17/大丈夫! 我らなら出来る!(イエス・ウィ・キャン)

 でけでーーん!

中井出「昔ベツレヘ〜〜ム〜〜の〜〜〜(馬ぁや〜〜ど〜〜に〜〜〜)……
    生まれしイエスさ〜〜〜ま〜〜〜は〜〜〜(イエスさ〜〜ま〜〜は〜〜)……
    奇跡の〜〜鐘ぇを〜〜〜、鳴らし……多聞天!!」《どーーーーん!!》

 毘沙門天の名前が大好きです。こんにちは、中井出博光です。
 ごしゃーと掃除を終了させ、さらには補強もしてしっかりリフォーム!
 宛がわれた場所を有効に活用! それが博光クオリティー!

中井出「ごぉ覧ください! あんなにも汚らしかった小屋がこぉんなにも綺麗に!」

 整頓の達人を前にしたリポーターあたりが言いそうな口調で説明。
 うむ綺麗!

中井出「どう!? ねぇどう!?」
雪蓮 「ここに住むの?」
中井出「うむ! 可能性は無限大だぜ!」
詠  「あんたねぇ……」
中井出「あれ?」

 でも皆様の反応はイマイチとくる。

中井出「キミたち解ってる? 僕らは自由の空間を許されたのですよ?
    ヘタな部屋を宛がわれて監視されるような状況よりもよっぽどいい。
    見てくださいこの自然味溢れた部屋! 空気も綺麗で、居るだけで心安らぐ!
    見た目はちょっと狭いけど、そこはほら、バーンと開ければ不思議空間!」

 晦の部屋の要領だ。
 空間能力で外見よりも中を広くして、入ってみればハイ別世界。

詠  「えぇえっ!? な、なによこれ! 外見とはえらい違いじゃない!」
中井出「すげぇだろ」《どーーーん!!》

 この、誰かの驚きこそが至福。
 だってだってそれって武具の能力が褒められてるってことじゃん!
 僕なんぞが褒められるよりよっぽど嬉しいよ僕!

中井出「というわけでほらくつろいで。
    あ、一応引き戸をノックしないとこの空間には繋がらなくなってるから」
雪蓮 「のっく?」
中井出「そ。回数は4回。ここを……ここだぞ?
    ここを、トントントントンッて中指で叩いてくれ」
恋  「…………《トントントントン》」
中井出「うむ、そうだぞ恋〜、それでここに繋がるからな〜」
音々音「むむむ、不思議なのです。おまえもしや本当は五胡の妖術使いなのですか!?」
中井出「ゲハハハハ実はそうだったのだ〜〜〜〜〜っ!!」
音々音「なんですとーーーーっ!!?」
中井出「ウソだ」《どーーーん!!》
音々音「ちんきゅーきぃーーーっく!!」
中井出「《ドボォ!》ウボルメ!!」

 そんな遣り取りをしつつ、とりあえずは中に。
 そこでこれからのことを話つつ、やるべきことを決めてゆく。
 のんびりしたものだったけど、まずはこの国の民と将を見ておきたい。
 それが、俺が出した提案だった。

詠  「旗を建てるのは解ったわ。あんたが王ってのが気に入らないけど」
月  「え、詠ちゃん、ご主人様にそんなこと言ったらだめだよぅ……」
中井出「いやいや僕も実際僕が王だなんてなんかの間違いだって思うし。
    あ、そうだ、詠ちゃんやってみる?」
詠  「えあっ!? や、ややややるわけないでしょなに言ってるの!!?
    馬鹿なの!? そうなの馬鹿なの!! あんた馬鹿なのね!?」
雪蓮 「そうよ博光。これはあなたと私が起こした旗なんだから」
詠  「……ていうかどうして孫策なのよ」
雪蓮 「そんなの面白そうだったからに決まってるじゃない」
中井出「面白ければそれでよしです」
月  「ご主人様がそれでいいなら…………
    それであの、袁術ちゃんはよかったんですか……?」
雪蓮 「《クワッ!》」
月  「へぅっ!?」

 あ、雪蓮の目付きが変わった。

中井出「これ雪蓮、そう威嚇するものじゃあありません。
    ……美羽のことは七乃に任せましょう。
    来る者は拒まないけど、来ない者まで迎えに行きません」
詠  「……結構冷たいのね、あんたって。あんなに懐いてたのに」
中井出「懐かれて喜ぶのと甘やかすのとは違いますよ、詠ちゃん。
    懐いてくれてたからこそ強くあってほしいのです。
    あのままこの博光の傍に居たら、いつまで経っても甘え癖がとれないでしょう?」
詠  「…………ごめん」
中井出「む? なにをお謝りになられる」
詠  「ボクだって悪いって思ったら謝るわよ。
    だってあんた、その……凄く寂しそうな顔してたし……。
    ……懐いてた子、置いてきて……平気なわけないのにね」
中井出「え? そんな顔してた?」
雪蓮 「うんしてた」
恋  「…………《こくり》」
音々音「ふん、だらしのない顔だったのです」
中井出「寂しそうな顔って言われたあとにだらしない顔って言われたの初めてだよ!?」
月  「だ、大丈夫ですご主人様っ……!
    そ、その、悲しそうなお顔も可愛らしかったです……!」
中井出「なんですって!?」
雪蓮 「そうそう、博光って本当に純粋な表情見せてくれるから、それがまた可愛くって」
恋  「…………《こくこく》」
中井出「れ、恋まで……《ぺろっ》ぶわっぷ!?
    こ、これセキト! 急に人の顔をですねっ……!」

 よっぽど悲しい顔をしてたんでしょうか。
 恋の友達のセキト(犬)が、どっかと座る僕の胡坐の上に登ってきて、僕の顔を舐めてきます。それを皮切りにするかのように他の動物までもがこの博光を囲い始め……アオアーーー!!

恋  「……ご主人様、いい人……。セキト、悪い人には懐かない……」
中井出「それは嬉しいですけどね!? あ、いや違うよ!? 僕悪い子だもん!!
    いやあのちょッ……やめてやめてぇええ!!
    舐めないで舐めないでぇええええっ!!!」

 力任せに引き剥がすわけにもいかず、
 こうして僕は動物たちの気が済むまで舐められ続けることとなりました……。

───……。

 そんなこんなもあってまず食事の準備。
 けどその前にそろそろ華琳になにかしら挨拶をせねばと立ち上がり、みんなを残して外に出た───ところで。

楽進 「っ!」
中井出「おや?」

 以前映像でご挨拶をした楽進殿が目の前に。

中井出「これは楽進殿。拙者になにかご用ですかな?
    ……は、もしやするとこの馬小屋に用でも?」
楽進 「い、いえっ、自分は華琳様より御遣い様への言伝を預かりましてっ……」
中井出「言伝? ハテ……」

 華琳が?
 ぬう……いったいどのような言伝を……?

