3/賑やか艦隊げきじょー2

-_-/モミー

 カリカリカリ……
 司令室に、羽ペンの走る音。
 静かな時間はいいものだ。
 五月雨も、窓から見える鎮守府風景に笑みをこぼしている。
 この世界に着任してからしばらく……錬度も資材も安定してきた。
 そろそろ2ー4に挑戦するべきか……なんて気持ちもじわじわと湧いてくる今日この頃。
 ちらりと視線を動かしてみれば、兎の耳のように天に尖ったリボンを頭のてっぺんに、そわそわと連装砲を抱えてソファに座る島風。
 時折に窓側を見ては、はふーと溜め息を吐いて白いフワフワ絨毯の上をころころと転がる。

悠介「しーまーかーぜ。服が汚れるぞー」
島風「提督の部屋にほこりなんてありません」
悠介「いや……そうなんだけどな。イメージっていうのがあるだろ」

 注意されると、ぷくーと頬を膨らませての抗議。
 こういうところは駆逐艦というか……子供っぽい。
 でも性能は間違いなく駆逐艦ではトップクラスなわけで。
 ……強さの基準ってどうなってるんだろうなぁ、この世界。
 と、ここで五月雨が窓の外で何かを見つけたようで、俺に報告。

五月雨「あ……提督、またいつものお二方が───」
島風 「《ぴんっ!》オゥッ!?」

 途端、島風のリボンがピピンッと躍動する───や、島風は立ち上がって走って、開けっぱなしの春の窓からズッパァーーンと飛び出した。
 ……で、外からはいつもの喧噪。

五月雨「あはは……すっかり懐いてしまいましたね……」
悠介 「あいつらの遊びに巻き込まれたら、楽しまないやつなんて居ないさ……。
    喋るのが苦手な弥生だって、散々っぱら振り回されて慣れてるしなぁ……」

 ていうか、あいつら自分の仕事はどうしたんだ。

五月雨「うわあああ……島風ちゃんの疲労度がみるみるうちにキラキラに」
悠介 「全力で走ってるのに疲労が回復って、どうなんだろうな……」

 椅子から立ち上がって外を見てみれば、彰利や提督と一緒になって走り回っている島風。
 最近は海の上での追いかけっこにハマっているらしく、なんかもう普通に海の上を走る彰利や提督から逃げながら、全力で笑っている。逃げている状態じゃなければ、腹がよじれて倒れているってくらいの笑顔だ。

五月雨「あの……前から疑問だったんですけど。
    どうしてあのお二方は、海の上を走れるんでしょうか……」
悠介 「まあその、なんだ。あいつらに常識みたいなものって通用しないんだ……。
    なにが起こっても“あいつらだから”で済ませちゃっていいぞ……」
五月雨「そ、そうなんですか───あ、今度はボールを投げ始めました」
悠介 「キャッチボールだな。なんかもう投げた先から海が多少割れてるんだが」

 速さに拘る島風だが、それをきちんとキャッチ。
 大海を割るとまではいかないものの、球の軌道上から小さな波が左右に発生するくらいの勢いで投げるのはどうなんだ。

五月雨「あ……そういえば、提督。以前金剛さんが奪っていったっていう、
    島風ちゃんの服ってどうなったんですか?」
悠介 「ああ、あれな。どうやら行き違いになっただけみたいでな。
    金剛のやつ、島風から服を受け取って、俺を探してたらしいんだ。
    会った途端に“ワタシにも同じものクダサーイ!”って涙目で言われた」

 あいつ、結構子供っぽいところあるよな……。
 服をねだりたいなら、べつに創造物じゃなくてもいいだろうに。

中井出「黄金の回転……! 鉄球のォオオ!! 無限回転エネルギィーーーッ!!」
彰利 「おおすげぇ! めっちゃ回転してる! 海の上滑ってるYO!」
島風 「わああ、すごいすごい! ねぇねぇ、今のどうやるのっ!?」
中井出「うむ! まずは黄金長方形を学ぶことから始めよう! 座学ではなく体験で!
    というわけで自然が大開発した黄金長方形自転車ァアーーーーッ!!」
彰利 「ゲゲェその手があったか! 自然が造ったならもはや文句は言えん!
    つまりこの自転車は理想の形をしている! 騎兵の回転をも可能にッッ!」
中井出「さあさあ! 三人乗りだから乗って乗って! あ、シマちゃん先頭ね?」
島風 「オゥッ!?」

 で、三人は綺麗な形の自転車に乗って、全力で漕ぎ始めた。
 なんでも三人の息が合って。速さや動作が一緒になった時、車輪に黄金回転が生まれるらしい。

中井出「いくぞみんな!」
島風 「オゥッ!」
彰利 「オウヨ!」
中井出「完全なる!」
島風 「黄金のっ!」
彰利 「回転エネルギィイイーーーーッ!!」

 で、あっさり息を合わせた三人が、なんか自転車で海を走り始めたわけで。
 ものすごい勢いで海を駆ける自転車は、それはもう見ていて……ギャグにしかなっていない。
 なのに島風、満面笑顔。
 燥ぎまくって絶叫に近い楽しさの悲鳴をあげて、波を切って突き出していた岩に激突して自転車から吹き飛ばされても、

三人『LESSON5はこのために……!』

 なんか最初から決めていたみたいに、空中で身を捻りながらなんか言ってた。
 言葉のあとに砲撃をして、吹き飛ぶ勢いを殺して岩に着地。綺麗なもんだ。
 彰利や提督も、ご丁寧に小指から弾丸みたいなのを放って勢いを止めて……マテ、勢いを止めたのは解るが、何故真上にポーンと体が浮く。

五月雨「……あれも、彼らだからでいいんでしょうか……」
悠介 「他に説明のしようがないんだよ……」
五月雨「あ……提督、
    そろそろ1ー1で任務こなしとキラ付けをしていた金剛さんが戻る頃です」
悠介 「……鉢合わせるだろうなぁ」
五月雨「あ、ででででもっ、すぐにお二人を部屋に招けば、すぐってことにはっ」
悠介 「手遅れだ……」

 遠くの海に、特徴的な姿を発見。
 見間違えることもあるはずもなく、金剛と、サポートに回っていた弥生と吹雪だ。
 なんの因果か、彰利のところではなく俺のところにドロップした吹雪。
 出会った時の彰利の土下座っぷりは……なぁ……。

金剛「Shit!? また来たデスね邪魔者ブラザーズ! 今日という今日は」
彰利「吹雪ぃいいいいいいっ!! すまんかったぁあああああああっ!!」
吹雪「《がばしー!》ふやぅわぁあああああっ!!!?」

