01/子供は元気が一番とかいうけど燥いでて一番にうるさいと怒鳴るのはいつも親

 世界ってのはとってもやさしくない。
 うん、断言できるよ僕。
 何故かっつーと、今まで散々できなかったことがここでは出来て、きっと戻れば出来やしねーからである。
 さて、訳解らんというお方のためにただいまの僕の状況を説明しましょう。
 ええはい、一言で言いますと───

中井出「おばけーーーーーっ!!! ギャアアアアアアアーーーーーーーッ!!!!」

 はい、そんな感じで《パゴシャア!》

中井出「デネヴ!!」

 筆箱(カンペンと言う。むしろ言いたい)が飛翔して顔面にぶつかりました。
 ハイ、納得していただけたようでなによりです。

中井出「なぁああーーーにしやがんじゃい出席番号8番、神楽坂明日菜ァーーーッ!!」
明日菜「入ってくるなりうるさいのよこのドテカボチャーーーッ!!
    だいたい、あんたが副担任ってどーいうことよっ!!
    ただでさえそっちのガキが担任ってだけでもうんざりだっていうのに!!」
ネギ 「えうっ!? そ、そんな、ボクは……!」
中井出「ンマァーーーアアアッ!!
    こぉんなお子様に自分の怒りばかりを押し付けるなんて、なんとお子様な!
    まるで自分を見ているようで大変誇らしい……! じゃなくて!
    たった4年先に産まれた程度で大人顔してんじゃねーこの熊パン!!」
明日菜「か゜っ───!? わ、な、えあぁあああーーーっ!!?
    おおぉおお子様はどっちよぉーーーっ!! そんなことを盾に生徒馬鹿にして!」
中井出「馬鹿め! この博光は自分がお子様であることを誇りに思っておるわ!
    背伸びして大人ぶって楽しめないくらいならお子様上等!!
    故にネギよ! ……あんな中学生になってはいけませんよ?」
ネギ 「えぇっ!? あ、えう、けどっ」
明日菜「ちょっとぉおーーーっ!? それが仮にも副担任の言う言葉っ!?」
中井出「大義である!!《どーーーんバゴシャア!!》まろっ!?」
明日菜「そんな大義知るかーーーっ!!」

 サブタイトル:筆箱、二度目の衝突。
 うん、顔面痛いです。ていうか周りから筆箱強奪するの、やめましょうね?

中井出「やれやれ、それでは授業を始めます」
ネギ 「えぇっ!? まだ挨拶が済んでませんよ!?
    いえそれより痛くないんですか!?」
中井出「大丈夫、授業なんて名前を知らなくても出来るから。え〜〜〜……
    じゃあ教科書127ページを開いて〜……自習!《どバゴシャア!!》たわば!」

 早くも三度目!? い、いったい彼女はどれほどのカンペン(筆箱)を……!
 どーーんって擬音さえも“ど”止まりだったよコノヤロー!

明日菜「担任から授業権利横取りしといて自習ってなによ自習って!」
中井出「やったなネギ! 明日菜さんが担任として認めてくれたぞ!」
ネギ 「あぅっ!? ほ、本当だっ! ありがとうございます神楽坂さ───」
明日菜「言葉のアヤだからいちいち喜ばないっ!!」
ネギ 「あぅ……っ」
中井出「うわぁ……自分で勝手に喜ばせといて一気に否定したよこの子ったら……。
    どうお思いになられますかいいんちょさん」
あやか「最低ですわね……これだから粗野で乱暴な猿……いいえゴリラは。
    ネギ先生? どうぞ授業をお続けになってください」
ネギ 「は……どうも」

 あれ? 僕は? いいんちょさんがいいんちょさんだということを来て早々の僕が言い当てたことには全くの無関心ですか?
 ま、まあいいや、とにかく今はネギっちの邪魔をしないように務めねば。
 …………さて、今現在こうして授業をしておるわけですが、ここに至るまでにはいろいろと問題がございました。
 というのもそもそもの発端が空界のリヴァイアタンにあって、ヤツの所為で僕はこんなところで重油売ってるに違いねー。そーいうことにしとこー。
 じゃあ、例の如く回想いってみましょうか。


───……。


 ジャジャーーーン!!

中井出『エキサイティン』
彰利 「キミさ、いい加減ことあるごとに訳の解らんこと言うの、やめない?」
悠介 『言っても無駄だろ、もう。つーかお前が言うなお前が』
ミア 「カイくんもすっかり不良っぽい台詞が板についちゃって……」
悠介 『仕方ないだろ。こいつらと一緒に居れば、
    嫌でも剣としての自分に刻まれた“過去”ってのを思い出すってもんだ。
    晦悠介の記憶が目覚めたら、俺なんてこんなもんだ』
彰利 「アタイもそうYO、前世の彰利としての記憶を得てからはもうハッスルさね」
中井出『そうそう。たとえ自分じゃなくても偽名を使う時には胸を張る!
    そんな調子で行きましょう。なにせランクプレートの名は第六天魔王な僕だから』
彰利 「つーか中井出YO? いつまで信長名乗ってる気?
    いい加減に変えん? リネーム機能あったっしょ、たしか」
中井出『え? いいじゃん面白いし』

 新たなゲートの前へと立つ。
 空界から神界、神界から冥界と渡ることで、カイと彰の記憶に晦一等兵と彰利一等兵の記憶が浮上したけど、さて……次の天界ではどんなことが待ち受けているのか。

カイ 『いい加減地界に行きたいんだけどなぁ……カケラ、あと何個だっけ』
ミア 「えと……あと三つだね」
中井出『おや? 空界神界冥界と集めて、何故にあと三つ? 地界と天界だけだよね?』
悠介 『ん……もしかしたら狭界とかも含まれてるんじゃないか?』
彰利 「キャア! めっちゃ面倒くさそう!」
中井出『アー……もしかして狭界も相当前の狭界だったりとか?』
彰利 「オ。それだったらもしやすると古の神々時代の神界かもしれんよ?」
中井出『神界にゃあもう出来れば行きたくねーや……』
彰利 「どこが“神”界だーってツッコミてー場所だったねぇ……」

 踏んだり蹴ったりだったさ。
 しかし次は天界……そう、天界だ。
 恐らくは天上内戦とかやってる頃の、めんどくせー世界に違いねー。
 ほんと、世界のカケラなんてどうして集めなきゃならんのか……。

中井出『しかし神界での彰利は紳士だったな……』
悠介 『ああ……無駄に紳士だった。頭に変態をつけたいが』
ミア 「えぇええ!? ただ素っ裸でお尻をキュッと締めてただけだよ!?」
中井出『いいんだよォオオ……きっと彼あれだから。
    衣服を着ずにケツを締めることに紳士の姿を見た存在だから。
    今時貴重だよ? 素っ裸で男らしく振る舞える男なんて。
    ヒロラインで言う彰利だよ? 港でヒトちゃん先生に遭遇するまで裸族だった』
彰利 「ありゃあ気の迷いだっての! つーかなんでキミが知ってんの!?
    そして結局俺であることに変わりがみえねー! 泣いていいですか!?」
中井出『ゴヘヘハハハ……! ヒロラインの基盤と融合したこの博光に、ヒロラインでのこ
    とで解らんことがあるものかグオッフォフォ……!!』
彰利 「ゲエエエエエ性質悪ィイイイーーーーーッ!!」
中井出『まーでもほら、勇次郎くんも言ってるじゃない? 郭海皇にほら。ああしてほら。
    全裸とは力の解放だ。全裸無くして解放のカタルシスは得られねぇって。
    ほら見てみなさい、俺なんて全裸よ全裸』
彰利 「てめーのはただ変身前が猫だから困らねーだけじゃねーかコノヤロー!!
    つーか言ってないからァアア!! 勇次郎そんなこと言ってないからァァァ!!
    解放の意味全然違うからァアアアアアッ!!!」

 今日もみんな元気です。
 さてゲートですね、いい加減進まないと。

中井出『えーと……どうしよ。やっぱ誰か先に行って様子見てくる?』
彰利 「せやねぇ……じゃねーとまたキミがヘンな世界に飛ぶことになるし。
    なんだっけ? 一番最初は真恋姫無双の世界に飛んで?
    四千年を猫として生きたあと、ゼロの使い魔の世界に飛んだんだっけか」
中井出『そ〜なのよ。いやもう大変だったぜ? 特に恋姫ワールド。
    急に天の御遣いだとかいろいろ言われて捕まるし、
    世界に平和を齎さなきゃ出られねーしで』
悠介 『ゼロの使い魔方面は?』
中井出『……えっと……うん。
    サイトくんとルイズ嬢をくっつけた上で、サイトくんの世界に帰らせりゃOK。
    んで、挨拶させて“僕たち結婚します!”って言って、
    最後にポカやらかして“この馬鹿犬ー!”で終わった。ってことにしといて』
彰利 「……なんかどっかのラブでひなな物語っぽい終わり方だったみたいね」
中井出『……そうかも』

 ……あれ?
 つーかなんで僕ばっかが世界に落ちなきゃならんとですか?

中井出『あのー……そろそろゲートの確認、僕以外の人に……』
悠介 『頑張れ提督!』
彰利 「ファイトだ提督!」
ミア 「ファイトだよ提督さん!」
中井出『てめぇらぁあ!!!』

 ああいや、うん……みんながみんな、僕武具のお陰でがいろいろな力持ってるからって、なんでもかんでも任せてくるのは変わらないらしいです。せっかく記憶を得てもこれじゃあ僕って一体なんのために…………いえ、言うまいってやつでしょう。

中井出『うう……このゲートの歪み、なんとかならない?
    僕の懐、もう大変なことになってるよ』
悠介 『恋姫の世界、飲み込んできたんだっけ?』
中井出『しょうがないでしょ!? みんなついてくるって言うんだもん!!
    断っても断っても全然聞きやしねー!』
ミア 「それだけ提督さんが認められてるってことでしょ?」
中井出『全然嬉しくねーんスけど……』

 ……いや、やっぱなんも言うまいってヤツっす。
 こうなりゃもうヤケだ、次のゲートの歪みはどんな世界を見せるのか───いざ、外史の扉を開きましょう!!


───……。


 で……

?? 「はくちんっ!」

 ズバァッ!!