中井出「うむ。では聞きましょうぞ」
楽進 「は、はい。……華琳様の命により、貴方を警備隊の隊長及び、
    我ら……楽進、李典、于禁の三名を貴方の部下にと」
中井出「………………隊長?」
楽進 「はい」
中井出「僕が?」
楽進 「はい」
中井出「…………キミと、あの映像に出てた二人と?」
楽進 「はい」
中井出「……なんでまた」
楽進 「働かざる者食うべからず、だそうです。
    この城に住むのなら、仕事はきちんとしてもらう、という理由らしいのですが」

 …………待ちなさい?
 俺べつにそげなもんしなくても食えるんですが……?
 確かに場所は頂いてるけど、こんなベツレヘム・ザ・馬屋番バッサシな所を宛がっといて隊長職?
 ……なに考えとるんだあの大将は……。

中井出「監視ってことでいいのかな」
楽進 「! 違います! ……あ、いえ……華琳様の真意はどうあれ、
    自分は貴方の部下になることを誇りに思います!」
中井出「むう……えーと楽進?
    最初に言っておくけど……僕を誇りに思うのは楽進の勝手だ。
    でもね、生きかたまでは真似るなよ?
    自分のためだからって軍勢を前に一人残るのは、
    正直お前が思っているより辛いことだ。
    ……それに、誰かがお前のことを覚えている限りは、絶対にそんなことをするな」
楽進 「御遣い殿……しかし自分は」
中井出「……俺の生きかたに感銘を受けた、って言ってくれたな。……ありがとう。
    誰かに誇ってもらえるくらいの生きかたが出来てたなら、俺はそれで十分だよ。
    ───楽進、我が真名は博光。ヌシに預けよう。
    博光とでも中井出とでも、好きに呼びなさい」
楽進 「……! な、凪……自分の真名は凪といいます。
    御遣い殿……いえ隊長。この命、貴方のために……」
中井出「…………」

 物凄いコが部下になったもんだなー……と、頭の隅で。
 いやさ、なにかしなきゃさすがにマズイだろーなーとか思ってたから、こうして仕事が手に入るのはまあいいよ?
 でもいきなり警備隊隊長で部下が三人も、って……しかも僕に命預けるとか言うんだよ?
 ……まずはこのコの固すぎるところを、少しずつほぐしてやらんと……。

中井出「よし。ではこの博光、警備隊の仕事を受け入れましょう。
    差し当たり───……うむ。凪、キミ、好きな食べ物はありますか?」
凪  「は……好きな食べ物? ……強いて言うなら辛いものなどが───」
中井出「そうかそうか。あ、他の二人は? 于禁と李典っていったっけ」
凪  「警邏の最中です。この後、街で落ち合い休憩を挟んで食事を、と思っていました」
中井出「うむ。では凪よ、まずは親睦会と行きましょう。
    他の二人を呼んできてくれ。今日はこの博光が腕を振るいましょう」
凪  「……いいのですか?」
中井出「私は一向に構わんッッ!!」
凪  「はっ。では───」

 ごしゃー!と、凪が物凄い速さで走ってゆく。
 ……もしかして彼女、体術とか得意なのかな。
 動き……走る姿勢が、武器を持って戦うというよりは己を弾丸として走るみたいな感じだった。

───……。

 ややあって───

李典 「おー、ホンモンやホンモン、御遣い様やで沙和〜」
于禁 「ほんとーなのー! ……でも、着てる服は地味なの」
中井出「ふはははは!! この地味さこそこの博光が博光たる所以!
    ……偉いからって偉そうな服着てるの、腹立たない?
    あ〜んな装飾ごっちゃりな服着るより、自分の好きな服着たいじゃない」
李典 「おおっ、にぃさん解っとるやないか〜」
于禁 「それでももうちょっと格好いい服着てほしいのー」
凪  「沙和、隊長の前だぞ」
于禁 「隊長だからこそ言ってるんだけどなー……」

 ベツレヘム(馬小屋の隣。命名:俺)に集まった三人、凪、李典、于禁の反応はそれぞれ。
 なにより僕の服装、村人の服がひでぇ言われ様です。

中井出「格好いい、って……隊長然とした服とか? それとも神秘的な服とか?
    言っておくがこの博光、格好いい服とかが可哀想なくらい似合わんぞ?」
李典 「あー、それなんとなく解る気ぃもするけど……けどそれよりはマシやねん、
    とか思うのはウチだけやないと思うんですわ……」
中井出「ひでぇ言われ様ですねほんと……」
凪  「すいません隊長……」
中井出「いえ構いません。……解ったから二人とも、さっさと中に入りなさい。
    隊長として振る舞う時は、それなりのモノ身に着けるから」
李典 「あ、そっか。もう隊長として話通したんか」
于禁 「うっかりなの。それじゃあ隊長〜、これからよろしくなのー!」
李典 「ウチのことは真桜でえーですわ。これからよろしくなー、隊長」
于禁 「沙和は沙和なのー!」

 アンディ・サワーって呼んでもいいですか?って訊きそうになったけど、真名を侮辱するのはマズイと思ったんでやめました。
 そんなわけで帰宅。
 ノック四回ののちに開けた物置は僕らの空間に繋がり、自然に溢れたその部屋は、実は自然要塞の一室だったりする。
 だから奥にある扉を開ければアラ不思議、ユグドラシルがある霊章ワールドに飛び出れます。
 もちろんネコット農場とかもあるので、食料に困ることも全く無し。

中井出「今帰りましたよ、雪蓮、恋、ねね、月、詠ちゃん」
詠  「ちょっとぉ! 今更だけどなんでボクだけ“ちゃん”づけなのよ!」
中井出「月がそう呼んでるからさ!! ねー? 月?」
月  「ね、ねー? ご、ご主人様ー?」
詠  「月ぇええ……! こんなやつの真似なんかしたらだめぇええ……!
    穢れちゃうわぁあ……!」
中井出「ひでぇ言われ様だよね僕……って、恋は?」

 ハタ、と気づく。恋が居ないや。
 そういや声かけた時にも反応がなかった……ていうかねねも居ねぇ! ……と、視線を巡らせると、奥の扉が開いてらっしゃった!

中井出「ゲ、ゲェエエーーーーーッ!! 恋!? れーーーーーん!!
    ねねー! 戻ってきなさーーーい!!」
真桜 「うおおっ!? なんやどないしたん隊長!!」
凪  「隊長……!?」
中井出「あぁいやなんでもないからァアアア!!!
    ちょっ……雪蓮! この子たち、華琳が僕の部下に、って!
    なななんでも僕のこと警備隊の隊長にするとかで───とととにかくよろしく!」
雪蓮 「ん。まずい状況なんでしょ? 行ってきていいよ」
中井出「謝謝! というわけで凪! 真桜! 沙和! 自己紹介済ませておいてね!?」
凪  「はい」
真桜 「なんや来た途端に慌しいなぁ。おもろいことなら手伝おか?」
中井出「あぁいや結構です! 一緒になって燥ぐから絶対!」
真桜 「うわ、なんや性格見抜かれとるで沙和」
沙和 「でも興味あるよねー、外から見るより広い部屋に、さらに扉があって───」
凪  「……凄く空気が美味しい」

 喋る三人を雪蓮たちに任せて扉の先へ。
 すると、懐かしい濃度の高い自然の香りが肺を満たす。
 …………うん、ユグドラシルは今日も元気のようだ。
 って、そうじゃなくて。
 …………ってそうだ。

中井出「雪蓮〜?」
雪蓮 「ん? なにー?」
中井出「一緒に来る? みんなもよかったら。
    どうせならこの博光の秘密、いろいろ教えましょう」
雪蓮 「あはっ、うんっ! 行く行くー!」
真桜 「よっしゃのったぁ! いくで沙和! 凪!」
沙和 「面白そうなのー! 隊長隊長、どんなこと教えてくれるのー!?」
中井出「それは見てのお楽しみである! じゃ、はぐれないように付いてきてね?
    ヘタすると戻れなくなるかもだから」
詠  「どんな場所なのよそれって……」
中井出「大丈夫大丈夫、迷ったら“ヘイジョニー”って叫べば猫が助けてくれるから」
月  「じょ、じょに?」
中井出「ヘイジョニー。はい、大きな声で」
月  「へぅ……! へ、へいじょにー!」

 マキィン! ───ズシャアッ!!

