153/修行をしましょう

 少しずつではあるが、無理ではない程度の気脈拡張をする日々が続く。
 いける……今日の俺なんかいけるよ! って勘違いをして調子に乗ると、知らずの内に空から天使が迎えに来るので大変注意が必要だ。

「フッ! はっ! ほっ! フゥ!」

 氣といえば真っ先に頭に浮かぶのは、一般的には体術方面だろう。
 俺もそうだ。
 なので今日も今日とて中庭で鍛錬。
 書類整理が安定してからは自分の時間を多く取れるようになった……ので、鍛錬。俺って本当に鍛錬馬鹿かも。
 しかしながらこの世界での“自分の中にある唯一の成長部分”を育てたくなるのは、当然のことだと思うのです。なので準備運動も混ぜた体術を虚空に向かって繰り出し、飛び散る汗にくすりと笑う。
 氣を扱っているから代謝がよくなっているのか、汗は結構な勢いで出る。それらが身を振るうたびに落ちて、なんだか映画とかの武術かみたいだなーなんてことを思ったのだ。
 木刀での錬氣の時はこうまで汗は出ないんだけど……やっぱり“体術”って意識が強く出ているからなんだろうか。

「ホアッチョゥ!」

 調子に乗って世紀末の愛の殺戮者のような声を出しつつ拳を突き出す。
 ……残念ながら、テレビで見るような中国拳法の音は出なかった。
 あれだな、“ボッ”とか鳴るやつ。
 拳を出しても足を出してもボッ、ボボッ、ボッとか鳴るのだ。
 実は無駄に憧れていた。

「……氣を込めたらどうだろう」

 再度振るう。……もちろん、ああは鳴らない。
 加速を付加させてみても無駄でした、ハイ。
 バサッ、ボハッ、みたいな音は鳴るものの、これって服が急に動かされたから鳴ってるだけだろうしなぁ。
 うーん、中国拳法のなんと不思議なことか。(注:ただの効果音です)
 や、もちろんただの効果音だってことは解ってるけどさ。せっかく氣ってものを操れるようになったなら、是非とも試してみたいじゃないか。
 壁に拳を寸止めで放ちまくれば壁の一部を砂に出来るとか、離れた位置にある蝋燭の火を空拳で消せるとか、そんなものに小さく憧れを抱いていたのだが……うん、無理だ。無理だけど、“今の俺には”ってことにしておこう。いつか出来るかもしれない。
 そうだよな。なにせこの体、氣以外は成長しないかもしれないのだ。
 ならばこれから先をこの体のまま……成長速度が安定しているかもしれない体のまま、鍛えていける強みがある。これで筋肉も成長してくれたらなぁと思わないでもないが、どれかひとつでも成長してくれるのならありがたいことだ。
 なので鍛錬。

「ほっ」

 ヒュッと拳を突き出す。
 氣で加速させた拳は結構な速度で突き出され……ていると思う。
 氣で体を動かしている所為か体に余計な力が入らなくなったのはいいんだが、その分何かが速くなった〜とかの感覚は逆に鈍ったような気がしてならない。
 昔は力を込めれば込めるだけ何かが速くなるとか思っていたもんだ。けど力は力でしかなく、速度は脱力とそれを手助けする程度の力とが合わさったのが丁度いいらしい。その人体のメカニズムに関しては、その道のプロじゃないと語りつくせないんだろう。結局は詳しく知らないのなら、感覚的に成長していくしかない。
 というか、氣は科学的に検証できるんだろうか。
 天では氣なんてものを得ることは出来なかった。テレビでビール瓶の口に手を当てて、ビール瓶の底を破壊していた人を見たことがあるものの、その頃はなにかのトリックだとか思っていたものだ。

「うーん……こう……こう? いや、こっちの方が速いかもしれないし……」

 首を捻りながら拳を前へ。
 まずは体術で試してみて、何かが掴めたら木刀を持って同じことが適用出来るかを検証。……大体は失敗する。そんなものだ。

「あ、そうだ。氣弾って連射出来るかな」

 自分の中から氣を小さく切り取って、放つイメージ。
 ポムと突き出した手から出た小さな気が、少し前へ進んでポスンと消えた。
 そのイメージを連続してみると……上手くいかない。
 出るには出るのだが、氣を千切るイメージの部分でどうにも詰まってしまう。もはや自分の中に当然としてあるものを千切るのを、体が邪魔しているのかもしれない。防衛本能ってやつだろう。これも日々、武器を持った春蘭に追い掛け回された賜物だね! ───嬉しくないけどね!

「だ、大丈夫だぞ、俺〜。ここに春蘭は居ないし、これくらいの氣はすぐに錬氣できるんだぞ〜?」

 言い聞かせてみる。
 ……上手くいかなかった。
 俺ってどこまで弱いんでしょうね。
 いやいや弱気になるな、弱気は損気! 弱気になっていいことなんてきっとないさ! なので、出来ないならがむしゃらだ! 無理矢理やってたらいつの間にか出来るかもしれないしネ! うん! そうしなきゃ出来そうにもないっていうのも正直な話なんですが!

「魔空ゥウ包囲弾!」

 自分の中の氣を千切っては投げ千切っては投げ! ……意味が違う? いいのさ! 細かいことは気にしません! もたもたとしたもどかしい動作ながら、空へと氣弾を飛ばした。
 ……もちろんピッコ○さんがそうしたように氣弾が空中で止まることはなかったわけだが。シュゴォオオーーーと飛んでゆく途中で止まってくれない氣弾たちに「待ってぇーーーっ!!」と本気で叫びつつ、そんな氣弾たちが青い空に消えてゆくのを……ただぼんやりと、眺めていた……。
 などと何処かの青春物語チックに締めようとしていないで。
 そうだ、そうだよ。
 切り離した氣って、空中停止とか出来るのかな。
 いや、ここで疑問に思うからダメなんだよ俺。いい加減目覚めなさい。
 出来て当然。それを疑ることなかれ。

「すぅうう……はぁああ……!」

 氣を切り離して……放つ。
 さすがに真っ直ぐ飛ばすと家屋破壊に繋がるので空へ。
 で、切り離したそれを停止させるイメージを………………してみたんだが、止まることなく飛んでいった。なんか悔しかったので、青空に浮かぶ雲に消えていくように見えたソレへとポケットから取り出したハンケチーフを揺らした。当然意味はない。

「そうだよな、停止させるイメージなら、切り離す前に氣に乗せなきゃ意味がない」

 乗せられるかどうかなんて知らないけど、出来ると思わなきゃやる意味自体がないのです。
 さっきから蒲公英が愉しそうに俺を見ているが、気にしません。
 さらに言えば華雄が樹の陰から俺をじぃっと見つめてきているんだけど、これもきっと気にしちゃいけない。
 …………あれ? ていうか二人とも、仕事は?