???「なっ……」

 …………うん、くまパンでした。

???「キャーーーーッ!? なによコレーーーーーッ!!」

 一目でワカッた。ビリビリきたね。……アンタ俺に惚れてない。
 あーあー……今回はネギまかぁ……僕あんまり詳しくないんだけど。

???「〜〜〜…………!!」
中井出「あれ? オワッ!?」

 気づけばヒューマン! これは相変わらずですか!?
 いやぁもうどうしてこっちの世界(外史)では人の姿かねぇ俺! つーか睨まれてます!
そりゃ目の前に人が現れて急に自分が下着姿になりゃ誰でも睨みますか!?

中井出「毛糸のくまパンか。……実にいい、と言いたいところだが。
    俺は断然もっさりブリーフを推奨《ベパァン!!》あわば!!」

 電光石火なるビンタでした。
 ならば───

中井出「うむ! よいビンタだ!
    サブリガをやろう! 穿きたま《ベパァン!!》エジュリュボ!」

 さらに電光石火でした。


───……。


 さらに、で……

中井出 「なんなのかねまったく! こんなところに呼び出したりして!
     失礼だとは思わないのかね! 私は高貴で気高い漫画家だぞ!!」
????「ははっ……漫画家があんなところで何をしていたんだい?」
中井出 「瞬間移動の練習をしていました。最強」

 今現在の僕は、タカミチくんにロープで縛られ、学園長室で正座させられています。
 うん、急に出現したからには当然怪しまれるってもんですよね。
 ちなみに神楽坂さんは着替えのためにここにはおりません。

近右衛門「ほっほっほ、元気のいい侵入者くんじゃ。
     では本題じゃが……この学園にどういった用件で侵入したのかな?」
中井出 「…………ねぇタカミチ? なんで学校にぬらりひょんが居るの?」
タカミチ「はっはっは、そういう学園だからだよ」
中井出 「妖怪の学校ですか!? すげぇ!」
近右衛門「いやキミタチ? 本人の目の前でどれだけぶっちゃけちゃっとるの……?」
中井出 「で、その妖怪の楽園に僕が侵入した理由なんだけどね?」
近右衛門「ふむ……? って、ワシ妖怪ではないぞい?」
中井出 「実は……俺は魔法使いだったんじゃーーーーっ!!」
ネギ  「えぇえーーーーっ!!?」
近右衛門「なんとっ!?」
中井出 「もちろんウソですが」

 そして盛大にズッコケる皆様がた。
 いやだなぁ、魔法なんてそんなもの、あるわけないじゃないですかーと付け加えるのを忘れません。
 僕の立ち位置……それは、平凡な存在。
 でも校務仮面を装着した時だけは思う様に……どうでしょうかこんな感じで。

中井出「はい、というわけで今回の僕のテーマはそう、本気!
    本気になれば自分が変わる! 本気になれば全てが変わる!
    みなさん、本気になって頑張っていきましょう! お米食べろ!
    フッ……つまりそういうことさ」
ネギ 「訳が解りませんよ!?」
中井出「まあ正直に言えば、魔法の存在は知っている」
ネギ 「えっ……あ、貴方は本当に魔法使いなんですか!?」
中井出「クックック……! そうだと言ったら……!?」
ネギ 「あうっ、あわっ……!
    ま、魔法を悪用しようとするなら、僕もほうってはおけませんっ!」

 僕の言葉にヒョンッ……と、布でぐるぐる巻きにされた杖を回転させるネギボーイ!
 僕の口調から悪と断言しに来たんでしょうか……嬉しこと言ってくれるじゃないの。

中井出「じゃあ違うって言ったら?」
ネギ 「へっ!? え、あのそのっ!?」

 僕の言葉にあっさりと戸惑いを見せるネギボーイ! うん、なんかいろいろ未熟だ!
 そっかそっか−、最初の頃のネギボーイってこんな感じだったかー!

中井出 「ねぇ学園長? 面白そうだから僕をこの子の副担任に任命してもらえぬか?
     さもなくばそのひょうたんのような頭を二つに分割して神棚に祀る」
近右衛門「さりげなくひどいこと言っとらん!? ワシ、ひどい位置に立っとらん!?」
タカミチ「キミの動機が解らない以上、
     そういったことはそう易々と頷けるものではないと思うけどね」
中井出 「動機とな。そんなものは簡単よ。
     この博光、面白そうなこと以外では特に動かぬ。
     というか知ってはいるけど、大した魔法なんて出来やしないんだ。
     僕はそれを手品として扱える程度で……えーと、ほら。
     ここにハンカチを被せて〜ハトが出ますっ! ……と、この程度。
     魔法使いとしては下の下だって笑われたよ。
     ……あ、ちなみに僕この世界の住人じゃないんだ。
     帰るために協力してくれない?」
近右衛門「なんと……」
タカミチ「……それはまた、とんでもない話が軽く出てきたものだね」
ネギ  「?」

 埒も無し。
 一向に話が進まなそうなんで、無理矢理にでも進めることにした。
 彼らにはズヴァーと僕の状況を話してしまいましょう。


───……。


 はい、というわけで───この世界でなにかしらのことを達成すると帰れる、という条件を一応は受け取ってくれた皆様のお陰で、僕は今ここに居ます。
 指導教員のしずな先生の案内のもとにこのクラスへとやってきたわけですが。
 あ、ちなみに服装はスーツです。こんなピッチリしたの、好きじゃないんだけど。

中井出「まずは笑顔だよねっ!」

 ガラァッ!

中井出「やあ僕のキミた《ボフゥッ!!》ムグォオオ!! チョークの粉が目の中に!!
    へぇぁああ〜〜〜っ……目がぁあ……目が《ガッ!》ハオッ!?」

 引き戸をずらした途端に黒板消しの奇襲に遭遇!
 直後に足をロープかなにかに取られ、倒れまいと足を踏み出したところにバケツが!
 それによりさらにバランスを崩した我が背中に何かがバスバスとくっつき、弱点である背中にクリーンヒットすることで大ダメージ!! ふらつくままに教卓へと突っ込み、グビグビと泡を噴きました。
 途端に賑やかなる声。
 フフフ……こ、この博光も老いておったわ。よもや中学生の遊び心を見誤るとは。
 でも馬鹿だから気にしないことにした。

中井出「へっちゃらさーーーっ!! はい、そんなわけでみんなチャーーーオーーーッ!
    私がいずれこの学園を牛耳る悪の親玉、中井出博光である!
    あ、ちなみに僕副担任ね? 担任になるのはあちらの小さなお子様です」

 サム、と出入り口で杖を翳して固まっているネギボーイを促す。
 と、僕の時とは違う割れるような声が……! 
 …………なんか差がねぇか? あ、いや、寂しくなんかないよ? 本音が漏れたみたいなマジボイス的思考が漏れたけど、僕いい子だもん。

中井出「まあそんなわけなんでまずは───」

 ニコリと笑みつつ、辺りに視線を漂わせる。
 うむ、なんとも元気のいい娘ッ子ばかりじゃあねーか。
 皆様ネギくんに釘付けのようだけど───あ、エヴァンジェリンさんだ。
 彼女って確か吸血鬼なんだよね? 600年くらい生きてるとかいってたっけ。
 この博光は既に4000年近くを生きておるが。ヌグワハハハハ、子供子供。
 ……などと視線をさらにずらした時でした。
 最前列の右端……生徒からしたら一番左の席に、なにやらボオオオとゆらめく存在が……

中井出「おばけーーーーーっ!!! ギャアアアアアアアーーーーーーーッ!!!!」

 ハイ、ここまでです。
 こののちにカンペンぶつけられるところへと戻るわけで。
 現在ネギーが英語の授業を軽くやっておりますよ?

ネギ 「えーと……」

 軽快とはいえず、緊張しているためかカタカタとチョークを動かしている。
 この博光はといえば、ネギーを掴んで高い位置まで持ち上げておるわけで。

ネギ 「すいませんナカイデさん、こんなことさせてしまって」
中井出「私は一向に構わんッッ! といいますかヒロミツで結構。
    キミの方が立場は上だ、お気になさらずなんでも命令するがよいでしょう。
    この博光、副担任としてたとえそれが命をかける戦いであっても!
    一歩も引きません!!」
ネギ 「誰と戦う気ですか!?」
中井出「うん……誰だろうね……」

 書くこともなくなったのか、降ろすようにお願いしてきたネギーを降ろし、僕はさよさんと話し始めた。
 さよさんっていうのはさっきのゴーストさん、出席番号1番の相坂さよさんです。

中井出「やあ」
さよ 『………』
中井出「……さよさん?」
さよ 『ふやぁぅっ!? え……あ、あれ!? 私が見えるんですか!?』
中井出「うむ! この博光、実はGSの免許を偽造してもっているほどの猛者よ!」
朝倉 「……? ねぇ副担任センセ? 誰と話してるの?」
中井出「む? 相坂さよさん。幽霊です」
朝倉 「ゆっ……!? ……た、ははははっ、面白いこと言うねぇ副担任センセッ!
    ここ? ここに幽霊が居るのっ?」

 信じられないのか、ケラケラ笑いながら朝倉さんが自分の隣の席をてしてしと叩く。
 うん、さよさんびっくりしてますね。

中井出「居るよ? えーとね……あ、さよさん僕のこの手に掴まって?」
さよ 『……? は、はい』

 さよさんの手が、差し伸べた僕の手の上に重ねられる。
 僕はそこに死神の力を引き出したものを流し込み───ハイッ!!

さよ 「《ポムッ》はひゃっ……あ、あれ?」
朝倉 「───…………《サァアアア……!!》」

 実体化に成功! ……した途端に、朝倉さんの笑顔が凍りつきました。
 もちろんそれを見ていたクラスの皆様もですが───


   ほぎゃぁあああああああーーーーーーーー………………───


───……。


 さて、授業も終わってひと段落。
 いろいろと騒がしかったけど、賑やかなのはEことですね、ハイ。

中井出「しかし途端にやることがなくなってしまった。グムムゥ〜どうしてくれようか」

 なんだかんだであっさり受け容れられたさよさんのことはOKとして、ただ今僕は巨大な学園の敷地内を歩いております。なにをしているのかーと問われれば、グエフェフェフェ……スプリングフィールドのストーキングでさぁ。

中井出「これぞ悪魔の啓示!
    やはり我らは歴史の壊し屋として選ばれし存在だったのだーーーっ!」

 ガサガサとコックローチライトニングの真似をしつつ。
 ……いや、これってハタから見ればただの変態なんだけどさ。
 ほら、今も指さされて笑われてるし。
 でもいいんだ、僕は笑顔が大好きなんだ。笑わせるのも笑われるのも僕にとっては最高であり至高の出来事さ。

声  「きゃあああああっ!」
中井出「ジョワ!?」

 コックローチライトニングで尾行してたら、突如耳に入る悲鳴!
 何事かぁああと視線を上げると、高い位置にある石段の足を踏み外したらしい少女が……
なんとその石段から落ちているではないか!

