11/反董卓連合

 ザムゥ〜〜〜ッ!

中井出「ここが血気熱く反董卓に燃える者達が集う陣地か〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
    どおれ今日は大暴れしてやるとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 平原を出発して一週間。
 随分と長い道のりを越えて、僕らはようやく、連合合流地点に到着した。
 その様……まさに壮観なり。
 陣地の至るところに天幕が張られ、その周辺には諸侯の旗がところ狭しと並び、色とりどりの軍装に身を固めた兵士たちがあちこちにたむろしていた。

桃香 「ほわー……たくさんの兵隊さんが居るねぇ〜」
中井出「なんの、こちらとて少数ながらも…………あんまり居ないよね、うん」
朱里 「ご、ごめんなさいご主人様……
    税のやりくりが固まる前でしたから資金の調達が出来ず……」
中井出「否。兵を雇えなかったのは朱里の所為じゃないさ。
    逆に感謝してるよ、こうして頑張って集めてくれたことに」
朱里 「《なでなで》あ……え、えへへ……」
中井出「雛里も、この調子で頼むな」
雛里 「《なでででで》へぅ……えへへ……」

 うむうむ、かわゆいのぅ。
 つーかこの撫で癖、絶対に晦とか彰利とか未来凍弥とか閏璃凍弥とか、様々なやつから来てるやつだって。
 前までの俺、撫ではしたけどかわゆいとか思わなかった……と思うし!
 だがまあ可愛いのは事実なので気にしないことにして、と。

中井出「いやぁ〜……こうして見ると物凄い数の旗だなぁ。
    え〜と……袁の字が書かれた旗が二つあるけど、袁紹と袁術でいいのかな?
    他は曹、呉、馬、と……いろいろあるなぁ……」
桃香 「ご主人様! ほら! あっちにあるの、白蓮ちゃんの旗だよ!」
中井出「なんと! おお本当だ! 白蓮も来てたのか! ……っと、おう?」

 などとワクワク感を撒き散らしながらキョロキョロしてると、金色にも似た……山吹色とも少し違った色の鎧を着た兵士がやってきて、

兵士 「長の行軍、お疲れ様でした!
    貴殿のお名前と兵数をお聞かせくださいますでしょうか!」

 筆記用具持って、あちこちに聞き込みに回ってるらしい。

桃香 「平原の相、劉備です。兵を率いてただいま参陣しましたー。
    連合軍の大将さんへ、取り次ぎをお願いできますか?」
兵士 「はっ! しかし恐れながら現在、連合軍の総大将は決まってはおらぬのです……」
中井出「OH?」
愛紗 「なに? 総大将が決まっていないだと?」
星  「では、この場所に駐屯し、いったいなにをしているのだ?」

 うむ。謎が謎を呼ぶ……と頭の中で思った時、足音と、声。

声  「総大将を決める軍議をしているのさ」
中井出「ぬうなにやつ!」

 いや、声でもう丸解りなんだけどさ。
 でも俺が振り向くより先に桃香が目を輝かせ、駆け出しながら言う。

桃香 「白蓮ちゃん!」
白蓮 「よ、桃香。久しぶりだなぁ」
中井出「誰?」
白蓮 「おいっ!」
中井出「はっはっは、冗談です」

 冗談もそこそこに笑みがこぼれる中で、久しぶり〜だとか、暇をもらったまま帰ってこないと思ったら桃香のところに居たのか星〜とか、まあいろいろと積もる話もあるようで。
 けどそれよりも先に愛紗が切り出したのは、総大将のこと。

白蓮 「ああ、決まっていないのは事実なんだ。
    一部を除いて、総大将なんて面倒な仕事はごめんだ、って言う人間が殆どで、
    そのくせその一部っていうのが妙に頑固でなぁ。
    やりたそうにしているくせに自分から言い出さないんだよ」
中井出「それって……」
桃香 「誰かに請われてやりたがってる、ってこと、なのかな」
白蓮 「そうだろうさ。お願いしますやってくださいあなたしか居ないんです、
    とか言われたがってるんだろうさ」
中井出「うわぁ……」

 そりゃまたなんとも……アホですな。
 ええい、曹操と雪蓮が居ながらなにをやってるのか。

中井出「よろしい! ではこれよりこの博光が軍議に乗り込んで───」
星  「ふむ。乗り込んで?」
中井出「そのうずうずした面倒臭い仮初総大将をからかってきます」
星  「ご武運を」

 即答でした。

桃香 「あ、ご主人様、わたしも行くよっ」
中井出「ぬう。辛い戦いになるやもしれぬぞ? それでもゆくと申すか」
桃香 「うん。こんなことをしている間にも、
    もしかしたら庶人のみんなが悲しい思いをしているかもしれないんだから……
    朱里ちゃんが言うように董卓さんを悪者にしたてあげてるかもしれなくても、
    そうじゃないって言い切れないなら、できる限りの速い一歩を踏み出さなくちゃ」
中井出「うむ! ならば行こう! 諸侯が待つ軍議へ!」
桃香 「うん!」

 俺達の戦いは───始まったばかりだ!

───……。

 そんなわけで、陣地中央の大天幕へと入り込んだ僕と桃香。
 そこにはお偉いさんの大将がごっちゃりと。
 そんな中で一人、高貴というよりは無駄に豪華な装飾鎧を着た、曹操にも負けないロンググルグルドリルヘアーを携えた一人の女が、これまた金持ってます高貴ですわよオーラを出しながら、

???「さて皆さん。何度も言いますけれど、我々連合軍が効率よく兵を動かすにあたり、
    たった一つ、足りないものがありますの」

 ……あれが袁紹か袁術、だろうねぇ。
 モノスゲータカビーな雰囲気を醸し出していて、見てるだけで殴りたくなります。
 ああ、こりゃ完全に袁家の人間だ。
 親の七光りどもだ。間違いねぇ。

???「兵力、軍資金、そして装備……全てにおいて完璧な我ら連合軍。
    而してただ一つ足りないもの。……さてそれは何でしょう〜?」
中井出「はい袁紹様!」
???「? ……あら、あなたは? ……まあいいでしょう、答えてごらんなさい?」

 どうやら袁紹でいいらしい。
 そして答えは───馬鹿めだ!

中井出「それは貴様の脳味噌だ!!」《どーーーん!!》
桃香 「えぇえええええーーーーーーーーーーっ!!?」
曹操 「ぶふぅっ!?」
周瑜 「っ……! ぶっ……!」

 あ、曹操と周瑜が噴いた。
 って、あれ? 雪蓮は?

袁紹 「なっ……なななな、なんですってぇええっ!!?」
中井出「え? いやだから、足りないのは貴様の脳味噌だって。アンタ馬鹿でしょ。
    こんなところで道草食ってちゃ、
    董卓軍に準備万端にしてくださいって言ってるようなもんだよ?
    そんなことも解らないんでしょ? ね、馬鹿」
袁紹 「ぐっ……なんですの貴方は! 今は軍議中ですわよ!?
    許可もなく入り込んでくるなど! 所属している軍名を仰いなさい!」
中井出「馬鹿め! わざわざ教えると思うてかこの馬鹿!
    そんなことをしている暇があるならとっとと出撃準備でもしろこの馬鹿!」
袁紹 「きぃいいいいいいーーーーーーーーーっ!!! わたくしを!
    名門袁家に生まれしこのわたくしを! 馬鹿と! ばば馬鹿とぉお!!」
中井出「名門に生まれりゃ天才に育つとでも思っているのかこの馬鹿!
    努力を知らぬ馬鹿が血筋すがりのすねかじりをいつまで続けるかこの馬鹿!
    はい! ね!? アンタが総大将! ね!?
    どうしようもなく貴女がお似合いだから総大将になってくださいこの馬鹿!」
曹操 「〜〜〜〜〜〜〜っ……うぶっ! ぶっ! くぶっ……!!!」
周瑜 「〜〜〜……くっ……ふくく……!」
桃香 「あ、あわ、あわわ……!」

 三者三様。
 曹操はもう顔を伏せてお腹を抱えていて、周瑜は顔を伏せるフリをしながらも肩を震わせている。
 一方の桃香は俺の身振り手振りを受けて俺から距離を取り、他人のフリをしている。

中井出「だがいいだろう……名乗ってやる!
    俺はこの乱世に降り立ちし天の御遣い、中井出提督!
    貴様のような馬鹿が無駄に兵たちを殺さぬよう、参上つかまつった!」
曹操 「〜〜ふひゅっ……ふ、ふひゅふふふ……!!
    だ、だめよ曹孟徳……! た、耐えなさ……ぶふっ!」
周瑜 「……我慢は体に毒……くふっ……! 〜〜〜〜〜っ……!」

 うん、笑いたいなら笑ったほうがいいよ? 曹操。

袁術 「天の御遣い……? ふん、そんなことどうでもよろしいですわ。
    ええ、あなたがど〜〜〜〜〜〜〜〜〜してもと言うなら、
    三国一の名家の当主であるこのわたくしが、
    連合軍の総大将になってさしあげますわ」
中井出「よっ! 馬鹿の総大将!」
曹操 「ばぶふぅっ!? ………………くっ……ふっくっふふふふふふ……!!
    あっははははははははは!!!」
周瑜 「〜〜〜〜…………!」

 あ、笑った。

袁紹 「《ヒクク……!》そ、それで……! こうして貴方の推薦のために、
    わたくしは総大将になってしまったわけですけど?」
中井出「あ、馬鹿って認めた」
袁紹 「認めてませんわ!!」
中井出「いや……それくらいにしてやらないと曹操が大変なことになるから……
    で、なに? 俺が推薦して念願の馬鹿の総大将になったからなに?」
袁紹 「え〜え……責任をとって、わたくしの、この総大将であるこのわたくしの命令を!
    きっちりとこなして頂きますわよ」
中井出「え? 馬鹿の親衛隊になれって? 勘弁してくださいよ」
袁紹 「違いますわよ! 貴方の軍には連合軍の先頭で勇敢に戦っていただきますわ!
    もちろん!? その後ろには私たち袁家の軍勢が控えていますから、
    何も危険なことはありませんわっ!」
中井出「いや……むしろ貴様に闇討ちされないか不安だよ俺……」
袁紹 「しないと言っているんです!!」
曹操 「〜〜〜! 〜〜〜!《テシテシテシ……!》」