「切り離すイメージ……完了!」

 いいや、ここに居るってことはきっと終わったのだ。
 だったら俺が気にしてもしょうがないよねと、氣にイメージを乗せて発射。
 空へと飛んでゆくそれは今度こそ空中で一時停止を───……しないで、シュゴォーと飛んでいってしまった。
 ……揺れるハンケチーフ。項垂れる俺。

「やっぱり俺みたいな若造が氣を知るなんて速いのカナ……」

 “出来て当然!”のイメージが“貴様のような小童に出来るものか!”に変わってゆく。しかしここでそれを認めてしまえば前には進めないので、発想の転換。
 切り離した氣に氣をくっつけて、停止させるのはどうだろう。
 氣が攻守一体になる前にやっていたことだ。相手に攻撃側の氣をくっつけて、相手の動作を先読みするアレの要領。アレならもしかして上手くいくのでは?

「よし!」

 こういう成功のイメージが浮かぶ時って、自分でも驚くくらいワクワクするよね! こういう瞬間って大好きだ! で、失敗して項垂れるんだ。大丈夫、いつものパターンだから。

「まず切り離してぇえ……放つ!」

 空へと放つ氣弾。
 それにすぐさま氣をくっつけて───停止!!
 停止……てい……止まってぇえーーーっ!!

「………」

 ……ハンケチーフが揺れた。そしてお約束で項垂れる俺。
 い、いやいや失敗じゃないよ? 今のわざとだから。ててて停止のイメージが足りなかったんだヨきっと。次はいける。きっといける。いける……といいなぁ。
 どれほど哀しげな顔で止めようとしていたのか、蒲公英が俺を見ながら爆笑しているが気にしません。華雄がなんでか樹の陰から俺を見たままポッと頬を染めてるように見えるけど、気にしません。
 氣の習得だって苦労したんだ……これくらいの“出来ない”がなんだい! “出来なくて当然”でも、それは“今だから出来ない”で上書き出来るのさ。そして今だから出来ないは、“諦めなかったから出来た”で上書き出来る。
 こうなったら数をこなしてでも出来るようになってやらぁあーーーーっ!!
 ……っと、口調口調。


───……。


 ズドドドドドド!!

「止まれ止まれ止まれぇええーーーーーっ!!」

 氣を放つ。放つ放つ放つ放つ。
 某龍球物語であれば、放てば負けるフラグとして有名なそれの如く、両手を交互に空へと突き出し放ってゆく。その度に新たに氣を伸ばして停止のイメージを届かせるんだが、ちっとも止まってくれない。
 でも気分はいい。
 何かに夢中になるのって、なんであれ気持ちがいいもんだ。
 ていうか……あれ? 俺ってなにがしたかったんだっけ?
 なんかとても大切なことが既に出来ているような気がしてならないんだが。……ハテ、大切なこと? …………いやいや全然だろ、だってまだ空中停止出来てないじゃん。

「んん……なにがいけないんだろうなぁ。飛ばした氣が氣弾と繋がってないとか? それとも切り離したものはもう切り離したものとしてしか機能しないのか?」

 それはないと思う。
 なにせ別の誰かに自分の氣を変換させて流し込んだ時には、その氣が自分の氣として流し込んだ人の氣を強く妨害するようなことはなかった筈だ。
 だから……………………あれ? 流し込んだ……氣?

「あ……あー!」

 そうかそうだよ! 氣の変換!
 切り離した氣はもう俺から切り離されてるんだから、飛ばしたのは俺でももう“俺の氣”じゃないんだよ! 切り離してからそれを操るなら、その氣に合わせたものをくっつけてやらないと意思が届くわけがなかった!

「よ、よーしよーし! そっかそっかぁ!」

 難題を解いた気分で高揚したままに氣を空へ。
 切り離したそれに向けて氣を飛ばしてくっつけて、今度こそ停止のイメージを………………イメージを……

「……切り離したあとの氣の在り方が解らない」

 ……送るより先に、ハンケチーフが揺れた。


───……。


 時間ばかりが過ぎる中、掌に浮かばせた自分の氣を調べる。
 切り離すと落ちるから、まだ切り離す前。手からエクトプラズムが伸びているようなカタチは見ていて可笑しい。

「これを切り離すと……落ちるよな」

 切り離した瞬間、それはヤム○ャさんの操気弾のように丸いカタチになると、掌に落ちてくる。それを両手に装填した氣で受け止めると、再び氣の在り方を探ってゆく。
 やり方は桃香や璃々ちゃんの氣を引き出した時と同じような感覚。そうして氣の在り方を探ってゆくと、その氣の在り方も見えてくる。……ようするに攻守の氣そのもの。俺はそれに、今までの癖で攻側の氣を伸ばすイメージを強くしてしまっていたようだ。
 氣が攻守一体になっているとしても、どうにも多少偏らせることは出来るようであり……上手くいかなかったのはこれの所為……のようだ。多分。
 ならばと両手の中にある丸い氣弾に氣を繋げて“浮け”とイメージを働かせる。すると……浮いた。浮い……浮いた!?

「ハッ、ハワッ! ハワワワワ!?」

 よもや……まさか! 成功!?
 試しに飛んでいけとイメージを乗せると、掌の氣弾が飛んでいって……や、速度は相当お粗末なものではございますが……飛んだ! おおお飛んだ! 停止も……できる! 出来るよこれ! おぉおおおお!!
 操気弾だ! 操気弾だよヤム○ャさん!
 こっちの言い方だと操氣弾が出来たよヤム○ャさん!