 まあ……あの通りである。
 からかい対象である金剛を華麗にスルーしてまで、吹雪に泣いて謝るほどにヤツにとってはハンパじゃない後悔だったようだ。

吹雪「い、いえ、気にしていませんからっ! 大丈夫ですからっ!」
彰利「それでは俺の気が済まーーーん! さあ言え!
   俺に可能なことならなんでもやってやらぁああっ!!」
吹雪「じゃあ今すぐ謝るのをやめてくださいっ!」
彰利「それはだめ」
吹雪「どうしてそこだけ冷静に言うんですか!?」

 ああちなみに。
 吹雪の記憶は提督が12.7cm連装砲から引き出したので、フツーにあっちの吹雪に移植されている。
 よく解らんなりに、“強化するなら武装は取っておかんとね”と、彰利が取っておいた吹雪の武器だ。

彰利「すまねぇ、すまねぇブッキー……!
   アタイ、きちんときさんが誇れるような立派な提督になるから……!
   もはや鎮守府レベルで違う場所じゃけど、見守っていておくれ……!」
吹雪「提督……はいっ! 私も頑張りますっ!」
彰利「オウヨ! まあそれはそれとして今遊んでるから、遊びも立派にこなそーぜ!」
吹雪「えぇええええっ!!?」

 まぁ、そうなるな。
 吹雪は彰利に手を引かれ、二人エグザイルでグルグル回ってる提督と島風のもとへ。
 ほっとかれた金剛は硬直。
 弥生はフツーに彰利についていって、二人エグザイルを見て目を輝かせていた。

中井出「正面海域で敵が出る心配があろうとも平気で海の上で遊び続ける男!」
島風 「スパイダーマッ!!」

 で、二人エグザイルが終わるや、提督と島風がそんなことを叫びながらスパイダーマッのポーズ。
 もう何度目かは忘れたけど、まあその、落ち着け。

悠介「金剛〜」
金剛「! Hai! 提督! ただいま帰ったヨー!!」

 窓から身を乗り出して呼びかけてみれば、呆然状態からあっさり回復の金剛。
 即座に海を走って陸に上がって駆けてきて、

金剛「バーニングゥッ! ルァーーーーゥヴッ!!」

 そのまま跳躍! 二階にある司令室目掛けて跳んで、足りない勢いは砲撃で無理矢理間に合わせやがった。

悠介 「《がばしぃっ!》うぉおうわっ!?」
五月雨「きゃあっ!? 提督っ!?」
金剛 「んふふふふ〜っ♪ 提督ゥ、ワタシの活躍、見てくれたノ?」
悠介 「すまん、執務してたから見てなかった」
金剛 「目を放しちゃダメっていったのにぃい!! 提督ゥ、なにしてるデース!!」
悠介 「執務してたんだよ!! っていうか演習でもないのに鎮守府内で砲撃すな!」
金剛 「へ、平気デース、海に向かって撃ったから、周囲への配慮も」
声  「な、中井出が流れ弾に!」
声  「提督!?」
声  「提督ーーーっ!!」
金剛 「問題……ナ、ッスィン……」

 笑顔を浮かべてみた。
 金剛は竦みあがった。

悠介「後方くらい確認してからやれたわけぇええええええっ!!」
金剛「《ヂガァアンガガガガガ!!》ふやわぅあふぎゃああああああっ!!!?」

 ソッと金剛の頭にある飾り(電探らしい)に触れて、裁きを流した。
 で、パッと放せば煙を噴く金剛の完成。
 気絶した彼女を、出しておいた布団に寝かせて執務に戻る。

五月雨「あの、いいんでしょうか……」
悠介 「? ああ、いいんじゃないか? なんだかよくここで眠りたがってたし」
五月雨「それはきっと、そういう意味ではないと思うんですが」
悠介 「どういう意味でも、願いが叶うってことは大なり小なり嬉しいもんだろ。
    ほい、五月雨。この書類頼む」
五月雨「あ、はい。…………確かに。それじゃあ私はこれを大本営へ送る手続きを」
悠介 「頼む。お茶用意しておくから、戻ったら休んでくれ」
五月雨「……もうっ、いつも私がやるって言っているのに」
悠介 「お茶は譲れん。紅茶なら金剛だろうけどな」

 五月雨を送り出したらあとは早い。
 もはや手馴れた手付きで茶器を創造、適温のお湯も創造すると、じっくりと集中して淹れる。
 茶菓子の用意も万端だ。
 それらが済めば窓へと歩き、息を吸って言葉を放つだけ。

悠介「おやつだぞー」
声 『文明堂ォオオーーーーーッ!!』

 べつに三時じゃない。
 なのに遊んでいるやつらに声をかけると、決まってこう返されるわけで。
 最初は彰利と提督しか言ってなかったのに、いつの間にか島風も弥生も真似するようになっていた。
 弥生は……あれだろうなぁ。中井出デュラハンと遭遇して叫ぶことで、いろいろ吹っ切れたんだろうなぁ。
 もちろん今でも物静かだけど、賑やかさには積極的に近寄って行く。

彰利 「トタァーーッ!《スタッ》……ヒューハヒューハ、
    今日もおやつをがつがつと食ってやるぜ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
中井出「ヌファラァー《ガツッ!》ウヒョワ!?
    ア、アーーーッ!《ドグシャアッ!》ゲベェウェ!」
彰利 「ア、アアーーーッ! 中井出が窓枠に足を引っ掛けて落ちてった!」
声  「わゎああっ!? えっ!? お、お腹の横から落ちたよ……? 大丈夫?」
声  「ら、落下事故……! ど、どうすれば……! あ、う、そ、その……!
    弥生、弥生は、その……ど、どうしたら……!」
声  「司令官! 司令かぁーーーん! 人が! 人が落ちましたぁああっ!」
声  「ゲッホゴホッ!
    グ、グフフ……どうやら1番と8番を持っていかれたようだぜ……!」
彰利 「なしてそげに離れた場所を器用に折れんの!? え!? 肋骨っしょ!?」
声  「だって僕どの肋骨が何番かなんてわかんないもん!!」
彰利 「俺だって解んねーよ!! えーからさっさと上がってきんさい!
    あ、ブッキーはアタイが運ぶからえーよ?
    きさん、ぜかまっちゃんとやよちゃんおねげーね?」

