168/拳で岩を破壊した人の気持ちって、どんな感じなんでしょうね……興味津々

-_-/北郷さん

 ある晴れた日のこと。
 遠い道を歩く中、思いついたことを実行して……

「うぉおあぁあああっ!!?」

 絶叫。
 脱力した体に加速をかけて、いつものように拳を振るった。
 ああいや、あくまで体はいつものようにだったものの、氣の練り方が違ったのだ。
 加速のために使った氣もあったが、それとは別に動かしていた氣があった。
 それを放った結果が……目の前の、とうとう砕けた岩だった。

「……うそだろ」

 絶叫のあとは唖然。
 自分がこれをやってみせたって事実が自分自身で信用出来ず、呆然としていた。
 だだだだってさ、拳だぞ? 木刀使ったわけでも金剛爆斧使ったわけでもない。
 ただ試行錯誤して、ええとほら、アニメとか漫画でよくあるような中国武術。あれの氣を乗せた拳に憧れを持って、真似のその先を目指してみただけだ。
 それがある日、とうとう完成に至ったのか……岩が、岩が砕けた。

「………」

 殴った右手は結構ひどいもの。
 皮が剥けて血が出てるし、ずぐんずぐんと痛みも感じている。
 だけどだ。そんなことより喜びが勝ってしまっている。
 建業を目指す途中の広い草原……その途中で、真剣に岩を殴った結果がそれ。

「……氣は、相手の氣に合わせて流し込んでやらなきゃ毒にしかならない……」

 ぽそりと呟く。
 ようはその応用だったのだ。
 じゃあ、相手の許容を超えた氣を一気に相手に、拳とともに流し込んだらどうなるのか。それを岩に対して行ってみただけ。
 岩の氣の許容量なんてものはもちろん知らないし、だからこそ自分の中にある氣の全てを叩き込むつもりでいった。
 外に放出して、氣弾として撃つなんて真似ではなく、殴った衝撃に乗せるように直接。流し込むように……いや、流し込むどころか叩き込むように。……叩き込む、以上の乱暴な表現がなかなか思いつかないが、つまり思い切り。

「……は」

 頭の中で整理をする途中、くらりと視界が揺れた。
 また氣を使いすぎてしまった。
 仕方ないので、砕けた岩の傍に座り込んで溜め息。
 
「ああ、うん。やっぱり俺って氣だけだよなぁ」

 少しは強くなれたかなと思った瞬間、大体が崩れる。
 なので相も変わらず慢心すら出来ないし満足も出来ない。
 上を見上げて突き進むばかりの自分は、いったいいつになったらみんなを守れるのか。
 ていうか将の皆様が強すぎなのです。
 俺が目指した道は、いったいどれだけ困難なのか。

「んん……」

 ともあれ、岩を爆砕することで散った氣を、せめて少しでもと吸収する。
 あれだ、氣をくっつけたまま放出して、霧みたいにキラキラと散っている氣にくっつけて飲み込む、みたいな。
 実におかしな状況なものの、こうしたほうが回復が早いんだから仕方ない。
 丸い舌を伸ばして餌を食べるカメレオンのような気分だ。

「…………はぁ」

 幸いにして消えてなくなる前に氣の回収が成功。
 全てとは言わないまでも、立って走るくらいは平気なくらいに回復した。
 ……錬氣すれば問題ないんだけどさ、疲れるんだ、あれ。

「よしっ」

 立てるのならおさらいだ。
 夢の岩石破壊が完了したことで、この北郷の心も瞳も子供のように輝いておるわ。
 そのわくわく感が無くなる前に、出来ることを楽しみながらやるのだ。
 童心は最強の行動理由。人を動かす原動力となる。
 なので、

「自分の中で、もっと複数の氣の行使が出来るようになれば……」

 今回のように、加速と固定と放出を同時に行使する要領でやっていけば、または行使するものを増やせば、もっと上手くいけるかもしれない。
 でもその前に。

「っ……痛っ……手、痛っ……!!」

 今さらながらに手がとても痛かった。

……。

 手に集中的に氣を集めて痛みを和らげたあとは、やっぱり鍛錬。

「放出……は、ちょっと次に繋げないからアウトだよな」

 切り離さずになんとか出来ないだろうか。
 むしろ岩を破壊するほどの衝撃だ……それをもう一度取り込んで装填、次弾に備えれば……?

