13/孫呉の窮地

 そんなことがあってしばらく───

中井出「ふぅうう〜〜〜〜っ! 今日の書類整理が終わったぜ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
美羽 「おお! まことか!」

 執務室で大きく伸びをして一息。
 どっかりと大きな椅子に座る僕の足の間には美羽が座っていて、その顔が俺を見上げてきゃらんと光る……遊べ、と言いたいらしい。
 俺に叱られて、桃香に謝って、僕の腰に抱き付いてきたあの日以降、美羽はなにかにつけて俺と行動をともにしたがった。
 中庭を散歩してる時もどこからか駆けてきて腰に抱き付いたり、こうして執務に励んでる時でも足の間にちょこんと座ったり。
 食事の時も俺の足の間に座るもんだから、愛紗がオガーと怒ったりと……そんな愛紗の怒りを受け止めて、返した言葉がアレだもんなぁ……。

  「おぬしは妾のために怒っておらぬ! だから退いてなどやらぬのじゃー!」

 ……ええ、案外俺に本気で怒られたのが心に響いたのかもしれない。
 自分に向けられる“心配”に敏感になっている所為なのか、美羽は人の怒りの矛先や理由にも敏感だった。

美羽 「博光は“森の中のひなた”の香りがするのじゃ〜♪」

 まるで猫です。
 体の向きを変えて、僕の胸に顔をぐりぐりと摺り寄せてきます。
 これがあの我が儘放題だった袁術さんですよ? 信じられますか?
 そんな美羽をつい撫でてしまうからいけないんでしょうねぇ……最近愛紗に怒られっぱなしですよ俺。
 ていうか劉備軍の皆さんに、なんでかじぃ〜〜〜〜っと見られることが増えた。
 あれは…………嫉妬? …………いやははは、まさかねぇ。
 いやでも、今だって……

桃香 「………じ〜〜〜〜〜〜っ……」
中井出「いやあの、桃香? 口でじ〜〜〜って言うのってどうかと思うな僕……」
桃香 「ねぇねぇご主人様ぁ〜〜〜……私達ももっと構ってほしいな……」
中井出「構う?」
桃香 「うん……最近のご主人様、
    全然私や愛紗ちゃんや鈴々ちゃんや朱里ちゃんや雛里ちゃんや───」
中井出「あーあーキリがないから! ……それに朱里と雛里とは結構遊んでるよ? 僕」
桃香 「えぇっ!? なんでっ!? わ、私も遊びたかったよ〜!」
中井出「だってキミ執務が残ってるし……」
桃香 「あうっ! ……あ、あのー、ご主人様……?」
中井出「手伝いませんよ? それはあなたの仕事ですよ、劉玄徳」
桃香 「いじわるぅ〜!」

 ……最近。
 美羽がよく俺と一緒に居るようになってから、女性陣の動きが穏やかじゃなくなってきてる気がするんだよね……。
 今日だって目覚めたら隣に恋が寝てて、恋を探して僕の部屋に入ってきた音々音にちんきゅーきっくされたし。
 愛紗は何故か急に料理を作り出して、手作りの炒飯(?)を僕に食べさせたがるし。(一度あまりの不味さに昇天しかけました)
 鈴々はなにかというと僕を連れ出してメシを奢らせたがるし、星もそれに便乗してラーメンとかメンマ専門店に連れていきたがるし。

 食い物ばっかかと思えば、手合わせ願いたいとか言って、鈴々、星、愛紗の三人の稽古に付き合わされるし……少しすると恋も混ざってきて、これがまたひどい乱戦稽古になりまして……。
 月と詠にお茶を淹れてもらって休んでる時は少しは安らぐんだけど、詠がまた細かなことでうるそーてうるそーて。
 そうして休んでる時も、恋殿に稽古をつけてやる、など何様のつもりなのですー!って、音々音にちんきゅーきっくされて……ああもう何処で休んでいいか解らないよ僕……。
 それでもせっかく手に入れたこののびのびとした時間。
 これを如何に過ごすかが僕に必要なものだと思うわけですよ。

中井出「よ〜し、久しぶりに華琳と雪蓮に会いに行くかなぁ」
美羽 「なんじゃと!? だ、だだだだだめなのじゃ!
    孫策に会いに行くのはだめなのじゃ!」
中井出「え? なんで?」
美羽 「そそそ孫策に言われたのじゃ! 次顔を見せたら、こ、こここここ……!!」
中井出「……なるほど」

 雪蓮って飄々としてるけど、誇り高いところあるからな。
 ちびっ子に我が儘放題こき使われて、いい気はしなかったんだろう。
 脅しにすぎないにしても、多分雪蓮はいつだって本気だ。
 次は殺す、と言えば絶対に殺すだろう。

中井出「ふぅむ……じゃあ軍のみんなに会いつつ考えるかな」

 うん、それがいい。また巻き込まれるやもだけど、楽しいことは事実だしね。
 会えなかったら昼寝するのもいい。
 そう思って、美羽を抱き締めつつ椅子から降りた───その時だった。

朱里 「たたた大変ですー! ご主人様ー!!」
中井出「ぬぅ!? 何事かぁああ!!」

 ばたーん!と執務室のドアを開け放ってきた朱里が、さも大慌てですって声で転がり込んで来たのです。

桃香 「朱里ちゃん? どうしたの?」
朱里 「あ、あのあの、はわわわ……!!」
中井出「あいや落ち着きめされい! 大丈夫、この博光、逃げも隠れもする!」
朱里 「するんですか!?」
中井出「はい落ち着いた。どうぞ?」
朱里 「あ、あう……えっとその……そうです! 大変なんですよー!」
中井出「うむ! それは解った! なにが大変であるか!」