「す、すげぇ! 氣、すげぇ!」

 興奮が冷めない。口調がおかしくなっている事実も興奮によって気づかないままに、操る氣弾を地面に向けて飛ばしてみた。するとボスッ……と小さな音を立てて、氣弾は消滅した。

「………」

 興奮が裸足で逃げてった。
 もはや使うことはあるまいと思っていたハンケチーフが揺れた瞬間だった。


───……。


 解ったことがある。
 俺の氣は貧弱だ。
 ヤム○ャさんは氣弾を地面に潜伏させて保つことに成功していたのだ。
 だというのに俺は地面を抉ることすら出来ずにボスッ……だ。
 すごいよ、ヤム○ャさんすごいよ。

「あ」

 ふと思い立ち、氣を手に集中。
 切り離したソレに再び氣を繋げて、氣のカタチを変えられるかを試してみる。
 これが出来ればいつか“落合流首位打者剣”で敵の氣弾を跳ね返すことも───!


───……。


……。

 コーーーン……

「………」

 無理でした。
 現在とっぷりと夜。
 朝から続いた鍛錬も終わりの時を迎え、俺の手にはとうとう一ミリもカタチを変えなかった氣弾。
 ソレを再び空へと飛ばしてハンケチーフを揺らすことで、本日は終了となりました。
 なにもかも思うようにはいかないもんですね。
 氣を剣にする……これが出来れば、黒檀木刀が傷つくかもしれない心配は無くなると思ったのに……。




154/続・修行をしましょう

 翌日。
 今日も来るのかなと思っていた蒲公英や華雄の姿はなく、中庭には穏の姿だけ。
 なんでも昨日は都の街の視察に行っていたらしく、現在の呉とどれほど違うのか、その差を調べにいっていたらしい。
 で、蒲公英と華雄が本日それを行っていると。
 華雄は普通に警邏の仕事で、蒲公英はそれにくっついて街を見る。
 案内役が華雄というところが少し怖い気もする。街中でまた睨み合いなぞしていないかとか考えないでもないが、そこはさすがに……ねぇ?

「……やりそうだー……」

 今までが今までだもの、きっとやる。
 そうなったら警備隊に任せるしかない……よな。

「………」

 心の中で頑張れと言いつつも、手では十字を切りそうになっているのを止めた。

「さて」

 朝出来る分の書簡整理は既に終了。
 のちに送られてくるであろうものも夜にやれば問題無し。
 緊急のものは直接報せてくれって言ってあるし、あとは鍛錬だ。

「前は三日ごとだったのに、翌日にやるなんて……」

 なんだかくすぐったい気分だ。
 筋肉を鍛えるためなら二日三日は休ませる、なんてことを知らなかった頃はほぼ毎日筋トレをしたもんだ。お陰で体がどんどんと動かなくなっていって、それを口にしても鍛え方が甘いからだーなんて言われたりもした。
 当時の体育教師は結構熱血派だったに違いない。“鍛えれば強くなる! 強くならないのは貴様が軟弱だからだー!”で全てを通しそうだった。

「……あ。そういえばさ、穏ー」
「はぁい? なんですかー?」

 東屋の石椅子にちょこんと座ってこちらを見ている穏に声をかける。
 少し愉しげに……というよりはわくわくしているように見える彼女は、にっこり笑いながら声を返してくれた。そんな彼女に“穏って武器、なにか持ってたっけー”と訊いてみた。
 ……返ってきた言葉は、意外にも紫燕という名の多節棍。
 大丈夫なのか、それ。
 あんなぽんやりさんが多節棍を使う様なんて、まるで想像がつかないんだが。
 あ、あー……でもなんだろ。
 呉での鍛錬の合間に、祭さんが“穏はあれで結構できる〜”的なことを言っていたような。

「………」
「?《にこり》」

 マジか……って目で呆然と見つめていると、にこりと笑まれた。
 離れているにも係わらず、その笑顔はぽややんとしたものだと確信が持てる。なのに結構できるらしい。
 ……前略おじいさま。俺、やっぱりこの世界の常識がよく解りません。
 ま、まあいいや、今は鍛錬だ。
 穏もあそこで書物を読むそうだし、見られて気になることもない。
 今は自分のことに集中だ。
 ……でも氣を剣にするのは諦めようね。

「そうそう、氣を空中で停止させることは出来たんだし、あとは連射を…………連射……連射?」

 …………。

「出来てる!?」

 あれぇ!? そういえば俺、空中で停止させることに夢中になるあまり、当初の目的忘れてたよ!? そうだよ! 俺、元々連射のために練習してたんじゃないか!

「あ、あ……あー……」

 人は難しい事態に陥った時、さらに難しい困難に直面したあとだと“その前に難しいと思っていたこと”が案外楽に解けるといいます。……それを身をもって経験しました。

「それにしたって気づかないまま使うとか…………」

 阿呆ですか俺は。
 い、いや、でも出来たんだよな! これは喜んでいいことだ!
 では改めまして───

「魔空ゥウウウウ包囲弾!!」

 ズドドドドドとピッコ○さんのように氣弾を連続で放って、それを空中で停止させる。
 …………一個だけ停止して、残り全部が空へと消えていった。

「………」

 ハンケチーフが揺れていた。


───……。


 つまりあれだよ! どうにも俺は氣の可能性っていうものを自分で狭めすぎているんだ! 考えすぎなければ上手くいきそうなものなのに、これまで生きて学んできた常識がそれを邪魔する!
 氣なんて漫画やゲームの中のものだ〜なんて固定されたことをわざわざ考えたりしなければ、きっともっと自由で……なんというか救われていたのかもしれないのに……独りで静かで豊かで……。じゃなくて。

「というか……これ、氣弾切り離さずに放ったほうがよくないか?」

 切り離してわざわざ繋げるくらいなら、いっそ繋げたまま放ってみたらどうか。

「そうと決まればソイヤァーーーッ!!」

 新たな発見に伴うハイテンションとともに氣弾を切り離さずに空へ!! すると放たれた勢いとともに俺の中の全ての氣がゾリュリュリュと根こそぎ空へと飛んでいきィイイェエゥゥェエ…………どしゃり。
 …………気絶しました。


───……。


 前略おじいさま。一刀はまた一つ賢くなりました。

「切り離し、大事!《どーーーん!》」

 や、既に一度通った道であり、忘れてただけなんですが。
 そうだよなー、剣閃とか放ったあとに氣がすっからかんになるから、凪に切り離しを教えてもらったんだもの。
 それを忘れて得意になるなんて……いかんなぁこれは。いかんいかん。
 あ、ちなみに穏は読書に夢中で、気絶した俺にはてんで気づかなかったそうです。
 ……いいんだけどね、べつに。

「夢中になることも大事(主に連射習得)。でも過去の経験はもっと大事(主に切り離し)」

 麒麟さんが好きだけどガネーシャさんはもっと好きみたいな、そんな気持ち。かなり違うけどそんな気持ち。

「はぁあああ……!!」

 ともあれ、錬氣が終わったなら再び鍛錬。
 氣の応用も少しだけ道が開けたし、ならば開けた……拓けた? 拓けた、じゃあないよな。だって操氣弾だし。先人としてヤム○ャさんが居るんだから、拓いたとは言えないね。
 なのでこの、先人が既に通った道……極めてみせよう!

