19/モートクの一日

 で、僕らは出城に居るわけですが……

風  「さてさてお兄さん。お兄さんならばこの戦局、どう出ますかー?」
中井出「やっぱりアレでしょ。散々からかったのちに落とし穴に落とすとか」
風  「むふふふふ、お兄さんもなかなかの悪ですねー」
中井出「グオッフォフォ……!! お手前こそ……!!」

 隣には真名を許しあった軍師の中の一人、程c(ていいく)こと(ふう)がいらっしゃる。
 城壁の上からやあ絶景!と眺めるは、劉備軍の軍勢。
 と、こんなことやってる場合じゃなく。

中井出「やあ華琳! 本営の設営が終わったよ!」
華琳 「ご苦労様。ならすぐに陣を展開させましょう。向こうは既にお待ちかねよ?」
中井出「なんと。どおれ…………ピエロアイーーーーン!!《クワッ!》」

 アイーンのポーズを取りつつ、敵軍の状態を見る。(スナイパーアイで)
 ……おお、おるわおるわ、桃香に愛紗に鈴々に星、朱里に雛里に兵の皆様。
 お懐かしゅうございます。

華琳 「かつての仲間と戦うのは辛い?」
中井出「いやべつに。この博光、敵ならば容赦なく潰します」
華琳 「そう? ならば前衛に立って劉備たちを───」
中井出「や、だから。“俺にとっての敵”なら戦うよ? 敵じゃないなら知らん」
華琳 「なっ……」
風  「むふふふふ……お兄さんも中々深いことを言いますねー」
中井出「深いだなどと、ご冗談を。僕は当然のことを言ったまでですよ軍師殿」
風  「うっふっふっふっふっふっふっふ……」
中井出「ぬっふっふっふっふっふっふっふ……」

 ……ところでこの軍師殿は何故いつもペロペロキャンディーを舐めておるのでしょうな。
 頭に妙なロボみたいなの乗せてるし。
 …………ちなみに名前はカタカナで言うと、南国アイスの伊藤くんが泣いてしまう名前です。
 まあいわゆる……ホウケイ。漢字の書き方は難しかったので覚えることを放棄しました。
 確か“宝”と書いて、“言+慧”ってこんな漢字。
 ごんべんにケイだね。それで宝ャ(ほうけい)。
 ……なんか時々喋ったりしてる気がするんだけど……腹話術、腹話術だよね? ね?

風  「ところでお兄さん。お兄さんは少女趣味だという話を時折耳にするのですが、
    それは本当なのですか?」
中井出「しっ……失礼な!
    僕はただこう、抱き締めたらすっぽりと腕の中に納まる人が好きなだけです!
    ああ、僕のこんな手でも包みこんであげられるお方がいらっしゃる!
    そう思えるから好き………………なんだと思いますよ?」
風  「ふむー、ならば風も狙われてしまうのですね」
中井出「ふむ。では失礼をば」
風  「《すぼっ》……おおっ、風、襲われてしまいました。かくなる上は責任を───」
中井出「責任ってなんの!? 軽く抱き寄せただけだよ!?《ぐいっ!》いたやぁっ!?
    あ、あれちょっ……華琳さん!?
    なんで耳引っ張るの! いたた痛い痛いって!」
華琳 「馬鹿なことやってないでさっさと陣を展開しなさい……!
    敵がお待ちかねだって言ったでしょう!」
中井出「な、なに〜〜〜〜っ! 証拠あんのかこの野郎〜〜〜〜〜っ!!」
華琳 「いいからさっさとするっ!」
中井出「グ、グウウ〜〜〜〜〜ッ!!」

 耳を引っ張られ、抱き締めていた風から無理矢理引き剥がされると、トドメとばかりにケツにヤクザキックかまされて出動。
 これ! はしたない!とか言いたくなったけど、なんか尋常ならざる殺意の波動を放ってたから振り向かずに行きました。最強。

───……。

 そんなわけで───

中井出「やあやあ皆様、こんにちは」
魏軍兵「…………」

 モンノスゲー汚物を見るような目で見られました。

中井出「えーとですね、華琳からのお達しで、陣を展開せよと───」
魏軍兵「警備隊隊長風情が我らに命令か」
中井出「や、だから華琳のお達しで───」
魏軍兵「ふん、知らんな」
中井出「………」

 ……。

───……。

中井出「うわははうわはははぁ〜〜〜〜んっ! かりえも〜〜〜〜〜〜ん!!
    兵のみんなが僕の言うこと聞いてくれないんだよ〜〜〜〜〜〜っ!!」
華琳 「《がばしーーーっ!!》うひゃぁああああああっ!!?
    ちょ、なっ!? 博光!? なななにをいきなり!
    これから戦なのよ!? 状況を弁えて……!!」
中井出「だって兵たちが僕を警備隊長風情とか言って馬鹿にするんだよ!?
    華琳からのお達しだって言ってるのに“知らんな”の一点張りで!」
華琳 「……あなたいったいどんな生活送ってきたの、我が国で……」

 モノスゲー呆れた顔でした。
 でも抱き締めた僕の腕からは逃げようとしないようで、むしろなんか顔が真っ赤です。
 ……あれ? 風は?