中井出「これはいかん! すぐに───なにぃ!?」

 助けねば───と踏み出そうとするや、その少女が空中で停止する!
 そこへすかさず滑りこんだ影が彼女を救い、なんとそれはネギーだった!

中井出「…………あ、あーあーあー! 確かそんな感じだったような!」

 ウーム……ネギまは見てたけど、このDIOが空界に渡ったあとのことは正直知らん。
 それに記憶も曖昧だし、どこでなにが起こるか〜などという部分はどうにもハッキリしないんだよね……ウウム。なにせ猫になってから4000年近く忘れてたことだし。
 でも、確かこれを神楽坂さんに見られてて……あーあーあ、連れ攫われた連れ攫われた。

中井出「FUUUM……って、彰利の真似……じゃないな。
    MORIMOTOの真似してないで。えーと確か宮崎さん? 大丈夫?」
のどか「ふぇっ? あ、は、はい、大丈夫、ですー……」

 のどっちに声を掛けると、あわあわと散らばった本を掻き集めはじめました。
 あんなことがあったばかりなのに、案外逞しい。
 せっかくだし僕もと手伝い、うず高く積まれた本は僕が持つことにしました。
 なりました、じゃあねぇ……したのよ。などと無駄にカッコつけんでよろしいね。

中井出「これは何処に?」
のどか「あ、あわっ、い、いいですよー……わたしがは、運びますからー……」
中井出「だめだ」《どーーーん!》
のどか「えぅうっ!? でもあのっ、あうっ」
中井出「まあまあ、お節介くらいさせなさい。
    でないと僕の中のお節介ムナミーの魂が───あ、いや、ゲフッ! ゲフフンッ!
    ……う、うんナンデモナイヨ? とにかく運ばせて?」
のどか「……? は、はいー……」

 そして歩き出す。
 特にやることもなかったし……いいよね? 今頃神楽坂さんはノーパンだろうし。
 あっちに向かうことは彼女に別の傷を与えることになるだけだ───っと、そうだ。

中井出「えーと、もしかしてこれからネギの歓迎会とか、する?」
のどか「へわっ!? えあ、あぅっ? どう、どうしてっ」
中井出「いやいや、なんとなくなんとなく。
    よかったらその歓迎会の準備、この博光も混ぜてはもらえんだろうか。
    あ、俺の歓迎も含んでるから〜ってのは無しで。
    俺はむしろされるよりする側を選びたいのです。というわけでGO!」
のどか「えぁああーーーーっ!?」

 本の山を片手に、もう片方の手でのどっちの手を掴んで走り出す!
 きっと準備は教室内でやっているに違いないわー!
 愛されるより愛したい……一日一悪、博光です。


───……。


ハルナ「やっははは〜、しかし面白そうな新任が来たねぇ〜♪ 担任が子供で副担任が……
    えぇとちょっと形容しがたいフツーの人?
    フツーって呼ぶにはちょっと元気がありあまりすぎてる感があるけど」
夕映 「騒がしいだけですよ。幽霊騒ぎがどうのと、あれは少し行きすぎです」
ハルナ「もしかして凄腕の霊能力者だったりしてっ!
    ───ハッ!? もしや彼の手には鬼の手が……!」
千雨 (……どこの地獄先生だよ、ありえねーだろ現実的に考えてっ)
朝倉 「まーまー、もしそうだとしたら面白くなるだけじゃん?
    あたしとしてはまぁネタが手に入るなら、
    それくらいはなきゃ困るかなーって思うし。
    さよちゃんとも知り合えたし、あの副担任センセには感謝かねー」
さよ 「……モノには相変わらず触れないようですけどね」
刹那 (……不思議な力だ。あんなもの、こちら側でもそうそう見れるかどうか。
    あの副担任、何者だ……? もしお嬢様に害成す者ならば───)
中井出「ココニイマス」
刹那 「っ!?」
総員 『ざわ……!?』

 影から潜って、教室の隅でず〜っと体育座りをしてたんだけどね? 誰も気づいてくれなかったから声をかけてみました……ら、せっちゃんに滅法驚かれた。
 だがこの博光はそんな騒がしさの中でもクレバーに、そう冷静にだ。

中井出「やあ」《どーーーん!》

 いつも心に挨拶を。博光です。

刹那 「なっ……な、なななっ……」
中井出「フフフッ……お嬢サン、背中ががら空きだったぜ?
    俺がヒットマンだったら悪戯書きをしていたところだ」
刹那 「い、悪戯……!?」
中井出「うむ! それと……」

 言葉を切って、せっちゃんの耳元に口を近づけて一言。

中井出(その刀、ホンモノ?)

 と、無邪気に語りかけてみました。
 え? 悪役っぽく「抜くな、死ぬことになるぜ?」とか言わないのかって?
 ハハハ、まさか。この博光、自ら首を絞めるようなことはしませんえ。
 するとしたらこれから……そう、校務仮面でも被った時にしましょう。
 そう、学校! 学園です! 校務仮面を被らん手は無いでしょう!!

刹那 (……ホンモノですが、許可は得ています)
中井出(おおっ、そうなんだ。素晴らしい)
刹那 (それよりきさ───いえ、貴方は何者だ。気配を感じさせずに背後に回るなど)
中井出(はっはっは、そりゃあ気配くらい消せないと手品師は出来ないよ)
刹那 (てっ……!?)
中井出(うむ!)

 そう、手品師。
 こう言っておけば僕の全ては特撮じゃよー! じゃなくて手品で済まされる!

中井出「やあみんな、ネギ先生の歓迎会をするって予感がしたから手伝いに来たよ!
    頑張ってあの子供先生を驚かせてやりましょう! おー!」
総員 『……………』
中井出「……あ、あれ? おー、は?」

 冷たい……みんなの反応が冷たい!
 と思ってたら、いいんちょさんが語りかけてきてくれました。

あやか「いえあの……中井出先生……でしたね? これは貴方の歓迎も含めたもので──」
中井出「いや、僕は歓迎するほうが好きだから歓迎します。
    副担任の歓迎なんてどうでもいいって、それよりもネギくんのパーティーだ!
    こう見えてもこの博光、こういったサプライズが大好き!
    どうせやるなら思いっきり盛大にだ!
    差し当たり、僕は手品師らしく手品でも見せようと思うんだけど───」
ハルナ「《ギュピィーーン!》……ほほう。兄さん、あんた手品師かい」
中井出「うむ! 実は僕は、霊能力者であり手品師であり超能力者であり副担任なのさ!
    そしてなにより面白いことが好き!」

 メガネをクイッと持ち上げながら目を光らせるパル子さんと、ニヤリと笑み合う。
 おお、なんかノリがいいよこの子。
 なんだか嬉しかったので、軽く手品を見せることに。
 っていっても、モノを出したり消したりする簡単な霊章マジックですが。

中井出「では簡単なものから見せましょう。えー……ここに、向日葵の種がありますね?」
木乃香「うん、あるあるー」
中井出「それをこうして両手で包んで〜〜───ハイッ!《ぽんっ!》」
ハルナ「おおぅっ!? 種が花になった!?」
まき絵「スゴイスゴーーーイ!!」
千雨 (ちょっと待てェェェェ!!
    スゴイとかそういう次元の問題じゃないだろぉおおっ!!)
朝倉 「へー……物量的にありえないマジックだね。
    やっぱり種も仕掛けもあるのかな?」
中井出「手品は種があってなんぼでしょ。じゃあ次ね。え〜〜と……うん、宮崎さん」
のどか「へぅっ!? あ、は、はい、なんでしょー……」

 呼んだだけでびっくり仰天……まあ、今しがた教室に入ってきたばかりなのに急に呼ばれれば、びっくりするのも当然か。
 てこてこと寄ってきた彼女の額に、一度断りを入れてから手を当て、眼を閉じるように言う。そして───

中井出「宮崎さん、今欲しいものを頭の中で鮮明に描いてみて」
のどか「え? あ、は、はいー……えーと…………え、描きましたー」
中井出「よし。それじゃあ───はいっ!」

 左手で彼女の額に触れ、右手で───創造!!
 すると右手にはなにやら難しそうな雰囲気を醸し出す装丁の分厚い本が……!!

中井出「はい、これで合ってるかな?」
のどか「え? あの……あわわわわっ!? ど、どうしてっ!?」

 はい、と渡すと、思い切りわたわたと慌ててくれるのどっち。
 うむ、なんだか和みます。ユグドラシルの中の晦一等兵が「悪用すんなよー」と言ってくるけど、僕は自分のやりたいことのために能力を振るいます。知ったことではないわ!

夕映 「の、のどか、それはあの……!」
のどか「う、うん、ゆえー……これはあの……!」

 神々の力を使って、“記憶の在りのまま”を複製創造した。
 だから、あれが彼女が一度でも見たことがあるものなら、一字一句間違いなどありはしない。これはそういう能力です。

朝倉 「え? え? なに? 副担任センセは欲しいものを出す手品まで!?
    って魔法じゃああるまいしそれはないか、あははははっ!
    大方、ここに来るまでに打ち合わせとかしてたんでしょ」
中井出「ィヤッハッハッハ! バレてしまっては仕方が無いっ!
    って勘弁してくれよ朝倉くん、
    種明かしされたら僕たち手品師は食べていけなくなるじゃないか」
朝倉 「あっはは、ごめんごめん。って先生には副担任って仕事があるでしょーがっ」
中井出「おおっ!? これは迂闊っ!」

 そんな会話に、皆様が「な〜んだ〜」という声をあげる。
 のどっちは本に夢中で気づいてないし、手品ではないということは……うん、そうだね。
エヴァンジェリンさん以外にはバレてないはず。
 ……つーか早速顎で「ちょっと付き合え」って促されてますよ僕。

中井出「ふむ。すまんが少し時間を。なに、すぐに戻ります」
ハルナ「? …………《ニヤリ》」
中井出「トイレじゃないよ!?」
ハルナ「おおっと? あははー、べつにそんなこと思ってないってー♪」
中井出「ウ、ウソだ! 今の笑みは絶対にそれに属するなにかだった!」

 ニヤニヤ笑みを浮かべて「さっさと行かないと大変だぞー」と背中を押してくるパルシステムさんに抗議を唱え続けるも……聞いちゃくれませんよこの人!!

