10/江東の麒麟児

 ワヤワヤワヤ……!

子供A「しょーさまー!」
子供B「しょーさま、あそんでー!」
中井出「いいけど違うよ!? 相なのは玄徳様なの!
    僕相じゃないんだよ!? ほんとだよ!?」
子供C「じゃあしょーさまはなんなの〜?」

 子供って容赦ねぇ!
 そして相じゃないってば!
 …………で、なんだっけ? 僕の立場?

中井出「おはようからおやすみまで暮らしに夢を広げるナイトメア───中井出提督です。
    つまり僕は皆様の疲れを癒すために様々なことをですね」
子供A「あそんでー!」
中井出「聞いてないねほんと! ええいもう遊んだらー!」

 書類整理をホギッちゃんと未来凍弥ならび、頭の回転の速いヤツの意思を使ってさっさと片付け、息抜きがてらに街に降りたはいいんですがね。

男A 「おお御遣い様、今日も人気ですなぁ」
女A 「うちの子もすっかり御遣い様に懐いて」
中井出「構いません! なにせ面白いことは大好きですからな!」

 御遣いだとか言われてても、村人の反応は結構気安い。
 そうしてくれって俺が頼んだのと、俺自身が偉ぶってないからだと思うけど。
 最初は道端で子供たちが転んだとか痛いとか言ってたのを助けただけだったんだけど。
 それ以降、どうにも懐かれてしまって。
 もはやこの博光の瞳に、子供と接する際の悲しみの色は無し。
 だからだろうか、子供たちも心から僕に接してくれます。
 子供には懐かれなかったあの時代がいっそ懐かしいくらいさ。

中井出「よし! 今日もこの博光が持つ様々な遊びを紹介しよう!
    沢山遊んで沢山食べて、強いお子めらになりなさい!」
子供達『おーーーーーっ!』

 そして今日もいつもの如く。
 この博光の持つ遊び知識をフル回転させ、子供たちを娯楽と爆笑の渦に叩き落とします。

?? 「あーーーっ! ご主人様遊んでるーーーっ!」
中井出「なんと!?」

 ええ遊んでますよ!? つーか誰!?
 と探すまでもなく桃香だって解ってるんですがね?

桃香 「わたしもわたしもーーっ♪」
鈴々 「鈴々も遊ぶのだーーーっ!」
中井出「キミたちは警邏の仕事でしょうが!」
桃香 「えー? でもご主人様だって遊んでるし……」
中井出「し、失礼だなキミは! なにを言ってるんだキミ!
    それはキミ、チ……! じゃなくて! 書類整理も炊事洗濯掃除も終わったの!
    だからこうして遊んでるんですよ僕は!」
桃香 「ええっ!? もう!?」
鈴々 「お兄ちゃんすごいのだ!」
中井出「うむうむ! だから鈴々も頑張って仕事しようなー!」
鈴々 「今は遊ぶのだ!」
中井出「その意気やよし!! では子供たちよ! 目一杯遊ぶぞー!」
子供達『おー!!』

 今のところは平和なもんです。
 街を任されるってのは、結構楽しいものですね。
 ……書類整理とか抜かせば。

…………。

 そうして散々と遊んで、子供たちが帰るのを見送ると、ようやく一息。

桃香 「あははぁ〜、疲れたけど楽しかった〜」
鈴々 「お姉ちゃんだらしないのだ。鈴々はまだまだ遊べるのだ」
中井出「うむうむ。それじゃあ愛紗、あとよろしく」
愛紗 「……御意」
桃香 「ぎくぅっ!?」
鈴々 「にゃっ!? い、いつの間にそこに居たのだ!?」

 にこりと微笑みながら言うと、愛紗が冷たい笑みを浮かべながら、桃香と鈴々の肩を叩いた。

愛紗 「先ほどからだっ! 桃香様! 鈴々!
    警邏の仕事をほったらかしにしてなにをしているのです!」
桃香 「え、ええええっとこれはその〜〜……!」
鈴々 「遊んでたのだ!」
愛紗 「だからといって! 仕事をほったらかしにしていいわけではないだろう!」
鈴々 「にゃー……」
桃香 「で、でもでもご主人様も……」
愛紗 「ご主人様はとっくに仕事を終えられていました!」
桃香 「う、ううう……ご、ご主人様ぁああ〜〜……!」
中井出「仕事ほっぽって遊んだ代償はきっちり払わねば。
    桃香殿、貴女はこれより天下を担うお方。
    これしきのことに耐えられずにどうします」
桃香 「はぅっ……ご主人様が冷たい……」
愛紗 「───しかし。止めなかったご主人様にも責はありますね?」
中井出「……あれ?」

 え……あれ?
 いやあの、ちょっ……あれ!?

中井出「愛紗!? ぼ、僕止めたよ!? そしたら二人が“今は遊ぶ”って言うから!」
愛紗 「言い訳無用です!」
中井出「ゲゲェエーーーーーーーーッ!!!!」

 その日。
 きっちり仕事を片付け、ただ普通に遊んでいただけの僕は、二人の小悪魔に巻き込まれてみっちりと愛紗さんの説教をくらった。
 うう……ひでぇ……。

───……。

 日々は普通に過ぎていきます。
 あーだこーだと忙しい毎日に追われながらも、いつしかそれが楽になり、余裕が生まれてくると、やりたいことってのは増えるもんで。
 そう。
 それは……とある日のことじゃったぁ……。

  ガチャッ……

朱里 「ご主人様、種類の確認が終わりましたので…………はわっ?
    ご主人様居ない…………、……? 書き置きが…………
    えと、……曹操には会えたから、ちょっと孫策に会ってくる……
    あなたの博光より、…………って、はわぁああーーーーーーーーーっ!!!?」

 執務室に朱里さんの絶叫が轟きました。
 それを天井に貼り付きつつ確認したのちに行動開始。
 平原に勤める将たちが静かに騒ぐ中で、僕は江東を目指して出発したのでした。

───……。

 荊州南陽。
 孫策殿がおられるとされる場所を、覚えたての地図の見方を頼りに目指し、今現在……その城の前。
 あっさりと兵士に行く道を塞がれた僕は、どうしたものかと首を捻っていました。