中井出「………」
華琳 「……? どうしたのよ」
中井出「いや……華琳もすっぽり納まるな〜って。いやむしろこれは凄まじい抱き心地」

 僕のハートがやさしくトキメケです。
 こう、愛でたくなるような。
 好きとか嫌いとか最初に言い出したのはトキメケチックな話じゃなく、なんていうかそのー、撫でたくなるような。

華琳 「《なでなで》……ちょっと」

 頭を撫でてみました。
 あ……やばいよコレェエ……! なんかすげぇ撫で心地いいよ心にズキュンだよォオオ……!
 し、しかしこの博光はナギーやシードを散々と楽しませてきたりもしたが、こうも撫でたり抱き締めたりはなかった筈。
 なのに何故…………?
 そこまで考えて、僕の頭の中に、なんか意思たちに無理矢理押しやられて出てきた一人の男の姿。

中井出(……ホギーか!!)

 そのあだ名、ロリ道化師ホギー!!
 や、やつか……! やつの潜在能力が武具を通してこの博光に……! も、もはや武具とこの博光は宝殿として一心同体……!
 記憶や経験もさることながら、誰かにやさしくする時の癖なども如実に滲み出し……! さらに言えば俺の知る男連中どもは少年少女に甘く、なにかというと頭を撫でる癖があるのを思い出す!
 うおおこんな罠が! なんという柔らかさだ! じゃなくて!
 ……とそこまで考えて、

???「ちょっと! なにやってるのよ!」

 背後から声。
 振り向いてみれば、ネコミミフードみたいなけったいな被り物と、そのまま寝巻きに使えるんじゃあねぇのぉお〜〜〜?と言いたくなるような、
 そんな服を身に付けたウェーブ軍師が現れた。

中井出「やあ、殺死」
殺死 「筍ケ(じゅんいく)だって言ってるでしょ!?
    それよりも! か、華琳様から離れなさいこの変態!」
中井出「なんだとこのタケノコ」
筍ケ 「筍ケよ!!」

 筍ケの筍って文字、実はタケノコって読めるんだよね……。
 だからタケノコと呼んでます。
 切ってもすぐ生えてくるくらい口やかましいので。

中井出「で、どこ行ってたの? タケノコ」

 と、華琳を離しながら。
 華琳は赤い顔をしてたけど僕のことを押し退けると、毅然とした態度でタケノコを見る。

華琳 「桂花、何事?」
中井出「とうとうメンマの材料になる夢を実現する時が……!?」
筍ケ 「違うって言ってるでしょ!? ちょっと黙ってなさい!!」
中井出「そうか……水煮にされて出荷される方を選んだのか……」
筍ケ 「〜〜〜〜っ……殺す! やっぱり殺してやるこの抱擁魔人!!」
中井出「それが、タケノコが口にした最後の言葉であった」
筍ケ 「死なないわよ!!」
中井出「とまあタケノコも怒ってるようなので、僕もう行くね?」
華琳 「兵すら纏められないのでは御遣いの名が泣くわよ。
    私の名に縋らず、纏めてみせなさい」

 え? いいの?と言いそうになるが、せっかく許可を得たんだから二の言は言わせません。
 僕は、魔法少女プリティサミー劇中の鷲羽・フィッツジェラルド・小林さんのように、ぬおおおーーーーっ!と叫びながら城壁の石垣を越えると、そのまま大地に着地して再び兵のもとへ。

魏軍兵「……? またお前か、目障りだ、失せろ」

 なにを言われようとも無視し、まずは兵どもが一望出来る場所へ行き……ジークフリードを取り出すとそれを老紳士が両手で杖を立てるようにして地面に突き立て、

中井出「整列せぃ!!」

 カリスママックスハート&タイムスリップののちに一喝。
 あとは速いもんでした。
 兵士たちは文句のひとつも言わずに走り出すと、見事なまでの統率力を以って、老体となった我が前に整列した。

中井出「よいかうぬら……これより始まるは戦ぞ。
    この出城には民がおらぬ故、憂いもなく存分に力を振るえるであろう。
    しかし劉備軍は以前とは比べ物にならんほどの力を得ている。
    だが大軍団なにするものぞ。籠城などせず迎え撃ってくれよう。
    夏侯惇を始めとする武官が戻るは明日となる。
    この兵数差で野戦を選ぶは無謀と謳うか? 否なり。
    これしきに勝てぬことで天下など取れるものか。
    ───よいかうぬら! 将ではなく己の力を信じてみよ!
    統率は力なり! だがその統率を崩すこともまた力!
    好機と思わば指示など待つな! うぬらが振りかざすは将の大義ではない!
    ───うぬら自身の命ぞぉおおおおおおおっ!!!!」
魏軍兵『うぉおおおおおおおおっ!!!!』
中井出「まずは孟徳めが舌戦をかけることであろう!
    敵軍からは劉備が出てくる! だがこれを機と思うでないぞ!
    これを弓で射るは邪道でなく外道ぞ!
    孟徳が戻るまでは、たとえなにがあろうと待機せよ!」
魏軍兵『はわぁあああああああっ!!!』
中井出「うむ! では孟徳よ! ヌシの言、しかと劉玄徳に叩きつけよ!」

