20/羽根を休める場所

 ゴゾォオオ……!!!

中井出(UREEEYYYYY……!!)

 やあ僕博光。
 今日はそう、蜀の国からお送りするよ?
 許昌の戦いからしばらく、華琳たちが大所帯で涼州に行ってしまったもんだから、許昌に残っててもあんまり面白くなかった。
 警備の方は警備兵にやらせてあるし、他にすることもなかったし。
 涼州の馬騰は一度見てみたかったけど、それよりも少々桃香の様子が気になったもんで。
 蜀の国とはいっても、桃香が蜀を治めているわけじゃない。
 現在は益州という場所を桃香は治めていて、これから……えーと?
 ……やっぱ三国志は解らん。

中井出(馬騰とかは知らんけど、馬超を知ってるのは知名度の差なのかな)

 やっぱり解らんけど。
 これからだっけ? 馬超とか黄忠とか厳顔とか魏延を仲間にするのって。
 あ、あと確か猛獲とかも。
 南蛮には像が居るんだろうか。
 居るなら是非乗りたいね。
 居なかったら悲しいね。仕方ないね。

中井出(そんなわけで僕は益州、劉備軍が停滞する場所に来ているのですよ)

 劉璋さんの風評が悪すぎたことも手伝ってるんだろうね。
 桃香は民に受け入れられているらしく、中々のペースで蜀という国を治めていっているようだ。
 今日はそんな桃香さんの部屋へと潜入してみました。

中井出(ジョワジョワジョワ、暢気に寝てやがるぜ〜〜〜〜〜〜〜っ!)

 まだ日も高い昼。
 何故寝ているのかといえば、なんでも風邪を召されてしまわれたんだとか。
 朱里と雛里が話しているのを天井で聞いたから間違いねー。
 いやぁしかしスリリング! これ面白いよ!
 誰にも見つかることなくここまで来れたこと、とても嬉しゅうございます。
 そんなわけで天井から離れ、スタッと床に足をつけると……寝苦しそうにしている桃香の顔を覗き見て、ひとまずは一息。

中井出「……どうせまた徹夜で書類整理してたんだろ」

 林檎は……と探すが、ないらしい。
 仕方なし、林檎を栽培して手元に弾きだすと、それを剥き、擂っておろし林檎にする。
 寝てるから飲ませようがないけど。

桃香 「……ご…………ま…………」
中井出「?」

 ふと、桃香がなにやら寝言。
 ゴッドマンとでも言ったんだろうか、ちょっと気になったので聞き耳を立てる。
 と───

桃香 「ごしゅじん……さま……」
中井出「………」

 なんか呼ばれてました。
 しかもその目からは涙が。
 ウ、ウムム〜〜〜〜〜ッ! こ、これはどうしたものか〜〜〜〜っ!

桃香 「がん、ばるから……強く……なる、からぁあ……っ……!
    置いて、いかないで…………置いて……………ご主人様ぁあ……!」

 …………あのー、なんかすげぇ罪悪感溢れる寝言なんですけど。
 だがこの博光も考えあってのこと。
 一呼吸置くと、寝苦しそうに涙する桃香の頭を優しく撫でてやる。

中井出「……置いていったのではないよ。ただ、学んでほしかったのだ。
    平和の意味を、戦いの意味を、敗北の意味を。そして……理想の意味を。
    ……お前は民に、将に愛されている。でもな、その愛に甘えすぎるな。
    戦う力がないのだから、頼るだけしか出来ないのかもしれない。
    だがな、桃香よ。いつかお前にも剣を持たなきゃいけない時が来る。
    剣を手に、敵と向かい合わねばならぬ時が来る。
    その時のため、キミは鍛錬をしなさい。
    武力を鍛えることなどお前には辛いことかもしれないが、
    お前にはお前を信じる兵や将、民たちの思いがある。
    お前の言うそれが“守るべき力”なら、
    武力を振り翳すためでなく、民を守るための力を手に入れなさい。
    守ってもらうばかりではない……守れる自分になりなさい」

 額にかかった髪を分け、梳いてやり、額の汗を布で拭き取る。

中井出「……早く良くおなり。理想の大きさに潰されることのないよう、大きくおなり。
    これからお前の国はもっと大きくなるぞ。
    お前はそんな国の民の期待を背負うんだ。
    いつか、その理想はお前だけの理想じゃなくなる。
    そうなればきっと、みんながお前に力を貸してくれる。
    いつか話したみたいに、お前の特別になってくれるよ。
    だから……桃香。もっとみんなの特別になれる自分を目指せ。
    与えて貰うだけの自分なんて置いていってしまえ。
    そしていつかお前の言う天下が目前に迫った時。
    そのいつかにお前の理想をぶつけてくれ。
    ……俺も、その場に立っていられるよう頑張るから。
    その時、俺の理想と桃香の理想が同じだったら、
    きっと一緒に頑張ることも出来るさ。
    お前の理想通り、言葉だけで争いを治められる。
    ……そのためにこうして離れるに至るのも、相当顰蹙買っただろうけどさ」
桃香 「…………っ……」
中井出「……頑張れ、桃香。お前はお前の理想で、この乱世を平和に導け。
    みんな、やり方は違っても平和を願ってる筈だから。
    そんなやつらが無駄な血を流したいだなんて、思ってる筈がないんだから」