 笑いすぎの曹操が、地面を力なく叩いてる。
 うん、我慢しすぎてネジが取れちゃったんでしょうねきっと。

桃香 「ごしゅ」
中井出「《ギラァッ!》」
桃香 「ひゃうっ」

 ご主人様、と言おうとした桃香を眼光でダマップ。
 これでいい、これでいいのだよ桃香、とアイコンタクト。
 それが通じたのか、とりあえずは黙ってくれるらしい桃香に安堵の溜め息。

中井出「よろしい!
    では三国一の名家の当主である袁紹さんがど〜〜〜〜〜してもと頼むから、
    この天の御遣いたる中井出、仕方ないから重い腰をあげましょうぞ!」
袁紹 「なっ! ど〜〜〜してもと頼んでいるのは貴方でしょう!」
中井出「あ、ところでその髪型似合ってるね」
袁紹 「は? ……え〜〜〜えそうでしょうとも。
    高貴なわたくしのためにある髪型───」
中井出「馬鹿めウソだ!」
袁紹 「ギィイイイイイイイーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」

 曹操は…………もう見てやらないのもやさしさかもしれません。

中井出「大体なんですかその無駄なドリルは! 無駄にぐるぐるぐるぐる巻いたりして!
    そんなものは無駄だ! 無駄ドリルだ!
    よいか無駄ドリル! ───あ、ごめん、馬鹿だった。よいか馬鹿!
    ドリル髪……そうして巻いてある髪を天ではドリル髪と言うのだがな!
    そのドリル髪は覇者の髪型よ! 貴様のような馬鹿がしていいものではない!
    ドリル髪とはそう───曹孟徳のように短めに先を鋭く巻くからよいのだ!
    貴様のそれは無駄ドリルだ! 天ではドリルは“穿つもの”の具現!
    だが鋭いドリルでなければ、この乱世に穴を穿つことさえ出来ぬ!
    貴様は確かに名家の生まれだろうが覇者には至れぬ無駄ドリルよ!
    ───あ、ごめん! 馬鹿だ! 覇者には至れぬ馬鹿ドリルよ!」
袁紹 「うぎぃいいいいいいいいいいっ!! いぃいい言わせておけばぁあああっ!!」
中井出「なんと!? いつ誰が言わせといてくれと頼んだかね! えぇーーーーっ!!?」
袁紹 「くぐっ……! くきぃいいいい……!!」
曹操 「…………《そわそわ》」

 ……なんか視界の外で、曹操さんがドリル髪をいじりだしましたけど。
 気にしないでGO!

中井出「ではこの連合軍の先陣、この博光が取りましょうぞ!
    それで、よろしいのですな!?」
袁紹 「〜〜〜〜っ……ええ! それでいいですわよ! さっさとなさいな!」
中井出「《にこり》……オッケー! じゃあ行ってくるよ!」

 少しだけ周瑜の方を見て、にこりと笑った。

周瑜 (───! …………なるほど。全ては計画通り、と───)

 これで準備は万端ちょーーーっ!
 あとは我が力でこの董卓軍を平定するだけさ。
 一応、話を聞きながらね? ここ重要。

…………。

 スタスタスタスタ……

中井出「やあ」《じゃーーーん!!》
愛紗 「ご主人様。軍議のほうはどうでし───」
中井出「俺一人で連合軍の前線を担うことになりました」

 劉備軍陣地に戻り、コトを説明。
 すると───

愛紗 「ご主人様ぁあああああああっ!!! 貴方という人はぁあああああっ!!!」
中井出「キャーーーッ!!?」

 予想通り怒られました。

中井出「し、しかたなかったんやー!
    こうでもしないと袁紹さんが話進めてくれなかったし!」
桃香 「それでも一人は言いすぎだよ〜! どうするのご主人様!」
中井出「ふっ、決まっておるわ。この博光に二言無し。
    単騎で前線を担い、見事平定してくれようぞ」

 遅れて大天幕からやってきた桃香を横目に、ニヤリと笑ってみせる。
 うむ、決して難しいことではないさ。
 と思っていると、兵士が駆け寄ってきて、

兵士 「申し上げます! 御遣い様に会わせろという方が───」

 と仰る。
 はて? と考えて、多分曹操か周瑜だろうなと思った……途端、

曹操 「許可を取りに行け、なんて言ったつもりはないけど?」
中井出「おや孟徳さん」

 兵士から少し遅れて、許可もなくやってきたのは孟徳さん。
 …………いつもの惇淵姉妹はいないようで。
 とか思ってたら別の方向から現れたのは雪蓮。

雪蓮 「はぁ〜い博光。久しぶり〜」
中井出「おお雪蓮も。二人とも如何された───って待った愛紗待った!
    彼女らは客にござる! 武器に手をかけない!」
愛紗 「う……し、しかしご主人様……《くしゃっ》はうっ!?」
中井出「いい子だから。ね?」

 秘技・頭撫で。
 なんとなくだけどこの世界の人々って頭撫でに弱い気がしたのでなんとなく。
 すると、愛紗は顔を真っ赤にして押し黙ってしまった。

愛紗 「〜〜〜〜……ご、ごごご……」
桃香 「わ、愛紗ちゃんが猫みたい……じゃなくて、ご主人様、曹操さんは解るけど、
    こっちの人は……」
中井出「む? おお。ではご紹介をいたそう。
    雪蓮、曹操、こちら我が劉備軍の大将、劉備玄徳。
    曹操、桃香、こちら現孫呉大将、孫策伯符。
    桃香、雪蓮、こちら曹魏大将、曹操孟徳…………ってあの、曹操さん?
    なんで僕のこと睨むの?」
曹操 「そうね。中井出、私のことはこれから華琳と呼びなさい」
中井出「えぇっ!? なに!? 急にどしたの!?」
曹操 「うるさいわねっ! 呼べったら呼びなさい!」
中井出「は、はい」

 うう、怖ぇえ……!
 今の気迫、猛虎でも逃げ出すほどだぜ……!?

中井出「で、ではあっしのこともこれから博光と《がばっ!》もがっ!?」
雪蓮 「はいそこまで〜♪」
桃香 「ご主人様は誰にでも真名を許しすぎだよ。もうちょっと大切にしないとね〜」
中井出「ふぁぎふぃっふぇんふぉ!?(なに言ってんの!?) ふぉふふぉふぁっふぇふぁん!!(僕の勝手じゃん!!)」

 博光と呼んでくだせぇと言うより早く、雪蓮が後ろから抱き付きつつ僕の口を手で塞ぐ。
 ……途端に、少し明るめになってきていた曹操の……もとい、華琳の表情が……怖ッ!!
 怖いよ!? ちょっ……なにこの状況!
 なんで僕が逃げられない状況で目の前に般若がいらっしゃるの!?

華琳 「……二人とも、中井出から離れなさい? 今私が話しているのが解らないの?」
雪蓮 「だったらその話、諦めて? 今私が博光と遊んでるのが解らないの?」
桃香 「だ、だめですよ孫策さん! ご主人様は私達のご主人様なんです〜!」
中井出「………」

 タスケテ……ダレカタスケテ……!
 意思が……我が武具に眠る全ての意思が、この状況は絶対によろしくないと叫んでいる……!
 ていうかね、紹介して談話したりする筈だったのに、どうしてか今、僕を中心とした空気がモシャアアアと歪んでいってるんです。
 神様、これは俺に対するどんな罰ですか?

華琳 「……中井出? 今あなたは私に真名を預けたわね?」
中井出「…………《コクゴキィッ!!》ベブボ!?」
桃香 「うひゃあっ!? ごごごご主人様!?」

 頷こうとしたところに雪蓮の手が伸び、我が首をゴキャリメキャリと左右にギャオオオオ!!

雪蓮 「残念でした〜♪ 預けてないってさ」
華琳 「あなたが無理矢理首を曲げたのでしょう!?」
中井出「《ピクピク……》グビグビ……」

 ……想像できるだろうか。
 頷くために下に向いた筋肉と筋が、無理矢理左右に動かされる様を。
 痛ぇなんてレベルじゃねーぞコレ……! 一瞬本気で意識飛んだ……!
 つーかこの世界の女性ってなんでこんなにパワフリャなのか……!
 そして意思たちよ……貴様らの予感はどうやら悉く当たったらしい。

朱里 「はわわぁあ〜! ごごごご主人様が痙攣してますぅ〜〜!」
愛紗 「貴様ら! それ以上ご主人様に害を成すならば───……っ!? 誰だ!」

 黙っててくれた愛紗だったけど、僕に実害があると見るや青龍偃月刀を手に。
 しかし構えようとしたところに来客が……って周瑜じゃないですか。

周瑜 「失礼。いつまで経ってもこちらの大将が戻ってこないものでな」
孫尚香「博光〜っ! シャオに会えなくて寂しかった〜?」
夏侯惇「華琳様はここか! 華琳様を出せ!」
夏侯淵「姉者、それではまるで華琳様が人質にとられたようだぞ」

 次から次へとゾロゾロとやってくる人々。
 そりゃさ、自分の陣地っていうよりは連合軍陣地だから、何処に誰が居ようがいいんだろうけどさ。

華琳 「丁度いいわ、春蘭、秋欄。あの男をその女から奪いなさい」
夏侯惇「はい華琳様!」

 ゲェ躊躇しねぇ!! 即答にも程があるだろ! ていうかあの!? どうして右手掴むんですか!? あ、あの……惇さ《ガシィ!》はうあっ!? は、は、ああ……!? 左手に新たな感触……!? ───愛紗!? とか思ってたら首が締まって……ゲホリオ!? ちょ……雪蓮!? 入ってる入ってる! チョークだよこれ! 引っ張るならもっと別の遣り方《ゴキィッ!!》はごぉ!? あ、やっ……ちょっ……! て、てててっ……手、手がっ……首がっ……! いやちょっ……シャオ!? 腰に抱き付いて引っ張らないで!? 鈴々!? 朱里!? 雛里も!? 対抗して抱きつかないでいいから! タ、タスケ……誰かタスケ……アオアーーーーーーーーーーッ!!!!

  ………………ゴキャアッ…………!!

