04/吸血鬼は満月に力を発揮するっていうけど理由を訊こうが誰も説明してくれないから気を付けろ

 ザァアア……と、桜通りに並ぶ草木が風に揺れる。
 景色は暗く、風の強い夜だった。

のどか「か……風……強いですね〜……ちょっと急ごうかな……」

 夕映、ハルナ、明日菜、木乃香と別れた、本屋の愛称で知られる彼女が一人歩く景色。
 その空に、通常では考えられないものが飛来する。

のどか「こ……こわくない〜、こわくないです〜、こわくないかも〜……♪」

 歌っているのは自己暗示にも似たものだろうが、こういった場合は逆に背中が気になるものだ。しきりに後ろを振り向いたりして、明らかに挙動不審な彼女が居た。
 そんな彼女が丁度自販機の前を通り過ぎた時。
 ざあっ……とひときわ強い風が吹き、桜通りの桜を揺らしていった。

のどか「こわっ……《ビクッ》……?」

 それがきっかけ。
 高い位置にある、風に揺れる桜を“見上げてしまった”ゆえに気づいてしまった。
 桜並木の端にある街灯。その上に、一つの影があることを───!

のどか「え……ひ……!?」
声  「こんな夜に一人でとは……よほどに自分の身を軽んじていると見える」

 闇に響く声に、少女は震える。
 顔は既に真っ青であり、しかし恐怖があればこそ目を逸らすわけにはいかず、固まるしかなかったのだ。
 その、明らかに異様な存在に───!

もんがー「お礼と言ってはなんですが♪《ぷりんっY》」

 喩えるならば、レオタードに身を包んだ肉団子。
 それがケツをキュッと締めた状態でレオタードをケツに食い込ませ、頬を赤く染めたのだ……街灯の上で。

もんがー「おしーりふーりふーり♪ もーんがもんが♪」

 で、踊るのだ。ケツを左右に振った後、モノが掴めるとは到底思えないキッチンミトン型の両手を頭上に掲げ、腰を前後に揺らし。

のどか 「………」
もんがー「………」
のどか 「………」
もんがー「………」
のどか 「………」
もんがー「………」
のどか 「………」
もんがー「………ゲッゲッゲッゲッ……!《ざわざわざわざわ……!!》」
のどか 「キャーーーーッ!!?」

 踊ったあとは停止したままであった謎の物体……だったのだが、彼(?)が笑うと、その頭からは無数の髪の毛が生え伸び、ややある街灯の上から地面に立つ少女へとジワジワと進み、その体へと巻きついてゆく───!!

声  「人の華麗な登場シーンでなにやっとるかぁあーーーーーーーっ!!!」

 ベゴシャビタァーーーンッ!!

 しかしそんな物体のさらに上空から飛来し、飛び蹴りにて街灯の上から地面へと叩き落す影……! ……説明するまでもなく、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルである。
 顔をヒクつかせた彼女はそのままの表情で街灯の上へと降り立ち、腕を組んでブツブツと呟いている───その下で、地面と言うかアスファルトに叩きつけられたもんがーはその衝撃により、あっさりと肋骨が折れ、それらが皮膚を突き破り血だまりの中でビクンビクンと痙攣しつつ、「も……もんが……もん、が……もん……も……ん……」と囁きながら、少しずつ冷たくなっていっていた。

エヴァ「んなぁっ!? お、おいっ、軽く蹴っただけだぞっ!?
    それがなんでそんなぐちゃぐちゃにっ……!!」

 もんがーの特性。
 空を飛べる。目から殺人光線を出せる。笑うと髪の毛が伸びる。
 巨大化できる。ジェット・モンガロンに乗れる。モチ肌。モロイ。ひたすらにモロい。
 特に骨がモロく、骨が折れると大体皮膚を突き破る。もんがーダンスが踊れる。
 ………………多分それだけ。一言で言おう。ほぼマイナス点しかない。

のどか「ぐ、ぐぐぐちゃって……ぐぐぐぐちゃって……ぇええ……はうっ《ぱたりっ》」
エヴァ「あぁこら宮崎のどかっ!
    お前にはこれから、私に恐怖し私の前でこそ昏倒してもらうはずでっ……!」

 全てがパーだったそうだ。
 ……と、客観的に語ってみました、博光です。もとい、もんがーです。
 モチ肌ボディで瀕死状態ですが、それをすぐに癒すと校務仮面へ変身。
 パタリと倒れてしまった宮崎嬢を介抱しようとした───まさにその時!!
 遠くから風を切る音が聞こえ、それがマスターのものでないことを確認するや───

声   「待てーーーーっ!!」
校務仮面『断る!』《どーーん!》
声   「ぼ……僕の生徒にえぇえええーーーっ!!?」

 聞こえてきた声に即答! するとその声が戸惑いの声をあげつつ、しかしいきなり魔法をぶっぱなしてきたのだ!

ネギ 「“魔法の射手・戒めの風矢”(サギタマギカ・アエールカプラトゥーラエ)!!」

 もちろん声の主は春場さんだ。もといスプリングフィールドさんだ。
 彼が突き出した右手からは幾重もの風の矢が放たれ、俺とキティ目掛けて飛んで……あ、あれ!? 俺も!?

エヴァ「ほう……? もう気づいたか……“氷楯”(レフレクシオー)」

 そんな魔法を前に、キティは余裕の笑みを浮かべて魔法薬入りのフラスコをヒョイと投げる。なんでも魔力が満たない現在の自分にとっての、魔法発動の媒介なんだとか。
 足りない魔力を魔法薬で補っているとか、そんなところだろう。
 つーかナビネックレスの恩恵は使用しないの? と目で語りかけてみたら、「最初からそれでは面白味に欠ける、限られた条件の中で遊んでやるから面白いんだ」と返してくれました。

 バキキキキキンッ!!

 そんな言葉の最中でも、投げつけられた魔法薬は炸裂弾のように弾け───もちろんそう見えるだけなんだが、媒介となって虚空で氷の盾となる。それらはネギが放った戒めの風の矢の全てを弾いて見せ、相手が魔法使いだと知ったネギはもちろん驚愕し───!

ネギ  「───!? ぼ、僕の魔法を全部はね返した!?」
校務仮面『バカモン何を見ている! はね返したのではない、弾いたのだ!』

 すかさずツッコミました。最強。

ネギ  「えぇっ!? えあ、あぁーーっ!?
     校務仮面さん!? どうして貴方がここに!?」
校務仮面『校務仮面だからである!』《どーーん!!》
エヴァ 「……おい。いい加減、人の登場シーンを邪魔するようならくびり殺すぞ……」
校務仮面『あ、ごめんなさいマスター』

 物凄い殺気でした、ハイ。
 だがこの校務仮面を怯ませるにはまだまだ役者不足だぜキティさん。
 ……しかしキティキティ考えてると、kittyと呼びたくなる。むしろサブリガを……

ネギ  「───! 貴女は……エヴァンジェリンさん!?」
校務仮面『そうだぁああ! いいかぁクズ共ォオオ! この方が《バゴォン!》ジェバ!』
エヴァ 「黙ってろって言ってるんだっ! 私にやらせろよっ、もうっ!」
校務仮面『えー……? だってどうせ冷静なフリして静かに語るんでしょ……?
     そんな雰囲気作りよりもさ、遊び人伝説のようにはっちゃけてさ……』
エヴァ 「い・い・か・ら・だ・ま・れ……!」
校務仮面『ご、ごめんなさい』

 仕方ないので裏方です。
 杖に乗って飛んできたネギちーは、僕らがお話で盛り上がっているのをいいことに、のどっちを介抱。僕らをキッと睨んだまま、しかしキティが魔法使いだという事実に驚いているようだった。