中井出「えぇと、ここに孫策殿はいらっしゃるか」

 つーかここって呉でいいのかな。
 荊州とか南陽とかいっても、オラにゃあ解らねぇだよ。

兵士 「孫策ぅ? ……ああ、袁術様の客将の」
中井出「袁術?」

 袁術って……あ、あー、そういえば居たなあそんな存在。
 でも三国志とかそっち方面には随分弱いから名前くらいしか知らん。

中井出「孫策殿に会いたいんだけど、通してくれない?」
兵士1「だめだ」
中井出「見ての通り丸腰ですし、怪しい者じゃないよ?」
兵士1「だめだだめだ」
中井出「どうしてもだめ?」
兵士1「だめだといっている」
中井出「…………」
兵士1「………」
中井出「サミング!!」
兵士1「《ゾブシャア!!》ぐわぁああああああっ!!」
兵士2「なっ! 貴様! ここが何処か解って《ベパァン!》うべぶ!」
中井出「解ってますよ失礼な!」

 兵士1にサミングをし、兵士2にビンタ。
 痛がっている隙に城門をブチ破り、中へと侵入を───

兵士3「暴徒だ! そいつを捕えろ!!」
中井出「ゲェエエーーーーーッ!!!」

 ……静かに侵入できるわけがありませんでした。

───……。

 ガヤガヤガヤガヤ……!!

周瑜 「雪蓮(しぇれん)」
孫策 「あ、冥琳(めいりん)。聞いた? 賊が侵入したって」
周瑜 「それを今言おうとした……が、その嬉しそうな顔はなんだ」
孫策 「だって賊でしょ? 丁度退屈してたし、相手するのも楽しそうじゃない」

 兵士たちが駆けてゆく。
 そんな中で、僕は天井をゲンバリングしながら進んでゾグシャア!

中井出「ホヒャア!?」
孫策 「……ねぇ? 侵入者さん」
中井出「おおまったくです」

 天井に貼りついていたことはバレバレだったらしい。
 つーか顔のすぐ横に剣が……おお怖い。天井突き破ってない? これ。

中井出「こんな格好で失礼。拙者、天の御遣い。中井出提督という者。
    今日は孫策殿に会いたく、平原から来訪つかまつった」
周瑜 「天の御遣い? ……あのエセ占い師の管輅言っていた?」
中井出「何処までエセ占い師で通ってるんですか管輅さんって……。
    まあうん、そういうことになりもうす」
孫策 「ふ〜ん……」
中井出「ところで訊きたいのですが。孫策殿って何処にいらっしゃります?
    最初は正面から会わせて? って頼んだのに、兵士さんがダメだって言うの。
    だからこうして侵入したんだけど……うーぬ」
孫策 「? ……会いに来ただけなの?」
中井出「押忍! 曹操さんと劉備さんとはもう会ったから、次は孫策さんさ!
    なんか江東の麒麟児とか言われてるらしいよ!? かっこいいじゃん!
    だからこうして会いにきたの! だからえーとそのー、
    出来れば何処に居るか教えてくれるとありがたいです」
孫策 「んー…………あっち」
中井出「あっちですな!? ありがとう!」

 教えてくれた方向へと、床に降りてからダッシュでGO!
 孫策さん! 待っておいで!?

  ズドドドドドド…………

周瑜 「……随分……疑うことを知らない侵入者だな」
孫策 「真っ直ぐな目、してたわよ? 本当に会いに来ただけみたい」
周瑜 「それはいつもの勘か? ならばあっちを教えたのはまずいでしょう」
孫策 「面白いしいいじゃない」

───……。

……。

 ズドドドドドド!!!!

兵士 「待て貴様ぁああ!! 兵舎に乗り込んでくるとはいい度胸だぁあ!!」
中井出「キャーーーッ!!? キャーーーーッ!!!」

 教えられた方向に走ってみたら、大きな建物があったから入ってみたんです。
 そしたら武装中の兵士たちがごっちゃり居て……その中に、ビンタかました兵士が居たからさぁ大変。
 来た道を戻ることになって、その途中の通路で再びさきほどのおなごらを発見!

中井出「あっ! さっきの親切さん!」
孫策 「あ、戻って来た……ぷふっ! すごい兵に追われてるわね」
周瑜 「親切さんだと呼んでいるぞ?」
中井出「えぇっとあのそのごめんよぅ! なんか途中で道間違えたみたいで!
    あっち!? あっちでいいんだよね!? ってうぉおもう来た!!
    兵士さんストップ! 止まって!? 僕悪い子じゃないよ!? ほんとだよ!?
    ただちょっと孫策さんに会いに来ただけで!」

 とは言っても止まってくれません。
 あっという間に僕は包囲されてしまい……おおうどうしよう、無関係のおなごさんを巻き込んでしまった。

中井出「うう、すみませぬ……! まさかこんなことに巻き込んでしまうとは……」
孫策 「ねぇ。その孫策さんの顔は知ってるの?」
中井出「いえ全然。会ってくださいって言えば会ってくれるかな〜って……」
周瑜 「……この乱世に。ただ会いたいというだけで将が会う筈がないだろう」
中井出「そうなの!? グ、グウウ〜〜〜〜ッ!! こ、これは迂闊だった〜〜〜〜っ!」

 どうしましょう。
 いや、ここはまずこのおなごらを逃がさねば。
 彼女らは関係ないのだから。

中井出「兵士殿! 彼女らは関係ござらん!
    どうか彼女らは逃がしてやってはくれまいか!」
孫策 「……、〜〜〜っっ……くくっ……ぷくくっ……!」
周瑜 「……ふっ……くくっ……」
中井出「あれぇ!? なんで笑ってるの!? 笑い事じゃないでしょ今の状況!
    はっ! まさか恐怖のあまり!? こ、これはいかん!
    兵士殿! どうかここはお退きになってくだされ!
    この方めらのためにも、なにとぞ───」
孫策 「あはははははは!! だめっ! もうだめ!
    この子最高! あはははははは!!」
中井出「ホワッ!?」

 なに!? なにが起こってるの!?
 急におなごの一人が笑い出して……ホワイ!?