…………。

 シュゥウウウ……

桃香 「ううぅ……いたいぃ……」

 皆様お元気でしょうか。博光です。
 今日はそう、頭から湯気を出してそうな桃香を前にお送りします。

中井出「自業自得です! まったく!
    華琳も雪蓮も! 危うく窒息死するところでしたよ!?」
雪蓮 「え? 御遣いって不死身じゃないの?」
中井出「どこからそんなウソ情報が流れたの!? 違うよ!?」
華琳 「ふん、大体ひ、ひっひ博光がさっさと真名を預けないからいけないんじゃない」
中井出「そういうことは口を塞いだ雪蓮に言いましょうよ」

 ていうかどもりすぎですよ華琳さん。

甘寧 「それで? 貴様は一人で先陣を切り、敵軍二十万を受け止めると聞いたが?」
中井出「おお甘寧殿! その通りでさぁ!
    話を戻してくれてありがとう! 本当にありがとう!
    ……えーとね、まずは敵が本当に敵なのか、確認しようと思うの」
華琳 「敵が敵……? 博光、貴方まさか、
    敵陣に乗り込んでそんなことを馬鹿正直に訊ねる気?」
中井出「華琳。俺ははっきり言って袁紹が好かん。
    あいつが敵だと言うヤツが本当に敵かどうか、俺は俺の目で耳で確認する。
    まあ……本当に圧税ばっかのどうしようもないやつらだったら潰すだけだし、
    理由があるならそれなりに聞くし。
    もしお偉いさんがたの勝手な理由───たとえば大きな国を勝手に押し付けて、
    名をあげたいがために悪口を捏造、吹聴したりして悪名高くして、
    あいつは悪者だからみんなで潰そう、なんて言ってるんだったら、
    それが真実と確認したら俺は本気で袁家を潰す。
    ……まあもちろん、董卓がどんなヤツかも知っておく必要があるけどね?」
桃香 「ご主人様……」
甘寧 「それが口だけでなければいいが」
華琳 「つくづく馬鹿ね。いいえ? 以前よりももっと性質が悪くなってない?」
中井出「ふはははは、この博光は常に常識の外を目指す修羅ぞ。
    この世界に来てからは結構抑えてるけど、全力の俺はこんなものではないわ」

 ……つーか冷静に考えれば、今この状況って結構すごいよね。
 三国志の中でも選りすぐりの武将が、一箇所に集まって話してるんだから。

中井出「えーとさ、話戻すけど……
    要するに袁紹は董卓が洛陽を制圧してるのが許せないだけなんでしょ?
    つまり袁紹にとって、董卓が悪か悪でないかはどうでもいい。
    好き勝手に悪だって風評を流して悪に仕立て上げればいいんだから」
周瑜 「まあ、混乱が起こるのは願ったり叶ったりだが」
中井出「うす。だからまあ、今更人に流れた噂は消せないし、
    こうなった時点で“董卓”は死ぬしかないんだと思う。
    けどね、悪でも無いのに悪にされて、
    名を上げるためだけに死ぬ者の無念は晴らします。
    あ〜あこりゃ楽しみだなっと。願わくば董卓が悪ではありませんように」
桃香 「ん……でもご主人様……それだと、
    悪じゃない人をよってたかって攻め入る私達は……」
中井出「はっはっは、桃香の考え方はやさしいなぁ。
    ……あのね、桃香。言ったら可哀想だけど、騙すほうも騙されるほうも悪い。
    なにかしらの事実があって押し付けられたにせよ手に入れたにせよ、
    董卓は洛陽に存在していて、皇帝を傀儡として操ってるって噂がある。
    そんな風に噂を流されるに至ったなら、
    その噂は実力行使で拭わなきゃ消えないもんさ。
    いいか〜桃香。キミはヘンな噂が流されても、誰にも疑われない自分を目指せ。
    噂がどれほど信憑性を持っていても、
    民たちが信じるキミが歪みねぇキミなら、民は噂になんか絶対に負けないから」

 言いつつ頭をなでなで。
 桃香は難しい顔をしてたけど、理解に至った瞬間には満面の笑みを見せてくれた。

中井出「……ん、よしっ! じゃあそろそろ行こうか。
    あ、みんな、俺が先陣を切れとは言われてるけど、
    みんなは何もするなとは言われてないでしょ?」
桃香 「え? あ、うん、そうだね」
中井出「休んでていいよ? もしくは袁家の兵士を少しでも削るとか」
雪蓮 「出来るの? そんなこと」
中井出「まあ相手次第だけど。まず水関って関門があるでしょ?
    そこを俺一人で潰すから、雪蓮や華琳は袁紹と袁術を煽ってほしい。
    俺一人に手柄ぜ〜んぶ持っていかれていいのか〜って感じで」
華琳 「お断りね。あの女とは話すのも嫌よ」
中井出「あら即答。じゃあ桃香。頼んでいい?」
桃香 「う〜ん……私の話、聞いてくれるかなぁ」
朱里 「それ以前に近寄らせてくれるかが問題になります。
    気まぐれや偶然でなれるほど、太守というのは軽くありませんから……」
中井出「むう、それもそうか。
    まあでも、本当に手柄が欲しいなら虎牢関を潰す前に突撃を開始するか。
    その瞬間に董卓軍と衝突させれば……うむ」

 よし、楽観的だけど固まってきた。

中井出「降りかかる火の粉を払うななんて言わないからさ、
    この状況で利用できること、なんでも利用しちゃってくれ。
    俺は状況を全力で楽しむだけだから」
周瑜 「簡単に言うが、水関と虎牢関の守りは鉄壁だぞ? 破れるのか?」
中井出「ん〜……水関だけは、誰にも邪魔されないために、
    下からじゃなく上から行くって方法もあるんだが」
華琳 「───、……門を無視する、ということね?」
中井出「ん。そう。コトが済んだら開けるから、みんなはのんびりどうぞ」
雪蓮 「……? 曹操、あまり驚かないのね。
    門を開けずに水関に入れるって思ってるの?」
華琳 「博光なら可能よ。当然じゃない」
中井出「当然なのです」
雪蓮 「…………博光。もしかしてまだ御遣いとしての証拠で隠してるもの、ある?」
中井出「モノスゲーいっぱいあります!《ぎうー!》ギャーーーーッ!!」

 ち、千切れる! 頬が! イタッ! 引っ張らないで引っ張らないでぇええ!!!

雪蓮 「今度見せてよね。いいでしょ?」
中井出「心配せんでも今から見せますよ!
    つーても峡谷をいくつか抜けなきゃいかんから、
    まだまだ先だろうケドさ。……あ、華琳に桃香?
    雪蓮に僕の能力のこと、教えちゃだめだからね?
    雪蓮にはいつか必ず仕返しするって決めたんだから」
桃香 「仕返し?」
華琳 「なんの仕返しなのか言いなさい。そうしたら考えてあげてもいいわ」
中井出「いや、それが……荊州に遊びに行った時に、
    雪蓮に恥ずかしい思いさせられうぁだいだだだだ華琳ちょっと華琳!?
    なんで足踏むの!? やめてよもう!」

 なんて言って素直に聞いてくれる人じゃないね!
 だったら───ええい! 幸せ光線&愛が果てしない頭なでなで!!

華琳 「《なでり》ぴうっ!?」

 ……変な声だした───けど、踏みつける足からは体重が消えた。のはいいんだけど、

夏侯惇「貴様ぁあああ!! 華琳様に気安く触るなぁああ!!」
中井出「キャーーーーッ!!?」

 途端に剣を取り出し襲いかかる惇さん!

星  「そこまでにしてもらおうか夏侯元譲」

 ───を、止めるべく槍を突きつける星!
 それをきっかけにするかのように、ここに集った者たちにピリピリとした殺気がイヤァアアアアア!!!
 なんでまた人を中心にこんなモシャアアアって景色を歪ませる殺気をおぉおおお!!
 歪みないのがいい! 僕歪みないのがいいよぅ! ってそうじゃないでしょう!

中井出「おやめなさい! これでは袁紹が問答を伸ばした状況と変わりません!
    僕もう行くから! だからみんなも準備して! ね!?」
夏侯惇「ならばさっさと華琳様の頭からその汚い手をどけろ!」
中井出「ゲ……ッ! ター! シマター!!」

 いさかいが起こらんとしてる間も撫で続けてたようで、華琳がもうとろける幸せフェイスに! やべぇさすがにやりすぎた!
 そんな彼女から離れると、トン、と背中にあたる感触。

中井出「あ、ごめんなさ───は、ああ……!!」
愛紗 「ご主人様……! あまり軽率な行動は取らないでいただきたいのですが……!!」
中井出「ア、アワワワワワ……!!」

 振り向いてみれば、刃を構えたままざわりと殺気を……あれ? 殺気じゃないね?
 心配オーラ? 心配オーラだこれ。
 ……うむ、確かに博光軽率だった。
 それを理解し心に留めた上で、感謝の言葉をしみじみと投げかけながら、愛紗の頭を撫でた。

愛紗 「な、なにを……はうっ!?《ズキューーン!》」
中井出「あ」

 しまった! 愛、果てしなくとか使いっぱなしだった!
 でもすげぇ! 般若の形相が一瞬にしてやわらかな幸せ顔に!
 でもなくて! ええいもう! 出陣! ───と歩き出した途端に、グッと腕を掴まれる。
 誰? と素直に振り向いてみると、そこにおわすは雪蓮さん。

中井出「え? あ、あのー、僕これから出陣……」
雪蓮 「頭、撫でてみて?」
中井出「えぇっ!? ご、ごごご呉の王がなんたる……!」
雪蓮 「いーからほらっ、じゃじゃ馬があっという間に暴れるのをやめるなんて、
    ちょっと気になるじゃない」
周瑜 「雪蓮、少しは周囲の目も考えろ」
雪蓮 「えー? だって気になるし《なでなで》はうっ!」

 埒も無し。
 撫でろというなら撫でましょう。
 そしてさっさと出陣じゃい!

周瑜 「……、雪蓮?」
雪蓮 「───わ、うわー……まずいわこれ冥琳……頭撫でられるのって幸せみたい……」

 ひと撫でふた撫でするとすぐに離れ、ずったずったと歩きゆく。
 駄目だ、このままではいかん。
 さっさと戦局を動かすために袁紹さんを馬鹿にしたのに、いったい何故こんなことに。
 ええい! もう出るよ俺! 出入りじゃーーーーっ!!