 叫ぶ兵に背を向け、平野に広がる劉備軍の大軍団を見やる。
 その視界の端から華琳が馬で歩き出て、平野の先からは桃香が。
 ちなみに僕は老人で、しかも服装を変えてあるのでバレることなどありません。

華琳 「よく来たわね劉備。私を狙い、ここまで攻め入ったことは褒めてあげる。
    ……ようやくこの時代の流儀が理解できたようね?」
桃香 「曹操さん……曹操さんたちのやり方は、間違ってます!」
華琳 「…………何を言うかと思えば」

 ハイ……僕もまったく同じ意見です。

桃香 「そうやって力で国を侵略して、人を沢山殺して……
    それで本当の平和が来ると思ってるんですか?
    そんな、力がものを言う時代は……
    黄巾党のあの時に終わらせるべきだったんです!」
華琳 「本当の平和、ねぇ」

 ああいかん危ない危ない危ない……!
 今すぐ舌戦に飛び出たくなる!
 それは間違いである! って!

華琳 「なら、どうして貴女は反董卓連合に参加したの?
    あれこそ袁紹たち諸侯が力で董卓を捻じ伏せようとした……
    ただの茶番劇だったじゃない」
桃香 「それは都の人達が困っていたからです!」
華琳 「都の民の炊き出しをしたいだけなら、別に軍を率いる必要はなかったでしょう?
    それこそ、自分達だけで都に行けば良かったのよ」
桃香 「けど、それだけじゃ意味がないはずです! もっと根本を何とかしないと!
    だからわたしたちは連合に参加して……!」
華琳 「それこそ、貴女の嫌いな武力を使ってね」
桃香 「っ……!」

 あ、負けモード。

華琳 「官は腐り、朝廷も力を失っている。けれど無駄なものは常にそこにあるの。
    それを正し、打ち壊すためには名と力が必要なのよ。
    今、あなたが背負っているような……強く大きな力と、勇名がね。
    ひとつ訊くけど劉備?
    私と話をするだけなら貴女だけがここに来ればよかったんじゃなくて?
    武力を嫌うのであれば、貴女の後ろに居る将や兵はなんだというの?
    使者でも遣わせて話の場を設けることすらしなかった貴女が、
    この軍団を背に力の支配を嫌う? 空言を謳いたいなら余所で願いたいわね」
桃香 「……わたしの背中にあるのは、力なんかじゃない。志を同じくした……仲間です」

 仲間。
 そう口にした途端、弱気だった桃香の目に力が篭る。

桃香 「わたし……仲間ってもっと、気安い相手だと思ってた。
    一緒に笑って一緒に泣いて、ただ一緒の時間を一緒に過ごせる人達のことだって。
    でも、ご主人様が教えてくれた。仲間っていうのはそれだけじゃない。
    気安いだけが、一緒に居て嬉しいだけが仲間じゃない。
    立ち上がる勇気を。立ち向かう勇気を。
    辛いことを共有して、それでも笑いながら背中を押してくれる……
    そんな暖かさが仲間なんだって!」
華琳 「……同じことよ。志を貫くためには力が必要。その力で全ての不条理と戦い、
    打ち壊し、その残ったものからでなければ平和は生まれないわ」
桃香 「違います! ちゃんと話し合えば、
    戦わなくたって理解し合うことは出来るんです!」

 ……残念だが桃香、それは無理である。
 俺は心のなかで首を振った。
 言ってやりたいこと、伝えたいことなど山ほどあるが……それはうぬが自分で考え、現実にぶち当たらなければきっと本当の意味での理解に至らん。

華琳 「…………笑わせてくれるわ。今私が言ったことの、なにを聞いていたの?」
桃香 「え……?」
華琳 「戦う気がないのなら、何故使者を出すなりして話の場を設けなかったの。
    貴女の言う志というのは自分に都合のいいことばかりを人に押し付けること?
    ……貴女があの軍団を率い、許昌を目指さなければ私達は武器を取ることもない。
    貴女が望むだけ、私が許すだけの話し合いは出来たでしょう。
    それで納得するなら良し、納得出来ないのなら……貴女はいったい、
    後ろの軍団になにをさせていたのかしら?」
桃香 「……そ、それは……」
華琳 「力とはそういうものよ。
    相手が拳を握り締めて近づけば、怖くなって殴り返そうとする。当然じゃない。
    貴女はこの乱世に立ち、太守にもなり、そんなことさえ学ばなかったの?
    博光の過去を見て、そんなことさえ学べなかったの?
    理解しなさい劉玄徳。
    武器を向けられ、自分が持つ武器を突き返さないのは死にたい者だけよ。
    刺される覚悟もない者が誰かを刺そうだなんて笑わせる」
桃香 「………」
華琳 「だから私は先に拳を示すの。殴って殴って殴り抜いて、降った相手を慈しむ。
    私に従えば、もう殴られることはないと教え込むの」

