14/博光の休日

 そんなことがあってから少し。
 呉から徐州に戻ってきたあたしは、未だに執務室でうんうん唸っている桃香を見つけ、ホッと一息。
 ああ……なんか和むなぁ……と思いながら、せっかくだし手伝うことに。

華茄 「桃香。手伝おうか?」
桃香 「え? ───えぇえええええっ!!? だ、誰!? どこから入ったの!?
    それよりも真名! 私、あなたに真名預けてな───」
華茄 「落ち着きめされい! あたし───じゃなくて博光です!」
桃香 「え? …………えぇええええええっ!!?」

 同じ反応だった。

桃香 「ごごごっごごごご主人様!?
    え!? なんで!? 女の子になってるよー!?」
華茄 「うむ! あたしには未だ誰にも教えていない様々な能力があるのだ!
    猫化、鬼面族化、そしてこの女かと巨大化と矮小化!
    一家に一人……博光です」
桃香 「…………」
華茄 「あ、信じてないね? じゃあ───」

 まず男に戻ろう。
 だがそのまま戻ってもつまらんので、ブリュンヒルデをステキな形に変え、腰に巻く。
 さらに同じくブリュンヒルデで象ったワインの瓶を左手に、

華茄 「今! 僕のヴィンテージが芳醇の時を迎える! ───変身!!」

 まずはなにも持ってない右手を、ゆっくりと軽く円を描くように大きく回し、次にワイン瓶を持った左手でGの文字の“¬”の部分を描く……つまりGを描くと、スパッとワイン瓶を右手に持ち変えベルトに装着!
 ワインオープナー型のソレに強く押し込み、オープナーをガシャンッと固定すると───我が体が光に包まれ、男の姿に!
 ……すると、あぁっ!と桃香が驚き、目を輝かせて拍手をする。
 うむうむ、喜んで貰えてなによりです。
 それから猫に変身してさらにチャチャブーに変化すると、桃香はきゃいきゃいと燥ぎ始める。
 最後にもう一度猫になってから矮小化を発動させ、小さいままに執務室の机へと飛び乗る。

桃香 「うわぁあ……こんなに小さい猫見るの、初めてだよー……」
提督猫『ニャッハッハッハッハ、まあそんなわけニャ』
桃香 「うんうんすごいっ!
    あ、でもいつものご主人様に戻ってくれると嬉しいな。
    その方がご主人様と居る〜って思えるもん」
提督猫『そうニャ? なら戻るニャ』

 一言言って、机から飛び降りると同時に元の姿、元のサイズに。

中井出「じゃあ僕遊びに行ってくるね!?」
桃香 「はーい。……はい? ───あ、あれ? 手伝ってくれるんじゃ───」
中井出「だってなんか思いっきり引かれたから手伝わないほうがいいかなって。
    それじゃあね? 仕事頑張って?」
桃香 「えっ……やっ!
    だだだって知らない女の子がいつの間にか居たら誰だって───待ってぇえ!
    待ってよぉおおっ!! うあーんご主人様ぁ〜〜〜〜っ!!」
中井出「《がばしー!》キャーーッ!? な、なにをなさる!
    太守ともあろうお方がこんなお茶汲み坊主の腰にすがりつくなど!」
桃香 「太守だって人の子だもん!」
中井出「そりゃそうですけどね!? こげなとこ誰かに見られたら───」

 ガチャリ───

詠  「桃香〜、お茶のお代わり持ってきてあげた───わ、よ…………」
中井出「ゲゲェエーーーーーーーーッ!!!!」

 現れたのはよりにもよって詠でした。

詠  「〜〜〜……嘆く女を振り払っての逃走……!
    このっ……女の敵ぃいいいっ!!!」
中井出「やっ! ちょっと待ってこれには事情が《ゴキィン!》覇王ッ!!」

 ……愛が散りそうでした。
 結局この日は黄金を押さえながら痙攣する僕を罵倒する詠と、そんな僕を心配する桃香に見守られながら過ぎ去りました。
 いや、もちろん復活してからは仕事手伝ったんだけどさ……。
 あーあ……僕の休み時間、こんなもんでよかったのかなぁ……。

───……。

 否。こんなものでよかろう筈もなく。
 その日のうちに出来ることを全て片付け、次の日に自由になった僕は空を飛ぶ鳥のように自由に生きるとDEENに誓った。
 いやDEEN関係ねーけど。
 デゲデッテーデーン!

中井出「ぬう」
雪蓮 「ふわぁっ!!? ひ、博光!?」

 まず手始めに呉に侵入。
 中庭の木の上でまったりとお酒を飲んでいた雪蓮……その上部からぬうっと顔を出し、驚かせてみた。
 その際、GB版男塾のアレな音を無意味に出してみた。

中井出「やあ」
雪蓮 「やあ、って……おっどろいたぁ、急に出てくるんだもん」
中井出「うむ。今日はちょっと呉のみんなに贈り物があって来たんだよ?」
雪蓮 「贈り物? ……って、博光?」
中井出「僕じゃないよ! 僕、物じゃないもん!」

 ともあれまず地面に降りてもらい、中庭の少し奥側、階段を登りきったところにある東屋に来てもらった。
 中庭にどっかり座るのもいいんだけど、相手は王様だもんね、仕方ないね。

雪蓮 「それでそれでっ? 贈り物って?」
中井出「わあ、スゲーわくわく笑顔。えーとね……」

 わくわくさんを余所に、プログラムジェノサイドハートを発動。
 そのファンタジー機械技術の中からとあるひとつを精製、取り出すと、長い棒状の黒いものを雪蓮が座る椅子の前にある机に置く。

雪蓮 「……? なに? これ」
中井出「映像です。これがあれば、様々なものが見れるようになるという……
    まあ、天の国の情報収集手段かなぁ」
雪蓮 「こんな棒が?」
中井出「うむ。えーとね、まずこの窪みを上下に引っ張ると……」

  クッ……カシャンッ!

雪蓮 「わ、開いた…………なに? この薄い膜」
中井出「うん、ちょっと待っといで? え〜〜〜と…………ほいっと」

 カチリとスイッチを押す。
 すると、徐州の僕らの城に設置されたビットが写す映像が、この膜に映し出される。

雪蓮 「ふわっ……え、なにこれ!」
中井出「膜を大きくしたかったら、
    目一杯伸ばせば伸びるから……って、ありゃ? 恋だ」
雪蓮 「れ……?」
中井出「ああうん、呂布の真名。うわっちゃー、恋に見つかってたか……」

 恋は画面いっぱいに映りながら、首を傾げている。
 しかもビットが気になるのか、つんつんと突付いて……あ、こらやめなさいっ!

雪蓮 「え、えっとつまり……?」
中井出「天の技術です。ちなみに映ってるのは呂布で、
    呂布が立っている場所は劉備軍の城」
雪蓮 「……へ〜〜〜! すごいすごい!
    え? じゃあ離れてても博光がなにやってるかとか───」
中井出「見ようと思えば見れますし、話そうと思えば話せますとも」
雪蓮 「へぇええ……天ってすごいのねー……」
中井出「どれ、ちょっと試しに恋と話してみましょう。
    いい? 雪蓮。話をする時はここの丸い突起物を一度だけ軽く押す。な?」
雪蓮 「ん〜……これ?《カチリ》」
中井出「そう。これでもう声と映像は向こうに届いてるから」

 ……と、この声もこの行動も、恋には見えてる筈だよな。

中井出「……恋〜?」
恋  『……ご主人様?』
中井出「うむ! 俺だ! 博光だ!」
恋  『…………《ポポポポポ……》……〜〜……』
中井出「ありゃ? 恋? 恋〜?」

 なんか顔真っ赤にして俯いた。
 何事?