「おお! なんかいい!」

 体術が潤いそうだ!
 凪! 体術は素晴らしいね!
 なので早速実践した。
 加速、固定、放出(切り離さずに)、さらには衝撃吸収、装填───それらを一気に行い、

「《ズキィーーーーーーン!!》ギャアアアアーーーーーーーッ!!!!」

 ……衝撃吸収を氣脈に通してしまい、絶叫。
 いつかの失敗を見事に繰り返してしまい、しばらくは痛みの所為で動けなくなりました。

……。

 トライ、ミキコ。
 じゃなくて再挑戦

「ふー、ふーーっ、ふぅううーーーっ……!!」

 涙目で拳を構える俺。
 氣脈ニ衝撃、ヨクナイ。神経殴ラレルミタイ、痛イ
 それでも懲りずにやるあたり、自分はどれだけ馬鹿なのか。
 や、だってさ。このままなにもしないんじゃ俺、いつか俺って本当にただの柱になっちゃいそうだし。いつか守りたいって願った通り、その夢に真っ直ぐに進むことは悪いことじゃない筈だ。
 国に返したことは山ほどあるんだ、国もそうだし、みんなにも返したい。

「……んっ!」

 なので鍛錬だ。
 自分に出来ることを全力で。

「まず、右の拳で───!」

 殴る。
 まずは軽くで、それでもその衝撃を吸収、捻る体は加速で速め、その外側には衝撃を流して左手に装填。

「左───!」

 殴る。
 右の衝撃を装填した左で殴り、その衝撃を再び右手へ装填。
 加速で届けられたそれが右手に宿り、右手が岩を殴り、衝撃を左へ装填、殴り、加速、装填、殴り、加速、装填。
 速度が完全にノってきたところで装填する衝撃も相当なものへと至り、岩がひび割れてきたところで振り切る右拳とともに装填した衝撃を吸収せずにそのまま放った。
 ……それで、砕けていた岩はさらに砕けた。

「……、……はっ……はぁ……はっ……」

 集中の連続で、妙なところに力をこめていたのか、肺やら心臓やらが痛かった。
 けどその力も抜けて、一気に脱力。
 氣は……まだまだ充実している。衝撃を破壊に利用したためか、氣自体はそんなに使わなかったのだ。
 ただ。

「《ズキィーーーン!!》いだだだだぁああーーーだだだギャアーーーーーッ!!!」

 手が痛かった。
 う、うん……! 俺もっ……体術使う時は、凪みたいに手甲でもしようカナ……!!
 
……。

 手に氣を集中させながら歩き、進んだ先にあった岩の前でまた止まった。
 岩を見つけるたびに壊したって仕方ないんだけど、ほら。ね? 解るだろ? 壊せるようになったんだ……岩をだよ? 誰に自慢したいわけでもないのに、起きているっていうのに“夢だろこれ”とか普通に思ってしまうんだ。
 だから破壊して夢ではないと知って、拳の痛みに涙するのです。

「な、なにも思い切り殴ることないんだよな」

 ていうかもう壊すのやめよう。壊すためにあるんじゃないもんな、この力。

「とにかく氣をバラバラに使うことに慣れなきゃな」

 便利なものは極めればシーザー。特別な味です。……じゃなくて、極めればきっと役立つはず。単純なものほど“極める”のは大変だというが、それでも挫けるって選択肢は今のところないのだ。

「加速のあとに一気に戻そうとすると関節が痛くなるから、それも氣のクッションで和らげて、吸収して……」

 加速、停止、戻し。それらを一気にやってみると、やっぱりぎしりと痛む腕。
 次は加速してから、停止に氣のクッションを使って、戻す際にも加速を混ぜてみる。
 すると、ビッと止めると同時に戻した腕から氣が微量に飛び散り、陽の光を受けて綺麗に輝いていた。なんだかダイヤモンドダストみたいだった。

「へぇえ……綺麗なもんだなぁ……」

 元々、俺の氣の色が金色なもんだから、陽の光を浴びると余計に輝く。
 そんな氣の散り様を横目に、なんとかして散る量を減らせないかと試行錯誤。
 しかし当然とばかりに上手くいかず、次第に拳を振り続けることにも奇妙な苛立ちを感じ始めたあたりで一旦休憩。
 苛立ってはいけません。冷静になるのです北郷一刀、とばかりにじいちゃんからの教えを思い出しながら深呼吸。