 わーお、さすが華琳様。
 正しいこととか無茶苦茶なこととか、無理矢理押し通すほどの胆力をお持ちです。

桃香 「そんな、無茶苦茶な……! そこまでずっと戦い続ける気ですか!」
華琳 「……話し合いで妥協できる程度の理想など、理想とは言わない。
    ええ、博光の言った言葉は的を射ているわ。
    理想を掲げられなくなれば人は人として終わってる。
    でもね、彼が言った理想っていうのはそんなに甘いものじゃない。
    それが叶うまで、それこそ自分の命を張ってでも目指すもの。
    今日を生きるために兵に志願し、
    明日死ぬかもしれぬ我が身を米の一つで繋ぎ止める。
    そんな兵たちを引き連れたことがないとは言わせないわ。
    ……あなたの理想はね、軽いのよ。話し合いで解決?
    それが出来なかったから今この乱世があるのでしょう。
    それが出来ないと思ったから、貴女は軍を率いたのでしょう」
桃香 「そ、それは……!」
華琳 「私の理想はそんな小さなものではないわ。
    私はどうあれ、貴女を叩き潰す。貴女の大嫌いな、力と兵と命をぶつけて。
    貴女はどう? 兵の命は掛けられても、
    自分の命は掛けられない理想を振りかざす?
    それとも今日は帰って別の理想でも振りかざすのかしら。
    貴女の理想の前に私の膝を折らせたいなら、力でこそ立ち向かいなさい。
    貴女の言では私は揺るがない。仲間だ仲間だと唱えるばかりで、
    その実平和という漠然とした名前の理想を目指す志などで───
    この曹孟徳が屈するなどとは笑わせる!!」
桃香 「っ!!」

 言ったね。
 ……うん、言ってくれた。
 俺が言いたいことは大体言ってくれました、華琳さん。
 ……さ、桃香。お前はどうする? どうしたい。
 逃げ帰るか? それとも───

桃香 「…………この兵力差で……曹操さんは本当に勝てると思ってるんですか?」
華琳 「ふっ……負ける戦はしない主義よ」
桃香 「曹操さん。もしここで降参してくれたら……貴女の国は、貴女に任せてもいい、
    そう思ってるんです。だから……降参してください」

  ───ブチリ。

 あ、あらやだ?
 なんか頭の奥でなにかがキレ───いや落ち着け俺!
 ここで暴走してもなにも変わらん!!
 成長を! 成長を見守るのだ!!

華琳 「空言は加減を誤ると不愉快でしかないわよ劉備。
    武力を嫌いながら兵数を盾に降参を促す気? そんなのじゃ私が納得しないわ。
    ……言ったでしょう、私を納得させたいなら力ずくで叩き潰しなさい。
    貴女の前に私を跪かせることが出来たのなら、
    殺すなり貴女の理想に従わせるなりすればいい。
    でなければ、私は明日にでも貴女を裏切り全力で貴女の城を潰すわよ」
桃香 「……、…………解りました。戦いたくはないけれど、私は貴女を叩き潰します。
    それで……納得してくれるんですね?」
華琳 「ええ。知略と力、そして互いの信念を存分にぶつけ合いましょう。
    もしここで力尽きたとしても、私は貴女を一片たりとも恨みはしないわ」
桃香 「……はい」

 ……それで、舌戦は終わった。
 華琳は帰ってくるなりどこか楽しげな表情で、

華琳 「ひろ───誰?」

 僕を呼ぼうとして停止。
 うんうん、突然ダンディーな僕がこんなところに居たら、そりゃ驚くよね。
 ちなみに僕の姿ときたら、思いっきり兇國日輪守我旺(きょうごくひのわのかみがおう)です。

中井出「博光であるが、桃香の手前、このような格好をしておる。
    この姿の際は姓を兇國、名を日輪守、字を我旺と呼べぃ」
華琳 「……そう。ならば我旺! 全軍を展開するわよ!
    弓兵を最前列に! 相手の突撃を迎え撃ちなさい!」
我旺 「うむ」
華琳 「第一射が終わったら、左右両翼は相手を霍乱なさい!
    その混乱を突いて、本隊で敵陣を討ち崩すわよ!」
筍ケ 「御意!」

 ……おや? タケノコさんいつの間にこんなところに。

我旺 「フフ、では私も出るとしよう……腕が鳴るわ! フハハハハハハハ!!!」
華琳 「…………」
我旺 「ぬ? 何用ぞ、華琳よ。うぬは前曲の指揮をとるのだろう。
    皆待っておる。うぬはうぬの仕事をせよ」
華琳 「あっ……そ、そうね……《かぁあ……》」

 ふむ、なにやら顔が赤いが、まあ平気であろう。

華琳 「聞け! 勇敢なる我が将兵よ!」

 促すや、華琳が兵たちに絶叫を叩きこむ。

華琳 「この戦! 我が曹魏の理想と誇りを賭した試練の一戦となる!
    この壁を越えるためには、皆の命を預けてもらうことになるでしょう!
    私も皆とともに剣を振るおう!
    死力を尽くし、ともに勝利を謳おうではないか!」

 それとともに、敵陣が絶叫を上げ、動き出す。

筍ケ 「敵陣、動き出しました!」
華琳 「───これより修羅道に入る!
    全ての敵を打ち倒し、その血で勝利を祝いましょう! 全軍! 前進っ!!」

 そしてとうとう、戦が始まる───!!

───……。

  うぉおおおーーーーー……!!
  ぐあぁああっ……!!

