───冒険の書57/血の涙だって流せそう───
【ケース211:中井出博光(再)/心の薔薇が枯れる時】 中井出「そこで俺はこう振り下ろしたわけだ!そしたらズシャーと破壊される盾!」 殊戸瀬「で、呆気なく斬殺されたと」 中井出「そうです……」 地界や空界の皆様、いかがお過ごしか。 俺達は今、新たなる目的のために世界を歩いていた。 巨人の里はとっくに出て、遙かなる旅路へと足を向けたのだ。 もちろんその間はルルカ牧場がなかったために徒歩での旅になるが、 これもまた懐かしい感じがして十分だった。 中井出「で、では気を取り直してこれからのことを確認しよう!藍田二等!」 藍田 「イェッサー!!これより我らは世界を旅し、     まずはこの世界に居る全精霊に会って加護を頂戴するものとする!!     一応宝玉を持った精霊とも会うつもりなのでアイテムの補充を忘れぬように!」 丘野 「バナナはおやつに入るでござるか!?」 藍田 「否である!!バナナは調理してデザートにした方が     腹も満たされTPも回復するのでおやつには入らん!!」 丘野 「解ったでござる!!」 藍田 「なお今回の旅は長旅になると思われるため、     自分用のアイテムの補充と殊戸瀬の調合用アイテムを     各自が限界まで所持しておくことが提督より義務付けられている!!     金はナギ助に全て預け、我らは全力でこの旅を乗り切るものとする!」 夏子 「亮、楽しそうだね」 藍田 「いやぁははははは一度やってみたかったんだよこれ素晴らしく面白いなこれなぁ提     督ワハハハハハ!!!」 アイテムのことでマホーミック内で話し合ってる時、 急に一度報せをやらせてくれとか言い出すから何事かと思ったら。 ただ本当にやってみたかっただけらしい。 豪快に笑っているところを見ると、相当に楽しいらしい。 気持ちは相当に解るが。 原中時代から猛者たちを前に叫ぶのはどういうわけか俺の役目だったが、 不思議と嫌だったという思い出はない。 何故かといえば、やっぱり楽しかったからだろう。 さすがにワハハとは笑わなかったけどさ。 麻衣香「じゃあ、精霊名所観光ツアーってことでいいのかな」 中井出「なお、敵が居たら絶対にコロがすことを目的とする」 夏子 「え?なんででありますかサー」 藍田 「夏子も楽しそうじゃないか」 夏子 「えへへ、まあ」 中井出「そこのところは殊戸瀬の提案なんだ。     RPGは敵から逃げずに戦ってればラスボスくらい普通に倒せるって」 総員 『おぉ正論……』 敵から逃げまくってたのに何故かボスに勝っちまったなんて奇跡は度外視しよう。 とまあそんなわけで目的は決まり───俺達は一路、氷河を目指して歩きく出したのだ。 ……もちろん、ルルカ無しでは相当に遠い場所なんだが。 気長に気楽に楽しくいこう!ユーレイユーレイユーレイヒー!! 俺達の戦いは始まったばかりだ!! などと、連載打ち切り上等文句を思考の中で展開させつつ、 俺達は埒も無しと全力疾走しながら氷河を目指すのだった。 ここまでくると、AGIマックスにすればルルカにも負けない速さを出せるので。 中井出「フフフ……軽い!!枷を外したら……体が軽いぞお!!」 丘野 「なんの!忍者である拙者の方が速いでござるーーーっ!!!」 藍田 「甘いわあ!!貴様らのさらに10レベルも上をゆく俺の方が速い!!」 中井出「ゲエエ信じられん速さだ!!」 丘野 「ま、負けていられんでござるーーーっ!!」 殊戸瀬「ロドリゲス、突撃(ロース)
」 ルルカ『ゴエェ……』 麻衣香「ごめんねロドくん、わたしたちの足じゃあ博ちゃんたち追ってられないから」 夏子 「男のコってホント元気……」 藍田 「───!報告しますサー!!前方に人狼型モンスターを確認!!」 中井出「ブッ潰せェーーーーッ!!!」 男衆 『Yah(ヤー)ーーーーーッ!!!』  ゴゴシャア!! 人狼 『ぶべっしぃーーーっ!!』 足音に気づき、振り向いた人狼の顔面に藍田二等の蹴りが突き刺さった。 ああ人知れずカウンター成立。 人狼は鼻血をブビッチュと出しつつゴシャーンと倒れ、 やがてサラサラと塵になって消えた。 せめてやすらかに。エイメン。 中井出「止まるなぁーーーーっ!!オーガストリートで     スピードワゴンの旦那が走るかのごとく全力で走るんだぁーーーっ!!」 男衆 『Yah(ヤー)ーーーーーッ!!!』 麻衣香「少しくらいは止まろうって思ってよーーーっ!!     こっちはロドリゲスくんが三人乗せて走ってるんだよーーーっ!!?」 ナギー『ほほう。それは暗に自分たちが重いことを公言しておるのか?』 麻衣香「行けロドリゲス。我ら三人の重量なぞ男子の一人にも満たぬ」 ルルカ『ゴエェッ!!?