周瑜 「ふふっ……いや、すまない。全員、下がっていいぞ。この男は雪蓮の客人だ」
兵士 「はっ……し、しかし」
周瑜 「下がれと言ったぞ」
兵士 「……、はっ!」
中井出「……?」

 兵士殿たちが下がってゆく。
 はて一体……? とか思ってたら、背中からがばしー! と抱きつかれた。

中井出「のわい!? な、なにをなさるか!」
孫策 「ねぇ、あなたなんていうの? 名前、あるでしょ?」
中井出「お、おおこれは失礼。巻き込んでしまったのに名を名乗らんのは失礼ですな。
    拙者、天の御遣い。姓は中、名は井出、字は提督。真名は博光と申す」
孫策 「! ……いいの? 真名教えてくれちゃって」
中井出「どうやったのかは知りませぬが、こうして兵士殿を引き上げてくださった。
    恩義には恩義を。拙者の真名で済めばよいのですが」
孫策 「…………冥琳」
周瑜 「ああ。悪いことが出来る目ではない。
    ただ本当にお前に会いに来ただけなのだろうよ」
孫策 「ん、それはもう解ってるけどね。そっかそっか〜」
中井出「え?」

 あれ? え? なに?

中井出「キミに、って…………えぇ!? じゃああなたが孫策!?」
孫策 「そゆこと〜♪ 姓は孫、名は策、字は伯符。で、こっちが───」
周瑜 「周瑜という」

 即答、そしてたった一言でした。

孫策 「あらそっけない。……あ、私のことは雪蓮って呼んでいいわよ。私の真名だから」
中井出「なんですって!? いいの!? そんな簡単に! 僕侵入者だよ!?」
孫策 「いいのいいの、面白くて気に入ったし、どう見ても悪い人じゃないし」
周瑜 「やれやれ……」

 し、しまったぁああ……!
 今までのこと忘れて、本気で“男”探してたよ俺ェエ……!
 今までみ〜んな女だったから、今回も女捜せばよかったものを……!

孫策 「と・こ・ろ・でぇ。天の御遣いとか言ってたけど、それってほんと?」
中井出「押忍! 落ちたのは幽州琢軍の方だけどね?
    そっちの方でいろいろやって、
    ひと段落ついたから孫策さんに会いに《グミミ……!》あいぃいーーーっ!!!」
孫策 「雪蓮。ほら、言ってみて」
中井出「頬引っ張るのやめません!? 痛いよ地味に!
    ……じゃあ僕のこと博光って言えたらいーよ?」
孫策 「そ? じゃあ博光」
中井出「押忍、雪蓮」
雪蓮 「うんうん、それでそれで?」
中井出「ぬ、う?」

 それで? ………………おお。

中井出「なるほど、証拠を見せろというのですな?」
雪蓮 「待ってました〜♪」
周瑜 「雪蓮、あまり───」
雪蓮 「いいじゃない、ずっと袁術にこき使われっぱなしで、
    いい加減飽き飽きしてたんだから。適度の刺激は必要よ。そうでしょ? 冥琳」
周瑜 「……」

 ……。いいのかな? 始めても。
 よし始めよう。

中井出「ええと、とりあえず離れてもらってもよろしいかな?」
雪蓮 「いいじゃない、このままやっても」
中井出「う、ううう……! し、しかしですね……!」
雪蓮 「それとも私が後ろに居ちゃ、出来ない理由でもあるの?」
中井出「むっ! 雪蓮! 貴女はこの博光を疑っておいでか! ならばよいでしょう!
    まずここに取り出だしましたる機械! テープレコーダーなるもの!
    ってちょっと待ってなんで構えるの!? 別に怪しくないよ!?
    証拠見せるだけだから! 天の技術を見せるだけだから!」
周瑜 「……おかしな真似をすれば、その首が飛ぶと知れ……」
中井出「うう……信用ないなぁ……。まあいいや、周瑜殿、なにか適当に喋ってみて?」
周瑜 「適当に? …………」
中井出「えーと……じゃあ雪蓮、お願い」
雪蓮 「私? んー…………いざ喋ってって言われると、中々出ないものね」
中井出「……と。うん、もう大丈夫」

 カチッとスイッチを切り替える。
 うむ、これで録音出来た筈。

雪蓮 「? よく解らないんだけど」
中井出「うむ。これは天の技術のひとつ、テープレコーダーといって、
    誰かが喋った言葉をここに記憶するものさ。いいかね?」

 カチリ…………

声  『……適当に? ……えーと……じゃあ雪蓮、お願い。……私? んー……』
雪蓮 「わっ! なにこれ!」
周瑜 「……驚いたな。私や雪蓮の声が、そんなものの中から……」
中井出「まだ他にもあるけど、見る? 害はないって断言しとくけど」
雪蓮 「見る見る!」
周瑜 「雪蓮、あまり深く係わると───」
雪蓮 「固いこと言いッこなしっ! ほら博光、次はなんなの?」
中井出「うむ。転移、という言葉を知っておるか?」
雪蓮 「てんい? ……知らないわね」
中井出「うむ。物体を……例えばそこの中庭にある石を、
    持ち運びせずにあっちへ一気に移動させるようなことを言う」
雪蓮 「……触れずに? 出来るの? そんなこと」
中井出「それを今から致しましょう。
    雪蓮、そのまま掴まってて。別のところに飛ぶから」
雪蓮 「え? あ《ビジュンッ!!》」
周瑜 「雪蓮!?」

 ───キィンッ!! トタッ!

中井出「……ほい着地」
雪蓮 「……は、あはは……うわぁ〜〜〜〜〜……凄いわこれ……本物だわ……」
声  「雪蓮!? 雪蓮!」
中井出「ごらんください。あれが、人が目の前で消えた時の人間の様子です」
雪蓮 「あははははは!! 冥琳? 冥琳〜〜〜っ! こっちこっち〜〜〜っ!」
声  「雪蓮!? ……はぁ、あまり気をもたせるな……!」

 別の建物の屋根へと転移した僕と雪蓮は、まあ笑いながら周瑜殿に手を振った。
 認めてもらったこともあり、僕もホフ〜と息を吐いて───

雪蓮 「他には?」
中井出「………」

 おもちゃを手に入れた子供のような目をする女性を背に、少し眩暈がしました。

…………。

 カシュンッ!