 要領を得ないってこういう時に使うの?
 イマイチ使いどころが解らん。

朱里 「そ、曹操さんが孫策さんの国に戦いを仕掛けたという報せが……!」
中井出「なんですって!?」

 なんとまあ……マジすか!?
 たった今遊びにいこうかな〜とか思ってたところに!
 だがそうか……華琳は雪蓮の国を狙うか。
 北の袁紹を潰したことで勢いづいている今が好機と踏みましたかな?
 しかし…………

中井出「……袁紹の軍、潰したばっかりだよな? ……大丈夫なのか?
    確かに魏には結構優秀な武将が居る。
    けどさ、それって武将が強くても率いる兵も強くなけりゃ戦いにならない。
    ……こんなに連戦するなら、新兵の調練も必要になるだろ」
朱里 「あう……そうなんですけど、きっと曹操さんのことです、
    この戦を調練に見立てて、生き残った兵を……と考えているのでは……」
中井出「なんと愚か……! 戦う術も隊列の組み方も満足に知らぬ兵を出陣させると……?
    いや、それよりも……」
朱里 「……? それよりも……?」
中井出「うむ……部隊っていうのはね、統率力はもちろん、兵の力も動きも必要だ。
    一人の動作が遅いだけで全体に迷惑がかかり、
    その遅さが全体の死に繋がることもあるのは、朱里も知ってるだろ?」
朱里 「はい、それはもちろんです……」
中井出「けどな、それよりも。新兵が一番に知らなきゃいけないのは、
    その隊、その国の大将の“戦い方”だ」
朱里 「戦い方……? あの、ですから統率力が……」
中井出「いや、そういう意味の戦い方じゃないんだ」

 美羽を抱き締めたまま、再び椅子に座る。
 そうしてから紙を創造すると机の上に置き、そこに筆で文字を綴ってゆく。

中井出「たとえば……盗賊から足を洗って、新兵として働きだしたヤツが居るとする」
朱里 「はい……」
中井出「盗賊ってのは勝てば勝ち、っていう、
    まあ当然だけど卑劣なことが当たり前になってるやつらだ。
    勝てば勝ち……解るか? 兵士と兵士がぶつかるよりも、
    大将が油断してるところを……
    たとえば自分の領土で休んでるところを弓で射るなりすれば勝ち、
    なんて思ってるやつらだ。
    そんなやつらが調練もされないで、戦いになんか出てみろ。
    統率もされず、ただひたすらに大将の首を狙って無茶をする。
    いや、戦いの中ならまだいいさ。その大将だって覚悟を以って戦ってる」
朱里 「けど……覚悟のない時に、狙われたりすれば……と?」
中井出「野蛮なやつはね、朱里。
    大将さえ殺せば、自分の大将は自分を褒めてくれるって思ってる。
    もちろんそう思ってる大将だっていっぱい居るだろう。
    ……でもな、それを喜ばないヤツも居る。
    真正面から戦って、相手の本気を受け止めて、その上で相手に勝って……
    相手の苦労も血肉も受け取った上で、天下を手にしたい。そう思うやつが。
    天下を取るっていうのはな、独り善がりのものじゃない。
    目指した者、挫けた者、託した者、信じて付いて来てくれる者。
    いろんな思いの先に、それがある。敵や味方、なんてことは二の次なんだ。
    桃香や華琳や雪蓮だって、きっとそれは同じだと思う」
朱里 「はい……」
中井出「そんな思いがもし、そんな野蛮なやつらの意思によって挫かれたら……
    きっと、そいつらだけじゃない。俺達だって心を砕くだろう」

 そう。
 そんなことがあっちゃならない。
 兵は駒じゃない、お前を天下に導く仲間なんだぞ、華琳……。

中井出「───悪い朱里! ちょっと華琳のところに行ってくる!」
朱里 「はい! ……はい? ───え?
    はうわあぁあっ!? い、いい行くって、えぇっ!?」
桃香 「ご主人様!? そんな───」
中井出「間違った天下を進もうとしてるヤツをほうっておけるものですか!
    ちょっと行って止めてくる!」
朱里 「そんな! 待って、待ってくださいご主人様! 戦いはもう始まって───」
美羽 「ひ、博光ーーーっ!!」

 三人を置いて、開けっ放しだったドアから外へと飛び出した。
 そしてすぐにジークフリードを空中に寝かせると飛び乗り、各馬一斉にスタートの掛け声とともに空を駆ける。
 くっそ……! なんだよこの胸騒ぎ……!
 頼むぞ……! なにも起こっててくれるなよ……!?

───……。

 ……結論から言ってしまえば、もう“なにか”は起こっていた。
 空から見下ろす二つの部隊は明らかにおかしくて……華琳の傍に降り立ってみれば、華琳はどこか呆然とした風情で、近くに降りた俺なんか見えてないようだった。

中井出「華琳!? おい華琳!」
華琳 「……どうして…………なんで、なんでよ……!」
中井出「なんで!? こっちが訊きたいんですけど!? なにがあったんだよ! おい!」
華琳 「何故……何故孫策が毒を受ける! 何故このようなことが起こる!」
中井出「───……、な……に……?」

 毒……? 雪蓮が……!?

