14/生きてりゃいいことあるなんて言葉はよくないこともあるって意味と同列だから生きるのならば歯を食いしばって生きていけ

 ピキュリリィーーーーン!!

中井出「今! 僕のヴィンテージが芳醇の時を迎える!! 変身!!」

 ゴシャァアアッキィンッ!!!

G  『仮面ライダー……G!!』《ドッギャァアアーーーン!!》

 ……………………。

 …………。

ネギ 「変身したぁあーーーーーーーっ!!?」
小太郎「すごっ……すごいなとーちゃんめっちゃすごいなぁ!
    映像でも見たけど、実際で見るのとじゃ大違いやぁあーーーーーっ!!!」
ハルナ「いやいやここはワインで変身じゃなく、もっと身近なもので……!」

 はい皆様こんばんは、博光です。
 ヘルマンさんの事件から数日、僕らは学園祭に向けての準備に大忙しです。
 出し物はどうやらお化け屋敷に決まって、現在とんてんかんてんとセットを作っているところさ。
 夜の教室で男女が大勢……! なんかポッと……きませんね。二人きりならまだしも。
 で、皆様の息抜き中に、僕が手品を見せるという現在なわけです。

中井出「ならば次は〜っと……」

 ピピピッ、ガチャッ───

声  『スタンドヴァァア〜〜イ』
中井出「変身!!《ガキィーーーン!!》」
声  『complete...』
ハルナ「おおファイズ! 確かにケータイで変身とかは身近っぽいかもっ!」
朝倉 「いいねいいねー、ケータイの声がイヤにリアルでちょっと引くけどね〜!」
あやか「さ、皆さん? 休憩もこのあたりにして、そろそろ作業に戻りませんと」
裕奈 「中井出センセがメイドカフェのセット壊しちゃうからだよー?」
555『なんでもいいけどメイド関連と巫女関連は絶対にやめてくれ!
    これ博光からの切実な願いです!
    じゃないと僕の中に眠るメイドさん好き黒野郎と、
    日本文化好き白野郎が黙っちゃいない!』

 そう。
 そもそもメイドカフェで話が進んでいたのに、なんだってこんなことをしているのかといえば、内側の意思である彰利が我が肉体を乗っ取り、セットを破壊したからである。
 「メイドさんは客に媚びる者に非ず! 滅びるがいい!!」って叫んで、セットは滅茶苦茶。メイドさんが好きってよりは大事だ〜ってのは解るけどさ……なにもぼったくりメイドカフェ作ったからって破壊までせんでも……。
 で、ならば巫女カフェにしようとしたら今度は晦が立ち上がって、「巫女は給仕じゃない! 旧時代より神社を清める神聖な職業だ! 滅びるがいい!」って言って破壊。作り始めたセットが見事に滅びました。
 日本好きなのは知ってたけど、いつから巫女好きになったんだお前は。……え? 正論を述べて日本文化を守ろうとしただけ? そりゃそーだけどさ、なにも壊さなくても……。

555『まあともかく、例によって新田は首を捻じ曲げて気絶させといたから、
    キミたち思う存分準備なさい』
刹那 「あの、ととさま? その姿でそんなこと言われても」
555『ハンサムだろ?』《どーーーん!》
刹那 「ただの仮面男です」
555『うん……そうだよね』

 変身解除。
 さて、夜も只中、本来見回りのはずの新田が気絶しているから好き放題出来る現在に僕らは居る。

史伽 「センセは他にどんなことができるですー?」
中井出「うむ! どんな願いでも一つだけ叶えてしんぜよう! どんなことしてほしい?」
史伽 「え? いきなりそんなこと言われても。
    えっとじゃー……大人になってみせてほしいですー!」
まき絵「あっはっはー♪ さすがにそれは手品でなんとかできる次元じゃ───」
中井出「よろしい! ではよく見ておきなさい!? 変身ッ!!《ボムンッ!!》」
まき絵「はぶぅっ!? わわわっ、凄い煙ー!?」
裕奈 「わっ、な、なにこれっ! せんせー!?」

 煙を出してハイ変身! タイムスリップスキルを使い、あっという間にダンディメン!!
 当然キメ台詞は───

中井出「ご婦人方にまたモテそうだ……」

 ───である。

史伽 「わわわわわーーーっ!!? オジサマになったーーーーっ!!?」
裕奈 「えぇっ!? えぇええーーーーーっ!!?
    これ、えっ!? えぇえっ!? 背とかどうやってるの!?
    さっきまで私達と同年代っぽかったのに! オジサマ!? しかもジヴイ!!」
刹那 「ああ……またととさまの悪乗りが始まった……」
木乃香「調子に乗ると止まらんもんなー、せんせ」

 本日も賑やかです。
 そしてタネにはあまり興味がなく、純粋に楽しんでくれる皆様が大好きさ。
 よいクラスの副担任になったもんだ。

風香 「せんせせんせ! もしかして女の子になれたりもするのかー!?」
中井出「なれるけどそれは見せられん事情がある。だからダメ」
風香 「むー、つまらないぞー! みせろみせろー!」
中井出「だめだ! 秘仙丹は秘密の丸薬なんだ! それをホイホイと───」
あやか「騒いでいないで作業なさってくださいっ!!」
中井出「ヒィッ!? ア、アイムソーリー!!」

 でも怖いもんは怖いです。
 刻震竜よりヤクザが怖い……こんばんわ、中井出博光です。

中井出「いやしかしこういうドタバタ感はいいねぇ。
    俺、祭りよりむしろ準備が大好きです」

 ニコリと微笑みながら、ベニヤ様に釘を打ち付けます。
 トンカチって良い名前だよね。金槌よりもトンカチと呼びたいお年頃ですよ僕。

裕奈 「あ、それ解るかも。
    ってせんせ、作業中はダンディじゃないほうがやりやすくない?」
中井出「ぬう。ならば何歳くらいがいい?」
裕奈 「19歳で」
中井出「それはダメ。何歳でもいいけど19歳だけはだめ」
まき絵「その基準がどうなってるのか気になるー……」

 深い意味なぞないけどね。ともあれそれなら22歳。
 少し年上のオニーサンっぽい背格好で、無駄に歯をゴシャーンと輝かせてみせた。
 ……ら、みなさんに笑われた。ノリがよくて実に結構。
 引き続き、折った膝で板を押さえながら、トンカチをガンゴンガンと。