 悪い夢でも見ているのだろう。
 溢れる嗚咽で呼吸に苦しむ桃香の頭を、落ち着くように撫でてゆく。
 この部屋を緑の香りでいっぱいにして、心安らぐように。

中井出「華琳は……自分の理想がどれほどの力を持っているのか、
    示してやらないと納得出来ないのかもしれない。
    その時は、ちゃんとぶつかってやれ。あいつは言葉が欲しいんじゃない。
    自分の理想を諦めて託せるほどの相手なのか……それを知りたいんだ。
    だから、沢山思いをぶつけろ。沢山力をぶつけろ。
    その思いが、力が届いたなら……あいつも解ってくれるから」

 涙が溢れていた。
 寝ながらこんなに泣けるってすげぇなぁと思いながら、その涙を布で拭って……そんな時に、この部屋へ向かって歩いてくる気配を感じると、最後に。

中井出「───たとえいずこにあれど。ゆかしき喜びが……あなたとともにあらんことを」

 風邪が治りますようにと、念を込めたマナを込めて桃香の額を撫でる。
 それとともに転移を発動させると、その場から退場する。
 口にした言はおまけだ。
 いつかドリアードにもらった言葉、アーチェを。
 何処に居ても、喜び合う気持ちは一緒であろうと。
 桃園の誓いを思い、届けた。

───……。

 ガヤガヤガヤ……

老興 「ジョワジョワジョワ、賑やかなところじゃねぇか〜〜〜〜〜〜っ!」

 そんなわけで桃香の寝室を後にした僕は現在、老人に扮装して街に居ます。
 なにをしているのかって? ……なんだろねぇ。

老興 「ジョワ?」

 ちなみに名前は“ご老公”の名前をとって、呉・老興といいます。
 そんな僕が人の波の中で見つけたのは……雛里?
 なんかキョロキョロ辺りを見渡しながら歩いてる。
 ……ていうか流されてる? もしかして道に迷ってる?

雛里 「うぇええええぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…………」

 ていうか今にも泣きそうですが。
 子供みたいに涙目で周りを見渡す姿を確認しました。
 でもすぐに人の波に飲まれます。ちっこいしね。

老興 「雛里〜〜〜っ?」
雛里 「ご主人様ぁぁぁあ〜〜〜〜〜〜……」
老興 「ジョワ!?」

 しまった! 俺今変装してるんじゃん!
 声なんかかけたら見つかって───

雛里 「ぐすっ……ご主人様ぁああ〜〜〜〜……」
老興 「ジョワー!? い、いくでない! これっ!
    雛里!? 雛里ちゃーーーん!?」

 どうやら独り言だったらしく、涙を浮かべたままに再び人の波に消えてゆく。
 ぬ、ぬう……こりゃほっとくわけにもいくまいよ……。
 ていうかなんでご主人様言ってるの? ここに僕が居ることがバレてるわけでもあるまいに。

老興 「ジョワジョワ見てられねぇぜ」

 これは助けてやらねば。
 お子の涙にゃ弱いが、雛里の涙にはもっと弱い…………こんにちは、博光です。

雛里 「はあぁぁ〜〜〜〜、ううぅ〜〜〜〜〜……」

 と、人の波に飲まれて移動させられている雛里を追って次の通りへ。
 するともはや爆発寸前の雛里さんを発見。

老興 「雛里っ!」
雛里 「はっ!?」

 賑やかなる人の波の中では、小さく呼びかけたって届きやしない。
 だから少々強めの声で呼びかけると、その背中がビビクゥと硬直して……アレ?
 なんかとても嫌な予感が。

雛里 「ごめんなさっ……ふえぇえええええ〜〜〜〜〜んっ!!」
老興 「い、いくなぁあーーーーーーーっ!!!」

 予想通り逃げ出す雛里さん。
 ってなんで逃げるの!? なんで謝るの!?
 ええい埒もなし!

老興 「トタァーーーーッ!!!」

  シュババッ───ガバシィッ!!

雛里 「ふえっ!? あわわぁ……っ!!」

 人の波を華麗に潜り抜け、雛里さんをキャッチング!
 そしてそのまま人の波の無いところまで連れ去ると、そこによいしょと立たせて……身形を正してやる。

老興 「ホッホ、お嬢ちゃん……あんなところで急に走り出しては危ないよ……」

 おまけに頭を撫で撫で。
 ……うう、やっぱいいなぁ、こうなると朱里の頭も撫でたくなってはうあ!?
 い、いやっ……ななななにを考えているの博光! あなたなにを!?
 なにがいいの!? なんで撫でたくなるの!?
 これ呪い!? ホギーの呪い!?

雛里 「あぅ……」

 む。
 それはひとまず置いておきましょう。
 なにやら警戒してるようですし……ええと。

老興 「お嬢ちゃん、儂は仙道を極めた桃仙人じゃ。
    儂の持つ桃は普通の桃に非ず。一個一個に特別な力が〜〜〜……あるんじゃぁ」
雛里 「ええぇっ!?」

 言いつつ桃を栽培、取り出して見せる。

老興 「こっちの桃は背が伸びる。こっちの桃は人前であがらなくなる。
    こっちの桃は筋肉増強」
雛里 「…………? ど、どこかで聞き覚えがあるような」
老興 「ひとつ進ぜよう。なんの桃がよいかのぅ」
雛里 「………………」

 雛里が、しわくちゃのこの博光の……顔ではなく目を覗いてくる。
 そして……きゅむ、と。
 僕の腰に抱きついた。

老興 「ややっ!? これっ!」
雛里 「ご主人様……ご主人様ですよね……?」
老興 「いや。儂は仙道を極めし者。この手にある桃全て、食べさせずにはおれん」
雛里 「〜〜〜〜〜…………ご主人様の匂い……」
老興 「ゲェエーーーーーッ!! しまった匂いまでは変えてなかった!」
雛里 「……! やっぱり……!」
老興 「はうあ!? は、謀ったなブッチャー!」

 レッツエスケープ!
 といきたかったが、雛里さんが僕の腰に思いきりしがみついて泣き出してしまうからアラ大変。
 グ、グウ〜〜〜〜ッ! こ、これでは身動きが取れ〜〜〜〜〜〜ん!!