(訳:漢らしィーーーッ!!?)』 丘野 「ナギ殿!肩車状態で喋ると危険でござるぞ!舌を噛むでござる!」 ナギー『大丈夫なのじゃー!!速いのじゃ速いのじゃー!!』 シード『父上!あの小娘には負けたくありません!走ってください!!』 中井出「楽しそうでいいなぁお前ら!!」 ちなみにナギーは丘野二等、シードは俺の肩に乗っている。 まるで騎馬戦のような格好で、俺と丘野くんは走りを競っては敵に蹴りをブチ込む。 それは当然藍田も同じなわけだが─── 藍田 「よしこうしよう!」 中井出「ギャアーーーーッ!!《ドロドロドロ……》」 藍田 「まだなにもやってないだろ!!つーか提督になにかするわけじゃねぇって!!」 中井出「そうか?スライムエキスまで使って効果音を演出してみたんだが。     ───して、何をすると?」 藍田 「もちろんこうするのであります!!ヘアイーーーッ!!」 突如!速度を落とした藍田二等がルルカの横につくと、 木村夏子二等をスバッと抱き降ろした!! いわゆるお姫様抱っこである!! 夏子 「りょ、亮!?」 藍田 「喋ると舌噛むぞー!さあ提督!丘野!勝負だ!!」 中井出「そう来たか!だが負けはしねー!!」 丘野 「忍びの底力を見せてやるでござるー!!」 こうして僕らは再び走り出す。 俺はシードを、丘野くんはナギーを、そして藍田がフルアーマー木村夏子二等を担いで。 ………………。あー……。 中井出「な、なぁ藍田?いろいろツッコミたいことがあるんだが……」 藍田 「提督!今は真剣勝負の真っ只中でありますぞ!!」 丘野 「し、しかしでござるな?藍田殿。やはりここはその……」 藍田 「貴様もだ丘野くん!ここは戦場!話などでは乗り切れぬ!!」 中井出「いや……そこで雄々しく言われてもな」 丘野 「藍田殿、悪いことは言わんでござる。素直に聞いておいたほうが……」 藍田 「ええいなにを長閑な!!ならば俺はそんな貴様らを一歩先んじる!!」 ダタタタタァーーーッ!! ……行ってしまった。 中井出「……俺、フルアーマーな人をお姫様だっこする人、     漫画界やアニメ界も総じて初めて見た……」 丘野 「拙者もでござる……」 むしろAGIマックスの状態であんな思い甲冑少女を持ち上げてたらドゴシャア!! 藍田 「ウギャアアアーーーーーーッ!!!」 あ、やっぱコケた。 STRが全然無い状態でフルアーマーな人を持ち上げたまま走れるわけないだろが。 中井出「さらばだ藍田よ!やはりこの戦い、我らが一歩先んじる!!」 藍田 「なにぃ!?よし夏子、行くぞ!!」 夏子 「ちょ、ちょっと待って、鎧脱いだ方が軽いでしょ?」 藍田 「どっちだって夏子は軽い!!さあ!!」 夏子 「《がばしぃっ!》うわひゃぁっ!?も、もう、亮っ……」 中井出「クハァ暑いなコノヤロー!!なんですかそのラヴラヴ空間!!」 丘野 「正直に言うでござる藍田殿!!軽かったらあそこで転倒するわけねーでござる!」 藍田 「う、うるせーーーっ!!」 中井出「はぐらかしたー!」 丘野 「はぐらかしたでござるー!!」 中井出「ひゅーひゅー、暑いぜコノヤロー!!」 丘野 「お姫様抱っこ状態でぶっちゅでもしたらどうでござるかー!?」 藍田 「てめぇらぁああーーーーーーーっ!!!!」 中井出「ワー、怒った怒ったオーコッター♪」 丘野 「小さい小さい人間ちいさーい♪」 藍田 「待ててめぇらこの野郎!!今すぐその口、引っこ抜いてくれる!!」 丘野 「口を引っこ抜けるわけがないでござる!!」 中井出「そうだこのタコ!!」 藍田 「ギ、ギィイイーーーーーーッ!!!!」 麻衣香「……本当、元気だね……」 その日、僕らは決して休むこともなくフィールドというフィールドを走り続けた。 時にからかい、時にからかわれながら、長い長い道のりを全速力で駆け抜けたのだ。 さすがにロドリゲス(ルルカ)が限界の時は休憩を挟んだが、 それが回復すると寝る間も惜しんで駆けた。 なにをそんなに急いでたのかと言われれば急いでいたことなどなにもなく─── ただ走りたいから走っていただけなのだ。 倒した(巻き込まれたとも言う)敵の数は172体。 何故か魔物の群れにばかり衝突した故である。 しかしそれらを倒してもまだ我ら男衆のレベルは1レベルしか上がらず。 藍田など1レベルも上がってない有様だ。 巨人の経験値ってホントすごかったんだなぁという思いをしみじみ噛み締めている。 ナギー『ヒロミツ〜……お腹が空いたのじゃ〜……』 中井出「大丈夫だ!みんな空いてる!!」 ナギー『……そういう問題じゃなくてじゃな』 藍田 「提督ー、そろそろ止まってメシにしようぜー。     疲れないとはいえ、精神によろしくない」 丘野 「そうでござるな。精神はやがて肉体に影響を及ぼすでござるよ」 ナギー『言っている意味がよく解らんぞ?