裕奈 「あ。でもさ、さっきせんせ言ったよね。どんな願いでも一つだけーって。
    だったらせんせの手品でお化け屋敷なんか、
    ちょちょいのぱっぱでほーらキーレーェイー───ねっ☆
    ってくらいに完成できないかなー。たはは、なんちゃってー」
中井出「出来るよ?」
裕奈 「あははいいっていいってウソ言わな出来るの!?」
中井出「俺が教師として中途半端かどうかはともかく───これだけは覚えておけ」

 打ち付けるトンカチを止め、立ち上がりながら天へと翳す。
 こう、俯瞰で見るとトンカチと太陽が合わさるみたいな感じで。
 ……夜だし、室内だけど、そこはハートでなんとかしませう。

中井出「俺の手品は完璧だ」
全員 『いや、完璧な手品だからってお化け屋敷が完成できるってどうよ』

 速攻でツッコミ入れられました。
 反応も良く、ステキなことです。

中井出「まーまー、よく聞きなさい? この博光、ハッキリ言うとなんの才能もない。
    ゲームは回数こなしまくってやっとこ手に入れたスキルのひとつ。
    はっきり言ってゲームと祭り以外で役に立つことなど無い! 断言するね!」
エヴァ「そこは断言しちゃだめだろ、人間的に」
中井出「ホホホ、それはそれでいいのだよ。
    僕は自分が人間であることだけに誇りを持っていた。
    この博光の通る道……それこそが外道。つまり手品は最強無敵」
千雨 (わけわかんねーし、ねみーよ……)

 誰かさんの心の声が聞こえた気がした。
 電波ですか? ……なんとなく誰の声かを予想出来るのは何故でしょうね。

中井出「でも俺は準備が大好きだから完成手品は行わん! 絶対にだ!!
    この、夜の学園でみんなでワイワイ!
    センセがいつ来るか解らない、たまらねぇ緊張感!!
    そして、ねみーよ・だりーよ・かったりーよと心の中で思いながらも、
    結局はみんなを見捨てておけないちーちゃんの暖かさ。
    それらを原動力に、我々は頑張るのだ!!
    オォオーーゥルハァアアアイルッ!! スタンピーーーードゥーーーーーッ!!」
明日菜「パニックになってどうするんですかっ!?」
中井出「パニックになったもん勝ちさ。世界は楽しいで溢れている!
    それを暗い気持ちで背負うだけでは実につまらん!
    文句たれながらでも手伝う心! そして内心だろうが楽しむ心! それが大切!
    ちーちゃんはそこんところ解ってらっしゃる。
    首を突っ込むんじゃあなかったと思いながらも突っ込める勇気は素晴らしい。
    面倒ごとなんてものはね、過ぎてみりゃあ続々とさらなる面倒ごとに巻き込まれて
    “あーあの時のなんて大したことねーや”って思えるもんなのさ。
    だからこそ、“面倒は買ってでもしろ”って言葉がある。
    キッツイ面倒に見舞われるとね、
    ちっこいことなんて大したことないねって思える。
    さて皆様に質問。今のこの状況、確かに追われてはいるが───つまらない?」
総員 『楽しいっ!』《どーーん!!》
中井出「正直でたいへんヨロシ! こんな瞬間を味わえるのは準備中だけなのだ!
    ゆえに叫べ! 間に合わないかもしれないスリルに追われながら、
    この緊張感がたまらねぇYO!と!! 平凡なる日常の中にある刺激!
    堕落した自分の中にある、未だ湧き上がる感情! それこそハートよ!!
    あー世の中腐ってんなーとボーゼンとしてよーが、
    急に背後でゴシャームとモノが落ちると驚きます!
    驚くついでにムカツキますね!? だがそのムカツキこそ貴様の心!
    ぐったりしてようが、驚く・怒るといった感情はいつでもあなたの心に!!
    モノに当たる暇があるなら楽しもうぜ! 怒るだけじゃあつまらない!」
刹那 「いえあの、ととさま? 結局はなにが言いたいんで───」
中井出「全力で楽しもう!!
    くそったれな世の中において、己の中こそ無限の自由!!
    その自由を外へと解放することで貴様らはようやく貴様らへと至れる!
    一人では恥ずかしいこともクラス中でならば───それは然へと至るのだ!!」
刹那 「なにか無茶苦茶いってませんか!?」

 うむ! 無茶苦茶である!
 だがつまりは祭りの準備を楽しもうってこと!
 なんだかんだでみんなが集まった今この時に、皆の心の中に楽しみたいという心が微塵もないなど虚言の極致!!

中井出「まーまー、あ、みんな何か食いたいもんある? 先生なんでも作っちゃうぞー?」
風香 「満漢全席!!」《どーーん!》
中井出「よっしゃあ任せとけ! 言ったからには残したら許さねーからなー!?」
風香 「ふふふっ……作れるものなら食べてやるさー!」
中井出「じゃ、風香さんは満漢全席だって。他のみんなは?」
風香 「───アレ? 食べるのボク一人?」
中井出「もぉちろんさぁ☆
    グエフェフェフェ今からどうお仕置きするか楽しみだぜ、
    ウェエエエエッヒェッヒェッヒェッ!!」
風香 「ふ、史伽ーーーっ! なんかせんせが怪しい笑い方してる! 助けてーーーっ!」
史伽 「わわわ巻き込まないでほしいですー!!」

 なにはともあれ準備です。
 こうして皆様で集まり、一つのことを為し遂げる……こんなに素晴らしいことはありません。あーあ……何事もなく、みんなが記憶を失わずに夏を乗り越えられてたら、いったいどんな人生送ってたんだろうな、俺……。
 そうした未来を為し遂げることができなかったのが、ただただ悔しいよ。


───……。


 日が昇ろうと準備は続く。
 お肌に悪いと唱えながらも、誰一人欠けることなく準備を続けるのは、このクラスのステキなところだと僕は思います。

中井出「オラー! ジョー! 立てー! 立つんだジョー!!」
風香 「うぇえええ……もう、もうゆるしてぇええ〜〜〜……」
中井出「だめじゃ」《どーーーん!》
風香 「う、うわーーーーん!!」

 ちなみに一人だけ、昨夜からメシの前に座らされている人がおります。
 もちろん風香ちゃん。
 マジで作った満漢全席を前に、本泣きしてらっしゃる。

木乃香「まーまーせんせー、みんなで食べたらええんちゃうー?」
中井出「みんな腹減ってる?」
明日菜「あ、はい。私そろそろ新聞配達のバイトがありますから、
    その前に食べたいかな〜って」
中井出「そかそか。うじゃ、たっぷり食べなさい。っと、それとこれ噛んでけぃ」