老興 「あ、あの雛里さん? こんなしがみつかれてると逃げられないんですけど……」
雛里 「ごひゅじっ……ご主人様ぁぁぁあ〜〜〜……ふえぇええ〜〜〜〜〜……!!」
老興 「い、いやそれよりどうして僕がここに来てるって解ったの!?
    僕誰にも言ってないよ!? なんで!?」
雛里 「ひぐっ……とっ……桃香様が……」
老興 「桃香!? なんとあやつめ、起きておったのか!」

 道理で涙が異常にこぼれると!
 まんまと騙されたわ!

老興 「とにかく今はまずい!
    この場で騒ぎを聞き付けられては愛紗らに見つかってしまうわ!
    ……というわけで雛里さん? 離してくれないと逃げられないのですが」

 二度目の進言。
 しかし雛里さんは僕の匂いを自分につけるかのようにぐりぐりと顔をこすり付けてきて、一向に離してくれません。
 ていうか道ゆく人が止まって、なんだなんだと僕の方を見て……アイヤーーーッ!!
 い、いかんぞ! いかん危ない危ない危ない……!!
 こんな時にもし誰かさんが警邏でもしてたら……!

声  「何事か! この騒ぎは!」

 ゲェーーー! 愛紗の声!
 ここはひとまず───空間翔転移!!

───……。

 キィンッ!!

老興 「チィイ……!」

 空間翔転移では遠くまでは飛べない。
 だから隣の通りへと転移すると、僕は雛里を小脇に抱えて猛ダッシュ!
 どこへ向かっているのか? えーと……扉がある場所?
 などと思いつつ、脇道へ逸れた───その時でした。

朱里 「はうあっ!?」
老興 「ややっ!?」

 曲がった先で朱里さんとばったり。
 その視線が、僕の小脇の雛里さん(泣きじゃくり中)に移ると……うん、まあその……誘拐犯にしか見えないよねぇ……。
 待って、と言うより先に轟く絶叫。
 もちろんそんなもんを聞けば愛紗さんたちも駆けつけるわけで。

愛紗 「貴様! そこでなにをしている!」
老興 「ぬむっ!?」

 ぬうう! 流石に速いわ!
 だがうぬにこの博光は捕まえられぬよ!

老興 (……雛里。俺が博光だってことは内緒だからな)
雛里 「……?」

 ボソリと教え、狭い脇道の間の建物の壁を蹴り弾き続け、屋根まで上るとさらに逃走!
 すぐに愛紗も同様の方法で追ってくるが───

老興 「ひぇひぇひぇ……! おやおやさすがにやるねぇ!」
愛紗 「その身のこなし……貴様何者だ!」
老興 「ひぇひぇひぇ! 儂の名は呉・老興じゃ! 旅人をしておる!」
愛紗 「その旅人が何故雛里を攫う!」
老興 「人の波に飲まれ、泣きそうだったから人気のない場所に連れていっただけじゃわ!
    それをおぬしらが急に追ってきたんじゃろが!
    いきなり叫ばれてびっくりしたわ!」
愛紗 「なっ………………ひ、雛里? そうなのか?」
雛里 「…………《こくこく》」
愛紗 「そ、それはすまなかった。
    だが、ならばなにも雛里を連れて逃げ出すこともなかったろうに」
老興 「儂一人では弁明する者がおらんじゃろ。
    戯言を、とかぬかし、串刺しにされるのが目に見えるようじゃわ」

 と、言いつつとりあえず小脇の雛里を下ろす。
 そしてそろりと逃走をがしぃっ!
 ……だめでした。

老興 「ぬ、ぬうお嬢ちゃん?
    儂は旅を続けねばならぬ故、くっつかれては困るのじゃが」
愛紗 「そうだ、雛里。誤解と解ったのなら引き止める理由もなし。迷惑だろう」
雛里 「…………っ《ふるふるふる…………!》」
老興 「ぬ、ぬう……」

 ぎゅ〜〜〜〜〜〜っと抱きつかれてます。
 どうしましょう……ここで転移なんてしたら一発で僕だってバレますよ?