 言いつつ飛び降りて、吹雪を抱えてまた跳んでくる彰利。
 いや、あのなぁ……普通に入り口から来るって選択はないのかおのれには。

中井出「よいっしょおっ! ふうっ、やっぱこういうことが出来るのって、
    土足が出来る家ならではだよなー」
悠介 「畳にした時は頼むからやめてくれよ……?
    ていうか今も絨毯なんだから脱げ!」
中井出「え? ひ……博光、です……?《脱ギャァアーーーン!!》」
悠介 「脱ぐな!! そういう意味で言ったんじゃない!」

 ともかく靴は脱いでもらった。
 絨毯じゃないところではいいけど、絨毯の上は勘弁だ。

中井出「やあ。なにはともあれまた来たよ《グイイッ!》ぐおおっ!?」
島風 「駆けっこしよ駆けっこ! ねぇねぇ! ねぇったら!」
中井出「遊びを求められたらこの博光! 断る言葉は持っておらぬ!
    どおれ今日は大暴れしてやるとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
彰利 「俺もいくぜ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
悠介 「なにしに来たんだよお前らは! 用があったんっじゃないのか!?」
中井出「演習の手続きをちょっと!
    というわけでこっちの準備は出来てるから、いつも通りで頼む!」
悠介 「いつも通りって……メンバーは変わってないってことか」
彰利 「こっちはちと天龍ちゃんと高雄さんが初参戦YO!
    そっちもブッキー入れるんしょ? よろしく頼むぜ!」
悠介 「そか、解った。じゃあこっちで進めておくぞ?」

 と言ってみるのだが、もはや三人……彰利と提督と島風はおやつを掻き込むので大忙し……頼むから茶くらいゆっくり味わってほしい。

中井出「んぐもぐごがもが!」
彰利 「グァッグァッグァッグァッ!!」
島風 「んぐんぐけっふ!? こふっ! 〜〜〜むぐむぐ!!」
悠介 「島風……食べる時くらい速くなくていいから競うな」
島風 「けっほこほっ! うう……! スピードなら誰にも負けないんだもん!」
中井出「よっしゃ食った遊びにいくぜ〜〜〜〜〜〜っ!!」
彰利 「ぜかまっちゃんおっそーいー!」
島風 「まだまだ本気じゃないもん!」

 せっかく用意した茶と菓子を一気飲み&一気飲みした三人が飛び出ていった。
 そして訪れる静けさ。

悠介「……悪いな、吹雪。もっと静かならいいんだが」
吹雪「い、いえっ! 賑やかでいいと思いますっ! あの、ところで演習は……」
悠介「ああ、提督……ああえっと、中井出のところはいつも同じなんだ。
   第六駆逐隊と正規空母の加賀、だな」
吹雪「あの……金剛さんから聞きました。
   第六駆逐隊に、とてつもなく強い駆逐艦が居る、って」
悠介「あー……そうだな。あそこの駆逐艦は異様に強いからなぁ」
吹雪「普通に戦艦とも渡り合える強さだって、金剛さんが」
悠介「そうだな。とにかく連携がやばい。
   あと艤装も、中井出が妖精と話し合っていろいろと改造しているらしくてな。
   こういう時、中井出の器詠の理力って羨ましいな……。
   まあ、あいつらと普通に渡り合えるなら、鎮守府正面海域じゃ苦労はないよ」
吹雪「……それほどまでに……」
悠介「他に金剛はどんなことを言ってた?」
吹雪「あ、はい。その駆逐隊は四人で、
   中でも前回の演習では鬼神の如き迫力と殺気と実力を見せ付けた長女───」

 暁かぁ。
 たしかに提督が気に入っているだけあって、滅茶苦茶強くなっている。
 どこまで鍛えりゃあんな駆逐艦がってレベルで

吹雪「その名を、秘湯混浴刑事エバラと───!」
悠介「……裁き」
金剛「《ヂガァアンガガガガ!!》ふぎゃあああああぎゃぎゃぎゃ!!?
   ななななにごとデェーーーーース!!?」
悠介「おのれは新人になんてことを教えてるんだ! このたわけ!」
金剛「What's!? 提督!? きゅ、急になにするデス?
   刺激的なモーニングに興味がないわけではないデスが、
   これはちょっとひどいデース……」
悠介「……金剛? 吹雪が暁のことを秘湯混浴刑事エバラとして覚えてしまったんだが。
   こいつにヘンなことを教えたのはお前か? お前だな? お前なんだな!?」
金剛「Noゥ! ワタシ事実しか教えてないヨ! ほ、ほらほら見てほしいデス提督!
   演習の名簿にもきちんと書いてありマース!」

 あいつらが置いていったらしい書類を見つけた金剛が、すぐさまそれをぺらりと見せてくる。
 そこにはきちんと“秘湯混浴刑事エバラ”の文字が。

悠介「………」
金剛「ネ? ネ……?」
悠介「ああ、うん……疑って悪かったけど、
   暁の疲労度が戦ってもいないのに赤く染まりそうだからやめてやろうな……」
金剛「イ、Yes……でも不思議デス。
   アカツキ……暁。名前は覚えてる筈なのデスが、
   どうしてか秘湯混浴刑事エバラじゃないとイケナイ気がシマース……」
悠介「………」

 提督……まさかアノヤロウ、リネームまで使ってエバラにしたんじゃあるまいな……。

悠介「………」

 とりあえず……エバ、じゃなくて! いや待て待て本格的にまずいぞ!?
 エバラで名前が定着し始めてる! これ絶対に提督がリネーム使ったぞ!?

吹雪「ひとう、こんよくでか、エバラ……強そうな名前ですよねっ!」
悠介「……とりあえず、到着したらお茶でもご馳走しよう……」

 中井出の鎮守府では確実に苦労艦であろう暁を、せめて俺だけでも温かく迎えてやろう……。

  なんて思っていたのだが。

 よく晴れた蒼空の下、俺が見守る鎮守府正面海域演習にて。
 演習が始まる瞬間、吹雪がうっかり「秘湯混浴刑事エバラさん……あなたと戦えて光栄です!」なんて敬礼とともに言ってしまったからもう大変。
 レディーが鬼神モードになってしまい、とりあえず吹雪は一撃で沈んだ。
 ちなみに一通り遊び終えたのか、演習をしている海の傍で観戦していた彰利と中井出が

中井出「すげぇ!」
彰利 「エバラすげぇ!」
中井出「エバラすげぇ強ぇえ!」
彰利 「強ぇえ!」

 とか言いまくってたら、流れ弾と称した砲撃が彼らを襲いまくった。
 演習用弾丸だから怪我の心配はないものの、披露度RED状態なのに確実に当てるレディーに、金剛も吹雪も口をあんぐり空けて呆然としていた。
 どれほど錬度上げればそんなことが出来るようになるんだか。