 言って、刺激X(シゲキックスもどき)を創造。
 眠気が飛ぶのではなく、体が熟睡した状態になり、スッキリします。

明日菜「助かりますっ」

 手早く適当な料理を摘むと、みなさんにごめんと告げて教室を出る明日菜くん。
 そういや朝っぱらはいっつも慌しかったね。遅刻遅刻〜とか言って走ってるのを、よく屋上から眺めとうぜ。
 じっくり食えと言いたいところだが、それぞれ事情がございますもんね。

中井出「よっしゃ。あんまりのんびりやってっと他の生徒くるだろうし、解散すっか」
桜子 「あーちょっと待ってせんせー。
    もーちょっと、もーちょっとでいい土台ができそーなんだよー」
中井出「おお、あるねそーいうの。ようがす、授業に支障が出ない程度にやりんさい」
エヴァ「ていうかだな。お前は眠くないのか?」
中井出「やあ、大して手伝わんくせになぜかずっとここに居たマクダウェル」
エヴァ「いちいち説明すんな、鬱陶しい。で、どうなんだ?」
中井出「眠気ねぇ……うむ、
    これで結構楽しんでおるようだ、ハイな気分で眠気さんがやってこない」
エヴァ「ガキ」

 意地悪く笑いながらの一言、サンクスです。
 キティに笑みを返しながら、板をヨイショと持ち上げる───その過程。
 スッと横から差し出されたブツに、ハテと首を傾げもうした。

中井出「……ウィ?」

 チラリと見れば、30番・四葉五月さん。
 麻帆良でコアラの異名を持つさっちゃんさんだ。

中井出「お、おおぉおさっちゃんさん。このスープは、いったい?」

 差し出されたのはスープだ。
 それを前に首を傾げる僕へ、ニコリと笑んで“どうぞ”と一言。

中井出「えーの?」

 訊ねてみれば、“特製スタミナスープです”、“飲むと元気が出ます”、“ハイになっているからって無茶はいけません”、などなど、暖かな言葉を頂戴しました。
 トドメに“体が資本、健康第一です”って励まされて……途端、僕の心に暖かな風が吹きました。

中井出(……なんか……)

 食生活とか普段の生活のことで、こうして心配されたのってどれくらいぶりだったっけ。
 それを言ってくれるべき両親は死んで、他に言ってくれそうだったばーさんも死んだ。
 じーさんは無口なほうだったし、麻衣香は原メイツだったから互いに好き勝手やってたし───……ああ、なんだ。もしかしたらこんなふうに心配されるの、初めてなのかもしれない。
 そう思ったら、なんだか知らんうちにほろりと涙が───

中井出「……はっ! こ、これは……?」
エヴァ「……? 今の何処に泣ける要素があったんだ?」
中井出「ム、ムウウ……」

 自分でも驚きですよこりゃあ。
 よもやこの博光を泣かせるとは……さっちゃんさん、ただものじゃあねぇ……!

中井出「まあ……あれだよ多分。誰かに素直に心配されてみたかったのよきっと。
    ありがとねぇさっちゃんさん、このスープ、ありがたくいただくよ」

 涙を拭いながら、片手で受け取った。
 いったいいつの間に作ったのか、容器までしっかり暖かなソレを軽く啜ると、暖かさ……うむ、いろんな暖かさが体に、心に染みた。

中井出「……うまい。はは……うまい、うまいなぁ……うまいや、はは……」

 困りました。なにこの不意打ち。
 もしや俺、誰かに心配されるのはもちろんのこと、甘えたかったりしたの?
 ……解らん。解らんけど、こりゃあダンデライオンばい。
 涙の理由? この心の暖かさがそのまま答えでよさそうだよ。
 心からの感謝を告げると、さっちゃんさんは“いいえ、元気になったのなら”って微笑んで、“超包子の準備がありますから”とお辞儀をし、教室を出ていった。

中井出「…………はぁあ……居るもんだねぇ、あーゆーお子……」
エヴァ「当たり前だバカ者」
中井出「馬鹿とはなんだコノヤロウ!! って、どういうことさーマクダウェル」
エヴァ「サツキは子供だらけのクラスメイトの中で、ほぼ唯一、私が認める人間だからな」
中井出「え? 俺は?」
エヴァ「奴だけはしっかりと現実に根を張り前を見つめている」
中井出「いやあの……クラスメイトじゃないだろ〜とかツッコんでほしいんだけど……?
    あの……む、無視ッスか……?」
エヴァ「奴はホンモノだよ《キラーン》」
中井出「なんの。彼女がホンモノならばこの博光はニセモノよ」
エヴァ「胸張って言うことじゃないだろそれ」
中井出「あれぇ!? なんでここだけツッコむの!? スルーしてほしかったのに!」

 とことんタイミングが合わんね。
 昔っから妙なタイミングばっかり引き込んどる気がするよ。

中井出「まあ僕のことは置くこともせずにポリバケツに収納して捨てるとしてさ?
    キミは今までの麻帆良祭、どうしてたん?」
エヴァ「うん? ああ……大して面白くもないからな、
    ずっと寝てい……られればよかったんだけどな。
    見回りをしろだの監視をしろだの、ジジイやタカミチがうるさいんだ」
中井出「……キミって何気に面倒見いいよね。
    まあ、それよりもボカァさよちゃんの頑張りが眩しいけど」

 ちらりと視線をずらしてみれば、皆様に混じってお化け屋敷の準備を頑張るさよちゃん。
 なんともはや、たのしそーじゃないですか。

エヴァ「今まで誰にも気づいてもらえなかったんだ、あれくらい燥ぐのは大目に見ろよ」
中井出「何を仰る、ボカァ“楽しむ人”には味方しますよ?
    その楽しむ人を使って僕が楽しもうと目論んだ時は、平気で蹴落とすけど」
エヴァ「……あーそうだな、お前はそういうやつだよ」

 言葉のわりに楽しそうですよキティったら。
 ……さて、さよちゃんが朝倉さんとトンカチを振り回す様をたっぷり眺めてから、僕自身も朝食を求めて歩き出した。
 さっちゃんさんが準備する〜って言ってたし、超包子に行ってみるかね。