エヴァ 「ふぅ……───どうして、と言いたい顔だなぁネギ=スプリングフィールド。
     魔法使いと対峙するのがそんなに不安で珍しいか?」
ネギ  「あ、う……ど、どうして───どうしてこんなことを!
     僕と同じ魔法使いなのに、どうしてこんな悪いことをっ……!
     まき絵さんのことを襲ったのもエヴァンジェリンさんなんですかっ!?」
校務仮面『あ、ごめんそれ俺。ほらここ人通りが少ないじゃん?
     だから見守っててあげたんだけど、どうしてか僕が後ろから見守ってるだけで彼
     女ったら走り出しちゃって。で、一人になってはいかーんと追い掛け回してたら
     ズダーと転んで気絶。そこへマスターが来てせっかくだからと血を少し……』
エヴァ 「……だからな、校務仮面。あれはナニカから逃げてたんじゃなく、
     お前っていう変態ストーカーから逃げてただけなんだよ」
校務仮面『何を言う! この校務仮面、校務をまっとうするためならばたとえ誤解されよう
     と校務道を歩む修羅よ! ……ていうかあの、え? そうなの? マジで?』
エヴァ 「………はぁ」

 マスターに盛大な溜め息を吐かれた。
 だが次の瞬間!

ネギ 「“風花 武装解除”(フランス・エクセルマティオー)!!」
エヴァ「!《ズバァッファアッ!!》」

 そんな気の緩みを狙い、ネギーが武装解除を発動。
 うむ、中々に心得ておるわ! 紳士だなんだとほざき、相手の隙も穿てないようでは成長なぞ望めぬものではございません!
 しかしまあ、なんというか……その武装解除をされたキティさんなんですがね?
 コウモリのマントの下はキャミなソールさんでして。

校務仮面『不意打ち……とは言うまいね?』
エヴァ 「仕掛けたのは私からのようなものさ。
     世迷言は言わん……が、ふむ。大した魔力だ。
     弱っているとはいえ、障壁ごとコウモリを吹き飛ばすか。
     さすがはヤツの息子なだけはある。魔力“だけ”は一級か」
ネギ  「……やつの……息子……!? あ、あなたは父さんを知っているんですか!?」
校務仮面『知らぬ!』《どーーん!!》
エヴァ 「………」
ネギ  「…………そ、それに! いい魔法使いと悪い魔法使いが居るだなんて!
     世のため人のために働くのが魔法使いの仕事でしょう!?」

 あ、無視された。

エヴァ「小さいな。浅はかで無知だ。世のため人のため?
    お前はそれをしようとしているのか? そのために生きているか?」
ネギ 「と、当然ですっ! 僕は魔法を悪いことのためなんかには───!」
エヴァ「では訊こう。もし貴様の家族が何者かに殺されたとする。
    お前はきっと復讐を考えるだろう。
    相手も魔法使いだとしたら、お前の復讐方法はなんだ?」
ネギ 「えっ───……」
エヴァ「魔法を使えば魔法使い。
    だが包丁でもなんでも、刃物を振るうだけならばただの人間だ。
    ぼうや……お前は仇の魔法使い相手に、
    自分はいい魔法使いだからと包丁を振るう馬鹿か?」
ネギ 「そ、それは……」
エヴァ「ああそうだな。
    お前がこんな例え話では納得できないというのなら、ひとつ提案がある
    私はな、ぼうや。お前の父親、サウザンドマスターによって呪いをかけられた。
    登校地獄という、魔力を極限まで封じられた上で延々と学園に通わなければならな
    い、しかも学園の外には出られないというふざけた上に腐った呪いだ」
ネギ 「え、え……? 父さんが……?」

 ……いや、とことん無視すか?
 僕さっきからいろいろなヘンテコポーズとったりして、気を引こうとしてたんだけど。

エヴァ「その呪いを解くためには血縁であるお前の血が大量に必要で、
    吸血すれば私は助かる。……さあ、いい魔法使いさん?
    私を解放するために、血を差し出せるか?」
ネギ 「……! そ、それはっ……でもっ!
    それはエヴァンジェリンさんが悪い魔法使いだったから罰を受けたんでしょう!?
    自業自得じゃないですかっ!」
エヴァ「この呪いをいずれ解くと約束しておきながら、
    もはや15年も学園に通い続けているという事実があってもか?」
ネギ 「───!」
エヴァ「ぼうや、お前も血縁者なら知っているだろう。サウザンドマスターはもう死んだ。
    私は、いつ潰えるとも知れぬ膨大な魔力を前に、
    ただただ学園に通うことを強要されている。
    こんなことがいい魔法使いのすることだというのなら、
    お前の言う“いい魔法使い”というのは嘘吐きのことを言うんだろうさ」
ネギ 「そんなっ、きっとなにか理由が!
    そ、それに父さんは死んでなんか───《ガキッ》───え?」

 埒も無し。
 僕はネギーの背後に転移すると彼を羽交い絞めにし、キティに向けてコクリと頷いてみせた。なにをするのかって? グオッフォフォ……!! もちろん吸血さ……!

ネギ 「え、えぅっ!? なにをっ!?」
エヴァ「なにを? さっきも言ったじゃないか。吸うんだよ、お前の新鮮な血を……!」
ネギ 「ぴえっ……!?」

 近寄る。音もなく、一歩、一歩と……!
 そして距離が無くなり、彼女がカァア……と口を開くと、吸血鬼然とした立派な犬歯が鈍
く光り、とうとうネギの首筋をブツリと突き破り、血を吸い始める……!

ネギ  「あっ、ぁっ……あぁああ、あああ……っ!!」
校務仮面『ゴワハハハハハ……! 所詮パートナーの居ない魔法使いなどこんなもの……。
     残念だったなぁスプリングフィールドよ……お前はパートナーが居ないという、
     ただそれだけの理由でここで血を吸い尽くされ死ぬのさ』
ネギ  「ひぅっ……!? う、うわーーーん!」

 もはやネギの血を吸い上げて呪いを解く気は無いとは言っていたものの、一度は味わってみたいと言った彼女の要望。それに協力しているのがこの校務仮面よ。
 と、よほどに美味いのか、キティの顔がとろけるような幸せ顔に変わってゆく。
 うん、なんか見てて面白いよこの子ったら───などと微笑ましく見ていた時だった。

明日菜 「ウチの居候になにすんのよーーーーっ!!」
校務仮面『ムウ!?《コペキャアッ!!》オボベ!』
エヴァ 「《ボゴォッ!》はぶっ!?」

 オリンピック候補を追い抜かせそうな速度で走ってきたアステカさんが、相手を確認することもなく飛び蹴りをかましてきました! しかも器用に俺とキティに一発ずつ! 
 だが離さん! ネギはこの身に替えても守ります! だって離したらキティが吸えないもの! もちろん蹴られ吹き飛ぶ僕らとネギだったが、体勢を立て直しながらも吸う!
 ネギ自身、もはや恐怖でなにも見えてないのか、真っ青な顔でカタカタと震えるだけだ。

カーナ「……なかなかやるじゃないか、神楽坂明日菜」
明日菜「今さら気取った風に振る舞ったって、あんたが───あれ?
    あれちょっ……えぇっ!?」
カーナ「? どうかした?」

 なにやら焦っているアステカさん。あれ? なんか人の顔見て驚いてるんだけど。

明日菜「いやっ……でも確かに今、一瞬だけどあのふざけた紙袋が……じゃあ、じゃあ!?
    えぇーーーっ!? こここ校務仮面の正体って、女の人ぉおーーーっ!?」
カーナ「エ? …………《さわさわ、ぺたぺた》…………いやーーーん!!」