「すぅう……ふぅう……」

 自分の実力に伸び悩むことなんてよくあることだ。
 むしろ自分には相手をよく見ることと、氣しかないのだから、それだけに絞って鍛錬する以外になにがありますか。
 そっちの方向には冷静であれ。じゃないとそっちの方向ですら自分を見失う。

「でもまあ、周りが強すぎるとか優秀すぎるっていうのは、過信とか傲慢をしている暇がないから……それはありがたいのかも」

 その分悔しさは溜まるわけでございますが。
 ……だ、大丈夫だよ? 悔しいけど“なにくそっ!”って思えるくらいには、まだ向上心はあるつもりさっ! でも涙が出ちゃう! みんな強すぎるんだもん!

「えぇと……」

 そんな人たちをいつかは守りたいと思う自分は無謀中の無謀でしょう。
 直接話せば笑われるに違いない。主に春蘭に。
 しかし、だからといって諦めるつもりはないのだ。
 そのためにじいちゃんの下で頑張ったんだから。

「こう、拳を振るうだろ……? そしたら加速の勢いが……あ、あー……むうう」

 座りながら体捌きのイメージ。
 振るって、止めた時の衝撃は氣で吸収、装填するとして、散った氣はどうしましょうって話だったよな。
 えぇと…………この際無視しよう。加速で殴ったあとに、相手が待ってくれるわけでもない。加速の拳で相手が倒れてくれたならまだしも、今までの鍛錬を思えば倒れてくれる未来がてんで想像出来ません。
 ウ、ウワァイ! みんな強いナァ! 泣いていいですか!?

「はぁああ……道は遠いなぁあ………………あれ?」

 がっくりと項垂れたあと、せめて楽しいことを考えて暗い考えを追い出そうとした時。
 なんだか、手を振るったあとの衝撃とかをなにかで吸収、って部分でとある漫画を思い出した。……や、それの場合だと氣を込めた拳を、とかではなかったわけだが。

「……散る氣、加速を込めた連打、込めた何かで相手を殴る…………おおっ!」

 遊び心は人を動かします。
 疲れた体もなんのその。
 がばっと立ち上がってからは、すぐに実行に移った。

「コオオオオオオ!!」

 ……いやまあ、うん。遊び心だから、いつも通りといえばいつも通りなんだ。
 なので気にせずいこう。遊び心とはそういうものなのだから。

「ふるえるぞハート!」

 氣をッ! 巡らせるッ!
 深い呼吸を全身に行き渡らせるかのようにッ!

「燃えつきるほどヒート!!」

 言葉の度にバシィビシィと奇妙なポーズを決めて、心震わせ熱く燃えよ遊び心!

「おおおおおっ! 刻むぞ血液のビート!」

 そのポーズをする中で振るった身体が生み出す微量の衝撃をも循環させ、両手に装填してから───今こそ!

「“山吹色の波紋疾走”(サンライトイエローオーバードイライブ)!!」

 いざ拳を振るう。
 遠慮無しの加速が振るう拳の速度を高め、ひと突きが終わった瞬間に繋げるように引き戻す拳。その際に生まれる筋への反動と衝撃も氣によって吸収、そのまま装填され、引き戻された時には既に出されていた左拳も同じ動作を。
 引き戻した際に人体構造上の限界まで戻した腕が止まる衝撃さえも、加速されれば結構な衝撃だ。しかしそれすらも吸収、いっそ加速の助走にするかのように弾けさせて、ただひたすらに拳を振るった。
 遠慮無く行使される氣が散って、陽の光を浴びて輝くさまは実に綺麗だ。
 サンライトイエローかどうかと問われれば苦笑を漏らすが、遊び心の前ではそんな些細こそが笑いの種だろう。完璧じゃなくていいのだ。遊びとは不完全だからこそ手を伸ばしやすいし、踏み込みやすい。
 完全を目指した遊びは、途端に義務的なものになる。
 ああだが、だがジョジョッ……その完全を得た時の喜びもまた……楽しいのだッ!!
 ……と、振るったはいいのだが。 
 加速するたびに腕に走る衝撃も増してゆき、装填される力も増えるばかり。
 さて……そろそろこの両手に篭った“衝撃”をどうにかしないとまずいのですが。
 なっ……殴ったら絶対にまたズキィーーンですよね!? ででででもサンライトイエローオーバードライブといえば、あのトドメの拳が素敵なわけでして!

