01/外史の世界へこんにちは……っつーか、やあ

???「ほらぁ〜、ふたりともっ、早く早く〜!」
???「お待ちください桃香(とうか)様。お一人で先行されるのは危険です」
???「そうなのだ。こんなお日様いっぱいの日に流星が落ちてくるなんて、
    どう考えてもおかしいのだ」

 とある時代のとある荒野。
 現代の日本では考えられない場所を歩く、三人の女性が居た。
 桃香と呼ばれた、さらりと伸びた栗色の長髪を揺らしながら歩く女性を追うようにして小走りする二人の女性。
 一人は凛々しくも綺麗な顔立ちに、さっと流れる黒髪を軽く一点結わえた女性。
 一人は背も低く、ともすれば子供としか思えない体躯……事実子供なのだろう、短く整った赤の髪は無邪気な風貌によく似合い、両手を頭の後ろで組みながら小さく疑問をこぼしていた。

???「鈴々(りんりん)の言う通りです。
    もしやすると妖の類かもしれません。慎重に近づくべきです」
???「そうかなぁ〜? ……関雲長と張翼徳っていう、
    すっごい女の子たちがそういうなら、そうなのかもだけど……」
張飛 「お姉ちゃん、鈴々たちを信じるのだ」

 鈴々と呼ばれた少女……張翼徳がむすっとした顔で言う。
 その言に続いて、黒髪の女性、関雲長も言を紡ぐ。

関羽 「そうです。劉玄徳ともあろうお方が、
    真昼間から妖の類に襲われたとあっては、名折れというだけではすみません」

 劉玄徳と呼ばれた女性は、関羽の言葉に胸の上で指を組んで、にこ〜〜と笑う。
 そこから来る反応を、二人は予測できていたのだろう。
 どこか呆れと諦めを孕んだ表情で、言うべき言葉を用意しておいた。

劉備 「うーん……じゃあさ、みんなで一緒に行けば怖くないでしょ?
    だから早く行こ♪」
張飛 「はぁ〜〜〜、解ってないのだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」
関羽 「全く。……鈴々、急ぐぞ」
張飛 「了解なのだ」

 結局は押し切られる。
 属に言う天然である劉備は、本人は無自覚に周りを巻き込んでは様々なことを仕出かす。
 それでもこうして付き添う者が居るのは、ひとえに彼女の人のよさから来るものなのだろう。
 一人でさっさと走っていってしまった女性の後姿を慌てることもなく、いつものことだと追いながらも、関羽と張飛はどこか楽しそうだった。


───……。


 シュウウウプスプス……

???「こ……こんな、ところで…………! 俺は……死なん、ぞ……!」

 ところ変わって別視点。
 荒野の大地の一角に出来た巨大なクレーター……
 そこから這い出るようにしてドタリと倒れたのは、一人の───

声  「……、……にゃ? あんなところに人が倒れているのだ!」
???「ぬ、う……!」

 体中が痛い。
 必要なものが揃っていないのか、回復もままならない。
 というかここはどこ?と、奇妙な思考を働かせてみるも、混乱するだけだった。
 そうこうしている間に声の主はやがて近づいてきて、足音が朦朧とする視界の前で止まる。

声  「あやー、変な人が居るよー?」
声  「男の人だね。私と同じくらいの歳かなぁ?」
声  「二人とも離れて。まだこの者が何者か解っていないのですから」

 ……はて。と男は思った。
 何者だとかなんとかってのは、どうにも平和な世界で使う言葉じゃない。
 ともすれば戦場とか、敵が居るような世界でこそ使うものじゃあござーません?
 そこまで思考を回転させてみて、初めて男は頭を持ち上げ、視線を上へ。

女性1「わっ! た、大変だよ愛紗ちゃん! この人大怪我してるよ!」
女性2「はっ……もしやどこぞの軍の兵か……いや、それにしてはこの着衣は……」
女の子「そんなこと言ってる場合じゃないのだ!」

 ……よく解らないが、やっぱり自分は大怪我をしているらしい。
 どこか客観的に思いながらも、少しずつ蓄積された力を以って、傷を回復させていった。

女性1「……え? え……? 傷が……血が……」
女性2「塞がって……!?
    ───貴様! やはり妖の類か! 桃香様! お下がりください!」
女の子「凄いのだ! どうなってるのだー!?」

 やがてシャッキィイン!と音が鳴りそうなほどの優雅さ……の欠片もない普通の起き上がり方をした彼は、三人の女性を見て首を傾げる。
 状況は……よく解っていないが、とりあえず自分が人間のままで、生きていることを喜ぶことにした。

女性2「……名を聞こう」
???「馬鹿者。名を訊ねる時はまず己からと教えられなかったか」
女性2「なっ……! く……いいだろう、我は関羽! 字は雲長!
    ここにおられる桃香さまの一の家臣!」
???「………………………………………………おお! 関羽! あなたが関羽!
    あ、えーと……我は中井出! 字は提督! そしてここは何処ですか?
    とりあえず妖ではないので、その薙刀……青龍偃月刀かな? 引っ込めて?」
関羽 「っ……!? 貴様! 何故我が太刀の名を知っている!」
中井出「関羽っていったらそうじゃないの!? え!? 知ってちゃいけなかったの!?」
女性1「わはぁ〜、愛紗ちゃんって有名だったんだね〜、すごいすごい」
関羽 「とっ、桃香様!」
女性1「あ、わたしは劉備。字は玄徳」
女の子「鈴々は張飛! 字は翼徳なのだ!」
中井出「なんとまあ………………マジすか」

 男性……中井出は混乱した。
 何処とも知れぬ場所で、気づけば瀕死。
 しかしこの世界にある自然の気配がユグドラシルに上手く作用してくれたお陰で、マナが多少回復し、傷の回復も可能になった───まではいい。
 うん、あまりものごとを気にしない性格が……いや、そうでもないかもしれないが、とりあえずは役に立った。
 だが問題はその後。
 ここは何処なのかという疑問と、そして三国志の蜀軍を代表する三人の名を名乗る彼女らは何者なのか。
 そんな疑問が渦巻いたが、

中井出「へっちゃらさーーーーーーっ!!」

 馬鹿なので気にしないことにした。
 そもそも今までもゲームの世界などという、とんでもない場所で生き抜いて来たのだ。
 今更よく解らん場所(どうやら過去っぽいが)に飛ばされようとも、そこまでの驚きはなかった。

中井出「ウヌ、よろしくです。ところで張飛サン?
    アナタ張飛なのに何故、一人称が違うの?」
張飛 「“鈴々”は鈴々の真名なのだ。だから“鈴々”なのだ」
中井出「マナ? マナって……」
劉備 「へー……真名も知らないんだ……。もしかして…………あ、えっと。
    真名っていうのは自分が本当に信頼した人に託す、自分の大切な名前のことで、
    うっかり許されてもいないのに真名を呼んだ日には……」
関羽 「殺されても文句は言えないものだ」
中井出「怖ッ!? ちょ、やめてよそんな怖いこと!
    そんな危険なの一人称として喋られてたらうっかり呼んじゃうじゃないか!」
張飛 「呼ばれてないなら別にいいのだ」
中井出「僕が怖いんですけど!?」
劉備 「んー……あの、お兄さん? あなたの名前、中が姓でいいのかな」
中井出「むっ!? ……うむ! 姓は中! 名は井出! 字は提督!
    キミたち風に言うならそんな感じで、真名は博光という! 博光と呼んでくれ!」
三人 『!!』

 あ、驚いた。
 中井出はしてやったりという気持ちのままで、驚いた三人の女性を見ていた。
 女性というか少女というか……中間? まあいいや。といった風情で。

関羽 「な、なんと……! 真名を許すというのか……!? 会って間もない我らに!」
中井出「ここで会ったのもなにかの縁。
    知らないことを教えてくれた方々を信用出来ず、なにが漢。
    で、いい加減ここが何処なのか知りたいんだけど」
関羽 「……っ! あ、ああ……ここは幽州琢郡、五台山の麓だ」
中井出「ゆうしゅうたくぐん───……」