 気分は着ぐるみが脱げなくなった彰利一等兵の如し!
 ば、馬鹿な! この博光の変装がこうも容易く!? 蹴り食らっただけだよね!?
 そりゃ、極力正体を隠すためだと、仮面が取れたらルミエールになるように仕掛けをしておいたけど……! ……あ、それの所為か。なまじ魔法でそういう細工した所為で、彼女のマジックキャンセル能力でそれがブチ壊されたんだ。
 しかしこちらもマジックキャンセラー能力くらいはあるから、それと相殺する感じで……仮面だけが消されちゃったわけね、うん……。

カーナ「………」
エヴァ「………」

 あ。キティも固まってる。

カーナ「キティ! 実はあたしは貴女のママだったの《マゴチャア!》よジュラァッ!!」

 鼻っ柱を穿つような、捻りが入ったいいパンチでした。

カーナ「チッ───今は引くぞエヴァンジェリンッ!」
エヴァ「なっ……お、おいっ、お前は《きゅむ》はむぐっ!?」

 キティの口を手で塞ぎ、その体をひょいと持ち上げ───遠くで待機してくれている茶々丸さんにピピピ電波を放出。チチキトク・スグカエレ、と。
 それからネギもぺいっとアステカさんに向けて投げて───

明日菜「わっととっ!? ちょっと、なにを───」

 キティの頭部以外を黒衣で飲み込み、踵を返して空を飛ぶ。

カーナ「神楽坂、今回は挨拶代わりだ。次に会う時はそのぼうやの血を吸いつくしてやる。
    無駄だとは思うが、せいぜい鍛えてくるんだな。ハァーーーッハッハッハッハ!」
エヴァ「むぉいもまっ! むぁまみもむぇみむっ……!!
    (訳:おいこらっ! 私の台詞っ……!!)」

 ひょこりと黒衣から頭だけを出した状態のキティがギャースカ騒ぐがグワハハハ知ったことではないわ! 下の方でもギャースカ騒ぐアステカさんを無視しつつ、あたしは途中で合流したマスター・キティの従者である茶々丸と合流、キティの住処であるログハウスへと向かったのでした。


───……。


 ずぅうううう〜〜〜ん…………

エヴァ「私の……私の輝かしい晴れ舞台が……」
カーナ「え? 曇り舞台だったけど?」
エヴァ「うるさいなっ!」

 で、ログハウス。
 がっくり項垂れ中のキティをベッドに置いて、あたしもそのベッドに腰掛けているのが現状。おうとも、女である限りはあたしと割り切り、男なら俺や僕で通す存在、博光です。

エヴァ「大体ヒロミツ! お前どこまで私に隠しごとをしているんだっ!
    女になれるなんて聞いてなかったぞ!」
カーナ「や、あたしもこれで結構面倒な人生歩んでるからさ。
    そんなにべらべら話してしまうのは───」
エヴァ「……そ、そうか。ああいった道を歩んだんだ、
    周りを警戒して擬態を得るのは当然───」
カーナ「───あとで事情を知った時の相手の顔が見れないから、つまらないじゃん?」
エヴァ「───だ、よな……?」

 ほんの少しだけ漏れ始めていた申し訳なさそうな空気が、チーターのトップスピード並の速さで走って逃げていった。

エヴァ「つ、つまら……? おい、お前は私に、つまらないというただそれだけの理由で、
    自分の能力を隠していたと……?」
カーナ「俺はただ面白ければそれでいい。そう断言出来る生命体で生涯居続けたい」

 本心ですとも、と続けてみると、キティは唖然として硬直。
 うむ、そんな彼女の頭をさらりと撫でて、わっはっはと笑ってみせる。

カーナ「まあまあ、最初っから全部知ってちゃ楽しみなんてないだろー?
    あたしはあたしで楽しむし、マクダウェルはそんなあたしで楽しめばいいんだ」
エヴァ「ム…………じゃあ一つだけ確認だ。“出来ないこと”はなんだ?」

 真面目な顔でそんなことを訊く。そりゃ、確かに出来ないことから探す方が楽だけど……お互い、厄介な生命体になったもんだなぁと言いたくなった瞬間である。
 しかし、出来ないことか。出来ないこと…………不可能を可能にする力を除いても、困ったことに出来ることのほうが多い。それも圧倒的に。
 ならば、一言言えることを言おう。シンプルで、しかも確実なこと。それは───

カーナ「死ぬこと。それだけ」
エヴァ「…………〜〜〜……」

 一言を言っただけで、不意に……本当に一瞬だが、ベッドに横たわって俺を見上げていた彼女の顔が泣きそうな顔になった気がした。
 で、なんとなく妙な感触があって見下ろしてみたら、ちょんと摘ままれている、現在あたしが着用している北高の制服。いわゆるキョン子スタイルだ。

カーナ「? ……ああ。べつに生きることが嫌になった〜とかじゃないって。
    4000生きてる大先輩の俺が、可愛い可愛いノスフェラ後輩に助言をしよう。
    生きることは辛くはないが、娯楽が無くなることは辛い。
    なんだかんだで俺達ゃ娯楽を糧に生きてる。
    だからな、マクダウェル。娯楽を探せ。
    もっともっと自分や自分が気に入っている相手が楽しめるような娯楽を。
    あたしにとっちゃ、お前のこういう態度も顔も、
    娯楽というか嬉しいことの一つだから。
    まぁでも……悲しそうな顔よりも、笑っててほしいかな、正直」

 言いながら撫でる。
 長く生き過ぎた所為か、感覚は老人のそれに近い。
 だからか、ついつい対象の頭を撫でたり、やさしくしすぎたりするきらいがあると、いつかドリアードに言われたことがある。
 そんな自覚は全然全く無いんだが、それでもそれは事実だーと意思の皆様が頷くんだ。
 そこには以前までの、子供が嫌がるような“哀しみ”は含まれてないっていうんだが、まあ確かに子供に遠ざけられるようなことは……うん、なくなった。

カーナ「まあ……隠し事をたくさんしてる俺が言うのもなんなんだけどさ。
    あー……そうだねぇ、俺のことを詳しく知りたかったら、
    ヒロラインの浮遊城の古代図書館に行ってみなさい。
    そこに、マクスウェルが管理してる本がある。
    その中に“創世の猫”っていう本があるから、最初から最後まで読んでみろ。
    “相手”を選んで状況が変わる部分もあるけど、
    基本俺の人生の全てが保管されている」
エヴァ「相手を選ぶ……? 何故だ?」
カーナ「そういう決まりなのだよ」

 自分が本の中の存在だー、なんて知りたいヤツ、居ないでしょ?
 貴女の人生は『魔法先生ネギま』という本に記されていて、1000円も出せばそのカケラが誰にでも読めて、しかもお釣りが来ますなんて。自分の人生の価値を疑ってしまう。

エヴァ「浮遊城っていうのは何処にある」
カーナ「空だね。グラウベフェイトー山って場所の、闘技場が主に使われている場所だ。
    妖精にゲートを作ってもらうか、自力で飛んで空を目指すか。
    他の誰かに転移で連れてってもらうって方法もあるけど、
    生憎と現在のヒロラインでは長距離転移が禁止されている。
    何故って、転移出来ない人が山ほど追加されたからね。
    戦争イベントとかじゃあアレは反則だ」
エヴァ「融通がきかないな……今すぐ、ここで読ませろ」
カーナ「ウワー……」

 そりゃ、そういうこともありだろうけど……でもダメ。なんの苦労も無しに人の人生を覗けると思ったら大間違いよ! ……自分から映像で見せるのは別として。

カーナ「ダメです。どうしても読みたかったら、
    きちんとそこまで辿り着く苦労を乗り越えなさい。
    一万二千もレベルがあるならすぐだから。
    ゲームに関しては妥協は許さない……それがこのルミエールのスタンスです」

 その代わり、ゲーム内で出来ることならばたとえそれが裏技めいたことでも許可します。
 何故ならそれは製作者が見落とし、プレイヤーが気づけた大切な面白さ! それに気づけただけ、その人の苦労や発見は報われるべきである! だから“俺”も散々とノートン先生を苦労させることになったんだけどね?