ジョニー『アンタなかなかァ……エキセントリックだニャ!!』
月   「へぅうっ!!?」
真桜  「おぉおおわぁあっ!!?」

 月の呼びかけに応え、降臨するアイルー種……その名もジョニー。
 猫の中ではアイルーに次ぐ実力者で、アイルーの直弟子でもある。
 この部屋自体がもう霊章の中みたいなもんなんだから、呼べば登場当たり前。
 それにしても真桜、キミ驚きすぎ。

沙和  「ね、ねねね猫が出てきっ……猫が喋ったのーーーっ!!」
真桜  「すごい……こらすごいで隊長!
     さ、触ってもええ!?《メタァン!》あたっ!」
アイルー『オイタがすぎるニャ! 初対面の猫に失礼ニャ!』
真桜  「うわ、怒られたで沙和! ウチ怒られた! 猫に怒られる〜なんて初めてや!
     あぁ……! 叩かれた手に感じた肉球の感触……クセになりそ〜や……!」
中井出 「あぁほらほら、騒いでないでいきますよ?
     ……で、ジョニー。恋が何処に居るか、解る?」
アイルー『はいニャ、旦那さん。今はネコット農場で果物食べまくってるニャ』
中井出 「れぇええええええええええええええええええん!!!
     早まっちゃだめだぁああああああああああああああああああああっ!!!!」

 くっ……食い尽くされる!
 そう感じた僕の行動は、きっとなによりも速いものでした。

───……。

 果たして…………果樹園はほぼ丸坊主になってらっしゃった。

恋  「……! ……!!《しゃりしゃりしゃりしゃり……!!》」
音々音「おおおっ! これはまたなんとも美味な!
    これはやめられない止まらないというものですぞ恋殿ー!」

 予想通りに二人はそこに居て、サファイア梨を食い漁りまくってたところでした。
 この世界、霊章内部のユグドラシルは、この博光や猛者どもの意思、そして武具の意思や取り込んできた仲間たち、ドリアードの核。
 様々なものの影響を受けて育まれる。
 そのためか、普通は存在しない架空のものも存在し、食べることも出来るため───漫画・トリコであるような食材も普通に存在し、恋やねねが食べているのもまた、トリコ風に猛者どもが考え付いた、サファイアのような色の梨だった。
 味は言うまでもなく一級品。
 味わったことのない美味さなのだろう、恋は無我夢中で梨を食いまくり、その隣でねねも梨を食いまくっていた。

真桜 「うぅわっ……間近で見るとすごいわこりゃ……!」
沙和 「隊長隊長、私達も食べてみていいー?」
中井出「二つまでな。それ以上は止まらなくなるから」
凪  「……すいません、隊長……」
中井出「気にしない気にしない。言うまでもなく食べてる猫娘も居ることだし」
雪蓮 「《しゃくっ》……むあ? それってだりぇのこほ?」
中井出「今僕の隣で両腕いっぱいに梨を抱いて食ってる可愛らしい女性のことです。
    真桜、雪蓮が取ってくれてあるからこれを食べてくれ。
    月も、詠ちゃんも。いいか? 絶対に二個以上はだめだぞ?」
雪蓮 「食べたらどうなるの?」
中井出「……あーなる」

 促せば、夢中で食いまくる恋とねね。
 と、促した先からねねがどしゃあと倒れ、痙攣。

真桜 「うわっ……まさか毒でも入っとるん……?」
中井出「ただの食いすぎだ。美味すぎて限界超えて食っちゃうんだよ……。
    だから、三個めからは舌が味覚えちゃうから絶対にだめ。いいね?」
雪蓮 「えー」
中井出「えーじゃないのっ! 他のやつもご馳走するから!」
雪蓮 「わっ、ほんと?」
中井出「うむ。でもまずはあの二人を止めましょうね?」
真桜 「……止めるて、どうすりゃ止まるん?」
中井出「基本的には押さえつけて、えーと……あった」

 リフレカヅラを発見、その徳利にたまった液体をカラの実(大)に注いで、沙和に。

中井出「これを飲ませれば治る」
沙和 「なーんだ、簡単なのー!」
真桜 「おっしゃ、ほならいくで〜! 隊長にウチらの実力見せてやろ!」
沙和 「おー! なのー!」
凪  「いってきます、隊長」

 三人が液体片手に猛突進。
 それを見た詠ちゃんが、僕の隣で一言。

詠  「……いいの? あれ」
中井出「いや〜……“知らない”って、なによりの勇気だと思うんだよね、俺……」
雪蓮 「解ってて黙ってるって、博光もけっこうひどいわよねー」
中井出「俺は楽しめればそれでいいの。
    それに、実力見せてくれるってせっかく言ってくれてるんだから」
雪蓮 「あっはは、そーよね、本人たっての希望じゃしょうがないものね」

 どごしゃーーーん!

真桜 「ぬおおーーー!!」
沙和 「ふわーーーっ!? すごいの真桜ちゃん! 空飛んでるのー!」
真桜 「感心しとる場合かーーーっ!!」
凪  「強っ……!? はっ! そうか! どこかで見たことがあると……!」
沙和 「え? え? なんなの凪ちゃん!」
凪  「この方は呂奉先! 飛将軍・呂布だ!」
沙和 「えっ……えぇええええーーーーーーーっ!!!?」
真桜 「おぉっ! 言われてみれば隊長のえいぞーとかいうのに《どしゃあ!》げぶえ!」
沙和 「真桜ちゃん!? 真桜ちゃーーーん!」
真桜 「おごごごご……! わ、脇腹……脇腹から落ちたで今……!!」
中井出「とっても賑やか」
詠  「鬼ね……」

 梨に執着する恋は、それを止めようとする者を千切っては投げ千切っては投げ。
 突然の最強バトルに翻弄されまくる三人は散々と吹き飛ばされたのちに、がっくりと昇天。
 そんな彼女らを癒したのちに、

中井出「恋」
恋  「《びくっ!》……? ……!」

 三人の声が届いてなかった恋が、俺の声に反応して振り返る。
 今まで自分がなにをしていたのか解らない、といった風情で、散らかった梨の芯と手に持った梨を見て……そして状況を悟ったのか、少し怯えた顔で俺を見て、声を発することなく俯いてゆく。
 そんな恋の頭に手を置くと、静かに撫でてやる。

中井出「だめだぞ、恋。勝手に人のものを食べたりしちゃ」
恋  「……! …………」
中井出「《きゅっ》……恋?」

 頭を撫でる手に自分の手を重ねて、恋は俺を見上げる。
 そして、無表情でも不安になっていると解る色を見せながら、

恋  「……ご主人様……恋のこと、嫌いになった……?」

 と、訊いてくる。
 ……うぅむ、世に居る男ならば一発でアウトの上目遣いだ。
 しかも純粋に俺に嫌われることに怯えて、おそるおそる訊いてきてるとくる。
 誰だって許してしまうだろうなぁこれは。
 だがダメです。母さんは許しません。

中井出「うむ。我を忘れて人を傷つける恋なんて、嫌いだ」
恋  「───! …………《ふるるっ……》」

 嫌い、と言われ、恋の体が震えた。
 どんどんと俯いてゆく視線はやがて頭さえ俯かせ、小さな震えはやがて少しずつ大きく……

中井出「でも、それはこれから治していけることだし、
    恋はそれが出来る子だって思ってる。だから、今回は許すよ。
    ……嫌いになんてなってないから、怯えなくてもいいよ、恋」
恋  「!」
中井出「《がばしっ!》ややっ!? やっ、ここここれっ! 恋!?」

 突然の抱き締めでした。
 僕の首を掻き抱くようにして屈み気味だった僕の頬に自分の頬をこすりつけ、さらには僕の首をペロペロと舐めてきてイッヒィイイイイイイッ!!!?
 いやっ……いやぁああああああ!! やめっ……僕くすぐったいのだめなの!!

中井出「うひゃぁああはははは!!!?
    いやちょっ……やめっ! 恋っ! やめぇええっ!!
    俺くすぐったいの全然ダメでぶわぁっははははは!?
    いやっ! ぬあーーーっ!!」

 えーと……マーキングとかいいましたっけ?
 犬とかが気に入ったものに自分の体臭をこすりつけて、自分のものだってアピールする……あれ? じゃあ僕、恋のものなの?

雪蓮 「はいそこまでっ!」

 べりゃあいっ!