 兵と兵がぶつかり合い、絶叫が木霊する。
 血が飛び肉が飛び、命が飛ぶ。
 決して殺し合いが好き、というわけでもない。
 だが取られんとする命くらいは守ってやりたいと思うのは、俺自身のエゴだ。
 もちろん、俺自身の命を守るという意味で。

我旺 「弱い弱い弱い! 弱すぎるわうぬら!!
    雑兵がいくら束になろうが我には届かぬ! 失せるがよい!!」

 十字の槍“鬼十字【四法印】”を振るい、突くのではなく払うことで兵どもを一掃する。進む足は歩のまま、激戦の渦中へと身を投じつつ、荒ぶる敵の幾数千を払ってゆく。

我旺 「雑魚は下がるがよい! 我が相手と見做すは強者のみぞ!
    誰ぞおらぬか! 日輪が覇王はここにおるぞ!!」

 ……それはいいんだけどね?
 日輪の輝きを背負ってからどうも、心が昂ぶって仕方ないんです。
 ええ、どの意思の影響か、なんて……言うまでもないよね?

星  「フッ、ではその腕、この趙子龍に向けて振るってもらおう!」
我旺 「ム……」

 兵が吹き飛び叫ぶ中、兵を掻き分け現れるは趙子龍。
 馬より華麗に下り立つと、一見するとロンギヌスの槍に見えなくもない槍を構え、この我旺を見据えてくる。

我旺 「楽しませてもらえることを願おう……我が名は兇國日輪守我旺!!
    うぬの力、存分に披露されませい!!」

 もはや戦局はこちらの不利。
 このまま続ければ負けは見えている……が、俺は俺で楽しませてもらおう。
 ……華琳が負けそうになるその時まで。

星  「はぁあああっ!!!」

 星が踏み込み、まずは払い。
 それを寸前の距離を引くことで避け、しかし後ろに下がる動作を狙った疾駆からの打突が瞬時に俺を襲う。
 それを鬼十字で弾き、次いで放たれる連突をひとつひとつ素早く払ってゆく。
 この連突ののちに星は隙を出しやすいが───どうやらソレは改善されているらしく、連突の終わりに払いが放たれ、それをやり過ごした時には相手の距離が再び保たれていた。

我旺 「ふほほははははは……!! やりおるわ、女」
星  「底意地の悪い主にしごかれたのでな。
    あの方以外に負けることを、もはや私は良しと思わないらしい」
我旺 「ほう……ではその志、この我旺が打ち砕いてくれよう」
星  「…………やれやれ。
    こうも強者が居る世では、おちおち修錬に手を抜くことも出来そうにない」

 ここに来てようやくまともに槍を構えた俺を見て、星はごくりと喉を鳴らした。

我旺 「さあ! 始めようではないか!
    うぬが力、うぬが誇り! 見事我を越えてみせよ!」
星  「っ……! ここは私に任せ、兵は城を落とすことに専念せよ!
    勝利はもはや我らにあり!」
劉備軍『うぉおおおーーーーーーっ!!!』

 兵たちはもはや、この我旺に見向きもせずに突撃してゆく。
 その、流れるように進む人垣を横目に───

  ガガガァンギィンガァンゴギィンッ!!!

星  「くっ! うっ! くはっ……!!」
我旺 「どうした女よ! うぬが力! うぬが誇りはその程度か!」

 力任せに鬼十字を振るい、星を圧してゆく。
 その度に星は顔をしかめ、距離を取るが───

星  「なんと重い一撃……。
    よもやこれほどの使い手がまだこの乱世に燻っていたとは……」
我旺 「燻っていたのではない、時を見ていたのよ。
    月の世を照らすが日輪の働き。その月が何処に昇っているのか。
    それを見極めるため、我は時の流れに座していたに過ぎぬ」
星  「ほう……ではその月とやらが曹操殿だとでも……?」
我旺 「違うな。我は月が見つかったなどとは口にしておらぬ。
    呉、魏、蜀、西の馬騰に五胡、どれを見上げたところで月にも夜にも出会えぬ。
    ならばこそ撃を交え、眠りし力を引き出し、月にすることこそ我が務め。
    うぬが、我が主こそが月であると謳うのならば刃を翳すがよい!
    劉備という娘では月にはなれぬ! ならばうぬら家臣が月となり刃となり、
    やつの目指す理想の高みへと至るべきである!」
星  「フッ……そんなことは───解っている!」

 フォギィンッ!!

我旺 「解っているのとやろうとしないのとでは違う!
    人のやさしさを眩しがり、戒めるべきを戒めぬのでは仲間である意味などない!
    理想とは夢物語で終わらせていいものなどではないわぁああああっ!!!!」

 ルヴォバギャァンッ!!!

星  「がぁっ……!?」

 再びの力任せ。
 剛腕にて振るわれた鬼十字が星の槍を弾き、空へと飛ばす。
 やがてそれは地面に突き刺さり、武器を失った星はこの我旺を前に愕然とする。

我旺 「趙子龍といったな……命までは取りはせぬ。…………うぬに問おう。
    うぬは劉玄徳が築く未来になにを見た」
星  「……民の、そして将の笑顔だ」
我旺 「……ならばよい。槍を拾い、向かうがよい。我は我で好きにさせてもらおう」
星  「なに……? 貴殿は曹操殿の将では……」
我旺 「言った筈であろう、この我旺、未だ月を探す修羅。
    誰が築く枝にも留まりはせぬ夜の鳥、夜凰よ。
    ……また見えることもあろう、それまでに腕を磨いておくがよい。
    立ち向かう意思があれば、いつでも相手になろう」
星  「………」

 そう言い遺し、兵の波へと姿を消す。
 星は……槍を拾いはしたが、この我旺を追うことはしなかった。

───……。

 ドガゴシャドッパゴッパザゴォッパァアアアアンッ!!!