 ガラララピシャーン!

 ……しかも出したら出したで二度と来るなチックに引き戸締めちゃうし。

中井出「えーと……キチィちゃん?」
エヴァ「その名を何処で知ったぁあああああっ!!!」
中井出「キャーーーッ!!?」

 で、出た先の廊下で腕を組んで踏ん反り返っていたキティちゃん……エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルさんに挨拶をと思ったら、オガーと物凄い形相で襲いかかってきた!

中井出「知った!? フフフ違うな! この博光は知っていたのだよ!
    とある存在によって、しっかりとね!」
エヴァ「誰だぁっ! 誰に聞かされた!」
中井出「フフッ……悪いがこれも仕事でね。
    名前は出せないが……ぬらりひょんとだけ言っておこう」

 ……後日、学園長が自室で瀕死の重体で発見されることになるのだが、それはまた別のお話でございます。

エヴァ「あのじじぃ……! ……《ハッ》……ああいや、うむ。
    まああんなじじぃのことはどうでもいい。よくはないが話を進めよう。
    回りくどくするのは好きだが、回りくどくされるのは嫌いだ、簡潔に答えろ。
    …………貴様、何者だ?」
中井出「簡潔にね? OK、見返りは望んでいいかな?
    これでも俺の正体はいろいろと問題があってね。
    とてもじゃないがおいそれと口には出せん」
エヴァ「……ふん。取引でも、とか言いたげだな。
    まあいいさ、適当に考えておいてやるから答えろよ」
中井出「あらそっけない。まあいいや、簡潔に言うと───ノスフェラトゥ」
エヴァ「───……吸血鬼だと、言う気かい? ぼーや」

 笑えない冗談だ、と舌打ちをするキティさん。
 ううむ、頭撫でていいですか? ……じゃなくて。黙ってなさいムナミーソウル。

中井出「いや。そこから吸血概念を捨ててみて?」
エヴァ「…………ハッ、何を言い出すかと思えば…………本気で言っているのか、ぼーや」
中井出「ぼーやはひどいなぁキティ。俺はね、キミの5倍以上を生きている。
    吸血鬼としてじゃない、人として。
    まあ相当な齟齬があるにはあるが、嘘じゃない。
    俺は人生を4000年生きて、その分世界の汚さをよ〜く噛み締めてるよ。
    その上で、楽しいことを求めてこうしてしぶとく生きている」
エヴァ「なっ───!? よんせ───!?」
中井出「これだけ生きるといろいろ知れることもあってね。
    キミが吸血鬼であることも、600年生きてることもまあ知ってる。
    だが、知っていることはその程度だ。
    キミがどんな生きかたをしたかーなんてことは知らない。
    さすがに俺が経験したみたいに、不死身だからってぐっしゃぐしゃに潰されたりバ
    ラバラにされたり内臓抜き取られたり喉抉り取られたり心臓目の前で潰されたり魔
    法耐久度はどれほどかって散々爆発させられたり血を全部抜き取られたり粉微塵に
    なるまでミキサーで磨り潰されたり炎で焼かれたり、な〜んてことにはなってない
    だろうけど」
エヴァ「…………《ご、くっ……》」
中井出「不老不死って辛いよねぇ……死なないってだけで研究対象だよ。
    少なくとも、老いない死なないって点を除けば、間違い無くただの人間なのに」

 いやー思い出すだけで反吐が出るね、忘却の猫時代。
 思い出そうとすればあの痛みを鮮明に思い出せるんだから、クリエイターのイメージ力にはこの時だけは勘弁ノリスケを唱えたい。

中井出「で、知りたいのは俺が何者かー、だよね? 人間だよ?
    ただし、老いない死なないって運命ってやつを背負っちまった人間」
エヴァ「背負った……? それは何故だ?」
中井出「自分のために仲間を救おうとした結果だ。
    一言で言うと、世界崩壊を企む敵から世界を守ったらこうなった。
    あ、ぬらりひょんから連絡来てると思うけど、俺この世界の住人じゃないから」
エヴァ「ぺらぺら喋るなっ! 質問は一つずつ、きっちり答えろ!」
中井出「我が儘な子だねぇキティちゃん」
エヴァ「キティちゃんはやめろ! エヴァンジェリンと呼べ!」
中井出「ウワーなんと冷たい。
    せっかく出会えた不老不死同士、もっと言うこともあるだろうに。
    ていうかね、そういうの結構期待してたんだけど僕。
    不老不死始めて600年だよね? 退屈じゃなかった?
    同類が居るわけでもなし、似たような者は居てもこの気持ちは解らん。
    不老不死ッ! そう、この名を宿す誰かと俺は出会いたかった!
    そして今、キミがここに居る! ……ほら、浮かぶ言葉とか、何か無い?」
エヴァ「そうか。貴様は馬鹿なのか」
中井出「それだ」

 頷いてみせましたとも。
 馬鹿? 最強の褒め言葉じゃないですか。

中井出「ちなみに俺は正義を一切行わん。我の行動是即ち誰がなんと言おうが悪!
    俺は誰かのためには動かず自分のためにしか動かん。
    何故ならそのほうが楽しいからだ。キミはどうだい? キティちゃん」
エヴァ「キティはやめろって言ってるだろうがぁーーーーっ!!」

 あら。またオガーって怒られてしまった。

中井出「まーまー。あ、僕中井出博光。気軽にヒロミツと呼んでくれ、キティ」
エヴァ「キティと呼ぶのをやめたら考えてやる……!」
中井出「じゃあ貴様でいいや。よろしくキティ」
エヴァ「いいとか悪いじゃなくてやめろって言ってるんだあぁああっ!!」

 もはや泣きが入ってました。
 飛びかかり、僕の胴を踏んづけるような状態で胸倉掴んで、前へ後ろへとガックンガックン……! お、おおお……器用だねこの子……!

中井出「まあ、とにかく。いろいろ面倒なことだけどこんな世界にやってきました。
    あ、信じられないっていうなら我が記憶を強引に見せるけど」
エヴァ「…………」
中井出「…………」

 わあ、なんだかとっても睨まれてる。
 ジト目ってやつですね、ツリ目の子にはこれが結構似合うんですよ。

エヴァ「フン、だったら見せてみるがいいさ。
    お前の言葉が真か否か、きっちり見せてもらおうじゃないか。
    ハ、もっとも人間を自称するお前が、私にそんなものを見せられるのならだが?」
中井出「見せられるよ? だって武具の力だもん」
エヴァ「なに───? ───!」

 気づいた時にはもう遅い。
 俺と密着している彼女と影を繋ぎ、動きを封じてから黒衣で飲み込んだ。
 果て無き黒の中で上映するのは、もちろん我が人生。
 もうこれやるのも慣れっこだね。せいぜい吐かないように耐えてもらいましょう。
 では、仔猫物語……スタ〜ト〜♪


───……。


 ───バサァッ!

エヴァ「うっ……げほっ! うげっ……げぇええっ……!!」
中井出「ゲェエーーーーーーッ!!!」

 吐かれてらっしゃった!
 あ、あー……そりゃ、自分の視点でそうなったらこうなるわなぁ……。
 今回は不老不死仲間ってことで、痛覚も多少込めてあったし。
 さすがのジェリィ〜ンさんもバラバラとか磨り潰しの経験はなかった……か? 殺した経験はあっても、そりゃさすがにないよねぇ……うん。
 想像出来るだろうか、影の中では精神にしっかりと見せられたものでも、感覚が肉体に戻るとそれは一瞬の出来事として頭にフラッシュバックするわけです。
 その時に起こる気持ち悪さといったら、尋常じゃあございません。
 そりゃ吐くよ、うん。

中井出「えーと…………だ、大丈夫〜?」

 蹲る背中に声をかけてみる……反応はいまいちだ。
 ならばと肩にポムと手を置いてみれば、それがすかさず払われました。

エヴァ「っ……貴様、何処かおかしいんじゃないか……!?
    あれだけのことをっ……あれだけのことをされて、人と笑い合えるなど……!」
中井出「ふむ?」

 なるほど、やっぱり出てくる言葉は誰も同じだねぇ。

中井出「脳の方向性なんざとっくの昔に壊れてるよ。だってさ、人間だよ?
    目の前で祖母が自分を庇って潰れてさぁ、
    そんで養ってくれた祖父があろうことか親戚に毒殺だよ?
    両親は揃って知ってるおっさんに刺殺だし。
    それでも懸命に生きて、友達と一緒に馬鹿やってさぁ。
    なのに今度は友達にも世界からも忘れられて、自分さえ忘れて猫だよ。
    猫になって、まだ世界の在り方も解らない内に友達食われてさぁ、
    人間に捕まって何千っていう歴史の間のほぼを切り刻まれながら生きてきたんだ。
    ……ここが無事で居られると思う?」

 トントンッと頭を突付きながらの言葉。
 本当に、ほんっと〜に呆れるくらいの長い時間を生きたよ。
 学生の頃なんて、不老不死でいたいな〜なんて思ったこともあったくらいだったのに、それが成就してみりゃどうだ、千年以上を磨り潰されながら生きるなんて、どうかしてる。
 ようやく解放されたと思えば解放してくれた人は生贄で? 探してたら家は焼かれて帰る場所も守るべき場所もなくて。
 俺、なんかしたか? 誰かに対してここまで支払わなきゃいけないくらいの何かを、俺がしたっていうのか? そう誰かに訊きたくなるくらいの……そう、地獄だった。

中井出「だが俺は敢えて言おう! これがこの博光であると!!《どーーーん!》
    脳の無事など知ったことではないわ! 他人でも吐ける過去がなんだ!
    不老不死でも吐ける過去がなんだい!
    俺は痛みを知った上でも俺を恐れないキミに、ただ感謝を言いたい!」
エヴァ「……あれは、何千分の一の痛み、程度のものなんだろう?」
中井出「うん。神経が繋がってるのに頭蓋割られて脳を摩り下ろされる……あれね、
    痛みって次元超えてるよ? もうね、悲鳴しか出せないの。
    喉が潰れても悲鳴をあげるしかないんだ。逃げ出したくても両足無くてさぁ。
    助けて、って必死に泣いて叫んでも誰も助けてくれなくて……
    俺ね、助けてって言ってるのに助けてもらえない人の気持ち、すげーよく解った」
エヴァ「………」
中井出「まあそんな話はどうでもいいから友達になって? ───あれ?」

 ぶっちゃけた途端に、ドシャーアとキティがズッコケた。
 しかしムクリと立ち上がると、「鼻赤いよ? ぶつけた?」という僕の言葉も右から左へ流し、ふるふると肩を震わせ───

エヴァ「アホかぁーーーっ!! どうでもいいわけあるかっ、このたわけーーーっ!!」
中井出「キャーーーッ!!?」

 何故だか怒られました! 押忍!
 な、なにが……!? 彼女に一体なにが……!? あれ!? ここ怒るとこ!?