雪蓮 「ふ〜〜ん……博光って自分の軍でもいろいろ世話焼いたりしてるんだ〜……。
    それもなに? 呂布まで仲間にしちゃったの?」
恋  『───!』

 あ、ちょっと眉が動いた。

恋  『……ご主人様、そいつから離れる……』
中井出「え? いや、僕遊びに来てるだけだから……。
    それに渡したいものも渡したし、もう帰るよ?」
雪蓮 「え〜? もう帰っちゃうの〜?」
中井出「うむ。他にやらなきゃならぬことがある故。
    まあ暇になったらこれで連絡をどうぞ? 大体の時は見れると思うから」
雪蓮 「む〜……つまんな〜〜い」
中井出「つまらなくても聞き分けなさい、いい子だから」
雪蓮 「《なでなで》ふわっ!? ……は、…………はぁああ…………♪」
恋  『《がーんっ!?》───! ───!!』
中井出「あれ?」

 なんか映像の先の恋がおろおろしだした。
 なんだろ……ああいや、今は次の行動だ。

中井出「じゃあ恋、あと少ししたら戻るから。待っててな」
恋  『〜〜〜〜《こくこくこくこくこく》』

 物凄い勢いで頷いてた。
 ここらで映像を切ると、撫でていた雪蓮の頭から手を離す。

中井出「いいか〜雪蓮。これはこうやって空中にも浮かせることが出来るから、
    どこかすぐ近くに移動させたい時はこうして突付きながら移動させなさい。
    遠出する時はこうやって閉じて、
    両端を押すとこれだけ小さくなるから、こうして持ち運ぶこと。
    無理に曲げると折れるから、気を付けてね?」
雪蓮 「………………《ぽぽ〜〜……》」
中井出「あれ?」

 なんかポ〜っとしてる…………まあいいや、教えることは教えたし、次。

中井出「あ、そうだ。このビットのこの丸いのを向ける方向で、
    自分の方の映像が決まるからね? あんまりへんなことしちゃだめだよ?」

 ……うむ。次は華琳宅です。
 あんなことがあったから少々気が進まんが、それでもですな。

───……。

 そんなわけで、やってきました曹操城! ……名前なんだっけ? きょ……許昌、だっけ? あれ? なんか違うような……まあいいや!

中井出「ここが華琳が政治を担い豊かにしている街許昌か〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
    どおれ今日は大暴れしてやるとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 ザ・マスクドアラジン。
 元気に言いながらすたすたと街に入ると、途端に聞こえる人々の賑わい。
 おお〜〜〜〜っ、こ、これはなんとも賑やかなことよ〜〜〜〜〜〜〜っ!

中井出「しかしうむ! こういうところに来たのならまずはラーメンを食わねば!
    おいちゃーーん! ラーメンおくれーー!」
男  「あいよっ!」

 大丈夫、お金はあるよ?
 暇を見つけては様々な場所へ行って、塩とかを売ってるのさ。
 だから金は無駄にありますし、実はこれが劉備軍の財政を少なからず支えていたりします。

男  「おまちっ!」
中井出「押忍!」

 考え事をしているうちに出来たラーメンを、やはりまずはスープから飲んでこの店の味をきき、それが終わってからゾボボボボと麺をすする。
 むう……やはり塩が足りん。
 贅沢って言えば贅沢だけど、この世界って全般的に味が薄いんだよね。
 しかし不味くない! 決して不味くないぞ!と井之頭さん的な感想を頭の中で思い浮かべていると、どんがしゃあんという騒音。
 何事!?と暖簾から顔を出してみれば、向かいの食事処で起こっているらしき騒動。
 俺はラーメンをすすり、ごっふごっふとスープを飲み干すと、
 お金を払って向かいのメシ屋へ。

酔っ払い「てぇえんめぇええ……この俺を馬鹿にしてんのかぁ? おぉ?」
少女  「馬鹿になんかしてませんよっ、ただ人に絡むのをやめてくださいと……」
酔っ払い「うるっせぇ! 子供が大人の話に口出すんじゃねぇよぉ!」

 ぶわぁっ!と振り上げられる手。
 しかし少女は自分は間違っていない、という確信のためか動こうとはせず、

中井出「おやめなさい!!」

 気づいたら声張り上げてました。
 ごめんなさい。

酔っ払い「あぁあん? なんだぁてめぇはぁ……」
中井出 「馬鹿か汝は。
     名を訊く時はまず自分から。そんな礼儀も知らぬ輩が大人を口にするか?」
酔っ払い「なっなっなっ……なぁああにぃいいい!!?」
少女  「あっ……い、いえ! あの! 私なら大丈夫ですから! あのっ……」

 酔っ払いの矛先が俺に向かいそうになった途端、うっすら緑の少女が俺を見てそう言う。
 だがこの博光は下がらない。
 ずかずかと歩いてくる巨漢の男を前に、彼を見ながら堂々と。

酔っ払い「おいおいにいちゃんよぉ? 女助けていい子ちゃん気取りかぁ?
     そういうのは余所でやってくんねぇかぁ?」
中井出 「とりあえずお前、酒臭いから喋るな」
酔っ払い「なっ! なにぃ!? てめぇぶん殴ってやるっ!」
少女  「あっ───危ない!」

 振るわれるデカい拳。
 ……ていうかね、うん。遅いね……うん。
 速いつもりなんだろうケド余裕で見えるその拳にソッと自分の手を重ね、愛の渋川流。

  ベッシャアアアアッ!!!

酔っ払い「うぇええい!?」

 オリバがゴーキーシブカワにやられたような、足が勝手に地面に倒れる柔を見せると、その状態のまま男の拳を掴み、捻り、耐えようとする酔っ払いの頭が自然と地面に落ちるように流してゆく。

酔っ払い「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」
中井出 「海王のレベルも………………堕ちたものだ」
酔っ払い「《トッ》───」

 そんな彼の後頭部に軽い手刀を落とすと、それで終わり。
 男は気絶し、動かなくなった。

街人 『ハワァアアーーーーーーーッ!!!』

 途端、街の人からの割れんばかりの歓声。
 それにぺこりぺこりとお辞儀をしてから城を目指して歩き出す。
 と、さっきの少女が小走りに近づいてきて、俺の隣に並んで歩く。

中井出「む? どうされた」
少女 「あの……御遣い様、ですよね? 以前、華琳様の頬を引っ叩いた」
中井出「ゲェッ!? ……み、見てたの!?」
少女 「はい。あ、私華琳様の親衛隊をしている典韋っていいます」
中井出「親衛隊……うむ、そうであるか。我は中井出である」
典韋 「それであの……この許昌に用ですか? もし華琳様に用があるのなら……」
中井出「うむ、ちょっと渡したいものがありましてね。
    会わないほうがいいんだったら、キミに託すけど」
典韋 「………」

 少し、歩を緩める典韋に合わせ、俺も緩める。
 いつの間にか歓声が届いていた場所は結構後方にあり、そうして少し静かになったところで、典韋は頷いた。

中井出「よし。では使い方もちゃんと覚えるんだぞ?
    正確に華琳に伝えること。いいね?」
典韋 「は、はい」

 取り出したるは、雪蓮にあげたのと同じもの。
 それを雪蓮に教えたのと同じ要領で使用方法を教え───

中井出「で、これを押すと劉備軍の王、これを押すと孫呉の王と通信できるから。
    あ、べつに王じゃなくても使えるから、使いたくなったら好きな時にどうぞだ。
    そしてこれがさっき言ったビット。これを操ると───」
小蓮 『あっ、博光だ。やっほー博光ー!』
朱里 『はわあっ! 本当です! ご主人様がうすっぺらい膜の中に居ます!』
明命 『み、御遣い様ぁあ〜〜〜っ!! お猫様、お猫様を〜〜〜っ!!』
中井出「はい、このようにみんな元気です」
典韋 「笑顔で言い切れるところが凄いですね……」

