05/吸血鬼はニンニクが苦手と言われているけど玉葱も合わせてそんなもん近づけられて平気なヤツはそうそう居ない

 さて翌日。
 ヒロラインメンテが未だ続いている中で、くーさんや楓殿、そしてキティはしきりに早く早くと煽ってくるが、あの広大なる世界でソレは無茶ってもんだ。管理者の苦労を少しは考えていただきたい。
 と、まあそれはそれとしてだ。

中井出「へー、これが」
カモ 『おうよっ、俺っちがアニキの一番の舎弟、アルベール=カモミールさっ』
中井出「なるほど。我は中井出博光という。魔法知識を持つただの人間だ」

 ネギに誘われ訪れてみたネギルーム……というか明日菜さんと木乃香さんの寮室。そこで引き合わされたのは、一匹のオコジョだった。

明日菜「ちょっとネギっ、急に中井出先生なんて連れてきて、バラしてよかったのっ!?」
ネギ 「ヒロミツは僕にパートナーのことを教えてくれたから、
    もしかしたら参考になることを教えてくれるかなって……。
    だ、だめだったでしょうか」
明日菜「え───いやあれ? ちょっと待って今先生なんて言った?」
中井出「魔法知識、持ってます。多くはないけど魔法に似たものは使える」
明日菜「………」

 あ。頭抱えた。

明日菜「どーーーしてすぐ教えなかったのよバカネギーーーーーッ!!
    それが原因で昨日、おねしょがどーとかっ……あーもーっ!」
ネギ 「えうぅっ!? で、でもだって、それは僕だってこの歳でおねしょとかっ……!」

 昨日あれからいろいろあったんだね。

中井出「まーまー明日菜くん。こっちにもいろいろと問題があったんだよ。
    それと、初日とかはいろいろすまなかったね。
    俺も急にあんな場所に飛んだもんだから、気が動転してたんだ」
明日菜「あ、う……わ、私の方こそ急に殴ったりして……。
    って、期末テストのあとのアレ、やっぱり……?」
中井出「うむ、まあ。悪かったね、ぼかすようなことを言って。
    ちなみにキミの服が飛んでいったのは僕が原因なんじゃなく、
    ネギの魔法が原因だから」
明日菜「……ええ……今日まで散々と味わってますから、
    私も逆に先生への罪悪感に困ってたところで……」

 物凄い陰った顔で言われました。
 そうだよなー、どこぞのお姫様だったろーけどそんなことはもはやどーでもよろし。
 これから様々なことを知っていくにしても、大事なのは今この時よ。

中井出「じゃあ、魔法を知る者として……これからもよろしく」
明日菜「はい」

 軽く差し出した手に、アステカさんの手が重なる。
 ネギはそれを嬉しそうに見ていて、カモくんもニヤリと……

中井出「しかしカモミールよ。覗きは感心せん」
カモ 『ぎっ……い、いやーでも覗かないのは逆に女性に失礼な気がしないッスか?』
中井出「それは男どもの勝手な言い分であって、女はそうではないわ。
    どんな時でも暗くなるより明るい方がいい……ならばふざけて然るべきだとこの博
    光は考えているが、風呂場とは日々の疲れと汚れを流す場所。
    そこを欲望の場として見る貴様をこの博光は許さん」
カモ 『ゲッ……そ、そりゃないぜ旦那っ!
    ほらっ、俺っちの下着コレクションあげるからっ! なにとぞっ!』

 ザサァッと差し出される、何処から出したのか不思議でならない下着たち。
 それをアステカさんに渡すと言う。

中井出「明日菜くん、これ盗まれた娘たちに返してあげて」
明日菜「わっ、中井出先生結構話せるじゃないっ」
カモ 『ちっとも話せねぇッスヨォーーーーーッ!?』《ガボォーーーン!!》
明日菜「黙りなさいこのスケベガモ」
カモ 『《ぶぎゅるっ》オペッフ!?』

 カモくんが踏まれる中、僕とネギはこれからのことについて話ました。
 まず1に、キティが吸血鬼だったことを知らされ、僕は驚愕。いや知ってたけど。
 2、彼女は確かに魔法を使ったけど、それは大して強くないと感じたこと。
 3、パートナーさえ得られれば、校務仮面さんを押さえてる隙に更生させることが出来るかもしれないこと。
 4、そのためのパートナーを誰にするか。

ネギ 「カモくんからも、ヒロミツが言うように宮崎さんを推されて……えと、その。
    でもこんなことに生徒を巻き込むのは……」
中井出「ネギくん」
ネギ 「《ポム》え……ヒロミツ?」

 俯き、思い悩む少年の肩に手を置き、穏やかに微笑んでみせる。
 そしてカモくんとの死闘を繰り広げ始めるアステカさんを親指で指差すと、

中井出「もう……巻き込んどる」
ネギ 「えうっ……!?《ガーーーン!》ご、ごめんなさーーーーいっ!!」

 サワヤカスマイルで泣かせてみせました。
 そうなのだ、巻き込む巻き込まないなんてのは今さらだ。だから、今は何を巻き込もうが現状を打破することが必要。そのことをネギにしっかりと聞かせて、やがてネギも頷いた。

中井出「正直、明日菜くんの身体能力は貴重だ。そしてあの元気や、立ち向かう勇気。
    脚力も反射神経も申し分無い。えーと……校務仮面、だったっけ?
    その相手がどれほどの者かは解らないけど、
    宮崎さんに相手を抑えてもらうっていうのは無理があるかなぁ」
ネギ 「え……じゃあ?」
中井出「明日菜くん、ちょっといいかい?」
明日菜「えっ……あ、はぁ」

 ぐったりしたカモくんの尻尾を掴み、宙吊りにしているアステカさんを呼ぶ。
 首を傾げながら寄ってくる彼女に大まかな話をしてみせ、彼女の反応を伺うが───

明日菜「えぇえっ!?
    い、イヤですよっ、だってそれってなんかチューするんでしょ!?」
中井出「ふむ……そっか、ならば仕方も無い。……明日菜くん、キミはここまでだ」
明日菜「───へっ? え、や……ここ、までって?」

 急に真顔になってピシャリと言う僕に対し、アステカさん疑問タイム。
 むう? 解らぬか?

中井出「明日菜くん。元々こういったものは誰かにバレるべきではない。
    魔法がバレればオコジョ。しかしそれをキミは隠してくれている。
    そこには感謝するが、かといって起こることに首を突っ込む理由にはならない。
    ……キミはここで降りなさい。
    魔法関連のことは忘れて、普通の中学生として生きるといい。
    なに、ネギのことは僕が預かろう。キミは今まで通り───」
明日菜「ちょ、ちょっと待ってくださいっ、なんでそんな急にっ!
    たった一つ手伝わなかっただけで!?
    そりゃ、こんなおかしなことから抜け出せるならって思うけどっ!
    でもこんなガキんちょ一人に全部任せて投げ出すなんてことっ!」
中井出「出来ない、と? ならば相応の対価と覚悟を示すべきだ。
    明日菜くん、僕らは常にリスクを負って生きている。
    何かがバレればオコジョ、何かが知られれば幽閉、本当に様々だ。
    だがキミはこのまま降りればなんのリスクもなく中学生に戻れる。
    新聞配達をして、学校に通って、クラスの娘と笑いながら、恋に生きて。
    それらの生活を投げ出してまでこちらの世界に来る理由が、キミの何処にある」
明日菜「っ……そ、それは……」
中井出「大切なことだから厳しく言わせてもらう。これでも副担任だからね。
    ───明日菜くん。今の自分、今の生活が好きなら、こちらには踏み込むな。
    ただの普通の少女として今を生きなさい。
    このまま何も知らずに、フツーの女の子として育って欲しい……
    そう考えてる人がきっと居る」
明日菜「あ……う……」

 そう、そもそもが巻き込まれ。
 知ってしまったがために首を突っ込んできたが、ここから先はちとヤバイ。
 いずれオスティアに行くことにもなるだろうし、そこまで行けば忘れていることの全てを思い出すことにもなるだろう。忘れていたほうが幸せなことだってある。
 もちろん相手側がほうっておかないことだってあるだろうし、修学旅行で木乃香さんが攫われたりしたら黙ってはいられないだろう。
 だが、それでもだ。

中井出「選択権はキミにある。だが……くれぐれも軽々しい答えは口にしないこと。
    それからネギ。……宮崎さんのことはもう少し考えてからだ。
    キミが考え、よしと思わない限り、
    相手が良しと頷かない限りは巻き込まないこと」
ネギ 「あ……う、うん。でも……」

 チラリとアステカさんを見るネギくん。
 だが僕は首を横に振らせてもらう。これは甘えごっこではない、下手すりゃ命にも今後の人生にも関わることよ。
 自分の人生の全てをブチ壊しにされた俺だからこそ言わせてもらおう。
 馴れ合いも結構だが、覚悟が足りなければ絶対にそれは後悔に変わる。
 だから、進もうとする最初の一歩にこそ覚悟が必要だ。
 それからの覚悟はそれから一つずつ決めていけばいいが、この一歩だけは半端な覚悟じゃ乗り越えられない。
 けどまあ……なぁ?