???「か、華琳様ーーーーーっ!」
???「事情が判明しました!
    許貢の残党で形成された一団が、孫策の暗殺を行ったようです!」
華琳 「───! っ……その者どもの首を刎ねよ!」
???「えっ!?」
華琳 「知勇の全てを賭ける英雄同士の聖戦を、下衆に穢された怒りが解らないのかっ!
    ……その者ども、全ての首を刎ねよ!」

 ………………。

中井出「……華琳」
華琳 「───! ……、博光……? あなた、どうしてここに……」
中井出「華琳が雪蓮のところに攻め入ったって聞いてね。
    けどそんなことはどうでもいい。ひとつだけ、聞かせてくれ。
    ……兵の調練は万全にして、この戦いに挑んだか?」
華琳 「っ! ……」
中井出「……曹孟徳……! 答えろ……! お前は、新しく引き込んだ兵士たちに……!
    自分の国の戦い方を、曹孟徳の戦い方を教え込んだ上で、ここに立っているか!」
華琳 「…………」
???「華琳様……」

 華琳がちらりと、眼鏡をかけた女性……おそらく軍師であろう人を見る。
 けど、そんなのは知らない。
 俺は今、お前に話しているんだぞ、華琳……!

華琳 「……して、いないわ───」
中井出「っ!」

 ぱぁんっ!!

華琳 「……、……っ!?」

 渇いた音が、混戦の場に響き渡る。
 主を暗殺の対象にされたことに怒り狂う孫呉の兵が叫ぶ中、俺の右手が痺れるように痛み、左頬を叩かれた華琳が、呆然と俺を見る。

???「華琳様!?」
夏侯惇「貴様ぁああ!! 華琳様に───」
中井出「黙ってろ馬鹿どもっ!!!」
全員 『っ!《びくぅっ!!》』

 自分でも信じられないくらいの大声が、自分の口から放たれる。
 握る拳はぎりぎりと痛み、だがそんなことよりも、誇り高き曹魏の王がこんな失態を起こしたことが悔しくてならなかった。
 悔しくて、胸が痛んでしょうがなかった。

中井出「……攻め入られたなら仕方ない……!
    調練されてない兵でも、死に物狂いで戦う……!
    自分の生きる場所を守るためだ、当たり前だろ……!?
    けどな……調練もされてない、お前の国のお前の流儀も戦い方も知らないやつが、
    どうやってお前に褒めてもらおうと、自分の住み方を守ろうとすると思う……!
    盗賊家業から足を洗ったばかりの兵が居たら、
    そいつは馬鹿正直に自分を磨いて武力を高めるか……!?
    手柄ばかりを焦るヤツが戦場に出たら、死ぬかもしれない戦いに身を置くより、
    大将をさっさと殺そうって思うに決まってるだろうが……!」
華琳 「…………」
中井出「なんでだっ……なんで戦を焦った!
    万全に万全を! 戦には誇りを! それがお前の生き方だろ!?
    それで焦った結果が暗殺で! それを聖戦を穢されたって言って!
    お前は調練もしてなかった兵を殺すのかよ!!」
華琳 「───! ……………………どうして…………どうして貴方が泣くのよ……」
中井出「悲しいからに決まってるだろ!? こんなの最初から聖戦じゃない!
    どっちが倒れようとも、それが真正面からの戦だったらなにも言わなかった!
    けどこんなのってあるか!? こんな聖戦があるかよ!
    お前はっ……お前はいったい……!
    調練も出来てない兵を戦場に立たせてっ……!
    どんな聖戦がしたかったんだよぉ……!」

 涙がこぼれる。
 悔しい、悔しいと心が泣いている。
 ついさっきまで穏やかであった筈の心が張り裂けそうになって、嗚咽が溢れる。

華琳 「…………春蘭……呉へ弔問の使者を出しなさい………………
    我らは……───我らは一度退く!」
夏侯淵「なっ……し、しかし華琳様!
    この状況で退却すれば尋常ならざる被害を受けることは必至!」
華琳 「っ……ならば戦えというのか!?
    己の過ちによって穢してしまったこの戦いを続けることになんの意味がある!
    どのような意義がある! もはやこの戦いに意味はなく、大義も無くなったのだ!
    軍を退かなければ私は───!」
???「ダメです! 敵軍、突撃を開始しました!」
華琳 「───!? くっ……! なんだこれは……!
    このような戦い、誰が望んでいるというのだ……!」
夏侯惇「華琳様! 本陣を後退させて下さい! 我らが殿を務めます!」
中井出「……待て。俺が止める」
華琳 「博光……?」

 敵軍の突撃に身構える人垣の中で、俺は一歩前に出た。
 ……孫呉を視界に捉え、一歩。

華琳 「何故!? 怒ってたじゃない! 貴方がここで私を逃がす意味が何処に───」
中井出「意味だとか意義だとか───っ!
    そんなこと言ってるから当たり前のことを見逃すんだよ馬鹿野郎!!」
華琳 「《びくっ!》……え……?」
中井出「いいか! 兵ってのは駒じゃねぇ! 将ってのは道具じゃねぇ!
    みんなみんな、お前を慕って集まる仲間だろうが!
    お前を天下に、お前なら天下をって信じてくれる仲間だろうが!
    自惚れんなよ曹孟徳! お前一人で天下が取れるんじゃねぇ!
    お前を信じる仲間が居るから国ってのがあって、誰かと対等で居られるんだ!」
華琳 「………」
中井出「……華琳。味わった屈辱は糧にしろよ。味わった後悔は次に活かせ。
    一度の失敗でヘコムようならそれこそ俺はお前を軽蔑するぞ。
    だから……次に会う時は、自分の全てを誇れるお前と会わせてくれ。
    俺がお前をここから逃がす理由なんて、ただそれだけなんだよ」
華琳 「博光…………」
中井出「あぁそれと。暗殺を謀った馬鹿にはそれ相応のお仕置きを頼む。
    殺していいのは死ぬ覚悟を持ったやつだけだ。
    お前が気に食わないなら殺しちまっても文句はないだろうさ。
    ……けどな、こんなことは一回きりにしろよ?
    そう何度も叱ってやらないからな」
華琳 「…………うん」