───……。

 や〜まをこ〜え〜たにをこえ〜♪ ───博光がやってまいりました。

中井出「こ、ここが難攻不落を誇る噂の砦、水関か〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
    どおれ今日は大暴れしてやるとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 大暴れするのは主に董卓が敵だった場合だけど。
 さ、そんなわけで。

中井出「あの〜……桃香? 愛紗? 鈴々? なんでキミ達が前曲に居るの?」
桃香 「うん、朱里ちゃんが周瑜さんと話し合って、共同戦線を張ることになったの」
愛紗 「我々の兵力だけでは負けは見えています。
    しかしながら、敵の数を考えれば孫策殿の軍も同じこと」
鈴々 「だったら足せば少しはましになるのだ」
中井出「…………」

 周瑜さんたら僕のこと信用してないのかな。
 まあ、敵兵が僕を無視してこちらに突撃しないとはいいきれないから、こういう準備は確かに必要だろうけどさ。

中井出「そか。それじゃあ僕行ってくるね?」
愛紗 「ご主人様……やはりわたしも」
中井出「ダメヨー! いいからみんなは、
    僕が仲間だってことを袁紹にバレないように構えてて。
    でもとりあえずは様子見だから、
    もし敵がこっちに総攻撃をかけても対応できるように準備はしておくこと」
愛紗 「はっ!」
鈴々 「了解なのだ!」
桃香 「……ご主人様。ご主人様はこの戦いが終わっても、私達のご主人様だよね?」
中井出「ホ? いきなりなにをおっしゃるの?」
桃香 「うん……なんだか私達の知らないところで、
    ご主人様がいろんな国の人と知り合ってるのを知ったら、
    ご主人様がどっかに行っちゃうような気がして……」

 ……ふむ。

中井出「でも、俺が結盟したのは桃香、愛紗、鈴々。お前達とだけだから。
    何処にも行きゃあしないよ。まあ、遊びに出かけることはあるかもだけど」
愛紗 「っ! ご主人様! 貴方という人はまた───!」
中井出「うむ! 暗く沈むよりも覇気があるほうがよろしい。
    ……愛紗、鈴々、桃香を頼んだよ?」
愛紗 「…………はい。我が命に代えましても《ぽかっ》……? ご、ご主人様?」

 愛紗の頭を軽く小突き、溜め息混じり苦笑。

中井出「それだと愛紗が居なくなるでしょうが。
    全員生き残らないと、俺が大手を振って戻ってこれないでしょ?」
愛紗 「《じぃぃいん……!》ご、ご主人様……」
中井出「ん。じゃあ行ってきます」

 最後に三人の頭を撫でて、踵を返す。
 さあいきましょう。
 難攻不落の水関……どんな守りなのか楽しみだぜ〜〜〜〜〜〜〜っ!!

中井出「ゴーーーーッ!!」

 大地を蹴り、前へ。
 水関という砦の大きさは、おおこりゃ難攻不落だぜ〜〜〜〜っ! とつい思ってしまうような大きさで、左右は高い岸壁に守られ、砦自体がとにかく大きいから、梯子を作って昇るのもひと苦労。
 洛陽って大変な場所に守られてるんだなぁと思う中で、こんなところを通らなきゃ辿りつけないんなら、交通とかも苦労しそうだなぁと思う。
 昔の人っていろいろ面倒な立地条件の上で国構えてたんだな……。
 と、そうこう思っているうちに水関前。

中井出「やっほーーーーーっ!!
    遊びに来たよーーーーっ! 中に入れてーーーーーっ!!」

 …………入れてくれるわけがなかった。

声  「あほぉっ! 誰が入れるかいっ!」

 お? 反応があった。
 見上げてみると、砦の城壁の上から僕を見下ろす誰か。

中井出「やあ」
女性 「やあ。やのうて! あんたなんやねんっ! 一人で敵の前まで来よって!」
中井出「あら関西弁?
    まあいいや、えーっとさ、ひとつ確認しときたいことがあるんです。
    あっちに集まった連合軍は、キミのところの董卓が悪者だって聞いて集まってる。
    それは本当ですか? ウソですか?」
女性 「ウソに決まっとるやろ!
    あんなん、諸侯の連中どもが勝手にうそぶっとるだけや!」
中井出「なんと! それは真実ですな!?」
女性 「うそなんぞつくかいっ! それよりあんたがなんやねん!
    敵が居る砦に一人で、ってよっぽどの度胸モンかアホやろ!」
中井出「失礼な! アホは袁紹だけで十分だ!!」《どーーーん!!》
女性 「…………や……そらそうやけどな……」

 あ。呆れてる。

中井出「えっとさ、とりあえず俺にはまだ戦闘の意思はないから、中に入っていい?」
女性 「ンなもんダメに決まっとるやろ、
    あんたが諜報じゃないってどうして断言出来るっちゅーんや」
中井出「あ、じゃあ自己紹介。僕中井出提督。一応天の御遣いやってます」
女性 「天の御遣いって……あー、そういや聞いたことあるわ。
    全然神聖味のない御遣いが居るゆぅて。あんたがそうなん?」
中井出「そうなん」
女性 「ほぉー? んでその御遣い様がこの水関になんの用や。
    御遣いってのはあれか? うそに振り回されて誰かを殺しにくるんかい」
中井出「ばかもん!!」
女性 「わあなんや!? 急に大声出すなや、びっくりするやんか!!」
中井出「びっくりはこっちじゃい! 俺は董卓が悪人かどうかを確認しに来たのだ!
    それを殺す殺さんと……! 確かにこうして連合が組まれて、水関に揃った!
    だがこの博光! 董卓よりむしろ袁紹が気に食わん!
    もしこれが諸侯どもの罠で、董卓殿が騙されていただけだというのなら、
    俺はむしろキミたちの味方をする!」

 おおそうだとも!
 いわれのない罠に落とされて悲しむ暇もなく、国中から狙われる者……!
 僕らの知る董卓はかなりの悪人だが、だからといってこの世界でもそうとは限らん!
 大体圧税を強いられているって噂の割りに、洛陽から人が逃げているという噂は聞かん。
 ますますもって、これはおかしいと思えるじゃないか。

中井出「ちょっと失礼!」

 地面を蹴って一気に女性の隣にすとんと着地。
 かなりの高さだが、このくらいはフロートを使えば問題なし!

女性 「へ? なっ! うわぁっ!?」
中井出「人と話をする時は、こうして対立するのが一番! というわけで話しよ?
    大丈夫、門破りでもしなけりゃあの軍勢はここに入れない」
女性 「信用できるかいっ! ───華雄!」
華雄 「うむ。どうやって来たかは知らんが、
    私の前に武器も持たずに立ったことを───む?」
女性 「…………ありゃ? 武器、持っとらんの?」
中井出「…………話、しましょ?」

 噛み砕いて言ってやる。
 すると急速に脱力感に見舞われたのか、女性は……愛紗の武器によく似ている太刀の石突を地面に立てると息を吐いた。

女性 「気ィ抜けたわ……んで、あんたはただ話をするためだけに一人で来たん?」
中井出「否。もし董卓殿が実際に圧税を強いるような極悪人であれば、
    この博光、少々お仕置きをせねばなりませぬ。
    しかしながらお二方は董卓殿を守るためにここにおられる。
    ……正直に答えて頂きたい。董卓殿は諸侯の馬鹿どもが言うように悪か?
    はたまた周りに騙され歴史から消されようとしている善であるか」
女性 「董卓が悪ぅ!? そないなことがあるかい!
    あんな良い子が悪やなんてよぉ言えたもんやっ!」
中井出「ぬうやはりかあの袁紹の馬鹿めが……! 確認しに来てよかった!
    ありがとう名も知らぬ人!」
女性 「……随分あっさり信じるなぁ。なんや狙っとるんとちゃう?」
中井出「うん狙ってるよ? 袁紹をどう打っ潰すか。ただそれだけ。
    ……敵軍から来た俺にこんなこと言われて信用できないだろうけど、
    一つ頼まれて? ここは一度退いて、虎牢関で待機してくれないか?」
華雄 「なにを馬鹿な! 武人としてなにもせず退却など出来るか!」

 わあ、この人もしかしてイノシシさん?
 つーか武人を謳うならもっと露出低めの鎧着てくださいよ。

女性 「……待ちや華雄……話、聞こ。
    ……そんで? 退いてどないせぇっちゅうねん」
中井出「この水関を俺一人が押さえたことにすれば、
    あの家柄しか誇ることが出来ない袁家の馬鹿どもは、
    次は自分の手で虎牢関をって思う筈だ。
    知ってるか? この総大将様がお出しになったこの戦の作戦内容。
    華麗に優雅に前進して勝利なさい、だぞ?」
女性 「うわっ、なんやそれっ! そんな総大将に攻め入られとんのか!?」
中井出「そういうこと。だからね、一度退いてほしい。
    で、虎牢関を守るやつらと総出で袁家のやつらをブッちめてのほしいのだ」
女性 「…………そんな言葉、ウチが信じると思うん?」
中井出「うーむ……信じてもらえないなら俺、
    このまま洛陽に行って董卓と直接話つけてくるだけだけど。
    あのね、えーと…………ごめん、名前なんだっけ」
女性 「知らんのかいっ! あーもう調子狂うわぁ〜……!
    張遼や張遼! 敵の名前くらい知っとき!」
中井出「お、押忍、すんません」

 怒られてしまった……。
 敵陣(?)に来てまでなにやってんでしょうね僕……。

中井出「そっか。じゃあ張遼。あのね? こうなったからには諸侯の連中どもは、
    なにがなんでも董卓の首を狙う。それは、董卓が何処に逃げても変わらない。
    この反董卓連合の戦いはそれが為されるまで終わりを迎えないよ」
張遼 「ま……そーやろな」
中井出「だからさ、袁紹軍を散々削ったあとに、
    董卓は死んだってことにするのはどうだろう。
    元々袁紹が招いたこの収集だ、滅ぶべきは袁紹だって思ってる。
    あ、ついでに袁術も」
華雄 「憎むべき敵は他にあり、か。むむむ……」
張遼 「けど袁紹が来るのは、仮にや。仮に袁紹が虎牢関に突撃をかけるにしたってや。
    他の軍の連中が突出しないって言いきれるんかい」
中井出「言い切れる。曹操も孫策も劉備も、この場だけは袁紹と袁術の敵で、俺の味方だ」
張遼 「………」
中井出「…………え? なに?」

 そんなにジッと見つめられると博光照れてしまう。
 と、思わずポッと頬を赤らめて視線を外すと、

張遼 「アホッ! 普通ここは目と目を探り合って、
    ウチが“あんたの目ぇにウソはないみたいや”みたいなこと言う場面やろっ!」

 なんか怒られた。

中井出「なんと! おおこれは失礼した! 空気の読めない博光で申し訳無い!」
張遼 「博光?」
中井出「むっ!? いかんぞ張遼さん! それは我が真名だ!」
張遼 「なんやて!? アホォッ! それを先に言いやっ!
    悪かった! うっかり口走ったのん取り消すわ!」
中井出「む───あいや構わん! 我が真名、貴方に預けよう!
    姓は中、名は井出、字は提督! 真名は博光!
    天の御遣いとしてこの乱世に降りた者なり!
    ……あ、力的なものは、
    下からここまでひとっとびできるくらいの脚力は余裕であるってことで」
張遼 「強いってこと? って、ええんかい敵に真名預けてっ!」
中井出「構わぬ! 我が意思にかけて、董卓殿が悪でない限り俺は貴方方を信頼する!」