中井出「ネギ〜、朝飯食いにいくべ〜」
ネギ 「え? でも生徒の監督役が居ないと───」
中井出「大丈夫、我らがクラスの生徒はみんないい子ちゃんだといいね。
    どうなるかは各自の判断に任せます。僕知らない」
裕奈 「たははっ、せんせーそれ丸投げだよー?」
中井出「丸投げだとも。たまには教師からの信頼ポイントでも稼いでみせんしゃい。
    んじゃ、体調崩さん程度に燥ぎめされい。俺達ちょっと食ってくるから」
まき絵「ふえ? せんせの場合、自分で作って食べたほうが美味しいんじゃないの?」
中井出「甘し。他人の料理じゃなきゃ味わえない味ってのがあるのさ。
    つーかね、スープが滅茶苦茶美味かったから超包子行ってくる」
ハルナ「店! そして教師! ───つまり奢り!《ギュピィーーン!!》」
中井出「奢らんよ!? つーか散々人の料理食ったろうがキミ!」
ハルナ「奢りは別腹だよせんせ」
中井出「ナマ言ってんじゃあありんせん。えーから原稿とっとと仕上げちまえい。
    お前だけだよ? 祭り前に漫画描いてんの」
ハルナ「なっはっは、やだなー先生。……祭り前だから描くのだよ!《ギラーンッ!》」
中井出「………」

 や、僕そのテの祭りのこと知らんから。
 何が言いたいのかは解らんでもないけど、知らんから。

中井出「無理せんようにね? ほいじゃあ行きますかい」
ネギ 「あ、じゃあ皆さん、あまり無理をしないように頑張ってくださいね」
総員 『はーーーい!』

 元気な挨拶が返ってきました。
 うむうむ、元気なのは大変いいことです。
 僕もこう……たまにね? 誰かと燥ぎたくなる時があるんですよ。
 え? 年がら年中だろう? もちろんだとも。楽しいの好きだし。


───……。


 超包子。
 そげな名前が書かれた看板が、路面電車に打ち付けられたソレが、店だった。
 知識を漁ってみれば、空を飛ぶらしいぜこれ。すごいね。

中井出「飛べない路面電車はただの路面電車だぜ」
ネギ 「? 当たり前じゃないの? それ」
中井出「いや。案外バルカン砲とか装備してるかもしれないから、当たり前じゃない」
ネギ 「さすがに路面電車にバルカン砲はないと思うよ!?」

 現段階で空は飛べなくても、そげなギミックがあるやもしれぬのだ……おお恐ろしい。
 とまあ無駄に顎を拭ってる暇があったらメシにしましょう。

中井出「おくれやす〜」
超  「毎度おおきに〜と返せばいいカナ?」
中井出「おおノリがいいネ、スーパーさん!」
超  「チャオ言うヨロシ!? スーパー違うヨ!?」
中井出「ゴハハハハ、この博光にかかれば誰を呼ぶのもあだ名チックよ。
    そんなわけでネギ、紹介しよう。彼女が超くんだ」
ネギ 「知ってるよ!?」
中井出「フッ……愚かな。貴様が知っているのは外見だけであり、
    彼女が本当は新惑星ベジータから来た者だということすら、貴様は知らん」
ネギ 「そうなんですか!?」
中井出「うそじゃ」《どーーーん!》
ネギ 「〜〜〜〜〜……ヒロミツゥウーーーーッ!!!」

 ィヤッハッハッハ、どうにもこうアレです。
 ちっこいやつはからかいたくなって仕方ありません。

中井出「と、長閑な雰囲気が溢れ出したところで、
    朝食に丁度いいものを適当に揃えてくれんかね?
    準備がまだならのんびり待っとるきん」
超  「そんなにかからんヨ。もう2、3分待つネ」
中井出「ようがす。ほいじゃあネギ、ゲームでもやりますか」
ネギ 「じゃあ魔物ハンターの続きを───」
中井出「2、3分じゃあ終わらんだろアレ」

 のんびり待つコトにしました。
 こう、会話に花を咲かせながら。

中井出「会話に花を咲かせるって、どうすりゃ咲くんだろ。
    やっぱりペットの遺灰を対話する人にぶちまけるとか?」
ネギ 「絶縁状突きつけられるよ!?」
中井出「おお、そういやそうだった、あれって臼の灰だったもんね。
    じゃあ臼を燃やして、その灰を対話者に……」
ネギ 「灰から離れようよ……」

 言いながらも、ネギは結構楽しげでした。
 ヘルマンさん事件から数日、いろいろあったものの、負のオーラを背負った感はあんまりない。復讐だのなんだのの気持ちをきちんと整理出来てるのなら、過去を見せた甲斐もあるってもんです。
 そうして話し始めて数分後、バイトでもやっとんのかどうなのか、くーさんが小龍包などを持ってきてくれた。

中井出「やあくーさん」
古菲 「オオ師父(スース)にネギ坊主、ニーツァオ」
ネギ 「おはようございます、ってさっきまで準備の手伝いしてましたよね」
中井出「ほいニーツァオ。いつの間に、と訊くよりもバイトかね? と訊ねてみよう」
古菲 「ニョホホ、自由になるカネ、持てて損ないアルからナ」
中井出「まったくですな」
古菲 「それに付き合いというのも大事アル。なにもカネ目的てだけではアラズヨ」
中井出「ウホッ、美味そう」
古菲 「や、聞くアルヨ師父」
中井出「おお失礼、腹減っててね」

 一口でモムリと食べると、アツアツの汁がジュワァっと口に広がってウオチャアアーーーーーーッ!!!

中井出「あちっ! ほふっ! あぢゅぢゅぢゅ!!」
ネギ 「ヒロミツ!? もう、そんな一口で食べるからだよっ!」
古菲 「いやいやネギ坊主、小龍包とは一口で食うものヨ!
    ちまちま食べるナド、拳法家として失格アルヨーーッ!!」《メギャーーン!!》
ネギ 「えぇえええーーーーっ!!?」

 いやしかしこのアツアツだけどとろけるような舌触り、汁に浮き出た肉の味がまたなんとも……こりゃ美味い。
 そういや作ってばっかで、食べさせてもらうなんてことなかったものね。
 心がゆっくりと癒される気分さね。

中井出「オカワリ」
古菲 「ソンナ、声まで変わテ……!」
中井出「ナオミじゃなくてマサオのほうなので」

 Jリーグカレーって美味かったンかな。
 何がどうJリーグなのかは永久に解らんだろうけど。
 ちなみにみんな知ってる? 『○○店の味!』って書いてあるそばつゆとかめんつゆ、あるじゃない? あれって全部、その店が名前を貸してるだけらしいよ? 出汁の取り方とかは一切訊ねもせず、こういうツユを売りたいので名前だけ貸してください〜って。それで不味かったら店の評判落ちるよね、きっと。
 “元気が出たみたいでよかったです”……そうそう、元気がー……おや?