「…………《ゴ、ゴクッ!》」

 空振りを続ける拳の先には岩。
 これをドキューンと殴れば衝撃は霧散するわけですが、俺の拳も無事では済みません。ええ済みませんとも。

(進め! 立ちはだかる者はすべて切り伏せよ!)
(孟徳さん!?)

 も、孟徳さんが猛っておられる!
 むしろ遊び心でやり始めたなら最後までやらずして何が男!
 なので殴る! 加速度も最高潮に至ったかもしれないとなんとなく思えるこの速度を以って! 殴りぬけるッ!!

「るオオオオオ!!!」

 岩を破壊するといえばこの雄叫び!
 さあいざ全てをこの岩にぶつけるように! カエルは居ないが気にしない!


   どごーーーん…………ギャアアアア…………


───……。


 それからしばらくして……長い旅が終わった。
 手は笑えるほどボロボロで、建業に着いたら迎えてくれた人が居て、民達が「みろ……あんなに手がぼろぼろだ……」とか「きっとそれだけ国のために尽力してくださっているんだ……」とか言って、とても申し訳ない気持ちになったのは秘密のお話。

「んむっ、ぐっ、はぐっ! はふっ!」

 で、現在は親父のお店で青椒肉絲を食べております。
 いやあ懐かしい味だ! ……前にも来たけど!
 やっぱり呉といえばこれってイメージがあるのは、作ってくれるのが親父と祭さんだけだからかなぁ! いやぁ懐かしい! 前にも来たけど!

「お前も懲りねぇなぁ一刀よぉ。娘のことで困るとすぐこっちに来るもんなぁ」
「ナ、ナンノコトデセウ? ボボボボク、娘ト仲良イヨ?」
「はっは、そうかそうか。んじゃあ今回はなんだって呉にまで来たんだ?」
「…………《ソッ》」
「無言で視線逸らしてんじゃねぇって」

 親父は相変わらず元気だ。
 店も盛況で、魏のオヤジの店のように酒を飲んだり騒いだりする人もごっちゃり。
 ……まあ、あっちのほうが狭いといえば狭いものの、その分親密度は高い気がする。腹割って話すことばっかりだもんなぁ、あっちは。

「で、どうだい、支柱の仕事は。娘のこと抜きにしても、元気にやってっか?」
「ん、それは問題ないよ。優秀な……ああいや、優秀すぎる人たちが都に集まってるから、分担すると仕事が少ないってくらいだ。……もっとも、その分あちこちで騒ぎが起きるわけだけどさ」
「騒ぎねぇ。呉では孫尚香さまがたまに騒ぐくらいで、騒ぎらしい騒ぎなんてなかったろうに」
「魏と蜀が問題なんだよ……」

 主に蜀。ていうか蜀。
 魏だって春蘭が暴れなければそれほどでも…………ああいや、真桜の絡繰実験とか霞のお祭り騒ぎ的な、民を巻き込んだ暴走とか、そういうのが無ければまだ……なぁ。
 季衣も鈴々と絡まなければまだ大人しいんだ。春蘭と居ても止めに入る方だし、流琉と一緒の時は騒ぐ方だけど、それはまだ大丈夫な部類だ。
 それがなぁ、他国の将と絡んだだけで一気に騒ぎ始めるから手に負えない。
 蜀が元気っ子揃いすぎるんだ。軍師も気が強いのが多いし、朱里と雛里なら平気かなーとか思ってると書店から怪しい本を購入したところを目撃されて、テンパって騒ぎ出してって……ああもう……。

「……なぁ一刀よぉ。頭抱えて溜め息つかれっと、どこが問題ないのかまるで解らねぇんだが……?」
「いや……問題ない……筈なんだよ……? これでもまだ捌けてるんだから、問題ないんだよ……きっと……」

 人が元気なのは平和な証拠さ!
 たとえそのために朝早くから起きだしてあちこち駆けずり回って処理して、子供たちが起きる頃には何食わぬ顔で戻って遊びに誘ってもすげなく断られてもっ……! も、問題ないんだよ……!? ない筈さ! ないよね!?