 あくまで董卓が悪でないならば、だけど。
 俺は俺の悪を貫くだけさ。好き勝手いきます。

張遼 「けどなぁ、たとえホンモンの御遣いの真名でも、
    二十万の命預けるっちゅうんは無茶や。ウチらはここに死にに来とるんと違う。
    敵の妄言に騙されて全滅しましたなんてことになったら、
    兵にも民にも顔向けでけへん」
中井出「そっちにしてみりゃ連合軍に勝てばいいんだろうけど、
    負けは即ちその二十万の死亡と董卓の死。
    張遼だって殺されるかもしれない」
張遼 「あほ、武人が武を誇って死ぬことに迷いなんてあるかい。
    殺しに行くんやから殺されるのは当たり前やろ」
中井出「───うむ! やはり死なせてしまうには惜しい人!
    張遼! 相済まんがここは無理矢理にでも退いてもらうぞ!
    貴様のその戦への覚悟、この博光と同じものである!
    戦うからには男も女もなく、
    敵を殺さんとするならば自分が殺されることも当然!
    だが助かる命を無駄に散らすは愚であるぞ!
    ───その命、この博光に預けてもらう!」
張遼 「な、なん───ぬわーーーーーーっ!!?」

 黒の外套───彰利の武具を解放し、張遼と華雄を飲み込み、マントの中に収納。
 それを見ていた兵士を煽り、将軍が二人やられたと嘯き───

中井出「今すぐ騒ぎながら逃げ出して、虎牢関に行ってくれ。
    大丈夫、二人とも全然無事だから」
華雄兵「なにを───!? 華雄様の仇を───」
中井出「ああもう面倒臭いなぁ! ほら!」

 融通の利かない兵士に、マントから華雄と張遼の顔を覗かせる。
 ……途端、その口から僕への罵倒が飛んだけど。

張遼 「どないなっとんねんこれぇ!! なっ……なんやねんこれぇえーーーーーっ!!」
中井出「天の御遣いの力である!
    ───そういうわけだ! 兵士たち、さっさと行く!
    張遼、華雄! 今は信じてくれ! 俺も董卓が悪ではないと全力で信じよう!
    絶対に董卓は死なせないから、今は信じなさい!」
張遼 「〜〜〜……ああもうええ! 好きにしたらええやろ!
    こうして捕まったならウチはもう死に体も同然や!」
華雄 「むう……! 戦わずして負けるとは……」
中井出「そういうこと言わないの! 二人には虎牢関で思いっきり暴れてもらうから!」
張遼 「……へ? ウチこれで死ぬんと違うの?」
中井出「殺しませんよ!! それよりほら! 兵士に命令!」
張遼 「…………なんや、あんた変わっとんなぁ」
中井出「うむ! 人生、変わってるヤツの方が楽しめるように出来てんのさ!」
張遼 「……ははっ、ええなぁその考え方! あんた気に入ったわ!
    んじゃ───博光、やったな。ウチの命、今はあんたに預ける!」
中井出「よし来た! ほんじゃいくぜ! 思いっきり声張り上げろ!
    自分が負けて敗走したって、向こうの連中に聞こえるように!」
張遼 「よっしゃ任しとき!! ───全員虎牢関に退きやぁあっ!!
    ここはウチらの負けやぁあっ!!」

 張遼の、よく通る声が水関に響き渡る。
 すると、一人、また一人と駆け足を始め、しかし統率の取れた動きで後退準備を始め、完了するや水関を放棄し、駆けてゆく。

張遼 「これでええん?」
中井出「押忍。助かりましたぞ張遼殿」
張遼 「(しあ)でええよ。ウチの真名や」
中井出「うむ! ならば霞よ! 我らも退くぞ! 虎牢関はこのまま真っ直ぐ?」
霞  「あ、ん……そう、やけど? 退くって───《グンッ!》うひゃあっ!?」
華雄 「ぬあーーーーーっ!!?」

 地面を蹴り、建物の屋根を蹴り、大地を蹴り、烈風脚を用いて地面を蹴る蹴る蹴る!!
 それがトップスピードに至るやAGIマックスでさらに駆け、あっという間に虎牢関。

中井出「じゃ、あとは任せた!」

 再び門を無視して跳躍すると、砦の端に登って……そこで霞と華雄を解放する。

霞  「わぁあっととっ!?」
華雄 「とっと……! きゅ、急に下ろすな!」
中井出「まあまあ。じゃあ僕水関に戻って袁紹を挑発してくるから。
    ……あとは、全力で潰すなりなんなりしてくれ。
    あ、でも董卓と一度会うから、それらのことがまとまり次第停戦呼びかけるね?
    その時まで、思い切り武力を振るってくだされ。
    敵は袁紹袁術。他のやつらも居るけど、向かってこない限りは無視していいから」
霞  「……ん。解った」
中井出「うむ。死ぬなよ霞。袁紹なんぞに負けたら、恥もいいところだぞ」
霞  「あないなやつに負けるかいっ! えーからさっさと───」
???「…………霞」
中井出「おおう!?」

 馬鹿な貴様いつの間に! ってくらいいつの間にか、近くに赤髪のおなごが!
 え……だ、誰!? 誰なのこのコ!

霞  「んあ? ああ(れん)か。悪かったなぁ〜、急に戻ってきたりして。
    しばらくしたらウチらの兵も戻るんよ、
    開門準備……って、今日一日で来れる距離でもないか?
    や、でも水関守ろうともせんと放置してもうたからなぁ……
    こりゃ敵も味方も今日中にも来るか」
???「…………《じーーーーー》」

 うっ……めっちゃ見られてる……!
 なに? なんなのこの子……!

霞  「ああ博光、この子ぉは呂布や。
    聞いたことくらいあるやろ? 有名やもんなぁ恋は」
呂布 「…………《じーーーーー》」

 あの……なんでしょうか、この視線……。
 つーかあの? なんか顔近づけてきて……わあ! くんくんされてる! 匂い嗅いでるよ!?
 ……って、えぇ!? 呂布!? 呂布ってあの!? こんな細くめんこいおなごが!?

中井出「お、押忍。拙者、中井出提督。
    故あって霞と華雄殿、ならびに水関に居た兵をこちらへ逃がす者。
    あ、兵糧の心配なら大丈夫。えーと……二十万人分の食料ってどのくらいだろ」

 少し考えてみる。
 ……いいや、用意しちまえ。
 でもまずはお近づきの印に、フェルダールネクタルをユグドラシルで栽培。
 それを口に近づけると、モフリと口にする呂布殿。
 フェルダールネクタル……まあ桃なんだけど、桃なのにモフモフとした食感が素晴らしい、とても美味な桃です。
 皮まで食べられて、蒸かしたての蒸しパンのような食感と桃の味が口に広がりを見せます。
 ……現に、口にした呂布の目がシャランラァと輝くのを僕は見逃しませんでしたし。

中井出「……うん」

 雰囲気から感じた通りだ。
 この世界の呂布は、戦に狂乱的な天下無双じゃない。
 ただものではないのは解るし、相当強いけど……うん、純粋なコって感じ。
 だからモフモフと桃を食べるその娘の頭を、例の如く幸せと愛をなでなで。
 ……ううむ、やばいぞ、ものを食ってる姿が小動物のソレに近くて可愛い。
 と、そんな風にして桃を食べていた口がピタリと止まると、上目遣いの目がじーーーーっと僕の目を覗きこんでくる。
 ……うむ純粋。
 ならばこの博光も───誠意を以って応えねばならんな!

中井出「…………《じーーー》」
呂布 「…………《じーーー…………なでなで》」

 でも撫でるのはやめません。
 ……すると次第に呂布の頬が赤く染まってゆき、撫でる手に猫が目を細めてじゃれつくように、俺の手に頬をこすりつけてくる。

霞  「うわっ! 恋が一発でオチよった!」
中井出「オチたとか言わないでよ! 撫でてるだけだよ!?
    そんな言い方したら呂布殿にだって失礼で《くいっ》───オウ?」

 くいっと服を引っ張られて、霞に向けて視線を引っ張られた方に戻すと、赤い顔のままの呂布殿。

呂布 「……恋《なでなで》」
中井出「ホワ?」
呂布 「………、………恋《なでなで》」
中井出「いやあの、呂布さん?」
霞  「真名を許したるっつーとんのや。黙って受けとり」
中井出「え? いやだって……会って頭撫でただけだよ!? いいの!?」
霞  「ええやん、恋がそれでええいうとるんやし。
    恋は鋭いからなぁ、あんたが自分の敵じゃないって解っとんのやろ」
中井出「………」
呂布 「…………《なでなで》」

 困惑しながらも撫でます。
 この世界の人って頭撫でと幸せ光線に弱いのかもしれない。
 けどまあ……そこまでおっしゃるのなら。

中井出「……恋」
恋  「……! ……《もじもじ……なでなで》」

 真名を呼んだらとても嬉しそうな顔されました。
 無表情なんだけど、それがなんとなく解ったのは、まあこうして間近に居るからでしょう。
 と、頷いてる時間もそろそろないか。

中井出「じゃあえーっと……うむ!」

 気合いを一発、食料精製開始!
 ……一分後、虎牢関の兵糧庫は食料でぎゅうぎゅうになりました。
 他の空いている場所も同様に、だけど。

中井出「よし! では僕はこれで! 袁紹を挑発してくるね?《くいっ》むおっ!?」

 いざ出発! と砦から飛び降りようとすると、キュッと僕の服が引かれる。
 ……振り向くまでもないけど振り向くと、やっぱり恋がそこに居た。
 ぬ、ぬう……恋さん?
 そんな、天下無双の力で服を掴まれては、出るに出れないんですけど……。

中井出「むう……あのー、霞?」
霞  「なぁ博光? せっかく恋も懐いとることやしこのままウチらの仲間になりひん?」
中井出「なりません。……残念だけど、董卓軍の負けは揺るがない。
    霞や恋が負けるって言ってるんじゃない、
    そうならなきゃ諸侯の馬鹿どもが諦めないって言ってるんだ。
    だから董卓討ち取ったり〜とか言って嘘つけばいいんだけど、
    討ち取ったことにしても、董卓を悪にした相手が無傷なままってのは嫌だろ?
    だからこそそいつらを董卓軍でこらしめてほしい。
    連合軍っていったって寄せ集めにも近いし、統率や連携なんて当然取れないだろ。
    そこをお前達が突けば、まず負けはしないと思う」
霞  「お〜、結構頭回るんやなぁ博光。見た目からして馬鹿かと思っとったのに」
中井出「いや、馬鹿ですよ? 馬鹿のほうが楽しいもん」
霞  「あっはははウチ博光のそーいうとこめっちゃ好きやわ〜!
    ───よっしゃ任しとき! 袁紹のやつはウチらが鬱憤晴らしに叩くさかい、
    博光は安心して董卓と話し合ってくるとええ!」

 どんっ!と、さらしに巻かれた胸を叩いて笑う霞。
 そんな彼女にこの博光も胸を叩き、任された、の一言を。

中井出「じゃなくて、恋が離してくれないんだけど」
霞  「《にや〜……》接吻のひとつでもすれば離れるんちゃうの?」
中井出「しないよ!? う、うぬー……ほい恋」

 フェルダールネクタルをいくつか作り、恋に渡す。
 恋は素直にそれを両腕で抱えてくれて、それを見た僕は一度頭を撫でてあげたあと、チャオと手を挙げて逃走。
 ……する前に。

中井出「さっきも言った通り、攻めてこないヤツらには不用意に近づかないようにね?
    特に華琳……って言っても解らないか。
    曹操とか孫策は、攻撃されれば全力で潰しにかかってくるだろうから」
華雄 「孫策!? 今孫策と言ったか!」
中井出「……あれ?」

 特に話に混ざらず、兵が来るのをソワソワ待ってた華雄さんが急に声を張り上げた。
 ホワイなにごと?