高雄「馬鹿め……と言って差し上げますわ!」

 で、彰利のところには天龍の他に高雄っていう重巡が居て、攻撃に集中していたエバ……暁に、見事砲撃を命中させる。
 珍しくも暁が中破したところで、提督が───

中井出「そうだこの馬鹿!」
彰利 「馬鹿め!」
中井出「馬鹿め!!《どごぉおおん!!》ギャアーーーーーッ!!」
彰利 「な、中井出ーーーーーっ!! おぉおお落ち着けぇ! 落ち着くんだエバラ!
    それ以上気を高めるんじゃ《どごぉおん!》ギャアーーーーーーッ!!!」
エバラ「エバラじゃないって言ってるじゃないっ!! ぷんすかーーーっ!!」

 ───心配するでもなく全力でからかいに行き、暁のクリティカル砲撃をその身に浴びていた。
 直後に彰利も喰らい、もうどっちが敵で味方なのか。

中井出「ちなみにこの演習に勝ったらエバラの名前を暁に戻すからなー」
エバラ「───では暁、一人前のレディとして、一旗あげてくるわ《ガチャリ》」
総員 『あ』

 空気が凍るのを感じた。
 だめだ話にならない! エバラはやる気だ!

エバラ「一人前のレディーに戻るために───あなたたちには沈んでもらうんだから!」
金剛 「ちょ、ちょっと待つデース! 演習でそこまで本気になるなんてナンセンス!
    怪我でもしたらシリアスプロブレムデース!!」
エバラ「……そう……。暁がレディーに戻る儀式を邪魔するっていうんだ……。
    いい人だって思ってたのに……!
    もう許さない……許さないんだからぁっ!!」
金剛 「Noooooooooo!!?」

 のちに、阿鼻叫喚。
 第六駆逐隊が一丸となって襲い掛かってきて、けれど金剛は仕方も無しと真正面から受けて立とうとして

金剛「《ガゴドシャア!!》ふびゅうっ!!?」

 ……話に聞いた、カタパルト・エバラ・インパクトの餌食となり、撃沈。

エバラ「レディー……レディーにもどるの……! もうエバラはやだよぅ……!」

 っておいぃい!? ぶつかったって意味ではエバラッ……じゃなくて暁も同じなのに、涙流しながらも耐えてるんだが!?
 戦艦とぶつかって駆逐艦が勝つって、なんだそりゃあ!
 あれか!? 執念とかか!?

悠介 「提督!? 提督ぅううっ! エバラ泣いてるぞ!
    これの何処にフォローがあるって《どごぉおん!!》あぽろぉおお!!?」
エバラ「エバラ言うなぁああっ!!」

 エバラ言った途端に撃たれた! どういう命中力誇ってるんだよお前は!!

悠介 「げっほげほごほっ! 解った! 解ったから撃つな!
    演習中止! とりあえず話を───」
エバラ「───!!《がーーーん!》……うっ、ひっ……ひっく……」
悠介 「中止にしたら勝敗も無くなるから一生エバラとかそういう意味じゃないから!
    ちゃんと戻させるから泣くなぁあああああっ!!」
中井出「おいおいひでぇやつだなモミアゲこの野郎」
彰利 「なにも泣かすことねーベヨモミアゲこの野郎」
悠介 「いいからてめぇらいっぺん黙れぇえええええええええええっ!!」
中井出「黙れクズが!」
彰利 「死ね!」
悠介 「だぁああああもうちょっとそこ座れ馬鹿者どもぉおおおおおっ!!」

 叫んでもとことんマイペース。
 どころか、提督はエバッ……暁を「ほらおいでー暁〜」なんて言って手招きして呼び戻し、その小さな体と目線を合わせるように屈み、やさしく抱きしめたのだ。

エバラ「ふえっ……?」
中井出「今までよく耐えたな……これにてレディー式精神鍛錬は終了だ。
    これでキミは昨日のキミよりよっぽどレディーだ!」
エバラ「えっ……え……? レディー……? 暁、レディーなの……?」
中井出「すまなかったなぁ……彰利と話し合って、
    暁に足りない淑女っぽさはなんだろうって考えたんだ。
    で、出た答えが忍耐力だった。暁はちょっと怒りやすいからな。
    だからわざとヘンテコな名前で呼ぶことで、お前を成長させたかったんだ」
エバラ「…………《ほわああ……!》司令官……!」
悠介 「騙されるなエバラ! そいつまだ認識をエバラにしたままだ!」
中井出「ンマア! 娘の成長を見守る提督の前でエバラなどと!
    なんというモミアゲでしょう! 信じられないアマス!」
彰利 「そんなだから父親の絵が長州になるんだダーリンの馬鹿!」
悠介 「それはいい加減忘れろ!
    あと提督はそう思うんだったらリネームで直してやれよっ!!
    もうこっち本名で呼んでやりたいのにエバラとしか言えないんだよ!!」
エバラ「司令官……あっちの提督がまた、エバラ、エバラって……!」
中井出「おお可哀相に……こんなに泣いてしまって。
    さ、演習はもうおしまいだ。帰ろう……僕らの園に」
悠介 「おぉおいちょっと待て!? これ俺か!? 俺が悪いのか!?」

 提督はそう言うとエバラの頭を撫でて、それから腕を差し出した。
 きちんとレディーに対する紳士っぷりなのに、悲しいかな、今“ぽ〜〜……”と赤くなって潤んだ瞳で提督を見上げるレディーはエバラなのだ。
 ほら、隣を見れば彰利が腹を抱えて息をけひゅけひゅ吐きながら笑い転げている。

悠介「まあ、これがフォローだっていうなら、それはそれでいいんだろうけどな」
彰利「ゲッフエフエフッ……! だっは……! だ、だいじょぶ、
   あー、だいじょぶだいじょぶ。なにせ中井出じゃしね、ぷっふぅ……!
   種明かしはあっさりぞ。
   我らが小者提督は、人をからかったならその事実をいつまでも隠しやしねー」

 ほれ、と彰利が促す先には、走り去っていった提督───が、他の駆逐隊と合流したところで、レディーをエスコートする紳士中井出は、そのレディーにこそ腕を固められたまま、無慈悲なる0距離砲撃を浴びせられてギャーと叫んでいた。
 おそらく他の子達からの呼び方が変わっていないことで気づかれたのだろう。