愛紗 「雛里がご主人様以外のお方にそうまで懐くとは珍しい。
    ご老人、どうだろう。
    疑ってしまった詫びといってはなんだが、ともに食事でも───」
老興 「いや、急ぐ旅ゆえ、そうもしておられんのですじゃ。
    ……まあ……なにはともあれ、とりあえず降りましょう」
愛紗 「ああ、これは失礼」

 屋根の上からふわっと着地。
 そうしてから駆けつけた皆様を前に、朱里にだけ視線を飛ばす。

朱里 「は───」
鈴々 「ん? どうしたのだ朱里」
朱里 「あ、いえっ! ななななんでもないでしゅ!」

 あ、噛んだ。
 相変わらずだなぁ朱里は。

愛紗 「《とんっ……》ふう。皆、すまない。どうやら我らの早とちりだったらしい。
    この老人は雛里が困っているのを救ってくれたのだそうだ」
鈴々 「なんだそうだったのかー、朱里は驚きすぎなのだ」
朱里 「はうっ……ご、ごめんなさい……。
    で、では勘違いだったということで……ご主人様探しを続けましょう。
    桃香様のもとへ現れたのがついさっきなら、まだこの街に居るかもしれません」
愛紗 「ああ。鈴々! お前は三つ隣の通りを! 私は西側の裏通りを調べる!」
鈴々 「了解なのだ!」
愛紗 「すまない、老人。この詫びはいつか必ずする。しかし今は時間が惜しい」
老興 「なぁに構わんさ。儂はちとここに用があるでの」

 よほどに急いでいるのか、僕の言葉に頷きだけを返して、皆々様は散ってしまった。
 ……で。

朱里 「……あの。私に何かご用でしょうか……」

 目が合っただけでは僕だと認識できなかったのでしょう。
 しかし僕が人払いを望んでいたことは予測できたのか、おずおずといった感じに訊ねてきた。
 そんな朱里を前に、ポムポムと雛里の頭を撫でると、朱里に手招きをして再び脇道へ。
 その人目につかぬところで蔓を延ばし、扉のカタチを象ると───編まれた蔓で出来た扉をグイと押し開け、ユグドラシルへの道を開く。

雛里 「……!」
朱里 「こ、これは……!?」

 繋げたのは砲台広場だ。
 そこに降り立つと戸惑う朱里に手招きをし、入ってきたところで扉を閉める。
 勝手に閉まり、逃げ道がなくなったことに朱里が怯え出すが、俺が変装をべりゃあと剥いでみせると───その顔は驚きに、やがて歓喜へと変わった。

朱里 「ご主人様ぁああっ!!!」

 そして雛里同様、がばしー!と僕の腰に抱きついてきて……うむむ、抱き付くの好きだなぁ。

朱里 「ごしゅじ……ご主人様ぁ……!
    どうして……どうして……ごしゅじ……ふぇええ……!」
中井出「グ、グウ……」

 泣かれるのは苦手なんだが…………まあいいや、とりあえず猫の里に降りようか。
 説明はそれからだ。

───……。

 で……ネコット農場。
 降り立ったそこでは雪蓮が釣りをし、恋が動物たちと昼寝をし、ねねがそこに添い寝をし、月と詠ちゃんが穏やかにお茶を飲んでいた。
 凪たちは……居ないようだ。

朱里 「ご、ご主人様……?」
中井出「ようこそ、我が自然要塞エーテルアロワノンへ。ここが我ら日輪の居城です」
雛里 「にちりん……?」
中井出「ひのわ、でもいいよ。おーい詠ちゃーん!
    お客さんですよー! お茶を用意してくだされー!」
詠  「なんで私が───って朱里!? 雛里も……!」
月  「ご、ご主人様、いったい今日はどこまで……?」
中井出「うん。ちょっと益州まで遊びに行きました」
詠  「益州って…………ああ、もういいわ。
    あんたに対して突っ込んでも実りなんてないの、いい加減解ってきたし……。
    ほら朱里、雛里、こっち来て座って。今お茶用意するから」
朱里 「は、はい……」
雛里 「へぅ……」

 ……雛里と月って、なんかたまに似てるように思えて仕方なし。
 結構“へぅ……”って言うし。

雪蓮 「ちょっとうるさいわよ詠ー、お魚逃げちゃったじゃないのよー!」
詠  「それはあんたの我慢強さが足りないだけよ。釣りの才能ないんじゃない?」
雪蓮 「そっ、そんなことないわよー! 小さい頃はもっといっぱい取れたもんっ!
    って、博光! もう、どに行ってたのよ!」
中井出「え? いやだから益州に……」
朱里 「……? あの、こちらの方は? どこかで見たような気がするんですけど……。
    それに、あそこで寝転がっているねねさんと一緒に居る女の子……
    どことなく恋さんに似ているような……」

 ……おお、言われてみれば雪蓮と恋は少女状態のままだった。
 二人とも気に入ってくれてるみたいだからいいけどさ。

中井出「紹介しましょう。元呉国小覇王、孫伯符こと雪蓮です」
雪蓮 「こうして話すのは初めてかしら。よろしくね、諸葛孔明」
朱里 「ふぇっ……へあぁああああーーーーーーーっ!!?」
雛里 「そ、孫策、さん……なんですか……?」
雪蓮 「うん、そー♪ 博光に時間いじくってもらって、この格好してるの」
朱里 「じゃ、じゃじゃじゃじゃじゃあ……あっちのあの女の子は……!」
中井出「そ、恋だよ」
朱里 「は、はわわぁああ……!!」
雛里 「あわ、あわわぁあ……!」
中井出「はっはっは、まあそう怯えない。あ、詠ちゃん僕にもお茶ちょうだい?」

 言いつつドッカと大木を削って出来たテーブルの横に座る。
 と、

詠  「いやよ、自分で淹れなさい」
中井出「詠ちゃんひどい!」
詠  「だから詠ちゃんって呼ぶなぁっ! ボクをそう呼んでいいのは月だけなの!」

 なんだかひどい勢いで嫌われてます。
 あの……泣いていいですか?