恋  「!?」
中井出「ホフゥ!!?」

 地獄が如きくすぐったさから僕を引き剥がし、救ってくれたのは雪蓮でした。
 ありがとうござる、あのままでは笑いの神様に殺されるところでした。
 なんか違う気もするけど。
 そんな様子に、癒されてからジ〜〜ッと見てた三羽烏が声を投げる。

真桜 「へー、隊長くすぐったいのんに弱いんか」
中井出「ほは……ほはー……! う、うむ……どうもあれだけには慣れん……!」
沙和 「声かけただけで治ること教えなかった罰なの」
中井出「あのねぇ……武将として、
    命の危険なく呂布と戦える機会なんてどれだけあると思ってんの。
    貴重な体験と思って受け取ってください……」
凪  「隊長……はいっ、身に刻み続けます!」
真桜 「そら人にブン投げられて空飛ぶんは、貴重すぎて脇腹がうずくけどなぁ……」
沙和 「おかしな声だしてたの」
真桜 「あんなん誰かて出すわ!」

 さて。
 とりあえず痙攣してるねねの介抱だね。
 一応恋にはリフレカヅラを飲んでもらうとして……と。

中井出「あーあー食いすぎだよほんとに……。大丈夫かー? ねねー?」

 言いながら腹部にやさしく触れて、胃の中のものを消化させる。
 すると、ハッと苦しげだった表情を無くすと、がばーと起き上がる。

音々音「ね、ねねは、ねねはいったいどうしたのです!?
    ……はっ!? おまえ、なぜねねのお腹を触っているのです!!
    もしやなにかよからぬことを───!!」
中井出「……人の果樹園の果実食べておいて言うことはそれだけかコノヤロウ……」
音々音「はう!? ……あ、や、あぅぐ……こ、これはですのー……」
中井出「ちなみに僕は、キミが食いすぎで痙攣起こしてたから治してあげたんだけど。
    そっかー、キミはそんな僕がよからぬことをしてたと、そう言うんだー」
音々音「あ、あわわわ……」
中井出「魔のショ〜グンクロ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
音々音「《コキュリリリ》みぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 目の疲れを癒すツボを圧してます。
 ええ、そんな痛くないですよ?
 ただ後ろめたさがその痛さを倍増させているんでしょう。

詠  「ちょ、ちょっとすごく痛がってるわよ!? 大丈夫なの!?」
中井出「やられてみる? 目の疲れが取れますよ?」
詠  「…………え?」

 ピタリと言葉を放つことをやめた詠ちゃんの前で、パッと手を離してみせる。
 と、さっきまでの痛がり様もどこへやら。
 ねねは両手を上げて、見える、見えるぞぉーーーーっ!と叫び始めた。
 ……いや、よく見えますぞーと言ってるだけだけど。

中井出「詠ちゃんは眼鏡つけてるものね、こりゃあほぐし甲斐がありそうだぜ〜〜〜っ!」
詠  「やっ……! いいわよボクは! ていうか詠ちゃんって呼ぶな!」
雪蓮 「あーもー! 遊んでないでこっちなんとかしてよ博光ー!
    この子ったらさっきから人の話聞かないで、
    貴方のところに向かいたがってて……!」
中井出「ややっ!?」

 しまった! まだ恋にカヅラの液体飲ませてなかった!
 一時的とはいえ自然と契約した僕の声だからこそ反応を見せてくだすったが、やはりそれは一時的なものにすぎません。
 リフレカヅラの状態異常解除効果に期待するほかありんせん!

中井出「真桜! 雪蓮にさっきのカヅラの液体を!」
真桜 「あ、あ〜〜……すまんなぁ隊長、さっきコケた時に砕いてしもたんよ……」
中井出「ゲェエーーーーーッ!!! ええいもう仕方なし! ───我唱えん!」

 宝殿よりウロボロスを引き抜き、意思からはホギーを!
 杖に篭る魔法能力を引き出し、エスナを解放して魔法の光球として精製!
 それを───投げつける!!

中井出「雪蓮! 上手く避けてくれ!」
雪蓮 「───! 任せなさいっ!」

 ぐいぐいと雪蓮を押し退けようとする恋。
 その恋がさらに力を込め、前に出ようとした瞬間、雪蓮は自ら下がり、恋がバランスを崩すのと同時に身を横に逸らす。
 恋が“あ”って顔になった時には、エスナは恋に直撃。
 黒いモヤのようなものを弾き出すと、恋は目をぱちくりとさせて、掴み合っていた雪蓮と繋いだ手をくい、と持ち上げて首を傾げた。

雪蓮 「……はぁ……」
中井出「やあ、お疲れ雪蓮」
雪蓮 「博光についていくのって、楽しいことばっかじゃないわね……」
中井出「仕方がありますまい、楽しいを探しているところなのですから。
    ……ていうかこれこれ、手を離すなり人の首に抱き付くのはやめなさい」
雪蓮 「なによー。呂布はよくて私はだめなのー?」
中井出「そういう問題ではなくてですねっ……!
    その、キミが背中から抱きつくと、そのですね……!」
雪蓮 「んー…………ああっ♪ な〜んだ、やっぱり博光もオトコノコね〜?」
中井出「なにを言う! この博光、もはや男を通り越した漢……だといいね?
    じゃなくて! ウ、ウググムー!
    なんか今すごく小蓮がキミの妹だって実感してますよ!?
    いっそ子供になってみる!?」
雪蓮 「あははっ♪いいぞいいぞー、やれるならやってみせなさいっ」
中井出「グムムギギ〜〜〜〜ッ! ば、馬鹿にしやがって〜〜〜〜〜〜〜っ!!
    ドナルド〜〜〜〜〜〜〜───マジック♪」

 ならばと、ゼクンドゥスとエターナルソードの力を借りて時間蝕!
 ズヴァーと雪蓮の身体経過時間を戻してやると、

雪蓮 「……わ」

 ねねより少し大きいくらいの背丈の雪蓮の完成である。
 ……う、うむ。これであのけしからんボインは消えてくれました。
 っていっても、それでも結構あるのがすげえ。
 けどまあまずは振り返る前にブリュンヒルデで服を用意。
 それを着せた状態で切り離すと、雪蓮はきゃいきゃいと燥ぎ始める。

雪蓮 「博光って本当になんでもありよねー。これだったら一生全盛期状態で戦えるわ。
    あ、そーだっ! この格好で冥琳のところに行って、
    母様〜って言ったらどうなるかなっ!」
中井出「おお! それは面白そうだ!」

 ろくなことを考えない二人である。

真桜 「うわ……ちっちゃなってもた……」
沙和 「凄いの……」
凪  「隊長、これは……」
中井出「……キミたちもなる?」
恋  「……!《こくこくこくこくこくこく!!》」

 物凄い連続頷きでした。
 その様子を見てねねが止めようとしたが、詠にキャッチングされて身動きが取れなくなった。

中井出「あれ? 詠ちゃん賛成なの?」
詠  「いーんじゃない? べつに。小さいコが好きなんでしょあんた。
    あんたの旗の下なんだから、あんたの好きでいいじゃない」
中井出「あれぇ!? なんかすげぇ誤解が誕生した!?
    だが構わん! 貶されてでも誰かの要望を叶えてみるのもまた一興!!
    そいやぁあーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 僕はもうヤケっぱちでした。
 知ってたかい? ヤケッパチになった僕って……強いんだぜ?
 自称だけど。

───……。

 で……

真桜 「……隊長はあれやな、少女趣味っちゅーやつやわ」
沙和 「服がぶかぶかするのー……」
凪  「た、隊長! これはあまりにも……!」
恋  「……《ぺたぺた…………にこー……》」

 気づけばみんな今の雪蓮サイズになってました。
 巻き込まれた三羽烏にとりあえずごめんなさい。
 華琳あたりから怒られそうだけど……もういいよ僕、治す気ないから。
 ロリコンでいいよもう……泣けてきたけどいいよもう……。