「つおッ!」(それっぽい言葉)

 掌の上、何も無い中空に氣弾が浮く。
 氣の大半を凝縮させて作ったソレは、昨日のものよりも金色が強い。むしろ眩しささえ感じるくらいにギラギラしている。春蘭や恋と戦った時に弾けた氣の閃光みたいだ。

「はぁ……はぁ……こ、これを操って……」

 停止させるイメージを常に流しながら、カラッポに近い気脈に錬氣。
 既に息切れしている情けなさはご容赦ください。ほんとに辛いんです。

「ふぅ……よしっ」

 錬氣した氣が安定すると、次は氣弾の操作に移る。
 まずはゆっくりと動かして……右〜……左〜……おおお、案外自由に動く。でもやっぱり多少の反動みたいなのはあるようで、右に動かしたあとに左に向かわせようとすると、ブレーキみたいなのがかかってから左に行く。
 氣でもこういうのってあるんだなー……重力とかあるわけでもなさそうなのに。

「……? ハッ!」

 ま、待てよ? 大変なことに気づいてしまった……!
 これの要領で体に氣を纏わせれば、空飛べるんじゃないか……!?

「……いやいやまだだ。焦るな焦るな……!」

 まずは小さなコントロールからだ。成功を焦っては失敗しか産めない。
 ならばこそ、まずはこの操氣弾のコントロールからだ。

「───右!」

 意識すると、操氣弾がヒョンッと右へ飛ぶ。

「上っ!」

 さらに上へ。

「………」

 しばらくそのままにしておくと、ゆっくりと掌へと戻ってきた。
 氣で繋げてるからかな? なんか面白い。

「氣って結構応用が利くんだなぁ。ははっ、これを誰かに向けて飛ばして、相手の氣に変換してからぶつけたら吸収されたりするのかな」

 それが出来たら回復弾の出来上がりだ。
 なんだか一気にファンタジックになった。

「じゃあ繋げたまま相手の氣に合わせてくっつけて……う、浮かせる?」

 出来るんだろうか。
 そしたらそのまま空に飛ばして“悟空ーーーーっ!”なんて叫ばせて……それじゃ相手が死にますね。じゃああれだ、“魔封波じゃーーーっ!”って叫んで発射、相手を氣で包んで浮かせてぐるぐる回転させて目を回させる。
 ………………物凄く面倒な行動だった。

「どちらにしたってこれが慣れてからだよな」

 そもそも氣は相手に合わせてくっつけた時点で気脈に飲み込まれる。そうなるともう俺の氣ではなくなるわけだし、浮かせることなんて無理だ。
 じゃあ自分はどうなんだって話だが……多分自分を浮かせるのも無理。
 氣自体はそれに重力がないから浮くのであって、そもそも放つ時だって方向を決めて“発射”しているからこそ飛ぶのだ。なのにそこに重力の塊である人を乗せたりなんかしたら、浮くはずもない。

「うん、それはそれで仕方ない」

 空を飛ぶのは真桜に任せよう。
 俺は俺で、数少ない自分の特技を昇華させることに真っ直ぐになればいい。

「…………念のため言っておくけど、特技って氣のことだからね?」

 誰にともなく呟いた。
 離れているから聞こえなかったのか、穏はこちらを見ることもなくうっとりした顔で本を読んでいる。
 ……そう、断じて床上手とかそっちが特技ではない。
 氣だよ、うん、僕氣が得意なんだ。むしろそれしか伸びないんだ……。
 しかし昔からよくある話だ。全てを万遍なく育てるよりも、一点を集中してそれを極めた者は強いって。大変腹立たしいことに、その多くは一部の“天才”と呼ばれる存在にはどうあっても勝てやしないのだが、それでも食らいつくことは出来るのだ。
 俺はその可能性を決して否定したりなどいたしません。
 なので一歩。一日一歩、三日で散歩ってやつだ。え? 二歩下がるのか? 否である! 進んだからには下がらない!
 後ろが気になるなら振り向きます。下がる理由なんて今はないしね。

「よっ! ……ほぉおお〜〜……」

 バスケットボールのように、両手で弾くように正面へと操氣弾を飛ばす。しばらくすると止まったそれは、やはりゆっくりとこちらへ戻ってくる。
 試しに引き寄せるイメージを働かせてみると、シュバッと元気に戻ってきたそれをバッシィと両手で受け止め

「《ドゴォオオン!!》ギャアアアアアアアア!!!」

 爆発した。
 ……うん、バスケットボールみたいに弾き飛ばせたからって、勢いよく戻ってきたソレが弾けないとは限らないもんね……。でもまさか、キャッチの衝撃で爆発するとは……思ってもみなかったよ……。


───……。


 バッババッバッバッ!!

