05/メシャーテ

 そんなわけでメシです。
 城に戻った僕らは公孫賛殿の計らいで、宿ではなく城にあるいくつかの部屋をあてがわれまして。
 だがそんなものはどうでもよく、厨房を無断で占拠すると、早速料理ドン!といきたいところだったんだけど、ガスやレンジがあるわけもなく、
 これはどう料理したものか〜〜〜〜と思わず悩んでしまう。
 勝手が違うが、まあこの博光にとっては些事なことよ。

中井出「えーとまずは〜……」

 中庭を歩き、人目につかないところでドリアードスキルを解放。
 地面に触れて筍を生やし、成長させ、丁度のいいところで根ごと掘り起こすこと数回。
 厨房に戻ると早速メンマ作りを開始し、熟成に必要な時間を武具スキルで素っ飛ばし、極上のメンマをあっという間に完成させる。
 味付けなんかは武具に宿る様々な料理研究家(晦とか彰利とか穂岸)のものを流用、
 さらに応用を利かせて完成させると、次は料理のパターン。
 炎は炭火焼ファイヤーなどで手頃に調節して、これでもかというくらいに美味しく調理! この時代じゃ塩は貴重らしいけど、そこはそれ。弱大海嘯で塩水を出して乾かして天然塩を製作。
 米や小麦粉、油なども知識と経験を生かして肥料や田畑作りから一から完成させ───

中井出「イィイイイイイイイッハァーーーーーーーーッ!!!!」

 完・成……!!
 少々時間がかかってしまったが、これ以上ない最強のメンマ料理の誕生だ……!
 グェフェフェフェフェ……! 城の皆様の驚く顔が目に浮かぶぜ〜〜〜〜〜〜〜っ!!

……。

 そんなわけで皆様をお呼び、皆様で食事。

公孫賛「うわっ! す、すごい量だなこれは……」
趙雲 「……! ……!《キラキラ……!》」

 驚く者や目を輝かせる者、涎をじゅるりと飲むものや、微笑む者や呆れる者、反応はそれぞれでした。

中井出「さあ! 食べてみてよ!」
公孫賛「あ、ああ。けどよかったのか? わたしや星まで」
中井出「食事はみんなでしたほうが美味しいんだよ?」
鈴々 「はぐあぐむぐあぐ……!! …………───!
    う、うまぁああああいのだぁああああーーーーっ!!!」
愛紗 「わっ……! こら鈴々! 口にものを入れたまま喋るなとっ……!」
鈴々 「叫んでるのだ!」
愛紗 「そういう問題ではないっ!」
桃香 「まあまあ愛紗ちゃん、ご飯は賑やかなほうが美味しいよ。
    でも、へー……そんなに美味しいんだぁ。
    ご主人様が料理出来るってちょっと意外だったけど、うん、でも美味しそう」

 桃香ってたま〜に一言余計ですね。
 しかも自覚がないからねぇこの子ったら。

桃香 「《ぱく……コリ》ふわぁああああああーーーーーーーっ!!!?
    あわ、あわわおいしいぃいいいーーーーーーーっ!!!」
愛紗 「うわぁっ!? とと桃香様!? 桃香様まで!」
桃香 「あうっ、ごめんね愛紗ちゃんっ……で、でもね、これね!? これがねっ!?」
愛紗 「落ち着いてください」
桃香 「落ち着いてなんかいられないよぅ! ほらほら愛紗ちゃんもっ」
公孫賛「やれやれ、桃香は相変わらずだな……《ぱく》うまぁああああああっ!!!?」
愛紗 「ぷわっ!? こ、公孫賛殿!?
    というか何故皆一様にわたしに向けて叫ぶのです!」
中井出「理解の至らぬそこに……愛がある」
愛紗 「ありません!」
中井出「ご、ごめんなさい」

 怒られてしまった……と、視線を外すと、目を輝かせたままにいる趙雲を発見。
 ……趙雲といえば現在、ユグドラシル内部の猫たちの手で彼女の武器を製作中なわけだが。
 あ、もちろん必要な鉱石とかは精霊の力によって錬成したものだけど。
 と、それはいいとして……趙雲はまずは香りを楽しみ、すぅ……と息を吸うと、突如うっとりとし始めた。
 …………もしかしてメンマ好き? しかしそんなうっとりも半ばに、すっ……とメンマ料理を箸に取ると、ゆっくりと口に運び

趙雲 「!!!」

 なにやら物凄い衝撃を受けたように固まり、しばらくののちにこりこりと咀嚼、嚥下。
 ……う、ううむ、いちいち反応が面白いお子だ。
 いやしかし、皆様からの反応は極上。
 愛紗も思わず叫びそうになるのを懸命に堪え、周りのみんなに茶化されながらも素直に美味いと言っていた。

中井出(うむ……善き哉善き哉)

 死者もなく、笑顔がある。
 そんな当然のことを嬉しく思います。
 もちろん、全てを自分のためと思う基準はてんで変わってませんが、それでも。
 笑顔があるのはいいことだ。

中井出(……あとで壷にメンマでも詰めて、趙雲にあげるかな)

 きっと喜んでくれることでしょう。
 もちろん作り方はトニーだけの秘密の製法、ビタミンパワーのエネルギー。
 教えるわけにはいきませんがね。

桃香 「うう、ご飯もふっくらで美味しいよぉ〜」
中井出「太るぜ?」
桃香 「はうっ! ……だ、大丈夫だよ?
    鈴々ちゃんだってあんなに食べても太らないもん」
鈴々 「お姉ちゃんは食べた分が全部おっぱいに行ってるのだ」
桃香 「《かああっ!》やっ、なっ! そそそんなことないもん!
    それを言うなら愛紗ちゃんだって!」
愛紗 「なっ! 桃香様!? 急になにを!」
公孫賛「…………《ちらり》…………はぁ。いいよなぁ……胸に脂肪がいくやつは」
桃香 「いってないったらいってないもん!!」
鈴々 「説得力ないのだ」
中井出「あのねぇキミたち……食事中になんつーこと叫び合ってんの……」
桃香 「はうっ!? う、うぅう……」

 真っ赤になって叫び続けた彼女が、余計に赤くなってしょんぼり俯く瞬間だった。

趙雲 「ほお? 御遣い殿はこういった話はお嫌いで?」
中井出「ふぅむ……正直好きになった相手以外のことはあまり興味がないかもしれん。
    かといって、わざわざ突き放す趣味もない。普通ってくらいじゃないか?」
趙雲 「ふむ。御遣い殿は存外達観しておられるようだ。
    世の男どもは皆一様に、こういった話にはのってくると思っていたが」
中井出「はっはっは、この博光は例外よ。
    嫌悪するわけでもないが、積極的に混ざりたいわけでもない。
    ……桃香、安心しなさい。この食事は太らないように調節してある。
    よく噛んで食べれば、太ることもないよ」
桃香 「ほっ……なんだぁ〜……ってご主人様!?
    太るぞって言ったのご主人様だよ!?」
中井出「うむ。言っただけである」
桃香 「うあぁあ〜〜〜ん! ご主人様がいじわるだよぉ〜〜!」

 賑やかな食事が続きます。
 美味しい物を食べた時は会話が減るとは言いますが、そこはそれ。
 ここに居る皆様は喜びを分かち合える人達だ。
 わざわざ黙ることもなく、美味しいと感じたならみんなにも感じてほしい。
 そう思えるみんなだからこそ、こんなにも賑やか。
 俺はそんな光景に小さく頷きながら目を細めた。

  ピピンッ♪

 ……っと、そんな時に霊章から反応。
 どうやら趙雲の槍が完成したらしい。
 食事中に武器を取り出すのも……面白い。

  ズチャァアアア……!!!

桃香 「ふわぁっ!? ご主人様!?
    どどどうして槍を!? こここ殺さないでぇえええ!!」
中井出「殺さないよ!? なんで槍取り出しただけでそこまで言われるの!?
    これ趙雲のだからァアア! 僕のじゃないからァアアア!!」
趙雲 「もぐ?」

 と、メンマを味わっていた趙雲がこちらを見る。
 そんな彼女にほら、と槍を放り投げると、箸を置き、目を閉じて口元を拭いながらも片手で槍を受け止める趙雲。
 ううむ、こういうことが出来てこその英傑ですか?