エヴァ「チッ……面倒だな……ってちょっと待て。
    お前、それはその場所に辿り着くことが出来たなら、
    誰にでもお前の人生が読めるって……そういうことか?」
カーナ「そうだよ? 人間の記憶なんて曖昧だから、だったらきちんと残しとこーって、
    精霊の皆様が書き綴ったのがその歴史。
    困ったことに随分と“世界”ってものに関わっちゃったからね、あたし。
    誰も知らない英雄といったら、この博光のことよ。
    英雄になんかなりたくなかったけどね」
エヴァ「世界に関わる……? お前はなにか? 人間じゃあなかったのか?」
カーナ「いや、普通の人間として産まれて普通に生きて、
    世界を救った時点で不老不死の猫になった。
    記憶も忘れた状態で……ああ、そこらへんはマクダウェルも知ってるだろうけど」
エヴァ「うっ……」
カーナ「はい、というわけで後は“創世の猫”を読んでね?
    あ、でも本を開くと確認メッセージが出てきて、
    “読む”を選ぶと最後まで映像見せられるから気をつけるように。
    全編通して映像になってるから、猫になってからは相当にグロい」

 でも、全てを知りたいなら文字だけじゃあダメだ。
 そういった意味で、彼ら彼女らは映像という形で本を残したらしい。

カーナ「僕の仲間たちの歴史も安置されてるけど、それは随分端折られてる。
    読んでも名前と顔と特徴くらいしか理解出来るものなんてない。
    どちらにしろ、人の歴史を知ることに躊躇がないならどうぞ。
    知って、一緒に背負えなんてことは俺は絶対に言わんから。
    読んで同情するもよし、近寄りにくくなるもよし。
    俺は俺だって自覚はきちんとあるから、
    周りがどういう反応を持とうがそれほど俺らしく生きるのみよゴハハハハ」

 ……あ、しまった、あたしって言うの忘れてた。
 まあいいや、ともかく今日はこれで終わりっぽいし、夜も深い。
 部屋に戻っていろいろ───ア。

カーナ「しまった……まだくーさんと楓殿がヒロライン中だった」
エヴァ「なにっ!? お、お前っ、あいつらだけにやらせて、私には一言も!」
カーナ「なに!? 失礼なことを言わんでもらおう! きちんと言ったぞあたしは!
    そしたら満月が来る日はそうそうないから、それはあとでいいと言っただろう!」
エヴァ「なっ……い、言ったのか? 私が?」
カーナ「わはははは嘘だーーーっ!!《どーーんパコキャア!!》へぶしーーーっ!」
エヴァ「アホかーーーっ!! いいから入れろっ、私も!
    お前の歴史の全てを見て、その上で馬鹿にしてやるっ!」

 ストレートで顔面殴っておいて、僕の着衣に手を添えると……闇の福音さんの本領ですかねぇ、なんと黒に同調して無理矢理黒衣を引きずり出しやがりました。
 しかも、止めるのも聞かずに無理矢理中に入って───あ、はい、ログインしました。でもゲームマスターの僕の許可無しだったから、ヘンなところに落ちた。一言で言うと……黒竜王の居山。つまり、ミルハザードが住まう竜の巣。

カーナ「……南無」

 十字を切りました。
 ちなみに今回のヒロラインには、中ボス扱いとして黒竜王ミルハザードや英雄王イルザークがプレイヤー外のボスとして存在します。ゼットやゼプさんは普通にプレイヤーとして存在してるけどね? で、キティが降りた場所ってのが丁度その、ミルハザードが存在する場所なわけでして。
 ちなみに言うと、敵としての歯ごたえの問題も考慮し、困ったことに卍解が使えるままのミルハザードだったりします。でも人型にはなれず、あくまで竜族扱い。

カーナ「……おっ、勇敢にも立ち向か───死んだ」

 尾撃⇒極光レーザー⇒グライダースパイク⇒尾撃⇒ダガージョー⇒噛んだままレーザー⇒ロードオブブラックブレイカー(神魔竜卍解極光レーザー)で滅びました。
 一万二千レベルあっても駄目だったようです。不死扱いだけど、一定量のダメージで神父のもとへと飛ばされることになっていますので。……一応、防具を装備しなさいという警告としての措置なんだけど……いい加減防具そろえればいいのに、キティったら。

カーナ「で……まあ予想通りと」

 神父送りにされた彼女はギャースカ喚いて、ひたすらに冷静な物言いで「情けない」と口にする神父に襲い掛かり、下手すりゃ中ボスクラスの神父さまの怒りを買って死亡。
 うん、誰でも最初はソレやるんだよね……。
 相変わらず僕らの知識の中から構築されている要素の強いヒロラインだから、特にミルハザードの強さやイルザークの強さは異常なくらいだ。
 加えて、守護竜も殺されて蘇るたびに強化されるもんだから、今ではいろいろシャレにならないボス敵がごっさり居る。

 そういえば戦争イベントの履歴を見たけど、イルザークVSジハードは相当にヤバかったらしい。なにせ空界でも因縁深いお互いだ、その戦いは異常だと唱えられるほどに凄絶だったと、履歴は語る。
 竜族はあまり戦争イベントには参加しないものの、ジハードとグレイドラゴンはエーテルアロワノン在住だから、そこのところはご理解を。
 普段はきちんとグラウベフェイトー山に在住しているんだけど、戦争イベントの際には下に降りてくるわけだ。……あ、ちなみにシャモンは月の浮遊祭壇に住んでる。俺が災いの解呪とかしようと躍起になってた場所だね、うん。

カーナ「そういや闘技場ランキングでもおかしいなーとは思ってたけど……」

 ゼットって何やってるんだろ。
 てっきり二位三位に居ると思ってたのに、藍田や岡田よりも下ってことは……参加自体してない? ヒロライン設定では竜族の王ってことになってたけど、あいつ王とかには興味なさそうだし……。

カーナ「えーとログは〜〜……っと」

 ヒロラインとアクセス、プレイヤー:ゼット=ミルハザードの現在地を確認。

カーナ「……ああ」

 どうやらゼノ助さんと修行の旅に出ていて、闘技場どころじゃないらしい。
 ゼノと二人で、なんて……お二方、マジですね?