「上っ! 上っ! 下っ! 下っ! 左っ! 右っ! 左っ! 右っ! B! A!」

 上下左右に氣弾を移動させまくる。
 いい調子だ。なんだか最近の自分が冴えている気がしてならない。
 いける……何処へとかそんなこと訊かれても答えられないけど、なんかいけそうな気がする! なんでコナミコマンドなのかはイメージしやすかったからだとご理解ください。

「よーしよしよしっ! っへへ〜♪ なんか調子いいし、そろそろ威力のほうも……!」

 調子に乗りまくって顔を大いにだらしなく緩めた俺は、氣弾を地面へ向けて飛ばした。これで地面を抉って、さらに地面から飛び出させることが出来れば俺も……俺もようやくヤム○ャさんに近づくことが───!
 ……ボスンッ。

「ホワッ!?」

 ……地面と衝突した途端、軽く破裂して消えた氣弾に驚きを隠せなかった。
 あ、あれー……? もう少しこう、ぼかーんとかどごーんとかそんな音を期待してたのに。

「……人に当たった時だけあんなに激しく爆発しておいて」

 少し腹が立った。
 そりゃあ練習用ってことで練り方はお粗末だったかもしれないが、それでも立派な氣弾だったのに。少し意地になってもう一度練り上げた氣弾を、今度は上昇させてから一気に地面へと落とした。
 すると、地面との接触とともに大きな音を立てて破裂する氣弾! 氣弾の大きさよりも少しだけ大きめに抉れる地面! 「おおおお!」と子供のように燥ぐ俺! ……そして固定のイメージを持続させなかったために、無残に飛び散って消えた氣弾。

「………」

 一つのことに夢中になると、そもそものきっかけを忘れる癖をなんとかしようと思った瞬間だった。だ、大丈夫、今度は大丈夫だ。人間は学習出来る存在です。

「固定、固定ね」

 地面に穴を空ける、破裂させない、地面からまた空へと飛ばす。これを以って成功ってことで、とにかくまずは地面に穴を空けられる氣弾を作ること。さらにその時点で氣弾が破裂しないこと。……穴空けても、喜んで氣弾を霧散させちゃわないこと。集中だ、集中。

「よしっ!」

 錬氣、氣弾生成、氣をくっつけて操作、地面へ向けて発射。
 ここまでは流れるように出来るようになった……と思う。や、アニメとかみたいにシュバーとか出来るわけではもちろんない。あくまで今の俺の中で。相当もたもたしてるんだろうけど、これでも速い方なんだ。……うん、実戦向きじゃないのはとっくに理解してるんだ。でも浪漫が……男の子には浪漫があるのです。

「〜〜……」

 中空から地面へ向けて急降下した氣弾が、ごりごりと地面を削る。
 なんというかこう、回した独楽がチリチリと地面を抉るみたいにゆっくりと。
 ……ああっ! もどかしいっ! でも集中切らすわけにもいかないっ!
 そうだよなぁ、やっぱりそうだよなぁっ! 氣弾って破裂した時にこそ威力を発揮するものだよなぁ! 固定したままじゃ、ただの回転するボールと変わらないんだもんなぁ! なんか変だと思ってたよ!
 すごいよ! ヤム○ャさんあなた最高だ! カタチを保ったままの氣弾で地面どころか武舞台の固い石床まで破壊するなんて!
 よくサイ○イマンと一緒にネタにされるけど、彼だって俺達に比べたら十分に最強種じゃないか。そんな彼の技を真似てみようだなんて、自惚れにも程があった……!

「じゃあ威力を上げよう」

 しかし北郷めげません。
 だってこれしかない……俺には氣しかないんだもの!
 単純に考えればいいのさ、威力が弱いなら、威力を上げればいい。当然のことだよね。じゃあこういうもののセオリーとして、威力を上げるにはどうすればよかったっけ?

「そう……水はだばだば流すよりも、ホースの先を摘んで出口を細くしたほうが勢いがいい!」

 簡単なことじゃないか!
 なので掌からじゃなくて指先から出す! これ即ち───!

「くらいやがれ!!《ババッ!》」

 右手は人差し指と親指以外の全てを握り込み、指ピストルの構え。左手は右手首にソッと添えるだけ。この右人差し指に氣を集中させて、心の引き金とともに空へと一気に解き放つ。これぞ某・霊界探偵が好んで使用した霊氣圧縮発射奥義!

「霊丸(レイガ)ァーーーーン!!」

 叫んだ名前の通りの物が、金色の色を以って放たれる。
 俺は……圧縮されたソレが空の青へと勢いよく飛び、やがて真っ白な雲に消えてゆくのを……ただ黙って見送っていた。

「………」

 のちに静かに膝から地面に崩れ、両手を地面についた時点で一言。

「……空に撃っちゃ、威力解らないじゃん……」

 ……いい加減学ぼうね、俺。


───……。


 さて。
 今度こそと地面に撃った指先発射の圧縮氣弾は、確かに威力もあって地面も抉ってくれた。固定した状態ではタカが知れているんだけど、抉ってくれた。もちろん穿つには至らない。
 大人しく凪みたいに爆砕型でいったほうが良さそうだ。
 爆砕型はすごいぞ〜? なにせ賊を捕まえるために放てば、店の看板が吹き飛ぶくらいの威力で……

「……使いどころをちゃんと考えてから放とうね」

 そもそも地面に氣弾を潜伏させるって野望は費えたんだから、地面を抉る理由もないのだ。そりゃあ威力を知りたいって願望があったわけだけどさ、手入れしてくれる人に悪いじゃないか。

「手入れかぁ。園丁†無双のみんなは元気かな」

 懐かしき魏国の精鋭らを思う。
 またボッコボコにされた中庭を整備するためだけに呼ばれたりとかしてなければいいけど。

「まあそれはそれとしてだ。んー……」

 とりあえず結論を出すのなら、今の俺は氣弾を放つよりも氣を込めて物理的に殴ったほうが強いみたいだ。
 ようするに攻撃特化や防御特化ではなく、加速とかそういう変則的なことに向いている氣なんだろうね。なんたって類を見ない攻守融合型らしいし。
 ……これって使えるのだろうか。
 普通に攻撃型の方が男としては浪漫があったような気が。
 でもそうだとしたら、誰かの傷を癒すとか誰かの氣を呼び覚ますとか、あんなに簡単には出来なかったんだろうな。そこのところは素直に感謝。

「威力は無くても数撃ちゃ武器になるだろうし、目眩ましにも……数撃ちゃ?」

 数……数か。
 ピッコ○さんや野菜の王子様みたいに両手で撃つんじゃなくて、こう……右手で木刀を構えて左手で相手の動きを制限させるために連続で……でも氣弾を馬鹿丁寧に撃ってたら氣がいくらあっても足りない。そこで数だ。

「数……指先から……そう、指先から、氣の量は小さいけど多少の威力はある氣の小さなレーザーみたいなのをドチュチュチュチュと発射…………ああっ! アーマー○コアでそんな武器があったよ!」