 よし解らん───彼は考えることを放棄した。
 そして次に考えたのは、これからどうするか、だった。
 ひとまずここが自分が居た世界ではないことは明白。
 ならば彼女らに同行し、この世界を知り、自分の世界に戻る方法を探すのが得策。
 ならばと、一応理解した風情で頷くと、早速───

劉備 「ねぇねぇお兄さん、もしかしてこの国のこと、なにも知らないの?」
中井出「うむ! ───ゲェッ!」

 いきなりバレた。
 しかも自分で思いきり頷いた上で。
 穴があったら入りたい状況だったという。
 だが開き直るのも早く、彼はどうにでもなれといった風情で口を開いた。

中井出「この際だから言いましょうぞ! この博光、この世界の人間に非ず!
    遠い……そう、喩えるならば天の国よりこの乱世に降り立った一人の漢よ!」

 じゃじゃーーん!って音が鳴りそうで結局ならない奇妙なポーズで叫ぶ。
 ……すると、ぽかんとしていた三人の女性らに異変。
 驚く、というよりは……なにか、得がたいものを見つけたような、期待を込めた目で彼を見ていた。

劉備 「わ、わぁっ! 凄いよ愛紗(あいしゃ)ちゃん!
    もしかしてって思ってたけど、やっぱりこの人天の御遣いだよ!
    この乱世の大陸を平和にするために舞い降りた、愛の天使様なんだよきっと!」
中井出「アイアムエンジェル」

 もはやヤケクソだったという。

関羽 「管輅が言っていた天の御遣い。……あれはエセ占い師の戯言では?」
張飛 「うんうん。鈴々もそう思うのだ」
中井出「天から来たのは確かとして、御遣いってなに?」
関羽 「この乱世に平和を誘う天の使者。自称大陸一の占い師、管輅の言葉だ」
張飛 「鈴々たちは流星に乗って御遣いが来るって聞いたからここに来たのだ」
劉備 「そしたらお兄さんがここに居たの。ほら、やっぱり御遣い様だよ」
中井出「………」

 いや……まあ。
 曖昧な返事をするよりは、もういっそ御遣いでいいじゃん俺……そんな思いがせっつく感じになったのか、ごぎゅるー、と鳴る中井出の腹。

関羽 「………」
中井出「御遣いだってお腹くらい減りますよ!?
    というわけであのー、どこか落ち着ける場所ってあります?」

 ……その言葉が引き金となり、三人と一人の物語りがなんとなく始まる。
 近くの街に移動することとなった彼と彼女らに待つ、この世界の運命や如何に───




02/桃園の誓い

 誘われるままに付いていくと、ようやく見えてくる街に心をホッとさせました。
 ここが何処なのかなどという質問は……トリッシュ、正直今の僕には関係ありません。
 謎世界を旅する男…………こんにちは、博光です。
 劉備関羽張飛についてって辿り着いた場所の名前もまあ結局解らんわけですが、それでも腹が満たせるならなんでもいいやー……というわけでもなく、ここが旧時代だというのなら、ほら、やっぱメシとか食べてみたいでしょ?
 どんな味するのかこの博光……今から涎が止まりません。
 もちろん食うだけなら能力を駆使して、大抵のものはなんでも用意出来るんだけどね?
 うん、とりあえずここが地界ではないのは確かってことでいいかな。
 少なくとも俺が知る地界はこんなんじゃない。
 思い切り三国志の世界ですね、うんきっとそう。

……。

 で、たっぷりとご飯を食べて人心地つくと、関羽は随分と穏やかな風情を帯びていた。
 ……もしかして腹減ってて気が立ってたのかしら。

劉備 「それでね、中様」
中井出「中様!? ノ、ノー! 提督、或いは中井出か博光とお呼びになって!
    俺は様づけで呼ばれるのが何より嫌いなのです!」
劉備 「え……っと。それじゃあ……」
中井出「博光。どうぞ?」
劉備 「…………ひ、……博光…………様」
中井出「様はダメ!」
劉備 「う、うう〜〜〜! でも御遣い様をそんな呼び捨てなんてできないよ〜!」
中井出「私は一向に構わん!」
劉備 「うう……あ、じゃあ私の真名! 桃香って呼んでくれるなら!」
関羽 「なっ……桃香さま!」
劉備 「大丈夫大丈夫〜♪」

 急に言われたら呼べないでしょ〜って感じの目が僕を見つめてくる。
 クセなのか、胸の上で両手の指を絡めてにこ〜と笑うその顔が、なんとも可愛い。

中井出「桃香」
劉備 「はうっ」

 しかしだからどうしたというのがこの博光のスタンスよ。
 残念だったな劉玄徳よ。
 この博光にハッタリは通用せぬわ。多分。

中井出「さあ! 博光!」
劉備 「ふ、ふぅう……ふぅうぐぐぅう〜〜〜〜……!」

 なんか変な唸り声を出された。
 それでも渋々といった感じで……博光、さん、と言われた。
 ……さん、ねぇ……まあいいや。

劉備 「そ、それでその……私たちは、弱い人を救うために旅をしてるんです。
    弱い人たちが泣くことしか出来ない時代を終わらせたい。
    そんな人たちの力になりたくて。
    ……でも、もう三人じゃどうしようも出来ない時代になってきてる……。
    そう思うけど、そんなことで挫けたくない。
    無力な私たちにだって、何か出来ることがあるはず。だから、中さ───」
中井出「《ギロリ》」
劉備 「え、えと……博光、さん。───わ、私たちに力を貸してください!」
中井出「いいよ?」
劉備 「天の御遣いであるあなたが力を貸してくだされば、
    きっともっともっと弱い───えぇ!?」

 即答したら、説明中に驚かれた。

中井出「どうせ僕、この世界でなにすればいいのか解らないいし。
    よし、この世界を旅するのもなかなかどうして楽しそうじゃないか。
    えーと、ようは天下統一でもしようってこと……で、いいのかな?」
劉備 「はうぅっ!? そ、そそそんな大それたことっ……!」
関羽 「桃香様……それはいずれ考えなければならぬことかと」
劉備 「えっ、でも、だって……はうう……!」
張飛 「お姉ちゃんはもっと自分に自信を持つべきなのだ……」
中井出「うむ。そんなわけで劉備よ」
劉備 「…………《じろり》」
中井出「…………あー…………桃香?」
桃香 「…………《ぱああっ……♪》」

 いや……そんなあからさまに笑顔向けられましても。

中井出「これから、どうするのか訊いていい?」
桃香 「………」

 特に決めてないようだった。
 うん、とりあえずデコピンしていいですか?
 ……っと、その前にだ。

中井出(……キミたち、金持ってる?)
関羽 (……まさか)
中井出(あ、やっぱり? うん、持ってない)
桃香 (えぇっ!? わ、私たち御遣い様のご相伴に預かろうと思って……!)
張飛 (お金なんて持ってないのだ……)
中井出(正直でよろしい。えーっと……関羽)
関羽 (? なにか)
中井出(この金、お金になる?)