 うむ。
 というわけで使い方を一通り教えたのち、映像を閉じて典韋に渡すと、踵を返す。

典韋 「御遣い様? あの、どちらへ───」
中井出「え? 帰るよ? 用ってそれだけだったから。
    ……あ、それと雪蓮……孫策は無事に助けたから、
    あんまり気負うなって言っておいてくれ。それじゃあ───」
典韋 「───……〜〜〜あのっ! 馬鹿どもってどういう意味ですかっ!?」
中井出「へ?」

 いきなり言われて、ちょっと解らなかった。
 でも、馬鹿者……そんなことを言った記憶は──────あるね。

中井出「そーだな……いいか、典韋。王だって人間だ、完璧じゃない。
    王が間違ったことをしようとしたら、それを止めるのが家臣の務めだ。
    それが出来ないで王に間違ったことをさせたままだったから、俺はそう言った」
典韋 「…………黙ってろ馬鹿ども、ですか」
中井出「うん。王に王の信じた道を歩かせるのは、確かに臣下の喜びかもしれない。
    でもな、調練も満足に出来てなかった状態で兵士を戦場に上げることは、
    少なくとも王が兵にさせることじゃない。
    ……想像してみろ典韋……民の平和を守る王が、
    民から兵になった者を鍛えもせずに戦場に向かわせるんだ。
    それは民が期待すべき王の姿か?」
典韋 「………」
中井出「違うって少しでも思ってくれるなら、華琳を止めてやってくれ。
    まあ、あいつのことだからもうそんなヘマはやらかさないだろうけど───
    っと、そろそろ行くな? 早く帰らないとみんながうるさそうだ」
典韋 「あ───」
中井出「あ、それから……俺はね、どーでもいいヤツのために怒ったりなんかしないから。
    怒るのはもちろん、叩く事だってしない。それだけ理解しといてくれ」

 じゃあ、と手を振って、月空力を武具から発動させて転移する。
 ……が、慣れない月操力なんか行使したために、城近くの川ン中に落ちることとなりました。
 神様……俺は本当に馬鹿なんでしょうか……。

───……。

 それでも行水だと思えばなんとかなるもんで、
 風邪をひくこともなく現在を健やかに生きてます。

  ヴヴンッ……

中井出「……あのねぇ雪蓮?
    俺は別に、キミの退屈しのぎのためにこれを貸したわけじゃないんだよ?」
雪蓮 『いいじゃない、楽しいんだから』

 時は昼に至り……そんな時間になるまでに、もう何度通信がありましたでしょう。
 中庭の大木に背を預け、のんびり休んでいると、来るわ来るわの雪蓮からの通信。
 雪蓮だけじゃなく、呉の皆様はちょくちょくと通信を入れてくる気がする……何故?

中井出「雪蓮〜? 安静に、ってちゃんと言っただろ〜?」
雪蓮 『大丈夫よ、もう全然平気なんだから』
中井出「キミは平気でウソつきそうだから……」
雪蓮 『あ、ひどーい!』
中井出「とにかくね、僕眠いの。結構ごっそり力持っていかれたから、
    自然が多い場所で休まなければならぬのです」
雪蓮 『じゃあ呉に来ない? 博光が芽吹かせた草花がい〜〜っぱいあるじゃない』
中井出「ダメ。今動きたくないの……」
雪蓮 『ぶー』

 まるで子供でございます。
 でもそれがいいって思えるからこそ、俺は雪蓮のことが嫌いではないのです。
 大人でも子供でいられる状態……これは僕の理想系です。
 と、そんなことを考えていると、隣で寝転がっていた恋がごそりと寝返りをうつ。
 それが雪蓮にも見えたのか、何故かジト目になる雪蓮。

雪蓮 『ねえ博光? 私もそっち行っていい?』
中井出「ダメに決まってるでしょ!? どどどうしたの孫呉の王様!?」
雪蓮 『べつにー……』

 口尖らせてる……な、なに……いったいなに……ッッ!? とか思ってると、恋とは逆に僕の左で寝転がっていた音々音が起き出す。

音々音「む……むむむぅ…………誰なのですおまえは……」

 で、寝ぼけ眼で雪蓮に言う。
 そんな音々音の頭を撫ですさりつつ、こてんと寝転がらせる。
 ……雪蓮の目つきはなお悪く。ううむ。
 いかん危ない危ない危ない……!!
 これで僕の足の間に居る美羽まで起き出したら、美羽が雪蓮に殺され───……あれ?
 でも条件は呉の領土に入らないこと〜とかだったっけ?
 詳しいことは美羽には聞いてないからな……まあいいや。

朱里 「ご主人様〜、お茶が入りましたよ〜」
雛里 「甘いものもできました〜、た、たた食べてみてください〜」

  ガバッ!

中井出「あ」

 甘いもの、の言葉に起き上がる三人。
 ばっちりと美羽の顔も映像に映って、それが僕の足の間から、というのが気に食わなかったのか、映像越しでも解るくらいの殺気がモシャアアアと……! ヒ、ヒィ! 待って! 行かないで三人とも! 僕だけ一人なんてやだぁあーーーーーっ!!

雪蓮 『……博光。理由を聞かせてもらえるかしら』
中井出「お、押忍。実は以前、袁紹と袁術が徐州に転がりこんできているのを鈴々……
    張飛が発見しまして……それで散々説教をしてみせたら、
    いろいろと自分の行いを謝罪してくれまして……」
雪蓮 『謝罪? あの袁術ちゃんが? ……その場凌ぎなんじゃないの?』
中井出「いや、素直になったぞ〜?
    説教をして抱き締めてやったら我が胸の中で盛大に泣きまして。
    劉備に何度も自分一人で謝って、許してもらって、
    それからというもの……やたらと僕と居たがってて」
雪蓮 『………』
中井出「……あの、なんでそこで怖い顔するの?」
雪蓮 『ねぇ博光。うちの小蓮なんてどう?』
中井出「どういう意味!?」

 い、いきなりなんば言いはらすばいこんげら!
 え!? なんでシャオなの!?

雪蓮 『えー? だって博光、小さい子の方が好きそうだし……』
中井出「違いますよ!! 確かに可愛いとは思うけど、それは我が祖父よりの愛の教え!
    ……えーとね? 実は俺、うんと小さい頃に両親亡くしてて、
    親の愛っていうのが解らないのですよ。祖母は俺を庇って死んだ。
    俺は祖父一人に育てられて、その祖父ももう居ない。
    だから人の愛っていうのがよく解らないままに育って、
    でも祖父が俺にくれた孫への愛情ってのは解るつもりだから」
雪蓮 『……愛情かぁ…………じゃあうちのシャオは愛の対称外?』
中井出「この先どうなるかは解らんが、今はそうですと言っておきます」
雪蓮 『そっかそっか。じゃあ私か蓮華なんてどう?』
中井出「だからなんの話!?」

 雪蓮と通信してると、なんだかんだでこっちの話に移る気がするのよね。
 ……結局は笑いながら話をすることにもなるんだけどさ。
 なんて談話してると、ふと別の方向からの通信を感知。
 まさか……と思い、とりあえず───

中井出「雪蓮。魏からの通信が来た。お前はどうする?」
雪蓮 『なんで私があとから来た人に遠慮しなくちゃならないの』

 言うと思った。
 じゃあアクセス。

  ヴィミンッ……

夏侯淵『……ふむ……これでいいのだろうか』
中井出「おお淵さん。お久しゅうございます」
夏侯淵『おっと……うむ。いつぞやは華琳様の頬を引っ叩いてくれたな』
中井出「うむ。間違いを間違いと言わぬは臣下の名折れぞ。気をつけめされい」
夏侯淵『……うむ。華琳様にも言われたことだ、教訓にしよう。ところでだ天の御遣い』
中井出「はいなんでしょう」