中井出「…………♪」
カモ 『! ……《グッ》』

 俺の視線の含みに気づき、カモくんがチョークで魔法陣を描く。
 当然、悩み苦しむアステカさんも、そんな彼女を案ずるネギもその行為には気づかない。
 だが、ああだがだ。

明日菜「人生とか……台無しになるとか、よく解りません。
    だってこれからのことだって解らないし、
    自分がどんな分岐点に立っているのかも解らないですもん……。
    頷くことでどう変わっていくかも解らない……フツーって言われたって、
    子供が懸命に頑張るところを見捨てて歩く道がフツーか、なんて……私……」
ネギ 「アスナさん……」
明日菜「だから子供って嫌い……大ッ嫌い……。
    人のことなんか考えないで、周りがどれだけ心配するかも知らないで、
    無茶ばっかりして、そのくせ自分だけじゃなにも出来なくて……!
    無力で、情けなくて……! だから、だから───!」
ネギ 「え? あの《ぼかぁっ!》ふぎゃんっ!?」

 勢いよく振るわれた拳骨が、ネギの頭頂を襲う。
 その痛みに目をまん丸にして慌てるネギに───彼女はくちづけた。
 猛者どもの話とは違い、額ではなくきっちりと唇に。

カモ 『《ギピーーン!》“仮契約”(パクティオー)!!』

 光が溢れ、吹くはずもない風が吹き荒ぶ。
 こんな狭い部屋でなんばしちょっとー! と怒られそうなものだが、生憎とここには僕らしか居ない。このちゃんは用事があるとかで出かけてるしね。

明日菜「───……だから。付き合ってあげるわよ、とことん。
    仕方ないじゃない? その、知っちゃったんだから」
ネギ 「あ……アスナさん……」
明日菜「でもっ! でもよ、いいっ!?
    危険なことに首を突っ込むときは、ちゃんと私に伝えることっ!
    こうなったからには私を通さず一人で突っ走るようなこと、許さないからね!?」
ネギ 「〜〜〜っ……ハイッ!!」

 目に涙を溜めて、歳相応の笑顔で頷くネギー。
 うむうむ……やはり思った通り、覚悟を決められるお子めでありんした。
 でも……馬鹿のままだね。結局、見捨てられないって理由や夢見が悪いって理由だけで受け入れてしまった。なるほど、キティが後々頭を痛めるって情報も解る。
 苦笑が漏れる中で、しっかりとカードを手にしたカモくんとニヤリと笑い合いつつ、俺は俺でと行動を。

中井出「じゃ、あとは仕上げか」

 そう、ならば僕は、その馬鹿者にプレゼントでも差し上げよう。
 そう笑いながら、魔法陣の中心に立つ二人を押し退け、自分一人で魔法陣の上に立つ。

ネギ 「仕上げ、って……?」
明日菜「あ、あのっ、中井出先生?」
中井出「秘策ってやつだよ。
    カモ、この魔法陣の中で口付けすれば仮契約は成立するんだったよな?」
カモ 『お、おお、そうッス』
中井出「そか。だったら───」

 目を閉じ、集中し、我を構築する全ての血肉と意思、そして武具に力を宿し、接触する。
 意思と俺は既に繋がっているんだから、あとは魔力汲々さえありゃあ───

中井出「“仮契約”(パクティオー)!!」

 特別なものなど必要なく、仮契約が完了する───!

ネギ 「え……えぇえっ!? ひ、一人で!? どうして!?」
明日菜「ちょ、ちょっとエロガモ……!? これってどういうことなのかしら……!?」
カモ 『やややや俺っちにもなにがなんだか……!
    あぁっ、そ、そこはやめて姐さん、踏まないでっ……!』

 光が溢れ、やがて消える。
 吹き荒んだ風も落ち着きを見せ、閉じていた眼を開いてみれば……そこには意思の分だけ存在する仮契約カード。

カモ 『ムッヒョォオオッ!? たたた宝の山ッ!?
    こここれだけありゃあどれほどの笑えるくらいのオコジョ$が……!』

 カモがそれに手、というよりも体を飛ばすが、届く前に全てかっさらう。

カモ 『あ、ちょっ……!?』
中井出「残念だが、これは俺の秘密に迫るものだからね。誰にも見せられないんだ。
    代わりに───」

 分析を開始。
 カード全ての形状、能力を武具宝殿に収納することで“武具”として認識。
 危険な部分は修正させてもらい、創造したカードフォルダーに収納した状態で出現させ、そこからさらに一枚をコピーし、明日菜さんに渡す。

明日菜「え? これ……」
中井出「俺の仲間のカードだ。
    本来本人にしか使えないものだろうけど、まあいろいろと細工がしてある。
    使用方法はこいつを手にして“来れ”(アデアット)と唱える」
明日菜「……あ、“来れ”(アデアット)……?《パギィンッ!!》───わっ……!?」

 言葉の途端、カードが光り輝いて彼女を包み込み、光りが治まる頃には、彼女はとある武装に身を包んでいた。

明日菜「わっ、わっ……!? なにコレ……!」
中井出「霊装フルウノングン。佐知子さんのカードだな。
    とりあえずそれを着てれば、対吸血鬼戦で死ぬことは無いと思う。
    闇魔法も中級あたりまではレジストしてくれると思う……けどちょっと待った。
    そういえば吸血鬼が使う魔法ってなんだった?」
ネギ 「え? えと……そういえば氷だったような……」
中井出「むう……そりゃちょっとレジスト出来ないか」
ネギ 「あ、それにアスナさんには従者である校務仮面さんを押さえてもらいたいので……
    その、対吸血鬼用の防具じゃあマズイです」
中井出「なにっ!? 何故それを先に言わないのかね! えーと……じゃあこれだっ」

 さらにと明日菜さんにカードを渡し、解放してもらう。
 すると今度は炎の灼衣に包まれ、大慌てな明日菜さん。

中井出「あー大丈夫大丈夫、守られてるだけであって熱くないから」
明日菜「え? あ、ホントだ」
中井出「灼熱武装ランペルージュ。藍田くんのカードか。
    炎を纏って、氷系統はほぼ弾ける。プラスして蹴りの威力が通常の10倍となり、
    足の速さも……まあ、ちょっと異常になるかも」
明日菜「う、うぅうん……大事なのかもしれないけど、
    チリチリなってて目がチカチカするかも《ポムッ》わぷっ? な、中井出先生?」
中井出「必ず生き残るためだ。少しは我慢しなさい」
明日菜「あ……は、はい」

 少し困惑気味の彼女の頭に軽く手を乗っけて、ニカリと笑って言う。
 力を得ると、人は無茶しがちだからね……人間代表のこの博光がいい例だ。
 いやーもうほんと、世界なんて救おうだなんて思うもんじゃないよ? 命がいくつあっても足りやしない。

ネギ 「ひ、ヒロミツってそんなにパートナーが……!?」

 と、頭を掻きつつ苦笑していると、ネギがカタカタと震えながら訊ねてきなすった。
 ふむ? パートナー?

中井出「んー……いや、これ全員仮契約者だから。俺のパートナーは、もう生涯一人だけ。
    精霊って知ってるよな? 俺はそれの中の、自然……然の精霊のパートナーだ」
ネギ 「せっ───えええええええええっ!!?」
カモ 『ンンンンンママママママジッスカァアーーーーーーッ!!?』
明日菜「えっ? えっ? なになに? それってそんなに凄いことなの?」
ネギ 「すすすごいもなにもっ!
    ぼぼ僕らは精霊に言霊を捧げて魔法って奇跡を使います!
    えぇとほら、魔法の射手も、精霊の柱の数えであって……!」
明日菜「あ───じゃ、じゃあ……!?」
中井出「ちなみに俺、その精霊全てと契約しております」

 …………。

ネギ&カモ『ほえぇええええええっ!!?』

 ネギとカモは混乱した! 効果は絶大だ!

