではなく───来た!前回、俺を一撃で粉砕した蹴り! これを待っていた! 中井出「ッ───だぁああああっ!!!」 勢いよく振るわれる鋭い蹴りを、全力を以って跳躍することで躱す。 ゼプシオン「ぬっ───!?」 そう。 剣での攻撃ならまだしも、 蹴りでの攻撃のあとにすぐ体勢を立て直すことなど出来ないのだ。 これこそを待ってた───! 中井出「受けられるもんなら受けてみやがれぇえええっ!!!     ストレングスマックス“黄竜剣”!!」 キィンッ───ギシャゴバァアォオオオンッ!!!! ゼプシオン「ぐっ───!?オォオオオオオオッ!!!!」 溜めに溜めたアーマーキラーと、 オーガインパクト、ストライクブラストを加え、 鬼人化でストレングスをマックスにし、 さらに六閃化で向上させた秘奥義黄竜剣を振り落とした。 全力を込めた力はしかし、ゼプシオンの盾に防がれた───が。  ギヂッ……ビキィッ!! ゼプシオン「なに───!?」 吹き荒れる剣圧が俺とゼプシオンの髪を掻き上げる。 上から落とす圧力がゼプシオンの足を岩盤へと減り込ませ、 アーマーキラーの力がゼプシオンの盾を───とうとう砕いた!!  パガァッシャアアッ!! ゼプシオン「ッ───!!」 中井出  「っ……いっけぇええええええっ!!!!!」 盾を砕いてなお、振り下ろす剣圧の力は治まらない。 だったらこのまま───などと、一瞬でも勝利への欲を出したのがそもそもの油断だった。 盾を砕いた剣は確かに、ゼプシオンの篭手をも砕き、やがて腕を斬るに至った。 もちろん普通ならそれで終わったんだろう。 このまま振り下ろして俺の勝ち。 そう、普通なら。 だけど相手は英雄王で───こんな状況など散々経験したであろう、 こと白兵戦闘においては右に出る者など居ない、最強の戦士なのだ。 ゼプシオン「ぐ、ぬぅう……!!おぉおおおおおあぁああああああっ!!!!」  グジュリ───ズバシャアアッ!!! 中井出「っ……な、───うそだろ!?」 英雄王は左腕を捨てた。 いや、盾として使ったからには最後まで盾として利用したのだ。 やがて骨にまで至ろうとした全力での一撃を血に塗れた左腕で強引に腕ごと逸らし、 無防備になった俺を見上げてなお笑うこともせず、最後まで戦士の顔で───  ゴバシャォンッ!! 中井出「げはぁあっ!!」 迷うことなく俺の腹を斬り裂くと、引っ掛けるようにして岩盤へと叩きつけた。 ───それで終わり。 あまりの自分の中の常識を超えた戦いに付いていけず、 ステータスを防御に回すことも忘れていた俺は─── その一撃だけでもう戦闘不能状態に陥っていた。 審判   「しょ、勝負あり!!勝者、イルザーグ王!!」 ゼプシオン「……左腕を持っていかれたか。盾を破壊されるなど幾年ぶりか、まったく」 審判   「今すぐ治療いたします!救護班!特に念入りに!!」 中井出  「ごぼっ……げ、ふ……!っ……は、あ……!」 ゼプシオン「意識があるか。今回は中々ヒヤリとさせられたぞ。       身の振り方は滅茶苦茶だが、戦いを楽しめる内はそれでいい。       再び戦いたくなったらいつでも来い。       命の保証はしてやれないが、誇りを以って戦おう。       ただし同じ手は食わんぞ。心してかかってこい」 中井出  「…………、……」 なにかを言い返そうとした。 けれど、言葉は出なかった。 いや、出たかもしれない。 けど俺の意識は既に混濁していて、自分ではもう判断出来なかった。 ───……。 ……。 中井出「とまあそんなわけで……珍しく大真面目に、     しかも全力で戦ってみたもののダメでした」 ナギー『ヒロミツは無茶をしすぎなのじゃ……。     たったひとりでゼプシオンに勝てるわけがなかろ……』 や、そうは言うが実際勝つことなんぞ望んでなかったのだ。 むしろ挑戦するつもりで、傷とかつけることが出来たら蝶・サイコーってノリで。 もちろん結果は惨たらしいほどに惨敗だったけど。 中井出「いや〜、でも全力で戦って負けたら気が済んだ。     これでこの町に思い残すことはねぇぜ〜〜〜っ!!     だから猛者たちが集まったら新たなる旅路に出よう。うむそれがいい」 ナギー『よいのか?ここでもっと鍛錬して、     ヒロミツと藍田と丘野でもう一度挑戦してみれば勝てるやもしれんのじゃ』 中井出「あぁ、そりゃ無理だね。     一撃当ててみたから解るけど、あれは人間兵器もいいところだ。     