中井出「はい! これがカメラ!
    超高性能ポラロイドだから取った瞬間すぐに現像!
    はい! これがカメラを前に構える周瑜殿!」
雪蓮 「わ〜っ! 冥琳が居る!」
周瑜 「……私はこんな顔をしているのか……これは妖の術?」
中井出「え? 鏡くらいあるでしょ? ……そして妖じゃあありません」
周瑜 「その時その時にする顔、というのもあるだろう」

 あ、なるほど。

中井出「あとは……そうだね。雪蓮、このネックレスつけて」
雪蓮 「ねっく? ……首飾りね。…………これでいい?」
中井出「うす。で、少し離れて……うん、そこでいい。
    じゃあえーっと……tell:孫策、と……」
雪蓮 「《ザッ》わっ!? ……なんか耳にヘンな感じがするんだけど」
中井出「うん、そう感じたら、意味が解らなくてもいいから“繋げる”って思ってみて」
雪蓮 「ん…………これでいい?」
中井出「《こくり》…………で、聞こえる?」
雪蓮 「───え? ……今、喋った?」
周瑜 「?」

 首を傾げる雪蓮の姿がなんだかおかしくて、噴き出しそうになる。
 が、説明を続けないと怒りそうなので続行。

中井出「これはね、遠く離れた相手とも会話が出来る首飾り。
    例えば俺が平原に居たとしても、こうして繋げれば雪蓮と会話出来るってやつ」
雪蓮 「へぇえ……凄いわね……」
中井出「これがあれば、遠く離れた部隊との連携も意思伝達も思いのまま!
    軍師と武将を繋げる夢の首飾りです」
雪蓮 「もらっていい?」
中井出「だめですよ!?」
雪蓮 「ちぇ〜」

 渋りながらもちゃんと返してくれる。
 ……うん、やっぱ良い人っぽいね、この人。
 と、そんなわけで……僕は持てる全ての限りを尽くし、自分が御遣いであることを証明することに励んだのでした。
 まあ、傷を癒すとか人器を解放するとか、能力的なことは一切行ってないけどね。

…………。

 で、気づけばとっぷりと夜。
 散々と楽しんだ雪蓮はお肌をつやつやにさせて、にこにこと笑っていて……その周りにはいつの間に来たのか、雪蓮や周瑜以外の誰かも集まってらっしゃった。
 ちなみにここは……客間、って言えるのかな。
 結構広い場所で、数人が座っていても平気な場所です。

 散々と証拠を見せつける中で、いくつか話したことで解ったことは、この荊州の太守は雪蓮ではなく、袁術ってやつで。
 雪蓮の母、孫堅って人に率いられ、一時は荊州近くまで領土を広げていた孫策陣営だったが、孫堅が戦死したことによって衰退。
 兵や武将、街の者達によほど好かれていたんでしょう、孫策が跡を継ぐや内乱や逃走が相次ぎ、仕方なく孫策は荊州太守の袁術の客将という立場に甘んじているんだとか。
 しかしこのままではいかんと思っているらしく、いつかは独立して天下統一に乗り出したいと思っていると。

 あ、もちろんここに集まった皆様の名前もしかと聞きました。
 雪蓮の妹の孫権、孫尚香を始め、周瑜と同じく軍師を務める陸遜、海兵隊を率いる甘寧、隠密部隊を率いる周泰、孫堅の代より呉に仕える黄蓋、軍師見習いの呂蒙、と……ええ、例に漏れず全員女性です。
 孫権はこの姿の僕と同い年くらいで、尚香さんは耳年増な年下。
 陸遜さんは……なんつーかえぇと、エロくて直視できん。ほんとに軍師ですか?
 甘寧さんは……ええ、暗殺部隊でもやっていけるよきっと。
 海兵と言わず、暗殺でもやるべきだ。
 周泰は……うん、なんていうか素直な子。
 刀を武器にしてる、珍しいお子だ。ちっこいけどその分すばしっこいって感じ。
 で、黄蓋殿がこの中で一番歳がいってるだろうけど、全然若々しい感じ。
 姐御って感じだね。
 で、最後に呂蒙だけど……周泰と仲がよいらしい。歳の頃も同い歳っぽい。
 この姿の俺の年齢よりも下っぽいけど。
 と、考え事をしながら様々なアイテムを仕舞う。

中井出「はふぅ……以上。もうキリがないからここらでいいですか?」
雪蓮 「え〜?」
中井出「え〜? じゃありませんよ! いったいいつまでやらせるおつもりか!」
雪蓮 「むー……だってようやく黄巾の乱も落ち着いて、こうしてのんびり出来てるのよ?
    楽しめる時に楽しんでおかないと」
中井出「いえあの……だったらもっと別のことで楽しむとかは……」
雪蓮 「あら。じゃあ博光はずっとここに居てくれるの?」
中井出「いえ? 孫策殿がどんな人なのかを見に来ただけだし、そろそろ帰るよ?」
雪蓮 「ほら。博光がやることで楽しめるのなんて今日だけってことじゃない」
中井出「グウウ〜〜〜〜〜ッ!」

 そりゃそうだけど……うう、愛紗怒ってるだろうなぁあああ……!!

中井出「あ、そうだ。みんなお腹減ってない?
    よかったら僕が天の料理をご馳走しますけど」
孫権 「………」
中井出「いやその……権殿? そんな敵を見るような目で見ないで……」
祭  「そうだぞ権殿。そう怪しんでいては中井出も困るでしょうに」

 ……ちなみに、黄蓋殿には真名を許されました。(さい)というらしい。
 悪い奴には見えんってことと、甘寧の殺気を真正面から受けても目を逸らさんかった胆力が気に入ったんだとか。
 思わず姐サンと呼びたくなります、ほんと。

孫権 「私は貴様が御遣いだからといって、信用したわけではないからな」
中井出「じゃあご飯食べる?」
孫権 「ひっ……人の話を聞いているのか貴様!」
中井出「なにをおっしゃる! 食を囲むは百を語るより解なり!
    食を通じて解り合えることってきっとあるさ! だからご馳走させて?
    怪しいんだったら見張りでもなんでもつけて、
    食べる直前に俺が毒見してもいいからさ」
孫権 「い、いや……雪蓮姉様が信じている男をそこまで怪しむわけでもないのだが……」
甘寧 「蓮華(れんふぁ)様。私が監視致します。どうかご安心を」
孫権 「う、うむ……そうか。頼む」
中井出「わあ、自分で提案しといて信用ないね俺」
周泰 「仕方ないですよ、今日会ったばかりの方なのですから」
中井出「うう、周泰は僕のこと信用してくれるの?」
周泰 「はい! 雪蓮様がご信用なされているのなら!」
中井出「ええ娘や……!」

 思わずなでなで。
 &幸せ光線をあなたに。

周泰 「はう……なんか気持ちいいです……」
甘寧 「───貴様」
中井出「《ヒタリ》ヒィッ!? な、撫でただけ! 撫でただけですよ!?」

 なんでそれが首に剣を当てることに繋がるのですか!? 博光ホワーイ!!