中井出「おおさっちゃんさん。さっきはサンクス」

 思考の中に紛れ込んでくる声にハテと振り向けば、コック姿なさっちゃんさん。
 おお……意外や意外、なんつーか様になってますぞ。
 こう、なんてーんでしょうね? 少しふくよかですから、コック長ってイメージが。

中井出「もしやこれ、さっちゃんさんが?」

 問い掛けてみれば“はい”と頷かれる。
 ホホオオオオ……! 中学生でこの味……こりゃあすげぇ。
 珍しくも僕の中の彰利(海原雄山(うなばらおっさん))がなんの文句も出さん。

中井出「プレッシャーをかけるつもりじゃないけど、こりゃあ将来が楽しみだ……。
    あ、店とか構える予定ある? もし出来たら絶対に食いに行くよ僕」
ネギ 「へぇえ〜〜……ヒロミツがそこまで言うくらい美味しいんだ……。
    じゃあ僕も……《はふっ》……ぅわちゃちゃちゃちゃあーーーーっ!!?」
中井出「ややっ!? これネギー! 食事中は静かになさい!!」
古菲 「ヤ、師父もさきホド騒いでたアルガ」
中井出「自分の正当化が大好き……博光です《脱ギャーーーン!!》」
古菲 「脱ぐでナイアルヨ!?」

 うむ、ともかく美味なメシにありつけて僕幸せ。
 さっちゃんさんにたーんとお礼を言って、運ばれるメシを食いまくった。
 …………出費はデカかったけど。

声  「あぁん!? 何だともっぺん言ってみろコラァ!!」
声  「あぁ!? なんか文句あんのかぁ!?」

 金も支払い、ハフーと満足を味わっていた時のこと。
 そろそろ授業の準備でもって時に、店の端っこで騒ぐ生徒を発見。

男1 「打撃が寝技に劣るてぇのかダボがぁ!!」
男2 「上等だコラァ! ルール無しの路上ファイトだコラァ!!」

 見れば、男数人がギャースカ喚いてらっしゃる。
 打撃最強説と寝技最強説のぶつかり合いってやつですね。
 ンなもん状況で変わるものだろうに……自分が信じた最強を信じてりゃあ、押し付ける意味なぞ無いのが解らんのかね……。

女生徒1「やだなー、何アレ喧嘩だよ」
女生徒2「ホラ、工科大と麻帆大の格闘団体、昔ッから仲悪いから、この季節は特に……」
中井出 「ややっ!? おお、ドッヂさんたちじゃねーべや!
     なになにキミらもここでメシかね!?」
女生徒3「うっ……!? 中等部の副担任……!」

 ドッヂさん……以前ネギら2−A(現在3−A)の連中にドッヂボールで喧嘩を売ってきた高等部連中を発見! 絡んでみれば、あからさまに嫌な顔をされもうした。

中井出 「や、なにもそげに嫌そうな顔せんでも。
     で、オネーサマ方、以前偉そうにしてた事実を盾にしたいのですが、
     あの喧嘩止めてきて?」
女生徒3「仮にも教師が生徒に頼むことですか!?」
中井出 「ククク、この博光に教師としてのプライドなぞ皆無ぞ……!
     つーわけだから、大学連中らと話し合い、
     キミらに絡まれた時の中等部連中の気持ちを味わってくるがいい!」
女生徒3「〜〜〜〜っ……い、嫌な男っ……!」
中井出 「ゲハハハハハ!! なんとでも言うがよいわ!
     俺ゃ最初から嫌なヤツらにゃ容赦ねーぞ!」

 が、しかしです。
 今日は随分とさっちゃんさんに助けていただいた。
 こう……なんてゆゥの? 心を救って頂いた気分です。
 こりゃあ恩返しせねばなるまいよ?

中井出 「でもこちらにも事情があるきん、
     ここはこの博光に任せて避難し、二度と戻ってくるな」
女生徒2「それって二度と立ち寄るなって言ってません!?」
中井出 「キョホホ、冗談冗談。いつでも来なされ。
     遊び場を奪うのではなく、ともに楽しむ気があるのであれば歓迎しますよ」

 言いつつ、ポムポムと三人の頭を撫でてから喧噪の中へと向かう。
 “ネギま”ではここでさっちゃんさんが止めてくれるらしいが、どうにも忙しいみたいだし。
 ……と思ったら、手早く調理を済ませ、ゆっくりと歩き始めるさっちゃんさん……!

中井出「ぬ、ぬう……! なんだこのプレッシャーは……!」

 歩が進むたび、場の空気が引き締まる……!
 向かう先は……は、ああ……! 格闘団体のところ……!
 と、無駄に迫力出してないでと。
 二つの大学部連中を前に立ち、一度目を伏せるさっちゃんさんを眺める。
 その隣に歩み寄るくーさんが、妙な武具を出して地面に叩きつけるまでその状況は続き……その音で喧嘩をやめ、くーさんに視線が集まった時にようやく彼女が動いた。

  “あんた達、ここでの喧嘩は御法度だよ”

 ───瞬間、コアラを見た。
 それは彼女が発する迫力だったのか、ただ景色が見えるだけの空間に、僕らは確かにコアラを……!!

格闘団体(……さっちゃん……)

 ……なんかそれだけで全てが終了した。
 男どもは「いや〜ジョーダンっすヨ」とか「本気でやるわけないじゃないスカ」とか言って、和やかムードです。

中井出「……もしや新手のスタンド使い!?」

 じゃなくて。
 いや……こりゃ驚き。
 大学連中にも親しまれとるんかい。
 解らんでもないが、この人脈はスゴイわ。

中井出「………」

 つーかなんの役にも立てませんでした。
 することもないので、スピードワゴンはクールに去るぜ。ネギを置いて。


───……。


 時は過ぎて昼休み。
 置いていったネギがハカセや茶々丸子ちゃんといろいろあったらしいけど、こっちはこっちで相も変わらず学際準備。
 今度は衣装作成ですな。
 ちくちくと裁縫中でおま。

中井出「ウーヌ、ここに乱闘殿様が居れば、衣装などあっという間に完成するのに」
刹那 「乱闘殿様とは……たしか“咲桜純”、でしたっけ?」
中井出「うむ。神降のトラブルムードメーカーとして伝説を残す男さ。
    特技が人をからかうことと食い逃げ、そして殿様衣装を縫うこととくる」
明日菜「前者二つって特技って言えるんですかね……」
木乃香「話の流れからゆーと、衣装が全部殿様衣装になるえー?」
中井出「……おおっ」

 言われてみれば、彼は殿様衣装しか縫えんかった!
 これは迂闊なり……!