ネギ 「えぇええっ!? だだだってヒロミツ、魔法らしい魔法なんて使えないって!」
中井出「うむ。この博光、魔法は一切使えん。
    戦いも凡人以下だし、およそ才能と呼べるものは俺個人では一切無い。
    しかしとある要素が加わると、たった一つだけ才能が得られてね。
    その才能内でしか能力を使うことが全く出来ない、最弱の魔法使いなんだ」
ネギ 「さ、才能……? それって?」
中井出「はっはっは、こっからは内緒だ。
    ヒントは渡したカードだけど、答えは得られないだろう。
    まあそんなわけだ。直接的に手を貸すことが出来ても俺は役に立てないだろうし、
    けど多少の手助けはしないとね。子供に押し付けるのは心苦しいけど、
    魔力が無い俺じゃあなにも出来ない。
    ……明日菜くん、あんなことを言っておいてなんだけど、頼んだよ?」
明日菜「───ハ、ハイッ!」

 うむ、了承は得た。
 ならばこの博光も、キティのもとで思う存分楽しむとしよう。
 いや〜、藍田くん+明日菜くんのキャンセル能力の融合か……敵に回したらどうなることやら、楽しみだ……!
 どうやら僕のカードは契約した者……つまり藍田くんたちにとってはなんの役にも立たないものみたいだし、これはこのまま補助カードとして取っておこう。
 と、小さく溜め息を吐いた頃。俺をジッと睨み、汗をたらりと流すオコジョが居た。

カモ 『…………なぁ旦那。アンタ何者だ?
    俺っちは兄貴のことを信じちゃいるけど、正直アンタは別だ。
    兄貴に聞いたところで、魔法知識があること以外になんの情報もねぇし、
    俺っちにはどーにもアンタがこの件に協力する理由が見えねぇ』
ネギ 「え……カ、カモくんっ!」
明日菜「ちょっとエロガモッ!?」

 ……ぬう、カモめ……この博光を疑るか。
 なるほど、そう来なくてはネギの助言者としてはマイナスでござんす。
 来る者なんでも信用しては、ネギはこれから騙され続けるだけだ。

中井出「俺か! 俺は……南葉高校が誇る期待の超新星……剣道部の田中だ!」
明日菜「誰よーーーっ!!?」《ごーーーん!》
ネギ 「た、田中って名前だったんですかっ!?」
中井出「いや嘘です。……はは、ただの人間だよ。魔法の才能もゼロ、武闘の才能もゼロ。
    唯一得意なのがゲーム、と。それだけの、ただの人間だ」
ネギ 「え、えうっ!? でででも瞬間移動がどうとかっ……」
中井出「あーあれか。そういうマジックアイテムがあってね、それを使っただけなんだ。
    僕自身が使える魔法なんて、一つだけ……そう、たった一つだけさ」
ネギ 「…………《ごくり》……そ、それって、どんな……?」

 緊張が走るような息の飲み方をするネギを前に、僕は笑いながら右手の人差し指と親指とで輪を作る。そして一言。

中井出「ハトが出ます」

 ポムッと創造されたハトは、独特の鳴き方をしながらもネギの肩に着地。目をまん丸にして驚く彼の顔に、自分の頭をこすりつけていた。

ネギ 「え……え、えぇえっ……!?」
中井出「これが、俺に出来る唯一の魔法。まぁ手品だけどね、あっはっはっはっは!」

 ゲラゲラと笑い、場を和ませる。
 ……ああ、そうだなぁ晦。創造っていうとんでもない能力も、手品って言えば誰かが笑ってくれる。お前はいいきっかけを貰ったな……少し、羨ましい。

中井出「あーそうそう、あと……明日菜くん」
明日菜「あ、はい?《きゅむっ》ひゃうっ!? え、えとあの、中井出せんせ……?」

 まだ解放状態で、チリチリと燃える炎の外套を見ていた彼女の両手をきゅむと握る。
 で、助言と助力を一つ。

中井出「いーかい明日菜くん。こっちの世界は本当に危険だ。
    しかも相手は吸血鬼とくる……最悪、怪我だけじゃあ済まないかもしれない。
    だからね、そうならないように怪我をする前の処方箋をあげよう」
明日菜「え? 処方って……薬?」
中井出「えーとそうだね。元気になる薬だ。まず左腕」

 猛者ども情報によれば、アステカントさんにはとんでもない力が隠されているらしい。それを解放してやれば、まず負けはない、っつーんですのよ。

中井出「左手に……魔力を」
明日菜「《ボワッ……》わっ……な、なんかあったかい……?」
中井出「右手に……気を」
明日菜「《キィンッ》わわっ!? な、なになに……!?」
中井出「で、これを……合成させる」

 掴み、誘導させて発動させた氣と魔力を、手を合わせることで合成させ───ようとするのだが、どーにも本人が慌ててしまって上手くいかない。

明日菜「ちょ、ちょっと待っ……中井出せんせ、これって……!?」
中井出「明日菜くん、落ち着いて。心を無にするんだ。
    えーとそうだな、自分が寝ていることを強く強くイメージしてみて。
    呼吸も睡眠の穏やかさの如く。───大丈夫、キミなら出来る」
明日菜「そそそそんなこと言われてもーーーーっ!!」

 えーんと笑顔のまま涙を弾かせる彼女は、もはやパニック状態である。
 お陰で、反発し合う気と魔力が弾け合い、物凄い風圧がこの部屋を襲って……!

ネギ 「う、うああ……! ななななにこれ、ヒロミツ……!」
カモ 『魔力と気の合成なんて出来るわけねぇっしょーーーっ!
    やめろ姐さんっ、部屋が保たねぇーーーっ!』
中井出「……ふむ。ならば」

 月清力を発動。乱れる心を落ち着かせるように作用させ、リラックスさせるためにもユグドラシルよりマナと癒しを解放。それらで明日菜さんを包み込み、「深呼吸を」と小さく告げる。

明日菜(え……なに……? なんかもう、頭がぼーっとしちゃってて……よく解んない)

 しかし声が聞こえていないのか、明日菜さんはぼーっとしてて……あ、あれ? ヤバイ?

明日菜(なに……してたんだっけ、わたし……、……? あれ……? 手が暖か……?
    …………ああ、タカミチに咸卦法を教えてたんだっけ……)

 お、おーい、明日菜さーん? ……うわだめだ、目が虚ろになってる。やりすぎた?

明日菜(こんなの簡単……自分を無にして、魔力、気……って……ほら)

 ───キィイイ───……ィイン……───

カモ 『無理だって! 無───あれ?』
ネギ 「へぶっ……?」
中井出「……おお」

 風が治まった。
 そこにはただひたすらなる静けさがあって、風の中心に立っていた明日菜さんは虚ろなままの瞳で、しかし小さく笑んでVサインをしている。

中井出「ホイ、インプット」
明日菜「《こつんっ》きゃうっ! ……は、はれっ!? 私なにっ……わひゃあっ!?
    ちょっ……ななななによコレェエッ!? 体が光って……ぇええっ!?」

 ノートン先生の杖を取り出して、そのコツを忘れないようにと彼女の頭の中に文字通り叩き込む。これでコツを忘れたりはせず、いつでも簡単に咸卦法!
 グエフェフェフェ……待っていろ私の可愛いキティイイイ……! 今貴様の晴れ舞台を困難なものへと化けさせているところだぁああ……!

中井出「それが処方箋だ。
    一日に使える時間は限られてるけど、鍛錬を積めばその時間も増える。
    俺はアドバイスとかこういうことくらいしか出来ないけど、
    まあとにかく、無事でいなさい」
明日菜「せんせ……ハ、ハイッ」
カモ 『《キラーン♪》……なるほど……俺っちが推理するに、旦那!
    あんたの才能ってのは、相手の能力を引き上げることだなっ!?』
中井出「いや全然違う」
カモ 『ホゲェッ!?』

 モギャーンとヘンな効果音でショックを受けているカモミールティーをひょいと抓み上げて、はっはっはと笑う。
 目を輝かせたから少しギクリとしたが、考えてみればバレそうな要素は何一つなかった。

中井出「俺の能力は……そうだな、お話することだ」
カモ 『おはっ……お話!?』
中井出「人間なんだ、当然だろ? あっはっはっはっは」
カモ 『……兄貴、だめだ。旦那は絶対口割らねぇぜ……』
ネギ 「カモくんだめだよ、そうやって人を疑ったりしたら」
カモ 『兄貴が信じすぎなんだって!
    こいつな〜んか怪しいぜぇ……俺のセンサーがビンビン来てる!』
明日菜「自分の監視が増えたから困ってるだけなんじゃないの?」
カモ 『《ギクッ!?》や、やだなぁ姐さん、俺っちに限ってそんな……』

 ふーむ。じゃあ出来ることはこの辺り……かな?