 それは素直な答えだった。
 きっと俺にしか届かないくらいの小さな声だったけど、その声はちゃんと、俺の胸に。

中井出「解ったならそれでいいさ。……じゃあな華琳、また会おう。
    ……ああ、別に次会うのが戦場でも構わんぞ?
    今回のことを気負う必要はないから、攻めたくなったらいつでも来い」
華琳 「…………ふふっ、ええ。気負うなんてこと、する筈がないわ」
夏侯淵「華琳様! お早く!」
華琳 「解っている! ───じゃあね、博光。また会いましょう」

 声が離れてゆく。
 それを確認してから、一歩また一歩と───地を蹴り、駆け出し───呉と魏の堺に来るや、風を巻き起こして呉の兵を押し退ける。

甘寧 「ぐぅっ!? なんだこの風…………なに!? 貴様、何故───」
周泰 「御遣い様!? どうして───」
中井出「話は後だ! 退け!」
甘寧 「退け……!? ふざけるな! やつらは卑劣にも雪蓮様を!!」
中井出「そんなことは解ってる! 敵はもう撤退を開始した!
    これ以上戦うのは無意味だ! 怒り任せに自軍の兵を死なせる気か!?」
孫権 「───どうした! 何故進まな───お前は!」
中井出「……権殿」

 足を止めた二人の隊を不思議に思ってか、孫権が前に出てきた。
 ……いや、恐らくは孫権も追撃部隊だったのだろう。
 …………それも違うか。
 王を狙われた怒りは相当なもの。
 しかも毒、ということは……この時代だ、治療するための道具なぞないだろう。
 このままでは恐らく雪蓮は……

中井出「くっそ……! いいから雪蓮のところに行くぞ!」
孫権 「断る! やつらを……やつらを皆殺しにしなくては気が済まぬ!
    いいや! やつらの命ごときで足りるものか!!
    やつらは、やつらは姉様を!!」
中井出「っ……だから皆殺しか!? くそっ! どいつもこいつもっ……!!
    お前も妹なら解るだろ!? 雪蓮はそんなこと望んじゃいない!
    あいつが望んでるのはもっと当たり前にあるもので、
    殺し合いなんかじゃない筈だ!
    いいから来いっ! 雪蓮に会わせろ! そして会え!
    ……っ……このまま馬鹿みたいに突撃して!
    お前は雪蓮の自分の妹に遺したい言葉さえ失くすつもりか!」
孫権 「───!」
中井出「甘寧! 周泰! お前達もだ! 冷静さを失うな!
    ───黄蓋! お前も退け! 怒りは今は納めてくれ! 頼む!!」

 離れていても届くよう、祭ではなく黄蓋と。
 突撃しようとしていた全員を無理矢理止め、目が血走っている連中をなんとか鎮めさせる。
 けど、今にも爆発しそうな雰囲気を、ただひたすらに雪蓮のもとへ急ぐことでそちらに向けた。

───……。

 そして───

中井出「雪蓮!!」

 どこで狙われたのかも解らない。
 城門前に構えた部隊の先には左の二の腕から血を流し、周瑜に抱き留められながら地面に横たわる雪蓮の姿があった。
 毒……といった。恐らく、毒矢かなにかを腕に放たれたんだろう。

中井出「雪蓮!? 雪蓮!!」

 その傍らに駆け寄り、声をかける。
 目は開いているが……息が荒い。
 きっともう、全身に毒が回っているんだろう。

雪蓮 「あれ……博光だ…………やっほ、博光……」
中井出「…………雪蓮……」
孫権 「姉様っ!」

 虚ろな目が彷徨う。
 そして俺と孫権を視界に移すと、苦しげだけど、そっと笑んだ。

雪蓮 「はは……困ったなぁ……母様の顔がちらついてるわ……」
孫権 「姉様……曹操の軍は退却しました……!
    だから、だから姉様……約束通り、治療を受けて貰いますからね……?」
雪蓮 「ははっ、ごほっ……残念だけど、私……お医者さん、嫌いなのよね……」
孫権 「ふふっ……知ってます。でも今日ばかりは私の言うことを聞いて貰わないと……」
雪蓮 「相変わらず……真面目ね……ごほっ」

 血を吐く。
 よほどに苦しいんだろう。
 それでも命尽きないのは、きっと……遣り残したことがあるから。

雪蓮 「蓮華…………呉の未来は、あなたにかかってる……
    みんなと仲良く、協力しあって……呉の民を守っていきなさい……」
孫権 「はいっ……!」
祭  「策殿……」
陸遜 「雪蓮様……」
甘寧 「雪蓮様……」
周泰 「雪蓮様……!」
呂蒙 「っ……ううっ……!」
孫尚香「お姉ちゃん……」