ハルナ「殿様喫茶……斬新かも!」
中井出「なんでも斬新で片付けようとしないの。面白そうではあるけどさ」
朝倉 「じゃあ合体させて殿様おばけ屋敷で!」
ハルナ「それだ!」
中井出「えーから手ェ動かしんさい!」

 生徒に混じってちくちく。
 その能力は普通以上にはいかない程度の技術!
 炊事洗濯掃除、全てを普通にこなす男! スパイダーマッ!!

中井出「やー、しかしおばけ衣装を作るってのも懐かしいや」
刹那 「? 作ったことが?」
中井出「あーほら、知ってるっしょ? 中学ン時の喧噪祭でさ、真・デレラやった時の。
    あの準備中に斬新なドレス作ろうってんで、おばけ衣装をね……」
明日菜「どんだけ常識破壊しようとすれば気が済むんですかっ!」
中井出「ククク、この博光にとって、常識なんてものは常に破壊対象ぞ。
    その方が面白いしね。実際、シンデレラ役の彰利の衣装は、
    バイオハザードのゾンビよりもボロボロだったし」
ハルナ「ああ思い出した、あれはひどかったねー。
    シンデレラの名前が“灰 被梨(ハイ カブリ)”だったんだよね?」
中井出「もう……三千年以上前のことになるんだねぇ……」

 しみじみ。
 思えば長い道のりじゃった……。
 不老不死の最果てってなんなんだろうね。
 こうして仲良くなって、意思を受け取って仲間を増やして、でも……意思は死ななくても、いつかは誰かが死んでしまう。
 意思は歳をとらなくても、本人自身は年老いて、死んでしまう。
 楽しいことばっかじゃないよね。そんな世界が、少し憎いです。

裕奈 「にゃはは、しっかし昼休み返上してまで学祭準備なんて、私達も殊勝だねぇ〜♪」
亜子 「そーせんと間に合わんだけやん」
中井出「楽しむための苦労はたくさんしといたほうが、こう……クるもんがあるよ?」
裕奈 「んっ、そのためにもがんばろー!」
風香 「おー!」
史伽 「やるですよー!」

 学祭に夢を馳せる者たちよ、ここに。
 たとえ小さな力でも、皆集まればなんとやらですね。
 地道な作業もみんなでやりゃあ面白いもんです。
 こういう時ってのは大体、どっかの馬鹿が「かったりー」とか「めんどくせー」とか言って投げ出すもんですけどね、一度深呼吸して“楽しめるよう”努力してみなされ。
 祭りは祭りが楽しいんじゃあねぇ……準備こそが楽しいのだ。

中井出「ほれマクダウェル、貴様も手伝いんさい」
エヴァ「ハ、やだね。どーせ学祭が始まれば監視監視だ。
    この際だから言っておくぞヒロミツ。
    私は私の周りの常識をいろいろと破壊してくれたことには感謝しているが、
    こうして人の輪に無理矢理巻き込もうとする貴様が、私は───」
中井出「? べつに嫌いでもいーけど?」
エヴァ「………」
中井出「信頼を盾や武器にしたくらいではこの博光、怯みもせぬ。
    つーわけでアップリケとかゆーのを付けていこう。ほれ、そっち持って」
エヴァ「…………」

 面白くなさそう……っつーよりは、どこか寂しげな表情で布を受け取るキティさん。
 ハテ? なんぞか気になることでもあったかね。
 まあええわ、はいチクチクチク〜と……ところでアップリケってなんだっけ?

エヴァ「なぁ。お前は面白いことのために動いてるんだよな?」
中井出「む? うむ」
エヴァ「“ゼロの使い魔”の世界で、あの世間知らずの姫さんを見て思った。
    お前は勝手に押し付けられる信頼を得た先に何を見る?
    ……勝手に信頼されて、信頼通りに動くんじゃなく、
    信頼を行動の結果で叶えるお前は……なにを信じてる? 誰を信じてる?」

 キティの質問が胸に響く。
 耳に届いただけじゃあ飽き足らず、傷口を抉るように。
 だから唱えた。ウソ偽りの無い真実を、堂々と。───心の中で。

中井出「ニョホッ? クォックォックォッ、そりゃおめぇあれだ、自分自身よ」
エヴァ「ウソだな?」
中井出「アレェ!? いきなりウソ決定!?
    おのれ貴様ァ、どげな確信があってそげなことを!」
エヴァ「笑い方が弦月彰利だ。言葉回しも。
    他人の言葉を借りてウソをつくなんて、お前らしくもないじゃないか」
中井出「ゲェ……!」

 あらまなんてこと。
 自然と口から出たのに、確かに自分らしくもなかったかもしれん。
 からかう時は他人の言葉(主にライトニングとか)を借りるが、よもやあっさり見破られるとは……この博光も老いたものよ。いや、キティが鋭すぎるのか。

中井出「んー……悪いんだけどその話、
    もしするとしたらずっと先のこととして受け取っといてくんない?
    思い出したら話すから」
エヴァ「口にすればニ言三言で終わることだろ?」
中井出「キミが予想ついてそうだからだよ。それが答えだって構わん。
    俺の信頼の向く先については、口にせんほうがいいのよ」
エヴァ「……そうか」

 ……。
 少々きまずい雰囲気が流れるが、無理矢理吹き飛ばして作業を再開した。
 世の中ってのはほんと、上手くいってくれんもんですよ。

中井出(誰も。……俺ゃあね、マクダウェル。
    仲間だろうとなんだろうと、誰も信じちゃいないんだ。
    友達も、親友も、仲間だろうが敵だろうが、好きな相手だろうが……誰も)

 ……猫になって四千年あまりを生きる中、俺は何かを信じることを諦めた。
 誰も信じず何も信じず、自分の在り方すら信じられない命を生きた。
 そこには絶望はあっても、希望なんてものは存在しなかったんだ、当然だ。

中井出(俺は何も信じない。裏切られるのも傷つくのも、もう怖くない。
    でも……ただひとつ。信じることが、怖くてたまらない)

 だから、勝手に信じてくれ。勝手に裏切り、勝手に笑ってくれ。
 何に忘れられたっていい。誰に裏切られたって構わない。どんな泥を被ることになっても、俺が全部持っていく。俺が全部覚えていくから。
 ……どうか、何も信じないことを許してほしい。

エヴァ「……じゃあお前は。
    不老不死って意味では同胞である私のことも、てんで信用してないっていうのか」
中井出「ひょ?」

 おや? 何故自分の想像にキティがツッコミを……アレ? ゲェーーーーッ!!

