159/誰ならよかったのか

 南蛮から戻った野生北郷は風呂にぶち込まれた。
 キシャーと訳のわからない奇声を発し、暴れ出すも……拳骨一発で気絶。
 問答無用で全身を磨かれ、気づいた時には寝台の上。
 いったいどれほどの心労がたたればあんなことになるのだと、彼の部屋に集まった王や将たちは話し合っていた。
 ……むしろ野生北郷を自分とは切り離して考えてる俺の方がどうかしてるんだが。
 ともあれ、野生臭さもお湯と一緒に流れたようだし、

「よっ、と……」
「!? 一刀!?」

 がばりと起き上がると、まず華琳に驚かれた。
 驚きついでに肩を掴まれがっくがっくと前後に揺さぶられて、「いったい何があったの! 言いなさい!」とウオオ脳が揺れる脳が揺れる……!

「ちょ、ちょ……かり、華琳……華琳! 気持ち悪いから勘弁!」
「あ……───あなた、一刀よね?」
「いきなり人格疑われる人の気持ち、解りますか?」

 真顔で訊かれたことを真顔で返した。
 そこでようやく落ち着いて周囲を見渡すと……いやまあ、野生北郷の視界で見てはいたものの、時間が空いていたらしい将らがここには居た。むしろ王も。ここで暇なんですかと訊ねたら確実に祭さんの拳骨が落ちることだろう。

「一刀だよ、北郷一刀。間違い無く。南蛮の密林に順応するためにいろいろとアレだったけど、それももう大丈夫だから」

 ただ頭が痛い。
 軽く頭をさする俺を見て、「ほぅ」と声を出したのは祭さんだった。

「そうかそうか、まったく手間だったぞ? なにせ湯船に投げれば奇声をあげる、猫のように水を嫌がる、叱ってやっても聞く耳も持たん。ちと刺激を与えて眠らせたが、文句があるなら聞くぞ?」
「祭さん……ごめん、迷惑かけました」

 でも拳骨はもうちょっと加減してほしかった。まだ痛い。
 そう言ってみると、腰に手を当ててけらけらと笑う祭さん。元気だ。

「……で、なのだけれど、一刀」
「ん?」

 華琳が珍しく、もじもじと胸の前で指をこねこねしている。
 言い出しにくいことでもあるのか、顔は困ったような戸惑っているような。
 しかしキッと俺を見ると、やがてその口から───あ、ああ、もしかしてあのことか?

「あのっ───」
「ああ、大丈夫だよ華琳。途中で野生になったりはしたけど、俺……学ぶこともいっぱいだったから」
「───……え?」

 きょとんとする華琳さん。
 出鼻を挫かれてカチンとくる、なんてこともなかったようで、きょとんとした顔のままに俺の目を真っ直ぐに見てくる。
 そう、学べることがいっぱいだったのだ。
 休む間も大してない実戦地獄、勘を働かせなければ自分が傷つく日常。
 食べ物にも注意が必要だったし、当然飲み物にも。
 お陰で気配察知能力は向上した気がするし、氣もほぼ使いっぱなしだったお陰で気脈も広がった。集中もしやすくなったし、辛かったけど総合的にはいいことだらけだ。

「どうして南蛮だったのかなーなんて思ったけど、さすが華琳だよなー。今の俺に必要なことを無茶をしてでも覚えさせようなんて。お陰で俺、いろいろと学べたよ。……みんなもありがとう、それと……ごめん。勝手に休暇が欲しいなんて我が儘言って、仕事を押し付けることになって」
『───』

 …………感謝を述べると、何故かみんなが沈黙。
 ぽかんとしているとかきょとんとしているとかではなく、これは……そう、“大丈夫なのかこいつ”といった心配を混ぜた顔つきで……あれ? 何故にそんな顔を?
 やがてその視線が俺から華琳に向くと、当の華琳はやっぱり珍しくだらだらと汗を流していて……何故?

「ね、ねぇ一刀? その……南蛮ではどんな生活をしていたのかしら。というか、近くの村を目指す気はなかったの?」
「いや、そこへ行けって華琳に指示されて、美以に案内されたならそこが到着地点だろ? 勝手に移動して休暇を潰すのもどうかと思ったし」
「……一刀? あなた、休みにいったのよね? おかしいとは思わなかったの?」
「最初は思ったよ。そりゃ思ったさ。でもなぁ、華琳だしなぁ。“そういえばあの華琳があんなに簡単に休暇をくれるわけがない”とか“その休暇がただの休暇なわけがない”って思ったら、ほら。ああ、じゃあこれは、どんどんと都に染まって平和ボケしていく俺を成長させるための試練だったのか! って」
『………』
「………」

 皆様の視線が華琳に刺さる。
 少しののち、みんなが『……やりそうだ……』と頷いた。

「ちょっと待ちなさい! 非道な王になるつもりはないわよ私は! それがどうしてそんなことになっているの!」
「どうしてって。部下とかの成長を望むのは非道じゃないだろ。俺はきちんと納得して生き抜いたし、こうして無事だったんだから。一人で勝手に突っ込んで刺されたあの日とは違うよ」
「あ、あのね一刀……勘違いしているようだからきちんと言うけれど、私はきちんとあなたを休ませるつもりだったのよ」
「ああっ、お陰でこうして氣も充実してるっ」
「だからそうじゃなくてっ! いいから聞きなさいっ!」
「ぎょ、御意」