朱里 「あ、あのご主人様……私が淹れましょうか……?」
中井出「え? いいの?」
朱里 「はいっ、結構練習したんですよ? ね、雛里ちゃん?」
雛里 「うん……朱里ちゃん」
中井出「それはありがたい……ではひとつ《ズイ》……おや?」
詠  「……淹れすぎたから飲んで」
中井出「え? でもあの、僕───」
詠  「いいからっ……飲みなさいよ!
    それともなに!? ボクが淹れたお茶なんて飲めないっていうの!?」
中井出「え、えぇえ……!? い、いやそりゃ飲むけど……さぁ……」
朱里 「はぅう……」
雛里 「……ご主人様ぁああ……」
中井出「やっ───飲むよ!?
    飲むから淹れて!? そんな悲しそうな目で見ないでよ!」
雪蓮 「あ♪ じゃあ私も淹れてあげるね?」
中井出「えぇっ!? キミ酒以外に注げるものがあるの!?」
雪蓮 「ちょっ……ちょっと博光ー!?
    それじゃあ私が普段からお酒しか飲んでないみたいじゃない!」
中井出「……いや…………違うの?」
雪蓮 「……違うわよ! ちゃんと詠のお茶も飲んでるもん!」

 …………詠ちゃんにアイコンタクトを送ってみた。
 ………………酒休みに一杯程度飲むだけのようだ。

朱里 「ご、ご主人様っ! お茶が入りましたぁっ!」
雛里 「の……飲んでみて、くださいぃ……」
中井出「お、押忍。でもその前に詠ちゃんのお茶を……」
月  「あの、ご主人様……私もお茶を……」
中井出「えぇ!? なんでそんなに───いやの、飲むよ!?
    飲むからそんな恐ろしい顔で睨まないでよ詠ちゃん!」
詠  「……ふんっ!」

 あれぇえ……?
 なんでいきなりこんな……。
 僕ただ朱里たちを連れてきただけだよねぇええ……?

詠  「それで? どうして朱里たちがここに居るのよ。
    もしかしてあなたたちもこの男の旗の下に来たの?」
朱里 「え───旗?」
中井出「うむ。既に桃香からそれっぽいことは聞いているやもしれぬが、
    この博光、新たに旗上げをした修羅が一人。
    この乱世に平和を齎すため、ちくちくと仲間を集めているところさ」
朱里 「そんな……と、桃香様のもとでは駄目なんですかっ!?」
中井出「うむ。残念だが今の桃香では理想に実力が追いついていない。
    そのためにもこの博光とともに居るより、
    自分と仲間たちの力で強くなる必要がある。
    故にこの博光は独立し、自らを壁にすることで三国の者達を高めている」
雪蓮 「え? そうだったの?」
中井出「中途半端な理想のぶつけ合いで納得する人達じゃないでしょ?
    だったら、それこそ全力の全力、
    これだったら夢に立ち向かえるって思えた実力を持ってくれたほうがいいのです」
雪蓮 「……そっか、相手に後悔させないためね?」
中井出「それまでにどれだけの犠牲が出ると思ってるんだ、って話なら聞きません。
    それ言ったら、そもそも争うのが馬鹿馬鹿しい」

 言いながら立ち上がり、なんだか背中から首に抱き付いている雪蓮とともに、ガノトトス湖まで歩く。
 そこで釣り糸を垂らしながらのんびりとお茶を飲み、背中の雪蓮を前に回し、足の間に座らせるとすっぽりと腕に包み、はふーと溜め息。

雪蓮 「…………えへー♪」

 すっかり定位置というか。
 雪蓮は背中から抱き付くのが好きなようだけど、こうして背中から包まれるのもそう嫌いではないらしく、すっぽりと抱き締めるのが好きなお───俺じゃないよ!? ホギーだよ!?
 危ねぇ! 今素で俺って言いそうになったよ!!
 うう……でも抱き心地がいいのは確かなわけで……僕もう泣きたい。
 これ、マニアじゃないよね……? かつて封印せしエロマニアの再来じゃないよねぇ……? などと苦悶していると、僕の両脇の服を引っ張る影ふたつ。

朱里 「ご主人様……貴方の考えは解りました」
雛里 「でも……もう……戻ってきてくれないんですか……?」
中井出「桃香に伝えなさい。
    この博光を手に入れたくば、己の理想を以って討ち下しなさいと。
    今の桃香の説得では、恐らく誰も下ることはござんせん。
    まずは力を見せなさい。力のない主に下るものなどおりません。
    この方ならば天下を取ってくれると信じれる主になりなさい。
    そうでないうちは、辛いかもしれんが“力”をつけなきゃだめだ」
朱里 「うぅう……」
雛里 「ううっ……ぐしゅっ……」
中井出「泣かない泣かない。結盟だってしてるんだ、裏切ってるわけじゃない。
    会おうと思えばこうして会えるさ」
朱里 「でも……皆さんのこと避けてました……」
中井出「そりゃ、ここで会ったりしてこうして話し合えば、
    直接戦う武官のやつらには躊躇が生まれるだろ?
    俺は遠慮なく、全力で向かってきてほしいから素性を隠してる。
    ……まあ、雛里にあっさり見破られたのは衝撃的だったけど」
雛里 「あぅ……ごめんなさいぃい〜〜〜……」
中井出「いや違います! 責めてません! 責めてませんからァアアア!!」