 言って出したのは、£硬貨の中でも価値の高いもの。
 見せてみれば、関羽は目を丸くして驚いていた。

関羽 (なる、もなにも……十分すぎるくらいです……!)
中井出「よっしゃ。おかみ! おかみはおるか!!」

 ウムスと頷くと、手をパンパンッ!と叩いて女将を呼ぶ。
 すると店の奥から女将らしき女性が来て俺のことをじっと見つめる。

中井出「失礼。どうやら財布を忘れてしまったようなのでな。
    この金を代金の代わりに差し上げる。どうかこれで許してはもらえぬか」
女将 「ひえっ……!? そ、そんな、これはっ……!」
中井出「美味い食事を馳走になった。これからも励まれよ」

 女将の手にじゃらじゃらと£硬貨を持たせ、三人を笑顔で促すと外に出る。
 ……が、途中で女将に呼び止められると……いいと言っても聞かぬままに大きな陶器で出来た酒瓶を持たされた。
 しかも俺が天の御遣いだってことも厨房で聞いていたらしく、これからどうするのかを悩んでいるなら、この街近辺を治めてる公孫賛様のところへ行ってみては、との助言も頂く。
 なんでも最近近辺を荒らし回っている盗賊どもを懲らしめるため、義勇兵を募集してるんだとかなんとか。
 「天下統一するっていうなら、そこで名を上げてみちゃどうだい?」って、女将は笑いながら言った。

桃香 「公孫賛……あっ! そういえば白蓮ちゃんがこの辺りに赴任するって言ってた!」
関羽 「……桃香さま。そういうことはもっと早くに仰ってください」
桃香 「あぅ、ごめ〜ん……」
張飛 「全く。お姉ちゃんは天然すぎるのだ。……で、どうするのだ? お兄ちゃん」
中井出「OH?」

 どうって……なに?

張飛 「お兄ちゃんは鈴々たちの主人になったのだから、
    行き先を決めるのはお兄ちゃんの仕事なのだ」
中井出「主人? …………なにそれ」
関羽 「そう……ですね。確かに鈴々の言う通り、あなたは我らのご主人様だ」
中井出「なんですっていつの間に!?」
桃香 「じゃあご主人様。白蓮ちゃんのところに行ってもいいかな?」
中井出「《ぎろり》」
桃香 「はうっ! ……だ、だめだよ?
    ご主人様はご主人様なんだから、様付けで呼ばないと……」
中井出「様は嫌いだ! しかも主人なんてガラじゃない!
    というわけで桃香が主人さ!」
桃香 「えぇっ!? だ、だめだよ〜! 御遣い様を差し置いて私が主人なんて!」
中井出「関羽も桃香が主人の方がいいよね!?」
関羽 「私は桃香様の意思に従うまで。それに、私は貴方でいいと思います。
    私に刃を向けられても怯えもしなかったその胆力。素晴らしいと感じました」
中井出「あれぇ!? ちょ、張飛は!?」
張飛 「鈴々なのだ!」
中井出「いやべつに自己紹介しろって言ってるんじゃないよ!?」
張飛 「そうじゃないのだ! お兄ちゃんは鈴々たちの主人なんだから、
    鈴々たちのことは真名で呼ぶのだ!」
中井出「あれぇ!? なんかもうご主人様確定なの!? いやちょっ……えぇえ!?」

 オウマイガァ!(おかしすぎるわよ!)
 なんで!? どうしてこんなことに!
 ご主人様なんて言われたら、なんか仲間って感じがしなくて嫌じゃないか!
 僕どうせなら仲間がいい! 主従関係なんて大嫌いさ!
 ……な〜んて僕の気持ちも知らず、

関羽 「ご主人様。私のことはどうぞ、愛紗と呼んでください。それが私の真名です」
中井出「ア、アワワーーーーッ!!」

 もはや、拒否は受け付けねーってところまで、話は進んでらっしゃったとさ……。


……。


 こうして女将の見送りを僕らは、公孫賛様の本拠地に向かって出発した。
 しかしその途中で、女将っつーかおかみに聞いたとある場所を求め、道を少し逸れながら広大な平原を歩いておりました。

桃香 「このあたりかな……」
愛紗 「おかみから聞いた場所はこの辺りですね」
鈴々 「きっと丘の向こうにあるんじゃないかなー?」

 目指しているのは、まあ解る人には解るであろう場所。
 鈴々の言葉に皆様が頷く中で、僕はとうとう抗えなかったご主人様呼ばわりの事実にぐったりしつつ、丘を登る。
 そして───

中井出「オ〜〜〜〜〜〜ッ」

 辿り着いたのは、見るも鮮やかな一面桃色の世界。
 桃色の世界とか言うのがイヤラしく聞こえるキミ、終わってンなテメー。
 うん、僕もいろいろと終わってる。

桃香 「これが桃園かー……すごいねー♪」
愛紗 「美しい……まさに桃園という名に相応しい美しさです」
鈴々 「さぁ酒なのだー!」
中井出「雅である!」《どーーん!》
愛紗 「ご主人様……」
中井出「え? なに?」
桃香 「あははっ、鈴々ちゃんとご主人様は雅よりもお酒か〜」
中井出「え? ……あれ!? いや違うよ!?
    僕ちゃんと景色に向けて雅って言ったんだよ!?
    え……なんで色気より食い気みたいに思われてるの!?
    言うのがちょっと遅れただけだよ!? ちょ……聞いてよ! ねぇ!
    仕方がないですねって顔でお酒の席用意し始めないでよ愛紗!」
愛紗 「ええ、解っていますとも」
中井出「う、うそだ! なんか物凄くやさしい顔してるよ!?」

 どれだけ言っても信じてもらえそうもなかったっす。
 だって笑顔のままで杯渡すんですもん、取り憑く島もないよ。
 が、しかし、古の酒には興味があったので素直に頂くことにした。
 つーかこれ、あれだよね? 僕も原中もみんな大好きな───

桃香 「これからどんな困難が待ち受けてるか解らないけど、
    みんなで頑張ればきっともっとたくさんの人を救えると思うから。
    ご主人様、もう一度言うね。私たちに力を貸してください」
中井出「断る!」《どーーーん!!》
桃香 「えぇええぇええええええっ!!?」
愛紗 「なっ……ご主人様!?」
中井出「もちろんウソです」
鈴々 「にゃはは、お兄ちゃんはやっぱり変な人なのだ」
中井出「うむ、それは胸を張って言えよう、ぞ……。では、結盟の誓いを。この桃園に」
桃香 「うー……うん」
愛紗 「はっ」
鈴々 「了解なのだ!」

 一言を口にするや、俺と、少女三人が酒を注いだ杯を高く掲げる。

愛紗 「我ら四人っ!」
桃香 「姓は違えども、姉妹の契りを結びしからは!」
鈴々 「心を同じくして助け合い、みんなで力無き人々を救うのだ!」
中井出「たとえ同年、同月、同日に産まれることを得ずとも!」
三人 『願わくば同年、同月、同日に死せんことを!』
中井出「……乾杯!」

 カキッ……と、渇いた音が頭上で鳴る。
 杯に注がれた酒はゆらゆらと波立ち、だがこぼれることなくそれぞれの口に含まれ、嚥下される。
 世に有名な桃園の誓い。
 その“事”の意味を胸に刻みながら、俺は戦乱に満ちた歴史の中に一歩、足を踏み出した。
 ……ええ、なんか知らんが天下統一を目指すことになってしまったがよ。
 面白そうだからいいけどね?