中井出「よし、とりあえずみんなお風呂入っといで。
    僕そのうちにキミたちの服とか作っておくから」
真桜 「作る、って……隊長そんなん出来るん?」
中井出「出来ますよ失礼な!」
沙和 「だったら沙和すっごく可愛いのがいいの!」
中井出「えっと……それ着て華琳とかに報告しに行く覚悟があるなら、
    うんと可愛くするけど」
沙和 「…………ちょ、ちょっぴり可愛めのでいいの……」
中井出「ふむふむ。凪は?」
凪  「自分は動きやすいものを……と、本当にいいのでしょうか、こんなこと」
中井出「構いません。───恋は?」
恋  「…………恋、このままで───」
音々音「なんですとーーーーっ!!?
    れれれれ恋殿!? それはさすがにまずいのです!」
雪蓮 「そうそう、ダ〜メ!
    せっかくこんな格好になれたんだから、もっと楽しまなきゃ損よ〜?
    というわけで博光、私、天の国の綺麗でちょっと可愛いやつがいい」
中井出「綺麗で可愛め…………フッ、
    まさかこの国に来てまであの衣装を目にすることになるとはな……」
雪蓮 「ヘンなのだったらひどいからね?」
中井出「大丈夫! なにを隠そう、俺はドナルドスーツ作りの達人だぁあああっ!!」
雪蓮 「あ、やめて。そのなんとかっていうのは。
    悪寒が走ったわ今。それだけは絶対に頷くなって私の勘が叫んでるの」
中井出「なんで!?」

 くそう勘てめぇ!
 もうちょっとで雪蓮がドナルディアに覚醒したのに!
 と、逸れるのも大概にしましょう。

中井出 「じゃあジョニー、みんなを風呂に案内してやってくれ。
     俺は服と料理を用意しとくから」
ジョニー『がってんニャ!』

 ジョニーの案内のもと、皆様が自然要塞入浴所へ向かう。
 僕はそれを見送ると、猫の里に繋がっている景色を見てホッとした。
 ……あの時、フェルダールは間違い無く消滅した。けど、武具と一体化させ、操れるようになったからにはこうして復元も出来るようだった。
 もちろん、出来たのは精々でこの猫の里のみ。亜人族や仲間の意思を掻き集めたところで、鮮明に作り出せるのがここしかなかったのだ。
 ……あ、でもちゃんとガノトトスさんの居る泉も再現できてるよ?
 空を仰げばもちろん蒼い。でも、残念ながら絶壁をいくら登っても、登りきることは出来ないのが現在の仕様。つまり、この猫の里から先にはどう足掻いても行けないのだ。
 …………それでも。

  ザァアッ───

中井出「…………うん」

 猫の里の中央にある、大樹ユグドラシル。
 それを見ると、この世界が残っててよかったって思える。
 鮮明に思い描ける場所がここでよかった。
 フェルダール……というよりもヒロラインの基盤が霊章と融合したことで、いろいろなものがごっちゃになってるけど……この大樹はここにあることが望ましい。

中井出「……ドリアード……お前は元気で居てくれてるか?
    俺はちょっと……いろいろなものに巻き込まれてるよ。
    どうやったら帰れるかも解らないけど…………できれば、待っていてほしい」

 戻った途端に俺は俺じゃなくなるかもしれない。この世界に飛ばされたからこそ、俺は自分を失くさずに居られたのだろうから。
 でも地界に……天地空間に戻りでもすれば、俺はきっと全てを忘れるのだろう。裂けた空間に飲まれる前、俺には確かにそういった予感が走ったのだから。
 そういった思いを胸に抱きながら、大樹をやさしく撫でる。
 ……これにはドリアードの核が溶け込んでいる。
 そうすることで、地界に残したドリアードがどうなっているのかはまるで解らない。
 力の汲々が出来ずに倒れてしまったかもしれないし、弱っているかもしれない。
 でも、いつか必ず戻るから。必ず会いに行くから。それまで───

中井出「……うん、よしっ、湿っぽい話終了!
    ジョワジョワジョワ、それじゃあいっちょやってやるとするか〜〜〜〜〜〜っ!」

 今はまだ待っててくれとしか言えないけど……いつか自分のままでお前に会える時が来たら、ずっと一緒に居たいって思える。
 そんな人に出会えたことを、今はあの世界に感謝した。

───……。

 ジャジャーーーーン!!

中井出「では! いただきます!」
総員 『いただきます』

 皆様の服を何着か作り(亜人族の皆様にお手伝い願いました)、メシも用意し、皆様に風呂を堪能してもらったのち、こうして食卓を囲んでおります。
 あ、ちなみにここはガノトトス湖の真ん前です。

真桜 「うおっ! 強烈な匂いやこれっ……!
    隊長これなに使ったん!? 匂いだけでもう辛いわ!」
中井出「え? ジョロキアっていう唐辛子だけど。凪の要望は辛いもの、だそうだから」
沙和 「強烈なの……これはかつてないほど強烈だと思うの……」
凪  「隊長が自分なんかのために…………いただきます!《ぱくっ》」

 …………
 
真桜 「ど、どないなん? 凪……」
凪  「…………こ」
真桜 「こ?」
凪  「これだ……! これこそ自分が求めていた辛さ……!」
真桜 「う、美味いん!? ほならウチもちょこっとだけ《ぱく》いったぁあああっ!!?
    痛ッ! 辛ッ!? 辛いっちゅうより痛いでこれっ!
    痛っ……ほぎゃあああーーーっ!!」
中井出「あっ! これ!
    食事中に地面を転がりまわるんじゃあありません! お行儀の悪い!」
真桜 「隊長……そりゃ無茶ってもんやでぇええ……」
沙和 「真桜ちゃーーーん!! しっかりするのーーーっ!!」

 皆様がちっこい中、僕だけパパみたいな気分の食事が続く。
 食べるものはそれぞれ甘いものだったり辛いものだったり、酸っぱいものだったりしょっぱいものだったり。
 様々な料理が娘達の口に運ばれてゆき、その度に笑顔になる情景が胸にやさしい。
 思わず、遠い世界に残してきたものを思い浮かべて、俺は自然と笑顔になっていた。

雪蓮 「…………」
恋  「………」
詠  「………」
月  「………」
音々音「………」

 そんな僕をじっと見つめる目に、気づくこともなく。

真桜 「うおお……口治し……
    もとい、口直ししたいぃ………た、隊長? これ、辛ないん?」
中井出「甘さが欲しいなら……これである」

 切ない顔の娘ッ子に差し出す物。
 それはかの有名な練乳蜂蜜ワッフル。
 今の世、どれほど知っている者が残っておろうか心配ではありますが、C子さんも手放しで甘すぎると仰る伝説のワッフルです。

真桜 「……なんや隊長に勧められると遠慮したなるこの気分はなんやろ……」
沙和 「でもとってもいい匂いがするよ真桜ちゃん。
    隊長、これ沙和がもらってもいい?」
中井出「うむ!」
沙和 「それじゃあいただきますなのー!《さくり》…………はうっ!」
真桜 「ど、どないなん!? 美味いんか!?」
沙和 「とっても……とっても甘くて美味しいの〜〜〜っ!」
真桜 「さ、さよか! よっしゃそんじゃウチも《さくり》ぶっはぁあああっ!!?
    甘っ! 溶けっ!? 甘いっちゅーより口ん中溶けとるみたいやで!
    ほぎゃーーーーあぁあああ!!」
中井出「あっ! これ!
    食事中に地面で悶絶するんじゃあありません! なんとお行儀の悪い!」
真桜 「せやから……無茶言わんといてぇ……」

 世界はとっても賑やかです。
 そんな風に騒がしくしながら、お酒を飲んだりデセルを食べたりで、すっかり上機嫌になった皆様は、架空の蒼空の下、湖の近くの草花のベッドで架空の太陽の暖かさを感じながら、
 架空の風に撫でられて横になっていた。

真桜 「うおー……気持ちえぇ……めっちゃ気持ちえぇでぇ……」
沙和 「うおーとか言わないの、親父くさいよ真桜ちゃん」
凪  「………」

 よい天気です。
 まあ、この世界はこんな天気ばっかりで、気が向いた時に雨が降るみたいな感じだけど。
 自然が欲する分だけの雨が降って、それで終わりだ。

雪蓮 「はーー……美味しかった〜」
恋  「《こくこく》」
音々音「あれだけ食べたあとだというのに、すっかり食べ過ぎてしまったのです……」
詠  「あんたって料理だけは得意よね」
月  「詠ちゃん……」
詠  「や、あ、べつに全然認めてないわけじゃないのよ月っ、ああもう!
    あんたの所為で月が不安がったじゃない!」
中井出「なんで僕の所為なの!?」