 思わずビシッと寝台の上で正座をしてしまう俺。
 誰かに叱られる際に正座をしてしまうのは、きっともうパブロフ的なあれなのだ。

  それからしっかり説明された。

 どうやら俺は勘違いの渦に自分を放り投げてしまったらしく、華琳は華琳で“誰にも邪魔されることのない場所”という意味で“美以の家”を提案したらしい。で、美以にしてみればあの南蛮の密林全体が縄張りであり家なわけで……つまりそういうこと。
 俺は美以の住処に辿り着くことはなく、途中でバイバイされて、そこから生きたのだ。
 実に愉快だ。下手したら相当ヤバかった。
 でも確かに、他の将の生家や村人たちの家に支柱がお邪魔するなんてことになったら、周囲が騒いで休みどころじゃなかった。ある意味では、本っ当〜〜にある意味では、南蛮というのは人には邪魔されずに休める場所だったはずなのだ。あくまで美以の住処に着いていれば。

「風呂にも入ってぐっすり寝たお陰で気分もすっきりしたし、今からでも仕事は出来るぞっ! さあ、俺の仕事は?」
「ないわよ」
「ナイワ? ナイワってなんだ? 内輪揉めの違う呼び方か?」
「じゃなくて。ないのよ、仕事は」
「………」

 …………エ!?

「ないって、なんで!?」

 訊いてみれば、華琳は「はぁっ……」と溜め息。
 右手を腰に当てて、困ったような呆れたような顔をして言った。

「なんでもなにも。あなたが南蛮に行ってからどれだけ経っていて、どれだけ私たちがこの都に居たと思っているのよ。進められることはさっさと進めて、纏められるものも随分と纏めたわ。あとは工夫の準備と流通問題さえ改善できれば、都の問題のほぼが解決するの」
「………」

 …………エッ!?
 かかか解決って、えぇっ!?
 それ、俺がこれから時間をかけてじっくりと固めていこうとしていたもので……!
 やっちゃったの!? そんな簡単に!?

「仕事を探している民はまだまだ居るのだから、彼ら彼女らにはまず基本を覚えてもらうのよ。これはあなたが“めも”に纏めておいたものと同じことね。ただ、それに募集をかけていちいち説明して回るのはとても回りくどいわ」
「あ、ああ。だから俺もそこで詰まってたんだけど」
「でしょうね。けれど、そこは桃香と朱里と雛里と話し合って、蜀の学校で募集と説明会を設けることに決めたわ。必然的に蜀から人を回してもらうことになるけれど、ならば別の仕事は魏と呉から募集すればいい」
「……王が決断を下してくれるなら、これほど速い決定はないな。賛成」

 両手を軽く挙げて、降参のポーズ。
 時期によっての忙しさに目を回す日々の中、王に話を訊いて回るのは結構難しい。
 それをこの機会にさっさと纏めてくれたのなら、本当にありがたい。

「工夫の技術教師としては、魏から真桜を出すわ。それももう決定済みよ」
「じゃ、じゃあ先に向けて田畑を増やす……開墾の話は」
「魏と呉で拓いていくわよ。頼もしいことに、手の空いている人は他に回せるほど居るのだからね」
「うわーあ……あ、じゃあ俺もそれに参加───」
「出来ないわ」
「なんで!?」

 メモの意見は通るのに、相変わらず俺の意見は却下続き! 何故!?
 く、くそう! 妬ましい……妬ましいぞメモ帳め! お前はいつもいつも俺の先を行きやがる! 頭にくるぜ……俺に書きなぐられた案なのに、まるで俺より優秀かのように……! などと野菜王子的なことを言ってないで。
 ……そっか。やれること、一通り終わったのか。
 なんというか……安心? それとも仕事が一気に無くなったことへの不安? よく解らない脱力感が体を包んだ。もちろんいろいろな問題も出てくるだろうから、それはやらなきゃだろうけど、それでも。

「えと……じゃあ俺、何から始めたらいいかな。一度離れて戻ってきた時の場違い感って言えばいいのか、とにかくなにから手をつけていいのかが解らないんだけど」
「そうね。子を作りなさい」

 ───さあ、旅立ちの時間だ。


         この大地の果てまでも、今こそ旅立とう───!

「待ちなさい」
「《がしぃっ!》んっがっごっごっ!?」

 さわやかに窓から抜け出そうとしたら襟首を掴まれた。
 息が詰まった瞬間にサザ工さんが脳裏によぎったが、気にしたらいけない。

「あなたね、いい加減にしなさい。人はいつまでも若いままでは居られないの。若いうちに次代を担う者を儲けるのも王や将の勤めよ。民でさえ、産まれて成長したなら家業を手伝うの。それらを否定していい者など、今この三国には誰も居ないのよ。民がそうして作ったものを国に献上してくれる以上、私たちはそれらを守る義務が発生する。献上されるものだけを受け取って、守ることもせず統括することすら放棄すれば、国や王は民からの信頼の損失と同時に国である意味すらも失うのよ。それが解らないあなたではないでしょう?」
「そりゃ解るけど! なにもこんな、みんなの前で言うことないだろぉおお!!」
「───そう。ならば覇王・曹孟徳が問おう。異を唱えたい者は前に出て進言せよ」

 ───。
 誰も出ない!?
 前もやったけど、みんな気持ちは変わらないのか!?