甘寧 「まだ貴様が敵ではないと判断できたわけではない………………見ているぞ」
中井出「ヒィッ!?」

 うぞぞ……! な、なんと背筋の凍る言葉を残すんですかこの子ったら!
 ていうか───あれ? 話してなかったっけ俺。

中井出「あのー、結構言いそびれた感があるけど、僕、味方でもないよ?
    ってだから剣やめて! らめぇえーーーーっ!!」
周瑜 「味方でもないか。確かに味方にした覚えはないな」
中井出「でしょ!? ていうか甘寧さん!?
    やめて!? お願いだから! 説明しづらいよ!?」
甘寧 「…………ちっ」

 うわっ! 舌打ちした! 今この人舌打ちしたよ!?

中井出「あ、あのね? 僕は幽州琢郡の五台山の麓に流星の如く落ちました。
    そこにはまあ幸いにして誰も居なかっただけど、
    弱ってた僕に歩み寄ってくれた人が居たんですよ。
    それが今一緒に乱世を渡ってる、劉備と関羽と張飛って人物」
雪蓮 「……冥琳?」
周瑜 「聞いたことがある。黄巾の乱で中々の働きをしたと。
    平原という場所の相をしている筈だ」
中井出「うん。そこからやってきたの」
雪蓮 「へえ……結構距離あるのに」
中井出「え? こんな距離一日かからず移動できるよ?」
雪蓮 「本当にやれそうだから怖いわ……」
中井出「うん、だからいずれ敵になるかもです。だが誤解しないで頂きたい。
    俺は雪蓮に真名を預けた。それは信用させるためでも欺くためでもない。
    俺が預けたかったから預けただけで、その思いに敵だの味方だのって他意はない」
周瑜 「そうだろうな。
    なにせその時はまだ、雪蓮が孫策だということすら知らなかったんだ」
中井出「グ、ググ〜〜〜〜〜ッ」
雪蓮 「あはは、赤くなった」

 だ、だってあれはかなり恥ずかしい事実でしたよ?
 ただの武将かなにかと思ってた方が、実は策殿だったなどと。
 あ、ちなみに策殿ってのは祭さんが雪蓮を呼ぶ時に使う呼び名。
 発音が好きなこともあって、孫権相手には使ってる。

中井出「ぬ、ぬう決めた! 決めましたぞ雪蓮!」
雪蓮 「え? なに? 呉に尽くしてくれるの?」
中井出「それは気が向いたら。風はどう吹くかなど解りませぬものなぁ。じゃなくて。
    雪蓮。この博光、いつか貴女に兵舎突撃命令を下された借りを返します。
    あのね? あれ驚いたと同時に結構恥ずかしかったんだよ?」
雪蓮 「そうなの? 楽しかったのに」
中井出「こっちはしこたま驚きましたよ!!
    騙されてたなんて知らずに突き進んで、進んだ先には兵士がごっちゃり!
    道を間違えたに違いないともう一度訊きに戻って、
    兵士に囲まれてしまったことを謝ってみれば雪蓮が孫策で!
    ああもう思い出すだけではぁああああずかしぃいいいいいいいいっ!!!」
雪蓮 「うふふっ、わたしは本当に楽しめたんだけどなぁ」
周瑜 「確かに、あれだけ笑う雪蓮を見るのは久しぶりだったな」
雪蓮 「あ、私だけ笑ったみたいな言い方して。冥琳だって笑ってたじゃない」
孫権 「…………」
中井出「権殿? どうされた?」
孫権 「! ……な、なんでもない、構うな!」
中井出「ぎょ、御意」

 あれ〜……? なにか怒るようなこと言ったかな。
 なんかちらちら見られてる気がするんだけどグムー。
 まあいいや。

中井出「じゃあいつか雪蓮には赤っ恥をかいてもらうとして。
    料理させてもらうね? じゃ、一緒に行こう甘寧さん《ヒタリ》ヒィッ!?」
甘寧 「気安く声をかけるな……!」
中井出「どうしろと!? 声かける度に命狙われたんじゃ心安らがないよ僕!」

 こうして僕のクッキングが始まりました。
 多少のリクエストを聞きつつ、バックパックから食材を取り出しては、彼女らの前で料理をしてゆく。
 炭火焼ファイヤーを使った瞬間、本気で命狙われた時は泣きたくなったけど、なんとか説明して抑えてもらった。
 そうして───

中井出「じゃじゃーーーん!!」

 完、成……! 博光スペシャル……!
 この博光にかかればどんな食材も自由自在!
 といってもナギーのお陰で食材には苦労しないんだけどね?
 ドリアードを地界に置いてきてしまった分、ナギーには頑張ってもらってるわけだけど、食材植物の精製に関してはドリアードよりナギーの方が上だ。
 なにせヒロライン中の植物の記憶があるために、どんなものでも生えさせることが出来る。
 ミートウッドとかを生やせば肉だって思いのままだし、まあ……猛者どもの記憶にあるところの“トリコ”チックな食材の大半がある。
 存在しない食材も、晦が育てた“ラグナロク”と、彰利の鎌の全てが宿る“ダークマター”があれば大抵のモノは揃えられるわけで。

中井出「さあ! 食べてみてよ!」
雪蓮 「……へぇ、いい匂い……」
甘寧 「毒味しろ、見ていてやる」
中井出「な、なんて真っ直ぐな言葉!」

 でもします。先に言ったの僕だもんね。
 じゃあミートウッドのソテーを……もぐり、と……うん美味い。

中井出「毒は入ってません」
甘寧 「……蓮華様、大丈夫のようです」
孫権 「う、うむ」
孫尚香「思春は警戒しすぎ。見てる中でも毒なんて入れてなかったのに」
甘寧 「慎重に行動して、しすぎるということはありませんから」
中井出「そうそう。あ、祭さんにはこれ。俺の世界の酒だ」
祭  「おおっ、解っておるのうっ」
中井出「強い酒から透き通るような酒までいろいろあるけど、どれから飲む?」
祭  「当然強い酒じゃ」
中井出「了解。ではこの世界最強の酒、スピリタスを。……まずは少量をどうぞ。
    一気に飲みたいだろうけど、我が国のしきたりですので」
祭  「なんじゃそうかい。ならば……《コクッ》……ふむ───むはぁあああっ!!?」
甘寧 「黄蓋殿!? ───貴様まさか毒を!」
中井出「キャーーーッ!!!?」

 躊躇無き斬撃!
 それを躱し、説明を……って聞いてぇえええええっ!!