 笑むこともなく、だがどこか冷静に飄々というか……別の誰かよりもよっぽど軍師に向いてそうな冷静な目が、僕を見る。

夏侯淵『何故孫策がそこに居る』
中井出「ウィ? ああ、そ」
雪蓮 『私が何処で何をしようと私の勝手でしょう?』
中井出「え? いやあのちょ」
夏侯淵『それはそうだが、間、というものを考えてもらいたい』
雪蓮 『それはこっちの言葉よ夏侯妙才。それに私のほうが先に博光と話してたんだもの、
    貴方にとやかく言われる筋合いなんて、ないんじゃない?』
中井出「…………」

 今すぐにでも喧嘩が勃発しそうです。
 あれぇええ……? これを通じて少しでも仲良くなってくれれば、ってあげたんだけど……

声  『いいわ秋蘭、どきなさい』
夏侯淵『はっ、しかし華琳様……』
声  『どきなさい、と言ったのよ』
夏侯淵『はっ……』

 …………うわー、スゲー嫌な予感。
 今の声華琳だよね? 絶対そうだよね? だって華琳様って淵殿が言ってたもん。
 ていうかもう映像に映ってる。

華琳 『久方ぶりね、博光。てっきり呉の軍勢に飲まれたかと思っていたけど』
中井出「うむ、大事ない。華琳の方はどうだ? 腰は落ち着けたか?」
華琳 『愚問ね。同じ過ちを侵すほどこの曹孟徳、低き覇道を目指していないわ』
中井出「そうかそうか。───じゃあせっかくだし話してみよっか」
華琳 『え?』
中井出「じゃあ雪蓮、こちらが華琳様」
雪蓮 『…………』
華琳 『…………』
中井出「華琳、こちらが雪蓮様……って、なに!?
    なんか映像越しなのにすごい殺気が!」

 いやあの華琳様!? さっきそっちで淵殿が“なぜ孫策が”って言ってたでしょ!? なんでこんな今日初めて会った、みたいに機嫌が悪くなるの!?

華琳 『……まず、部下の非礼を謝ります。先の件、私の不手際が招いたこと』
雪蓮 『必要ないわよ、それも貴女の兵が勝手にやったことだと博光に聞いているから』
華琳 『…………博光、あなた……』
雪蓮 『それよりこちらもありがとう? 暗殺兵の首の塩漬け、ありがたく頂いたわ』
華琳 『………』
雪蓮 『………』

 ……挨拶は済んだ。
 済んだけど、映像ごしなのに景色が歪んでます。
 すげぇ……映像を越えた殺気がモシャアアアと……! と、そんな時にふと近寄ってきた桃香さん。
 恐らくなかなかお茶にこない僕を呼びに来たんでしょうけど……あの、タイミング悪いかも……。

桃香   「ご主人様〜、皆待ってるよ? どうかし───」
中井出  「よ、よぅし行こう桃香! 僕今とっても甘いものが食べたいなぁ!!」
華琳&雪蓮『待ちなさい博光!!』
中井出  「待ちたくねぇえーーーーーーーっ!!!!」
桃香   「わ、曹操さんに孫策さんだ……」
華琳   『劉備……』
雪蓮   『ふーん……本当に劉備のところに居るのね、博光……』
中井出  「え? いやあの、信じてなかったの……?」

 そういえば桃香が映像見たい見たい言ってた時は、アニメを見せただけで特にどこかに繋ぐ、なんてことはしなかったっけ……。
 相手が知らないのも無理はないか。

中井出「あ、あのー、僕これからお茶会するんだけど……」
華琳 『構わないわ、私と話しなさい』
中井出「えぇ!? いやあの、僕朱里が作った甘いものが食べたくて……」
華琳 『そう。貴方はこの曹孟徳を前に、ものを食べながら話をしたいと』
中井出「うむ。心気安い相手の前でしか出来ないことだし。ダメ?」
華琳 『! …………そ、そう。そこまで言うなら───』
雪蓮 『そっかそっか〜! 私、ちゃんと博光にとって心気安い相手なんだ〜!』
華琳 『なっ! ───孫策!!』
雪蓮 『あらなにかしら、曹操?』

 キッと睨む華琳に、ニヤリと微笑む雪蓮。
 一方僕らの大将様は何が起きてるのかよく解ってない様子で、おろおろとしている。
 そんな桃香の背中をそっと押して、僕もまた歩き出す。
 美味しいお茶を───中庭にある、東屋に集うみんなの居る場所を目指して───!
 僕らの旅は、始まったばかりだ───!

中井出「…………甘いもの、いただこうか、桃香」
桃香 「え? え? い、いいの?」
中井出「いいのいいの……」

 やがて始まる素晴らしき舌戦!
 そんな中で僕はみんなとティーブレイク!
 騒ぎを聞き付けた呉のみんなや魏のみんなが舌戦に加勢に入った途端に、低俗な罵り合いになったけどね。

小蓮 『なによー! 曹操なんて胸も背もシャオよりぺったんこのくせにー!』
華琳 『なっ! そんなことは今は関係ないでしょう!』
夏侯惇『貴様ぁ!! 華琳様を愚弄する気か! 華琳様はこのお姿だからこそいいのだ!
    いつかこの華琳様をぎゅうっと抱き締めたまま至福の中で眠り入る……
    それが私の夢なのだからなっ!!』
華琳 『……春蘭。あなたは私が許可するまで語尾に“にゃん”をつけなさい』
夏侯惇『な、何故ですかにゃん!?』
夏侯淵『姉者……頼むから少し黙っていてくれ……』
夏侯惇『しゅっ……しゅ〜らぁ〜〜ん……にゃん……』

 物凄く賑やかです。
 そんな中庭の隅をちらちらと皆様が気にするのも道理。
 でも僕は久しぶりに食いたくなったカツ丼をガツガツと頬張りつつ、みんなとティーブレイクを続けます。

中井出「ははははは、そいでさー」
愛紗 「いえあの、ご主人様……あれは───」
中井出「うまい! カツ丼!」
鈴々 「お兄ちゃん、それそんなに美味いのかー?」
中井出「美味いぞー? 鈴々も食え。はい、あーん」
総員 『ざわっ……!?』
鈴々 「あ〜〜〜ん……《モフッ!》むぐっ!?」

 と、カツ丼を箸にとって鈴々に食べさせようとした途端、隣に居た星が鈴々の口にあんまんを押し込み、カツ丼をパクリと。

星  「……ふむ。これが天の味。なかなかよい食感と肉の汁が合わさって……」
鈴々 「んぐんぐんぐ……!《ごくり》───星、なにするのだー!」
星  「いやなに、大きな口が開いていた故、あんまんが欲しいのかと突っ込んでみた」

 …………えーと。
 あれ? なんだかさっきまでの賑やかだった雰囲気が、一瞬にして凍てついたというか……いや、ある意味で暖かいんだけど、ある意味で寒いというか……あの? なんでみんな、座る位置を変えて僕のところににじり寄ってくるの?

詠  「はぁ、こんな男を取り合いなんて、この軍はなにを考えてるんだか」
中井出「俺、詠のそういうところ好きだよ……」
詠  「好っ───うぇえええええっ!!?」

 だってさ、こうやってみんながにじり寄る中で、ひとりだけどっかりと腰を据えて突き放してくれるんですもの。
 たまにはそういう存在がツッコんでくれないと、僕どうかしちゃいそうで……。

美羽 「博光博光、妾にもあーんしてたも?」
中井出「え? いやうん、いいけど……カツ丼だよ? いいの?」
美羽 「よく解らんが構わぬぞ、博光が作ったものならなんでも美味しいのじゃ」
中井出「じゃ、はいあ〜ん」
美羽 「あ〜〜〜……」
恋  「ん《ぱくり》」
美羽 「なぁっ!? ななななにをするのじゃーーーーーっ!!」
恋  「《もぐもぐ》…………美味しい」
美羽 「お、美味しいではないのじゃー!
    な、七乃、七乃ー! 呂布が意地悪をするのじゃー!」
七乃 「えーと……美羽様? 私に言っても、呂布さんをどうこう出来ませんよー?」
美羽 「そうは言うが悔しいであろー!?」
中井出「《もぐもぐもぐもぐもぐもぐ》うまい! カツ丼!」

 今日も平和です。

───……。

 はぁはぁはぁはぁはぁはぁ……!!