「答えは出ているわ。煮え切らないのはあなただけ。言いたいことがあるのなら、聞くだけ聞くけれど」
「……いや。心の整理なら散々やったよ。割り切れない想いは当然あるけど、みんなのことを真剣に好きになっていこうって決めた。だから、つまりその。好きになりきれてない人とその……そういうことをするってのはちょっと」
「一刀。……“私が、いいと、言っているうちに、やりなさい”と、言っているのよ」
「や……けどヒィッ!!?」

 困り果て、俯いていた顔を上げると、そこには笑顔の修羅が居た。
 華琳の周囲がモシャアアアと歪んでおり、それが怒気やら殺気やらだと理解すると、途端に俺の中で芽生えた野生の本能が逆らうなと悲鳴をあげる。

  あれは……あれはダメだ、王者だ、俺では叶わない……!

 そんな野生の理性が必死に訴えかけてくる。

  もうだめだ、おしまいだぁ……!

 いや、あのな、野生よ。
 言っちゃなんだがアレが王者なんてことは最初から知ってる。
 それこそ出会った瞬間からだと言ってもいいほどに。
 あと野菜王子から離れろ。

「……後回しにすればするほど、全ては後手に回るのよ。今生きていても、病気にかかったら? 華佗が居なかったら? 居たとして、華佗でも治せなかったら? 私たちは確かに戦を治めはしたわ。けれどね、一刀。治めたことへの感謝など、時代が進めば過去になるだけ。自分が齎されたわけでもない平和への感謝を、いつまでも王にする者など居ないの」
「華琳、それは」
「───一刀。あなたが居た天で、“かつての王ら”に感謝する者は居た? それとも、そこに居たのはただ伝承を素晴らしいと謳う者だけ?」
「! ……それは」

 感謝する者? 居やしない。
 今の世ほどみんなに感謝する人が、いったいあの世界のどこに居た。
 感謝なんて、自分が助けられて初めてする。
 お茶を入れてもらってありがとうと言うのと、大事な人を救ってもらった時のありがとうなんてレベルが違う。
 まして、彼女らはこの大陸に生きる人たちの未来を救ったっていうのに……天には、きっと彼女ら……いや、“彼ら”に対する感謝など残ってやしないのだ。
 今もあの地で生きる人の中になら居るのだろうか、そんな……本気で過去の人に感謝するような人が。居るのなら……居てくれるのなら、どれだけ血が薄まっていてもいい、どうかそれが“彼ら”の血を引く人であってほしい。

(あ───)

 居て欲しいなら───どうすればよかったのだろう。
 子を作る? 作って、ただひたすらに“凄かったんだぞー”って伝えてゆく?
 違う、もっと単純に。
 みんなの力がまだある内に───俺が守らなくちゃいけなくなる……恩返しが出来るようになるその瞬間まで、みんなの生き様っていうものを全力で、産まれてくる子に見せてやればいい。

「一刀。面倒な話はやめにしましょう。もっと解りやすく、はっきりと言いなさい」
「……ああ」
「あなたは、あの戦いに至るまでと治めたのちから今まで、わたしたちが築いた三国の中に……嫌いな存在が居るのかしら」
「居ない」

 居るもんか。即答で答えた。
 刺されたって許せる相手が居る。
 笑って、親父と呼んでお袋と呼んで、そんな人たちのために頑張りたいって思えた自分が居る。
 行く当てもない自分を拾ってくれて、利用価値があると受け入れてくれた王。
 急に訪れることになっても迎えてくれて、刺傷事件を起こしても嫌わないでくれた王。
 自分に似ている俺とを重ね、居てくれてよかったと笑ってくれた王。
 歩くたびに様々を知り、各国で魏だけでは知れなかったことを知って。
 武を叩き込まれて氣を知って、人を救う喜びを知って、友達になれたことに眩しさを抱いて。

 俺はこの世界、この大地、三国に様々を教えてもらったのに、ちっとも返せていない。
 貰うばかりが苦しくて、だけどそれで返すのはちょっと違うって。
 だから手を伸ばせるものにはがむしゃらに手を伸ばしてきた。
 みんなが集まってやってしまえばこうも簡単に終わってしまったものを、一人で。
 もっと早くに相談すればよかった。

(恩を返そうとして一人で頑張るのって……間違っていたんだろうか)

 ……そりゃそうだ、前提の段階で間違えていた。
 手を伸ばした、って、じゃあ何処にだ。
 一人でやろうとしてちゃ、伸ばした手も空回るだけだ。
 だから……

「………?」

 気づけば無言で手を伸ばしてみた
 自分で自分に疑問符を浮かべてしまうような状況。
 なのにそんな、自分の中の勝手な動作に反応した人が……たくさん。
 俺のちっぽけな右手に殺到した右手はあまりにたくさんで、それらが一気に俺を潰した。それはもう、遠慮なく。

「おーーーっほっほっほっほ! あらあら華琳さん……!? 随分とまあ、がっつくように飛び掛りますわね……!」
「あ、あら……! あなたにだけは言われたくないわね、麗羽……! それと、私は飛びついたのではなくあなたに押されただけよ……! というかどきなさい! いつまで乗っかっているの!」
「あらあらそういえば、なにやら前か後ろかも解らないものを押し潰していますわぁ〜? このまま踏み潰してしまおうかしらおぉ〜〜〜っほっほっほっほ!」
「れ・い・はぁあああ〜〜〜〜……っ!!」