中井出「じゃ、俺はこれで。あんまり無茶しないようにね」
ネギ 「あ、うんっ、相談に乗ってくれてありがとうヒロミツ」
中井出「なになに、こういうことでしか役に立てないからな。
    担任は副担任を使ってナンボさ、また困りごとがあったら相談してくれ」
ネギ 「うんっ」

 ネギが笑い、カモが怪しみ、明日菜さんが首を捻っている光景を最後に、扉を開けて移動を開始。
 さて、これからのことを考えるに、やっておいて損はないことは、と……


───……。


 …………。

エヴァ「ハーーーッくしゅっ、へくちっ、はくちっ!」

 数日が経ちました。
 あれからやれることを適当に探しては、グエフェフェフェと地盤を固めてきた……こんにちは、博光です。
 あれからいろいろ調べて、学園都市では定期メンテナンスとして停電が年に二回あるらしいことを知りました。
 まあよーするに“登校の呪い”の他に、“結界の呪い”があることを確認したわけです。
 登校の呪いはサウザンドマスターの魔力で働いていても、結界呪い……つまりマクダウェルの魔力を抑えている原因が、サウザンドマスターの魔力ではなく学園都市の強力な電力によるものだと知ると、パソコンをハックして調整。
 定期停電メンテが始まる頃、一緒にこの結界持続電力のブレーカーも落としてしまおうって悪巧みを考え、現在に至るのだが……まあともかく、今日はキティハウスからお届けしますよ。本人風邪だけど。

エヴァ「うゔ……暑い……苦しい……だるい……寒い……」
中井出「はーいはいはい、いーから黙って寝てなさい。
    まったく……吸血鬼が風邪だなんて、どんな面白生命体だいキミは」
エヴァ「うる、さいな……お前に迷惑、かけたか……」
中井出「かーけーてーる。見ろ、今日ガッコなのに行けない始末だ」
エヴァ「頼んでなんか……ない、だろ……」
中井出「はーいはい、じゃあ勝手に俺がやってるんだから文句を言うなバカモン」
エヴァ「うぅ……すまん……」

 おおっ? 病気で弱ってるからか? やけに素直だっ。
 とまあなんでか風邪を引いているキティを看病しているわけだが、ほんとやれやれだ。
 弁当作りに来てやったら玄関先でブッ倒れていやがったのだ。
 だからベッドに運んで冷えピタシートを貼って冷やしているんだが、いやーこれが大変大変。病人の看護って楽じゃないわ。
 え? だったらさっさと治してしまえって? ノンノン、この博光、人を主張するからこそこういった病気は本人の免疫力に任せます。
 なんでもかんでも能力に頼るの、よくないこと。
 ……とはいえ、水もタオルも能力で出してるんだけどね?

中井出「ほら、血ぃ飲んで少し落ち着け」
エヴァ「う、うぅう〜〜」
中井出「む? こら飲みなさいっ、どこの駄々っ子ですかキミはっ」
エヴァ「う、器はイヤだって……言ったろ……このアホ……」
中井出「………」

 まあ、なんだ。病気の時くらいは甘やかしてやるべきか?
 仕方無しにキティの口に人差し指を突っ込んでやると、そこに牙を立て、ちうちうと血を吸い始めるキティさん。
 白い喉がこくこくと動き、それだけでも血を飲んでいるってことが解るってもんだ。

中井出「茶々丸さ〜ん、お茶入れてもらっていいか〜い?」

 しかし誰かが何かを飲んでいるのを見ていると、自分も喉が渇くってなもんで……片手が血を吸われて空かない分、茶々丸さんに頼んでお茶を入れてもらうことに。

中井出「ほら、今はゆっくり眠りんさい。なんなら子守唄でも歌おうか?」
エヴァ「……ふふっ……? いいぞ、歌ってみろ……」
中井出「ぬぇえええむぅううれぇええっ!! ぬぇええぇえむううれぇえええっ!!」
エヴァ「《バスッ! ボスッ!》ぶはっ! えっほっ!? こ、こらっ、なにをっ」
中井出「え? だから子守唄を。
    俺さ、幼稚園時代の保育な先生にこうして腹叩かれながら寝たんですよ。
    お陰で他の子守唄を知らん」
エヴァ「子守じゃないだろそれはっ!
    どれだけ嫌われてたんだよその先生にっ……う、はうっ……眩暈が……!」
中井出「それ見たことか! さっさと寝ないからそうなる!」
エヴァ「全部お前の所為だろうがアホォッ!!」
中井出「ヒィッ!? ア、アイムソーリー……? アイムソーリー!?」

 昨日、授業も終わったことだしとここに寄りました。
 で、何気なく自然へと耳を傾けてみたら、水が欲しいとおっしゃる。
 ならばとミニ大海嘯をザバーと発動。
 すると一緒にキティが流れてくるじゃあありませんか。
 体を冷やしてくしゃみはするし、こんなものどうということもないとか言っておきながら熱出して倒れるし。
 なんでもないから心配するなって追い出されて、今朝来てみたらぐったりだしで。
 などと思い返していたら、さっきの大声で力尽きたのか、くてりと眠りにつくキティ。

声  『……あの』
中井出「うん? 茶々丸か? 今───おおぅっ!?」

 サブタイ:振り向けばそこに。
 茶々丸はまあ解るけど、ネギが居ました。

中井出「ネギ……じゃないか。どうした、こんなところに」
ネギ 「は、はいっ、家庭訪問を……」
中井出「……そっか。熱心だなぁお前は」

 てててっ……と寄ってきたネギの頭を、少々乱暴にぐりぐり撫でる。
 さて、しかし家庭訪問はいいんだが───

中井出「俺もちょっと気になったんで寄ったんだけど、生憎ともう眠っちゃっててな。
    今風邪引いてるようだから、伝染ると危険だからあまり寄るなよ?」
ネギ 「え? えと……え? 風邪? ま、またそんな……。
    不老かつ不死である彼女が風邪なんか引くワケないよ」
茶々丸『いいえネギ先生。マスターは風邪の他にも花粉症を患っているので』
ネギ 「この人本当に吸血鬼ですかっ!?」
中井出「あっはっはっはっは、可愛いもんじゃないか。
    吸血鬼だろうとどうだろうと、生徒には変わりない。
    そして、挑まれたなら教師と生徒じゃなく、敵同士だ。違うか?」
ネギ 「うっ……そ、そうだよっ、僕は決闘するためにここにっ……」

 言いつつ、果たし状と書かれた手紙を取り出すネギセンセ。
 おおう、どうやらマジらしいが……明日菜さんがいねー。……この子ったらあの夜の二の舞になりたいのかしら。

茶々丸『………』
中井出「……《コクリ》」

 少し心配そうに見ていた茶々丸に、こくりと頷いてみせる。
 と、彼女は一度お辞儀をしたのちに、大学の病院に薬を貰いに行ってくると言い、家を出ていった。

ネギ 「……僕、敵なのに……何考えてるんだろ、あの人……いやロボ……?」
中井出「そりゃ、風邪で寝込んでる相手は生徒だからだろ?
    生徒に攻撃するには、まだ日が高いな」
ネギ 「む……そ、そうだったっ!
    決闘のことばかりで、先生だって自覚を忘れるところだったよっ」

 ムンッと拳を握り、今度は先生の顔でキティを見る。
 うむ、少し安心。
 さっきまではいつ仕掛けようか……といった、少々逸り過ぎな顔をしてたから。


───……。


 で、看病が本格化してきたわけだが。

エヴァ「うぅう……あつい……」
中井出「おっと? カーテン開けっ放しだったな。今日は日差しが強いから」
ネギ 「僕が閉めるよ」
中井出「おお、すまん」

───……。

エヴァ「うぅう……のどが……」
中井出「おっと? 喉渇いたか? えーと……こういう場合、やっぱり血か?」
ネギ 「えと……たぶん」
中井出「よーしさあ飲めマクダウェル。
    新鮮な博光ブラッドだぞ〜《がぶり》あいだぁああーーーーっ!!?」
ネギ 「うわぁああっ!? ヒロミツーーーッ!!?」

───……。

エヴァ「さむい……」
中井出「おおぉっとパジャマが汗でぐっしょりだ!」
ネギ 「えぇっ!? それって着替えさせないと───」
中井出「大丈夫! なにを隠そう、俺は看護の達人だぁあああっ!!
    まずはパジャマと下着を脱がせて、汗をしっかりと拭ってやって……マッ!!
    この子ったらなんて似合わん上にけしからん下着をっ……!」
ネギ 「うわわわ見てない僕見てないぃいいーーーっ!!」
中井出「よし、俺様謹製ジャンパーソンパンツと交換してやろう。
    サイズもぴったし女の子サイズ。ブラは……元からしてないか、そりゃそーだ」
ネギ 「ひひひっひヒロミツ!? 平気なの!?」
中井出「当たり前だ。今の俺は看護マン。裸体に戸惑う医者が何処に居る」
ネギ 「《ハッ……》そ、そっか、そうだよね……僕間違ってたよヒロミツ!」
中井出「うむ! いい返事だ! ジャンパーソンサブリガをやろう、穿きたまえ!」
ネギ 「いらないよっ!?」

───……。

 ……。

中井出「はぁ〜〜あああ……看病って意外に疲れるのな……」
ネギ 「僕、もうくたくただよ……」

 ようやく寝息も安定してきた。
 さんざんっぱら振り回されて、汗を拭いたり血をあげたり、起こさないように抱きかかえてその隙にシーツを代えたりと、もうとにかく疲れた。