 雪蓮の手が彷徨い、孫権の手を握る。
 今にも力尽きてしまいそうな手で、なのに力強く握って、まるで自分が持っているものを孫権に与えるかのように。

雪蓮 「…………冥琳……」
周瑜 「……ああ、ここに居る」
雪蓮 「シャオと蓮華を…………お願い……」
周瑜 「解っている」
雪蓮 「…………ふふっ……そっけないわね……」
周瑜 「性分だからな…………雪蓮。……先に逝っておけ。……私もいつかそちらに逝く」
雪蓮 「……うん。ずっとずっと、待ってる……からね…………」
周瑜 「…………ええ。待っていなさい……」

 …………その言葉を最後に、ゆっくりと光を失わせてゆく瞳。
 そんな彼女の手が握る孫権の手……そこから、己の血で濡れた手が落ちようとする。

中井出「───」

 それを、孫権の手ごと握る。

中井出「……まだだよ、雪蓮」
雪蓮 「……、ぇ…………?」

 光のない瞳が、閉ざされる前に止まる。
 もう俺の姿も定まっていないのだろう、瞳が何度か彷徨って、俺を見つけられないことが悲しいのか、唇が歪む。

中井出「まだだ。……約束しただろ?
    いつか、俺が受けた恥ずかしさをお前に返す、って。だから───」
雪蓮 「……、ふふ…………ひろみつ、って……けっこう……
    しゅうねんぶかい、のね……」

 言葉が吐息混じりになり、掠れてくる。
 周瑜がそれ以上は、と首を振るが……だめだ。

中井出「……なぁ。今、返していいかな。お前に……恥じ掻いてもらっていいか?」
雪蓮 「………………ふふ…………あ、はは…………っ…………うんっ…………!
    かえして……? わたしに……。
    わたしがのこしたなにかを……いきたあかしを……」

 ふと、光がこもっていない瞳から涙がこぼれた。
 ……うん、了承は得た。
 得たから───もう我慢することはしなかった。

中井出「……この地、この国、この場にある全ての草花、全ての意思……!
    お前達を愛する呉の王が死のうとしている……!!
    我、自然の全てと契約を結びし者の名において、今……!
    この者を侵す全ての害から彼女を救いたまえ……!!
    ───スピリッツオブラインゲートォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 我が内に秘めし全ての武具の意思とユグドラシルを解放する。
 ───刹那、荒地だったこの場……否。
 この場を始めとした大地が、俺を中心に草原となり花畑となり───ユグドラシルから溢れるマナが、広がった景色から溢れるマナが、緑色の光の粒子を吐き出して、雪蓮を慈しむように包んでゆく。

周瑜 「……、これは……」
孫権 「…………綺麗…………」

 なんと幻想的な景色だろう。
 この大地に……孫呉に求めた想いは、俺の想像なんて遥かに超えて存在していた。
 これだけの想いたちが雪蓮を愛し、これだけの想いたちが雪蓮のために芽吹いた。
 そして…………

孫権 「……、えっ───?」

 俺が、孫権の手ごと両手で包んでいた雪蓮の手が、ぴくりと動く。
 傷なんてとっくに塞がっていて……きっと毒なんてものもとっくに浄化されていた。
 痛々しい血痕は残ったままだけど…………ゆっくりと開かれた瞳に光があることを確認出来たら、そんなことは笑い飛ばせた。

孫権 「…………姉、様?」
雪蓮 「…………………………え、っと……」

 けど、せっかく生きていられたってのに、雪蓮はばつが悪そうだった。
 だから俺は、最高のいたずら笑顔で雪蓮の顔を覗きこんで、言ってやるのだ。

中井出「……どーだ? 最高のお返しと、最高の目覚めだろ?」

 そう言ってやると、雪蓮はそっぽ向きながら……でも、涙を浮かべて言った。

雪蓮 「恥ずかしいわよ! 恥ずかしい……けど…………うん…………悪くない……」

 その一言のあと、場は割れるような喜びの絶叫に包まれた。
 孫権は雪蓮に抱き付いて赤子みたいにわんわん泣いて、シャオも同様に泣き喚いて。
 俺はそんな光景を、漂う緑色の粒子と一緒に眺めて……ぽかりと頭を小突かれて振り向いてみれば、祭さんが俺を睨んでて……でも、二代に渡って見送らずに済んだ、と……笑ってくれた。

中井出「…………うん」

 荒野の大地が緑に染まり、ぼんやりと緑色の光が灯る幻想の景色。
 国に、大地に愛された王は、国にこそ生かされて、姉妹とともに泣いていた。
 ……いい景色だ、って思った。
 だから俺も笑って、姉妹から少し離れた場所に座り直し、ぼてりと倒れた。

中井出(あ〜…………ちょっと無茶な力使いすぎたかも。というか吸われたね、うん)

 ……そんな風に草原に大の字になって倒れる俺を、ひょいと覗き込む人影。
 周瑜だった。

周瑜 「……ありがとう、と……言うべきなのかな。
    それとも、出来るのならさっさとやれ、と言うべきか」

 なんとも微妙な心境のようだけど、俺の答えは別だった。

中井出「お見事、って一言言ってくれればそれでいいよ。
    俺の目的は雪蓮に仕返しすることだったんだからさ」
周瑜 「……そうか。だが、大きな借りが出来た」
中井出「借り? ん〜……いや、そんなのないさ。俺が雪蓮に死んでほしくなかった。
    ただそれだけだよ。……あ、どうしても納得できないなら、
    少し遅れた独立記念ってことにしといてくれ」
周瑜 「なに? …………ふっ、ははははは……!
    独立記念に王を救われるなど聞いたことがない……!」
中井出「ははははは……うん、そうかも」