カーナ「闘技場にうつつを抜かす暇があるのなら、どこまでも鍛錬か……」

 普通に、光の武具を使えた晦相手でも優位に戦えたゼットだ。今、“白”を使える晦相手
にどういった立ち回りをするのかが結構楽しみではある。それとも白を使える現在の晦相手
だからこそ、それに対抗する能力を身に付けにいったのかもしれん。……能力云々が無くて
も十分強すぎだけどね、彼。
 で、ゼノ助さんは……なにせ相手が彰利だ。こちらも更なる能力強化を目指しているらし
く、死神としての自身の強化という道を選んだらしい。いわゆる最初から滅法強かったフレ
イアさんなルナさんとは違い、純粋なる死神の彼。作られた彼女とは存在としての在り方が
違う。
 俺としてはゼノ助さんを応援したい気分だ。なにせ最初はハンターの一位ですらなかった
彼だ、人間の僕にしてみりゃあ才能がなかった彼が、なんとか一位にのし上がったようにも
見える。
 生まれた時からイレイザーの一位だった彼女には、その気持ちは解らんだろう。

カーナ「彰利も黒とか鎌の全てとか、そもそもの能力範囲が違いすぎるんだよなぁ……。
    それでも、彰利の苦手な存在がゼノ助さんってところは変わらないのがすげぇ」

 鎌の解放レベルは明らかにルナさんが一位ではあるんだが、ゼノ助さんは……ちと異常。彰利が再び全鎌解放が可能になったのに対し、ゼノ助さんは唯一を極めんとしている。
 即ち、ルナさんのように能力としてではなく……鎌を武器として使うようになった。解放しなければヒロライン武具を武器としていたゼノ助さんの、新たなる道。それが鎌を武器に使う方法……なのかな? よく解らん。
 ただ言えることがあるとすれば、彰利が足下掬われるのも時間の問題と。それだけだ。

カーナ「それはそれとして、くーさんたち今なにやってるかな」

 ヒロラインに降りることも、戦うこともそりゃあ出来る僕ですが、困ったことにやれることがないとくる。アレだ、全部を知ってしまっている寂しさ?
 ゲームマスターなんだから当たり前なんだけど、いわば“やりつくしてしまった存在”な僕がここに居ます。どこでどういうタイミングで何が起こる〜とか、全部解ってしまっているわけだ、僕は。
 だからやることといったら、誰かを罠に嵌めるとか遊んでみるとかそういうことばっかりなわけなんですよもう……。十分楽しいけど。

カーナ「よし。ほいじゃあ明日に備えて寝ましょう。
    三人には明日の朝までのんびりと冒険してもらうとして」

 今日も善き一日でした。
 そう呟きつつ、部屋に……いいや、ここで寝ていこう。


───……。


 そんなわけで朝です。
 軽い調理を終えた僕は、シュババババと謎のポーズを取ったのち、

中井出「へへっ、今日もキマってるぜ《キラーン♪》」

 鏡もないのにナイトゥルースをしつつ、ニコリとスマイル。ちなみに男に戻ってます。
 ヒロラインの皆様に定期メンテのお報せを飛ばしつつ、まずは浮遊城に向かっている途中でストームドラゴンと遭遇、凄絶なバトルを繰り広げていたキティをログアウト。この場に戻し、ぜいぜいと息を荒げている彼女を見た。

エヴァ「はっ……は、はぁあっ……!! な、なんなんだあの世界は……!
    自分が最強種とかバケモノだとか言われてた時代が馬鹿馬鹿しく思えるぞ……!」

 どうやら一方的に劣勢だったらしい。
 ってことは、守護竜も結構コロがされて復活してを繰り返しているようだ。
 ストームドラゴン相手に一万二千で足りないって、どういう世界なのか。

中井出「くーさんや楓殿は相手に事欠くことがなくていいって喜んでたけど」
エヴァ「程度問題だアホッ!! 守護竜だかなんだか知らないが、そこいらの竜種に敗北す
    るなど生まれてこのかた無かったんだぞ私はっ! 魔法は跳ね返すわ物理攻撃が全
    て弾かれるわ放った魔法が吸収されるわ!」
中井出「アータなんでそんなに守護竜とばっか戦ってるのさ……」

 言葉からして、フリーズドラゴンとカイザードラゴンとダークドラゴンとも戦ったらしいです。なんて逞しい。
 っと、キティだけ出してる場合じゃないね、くーさんたちもログアウトさせないと。
 えーと……おや、二人ともバトル中? さすがに守護竜バトルはしてないみたいだけど、それでも相手はワイバーン。随分とまあ張り切って……あ、負けた。
 丁度いい、ログアウト、と。

楓  「はっはっは、いやー負けた負けたでござるよ」
古菲 「ムムム、さすがに竜種に挑むには早すぎたアルな。“わいばん”いったアルか?」
楓  「ワイバーンでござるよ古。前足後ろ足と翼があるドラゴンとは違い、
    前足が翼になっている竜種でござる。
    その強さはドラゴンよりもよほどに弱い筈……なんでござるがなぁ」

 黒衣からズルリと出された二人は、先日と同じ制服のまま。
 ヒロラインに降りれば自動的にヒロライン用装備に変わるんだが、現実世界に戻ればまあこうなるのは当然なわけで。

中井出「はいはい、もう学校の時間ですよ。さっさと朝食食べてガッコ行きんさーい」
古菲 「オオ? もうそんな時間アルか。私てんで寝てないアルよ」
楓  「ゲームの中では随分と寝たでござるがなぁ。というかここは何処でござる?」

 一応一目を避けて、屋上でログインした彼女らだ。出た先が屋上ではないことが、軽い違和感に繋がったらしい。キョロキョロとあたりを見渡しては、頭を掻いて……笑ってる。

エヴァ「私の家だよ。ぺちゃくちゃ話している暇があったらさっさと出て行け」
楓  「む。ほほー……そうでござったか、ここがエヴァ殿の……」
古菲 「ホホー」

 そんな彼女らにキティが答えるんだが、二人は逆に興味を持った様子でジロジロと……!

古菲 「ンニャハハハハ、あんまり吸血鬼らしくないアルなー」
楓  「棺では寝ないでござるか?」
エヴァ「あんなあからさまな吸血鬼設定と一緒にするなアホどもぉっ!!」

 の、割にはニンニクとかネギが嫌いらしい。
 どの口が言うんでしょうね、ほんと。

中井出「ほれ三人とも、弁当作ったからさっさとガッコ行った行った。
    あ、朝飯にはこれだ。キャロリーメイツ。
    一粒食べるとスッキリ爽やか、ヒロラインで疲れた精神を癒してくれます。
    それと、鍛えた精神に肉体が追いつこうとするのを助ける。
    軽く筋肉痛とか起こるかもしれないが、まあ頑張って乗り切ってくれ」
古菲 「…………!《カタカタカタ……!》」
中井出「ひょ? あ、ああいや大丈夫だぞーくーさん。
    筋肉痛とはいっても、超筋肉痛ほど痛まないから。
    こっちの筋肉痛なんて、普通の筋肉痛の痛みほどにも痛くないから」
古菲 「ニャ、ニャハハハハ、そうだたアルか。それは安心アル」

 どうやら超筋肉痛が軽いトラウマになりつつあるらしい。
 そりゃね、アレの痛さは異常だし。黒竜王で知られるゼット氏だって、アレの痛さには膝をつくほどだ。

中井出「じゃ、いい? 忘れ物はない? ハンカチは持った? うまい棒は?」
古菲 「ヤ、うまい棒はよく解らんアルが、忘れ物は───
    オオッ!? 鞄がそもそもないアルーーーッ!!?」《ドギャーーーン!!》
楓  「おおっ、これは迂闊でござるっ」
中井出「なんですって!? それはつまり学園に置きっぱなしということか!
    いくら寮生だからってそいつはいけねぇ……そいつはいけねぇよ!
    副担任の前でいい度胸だ貴様らァアーーーーーーッ!!!」
古菲 「アイヤッ!? 教師として初めてマトモなこと言たアル!?」
中井出「しっ……失礼な! だが正論である以上、胸を張らざるをえん!」《どーーん!》
古菲 「正直モノアルな」
楓  「はっはっは、善きことでござる」
エヴァ「だ、だから、な……!? 人の家で朝っぱらからぁああっ……!!
    騒ぐなって言ってるんだアホどもーーーっ!!」
中井出「断る《どマゴチャア!!》ウチュチューーーーッ!!?」
古菲 「オオッ、人中アル」

 どーんの効果音もやっぱり半端に、人中に一本拳がキメられました。
 いやもうほんっと俺にだけは容赦ないね、この娘ったら……!
 だが回復力なら負けん! というかあんまり効いてなグオオ眩暈が……!!