趙雲 「───! これは……なんと軽い……!」
中井出「《うずり》……そ、そうでしょ!? 軽いよね!? 自信あったんだよそれ!」
趙雲 「む? ……ふふっ、なるほど。御遣い殿は武器が好きなようだ」
中井出「好きだとも! もちろん武器だけでなく防具もさ!」
趙雲 「その割には……ふむ」

 趙雲の目が僕の村人の服に留まる。
 うんうん、言いたいことはよ〜く解るぞ〜う?
 だからこそ僕は席を立つと趙雲の傍まで歩き、くっと腹部付近の布地を引っ張って横を向く。

中井出「あ、僕の防具のこと言ってるなら、気にしないでも大丈夫だよ?
    試しにこの服、引っ張っておくからその槍で突いてみなさい」
趙雲 「……? では、御免!」

 くいっと引っ張った村人の服の布地に、趙雲の槍が走る。
 だがそれは一ミリも埋まることなく、ビタッと止まる。

趙雲 「───なんと……!」
中井出「この服こそ我が最強の防具、ブリュンヒルデ。
    そこいらの刃など敵ではありんせん。
    もちろん武器に関しても、趙雲の武器を粉砕するだけの力が余裕でありんす」
趙雲 「……すごいものですな、天の技術というのは」
中井出「いやいや。じゃあ次はこれだ……大根。これを横に切断してくれ」
趙雲 「……? なるほど。では───」

 スッと大根を用意し、縦に構える僕と、同じく席を立って相対する趙雲。
 その一閃が大根を横薙ぎに斬ると、音も立てずに綺麗に切断され───しかし大根が切られたことに気づき、水分を漏らすより早く大根をくっつけると、切られた事実などなかったかのように元通りになる大根

趙雲 「……なんと見事な」
中井出「……どうかな。気に入ってもらえた?」
趙雲 「ええ。十分すぎるくらいに。
    元を正せばわたしが貴方に挑んだことに責があるというのに、
    なにからなにまで申し訳も立ちませんな……。
    なにか恩を返せればいいのだが……───おおそうだ」
中井出「体で返すとか言ったら全力でブチノメしますよ?」
趙雲 「む? 御遣い殿はそういったことがお嫌いか」

 男と見るやそういう目で見るのは感心せんが、相手も俺のことをそう知らんのだから仕方もなし。
 ふむ、と思案し、頭にあることを話してゆく。

中井出「言ったろ? 好きな相手とじゃなくちゃ興味がないし、
    なにかのお礼で人を抱く趣味は一切ない。
    この博光はただ楽しいことを求める修羅よ。
    こうしてさ、みんなでワイワイ騒ぐのが大好きなだけの。
    だからまあ……そうさな、趙雲、キミは公孫賛のところの武将だっけ?」
趙雲 「否。わたしは伯珪殿の家臣ではなくあくまで客将。
    好意によって力を貸しているだけに過ぎません。
    これからどうするかは自分の目で確かめ、
    見つけたいと……わたしはそう思うのですよ」

 自分の在り方を掴めきれていないといった風情で、どこか自分を笑うように言う趙雲。
 そんな彼女を前に、ナルホロと頷く。

中井出「そかそか。じゃあその道に桃香と一緒に歩く道があることを期待しておくよ。
    恩はその時、桃香の道のためにこそ使ってほしい」
趙雲 「欲のない。わたしは貴方を気に入っているのですから、
    望むならそう仰ればもしやするやも───」
中井出「道を探してる最中の人を無理矢理留まらせるのは、鳥の羽根を折るのと同じだろ。
    自由にはばたけない鳥に、鳥としての価値があるか? 趙子龍。
    俺は観賞用の籠の中の鳥なんて欲しくないぞ」
趙雲 「……ふっ、くっ……ふふふふふっ……はっはっはっはっはっは!
    やはり面白いお方だ! 本音を言えば御遣い殿に誘われるのはとても嬉しい。
    嬉しいが、伯珪殿にも恩がありますからな」
公孫賛「おいおい……わたしは恩返しが終われば捨てられるのか?」
趙雲 「さて。それはまだ解りかねることですな」

 悪戯好きの子供のように、だが艶やかさを含んだ怪しい笑みをする趙雲。
 からかっているような顔だな、つまり。

桃香 「白蓮ちゃんも大変だね〜」
公孫賛「星はいつもこんな感じだからな。
    恩を、とは言ってくれているが、その恩がどこまでのものなのか」
中井出「その大恩……メンマ10枚分」
公孫賛「うすっぺらいな!」
趙雲 「ふむ……では御遣い殿に受けた恩は伯珪殿を比にするにはあまりに失礼な程か」
公孫賛「うう……星ぃ……」
趙雲 「そう情けない声で心配なさるな、恩はきちんとお返しする」
公孫賛「そ、そうかそうかっ、あ、どんどん食べてくれ! まだまだあるぞ!」
中井出「材料からなにからなにまで用意したのは俺だけどね」
公孫賛「そう言うなよぉ〜……」

 またひとつ笑みが生まれた。
 そんなことに俺も笑いながら、これからのことを小さく考えてみる。
 ……うん、まるで解らん。
 けど、なんとかなるとしか思えないよな、こんな状況じゃあ。

趙雲 「御遣い殿」
中井出「博光でいい。俺の真名だ」
趙雲 「……では丁度いい、わたしのことも星でよろしい。
    わたしは本当に貴方のことが気に入った。先のことは解らんが、
    わたしが歩む道が貴方と同じ道ならば、その時は喜んで力添えをしましょう」
中井出「俺じゃなくて、桃香の国のために役立ててね?」
星  「ふっ……ますます欲のない。
    一人の女にここまで言わせておいて、それを断るとは。
    では博光殿はわたしのことがお嫌いか?」
中井出「人としては大好きだが、女としてはまだまだだ。はい、正直な気持ちですとも」

 笑って言いながら、頭一つ分ほど小さな少女……おそらく20にもなっていない英傑の頭を撫でる。
 頭にある変形ナースキャップみたいなのが小さく揺れ、落ちそうになるのを止めると、それを綺麗に戻すともうひと撫でして笑う。

星  「人として、か。なるほど、やはり変わっておられますな。
    この趙子龍の頭をここまで気安く撫でられる者もそうはおりますまいに。
    わたしが気分を害し、払いのけるとは考えなかったのですかな」
中井出「心を許した相手には遠慮が必要ですかな? 子龍殿」
星  「なるほど、道理でありますな」

 どこぞの悪代官のように含み笑いをしてみせると、星も簡単に調子を合わせて怪しく笑む。
 それだけで、俺達はもう気心が知れた友人だった。

中井出「我が姓は中。名は井出。字は提督。真名は博光。
    ここで別れるわけでもあるまいが、機会がそうあるとも限りんせん。
    願わくば、先において同じ道を歩めんことを」
星  「姓は趙、名は雲、字は子龍。真名は星。
    その願いが我が道にも届かんことを願いましょう」

 手を伸ばし、握手を。
 と、そこまでやって、三つの視線がじぃいい〜〜〜〜〜とこちらを見ていることに気づく。

中井出「……な、なに?」
桃香 「……ご主人様って結構……」
愛紗 「まったく、節操のない。人としてと言いながら、
    随分と口説き文句が上手そうでなによりです。まったく、ご主人様はまったく」
鈴々 「愛紗が妬いてるのだ」
愛紗 「妬いてなどっ! こらっ! 鈴々っ!!」
中井出「……? 口説いてたの? 僕」
愛紗 「無自覚でそこまで言えれば立派です」
中井出「おお鈴々! 愛紗が褒めてくれた!」
鈴々 「珍しいこともあるものなのだ!」
公孫賛「褒めてない褒めてない」

 口説いてたつもりはないんだけど……あれぇ?
 やあ、でも今気づいたけど……

中井出「そういえばさ、字で“とく”がついてないのって愛紗だけだよね」

 ───びしり

中井出「あれ?」

 何気ない一言が、空気を凍らせた気がしました。

桃香 「? ……あ、ほんとだ。私の玄徳に、鈴々ちゃんの翼徳と、ご主人様の提督。
    愛紗ちゃんは雲長だから……うんうんっ、愛紗ちゃんだけ“とく”がないねっ」

 そんな中でそんな空気を感じもせずに健気に説明してくれるキミの瞳に完敗。
 ええ完敗。
 そして負のオーラが愛紗からモシャアアアアと漏れ出してきて、初めて桃香の笑顔が停止する。