中井出「ちょいとマクダウェル!?
    のどっち使って読心するなんてマナー違反でなくて!?」
エヴァ「大声をあげるといろいろバレるぞ」
中井出「グムッ……!」

 いつの間に引っ張りこまれたのか、キティの隣にはカタカタと震えるのどっち。
 手の中には“いどのえにっき”があり、よーするに僕が考えていたことは二人にはバレてたわけで……

中井出「〜〜〜……わぁったよ、くそぅ。
    けど、これから知ることは誰にも喋るな。本気で、真面目にお願いする」
のどか「えうっ!? あぅ、あのっ!? は、ははは、はいー……!」
エヴァ「ああいいぞ、契約しろっていうなら契約でもなんでもしてやる。
    ただ人の悩みに首を突っ込んで、
    自分はさらそうとしない在り方に苛立ちを覚えただけだからな」
中井出「あの……人の記憶見ておいて今さらそれ言う?」

 ほぼ全て見せたじゃないの、忘却の猫で。
 溜め息を一つ、仕方も無しに質問に答える姿勢を心の中でとる。
 あー……っと、なんだったっけ。……キティを信じているかどうか、だっけ。

エヴァ「キティ言うな! お前っ、心の中じゃあいっつもキティキティ呼んでたのか!?」
中井出「今はそげなことどーでもヨロシカロ!? ……質問の答えだけど。
    疑いもしてない。信じてないから疑ってるじゃないんだ。
    疑ってるから信じてないわけでもない。
    無関心なわけでも興味がないわけでもなく、ただなにも信じていない。解る?」
エヴァ「あ…………ああ、いや……解る、じゃないな、“知っている”」
中井出「ん。だったらそれでじゅーぶんだよ。
    俺さ、“人が死ぬ時は、人に忘れられた時だ”って言葉に感動したことがある。
    人はいつ死ぬか。
    それは、銃で心臓を撃たれた時でもない、不治の病に冒された時でもない、
    毒キノコのスープを飲んだ時でもない───人に忘れられた時だ。
    そういったヤブ医者の言葉に、感動したことがある」

 いどのえにっきを覗いて、吸血鬼は軽く頷く。
 や、べつに覗かんでもウソ言わんって。

中井出「……でもさ、全てに忘れられても俺は生きた。
    自分にさえ忘れられても、生きることしか許されなかった。
    希望を求めては絶望だけを突きつけられる世界を生きて、
    信じることの素晴らしさも辛さも覚えず、ただ“怖い”ってことだけを知った。
    解ったのは、生き物には“絶望と希望”があるってこと」
エヴァ「それがお前の、“信頼”への拒絶か?」
中井出「まあ……多分ね。どーせ今も本で真実の確認してるんだから、隠す意味もない。
    だから、本当に他言無用で頼むよ?
    ……“忘却の猫”はね、俺であって俺じゃないんだ。
    確かに記憶は全て持ってる。経験も、痛みも全部。
    セシルに恩返しをしたいし、ゼットにだって礼を言いたい。
    でも、そう思ってるのは猫の俺であって人間の俺じゃない。
    …………えっと……その。言ってる意味、解るか?」

 嫌な空気だ。
 もっと楽しい空気が欲しいのに、内容がそれを許してくれない。
 キティは頷いてはくれるけど、納得はしてくれていないようだ。

中井出「ややこしい話だけどね。一言で済ますなら……中井出博光はいつか死ぬ」

 だから言ってやった。
 解りやすい言葉で、きっぱりと。

のどか「え……」
エヴァ「……? ───……っ!? しっ……!? なっ、お前は不老───!」
中井出「はい騒がない。いろいろバレるよ?」
エヴァ「っ……笑えない冗談は嫌いだ。解ってるだろ?」

 いどのえにっきを見直しながら言ってるなら、答えは解ってるだろうに。
 べつに既存破壊なんかやってないから安心なさい。

中井出「解ってるよ、冗談じゃない。
    ……いーか? 俺は亜人と融合することで不老不死になった。
    ナモナキツルギの副作用って言えば早いけど、よーするに人間じゃなくなった。
    ……あとの祭りって言葉がこうまで似合う状況もないんだろうけどさ。
    不可能を可能にする力、覚えてるか?」
エヴァ「ああ。会った時に使った能力だな?
    人間にしろって───…………おい、まさか」
のどか「? ?」

 キティがハッとする中で、のどっちが疑問符を飛ばす。
 俺はそんな状況に深呼吸をひとつしたあと、口を開いた。

中井出「そゆこと。俺と猫は、同じであって同じじゃない。
    人間と亜人として分かれていて、不老不死なのは猫で、俺は人間なんだよ。
    だから……いつか死ぬ。
    四千年もの時間の中を、遙か以前に飲んだ千年の寿命だけで補えるわけがない。
    ……三千年分のペナルティがあるんだよ。
    今の時点でも時間がどれだけ残ってるか、解らないんだ。
    だからせめて“俺”が生きていられる内に、猫の思いをセシルに届けてやりたい。
    地界で刀になっちまったセシル……みさおちゃんを助けてやりたい。
    みさおちゃんを助けて、ゼットともう一度めぐり合わせてやりたい」
エヴァ「そのためなら、自分の死も受け容れる、か?」

 ふむ……どうなんだろ。
 死にたくないとは思うものの、なんだったら───とも思うのだ。

中井出「人間だもんな、いつかは死ぬ。
    ややこしいことなんて猫に任せて、俺は人間チックに死んでいくよ。
    同胞であるお前にすら信用を向けられないのは、
    信頼させておいて死んじまう自分だからなのかもしれん。
    自分でも確信が持てないんだよ。だからこれが、今のところの理由だと思う」
エヴァ「………」
のどか「………」