エヴァ「これが……!? こういうものなのか……!?
    あんな目に遭わされておいても、年月というのは忘れさせるものなのか!?
    貴様の生きた四千年余り! 何故“空界”への復讐に費やさなかった!」
中井出「え? つまんねーから」
エヴァ「なぁーーーっ!!?」《がぼーーん!》

 おお、なんか面白い顔してる。
 目を丸くして驚くって、まさにこれこそぴったりって顔だ。

エヴァ「に、憎くないのか!? 人間を殺してやりたいとは───」
中井出「ほっときゃ勝手に滅ぶだろ?」
エヴァ「自分の手で、とは───」
中井出「やられたらやり返します」
エヴァ「そんな生ぬるいことで清算できる惨事かあれが!!」
中井出「いや、べつに清算したいと思ってないし。
    それよりも娯楽を作ってくれたほうが俺は嬉しいね。
    生きるためにはやっぱり娯楽。そうは思わないかい? ……エヴァ」
エヴァ「う……くっ……!」

 言葉に詰まるエヴァンジェッリィイイイヒヒィイ〜〜ンさん。
 そんな彼女の頭をじっくり撫でてやると、

エヴァ「……生きた時間のことで、ここまで気安くされるのは初めてだ……」

 と、何処か諦めた風情で言われました。
 ああちなみに、ちゃんと順序は守ったよ?
 猫の記憶から始めたんじゃなく、この博光の子供時代からしっかりと見せました。
 だから必然的に仔猫物語が最後付近になるわけで……盛大に吐かれた。
 人間に対してトラウマが生成されそうだから、今まで見せてきた人たちには仔猫物語のひどすぎる部分は見せなかったけど……キティさんなら大丈夫かな〜って思ったのは失敗だったね。
 元人間だ、ありゃ辛い。不老不死って条件が同じである分余計にだ。

中井出「まあ、俺はキミの過去にゃあ正直興味が全く無い。
    辛かったねぇと同情したいわけでもないしなぁ。
    しかしそんな事実もひっくるめて……あ、事実ってのは俺の過去ね?
    あんなもん見ても感心を抱けるなら、
    いっちょ手でも繋いで友達になってみない?」
エヴァ「……焼かれた経験なら私にもある。殺されかけたことなどそれこそだ。
    だが……それはあくまで“殺されかけた、死にかけた”だ。
    焼かれたことに関しては笑い話にしか出来ないほど滑稽だが……
    無力の内に捕らえられ、抵抗する術もなく削られ、潰され、焼かれたなど……
    そんな経験、味わったことなどなかったよ。
    なのに友達? ハッ……断言できるな。イカレてるよ、お前は」
中井出「そっか。言いつつも笑顔なのは、期待していいってことかな?」
エヴァ「………」

 差し伸べた手が、バシンッと叩かれた。
 けど否定の意は感じず、ただそこには……ハイタッチに似た高揚感と、笑顔のままの少女の姿があった。

中井出「……よろしく。3400歳年下の少女よ」
エヴァ「フフッ……よろしくされてやるよ、3400歳年上のジジィ」
中井出「うむうむ。では誓いの言葉でも立てようか」
エヴァ「誓いの言葉?」
中井出「そ。簡単で適当に。え〜と確か……“幸福な家庭は皆、同じように似ているが”」
エヴァ「ほう? ククッ、“不幸な家庭はそれぞれにその不幸の様を異しているものだ”」
中井出「幸せなんてクソくらえ」
エヴァ「幸福などつまらん」
中井出「我ら不老を謳う者、振るいしものは常に悪」
エヴァ「我ら不死を謳う者、担いしものは否定出来ぬ過去全て」
中井出「……くふっ」
エヴァ「フクッ……クハハハハッ……!」

 ……案外、気安いもんだ。
 ついさっきまでのツンケンした態度は何処へやら、気が付けば笑っている。
 ああ、そうだな……今までが今までだったんだ、当然だ。
 寿命が長いヤツには会えても、同じ不老不死の相手となんて会えたためしがない。

エヴァ「せっかくだからとそれらしい言葉で付き合ってやったがなんだあれはっ!
    クッハハハハ! お前は私を悶絶死させる気かっ!?」
中井出「うん、いー笑顔ですよエヴァ。やっぱ子供は、笑顔じゃないとねぇ」
エヴァ「なっ……貴様っ、私を子供扱いするなとっ───」
中井出「ゴハハハハハ! 3400年の壁を潰してから言ってみぃ!
    俺から見れば600年の人生経験なぞ子供子供!
    剣と魔法と貴族と平民の世界を見た! 過去の戦乱の世を見た!
    そして、仮想とはいえファンタジーの世界を絶望とともに体感した!
    もっと顔を上げて世界を見てみろエヴァンジェリン!
    世界は面白いぞぉっ!? お前が考える世界なんてほんの一部だ!
    “ただ生きること”が退屈なら、
    自分の力で自分の周囲を面白おかしく変えていけ!
    自分だけじゃだめなら周りも巻き込んで面白く変えていけ!
    つまらんと決め付けるだけでは貴様の世界はいつまで経っても開けんのだから!」

 そう、いつまで経ってもだ! 故に───!

エヴァ「《がばしぃっ!》うぉわぁあっ!? なっ、きき貴様なにをっ……!」

 目の前の、廊下に座りこんでいた少女を抱き占め抱え上げる!
 ロリコン? ふはは、そんな言葉は恋姫の世界でとっくに乗り越えたわ!

中井出「ガキはガキらしく大人に甘えるがいい!
    俺は貴様の我が儘を可能な限り聞いてやろう!
    この博光、貴様にとっては久しく見ぬ上の者として見上げられる存在に違いねー!
    ならば俺は、貴様が歩んできた600年ごと貴様を受け止めてくれるわ!」
エヴァ「なっ───!?
    ななななにを言っ……貴様ごときに私の苦しみが受け止められるわけがっ!」
中井出「いいや出来るね! 3400の差が4000になるだけのことよ!
    元からの数でも4600になるだけだし!
    4000も生きてりゃプラス600なんて今さら今さら。
    エヴァよ、大海を知りなさい。
    貴女は少し、自分の生きた日数を他と比べて下に見る傾向がありそうだが、
    この博光は違う。貴様の生きた歴史を受け取ってなお、この博光のままでいよう」
エヴァ「なななな……!」
中井出「……大丈夫、俺の初の人殺しは憎しみではなく事故で、しかも操られてのこと。
    しかしそこからは己が助かりたいがための残虐非道加減!
    いやほんとはいろいろあるんだけどね?
    ちゃんと憎んで殺せたお前と違って、俺はほんと嫌な外道入りを果たしたけどさ。
    そんな過去も痛みも、全部背負った上でこの博光が形勢されておるのだ。
    今さら自分を変えてー! とか思うことなどありはせん。故にエヴァよ!」
エヴァ「な、なんだよ……」

 抱き締めていたエヴァをひょいと降ろし、照れながら睨みあげてくる彼女の前で───

中井出「僕のお乳をお飲み」《ヌギャァア〜〜ン!!》

 衣服をはだけ、お決まりのポーズで

エヴァ「ぬあぁああああーーーーーーっ!!!!」

 ……ボッコボコにされました。


───……。


 シュウウウプスプス……

中井出「ほがががが……!
    い、いえあの……ただ僕、僕の血をお飲みって言いたかっただけで……」
エヴァ「それをどうしたら間違えるっ! お前は馬鹿かっ! やっぱり馬鹿なのかっ!!」
中井出「うむ! 馬鹿の具現……それこそが俺だと最近自負したいなーとか思ってる!」
エヴァ「真性の馬鹿だなお前はっ!!」

 わあ、もはや褒め言葉にしか聞こえん俺は重症だ。
 だが既に平然と大声で喋ってるキティちゃんもナイスデース。
 やっぱり友達ってなぁいいもんだ。自然になる友達ってのが長続きするもんだけど、こういう性格の相手は差し伸べて説き下さなきゃ納得しないから。

エヴァ「…………。過去も痛みも全て受け容れていると……そう言ったな」
中井出「む? うむ」
エヴァ「肘まで走っているその紋様は、なにかの戒めか?」
中井出「およ? 見える? 見えないようにシールド創造しといたはずなんだけど」

 ……って、そっか。あれは対人間用の目くらましだったね。
 それじゃあ吸血鬼さんには効かないはずだ。
 元人間なのに、おかしなもんだねぇ。
 あれ? じゃあもしかするとせっちゃんにも見られてた?
 ……まあいいや、それならそれで。

中井出「これは霊章っていって、俺の全てが詰まった紋章さ。
    これがないと俺の実力など最弱状態の貴様にも及ばぬ」
エヴァ「よし、外して殴らせろ」
中井出「外すもんですか!!
    殴られると解ってて外す行為など俺は大好きだ!!」
エヴァ「…………期待以上の馬鹿で結構だ。確かに退屈はしそうにない」

 では死ね。
 その言葉ののち、僕は風になりました。


───……。


 シュウウウプスプス……

エヴァ「あっはっはっはっはっはっは! あっはっはっはっはっはっはっは!!
    いやいやまさかあっはっはっはっはっは!!
    さ、最弱状態の私の拳でああも吹き飛んでくれるとはあっはっはっはっは!!」

 今、ズキズキと痛む頬を押さえ、痛みにマジ泣き中の僕の前で高らかに笑ってらっしゃるエヴァンジェリンさん。見るからに上機嫌です、はい。
 廊下に蹲って、テシテシと廊下をハンマーしています。よっぽど可笑しいらしい。