ネギ 「あ、あれ……? 僕ここに何しに来たんだっけ……」
中井出「家庭訪問だろ……?」
ネギ 「あ……そうだった……」

 もはや本来の目的も忘れてらっしゃる。
 まあそれはそれで都合がいいわけで───

エヴァ「う、うぅ……や、やめろ……」
中井出「《ぎくっ》んげっ……」
ネギ 「《びくっ》ま、またっ……!?」

 さっきからこのパターンだ。
 寝ながらも我が儘な注文が多いキティを前に、僕らは今度はどんなお願いをされるのかと妙に構えてしまった。……のだが。

エヴァ「サ……サウザンドマスター……ま、待て……やめろ……」
中井出「……魘されてる?」
ネギ 「サウザンドマスターの夢……!? ま、まさかっ」

 突如、バヅンッ! と……包帯のような布に包まれた杖を解放するネギ。
 なにを───と思ったが、猛者どもが教えてくれる。

中井出「……ネギ。それがどういうことか、解ってるか?」
ネギ 「……最低で、卑怯だよ。
    でも、僕にとっては大事なことで……貴重な父さんの情報……逃したくない」
中井出「そうかもしれないけど、それをやったらもう……
    お前はいつ彼女に襲われても文句は言えない。
    教師として来ているのに、対象に魔法を使う。それは教師のやることじゃない」
ネギ 「解ってるよっ……けど、それでもっ」
中井出「…………やれやれ。解ったよ、じじぃや他のやつらには黙っててやる。
    ただし、出来れば気づかれるな。
    夢なんて、覗かれて喜ぶヤツなんざ居ない」
ネギ 「……うん」

 ギリッ……と杖を強く握り、詠唱が始まる。
 俺は魔法に巻き込まれないように部屋の隅へと歩き、やがて───詠唱が終わるとネギはベッドの端に倒れ伏し、眠りについた。

中井出「…………ジョワジョワジョワ」

 ならばここから俺が何をしようが俺とはバレぬ!
 誰かの夢を覗くとな! そんなおもしれーものをこの博光が逃すものか!
 え? さっきの言葉はなんだったんだって? 建前よ建前グオッフォフォ……!!

中井出「同調開始、っと」

 式を編み、いつかリヴァイアさんが晦の中に彰利やら椛さんやら凍弥ボーイを精神介入させた方法で同調を開始する。
 もちろん、精神に入るからにはただの精神体じゃあねぇぜグオッフォフォ……!!


───……。


 ───。

ナギ 「───やなこった。俺は本当は5、6個しか魔法知らねーんだよ。勉強苦手でな。
    魔法学校も中退だ。恐れ入ったかコラ」
エヴァ「なっ……」
ネギ (えっ……ちょっ……《ガーーーン!!》)

 ……む? どうやら中々に話が進んでしまっているらしい。乱入するまでに時間を食ったか。
 なんでかキティが水の中で溺れてるし……なにごと?
 だがしかしこの博光……いや、この俺にかかれば時間も、夢すらも越えられる〜っ!

ライトニング『ジョワジョワジョワ、
       学校中退ごときで威張るとは面白いやつだぜ〜〜〜っ!』
ナギ    「ン───?」
エヴァ   「っ……!? だ、誰だ貴様!」
ライトニング『ジョワジョワ〜〜〜、これはこれは新世代超人のお歴々……
       勢揃いでトレーニングのところ、お邪魔かな?』
エヴァ   「そうじゃなくてっ……ぷあっ……!
       いいからまず助けろサウザンドマスター!」
ナギ    「やなこった」《どーーん!》
エヴァ   「なぁあーーーーっ!!?」
ライトニング『この俺がデーモンシードだとよ〜〜〜っ!
       あの悪魔超人界では実力がズゥ〜〜〜ッと下のほうのやつらか〜〜〜〜っ』
エヴァ   「貴様もまず人の話を聞けぇええっ!!」

 落とし穴にでも引っかかったのでしょう。
 ニンニクとネギがどっぷりしかけられた水型落とし穴で溺れるキティが叫んでます。

ライトニング『冥土の土産に教えてやろう! 俺達は時間超人!』
ナギ    「……で? その時間超人がなんの用だよ」
ライトニング『え? よ、用? …………えーと』
ナギ    「………」
ライトニング『………』
ナギ    「………」
ライトニング『………』
ナギ    「雷の暴風」

 ドォッギャォオオオオオンッ!!!

ライトニング『ギャアアアアアアアム!!!
       ば、馬鹿な……このDIOが! このDIOがぁあああああっ!!!』

 突如として放たれた魔法!
 そのあまりの魔力に飲まれたこのライトニングは、横に飛ぶ雷の渦に飲み込まれるままに遙か空の彼方へと飛んでいったのでした。

ナギ    「……なんだったんだありゃ」
声     『ジョワジョワジョワ……俺は時間超人!
       あんな魔法、屁でもねぇ〜〜〜〜〜っ』
ナギ    「───! へっ、あれくらって無事かよっ!
       何処に居るっ、また吹き飛ばしてやるから姿を───」
ライトニング『やあ』《どーーーん!》
ナギ    「って落とし穴の中かよ!?」
ライトニング『ジョワジョワ、溺れる少女をそのままにして滅ぶことなど、
       時間超人の名において許される行為である』《ギャーーーン!》
ネギ    (えぇええええ!? 許されるの!?)
エヴァ   「はぶっ、うっぷっ……ぷはぁっ!」
ライトニング『《バシャアッ!》ギャアーーーッ!?
       て、てめぇ〜〜〜なにしやがる〜〜〜っ!』

 何を思ったのか、突如としてこの時間超人の体にしがみついて、溺れる自分を救うキティさん! こ、このガキ〜〜〜ッ、この俺様を利用し助かろうってハラか〜〜〜〜〜〜〜っ!

ナギ    「あーあー情けねぇなぁエヴァ。大見得きっておいて藁にもすがるか?
       つーかソレなんだ? 全身黒タイツのお前の従者?」
エヴァ   「し、知らんっ! 知るかっ! 掴まる場所があったから掴まっただけだ!」
ライトニング『ジョワジョワこの俺を従者だとよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
       どうやら本当におつむが足りねぇようだぜ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!』

 笑いながらザパリと這い出て、落とし穴を後ろにスックと立ち上がる。
 つーかこのスーツ息苦しい! 水吸っちゃってなんかピッタリフィットしてるし!

ライトニング『だがいいだろう、てめぇをこの俺の敵として認めてやるぜ〜〜〜っ。
       だ、だがてめぇは俺に傷ひとつつけることすらできやしねぇがな〜〜〜っ』
ナギ    「…………」

 あ、面白いもの見つけたって顔してる。
 ───よろしい! では貴様には恐怖という名の愉快をプレゼントしてくれよう!

ライトニング『あ、ちょっと降りて離れてて吸血鬼さん。
       ───さあゆくぞ大魔王スプリングフィールド!
       今こそこの時間超人の長き旅を終わらせる時!』
ナギ    「オイ、いつから俺が悪者になったんだよコラ」
ライトニング『知りたいか? そうかそうか……答えは───馬鹿めだ!!』
ナギ    「!」

 疾駆! 一気に間合いを詰めて、詠唱の時間すら与えん!

ナギ 「おっY 速いなお前!」

 言いつつ即座に放たれた拳を避ける! 途端に放たれた無詠唱魔法を転移で避け、背後に回るや

ナギ 「けど俺のが速ぇ……“雷の投擲”(ヤクラーティオー・フルゴーリス)!!」

 振り向きザマに雷の槍が放たれる! なんの、そっちがそれならこっちは───!

ライトニング『“武装解放”(マティオル・エーミッタム)! “架空・雷迅槍”(フリミニット・ヤクラティウス)!!』

 遠慮無しに光の武具解放!! 極雷を込めたヴィジャヤを放ち、真っ向から雷の投擲を破壊する! ───はずだったんだけど、なんと破壊したにはしたけど勢いを殺された!?

ナギ 「おぉおっ!?《ヂッ───》つっ───ハッ、すげーなお前!
    咄嗟の行動で俺の魔法を真っ向から破壊かよ!」

 勢いが弱まったヴィジャヤが空を裂き消えてゆく。
 が、余波を食らっても障壁が多少削られた程度で、ほぼ無傷のサウザンドマスターさんがいらっしゃった! その顔は……オモチャを見つけた子供です!
 やべ……どこまでアホな魔力してんだこいつ……。
 こっちは消費といえる消費なんてしてないものの、こんな魔力でバンバカ魔法撃たれたらちょっと面倒で───

ナギ    「んじゃあ加減は要らないよな……? いくぜっ!」
ライトニング『ジョッ……ジョワジョワ〜〜〜ッ!
       いい度胸だ小僧〜〜〜〜っ!』

 もはや底辺のザコモンスターあたりの言葉でしかなかったが、そっちがその気ならば受けて立つのが男道!!

ナギ    「おぉおおおおおおっ!!!」
ライトニング『ジョワワーーーーーッ!!』

 強化能力は使わず、あえてそのままで突っ込む!
 もちろんやばくなったら光の武具でもなんでも使う方向で!