 え、えーと、イメージイメージ。
 指五本を相手に向けて構えて、その五本の指から一気に一発ずつの氣弾……氣線? を放つ……と。

「よっ……と。おおっ、出た出た」

 相当にショボかったものの、小さな氣弾が出てくれた。しかしすぐに霧散してしまったので、これじゃあ敵に当たる前に消えてしまうことになる。……むしろせめて線状で出したい。あれじゃあ指からパチンコ玉(ダメージはそれに劣る)を飛ばしてるだけだ。
 こう、もっと狭めるように〜……それでいて気脈から一気に押し出して〜…………イメージって言うけど、考えるのは簡単で、明確化させるのが難しいだよこういうの。歌とかでもっと頭に響かせてーとか言われたって響いたら脳が死ぬわ! とか真面目にツッコミたくなるような気分。いやまるで関係ないんだが。

「リズミカルにやってみよう。1、2、123、って感じで出す……」

 やってみる。
 ……出るには出るんだが、どうにも複数個所から出すというもの自体に俺が慣れていないようで、どうにも上手くいかない。
 はぁ……覚えることがいっぱいだ。そして溜め息吐いてるくせに顔がニヤケてる。自分が強くなれる可能性が見つかったからだろうか。春蘭とか相手に使ったら小細工がどうのこうのと罵倒が飛びそうな予感だけが浮かぶものの、まあなんだろう。春蘭相手に大した威力もない見掛け倒しマシンガンを撃ったところで、どうせそのまま突撃してくるに違いないのだ。そしてまた空を飛ばされる俺。……ソレを思えば、罵倒がなんだというのだろう。
 たとえ負けると解っていても、可能性を思えば冒険をしたくなるのが男って生き物だと思わせておいてくださいお願いします。

「……一本一本地道にいこうか」

 人差し指は楽に出た。
 中指もOK。……薬指と小指と親指が上手くいかない。
 そのくせ、サムズアップしながらだと何故か出た。
 ……しょうもないけど大いに笑った。


───……。


 さて。
 なんとか指の一つ一つや、人差し指と中指二本ずつ、小指薬指二本ずつなどでも氣弾が出せるようになって一息。なんとなくやりたくなって握り拳から小指人差し指のみを立てて、それを天に突き上げながら氣弾を放ってみた。世に言うテキサス・ロングホーンポージングである。
 無性にラリアットをしたくなったが、きっと気の所為だ。

「……よしっ」

 そんなウエスタンソウルはさておき、いざフィンガーマシンガン!
 バッと格好よく構えた(つもり)の指先から、氣弾を発射する!
 それらはそれぞれが指差した方向へと器用にまっすぐに飛び、障害物に当たったものは軽く弾け、当たらなかったものも一定距離を飛ぶと消えた。しかしきちんと思う通りに発射出来るようになって、俺はもうそれだけで十分満足だった。
 威力など二の次。
 こういうのはあれだ。
 かめはめ波と同じで“出来たこと”が何より大事なんだ。
 だから指から一斉に氣弾というか光線が出なくても、たとえ二本ずつとか一本ずつの発射にバラけていても、それはそれでいいのだ。い、いや、挫折したとかそういうのじゃないよ!? ほんとだよ!?
 あとは動きながらでもこれが出来て当然になれば、戦い方も広がるってものさ! ……多くの場合、威力が小さいと知るやコレを無視して突っ込んで来そうだけどね!

「せっかく編み出したマシンガン(もどき)なんだから、そう簡単に潰されるのもなぁ……。じゃあアレだ。コレを無視して突っ込んできた勇気あるお方には、漏れなく全力の氣を込めた木刀の一撃を進呈するとか」

 目眩ましのあとに一撃……砂をかけてから攻撃するどこぞの悪党のようですね。
 命をかけるんだったら“どんな手を使ってでも勝つべし”だろうけど、やったら華琳を始めとする様々な人に絶縁されそうで怖いです。

「……アレ? じゃあ俺、相手が掻い潜って出てきても相手が攻撃仕掛けるまで待たなきゃダメなの?」

 …………覚えた意味ねぇ。
 そんな言葉が俺の頭の中に大きく誕生して……口調が悪くなるのも直すつもりもなく、頭の中の言葉をそのまま口にしたのでした。


───……。


 氣の応用その……いくつだっけ? まあいいや、その2ってことでいこう。

「氣のマシンガンについては卑劣に見えない程度に使う方向で。で、次は……」

 ともかく俺の氣は何かに宿らせることや加速などといったものに特化しているようなので、攻撃の加速や移動、自己の回復などに使うのがベストだろう。
 さすがに疲労は簡単には回復してくれないが、それも氣で体を動かせば疲れづらいという恩恵があるので度外視。防御面に使うって方向は……さすがに腕に氣功を使ったからって銃の弾丸を弾く肉体とか刃物を受け止める肉体とかになるのは無理だろうから、俺はあくまで衝撃吸収の化勁でいこう。もちろんそういう氣功に憧れはあるんだけどね。
 えーと? 体を硬くする氣功って名前、なんていうんだっけ? 硬氣功っていうのはちょっと違ったような気がするんだけどな。逆に筋肉増強とかの氣功があるなら是非覚えたいものだ。筋力の上げようがないから、こう……美しい魔闘家鈴木さんのように爆肉鋼体と名づけた能力を使うだけでマッチョになれるとか。……なったらなったで、その体を使いこなすのにまた時間を費やすんだろうね。使った途端に使いこなせるイメージが全然湧かないのは、どこまでいっても自分が日本人……というより極々一般的な地球人だからなんだろう。宇宙人ならなにがあっても驚くだけで済む……そんなイメージなら簡単に出来そうだ。

「移動速度……だよな。走る練習は今でも続けてるし、お陰でもう氣で体を動かすことにも慣れた」

 でもそれはあくまで筋肉に負担をかけない程度の速度。
 疲労が出ないように動くことを意識しているために、無茶な行動は出来ていない。なのでそれをさらに氣でカバー出来れば……というのが応用2。

「腕の加速が出来るなら足の加速も出来るはず。それは練習の段階で何度かやったけどなぁ……」

 あれは結構痛い。
 ご存知のように氣で体を動かしているわけで、それに加速をつけると関節にダメージが来る。なにせ走る動作の際にクッションになるはずの筋肉が、脱力の所為で普段よりも機能していないのだ。お陰でどっすんどっすんと響くし、痛みを和らげようと氣をクッションにしようとすると走る方向に氣を集中させづらくなるし。
 現在よりも速く走るとなると、まずはそこをなんとかしないと……ん? なんとか………………あ、なんとか出来るかも。指の一つ一つから同時に氣を放出することに成功したんだ。その要領で、こっちもなんとかなるかもしれない。