食事を取らぬと精神が悪くなのか?』 殊戸瀬「そう。エロマニヨン人である提督は食事を食べないと精神汚染が始まってそれはや     がて肉体にも影響を及ぼし血に鉄分が通わず黄色く変色して肉が腐り唇が紫に変色     して筋肉は削げ落ちて髪はゾロリと抜け落ち歯も全て抜け落ちるとやがて彼の姿は     変貌していきとうとう究極生命体エロマニアンデビルへと変貌」 中井出「しないよ!!つーかどういう肺活量してんのキミ!!     一息であれだけ喋れるなんて何者なの!?」 夏子 「冬扇譚女学院水泳部のエースにしてキャプテン」 中井出「初耳だよそんなの!!つーか原中卒業してから冬女通ってたのかお前!!     あそこって凄まじいお嬢様学校だろ!?」 思わず立ち止まって問い詰めてしまった。 だが殊戸瀬はそれが当然とばかりに“そうだけど?”って顔で俺を見ていた。 ぐっ……そういや殊戸瀬ってやたらと頭良かったっけ……。 それに“黙ってれば”かなりいいセンはいっている……。 何故、ああ何故それが悔しいと思うのでしょうかゴッド。 丘野 「睦月は冬女で“お姉さま”と呼ばれ、慕われていたでござるよ。     別名“沈黙の令嬢”でござる」 中井出「うわぁあーーーーーっ!!!」 藍田 「そのまんまぁーーーーーっ!!!」 叫びつつシードを下ろし、巨木の下に腰を落ち着ける。 もうすっかり夜である。 俺はナギーが出現させた木を切り刻むと薪代わりにし、 麻衣香の火炎魔法で燃やしてもらう。 中井出   「けどさ、それって高校時代の話だろ?        その頃の呼吸器と現在を比較されてもな。        いくら今がその頃と同じ年齢にまで落とされてるとはいえ」 丘野    「趣味が海女業の手伝いで、よく素潜りをしていたでござるよ」 中井出&藍田『どんな趣味だよそれ!!』 丘野    「最大潜水時間は不思議ハンターの妹のソレを軽く凌駕すると聞くでござる。        おお、我が妻ながら凄まじいでござるよ」 中井出&藍田『そんな古いネタ出されてもなぁ……』 だがしかし、不思議ハンターの妹の肺活量は確かにバケモノじみていた。 ありゃ普通死ぬだろ。 だってのに……嗚呼、ありゃあいつ自身が不思議だぞ兄よ。何故狩らん。 ちなみに不思議ハンターの妹とは不思議ハンターの妹である。 水泳部所属だったような気がするが、だからって呼吸が続きすぎるある意味怪物。 オルカサルベージの魔の手によって、両手を後ろで縛られたまま顔を海水に突っ込まれ、 ガボガボと散々暴れるが、やがて沈黙。 死んだと判断したオルカサルベージのあの人に蹴落とされ、海の中に沈んでいった。 だが水泳部で鍛えた強靭の肺がどーのこーのとほざきつつ復活。 オルカサルベージのあの人に“なかなかしぶといな”とか言われるほどに暴れ、 ガボガボと息も吐き出しまくってたのに生きてたの。 普通さ、自分が殺されそうになる瞬間って胸がドキドキしてるもんで、 そういう時って自分が思うほど息って続かないんだよね。 寒い時期の冷水に潜ることを想像してもらえば解ると思うけど。 それと同じ、あるいはもっと深刻な、 自分の命がかかった局面であの潜水時間はまさにバケモノ。 だからこそ言おう、不思議ハンターよ。貴様の妹こそが不思議だ。 なんつったっけ?くーこ?クー子?空子?確かそんな名前だったような。 あれならまだグラシャラボラス子の方がよかったぞ。もしくはサハギン子。 藍田 「ところで今回の調理当番、誰だったっけ?」 ナギー『わしなのじゃー』 藍田 「却下 誰だっけ?」 ナギー『即答すぎるし話を再開するのも早すぎるのじゃー!!』 藍田 「まあま、落ち着けナギ助。お前は料理が好きか?」 ナギー『好きなのじゃー!おぬしたちと旅を始めてから、     食というものの素晴らしさに目覚めたのじゃー!!』 藍田 「そうか。じゃあ今すぐ眠らせろ」 ナギー『な、何故目覚めた感情をいきなり寝付かせねばならぬー!!』 藍田 『それはな?料理とは食うだけの存在には到底作れんシロモノだからだ!!』 ナギー『な、なにを言うか。わしにだって料理のひとつやふたつ……』 藍田 「よろしい!ならば料理だ!いいか?まずこの粉に水を入れる。やってみろ」 ナギー『う、うむ。やってみるのじゃ』 藍田 「水を入れたらそれをこの専用の棒で掻き混ぜる」 ナギー『わかったのじゃ!』 じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ……!! ナギー『混ぜたのじゃ!』 藍田 「まだまだ!もっと混ぜるんだ!」 ナギー『も、もっとか!任せるのじゃー!!』 じゃぶり、じゃぶり、じゃっぷじゃっぷ……!! ナギー『どうじゃ!』 