中井出「大丈夫さ、愛紗……」
愛紗 「ご主人様……?」
中井出「関羽雲長……雲長を部分的に位置変えすると、ちょううん……そう、趙雲になる。
    そんな彼女が僕らの仲間になってくれれば───キミは、一人じゃない!」
愛紗 「…………」
中井出「あれ? そういう問題じゃないの?」
星  「ふむ。愛しのご主人たちと同じものがないことが寂しいのでしょう。
    戦場では鬼神が如き強さを誇るであろう関雲長も、やはり人の子か」
愛紗 「なっ! なななにを! 寂しいなど!」
中井出「寂しくないの?」
愛紗 「寂しくなどありません!」
中井出「ならよし! 字で我らの結盟が崩れるわけではないものね。
    さ、食うぜ〜〜〜〜〜っ!
    ほら愛紗、これの美味しい食い方教えてやるからこっちこっち」
愛紗 「ご、ご主人様!? そんな急に引っ張られてはっ……!」

 別の料理に箸が届かない場所に座っている愛紗の手を取り、無理矢理席から立たせる。こんなことなら最初っから立食パーティーみたいにすりゃよかったね。

中井出「仲間で騒ぐことに行儀なんて必要ないっ!
    俺達は仲間であり義兄妹であり家族だ!
    騒げる環境で騒がないのはつまらないっていうんだ!」
星  「ふむ? その仲間にはわたしも?」
中井出「ん? 握手したでしょ? 俺は誰でも構わず握手するほど、
    自分の腕の広さを軽んじてませんよ?」
星  「…………」
鈴々 「赤くなったのだ」
星  「む……き、気の所為だ」
公孫賛「《じーーー……》」
中井出「断る!」《どーーーーん!!》
公孫賛「まだ何も言ってないのにっ!」

 そんなこんなで食事会はいろいろと得る物を発見し、終了。
 賑やかなままに皆様と別れ、あてがわれた部屋を見渡し、再びオ〜〜〜ッと感心。
 いやぁいいね! なんかいいねこういう部屋!
 などと思いながらも、勝手に自分好みに改装して、あっという間に愛紗に怒られた。
 これからのことを相談しに来たのにいきなり説教モードってどういうことなの……。






06/黄巾の乱

 公孫賛(白蓮と呼べと言われた)に請われるまま、城に住んで一週間。
 城下の町での人気はある意味で白蓮よりも桃香が上になったり、未体験の遊びを提供する僕に子供達が異様になついてくれたりと、白蓮の影は薄くなるばかりであった。……じゃなくて。
 子供たちが懐いてくれることが嬉しかったこともあって、無駄に燥ぎまくってお子様の人気者となりつつ。
 盗賊の討伐も忘れずに行い、しかし数は減るどころか増える一方で───もはや愛紗や鈴々の名を知らぬ者は居ないとまで称されるほど、盗賊狩りでの僕らの名は有名なものとなっていた。

 ……もちろん僕は初陣以降は目立った行動の一切はせず、メディコ(医者)の真似事をし、負傷した兵士や武将の傷の治療にあたった。
 初見で自分の傷を塞いでみせたこともあって、桃香たちにはこれが御遣いパワーだってことは容易に受け入れてもらえ、桃香たちが信じるならってことで白蓮も納得。
 星は興味深いものを見る目で俺を見るだけで、とくに突っ込んできたりはしなかった。
 あの食事会以来、俺と星はしょっちゅうメンマと武具についてを語り明かしている。
 新たなるメンマレシピを二人で考えては挑戦し、成功と失敗を続けて笑い合う……そう、友になっていた。
 もちろん俺達の仲間になったというわけではなく、相変わらず白蓮の傍で客将をしているわけだが。

中井出「オ〜〜〜〜ッ」

 そんなこんなでコーキンノラン。
 黄巾の乱と……こう書くのだが、コーキンって聞くと……ねぇ?
 確か孫呉の軍師の名前が周喩で、字が公瑾(こうきん)じゃなかったっけ?
 題して、公瑾の乱。
 こう……ね? 周喩が乱世を煽る最後のボスになるの。
 そんなことはどうでもいいね。

 この一週間、地道な義勇兵募集活動が吉に進んだのか、はたまた桃香の人徳からか、義勇兵は結構な数に至ってくれた。
 今日というこの日、僕らのもとに宛がわれた兵の数は六千。
 結構な人数で、兵糧も心配になるだろうが……そこはこの博光、ぬかりなし。
 この博光が居る限り、負傷者も空腹もお任せあれよ。
 白蓮もそのことを知っているから、出来れば兵糧はそっちでなんとかしてほしいってお願いしてきたし、こちらも言われるまでもないって感じさ。
 けど、このままただ突っ込んで殲滅〜ってのもなぁ。
 なんて考えていると、

声  「しゅ、しゅみましぇん! あぅ、噛んじゃった……」

 ……ふと聞こえる声。
 目を向けてみれば、少し離れた位置に変わった帽子を被ったおなごが二人。
 俺と目が合うや、どこかほっとした顔で

???「こ、こんにちゅは!」

 やっぱり噛んでいた。

???「ち、ちは、ですぅ……」

 もう一人はなんというか……魔法使いのおばあさんが被るような大きめの帽子を目深に被り、おどおどした風情で喋る。
 どちらも少女……そう、少女って言葉が似合いすぎる……子供っぽかった。
 はて、斯様な戦場への道に何故子供が……と、それよりもえぇと……おどおどしてる方のおなごの帽子……あれはモンハンのオオナズチ装備ですか?
 ミヅハ真【鳥帽子】にとてもよく似ていらっしゃる。
 もう一方の噛みまくりの少女の帽子はベレー帽に装飾がついたような可愛らスィー造形。
 ……えぇとマジで何事?
 でもとりあえず挨拶には挨拶を。これ、人間の知恵。

中井出「うむ! 今日もよい風車日和であるな!」
???「は、はははひ! ふうしゃ───ふうしゃ?」
中井出「うむうむ、そう慌てんでよろしい。私は最近噂の関雲長と張翼徳の義姉、
    劉玄徳様に仕える一介の下っ端です。玄徳様になにかご用でしょうか」
???「はわわ、し、下っ端さんなんでしゅか!?」
中井出「そうなんです。毎日毎日皆様の食事の用意、
    おはようからおやすみまで暮らしに夢を広げる男……こんにちは、博光です。
    緊張することはありません、こんな下っ端な僕ですから、
    どうぞなんでも申し付けてください。あ、もしかして言伝ですか?」
???「いえ、あの、その、えっと、あ、あわわ」

 ミヅハさん(今命名)が帽子を被り直しながらどもりまくる。
 それを見たベレー軍曹(今命名)もはわわわわと慌てまくり。
 彼女たちの背が低かったこともあり、声はすれども……と辺りを見渡したのちに話に戻っていった愛紗たちを横目に、
 僕は屈んで二人と話を続けた。

中井出「僕のことは気安く博光と呼んでください。あなたたちは?」
???「は、はわぁっ! あ、あの、わわわわたし、諸葛孔明れしゅ!」(ベレー軍曹)
???「私はあの、その、えと、んと、ほ、ほと、ほーとうでしゅ!」(ミヅハさん)
中井出「───」

 ……孔明? ほーとう?
 それって…………ええと確か、蜀を代表する知将の名前で……
 あれ? 三顧の礼は? あれ? 孔明さんが自ら訪ねてきた!? しかもこんなにちっこい!?
 いや! もしやこれは孔明の罠!?
 …………いやまさかねぇ。
 よし信じましょう、疑う意味がない気がするし。

中井出「諸葛亮孔明殿に鳳統士元殿か。文字はこう?」
諸葛亮「はうあ!?」
鳳統 「あわわ……!?」

 カリコリと地面に文字を書く。
 えーと、確かホウトウのホウって、鳳凰とかの鳳じゃなくて、こう……店って文字のあのてっぺんの冠、なんていうんだっけ?
 えーと……まだれ? まあいいや。それに、龍って文字の……

鳳統 「あわわち、ちが、ちがいま、しゅ……ほう、は……」

 慌てながらどもりながら書き直してくれる鳳統さん。
 ……どうやら鳳凰の鳳でいいらしい。
 やっぱどっか違うのね、この世界じゃ。

諸葛亮「はわわそうじゃなくてえっとんっとあのあのはわわわ……!」
中井出「とりあえず落ち着いてくださいお願いします」

 どこまで慌てれば気が済むんでしょうかこのお子めらは。
 深呼吸をさせ、とりあえず一息。
 用意した木のコップとキャリバーで出した水を差し出し、こくこくと飲んでもらえばスカッとヒー公。じゃなくて。