 状況整理。
 俺の上、華琳。
 華琳の上、麗羽。
 俺の周囲、俺の右手を掴むみんな。
 逃げ道……無し。
 なら、もう決めちまえ。 

「え、っと……今さらでごめん。自分のスタートラインも見切れずに、勘違いして何度も決めなおすような優柔不断な支柱だけど……その。へんな言い方になるけど、さ。う……さ、支えさせて……くれるかな」

 気恥ずかしさと情けなさ、色々な感情がごちゃ混ぜになって、視線を逸らしながら言った。そんな顔に、そらした視線の先に居た朱里と雛里がぽややんと頬を緩ませていて……ああそうですか、まーた困った顔をしていましたか俺は。
 そんな自分に“ぶっ”と吹き出してしまい、途端にみんなが『もちろん!』と叫ぶ。
 それどころかシャオが「支柱ならよりかかってもいいんだよねー?」なんて言ったり、祭さんが「ならば折れぬようにしっかりと鍛えてやらねばのぉ」なんて楽しそうに言ったり、風が「倒れてしまわないよう、倒れないための方法も知ってもらわないといけませんねー」と目を糸目にして言ったり、星が「ときに北郷殿。あちらの荷物が妙に気になって仕方が無いのですが……!」と迫力のある顔でずずいと言ってきたり……

「さ。今度こそ逃げられないわよ? 言い訳もいい。あなたという存在に宿る利用価値は、まだまだ消えていないのだから」

 ───華琳が、俺の上で悪役っぽい顔で言う。
 その上の麗羽はつい先ほど、華琳の背を踏んづけようとして足を滑らせて転倒した。どごんと痛そうな音が鳴っていたが、大丈夫だろうか。
 俺はといえば華琳のそんな言葉と麗羽の声にならない声を聞いて、吹き出したままに笑ってしまい……決意と観念と覚悟をごちゃまぜにした、けれどいつもの笑顔で降参した。
 天は覇王とともに。
 覇王は、三国とともに。
 国は民とともにあり、民は大陸とともにあり。

「はは……どこまで俺を利用するつもりですかな、覇王さまは」
「決まっているでしょう? もちろん、利用価値が無くなる(私が満足する)までよ」

 とってもキッツイ副音声が聞こえた気がした。
 したのに、いつものことかと笑い飛ばせる俺が居る。
 ここまで来たら、もう腐れ縁でもどうでもいい、一緒に世界の果てまで見届けよう。
 “支柱なんて勤まるのか”から考えて、“やってみなければ解らない”で頷いた。
 それから今まで、こうして慌てながらでも出来てきたのだ。
 だったら今は、もう胸を張ればいい。
 一人で突っ走ろうとした馬鹿の襟首を捕まえてくれた覇王さまには、感謝してもしきれない。

「じゃあ確認するけど」

 さて。こんな風にして解決してくれるのは大変おかしなものだ。
 笑って解決することほど安心できることはない。
 ただ、この問題はこれで解決なんかしてくれやしない。
 訊くことをきかなければ、きっと一生逃げてばっかりなのだから、ほんのちょっと……いや、かな〜り重苦しくも恥ずかしい勇気を。

「俺と、そういう関係になりたいって人」
『? …………、───!《グボンッ!》』

 訊いた途端、誰よりも先に朱里と雛里が真っ赤になって俺から離れ、続いて全員が赤くなって離れる。……朱里、雛里ぃ……少しはそういう反応、隠したほうがいいぞ……?

「というわけで華琳! そういうのはまだ早いみたいだから《ぐきぃっ!》エッフ!?」

 逃げようとしたら、今度は乗っかられたまま首を絞められた。
 そう。困ったことに、華琳は顔を赤くしたものの、離れなかったのだ。

「あなたは一度逃げるといつまでもずるずると逃げ続けるから。ここで逃がしたら、どうせいくらでもはぐらかすに決まっているわ。そうでしょう?」
「イ、イヤー、必ずしもそうと決まったわけでは……!」
「かっかっか、そうかそうか。ならば───」

 きしり、とみんなが離れた寝台に、祭さんが乗ってくる。
 あ───アーーーッ! ダメ! 祭さんはダメ! いろいろと困った出来事が!

「いつかぬかしたのぉ、北郷。もしもこんな状況になったら、俺なんかと子供が作りたいのかと」
「ぎっ……!」

 言った。言ってしまったのだ。お陰で祭さんにはある意味言質みたいなのを取られていて、だから祭さんには出てきてほしくなかったのに……!
 いや待て、そういうのを理解した上で祭さんは今こうして俺に近づいてきて……ってことは……!