中井出「お、おのれ貴様……! どれだけ強化しようとも所詮人間な俺の急所を、
    よくもまあ的確に打ち抜いてくれたものよ……!!」
エヴァ「……? ははぁん? そうかそうか。
    キサマ、どれだけ強くなろうと“人間”って枠からは出られない存在なのか」
中井出「当然である。
    この博光、どれだけ、どんな道を歩もうとも人間であることを誇りに思う。
    どうしようもない時にこそその“人間”をくれてやり、対処することこそ我が道」
エヴァ「だから“俺の人間をくれてやる”なのか。
    まあそれはいいさ、お前を黙らせたい時は人間の急所を突けばいいわけだ。
    それが解っただけでも収穫があったといえる。
    そらそこの二人、うろうろしないでさっさと学園へ行け。
    私はもう少しこいつと話をしている」
中井出「じゃあくーさん、あと任せたね? じゃ、行こうか楓殿」
楓  「了解でござる」
古菲 「ワタシもすぐ追いつくアルヨー」

 ニコリと笑って手を振り、ログハウスから出───

エヴァ「って待てそこのボケェエーーーーーッ!!!」
中井出「え? なに?」
エヴァ「え、なにじゃないだろぉっ!! 私はお前に話があるって言ったんだ!
    それでどーして古菲が残るっ!!」
中井出「……それは何かの陰謀じゃよ《ベパァン!》たわば!!」
エヴァ「なにかじゃなくお前の陰謀だろうがっ!! 来いっ!!」
中井出「《ズルズル》やだーーーーっ!!」

 殴り倒され、襟首を掴まれログハウスの奥へ奥へと引きずられてゆく……!
 僕は必死に助けを求めたが、バカレンジャーの二人は手を振るだけで、助けてくれる様子もございませんでした。となれば、僕に出来ることは一つ。

中井出「ハバナイスデーーーッ!!」
楓  「うむ、よい一日を、でござる」
古菲 「ツァイツェーン♪」

 手を挙げて、よい一日をと。つーかくーさん!? 再見って、また会う日までって意味だよね!? なんかそれだとしばらく会えないような……あれぇ!?
 い、いや、大丈夫だよ僕。
 それとハバナイスデーじゃなくてハブアナイスデーだったよね?
 英語は苦手だけど強く生きます。


───……。


 テレッテッテー♪

中井出「冒険〜し〜たいしっ、貢献〜し〜たいしっ、条件悪〜くても挑戦したいしっ♪」

 と、そんなわけで現在は授業前の教室にて候。
 引きずられた先で何があったって? おいおいそう焦るんじゃないよ、まずはお話をお聞き? ……歌ってるけどね。

中井出「で、アスラーナさん。どうしてネギくんあんなにぐったりなの?」
明日菜「へうっ!? あ、や、あはは、えーとそうっ、
    なななーんかおねしょしちゃったみたいでー!」
中井出「なんですって!? ネ、ネネネネギくん!
    キミはもっとしっかりした子だと思っていたのに!」
明日菜(うあーーーしまったーーーっ!! つい口からデマカセをーーーっ!!
    う……で、でもまさか吸血鬼に襲われたーなんて言えないしーーーっ!)
ネギ 「……あ、あのー……ヒロミツ? もし、その……もしだよ?
    僕のパートナーになってくれる女性が居るとしたら、どんな人だと思う……?」
中井出「ムッ!?」

 おねしょの話は華麗にスルー!? いやまあおねしょ事態が明日菜っちのウソだっていうのは予想がついてるけどね? そもそもネギも、今の話全然聞いてなかったっぽいし。

中井出(パートナーって、魔法のって意味?)
ネギ (あ、うん。今、ちょっと大変なことが起きてて……その。
    どーしてもパートナーが居ないと越えられない問題があって、困ってるんだ)
中井出(ふむ……では宮崎さんなんかはどうだい? なんとなくだけど、ネギを慕っている
    ようにも見えるし)
ネギ (えぇっ!? みみ宮崎さんっ!?)
中井出(ほら、今も見てるし。お前も急に真っ赤になったりして、
    まんざらでもないんじゃないかウェッヒェッヒェッヒェ)
ネギ (も、もうからかわないでよヒロミツ! 僕真剣なんだよ!?)
中井出(からかったりなぞしとらんわ。
    この博光、魔法の才能など無くろくな能力もないが、これだけは解る。
    あの娘、必ず将来的にネギの支えになってくれる存在だ)
ネギ (えう!? み、宮崎さんが……!?)

 そう、これは間違いではない。
 様々なことで……その、役に立つーという言い方は本位ではないが、ともかく助けてくれるといった意味ではパートナーに最適だ。
 なにせネギーのことを好いておられる。それだけでもポイント高いってなもんさ。 

桜子 「なになにー? 中井出先生なんの話ー?」

 と、内緒話中の僕らのもとへ、17番の椎名桜子さんが乱入。
 人懐こいスマイルを傾げつつ、上目遣いの猫口で見上げてくる。
 コマンドどうする? ───捏造しかないでしょう。

中井出「うむ。実はネギのやつがパートナーを探していてな。
    自分を愛し、自分を慕い、自分と支え合い、キスをしてくれる相手は居ないかと」
桜子 「えーーーっ!!? え、え、なに!?
    パートナーってじゃあやっぱりネギくんってば某国の王子さま!?」
中井出「う、うむ……! 実はある場所では大変高名で、
    知らぬ者は居ないって言われている英雄のご子息だったりする」
桜子 「へぇあっ!? ───は、はいはいはーーいっ!
    じゃあ私パートナーに立候補するーーーっ!
    お妃様んなったら美味しいもの食べ放題かもしれないしっ!」
風香 「あ、そんなんずるいーーーっ! だったらボクも!」
史伽 「私もーーーっ♪」
千雨 (よく考えてから発言しろよこいつら……!)
あやか「なぁーーーにを言っているのですっ!?
    ネッ、ネギ先生のパートナーはこのっ、雪広あやか以外に考えられませんわっ!」
桜子 「えー? それなら私、結構自信あるけどなー♪」
あやか「なっ……!? ななななんですってーーーっ!?」

 ……一瞬にして騒然となった教室を前に、僕とネギはポカンと硬直状態でした。
 コマンド:どうする?

1:そういやキティが居ない。探しに行こう

2:それより歌の続きだ

3:ネギを贄に捧げ、キティを探す旅に……

4:てゆゥか……この騒ぎに僕関係ないよね?

5:さよならネギ

結論:2以外の全部でアンサー

中井出(ネギ……ここはお前が時間を稼いで保たせてくれ……!
    俺はその隙にこの場を離れる……!)
ネギ (え……う、うんっ! ってヒロミツが離れてどうするの!?
    狙われてるの、明らかに僕だよ!?
    ここは普通、ヒロミツが時間を稼ぐんじゃ……!)
中井出(いや……今、学園の結界内へ何者かが侵入する気配を感じた。
    俺はそれの調査に行かねばならんのだ。だからこの場は任せた)
ネギ (侵入!? ぼ、ぼぼ僕も行くよっ!)
中井出(だめだ)《どーーーん!》
ネギ (えぇええっ!? で、でもっ、あうっ、あわっ……!)