兵士 『ぐぎゃぁああああああああっ!!!!!』
桃香 「───!? え……!?」

 そうしてこの我旺が辿り着いた場所。
 それは劉備軍の本陣にして、桃香が居る場所。

劉備兵「りゅ、劉備様! お逃げくださ《バァン!》あべし!」

 群がる兵士を武具で、時には手で払い除け、真っ直ぐに本陣本拠へ。
 その途中、鈴々が立ち塞がるが───

我旺 「ほう。うぬのような童が大将を守っておったか」
鈴々 「お姉ちゃんには指一本触れさせないのだ!」
我旺 「ほほう? ふむ……それは中々楽しみだが……」
桃香 「───貴方は……?」

 怯えた表情で、しかし毅然と振舞おうとする桃香が、俺に質問を投げかける。

我旺 「我は兇國日輪守我旺。東方の国より日輪を掲げ、月となる国を探す一人の修羅よ。
    今は魏の国に厄介になっておるがな」
鈴々 「───! 敵なのだ!」
我旺 「ああ、敵である。ただし、うぬが我に刃を振るった瞬間にだ」
鈴々 「……敵じゃないのか?」
我旺 「さてな。だが、用も無しにこんな場所に来たりなどはせぬ。
    ……劉玄徳よ。先の曹操との会話、しかと聞かせてもらった」
桃香 「……!」
我旺 「だが……うぬの理想には真実味がない。
    うぬは今まで、話し合いだけで済ませた戦がただの一つでもあったのか」
桃香 「…………それは」
我旺 「民とは太守がすることを見ているものだ。
    口ではどうとでも言えよう、そこに真実のひとつでもなければ、
    命を賭す民も兵も、死にゆくものたちも哀れというもの」
桃香 「〜〜〜〜……」

 桃香は今にも泣きそうだった。
 だが、それでも伝えるべきは伝えよう。

我旺 「甘い考えではある。だが全てが間違いだ、などとは謳わぬ。
    うぬにはうぬの目指した理想、こうなればいいと思った理想があったのだろう?」
桃香 「…………は、い……」
我旺 「ならば良い。だが忘れるな。
    うぬに譲れぬ理想があるように、曹操にも、孫権にもそういったものがある。
    己の理想がこうだから、という理由で自分の理想を押し付けられ、
    それを嫌がるのは誰もが同じ。
    うぬは話し合いで平和に解決をしたいと願い、旗を上げ、将が、兵が集った。
    曹操とて乱世を治めるにはまず力が必要と考え、旗を上げたのだ。
    ……よいか、劉備よ。うぬの理想だけが正しいと思い込むな。
    皆にも皆の考えがあった上で現在があるのだと思え。
    それを忘れず、なおも理想を追えるのならば、うぬは善き太守となろう」
桃香 「兇國さん……」
我旺 「曹操のことをあまり力任せだ、人を殺したと言ってくれるな。
    あれでなかなか重いものを背負っておる。
    己が統一し、いずれ守らんとする者を殺しておるのだ。平気な筈があるまい」
桃香 「あ…………」
我旺 「悪は誰の心にもあると知れ。正義を振り翳す者は正義ではなくなる。
    なぜならば、口で正義を唱えしうちは正義であっても、
    それが力に変わり、なにかを討ち滅ぼさんとするのなら、
    それは相手にとっての悪だからである。……絶対正義など存在せぬ。
    だがそれでも正義を名乗りたいのなら、
    己以外の全てを否定することはやめるのだ」
桃香 「………」
鈴々 「んー……よく解らないのだー……」

 俯く桃香に背を向け、歩き出す。
 兵が通せんぼをするが、それを眼光ひとつで開かせた。

我旺 「ゆめゆめ忘れるでないぞ。義は内にあればこそ義。
    外に出ずれば己側以外にとっては悪にしかならぬ」

 ……さて。
 そろそろ僕らの大将が大変なことになってる頃でしょう。
 覇道を目指すあまりに無茶がすぎるちびっ子大将を叱ってやらなきゃな。

───……。

愛紗 「はぁああああああっ!!!」

 ガギィンッ!!

華琳 「くぅっ……!!」

 で、辿り着いてみれば……あろうことか華琳は愛紗と戦っていた。
 兵の数も圧倒的に少なく、潰されるのは目に見えて明らか。
 ……だが、生憎と今はうちの大将だ。
 こんなところで死なれては困る。