───……。

 ……で。

ナギ    「はっ……は、はっ……こ、このやっ……」
ライトニング『ジョワッ……ジョ、ジョワッハハッ……ジョッ……!』

 敵のレベルに合わせて全力バトルをしてみれば、いやー強い強い! さっすがサウザンドマタスー……もとい、マスターだ!
 魔力の量はケタ外れで無詠唱魔法でも十分強いし、体術まで巧みときやがるわ!
 こりゃ全世界の努力家が妬むぞ!? ……べ、べつに天才なんて好きなんかじゃないんだからねっ!?《ポッ》

ナギ    「はっ、は……あ〜〜、もうだめだ動くのもかったりぃ……《ドシャア》」
ライトニング『隙あり死ねぇええええええっ!!!』
ナギ    「うおぉおおおおお!? ちょっと待てぇえええーーーーっ!!!」

 バタリと倒れたナギに強襲をかける!
 勝ったッ! 夢物語完ッ!! ドボォオッシャア!!

ライトニング『ジョワットリャァアアアアーーーーーーーッ!!!?』

 バァーーーッドしかし!! 横から僕を襲う何者かが襲来!!
 だ、誰!? いったい誰!? だ……ギャア……。

エヴァ「サウザンドマスターはやらせはしない……! そいつに勝つのは私だ……!」

 吹き飛んだ先で振り向けば、そこに魔力装填をしたkittyさんが……!!

ライトニング『な、なに〜〜〜っ、てめぇ俺達の聖戦を穢す気か〜〜〜〜っ!』
エヴァ   「せっ……!? 倒れた相手に全力でトドメにかかるのが聖戦なのか!?」
ライトニング『え? ち……違うの?』
エヴァ   「違うわっ! いいか、聖戦というのはだなっ!
       たとえ敗れることになっても、最後は相手を認め、信じ合い……」
ライトニング『あ、大丈夫? 立てる? 悪いね、なんかいきなり戦うことになって』
ナギ    「あぁいや、楽しませてもらった。っかし強ぇじゃねぇかお前。
       この俺様をこうまでコテンパンなんて。
       しかも回復までお手のものか? すっかり傷がねぇや」
ライトニング『あ、これ僕の名刺です。時間超人ライトニングといいます』
ナギ    「おおっ、これはご丁寧に……って、ははっ、ガラじゃねーや。
       俺はナギだ。ナギ=スプリングフィールド」
ライトニング『おおっ、これはどうもご丁寧に』
エヴァ   「いや聞けよ!!」《ゴーーーン!》

 怒られてしまった。

ナギ    「なんだよ人がせっかく親睦深めてるところに」
ライトニング『そうだこのボンテージマスター』
ナギ    「略すとボンマスか」
エヴァ   「その略し方はやめろっ! 大体誰がマスターだ!」
ライトニング『まあまあ、それよりいい人じゃないのこの人。
       僕すっかり気に入っちゃったよ』
ナギ    「《ドスッ》いてっ。はっはは、そういう俺も───なっ」
ライトニング『《ドボッ》アウチ! ほ、ほほほ……』
ナギ    「《ゴスッ》はははは……」
ライトニング『《ガスッ》ジョワジョワ……』

 ……。

ナギ    「いてぇなこの野郎加減しろ加減!!」
ライトニング『てめぇに言われたくねぇんだよこのイケメン野郎!!』
ナギ    「おぉなんだやる気か続行だコラァ!!」
ライトニング『いーぜかかってこいこの千文字すらあんちょこ無しで読めないイケメンサウ
       ザンドノーマスターが!』
ナギ    「あぁてめっ……人が気にしてることをっ!
       しょーがねぇだろうが中退したんだから! 詠唱関連は苦手なんだよ!」
ライトニング『素直に記憶力が悪いとか頭が悪いって言え!
       このっ……頭の中がスプリングフィールド!』
ナギ    「そりゃ俺の頭の中が春爛漫で馬鹿ってことかこの黒タイツ野郎!!」
ライトニング『おーおそのとおりがこの半熟英雄がぁああっ!!』

 ……その、まるっきり子供な戦いは三日三晩続きました。
 夢の中だってのに頑張るなぁと思いつつも、そんな降り方をした自分が悪かったのだと諦めることにし、僕は心行くまでサウザンドマスターと喧嘩をし───


───……。


 ……で、現実世界の翌日の夜。
 しっかりと停電が起こった現在、僕らは大浴場にて人払いの法を使いつつ、ネギたちが来るのを待っています。

中井出「……なぁ、ほんとに大丈夫? 顔色がすぐれんようだが」
エヴァ「いや……ただ夢見が悪かっただけだ……」

 本日のエヴァちゃんの状態……寝不足らしいです。
 というのも寝ている最中にヘンな夢を見たんだとか。……いやまあ俺の所為だけどね?

エヴァ「な、なあヒロミツ。ライトニングって……知ってるか?」
中井出「……? 魔法かなんか?」
エヴァ「あ、いやその……じ、じじ……時間、超人とか……いうんだけど」
中井出「───!!」
エヴァ「……? し、知ってるのかっ!?」

 息を飲む僕の反応に、キティが驚いた顔で僕を見る。
 知ってるかって? そりゃ知ってもいましょう。

中井出「じ、時間超人ライトニング……マクダウェル、その名をどこで……?」
エヴァ「い、いや、夢に出てきたやつなんだが……」
中井出「……そうか。時間超人ってのは俺の世界でも知ってるヤツは多いくらいで、
    名前の通り時間の中を移動するバケモンだよ。
    相棒にサンダーってヤツが居てな?
    そいつとともに“過去”に現れては、強者と戦い力を得る。
    それは夢の中でだって例外じゃなく、
    ヤツが関わった現象は、未来においても現実化するといわれている……!」
エヴァ「……待て。私が知っている過去には、あんな男は…………いや、待て……?
    居た……? いや、居た……居た───!?」
中井出「……アイヤー」

 やっぱりか。
 ちょっとこの世界のことが知りたくて、ブレイカー発動させちまったけど……ううむ。
 どうやらこのネギまの世界には“並列世界”ってのが無いらしい。
 時間軸はひとつっきりで、過去で起こった出来事はダイレクトに未来に響く。
 “この夢の中で起きたことが現実じゃないなんてウソだ”……俺はそう言って、ブレイクを実行した。そしてこうなっちまうってことは、どうやら本気で繋がっているらしい。

エヴァ「あのあと何事もなかったように消え失せて、
    本題に戻った私はサウザンドマスターと戦い、この登校地獄を……!」
中井出「……これこれマクダウェル、今はそれよりもネギだろ?
    そろそろまき絵さんが誘き出してくる頃だ。準備OK?」
エヴァ「あ…………あ、あぁ、そう……だな」

 ちなみに操られているのはまき絵さんだけだ。
 ほかの方々は俺が断固阻止しました。

中井出「俺もそろそろ退場するよ。参加するなって言われてるしね」
エヴァ「ああ、これは私の戦いだ。お前に参加されたら面白味が……うん?」
中井出「お?」

 予定通りの高い位置から見下ろす大浴場。
 そこへ、ズシャーーーアアアアと走り滑ってくる人影ひとつ……っとと、姿消しとこう。

明日菜「───居たっ! ちょっと! クラスメイトを操るなんて何考えてるのよ!」
エヴァ「神楽坂……? お前だけか、ぼうやはどうした」
明日菜「ネギなら後でくるわよ……それよりっ《ダッ》」
エヴァ「……やれやれ、お姉ちゃん気取りか?
    いいか神楽坂、この問題にお前は関係ないだろう。
    大体走ってどうする?
    ここまでをまさか支柱をよじ登ってきてまで詰めるとでも───」
明日菜「ふっ!《ダンッ!!》」
エヴァ「いう───へ?」

 疾駆から跳躍。
 アーティファクト/ランペルージュで強化された脚力が弾きだした速度と跳躍力は呆れたもので、大浴場にある屋根付き休憩所(まあ、今腰掛けているここだ)までを飛び上がると……そのままの勢いで蹴りを放つ!

エヴァ「れ、“氷楯(レフレク)バゴッシャア!!》はぷろっ!?」

 ……当然、魔法障壁なんぞ貫通して。
 蹴り飛ばされたキティさんは「あぺぷろまぷろぱ!?」と奇声を発しつつ、屋根から吹き飛び地面を滑走していった。

エヴァ「!? !?」

 当然、身を起こしたキティさんは訳も解らず蹴られた頬を押さえて疑問符を飛ばすだけ。
 ……うん、そろそろ僕、逃げといたほうがいいかな……。

エヴァ「な、ななな、な……! お前、それ……咸卦法……!?」
明日菜「え? かん……なに? これのこと知ってるの?」
エヴァ「し、知ってるのって! 知らないで使ってるのか!? 有り得ないだろ!」
明日菜「そ、そう言われても……
    出来ちゃってるからには有り得るって言い返すしかないんだけどー……」
エヴァ「そっ……そういう問題かぁーーーーっ!! お、おいひろっ……校務仮面!
    お前だろお前だないいやお前しか居ない居るもんかぁああッ!!
    あれほどっ……あれほど関わるなってお願いしたのにお前というやつはぁあっ!」

 無視。僕ここに居ません。
 校務仮面? 今の僕博光だから知らないよ?