03/公孫さん(笑)

 桃園で結盟を誓った俺達は、公孫賛の本拠地へ向かい、街で情報収集を…………行わなかった。
 というのも、

中井出「なんとまあ……じゃあ桃香は公孫さんの友達みたいなものだ、と」
桃香 「うん。白蓮(ぱいれん)ちゃんっていうんだ。
    あ、でもその、公孫さんじゃなくて、公孫賛さん、だよ?」
中井出「発音的には公孫さんのほうがいいと思うんだが」

 桃香が公孫賛殿と知り合いらしい。
 だったらヘタな小細工無しで堂々と正面から義勇兵に志願しましょう作戦。

愛紗 「しかしご主人様、兵を一人も持たぬものが志願したとして、
    門前払いがせいぜいでは……」
中井出「ん? そりゃないでしょ。
    だって義勇兵を募るってことは、それだけ人手不足だってことだし。
    猫の手も借りたい状況で、せっかくの志願者を門前払いするっていうなら、
    そいつにゃあ戦いに勝利する“覚悟”ってのが足りないよ」
愛紗 「なんと……そこまでお考えだったのですか」
中井出「いやあの、普通じゃない?」
桃香 「ん〜……でもご主人様、それだと兵としての志願になって、
    私たちただの兵士さんになっちゃうんじゃないかな」
中井出「大丈夫でしょ。その公孫賛がかつての友を突撃兵にしかしない人なら、
    それならそれで罵倒の一つでも飛ばしてやるさ。
    確かに俺達ゃ駆け出しで名前もない、周りから見ればただの夢見る四人組だ。
    だがな、桃香よ。“解ってくれる人は居る”。
    俺達はただ、将として志願し、公孫賛に兵を分けてくれと正直に言えばいい。
    事実として駆け出しの我らがなにを飾る必要があろう。
    初心忘るるべからず。いくら力をつけようが、
    俺達は今この時の自分を決して忘れてはならん。今この時を生きる自分たちは、
    いつか力を得た自分たちよりもよほどに強かったのだと思い出してみろ。
    兵もない、兵糧も満足になく自国も持たぬ、雑兵と言われても仕方のない我ら。
    だが立ち上がろうと決意し、ここに集ったその意思。
    それは未来の我らにも負けぬ、立派な意思であろうよ」
桃香 「ご主人様……」
愛紗 「…………素晴らしい」
鈴々 「にゃー……お兄ちゃん、顔に似合わずかっこいいこと言うのだ……」
中井出「ほっといてよもう!!」

 ……と、話しながら城へ。
 もちろん俺は本物の城なんぞ見るのも初めてで、ホォオオオ……と息を吐いたものです。

兵士×2『何用か!』

 しかし門をくぐろうとしたところで、ガシィン!と交差する槍に道を塞がれた。

中井出「押忍! 将に志願しに参った、中井出と申す者!
    聞けば盗賊を討伐するために義勇兵を募っていると聞く!
    そこに我ら四名を加えていただきたく参った!」
兵士 「将として……? ならば兵は何処だ」
中井出「おらぬ!」《どーーーん!!》
兵士 「兵が居ないぃ……? それでどうやって将を気取っているつもりだ」
中井出「そりゃお前、武力と知力よ」
兵士 「……胡散臭いやつだが───おい」
兵士 「ああ」

 兵士の一人が城の中へと走ってゆく。
 うむ、やはり誠心誠意真心込めて向かい合えば、案外解ってくれるものさ。
 そうして待つ事しばらく。
 戻ってきた兵士に下にも置かない扱いで玉座の間へと通された。
 まあ、彼は門番だったために、侍女らしき女性の誘導に従うことになったんだけど。

  ゴッ……ゴ、カァアン…………!!!

 重苦しい音とともに玉座の間への扉が開かれる。
 そこは……なんというか“おお玉座の間!”といったいかにもな感じで、

???「桃香! ひっさしぶりだなー!」

 入るなり、玉座に座っていたねーちゃんが、玉座へと続く階段を駆け下りて桃香に抱きついてきた。
 対する桃香もそれを受け止めて、「きゃー、久しぶりだねー」と燥いでいる。
 ……どうやらあのねーちゃんが公孫賛らしい。
 ウウヌ、この世界じゃ三国演義の皆様は女性なんでしょうか。
 公孫賛っていったらもっとこう……ねぇ? まあいいけど。
 こういう状況には慣れてるし、混乱するよりも楽しんだもの勝ちだってのも知ってる。
 と、ボケェとしている間にとっとと話は進んだらしく……どうやら公孫さんとは三年ぶりにもなる再会だったとか。

公孫賛「天の御遣い、ねぇ……」
中井出「ねぇ、力の限り頬を叩いていいかい?」
公孫賛「あ、いや、じろじろ見たのは謝る、すまない」
桃香 「あーーーっ! 白蓮ちゃん、私のこと信じてないのーーっ!?」
公孫賛「いや、桃香の言ったことは信じる。
    桃香は一度だって嘘をついたことがないからな。
    ただその……それっぽくないな、って」
中井出「ほうほう……では訊こう。貴方の御遣いのイメージってどんなの?」
公孫賛「え? そりゃあ……こう、神々しくて凛々しくて」
中井出「なるほどなるほど……そこまで言われたら、本当の我を見せざるを得まい」
公孫賛「なに? 本当の───?」
愛紗 「ご主人様? それはどういう───」

 今まで黙っていた愛紗にニコリと微笑を返し、ステータス移動を開始する。
 そして───

中井出「CHRマックス! 愛……果てしなく!!」

 キョワワワワァ〜〜〜ン♪

公孫賛「《ズキューーーン!!》はううっ!!!」
桃香 「《ズキューーーン!!》ふわぁあっ!!?」

 愛紗と鈴々からは見えない位置から、公孫賛目掛けてチャームを発動!
 ……したっけ、近くに居た桃香まで巻き込んでしまった。

公孫賛「な、なんだこの胸の高鳴りは……! う、うううう……!?
    これが……これが御遣い……!? なんと神々しい……!」
桃香 「あわ、あわわ、ふわわわ……! ご、ごごごしゅじ、じじじ……!!」
中井出「はい終了」
公孫賛「ぷはぁっ!!?」
桃香 「あうぅうっ!!」

 スキル効果を切ると、途端に盛大に息を吐く二人。
 うむうむ……この世界でも問題なくスキルが使えるようでなにより。

中井出「信じた?」
公孫賛「…………《かぁああ……!》」
桃香 「…………《もじもじ……》」
中井出「アレ?」

 なにやら二人とも真っ赤になって俯いてる。
 えーと……どうしよう。
 愛紗も鈴々も状況がよく解らないみたいだから質問を飛ばしまくってきてるし……よし、ここはさっさと話を進めてしまおう。

中井出「それでえーと。公孫賛殿? 我ら四人、公孫賛殿のところで盗賊退治をするため、
    義勇兵を募っていると聞いて参上した。手伝ってもよろしいか?」
公孫賛「へわぁっ!? あ、は、はい! それは───じゃなくて!
    あ、ああっ! ごほんっ! はぁ……! そ、そうか、そうしてくれると助かる。
    兵の数はそれなりに揃っているが、
    指揮できる人間が少なくて悩んでいたところなんだ。
    ……聞くところによると、一兵もなしに志願してくれたらしいけど……」
中井出「うむ。我ら四人、未だ駆け出しの名も栄えぬ修羅よ。
    桃香と行動を共にしているのは、俺と関羽、張飛の三人だけだ」
公孫賛「関羽、張飛って後ろの二人のことか?」
中井出「御意」

 ちらり、と公孫賛が視線を俺の後ろに向ける。
 と、愛紗が一歩前に出て挨拶を。

愛紗 「我が名は関羽。字は雲長。桃香様の第一の矛にして幽州の青龍刀。
    以後、お見知りおきを」
鈴々 「鈴々は張飛なのだ! すっごく強いのだ!」

 続いて張飛が挨拶をし、また一歩下がる。

公孫賛「う、うーん。……宜しく頼む、と言いたいところだが、
    正直に言うと、二人の力量が解らん。どうなんだ、桃香」
中井出「うむ、俺も知りたい」
愛紗 「ご主人様……」
中井出「いやそこで呆れられても。だって実際知らないし」
鈴々 「大丈夫なのだ! 鈴々と愛紗はすっごく強いのだ!」
桃香 「そうだよ〜、二人ともね、すっごく強いよ。私、胸張って保証しちゃうよ♪」
公孫賛「保証ねぇ。……桃香の胸ぐらい大きな保証があるなら、
    それはそれで安心なんだけど」
桃香 「む、胸のことは言わないでよぅ」