藍田 「ええいまだだまだまだ!!」 ナギー『む、むうう!!これでどうじゃー!!!』 じょぶじょぶ、ねじゅりねじゅりねじゅりねじゅり……!! ナギー『ど、っ……どうじゃ……!?』 藍田 「まだまだだ!!」 ナギー『ま、まだやるのか……?もう……』 藍田 「おやおやナギ助さん?まさかもう疲れたというの?     あなたは料理のひとつも満足に作れずにリタイヤすると?」 ナギー『だ、誰が疲れたなどと言ったのじゃ!?平気なのじゃ!』 ネリネリネリネリネリネリ……!!! ナギー『ど、どうじゃー!』 藍田 「まだまだ!!ほれもっと!!」 ナギー『う、うぐぎぃーーーーっ!!!』 ネリリリリリリリ……!!! ───……。 ……。 麻衣香「ご飯できたよー」 総員 『ハイ・ヨー』 ナギー『はっ……はあっ……な、なんじゃ……?料理ならわしが……』 藍田 「うむ、見事な練りエサだ。これで魚の野郎も喜んで針にとびついてくるだろう」 ナギー『なっ……なんじゃとーっ!?藍田おぬし!わしをたばかったのか!?』 藍田 「なにを言う。きちんと魚用の料理じゃないか。     それともなにかー!貴様は魚がものを食うことを食事とは言わないつもりかー!」 ナギー『うぐっ……ひ、卑怯なのじゃー!!』 藍田 「ふははなんとでも言うがいい!!     腹を空かした我らは実験体を志願するほどバカではないわ!!     俺達に食わせたかったら一度でも料理をしてから言うんだなぁ!ワハハハハ!!」 麻衣香「藍田くーん?海馬カンパニーのぼっちゃんの真似してないでご飯食べなよー」 藍田 「おっと失礼」 海馬くんの真似だったのかあれ。 そういやワハハなんて笑い方、海馬くんくらいしかしそうにないもんな。 中井出「それにしても綺麗に出来たな。     うちは早くから両親亡くしたから料理については詳しくないんだけど───     これってなんて料理だ?」 麻衣香「その代わりわたしがいろいろ作ってあげてるでしょ?     これはホルトラビットのシチュー」 丘野 「ラビット……ウサギでござるか」 夏子 「今回はパパッと女性陣で作らせてもらいました〜」 中井出「へぇ〜……って殊戸瀬?ちょ、なにそれ!?     なっ……なんで俺にぐいぐい押し付けてくるの!?     なにその凶々しい器と奇妙な……米!?米なの!?これ!!なにこの料理!!」 殊戸瀬「チンギス(はん)」 中井出「なにそのモンゴルの英雄みたいな名前の料理!!     チンギスってあれでしょ!?毒を持った虫モンスターでしょ!?     ───え?それをコメモドキと一緒にウィブドエキスで炒めた?     コメモドキも毒持ちの虫だよ!!しかもウィブドって猛毒じゃないか!!     え?一緒に解毒の実も一個入ってる?どう足掻いても釣り合いとれないでしょ!!     そんなの入れても逆に毒が活性化するだけだよ!つーか臭い!臭すぎ!     どんな加工すりゃこんな臭いだけで人を毒殺出来そうな───ヒィ!!     辺りから聞こえてた虫の声が何故か急に止まった!!     い、生きてる!?虫の皆さん生きてるよね!?また夜の景色に大合唱してぇえ!!     虫の声が聞こえなくなっただけで何故か前人未到の領域に入った気がする!!     こんなの《がぼっ》ぐぶぅえぁああああっ!!!!」 ゲボハァッ!!───ぐしゃあ。 藍田 「ヒィイッ!?チンギス飯を口に入れられた提督が一瞬にして動かなくなった!!」 丘野 「大丈夫でござるか提督ど───ヒィ!?瞳孔が開いているでござる!!     しかも肌の色が徐々に紫色に変色して泡を吐きまくってるでござるよ!!」 麻衣香「博ちゃん!?博ちゃぁーーーん!!」 藍田 「さ、さすがモンゴルの英雄!提督でさえ一撃だぜ!!」 丘野 「バトル!?これはもしや食事という名のバトルだったのでござるか!?」 ナギー『混乱している場合ではなかろ!!早く解毒をするのじゃー!!』 藍田 「あ、すまん。毒なんて滅多に受けねぇから解毒草なんてねぇや」 丘野 「拙者もでござる」 夏子 「わたしも」 麻衣香「わたしも……」 殊戸瀬「提督、ここで理不尽な毒の裏返りをすればパワーアップ間違いなし」 中井出「グビ……グ……ビ……」 藍田 「ヒィイイイ!!いよいよもってダメって顔になってきたぁああっ!!」 丘野 「い、いや落ち着くでござる藍田殿!こ、これは……!」 藍田 「し、知っているのか雷電……」 丘野 「う、うむ。聞いたことがある……」  ◆毒手拳───どくしゅけん  あらゆる毒物を混ぜた砂に己の手を突き入れ、次に洗薬に入れる。  つまり毒とワクチンを交互に使うようなことを繰り返し、  少しずつ毒を手に馴染ませる恐るべき試練の一。  