エヴァ「っ……とにかく間合いを───“魔法の射手 連弾・氷の11矢”(サギタマギカ・セリエス・グラキアーリス)!!」
明日菜「───! “来れ”(アデアット)!!《フォキィンッ!!》」
エヴァ(……ハリセン? いや、アーティファクトか!?
    だがヤツのアーティファクトはあのおかしな炎の外套じゃあ……!?)
明日菜「せぇ……のぉっ!《ヒュボッ!》」

 ズパパパパパパパパパパパァンッ!!!
 おぉっと神楽坂選手、迫り来る魔法の矢を全てハリセンで打ち消したァーーーッ!!

エヴァ「なぁあーーーーっ!? ちょ、ちょっと待てデタラメにも程があるだろおいっ!
    所詮電気問題ごときだから完全に力を解放できないとはいえ、
    満月時の私の魔法だぞ!? それをこうも容易く!?」

 ええまあ、咸卦法があれば身体能力も上がるし、さらにランペルージュがあれば身体能力云々に関係なく脚力上昇&炎属性極大上昇補正があるから……氷系統はまず効かん。

エヴァ「こんなっ……こんなアホな話がっ……!
    魔法使いも辿り着いてない状況で、
    従者に負ける魔法使いが居てたまるかーーーっ!!
    校務仮面! おい校務仮面っ! ヤツを押さえろっ!」
明日菜「───!《チャッ……!》」

 キティの言葉に、ハリセン型アーティファクト/ハマノツルギを持ち直す明日菜さん!
 ………………

エヴァ「…………あれ? お、おーい、校務仮面? こ……おぉおおい!?
    あれっ、おいっ!? お前が居ると思ったから今回茶々丸呼んでないんだぞ!?
    おーーい!? じょ、冗談だろっ!? おーい!? おぉーーーーいぃいっ!?」

 あ、なんだか段々と涙声に……一応返事くらい返したほうがいいかな……?

声  (えー? だって関わるなって……)
エヴァ(《ホッ……》あ……い、居たか……じゃなくて……!
    あれはヒロミツに言ったんであって、校務仮面には言ってないだろ……!
    普段お前がやってることをその通りにしてやったのに、なんだその態度は……!)
声  (お、おっとそうだった)

 そういうことなら黙っておれん。
 仮面をつけるとまたキャンセルされそうだから、今回は最初からルミエールで、と。

カーナ「《キャヒィンッ!》……ふぅ。おっと、これはこれは神楽坂明日菜。お久しい」
明日菜「……あんたに訊きたいことがあったんだけど。どうして私の名前、知ってるのよ」
カーナ「どうして? ふぅむ、どうやって答えてあげたらいいでしょうか。
    知っていたから? 調べたから?
    それとも……以前会ったことがあるから、とでも?」
明日菜「え……? あ、あんたと……?」

 屋根の上であたしを見る明日菜さん。
 そんな彼女にくすりと笑ってみせ───ヒュトンッ。

明日菜「え───」
カーナ「まあ、嘘だけど」
明日菜「後ろ!?」

 AGIマックス烈風。
 明日菜さんの背後に回り、一撃で気絶させよう……としたんだが……目で追った!?
 語りかけるよりも早くこっちを向いた……馬鹿な! どーいう動体視力してんだ!?
 ……って、驚くより回避回避っ。

明日菜「わっ!《ブヒュンッ!》」

 視界に居た存在が急に背後に。慌てて振り払いたくなる気持ちも解る。
 だがそうじゃない。そうじゃないんだよ明日菜さん。
 闇雲に振るったところでこのルミエールには当たらぬよ。

カーナ「おかしな人だ。せっかくいい足を持っているのに、
    武器を手にした途端に足を使わなくなった」
明日菜「えっ……あ───ふっ!《ダンッ!》」
カーナ「で、指摘されれば使うのは読めている」
明日菜「《ドパァンッ!!》ふぎゅうっ!?」

 屋根を蹴り弾いての疾駆に合わせ、烈風で間合いを詰めてのラリアット。
 自分の速度まで利用されたため、彼女は屋根に倒れると同時に喉を押さえてのた打ち回った。当然の結果だろう。

カーナ「不可解だ。貴女は何故あの少年に加担する?
    そんな痛い目を見てまで助ける価値が、あの少年にはあるというのか?」
明日菜「げっほっ! えほっ! かっ……う、うぇっ……!
    〜〜〜っ……うるっさい、わね……! 仕方ないじゃない……!
    見てられないんだもん……! 無力な子供なんて大嫌い……!
    でも無力を自覚しておいて、誰にも助けてって言わない子供はもっと嫌い……!
    だから……助けてって頼ってきたなら、助けたいって思うじゃない!!」

 再び疾駆───そしてハリセンでの攻撃。
 ただ闇雲に振るうだけのそれを、軽々と避けながら質問を続ける。

カーナ「では貴女は、貴女に頼ってきた子供の全てを救うとでも?」
明日菜「そんな極端な話なんてしてないし知らないっ!
    私にはそんな力なんてないし、ネギ一人だって守れるなんて断言できないわよっ!
    でもじゃあなに!? 見捨てろっていうの!? そんなの嫌っ!
    見捨てて、自分だけ笑って過ごすくらいなら───!
    私は……私は……っ……私はぁあああっ!!」

 速度が増す……しかし単調だ。
 ハリセンの距離分をステップで引いて、そろそろ幕をザブシャアッ!!

カーナ「……おや?」

 ……パタタッ……と血が落ちる。
 ハテ? ハリセンで……血?

エヴァ「え……お、おい……?」

 ……あらやだ、ハリセンがいつの間にか大剣に。
 し、しかも明日菜さんたら……意識無さそうだよ? なのに体は動いて───ってお待ちなさい! ちょ……想定外ィイイイッ!!

アスナ「ヤダ…………ヤダ……! 弱いコドモなんて……キライ……!
    ガトーさん……ガトー…………うぁああああああああっ!!!《ダンッ!》」
カーナ「ッチィ! ちょいと刺激しすぎたか!
    あぁんもうルミエールったらうっかりさんっY《ぶしーーー!》」
エヴァ「うっかりさんってレベルじゃないだろぉーーーっ!!? 血! 血ぃーーーっ!」

 一撃……避ける!

  ゾガァシュゴギィインッ!!!

 って屋根ごと大浴場割れたァアアアーーーーーッ!!?

カーナ「……っ!!」

 ニ撃目……空中からの斬撃! 転移で避け───いやだめだ! 能力的なものはまずい!

カーナ「ッチィ───ブロッキング!!《ゴガァッキィンッ!!》
    ……っつぅうあいってぇえっ!! けど耐えた! あとは───やべぇえっ!!」

 三撃目! 空中蹴り! これが一番やべぇ!! だって10倍! 通常の10倍!
 しかもリミットフルブレイクしてらっしゃるから、さっきキティがくらったのとはワケが違う!

カーナ「ッチィ……このままってのはヤバイよな、ああくそっ!
    ドォオオゥラゴンインストォオオオオオオルッ!!!《ゴキィイインッ!!》」

 ドラゴンインストールを解放! 振るわれる蹴りを片手でドガァンと受け止め、その威力を利用して割れたけど水は残ったままの浴場へと投げる!!

 ドバァアッシャァアアアアッ!!!

カーナ「っ……はあっ……! なにがなんだかよく解らんが、少し頭冷やせっ!」

 そういい終える頃には俺も浴場に着地し、息を吐いていた。
 いやこれは強い……だが世界では二番目だとまた考えながら。

アスナ「…………《ザパァッ……》…………」
カーナ「……いや……冷やしてほしいなーって……浴場だからあったかいけど……」

 で、立ち上がったアスナさんを見て、頬を引きつらせました。
 ああっ! なんかだめっぽいっ! アスナから明日菜に戻ってないっていうか、目つきが淀んだままっていうかっ!

 ───ズシャアアアッ!!

ネギ 「明日菜さんっ、大丈夫で───」

 と、そこへ救世主であるネギくん登場!
 さ、さあ! 暴走したこの子を元に戻してくれたまえ!? 迅速に!

エヴァ「よく来たなぼうや事情が変わったからあっちで勝負だ早く行くぞ!」
ネギ 「《がしぃっ!》えうっ!? あ、あ───うわぁあーーーーーん!!?」
カーナ「あ、あれ!? ちょっ……マスタァアアーーーーーーッ!!?」

 ああしかしッ! なんとキティがネギせんせを攫ってしまい、必然的に残される僕とアスナさんっ……! う、うぅわ戦いづれぇええっ! つーかマスターひでぇ! 超ひでぇ!

カーナ「〜〜〜っ……ええいとにかく気絶なりなんなりさせるしかないっ!」

 ならばと、いつもの如くデュエルディスクを用意!
 デッキシャッフルののちセット! デュエル開始!