「子供のような他人ならば育てた覚えは幾度もあるが、己の子供を育てた覚えはない。偉そうに指導なぞしてみても、やったこともないものの数など民にも勝る。ならば一度、そういうことを経験してみるのも……戦を離れた老兵には、案外似合っているとは思わんか?」
「うゎだぁああああーーーーーっ!!!? だだだだめだめだめっ! 早まっちゃだめだ祭さんっ! 前にも言ったけど俺みたいなひよっこじゃあ祭さんとつりあわないだろっ!」
「ほっ? …………ふぶっ! ふはははははは!! あっはははははは!!」
「へ、へぇっ!? なんで笑うんだよ祭さん!」
「かっははは……! お、おぬしは変わらんのぉ! よしっ、いいぞ、構わん! よい男に成長した褒美じゃ、どんと抱け!《どーーーん!》」

 ウワーーーイ男らしいィイーーーッ!!
 普通なら、男ならここで手放しで喜ぶ……んだろうか。
 どうしても魏が気になってしまう俺としては、なんとも《ぐきっ》ハオッ!?

「あなたね。そこで私を見るのがどれほど相手に失礼か、解っていてやっているの?」
「そ、その割には顔が嬉しそ《ぐききき!》アガガーーーッ!!」

 くくく首がっ! 首が絞まる!
 でもごめんなさい確かに失礼でした!

「なら、決まりね。最初に私、次に祭。その次が誰かは知らないけれど、きちんと愛し、愛されなさい」

 部屋全体が、全員のごくりと喉を鳴らす音で揺れた気がした。
 ワ、ワー……みんな、目が本気だ……!
 おかっ……おかしいなぁっ……俺、いつの間にそんなに好かれるようなことを……!?

「えぁうっ……あ、そ、そうだっ、桃香? 桃香はっ───」
「わ、私はっ!」
「ひゃいっ!?」

 さすがに反対だよな、と訊こうとした途端に叫ばれ、裏返った返事が出た。
 しかもその突然の叫びに視線が一気に集中し、桃香はハッとすると真っ赤になって……しかし。くっと唇を噛むと、俺がそうするみたいに胸をノックして真っ直ぐに俺を見た。

「わっ……私はっ! 私は……、わ、わわわ……私はお兄さんのことが好きですっ!」
「えっ」
「はっ!?」
「なっ!?」
「えぇっ!?」
「うえぇえええーーーーーーっ!!?」

 誰がどんな風に叫んだのかも解らないくらいの戸惑いが、自分の部屋に溢れた。
 なのにそんな叫びも無視するように、いやむしろ聞こえていないようで、真っ赤で、真っ赤っかで、赤すぎている顔で、涙目になって目が渦巻状になっても彼女はその告白を続けた。

「だだだだだからそういうのはその初めてだけど怖くないっていうかううんやっぱり多分怖くていえあのそういうこと言いたいんじゃなくてええっとそのだだだだからあの」

 “うわすげぇ! よくそこまで息続くな!”ってくらいに一気に早口で喋る桃香さん。
 顔の赤さがヤバすぎてこっちの方が心配になるくらい、なんかもういろいろとヤバイ。しかし想いは真っ直ぐに伝わってきて、俺ももう視界が滲むくらい恥ずかしいやらなにやらで。

「だから私はっ! おぉおおおおおお兄さんとじゃないとそういうことしたくないから! そのっつまりっあのっ! ふふふふふふつつかものですがーーーっ!!」

 突如、深々と頭を下げられてしまった。
 深々といってもゆるりとしたものではなく、ゴヒャウと風を巻き込むくらいの速度の。
 その速度に驚きと呆れと……大陸に不束者ですがって挨拶ってあったっけ、なんて馬鹿なことを考えつつ……さて。そんな王様の後ろで“恥をかかせたらどうなるか、解ってますよね”とばかりに武器を持つ愛紗さん、“はいと言え。言わなければ潰す”とばかりに金棒を持つ焔耶さん、“正真正銘お兄ちゃんになるのだ!”とばかりにわくわく笑顔の鈴々さん。
 ああなんだろ、蜀のみんながすんごい笑顔でドス黒いオーラを放っている。
 しかしそんな真っ赤っかさんの前にズイと出てくるお方が一人。

「おぉっとぉ、蜀が王様を出すなら、呉は元王様と祭で勝負ね。あ、もちろん年下がいいんだったら小蓮もつけるけど」
「おまけみたいに言わないでよぉ! 失礼しちゃうなぁもう! ……シャオはぁ、一刀の本妻なんだから。ね〜一刀?」
「いえ違います《キッパリ》」
「あーーーっ! 一刀否定したーーーっ! こぉんな美人に迫られて否定なんてぇ!!」
「いい加減背伸びはやめろ、小蓮。大体、一刀は私と、どちらがより国を良くしていけるかを競っているんだ。よくしていくならその、それなりの付き合いと、いうものが……」

 あ……蓮華。今喋るのは地雷───

「ふっふーーーん? じゃあお姉ちゃん、今すぐ一刀と子作りできるのぉ?」
「こづっ!? なななにを言い出す! おまっ、お前は、少しは人の目をっ……!」
「国を良くするために子作りをって話じゃない。お姉ちゃんこそなに言ってるの〜?」
「うぐっ……」

 ああもう、あっさり踏んじゃったよ……。
 やっぱり窓から逃げ《チキリ》……だから。その絶、どっから出てきてるのほんと。

「一刀? 人の想いを“受け入れる”のと状況を“諦める”のとは越えられない壁があることを、きちんと自覚してから意味を噛み締めなさい。でなければ、たとえ愛したとしても許さないわよ」
「するもんか、そんなこと。受け入れるし、観念もするし、覚悟も決めたよ。ただ今すぐっていうのに抵抗があるってだけで、心の準備期間があればきっと」
「それでは無理ね。心の準備なんてものはね、一刀。どれだけ待っても永久に出来やしないものよ。自分は待てても状況は待ってはくれないのだから。戦をその目で見ておいて、知らなかったなんて言わせないわよ?」
「………」