愛紗 「貰ったぞ! その首級───《ぞくぅっ!》───!?」
我旺 「……そこまでだ、黒髪の娘よ」

 幾合も受けたためだろう。
 もう武器……鎌を持ち上げる握力も残っていなかった華琳へと、トドメの一撃を仕掛けた愛紗に殺気を投げかけ、それを止める。

愛紗 「貴殿は……?」
我旺 「我は兇國日輪守我旺。この乱世に日輪を翳す修羅である。
    悪いがその娘は殺させぬよ。今はまだ時ではない、下がるがよい」
愛紗 「なにを馬鹿な! これほどの機を前に、退けるものか!
    邪魔をするのであれば───貴様を斬る!」
我旺 「ほう……」
華琳 「っ……なにをしているの……! これは私の戦いよ!
    それを貴方は勝手に割り込み侮辱する気!?」
我旺 「覇道を盾に意地を張る小娘がよく吼えおるわ。
    曹操よ、うぬも下がるがよい。これ以上は兵を無駄死にさせるだけぞ。
    城へ戻り、守りに専念するがよい」
華琳 「なっ……いやよ! あの甘い小娘の理想の前に膝を折れというの!?
    冗談じゃないわ! そんなことをするくらいなら───」
我旺 「……退け、と言った。頭を冷やせ、馬鹿者め。
    うぬのつまらぬ意地のために、兵を死なせる気か?
    今一度本気で叱られたいのであれば、次はその刃を我に振り翳すがよい」
華琳 「!! ……、……」

 俺の言葉に、少なからず動揺する華琳。
 それが鎮火となったのだろう。
 華琳は小さく息を整えると、誰の物とも知らぬ馬に跨り、城へと退いてゆく。

愛紗 「なにっ!? 待て曹操! 貴様逃げる気か!!」
我旺 「退くことになにを恥じ入ることがあろう。
    退くこともまた勇気。退くこともまた策。
    もとより兵力兵数において不利は当然。……さて、関雲長。
    ここより先に行きたくば我を倒してからにするがよい。
    もはや本陣にも攻め入った。趙子龍も討ち負かした。
    うぬが心配する憂いはなにもない。全力で、来るがよい」
愛紗 「なっ───んだと……!? っ……桃香様!」

 …………攻撃など仕掛けて来ない。
 愛紗は迷うことなく踵を返すと、兵を引き連れ後退を開始。
 体勢を立て直す気なのだろう。
 もしくは……まあこれで終わるってことはないだろうけど。

───……。

 んで……

華琳 「………」
我旺 「《む〜〜〜〜ん》」
華琳 「ご…………ごめん、なさい……」
我旺 「……うむ」

 城の城壁で、僕は謝る華琳の頭を雄々しいお手手で撫でてました。

我旺 「うぬの悪いところは頭に血が上ると力任せになりすぎるところである。
    兵はうぬの駒ではないとあれだけ申したであろうに」
華琳 「うぅ……わ、悪かったわよっ……!」
我旺 「どれだけなにを言われようとも、ここで死んでは意味がない。
    負けというのはな、華琳よ。
    信念を打ち砕かれ、心が敗北を確信した時のことを言うのだ。
    負けてはいない、まだやれると思っているうちは、負けてなどいないのだ。
    何故なら、生きていれば、動けるのならば、まだやれることがあるからである。
    そして、うぬの天命、このような場で朽ちるものではないと知れ」
華琳 「あら、それは当然《びしっ!》いたっ! 〜〜……な、なにをするのよっ!」
我旺 「既に真桜に別の作戦を指令してあるわ。
    うぬは王者然としていればよいが、図に乗りすぎるでないわ、このたわけめ」
華琳 「…………何故この私がこんな……」

 叩かれた額を撫ですさりながらも、華琳は気を取り直して構える。
 既に兵は城の中へ非難させ、城門も閉じてある。

我旺 「では手筈通りにせい。カラクリの動かしかたはその紙に書いてある通りである」
華琳 「貴方は?」
我旺 「我は鼠の駆除をしてくるわ。
    使われていない水路があるのでな、連中がそこを狙わずに居る道理もない」
華琳 「……そう」

 少し寂しそうな声を残し、華琳は城壁から平野を眺めた。
 兵を削れたとはいえ、その数はやはり圧倒的。
 残った兵でどれだけ上手くぶつかろうとも、負けは確実だった。
 ならばどうするか。
 ……援軍を呼べばいいだけのことよ。

───……。

 ばごしゃどっごぉおおおおおんっ!!!!

鈴々 「にゃーーーーーーっ!!!!」
星  「くあぁあああっ!!!!」

 そうして水路に辿り着くや、ここを伝って潜入せんとしていた鈴々と星をブチノメし───ドッペルさんにその場を任せ、次いで放たれた火矢による災害を失くすために奔走。

魏軍兵「ひ、火がっ……うわぁあーーーーっ!!」
筍ケ 「ちょっと! 慌てる暇があったら鎮火を───」
我旺 「狼狽えるでないわぁっ!!」
魏軍兵「ひっ!《びくぅっ!!》」
我旺 「燃えたのならば消せ!
    死にたくないならば生きる方法を探し、最善を手に入れてみせい!
    よいか! ありったけの布を用意し、水で濡らし、鎮火に励め!
    兵糧などは絶対に燃やさぬようにせよ!」
魏軍兵「は、はっ!!」

 次いで騒がしくなる城壁へと上ると、落下式丸太カラクリでは撃退出来る工作兵に限りが出始め───

風  「困りましたねー、兵の手が足りません……」
我旺 「状況はどうであるか」
風  「さすがに数の暴力には勝てませんねー……頑丈な縄で括られた丸太でしたけど、
    趙雲さんの一撃の前に簡単に切られてしまいましてー……」
我旺 「ぬう……!」