 二人して笑う。
 そんな笑いが少し続いたあと、周瑜は辺りを一度見渡してから俺を見下ろす。

周瑜 「……これも、お前の御遣いたる力、なのか?」
中井出「うん、まあ。でもね、周瑜。俺はきっかけになる力しか解放してないんだ。
    大地が応えてくれないなら、俺の力でやるつもりだった」
周瑜 「きっかけ?」
中井出「うん。……この大地にね、願ったんだ。
    ───あ、俺の能力の本質は“自然”にあってね?
    自然の力を糧に、いろいろなものを解放する。
    でも今回、俺はきっかけを与えただけで……あとはこの国が、大地が全てやった」
周瑜 「……すまないが、もう少し解りやすく言ってくれないか?」
中井出「……うん、つまりね? 雪蓮はこの大地に、孫呉に愛されてるってこと。
    きっかけを与えた途端に荒野が草原だよ?
    この草花の一本一本が、雪蓮のことを思って芽吹いたんだ。
    この草の一本一本が出す“マナ”っていう力があるんだけどね?
    それが俺の力になって、傷を癒そうとすれば傷が癒える。
    でもね、そんなことをするまでもなく、孫呉の大地が雪蓮を癒した」
周瑜 「…………そんなことが」
中井出「ははっ、うん。俺も驚いてる。こんなこと初めてだ」

 緑色の粒子が飛ぶ。
 ふよふよと、さぁ、と吹く風に揺らされながら。
 そんな景色の中で三人抱き会って泣く姉妹を眺めながら、周瑜は眩しそうに目を細めた。

周瑜 「……だが、きっかけを与えなければ雪蓮は死んでいた。……そうだろう?」
中井出「うむ。まあその通りだ。……だがきっかけを与えた途端、
    孫呉の大地がこの博光の力を根こそぎ吸収し、芽吹きおった。
    お陰で今はぐったり状態で思うように動けぬ」
周瑜 「ふふっ……そうか」
中井出「………」
周瑜 「………」
中井出「周瑜も行ってきたら? 雪蓮、喜ぶと思うけど」
周瑜 「やめておこう」
中井出「即答!? ……あ。もしかして泣きそう?」
周瑜 「うぐっ……」

 ……うん。
 やっぱり軍師ってのは損な役回りなのかもしれない。
 常に冷静にと心がけている所為で、こんな時でも一線を引かなくちゃいけないのだ。
 でも俺は、お姉さんっぽい風情の周瑜がそんな風にぐぅの音も出なくなる様がおかしくて、草原に寝転がったままに笑った。
 その笑い声に気が付いた雪蓮が駆け寄り、倒れてる俺に飛びついてきて───次いで駆け寄ってきた孫権がありがとうありがとうと何度も礼を、シャオが首に抱き付いて来て……祭殿が豪快に笑って、周瑜が仕方のない、と笑って───やがてこの場に笑顔だけが溢れる頃。
 揺れる粒子の動きに混じって、誰かの声が聞こえた気がした。

中井出「───……」
雪蓮 「あ、ちょっと博光? 話途中に余所見はないんじゃない?
    あのね、これはちょっと仕返しにしては返しすぎだと思うのよ。
    遺言のつもりが全部違うものになった私の恥ずかしさ、解ってる?」
中井出「…………雪蓮」
雪蓮 「え……うん? なぁに? 博光」

 仰向けに倒れる俺の上に、そのまま正面から乗っかっている状態の雪蓮。
 すぐ目の前に顔があって、だけど……不思議と照れたりだとか恥ずかしいって感じはしなかった。

中井出「うん。えっとね。……お前がこっちに来るのはまだ早い、だってさ」
雪蓮 「え………………───ああ、そっか。
    まったく……あっちでお酒くらい付き合ってあげようかなーって思ってたのに」
祭  「……堅殿か」
雪蓮 「そうみたい。私はな〜んにも聞こえなかったけど」
中井出「いや……そっか。じゃあきっかけをあげた途端にこうなったのは……」
周瑜 「さて、それはどうかな。あの方はあの方で厳しい方だったからな」
中井出「自分が亡くなってまで子に厳しい人なんか居るもんか。
    頑張って頑張って、本当にダメになった時に助けてくれる……
    それが家族ってものじゃないかな」
雪蓮 「博光……」
中井出「けどまあ、今はそれよりも、か。………………おかえり、雪蓮」

 言いながら頭を撫でた。
 すると、雪蓮はくすぐったそうにして───まっすぐに俺を見ながら言う。

雪蓮 「……うん。ただいま、博光」

 まるで恋人同士の会話だ……と内心赤面しながら思った。
 あー……でも今は休みたい。
 筋肉痛はしなくなったけど、少し眠くなるようになった気がする。
 ……せっかくこんなに自然があるんだし、ちょっとくらい…………

中井出「うう、だめ……。能力使ったから疲れた…………。ごめん、寝かせて」
雪蓮 「んー…………」

 きゅむ。
 ……オウ? なにやら我が右手が何者かに掴まれる感触……ハテ?