華雄 「そうか……! 孫堅の娘が来ているのか……!
    悪いが私は孫策とやらせてもらうぞ!
    貴様には貴様の事情があるように、私にも私の事情がある!」
中井出「あー……う、うん。まあ他のみんなが巻き込まれない程度にお願いね……」
霞  「そか。ほんなら華雄には近づかんようにしとくわ」
中井出「そ、そう?」

 うーん……それって仲間としてどうなんだろう。
 まあ、いいのかな。戦いたいっていってるんだし。

中井出「じゃ、最後にひとつ。……引き際、見誤らないでね。
    少ししか話してないけど、お前らが死ぬのはなんかヤだから」
霞  「どんなん理屈やのそれ。……けどまぁ、嬉しいわ。
    ま、無茶はしぃひんから安心しとき。ウチだって出来れば生きときたいしな」
恋  「…………《こくこく》」
中井出「……そっか。じゃあな、霞、恋。またいつか、この蒼の下で会おう」
霞  「もちろんや、死んだりしたら許さへ───《なでりなでで》ふおぅっ!?
    ななななにするんや自分!!」
中井出「え? 頭撫で。したくなったからしました! 押忍!」
霞  「う、うー……うー……」
恋  「……霞、顔赤い」
霞  「しゃあぁあないやろぉっ! こっ……こんなんされたんウチ初めてやもん!」

 言葉だけ聞かれたら盛大に勘違いされそうな言葉をありがとう。
 そんなわけで撫でるのもそこそこに、よし、準備は完了!っと砦から飛び降りる。
 あとは水関の扉を開けて皆様を通しつつ、袁紹を挑発しまくるだけだぜ〜〜〜〜〜っ!

───……。

 どどんっ!!

中井出「水関っ! 破れたり〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 予想に反して皆様、なにもせず待っててくれました。
 というかこんなに早く戦いが終わるなんて誰も思ってなかったんでしょう。
 砦の上からウェーイと勝ち鬨をあげる僕を見て、前曲に居た桃香たちが諸手を挙げて喜ぶのが見えた。

中井出「ふはははははどうだ見たかわりゃわりゃ〜〜〜〜〜っ!!
    この御遣いにかかれば水関なぞそこらにある布も同然!
    所詮!? 名門名門と謳ってるだけでなにもしない馬鹿の総大将サマとは
    格が違うのです格が!! うわああああっはっはっはっはっはぁあっ!!」

 そんな中で絶叫してやり、次から次へと袁家や、この戦いに混ざっているお偉いさんの悪口を叫びまくる。
 するとなにかしらの叫びが耳に入り、道を空けた桃香らの間を通るようにして前に出てくる、袁紹を筆頭としたお偉いさんがた。
 グフフ……これでよし……!
 あとは……っと。強制接続、tell:諸葛亮、と。

中井出「朱里? 朱里〜?」
声  『はわぁっ!? ご、ごしゅ!? あ、あれ? はわわぁ!?』
中井出「落ち着きなさい朱里。落ち着いて、帽子の裏を見るのだ」
声  『……? はわっ! なにか入ってます!』
中井出「うむ。まずはそれを首にかけて。
    ……声、ちゃんと聞こえてる? あ。あまり周りに悟られんようにね?」
声  『は、はい……でもあの、ご、ご主人様、ですよね? これはいったい……』
中井出「うむ。それは離れていても会話が出来る天の道具である。
    えーとね、これから曹操や孫策、もちろん桃香にも報せてほしいことがあるんだ」
声  『報せてほしいこと、ですか?』
中井出「押忍」

 部隊が、開けた門へと入ってゆくのを見下ろしつつ、ここであったことと虎牢関に待ち構えていることを説明する。
 さすがに流れがあるからって突っ込んだら、それこそ二十万対十五万になる、と釘を刺しつつ。

声  『はわわ……ご主人様凄いです……! 本当にお一人で水関を……』
中井出「うむ、言ったからにはやらないと。それで朱里、お願いできるかな」
声  『はいっ、伝令さんに伝えて、
    袁紹さんたちに気づかれないように後衛に居ればいいんですね?』
中井出「うむ。……はぁ〜、朱里は素直に受け取ってくれるから話やすくて助かるよ。
    これからもいろいろ苦労かけると思うけど、よろしくね」
声  『ふわ……は、はははいっ、もももちろんでしゅ! ───はわわっ……!』

 あ、噛んだ。
 それに小さく笑みをこぼしながら回線を切り、はふぅと溜め息。
 砦の上で兵の流れを眺め、その中でも赤の色が目立つ軍隊に目をやると、雪蓮が手を振り、周瑜が目を伏せながら笑っていた。
 ……少しは信用の足しになったかね、はは……。

…………。

 で。
 袁紹ってのは本当に馬鹿だな〜と思うのが現在。
 戦ってなどいないのですからこのまま虎牢関まで攻め入りますわ!
 な〜んて言って、結構距離があるっていうのに休まずに行進。
 虎牢関が見えてきた頃にはみんな疲れた表情をしていて、相手側は当然万全の状態で待ち構えていた。
 籠城することもなく、だ。
 まあ籠城したところで援軍が来るわけでもないなら、最初から外で激突したほうがいいのかもしれない。

袁術 「お〜〜〜〜っほっほっほ!!
    こぉんな関などこの袁本初率いる三国一の部隊にかかれば蟻の巣のようなもの!
    さあ! 顔良さん! 文醜さん! やぁっておしまい!」
顔良 「うえぇえ〜〜……文ちゃぁあ〜〜〜ん……」
文醜 「情けない声出すなよ斗詩ぃ、大丈夫なんとかなるって。
    よっしゃあお前らぁ! あたいに付いてこい!
    全軍突撃ぃーーーーーっ!!!」
袁軍兵「おぉおーーーーーーーっ!!!」
顔良 「文ちゃん!? そんな、作戦も立てずに……あ、あーーーもーーーーっ!!」
袁術 「七乃! このままでは麗羽に手柄を全部持っていかれるぞよ!?
    ど、どうするのじゃなんとかせい!」
張勲 「はいはい美羽様、どうせ袁術さんの軍だけじゃ敵勢の数に負けてるんですから、
    ここで一緒に雪崩れ込んでしまえばいいんですよ」
袁術 「おおっ! なるほどの!
    では全軍突撃なのじゃ! 麗羽に負けてはならんぞよ!」
張勲 「は〜い、それじゃあ兵のみんなは突撃しちゃってくださいね〜!」

 疲れてる兵に鞭打ちすぎですね。
 これだからお偉いさんってのは……。
 つーか袁術ちっさ! まだ子供じゃないか! あんなにちっさかったのか……!
 ……ちっさくてあの口調って、なんだかナギー思い出すなぁ。

雪蓮 「あーあやだやだ、醜いったらないわ」
中井出「ごらん雪蓮……あれが欲に目が眩んだ名門の姿だよ……」
周瑜 「中井出。お前は行かないのか?」
中井出「董卓軍焚き突けたのは俺だけどね、
    それはあくまで袁紹と袁術をこらしめてくれってもんだから、
    俺は戦いに参加しません。
    その代わりちょっと洛陽まで行って、董卓と話してくるよ」
周瑜 「そうか」
中井出「あ、えと……一応この戦いを、どういう形であれ治めれば信用してくれるよね?」
周瑜 「うん? …………ふ、ははは……いいや、十分だ。
    お前はもう力を示してくれたよ。こちらは私達が任されよう」
中井出「お、おお! そうですか! ならば───っと、雪蓮」
雪蓮 「ん? なに?」
中井出「えーとね、華雄ってやつがキミを狙って突撃してくるかもしれないから、
    一応気をつけといて。なんかキミの名前を出した途端、鼻息荒くしてたから」
雪蓮 「華雄……ああ、母様に負けたあの……」

 ? ……まあいいや、言うことは言ったし、あとは各々の判断に任せよう。
 そんなことを、待ち構えていた董卓軍と衝突している袁紹軍と袁術軍を眺めながら思った。

───……。

 ガサガサガサガサ……!!

中井出「ジョワジョワジョワ、洛陽に潜入するなど泣いた赤子を笑わせるより楽だぜ」

 ……うん、結構難しいよね。
 まあこの侵入は実際簡単だったわけだけど。
 あ、ライトニングの真似して、コックローチライトニングしている意味はまるでないよ?