 そうか、あれがあった。
 星の槍は猫達が鍛えた武器。
 そんじょそこらのヤワな武器や防具、縄など簡単に破壊されてしまうものだ。

風  「お兄さんは戦わないのですか?」
我旺 「手助けならばほどほどにしておるわ。だがこれは華琳が選びし覇道。
    選んだ道には責任が付き物ぞ。ここは華琳が乗り切るべき試練なり」
風  「……それもそうなのかもしれませんねー。
    ところでお兄さん、少し見ないうちに老けましたか?」
我旺 「うむ。この博光は自由に己の時を変えられる故、今現在は我旺と名乗っておる。
    なんなら華琳を綺麗なお姉さんに成長させてみようか?」
華琳 「やめなさい」

 即答で断られました。
 そんな状況に苦笑しつつ、僕は僕にシャキンと戻る。

中井出「はふぅ。しかし偉そうに喋るのって疲れるね」
華琳 「王の器ではないからじゃないの?」
中井出「そうだね」
風  「あっさり認めちゃいましたねー」
中井出「それより華琳。あちらこちらから敵兵が上ってこようとしてるんですが」
華琳 「からくりが破壊され尽くした上に兵が少ないのよ……。
    それに、貴方は戦ってはくれないんでしょう?」
中井出「うむ。これは華琳が越えるべき試練だ。でもまあ、なんとかなるよ」
華琳 「なんとかするのよ。なる、なんてものを待っている時間はないわ」

 ふむ。
 しかし時には待つことも大事。
 何故なら既に───おっ、来た来た!

中井出「華琳、全軍突撃指令、出せる?」
華琳 「……正気? この状態で突出すれば敗北は免れないわよ?」
中井出「まあまあ。真桜が上手いこと誘導してくれたから。
    もっとも、こちらの状況を伝えに行っただけ、だけど。
    しかしこの状況は、キミへの信頼が生み出したもの。誇るべきですよ、華琳」
華琳 「……? なにを言っているの? 解らないわ」
中井出「えー……ではあちらをご覧ください」
華琳 「……? ───……砂塵?
    春蘭たちが来るには早すぎる……まさか敵の援軍!?
    ……い、いえ。だったら貴方が突撃指令なんて言う筈がないわね。
    なら───信じて、いいのね?」
中井出「信じる信じないは自分で決めなきゃダメ。
    俺はどんな時でも平気で人をからかうから、案外ウソかもしれんよ?」
華琳 「ええそうね。けど貴方は人の命がかかっている時に、
    そんな笑えもしない冗談は言わない。そうでしょう?
    ───聞け! 皆の者! 各地に出向いた将たちが戻ってきてくれた!
    これを機とし、敵軍を挟撃するものとする!!
    皆疲れているだろうが、ここは耐えよ!
    乗り切るための力を我に貸してほしい!」
中井出「…………」

 うむ。
 頷くと同時に、残った兵が絶叫を上げ、一斉に矢の雨を降らせる。

中井出「……っと、こんなところに居ると愛紗たちに見つかるな。
    じゃ、それじゃあ僕下がるね?」
華琳 「あら、それはだめよ。
    戻ってきた凪や真桜や沙和は、いったい誰が迎えてあげるの?」
中井出「任せました」
華琳 「任されないわよ。ちゃんと迎えてやりなさい。
    …………だから、それまで。ちゃんと私の傍に居なさい」
中井出「断る」《どーーーん!!》
華琳 「…………《チャキリ》」
中井出「鎌向ける相手、間違えてません!?」
華琳 「…………今一度言うわ、博光。
    私は私が欲しいと思ったものは、必ず手に入れてきた。
    だから、貴方もいつか必ず私のものにするわ」
中井出「風、誘われてるぞ」
風  「……ぐぅ」
中井出「寝ないでぇええっ!!」
風  「おおっ? なにやら私の存在が空気と化していたので、ついうとうとと……」
中井出「だとよ。───ってヒィだから鎌突きつけないでってば!」

 兵士がハワーと奮戦するなかなにやってるんでしょうねぇ!
 とか思っているうちに惇さんや淵さんを始めとした魏の将は挟撃を始め、その中に凪や沙和、真桜の姿はもちろん、霞などの姿を認めるや、僕は再び我旺に。
 ここで手ェでも振られたらほんとにバレます。だからバレないように我旺。

我旺 「なんとか出来たねぇ。よし、それでは風よ。
    この場は華琳に任せ、我らも出入りじゃ!」
風  「それは風に死ねとおっしゃってるのですか?」
我旺 「ふははははは!! この日輪の輝きがある限り我は負けぬ!
    安心して我とともに来るがよいわ!」

 がーーっはっはっはと笑いながら、風を肩に座らせると歩きゆく。

風  「……日輪、ですかー……」

 なんぞか風がこぼした気もしたけど、気にしないことにしてGO。
 そうして始まった乱戦バトルは、意外にも、というわけでもない……桃香の撤退命令であっさりと終了。
 惇さんとか霞あたりの血気盛んな皆様が追撃志願をしてきたけど、全滅させるまで帰ってきそうにないからと、率いる将を淵さんに任命することで許可が下り、嬉々として皆さん突撃していった。






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