 無言で溜め息。
 諦めるのは魏への貞操……とか、そんなんじゃないかなぁ。
 捨てずに一緒に持ってって、全部を支えてしまえるくらいの柱を目指してみる。
 一人じゃ無理だから“繋げる手”になりたいって願ったんだ、それでいい。
 魏呉蜀全部を抱いて、貞操云々を抜かしたいなら……大陸への貞操を守ってしまえ。

「───……」

 ふと、周囲からの音が消えた。
 まるで、氣の集中のしすぎで自分の意識が埋没するような感覚。
 そんな中で───いくつかの俺自身と向かい合った。

  ……これってハーレムかな。

 男な俺がそんな質問を投げかけた。

  ……いや、そりゃ違うだろ。

 かつて武を投げ出した俺が笑って言う。

  ……じゃあなんだっていうんだ。

 一年を魏のために突っ走った俺が仏頂面で言って。

  ……絆でいいじゃん! 今だけじゃなくて、未来も支えられる柱と格好いい絆!

 最後に、子供の俺がニカッと笑って言った。

「………」

 いろいろなものを学ぶたびにいろいろなものを忘れた子供の頃の自分。
 無謀だった自分は怖さを知って、怖さが常識ってものを子供に教えて、子供は教えた人たちのように大人になってゆく。
 望めば大抵のものは貰えた時間は終わって、泣けば許された甘えられる時間は過ぎて、でも……笑えば笑い合える今は、まだこの掌に。
 たなごころ。
 繋げば人の温かさを知れる、当たり前だけど、常に自分と繋がっているもの。

  繋ぐ手になりたいって思ったんだ。

 俺が言う。言葉にはせず。

  急に現れて、随分勝手だなって思う。
  最初、愛紗に嫌われた時、自分でも仕方ないって思ったし。

 過去を語る自分は、それぞれの自分から見てどんな存在なのか。
 とても情けないのか、とても身勝手なのか。
 ……きっと、両方。

  一年頑張って鍛えてみても、自分が役立つ未来なんて見えなかった。

 当然だ、だって鍛えたところで戦は終わっていたんだから。
 今さら鍛えたよって言ったところで、俺も桃香と一緒だったんだ。
 最初から鍛えて、少しでも戦えたのなら……死ななくて済んだ兵が一人でも居たかもしれない。桃香だって華琳に勝てたかもしれない。

  なにをやっても役立つのは俺じゃなくて、きっと“知識”だけだろうから、さ。

 だから。そんな知識ででもいい、繋ぐ手になりたかった。
 それこそ自分の利用価値がそれしかないことを受け止めて。
 そんな考えが心のどこかにあったからなんだろう、刺されても自分が許せば全てが治まってくれるなんて夢を描いた。
 けれど当然処罰はあって、それがプラスに働いてくれたからこそ自分は多少は認められて……でもそれは結局、決定を下した王の判断が良かっただけだ。俺はただ親父やお袋にたまったものをぶちまけさせただけで、きっと全てを避けて大事になんてしなければ、もっと丸く治まっていたんじゃ、なんてことを思うんだ。

  ……じゃあ、知識でも足りなかったら、俺の利用価値ってなんだろう。

 だからそんなことを考えてしまった。
 いつしか俺じゃなくて及川だったら、なんてことをよく考えるようになって、その度に頑張ろう頑張ろうと自分を励まし続けた。
 誰だってきっと、一度や二度は考えることだ。
 自分は誰かの役に立ててるのか、本当に自分でよかったのかって。
 もっと上手く出来る人が居たんじゃないのか、どうして自分の時に限ってこんなことが起こってしまうんだ。
 そんなことを何度も思いながら、その度に胸に叩き込んだ覚悟。
 その度に思う。
 “未知”を知るのはとっても怖いが、それが過去って“道”になると……案外どうってことないものだった、なんて。過去よりも、現在に訪れる未知のほうがよっぽど怖いのだと。
 不安を通りすぎたあとには安心があって、その先にある未知に突き当たるまではその安心に浸っていられる。不安がなんなのかが解るまでは、せいぜい笑っていられますように。願うことなんてそれだけで、そのためにやることは───不安も後悔も、まして絶望なんてものを生み出さないようなやり方で、未知を踏み潰して道にしてしまえばいい。

  出来るかな。

 出来るさ。
 自問自答。
 一人でじいちゃんの指示の下で動いていた頃とは違う。
 自分なんかより頭がいい人が居て、自分なんかより自分の知識を活かせる人が居て。
 自分なんかよりやさしい王が居て、自分なんかより立派な志を抱く王が居る。
 俺は飽きるほど知識を提供すればいい。
 あとは───俺なんかより、よっぽど俺を活かせる覇王と一緒に歩けば……きっと、この未知を踏み抜く足は、間違いになんて到達しないのだから。

  支柱っていうか、ヒモだなぁこれ。

 苦笑する。
 ヒモ結構、なんて言わない。ただ、言い訳には“需要と供給”を。
 いつかみんなの前で誓ったように、俺はひたすら繋ぐ手になるだけだ。
 そうやっていつまでも、崩れない絆を作っていけばいい。

  俺じゃなくても出来ることじゃないか。

 そうかもな。
 けど、じゃあ今、自分以外に誰が支柱になって、誰がみんなを受け止められる?