中井出「ん〜〜〜〜……」

 洛陽の街は随分と物静かだった。
 多分、連合軍が来ることを聞き付けて、家の中に立てこもってるか逃げ出したんだろう。
 逃げたとしたら、涼州あたりにでも行ったんでしょうか……解らんな。
 まあいいや、とりあえず玉座の間にでも行ってみれば董卓さんに会えるでしょう。
 そう思った僕はスタスタと道を歩き……やがて、玉座の間へ。

声  「誰!?」

 ……入った途端に声。
 見れば、玉座に座った小さなおなごと、明らかに軍師ですよって言ってるような姿のおなご。
 うん、どっちも小さい。

中井出「失礼。私、天の御遣いの中井出と申す者。
    ちとお話があって、ここまで来ました」
軍師?「天の御遣い……!? そんな話信じると思ってるの!? 出ていきなさい!」
中井出「まあま、そんなに邪険にするもんじゃあございません。
    えーと……貴女が董卓殿か。初めまして、中井出提督です」
董卓 「……はじ、め……まして……」

 ペコリとお辞儀をする俺を怪しく思っているのかどうなのか、ぽつぽつと小さな声で返事をする董卓さん。

軍師?「(ゆえ)! こんなヤツに返事する必要なんてないわ!」
董卓 「でも(えい)ちゃん……」
中井出「───よし、それでいきましょう」

 あっさり方針が決まった瞬間でした。

軍師?「な、なにがよ……」
中井出「……董卓殿。ひどい話だが、諸侯の馬鹿どもは貴女が圧税で民を苦しめ、
    皇帝を傀儡としていると噂し、連合を募った。だが今なら解る。
    貴女はそんなことをするお方に非ず。
    しかし諸侯の連中どもは、貴女が死ぬなりしなければずっと追い続けるでしょう」
軍師?「そんなことさせないわ!
    月は悪くないのにどうして死ななきゃいけないのよ!」
中井出「そう、それです。なればこそ、この博光が貴女を守りましょう。
    董卓、ではなく真名を名乗っていただきたい。
    董卓を死んだことにして、あなたには真名で生きてもらう」
軍師?「なに言ってんのよ! そんなこと───」
中井出「俺が信用できないとかそんなこと言ってる場合じゃないだろう。
    今、袁紹や袁術の馬鹿どもを騙して、
    虎牢関に集まった董卓軍全員で応戦してもらってる。
    連合軍に混ざってた曹操、孫策、劉備は俺がお願いして戦いに参加してない。
    けど飛び火があれば乱戦になって、全員ただじゃ済まなくなる。
    ……ここを捨てて、俺と一緒に来てくれ。
    行く当てがないなら我らとともに生きてゆこう」
軍師?「勝手なこと言わないでって言ってるの!
    いきなり来ていきなり話を進めないでもらえる!?」

 むう……この軍師さん、かなり融通利かんぞ?
 つーか叫びまくりで喉痛くないのかな。

董卓 「……あの」
中井出「はいな」
董卓 「それを受け入れたとして、私と詠ちゃんは……どうなるのでしょう」
軍師?「月!?」
中井出「どうって……僕の仲間として平原で面白おかしく過ごしてもらうけど。
    え? なに? 戦場に出たい?」
董卓 「〜〜〜〜《ふるふるふる……!》」
中井出「でしょ? え〜〜っと……なんて言えばいいのか。
    董卓ってあんまり人に顔知られてないでしょ?
    だから死んだってことにするか逃げたってことにして、
    着ているものを代えるだけでも多分誰にも気づかれないよ。
    むしろ気づかれたら気づいた奴をこの博光が黙らせましょう。
    ……約束する。嘘はついてない。俺と一緒に来てくれ」
軍師?「月! だめだからね!? こんな急に来たヤツの言うことなんて聞いたら……!
    大体そんな風にして張譲の甘言に乗ったから、
    月がこんな目に合わなくちゃいけなくなったんだ!
    私はもう、こうやって甘いことを言って近寄るヤツなんて───」
董卓 「…………詠ちゃん。私、この人のこと信じてみたい」
軍師?「月!? そんな、どうして!」
中井出「ねぇ、そんなに叫んでて疲れない?」
軍師?「うっさい死ねばか!」
中井出「ぇえええっ!?」

 ひ、ひどい! なんてひどい!
 ただ案じただけだったのに!
 親切の押し売りをする気はないから、口には出さないけどね?

中井出「えっとね、ここにあなたらの人相描きがあります。
    全然、これでもかってくらい似てないけど。
    でもまぁ……服装でなんとか確認できるくらいだし、
    これは…………ふむふむ。OK! 大丈夫、絶対に助かるぜ〜〜〜っ!」
軍師?「うっさいって言ってるのが聞こえないの!?」
中井出「キミこそもっと人の話聞こうよ! 〜〜〜〜ああもう!
    じゃあ二択だ! 一生逃亡生活送っていつかは殺されるか!
    今ここで生きる道を選ぶか! どっち!?」
軍師?「私は月が居ればそれでいいの! そんなの当然───」
董卓 「あなたを信用します」
軍師?「そういうことよ! って……えぇえええーーーーーーーーーーっ!!?」
中井出「よっしゃ決まり! それではこの博光、一世一代の道化術をお見せしよう!
    まず黒の黒衣を意思の手伝いで丸めてもらってぇ〜〜〜……はい!!」

 プチッと千切った先で、千切れて地面に落ちた黒衣が蠢き───ポスンッ♪

董卓 「へぅっ!?」
軍師?「な、なにっ!?」

 特徴だけを上手く模した董卓人形に変形!!
 ……顔は全然似てませんがね。

中井出「はい、これニセ董卓人形。
    これを袁紹の前で仕留めるから、それでこの戦も終わり。ヨロシ?」
軍師?「ちょっと! 月はそんなブサイクじゃないわよ!」
中井出「似てたらバレるだけでしょうが!!」
軍師?「それでもその顔は許せないわよ! 変形は!? 出来るの!?」
中井出「え? で、出来るけど……」

 怒鳴りながら玉座の隣から階段を降りて、僕の横にある董卓人形の隣までくる………………えーと軍師さん。
 そういやこの人の名前、俺知らないや。

中井出「……え? こ、こう?」
軍師?「違う! こっちはもっと綺麗に穏やかに!
    ああもう違うって言ってんでしょ!?」
中井出「こっちのほうがいいかな。……これもいいな。これか? これかぁ?」
軍師?「違うったら違う! こう! こう! こう!!」
中井出「《ピキュリリリィ〜〜〜ン!》そ、そうか〜〜〜っ!!
    こうしてこうしてこう!」
軍師?「そう! まさにこれよ! 見て月! こんなに綺麗な月が!」

 ……出来上がってみれば美化され過ぎてて人間離れしすぎてた。
 え……? この人の中じゃあ董卓ってこんなに綺麗なの?
 いやまあ気が済んだんならいいけどさ……。

中井出「じゃあこれをみんなの前で殺───」
軍師?「ふざけないでよそんなことさせると思うの!?」
中井出「どうしろっつぅんじゃコラァ!!!」
董卓 「ひぅ……あ、あの、落ち着いてください……」
中井出「ああっ! これはテンテン失敬! じゃなくて!
    貴女には実際に董卓が居るんだからいいでしょ?
    迅速に行動しなきゃ無駄に死人が増えるだけだ! ちょっとごめんよ!!」

 軍師殿を心配してか、こちらまで降りてきた董卓もろともマントに収納!
 黒董卓(色はちゃんと人間的)を持ち、玉座の間から出て……っと、ちょっと待って。
 なんか落ちてる…………これって董卓の服から落ちたもの?
 龍の彫刻がついた……判子みたいな……───って、これってもしかして!
 え、えぇっとなんつったっけ? ぎょ、ぎょ……ぎょくじ!? 玉璽だよね!?
 確か天子の証とかいう……うん、きっとそうに違いねー。
 ……こんなもん持ってたらいつまで経っても狙われるな。
 これは董卓の目の届かないところに捨てるかなにかしよう。
 …………いや待て? ……ふむふむ。

中井出「《ゴシャーン♪》いいこと思い付いたぁああ……!!」

 まあ、いいことっていうよりは……いずれの敵に塩分をあげることになるわけだけど。
 塩を贈るってどういう意味なんだろうねそういえば。

───……。

 ドドンッ!!

中井出「イャッハッハッハッハッハ!! 絶景!!」

  ───!? ……!!

 虎牢関門上に立ち、争いし者や戸惑いし者達を見下ろしつつ高笑い!
 さあ、ハッタリかましますよ───って、混戦の中に深紅の“呂”の牙門旗がないな。
 張遼のは…………あ、あった。どうしてか曹操軍の近くに。
 華雄のは…………アルェー、見当たらない。まあいいや。
 みんな上手く退いてくれたと考えておこう。

中井出「残念だったな袁紹! 袁術よ! 董卓はこの博光が討ち取った!!」

 ……どっかでなんですってぇ!? 的な声が聞こえた。

中井出「いや違うな! 捕らえたと言うべきか! ……見よ!」

 そんな彼女に、どうだー! と黒董卓を見せびらかすと、特徴から理解できるものがあったのだろう、董卓軍兵士以外がざわざわと騒ぎ始め……そんな騒ぎと、視線が俺に集中する中で───

中井出「ん〜……んっ!」
祭  「……? ……」

 かなり遠くに居る祭殿に見振り手振りで合図をすると、ニヤリと笑った気がした。
 そして弓矢を番えると、迷いのない一矢を放ち───ドンッ!!
 寸分の狂いもなく、それはニセ董卓さんの頭を貫いた。

中井出「皆の者聞けぇえい!! 呉軍が黄蓋殿の一矢により、董卓は死んだ!!
    これにて反董卓連合の戦いの終結を宣言する!! 董卓軍の者どもよ!
    もはやこの場は貴様らが居られる場所ではない! 退くがよい!」
袁紹 「ちょっとあなた! こちらは兵を散々と削られたのですわよ!?
    だぁあああれが逃がすことを許可したのです!」
中井出「黙れ下郎が!!」
袁紹 「なっ……げ、げろっ……!? こ、このわたくしに向かって……!」
中井出「董卓という大将を無くした今、兵はもはや行き場を無くした民も同様!
    そんな戦う気力を失った者達を執拗に追いかけ殺すなど……
    貴様それでも名門を自称する武人か! 恥を知るがいい! この痴れ者が!」
袁紹 「痴れっ……!! き、きぃいいいいいいいっ!!!
    顔良さん! 文醜さん! やぁっておしまい!
    この袁本初を侮辱した罪! もはや我慢なりませんわ!」
中井出「ハッ! 自分の喧嘩に他人を巻き込むたぁ器の小せぇことだぜ!
    名門の名が泣くなこりゃ! ───いいぜ、来いよ。
    ただし仕掛けてきたのはてめぇらだ……死んで精々後悔しろ!!」