その試練は苛烈を極み、毒の傷みに腕を切り落とす者さえ出るという。  しかしそんな痛みに耐えたもののみが毒手という武器を手に入れ、  その毒手に触れたものを皆、死に至らしめるのだという。  *神冥書房刊:『理不尽パワーアップ聖書』より 丘野 「つまり提督殿のこれはまさに“全身是凶器”!!     体全体に毒を回し、それを乗り越えることで、     肩がぶつかっただけでも敵を毒殺するという史上最強の毒攻身なのでござるよ!」 藍田 「ゲエエ!!なんてブッとんだスケールだ!!俺達ではおよそ考えもつかねー!!」 麻衣香「あ、あのさぁ……その話がホントなら、     洗薬ってやつが無いならただ毒を受けてるのと変わらないんじゃないかなぁ……」 藍田 「………」 丘野 「………」 ガクッ。 藍田 「し、死んだぁーーーーっ!!」 丘野 「ホリデー垣内(かいと)が死んだぁーーーっ!!」 夏子 「麻衣香!解毒魔法とか無いの!?」 麻衣香「毒なんて受けないだろうって思って……」 夏子 「あっちゃあーーーっ!!」 殊戸瀬「提督、これを噛んで」 中井出「ヴ……」 俺は軽く手に挟まれてしまってヘロヘロと飛ぶような蚊のごとく、 殊戸瀬が差し出した薬草のようなものをコリコリと噛み締めぶっふぇえ!! 殊戸瀬「吐いたらダメ。死にたいの?」 中井出「───!……!!」 ノー!!ノオオ!!ノォオオオオオオッ!!! どっちかっつーとこっちの薬草の苦味で死にそうだ!!なにこれ!! 舌がピリピリする!口の中が熱い!!目の前が毒々しくにじんでいく!! た、たすけてぇえ!! 麻衣香「ちょ、ちょっと待った睦月!なに食べさせる気!?」 殊戸瀬「……?解毒草───あ」 “あ”?今“あ”って言った!? 殊戸瀬「これ、エルのドーピング用毒草だった……」 ゲブファア!!……ガクッ。 藍田 「こ、今度こそ死んだァーーーッ!!!」 丘野 「ホリデー垣内(かいと)が死んだぁーーーっ!!」 ナギー『もう任せておけんのじゃ!わしに任せよ!』 藍田 「おおナギ助!?」 丘野 「ナギ殿は治せるのでござるか!?」 ナギー『わしは自然の精霊なのじゃ!     故に解毒草をこの場に生やすことくらい可能なのじゃ!』 藍田 「おお、そうか。それであのー、出来れば早急にお願いしたい」 丘野 「提督殿の顔色が先ほどの毒草の一撃で紫から土気色に変わったでござる」 ナギー『なっ……おぬしらはなにをしておるのじゃ!     仲間に毒草を食わせる馬鹿がおるか!』 殊戸瀬「……世界初」 ナギー『そのようなものは誇らんでもよい!!〜〜……よし出来たぞ!     さあヒロミツ、噛むのじゃ!!』 ……あのね、噛みたいのはやまやまなんだけど、もう体が動かないのよ……。 思考もそろそろ冷たくなってきたような……うう……。 藍田 「だ、だめだ!どうやら動けないらしい!」 殊戸瀬「口の中に捻り込んで無理矢理顎を動かして咀嚼させる」 麻衣香「口の中がスプラッタなことになりそうだからやめて!!」 夏子 「じゃあ───」 藍田 「あ、ああ……誰かが口の中で噛んで、     マウストゥマウスで口に入れてやるしか……」 丘野 「“4年1組起立!”でブーが食った餃子のように、     “うみゃ〜”と言いながら相手の口の中に落とすのは無しでござるか?」 藍田 「あまりにも汚いだろ、傍から見ても自分でやってみても」 丘野 「そうでござるな……では問題は誰がやるかでござるが───」 麻衣香「…………えっ?な、なんでみんなしてわたしを見るのかな……?」 藍田 「そりゃまあ妻だから?」 丘野 「妻だからでござるね」 夏子 「妻だから」 殊戸瀬「ダメ。口移しでも毒が感染するくらいにまで侵されてる」 藍田 「ぬうう……じゃあ毒を受けても平気なヤツ……?」 丘野 「そんなヤツが居るでござるか?」 殊戸瀬「……居る」 総員 『マジですか!?』 馬鹿な……もしやエル? 飛竜とキッスなんて遠慮したいんだが……!? って……あのー、殊戸瀬サン?何故そこで木村夏子二等に話し掛けるんでしょう……? 木村夏子二等はべつに毒に耐性はありませんよね? あ、あのー?木村夏子サン?何故そこで黄泉路帰りの杖を振るうんでしょうか……!? あ、あのっ、ちょっ……うそですよね!?冗談でしょう!? あああぁああ藍田くん!?そんな!まるで悲しいお別れをするみたいな目で俺を見ないで! 丘野くん!?ホームで別れた恋人のような目で俺を見ないで!! そんな目が欲しいんじゃない!! 僕はただ“そんなわけないじゃないか”って笑顔とやさしさが欲しいの!! そんな土中から這い出したゾンビさんなんかの熱いベーゼが欲しいわけじゃっ……!! あっ!いやっ!や、やめっ……!!