 情け無用にそう語ると、彼をその場に残したまま歩き出す。
 もちろん、アステカさんに目配せをするのを忘れない。

明日菜「あ……ほ、ほらー! みんなもう授業始まるわよー!?」
桜子 「にゃ? ……アスナ、どっか打ったりした?」
木乃香「アスナが授業始まるん知らせるなんて、珍しいな〜」
明日菜「《ぐさり》なっ……わ、わわわ私だってたまにはねぇっ!!」

 最後にアステカさんの悲痛な叫びが聞こえた気がしたけど、僕は振り返ることなく走りました。さて……猛者連中の話じゃあ、本日カモミール先生が登場するはずなんだが……。


───……。


 で。

中井出「サムデイ・イン・ザ・ウヴォーギン?」
エヴァ「ハイデイライトウォーカーだ!!」

 やってきた屋上で、何故か説教される僕が居ました。

中井出「へー……真祖って陽光浴びても弱らないんだ。
    それってアレ? 満月じゃないから?」
エヴァ「どちらにしたって陽光が苦手なんてことはないんだよっ、私のことはいいから!」
中井出「う、うむ」

 とりあえず、先ほどの侵入者についてを話そうかと。
 そのためにわざわざ探しに来たんだから。いや、その前に教室に戻りんしゃ〜いって。

中井出「侵入したのはオコジョだね。しかもただのオコジョじゃあ……ねぇぜ」
エヴァ「……となると、ぼうやの助言者である可能性も考えられるか。
    オコジョというのが気になる」

 ふむ。そういやネギも魔法のことがバレたらオコジョにされるとか言ってたっけ。
 はっはっは、案外そのオコジョがナギ=スプリングフィールドだったりして。
 ……んなわけないか。

エヴァ「まあいいさ、たとえ助言者だろうと従者が見つかろうと、
    その上で叩き潰してやればいい。その方が、この退屈な日常への刺激になるさ」
中井出「おおっ、結構な自信っ! じゃあ例えば僕がネギに付くのは? 結構な刺激に」
エヴァ「そんなことしたら私が負けるだろうがアホ!!」
中井出「アッ……!?」

 ……最近解ったことがある。キティの口癖はきっと“ボケ”か“アホ”だと。
 しかし珍しい、はっきりと“負ける”と認めるとは。と、不思議そうに見ていると、顔を少し赤らめながら睨んできて、「な、なんだよ……」と面白くなさそうに言う。

中井出「いやいや。自分の弱さも知ってくれたようで嬉しいよ、って。
    弱さを知らん者はここぞという時に負けるからね。
    だから俺はどっちの味方もしない。俺が面白いようにするだけだ」
エヴァ「いや……頼む。頼むから関わらないでくれ」
中井出「いや……あの……そこで頭まで下げられるのは、予想外もいいところで……」

 関わらないでくれとまで言われるとは……え? もしかして嫌われた?

中井出「ひどいやマクダウェル! 僕ら同じノスフェラトゥだろ!?
    僕が関わるのがそんなに嫌だっていうのかいっ!?」
エヴァ「お前っ、あの世界の誰よりも強いんだろっ!?
    あの世界で英雄とか言われてるんだろっ!?
    そんな規格外のバケモノがどっちかに付いてみろっ!
    宿命の対決も念願の憂さ晴らしも、
    昨夜の顔合わせのようにどれほど台無しにされるかっ……!」
中井出「大丈夫! 最高の舞台を用意するぜ!?
    まずマクダウェルが高いところに立って、下方を走るネギを見下ろします。
    決闘場にやってきたネギは、高いところで自分を見下すマクダウェルを見上げ、
    ピーキャーと騒ぎ立てる! だが大人で伝説の存在のマクダウェルは、
    そんな安い小言には耳を傾けず、余裕の笑みでさらに見下す!
    スプリングフィールドの血族を! 我こそ最強種ぞ、と!」
エヴァ「《ぞくり……》お、おおっ……! それで、それでどうするんだ!?」
中井出「うむ! ……足を滑らせて落ちて死にます。完《バゴシャア!》ルジェーン!!」

 怒りの篭ったよいチョーパンでした。押忍。

エヴァ「こぉおのアホォオオオッ!!! どうしてそこまでやっておいて落ちる!?
    飛びもせず真っ逆さまか!? どれほど間抜けなんだお前の中の私は!」
中井出「え? 蝙蝠の外套の下をキャミソールで歩く変態痴女?」
エヴァ「死にたいらしいなじじぃ……!!」
中井出「馬鹿をお言いでないわ! この博光、死にたいと思ったことなど!
    ことなど……こと、な………………ボクハコノアオイチキュウガダイスキデシタ」
エヴァ「へっ……!? お、おい何処に───ってどこから取り出したそのロープ!
    おいっ、壁にくくりつけてどうする気───うあああ早まるなぁあああっ!!!」
中井出「《がしぃっ!》離してぇえええええっ!!
    もーいやだやっぱりやだぜったいやだぁーーーーーーっ!!
    思い返すだけでろくな思い出がないわーーーっ!!
    あはーーはははは笑うがいいさ! こんな僕を! とんだピエロだよ!」
エヴァ「笑ってやるから落ち着けっ!
    死ぬことが“出来ないこと”って言ってただろうっ!?」
中井出「───……《ずぅううう……ん……》」
エヴァ「…………こんなことで落ち込むなよ……鬱陶しいから……」

 いやうん……いいんだけどさ、ほんとに……。
 むしろキミが止めてくれたことが意外だったよ。てっきり死なない僕のもがく様を見たりして楽しむかと思ってたんだから。

中井出「まあいいや気にしない。それで、ネギのパートナーのことなんだけどね?」
エヴァ「急に立ち直るなお前……で、なんだ? パートナー?」
中井出「うむ〜? あー、僕としてはさー、
    のどっちかアスナっちが最適かと思うんだけどさー」
エヴァ「は、無理だな。ただの一般人が私相手に……いや、待て? 一般人?
    一般人に、何故私の障壁が……しかも顔面を蹴って……───ヒロミツ」
中井出「え? なに?」

 話すだけ〜というのも案外暇である。特にこのお方は考え出すと平気で人を無視しなさるからなぁ。
 というわけで、どっかにマナと癒しの樹でも植えようかなーとか考えていたところにマスターの言葉。俺はといえば、屋上の隅っこに鉢植えを創造し、マナと癒しの種を植えようとしていたこともあり、少し離れた位置に屈みこんでいた。
 振り向いてみれば、キティは離れていた俺にちょいちょいと指を動かし、こちらへ来るようにゼスチャーする。なもんだからこの博光、出来るだけ尊大であるように胸を張りズシーンズシーンと大魔神が歩くかのように……

エヴァ「さっさと来いっ!」
中井出「ヒィイごめんなさい!」

 ……駆け出しました。
 いつまで経っても虚勢と情けなさの化身……こんにちは、中井出博光です。

中井出「そ、それでなんでせう」
エヴァ「ああ。一つ訊いておきたいんだが、
    お前が被っていた校務仮面は魔法で作られていたものか?」
中井出「え? 校務仮面? なに言ってるの僕が校務仮面なわけないじゃない」

 あくまで僕は校務仮面ではないと主張します。
 だって中身はルミエールであって僕じゃないもん。そういう設定なんだもの。
 キティもそれが解ったのか、若干顔をヒクつかせながらも「あーそーかい」と言った。

エヴァ「…………言い方を変えよう。
    その校務仮面が被っていた紙袋は、魔法的なモノだと思うか?」
中井出「うむ。きっとそうに違いねー。あれはきっとアレだぜ?
    正体がバレないようにと、
    取られたら女になるまじないがかかっているに違いない。
    しかしながら校務仮面にはきっとマジックキャンセル能力も備わっている。
    その“順応”もあって、敵からのキャンセル能力には抗体があり……」
エヴァ「完全にはキャンセル能力が通らず、仮面だけ取れて女化は成功したと。
    なるほど、考えるのも面倒なことだが、そういうことになるのか」