 両脇で泣かれたらたまらないよもう!
 でもまあ……安心した。
 思いっきり嫌われてるんじゃないかなーとか思ってたから、この笑顔はひどく心地いい。

中井出「……えっとね、今僕はいろいろあって華琳……曹操のところに厄介になってる。
    客将扱いで、住んでる場所は馬小屋の隣の物置だけどね。
    ……約束事を守れるなら、またいつでもここに来れるようにしてあげるよ?」
朱里 「ほっ……ほんとですかっ!?」
雛里 「ご主人様ぁああ〜〜〜〜っ!! ふえぇええ〜〜〜〜〜っ!!!」
中井出「こ、これっ! 泣かないの!
    ……えぇとね? 何処でもいいから、扉にこれを貼り付けなさい」

 言いながら、とあるアイテムをポムンと創造。
 創属性のキャリバーの恩恵だ。
 って言っても、ジハードが作ってるようなもんだけど。

朱里 「これは……?」
中井出「これを扉に貼って、その部分を四回、トントントントンって中指で叩く。
    すると、この要塞に繋げられるから」
朱里 「はわわっ、ほ、ほんとうですかっ!?」
中井出「うむ! ……ただし、朱里、雛里。他の誰にもここの存在を知られてはならぬ。
    そしてこの場に来たからには争いはご法度。
    たとえ曹魏や孫呉の敵将が居ようとも、戦おうとすることまかりならん。
    それを本当に守れるんだったら……うん。桃香たちも呼んでいいよ」
雛里 「……!」
中井出「あ、でもいいかい? きちんと戦場の自分と日常の自分を分けられるなら、だよ?
    情が移ったからって戦えないようでは、
    今まで命を賭して戦ってくれた兵たちに失礼というもの。
    確かにここでそうやって、慣れ親しむことで争いをなくすのは理想的かもしれん。
    だが結局、納得しない者は出てくる。平和を望むばかりが民達の願いではないよ。
    この戦いの果て、天下統一をすれば手に入る褒賞があると信じる者も居る。
    勝つことで敵国から手に入れられるものを与える名目もある。
    でもそれらが手に入らないって知ったら、兵や民達は不満を抱くでしょう?」
朱里 「あ……うぅ……」
中井出「この乱世は我らの勝手な理屈だけでは止められぬところまで来ている。
    そしてこれからは、さらにそういった時代の深みへと沈んでゆくのでしょう。
    もはやこの戦い、我ら上層の者の一存だけで決着がつくものではない。
    だったら、兵も民も、そしてキミたち全員が納得出来る決着をしなきゃな」

 両脇でぐずる二人の頭を撫でて、引き寄せると……目の前にある雪蓮を巻き込み抱き締める。

中井出「たくさん考えるといい。……全員が全員納得するなんて無茶かもしれない。
    俺にはこうやって争わない場を築くくらいしか出来ないけど、
    それが少しでもなにかの架け橋になればいいと思ってる。
    ……天下三分の計が成った時、それでも民たちが、
    兵たちが納得出来る世界があればいいなぁ」

 撫でまくり、やがて離すと三人は困ったように髪や身形を正す。
 朱里も雛里も顔を真っ赤にさせて、後ろからは解らないけど、多分雪蓮も。

中井出「よし。魏と蜀……劉備軍だけじゃ不公平だな。呉のみんなも呼ぶか」
雪蓮 「うわっ、ちょっと博光、あなた本気?」
中井出「うむ! そうすることで仲が悪くなろうがどうしようが知ったことではなーい!
    意見というものは何度でもぶつけ合わねば意味がないのだ!
    というわけで僕呉に行ってくるね? 確か今は……」
朱里 「今、孫権さんは建業にいらっしゃると思います」
中井出「おおそうかっ! ジョワジョワジョワ、では雪蓮よ〜〜〜っ!
    二人で一緒に遊びに行くとするか〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 目の前の小さなポニーさんを抱きかかえるとむくりと立ち上がり、僕は

雪蓮 「せっかくだけど私はやめておくわ」
中井出「なんと!?」

 あっさりフラれた。
 ならば無理にとは言うまい。
 すとんと雪蓮を下ろして、僕を見上げるその瞳にウムスと頷く。

中井出「雪蓮には雪蓮の事情があるのでしょう。訊くことはしません。
    ということで……うむ、無駄な緊張を与えるのもなんだ、僕一人で行きましょう。
    では───猫の皆様! おいでませ!」

 霊章をひと撫で、両腕をバッと振るうと、そこから出てくる出てくる、猫の大群!
 アイルー種の皆様はスタスタと草原に下り立つと、まずは皆様にゴニャアとお辞儀。
 うむうむ、礼を忘れぬその姿勢……実に素晴らしい。

中井出 「いーかー? 暴力や殺し合いみたいなのはご法度だからなー?
     あ、でも多少の喧嘩は目を瞑りましょうぞ。
     喧嘩の果てに出来る友情もあります。
     というわけで、僕行くね? ……アイルーよ、あとのことは任せますよ?」
アイルー『がってんニャ!』
中井出 「うむよし! では建業に向けて出発だぜ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 僕らの旅は……始まったばかりだ!