「イヤー、野宿ッテイイヨネー。俺久シブリニ熟睡デキタヨー」
「お前どんだけ寝てねぇんだよ……」
「俺の睡眠時間より子供たちと遊ぶ時間の方が大事じゃないか!」
「お前はもっと自分が支柱であることを意識しやがれ!」

 ごもっともだった。
 けれど、親父様。この北郷……支柱である前に父である!!《どーーん!》
 ……あ、ごめん、父になる前から支柱だった……。

……。

 その後、城のみんなに挨拶をする前に民に挨拶するという、この時代にしてみればへんてこりんとも取れそうな行動ののちに城へ。
 ……到着するや泣きついてきた文官を前に苦笑を漏らしつつ、蓮華や冥琳の方針を崩さない程度にアドバイスの時間。
 人にものを教える時は、その人の立場を想像して、頭の中で言葉を組み立ててから言葉にしましょう。絶対にやってはいけないことは、頭ごなしに怒鳴ることと、主語を抜いた説明と、こんなん出来て当たり前だろうがという決め付けです。
 ああ、あとこれ。急かしちゃいけない。冷静に。
 間違ったことをしていた場合は、やんわりと止めてやんわりと説明しましょう。
 その際、その行動がどうして間違っているのかも説明すると素敵かもしれません。
 自分が知ってるんだから相手も知っていて当然、という考えは気楽な考えだけれど実はかなり危険な考えです。
 まあどれだけ説明しても、相手に聞く気がなければどうしようもないんだけどね……。
 こればっかりは……まあ、解らないでもないんだけどさ。

「優秀な“上の人”が身近に居ると、へこむよなぁ……」
「ですよね! そうですよね! 私たちが未熟なだけではありませんよねぇ!?」

 現在、建業を任されている将が涙目で叫んでいる言葉に同意している俺。
 上の人っていうのはじいちゃんだったり不動さんだったり、まあいわゆる、自分の鼻を叩き折った人たちのことを言う。
 自分なりの努力を真正面から叩き折って、そうではないと意見をぶつけてくる人。
 で、自分にも自分なりのやり方があるんだと叫んだところで届かない。
 何故って、相手のほうが優秀だからだ。
 それが解っていて、実際に相手のやり方で合っているのに、妙なプライドや意地の所為でそれを受け止め切れない自分。大体の場合は反発して後悔する。

(だから受け止められる自分になったつもりで、教えられたことはなんでも実践してきたのにな……)

 まだまだ全然勝てない自分。
 既存の知識を追ったのならば、手探りをしている人よりも早くに経験を積めるはずなのに、てんで追いつけもしない現実。
 悩んでいると飛んでくる“悩むな”の言葉に苛立ちを抱いて、がむしゃらにしてみれば“そうじゃない”の言葉。結局はその繰り返しで、努力が報われる瞬間にはなかなかめぐり合えないわけだ。

「まあでも、身近に居る内にさ、もらえる知識はもらっておこうな。居なくなってからじゃ、どれだけ後悔してももう貰えないんだから」
「それは……まあ」
「……頷いてみせても、納得出来てないだろ」
「うぐっ!? ……はぁ。いえ、受け取ろうとはしているんですけど」
「そんなもんだよ。自分の心とも折り合いがつけられるようになれば、少しは自分を見直せるようにはなれると思うから。無責任に言うなら“頑張れ”」
「……いつもの“言うだけならただ”、というやつですか」
「応援だけなら誰にだって出来るし。ただ、重荷としては受け取らないでくれな」
「三国同盟の証に励まされて、重荷以外にどう受け取れと……」
「あぁ、はは、そうかも。じゃあこれだな。給金分は働こう」
「……どうしてでしょうね……さっきよりもよっぽど重いです」
「自分がそれに見合っているかどうかなんて、解らないもんな」

 苦笑を漏らしつつも仕事を手伝ってゆく。
 視察しながらの助言の時間は、文官の愚痴に付き合う時間でもある。
 普通はそんなことを、なんて思うだろうが、吐き出す時間っていうのは本当に大事だ。
 吐き出す相手が居ない場合は余計に。なのでこれは俺が提案したことであり、時間が作れればいろいろな将からの愚痴を聞いたりしている。
 ……それがまた、結構重いわけで。
 代わりと言ってはなんだけど、俺も愚痴を聞いてみらっているからおあいこだ。
 そんなわけで、互いに日々への不満や理不尽や、面白かったことからこれが辛いということを話し合っては笑った。
 たぶん、オヤジの店に行けたなら絶対にみんなと打ち解けられる人だろう。
 将である時点で相手も線を引くかもだが、そんなものは慣れだ。
 打ち明けてみれば、自分と大して変わらない悩みを持っていることに驚くに違いない。
 むしろ俺なんて、“その外見で子供との付き合い方に悩んでるなんて”とか言われて、背中をポムポム叩かれるくらい打ち解けて…………あ、あれ? 打ち解けてるのかな、これって。