中井出  「き、危機一髪でしたね!!」
雪蓮&華琳『なにがよっ!!!』
中井出  「ひぃいごめんなさい!!」

 散々な舌戦は、お茶会が終わっても続いていた。
 僕はといえば、はぁはぁ言ってる二つの勢力に挟まれて、危機一髪を唱えた途端に怒鳴られ……それでも、なんのかんのと劉備軍のみなさまの寝床みたいなものとなり、栽培した柔らかな芝生の上にみんなを寝かせると、やっぱり木に背中を預けながらまったりしていた。
 周りには桃香や愛紗や星。
 ちっこいお方たちは悉く僕の足を枕にして、恋は僕の肩に頭を預けて眠っている。
 美羽は僕の足の間を執拗に狙っていたが、こうしてみんなが僕の足を枕にしている今、そうすることは出来なかったわけで。
 結局、七乃と一緒に愛紗の隣で眠っていた。

中井出「いやしかし実に長閑よ。
    かつて夢見た世界がこの場だというのなら、それもまた悪くない」
華琳 『……暢気ね。ねぇ博光? 貴方は天の御遣いでしょう?
    この乱世を平和へと導く存在。管輅の言葉が確かならば、の話だけれど。
    だから一つ確認をしたいわ。貴方が望んでいるのは何?』
中井出「楽しいこと。それだけ」
華琳 『……楽しいこと?』
中井出「子供も大人も老人も、老若男女みんなが笑っていられる時を生きたい。
    全員が全員笑っていられる、なんて無茶な話かもしれないけど、
    理想を謳えなくなれば人として終わってる。
    ……俺を愚かと罵るかい? 曹孟徳」

 少しおどけるように華琳を見る。
 すると、華琳はどこか可笑しそうに笑みをこぼすと、今度は呆れたような顔をして返す。

華琳 『べつに。貴方の力がどれほどのものか、私はまだ知り尽くしていないわ。
    それだけの力があるのなら、貴方なら出来るでしょう?』

 探りを入れるような言葉。
 だけど俺はそれに応えず、否定をしてやる。

中井出「ははっ、いーや、俺はやらない。やるのはお前達だよ、華琳、雪蓮、桃香。
    お前達の中の誰かが天下を手中にして、この世界を変えてくれ」
雪蓮 『……ふーん? どうあっても自分は手を出さないんだ』
中井出「うむ。あ、でも理不尽な状況には本気で怒るから覚悟しろよ?
    戦うなら正々堂々、策を行使するのはいいけど、暗殺とかは絶対にだめだ」
華琳 『解っているわ。これ以上叩かれたら王としての誇りが折れそうだもの』
中井出「ん、よろしい。……むう、頭撫でてやりたいけど映像越しじゃ無理だな」
華琳 『! ……そ、そう? ならば博光、そんなところではなく魏に来───』
雪蓮 『ねぇ博光。祭がまたお酒を飲ませて欲しいって言ってるんだけど』
華琳 『…………《ビキッ》』

 あ。
 なんかどこぞの特攻みたいになにかが浮き出るような音が。
 意味もなく“ゲェーー、曹操。”と言いたくなるほどの殺気が、ぼろぼろとこぼれ出してくるのですよ。

中井出「ふむ。じゃあまた今度お邪魔するよ。あ、それと華琳?
    街の警備体制、もうちょっと整えたほうがいいぞ?
    遊びに行った時、酔っ払い相手に典韋が困ってた」
華琳 『なに? 少し見た程度で意見する気?』
中井出「うむ。典韋は華琳の親衛隊だろ? だったら街の警備はしてないと思う。
    それなのに諍いの場には典韋しか居なくて、警邏担当が入るわけでもない。
    そうだな、街の通りに一つずつ───」

 王に提案をするってのも中々面白いもので、俺の思い付きを華琳は案外真面目に聞いてくれた。
 途中、雪蓮もいろいろと提案をしてきて、いがみ合っていた二人はいつの間にか警備体制の話で盛り上がっていた。

華琳 『なるほど。ええ、貴方の考え方が異常なほどに柔軟だということがよく解ったわ』
中井出「常識に囚われると、案外見えなくなるものってあるからね」
雪蓮 『でもこうして敵対している王同士がそれを知ったら、警備体制の意味がないわね』
中井出「? なんで?」
雪蓮 『なんで、って……』
中井出「雪蓮は別に、許昌に忍び込みたいわけじゃないだろ?
    だったら警備体制なんて関係ないよ、これは民のためのものなんだから」
雪蓮 『うわー…………博光ってさ、お人良しだって言われない?』
中井出「言われたことがある二つ名は、外道とか魔王とかそんなのばっかりだけど」
華琳 『…………想像できないわ』
中井出「そっか。じゃあ機会があったら今度、俺の過去の映像でも見せるよ」

 ……………………ぬ?

中井出  「あれ? 華琳? 雪蓮? どしたの急に黙って」
雪蓮&華琳『今すぐ見せなさい』
中井出  「え? いや、だから今度って───」
雪蓮&華琳『今すぐ! 見せなさい!』
中井出  「い、いやァアア……だって僕心の準備が」
華琳   『一つ数えてあげるわ。さっさとしなさい』
中井出  「短ッ! い、いやでも! そんないいもんじゃないよ!?
      結構アレな場面多いし!」
雪蓮   『いいじゃない見たいんだから。ねーみんな』
呉軍   『ハワアアアーーーーッ!!』
中井出  「うわすっげぇノリ気!!」

 舌戦が終わったことで静かになってた呉の皆さんに再び活気が!
 でも華琳の……魏の方は、俺を良く思う者なぞそう居ない!
 だからこの戦い、魏の武将たちを突付けばこれが如何に無駄な時間かを理解し、華琳を諭してくれる筈!
 そしたら華琳は暗殺未遂のこともあり、臣下のことは素直に聞いてくれ───

霞  『うあー! 見たい見たい! ウチめっちゃ見たいー! 博光の過去のことー!』
中井出「ゲェーーー!! 霞!!」

 ……って霞!? 霞が何故!?

中井出「霞……霞じゃないか! 居なくなったと思ったら、魏に居たのか!?」
霞  『おーう! 久しぶりやなぁ博光ー! 元気しとったかー!?』
中井出「おーう元気よ元気! そっかそっかぁ! 心配してたんだぞこのー!」
霞  『そーかそーかぁ!
    そらウチも罪作りなオンナやなー! だぁっはっはっはっは!!』
華琳 『……霞? 博光とは知り合いだったの?』
霞  「おうそーやぁっ! そういや大将には話とらんかったなぁ!
    ウチと博光はな、董卓ンとこに連合軍が攻めてきたその日に真名を許し合った、
    いわば強い信頼関係で結ばれた友人なんよ」
華琳 『会ったその日に……ふーん……?』
雪蓮 『私もよねー? 博光ー?』
華琳 『…………《ビキッ! ビキビキッ!》』

 ……アルェー? どっかで鰐○さんがメンチ切ってらっしゃる?
 ていうか笑顔のままなのに顔が怖いんですけど華琳さん。

中井出「お、おおそうだ! 霞、よーくお聞き?
    月も詠も、恋も音々音もみ〜んな無事に、ここで暮らしているからね?」
霞  『…………そうなん?』
中井出「そうなん。みんな元気さ。ていうか恋は今俺の横で寝てるぞ、ほら」

 ビットを傾けて、恋を映す。
 すると霞は安堵の溜め息を吐いて、今じゃ敵対の身だっていうのに“良かった”とこぼした。

華琳 『…………、…………、だわ……。この……じゃ……』
中井出「? 華琳、なにか言った?」
華琳 『べつに。これからどうするかを決めていただけよ』
中井出「これから?」
華琳 『ええそう。……私はこれで失礼するわ、やっておきたいことが出来たから』
雪蓮 『そ? じゃあねー。……じゃあ博光の過去、見せてもらうわよ?』
華琳 『後回しにしましょう。さ、博光、見せなさい』
中井出「ゲッ……こ、これ! 王が一度言ったことを覆すなど!」
華琳 『誰がそれを決定と言ったの?
    私は予定を口にしただけで、必ずしもそれを今実行するとは言ってないわよ』
中井出「私はこれで失礼するって言ったじゃん!」
華琳 『うるさいわね! いいから見せなさい!』

 ゲェーー! キレた!