 セキトを始めとする動物たちもこの場に住んでもらっていて、世話など、するべきことはアイルーたちが教えている。
 もちろんビッグとかスモールとかも、していい場所は定められている。

雪蓮 「お風呂も気持ちいいしこの場所も気持ちいいし…………はー…………
    こんな気持ちいい世界があったなんてねー……なんか得した気分」
中井出「ふむ。雪蓮はほんとにいいの? 僕とこんな行き当たりばったりなことして」
雪蓮 「いいったら、もう。それに話してみれば、多分私だけじゃないわよー?
    博光と一緒に行きたかったのって。
    冥琳もあれで無茶なことを処理するのが好きだし、
    祭だって呉への忠誠が無ければ絶対にこっちに来たもん」
中井出「そうかねぇ……」
月  「あの……それを言うなら、桃香様たちだってそうですよ?」
詠  「そうよ。それをあんたと来たら、星に伝言頼むみたいにして急に居なくなるし。
    みんなどれだけ悲しんでたか解ってるの?」
中井出「知らぬ!」《どーーん!!》
詠  「なっ……あんたねぇっ!!」

 ハッキリ言ってみたら、口端をヒクつかせて怒り出す詠ちゃん。
 そんな詠ちゃんを見て、雪蓮が声を上げて笑う。

詠  「なにがおかしいのよっ!」
雪蓮 「あはははは、だってさぁ、あははっ。
    そんな状態で、あなただけは博光を探しに来たんでしょ?
    そこにはどんな思いがあったのかなーって考えたらおかしくって」
詠  「なっ───《グボンッ!》」

 あ、赤くなったチェン。

詠  「そそそそそれは月がこの馬鹿についていきたいって言うから!」
雪蓮 「敵がやってくる場所にまで博光を探しにきたの?」
詠  「うぐっ……そ、そうよ! 恋を追ったのよ! 悪い!?」
恋  「……?」
音々音「なるほど、だからねねたちのあとから現れたのですね?」
中井出「なるほどそっかー」

 皆様が横になってる中で、僕の膝にはそれぞれ、雪蓮と恋が頭を乗せて寝転がっております。
 その周りには動物たちが寝ていて、なんとなく穏やかな気分にさせてくれるのです。
 なもんだから、どうせならと亜人族の皆様や意思の皆様も解放して、この場を賑やかにしてみました。

  ……ヒタリ

真桜  「んあー……? なんや沙和ー……頬叩かんといてぇ……」
沙和  「んー……沙和なにもしてないのー……」
真桜  「……? せやったらこのなんともいえない感触はおぉわあぁっ!!?」
ジークン『ギョオ』
真桜  「ひあーーーっ!? ななななんかヘンなんおるーーーーっ!!」
中井出 「棒人間代表のジークンです。あ、それから皆様にご紹介。
     こちら、僕の仲間の皆さん」
恋   「…………………………《きゅむ》」
中井出 「む? ……おお、ほっほ、別に怖がらんでも大丈夫。皆よい人たちよ」

 急に人が増えたことに驚いたんだろう。
 恋が僕のズボンをキュッと掴んできて、足に頬をこすり付けるようにして見上げてくる。
 そんな彼女の頭を撫でて、隣の雪蓮の頭もついでに撫でる。

雪蓮 「なんか急に増えたわね……騒がしくならない?」
中井出「騒がしいのは嫌いかね?」
雪蓮 「程度と状況にもよるかも。今は静かにしたい気分だし」
中井出「そっか。───つーわけだ貴様らー、とっとと帰れー」
彰利 『い、いきなりなんてひどい!』
藍田 『提督! 意識体の僕らじゃダメっていうの!?』
詠  「うるさい!
    静かにしたいんだからどっか行きなさいよ! 月が怯えるでしょ!?」
彰利 『なんと!?』
詠  「大体あんたたちってこいつのこと忘れて裏切ったやつらじゃない!
    今更こんな風にして目の前に出てきてどういうつもりよ!」
中井出「ターーッ!? 詠ちゃんそれ禁句!」
詠  「だって悔しいじゃない! あんた悔しくないの!?
    あんなに一方的に忘れられて罵倒されて!」
中井出「ぬ、ぬう……」

 詠ちゃんが感情剥きだしで怒ってらっしゃる。
 そんな勢いに飲まれてかからかってか、皆様は“おぼえてろくそー!”と言うと、消えてゆく。

雪蓮 「…………想われてるわね、博光。それはね、誇っていいことよ?」
中井出「そうすか? じゃあ───」

 肩で息をしている詠ちゃんと月ちゃんを灼闇を伸ばしてキャッチング。
 我が胸に引き寄せて、がばしと抱擁しました。

詠  「うあぁあああっ!!?
    ちょちょちょなぁーーーーっ!!? なななにすんのよ!!」
中井出「え? なんか悲しそうな顔してたから抱き締めてみようかと」
雪蓮 「抱き締めてあげようかと、とは言わないんだ」
中井出「なんか偉そうじゃない? だから、“みよう”でいいの」
月  「へぅ……ご、ご主人様……」

 ほぎゃー、と暴れる詠ちゃんと、対照的に自分から僕の胸に自分の頭を委ねるようにする月。
 その二人を恋と雪蓮の邪魔にならないように抱き締めながら、一息。
 やがて詠ちゃんも観念したのか暴れなくなり、再び静かな時間が流れる。

中井出「さて。こんな時にヤボですが」
雪蓮 「ん? なにー?」
中井出「凪、真桜、沙和。……キミたち警備の方はいいの?」
凪  「!!《がばぁっ!!》」
真桜 「うぅあやってもたぁあーーーっ!!」
沙和 「隊長も急ぐのー!!」
中井出「え? 俺?」
凪  「隊長……隊長は我ら警備隊の隊長でしょう」
中井出「アー……」

 そういやそうだった。
 仕方のない……では行きますか。
 雪蓮や恋への挨拶もそこそこに、僕は腰を持ち上げました。
 もちろん両手に抱いた詠ちゃんと月さんもその場に置いて。

中井出「ねね、一緒に来る?」
音々音「ねねに何をしろと言うですかおまえは」
中井出「…………」

 それもそうだった。
 ただあんまりにも恋にべったりでは、あまり息抜き出来ないんじゃなかろうかと思っただけだったんだが……
 ねねにとっては恋と一緒の時こそ息抜きなんだろう。
 そう思うことにして、僕は凪、真桜、沙和と一緒にこの場をあとにした。






18/いろいろなる出来事の先

 ザムゥ〜〜ッ……

中井出「ここが華琳が治める許昌の街か〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
    どおれ今日は大暴れしてやるとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
凪  「隊長。我らの仕事はその暴れるものを治めることです」
中井出「うん解ってる」

 許昌の街をゆく。
 三人はすっかり武装してあり、いつもそうやって街を練り歩いて事件がないかを確認していくそうな。
 ちなみに、兵たちに示しがつかないってことで背は元に戻ってます。

中井出「なかなか賑やかだねぇ」
真桜 「当然やん、ウチらが見回りしとんねやから」
沙和 「とーぜんなのー!」
中井出「で、実際どうなの?」
凪  「サボってばかりです」
真桜 「ああっアカン! 凪、そりゃアカンで……!」
凪  「事実だろう」
中井出「なるほど……」

 なんとなくパワーバランスが解った気がした。

中井出「えーと、ようするにこの街を事件のない穏やかな街にしたいと、そういうこと」
凪  「それは……はい。ですがそれは誰もが願うことで───」
中井出「そうでもないよ。事件っていうのは大体、誰かの油断や注目を集めたい意識、
    極めつけは自分はどこまで出来るのかっていう意識が起こすことだから」
凪  「……油断や注目は……なんとなく解ります。
    しかしどこまで出来るのか、というのは?」
中井出「過去に小さな事件を起こして、けどあっさり捕まった奴が居た。
    でも自分はそんなヤツよりも大きな事故を起こして、捕まらずに居られる。
    そんな馬鹿な考えを起こすヤツは結構居るんだ。たとえば───」