中井出「落ち着いた?」
諸葛亮「は、はひ……」
鳳統 「あわわ……」

 なんか無理そうだった。
 埒もなし、話を続けるしかなさそうです。

中井出「して、孔明殿。この下っ端に如何なるご用でしょうか」
諸葛亮「あの、えっと……わ、わたし、名まで名乗ってませんよね? 雛里ちゃんは字を」
中井出「有名ですからな、あなた方の名は。
    伏龍と称される孔明殿と、鳳雛と称される士元殿。
    斯様な下っ端の耳にも届いておりますぞ」
諸葛亮「はうあぁっ!? そそそそうなんでしゅか!?」
鳳統 「どう、どうしよう、朱里ちゃんどうしよ、あわ、あわわわ……!」

 ……とことんまでにはわわとあわわで忙しい方々らしかった。
 しかしこの体躯のおなごを見ているとこう……撫でてやりたくて仕方なし。
 俺ってつくづくナギーとかシードに甘かったんだなぁと実感トラーイ。

中井出「落ち着いてくだされ。何もとって食おうだなどとしているわけではございません。
    玄徳様にご用があるのなら、お声をおかけしますが」
諸葛亮「い、いえあのっ! そのっ! まず慣らさせてくだしゃい! ……はうあっ!」

 そしていくらなんでも噛みまくりですよ孔明さん。

中井出「承りました。それではここでささやかな説明会を設けましょう。
    出陣にはまだ時間があるようですし、私は衛生兵のようなものですが、
    出陣前に負傷者が居るわけでもありません。
    どうぞ、ゆっくりとでいいですからお話ください」
諸葛亮「ひゃい! はうあっ! い、いえその……は、はいです……」
鳳統 「よろ、よろしく、ですぅ……」
中井出「はい、よろしくです」

 にこりと笑って言葉を待つ。
 俺はこれで、結構子供が頑張ってる姿は好きなわけで。
 だから二人には気づかれないように、星に目配せをして他のみんなにこちらの声に耳を傾けてもらうようにアイコンタクト。

星  (承知)

 一瞬にしてその意を受け取る彼女はさすがと言ってよろしいですか?
 そんなこんなで説明会の始りです。

……。

 話によると、彼女らは水鏡塾の水鏡先生に教えを請っていた生徒らしく、力無い人達が悲しむのが許せないという、いつかの桃香たちの志と同じものを胸に立ち上がったそうだ。
 けれども自分達には力がなく、誰かに協力してもらわなくちゃいけなかった。
 で、誰に協力してもらおうかと考えたところ、天の御遣いが義勇兵を募集しているというウワサを聞いてここに。
 なるほど、御遣いは玄徳様の傍に居るという噂を散々流したのは僕です、知らん筈もない。
 御遣い単独盗賊狩り伝説は結構な噂を巻き起こして、いろいろ有名ですから。
 そうすれば桃香のところに義勇兵は集まるに違いないと踏んでの作戦でしたが……よもや軍師が釣れるだなどと誰が思いましょう。

 そんなこんなで、でも御遣いが本当に信用がおける人かどうか、まずは情報収集。
 そうして風聞を耳にするうちに、御遣いの目指すものと自分達の考えとが同じだと解り、この場に至ったのだと。
 ……俺の考えっていうか、桃香の考えなんだけどね。

諸葛亮「だからあの……! わ、私達を戦列の端にお加えください!」
鳳統 「お願いします!」

 ……説明会の最中は、酸欠で死ぬんじゃないかってくらい息継ぎもせず喋り続けたふたり。
 そんな二人が、練習とはいえ必死になってぺこりと頭を下げる。
 そんな彼女らを見ていた桃香の反応はもちろん、

桃香 「うんっ、大歓迎だよっ♪」

 ……だよね、うん。

諸葛亮「はわあっ!?」
鳳統 「あわわっ!?」
中井出「あ、紹介します。我らが義勇軍の頂点に君臨する絶対王者、劉玄徳様です。
    毎日毎日この下っ端めに仕事をくださる……なんともお優しいお方ですじゃあ」
桃香 「あっ! また様ってつけてるー! もうっ! ごしゅじ───」
諸葛亮「ああああああああああああのあのあのあのあはわわわわぁああーーーーっ!!」
鳳統 「おち、落ち着いて朱里ちゃ───あわわわぁあ……!!」
桃香 「わっ、あ、あの? えっと……お、落ち着いて?」
中井出「…………二人とも、大丈夫ですよ。玄徳様はおやさしい方ですじゃ。
    きっとあなた方の願いを聞き届けてくださる」
愛紗 「と、いうより……もう歓迎してしまっていますが……」
中井出「おおこれは、関羽様に張飛様まで」
愛紗 「……ごしゅじ」
中井出「喝ぁああああああーーーーーっ!!!!」
愛紗 「っ!? ど、どうされましたごしゅじ」
中井出「喝ぁああああああーーーーーーーっ!!!」
鈴々 「ど、どうしたのだ? お兄ちゃん」
中井出「ご主人って誰!? ご主人って何処!!」
愛紗 「……また妙な悪巧みをお考えで……?」
中井出「な、なにを仰るか関羽様……
    私のようなしがない平民を使ってくださる玄徳様の優しさにかけて、
    これが悪巧みなどと……!」
鈴々 「お姉ちゃんを信用してるから言えるジョーダンなのだ」
中井出「その通りでございます」
星  「なるほど。つまり博光殿がアレであることを伏せていれば面白いことになる、と」
中井出「そうだけど……な、なんかヤなんだけど……その言い方」

 アレって……頭がおかしな風に聞こえるじゃないですか。
 ……と、そうこうしている内に話はあっさりまとまり、二人の少女は僕らの友に。
 やがて───

諸葛亮「そ、それであのその、天の御遣い様は何処に───」
中井出「死にました」
諸葛亮「はわぁあーーーーーーーーっ!!?」
中井出「華々しい最後でした……最後はメンマで腹を一杯にし、
    胃袋が崩壊しての、伝説のメンマ死……!
    メンマを愛する者が迎える史上最強の幸福なる死と言われております……」
星  「なんと……そんな死に様が。……わたしもそうありたいものですな」
愛紗 「星……そうあったらその時点でお前は死んでいるだろう……」
星  「メンマとともに死ねるなら本望だ」

 割と本気の目だった。

諸葛亮「し、死んじゃ……死……はわわ……!」
鳳統 「あわ、あわわわ……!」
愛紗 「ご主人様、虚言にしても度が過ぎます。二人を放心させてどうするつもりです」
中井出「ゲゲェーーーーーーッ!!! そんなあっさり!!」
諸葛亮「はわ……?」
鳳統 「……ごしゅじ……?」
中井出「はい。衛生兵で下っ端をしております。通り名はゴシュジン・サマーです。
    よくご主人様という言葉と間違えられますが、
    人の傷を守る様子、という意味の“ご守人様”として呼ばれております」
星  「……凄いな、博光殿は。よくもそこまで口からでまかせがぼろぼろと」
愛紗 「人をからかうのがお好きな方だからな……こればかりは止めても止めきれん……」

 止められてもからかって躱す。
 それがこの俺です。

桃香 「あのね、孔明ちゃんに鳳統ちゃん。この人がわたしたちの」
中井出「下っ端です」
桃香 「も〜! ご主人様〜!?」
中井出「こうしておやさしい玄徳様に、いつも叱られてばかりの下っ端ですが、
    どうぞ、これからよろしくお願いします。
    あ、お怪我をされたときは申し付けてください。真心を込めて癒しましょう」
諸葛亮「は、はい、よろしくです、博光さん」
鳳統 「よ、よ、よろ……よろろ……しく、でしゅ……博光さん……」
桃香 「──────えぇえええええっ!!?」
中井出「《にやぁあああ……!!》」
星  「……なるほど」
愛紗 「……ご主人様も人が悪い……」
鈴々 「? なにがどうなってるのだ?」
星  「ああうむ。つまりだな鈴々。ただでさえおどおどな子供達がだな。
    実は相手が天の御遣いだということも知らず、
    軽く教えられた御遣い様の真名を軽く口にしている。
    下っ端だと思っていた筈の相手が御遣い様で、
    しかも真名を口にしてしまったと二人が知ったらどうなる?」
鈴々 「どうなるのだ?」
星  「……ふむ。面白いことになる」
中井出「その前例が、今しこたま驚いてる桃香です」
鈴々 「あ、お兄ちゃん」