 うむ、大きいのはいいなぁ。じゃなくて。
 顔を赤くした桃香を見ながら、呆れるのか笑うのかをどっちかに絞れない公孫賛が変な顔で笑ってる。
 そんな時、俺達の後ろから聞こえるひとつの声と足音。

???「やれやれ。太守であり義勇兵を募っている張本人である伯珪(はくけい)殿が、
    その二人の力量を見抜けないのでは話になりませんな」
中井出「誰だぁあああああっ!!」

 と、無意味に力一杯言いつつ振り向いてみると、痺れ毒を含んだような言葉とともに一人の美少女が姿を現した。
 ……あの、なんですか、その丈の短い振袖めいた服。

公孫賛「むぅ……そう言われると返す言葉も無いが、
    ならば趙雲はこの二人の力量が解るとでも言うのか?」
趙雲 「当然。武を志す者として、
    姿を見ただけで只者でないことくらいは解るといいうもの」
中井出「なんですって!? じゃあ僕は!?」
趙雲 「……………………」
中井出「………」
趙雲 「いや、誰しも自分が強くあると慢心することはあるだろうが───」
中井出「なに初対面で妙な気遣いしてるの!? やめてよもう!!」
公孫賛「いや……こんなことを言って悪いとは思うが、どう見てもお前は村人あたりだろ」
中井出「わぁ、ひどいのにその印象が嬉しい。で、キミは……趙雲子龍で間違いない?」
趙雲 「っ!? ……ほお。飄々とした顔をして、なかなか油断のならぬ人のようだ」
中井出「いや……飄々っていうか……
    今公孫賛さん言ったよね? 村人あたりって言ったよね?」

 なのにそんな風に言われても素直に喜べない僕がいます。
 そんな僕の戸惑いをあっさり無視して話を続ける子龍さん。
 うん、博光悲しい。

趙雲 「我が字をいつお知りになった?」
中井出「御遣いの力で知りました」
趙雲 「なんと……御遣いなど眉唾だと思っていたが。
    その言葉が真実ならば、なかなかどうして、
    エセ占いと口走った口を戒めてやる必要がある」
中井出「本物かどうかはまあそちらの判断で。
    だが信じてくれている桃香たちのためにも、本物であり続けるだけであるぞ」
趙雲 「……なるほど、ふふっ……中々の器量のようだ」
公孫賛「おいおい。私を捨てて御遣いの下に入るというんじゃないだろうな、星」
趙雲 「さて。それはまだ解りませんな。
    ただ……天下を憂う者として、徳ある主君に仕えることこそ喜び。
    さて、中井出殿がどのような主君になるのか」
中井出「主君って立場にはあんまり興味がないんだけど……あ、そうだ。
    それで俺達の参加は歓迎されるのか?」

 ハタと気づいて言ってみる。
 と、二つ返事でOKだった。

公孫賛「……ああ。桃香の力は良く知っているし、他の二人に関しても、
    星が認めるほどの力を持っているようだしな。
    一抹の不安は残るが、残念ながら当家には他に人物が居ないんだ。
    今は藁にも縋りたい。私に力を貸してくれ」
三人 『あ』
趙雲 「?」
中井出「断る!」《どーーーん!!》
公孫賛「なぁあーーーーーーーーーっ!!?」
三人 『やっぱり……』
公孫賛「な、な……どうしてだ!? 志願してくれたからここに居るんだろ!?」
中井出「もちろんだ!」
公孫賛「だ、だったらなにが悪かったんだ!? 私、おかしなこと言ったか!?」
中井出「否!」
公孫賛「〜〜〜……!? …………!!」
趙雲 「……ああ、ふふっ……なるほど。貴方も人が悪い。
    伯珪殿、今のは冗談のようだ、そう混乱する様を見せるものではない」
公孫賛「冗談!?」
中井出「うむ!」《どーーーん!》
公孫賛「…………は、はぁあ…………」

 あ、なんかすっごく脱力してる。
 いやぁしかしここまで簡単に混乱するとは……良い人なんだけど、人を信じすぎだねこりゃ。
 いつか身を滅ぼす信じ方ですよこれ。




04/合戦

 そんなこんなで部隊編成。
 日を跨ぎつつあっという間に事は運ばれ、城の前に立つ我らと……まさに壮観なり、とか言いたくなるくらいの人、人、人。
 全部公孫賛のところに集まった人々だ。
 義勇兵半分、正規兵半分と言ってたけど、ううむ……人の波とは凄まじい。
 こんなの映画でしか見たことないよ。

愛紗 「我らは左翼の部隊を率いることになりました。新参者に左翼全部隊を任せるとは、
    なかなか豪毅ですな、白蓮殿も」
桃香 「それだけ期待されてるって思っていいのかな?」
中井出「そうだろうねぇ。……鈴々、頼むよ?」
鈴々 「任せろなのだ! ……お兄ちゃんはどうするのだ?」
中井出「うむ。この博光も剣を持とう。
    あ、でも兵士はいいや、言っちゃなんだが邪魔になる」
桃香 「え?」
愛紗 「なっ……まさかお一人で敵陣に踏み入るおつもりで!?」
中井出「その通りである!!」

 言いながら、ドンッと胸を叩いて、自信満々な鈴々の頭を撫でていると、

公孫賛「諸君! いよいよ出陣の時が来た!」

 軍の先頭に立っている公孫賛の演説が始まった。
 さすがにそうなっては声を出すわけにもいかぬと思ったのか、愛紗は僕を睨みつつも口を噤む。
 うっふっふ……こんな無双チックな状況、兵士を連れて楽しめるわけがございません。
 そうやって微笑む中で、とうとう出陣の合図が高鳴る。
 途端に愛紗が俺に注意を散々と……ウヌヌ。

愛紗 「とにかく! いけません!
    ご主人様は自分がどのような立場か、まるで解っていない!」
中井出「御遣いですとも!」
愛紗 「ですから! 単独で突撃など許すわけもないでしょう!」
中井出「でも聞いて! ここで“御遣いって意外とやるんだぜ!?”とか思わせれば、
    御遣いが乱世を平定させるって話も眉唾とか言われなくなるぜ!?」
愛紗 「それはそうかもしれませんが無謀です!
    敵は確かにたかが盗賊! されどその数は我々の倍は存在します!」
中井出「うーん……大丈夫だと思うけどなぁ。ねぇ、そいつらって強い?」
愛紗 「強さは……そこいらの食い扶持に困った農夫などが
    盗賊に成り下がっただけの烏合の衆だとは思いますが、数の問題では……」
中井出「ああ、なら大丈夫。俺一人でも勝てるよ?」
愛紗 「ご主人様! それは───」
中井出「わっはっはっはっは! ああもう愛紗は可愛いなぁ」
愛紗 「《なでなで》なわっ!? ごごっごごご主人様!? なにを───」

 あんまりにも一生懸命に僕の身を案じてくれる愛紗。
 その頭を撫でると、ボムンと茹蛸のように真っ赤になる……ううむ面白い。

桃香 「あのー……ご主人様?
    そういえば立ち入って訊かなかったけど……ご主人様って強いの?」
中井出「えぇとそうだね……武器さえあれば、とりあえず竜を一撃で殺せるくらいは」
桃香 「───」
愛紗 「……はぁ」
鈴々 「にゃはははは! お兄ちゃん面白いこというのだー!」
中井出「いえあの…………わはははは! 面白かったか鈴々ー!」
鈴々 「《がばー!》にゃー!」

 なんか思いっきり引かれたので、場を和ませるために鈴々を後ろから軽く抱き、一気に高い高いをして、その状態から肩車。
 お気に召したのか、きゃいきゃいと燥ぐ鈴々と、それを嗜める愛紗、そしてくすくすと微笑む桃香とともに、俺達は盗賊どもが存在するといわれる場までの道のりを歩いた。