悠介「……あいつってほんと、
   自分がどうなっても“楽しい”を追求するの、好きだよな」
彰利「ええんでない? からかいの対価をきちんと払っておるんだし。
   それにほれ、なんだかんだで、あっちの艦隊、絆が深ェエエエよ?」

 彰利に促されて見てみれば、いつの間にか肩車をしている提督。
 そう、彼の肩の上には───

加賀「ここは譲れません《加賀ァーーーン!!》」

 何故か加賀が。

響  「……! い、いいや……! そここそ譲れない……!
    そこは不死鳥が留まるべき場所なんだ……! だから……!」
エバラ「なに言ってるのよぅ! 今日は暁の番なんだから!」

 あーあー、響と暁が引き摺り下ろそうと頑張ってる。
 ああ、まあ……提督の言葉で艦載機握り潰したあたりで予想はついたけど……加賀はもう既に原ソウルに毒されているわけね……。
 ていうかな、提督。ほんといい加減、エバラ直してやれ。

雷  「大丈夫よ司令官っ、私が居るじゃないっ! 疲れても癒してあげるわっ!」
電  「司令官さん、そのっ……背中、背中に乗っても、いいですか……?」
中井出「うむ! 我らの絆に言葉はたまに不要! 好きにすればよいわ!」

 で、その絆の中でまた奇妙なあだ名をつけられる、と。
 呆れる中、勢い良く提督の背中に飛びついた電と雷。
 その衝撃で、背中が弱点な彼が「アオアーーーッ!」と叫んだが……まあその、なんにせよあれだ。
 今日も鎮守府は平和だ。





 おまけ話:カイガイ・カーン

-_-/トンガリくん

 それは、2ー4をなんとか攻略して、さらに海域開拓を進め、資材が無くなったからとボノさんを始めとした駆逐艦や軽巡さんを遠征に出した時のことでした。

川内「ただいま、提督! 遠征行って来たから夜戦許可出してよね!」
彰利「アタイそがぁな約束したっけ?」

 遠征から帰ってきたカワウティ(川内)が元気に言うけど、そげな約束はした覚えがねーざます。
 ちなみに言うとカワウティはアタイが呼んでるだけで、普通は“せんだい”である。

曙 「ちょっとクソ提督、遠征先でトラブルがあったからそっちで処理しといてよね」
彰利「なに? 深海棲艦でも拾った?」
綾波「いえ、あの。どうにも他の艦隊との進軍中にはぐれた娘のようでして」

 言いつつ、ひどい怪我だったから入渠させてあると言う綾波さん。
 アレ? アタイの許可は? と思わなくもないけど、どうせ許可は出してただろうからオッケン。

彰利「ようがす。怪我したら問答無用で入渠させる。それが我が鎮守府の掟」

 天龍ちゃんが隊に入ってからというもの、これがまたうるそーてうるそーて。
 隊から外すなよとか駄々をこねるもんだから、そげなルールが出来ました。
 ちなみに破ったらメシ抜き。連帯責任で全員。
 だからみんな、すっかり怪我人強制入渠に慣れてしもーてる。

彰利「あ、もしもし明石さん?
   入渠中のおなごに高速修復使用許可を出します。すぐ回復してやって」

 そうと解れば即回復。
 通信でアイテム屋の明石さんに連絡を入れて、高速修復をしてもらう。
 ……え? 明石って誰だって? 任務娘の大淀さんと同じく、なんか購買部に行くと下からニョッキニョキ生えてくるおなごです。
 なんか機械とか修理とか購買とかを、バリさん(夕張)と一緒に頑張ってる人。
 一応艦娘らしいっす。

彰利「えーと、ほいじゃあ(^ω^)綾波!」
綾波「あ、はい。迎えにいけばいいんですね?」
彰利「ウヌ。いきなりヘンなところに連れてこられて驚いとるだろうから、
   やさしくしてやって」
綾波「はい」
彰利「うぬらもお疲れであった。ゆっくり休んでおくれ」
川内「休みはいいからさっ、提督っ」
彰利「……はいはい。
   夜戦演習でも中井出ンところに申請しとくから、待っとりなさい」
川内「! やっっったぁーーーーっ!! 夜戦だ夜戦ーーーーっ!!」
彰利「ちなみにボノ、てめーも参加するように」
曙 「は? いやよそんなの」
彰利「あーららー……カワウティ、ボノが嫌がってるから夜戦無しね?」
曙 「へああっ!? ちょっ、そんなこと言ったら《がしぃっ!》ひうっ!?」
川内「なんで!? 夜戦だよ夜戦! 夜戦しようよ! きっと楽しいから!」
曙 「絶! 対! 嫌! わたし、休むんだからほっときなさいよ!」
川内「あ、今から寝て夜に備えるんだ! 夜戦だしね!」
曙 「そうじゃなくて!」
川内「そうと決まれば一緒に戻ろう! 大丈夫! 寝ても夜になると目が覚めるから!」
曙 「ちょっ、冗談でしょ!? わたしずっと寝ていた───いやぁああっ!!?」

 ……ボノさんが引きずられていった。
 悪は去った。

……。

 ボノさんが連れていかれたのち、(^ω^)綾波! が連れて来たおなごは、なんと外国の駆逐艦だった。
 名前はZ1。レーベレヒト・マースっていうらしい。
 ちょいと遠くの鎮守府在住だったんだけど、なんでもそこの提督に無茶進軍を強要されまくり、敵の砲撃を受けて気絶。轟沈こそしなかったものの、流されて岩場に流れ着いたところをボノさんに助けられたようだ。

レーベ「駆逐艦、レーベレヒト・マース。うん、この度は助けてただいて、
    Danke……あ、えっと、あり、がとう、だったっけ」
彰利 「ウヌ、あまり気負いせず気安くきんさい。
    あとこれからも困るだろうし、こっち側の挨拶を教えよう」
レーベ「え? いや、うん、それくらいは元の鎮守府で───」

 知っている、って風情の海外駆逐艦さんの前にて椅子から立ち上がり、両手を頭上で合わせて腰を振るう。
 で、

彰利 「パンナコッタナタデココナッツタピオカ!!」
レーベ「………」
彰利 「パンナコッタナタデココナッツタピオカ!!」

 ……あ、固まった。

レーベ「え、……っと……。それがこの国での挨拶なのかな……。
    慣れるの、少し大変そうだ……というか、うん。
    前の鎮守府だと、おはよう、とか、こんにちは、とか……うん」
彰利 「んにゃ? ここらだとこの挨拶ぞ? なんなら隣の鎮守府、行ってみる?」
レーベ「………疑っているわけじゃないけど、ちょっと気になる……かな。うん。
    え、でも、いいのかな。すぐに出撃しないと、殴ったり───」
彰利 「しないしない。てゆゥか非道い提督も居たもんじゃね。
    ええよ、なんかもう沈んだってことにしてここに居てもええ。
    そげな非道な提督なんぞほっときなさい」
レーベ「…………」