「しかし、御遣い様も大変ですね。もういっそご自分のことを話してしまわれてはいかがですか?」
「そうだなぁ、打ち明ける云々の前に、いい加減その堅苦しい喋り方をまずなんとかしてほしいなぁ」
「それは無理です《どーーーん!》」
「や、胸張らなくても」

 でも、打ち明ける、かぁ。
 子供たちに俺のことを打ち明けて、それでいろいろと遠慮することがなくなったら……



-_-/イメージです

 ある日、シャイニング・御遣い・北郷は都の街を歩いていた。
 空を見上げれば良い天気。
 凪が新調してくれた同盟国正式採用フランチェスカ制服は、その眩しい太陽の光を浴びてゴシャーンと輝いている。
 そんな、歩けばあまりの眩しさに誰もが振り向く中、街の一角に存在する私塾を発見。娘たちは元気に勉学に励んでいるだろうかと、そっと窓の柵越しに見てみると、なんとそこには曹丕と見知らぬ男の子が。
 どうやら二人きりらしく、男の子は緊張を孕んだ面持ちで曹丕を見つめ、曹丕は溜め息ひとつ、その男を見ていた。

「し、子桓さま───いや、子桓ちゃん! 俺、ずっと言えなかったけど、そのっ、きみのこといつも見てて……! その、いつもいつも凛々しいところとかたまに怖いところとか、でもやさしいところとかも解って、なんて言ったら良いのか今ちょっと解らないけど、ええっとつまりなにが言いたいかというと……!」
「…………あ」

 恥ずかしさのあまり、俯いたままの男の子の手が伸びる。
 その手が相手の手を掴んで、ぎゅうっと、力強く掴んで、離すものかとばかりに掴んで、それをこれから放つ言葉の力にするかのようにして、

「すっ……好きだぁあああーーーーーーーっ!!!」

 放った! 勇気を以って! 告白をっ!!

「そいつは照れるな」
「!?」

 が……手を掴まれた相手───シャイニング・御遣い・北郷は顔面をギニュー隊長もびっくりなくらいに血管ムキムキにして立ち、口からはどれほどの温度があるのかは解らない白い息をモゴファアアアと吐き出していた。

「ふぅううう〜〜〜……! いいギャグ持っとるのォ茶坊主ゥウウ……!! この父の前で丕に告白するなぞ命が惜しくないようだのォォォォ……!!」
「えっ!? やっ! えぇっ!? ど、どうして御遣い様がここに!? あっ、いや! お、おおおおお義父さん! 僕に子桓ちゃんをくだ───」
「だぁあああれがお義父さんだブチクラワスぞこんガキャアアアァァァッ!!!!」
「ヒ、ヒィイイイーーーーーーーッ!!!!!《ダッ》」
「逃がすかァアアッ!! 絶対イワしたる絶対イワしたる絶対イワしたるァアアッ!!」
「とっ、ととさまぁっ! 町内で木刀は! 木刀はぁああっ!!」

 ……。



-_-/一刀くん

 ……よし落ち着こう。
 大丈夫、そんなことしないよ。
 だだだだってそんな、三国の支柱たる者が長寿と繁栄のための第一歩になるかもしれないところで横槍入れるなんてさ、ハハ……。

「そうそう、せいぜいで氣を込めた全力ナックルをするくらいさ」(*注:死にます)
「《ビクゥッ!》えっ……な、なにがですか!?」
「へ? あ、ああいや、こっちの話」

 塾から逃げ出して町内を駆けずり回る男を、木刀を構えて追い掛け回す自分が上映された。さすがにそんなことはと思ったものの、全力ナックルもまずいよな。
 ていうか、知らず口に出ていた所為で、隣を歩いていた将に驚かれた。
 ……ちなみに“いわす”というのは“殴ってヒーヒー言わせる”的な意味らしい。
 関係ないけどね。