 チラリと正面を見る。
 街の先、ガヤガヤと出来た人だかりを。

中井出「過去の威光に縋らなきゃ偉ぶれないくせに、
    威光の上を行けるって思ってる馬鹿とかね」
凪  「───! なにごとか!」
警備兵「はっ! 黄巾党の残党とぬかす者が、子供を盾にし───」
凪  「なんだとっ!?」
中井出「あーあ……」
真桜 「隊長、ボサっとしとらんとなんとかしよ!」
沙和 「子供を助けるの!」
中井出「まあまあ落ち着きなさい。
    いいか? あーいうヤツは周りが騒いで慌てるのが好きなんだ。
    自分の力だけでこれだけの人数が騒ぐ、っていうのを肌で感じて喜んでる。
    だからな、騒ぐだけ相手を喜ばせるだけだ。
    ……兵士殿、少し頼まれてくれます?」
警備兵「……? なんだお前は」
凪  「本日付けで我ら警備隊の隊長になられたお方だ。口を慎め」
警備兵「! ───し、失礼しましたっ!」
中井出「あぁいいよいいよ。それより……街の人達に壁際に寄るように言っておいて」
警備兵「壁際に……了解しました!」

 お前呼ばわりした不安からか、兵士さんは疑問に思うことなく走り出す。
 そして街の方々を壁際に寄せると…………おー見える見える、確かに頭に黄巾つけてるわ。

凪  「あいつがっ……!」
中井出「はい待って凪。相手は短刀持ってるから、迂闊に刺激すれば子供が傷つく」
凪  「しかし!」
中井出「いーから。まずあの短刀なんとかするから、
    俺が“行け”っていったらすぐ走ること。
    黄巾の馬鹿はほっといていい。子供を助けろ」
凪  「……はっ!」
中井出「よし……そんじゃ───」

 グッ、と腰を落とす。
 そして、真正面……俺達を見てなにか叫んでる黄巾の馬鹿目掛けて、

中井出「───“行けっ”!!」
凪  「!!《ダンッ───!》」

 合図とともに、迷うことなく疾駆する凪。
 その後ろで音速拳で空気を殴り、目には見えない波動を飛ばし───バギャァンッ!!

黄巾党「ぐあぁあっ!!?」

 短刀を持った右手を打ち付け、怯ませる。
 しかしこういう時の敵ってのは、素手になっても子供を盾にするもんだ。
 だから烈風脚で地を蹴ると、先を駆ける凪を一瞬にして追い越し、

中井出「終わりにするぜ───!」

 バゴォオッシャァアアアンッ!!!

黄巾党「げぺぇうっ!!?」

 その顔面にヒートドライブ(炎の轢き逃げナックル)をかまし、空へと飛ばす。
 それにより子供は男の手から離れ、空を少し舞うと───凪の腕にすっぽりと治まった。

中井出「はいお疲れさん」

  ドグシャアッ!!

 パンッ!と手を叩くと同時に、振り向いた俺の後方で黄巾党の男が地面に落下。
 凪が抱きとめた子供の頭を優しく撫でると、

中井出「じゃ、次行こうか」

 と言って歩き出す。
 途端に村人たちが大歓声をあげるけど、捕まるのもなんだし手柄を凪に押し付けて逃走した。

真桜 「…………今、隊長が男に近づいたん、見えた?」
沙和 「……全っ然、見えなかったの……」
凪  「た、たいちょっ……ま、真桜ぉおっ! 沙和ぁあっ! たすけてくれぇえっ!!」
真桜 「えーやん、手柄くれるっちゅうなら受け取ったらな」
凪  「自分は子供を受け止めただけでなにもっ……た、たいちょぉおおおっ!!!」

 もみくちゃにされる凪を後ろに見ながら笑った。
 なるほど、これは案外退屈しないかもしれない。

中井出(にしても、黄巾党の残党ねぇ……)

 そんなもんにすがるくらいなら、自分らで旗揚げして、それこそ悪党名乗ればいいのに。
 ……お? そういや僕、旗の名前決めてないよ。
 あとで雪蓮あたりと相談してみるかな……。

───……。

 そうして許昌での暮らしは進んでゆく。
 警備の仕事はこれで結構街を見渡すには最適で、気づけば結構な月日が経ち───とある日。

中井出「ウムムム〜〜〜ッ」

 警備の仕事が終わったのち、僕と真桜は玉座の間で華琳への報告。
 数日間のうちにあったことを纏めて報告するというのも仕事のうちらしい。
 今までは凪が纏めてやっておいてくれたんだけど、少し前に凪と沙和は別のところへ出撃してしまいまして。
 というわけで初めての定期報告を前に、ガラの通りに緊張しております。
 え? それを言うならガラにもなくだろ、ですって? とんでもない、僕は臆病ですよ?
 などという考えは捨てておいてと。
 現在玉座に座った華琳へ、いろいろな人が報告をしている中……

???「次! 警備隊、前へ!」
中井出「断る!」《どーーーん!!》
???「なっ……!?」
中井出「あれ? ……ゲェエーーーーーーッ!!!」

 つい場の重い空気に耐え切れずに妙な方向に走ってしまいました。

???「あなた! 華琳様の前でなんていう───あ、あぁーーーーっ!!?
    ああああなた……! 以前華琳様の美しい頬を叩いた……!!」

 ざわっ……!!

中井出「ぬ?」

 周りの皆様がざわつく。
 うむ、ここは高らかに名乗りをあげる場面ですか?

中井出「うむ! この我こそが華琳の頬を叩いた天の御遣い! 名を中井出提督という!
    で、貴様の名前は?」
???「殺してやる! よくも華琳様の頬を……!」
中井出「ふむ……姓が殺死で名が手殺流か……すげぇ名前だな」
殺死 「違うわよ!!」
中井出「な、なんだよそんな怒るなよ殺死」
殺死 「ちぃいがうって言ってるでしょ!?
    もういい! 誰か! この者の首を刎ねなさい!」
中井出「……あのー、真桜? 僕報告に来ただけだよね?」
真桜 「せやな……けど大将の頬を叩いたことをよぉ思わんやつってのは、
    やっぱり多くてな……」
中井出「なるほどー……」

 肝心の華琳はどこか愉快そうに笑んでやがります。
 ここに来る前に偉そうなこと言ったから、その仕返しかねぇ。

中井出「……まあ、やるっていうなら相手になるけど」

 コキリと指を鳴らす。
 さて……なんか兵たちがぞろぞろ来ちゃったけど、本気でやるのかね。

兵1 「うっ……!? お、おい、あいつ……!」
兵2 「うあっ……あいつは……!」
殺死 「なにをしているの!? さっさとしなさい!」
中井出「あぁだめだめ。彼ら徐州に乗り込んできたやつらでしょ?
    そいつらに俺は殺せぬよ。
    ……ていうかね、本気で殺したいなら自分で来いこの馬鹿」
殺死 「ばっ……!? この、この私に向かって馬鹿!?」
中井出「お〜お馬鹿だこの馬鹿、お前なに? この国の王にでもなったつもりか?
    華琳の命でもないのに勝手に人を殺そうとして。
    自分の手は汚れないからって好き勝手だなぁ馬鹿」
殺死 「ぐっ……このっ……言わせておけばぁあ……!!」
中井出「失礼な! いつ言わせたままにしといてくれと頼んだね!?
    勝手に苛立つのはよしてもらおう! 不愉快である!!」
殺死 「くっ……くきぃいいいいっ!!!」
中井出「で、華琳〜? 俺の報告は聞いてもらえるんでしょうね」