 返事はなかったけど、この日。アタイの鎮守府にガイズィーンさんがいらっしゃいました。
 つーわけでYOォオ? こうして中井出ンとこの鎮守府に来たわけじゃけど。

中井出「んお? どしたー彰利ー。貴様がこっちに来るなんて珍しい」
彰利 「ちと紹介したいおなごがおってね。ほれ、レーベ」
レーベ「ぱ、パンナコッタナタデココナッツタピオカ!!」
中井出「パンナコッタナタデココナッツタピオカ!!」
レーベ「即座に返した!? ……ほ、本当にこれが挨拶なんだね……うん……」

 すげぇや! さっすが天下の中井出さんだ! なんの疑問も抱かずにあの挨拶で返した!
 しかも目が既に全てを理解した原メイツ・アイになってらっしゃる!
 すげぇぜ……! からかう気満々だ……!

中井出「ようこそ我が鎮守府へ。僕はこの鎮守府で提督をしている中井出だ。
    ちなみに今、大型建造なるものをやっていて、連敗中である」
彰利 「手探りって怖ェェエェよね」
中井出「うむ。というわけでレーベさん。
    見目麗しい(駆逐艦然としたという意味で)キミに、一度回してもらいたい」
レーベ「えっ!? ボクが……!?」
中井出「な〜に資材のことは気にするな。もはやこの博光、やけっぱちモードである。
    なのでほら、キミの運をここで試してみよう。
    ウハハハハいいのヨ気にしなくてモ。どうせみんなマル・ユーになるんだ。
    全てはレディーの運を底上げする存在よ……!
    はい、資材の量を選んでー、開発資材ぶちこんでー、
    高速建造材使ってー、はいGO!」
レーベ「わっ、わっ、わっ……!」

 中井出がレーベさんを後ろから抱き締めるように資材量を選ばせて、さっさとGOサインを出してしまう。
 レーベさんが困惑する最中、建造は高速で行なわれて───

ビスマルク「Guten Tag.私はビスマルク型戦艦のネームシップ、ビスマルク。
      よおく覚えておくのよ」

 ……なんかパツキンねーちゃんが誕生した。

中井出「……彰利、ねぇ彰利」
彰利 「ホ、ホイ? なにかね? アタイ今結構驚いてて、
    質問に答えるにはちと冷静さが足りねィェーけどE?」

 つーか海外艦なんて建造出来るもんなんですね!
 帰国子女のコンちゃんくらいだと思ってたのに!
 もしやアレですか? 海外艦を旗艦にして建造するとEの?
 でも今までそげなことなんて無かった筈なのに。

中井出「ぐーてんたーくってなんだっけ……! エスタークの仲間……!?」
彰利 「知らんヨそんなこと!!」

 挨拶的なものなんでないの!? なんでエスターク!?
 いや、アタイも結局知らねーんだけどさ!

彰利 「ぬ、ぬう。だとするとあのねーちゃん、
    いきなりエスターク言ってなにがしたいんだ」
中井出「解らん……でもとりあえずは挨拶だよね」
彰利 「おっとアタイとしたことが忘れておったよ」

 ザッ……と中井出が一歩前へ。
 それを見たビスマルク……ビス子? マルク? ……マルさんやね。
 マジコイ世界のあの軍人と被るけど、気にしちゃならねー。

ビスマルク「あなたが提督なの?」
中井出  「パンナコッタナタデココナッツタピオカ!!」
ビスマルク「《ビクゥッ!》ひゃぅっ!? ……え、な、なに……!?」
中井出  「うむ! 今のはここら一帯での挨拶である!
      挨拶されたならば挨拶を返さなくては!
      で、僕がここの提督の中井出博光。
      これからよろしく、えーと、マルさん」
ビスマルク「マルさっ……!? こ、この私にそんな呼び方をするなんて、
      随分とまあ偉そうなものね……!」
中井出  「え? ビス子よりマシだと思うんだけど……」
ビスマルク「ビスマルクよビスマルク! かつて戦艦と二隻やりあったネームシップ!
      こうして着任したことさえ喜ばしいことだと胸を張って迎えなさい!」
中井出  「戦艦二隻……すげぇな」
ビスマルク「ええ……ふふんっ、いいのよ? もっと褒めても」
中井出  (あ……ものすげーレディー臭)
彰利   (ああ……なんかすげぇレディー臭を感じる……)

 アタイと中井出と、なんだか同じ香りを感じ取ったっぽかった。
 だって中井出、すげぇ嬉しそうな顔してるし。

中井出  「ではレディー、案内をしましょう。お手を」
ビスマルク「いい対応ね。Danke」

 ソッと腕を差し出した中井出に、マルさんが軽く腕を絡ませた。
 よくわかんねーけど、レディー界じゃあいい対応らしい。

レーベ「……すごいね。前の鎮守府では、提督が何度も失敗していたのに、一発だ」
彰利 「きっとそいつにゃ縁がなかったのよ。んじゃ、次の鎮守府に行こうか」
レーベ「うん、任せてよ。もうこっちの挨拶は覚えたよ」
彰利 「エ? あ、う、うん……ソウダネ……」

 この後、次に向かう鎮守府にて。
 アタイは顔を真っ赤にして涙目になった海外艦を前に、モミアゲが美麗な男による電撃地獄を味わうこととなりました。




おまけ2:レディー・アント・マイ・ソロンG

-_-/引き続きトンガリ

 後日と言わず当日、中井出ンとこで熾烈なレディー争いがあったらしいけど、とりあえずマルさんがカタパルト・エバラ・インパクトでブチノメされたらしい。
 「きっと彼女はさぞや名のある戦艦だったのね」なんて言ってたけど、名前が秘湯混浴刑事エバラでしかも駆逐艦だと知らされて、モノスゲー混乱してました。そりゃそうだ。
 もちろん直後に砲撃を喰らって、今度こそ“暁”に名前が戻ったレディーは上機嫌。
 押忍、これでようやくアタイもレディーって言える。いやもう実際リネームの認識修正能力ってスゲーのよ。もうそやつのこと、その名前でしか認識できなくなるし。いつかの奇跡の藤堂さんみたいに。……そういや彼女の名前なんだっけ。えーと、フォルネウス……は、柿崎くんの嫁の名前じゃったよね。ああ違うフォルネリアだ。
 やべぇ忘れた。確かこう、頭に羊の角っぽいのがついてそうな……ジャミちー? おおそうそうジャミルだジャミル!