───……。


 視察、アドバイス、のちに都に送る予定だった仕事などを済ませると、外は既に真っ暗だった。夕餉を食べていないことに気づいたものの、青椒肉絲でご飯を目一杯食べた所為かお腹は減ってはいなかった。
 現在自分を襲うのは眠気ばかりであり、案内された部屋ではそのまますぐに眠れるように寝台も用意してある。というか、呉で世話になった時のそのままの部屋を使わせてもらっている。
 あれから八年。持ち込む私物などろくにありもしないものだから、様変わりもまるでないそこは、第二第三の自室のようなものだった。ここならば何に遠慮することなく呼吸を整え、眠れることだろう。……野宿中でも十分熟睡だったが、気にしちゃいけない。疲れてたんだよ? ほんとだよ?

「………」

 誰も居ない時は、氣脈の強引拡張の最大のチャンスといえます。
 なので集中。氣脈を氣で満たし、さらにそのまま錬氣を続ける。
 途端、まずは身体が痺れるような圧迫感。
 苦しいと感じるところまでいったならば、そこからは微調整。徐々に錬氣して、痛みを感じたら停止。痛みに慣れたらじわりと錬氣、停止、錬氣、停止。
 むしろ広げすぎて痛むならばと氣で繋ぐようにして、そこから無遠慮に拡張させて……あまりの激痛に涙した。無理はいけません。
 しかしながら氣で痛みを和らげることは一応出来るため、誰も見ていない今こそ好機とばかりに拡張に励んだ。というか、他国に行った時くらいしか大きな拡張が出来ないのだ。なにせ、都に居たのではほぼの時間に自分以外の誰かが居る。

「ん───……んー……ん───んー……」

 一定を広げ終えると、次は氣を体外に放出。
 放つことはせずに掌にでも集めて、深呼吸したら再び氣脈へ戻す。
 伸縮を繰り返すことで氣脈の柔軟性を鍛えているのだ。
 まあ……今さら確認する意味もないくらいやっていることだ。数えればもう8年。
 お陰で氣だけは凄い北郷さ。……氣だけは。
 扱い方や応用は今でも手探りだし、氣無しで真正面からぶつかったって誰にも勝てない。相手の攻撃を注意深く見て、それに合わせた動きをして、相手がその狙い通りに動いてくれて初めて勝てるってくらいだろうか。それでも褒めてくれる人は居るものの、正直“あなたに褒められても褒められている気がしません”と言える人物が居すぎなんだよなぁ。だってみんな強いし……。

「……ふぅ」

 拡張が終わると、痛みが引くのを待ってから丹田の強化。
 カラッポな氣脈を何回錬氣で満たせるかを試してゆく。
 これも立派な鍛錬のひとつだ。
 ちなみにカラッポにするために、氣は体外に球体にして浮かせてある。
 摩破人星くんを飛ばす際に使った方法の応用だ。
 それを続けて、錬氣出来なくなったら、寝台に座りながらも錬氣のイメージを続ける。
 途端に気持ち悪さとけだるさに襲われるけど、呼吸を整えて続行。
 ……しばらくして意識が飛びそうになったところで止めて、少しずつ宙に浮かせた氣を身体に戻してゆく。身体の中を氣で満たしてやったら、体の中の不調な部分を氣で活性化。多すぎる氣の球体を地道に消費してやりながら、再度氣脈を広げるイメージをしながら吸収していった。

「丹田の栄養素ってなんなんだろうな。やっぱりたんぱく質?」

 いまいち氣を作るのに必要なもの、というのが解らない。
 寝れば練れるようになるし……いや、駄洒落じゃなくて。
 休めば使えるようにはなるのだ。しかしその条件が解らない。
 なにを以って生成されているのだろう、この不思議なものは。
 カロリーを消費して、とかだったら、ダイエット戦士には嬉しいものだろうけど。
 でもそうなったらいろいろと大変だな。演奏者のように砂糖を舐める日がいつかはくるのだろうか。というか、その場合は砂糖を舐めるだけで足りるのか?