俺が“受けてみやがれ”って言ったから戦士として立ち向かってくれただけで、     実際は蹴りのあとすぐに避けられる余裕が彼にはあったのだよナギー」 ナギー『そうなのか?』 中井出「そうなのだよ」 今のままじゃどれだけ戦っても勝てないってのがよ〜く解った。 なのにエントリーしまくってたら金がすっからかんになる。 加えてゼプシオンの最後の言葉───同じ手は食わないってのは本当だと思う。 これじゃあダメなのは目に見えてる。 中井出「うーむ、やはり武器にもっと磨きをかけねばどうにもならんか」 ナギー『剣技の型をもっとしっかりしたらどうじゃ?おぬしはどうもこう……』 中井出「ノー!それはだめだ!!俺はどの剣技にも染まらねー!!我流剣技万歳!!     男なら己の道を魁るのが当然のこと!!」 ナギー『頑固じゃのぅ……我流にせよ、他の流儀には学ぶべくものもあるじゃろうに』 中井出「私は一向に構わん!!」 俺は我流を愛します! だから剣技なぞという概念は捨てておく。 なにせ型にハマったら相手の裏を掻くことなんて絶対に出来ないし。 “こう来るだろう”と予測した相手に毒霧吐く瞬間が最高なんじゃないか。 ナギーはまだそこらへんの素晴らしさが解ってない。 中井出「さて……話しながらもマホーミックに着いてしまった。     ふむ、藍田たちはまだみたいだな。どうしてくれようか」 ナギー『武器はもう見ないのかの?』 中井出「うむ。残念なことにだな、ナギーよ。     ここにはもう今持ってるマグニファイ以外のマグニファイ武器が無いのだ。     だからといって防具を揃えるには金が足りん。     ……よし、チョコレートパフェでも食おう」 ナギー『ちょこ?なんなのじゃそれは』 中井出「まあまあ、きっと気に入るぞー」 そうと決まれば急げだ。 軽くナギーの手を引くと、 まるで子連れの親のようにマホーミックのドアを開けたのだった。 もちろん横にもうひとり居れば、囚われの宇宙人が演出できたのだが─── 事実を知られるとコロがされそうなので、居なくて正解だということにしておこう。 居たとしたら原中の誇りにかけてでも 囚われの宇宙人を演出してコロがされていただろうが。 ───……。 ……。 ややあって───飯処まで担っていたマホーミックのテーブルにパフェが置かれた。 スタンダードながらもきっちりと飾られたパフェは ナギーの心をしっかりと捉えてくれたらしく、ナギーは嬉々として一口を運び─── ナギー『……甘ぁあぁあぁ〜……』 今にも泣きそうな顔で、一口で食べるのをやめてしまった。 ……こりゃまいった、目の前にレンが居る。 名前は同じでも、ケーキ好きの黒猫とは大違いだ。 ああ、ここで言う同じ名前ってのはナギーのことではなく……どうでもいいか。 中井出「お子様なのに甘いの嫌いなのか……」 ナギー『おぉおおお子様いうでない!!わしは大人だから苦手なのじゃー!!』 中井出「舌年増……」 ナギー『違うのじゃ!!このような甘ったるいものを食べる輩が子供すぎるのじゃ!!』 ブラックコーヒ−を嬉々としてガブ飲みして、 大人なのじゃーとか言って胸を張るナギーが脳内で大絶賛放映された。 “ブラックコーヒーでも飲めるのじゃー”とか言ってる内はガキだな、うん。 でも好きそうだから頼んでみた。 まあその、いわゆるダッチコーヒーというヤツを。 ナギー『ヒロミツ、これはなんじゃ?』 中井出「注文する時に聞いたろ?ダッチコーヒーだ。     普通はお湯で出すんだけどな、     ダッチコーヒーは水で出すから湯気とともに風味が逃げることがない」 あるとは思わなかったが、頼んでみるもんだ。 風味が高い代わりに苦さも一際高いが。 ナギー『ふむ……?』 ナギーはカップをついついとつついたり、持ち上げてみたり裏ッ側を見てみたりしている。 飲み方が解らないってわけじゃなかろうが、 とりあえず俺はナギーが残したパフェを食べ始めた。 ……うん、普通にパフェだな。これ以上もこれ以下もなさそうな、典型的なパフェだ。 彰利だったら絶対に“このパフェを作ったやつは誰だぁ!”とか言いそうな味。 微妙に美味いんだ。訊かれたら“あ、あぁ……不味くはないよ”って答えるくらいの味。 しかし胸を張って美味いと言える味でもなく、 ついつい無言になってモソモソ食べてしまう悲しみの味というか。 なんにせよナギーはようやく決心がついたのか…… いや、どんな決心なのか解ったものではないが、 どうあれカップを傾けてこくこくと飲み始めたのだ。 小さな喉が動き、黒く冷えたコーヒーを嚥下する様を黙って見届けばぶしぃっ! ナギー『にがっ……にがいのじゃーーーっ!!』 ……さて神よ。 果たして結論は目の前のクソガキャアが 我が儘な舌を持っているということに落ち着いたわけだが。 この俺の顔に容赦無くかかった黒色の液体はどうしてくれようか。 液状で吐き出すのではなく霧状で吐き出してくれたなら、まだ救いはあったのだが。 ともかく俺は黙ってハンケチーフで顔や服を拭い、一息ついたのちに言ってやったのだ。 中井出「……子供」 ナギー『うぐっ……そ、そんなことないのじゃ!飲めるのじゃ!     ふ、ふははは、そこで見ておるがよいぞ!?     さっきのはその……そうじゃ!気管に入ったから咽たのじゃ!!』 それじゃあなにか。 先ほど思い切り苦いのじゃーとか叫んでた貴様は夏のマボロシか? ナギー『よ、よいか……?飲むぞ……?』 中井出「おう」 ナギー『の、飲むんじゃぞ?本当に飲めるんじゃぞ?     理解して止めるなら今のうちじゃぞ?恥をかかずして済むんじゃぞ?』 中井出「ナギーの名誉のためなら恥も恥ではないさっ……!!」 ナギー『うぐっ……う、ううぅ……!!     ……?待つのじゃヒロミツ。なぜ席を移動してわしの隣に座るんじゃ?』 中井出「また気管に詰まったら大変だから。     まあナギーほど大人な存在が、二度も三度も気管で咽ることはないとは思うが」 ナギー『う、うぅうぅぅ……』 本気で困った顔をしている。 神様、これはご苦労賃として受け取っておきます。 この博光、面白いことがなにより好き。 困惑して今にも泣きそうな顔のまま、どう切り抜けようかと必死に悩むナギーの横顔は、 巨剣で切り裂かれた男のハートをカナブンのように癒してくれた。 ナギー『の、飲むぞ!?本当に飲むんじゃぞ!?止めなくてよいのか!?』 中井出「よいわ!!」 ナギー『これは脅しじゃないのじゃぞ!?飲むといったら飲むんじゃぞー!?』 中井出「よいわ!!」 ナギー『この液体の命がわしの体の中で少しずつ溶かされてゆくんじゃぞ!?     おぬしはそんな残酷な様を見届けようとしておるのじゃぞ!?』 中井出「よいわっつーに!!」 ナギー『ここここの黒い液体の命が惜しくば止めるのじゃ!!今すぐ止めるのじゃー!!』 中井出「惜しくない!!」 ナギー『う、うううーー!!』 何故途中から、 銀行強盗あたりが人質をとったような駆け引きなったのかは敢えてツッコむまい。 言い訳が三千院レベルに変色し始めたからには、 相当動揺しているというのは見てて解るが。 ナギー『う、うぅうう……うぅうう……!!うわー!!』 くぴっ─── 中井出「おおっ!飲んだ!」 ナギー『……、……!……!!』 くぴくぴくぴ……くぴ……だんっ!! ナギー『ぷあっ……はぁっ、はあぁ……!!     ど、どうじゃ!飲めるであろ!飲め……にがぁ〜〜ぁぁ……!!』 勢いよくカップをテーブルに叩き置いたナギーは、 無い胸を張って奇妙な汗を流しつつも己を誇った───途端、 後から襲ってきた苦さに顔をしかめて涙を流した。 うーむ、どこまで頑張ってもカッコつかんヤツだ。 さすがナギー。 喉から“きゅ〜〜……”という音が聞こえるほどに奇妙に高い声で “にがぁ〜”とか言うもんだから、普段のツンツンした態度よりも遙かに可愛く見えた。 もちろんこの場限りの戯れ感情だが。 ナギー『い、いや、今のは冗談じゃぞ?     ヒロミツはなにも聞かなかった。聞かなかったのじゃ。     わしは苦いなんて言ってないぞ?美味しかったのじゃ』 中井出「じゃあ追加で飲めるな?」 ナギー『ひきっ!?……あ、あぅあぅ……いや、いやっ……わ、わしはその……』 中井出「俺だけパフェ食べてるなんて割りに合わないもんな。     すんませーん、ダッチコーヒーもういっちょー」 ナギー『う……うぅうう……!!』 だが。 この場限りの戯れ感情だからこそ、この場限りで十分堪能しようとも思えたわけで。 じゃあ、頑張っていただきましょう。 ───……。 ……。 ややあって───カランカラーン。 藍田 「お待たせしたぜ提督〜〜〜っ!───って、あれ?どしたんだ?ナギー」 藍田たちが戻ってくる頃、 テーブルの上では小さな体が突っ伏したまま動かなくなっていたそうな……。 神よ。俺はコーヒーの苦さに耐え切れず気絶する人を初めて見た。 ちなみに……のちにどれだけ“気絶した”と言ってみても、 “気絶などしてない。眠かったから眠ったのじゃ”の一点張りだったのは言うまでもない。 それが、このちっこい負けず嫌いはきっと、 カフェインの存在も知らないんだろうなと静かに思った瞬間だった。 Next Menu back