……。

 ややあって───

公孫賛軍兵「斥候が盗賊を確認しました!」
愛紗   「いよいよか……!」
兵士A  「全軍停止!
      これより我が軍は鶴翼の陣を敷く! 各員粛々と移動せよ!」
中井出  「じゃあ……ここまでだね?」

 言いながら鈴々を肩から下ろし、そそくさとその場から退場を───

愛紗 「なりません」
中井出「《がしぃ!》えぇっ!? なんで!?」

 捕まった。

愛紗 「ご主人様は敵というものを甘く考えておられる!
    確かに人間誰しも、己が一番強いであろうと思う時もございます!
    しかしながらご主人様! 貴方様からは、その……!
    無礼を承知で言わせていただきますが、戦人の覇気をまるで感じない!
    あなたでは人を斬ることさえも巨大な壁となって───」
中井出「あ、待った愛紗。それは誤解だ。俺の剣は、もう人を斬ってる」
愛紗 「! ……そ、それでもです! この数を相手に一人でなど───」
中井出「じゃあ桃香を負ぶって行くね! いい!?」
愛紗 「なっ……! それこそ危険です!」
中井出「なんでじゃーーーっ!! 有名にならんきゃいかんのでしょう!?
    あ、でも桃香に人の死を間近で見せるのは辛いか……?」

 ふうむどうしたものか……と悩んでいると、次々と完成してゆく鶴翼の陣。

中井出「よし、じゃあこうしよう。愛紗、俺と来てくれ」
愛紗 「ご主人様!?」
中井出「天の御遣いである我が力、その眼に焼き付けよ。
    本気を出せば一分かからず終わるけどね、それはちとつまらん。
    だから無双チックに乱舞したい! ……こんにちは、博光です」
愛紗 「し、しかし……」
中井出「ええい埒もなし! 俺はゆくぜ!」
愛紗 「なっ! 待っ───」

 俺が身を翻すや愛紗手を伸ばすが、その手をひらりと躱してレッツ突撃!

声  「ご主人様!? ご主人様ぁあーーーっ!!」
声  「お兄ちゃん待つのだー! 武器を忘れてるのだー!」

 走る。
 聞こえる声など無視でよかりんす。
 何故って、武器ならとっくに……我が両手の霊章に存在しているのだから。

中井出「さあ、いくぜ相棒!」

 クッ、と両手を広げると、最初からそこにあったかのように出現する双剣。
 名を、灼紅剣ジークムント、蒼藍剣ジークリンデ。
 どちらも人が片手で振るえる大きさの範疇など越えていて、突撃してきた俺を発見して騒ぎ始める盗賊にしてみれば、きっとこれはただのハリボテに見えたことだろう。

  ───だが。
  盗賊の下卑た笑いも、俺を追う愛紗たちの心配も、一瞬で驚愕に変わる。

 一撃目からにして異常だった。
 ハリボテを軽くいなして殺してやろうと、ジークムントを片手に持った短剣で受け止めようとした盗賊は一撃で両断。
 思わず笑いが止まった瞬間に、ジークムントに斬られたことで爆発する仲間の姿に、盗賊どもには一瞬にして動揺のみが走る。
 そうした瞬間に既に放った横薙ぎの剣閃が一瞬にして盗賊数百を斬滅し、ヤケクソになり攻撃を仕掛けた盗賊がフレイムサークルで身を焦がし、爆発し、粉微塵になって消える。
 そこからはスキルなぞ一切使わず。
 長剣化させたジークフリードにて、思う様に振るい、斬り殺し───事実、一分とかからぬ内に……盗賊どもは全滅していた。
 本気を出したわけでもないのにこの始末……なんという弱さ。

愛紗 「こ、れは…………なんという……!」

 その一分とかからぬうちにこの場に辿り着いた者達にしてみれば、こんなものは夢幻。

中井出「やあ」
愛紗 「やあではありませんっ!!」
中井出「キャーーーッ!!?」

 でも怒られた。

中井出「ど、どうして怒るの?」
愛紗 「当然ですっ! 勝てたからいいものを……!
    もし囲まれ、死んでしまったらどうするおつもりか!」
中井出「うーん……死んでるならどうしようもないんじゃないかな」
鈴々 「それもそうなのだ」
愛紗 「鈴々っ!!」
中井出「はっはっは! 鈴々は素直でいいなぁ! ほ〜ら高い高ーーーい!」
鈴々 「にゃーーーーっ♪」

 愛紗が顔を赤くして怒る中で、俺は再び鈴々を持ち上げ、肩車。
 と、そこで気づいたのか、鈴々が俺の髪の毛をさわさわと触りながら言う。

鈴々 「あにゃ……お兄ちゃん、あれだけ戦ったのに血が全然ついてないのだ」
中井出「戦い方にもいろいろあるのさ」
鈴々 「へー……すごいのだ」

 感心する鈴々をよそに、どこか、おずおずと人垣の中から出てくる桃香を発見。
 俺を見て、少し気まずそうにしている。
 …………ふむ。

中井出「桃香」
桃香 「《びくっ》」
中井出「…………おいで」

 ちょいちょい、と手招き。
 すると、やはりおずおずと近づき、俺の前に来る。

中井出「見ての通りだ。俺の剣は人を殺すし、
    俺はきっと、お前が想像するよりも数多くの人を殺してる。
    でもな、桃香。これだけは胸に刻んで忘れるな。
    戦場ってのは、生き死にの場所だ。戦場に身を置く時点で大人も子供も関係ない。
    命を刈り取れるのは、命を刈り取られる覚悟を持った者だけだ。
    そして俺は戦いの中で殺されるのなら、それは仕方のないことだと理解している」
桃香 「……うん」
中井出「……解るか、桃香。盗賊が金品を強奪する際、
    例えば面白半分でついでに人を殺したとする。
    その時点で、そいつはもう“殺されても文句が言えない存在”にまで堕ちるんだ。
    金品を奪われた存在は、果たして金も無しに生きていけるだろうか。
    糧を奪われた民は、なにを口にして生きていけばいい。
    想像してみろ。慟哭しながら己が子の肉を食べ、涙しながら生きる親の姿を。
    この世界には、俺達が見えていないだけで沢山の悲しみと苦しみが存在する」
愛紗 「ご主人様……」
中井出「でもな、桃香。それを今いっぺんに助けよう、
    なんてことはとてもじゃないが無理だ。
    お前が愛紗と鈴々と一緒に小さなことを助けていたことを限界に思ったように、
    俺達には出来ないことが沢山ありすぎる」
鈴々 「お兄ちゃん……」
中井出「だからな、桃香。沢山の友達を作れ。この世界で、こんな乱世の世の中で、
    それでも肩を並べて笑ってくれる人を見つけろ。
    一緒に泣いてくれる人を、喜んでくれる人を見つけろ。
    お前がそいつらの“特別”である限り、
    そいつらもまたお前の“特別”で居てくれる。
    ……お前はそんな“特別”の輪の中で真っ直ぐ前を向いて、
    自分が辿り着きたい理想を、
    我が儘でもいい、精一杯の理想を描いて追い続けてみろ。
    その場所まで、俺達が必ず連れてってやる」
桃香 「………でも」
中井出「俺達がお前の剣になる。
    血を見る苦しみも、冷たくなってゆく人を見届ける悲しみも、
    お前だけが背負うんじゃなく、俺達で背負っていこう。
    ……お前は一人じゃない。お前が俺達にとって特別である限り、
    俺達もまた、お前の特別であると信じてる。
    だから、な? 自分にこそ出来ることを自分の手で叶えてみろ。
    お前が戦えないなら俺達が戦う。お前が笑えなくなったら俺達が笑わせてやる。
    だから───代わりに、いつも笑顔でいてくれ」
桃香 「───! あ……」