中井出「や、でもね!? 絶対に面白いものじゃ───はうあ!?」
桃香 「……! ……!」
中井出「あ、あー…………」

 いつ起きたのか。
 話を聞いていたらしい桃香が、目を爛々と輝かせて、期待に満ちた表情で僕を見ておりました。
 ……見渡してみれば、どの武将も同じ様。

星  「主殿の過去か……」
鈴々 「そういえば鈴々、お兄ちゃんのこと全然知らないのだ」
中井出「うむ。御遣いであること以外、あまり話してないが───」
星  「いや、そうでもないでしょう。
    黄巾党征伐の中、手に手を取って語ったあの言、私は未だ覚えておりますぞ」
愛紗 「……自分の剣が、既に血に染まっているとも聞きました」
雪蓮 『両親と祖父母を亡くした、とも聞いたわ』

 グ、グーヴ、いろいろ口滑らせてるなぁ僕……。

華琳 『……そう。博光、貴方、他に家族は?』
中井出「居ない。居たけど、家族じゃなくなった。俺は現在天涯孤独の身ってやつだ」
華琳 『…………それを知られるのは辛いこと?』
中井出「辛くないねぇ。もう慣れちまったい。……ん、見たいなら見せよう。
    でもひとつだけ約束して? ……絶対に、感情的にならないこと。
    これだけ約束できればもう、一部を規制して全部見せちゃう」
雪蓮 『うんするするー♪』
冥琳 『貴女が一番感情的になりやすそうなのだけど?』
雪蓮 『えー? そんなことないわよー』

 いやもう……ほんと楽しそうですねキミたち……。

中井出「じゃあ、いいんだね? 一度見始めたら、目を逸らすことは許されませんよ?
    それでもいい? 本当にいい?」
華琳 『くどいわよ。ちゃんと全員に見させるから、見せなさい。
    天の御遣いの過去というものを』
中井出「……好奇心だけで見て、後悔しないようにね?」
華琳 『あら。私がいったい貴方のなにを知って悔やむというの?』
中井出「“人生”ってものをだよ、華琳」
華琳 『───……』

 そう言った瞬間には、もう別の画面をミクに精製してもらって出現させていた。
 みんなが見えるように、ビットの位置を調整して。
 もちろん映像見せるならばアレは外せないわけで、まず最初に映し出されたのは荒波揺れる海岸。
 そして次に映し出されるのは東○の文字。
 うん、やっぱこれは外せないでしょう。

中井出「グ、グムー」

 でもね、自分の……まあ、自伝っていうのかなぁ。
 それを誰かと一緒に見るのって物凄く恥ずかしいことだよね?
 この映像自身、自分が悲しいことや楽しいことを忘れてしまわないために、武具たちに内包してもらっているものだ。
 だから自分だけが見れればそれでよかったんだけど、よもやこんなことに……。
 あ、でもちゃんと真名に関連することはぼかしてあるよ?
 映像の中で中井出博光って名乗る場面では、中井出提督って名乗るように調節してあるし。
 その他……愛、果てしなくとかCHRに関係するステータス移動のこともぼかして、と。

中井出「じゃあ僕恥ずかしいから寝てますね?」
華琳 『好きになさい』
雪蓮 『博光が寝てても見れるのよね? じゃあ、おやすみなさい、博光』

 あの……見れるって解った途端、態度がすげぇおざなりじゃないっすか?
 いいけどさ……。

───……。

 ……………………ハッと気づけば夜でした。

中井出「あれぇ!? 僕の休みが!
    僕の休みが睡眠だけで終わ……ゲェーーーーーッ!!!」

 そして、見れば映像は現在、黒オリジンを空間ごと斬滅したところで───斬り開かれた狭間に俺が吸い込まれる中、自分の中からドリアードだけはと逃がした瞬間をありありと。
 それから亜空の渦に飲まれ、幽州にメテオの如く落下する姿は実にステキでした。
 いや……これどうやって天の御遣いだって信じろと?
 ……そうだよねぇ、調整って言ったって限界があるよ、うん。

中井出「えーと……」

 映像は、見る者の感覚を狂わせる、以前蒼空院邸でやったのと同じ原理だ。
 一日もあれば、俺の一生なんて見れるくらいの狂い。
 桃園で誓い、黄巾党を打っ潰し、反董卓連合に参加し、霞や恋や華雄、月や詠に会い、白蓮を仲間にしたり、恋と音々音を仲間にしたり袁紹袁術を仲間にしたり、華琳にビンタしたり雪蓮を救ったりして……やがて、現在に至ると映像は終わる。

中井出(うわっちゃ〜……)

 えーと……少なくとも、どころか確実に全部見たよね?
 僕の学生時代───ゲェしまった! エロマニア関連のやつ、調整すんの忘れてた!!
 ア、アワワワワ……!!

華琳 『……博光』
中井出「ヒィッ!? なななななんですか!?」
華琳 『なんて声出してるのよ…………。……私はね、天の御遣いなんて存在、
    そんなものは本当には存在しないって思ってるわ』
中井出「まあ、そうだろうねえ」
華琳 『仮にそんなものが本当に居たとして、
    そんなものは誰にでも捏造することが出来るから』
中井出「うむうむ」
華琳 『……でもね。私は貴方を否定しない。
    貴方は本当に、救いようのないくらいに馬鹿だけれど、貴方はそれを誇っていい』
中井出「誇れる馬鹿さ加減!? ……う、うおお……結構ヘコむよそれ……!」
雪蓮 『……違うわよ、ばか』
中井出「雪蓮まで!?」

 ひどい! なんてひどい!
 そりゃ僕の人生、相当馬鹿っぽいだろうけどさぁ!

雪蓮 『ああもう、違うの、本当に……本当に違うの。
    なんて言えばいいのかな、もう、もうっ……なんでここに居ないのよ博光!
    居たら、思いっきり抱き締めてあげるのに!』
中井出「えぇ!? わ、ワケが解らないんですけど!?」
明命 『うぐっ……ぐしゅっ……御遣い様……御遣い様ぁあ……!』
思春 『……仲間のために命を賭けるか……。
    あれだけの決断を、あの軍勢を前に、よく……』
祭  『……うむ。誰が認めずとも、誰が首を傾げようとも。
    儂はおぬしの生き様を称えよう。だが、よくぞ生き残ってくれたと感謝もしよう。
    死なせてしまうには惜しいほどの馬鹿じゃ』
冥琳 『……ええ。口にする言葉の一つ一つに重みがあると感じたのは、
    どうやら錯覚などではなかったようだ』

 え? ええぇ……? なんかみんながとても優しい目で見るんですけど……。
 この場に居る劉備軍のみんなも、なんでか僕の服とか手とか腕とか掴んで、それが大切なものであるかのように涙ぐんでるし……。

中井出「え? な、なに? どうしたの? 奥歯にもやしでも詰まったの?」
愛紗 「……ご主人様……───私は……っ……私は……!
    仲間、という言葉が……! ご主人様に仲間と呼ばれることが、
    こんなにも誉れ高いことに……今まで気づけずにっ……ひぐっ……〜〜……!!」
中井出「キャーーーッ!? あ、愛紗!? なにが悲しいの!? やっぱりもやし!?」
星  「…………やはり、貴方を主に選んでよかった。
    初見の頃は随分と飄々とした得体の知れぬ者だと怪しんでいたのですがな……。
    ……主に仲間と呼ばれたこと、今は誇りに思いまする」
中井出「せ、星……?」
鈴々 「大丈夫なのだお兄ちゃん! 鈴々はずっとお兄ちゃんの仲間なのだ!
    誰が敵になっても、鈴々がお兄ちゃんの傍に居るのだ!」
中井出「鈴々まで……え、え? あの?」
桃香 「うん。私も、ずっとずっとご主人様と一緒に居るからね?」
恋  「…………恋も」
美羽 「ふうぐぅうう……!
    う、うぅぇうぅうう……! ひ、博光……博光ぅう……!!」
中井出「え、えーと……?」

 みんながみんな、泣きながら掴んでくるもんだから身動きが取れん。
 グ、グウウ〜〜〜〜ッ、な、なんだというのだこれは〜〜〜〜〜〜っ!!