 手をばたばた振って慌てふためき、
 懸命に、しかし天然っぽさも振る舞いながら二人に僕のことを説明する桃香。
 直後、

諸葛亮&鳳統『はあわわわぁああーーーっ!!?』

 ……二人の少女の絶叫が、乱世の蒼空にこだました。

……。

 ……両肩に重みを感じていました。
 だがその重みが心地よい。

朱里 「はうぅう〜〜……はぅうう……!」
中井出「うむうむ、すまなかったなぁ、まさか泣かれるとは思わなんだ」
愛紗 「嘘ですね」
中井出「うん嘘」

 右肩に朱里(しゅり)……孔明を、

雛里 「あうぅう……あうぅ……」
中井出「よしよし、雛里も泣き止んでおくれ。博光が悪かった」
鈴々 「嘘なのだ」
中井出「これは本当だよ!?」

 左肩に雛里(ひなり)……鳳統を乗せて、両手で二人を支えながら歩いていた。
 ダブル肩車という高等技術だが、ナギーとシードを散々と支えたこの博光にかかれば、こんなものは楽勝である。
 あれからぐすぐすと泣く二人に真名を授かり、しかし泣き止まぬ二人を抱擁し、肩車をしてからの出陣。
 二人には軍師を、という僕の推薦もあって、まだ子供では……という愛紗の渋りをなんとか掻い潜った現在に僕は居る。

中井出「ほら朱里。キミの考える策をこの博光めに聞かせてもらえぬか」
朱里 「は、はわわ……は、はいぃ……」
中井出「ほら、雛里も」
雛里 「あ、あわわ……は、はいぃ……」

 ……。

中井出「はわわ軍師とあわわ軍師でどうだろう」
愛紗 「なにがですか」

 うん……なんだろね……。

朱里 「その……」
中井出「うん?」
朱里 「わ、わたしたちの勢力は、
    他の黄巾党征伐に乗り出している諸侯に比べると、極小でしかありません。
    今は黄巾党の中でも小さな部隊を相手に勝利を積み重ね、
    名を高めることが重要だと思います」
中井出「オ〜〜〜ッ……うん、よくできました。朱里は偉いなぁ」
朱里 「《なでなで》はわっ!? は、はぅううう〜〜〜〜……」

 手を伸ばして頭を撫でてやると、なんとも幸せそうな声が聞こえてきた。

愛紗 「ふむ……敵を選べというのか?」
朱里 「はい、そういうことです」
愛紗 「しかし、いささか卑怯では───」
中井出「あ〜いしゃ。戦場で卑怯もなにもないよ。
    弱い勢力が強い勢力に勝つ……
    即ち千の兵でニ千を討つなら、策がなければならない。
    一騎当千の将がいくらいようが、
    実際に千を相手に立ちまわれるわけじゃないだろ?」
桃香 「……あはは」
愛紗 「……初陣で盗賊をお一人で殲滅されたのは何処のどなたでしたか、お忘れですか」
中井出「うん忘れちゃった!」
愛紗 「はあ……」
朱里 「初陣……? もしかして、御遣い単独盗賊狩り伝説ですか?」
雛里 「あの、その……たった一人で、物凄い数の盗賊を、討伐したって……」
愛紗 「事実だ。この目で見てしまった……」
桃香 「すごかったよねー、あの時のご主人様」
鈴々 「お兄ちゃん、触れないで敵を斬ったあれ、どうやったのだ?」

 質問は様々。
 思い出すこともあったのだろう、三人はわいわいと朱里と雛里を巻き込んでの話を弾ませ、ついさっき見てきたかのような興奮した顔で、二人に説明してゆく。

星  「博光殿は人気者ですな」
中井出「え? 違うよ? 人気なのは桃香で僕じゃないよ?」
星  「ほお。ではわたしはそんな博光殿を敬愛する一人になりましょうか」
中井出「俺への愛は国への愛! だから俺になにかしたかったら国へ返してください。
    ……これからよい国を作ってゆきたいものです。
    人々がよりよい笑顔で暮らせる街を、国を、仲間を。
    そんな国のために感謝を込めてなにかを返せる……最高じゃないか」
星  「……それが貴方の“欲”ならば、わたしには貴方が眩しすぎる」
中井出「はっはっは、よせやい。結局は全部自分のためなんだ。
    自分が暮らしやすい場所を、過ごしやすい空気を、楽しめる場所を。
    そんなものを求めた結果がそういう国になるってだけさ。
    俺は誰かのためには動かない。自分のために誰かを救えるなにかになりたい。
    ただそれだけの、何処にでも居るような一般市民さ」
星  「自分のために、誰かを……?」

 それはずっと心に刻み付けている俺の芯。
 忘れることなく全てを身に刻み、受けた悲しみも喜びも全て、その根底から湧き出した生きる目的。

中井出「あの人の笑顔を“俺が”見たい。“俺が”過ごしやすい空気を作りたい。
    “俺が”あの人が死ぬのを見たくない。
    そういった“自分のため”を理由に俺は生きてる。
    誰かのためっていうのはさ、ふとした時に折れやすいんだ。
    自分は絶対にあの人を裏切らないと誓っても、
    その人が敬愛する誰かを裏切り虐殺したと知ったら、
    自分はその人を全く裏切らないままで居られるだろうか。
    嫌いにならないでいられるだろうか」
星  「博光殿……」
中井出「そんな世界で俺はずっと生きてきた。
    信じた全てに忘れられて、愛した全てに嫌われて……それでも。
    俺は俺が信じた自分のために戦った。
    死にかけようが歯を食い縛って、裏切りに泣こうが涙を拭って。
    ……馬鹿みたいな話でさ。みんなに忘れられて、罵倒されて、
    信じていたものが砕けても……
    俺は仲間だったそいつらを助けるために、敵の軍勢を前に一人残った。
    みんなを逃がすために一人だけ残って、千や二千じゃ済まない軍勢の中で戦った。
    そいつらの一体だけで、盗賊一万以上の武力を誇れる相手だ。想像できるか?」

 思い返すのはヒロライン。
 消滅しようとする世界に一人残り、黒の軍勢と戦ったあの瞬間だった。

中井出「忘れられるってのは辛いものでさ、
    俺はみんなの楽しむ顔が好きだったから頑張れた。
    でも……忘れられた瞬間、俺に向けられる笑顔なんて全然なくてさ。
    もう、わけもなく泣きたくなったなぁ。
    それなのに、俺を罵倒するやつらのために戦ってさ……ほんとに死にかけて。
    それでも……それでもさ、あいつらのこと、嫌いになんてなれなくて」

 自然と微笑むことが出来るのは、きっとあいつらが悪かったわけじゃないと解るから。
 あいつらはただ忘れてしまっただけ。
 忘れさせられただけなのだと、理解出来るから。

中井出「俺はな、星。仲間を何よりも大事にする。
    民の喜びも子供達の笑顔も大事だ。けど、それよりも仲間こそを愛している。
    俺が伸ばせる手の長さなんて、ほんの少しだ。
    それでも伸ばすことで救えるものがあるなら、
    俺はそれを自分のためにこそ救いたい。
    他人のためになにかを守ろうとするんじゃ、
    きっと土壇場で手を伸ばしきれないから。
    だからな、仲間だと思えるヤツを、俺は俺の特別にしたい。
    土壇場でも血を吐きそうなくらい辛い時でも、
    伸ばした手を伸ばしきれるくらいの特別に」

 俺を見下ろす朱里と雛里、俺を見る星と、朱里や雛里と話していた桃香、愛紗、鈴々。彼女らを一度見渡してから、自然にこぼれる笑みに、ただ感謝を。

中井出「俺達は他人だけど、仲間って絆で結ばれてる。
    同じ志を胸に、今こうやって同じ道を歩いてる。
    いつか離れる時があっても、同じ空の下で同じ蒼を見上げていると信じてる。
    この先、どんなことがあるかも正直解ってないけど───
    この思いの先にさ、自分が目指した自分の理想の先に、
    自分以外の誰かの笑顔があるかもしれないって思えたらさ、
    ……それってきっと、幸せなんじゃないかなって思えるから」

 手を、軽く空に挙げる。
 すると、その手に桃香の手が、愛紗の手が、鈴々の手が添えられ、その上から星、朱里、雛里の手が重ねられる。

中井出「……天下統一なんて夢じゃなくてもいい。
    いつか自分が描いた理想が叶う場所まで、歩いていこう。
    誰かを救うために誰かを傷つける力を振るうのは、
    振るわれる誰かにとっては理不尽なことなのかもしれないけど。
    誰かが力の在り方に迷ってしまっても、俺達だけは理想への道標になるように。
    ……生きていこう、この乱世で」
一同 『───応ッ!!』