エヴァ「なっ、長生きはするもんブフゥッ!! あっはっはっはっはっはっは!!
    愉快だっ! 爽快だっ! お前みたいな人間に会えるなんブフゥッ!!
    あっはっはっはっはっはっはっは!!」
中井出「…………」

 楽しそうでなによりでした。そして頬が痛い。
 もう霊章輪戻してさっさと治そうね……はい完治と。

エヴァ「ふふっ……へえ……? 今の指輪がお前の全てか、ヒロミツ」
中井出「まあ。これが無いと大変なことになるからね。奪われでもしたら大変だよ」

 といっても、嵌めてしまえば体に溶け込むから、俺が外さない限りは誰も触れもしないんだけどね? 逆に奪われたらもー大変だ。
 レベル1以下だから、普通の人間相手でも思いきり殴られれば盛大に吹き飛ぶ。その結果が目の前で笑い転げてたエヴァなんだけど。

エヴァ「……? それをつけてもつけなくても、お前は不老不死なのか?」
中井出「まあ、こればっかりはどうしようもない。ヒトデハナイナニカになった俺は、
    確かに今はこうして人のカタチをしてはいるけど、中身は亜人の集合体だ。
    今の俺は人間に戻るために四苦八苦してる最中……かな。
    ただし、人に戻れても不老不死は治らないって釘は刺されてる。
    俺は一生、世界の在り方をのんびりと記憶するクロリストをやっていくってこと」
エヴァ「…………ふぅん。退屈そうだな、それは」

 言いつつも、なぜ背中をよじ登りますか?
 溜め息付きつつも、何故肩車状態ですか? あ、あの、キティさ〜ん?

中井出「そーでもないって。言ったろー? これで結構、世の中捨てたもんじゃないって。
    今、お前が爆笑出来たように、この世界にはまだまだ笑わせてくれるヤツが居る。
    居ないかもしれないけど、居るって信じて突き進む。
    それが、世界の終わりを見届ける不老不死の生きかたってもんじゃない?
    つまらん人生過ごしたってつまらんだけなら、楽しい人生送ってこそ無限の生涯。
    そんなわけだからさ、まあ……この世界に居る間はよろしくって話」
エヴァ「…………なるほどな。全てを受け容れるって姿勢は、つくづく間違っていない。
    その上で酷く歪んだ精神を持ってるな、お前は。
    “闇の魔法”(マギア・エレベア)を常に纏っているような歪み方だ」
中井出「マギ……? んん……よく解らんが、歪んでいるのは認めよう。
    なにせその何事からも半歩ズレた位置に立つのが俺のスタンス。
    普通なんぞに興味はない。
    普通よりも異常を求める男……こんにちは、博光です《脱ぎっ……!》」
エヴァ「脱ぐなっ」

 はいツッコミありがとう、と。
 さて、なんだか肩車です。人の頭の上に腕をクロスして乗せて、べったりタイムです。
 ……何がやりたいんだろうかこのジェリ〜ンさんは。

エヴァ「しかし、ほんの数分であれだけの歴史を他人に見せる力か。
    一瞬すぎて、処理する頭も相当な負担だな。お陰で……その、吐いてしまった」
中井出「あー大丈夫大丈夫、吐かれたものはぜ〜んぶ闇が食ったさ」
エヴァ「……闇?」
中井出「そ。黒衣の中に千以上の生き物飼ってるんですよ僕。
    で、霊章の中には百近くの生き物。
    亜人から精霊、魔王から竜までなんでもござれ。
    幻獣や巨人、神から死神も完備です」
エヴァ「………」

 返事がない。ただの屍……じゃないね、開いた口が塞がらなくなってるんでしょう。

中井出「想像から創造、神秘から混沌、魔術から魔法、魔導から魔導魔術、法術から神術、
    月操力から鎌解、奇跡から不可能を可能にする力、世界創造から世界破壊、
    空間移動から運命破壊、変身から変換、錬成から複製、召喚から機械操術、
    全ての始まりから終わりまで、暮らしに夢を広げる人間……それが博光です」
エヴァ「………」
中井出「はっはっは、信じる信じないはまあ別として。
    あっても宝の持ち腐れっていうのかねぇ。
    別に世界壊したいわけでもないし、正したいわけでもない。
    どれだけ強く凄い力を持ってたって、俺が求めるものが“面白さ”である以上、
    これらの力はそう役には立たないのですよ」

 頭頂に顎をごりごりと擦り付けてくるエヴァの足をきちんと押さえて、てこてこと歩き出す。そろそろネギーと太陽の民アステカが来る頃だ。
 ……あ、アステカってのは明日菜さんね?

中井出「まあ全てが役に立たないわけじゃないし、
    これはこれで使ってみると面白いものばかりだけどね」
エヴァ「お前の戦闘スタイルは?」
中井出「自由。なんでもありのフリーファイターです。
    剣、刀、斧、体術、弓、魔法、槍に式……まあほんとなんでもOK。
    全ての経験と古の神々の力を得た俺は、最弱にして最強な存在なのです」
エヴァ「……その、運命破壊っていうのはなんだ?」
中井出「既に決まっていること、つまり既存だね。
    その法則を破壊して、別の既存を作るってとんでもない能力。
    ただし破壊する理の大きさによって、効果時間は長くもなり短くもなる」
エヴァ「……そうか。じゃあ不可能を可能にする力っていうのはなんだ?」
中井出「ヌム? 名前の通り、なんでも出来る力だけど。
    古の神々の力を得たから、今なら一回分ストック残ってる」
エヴァ「───! だったら私を今すぐ───!」
中井出「あだだだだだだだっ!?」

 なににそんなに興奮したのか、ギュギギッと髪を引っ張られていででででで!!

エヴァ「今すぐ、今すぐ私をこの登校地獄から解放───! 
    ………………いや。なんでもない、忘れろ」
中井出「……?」

 髪が解放されました。
 ウ、ウムム……? いったいなんだというのか……おお地味に痛かった……。

エヴァ「なぁヒロミツ。目先の欲望に目が眩む存在は、友とは呼べないよな?」
中井出「……? ああ、なるほど。よく出来ました、だな。
    けど、いいのか? 言ってくれりゃあやったかもしれないのに」
エヴァ「なぁに、いらん心配だ。全てが消えて無くなるよりも、
    その運命破壊とやらで一時的に理屈を捻じ曲げてもらったほうが面白そうだ。
    ……こんな呪いでも、ヤツが残してくれたものには変わりない」
中井出「ふむ、なるほど。キミも案外歪んでるんじゃん」
エヴァ「誰にものを言っている?
    同じ不老不死を生きる者の言葉とは思えないな……ふふっ。
    というかな、ヒロミツ。お前のそのー……不可能を可能にする力だがな。
    それ、お前を“人間”に戻すためには使えないのか?」
中井出「───」
エヴァ「? ……ハン……?」

 …………やべぇ全然思いつかなかった……!
 ば、馬鹿な……ば、馬鹿な……!
 この中提督ともあろうものが……! と華琳の真似をしてないで。
 華琳って“この曹孟徳”って流れが好きだよね。
 俺も“この博光”とは言うけど、姓字で語ることはしないねぇ。

エヴァ「真性のアホだな。馬鹿では足りなかったか」
中井出「そ、そうだよ!? 悪いっ!?
    べべべつに好きで解らなかったわけじゃないんだからねっ!?《ポッ》」
エヴァ「わざわざ気色の悪い顔を見せるなぁっ! お前はそのまま正面を向いていろっ!」

 ひどいよエヴァちゃん……いやでもまあ使うけどね?

中井出「じゃ、よーく見てろよエヴァ。
    これがこの博光の七不思議のひとつ、不可能を可能にする力である!」

 武具宝殿よりノートン先生の錫杖、賢者の石杖をエジェクト!
 握った杖に武具能力の全てを溶け込ませ、体や回路やユグドラシルに満ちている力の全てを未だ首飾り状のソレに流し込み───

中井出「刮目せよ!!」

 言を唱え、それをしっかりとした錫杖へ変換!!
 さらに光の戦士状態へと体質を変換させ、英雄王の力と皇帝竜の力を解放!!
 天地空間全ての力を杖一本に凝縮させてぇええええっ!!
 うむ! せっかくだからそれっぽく詠唱でも───確かここだと三段詠唱みたいなのするんだよね?
 始動キーとかいったっけ。
 ラス・テル マ・スキル マギステル、って。ならばえーと……

中井出「ゴック・ズゴック・ハイゴック!
    我唱えん(イオ・リシタル)! 我等を宿す黒き大地の上に(エレ・ネゴルオ・テルエノカル・コンセビエル)!
    さしずめ、鈍色の剣の如く、太陽の眼から遠く(コモルキス・ロラデスパド・シドリム・ソルズ・アンラル・ガディスタ・エリンビタル)! 死の岸辺に誘う(インビタル・バクド・エルト)!!」

 ステキ! 咄嗟にしては素晴らしい始動キー!
 魔法として出せるのはグレイヴだけだけど、この詠唱大好きだから逆に集中できる!
 ちなみに“鈍色の剣”は“にびいろのつるぎ”と読みます。ケンじゃないよ?

中井出「不可能を可能にする力を我に!
    対価として蓄積していた力のほぼをあげましょう!
    故に! 俺をっ、不老不死にしろぉおーー───ってあぶねぇえーーーーーっ!!
    ちょっ……彰利黙ってて! 邪魔しないでお願い!
    今度こそっ……俺を、能力をそのままに人間に戻したまえ!!
    あ、でも亜人化も俺が通った軌跡だから、
    人間に戻るだけで得た能力とか変化能力は残しておいて?」

 さあ、蓄積能力解放!
 俺を人間に戻す光よ、今こそ俺を包みたまえ!!

  ゴシャアアアッキィイイインッ……!!