中井出「ちょちょっちょちょっと待って待ってぇえええっ!!
    言ったでしょ世界最強の酒だって! 滅茶苦茶強いの!
    普通の酒だって思って飲めば、むはぁああって言いたくなるって!
    まずは刺激を知ってもらっただけで、飲み方にもいろいろあるの!」
祭  「その通りじゃ、やめい興覇!」
甘寧 「───! ……黄蓋殿」

 ほ、ほふぅ……! おおヒヤヒヤもんじゃったわ……!
 そりゃ、VIT上げればダメージなぞ食わんけど、刃向けられて平気なほど神経太くないよ僕。

中井出「し、失礼した祭殿。説明不足で飲ませるものではなかったか」
祭  「いいや構わんさ。なかなか味わえん刺激だったわ。
    それで? 他の飲み方とやら、教えてくれるんじゃろうな?」
中井出「ええもちろん。こちらに果実を付け込んだ果実酒にしたスピリタスがあります。
    まずは味見程度に少し…………。どうです?」
祭  「───……おお。強い刺激のあとに甘みが。これはなかなか楽しい味じゃな」
中井出「うん。じゃあ次はこっち。俺の知り合いが好きな酒、紬薙羅だ。
    刺激はないけど、目が覚める」
祭  「ほうほう……───…………お、おぉおお……!
    これはまた、確かに……ぼうっとしていた頭が冴えるようじゃ……」
中井出「うんうん。味が解る人に飲ます酒は楽しいなぁ。
    あ、じゃあ次こっちね? 神酒って云われてる酒」
祭  「おうおうどんどん注げっ!
    ん、んっ……んくっ……ふはぁっ! くぅう、いいのう!
    世にまだこんな美味い酒があったとは! 長生きはするものよなっ!」
周瑜 「……祭殿。あまり羽目を外しすぎないように」
祭  「ああ知らん知らん、堅苦しいことを言うな。せっかくのいい気分が台無しぞ」

 そう言いながらも、注ぐ先注ぐ先、白い喉を慣らして飲み込んでゆく。
 ……すげぇ、どれほどハイペースで底無しなんだこの人。

中井出「じゃ、とっておきね。この酒はえーっと……そう、これ。
    これの果汁を一滴垂らして〜〜と。はい、すぐ飲んで!」
祭  「うむ!《ごくり───》……………………………………、は……」
雪蓮 「? ……え? ちょっと祭!?」
祭  「……あ、いや……すまぬ、策殿。あまりの美味さに少々放心した」
雪蓮 「じゃなくて、目! 涙!」
祭  「む? ……ほお、これは……」
中井出「へへ〜……美味かったでしょ」

 飲んでしばらく、放心状態にあった祭殿の目からは涙。
 うんうん、涙出るほど美味いからねこれ。
 ちなみにこれ、虹の実で作った果実酒です。
 漫画トリコに存在する虹の実を、彰利と晦の意思を介して創造栽培。
 そうして出来たものを酒に精製した、様々な意味で最強の酒だ。

祭  「まったく……とんだ不意打ちじゃろう、これは。
    今までの酒を出す順番も、全てはこの味が引き立つ過程というわけじゃな?」
中井出「ぬおっ! もうバレた! ……ええ、はいそうです」
祭  「ふふ、まったく……面白いのぅ……まさか酒に泣く日が来ようとは」
雪蓮 「なに? そんなに美味しいの?」
祭  「酒、という観念が吹き飛びますな。
    これに比べれば、儂が美味い美味いと飲んできた酒など、味もない水と同じ」
雪蓮 「祭にここまで言わせるなんて……博光、私ももらっていい?」
中井出「いいけど……どうする? 祭殿と同じく、刺激の方から入る?」
雪蓮 「回りくどいの嫌いだから、最初からそれでお願い」
中井出「御意」

 虹の実の酒を杯に少々。
 次にロイヤルレモンチェリーの実を潰し、果汁を一滴垂らし、完成。

中井出「はいすぐ飲む!」
雪蓮 「んっ───《こくっ……》…………………………、は、ああ…………う、ん……。
    すごい…………祭の言ってたこと……よく解、わわっ、涙出てきたっ」
孫権 「雪蓮姉様!?」
孫尚香「ねーねー博光? シャオもそれ飲んでいい?」
中井出「ダメじゃ」
孫尚香「え〜? なんでよ〜!」
中井出「シャオにはこっち。虹の実のジュースだ」
孫尚香「じゅ……?《ゴクッ》……じゅうす? ……《コクッ》……わ、なにこれ、
    それの匂い嗅いだ途端、《ごくっ》……口の中が……」
中井出「唾液がすごいだろ。……っと、はいすぐ飲んで。
    これ飲んで泣かなかったらお酒もあげる」
孫尚香「絶対だよぉ〜?」

 言いながら、ジュースが入った容器を傾けるシャオ。
 ……しかし悲しいかな、虹の実の味に勝てる筈もなく、飲んで3秒経つ前に泣いた。

中井出「はいだめ」
孫尚香「……う、ううぅう……ずるいよその美味しさ……涙出ちゃうよ……」
中井出「うむ。励まれよ。では次は……おお! そこな呂蒙さん!」
呂蒙 「えっ?」

 ちびちびと、だけど頬を緩めながら料理を食べていた呂蒙さんに、ターゲットロックオン!
 昔で言うキョンシーみたいな格好をした彼女が座る場所に近づき、料理の途中で思い当たり、秘密裏に作っておいた物体を取り出す。
 これはもちろん、その隣に居る周泰にもあげるという意味での差し出し。

呂蒙 「あ、ああああのっ?」
周泰 「わああ、いい香りですっ! 御遣い様、これは?」
中井出「うむ。天の国の食べ物で、名をケーキと言う」
周泰 「けえき……」
中井出「食べてごらんなさい。美味しいぞぅ?」
呂蒙 「あ、で、でもあのその、」

 ……むうやべぇ。
 この子、慌てる様が雛里そっくりだ。
 うう、なでなでしてぇ……!