 いつしか止まっていた足を、決意とともに動かしてゆく。
 離れたというのに、重ねていた手はどこか暖かく。
 気が付けば、朱里や雛里からはおどおどした雰囲気が大分なくなっていて───いつの間にか、俺達は目を見て話せるくらいになっていた。

……。

 そうして歩くことしばらく。
 いつしか長く連れ添った友とも見紛うほどに気安く話している俺達は、ふと朱里が口にした不安点に小さく笑みをこぼした。

中井出「兵糧が心配? 任せなさい朱里。
    この博光にかかれば兵糧などいくらでも用意できる」

 果てしない荒野を進軍しながら、各方面に細作を放って黄巾党の動向を探る。
 そうしながら歩く僕らは、それでもどこか笑みをこぼしながらの進軍をしていた。
 馬がないから徒歩だけどね。

雛里 「あの、えっと……そう、なんです、か……?」
中井出「うむ。安心しなさい」

 言いながら、両肩の二人の頭を撫でる。
 そうしようとする度にわざわざ身を縮めてくれるから、ういやつよのぅ……とか思ってしまう。撫でられるの好きなのかな。
 と、そんなのんびりムードの時でした。

伝令 「申し上げます!」

 前方から走り寄ってきた一人の兵士が、俺達の前に跪く。

伝令 「ここより前方五里のところに、黄巾党とおぼしき集団が陣を構えております!
    その数、約一万!」
愛紗 「一万……!?」
鈴々 「いっぱいなのだ……」
桃香 「えっと、こっちの兵士さんたちが六千人くらいだから……あわわわわ」
中井出「桃香、雛里病が伝染ってるぞ《くいくい》お?」

 引っ張られる感触……見ると、雛里が僕の肩の上で村人の服の襟を引っ張っていた。

中井出「どうした? 雛里」
雛里 「だ、だいじょうぶです、きっと勝てますから……」
中井出「え? 僕出ていいの?」
愛紗 「それはだめです!」
中井出「えぇっ!? まただめなの!?」
愛紗 「規模というものを考えていただきたい!
    以前は烏合の衆でしたが、今は一万もの兵!
    そんな敵を相手に単身で突撃など!」
中井出「いやその……余裕ですよ? でも」
愛紗 「なりません!」
中井出「うう……」
星  「いやいや、愛紗の言う通りですぞ博光殿。
    ここは、“仲間”である我々の武をもっと信用してもらいたい」
桃香 「そうだよぉご主人様」
鈴々 「あんな奴ら、鈴々たちがけちょんけちょんにやっつけてやるのだ!」
中井出「お、おまえら……!」

 いやあの……僕戦いたいだけなんですけど……。
 ああうん、解ってる、解ってるよ? 僕衛生兵だもんね?

中井出「よろしい! では傷つくことを恐れず存分に戦いめされい!
    傷ついた片っ端から癒してやる!」
朱里 「はわわ! だ、大丈夫です! 危険はあまりなく戦えますからぁ!」
中井出「なんと!? それは本当かね!」
雛里 「あわわ、だ、大丈夫です、お任せください、です……」
朱里 「と、とにかくですね。
    こういうときにこそ、わたしと雛里ちゃんが役に立つと思うんです」
中井出「オ〜〜〜ッ! や、やはりこの俺の出番か〜〜〜〜〜っ!」
愛紗 「それだけはありません」
中井出「愛紗ちゃんひどい! でもよし、それじゃあ教えてくれるか? 朱里、雛里」
雛里 「は、はい」

 それから伝え聞いたことは、まあいろいろ。
 朱里と雛里が学んだ書物の量とかに驚愕したり、相手である一万の兵は雑兵でしかないこととか。
 孫子兵法書は俺も聞いたことあるよ? 孫子曰くとか言うあれだよね? 孫子、呉子、六韜、三略、司馬法、九章算術、呂氏春秋、山海経、
 とんでもない数の兵法を学んだ上に、なんでも経済書とか民政書を勉強したとか。
 すごいよこの二人……こんなにも小さいのに。

 そこまで読んでりゃパーフェクツ!
 ということでどうすればいいの? と訊いてみれば、伝令の言う敵軍が五里先に陣を構えてる、というこの“五里先”っていうのは兵法で言う、ええぇとなんだっけ? くち? とかいうらしい。
 なんでも朱里の頭の中にはこの地の地図が暗記されてるそうで、つまりその衢地(くち)ってのが朱里マップでいうところの交差点。
 各方面に伸びた道が収束する場所のことを言うらしい。
 高速道路でいうところのジャンクションみたいなもの?
 こういうところに補給物資とかを配備してりゃあ、各方面に進軍しても補給物資を送れるってやつさ。

朱里 「そんな大事なところに一万しか兵を置いていないことこそ、
    相手が雑兵なんだと判断できる証拠なんです」

 ……とは、朱里の言葉である。
 そここそ私達の狙い目、とも。

雛里 「敵はわたしたちより多くの兵を持つとはいえ、雑兵でしかありません。
    またその雑兵が守っている地は黄巾党全軍に影響を及ぼすであろう重要な地」
朱里 「そこを少数の兵で破れば、わたしたちの名は否応なく高まります。
    だからこそ、これは千載一遇の好機」
雛里 「更にいえば、わたしたちの兵が敵よりも明らかに劣ることも狙いのひとつです。
    そんな部隊が前に現れたとしても、敵は恐れないでしょう」

 そ、そうか〜〜〜〜〜〜〜っ!

愛紗 「しかしどうする。雑兵とはいえ兵数では劣る。
    しかもこちらは義勇兵が大半であり、
    調練を受けていないという点では、あまり相手と条件は変わらないぞ」
朱里 「はい。そこで必要となるのが策です。そうですね……まず第一は、
    敵を陣地から引っ張り出すことです」
雛里 「その後野戦に持ち込むこと。……ただし平地では対峙してはいけないこと」
中井出「そ、そうか〜〜〜〜〜っ!
    こちらが有利に戦える場所まで誘き出すということか〜〜〜っ!」
雛里 「は、はいっ、その通り、ですっ……」

 ぬう。
 もしかして朱里も雛里も、軍師モードってのがある?
 普通に喋ると噛みまくりのどもりまくりなのに、作戦話してる時の二人って……とっても凛々しい……!

中井出「となると、敵を誘い込むとしたら……広い地はだめだな、囲まれたら終わりだ。
    ……なるほど、じゃあ逆に狭い場所に誘い込んで、
    少数じゃなきゃ戦えない状況を作ればいいのか」
朱里 「はわわ……ご主人様すごいですぅ〜」
雛里 「あわわ……先に言われちゃいました……」
中井出「なんの、二人の思考の回転には驚かされるばかり。
    この博光、悪知恵にばかり頭が働く故、兵法というのは中々に興味がある」
朱里 「……それではご主人様、ご主人様だったらこの状況、どう取ります……?」
中井出「む? 僕? ……そうさのぅ……」

 見渡す限りの荒野! 狭い場所などありんせん!
 違うぞ! 前提からして間違っている!

中井出「爆弾を作って陣ごとぶち壊すってどうだろう」
愛紗 「は……ば、ばくだん、ですか……? それは……」
中井出「えーとね、まずこう……御遣いの力で木製の、中が空洞の玉を作ります」

 しゅるる〜と霊章から枝を生やし、木製の弾を作る。
 そこにテオスラッシャーの粉塵を入れて、準備完了。

中井出「鈴々、いいか? 余計な刺激は与えず、これをあっちのほうまで投げてくれ」
鈴々 「解ったのだ! ───うりゃーーーーーーーっ!!!」

 ルオッ───!! …………ヒュ〜〜〜〜〜……ゴカァッ───!!
 どぉおおおっごぉおおおおおおおん!!!!
 ………………ゴコッ……パラパラ……

中井出「……な?」
愛紗 「却下です!」
中井出「えぇっ!? なんで!?」
愛紗 「あんなもの! 味方を巻き込みかねません!
    それにご主人様が言ったのでしょう!
    自分ばかりの力で勝っても兵たちは集まらないと!」
中井出「そ、そうだけどさ……ほら、陣を崩すだけならと……」
愛紗 「だめです!」
中井出「うう……」