雪蓮 「まだだよ、博光。私まだ、お返ししてないじゃない」
中井出「……へ? いやあの……お返しって?」
雪蓮 「うん。孫呉の王を救ったお返し。
    少し考えたんだけどさ…………博光、孫呉の種馬に───」
中井出「なりませんよ!?」

 バッチリ目が覚めました!
 ええ! なんか寝たらヤバい気がする!!

雪蓮 「え〜? なんでよ。博光は私のこと、嫌い?」
中井出「そりゃ好きでもなけりゃ救ったりしませんよ!?
    でもこの好きってのはそっちの好きじゃなくてですね!?
    つーかなんで!? なんで種馬なの!?」
雪蓮 「あなたの胤を呉に入れるの。
    そうすれば呉に天の御遣いの血が入ったってことを喧伝出来るでしょ?」
中井出「してどうするの!?」
雪蓮 「あ、無理矢理はだめよ? あなたが口説いて、
    女の子が良いって言うまでは手を出しちゃダメ。解った?」
中井出「人の話を聞きなさい! ていうか心配せんでも誰にも手をだしませんし、
    誰も俺なんぞを好いてませんよきっと!」
雪蓮 「……そうなの? 蓮華」
孫権 「っ……」

 あれ? なんか顔赤くね?
 などと若者風に言ってる場合じゃなくて……あれ?

孫権 「お、お前は姉様を救ってくれた……。
    呉が独立するために、手を焼いてくれたことも冥琳から聞いている……。
    そして、その……わたしたちを止めるため、
    単身我らの隊の前に現れるという胆力も、その……見事で……」
雪蓮 「ほら、好きだって」
孫権 「姉様っ!?」
孫尚香「んふふ〜、シャオは博光のこと、好きだよ〜?」
孫権 「なっ!」
祭  「儂もこやつのことは気に入っておりますぞ」
周泰 「はいっ! 御遣い様は本当に御遣い様ですっ!」
甘寧 「今までの非礼を詫びよう。……我が国の宝を救ってくれたこと、感謝する……」
呂蒙 「みみみ御遣い様……あの、あの、
    ほっ、本当に、なんとお礼を言っていいかぁっ……!」
陸遜 「はい〜、本当にありがとうございます〜」

 ……あれ? アルェーーーーッ!!?
 なんかみんな好感触!? なんで!?

雪蓮 「みんなそれなりに認めてくれてるみたいよ?」
中井出「でもダメです! お礼とかでそんなことをするなら、僕もう帰る!」
雪蓮 「お礼じゃなければいいんだっ」
中井出「ゲェ! ち、違います!
    とにかくだめ! 大体僕呉の人間じゃないんだよ!?
    そんなヤツの血入れたら大変だよ!? ね!?」
雪蓮 「なに言ってるの、博光はもう家族も同然よ。
    ……私にここまで恥をかかせた人なんて、どこ探したって居ないわよ?」
中井出「ギャアなんか誤解されそうなお言葉! でも僕劉備軍に居るんだよ!?
    ほ、ほら、いずれ敵になるやもだし……───」
雪蓮 「そう? 博光は直接戦いには手を出さないと思ってたけど」
中井出「当たり前だ! 天下統一とはそれを為すべき者がするもの!
    この博光、天下統一には興味がない! あるのは楽しいことへの興味のみ!」
雪蓮 「ほら、だったら博光がどの軍に居ようが、私にとっては博光は博光よ」
中井出「はうあ!?」

 しまった謀られたわ!

中井出「とにかく! ───プリーヴィアス!《しゅぽんっ!》」
雪蓮 「え? ひゃあっ!」

 下敷きにされたまま動けなかった体を、猫になることで自由に!
 ……あ、それでもちょっと体ダルいや。

提督猫『僕はもうそういうのは卒業したんです!
    だからメ! メーなの《がばー!》キャーーーッ!!?』
周泰 「お猫様! お猫様ーーーーっ!!」
提督猫『《すりすりすりりりりり!!》ギョアアァアーーーーーーッ!!!
    なななななになになにぃいいーーーーーーっ!!?』
周瑜 「……驚いたな。猫になれるのか」
提督猫『なれます! なれますからちょっと周泰さんなんとかしてぇえええ!!』

 猫になった途端にこの博光を抱き上げ、頬擦りするは周泰さん!
 え!? なに!? 何事なんですかこれ!

孫尚香「あのねぇ博光? 明命は猫が好きなんだよー?」
提督猫『なんですって!? ってそれはいいから離してぇええええ!!』

 …………その後。
 予想に反して騒ぎながらも半刻ほど撫で擦り回されて、周泰殿がツヤツヤになって満足なさる頃には、僕は余計にぐったりしていました。

───……。

 さて。

提督猫『……ふぅ、ひどい目に遭ったニャ』

 ぐったりとしたボクを見兼ねた冥琳に助け舟を出してもらい、落ち着きを見せた呉の皆様。
 撫でられすぎてモサモサになった毛をさらっと梳かしたのち、ボクは呉の居城の廊下をトコトコと歩いていた。
 やぁ、久しぶりの猫化はなんだか素晴らしい。
 でも…………でもね?