  うわ、すげぇ自惚れ……。

 武を捨てた俺の声。
 笑い飛ばしてやった。
 ……自惚れなんかじゃなくてさ、俺自身の話だ。
 誰だったら、みんなを託せるというのか。
 誰だったら、代わりにどうぞと言えたのか。
 俺は、嫌だ。
 ようやく自分に笑顔を見せてくれた人や、嫌っていたのに笑ってくれた人の信頼を誰かに投げるなんて、絶対に。
 知識だけだったかもしれない。上手く状況が乗ってくれただけかもしれない。
 それでも……歩んだ道は嘘には出来ない。したくもない。

  ……そうだ。“居てくれて良かった”って言ってくれたんだ。

 散々と“俺なんか”を使ってきた自分って存在に、喜びを感じてくれた王が居た。
 そんな王が自分を好きだと言ってくれた。

  ……嬉しかった。

 俺を信頼してくれたから友達になってくれた人が居た。
 
  ……嬉しかった。

 手と拳を合わせて、国を良くしていこうと頷いてくれた人が居た。

  ……嬉しかった……!

 誰でもよかったかもしれない。
 もっと上手くやれた人だって居たかもしれない。
 でもさ。
 じゃあ、俺がやってきたことが無駄だったなんて、誰が言ったら俺は許せるんだ。
 必死じゃなかったって言えば嘘だ。
 頑張らなかったなんてもっと嘘だ。
 夢を見た。夢を語った。夢を目指して夢に走っていた。みんなでだ。
 だったら───

  俺でも、よかったんだ。

 俺で、よかったんだ。
 少なくとも、この外史では。
 だから精々笑っていこう。
 泣くのだって構わない。
 怒ったって驚いたって、悔しがったって嘆いたって、それが人間、それが人生。
 人に生きるっていうのはそういうもので……だからこその人間だ。
 この外史に下りたのが俺でよかったなら、俺が見つけられるこの世界での“楽しい”をずっと求めて生きればいい。
 ……たとえ、いつか貂蝉の言う“彼”がここに来るのだとしても、その時まで。

  ……諦める気がないのなら───

 そう。諦める気がないのなら。
 そんな、いつか来る脅威から、この外史を……華琳が手にした覇道の世界を守るんだ。
 それが俺に出来ることであり……みんなを守ることであり、みんなの支柱でいられることに違いないのだから。

  よしっ、新しい目標、見つかった。

 それじゃあ、今度は走ろうか。
 のんびりしすぎた頭の回転をもっともっと限界まで早めて。
 遅れた所為で逃した“楽しい”を、今からでも拾えるように、前も後ろも天も地も、見ては振り向き俯いては見上げて。
 見える景色から得られる、拾える限りの“楽しい”を求めて。

「でもまあっ、そのっ! いろいろあって今日は疲れたからっ……ま、また後日とかいうのはっ! ……だめ?」
『却下!!』
「でででですよねぇええっ!!!?」

 今はどうにかして、この状況から逃げ───もとい、楽しいを拾えますようにぃい!!


 いやいやいやいやどうして今すぐ脱がすんだ華琳! まさかここでこのまま!? ななななに考えてんだ出来るわけないだろそんなこと! 
 にんまり笑ってじっと見てないで助けてよ祭さん!
 朱里に雛里!? 目を隠してるつもりでも指の間から見てるのバレてるから!
 ていうか雪蓮さん!? どうして武器抜き出してるんでしょうか!? え!? 戦いのあとのほうが興奮するから今すぐ戦いましょう!? 無茶言うなこの馬鹿ぁああっ!!
 だだだだから脱がそうとするなどこ触ってやめてちょっとやめっ! やめろってば! 解った! 脱ぐ! 脱ぐから───ごくり、じゃなくて全員出て行けぇええーーーーーっ!!!

 ───え? 却下!?

 だったら俺は脱がなヒギャアアア脱がすな脱がすな脱がすなぁああああ!!
 つかさっきから煽ってるの誰だ!? こっちは必死で───蒲公英ォオオオオッ!!!
 煽る以前に自分もそういうことをするかもしれないって自覚を……してる!?
 え、や、ちょっ……その返答は予想外すぎてっ……!
 ってだから脱がすなったら! あ、あーあーそっちがその気ならこっちだってゴメンナサイ嘘です!! 本気の目で武器構えないで!! むしろ何処から出したその武器ぃいいいいっ!!!