 殺死手殺流では話にならん。
 だから足を組んで玉座に座る華琳に声を投げると、華琳はフンッて鼻で笑うようにして見下してきて、

華琳 「桂花(けいふぁ)を黙らせることが出来たなら、聞いてあげてもいいわよ?」

 と言いました。
 おおなるほど、黙らせればよいと。

中井出「転蓮華!!(手動)」
殺死 「《ベゴキャア!!》うじゅり!?《……ドシャア》」
中井出「では報告します」
華琳 「ってちょっと待ちなさい!!」
中井出「え? なに?」

 首を捻られ、ドシャアと倒れた殺死手殺流の隣で報告を始めようとしたら、何故か条件を出してきた華琳本人に止められた。

華琳 「なに、じゃないわよ! あなたはいったいなにを───!」
中井出「え? だから黙らせたんだけど……あ、大丈夫。気絶してるだけだから。
    それで警備隊の報告だけどね? ……あれ?
    もしかしてこいつ、ケーなんたらじゃあなかった?」
華琳 「その子は確かに珪花だけどっ……ああもう……!」
中井出「なら安心だねっ! で、警備隊の報告だけどね?」

 玉座の上で頭に手を当てて眉を顰める華琳様に街の状況をご報告。
 あと、ここはこうした方がいいぞ〜という改定案などを幾つか出して、きっちりと話し合ってから終了。

中井出「よ〜しそれじゃ」
華琳 「待ちなさい博光」
中井出「おう?」

 街に遊びに行くとするか〜〜〜〜〜〜〜っ!という時に、ふと華琳に呼びとめられた。

中井出「なに?」
華琳 「…………貴方から見て、この街はどう? もういい加減慣れたでしょう?」
中井出「む……そうさの、強いて言うなら……警備兵が怖い」
華琳 「……怖い?」
中井出「そ。誰も彼もしかめっ面で目ェ光らせて。
    そんなんじゃ街の人達は笑って過ごせぬ。怖いよ、あれじゃあ」
華琳 「警備兵が笑ってたら誰が悪事を止めるの」
中井出「悪党が悪事を働いた時に笑顔をやめればいいことでしょ。
    四六時中しかめっ面されちゃ、守られてる方もなんだか居心地が悪い。
    あとは今のところまだ無いかな。いい街だと思うよ、うん」
華琳 「そう。ならいいわ、下がりなさい」
中井出「押忍。……あ、そうだ。劉備軍があれからどうなったか、解る?
    結局僕、キミたちが徐州に攻めに来て以降、
    あいつらがどうしているのかとかまるで知らんのだよね」
華琳 「…………ええ、解るけど」

 あれ? なんか突然機嫌悪くなった?

中井出「ほほう。したらどうなったのか教え───」
華琳 「何故それを貴方に教えなければならないの?
    貴方はただの客将で、私達とともに戦う気すらないのでしょう?」
中井出「じゃあいいや僕帰るね?」
華琳 「なっ……ちょ、ちょっと待ちなさい!」
中井出「え〜〜? なにさもう。話す気ないんでしょ? いいよもう」
華琳 「駆け引きって言葉を知らないの貴方は……。
    条件次第では教えてあげると言っているの」
中井出「条件? よろしい、言うだけ言ってみなされ」
華琳 「……いい心がけね」

 ニヤリと笑う孟徳さん。
 うわぁ、絶対よからぬこと考えてるよこの人。

華琳 「ではまず一つ。この場に居る全員に真名を預けなさい」
中井出「なんですって!?」

 ざっと玉座の間に居る人々を見渡す。
 転蓮華で気絶してるケーなんたら以外、全員が僕を見てらっしゃる。

華琳 「当然でしょう? 貴方は私の客将なのだから。
    経緯はどうあれ、ここに居る限りは最低限、私の言うことには従ってもらうわ」
中井出「じゃあ僕出ていくね?」
華琳 「だから待ちなさいと言っているでしょう!
    本当に人の話を聞かない男ね……!」
中井出「なんじゃいコノヤロ! 居るだけで命令に逆らえないような不自由な場所!
    この博光が望んで滞在すると思うてか!」
華琳 「そうそう無茶な命令などしないわ。いいから聞きなさい」
中井出「グウウ……!」

 唸りつつも聞く姿勢。
 さて……無茶を言わないと言われても、なにせ相手は孟徳さん。
 僕の警戒心はマックスだぜ。

華琳 「まず、貴方の計画を話してみなさい」
中井出「計画? 押忍。実は拙者、乱世に平和をもたらすことを最終目的にしている修羅。
    天の御遣いとか言われてるけど、ほんとに御遣いかどうかなど知らん。
    しかし他にすることもないので平和を齎さんとしています」
華琳 「暇潰し感覚で平和を齎されても困るのだけど。まあそれはいいわ。それで?」
中井出「押忍。今は仲間を集め、国を立ち上げんとしている最中。
    ……まあ、国なんて作ろうと思えばすぐに用意できるんだけどさ」
華琳 「……そう。では次よ。質問に答えなさい。───貴方は私の敵? 味方?」
中井出「中立者です。攻撃されれば反撃しますよ? 攻撃しないなら攻撃することもなし。
    ただし最終的な用件が受け入れられないのなら、実力行使で解らせます。
    もちろん我が力無しで、対等に」
華琳 「ええ、それは望むところよ。では次の質問。
    貴方はこの世界でやるべきことを終えたらどうするの?」
中井出「さあ。俺自身、どうしてこの世界に来たのかがまるで解らん。
    予想はそりゃあつくけど、あくまで予想だ。元の世界に帰れるのかも解らんし、
    帰ったとしてもなにが待ってくれてるわけでもない……ってわけでもないか。
    帰りたい理由はあるけど、まあ、帰れたらいいなってくらいだね」
華琳 「………」

 俺の言葉に、華琳は“ふむ……”といった感じに、顎に手を当てると訝しむように目を細める。

華琳 「ではこれで最後よ。……現在私達は周国に狙われやすい立場にある。
    西方の馬騰に五胡、益州の劉備に、南の孫権。
    袁紹に縁のあった豪族どもの鎮圧から領内の盗賊討伐。
    今この場にこれだけの人数が居ること自体が奇跡みたいな状況、
    と言えば解ってもらえるかしら?」
中井出「……なるほど、見た目からして軍師ばっかだな。真桜が居るのは?」
華琳 「街の警備兵、という名目にそこまで怯える敵が居る?」
中井出「ワーオ、趣味悪いなぁ。じゃあ今ここに居る華琳は囮ってことか。
    で、攻め入る敵を蹴散らすからついてこい?」
華琳 「その通りよ。現在様々な場所で制圧行動が行われているわ。
    春蘭を始めとした様々な将に討伐に向かってもらい、
    あとはそれを知ってここを狙いに来た敵軍を、各地の将を呼び戻して挟撃。
    これを殲滅する、という考えよ」
中井出「ふむふむ……」

 なるほど、その所為で最近、この城で武官を見なかったのか。
 居るとしたら工作員の真桜くらいだもんなぁ。
 な〜んて思ってる時でした。

兵士 「申し上げます!」
中井出「何事か! 群議中であるぞ!」

 兵士がドタタタと走ってきて、掌に拳を当てての発言。
 それに即答で返してみました。
 いやぁ……やっぱこれって、言うとすげぇスッキリするや。

真桜 「や、あんたが言うなや」
中井出「いや、でも言いたいじゃない? この言葉」
真桜 「ああ、その気持ちめっちゃ解るわ」
華琳 「……そこの二人のことはいいわ。それで、なに?」
兵士 「敵が攻めてきたとの報告! 旗は劉に関に張に趙! 劉備軍かと!」
中井出「なんと!?」
華琳 「へえ……そう。ちゃんと寝首を掻きに来たことは褒めてあげないと。
    出撃の準備をせよ! 戦場は近隣の出城とする!」
総員 『はっ!!』

 鬼の居ぬ間に進撃……悪くはない作戦だが、まさかあの桃香が己から戦を仕掛けようとは。
 これは成長……と呼べるのか。
 それを僕は、“これが答えでいいかしら?”と目で笑う華琳を見ながら思っていた。





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