ひぃいいいいいいいいっ!!! ゾンビが腐った口で解毒草咀嚼してっ……イヤァアアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!!! 来ないで来ないで近づかないでギャアアアアア!!!! いやだぁああ!!こんなやつと口内物質を交換するくらいなら俺死を選ぶ!! むしろ選ばせて!!既に生きたくねぇーーーーーーっ!!! 助けてぇええ!!お願いします神様!! もうしません!何したか知らないけどとりあえずもうしません!! これが天罰なら今すぐ止めて!!いやだ!いやだぁあああ!!! ヒィイイゾンビの顔がやがて零距離に!! 助けて!助けて剣心《ネチャリ……》ヲヴァァアーーーーッ!!! 【ケース212:藍田亮/E老人】 チュンチュン……チ……チチチ…… ……その日、俺は鳥の囀りと朝の日差しで目が覚めた。 今日もまた新たな一日が始まる。 藍田 「ん……んあ……?もう朝か……。     くぁあ〜〜あ……昨夜は大変だったおわぁっ!!?」 当たり前のことを呟きつつ伸びをして、体を起こす。 大地にそのまま寝転がって寝たもんだから体が痛いがなんのその…… などと逃避している場合ではない。 起きたばかりの俺の視界には、何処か誰かの面影があるような老人が居たのだ。 老人 「おやおや……どうしたのかね、藍田くん……」 しかもその老人は俺を見るとニコリと笑い、しっかりと俺の名を───って!! 藍田 「あ、あいっ……藍田くん、て……お前中井出!?     どどどどうしたんだよそんなに老けて!!」 そう。面影があるもなにもない。 その老人は背中の鞘に稀黄剣を装備し、昨夜の中井出と同じ装備をしていたのだ。 いや、それよりも何故老人……!? 中井出「ほっほっほ……人間、生きていれば歳は取るもんじゃあ……。     わしはそれだけの大冒険をしたということじゃよ……」 丘野 「うぐむ……なんでござるかうるさオワァーーーーッ!!?     だだだ誰でござるか貴様!!拙者たちの寝首を掻こうとしたのでござるか!?     藍田殿!このご老公はいったい!?」 藍田 「や……それが……提督、らしいんだ……」 丘野 「へ……?な、なんだってぇーーーーーっ!!?」 ……その日。 いつも通りの朝はいずこかへピューと飛んでいってしまった。 ───……。 ……。 中井出「麻衣香さんや……メシはまだかの……」 麻衣香「お約束のボケはいいから」 ……さて。 藍田   「何故提督が老人になってしまったか、だが……」 丘野   「どう考えても昨夜の出来事が原因でござろう……」 夏子   「しょうがないよ。スケルトンじゃあ口の中に含めないし」 藍田&丘野『や、そういう問題じゃなくて』 麻衣香  「でもそっかー、博ちゃんって老人になるとこんな感じになるんだー」 丘野   「意外に格好良いでござるよな」 そうなのだ。 そこらに居る地界の老人ではなく、なんというかそう…… 歴戦の勇者が老人になったような感じか? 目つきはキリっとしてるし、髪も白髪で髭も生えてるが……結構カッコイイ。 でもこれってどういう現象なんだろな?───ピピンッ♪ 藍田 「お?おーおーおー、久しぶりのヒロミ通信じゃん」 丘野 「ナビの手紙でござるか。もしやこの事態への対応?」 だといいんだが。 そんな心配をしつつ、手紙を開いてみた。 ……まあその、老人提督にじゃれついているナギーとシードを眺めながら。 中井出「ほっほっほ……これこれ、髭を引っ張るんじゃないよ……」 ナギー『摩訶不思議なのじゃー!ヒロミツには変身能力があったのかー!?』 シード『どうお呼びすればいいのでしょうか。やはり父上……?それとも祖父様……?』 ……まあ、微笑ましい風景ではあるよな。 えーとなになに……?  ◆中井出博光老人化現象について  このゲームは精神世界で繰り広げられています。  故に精神に負担をかける、または精神が老いるほどの恐怖を体感すると、  精神が老いてしまう可能性があるのでご注意を。  定期的に食事を取らせ、穏やかなままに過ごさせることで“老い”は回復します。  急激に直すと精神にダメージが出る可能性があるので実行はしません。  各自、気長に付き合ってくださいますよう …………ウゲェ。 なんてこった、じゃあ自然に治るまで提督ってあのまま……? 総員 『………』 見れば、俺以外のみんなも微妙な表情で提督を見ていた。 そりゃそうだ、120レベルの戦士が、 いきなり120レベルのじいさんになってしまったのだ。 戦力低下は否めない。 中井出「麻衣香さん、メシは……」 麻衣香「…………はぁ」 溜め息つかれてる。 でもしゃあない、こうなっちまったのもいろいろと責任あるわけだし。 藍田 「じゃ、精神安定のために朝飯にするかぁ」 丘野 「そうでござるな……」 ナギー『今度こそわしが作るのじゃー!』 