 ダメだそうです。
 そりゃあね……地面に大きなクレーター作ったんじゃ、僕の力じゃないなんて言っても説得力の欠片もない。
 じゃ、Å案は却下の方向で。

中井出「朱里、雛里、お前達の頭の地図に、狭い通路がある場所はあるか?」
朱里 「はい、その質問を待ってましたっ」
雛里 「ここより北東へ二里ほど行ったところに、川が干上がって出来た谷があります」
中井出「なんと!」
桃香 「えぇっ!? でも地図にそんな場所ないよ!?」
雛里 「その地図、市販のものですよね……?」
桃香 「う、うん。お店に売ってたヤツだけど……」
朱里 「なら、正確な地図ではないですね。正真正銘、本物の地図ですけど……
    そういったものには旅人や隊商の人達がよく使う道とか、
    山とかしか描いてないってだけです」
雛里 「人々が良く通る道だけを書いておけば、地図としての役割を果たしますから……」

 なるほど。
 その点、朱里たちは水鏡先生のツテで、正確な地図を見ることが出来たって言ってたしな。
 正確な地図ってのは漢王朝や官軍しか持ってないそうで、たとえ持ってたとしても地理に詳しくないと作戦は立てられんのだそうな。
 ……俺は無理だなぁそういうの。

中井出「なるほど。よし、じゃあその谷を使うとして、問題は誘き出す方法。
    でもこれは簡単そうだな」
愛紗 「簡単? ……と、仰いますと?」
中井出「俺達に付いて来てくれてる義勇兵。どう見ても正規軍じゃないだろ?
    武器は白蓮が持たせてくれたけど、どっからどう見ても民草だ。
    そんな弱そうなやつらが目の前にどどんと現れたら、黄巾党のやつらはどう出る」
愛紗 「あ……なるほど」
星  「我らをなめきり、殺しつくそうと襲いかかる、ですな」

 うむす。
 ど〜せ黄巾党とか名乗ってるけど、食い扶持に困った農夫とかが集まって悪巧みしてるだけのやつらだろうし。
 一度甘い汁をすすった人間が、エモノを前に立ち止まってられるわけがない。

中井出「そう。けど、目の前に出てすぐに逃げるんじゃあ、いくら馬鹿でも作戦に気づく。
    だから最低限、敵が全軍でこちらを叩き潰そうと突撃するまでは、
    多少は戦ってみせなくちゃならない……だろ?」
朱里 「はわわ……や、やっぱりすごいですご主人様……」
雛里 「あわわ……そ、その通りです……」

 褒めてくれる二人を優しく撫でて、こちらもふほぅとひと息。

中井出「よし。じゃあ……前衛を愛紗に任せる。
    状況に応じて反転、峡間を目指す。鈴々は後衛」
鈴々 「えーっ! 鈴々は先陣を切りたいのだ!」
中井出「なんと! ではこの博光が後衛を請け負おう! 愛紗と鈴々で前衛を───」
愛紗 「却下です! ご主人様には桃香さまとともに峡間付近で待機していただきます!」
中井出「あぁんひどぅい! で、でも殿をつとめるヤツが居ないと後衛は潰れるだけだよ?
    ほらほら、そうなれば僕が」
愛紗 「却下です!!」
中井出「ゴメンナサイ……」

 なんか僕、いつの間にか愛紗に頭が上がらなくなってるような……。
 え? これでも僕ご主人様なの?

中井出「うう……じゃあ後衛を鈴々に任せて、
    追尾する黄巾党たちから兵を守りながら戻ってほしい。
    その補佐として……朱里、いけるか?」
朱里 「了解ですっ♪」
中井出「うんうん、頼んだぞ」
朱里 「《なでなで》あ……えへへ……」
桃香 「ご主人様ー、わたしはどうするのー?」
中井出「桃香は当然本陣で待機。その補佐を……雛里、いいかい?」
雛里 「はいっ!」
中井出「ん、いい返事だ」
雛里 「《なでなで》へぅ……えへへ……」

 両肩の少女の頭を撫でてやり、ゆっくりと地面に下ろす。
 と、そこで桃香がにこやか笑顔で僕に言う。

桃香 「もちろんご主人様も本陣だよね?」
中井出「いや。俺はこれより間諜となって黄巾党内部に潜入、
    盗みや強奪を働く愚かな者どもに真の恐怖というものを教え───」
愛紗 「ご主人様ぁああっ!!」
中井出「キャーーーッ!!? わ、解ったっす! 僕大人しく衛生兵してるっす!」
星  「ふふっ、早くも頭があがりませんな」
中井出「うう……こんな筈は……」

 いや……いいんだけどね?
 傷ついたやつらを片っ端から回復させるの、結構面白いし。
 つーか……

中井出「…………」
星  「? どうされた、博光殿」
中井出「いや……星? なんでここに居るの? ……あれ? キミ、自陣は?」
星  「……おおっ」

 今気づいた、とでもいうような風情でハタと驚く子龍さん。
 今の今まで気づかなかった俺も俺だけどさ。

中井出「ああ……慌てふためく白蓮の姿が目に浮かぶようだ……」
星  「なるほど。容易に想像できますな」
中井出「よし、じゃあ僕星を送ってくるから。すぐに戻るから進軍しといて?」
愛紗 「星ぃいい……」
星  「はっはっは、なに、人間ならば間違いもあろう。
    しかし自陣が向かうべき場所は随分と遠く。どうするおつもりか?」
中井出「えーと……空飛ぶのと抱えられて走るのと、
    馬に乗って走るのとジェットモンガロンに乗るのと、どれがいい?」
鈴々 「お兄ちゃんは空まで飛べるのかー!?」
中井出「もちろんだ! なにしろこの博光は御遣いだからな!」
鈴々 「すごいのだー!」
星  「ふむ……それは是非とも体験してみたいが、危険はないのですかな?」
中井出「大丈夫。むしろ自軍が進み敵と相対する中で、
    空から颯爽と駆けつけ着地する趙子龍……かっこよくない?」
星  「是非それでいきましょう!」
中井出「星!」
星  「博光殿!」

 がっしぃ! と組み合わせた手と手が、僕らの友情を謳った。
 その手もすぐに解け、俺がひとつの行動を起こした時。
 ……その場の皆様から悲鳴大半の絶叫が溢れた。

───……。

 そうして僕らは空に居る。
 足場にはもちろんシャモン。
 月の大盤の力により守護竜モードのシャモンの背に、僕と星が乗っています。

星  「博光殿は本当になんでもありのお方だな……まさかこんなものまで……」
中井出「星の字、子龍だろ? このシャモンも生まれてからそう経ってなくてさ。
    竜としてはまだまだ子供。だから子龍って名前も結構合ってる」
星  「ほお。子供なのにこんなにも力強く飛翔するのですか」

 星が率いる筈だった部隊は、あっさりと見つかった。
 どうやら白蓮が一緒に率いていたらしく、しかしその前方には既に黄巾兵が。

中井出「どのくらいの高さまでだったらいける?」
星  「ふぅむ……落下した人間が潰れない程度の高さでお願いしたい」
中井出「当然ですな。じゃ、いくぞっ! しっかり掴まっとけ!」
星  「御意!」

 地面目掛け、一気に下降する!
 物凄い勢いで地面が近づき、地面がそれこそ間近になるやシャモンが方向転換し、星が言う人が潰れない程度の高さまでを滑走するように飛翔すると、黄巾兵目掛けてウィンドブレスを吐き出し、前衛の悉くを吹き飛ばす!

中井出「よし行け星! 絶好の見せ場だぞ!」
星  「応ッ!!」

 瞬間、バァッ!と飛び降りた星が、敵と味方の間に降り立ち、声高らかに名乗りを上げる。
 それを見た敵にしてみれば、竜に乗り参上する謎の存在。
 空中からの一撃で吹き飛ばされた数は百や二百ではない。
 その一撃だけで敵の中に動揺は広まり、あっさりと陣形を乱す始末。やっぱり烏合の衆だね。
 星の名乗りを切欠に士気を高めた兵士たちが突撃を開始するのを見届けると、俺も自陣へと戻る。
 僕も星みたいに格好よく……とか思ったけど、なんか愛紗に怒られそうだったんでやめた。

───……。

 ヒュゴォオオオッ───スタム!

中井出「やあ」
桃香 「ご主人様!」
雛里 「ご、ごしゅじゅ……っあわわ……ごごご主人様、おかえりなさいです……」
中井出「うむ、ただいまである」

 言いながら雛里の頭を撫でる。
 帽子越しだからごわごわした感じだが、どうにも撫でたくなって仕方ない。
 もしかして武具に宿った皆様の意思が、僕に子供を甘やかせと……!?