「おお……案外無駄なことって無いのかも」

 喜びつつも鍛錬再開。
 走るために体を動かす氣と、クッション代わりにする氣とを動かしてゆく。……が、予想通りと言うべきか最初からそう上手くいくなんてこともなく、何度か盛大に転倒。
 見張りをしている警備隊の視線に恥ずかしそうに苦笑しながら頭を掻くと、それでも体を動かしてゆく。そんなことを何度か……何十度か繰り返していくと、いい加減恥ずかしさよりも成功率に集中出来るようになってくる。
 成功を目指して頑張っているのだから、なにが恥ずかしいもんか。
 そう頭が切り替わってくれれば、あとは集中するだけだ。

(体は脱力。氣で完全に体をコントロールして……木刀は氣で手に繋げるイメージ。自分を自分で操るマリオネットだって思えば、あとは───)

 地面を氣で蹴り弾く。
 以前よりも速く、しかし衝撃は吸収して地面を蹴り弾く氣に上乗せすることで、より速く。化勁の要領だ。今までは相手に向けて上乗せで攻撃していたソレを、移動の際には移動へ付加する。
 マリオネットのようにとは自分でも妙な喩えを出したものだとは思うものの、困ったことに実際にそんな感覚なのだ。脳で信号を出す以上は筋組織で動かすのと変わらないだろうと思うだろうが、筋肉を動かしちゃ意味がない。あくまで氣を操って体を動かすのだから、困ったことにマリオネットなのだ。
 これが相当に大変で、今まで生きてきた自分を完全否定しながら動くようなものだ。人間の構造とか無視ですよ。“赤子の頃から筋肉とともに歩んできた体への、これは冒涜だぁ!”なんて叫ぶつもりはもちろんないわけだが、染み付いたクセというのは取れないものだ。いざという時は決まって氣よりも筋肉が先に動くために、氣と筋肉の動作意識が合わさって激しく転倒。いろいろな意味で痛い目を見ている。

「御遣いの氣って、いいことばかりじゃないよなぁ」

 でも、極めればシーザー……じゃなくて、極めれば行動の幅が確実に広がる。
 いっそ仙人にでもなるつもりで、愚直に氣を極めよう。なにせその一点しか成長させることが出来ないのだ。成長しないこの体で、どこまで居られるか解りもしないこの世界で、何も出来ない自分で居るよりは何かを出来る自分であるために。国に返せるものを一つでも増やすために、まずは一点。それを極めてみよう。

「言うは易しだけどなー……」

 苦笑してぼやきながら、それでも体を氣で動かす。
 たとえば寝転がった状態で完全に脱力してから、氣だけで体を持ち上げつつ立ち上がる。もちろん脱力中だからぐにゃりと体が後ろに倒れそうで───って固定固定! よ、よし、直立状態に出来た。あとは歩くために氣の固定やら移動やら緩急に行えるように意識。
 それに慣れると走りださせて、衝撃も氣で吸収。次の一歩のための加速装置として踏み出させて、一歩ごとにどんどんと速くさせて───!

(は、速い! 人ってこんなに速く走れたのか! 速い───速っ……速ァアア!?)

 行動になれてくると、まるでリズムゲームのような感覚。
 足が地面に着く瞬間に衝撃を吸収して、それを蹴り足に装填して蹴る。それらをリズムで繰り返すようにしていると景色の流れが速くなって、方向転換をする速度も速くなってゆく。

(にっ……忍者! 人にして人に非ず!)

 でもここまで来るとその先へ行きたい。
 そんな欲求が出てきたら、もはやこの北郷……止まる理由などござらんかった。
 速くなるリズムに無理矢理合わせ、走る足が段々と忍者チックになっていくと、なんというか余計な意識まで浮上したりするのだが……

(おおお! 忍者走り速い!)

 ◆忍者走り───にんじゃばしり
 大きく前傾しつつ、爪先で地面を踏んでは腿を上げを繰り返すもの。
 踵で着地して大きく前へ足を踏み出す従来の走り方とは少々違い、
 前傾であることと腿を持ち上げる動作のみで走るために使う筋肉が少ない。
 慣れれば瞬発力よりも持久力に優れる遅筋のみで走れるようになるため、
 通常の全力走りよりもスタミナの消費が少ない。(かもしれない)
 しかしそれに慣れるには並々ならぬ鍛錬が必要なため、一般的ではない。
 *神冥書房刊:『まず大きな前傾姿勢を保つのが辛い』より

(……普通の筋肉でやろうとしても無理だなこれ)

 体を前傾で固定、氣で腿を上げて倒れ込むように前へと進む。
 前傾のためにかかる重力の負担も次の一歩のために吸収されるため、体への負担はとことん無いとくる。
 続けるには当然氣が必要なわけで、しかしそれも吸収した衝撃を上手く利用して使っているからそこまで必要じゃあない。問題なのは“戦いながらこの集中力が持続するかどうか”だ。ちなみに現時点での自分での考えは“絶! 対! 無理!”である。

(何事もやってみなければ解らないとはいえ、普段から武器を持って相対している鍛錬でもヒィヒィ言っている余裕の無い俺に、これをずっと続けろと?)