総員 『引っ込んでなさい』 ナギー『うぅ……』 メシ食ったら移動を開始しよう。 ここで提督の回復を待ってるわけにはいかないし。 ───……。 と、そんなわけでメシを食い終えた俺達は移動を開始した。 老提督は老人ながらもしっかりした足取り、ピンと伸びた背を見せ付けつつ歩いていた。 これもまた意外だ。 けど戦闘になったら多分戦えないんだろうなぁ……。 などと思っていると早速敵が出現。 獣人1『ム……敵発見!』 獣人4『老人ガ居ルッス!!絶好ノカモッス!!』 獣人2『選ブセンスガ外道ダナ』 獣人3『マッタクダナ、キョウダイヨ』 獣人だ───しかも纏まってるとは運が悪い。 ここは提督を守って─── 中井出「ホホ……藍田くん。ワシを守る必要なぞないぞ……?     己の戦いに集中するんじゃ……よいな?」 藍田 「え……提督?」 中井出「来るぞい」 獣人4『マズハ老人ヲ捕ラエテ人質ニスルッスーーーッ!!』 獣人4が迷わず提督に向かい走る! 俺は……ッチィ!!集中しろったって出来るわけねぇだろうが!! 中井出「ホッ……どぅれ、ではこの老人の剣を見せてやるかのぅ」 獣人4『ナニヲゴチャゴチャヌカシテルッス!?ホリャアアア!!』 ヴオガギィンッ!! 藍田 「……───え?」 思わず閉じてしまった目を恐々と開いた───するとどうだろう。 獣人4『〜〜〜……ナ、ナニゴトッス……!?     アチキノ全力ヲ……片手デ持ッタ剣ダケデ受ケ止メタ……!?』 老人はどこまでも高き目をして、 獣人4が振り下ろした巨大な斧を片手で持った稀黄剣で受け止めたのだ。 獣人2『ヌウナカナカヤル!!ナラバサラニ攻撃サレタラドウカナ!?』 中井出『ホッホ……』 シャキィンッ!ゴギィンッ!! 獣人2『ム───オォ!?』 隙を突こうと振るわれた鈍器はしかし、双剣化した稀黄剣によって受け止められた。 中井出「あまり老人を甞めるでないぞ、小童どもが」 ナギー『お、おおお!すごいのじゃヒロミツー!』 いや、ほんとすげぇわ。 もはや戦力にはならないと踏んでたのに、しっかりと攻撃を受け止めていた。 獣人3『ナラバサラニ追加ダ!!』 獣人1『ゴ老人!貴方カラハ剣士ノ臭イガスル!!     卑怯ト言ワレヨウガ攻メサセテモラウゾ!!』 中井出「ふむ……」 ブフォンシュキィンッ───ジャギィン!ギヂィンッ!!! 獣人3『ヌウッ!?』 獣人1『コンナッ……!?』 さらに襲い掛かる二体の攻撃も、六閃化により受け止める。 ……もはや理解した。 このご老公─── 丘野 「ノーマルの提督殿より……強いでござる」 そう。 冷静に状況判断をする分、慌てることもなく対応出来ている。 まず隙というものが見つからん! 馬鹿な……これが歳の功というものなのか!? 中井出「ゆくぞ。我が剣、味わうがよい」 獣人2『コノ老人、危険ダ!!全員デ連続シテカカルゾ!!』 獣人達『───!』 獣人2の言葉とともに獣人たちが構え、一気に襲い掛かる! だが俺たちの中に、それを助けようと走り出す者は誰も居なかった。 何故なら───  ヒュフォンフォンフォンフォジャギギギギィインッ!! 獣人1『ッ……!同時攻撃ヲ全デ防イダ……!?コノ老人、イッタイ───』 恐らく、いや確実に。 この獣人たちでは今の提督には勝てないという確信があったからだ。 中井出「ほぅれ隙ありじゃ!!」 ツッパァアンッ!!! 獣人1『足払イ!?ッチィ!!』 中井出「ホッ、立ち上がりが速いのぅ。おぬし、剣刀士か」 獣人1『サアネッ!!ハァアアアアッ!!!』 獣人が駆ける!構えた刀の型は突き! 範囲より速度を重視した攻撃が、物凄い速さで提督の身体へ─── 中井出「決着を急いではつまらんのだがのぅ」 獣人1『───!ナ、ア……!?』  ドッガァアッ!!! 獣人1『ゲハァァアウッ!!?』 それこそ一瞬。 恐らくAGIに全てを注いだ速度で獣人の後ろに回ると、 提督はおもむろにその頭を掴んで地面に叩きつけた。 それさえも一瞬にしてSTRをマックスにしての攻撃だったんだろう。 地面に軽くクレーターが出来ていた。 しかもよく見れば六閃化した双剣からは赤い残像が出ている。 これって……鬼人化!?いつの間にマグニファイ使ったんだ!? 中井出「どれ。あと1分29秒以内に終わりにさせてもらうが、よいかね?」 獣人達『〜〜〜っ……!!』 獣人たちが後退る。 そりゃそうだ……まさか提督にこんな底力があったなどと、誰が思えよう。 しかしそんな時だった。 歩き始めた提督の後ろで、身体を起こす存在が居たのは。 獣人1『マ……ダダ……!マダ終ワリジャ……ナイ……!』 中井出「ホホホ……やはり生きておったか。それで、どうするのかね?」 獣人1『コウスルンダ!!“明鏡止水”発動!