カーナ「俺のターン! ビッグシールドガードナーを守備表示!」

 ドパァン!!

カーナ「ゲェエエエーーーーーーッ!!!」

 ビッグシールドガードナー、一撃粉砕!
 ダメ、なんかヤバい! こういうマジック的な能力全部ダメだ消される!
 こりゃあちょっと……難儀な戦いになりそうだぁあ……!!
 い、いや、もはやこのルミエール容赦せん!

カーナ「お前が正気を失っているなんて……嘘だ!」

 デスティニーブレイクを発動! だがしかし───通じない!? 正気ってこと!?
 ここまで虚ろな目をしているのに正気って、おかしくない!?

アスナ「ナギ……ガトーさん……ヤダ……ヤダ……ヒトリは……コドモは……」
カーナ(それとも───)

 これは、この子の深層意識……つまり忘れているか忘れさせられている“正気”の記憶を見ているって……そういうことなのか?
 こんなによろよろだってのに正気!? どうかしてるだろ、まったく───!

カーナ「シィッ───光速拳!!」

 ヒュボドゴゴガガガギィンッ!!

カーナ「……悪いねぇ嬢、もたつくわけにはオォオオオオオッ!!?」

 けっ……剣!? 剣で全部弾いた!? そ、そりゃ空拳だから威力は大したことないかもだけど……え、えぇえええっ!?

カーナ「……はぁ。じゃあ、もう……俺らしく行くぞ? せめてもの情けだったのに……」

 俺らしくもない……と呟いた瞬間、僕はもう彼女の視界から消えてました。


───……。


 ヂッ……ヂヂヂヂッ……バヂィイヂヂヂィヂバァアンッ!!

エヴァ「ッアアァアアアアッ!!!」
ネギ 「え、うえぇえええっ!!? そ、そんな、捕縛結界を自力で破っ……!?」
エヴァ「〜〜〜っ……カッハ……! こ、この……よくもこんな……!
    どいつもこいつも私をコケに……!
    本来だったら見事だと言ってやるところだが、
    よくも茶々丸が居ないときに限ってこんなものを……!」
ネギ 「あ、あああ、あ……《カタカタカタ……!》」
エヴァ「さあ……終いだぼうや……! リク・ラク・ラ・ラック・ライラック……!!」

 宙を飛ぶ影一つ。
 咄嗟に撃ち落とそうと詠唱を始めるが、構えた杖は無詠唱の魔法に弾かれ橋の下へと落ちてゆく。慌てるネギを前に、宙を舞い高らかに笑う真祖の吸血鬼は詠唱を終え、やがて魔法を放ち、思い知らせてくれようとしたところで───

 バヅンッ! ヴヴヴヴゥウウン……!

エヴァ「なにっ!? 電力が復旧!? 馬鹿なっ! 予定よりも異常なくらい早い!」

 そう口にしてみたところで、宙を舞い、橋の上ではなく湖の上を浮いていた彼女は……学園結界の封印が復活、彼女を戒めるソレが復活した瞬間に浮遊能力を失い───

エヴァ「《バヂィッ!!》きゃんっ!!」

 その景色はまるで閃光だ。
 空中で一瞬だけ瞬き、煙を放ちながら落下してゆく。
 再び発動した封印に成す術もなく、やがて湖に叩きつけられ───

エヴァ「《がしぃっ!!》っ……あ、え……?」
中井出「だが断る」

 ───るなんてことを見過ごすこの博光か。
 橋の上からネギが見下ろす中、一足先に飛び降りたこの博光、見事にキティをキャッチ。
 ネギが見てるから魔法とかそっち側を使うわけにもいかんし……うーむとりあえずだ。

中井出「……うむ」

 ぎゅむっと胸に抱き締め、やがて来る衝撃に備え───ることもせずに、

中井出「“来れ”(アデアット)!」

 ゼットのカードを解放、飛翼を出現させて羽撃き、橋の上へと戻りました。
 そう、仮契約カードならネギも見てたし問題ないはずなのだ。
 ……ネギがしこたま戦慄してたけど、知ったことではないわ。

中井出「ほれ、もう目を開けても大丈夫だぞエヴァンジェリン」
エヴァ「…………? な……!?」

 おそるおそる目を開けた彼女はもうびっくりです。
 確かに落ちたはずなのにと、きょろきょろと辺りを見渡してます。

中井出「……それでネギ、判定は?」
ネギ 「……えへへっ、僕の勝ちだよっ」
エヴァ「なにっ!? 待てっ! 停電が続いていれば確実に私の勝ちだったろっ!」
ネギ 「続いていれば、でしょう? 終わるまで保った僕たちの勝利です!」
エヴァ「かっ……こ、ここここの親子は二代揃って……!」
中井出「……エヴァ」
エヴァ「うぐっ…………あ、ああ……解ったよ……。今回は私の負けでいい」

 人が居る時はエヴァと。二人きりのときはマクダウェル。
 そんな関係を自然としてきた僕らは、もはや目で語れる修羅よ。
 しぶしぶといった風情で負けを認めた彼女はしかし、生徒名簿に自分が勝ったことを記さんとするネギに取っ組みかかると、ギャースカと騒ぎ始めた。
 ……うん、ほんと子供だね。

ネギ 「……ってそうだ明日菜さんっ!
    ね、ねぇヒロミツ! ここに来る途中、明日菜さんを見なかった!?」
中井出「うん? ああ明日菜くんか。なにやらお風呂で仰向けになって浮いてたから、
    起こしたあとに部屋に戻るよう言っておいたよ。
    はは、大丈夫。全然ピンピンしてたから」
ネギ 「…………そ、…………そっかぁああ……よかったぁああ……」

 物凄く深い安堵の溜め息でした。って、そういえばカモちーは何処行った?
 もしかして魔法合戦に巻き込まれてケシズミに……!?
 と、怖いことを考えていると、ソッと寄ってきたキティが小声で囁いてくる。

エヴァ(無傷でなんとかできたのか?)

 アステカさんのことだろう。ならばと俺はハッキリ言ってやった。それは無理だったと。

中井出(困ったことに光速拳がガードされたからさ。
    遠距離はだめだと思ってプロレス技のオンパレードで沈んでもらった)
エヴァ(おぉいっ!? それって大丈夫なのか!?)
中井出(大丈夫大丈夫、ラリアットからバックドロップ、脱穀スープレックスと繋いで、
    それからビッグプロブレムスープレックス、ロメロスープレックス、
    トルネードフィッシャーマンズスープレックスって繋げただけだから)
エヴァ(……よ、よく解らなかったがよく死ななかったな……)
中井出(気絶するまでやって、気絶したら回復させた。ただそれだけ)
エヴァ(そ……そうか)

 まあとりあえずお疲れさんと、彼女の頭を撫でてから歩きだす。
 ……と、クンと服を引かれる。

中井出「お……どうした?」
エヴァ「眠い……おぶれ」
中井出「……りょ〜かい、お姫様」

 本当に眠たそうにしている彼女を背中に乗せ、ネギを促してから歩き出す。
 ……さて、これでジェリ〜ン騒動がひと段落を得たわけだが……次ってなに? と猛者どもに訊いてみると、どうやら修学旅行があるらしい。

ネギ 「……ヒロミツって、エヴァンジェリンさんと仲いいの?」
中井出「うん? ……ああ、これね。元々、人外の存在には好かれやすい体質なんだ。
    それが上手く作用してるのか、まあこんな感じになってる」
ネギ 「へえ……あ、そういえばヒロミツ、カードありがとう。
    明日菜さんがすごくお礼言ってたよ?
    あ、あとジャンパーソンパンツのことなんだけど、
    話してみたら風香さんが欲しいって───」
中井出「あ、うわバッ……」
エヴァ「…………〜〜〜っ」
中井出「《ガブリュッ》あいっだぁああーーーーーーっ!!?」
ネギ 「えうぅっ!? わああヒロミツーーーーーッ!!?」

 本日の被害……大浴場破壊。まあこれは直したからよしとして。
 首を噛まれ、これでもかってくらい血を吸われました。
 まあなんにせよ……死人とか出なくて、結果がオールライト……?

エヴァ「お前の所為でお前の所為でお前の所為でぇええええっ!!!」
中井出「いだだだだだだっ! ちょっ、エヴァ!? 眠気はどーしたの眠気はっ!」
ネギ 「あわわわわやめてくださいエヴァンジェリンさぁああーーーんっ!!」
エヴァ「黙れぇえっ! やっぱりあんなの無効だっ! やり直しを要求するぅっ!!」
中井出「フッ……負け犬の遠吠えか。哀れだ《ぢゅぅうううっ!!》吸ワァアアアッ!?」

 ……全然オールライトじゃございませんでした。
 翌日、貧血で倒れそうになりながらも学園に通う健気な僕の姿は、「おじいちゃんかなにかの真似? 上手ーーいっ!」と生徒たちに感心されるだけで終わりました。
 ふふ……日本の慈愛の時代は終わった……。






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