───……。

 と、そんなこんなでいろいろあり…………どうせ華琳たちが出かけているならと反旗を翻すかのごとく、許昌から逃走。
 警備隊の兵士たちには凪たちによろしくと言って、なにを破壊するでもなく。
 そうして立てた旗は日輪の中に“天”を描く、僕らの旗。
 地図の端っこにエーテルアロワノンを出現させ、そこを居城とした。
 ……さて、そんな中で孤児や戦争で行き場を失くした者達に手を差し伸べ、我が国(国?)に連れてくると、食事と寝床を用意し、少しずつ少しずつ国としての発展を手伝わせていってます。
 食っていけるなら、生きていけるならと、皆様は率先して動いてくれて、老人も大人もみんな子供サイズになりながらも、文句も言わず働いてくれました。
 むしろ老人とかは子供に戻れて燥いでる感じがするけどね。

 ……みんなは知ってるんだろうか。ここに居る人達は、皆魏や呉や蜀……その他の様々な国から流れてきた者だということを。
 それとも知った上で、この状況下にあって、自分たちや相手に罪はないのだと肩を組んでいるのか。そこのところを訊いてみると、みんな口を揃えて“誰かが憎くてこうなったわけじゃない”と言った。そうして少しずつ発展し、仲良くしてゆく民たちは、やがて兵に志願し、腕を磨いてゆく。
 磨き方も発展の仕方も簡単だ、癒しや疲労回復能力、ヘイストなどを駆使し、たった一日の間に有り得ないほどの速さで建築、強化し、兵に志願する民(まあほぼ全員だが)には、一から筋力鍛錬(晦式重力トレーニング)をしてもらい、筋力を酷使したのちに三日分時間を飛ばして休ませ、再びトレーニング、といった感じで力をつけさせた。

 そして……建業に向かう最中に発見した華雄さんと話をし、貴女の力が必要だと言ったらあっさり頷いてくれた彼女を仲間に。
 天は一日二日だけで随分と良き勢力となっておりました。
 もちろん、華雄さんと、華雄さんが連れていた兵も小さなお子になったこの天にて、ようやくお客様を迎えるに至り───

明命  「お猫様〜〜〜〜〜〜っ♪」
ジョニー『《がばしー!》ゴニャーーーーッ!!』
亞莎  「うわ、わわわ……す、すごいです……こんな場所があったなんて……」

 孫呉代表として明命と亞莎がやってきました。
 “扉”に関しては、もう物体A(ノックチェッカー)を渡してあるからいつでもどこでも。
 華琳にも渡しておかないとなー……とか思いつつ、そろそろ激化するであろう世の大乱を前に、空気読めてないかなぁとも思う次第。
 ……まあ、いいさ。
 いつだって何処だって、過去にだって異空にだって、ピエロは必要なんだから。

中井出「いいかい明命、亞莎。ここでは争いはご法度。
    言い争いや、多少の取っ組み合いは認めましょう。
    ……まあ、ここに入った時点で背は一定に縮むし、
    武器も、当たっても多少痛い程度のモノに成り下がるけどさ」
亞莎 「じゃあ……その。ここは話し合いの場、ということ……ですか?」
中井出「“獣”にならないための場所だよ。日に何度も人を殺して、手を赤く染めて。
    それでも……自分が“人”であると思いなおせる場所。
    人が修羅道に染まりきらないための場所だって思って欲しい。
    …………取り戻したくても取り戻せない“手の色”って……あるからさ」
亞莎 「あ……」

 自分の手を見下ろしながら言う。
 ……ああ、はは……やっぱり真っ赤だな。
 そんなことはないって解ってても、時々泣きたくなる。

中井出「まあ、そんなわけだ。骨休めの場所とでも思ってほしい。
    くつろぐのも遊ぶのも大いに結構!
    ……ただし悪戯に自然を壊したら、自然自身が黙ってないので気をつけるよう」
亞莎 「は、はいぃっ」

 キョンシーチックな服の亞莎の頭を、キョンシーハットの上から撫でる。
 そうしてからアイルーたちに囲まれて精神的歓喜で絶頂寸前の明命に目を向ける。

中井出「話し合いの場にならなくてもいい。
    話し合った結果が状況の悪化でも、仕方ないって思える。
    ……でもさ。終焉に民の平和をみんなが願ってるのに、
    争いしか出来ないって……悲しいじゃないか」
亞莎 「博光様……」
中井出「あんな風にして、武官が武器も持たずに笑って、
    文官が人を殺すための知恵を絞らずにいられる世界が来るといいな。
    俺の居た世界でも、自分の知らない世界の何処かでいつでも争いがあった。
    人が死んで、家族が涙して、帰る場所を失って、
    生きるために悪行に手を染めて、捕まって、死んで。
    理屈だけでそれが救えるなら、そんなの本当の平和じゃない。
    そんなの解ってるし、それでも願いたいって気持ち、よく解るよ。
    でも……やっぱり戦わなきゃいけない時があって、
    今は譲り合える状況じゃないのも解ってる。───だから、亞莎。
    思い切り武を振るい、思い切り知恵を絞って全力でぶつかれ。
    今はそれでしかみんな納得出来ない。
    戦うことに疲れて、人を殺すことに涙して……それでも平和を願った時。
    いつか、手に手を取り合って立ち上がれる日が来ることを、俺は願ってる。
    …………たとえ、自分がどれだけの悪になっても」

 そう。
 かつて自分が魔王となって、みんなの未来を築かんとした時のように。
 あれから地界がどうなったのか、晦たちがどうなったのか、俺は知らない。
 それでもここでこうしてのんびりしていられるのは、あいつらを信じてるからだ。
 ……俺はもう、天地空間って舞台から下ろされた道化だ。
 だから、あっちのことはもう心配しない。そう決めたのだ。