 そう言って、頭を撫でた。
 何処か怯えた表情だった桃香が俺の目を見て……その目が、そっと潤んでゆく。

中井出「……人を殺す俺は、怖かったか?」
桃香 「〜〜〜〜!《ふるふるふる……!》」
中井出「………」

 怖かったに決まってる。
 のほほんとしていた俺だ。
 竜を一撃で殺せるなんて、きっと冗談だと思ったに違いない。
 自分のように戦えない人なんだと思っていたのかもしれない。
 その全てが全部違っていたのなら、彼女にとっての御遣いである俺の印象はどう変わったのか。
 そこまで考えて、俺はふっと笑った。
 俺の目を覗く瞳が、どこか決意に満ちていくのが解ったから。

桃香 「ご主人様……わたし、もっとたくさん友達をつくる!
    わたしに足りないたくさんのものを持っていて、
    優しくて、わたしの力になってくれる人を。
    その代わり……私もその人達に足りないなにかになるね!」
中井出「……ああ。それでいい。というわけで政治全般よろしく」
桃香 「えぇぅ!?」

 ヘンな声が聞けた。

愛紗 「ご、ご主人様………………少しでも感激したわたしが…………
    い、いや、感激したのは事実で、少なくともウソはなかったわけで……ううう」
鈴々 「にゃはは、やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんなのだ」
中井出「うむ! というわけで公孫賛殿!
    特に犠牲もなく終わりました! 最強!!」

 離れた陣から、複雑そうな顔でやってくる、公孫賛と趙雲と合流。
 真剣に、天の御遣いって強いんだな……と感心された。
 そんな公孫賛殿と、鈴々を肩車したままに握手。
 ……まあそれはよかったんだけどさ。

  チキ───

中井出「OH?」
愛紗 「なっ───星!」

 星……いつの間に真名を許し合ったのかは知らんが、星と呼ばれた趙雲が俺に向けて太刀を構えておりました。
 太刀っつーか槍っつーか。

中井出「……えーと、なんでしょう」
趙雲 「おかしなことを。武人として、強い者と戦ってみたく思うのは当然のこと。
    少々、お付き合い願いたい」
中井出「…………フ、フフフ……そうかそうか……フフ。荒々しい気よ。
    落ち着いているように見せて、内側は暴風域。
    趙雲よ。そんなことではいつか足下を掬われるぞ」

 言いながら鈴々を地面に下ろし、その頭を撫でる。
 う、ううむ、この背の高さにして髪の触り心地……ナギーを思い出して仕方なや。

趙雲 「ほお。それだけ言える口ならば……退屈もせずに済むというもの!」

 それは一瞬の閃き。
 肩から先が跳ねたと思った瞬間には槍は走り終え───

趙雲 「…………!? 居な《がばぁっ!》うひゃあっ!?」

 槍を突き出した状態のまま、低い体勢で固まっていた趙雲を、後ろから抱きすくめる。
 これにはさしもの趙雲も驚いたようで、なんともうむ、可愛らしい悲鳴を聞けました。肉声でお聞かせできないのが残念でしょうがない。って、誰に言ってんでしょう俺。

中井出「……攻撃する時、あまり殺気を出し過ぎないように。
    これじゃあ暴徒は刺せても、空を飛ぶ燕は斬れんなぁ」
趙雲 「う、うむむ……」

 抱きすくめ、少し浮かしていた趙雲が大人しくなった頃合を見て地面に降ろす。
 そして頭をぽんぽんと撫でると、公孫賛のもとへ───

趙雲 「お待ちいただきたい」
中井出「え? なに?」

 行こうとしたら聞こえてきた声に振り向く。
 そこにはまあ、趙雲。
 再び槍を構え、なにかをじっと待っている。

趙雲 「……失礼だが、武器を構えて頂きたい」
中井出「………」
趙雲 「無礼は承知。だがこのままではあまりに納得がいかない。
    わたしが己の武に慢心していたことは認めましょう。
    だが、だからこそ戦っていただきたい」
中井出「いいよ? 最弱、弱い、普通。強い、全力の五つのコースがあるけど。どう?」
趙雲 「こーすというのがなにを指すものなのかは解りかねますが。出来れば全力で」
中井出「……後悔することになるよ?」
趙雲 「フッ……それを決めるのは私。相応の覚悟を以って挑ませていただく」
中井出「よろしい。ならば───いくぜ相棒! 全快フルバースト!!」

 ドォッゴォオンッ!!!

趙雲 「───!?《ぶるるっ……》なっ……か、体が震えて……!?」

 この博光を中心に風が吹き荒れる。
 人器、ドラゴンインストール、鬼人化などといった様々な能力が解放され、最後にアハツィオンの光の外套が解放されると、一気に活性化されたユグドラシルがついに完全に復活を果たし───そうなると、吹き荒れる風はもう止まらなかった。

愛紗 「っ……く、うう……! なんという威圧感……!
    これがご主人様の……御遣い様の力……!?」
公孫賛「星! せーーーい!! 降参しろ!
    この威圧感……異常だ! 星ーーーッ!!」
趙雲 「……馬鹿な。己から願っておいて、何故なにもしないまま降参出来ましょう。
    とはいえ、ここまで己が体が動かなくなるとは、少々想像だに……」

 ……ううむ、しかしこれではまるでクシャルダオラだ。
 なんとかならないかなこの風……えーと……うりゃっ!

  ビッタァッ!!

鈴々 「わぷっ!……あ、風が止んだのだ」
桃香 「! 星さん!」
趙雲 「っ───はぁああああああっ!!!」

 風が止むや、それを合図にするかのように地を蹴る趙雲。
 裂帛の気合とともに、小細工無しの全力の打突で仕掛けてきたらしく、俺の胸部目掛けて煌く槍が走る───!

  ヴォファゴバァンッ!!!

趙雲 「───! …………」

 その一撃をジークフリードのひと振りで叩き潰した。
 趙雲が突き出した槍は叩き折れ、地面に転がると───武器を構えたままの体勢で疾駆をした趙雲もまた、失意を胸に地面に倒れ伏そうと……

中井出「ならぬ」
趙雲 「《ガッ!》っ!」

 否である。
 擦れ違うように倒れゆくその体を、武具を霊章に納めた左腕で受け止め、どこか呆然としている彼女をよっこらしょと立たせてやると、

中井出「うむ。見事な一撃であった」

 そう言って頭を撫でてやる。

趙雲 「あ、う…………わ、たしは…………わたし、は……」
中井出「ふむ?」

 しかしやはり呆然としたように、こちらに濃い反応を示さない。
 ぬうこれは…………なるほど。

中井出「武芸の達者が自慢だったか。なれば安心めされい。
    負けを知らぬ武人なぞつまらんぞ。
    なればこそ、一度負けてみるのは貴重な体験だ。
    戦場ではなく、死を迎えぬ場所でそれを知ったこと、
    貴重な体験と受け取りめされい」
趙雲 「だが、わたしは……」
中井出「武人とは、何度か負け、初めて本当の武人となるのだ。
    負けを知らぬ者には失うことの怖さも、負けることの悔しさも解らぬ。
    そう気を落とすものではないぞ、趙子龍。
    槍ならばこの博光が新たな武器を作ってしんぜようではないか」
趙雲 「……、な、んと……よいのですか……」
中井出「うむ。御遣い印の新たな武器だ。
    今壊れたものよりもよほどに軽く、よほどに斬れるようにしてみせよう、ぞ」
趙雲 「……もったいなき処遇……」
中井出「……あれ?」

 なんか今とても嫌な予感が……あれ?
 な、なんか趙雲さん、やけにしおらしくなってませんか!? ねぇ!!
 あ、ああいや今はいいや今は……。

中井出「では今宵、街の宿にきなさい。その頃には完成しているでしょう。
    あ、なにか造形に拘りとかある?」

 言いつつ、メモを用意する。
 その軽い動作に趙雲は目をパチクリとさせるが、突然小さく噴き出すと、笑顔で拘りをそれはもう並び立てまくってきた。
 ……と、まあ小さなメモを覗きこむようにして話し合うわけだから、結構密着するわけで。
 何故だかそうなった途端、周りからの視線が冷たくなったような……あれ?