 言って、頭上に掲げた右手にマナを凝縮させ、エネルギーボールを作ってゆく。
 そう……それは元気玉という名の破壊兵器。

袁紹 「……ちょっと文醜さん? なんですの、あれは」
文醜 「や、あたいに訊かれても解るわけないでしょ麗羽様」
顔良 「……あ、左手に同じような光作ったよ文ちゃん。
    でも右手のより全然小さい…………あ、投げた」
文醜 「───うひゃあっ、すっげぇ〜〜! 右翼部隊が壊滅したぜ斗詩!」
顔良 「……うん、そうだね……。小さいアレであんな威力なら、
    あの巨大な玉は………………えーと麗羽さま、逃げていいですか?」
袁紹 「何故わたくしがあんな男一人を前に逃げなければならないの?
    構いません、引き摺り下ろして晒し首にでも───」
顔良 「いえっ! ででですからぁっ!
    ってほら! 兵のみんなも逃げ出しましたよ!?」
袁紹 「なっ! あなたたち! それでも誉れ高き袁家の《ガシィッ!》まっ!?
    ちょっと文醜さん!? あなたなにを───」
文醜 「ずらかるぜ斗詩ぃ! さすがに飛び道具は反則だからな!」
顔良 「結局こうなるならもっと早くに聞きたかったよもぅ!!」

 まっ! お偉いさんがたの兵たちや武将たちが蜘蛛の子を散らすかのように逃げてゆく!
 …………ここでちょっと分散させとくか。

中井出「さぁあけべ叫べヒィーーーホホホホホホ!!!」

 逃げ惑う兵士や武将に当たらないように、マナ光弾の連射を地面に落としてゆく。
 そうすると余計に動揺が広がり、大将の元に駆けずに面白いように散らばってゆく兵士たち。
 ……うん、これで大分削れたかな。
 じゃあ溜めておいた元気玉をマナに戻して霧散させて、と。

中井出「これにて! 一件落着!!」《どーーーん!!》

 お偉いさんや董卓軍が散り、やがて居なくなるや、僕は曹操軍、孫策軍、劉備軍に向かってVサインをしてみせた。
 ……のだが。
 なにやら曹操軍……華琳たちの隊が騒がしい。
 もしや負傷者でも、と思った僕の行動は、僕が考えるよりも結構速かった。
 虎牢関の城壁から飛び降りて地面に足を着くや烈風脚を使い、華琳たちのもとへ。
 兵たちが野次馬のように集まる中を強引に通ると、なんと……!

中井出「と、惇さん!? キミ、左目が!」

 惇さんの左目から、見るのも戸惑われるほどの出血。
 左手で抑えながら片膝をついているが、恐らくこれは……

夏侯惇「申し訳、ありません、華琳様……! 私は今、華琳様に会わせる顔が……!」
華琳 「会わせる顔がどうしたというの? いいから立ちなさい。
    立って、わたしに今の貴女の顔を見せなさい」

 ……恐らく、目玉は存在しないでしょう。
 あるのは空洞のみ。
 これはちと……思いきったことしたなぁ元譲さん。
 確か眼球に刺さった矢を眼球ごと引き抜いて、その眼球食べたんだっけ?
 ……すげぇなぁ歴史上の人物って。ていうか化膿したら死にますよ? 冗談じゃなく。
 でもこんな場所にまで流れ弾が飛んでくるわけがないし……となると、華雄隊がマジで突撃を仕掛けて、孫呉との乱戦中に流れ矢がざっくり、とかそんな感じなのだろうか。
 それとも戦わない状況に我慢できなくなって突撃したら、ざっくりだったのか。
 ……後者っぽいなぁ、なんとなく。

中井出「あいや待たれい!」
華琳 「───、博光? ……何の用? 今、構っていられる状況じゃないの」

 あら冷たい!
 だがこちらは構ってくれと言っているわけじゃないですよ?
 ほ、ほんとだよ? 寂しくなんかないんだからねっ!?《ポッ》
 とツンデレ怒りをしている場合ではなく。

中井出「惇殿。少し、失礼」
夏侯惇「《ぐいっ!》なっ!? 貴様、なにを───や、やめっ───」

 目を隠していた惇さんを立ち上がらせ、目玉の断裂面を少し削り、変化の指輪の力で“血肉を目玉に変える力”を発動!
 痛そうにしている惇さんの瞼の奥にそれは生まれ、空洞だったそこを満たすと……血肉を変化されたのがよかったのでしょう、筋や細胞が一瞬にして連結されたようで、苦しそうだった惇さんの表情から“痛み”というものが消えた。
 でも一応回復キャリバーを義聖拳で流して、と……血を拭き取って終了!

夏侯惇「……これは」
中井出「さあ、華琳に見せてあげてください。変わらない、貴女の姿を」
夏侯惇「───貴様。何故華琳様の真名を口にしている」
中井出「あれぇ!? いやちょっ……今気にするべきはそこじゃないでしょ!?」
夏侯惇「うるさい! 華琳様の真名を勝手に口にするなど!
    華琳様が許しても私が許さん!」
中井出「えぇえええええ!!? それって真名の定義完全に無視してませんか!?」

 言いつつ両手でもって僕の襟首を掴んでくる惇さん!
 僕の体はあっさりと地面から離れ、なんと宙吊り状態に……!
 す、すげぇ! なんという腕力よ!

夏侯淵「あ……姉者……?」
夏侯惇「なんだ秋蘭! 今はこいつを血祭りに上げるのに忙しいからあとにしろ!」
華琳 「……やめなさい春蘭!」
夏侯惇「華琳様っ!? で、ですが……」
華琳 「真名は私が許したのだから構わないわ! それより貴女! 目が……」
夏侯惇「目───あ」

 忘れてた、とでも言わんばかりに惇殿が目の近くに手をやると、急に離された僕は受身も取れずに無様にドシャアと尻餅をついた。
 う、うう……なんだよなんだよ! 痛そうにしてたから治してあげたのに!
 と普通ならばイジケるところだろうが、勝手に治したのは俺なので言いません。
 でも面白そうだからやりましょう。

中井出「ち、ちくしょー! よくもやりやがったなー!?
    僕なんにも悪いことしてないのに!
    あぁいいさ! あぁカタパルトさ!(?)
    もう僕行くからね!? もう知らないんだから!《ポッ》」
夏侯淵「なに? 待て、これはお前が───」
中井出「さらばじゃーーーーーーーっ!!!《ビジュンッ!!》」

 聞く言葉も半端なままに転移で逃走!
 兵の輪の外に降り立つと、辺りを見渡して……居た、雪蓮たちの隊。
 赤が目立つその隊は桃香たちの隊と虎牢関を占拠してた。
 こういうのって占拠した者の手柄になるんだっけ?
 まあともかくだ、これであとは洛陽を占拠するだけなんだろうけど───。

中井出「…………あ」

 周瑜を発見。
 いいことを思いついた僕は、彼女に近寄ると気安く“やあ”と声を掛けた。

周瑜 「うん? ああ、中井出か」
中井出「うん僕博光。仕事が終わったんで挨拶に来たよ?」
周瑜 「ああ、見事なものだ。董卓の首も落ちたし、これで諸侯連中も少しは黙るだろう」
中井出「まああの董卓ニセモノだけどね?」
周瑜 「…………なるほど。董卓は被害者だったか」
中井出「押忍。祭さんが射ったアレも、実は人間じゃなくて僕が作った人形です。
    ……あ、周瑜殿。実は洛陽にはもう敵は居ないんだけどさ。
    出来れば桃香たち……劉備軍に占拠させてくれないかな」
周瑜 「それは……なかなか難しいことを言ってくれる。
    この戦いは董卓の征伐と、洛陽の占拠にあるといっても過言ではない。
    いくらお前の力を認めたからとはいえ、我らもまた名を欲し、独立を目指す者。
    洛陽一番乗りという栄誉を捨てるのは、賛成できない。
    それに台帳と地図が欲しいのも理由の一つだ」
中井出「むう。こっちも結構兵少なくてね……これからのこと考えると、
    この一番乗りだけは決めさせたいんだよね。だからさ、はい、これあげる」

 手を差し出すと、それに合わせて手を差し出す周瑜殿。
 その手に、玉璽をとすんと乗せる。

周瑜 「───! これはっ……」
中井出「天からの贈り物〜ってことで。それと各地に間諜放って、
    この反董卓連合の勝利は劉備、孫策、曹操の手柄だ〜って吹聴してあるから。
    あ、もちろん袁紹袁術を筆頭にしたやつらは途中で人任せで逃走。
    総大将のくせに戦いを放棄したにも係わらず、
    三つの隊が董卓の魔の手から勝利を得た! って感じで」
周瑜 「……抜け目がないというか……が、いいのか。
    これは洛陽制圧で得られる栄誉どころの騒ぎでは───」
中井出「いいのいいの、独立祝いとでも思ってくれれば。
    あ、じゃあ僕桃香のところに戻るから。雪蓮によろしく言っといて」
周瑜 「なにっ、待て! まだ話は! 今洛陽を制圧してみせてもだな───!」
中井出「わははははは! さらばじゃーーーーっ!!《ビジュンッ!》」

 再び転移! そして今度は虎牢関を制圧し、洛陽へ向けての移動の準備をしているみんなのもとへ。
 雪蓮たちの隊が制圧の色を濃くしようとしている中、まあこっちは兵が僅かなこともあって押し切られる感じでまごまごしてる。
 けどまあ今はそれでよし。
 兵士さんたちに軽く囁いて集まってもらい、桃香や愛紗や鈴々、星や朱里や雛里といった将にも集まってもらうと、事情を話して我先にと洛陽を目指す。
 どうせ総大将が逃げたのだ、勝手に進むくらいは許されるってものさー!って感じで。

 で……洛陽に来てみれば、大将を失った兵たちが自分たちで機能する筈もなく。
 戦いは一切起こらないままに洛陽を制圧。
 周瑜が言っていたことを思い出し、台帳と地図を見つけると、それを……洛陽に侵入し、静かに探索していた甘寧殿を発見。
 盛大に驚かせてやったのちに、はい、と手渡してあげる。
 ……おまけに幸せいっぱい愛いっぱい、頭を撫でさせてもらってからさよならを。
 顔を真っ赤にしながら剣を突きつけられた時は、生きた心地がしませんでした。はい。

  あ、ちなみに。

 今洛陽を制圧してみても大した意味はないということを知ったのは、しばらくして朱里に教えられてからでした。
 皇帝が居ても洛陽が奪われ、皇帝が居なくても連合が組まれた。
 皇帝の居城としての価値も、鉄壁の守りを名高くしていた意味も無くなってしまい、栄誉らしい栄誉などは得られる筈もなかった。
 ……うん、別れる最後、周瑜はきっとこのことを教えてくれようとしたんだろうね。
 最初から言ってくれればよかったのに、これだから軍師ってやつぁ……。





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