中井出「桃香、状況はどんな感じ?」
桃香 「うん……今、愛紗ちゃんと鈴々ちゃんが、
    黄巾党の人たちを誘き出すために向かっていったけど……」
中井出「ぬう……こう、待つだけってのはかなり胃にしくしく来ますな」
桃香 「うう……みんなのこと信じてるけど、
    いっつもこれを味わうわたしの気持ち、少しは解ってくれた? ご主人様……」
中井出「いやいや、これからは朱里と雛里もお友達! これからよろしくなぁ雛里ん」
雛里 「へぅっ!? ひ、ひなりんっ!?」

 ああもう、雛里は可愛いなぁ、よ、よし、ちゅーしちゃる。
 などと彼氏彼女の事情のとある人物の真似をしてる場合でもなく。

中井出「よし。じゃあ僕衛生兵の仕事してくるね? もう混戦になってるだろうし」
桃香 「え……行っちゃうの?」
中井出「うむ! 我には我にしか出来ぬことで、これを特別とする!
    故に桃香よ! キミはキミにしか出来ぬ暖かさを以って、我らの長であれ!」

 それだけ言うと、灼闇馬カリユガンホースを召喚!
 花の慶次でいうところの松風並みにデカい灼闇の馬に乗ると、レッツ突撃!
 ふはははは待っているがいい兵士ども! 今この突撃衛生兵が助けにゆくぞぉおおお!! あ、でもさすがにこんな馬みたら黄巾のみなさま怯えちゃうね。
 きちんと誘き寄せるためにも、途中で降りなくちゃ。
 ……つーても、本陣とあっちってそう離れてないんだけどね。

……。

愛紗 「負傷者は後方の者と代わり、休んでいろ!
    なんとしても押し返す! 合図があるまで持ち堪えるのだ!!」
兵士達『ウォオオオオーーーーーッ!!!』
愛紗 「とはいえ……! くっ! 雑兵とはいえ、さすがにこの数は……!」
中井出「そんな貴方がたに御遣いの愛を! レェーーーッツ! 漢神の祝福!!」

 マキィン♪モンシャンシャンシャンシャァアアアアアアアン!!!!

兵士 「う、わっ……!? 傷が消え……!?」
兵士 「お、おおっ!? なんだか武器が軽くなったような……」
中井出「ふははははは!! 完全回復に加え、STR5%UP!
    今度の我らはちょっと強いぜ!? ───お待たせ愛紗! 元気してたー!?」
愛紗 「ご主人様!? 何故このようなところに───」
中井出「衛生兵だからさー! 傷を治すのが我の務め!
    負傷者は本陣で出ているのではない!
    戦っている者達の中で出ているのさ! さーあお前ら! 突き進め!
    民を脅かす下郎どもに、我らの力を思いしらせてやれ!」
兵士達『うぉおおおおおおおおおおっ!!!』

 士気が高まる!
 兵士たちはやってやるぜこの黄色野郎どもめがぁあああ!!って感じの気合いとともに、武器を手に突撃をかける!
 当然さっきまで傷ついていた筈の敵が元気になったことに動揺した黄巾党は、この突撃により勢いを削られることに。
 それを監視していた後方の陣地の敵が動かぬわけもなく───やがて。

伝令 「申し上げます!
    鳳統殿から後退の合図です! 間も無く張飛様の隊が殿を───」
鈴々 「にゃーーーーーーーっ!!!」

 伝令が言うより早く、鉄砲玉が飛んでった。
 少し遅れて兵士たちが走るさまが、なんか笑えたのは内緒です。

中井出「うむよし! ───愛紗!」
愛紗 「はっ! ───全員聞けぇい!
    これより本陣との合流を果たし、峡間へと後退を開始する!
    各自追撃に気をつけながら行動を開始しろ!」
兵士達『はっ!!』
愛紗 「さあ! ご主人様も!」
中井出「うん! 愛紗も気を付けて!」
愛紗 「御意! ───って何処に行くおつもりですか!」
中井出「え? だ、だから僕も戦闘───ゲフッ! ゴフフンッ!
    え、衛生兵としての責務を」
愛紗 「そうですか。ならば仕方ありません……
    同じく助けられたわたしがとやかく言えることではないでしょう。
    ですが。くれぐれも、無茶なことはしないよう努めてください」
中井出「大丈夫大丈夫! あんな黄巾さんたちなんて余裕で」
愛紗 「ご主人様!?」
中井出「ヒィッ!! ごごごごごごめんなさい冗談です!」
愛紗 「あっ! ご主人様!? 〜〜〜まったくあの人は……!」

 慌てて愛紗から逃げるように鈴々の姿を追う。
 殿(しんがりですよ?)を務めるっていうのは並みの精神力じゃ出来ないことだ。
 味方を守りながら後退するなんて、通常の倍、疲れを感じることだろう。
 そんな彼女らを影から支える男……こんにちは、中井出博光です。

……。

 そうしてしばらく防戦が続く。
 じりじりと後退する最中も、下卑た笑いとともに対撃を仕掛け続ける黄巾党どもの笑いにもいい加減飽き飽きだ。
 しかし無駄に回復するのもいい加減疲れてきたんで、兵士の皆様には急いで逃げてもらい、殿は俺と鈴々とで請け負っていた。

黄巾兵「うひゃはははは! 殺せ殺せぇ! 奪いつくせぇ!」
黄巾兵「相手はガキと男ひとりだ! 捻り潰しちまえぇ!」

 道はゆっくりと狭まる。
 だがまだだ、もっともっと……

中井出「ヒ、ヒィ! おたすけー!」
黄巾兵「助けなんざこねぇんだよぉ! 俺達の前に現れたのがてめぇの運の尽きだ!」
中井出「ヒエー!」
黄巾兵「《ベパァン!》ウボブ!《───ガクッ》」
黄巾兵「なにやってやがる! こんなやつ相手に気絶なんか!」

 怯えるフリをして殴るのって結構楽しいです。
 鈴々もこれがフリだって解ってるのか、助けに入ることもない。
 ……ちなみに。
 漢神の祝福は仲間の皆様、つまり鈴々にも効果があったわけで。
 たった5%上がっただけでも、鈴々の強さはそこいらの兵士はおろか、武将にも負けぬ十分な強さを誇っておりました。
 追撃する敵を吹き飛ばし捻じ伏せて、それでも相手は馬鹿なのか追撃をやめない。
 いや〜力の違いの解らん者を叩くのは実に愉快です。
 しかしそれでも敵の数は一万。
 さらにいえば援軍が来てしまったために、その数は一万二千あたりにも及ぶ。
 正真正銘、二倍の敵となってしまったわけだが───ようやく峡間へと辿り着き、伝令が言伝をしてくれた時点で、反撃の狼煙は上がった。

中井出「よっしゃあ鈴々! 反撃開始ぃいいいいいっ!!!」
鈴々 「待ってましたー! そろそろ我慢の限界が来てたとこなのだ!
    お兄ちゃん! めいっぱいやっちゃっていいよねー!?」
中井出「もちろんだ! 反撃とは! 敵の勢いを三倍返しにしてこそのもの!
    いくぜぇ野郎どもぉおお!!
    紅蓮に時! 蒼碧に元素! 連ねてひとつの力と成す! 義聖剣!!」

 解放するのはクロックワークス!
 敵の動体速度を低下させ、味方の動体速度を上昇させる!

中井出「全軍ッ! 突撃ぃいいいいいいっ!!!」
兵士達『ウォオオオオオオオッ!!!!』

 劉備軍の兵士たちが絶叫する。
 ───伝令からの報せはこんなものだ。
 先行する部隊に反転の準備をさせて、
 峡間で二手に解れて待機。その間を殿である俺たちが通り過ぎたところで反撃に移る、と。
 ようするに、敵は二手に別れた我が軍の間へとまんまと誘き出されて、気づけば挟み撃ちをくらうってわけ。
 まあ……俺達も待機してた部隊と交代するわけでもないんだから、挟み撃ちどころの騒ぎじゃないわけだが。

兵士 「体が軽い……今ならなんでも出来る気がする!!」
兵士 「逃げるんじゃねぇぞ! 殺してやるからな!」
黄巾兵「な、なんだぁ!? 体が思うように動かね───ひ、いいいいいっ!!」

 そうなれば、敵が全滅するのも時間の問題ってやつで───
 敵の陣地まで突っ込んだ頃には、敵の一人も残っちゃいなかった。
 まあ、大半は逃げてたみたいだけどね。





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