秘奥義───“無限流無限砲”!!』 獣人の体が光り輝く。 やがて構え、そこから放たれるのは───巨大な三日月のような剣閃!! 剣士が放つ剣閃よりもデカい!こんなもん喰らったら─── 中井出「やれやれ仕方のない……。おぬしら、伏せておれ」 藍田 「へっ───?」 中井出「黄竜剣の威力を剣閃に乗せるのじゃよ。とばっちりを受けると無事では済まんぞ」 総員 『───ッ!!サ、サーイェッサー!!』 中井出「我流秘奥義───」 ババァッ!! 俺達は提督の意図を受け取ると、それこそ重力に引き込まれるように地面に伏せた。 その途端! 中井出「───“黄竜爆砕刃”」 静かに唱えられた名とともに、 黄竜剣の威力を上乗せされたエクスプロードブレードが放たれた。 いつの間にか長剣に戻っていた剣を振り、その勢いを止めるままその場で一回転をして。 そこから一瞬にして全包囲に放たれた剣閃は黄竜闘気を弾き飛ばし、 やがて提督が剣を背中の鞘に納めるとともに、轟音を高鳴らせて爆発した。 放たれた無限砲をも切り裂いて、だ。 ───ややあって煙が晴れた頃、敵の姿は微塵も残っちゃいなかった。 ただ敵が居た中心に提督が立っていて、笑いながら髭を触っていた。 それだけだった。 藍田 「……やべぇ。この提督強ぇぞ……」 しかもとんでもなく。 老剣士と侮るなかれ、老いても120レベルのソードマスターだ。 むしろヴォルコフだ。 中井出「ホホ、年甲斐もなくはしゃいでしまったわい。どれ、先を急ごうかのぅ」 シード『ちっ……父上!見事な戦いでした!』 ナギー『すごいのじゃヒロミツ!やはりヒゲなのか!?ヒゲに強さの秘密があるのか!?』 中井出「ほっほっほ、なにがやはりなのかよく解らんなぁ……」 戦闘が終わると早速シードとナギーに囲まれる提督。 その顔はさっきまでのソードマスターの顔ではなく、もう普通の老人のソレに戻っていた。 うーむ、なにが彼をあそこまで変えたのか───シュポムッ。 中井出「……ややっ?」 などと考えた時、突如として提督の姿が元に戻った。 ……何事? ナギー『お、おおっ!元に戻ったのじゃ!』 シード『やはり変身要素を持っていたのですね……。僕もまだまだ未熟です。     父上のように素晴らしい変身能力を身に着けられるよう、頑張ります』 中井出「え?え……?変身?元に戻った?なんのこと?」 ナギー『とぼけてもだめなのじゃー!     どうやって変身するのじゃ!?わ、わしにだけ教えてたもれ?』 中井出「え……いや……、……?」 ……首を傾げる提督。 もしかしてさっきまでのこと、何ひとつ覚えてない? 藍田 「あーっと……て、提督?」 中井出「んあ?どした?」 藍田 「昨夜、なにがあったか覚えてるか?」 中井出「昨夜?メシ食ってさっさと寝ただけだろ?」 藍田 「………」 記憶置換、という言葉を知ってるだろうか。 嫌な記憶、辛い記憶などを切り取り、 自分の都合のいいような記憶に置き換えるという一種の自己防衛機能を。 恐らく提督の脳内は精神へのダメージを軽減させるため、 それが行われた可能性が極めて高い。 だから精神にかなりの浄化が巻き起こったんだろう。 なにはともあれ…… 藍田 「……うん、提督だ」 丘野 「提督でござるなぁ」 麻衣香「博光だぁ……」 夏子 「提督さんだね」 殊戸瀬「……エロマニア」 中井出「い、いきなりなんて中傷を!!」 よかった。 なんだかんだで、なにがあろうがやっぱり提督は提督のままのほうがいい。 強くたってシヴくたって、やはりそこに面白さへの探求が無ければ提督ではないのだ。 中井出「あれ……?でも昨日、なにやら嫌なことがあったような……」 藍田 「ワハハハハー!!そういや昨日提督寝るのすげー速かったよなー!!」 丘野 「そそそそうでござるねー!シチュー飲んだらすぐ眠っちゃったでござるよー!!」 夏子 「う、うん速かった速かった!!」 麻衣香「物凄い寝つきがよかったねー!!」 殊戸瀬「寝言で円周率を延々と喋ってた」 中井出「どこの物好きだよ俺!!円周率なんか最初の3しか知らないよ!!」 よし流した。 ナイス虚言だ殊戸瀬。 藍田 「ま、まあまあ提督、先を急ごうぜ?     朝の涼しいうちに移動するとあとあと楽だろ?」 中井出「あ、ああ……?そうだな」 イマイチ釈然としないらしい提督をなんとか丸め込み、先へ進むことを見事に実現!! これが原中の力です!かなり関係ないが!! ……ともあれ俺達は奇妙な体験をしたんだと思う。 この世界にはまだまだ突発的珍妙事件が腐るほど隠れてるんだなぁと…… 奇妙に納得した朝であった。 教訓。ソンビを使って人を救助するのはやめましょう。 しばらくは提督の前でゾンビを召喚しないほうがよさそうだ。 Next Menu back