提督猫『!《バッ!》』

 ……ササッ───

 …………な〜〜〜んか…………尾行(つけ)られてるんだよね……。
 きっと、いや絶対に明命(みんめい)だろうけど……。
 あ、ちなみに呉軍のみんなには真名を預かりました。
 是非受けとってほしいと半ば強引にだけど。
 えーと……現在知ってる真名をまとめてみると、
 劉備が桃香(とうか)、関羽が愛紗(あいしゃ)、張飛が鈴々(りんりん)、趙雲が(せい)、諸葛亮が朱里(しゅり)、鳳統が雛里(ひなり)、董卓が(ゆえ)、賈駆が(えい)、呂布が(れん)、陳宮が音々音(ねねね)、公孫賛が白蓮(ぱいれん)、袁紹が麗羽(れいは)、顔良が斗詩(とし)、文醜が猪々子(いいしぇ)、袁術が美羽(みう)、張勲が七乃(ななの)。
 孫策が雪蓮(しぇれん)、周瑜が冥琳(めいりん)、陸遜が(のん)、孫権が蓮華(れんふぁ)、黄蓋が(さい)、甘寧が思春(ししゅん)、周泰が明命(みんめい)、呂蒙が亞莎(あーしぇ)で孫尚香が小蓮(しゃおれん)だ。
 曹操軍は華琳(かりん)の真名しか知らんけど……あ、でも(しあ)……張遼が曹操軍に入ったって聞いたな。と、まとめたところで!

提督猫『!《ババッ!》』

 サササッ!!

 …………うん、やっぱ尾行られてるニャ、ボク……。
 馬鹿な……さっきあれだけモフモフを楽しんだというのに、まだ足りぬと……?

提督猫『………』

 あ、亞莎にでも会いに行こうかな……一番危険がなさそうだし……。
 雪蓮に挨拶して帰るのもアリだけど、今ボクが沸かした風呂に入ってると思うしニャ……。
 どうしたものかニャ……ハッ!?

提督猫『《ババァッ!》───………』

 振り向いてみても誰も居ない。
 だが……マズイ! 近づいてきてる! 確実に近づいてきているぞ!
 ど、どうする玄奘やばいぞ玄奘!
 ……って、普通に元の姿に戻ればいいだけか。はいシャランラァと。

声  「あうー!」

 ……何処からか情けない、それでいて悲しそうな声が響いた。
 声からしてやっぱり周泰だ。
 危なや危なや……また襲われるところだったよ。
 ……さて! ではこれより亞莎のところにでも……………………か、感じるっ!
 なにやら期待を込めた目が、俺を見ているようなっ……!

明命 「《じーー……》」

 み、見てる……めっちゃ見てるよ周泰さん……!
 欄干の端からじ〜〜〜〜っと……!
 ……ここでチャチャブーになろうものならボコボコにされる。
 そんな予感がありました。
 じゃあ女になって誤魔化しましょう!

中井出「チェーーーーンジッ! ルミエール!《ゴシャーー───》」
雪蓮 「あ、博光ー! ありがとね、すっきり───」
中井出「ゲェエーーーーーーーーーッ!!!!《───ーーーアァアン!!》」

 ほっこりと温まってきたらしい雪蓮が、丁度僕の変身シーン中に現れた!
 光に包まれる中で彼女は興味津々に僕を見て───やがて、彼女の前で女になった俺参上。猛者どもの記憶によれば、キョン子と呼ばれる姿とウリ二つの僕、というかあたしです。

雪蓮 「わあっ! なにっ!? 博光って女の子にもなれるの!?」
カーナ「《がばしっ!》はぶぅっ! ……ああえーと……うん……」

 それでもポニーは譲れないので、まず最初に髪を結っていると雪蓮に抱きつかれた。
 あ、で、でもだよ?

カーナ「そ、そういうことだからあたしは種馬には───」
雪蓮 「戻れるんでしょ?」
カーナ「ハイ……モドレマス……」

 こんな弱いあたしを許してください……。

───……。

 それからのあたしは、ほぼ孫呉のオモチャだった

雪蓮 「ほらほら華茄(かな)? こっちの服なんて似合うんじゃない?」
蓮華 「いえ姉様、華茄にはこの服のほうが───」
小蓮 「二人ともだめだめだね〜、華茄にはこっちのほうが似合うもん」

 三姉妹に連れられ、市の呉服屋に連れていかれ───

明命 「御遣い様っ! お猫様に! お猫様なってください!」
祭  「いやそれよりも酒に付き合え」
思春 「少し危ない訓練をする。出来れば治療を頼みたいのだが……」

 試着室に篭る三人を待っている最中に他の三人に捕まったり、

穏  「華茄さ〜〜ん? 天の知識を教えてもらえませんかぁ〜〜?」
冥琳 「少し新たな知識が欲しくてな。頼む」
亞莎 「かっ、かかかっか華茄様、が、よろしかったらなんですけどっ……!」

 三人からようやく解放されたと思いきや、軍師三人に捕まり……それが終わってみれば、呉服屋で待ちぼうけをくらった三人が仁王立ちで待ってて……

カーナ「いやあのっ……!
    だ、だってあたしの服選びに来たのに自分の服ばっかって……!
    あたし居る意味ないと思うんだよ、そうだよね?
    ていうか雪蓮!? 傷治ったばっかりなんだからあまり無茶は───」
三姉妹『問答無用っ!!』
カーナ「キャーーーッ!!!?」

 ルミエール=D=カーナのカーナをとって華茄と名づけられたその日。
 僕はいっぺんに様々な経験をし……最後にやっぱりこうなるわけですね、と……半ば諦めたまま散々と説教をされた。
 ちなみに“D=カーナ”の名前は逆さにすると“ナーカーィデ”となります。
 ルミエールは光チックです。博はどこいったとかは知らぬ存ぜぬの方向で。




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