 話し終えてみれば、二人は呆然と僕を見てらっしゃった。
 ……自分に“死”が出来た。
 それは人として喜ぶべきなのか、死んでしまう恐怖に怯えるべきなのか。
 あんな痛い思いを繰り返しても、結局は死んでしまう命を嘆くべきなのか。
 うん、解らん。
 解らんからいいじゃん? このまま楽しむ方向で。

中井出「あ、ちなみに未来視はおっかないからやってないよ?
    死んだあとのことも全然考えてないし」
エヴァ「───? 死んだ……あと?」
中井出「ウィ。俺が武具を通して、出会ってきた人の意思を掻き集めてるのは知ってるね?
    多分、俺の意思も死んだ時点で武具に託されると思う。
    こうなればいいな〜ってのは、猫のことはみさおちゃんとゼットに任せて、
    武具になった僕のことは次元の狭間に捨ててほしいってことくらい」
のどき「あ、あのー、それで……その、いいんですかー……?」
中井出「……んむ。いどのえにっきで見ちまった通り、俺は世界のカケラ集めをしている。
    この世界は“外史”であり、俺や一刀や才人が生きた世界も同じ。
    俺はそんな外史を永遠に旅する意思になりたい。
    誰かに武器として拾われるのでもいい、
    火闇で体を象って、またこうして外史の連中とバカをやっていくのもいい。
    その時にはもう意思であり、人じゃなくなってるけど……」

 その上で、永遠を生きていこうと思ってる。
 その頃には、元の世界にゃあもう未練は無くなってる筈だ。
 外史を旅して楽しむ修羅に、僕はなります。

中井出「……俺が死んで、猫と乖離させられたら……きっと信じることが出来るから。
    だからさ、それまで待っててほしい」
エヴァ「───……」

 珍しくも頭を下げた。
 するとキティは小さく溜め息を吐いて呟く。

エヴァ「それでもお前は……その猫の絶望も持っていくんだろうな」

 と。
 俺はその言葉に「記録者ですから」って答えて笑った。
 全て持っていくって言っちゃったもの。その言とともに誰かをコロがして得た未来だ。
 それは貫き通さなきゃあお前……ウソだぜ?

中井出「んじゃ、話はここまでね。ムッハー、暗い空気を漂わせちまったい。
    もう勘弁してよねキティ、僕楽しい雰囲気が好きなのに」
エヴァ「どさくさ紛れでキティ言うな」

 チッ……流せなかったか。

中井出「はいはいのどっちもアーティファクトしまって。迂闊に喋れないじゃない」
エヴァ「宮崎のどか。この馬鹿に私のことをどう思っているか訊いてみろ」
のどか「エヴァンジェリンさんのことっ、どう思ってますかっ!?」
中井出「アルェー!? 躊躇もせず!? フッ、だがこの博光は揺れぬ!
    どう思っているか!? 知れたこと! 仲間である!」

 …………じー……

中井出「僕の話を聞こう!?
    人の言葉無視して本にばっかり集中するの、よくないと思うなぁ僕!」

 そう言ってやるんだけど、キティは本を見ながら頬を緩まして、満足そうに頷く。
 のどっちもこくこくと笑顔になって、楽しげだった。
 ……ああもう……。

中井出「そィで《ぼすっ》……キティ、無言で肩車するのはやめんさい」
エヴァ「そんな気分なんだ、嬉々して車代わりになってろ」
中井出「グウウー……」

 懐かれた? いやいや、この場合本気で車としてしか見てないだろうね。
 まあ、心地よい重さだからいーけど。

中井出「ほいじゃあのどっちも戻った戻った。あ、くれぐれもご内密にね?
    もしバラしたら流し込む」
のどか「ななななにをですかーーーーーーっ!!?」
中井出「それは秘密。なぜならそのほうが格好いいから」
エヴァ「格好の問題じゃないだろ、それ」

 知りません。
 今が楽しいなら、未来のこともきっと笑い飛ばせる〜くらいにしかこの頭は働いてくれませんので。

エヴァ「で、最後に確認したいんだが。
    人としてのお前が至る最後の先の意思の旅には、
    当然私の意思も同行できるんだよな?」
中井出「その時に、俺が貴様から意思を受け取っておればね。
    武具でなくてもいいし、なんならナビネックレスでもいい。
    “キミ”ってものが刻まれたものなら、愛用の漬物石でもOKなくらい」
エヴァ「…………どうしてそこで出る喩えが漬物石なんだ?」
中井出「や、なんでもないものでも意思さえ宿ってれば〜って言いたかったんだけど」

 深い意味はナッスィン。
 ……っと、よし。衣装完成。

中井出「おーいパルちー、他にやることあるかーい?」
ハルナ「お昼ご飯を作ってほしい!」
中井出「おっしゃあ任せとけい! いくぞキティ!」
エヴァ「おいこらっ! キティ言うのやめろっ!」
中井出「お黙れィ!! 人の記憶勝手に覗きおってもー許さんぞ!
    貴様は俺が外史の無間地獄って名の墓に持っていこうと決めていた事実を知った!
    故に対価を払ってもらう! 貴様はキティだ! 俺は呼ぶね!」
エヴァ「か、ぐっ……! それはお前が私にまで黙ってるからでっ……!」
中井出「どんな言い訳を述べようと無駄だ無駄無駄グオッフォフォ……!!
    さあ行くぜキティ! たくさんの思い出を作るんだ!
    きっとこげな状況もいつかは笑える日になるぜ!?
    みんなー、食いたいものあるかねー!? あ、ふーちゃんは満漢全席だっけ」
風香 「ひぃーーーーっ!!?」

 一言で泣かれた。
 そんなちっこいのの頭を撫でると、投げられまくるリクエストに腕をまくって答える。
 さあ……料理を始めましょう。

中井出「こうしてると全員が娘みたいで面白いやね」
エヴァ「……解らんでもない」

 料理作るって言ってんのに降りようとしないこのお子はどうしてくれましょう。
 いいや、魚でも焼いてやれ、ニンニクたっぷり入れて。


 ───とまあそんなこんなで、料理中だってのに大喧嘩に発展するわけですが。
 途中から腹を空かせた娘(仮)どもも混ぜ、仮厨房は地獄と化しました。
 や、パイ投げやってたんですよ。暴力はいけませんと。
 その一つが、様子を見に来てくれたいいんちょさんの顔面にヒットしまして。
 あとはまあ……怒鳴り声一発でみんな来ちゃって。
 そんな騒ぎを繰り返しながら、僕らは学祭を迎える日へとゆっくり近づいていきました。





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