中井出「…………………………───……完、了……!」

 ……うん、確かめようがないけど、これで人間になれたはず。
 そうだよねー、最初っからこうすりゃよかった。エヴァちゃんたら頭いい。

中井出「どう? 人間っぽくなってる?」
エヴァ「フン? ……ああ、確かに混ざり者の気配は無くなったか。
    私としては混ざりがあった方が好感が持てたが───」
中井出「ああそれなら大丈夫、“混ざり”って意味では、
    俺の体はもうとんでもないほど混ざりものだらけだから。たとえば───フン」

 皇竜の力を解放───すると背中に現れる十八翼。
 カオスの力を解放すれば黒い雷のような闘気が体をバヂバヂと包み、神力や死力を解放すれば、それはもう大変な状態になります。
 ただし全部武具から流れる回路なので、僕自身への外見的影響を及ぼすとしたら、十八翼くらいなもので、あとはもう闘気的なものが変わるだけってくらいだ。

中井出「とまあこのように、解放してないだけで十二分に混ざってるから」
エヴァ「……なんの冗談だ、人間に扱いきれる能力量じゃないだろ……。
    そうだ、さっきの不可能を可能にする力だって。どうかしてるぞお前」
中井出「博光4000年の歴史、ここにあり。
    この博光が生きた歴史、中国にとて負けはせん!
    ということで……あ、ネギーとアステカさんが来た」

 チラリと見れば、廊下の奥からトコトコと歩いてくるお二人さん。
 そんな姿を確認したのち、僕は肩に乗っかったままのエヴァさんに言いました。

中井出 「エヴァ、僕はこの姿の時は普通の善良な一般教師として生きる。
     しかし能力を解放する時……えーと《シュカンッ》この紙袋を被っている時は、
     俺のことは校務仮面と呼んで、キミの従者ってことにしといてくれ』
エヴァ 「《ピクリ》……私の、従者?」

 ……ハテ? なにやら急にうずうずとした期待にも似た気配が……何事?

校務仮面『そうそう。どんなことでも気のノル限りは従いましょう。
     ただしこの仮面を取れと言うのなら我が全身全霊をかけて抵抗するが。
     いいかエヴァンジェリン……大切なことだからよ〜く聞いてくれ』
エヴァ 「あ? あ、ああ……?」
校務仮面『校務仮面の正体は、絶対に秘密だ。
     もしバラすようなことや、この仮面を取ろうなんてことがったあった場合、
     僕は全力で抵抗し、老若男女差別なく、等しくブチノメすだろう。
     いいね、エヴァンジェリン。
     決して、決して校務仮面の正体を明るみに出してはならん』
エヴァ 「……取ったところでお前の顔になるだけだろ?」
校務仮面『ノー! 解ってない、キミは全然解ってない!
     正体がバレたら好き勝手に能力が使えないじゃないか!』
エヴァ 「記憶操作くらい出来ないのか?」
校務仮面『それはつまらないからやりません。
     どうなるか解らない……この緊張感がたまらないんじゃないですか』

 そう、悪いことをしていて、正体がバレやしないかというこの緊張感がたまらねェYO! と、彰利ならきっと言うところだ。

校務仮面『代わりにこの校務仮面の力、存分に利用されませい。
     キミにとっての都合のいい世界を創ることも運命を破壊することもお安い御用!
     一家に一人、校務仮面』

 あ、ちなみに服装はしっかりと変えてあります。
 黒のシャツにフツーのズボン、そして校務と書かれた紙袋。
 しかしこの紙袋、ただの紙袋と思うことなかれ! ユグドラシルに連なり生える神樹を削り、紙にしたものを紙袋にした最高級紙袋霊装! 魔法だって銃弾だって通しません。

エヴァ 「……では命令だ校務仮面。今日から私の相手をしろ、退屈をしていたところだ」
校務仮面『イエス、マイマスター』

 ノリがいいことはステキなこと。
 なにせ、言われた言葉にそう返してみれば、なんとなく嬉しそうなというか喜んでいるような雰囲気がジワ〜と飛んでくるんですもの。

明日菜「……?」
ネギ 「わー、仮装パーティーかなにかするんですか?」

 と、そんなところへ丁度アステカさんとネギーが来訪しました。
 ……歓迎の準備はもう済んだのかな……とチラリと見れば、買い物袋を手に提げているアステカさん。どうやらあれは食い物の中の幾つからしい。

エヴァ「ふふっ、仮装しているのはこいつだけだよ“ネギ先生”。
    それより教室に入ったらどうだ? みんなお待ちかねだ」
ネギ 「え?」
明日菜「……あ、そうだった!」

 キティの言葉にガサリと袋を持ち上げ、ハッとするアステカさん。
 ハテ? ……って、もしかして歓迎会のこと忘れてたとか?
 ……? ム? そう、ああ、そうなんだ。なるほどなるほど。いや〜、霊章の中に知識を持った人が居ると助かるわ。なるほど、やっぱり忘れてたのか。
 と、僕が頷いている間にネギーは教室の中へと引っ張られていき、直後に

声  『ようこそっ! ネギ先生ーーーッ!!』

 パパパパァーーーンとクラッカーの音が鳴り響き、歓迎の言葉が放たれた。
 うんうん、善き哉善き哉。

エヴァ 「フフッ……結構な歓迎じゃないか。ヒロミツ、お前はいかないのかい?」
校務仮面『………』
エヴァ 「ヒロミツ?」
校務仮面『………』
エヴァ 「おい、私を無視してただで済むと思ってるのかっ?」
校務仮面『………』
エヴァ 「ヒロミ───……? …………あー、校務仮面?」
校務仮面『イエス、マイマスター』
エヴァ 「…………いや、いいんだけどな。お前がそれでいいなら」
校務仮面『歓迎会のことなら大丈夫だ。
     この校務仮面は歓迎されるよりも歓迎するほうを好む。
     というわけで、いろいろ創るとしましょう。
     エヴァ、何か飲みたいものとか食べたいものはあるかい?』
エヴァ 「うん? それなら……」


───……。


 ……さて、霊章内栽培と創造が終わり、出来たものを教室にもっていく僕が居ます。
 あくまで従者として、校務仮面をしっかりと被ったままで。

柿崎 「うわぁなんか出たぁっ!?」
まき絵「なになにっ? なにか始まるの〜っ?」

 皆様の反応は……驚きばっかりですね。
 みんなきっと校務仮面の素晴らしさに驚いているのさ。
 素晴らしいからな、校務仮面は……自分で被っていて畏れ多いとさえ思ってしまうよ。
 と、それはそれとしてえ〜と……気配を自分のものからナーヴェルブラングの気配に変えてと。さすがに自分のままじゃあ、達人さんとかに校務仮面の正体がバレてしまう。
 だから魔王って意味では違わないし、ナーヴェルブラング。
 あとは声もちょっといじくって〜と……よし。

校務仮面『失礼、我がマスターの催しで、
     此度はワタクシ、校務仮面が料理を作らせて頂きました。
     ささやかなものではありますが、どうぞ楽しんでいただければ幸いです』
釘宮  「ささやかって、この量のどこがっ!?」
ハルナ 「むむむ……けどこれはなかなか美味しそう……」
千雨  「ていうかまず先にツッコむところがあるだろオイィ……!!
     マスターとか肩に乗ってるマクダウェルとかあの紙袋男とかぁあ……!!」
木乃香 「ほえ? なんかゆーたー?」
千雨  「なにもっ!? なにも言ってないぞっ!?」
木乃香 「?」

 騒ぎつつも皆様が料理の前に集まり、これやあれやと摘んでゆく。
 途端にホワァアアッと驚きの声があがり……僕は頬を緩めました。
 自分が作ったもので喜んで貰える瞬間って、やっぱりいいもんです。

古菲  「オヤ? そいえば副担任の男、どしたアル?」
校務仮面『ハバナイスデーと叫びながら路上に飛び出したところ、
     車に撥ねられて現在保健室で療養中です』
のどか 「えぇええーーーーーっ!!?」
夏美  「そそそそれって保健室で大丈夫なのーーーっ!?」
校務仮面『ハイ。幸い頭から血を流す程度で済んで、ハッハッハと笑っておられました。
     俺のことは気にせず、ネギ先生を歓迎しつくしてくれとのことです。
     普段からカルシウムを取っていたお陰だと、本人も喜んでおりました』
柿崎  「ス、スゲェ……!」
朝倉  「カルシウムスゲェ……!」

 うむ、栄養は摂っておいて損は無し。取りすぎると太るだけだけど、無くて困ることなどないはずです。
 というわけでこれらの料理、健康に気を使った美味料理の数々です。

ハルナ 「とか言って、お兄さんが副担任先生だったりするんじゃない?
     トイレ行ったはずなのに車に撥ねられるって、なんかヘンだし」
校務仮面『いや。校務仮面は校務仮面以外の何者でもない。
     私はマスター……エヴァンジェリン様に仕える従者にして、
     この学園の平和を守り校務をこなすよう雇われた者。その名も校務仮面だ』
ハルナ 「じゅうしゃ……?」
刹那  (エヴァンジェリンさんの……!? まさか召喚された半妖かなにか……!?
     いや、半妖では片付けられないほどの邪なる者の気配を感じる……!)
校務仮面『あ、ちなみに職業は魔王です。これからよろしくお願いします』
刹那  (まっ……!?)
総員  『………』

 あははははー、と笑いながら、本当のことを言ってみました。
 すると───

木乃香「あはははー、校務仮面のにーさん、おもろいなー♪」
ハルナ「魔王ときたかー! それはさすがのパルさんも予想外のネタだったねー!」
古菲 「オオ!? 今のは笑うとこだたアルか!?」

 このちゃんを筆頭に、笑いが伝染するように広まりました。
 ううむ、皆様素直なようで大変なにより。
 というか頭の上に突っ伏してるキティも可笑しかったのか、クックと笑ってる。

エヴァ 「さて、今のお前の言葉をいったい何人が信じられたか。
     少なくとも三人くらいは候補にあげてもいいかもしれないな」
校務仮面『そうなの? マスター』
エヴァ 「誰が、とは言ってやらないがな。その方が面白いだろう?」
校務仮面『うむ。緊張感があって大変よろしい。で、キミなにも食べないの?
     あ、もしかして味覚が大してないとか……』
エヴァ 「要らん心配だよ、そこのフルーツポンチをよこせ。
     満月時は大して味わえもしないが、
     最弱状態ではそこいらの小娘となんら変わらんし、
     その冷たさは嫌いじゃない」
校務仮面『イエス・マイマスター』

 言いつつ、フルーツポンチを器にとって頭上のキティにハイと渡す。
 と、そこでもくもくと食い始めるキティさん。

校務仮面『……仮面を汚さないでくださいましね、マスター』
エヴァ 「ハッ、私とお前の仲だろう? ケチくさいことを言うなよ」
校務仮面『仮面を汁で汚していい仲ってどんな仲!?』

 あ、ちなみに校務仮面状態の僕は、霊章を隠したりなんかしてないから刺青野郎に見えなくもないです。関係ないけどね?