「わぁあああわわわ解ったから! ちゃんとするから! 自分の気持ちで向き合うから! 無理矢理だけはやめてくれってば! そんなことされたらきちんと向き合えなくなるだろぉおおっ!!?」
「……ふふっ、ええ結構、良い心掛けね。あなたの決意を心から歓迎するわ」
「へ? …………あ、……アーーーーッ!!」

 人の夢は儚いといいます。
 お爺様、お元気ですか?
 どうやらあなたの孫、一刀は……大人の階段を何段も……それこそ天まで届けとばかりに昇ることになりそうです。
 いつか、もし帰ることが出来たなら……その時は、またあなたの下で座禅から始めたいと思います。
 それでは……どうかお体にお気をつけて。



 ……その日から数十日後。
 取られた言質とは関係無しに三国と結ばれ、真実、支柱になった。
 当然誰とでもというわけもなく、“そういう関係になりたい”と言った人とだけ。
 好きになる努力をして、好きになり、静かに、やさしく。
 たぶん、そういった関係になるまでに一緒に出かけた数を唱えるなら、蓮華が一番多いだろう。なにせ雪蓮が無理矢理つれてきて、これまた無理矢理“でーと”とかいうのをやりなさいなどと言ってくる。
 俺と蓮華の気分転換の買い物(周囲はデートと言って譲らない)は長く続くものではなく、少し出かけて少し店先で話し合って、少し適当なものを買うと終わる、そんな些細なもの。
 仕事は……この人数で分担するから少ないけれど、やることがないわけでもない。
 とはいえ、たびたびにくる誘いに乗る俺も、結局はそんな小さな買い物を楽しみにしていた。見たこともないような、いやむしろ、年相応の笑顔を見せた時なんて、少しばかり見蕩れていた。
 ……調子に乗って服をプレゼントした時は、どこからどう漏れたのかその夜に華琳に呼び出され、なんかいろいろと訊かれた。サイズのこととか、どうしてそれをあなたが知っているのかとか、贈ったものはそれだけなのかとか、なにやらちらちらと見られながら訊かれた。

「……もしかして華琳も欲しいのか?」
「!」

 ちら見の意味を探るように言ってみれば、ぺかーと頭の上に想像の華でも咲いたかのような……ほんの一瞬の笑顔。直後にキリッと真顔になって、そういう話ではないのよといつもの強がり。
 後日、覇王に服を献上……したら、蜀の王に羨ましそうにじっと見つめられた。


 金が……と落ち込む俺が各地で見られるようになったのは、このあたりからだった。




ネタ曝しです。 *野菜王子  サイヤ人の王子ベジータ様。  時々、自分のことを王子だベジータ様だと言う彼を見て、いい加減王子って意識はトランクスに譲ったらどうなんだろうと思う自分がおりました。  でもそんな彼が大好きだ。 *んっがっごっごっ!  かつてのサザエさんの呻き声。  聞く人によっては言葉は変わるものの、我が家ではこれだった。  随分前なのでおぼろげなものの、確か「来週もまた見てくださいね〜♪」って言って飴玉かなにかを空中に放り、それをぱくりと食べるのだが、喉に詰まって「んっがっごっご!」。  飴玉はさすがに丸呑みしないか。じゃあなんだろ。  あれか! 口に入れるだけだった筈が喉にストレートで入ったのか!  書いていたら相当に回りくどい話になること、ありますよね。  106話をお送りします、凍傷です。  今回はいろいろとお片付けの回ですね。  広げた風呂敷は縛るのが難しいってアレです。  僕の場合は広げた拍子にいろいろな荷物が零れ落ちるんですよね。  メモに書いておいてもどの場面で使うのかとか忘れることもありますし。  事前に読み直しておいても見落としていた部分があって、似たようなこと前にも言ってなかったっけかとツッコまれることも。  筆者はどうにも纏めるのが苦手なので、そんな話は一度置いておくどころか捨ててしまいましょう。  はい、そんなわけで前々回と今回とで一応の一区切りをもう一度。  本文で説明している通り、“友達としてであり、そこまでとは……”という将とはいたしておりません。  支柱にというのを認めたのはあくまで王の伴侶……まあ嫌な言い方をしますと種馬として許すというお話。ほんとひどい話ですが、例えですのでお気になさらず。  好きというよりは親愛なる友だ、というお方とももちろんいたしておりません。  むしろ凍傷自身がハーレムを意識せずに書き始めていたことを今さら白状します。前にも言っていたらごめんなさい。  ハーレムものを書いてるなんて意識、本当にゼロでした。  しかしある日、とある小説サイトで恋姫小説を読み漁っている時、ギャフターの紹介があるのを見つけて……   “分類:ハーレム”  ゲハァと見えない何かを吐き出した気分でした。  漫画とかだったらきっと血を吐いてました。そんな気分。  ともかくその時にようやくこれがハーレムものなのかと理解しました。  友情を思って書いていたはずが、いつの間に。  キーワードも“コメディ 友情 パラレル シリアス”って書いておいたのに。  とか思いつつ、確かに読み直すとハーレムなわけで。  むしろ恋姫無双な時点でハーレムなわけで、つまりは今まで書いていて気づかなかった自分がどうかしていたのだ……。  では雑談はこのあたりにして。  次回は結構時間が飛びます。  慌しいお話ですが、じっくり書きすぎていると本当に終わりません。  長く続いてくれるのは嬉しいとの温かな言葉も頂きましたが───あ、本当にありがとうございます───それでもいい加減終わりに向かいましょうということで。  それでは、また次回で。  いやっ……それにしても、シリアスぎっしりは書くのが難しい……!  シリアスのあとにシリアスを適度にブレイクするのが好きな凍傷ですが、賑やかな場面からシリアスに向かうのはとても苦手な凍傷です。  それでは、長寿と繁栄を。 Next Top Back