甘寧 「…………《じーーーーーーーーーーー……》」

 うおっ……無理! めっちゃ見てる!

中井出「い、いいからいいから。ほら、思い切って。あーん」
呂蒙 「い、いえ本当に《ぱこっ》はむっ!?
    ……ん、んんんーんん…………んんっ!?」

 喋ってる最中に、隙アリとばかりに木製フォークに突き指したケーキの欠片を突っ込む。
 しばらく困り顔で耐えてたけど、おずおずと咀嚼し……その顔に笑顔が零れる。

呂蒙 「…………おいしい」
中井出「でしょう!?」
呂蒙 「はい! とてもおいしいです!」
周泰 「ふわわぁ〜〜! 甘いですっ! すっごく甘いですっ!」
中井出「うむ! 砂糖をふんだんに使った食べ物だからな!
    砂糖は頭の働きにいいんだぞぅ? というわけでさあさ軍師殿、食べて食べて」
周瑜 「ふむ……?」
陸遜 「はぁ〜い、いただきますねぇ〜〜〜〜?」

 周瑜殿と陸遜さんが、木製フォークが刺さったそれをポクッと取り、一口サイズのそれを口に運ぶ。

周瑜 「……うむ。甘くて美味い、なかなかの味だ」
陸遜 「うぅ〜〜ん、ほっぺたが落ちちゃいそうですねぇ〜〜〜〜〜」
呂蒙 「ふわふわしててもふもふしてて甘くって……
    こんな美味しいもの、私初めてです……!」

 ぱくぱくとケーキを食べる呂蒙。
 その顔は歳相応といった感じで、なんだか見てるこっちまで笑顔になってくる。
 そんな顔を見ていたからだろうか。
 甘寧に見られていることも忘れ、呂蒙の頭をキョンシーハット越しになでなでと撫でて幸せ光線。

呂蒙 「ふわっ……み、御遣い、さま……?」
中井出「焦らなくてよいよ。まだまだあるから、ゆっくり食べなされ」
呂蒙 「あ…………は、はいっ!」

 ああ、やはり頭を撫でるのっていいなぁ……!
 皆様の意思が、経験が、僕に撫でろと訴えかけてくるのです。
 だからね?

甘寧 「言った言葉が理解出来ていなかったようだな───」
中井出「ヒアーーーーーッ!!!」

 刃を振るわれまくったりしても悔いないよ!? ほんとだよ!?
 とまあそんなこんながありましたが、一応、初めての顔合わせは成功で終わった……のかなぁ。

中井出「あ、そうだ。ねぇ雪蓮?」
雪蓮 「ん〜〜〜? なぁにぃ〜〜博光〜〜〜」
中井出「うわっ! 酔ってるでしょキミ!
    ───えーとさ、独立するって、具体的な目標とかはある?」
雪蓮 「具体的、ってぇ〜……そりゃあ、
    今までコキ使ってくれた袁術ちゃんにひと泡吹かせて〜……それからぁ……」
中井出「ふむ。まずは人徳集めからかね。あ、甘寧さん?
    ちょっと大事なお話するから待って?」
甘寧 「《がぼっ!》ふぐっ!?」

 襲いかかる甘寧さんの口にフライドチキンを突っ込み、黙らせる。

中井出「袁術ブッチメて独立するにしても、雪蓮自身の人徳がないといかんな。
    袁家ってあれでしょ? 確か名門とか呼ばれてる」
周瑜 「ああ、そうだが」
中井出「親の代を無にするなと言うわけじゃないけど、
    血筋だけを剣にしてたらいつか誰も居なくなってしまう。
    あーはいはい!
    孫堅さんの悪口言ってるわけじゃないから落ち着こうねー!?」
甘寧 「…………」
雪蓮 「……続けて」
中井出「おうさ。えっとね? 孫堅さんが偉大な人だっていうのは、
    史実を見ただけでも十分に解ることだ。
    実際、孫堅さんが死んだ途端に内乱が起きて、逃走する人も多かったんだろ?
    でも、今の呉を担うのは雪蓮だ。
    確かに孫堅さんの血筋って言葉は大事なんだろうけど、
    呉の王としての雪蓮の人徳ももちろん影響する。
    人ってのは以前のものと今を比べたがるものだからね。
    なにが言いたいのかっていうと、多少無茶でも、
    独立は早い方がいいかもしれないってこと」

 ……あら無反応?

中井出「それが出来るならやってるっていうなら、まず袁術ちゃんブッチメる?
    それくらいなら協力するけど」
雪蓮 「劉備と一緒に袁術ちゃんの軍を黙らせるってこと?」
中井出「んにゃ、この件は俺が勝手に手伝おうって思ってるだけだから、
    桃香……劉備たちは関係ない。手伝うのは俺だけだよ」
甘寧 「貴様だけでなにが出来る」
中井出「ん? ん〜……袁家滅亡?」
甘寧 「……馬鹿馬鹿しい。言うだけなら簡単だな」

 あらら信じてくれない。
 普通に考えて当然だろうけどさ。

中井出「曹操も袁紹のこと邪魔くさそうにしてたしね。
    なにより俺、血筋に頼る存在があまり好きじゃない。
    雪蓮たちみたいに親を敬い大事に思うならいいけど、
    袁家みたいにことあるごとに“名門袁家”って言葉を使うやつらは大嫌いだ。
    先代が築いた状態に甘んじるばかりで自分はなにもやらない。
    そんなヤツらが雪蓮たちより上の立場にあることが許せないんだ」
雪蓮 「へー…………うん、そう思ってくれるのは嬉しいけど。
    だからって博光一人でなにが出来るの?」
中井出「や、だから冗談抜きで袁家滅亡。
    やっていいならすぐやるし、時期が早いなら伸ばすよ。
    でも正直、やるならもっと、
    雪蓮たちの人徳が上がってからのほうがいいと思うんだ。それでいて早めに。
    荊州を手に入れるにしても、民が袁術より雪蓮を好ましく思う状況。
    これがあるに越したことはない」
祭  「ふぅむ。前提の時点で間違っておるぞ、中井出。
    まずおぬし一人で袁術袁紹に勝つというのがだな」