朱里 「ごしゅっ……ごひゅっ……ふぅうぇえぅう……!
    ごひゅじんひゃまぁあ……!!
    ふっく……えくっ……! わたひ……私……!
    力もないし……肝心なときにだめだめで……!
    めいわくばっかりかけてまひゅぅ……!
    でもっ……でも、それでも……ひっく……!
    ま、まだっ……まだぁあ……!
    なかま、って……言ってくれまひゅかぁ……?」
雛里 「あぅ、ふくっ……うぅう……〜〜〜……ご、ごしゅじ、さまぁあ……!」
中井出「…………朱里に雛里まで……」

 ……なにを感じ、なにを思ってくれたんだろう。
 みんなは泣きながら、必死になって俺に自分は仲間だ、と言ってくれる。
 きゅっと手を、腕を掴んで、あなたはここに居ていいんだよ、と言うかのように。

中井出「……当たり前だ。朱里も雛里も、俺の大事な仲間だよ……」
朱里 「───! …………ふ、う……うあぁあああああん……!!!」
雛里 「ごしゅ……へぅ……! ふぅううあぁあ…………!!」

 涙する二人を胸に抱く。
 そうしてからやさしく背を撫でて、頭を撫でて……ハタ、と……詠と目が合った。
 泣きじゃくる月の背中を優しく撫でていた彼女は、よくも月を泣かしたな!って目で僕を睨むと、ふんっ!とそっぽを向いた。
 いやあの……先に言ったよね、僕……。
 感情的になるな、って……。

小蓮 『格好よかった〜博光……私惚れ直しちゃったよ。ね、お姉ちゃん?』
蓮華 「……っ……ぐすっ……───な、なか───……ひ、博光っ」
中井出「オウ?」

 ふと呼ばれ、詠から映像に視線を戻すと、呉側の映像では涙目の蓮華が、キッと涙を拭い去るようにすると……僕を真名で呼ぶ。
中井出、と言いそうになったのは愛嬌ですか?

蓮華 『まずは……すまぬ。私は、お前を姉様を救ってくれた恩人と……
    呉のために人事を尽くしてくれた者、としてしか見ていなかった。
    真名を許したのも恩人だから、と……ひどく勝手なものだった』
中井出「…………うん。それはなんとなく感じてた」
蓮華 『っ……す、すまぬ……。だが……今は違う。
    知識を得たことで、途端に掌を返すようにと思われるかもしれんが、
    それもまた理解があってのこと……。
    ど、どんな罰も罵倒も受けるつもりだっ! だからっ───』
中井出「……蓮華。まず前提が間違ってるぞ〜」
蓮華 『な、なにっ? そんなっ! な、いったいなにがっ!』

 たった一言で取り乱す蓮華さん。
 ……知ってるか? もし雪蓮が手遅れだったら、彼女が呉の王だったんだぜ……?
 そんな事実に笑みをこぼしながら、口を開く。

中井出「……口調。親しくしたいなら、まず言葉から歩み寄らないと。
    俺達はお互い、相手のことをなんにも知らない人間なんだから」
蓮華 『博光……』
愛紗 「……あの。では私も変えたほうが……?」
中井出「愛紗……キミ、僕がいくら言ってもやめてくれなかったじゃない……」
愛紗 「うぐ、そ、そうですが……《くしゃっ……》あ、……ご主人様……?」
中井出「それにさ、もう結盟も交わしただろ? 言い訳にするんじゃなく、
    俺はその時点で仲間で居てくれることを嬉しいって思ってたよ」
愛紗 「ご主人様……───もったいないお言葉……!」

 愛紗の頭を撫でる。
 心を込めて、心が伝わるように。
 ……まあ正直、ご主人様っていうのはやめてほしくはあるんだけどさ。
 それでも、信頼してくれるのって嬉しいじゃないか。

蓮華 『ん、んんっ! ……博光、その、んっ、ごほんっ!
    口調、というのは、その……柔らかく、という意味でいいの……?』
中井出「うん? ……ん、そうそう。そういう意味。
    軍議をしているんじゃないんだからさ、
    こんな時くらい、気安い言葉で話してほしいよ」
蓮華 『……ええっ、ふふっ……そう……そういうことなのね……ふふふっ……♪』
陸遜 『あらあら〜〜〜、嬉しそうですね〜〜蓮華様〜〜?』
小蓮 『だらしない顔しちゃって』
蓮華 『なっ! の、穏!? 小蓮!』

 呉の映像が乱れ始める。
 あ、ぁああいかん危ない危ない危ない……!
 ミクが拗ねるからビットとか傷つけないでよ……!?

霞  『博光〜〜! あんた馬鹿やけどええ男や〜〜〜ん!
    なぁなぁ〜、こっちに、魏に来ぃひん〜? ウチめっちゃ歓迎するで〜?』
中井出「フフフ、この博光は自由気侭な修羅よ。
    呼ばれてひょいと移るような性格は……まあ時々してるけど、
    今はそんな気分じゃないから遠慮しますハイ」
華琳 『む……』
中井出「それに霞が歓迎してくれても、他の人が歓迎してくれないでしょ。
    そんな中に入ってゆくの、博光怖い」
霞  『あちゃ、そうなん?
    まー確かにうちんとこはみ〜んな大将好き好き状態やもんな。
    そん中に急に男が混ざるっちゅーたら、そら歓迎されんわ』
声  『いえ。自分は歓迎します』
中井出「なんですって!?」

 魏軍の映像から声───何者!?
 と映像をマジマジと見ていると、

華琳 『凪……』
中井出「ナギー!?」
華琳 『違うわよ。貴方のところの子供ではなく、私の臣下の楽進よ』
中井出「あ、あらそう……」

 仲間が居て嬉しいのか、にこにこ笑顔の霞に招かれて映像の中に入る……灰色の髪の子。
 ところどころにカサブタがあり、どれほど戦を重ねてきたのかがなんとなく解る風情。

楽進 『お目にかかれて光栄です、御遣い殿。自分は楽進、字は文謙。
    華琳様の下で警備隊を務める者です』
中井出「お、押忍。拙者、中井出提督です」
霞  『なっはっは、んなこた解っとるって。それより博光〜?
    歓迎者が三人もおんねやから、覚悟決めてこっち来ぃ?』
中井出「三人? …………霞と楽進が賛成してくれたのは解るけど、あと一人は?」
霞  『うちの大将や』
華琳 『なっ! ───霞? いつ私がそんなことを言ったの?』
霞  『なに今更恥ずかしがっとんねん大将、
    さっきから何度か口説き落とそうしとったやろ』
華琳 『そんなことはしていないわ』
霞  『まーそういうわけやー! ほれ来ぃ博光ー!
    一緒に“楽しい”探そー!? なー!?』
楽進 『仲間を、己を慕う部下の未来のため、
    一人戦場に残り戦う姿……感銘を受けました。
    華琳様の許しが出るならば是非こちらに───』
声  『ふっふっふ、凪だけに勧誘を任せたりはせぇへんでー……!』
声  『華琳様ー! 私達も賛成なのー!』

 …………なんかもうどんどんと収拾付かなくなっていってるような。
 あの、僕逃げていい?