 無茶でしょう。
 自分で想像してみて無理でしょうときっぱり言えるくらいだ。
 ただ、じゃあ慣れなさいと言われればやるしかないとも思える。
 だってやっぱり氣しかないんだもん俺。

(氣しかない……うーん。現時点で戦う能力が国に返すことになるかって言ったら、高い確率で否。鍛錬よりも仕事を探して国に貢献しろって話になるだろーなぁ)

 以前聞いた五胡の脅威は、確かに今はこちらに向いていない。
 平和が続いている今に戦う術を磨いたってしょうがないと思う時がないわけでもない。
 じゃあいつ磨くんだーって話だ。敵が攻めてきてから“じゃあ今から鍛錬するんで待っててね”なんて言えるわけもない。つか、言ったら殺される。
 だからやるなら今だ。
 仕事が少ない時にやって、いつかみんなが“その時の今”を守れなくなった時にこそ、自分はそれまで守ってもらっていた恩を返そう。
 なにも“返す”っていうことを焦らなくていい。
 返せるタイミングで、自分に出来ることを全力で。それでいいんだと今は思っておこう。どうするのが一番なのかなんてことすら、まだまだ子供な俺には解らないんだから。

「ほっ」

 ズザァッ、と足を止めてみる。
 一定のリズムで体を動かしていた所為か、思考の海に埋没しても詰まることもなく走ることが出来ていた。疲労も……うん、息切れもしてないし、多少のだるさはじわりと滲み出てきたものの……すぐに安定。
 言ってしまえば片春屠くんに乗ったほうが疲労も少ないし氣の燃費もいいわけだが……それでも自分の身ひとつであんな風にダカダカと走れたことが何より嬉しい。衝撃吸収+蹴り弾きの繰り返しの所為で実にやかましいことこの上ないものの、これは要改良ということで今は成功を喜んでおこう。

「なにかというと失敗ばっかりだったもんなぁ」

 そう思うと成功が素直に嬉しい。
 ……そう、そうなのだ。些細な成功は今までだってしてるんだ。なのに最後の最後で失敗ばかりだったから、今回の忍者走りの成功は俺にとっては素晴らしい一歩だ。……ちなみに、これが国への恩返しにどう繋がるんだとか言われたら苦笑しか出来ない。ほっといてほしい。
 コホン。それはともかく、騒音はよろしくない。気配を殺してもうるさいんじゃあ、奇襲なんかには全く向かない。春蘭や華雄といった人たちのように真っ直ぐにぶつかるなら全然構いやしないが、俺にあそこまで愚直に一直線で戦えと言われてもまず勝てない。変則に特化した氣って、こういう時は男らしくないのかもしれない。でも解ってください。“小細工”に頼らないと俺自身、鍛錬相手にすら成り得ないんです。この世界の女性は強くて逞しすぎる。
 ていうか考えれば考えるほどヘコんできて、せっかくの成功への喜びが台無しだ。よ、喜べる時に喜んでおけばいいんだよ、俺! じゃないと真正面から潰された時のショックが絶対にデカいから!

「よしやるぞ! 考えてみれば気配を殺しての不意打ちなんて成功する気がしないし、なんかもうそんな小細工してる暇あるなら手数増やしたほうがよさそうだし!」

 吹っ切れた。ヤケクソとも言う。
 鍛錬しなければいけないことは事実なんだから、今はそれで良しだろう。
 氣弾マシンガンはこの際忘れて、ただひたすらに移動の強化のみに集中した鍛錬を続けた。気脈は無理矢理拡張する方向じゃないなら、使い切ってまた錬氣した方がジワジワジとだけど広がるっぽいので、ともかく地道にコツコツと。
 走りに氣の全部を使う気で地面を蹴り弾いてみれば、一歩目から大いに転倒。身体測定の際に煽られて駆けようとした地下闘技場チャンプのように地面を抉ってしまい、なのに体は宙に浮いてしまってドグシャアと。脇腹から落下したためにしばらく悶絶したのはここだけの話にしようと思う。
 しかし失敗すると諦めるよりも“なにくそ!”と思えるようになった自分は、言い訳も用意せずに走ることを続けた。それだけでも、過去の自分よりは成長出来てるんだなって思えて……少しくすぐったさにも似た感覚を感じてしまい、顔を緩ませた。




ネタ曝しです。 *ボッ  ゴンさんではない。  中国拳法映画などで、拳や足を振るうと鳴る音。 *魔空包囲弾───まくうほういだん  確か、ドラゴンボールZアルティメットバトル22。  随分前だから記憶が確かではございません。 *ヤム○ャ  操気弾が最強技。  自他ともに認めるイカしたヤツ。  それは担当の声優さんも認めるところであろう。 *落合流首位打者剣───おちあいりゅうしゅいだしゃけん  幽遊白書より、桑原くんの技。霊剣で相手の霊弾を跳ね返す。  霊丸も同作品にて幽助の技として登場。  ちなみに凍傷の同級生に「私、蔵馬と結婚する!」と言ってたおなごと、  「私、飛影と結婚する!」と言っていたおなごが居た。  桑原と結婚すると言った人は誰も居なかった。幽助も。  ……もう現実の誰かと結婚してるのだろうか。  今となっては解りませぬ。  解らないで思い出しましたが、あの“500円ちょーだい”はなんだったんデショ。 *麒麟さんが好きだけどガネーシャさんはもっと好き  キリンさんが好きです。でも、象さんのほうがもっと好きです。  某CMより。  麒麟で思い出すのはサガフロンティア。  ガネーシャで思い出すのは3×3EYES。  実は3×3EYESを知ってからは、  かめはめ波よりも光牙(コアンヤァ)の方が好きだったりした。 *コナミコマンド  コナミの伝説的なコマンド。  別に裸になって踊る必要はない。 *アーマー○コアでそんな武器があったよ  アーマードコアより、WA-Finger……でよかった筈。  指から発射されるうざったいくらいのマシンガン。  射撃武器なのに接近戦に強いときます。 *テキサス・ロングホーンポージング  ウィー! スタン・ハンセンのアピール。 *目眩ましのあとに一撃  目眩ましの後に無数の連撃を叩き込む奥義。  人、それを秘剣ナイアガラスマッシュと呼ぶ。  あばれ花組より、秘剣ナイアガラスマッシュ。  1:川に相手を誘き寄せて、竹刀の先を水に沈める。  2:振り上げるのと同時に相手に水をかける。  3:かけた水を突き破るようにして無数の突きを叩き込む。  4:完成 *極めればシーザー  特別な味です。  ドッグフード等のCMのキメゼリフ。  ……キメゼリフ? *地下闘技場チャンプのように地面を抉ってしまい  バキより。  身体測定のバキちゃん。  なんというか……範馬刃牙は、微妙な終わり方でしたね……。  範馬勇一郎とはなんだったのか。  急に出てきて回想始めて終わったらさっさと消えてしまい、範馬の血とやらのことが少しは解るのかなと思ってた凍傷はひたすらに首をかしげておりました。  でも“ドレス”は大好きです。  ネタだらけでの102話をお送りしますが、後半へ続きます。  後半は鍛錬話ではなくて…………れ、恋愛話?  疑問系になるくらいにいろいろとアレなお話です。 Next Top Back