暁  「どう考えても暁が一番ってことよね!」
マル 「私が一番ですって? なに言ってるの、当たり前じゃない。
    いいのよ? もっと褒めても」
中井出「スピードでそんな胸張るヤツ、初めて見たよ……」

 どうやら現在はトランプで遊んでおるらしい。
 正座して向き合ったパツキンとレディーが、カードを置き終えて胸を張っていた。

暁  「賞賛をねだるなんてレディー然としていないわ!」
マル 「なにを言っているのよ、
    受け取って当然のものを受け取らない方が淑女然としていないわ」
暁  「ふふん、まだまだねぇあなた。
    レディーのなんたるかを《なでなで》ぷんすかーーーっ!!
    だから頭をなでなでしないでったら!」
マル 「ちょっとアトミラール! 褒めろと言ったのは私よ!?《バッ》」
中井出「え? いやそんな、いきなり帽子取ってスタンバイされても」

 ある日にちらりと見た中井出鎮守府はカオスでした。
 というかね、あの戦艦さん、すげー犬チック。
 もう尻尾があるならブンブカ振りまくってるよ絶対。
 見るからに“褒めて褒めて褒めて褒めて”ってオーラ出してる。
 被ってた帽子を取って、こう、両手で持って待っているような……ほら、投げたフリスビーを取ってきて、銜えながら尻尾振ってる犬のような……。

中井出「じゃあ褒美がいらないレディーには今日のランチは……」
暁  「べっ、べつにご褒美がいらないなんて言ってないじゃない!」
中井出「マルさん、旗はもちろんドイツの国旗だよね?」
マル 「いいわね、Danke.」
中井出「……マルさんは見栄張らないからいいなぁ」
マル 「《なでなで》はぷっ……そ、そう? いいのよ? もっと褒めても」
暁  「むうっ、見栄なんかじゃないんだからね? 一人前のレディーたる者、
    エレファントな自分を常に手本として周囲に見せていかないといけないの」
中井出「《ごくり》……マジか」
マル 「《ごくり》に……日本のレディーはすごいのね……!」
暁  「そ、そうでしょ? すごいんだからっ。
    なにせ一人前だしっ《レディィイイーーーン!》」

 わあ、偏った知識を語ってるだけなのに、すげぇシャイニング胸張りレディー。
 そして信じてるマルさんなんだかおもろい。
 こりゃ、普段から間違った知識を中井出に叩き込まれてるっぽいなぁ……。
 ちなみに、言うなら優雅さを唱えるならエレファントじゃなくてエレガントっす、レディーさん。エレファントじゃ象さんだ。

マル 「ところで提督? 出撃とか演習とかはしなくてもいいの?」
中井出「まずはこの鎮守府に慣れてもらうのが先だからね。
    案内した時に伝えたように、
    我が艦隊にはレディーに雷に電に響に加賀さんしかいないんだよね。
    もちろんこれが主力艦隊」
マル 「ええ、それは聞いたわ。
    実際に戦績を見せてもらって、どれほど活躍しているのかも知ったわね。
    けれどこの私が来たからには、海の果てまでもを攻略するべきだわ」
中井出「他の五人と連携できるようになったらね」
マル 「だったら余計に出撃するべきだわ。
    こんなお遊びで連携技術や信頼が得られるだなんて、私には思えないわ」

 ……アルェー? おかしいな、アルェー?
 言っとることは正論っぽいのに、どうしてか自分の知識をひけらかして褒めてもらいたい時の、あの子供独特のオーラを感じるぞ?
 あ、でも「めっ」て言われて中井出にぺしりと頭を叩かれた。
 ……ンマアアア!! しゅんってしてる! めっちゃしゅんってしてる! やべぇめっちゃかわええ!

中井出「互いに打ち解けてもいないのに、
    命をかけた戦いの中で背中を預けられるもんですか。
    よいかねビスマルクくん。俺は貴様を、むしろ誰も沈めたくはないのです。
    貴様が慢心して一人でも大丈夫って言っている内は、
    俺は着様を出撃させるつもりなぞこれっぽっちもありません」
マル 「……演習は?」
中井出「じゃんじゃんやりましょう。
    丁度隣の鎮守府から夜戦申請が来てるから、キミにはそれに出てもらう」
マル 「……! Gut! 私、ビスマルクの出番ねっ!?」
暁  「ねぇ司令官、当然この暁も出られるのよね?」
中井出「ウヌ。当然みなさん出てもらいます。こんな日のために、
    加賀さんに夜戦用訓練をしてもらった甲斐があったぜェェェ……!」
彰利 「きさんそげなことしてたの!?」
中井出「なに!? 貴様いつの間に!」
彰利 「ゲゲェしまった見つかった!」

 天井に張り付いてたらあっさり見つかった。
 そりゃ叫べば見つかるか。迂闊。
 バレてしまっちゃしょぉおおがねぇなぁあああ〜〜〜〜っ!
 ったくよぉおおお〜〜〜〜っ、しょぉおお〜〜〜がねぇなぁあ〜〜〜〜〜っ!!

彰利 「アタイ見参《シュタッ》」
マル 「てっ……提督っ……! 彼はNINJAなの……!?」
中井出「え? なんでそんな結論が?」
マル 「だ、だって天井に張り付いていたわ! あれはそういうジツなんでしょう!?
    NINJAはカラテやジツを使うと聞いたことがあるわ!」
中井出「誰から聞いたのそんなこと!」

 オウ、術じゃなくジツ、あなた中々解っているわ。

彰利 「あ、それなら駆逐艦スーパーフェニックスが説明しとるのをチラリと見た」
中井出「あの娘、時々素でボケるからなぁ……」
彰利 「キミがそう教育したんだろうに」
中井出「そうだけど」
彰利 「ちなみにこのマルさん、この数時間でどげなこと教えたの?
    マルさん呼びとか嫌がってたのに」
中井出「褒めまくって持ち上げまくって時々叱ったら懐かれました」
彰利 「キミほんと、こういう相手と妙に仲ええよね……あ、ところで中井出?
    ロシア語だと了解とかはDaで、Jaはドイツ語だから気をつけようね?」
中井出「うん僕知ってる。既に響には砲撃もらったよ?」
彰利 「キミってほんと、平気でウソつくよね……」
中井出「常に人と気軽に付き合いたい……博光です《脱ギャアーーーン!!》」
彰利 「脱がんでええって! 乙女の前でなんとはしたない!」