雪蓮 『逃げていい? とか思ってるでしょ』
中井出「《ビビクゥ!》な、なぜ解った!」
雪蓮 『あっははははは! 博光ってほんと正直よね〜♪
    ね、本当に呉に来ちゃいなさいよ。孫呉総出で歓迎するわよ?』
霞  『くぉらぁっ! ウチらんこと無視して話進めんなぁっ!
    ほれいけっ! 真桜、沙和っ!
    博光を言葉巧みにメロメロにして引き込むんや!』
???『や、姐ぇさん、さすがにそらないで……』
???『色気からは卒業したって言ってたの』
霞  『むっ、そういやそやったな……』
???『あ、ウチは李典、字は曼成や』
???『沙和は于禁、字は文則っていうの』
中井出「そ、そうですか」

 自己紹介されると断りにくくなるって思ってやってるなら、これは結構ひどいですよ?
 うむ、とりあえず三人とも仲が良さそうです。

中井出「じゃ、解散しますか」
李典 『ちょい待ちぃやにぃさんっ! ……そりゃないんでない?』
中井出「賛成してくれてありがとうだけどね?
    僕は今のところ劉備軍から離れる予定はないし」
華琳 『……そう? ならば離れさせればいいわけね?』
中井出「……華琳、なにかよからぬこと、考えてる?」
華琳 『失礼ね。私は当然のことを考えているだけよ。
    言葉で動かないなら、戦わない貴方を戦場で捕らえればいいだけのこと』
霞  『おおっ! 大胆やな大将っ! ウチ華琳のそーいうとこ好きやで〜?』
雪蓮 『あ、そっか。じゃあ徐州に攻め入って博光を捕らえれば、
    博光は孫呉に引き込むことが出来るってわけね。……異論は?』
中井出「や、そりゃ捕らえられたんなら納得するよ? 戦の中で捕らえられたんなら、
    古くから斬首か保留かと決まってる気がするし」
華琳 『あら。斬首なんてしないわよ』
雪蓮 『せっかく博光が納得した上で国に降るんだもの、
    そんなもったいないことするわけないじゃない』
中井出「いやあの……」

 僕、捕らえられること確定なんですね……。
 と、しょんぼりしていると、僕の両側から僕の腕を掴んでいた愛紗と恋がキッと画面を睨む。

愛紗 「……貴様らの意見は存分に聞かせてもらった」
恋  「…………《コクリ》」
愛紗 「その上での返答をする───ご主人様は絶対に渡さんっ!」
恋  「……ご主人様は、恋が守る」
星  「フッ、水臭いことを。我らの意思とて同じこと」
桃香 「ご主人様は絶対に渡しませんからねっ!」
朱里 「そうですっ! ごごご主人様は私達のご主人様でしゅ!」
雛里 (あわわ朱里ちゃん、噛んでる、噛んでるっ……!)
朱里 「はうあぁっ!?」
美羽 「当然よの! 博光は妾の博光じゃ!
    誰にも───ひぃっ!? そそ孫策なのじゃー!」
雪蓮 『はぁい袁術ちゃ〜ん? 久しぶり〜♪』
美羽 「あ、あぁあううう……!《ガタガタガタガタガタガタ……!!》」
七乃 「み、美羽様〜しっかり〜!」

 三国の猛者たちが、映像越しに視線で火花を散らす。
 ……ああちなみに、雛里には少々隠れてもらってます。
 確かこの先、重要な戦いがあった筈ですから。
 筈というか、赤壁の戦いだけど。
 あれって確か、黄蓋と鳳統が協力して、曹操の軍隊が乗る船を鎖で固定する、とかいうヤツだよね?
 そして火ぃつけてホギャーって。
 あんまりバラすのもなんだし、後方に隠れてもらってるわけです。
 ……朱里に小声でアドバイスしてたりするけど。
 映像の方でもなんとかぼかしてたから、きっと大丈夫さ。

華琳 『……いいでしょう。ならばその言、真正面から圧し折ってあげるわ関羽。
    私は欲しいと思ったものは必ず手に入れてきた。
    それは国だろうが人間だろうが同じことよ』
愛紗 「なにをっ……! 我らとてご主人様を信じ、この場に居る!
    その信じたものを、そこいらのもののように差し出すと思うか!」
雪蓮 『渡してくれないなら奪うのみよ。……もちろん、正々堂々とね。
    あ、博光? 策は弄してもいいっていったわよね?』
中井出「押忍。巨大な軍勢に策無しで向かうは愚行です。
    もちろん、少数相手でも策を弄することは正当な力。
    軍師の刃と考えるべきでしょう。暗殺とかしたら本気で怒るけど」
華琳 『……いちいち蒸し返すわね』
雪蓮 『それだけ怒っているということよ、曹操。……もちろん、私のためにねー?』
華琳 『……《ムカッ》……博光が言うには、
    叱るのは本当に相手を思っているからだ、ということだけど?
    戦場で、しかも部下の前で私を叩くほどだもの。
    よほど怒ってくれたのよね、私のために』
雪蓮 『……《ムッ》…………』
華琳 『………』

 この人達、どうしてわざわざ相手が怒るような言い方するんでしょうね……。
 …………あ、カツ丼すっかり食われてるや……。

李典 『御遣いの兄ぃさん〜?
    あんたとやったら楽しいこといろいろ出来ると思うんや〜』
于禁 『だから魏においでー! なのー!』
楽進 『魏はよいところです。ですから、その……』
小蓮 『博光〜? 博光はもちろん呉に来てくれるよね〜!?』
祭  『おぬしが居れば退屈せずに済みそうじゃ。ほれ、亞莎も呼びかけぃ』
亞莎 『ひやぁっ!? あ……あ、あのあの、ひ、ひひ博光様っ……ぜ、是非っ……』
蓮華 『ひ……博光、その……わ、私達と力を合わせ、
    ともに孫呉を育てていきましょう? 貴方の力を、私達に───』
愛紗 「ええい貴様ら黙れぇっ!!」
桃香 「ご主人様は渡しませーん!!」

 もはや当人そっちのけです。
 やがて混沌と化した……いや、とっくにカオスだったけどさ。
 カオスな景色から少し離れ、マントに収納していた雛里を抱き締めた。
 あぁ、殺伐とした空気から離れることの、なんと穏やかなことよ……。

雛里 「あぅ、ご、ご主人様ぁ……」
中井出「……まあ、先のことは解らんが、今すぐどっかに行く、なんてことはないから」

 なでなでと、抱き締めながら頭を撫でる。
 後ろ向いてる上にマントだから、後方で騒いでる他の皆様には見えません。
 ……でも目の前に立つ足を発見するや、キャアと悲鳴を上げそうになる。

詠  「当たり前よ。これ以上月を泣かされたらたまらないわ」
月  「え、詠ちゃん……」
中井出「グ、グウウ〜〜〜〜〜〜ッ」

 詠ちゃんと月だった。
 や、確かに泣かせはしたけど、僕の所為じゃないよねそれ……。
 ていうか月が泣いたら全部僕の所為にするの、やめてくれませんか?

中井出「………」

 ヘンだなぁ……僕、長閑な休日を満喫してた筈なんだけどなぁ……どこで曲がったのやら。

───……。

 一方。

白蓮 「……はぁ、ようやく仕事が片付いた……。
    まったく、みんな何処に行ってるんだよ」
麗羽 「ちょっと白蓮さん!? 何故わたくしが貴女の手伝いなんかを!」
白蓮 「働かざるもの食うべからずって中井出に言われただろ?」
斗詩 「他の皆さん、何処に行っちゃったんだろうね、文ちゃん……」
猪々子「あたいに書類仕事やらせること自体間違ってる……うう、頭痛いよ斗詩ぃ……」

…………。





Next
top
Back