中井出「よーしみんな!
    今日は思いきり振る舞うから楽しんでいってくれ〜〜〜〜〜っ!」
明命 「楽しんでますっ! モフモフですっ! 最高です〜〜〜っ!」
中井出「あ、あ……そ、そう?」

 道化にでもなんにでもなりましょう。
 それが楽しいに繋がるなら、この博光は本望です。






21/愛、哀、会い……

 なんて騒ぎをしてからしばらく。
 現実の下では様々な争いがあり、今日定軍山で起きた事件もそのうちのひとつだった。
 意思の皆様はまだまだ先の戦いだろうに、と呟くが、この世界自体が既に異常。
 普通の三国志とは違うことなど、皆が女性であることだけで十分だった筈だ。
 やめといたほうがいいよ?という、魏に遊びに行っていた僕の助言も右から左へ、定軍山に淵殿と典韋殿を向かわせた華琳は、のちに後悔を抱える。
 定軍山に伏せていた劉備軍、黄忠による夏侯淵の戦死。
 その事実はなんとか逃げおおせた典韋によって華琳に届けられ、華琳は愕然。
 相当なショックだったのでしょう、怒りより先に絶望が走ったのか、顔面蒼白になり、どんな言も口にすることがなかった。
 そんな中───

中井出「よいですね? 魏の片腕、夏侯妙才は死にました。
    ここに生を受けるは日輪の下の修羅、秋蘭殿です」
秋蘭 「………いや…………ああ……」

 背が縮んだ淵殿……もとい、秋蘭殿は状況が把握できず、呆然としていた。
 劉備軍(もう蜀軍でいいね)に討ち取られた秋蘭を事故に見立て、崖から転落させたのがそもそも。
 死にましたってことにして、復活させました。最強。

雪蓮 「へー……夏侯淵も死んじゃったんだ」
秋蘭 「む……貴女は?」
雪蓮 「ん? ああ、知ってるでしょ? 孫伯符。元呉の王よ」
秋蘭 「な…………」

 秋蘭、唖然。
 それからいろいろな問答を始める二人を余所に、僕はこれからのことをいろいろと考えました。

中井出「民たちも着々と力をつけてます。
    自分の住む場所を守るためだもんね、強くもなりましょう。
    ところで秋蘭? あ、勝手に真名呼ばせてもらってるけど平気?」
秋蘭 「……一度死した身だ、救われた対価はそれだけでは足りんくらいだろう。
    無論、華琳様には忠誠を誓っているが、
    お前に拾われた命は無駄にはしないと誓おう」
中井出「うす。では秋蘭、これを」

 言って渡すのは、当たれば敵が吹き飛ぶ弓。

中井出「我が旗の下では殺しはご法度。吹き飛ばして気絶させるだけ。いいね?」
秋蘭 「……やれやれ、殺すよりも腕が要りそうだな。了解した、受けとろう」

 それを受け取って、まず驚く。
 恐らく、そのあまりの軽さに。

秋蘭 「軽いな……こんなもので戦いになるのか?」
中井出「ここに巨大鎚があります。で、その弓を置いて……殴ります!」

 どごぉんっ!! ───ゴシャア……

秋蘭 「───! ……鎚が砕けた……?」
中井出「うむ。その弓は特別製よ。名を“覇弓【日輪】”。
    引き絞る力で、矢が変異する素晴らしい弓さ」
秋蘭 「ふふっ、いいのかな? こんなものを渡してしまって。
    私が裏切らぬとは限らんだろう」
中井出「裏切ってもいいよ? その時は容赦しないだけだから。
    それに、その弓じゃ人は殺せない。傷つく人が少ないならそれでいいさ」
秋蘭 「……そうか。無粋なことを訊いたな。
    ではこの弓を以って、いつか貴君への忠誠を立てよう」
中井出「よろしくです」

 なんだかんだで秋蘭も頷いてくれたし、あとは機を見てなんとかする、か。
 つーか俺達全然戦ってないね。

雪蓮 「って言っても、私達特に戦ったりしてないんだけどね。
    あ、詠〜、お酒ちょーだいお酒〜」
詠  「自分で用意しなさいよっ!」
雪蓮 「ちぇー。……まあほら、
    ここって誰も私のこと王として見ないから、結構気楽だし。
    ただ戦場でのあの興奮が味わえないのはちょっとつまらないかなー、って」
中井出「修羅になるなって言ったでしょう。ほら行くよ、今こそ日輪を翳す時!」
雪蓮 「え!? 戦うの!?」
中井出「うす。猫の話によると、なにやら五胡って場所の兵がこちらへ進んでるらしい。
    民たちの調整にもいいし、いい経験になる。
    実戦訓練ってことで、少し助け船も出すけど」
雪蓮 「いい! 全然いい! う〜〜〜んっ、やっと戦える〜〜〜っ♪」
中井出「……平和を願う者の言葉じゃないよね、これ」
秋蘭 「うむ。だが武人としては当然の気概だな。私も赴くとしよう」
中井出「いいの? いつか華琳とも戦うことになると思うけど」
秋蘭 「殺すことにはならんのだろう? 私の時のように」
中井出「あはは、バレてましたか」

 ならば話は早し。
 僕らはエイオー!と、この日のためにシッカリガッチリと作り上げた立派な牙門旗を掲げました。
 日輪の中に天と刻まれた、僕らの旗を。
 そんな叫びに目を覚まし、近寄ってきた恋やねねとともに、いざ合戦!
 ……まあ、さすがに月と詠ちゃんに戦いなさいなんて言わないしね。






Next
top
Back