校務仮面『しかしこー……なんですかね、マスター。
     特に目的もなく別世界に降りると、何をどうすりゃいいのか解らんもんですね』
エヴァ 「することがないなら私の従者でも永劫続けていろ。
     その方が私も退屈せずに済む」
校務仮面『こんクソガキャ……目上の者に対する態度がなっちゃいねーぞマスター』
エヴァ 「ほぉ? ハハッ、お前がそんなものを気にする男だと思わなかったが?」
校務仮面『然り。この校務仮面にとっては赤子だろうが老人だろうが、等しく“存在”よ。
     相手が意識を持つ者である限り、俺の対応なんて変わりゃあしない。
     なにせ、老若男女差別を嫌う男だからな、マスター』
エヴァ 「……あのぼーやにも聞かせてやりたい言葉だな。
     アレはどーもだめだ。真っ直ぐすぎて面白味に欠けそうだ。
     近いうちに血でも吸ってくれようか〜と思ってるんだが───どうだ?
     少し遊びに付き合ってみないか?」
校務仮面『是非やろう』

 即答でした。
 だってね、退屈な日々には常に刺激が必要なんですよ。
 僕はどこぞの賢者さまのように静かに生きるなんてのは御免です。
 面白可笑しく賑やかに……それが私の天命!!

エヴァ 「……即答なんだな」
校務仮面『殺すことさえしないならね。
     ただし、血を吸おうっていうなら相応の覚悟も持っておくこと。
     実行は……そうだねぇ、俺がもう少しここに慣れてからでいい?』
エヴァ 「ああ、構わんさ。それまではせいぜいお前の血で我慢して…………いや待て?
     ヒロ───校務仮面、ちょっと右手を貸せ」
校務仮面『む? いいけどなに《ガブリ》アイヤーーーッ!?』

 噛みっ……!? 噛みおった! しかもあっさり肉を穿って血をチューチュー!?
 そりゃセレスさん並の犬歯はないみたいだけど、人間の犬歯でも十分───って痛い痛い
これ痛いってばちょっとーーーっ!?

エヴァ 「………………芳醇だ《ぽーーー……》」

 しかもなんか酔ったみたいなものの言い方してらっしゃる!!
 いやちょっと待て! これだけ人が居る中でそれはマズイでしょ───って、ああ。みんな料理に夢中でこっちのことなんか見てねーや《ガブゥッ!!》アイヤァーーーッ!!?

校務仮面『マスター!? ちょ、マスター!? 味見が済んだならもう噛む必要なんて!』
エヴァ 「う、うるさいなっ、これほどの味は産まれてこのかた味わったことがない!
     少しくらいいいだろっ、減るもんじゃあなしっ!」
校務仮面『減るよ!? 血が減らないってどんな超生物!?
     確かに僕魔王だけど、ちゃんと血の通った魔王ですよ!?
     わぁったわぁーーったぁーーーっ!! 古くからの伝統ある飲ませ方するから!
     えーと……俺の血液が出ます、弾けろ』

 晦一等兵の創造技術をダウンロード、掌に創った樹木の器に血をなみなみと創造し、ハイとkittyさんに渡す。
 が、それを受け取りクイッと飲むと……

エヴァ 「……解ってないなぁ校務仮面。お前はちっとも解っていない。
     血を飲む時はな、誰にも邪魔されず自由で、
     他人の皮膚を犬歯で突き破り、舐め取り吸い上げなきゃだめなんだ。
     独りで静かで豊かで……だから───……チッ」
校務仮面『ム? ……ああ』

 チラリと視線を真っ直ぐに戻すと、騒ぐ少女たちから離れた位置で、こちらを睨む少女の姿が。というかせっちゃんです。

エヴァ 「どうやら魔王サマとの謁見をお望みのようだが? どーするんだ、魔王サマよ」
校務仮面『探るだけで自分から突っ込んで来ない、回りくどい相手は苦手なんですよ。
     ほら、罠とかにハマったら、ハマる前じゃなくハマってから考える、みたいに』
エヴァ 「…………どっかの筋肉馬鹿みたいな理屈だな」
校務仮面『馬鹿で結構。馬鹿のほうが世の中楽しめるよ。つーわけで、ほいっと』

 キンッ───

校務仮面『───動くな』
刹那  「!?」
エヴァ 「おっ……!?」

 転移でせっちゃんの背後を強襲。
 急にこんなことをして見せたもんだから、キティさんも結構驚いたっぽい。
 うんうん、結構彼女の驚いた様子は僕の中でのお気に入りになりつつある。
 それは、華琳を何かで打ち負かした時の高揚によく似てます。
 舌も肥えてて知識も立派、物珍しいものには目がないけど厳しさも一級品。美味いもの食わせても褒めることをしないで、あれはどーだこれはどーだって難癖付けてきて、しかもそれが無駄に正論だからたまらないねほんと。だから言い負かしたり味わい負かしたりした時の爽快感といったらもうっ……!!

校務仮面『誤解の無いように覚えておいてもらいたのだが、
     この校務仮面は学園に害を成さない。
     学園は守るべき対象であり、生徒たちもまた然り。
     学園の平和を安定させる者……それが校務仮面。
     貴女が何もしないのであれば、私は貴女に危害を加えない。
     もちろん周りにも、貴女が守りたいものにも。
     ただし。危害を加え、学園の平和を乱すようであれば……校務を執行する』
刹那  「っ……い、つの間に、後ろに……」
校務仮面『わあ無視だ。はっはっは、元気なお嬢さんですね、嫌いではないですよ。
     いつの間にというのは今の間にとしか答えられんです。
     移動ではなく転移だから目で追うのは無茶だと思うよ。
     未来予測でも出来ないと』
刹那  「……目的は?」
校務仮面『いえあの……本格的に無視ですか? こ、校務仮面ちょっぴり寂しい……。
     目的は校務をこなすことです。
     俺はただそのためだけに、マスターに召喚されました。
     つまり目的は……校務をすること?』

 あ、ズッコケた。

刹那  「こ、こここ校務っ!? そんなことのために貴女は魔王を召喚したとっ!?」
エヴァ 「なんだよおかしいか? 退屈しのぎには丁度いい相手だぞ?」
刹那  「な、ななな……」
校務仮面『俺の役目は学園の守護。
     壊れた部分をしっかり直し、乱れた風紀はそのままスルー。
     そう、知るのだ。俺は校務をこなす。学園を大切にする。
     備品から建物に至るまで全てを! 故にそれを壊さんとする者は敵だ!
     だから生徒も守らないといけないんだよね、最近の子は無茶するから。
     守らないで無茶させたら、なんでもかんでも壊しちゃいそうでしょ?
     だからね、俺は目に見える部分だけ適当に見守るの。
     元々力があるから誰かを守るって理屈、好きじゃないんだよね。
     だから正直に言おう。俺は俺のためだけに生き、俺のためだけに行動する。
     誰がどうなろうと基本的に知ったことではないが、
     俺がした行動で誰かが救われるのはボタモチということで……』
エヴァ 「つまりこいつも私も楽しみたいだけなのさ、桜咲刹那。
     安心しろ、私が命令しない限り近衛木乃香に害をなすこともなければ、
     無駄な行動を取るということもない。最弱状態の私にも従順な、私の従者だよ」
刹那  「…………!」

 キティの言葉にゴクリと喉を鳴らすせっちゃん。
 一応、もういーよと言ってこちらを向かせてはおりますが、その顔は険しいままです。

刹那  「しかし、魔王ですよ……?
     本人がマスターと口にするだけで、なにを考えているかなど……」
校務仮面『大丈夫、マスターの言葉には“それは面白くない”と思わない限り逆らわない。
     そしてマスターは楽しむ心をきちんと知っている。
     ならばこの校務仮面がマスターを裏切るなどということ、起こるはずもなし』
刹那  「…………」

 あ、ぽかーんとしてる。

刹那  「ひ、一つ訊きたい。貴女は何故、エヴァンジェリンさんの従者に……?」
校務仮面『え? えーと……』

 お待ちなさい、これは予想外の質問。
 終始このちゃんの話になるって踏んでたのに、何故に俺の話に……!
 せっちゃん……侮れないコッ……!

校務仮面『可愛いからです』《どーーーん!!》
刹那  「かっ……えぇえええええええっ!!?」《がぼーーーん!!》
エヴァ 「なにぃいーーーーーーっ!!?」《ズギャーーーーン!!》

 だから、まあ見た目通りのことを言ってみたら大変驚かれまして。
 いや、実際は面白そうだからだよ? キティもそれは解ってるはずだし……あれ? なにやら人の頭の上でカタカタ震えてる? あの、解ってるよね? 僕、楽しみたいだけで……
いや、そりゃ確かに可愛いよ? 10歳のままで吸血鬼入りしたんだもん、その若さ、プライスレス! でも今話してるのは言い訳的なことであって……あぁあああの!? 何故頬を引っ張りますか!? 痛い痛い! これ、やめなはれ!

校務仮面『そんなわけですので、この校務仮面。マスターには絶対忠実。
     しかしながら良しと思わない限りは言うことを聞かない自由魔王よ』
エヴァ 「それは絶対忠実とは言わないだろっ!
     お前のことだから気が乗らなければ嫌だの一言で済ませ、
     どこぞへでもさっさと逃げるに決まってる!」
校務仮面『契約初日でなんでそこまで解るの!? だが大丈夫!
     この校務仮面、貴様を残して独り逝かん!
     あ、先に言っとくけど俺にロリコン趣味とかはないからね?
     俺はあくまで相手がコレだから従ってるだけだし。
     それと、そっちから手を出さない限りは本当になにもしないから。
     キミはキミが守りたい人のことだけ考えてなさい』
刹那  「………」

 「ちょっと待てコレってなんだ!」と騒ぐキティを華麗に無視する中。無言で、刀に手をかけんとしていたせっちゃんが手を引く。
 それを見てニコリと微笑み、微笑んだあとにそういや仮面で見えないやと思い出し、軽く落ち込んでから騒ぎの渦中へと飛び込んだ。
 既にアステカさんとネギーは居なくなっていたけど、楽しまないのはよろしくない!
 そんなわけで嫌がるマスターの言葉なぞ無視しまくり、僕はネギくんの歓迎を思う存分に楽しんだのでした。……本人居ないのに歓迎になるかは別として。



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