 キティが再び思考の海へダーイヴ。
 僕はといえば再びもとの位置に戻り、創造した二つの植木鉢にそれぞれ必要な土やら栄養やらをモサリと入れ、その一つ一つにマナと癒しの種を埋めた。
 すくすく育ちなさいと真心込めて。オゥ・トワ・ラヴィ〜。
 ちょーどそこへキティの声が投げかけられ、近寄ってみれば……いつの間に来たのやら、茶々丸さんがいらっしゃった。ペコリとお辞儀をしてくださっている。
 なんと礼儀の正しいロボ子さんなんでしょうね。そこんとこ比べっとよぉ、ぱっと見繊細のようで実はものすごーく大雑把な、キティの態度なんて見れたもんじゃねーべよ。

エヴァ「……? な、なんだよ」
中井出「いやべつに。そろそろ行くか? オコジョ狩りにでも」
エヴァ「……いや、それはそれでいいさ。私は授業をサボるよ。
    少し煮詰めておきたいこともあるんでね」
中井出「そか。じゃあこの副担任様も付き合おう。
    そうすれば、特別授業としてサボリにはならん」
エヴァ「………」

 そう言いつつ、壁に背中を預けてゆったり座り、すっかりサボリモードの彼女の隣に座る僕。茶々丸さまはどうしたものかとオロオロしだすが、キティの隣を促すと、そこへとおそるおそる座った。

エヴァ「言っておくが───私はいくら授業に参加したところで、
    呪いの所為で卒業なんて出来ないぞ? サボっても同じなんだ」
中井出「そうか。だがサボリが出たとあっちゃあ俺の給料もネギの給料も減るんでね。
    サボリだろうと授業にしちまえば、こっちとしては潤いになるのさ」
エヴァ「ハッ、随分と勝手な教師もいたもんだ」
中井出「お前は随分と勝手な生徒でしょーが。ほれこっちゃ来い」
エヴァ「《ひょい》ふわっ!? お、おいこらっ! なにをっ───」

 つまらなそうに座る彼女をひょいと持ち上げ、我が足の間へと座らせる。当然暴れ出すがそんなものは無視だ。この博光の傍でつまらなそうな顔なぞ、誰がさせるものか。
 この博光、自分が楽しむためにも周囲につまらなそうな顔はさせぬ。いっそ怒らせてくれよう、ぞ……。

中井出「卒業できないからってサボリか。まだまだ浅いなぁ後輩よ」
エヴァ「う……うるさいな」

 顔を赤くしながらも、もがくことすら無駄だと理解したのか暴れなくなるキティさん。
 そんな彼女の頭をポムポムと撫でながら、マナと癒しを解放してリラックスさせる。

中井出「サボる勇気があるのなら、教室内を変える勇気を奮ってみろ。
    賛同する者を巻き込むも良し、
    全員が反発するならむしろその全員に反発するも良し。
    イジメが発生しようがどうしようが、
    自殺する勇気があるのなら殴られることすら覚悟の上で革命を望め。
    どうしてこんなことをするんだーとか親や先生に怒られたら、
    今の教室の状態が耐えられんかった、
    しかし自殺するのは嫌だから自ら環境を変えに行きましたと自己暗示をだな」
エヴァ「随分と手前勝手な理想論だが……
    自殺する勇気があるのなら、という部分には共感できる。
    しかしそれは逆に、
    殴られたり苛められる恐怖にも立ち向かわなければならないことだろうよ」
中井出「だったらそれを受けてから自殺すりゃーいいさ。
    苛められて殴られて、顔や体をボッコボコにされつつだ。
    で、死ぬ前に教師や校長に話をしに行くわけだ。イジメられとうぜ〜って。
    教師側が適当にぼかして結局現状が変わらないなら、
    それ以上の自分の勇気を以って現状を変えに行くか、
    諦めて、録音しておいた教師や校長との話の記録を親に預けて自殺する」
エヴァ「はっはっはっはっは、それは随分とまた面白そうな最後だなっ」
中井出「だろ? 同じ死ぬにしたって、イジメをした相手やそれを見過ごした相手にもいろ
    いろ被ってもらわなきゃあな、命の割りに合わんよ」

 微妙に話がズレたことも気にせず、日向ぼっこ気分で目を閉じる。
 マナと癒しは出したままだ。それが心地よいのか、次第にキティは力を抜いて我が強靭なる胸板にこてりと頭を預けてきた。

エヴァ「……少し眠らせてもらうよ。昼はどうにも眠いんだ……」
中井出「ああかまわん、適当にくつろいでくれたまえ」

 すぅ……と息を吸う音が聞こえたと思えば、彼女はもう寝ていた。
 そんな彼女の頭をやっぱり撫でつつ、俺も息を整えて寝る姿勢に。

茶々丸「………」
中井出「ふむ」

 しかし物珍しそうに僕のことを見る茶々丸さんが気になって眠れません。
 だったら……よし。ちょっとミクにご足労願って〜と……はいポムと。

ミク 「はいっ、御用でしょうかマスター!
    あ、眠るんですかっ? 子守唄が必要ですねっ!」
中井出「誰が子供だコノヤロー!」
ミク 「えぇええっ!? だ、だっていっつも言ってるじゃないですかマスター!
    童心が大事、僕はいつまでも子供SA☆って!」
中井出「……そうでした」

 でも子守唄〜と言われるのとソレは、どーにもちょっと違う気が……っとと、そうじゃないのだよミクくん。

中井出「ちょっとお願いがあってね。
    そちらの絡繰茶々丸さんのお相手になっていてもらえんか」
ミク 「はい? ……あ」
茶々丸「……《ペコリ》」

 ミクと目が合うと、早速お辞儀をしなさる茶々丸さん。……いいコだ。
 最近の若造ときたら、お辞儀をすることすらせぬわ。この博光も含めて。

中井出「………」

 すぅ、と息を吸うと、心地よい眠気とよい香り。
 これはキティの神……もとい髪の香りでしょーか。是非ハーバルエッセンスで洗ってやりたいところだが、さすがにそれは危険ってものでしょう。
 しかしまあその、なんだろう。俺って体型がちっこい相手には、大体コレをやっている気がするのですが。恋姫連中然りナギーやシード然り、そしてキティ然りと。

中井出(…………いや、別に妙な性癖は持ってないよ?)

 ただこうしてくつろがせて、思う存分頭を撫でてやりたいだけであって。
 こう……なんだ? 僕の中にある頭を撫でるっていう感覚はどうも、じいさんがしてたソレに非常に近い。数えるほどしかしてもらわなかったけど、じいさんの足の間に座りながら頭を撫でてもらったあの感触……今も覚えてる。
 幸せって言葉があるのなら、あの瞬間だけは……間違いなく俺は幸せだったのだろう。
 それを今の今まで自覚出来なかったのは、じいさんに対しては罪悪感しか持てなかったから……なのか? ……うん、まあいいや。おやすみなさいマウス。

 ……あ、ちなみに今朝、キティに引きずられたのちに聞かされた話っていうのは、近々ある修学旅行に自分を参加させることは出来るか? ということだった。
 なんでもどっかのモミアゲさんと同じく日本文化が好きらしくてね? 京都に行くことになっているソレには是非とも行ってみたいそうなのです。だからその相談。
 話をしている最中に思いだしたらしく、「こういうことは先に言っておいたほうがいろいろと都合がいいに決まっているからな」と、ワクワクを抑えられない子供のような顔で。
 「無理だ」って言ったら物凄いショック顔のあと、泣かれたりしました。いやマジで。
 だからね……もう意地でも行かしてやらなければと妙な使命感が沸いてしまって。





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