愛紗 「それはそれは……結盟を交わした我らにも作ってくれないような武具を、
    昨日今日会ったばかりの女性に……」
鈴々 「むー、星ばっかりずるいのだー!」
桃香 「よ、夜? 夜に部屋に招き入れるなんて《ずびしぃ!》はにゃあうぅっ!?」
中井出「邪推は結構! この博光、様々な冗談が大好きではあるが、
    武具に関することでは滅多に冗談は言わぬ!」

 顔を真っ赤にする桃香の額にデコピン一閃。
 とはいえ、確かに夜に部屋に招くってのは誤解を生みそうではありました、猛省。

公孫賛「いや、お前らそんなところで賑やかにしてないで……
    けどあの星が一方的だなんて、御遣いの力っていうのは本当に……」

 兵士が感心したり熱い溜め息を漏らしたりする中で、公孫賛殿が呆れたように漏らす。
 うむぅ、御遣いの力として相棒が褒められることのなんと心地よきこと。
 などと思いながら、額を押さえていた桃香の手をやさしくほどき、額をなでなで。
 ……なんかほっとけないんだよなぁ桃香って。
 もしやこれが数多の武将を惹きつけた劉備のカリスマ?
 この博光ともあろう者が、どうしてか桃香に物事を教える時はえらく真面目になってしまう。
 けど……うむ、悪い気はしません。

中井出「それでは公孫賛殿。そろそろ戻りますか」
公孫賛「ああ、そうだな。負傷者が誰一人居ないんだ、大手を振って帰れる」
桃香 「よっ、白蓮ちゃんっ。さすがっ」
公孫賛「いや、わたしたちはなにもしてないけどな……御遣い様の力あってこそだ」
桃香 「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいな」

 頭を中井出で終えたところで公孫賛殿を促すと、ようやく帰還準備。
 その中で趙雲から壊れた武器を預かり、大きさなどを猫奥義“キャットアイ”で観察してもらい、趙雲が頼む多きさなどを当て嵌めて完成予想図をイメージしてゆく。
 ううむ、やはり武具はいいなぁ。心がワクワクしてくるよ。

趙雲 「しかし伯珪殿。なにやら最近、おかしな雰囲気を感じないか?」
中井出「ぬ?」
公孫賛「おかしな雰囲気……? どうだろう、わたしは特に感じないけど……」
桃香 「白蓮ちゃん、のんびりしてるねぇ〜」
公孫賛「むむっ。確かにのんびりしているかもしれないが、
    桃香に言われるのは無性に腹が立つ……」
桃香 「あ、ひどぉい! わたしは白蓮ちゃんみたいにのんびりなんかしてないもんね!
    ……あ、あれ? ご主人様? どうしてやさしい目で頭撫でるの?
    はうふ、く、くすぐったいよぉ」
鈴々 「のんびりしてないって思ってるのはお姉ちゃんだけなのだ」
愛紗 「………」
鈴々 「愛紗も頷いてるのだ」
愛紗 「鈴々っ!?」
桃香 「う〜〜……! 愛紗ちゃんまでぇえ〜〜……!」
愛紗 「はっ、いえそのっ……ご、ごほんごほんっ!
    し、しかしっ……そう! お、おかしな雰囲気! 星の言うことも尤も。
    最近、特に匪賊どもの動きが活性化しているように感じます」

 焦った顔つきから一変、真面目な顔で言う愛紗。
 うん、でも話題逸らしたね。

趙雲 「おぬしもそう思うか……」
愛紗 「ああ。ここしばらく、匪賊は増加の一方だ。その者どもが村を遅い、人を殺し、
    財貨を奪う。……地方では既に飢饉の兆候すら出ている」
鈴々 「収穫した作物を奪われたりするんだから、当然飢饉も起こっちゃうのだ……」

 真面目な雰囲気が広がったのか、場の雰囲気は賑やかなものから一気に張り詰めたものへ。
 城へ帰る最中にいきなりこれですか……せっかくの善勝ムードがなにやら重いものに……。

趙雲 「うむ。それとともに国境周辺で、五胡の影もちらついているという。
    ……何かが起ころうとしている。そう思えるな」
愛紗 「大きな動乱に繋がるかもしれん、か……」
中井出「?」

 五胡ってなんだろ。
 どっかの勢力かなにかかな。
 三国志のことはあまり知らんからなんとも……。
 でも不安が現実化するのは世の常です。
 きっとその不安は現実のものとなりましょうぞ。

中井出「《ググッ》ぬう。腹減った」
全員 『………』
中井出「あれ? いやちょっ……なにそのジト目!
    お、お腹空いたんだから仕方ないじゃん! 空腹に罪はないよ!?」
鈴々 「鈴々もお腹空いたのだー!」
中井出「おお鈴々! 私の可愛い鈴々!」
鈴々 「《がばー!》にゃーーっ!」

 数々のジト目の中、一人賛同してくれた鈴々を抱き締め、やはり肩車にセットイン!
 うう、やっぱりナギーを思い出す。
 この軽さ、この体温、そしてこのコク、全てが懐かしく思えます。
 コクは関係なかったね。

中井出「メシ食おうなっ! メシッ! 今日は俺がたらふく食わせたらー!」
鈴々 「いっぱい食べるのだー! おー!」
中井出「おー!」
愛紗 「なっ……ご主人様! 我々には無駄に使える金銭などっ!」
中井出「大丈夫! 食材なら俺に任せろ! 料理も任せろ!
    天の御遣いが料理、とくと味わわせてくれるわーーーっ!!」
鈴々 「お兄ちゃんは料理も出来るのかー!? すごいのだー!」
中井出「すごいだろすごいだろー! わーーっはっはっはっはーーーっ!」
鈴々 「わーーっはっはっはっはーーーーっ!!」

 ジト目のみんななんてもう知らないんだからっ!《ポッ》
 などとツンデレ怒りを心の中でやっても埒もなし。
 なんだかんだで見えてきた城の景色を目に、俺は献立を頭の中で思い浮かべていた。

中井出「鈴々はなにが食べたい? 俺あんまりこの国の主食とか知らないけど」
鈴々 「鈴々はなんでも食べるのだ!」
中井出「なんでもかぁ……ううむ、料理人を常に悩ませる言葉の代表だな。
    ところで、ラーメンは好きかね?」
鈴々 「大好きなのだ!」
中井出「ほほう、ではメンマは?」
趙雲 「《ぴくり》」
鈴々 「嫌いじゃないのだ」
中井出「うむ……実はこの博光、ラーメンの中でもメンマラーメンが好きでしてな。
    チャーシューメンなどという肉ばかりのものではなく、
    メンマがふんだんに使われたあの味わい……たまりません。
    よし! ならば今日の献立はメンマ尽くしといきましょう!」
趙雲 「《……そわそわ》」
鈴々 「でもそんなにメンマなんてないのだ」
中井出「大丈夫! 何を隠そう、俺はメンマ作りの達人だぁあああああっ!!
    メンマの作り方も極上の筍も、この博光にかかればちょちょいのちょい!
    極上のメンマを……あなたに」
趙雲 「《……ごくり》」

 …………?
 なにやらメンマの話をしだした途端、熱い視線を感じるような……。
 …………気の所為だね!
 きっと戦いを終えたばっかだから緊張してるんだよ僕!




Next
top