 ウムー、やっぱそこは信じてもらえんか?
 やれば出来る子なんだけどなぁ。

雪蓮 「…………博光。一人で何とか出来る……その言葉に嘘はない?」
中井出「我が武具に誓って」
雪蓮 「武具?」
中井出「俺は己の武具と、仲間を何より信頼する。
    武具にかける誓いは俺にとっての命と同等だ」
陸遜 「んん〜〜〜〜〜……? でも武具なんて持ってませんよねぇ〜〜〜〜〜……?」
中井出「───オールエジェクトギミック」

  キィンッ───ガシャシャシャシャシャシャシャシャゴォンッ!!

 武装の全てを解除すると、広間の空いたスペースに我が武具の全てが降りる。
 その数は10や20ではきかない。

雪蓮 「……! なに、これ……」
甘寧 「これだけの武器を、いったい何処に……!」
中井出「これが俺の命だ。この武具全てに誓おう。俺は一人で袁家滅亡を完了出来るし、
    お前達に嘘のひとつも言ってない」
周瑜 「……………」
中井出「……………」
周瑜 「…………解った、信じよう」
孫権 「冥琳っ!?」
甘寧 「馬鹿なっ! こんな得体の知れない者の言を!」
周瑜 「解っている。だから皆の信頼を得るため、証拠をたててほしい」
中井出「証拠? ……誰かと戦えと?」
周瑜 「ああ。……お前がこの館を訪れる少し前、
    霊帝の死と愚かしい争いの報せが届いた」
雪蓮 「そうなの?」
周瑜 「御遣い様の強引な来訪のために、話す機会を逃したがな」
中井出「う、うう……す、すみません」

 なんてタイミング悪いんでしょうね僕。

中井出「そ、それで愚かしい戦いの報せってのは……」
周瑜 「反董卓連合という連合軍を募り、
    朝廷内を牛耳っている董卓をやっつけましょうという報せだ、要するに」
中井出「反董卓連合?」
周瑜 「“袁紹の手紙”によればだが、董卓は献帝と名乗った劉協を傀儡とし、
    自らを相国という位につけて好き勝手しているそうだ」

 相国? それって確か……総理大臣みたいなもんだよね?
 しかも董卓って言えば三国志を代表する悪役みたいなヤツで……でもなぁ、今までが今までだから、きっと女なんだと思うなぁ。

雪蓮 「袁紹の手紙ねぇ……鵜呑みにするのがすごく嫌な手紙ね」
中井出「袁家ってだけで嫌気が差しますな……っと、それで? この手紙がなにか?」
周瑜 「この反董卓連合。お前の言うことが真実なら、一人で先陣を切れるか?」
中井出「───え? いいの?」
周瑜 「……なに?」
中井出「おお! 了解了解! ブッ潰していいなら是非やるよ僕!
    あ、でも袁家が絡んでるなら本当に董卓が悪かどうか解らんし、
    そこのところは戦いの中ででも確認させてもらうけど、それでいい?」
周瑜 「……本気で一人で行く気か?」
中井出「え? そうだけど…………あ、でも───」
周瑜 「《ニヤ……》なんだ? 兵でも欲しくなったか?」
中井出「ううん、俺が一人でやった〜ってことを確認する誰かが欲しいかも」
周瑜 「…………」

 ……あれ?
 なんか周瑜が物凄くポカンとした表情してる。

周瑜 「…………ふむ」
雪蓮 「博光、武器を取って」
中井出「力を証明するのは董卓軍と袁家戦のみだ。断る」
雪蓮 「あらら……じゃあ誰と手合わせしろなんて言わないから……そうね。
    何が切れて何が壊せる?」
中井出「え? なんでも切れてなんでも壊せるけど……。
    ま、ま、いいじゃないいいじゃない。
    やるっていったら本当にやるから。……董卓軍撲滅を以って証明しましょう。
    あ、それと最初に言っておきましょう。
    董卓が悪いヤツじゃなくて、袁家の根回しに逆に利用されてた〜とかだったら、
    董卓は死んだってことにして連れ去るから。そこのところ、よろしく」
雪蓮 「連れ去るって……平気?
    こうなった以上、首紋でもあげなきゃ退かないわよきっと」
中井出「ん〜…………ねぇ雪蓮に周瑜? 董卓の顔って知ってる?」
雪蓮 「…………知らないわ」
周瑜 「……なるほど」

 周瑜はピンと来たらしい。
 この世界は写真とかないから、絵だけで見せられても案外人物像が一致しない。
 どうせ諸侯のお偉いさんがたも、董卓を悪にして自分をよく見せようと必死のアホどもに違いないのだ。
 だったら董卓が誰かも知らないし、こいつが董卓だ〜って言って別人を差し出したところで不思議にも思わないだろう。

中井出「そんなわけだから、僕帰るね?
    きっと平原ではお目付け役の義妹が怒りを蓄積させてる頃だろうから」
雪蓮 「なんだ、帰っちゃうの? ここから反董卓連合に向かえばいいのに。
    どうせその〜……劉備ちゃん、だっけ? も、来るんでしょ?」
中井出「ん、行かせる。大勢と手を組むなんて経験、滅多にないだろうから。
    こういうのに乗っておかないと、弱小勢力なんて濁流に飲まれて四散するだけだ」
雪蓮 「そう。じゃあ、また会う時は連合軍の陣地ってことになるかしら」
中井出「うむ! では皆様壮健で。チェリオ〜〜〜ッ!」

 こうして……小さな旅は終わりました。
 ごちそうさまも言われない旅だったけど、別にそれが聞きたくて作ったわけじゃないし。
 とにもかくにも、反董卓連合。
 どうなることやら今からドキドキですが、その前に怒れる愛紗をなんとかしないとなぁ。
 なんてことを思いながら素晴らしい速度で平原に帰った僕。
 ……を、待っていたのはやっぱり般若様で。
 僕はそのまま夜が明けるまで、正座で説教をくらうハメになりましたとさ……トホホイ。






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