 相手が女子供だろうと容赦しねーのは前からだけど、新人さんの前でくらい遠慮しなさいっつーの!
 ……あ。アタイも別に遠慮してなかった。

暁 「い、いいい一人前のレディーともなれば、
   こんなことくらいでどどど動揺したりなんかしないんだから」
マル「……しっかり鍛えこまれているのね……少し見直したわ、アトミラール」
暁 「そ、そう! それよ! 実は私も見直してたんだからねっ!」
彰利「……キミらも苦労しそうね」

 と、アタイもそろそろ戻らんと。
 (^ω^)綾波! にレーベの管理任せっきりにはできんし。

彰利 「あ、そうそう中井出?
    ドイツ人の前であまり“はい”って言わんほうがええらしいぜ?
    ハイルって聞こえて、ちょっといろいろヤバイらしい」
中井出「外国語って難しいよね。でも大丈夫、僕ドイツ語ちょっとなら知ってるよ?」
彰利 「なに!? マジかテメー!」
中井出「うん。天地無用の歌で覚えた言葉なんだ。ドイツビール天国のアレ。
    魎呼さんが歌ってた、宇宙海賊に閉店がないアレ」
彰利 「ホ? おー……あー! そういやあったあった!
    アレなに言ってんのか解らんかったけど、
    そっかドイツ語って考えたがあったか!
    アタイてっきりドイツのお酒を三つ並べて言ってるのかと思ってたよ!」

 確かにあった。

中井出「アレ? それは普通に酒じゃないか? えと、デックディールデック?」
彰利 「あれ? そうだっけ。中井出が言ってるのってどれ?」
中井出「ああほら、歌の終わりあたりに魎呼が言ってる……あれ?
    そっちがデックディールデックじゃなかったっけ?
    なんかもう昔すぎて思い出せん。
    だが言おう! 数少ないドイツ語だけど、きっと伝わる!」
彰利 「オウヨ! どーんと言ったれい!」
中井出「うむ! ビスマルク!」
マル 「《びくっ》え、な、なに?
    なにかしらアトミラール《がしぃっ!》ひゃっ!?」

 中井出がトランプ中だったために座りっぱなしだったマルさんの両肩を掴んで、ずずいと顔を近づけて一言。
 おっほっほ、気合入っとるねェ〜〜〜〜ィェ。
 まあ確かに、新人さんには気を使うもんだもんね、無遠慮を謳うアタイたちだけど、やっぱそういうのって気にしちゃうし。
 ともあれ、中井出は叫んだ。力強く、芯に響く声で心を込めて。

中井出「イッヒ・リーベ・ディッヒ!!」
マル 「!?《ぐぼんっ!!》」

 そしてマルさんが沸騰した。
 ……アレ? なして? ……困った時はダーリンだね。

彰利「…………あ、もしもしダーリン? うんアタイ。
   ちと訊きたいんじゃけど、あのー……ドイツ語のことなんだけどさ。
   いっひりーべでぃっひってなんだったっけ」
声 『ん? 誰かから言われたのか?
   経緯は知らないけど、もし言われたなら適当な返事はやめておけよ』
彰利「ホワイ? なして?」
声 『アイラブユーって言ってるのと同じだからだ』
彰利「───」
声 『…………彰利? おーい、彰利ー?
   って、おい、お前まさか艦娘に言われたりとか』
彰利「……僕らの提督が、着任したばかりのドイツ艦にやらかしました」
声 『………』
彰利「………」

 そげなことを口に出してしまったからでしょうか。
 中井出の霊章からシルシルと静かに伸びてゆく樹木のツルを見て、アタイは静かに十字を切ることしか出来なかったのです。

中井出「え、え? なにドリアード。僕なにかおかしなこと言った?
    あ、もしかしていい加減からかいがすぎるっておしおき?
    大丈夫! 僕本気だから! 言ったならば遠慮はしない!
    マルさん! イッヒリーベディッヒ! イッヒリーベディッヒ!」
マル 「!? !?」
中井出「イッヒリーベ」
彰利 「あ、あー、あーのあの、な、中井出〜……?
    えと、その言葉、ダーリンに訊いたら、アイラブユーと同じ意味だって」
中井出「ディッ───…………」

 僕らはウカツであった。
 あの天地くん大好きな魎呼さんが天地に言っている時点で、そういう意味も考えておくべきだったのだ。
 静かにツルに包まれてゆく彼は、目にうっすらと涙を浮かべた笑みで、最後に僕を見た。
 そして言ったのだ。

  ……外国語って……怖いね……

 拘束は直後であった。
 まるでNINJAが「イヤーッ!」と叫べば「グワーッ!」と返事が返ってくるかのように、あっさりとした拘束。

中井出「《ベキベキグキゴキ!》グワーーーーーーーッ!!」

 爆発四散はしなかったけれど、彼は絞め落とされた。
 アタイは静かに合掌したのちに、これまた静かに、それでいてクールに去《しゅるり》───あれ?

彰利「あ、や、なに? なんでアタイの足にツルが!? え!? あれぇ!?
   ちょ、ドリ姉さん!? アタイべつに中井出をそそのかしたわけじゃないよ!?
   ほんとに知らなかったんだって!
   だだだだから《ベキキメキゴキ!》グワーーーーーーーッ!!!」

 喋ってる内に絞め落とされました。
 でもいい加減、己は隠れつつジツで人をシメる作法が気に入らなかったので、一言言ってやろうとしたら、復活した先で中井出にビッグフォールグリフォンくらってノびてました。
 うん、言いたいことがあるなら言わなきゃね。
 嫉妬だけで、人を傷つける、ヨクナイ。
 そんな一部始終をレディーとマルさんが見ていたわけだけど、まあ……そげな強さを前に、さすがに二人とも驚いておった。
 ただ頑丈なだけじゃないと知って、結構驚いてたみたいです。

 押忍。気絶者も出たけど、今日も鎮守府は平和です。

 PS:夜戦ができる加賀さんに関しては、艦載機に搭乗している妖精さんが猛者どもだから出来たらしい。
    夜に行なわれた夜戦演習で、突っ込みすぎた柿崎くんがまた堕とされたけど、気にしちゃならない。



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