(……14キロの、砂糖水)

 ……とある中国人が14キロの砂糖水を差し出す場面が頭に浮かんだが、忘れよう。無理です、身体から湯気が出る奇跡とか俺には無理です。

「…………はぁ」

 うーん…………静かだー……。
 都だったらこうはいかないよなー。
 こうして“たはー”って息を吐いたら誰かしらがドヴァーンと扉を開けてさ?
 “いやあの僕もう眠ろうと”とか言っても聞かずに酒に付き合わせたり(雪蓮と霞と祭さん)、夜の鍛錬に引きずり出そうとしたり(華雄)、寝る前にお話をねだってきたり(美羽)、終わってない仕事を持ち込んできたり(沙和と真桜)、毒物っ……もとい料理を運んできたり(春蘭と愛紗)。
 ……どれも夜中に虫の雨を降らそうとするどこぞの猫耳軍師よりはマシだと思えるあたり、俺も相当順応しているのだろうか。

「………」

/ 身体が癒され、落ち着くのを感じるままに目を閉じた。
 このけだるさを受け入れたまま眠るのは気持ちがよさそうだ。
 一度落ち着いてしまうとどうしても都のことが気になってしまうのは、もう遠出した時の癖のようなものだけど……出てきてしまったなら今は呉のことを気にしよう。
 休める時に休んでおこう。
 ……などと、休めること自体がとても大事な都のことを思いながら、息を整えた。




ネタ曝しです *トライ・ミキコ  ミキコ・スマイルアゲィン? オ〜〜〜ウ……GOOD!!  トライ? トライミキコォゥ? フゥン。  ピアノの先生。ペリーのピアノ教室。いろいろ。  Flash時代はいろいろと賑やかだったなぁ。  最近はニコニコ動画以外にはあまり飛んでいない気がします。  ……小説サイトは別ですが。 *でも涙が出ちゃう!  アタックナンバーワンより。  ……で、よかったよね? なんかもううろ覚えだ。 *手を振るったあとの衝撃とかをなにかで吸収  吸収とは違いますが、緩和といった意味で。  ジョジョの奇妙な冒険より、ズームパンチ理論。  関節を外して腕を伸ばすッ! 関節の痛みは波紋で和らげるッ! *ふるえるぞハート! 燃えつきるほどヒート! 刻むぞ血液のビート!  ジョジョの奇妙な冒険より、ジョナサン・ジョースターの熱い台詞。  ジョジョではジョナサンが大好きです。  そしてディオには是非とも、彼が認める人間はジョナサンだけにしてほしかった。 *山吹色の波紋疾走-サンライトイエローオーバードライブ  拳の弾幕を見舞うジョジョ名物のラッシュ。  スタンドでもないのにあの拳の弾幕……お美事にございます。 *るオオオオオ!!  顔が怖いツェペリ男爵。  思えば男爵様だったんだよなぁツェペリさん……。  ええ、ジョジョですとも。  蛙をメメタァする際の掛け声。 *同盟国正式採用フランチェスカ制服  モンハンチックな名称。  工房試作型ガンハンマの名前が大好きです。 *す、好きだぁーーーーっ! そいつは照れるな  3×3EYESより、ハズラット・ハーンの大告白劇場。  相手を良く見ずに顔を真っ赤にして、手を掴んで好きだと絶叫しましょう。  すると手を握られたゴツイお方がそいつは照れるなとツッコんでくれます。  関係ないけど技名のバオチーが大好きです。 *ギニュー隊長 血管ムキムキ  ドラゴンボールより、ギニュー特戦隊隊長。  あと血管ムキムキコンテストより。 *ふぅううういいギャグもっとるのォ茶坊主  カメレオンより、椎名くんの怒りの言葉。  この漫画は初登場がどれほど格好よくても、コトが済めばギャグキャラになるのがいい。 *ブチクラワスぞ  今日から俺は! より、ヤっちゃん先生。  こんガキャー! 出てこいッラァーーッ! ブチクラワスぞラァーーーッ!!  ……既に手元にないので、確実性は薄いです。 *絶対イワしたる絶対イワしたる絶対イワしたるァアーーーッ!!  アニメ瀬戸の花嫁より、女子トイレまで娘を尾行された上覗かれたと誤解した父の絶叫。  「ぬぁああにゃあああ!?   ボォオオフラが女子トイレまで燦を尾行した上覗いただァアアア!!?」  からの派生。 *町内で木刀は! 木刀はぁああ!!  同じく瀬戸の花嫁より、政さんの台詞。  上記のイワしたるな状況で、後を追いながら  「おやっさァん! 校内でポン刀はァ! ポン刀はァアアアッ!!」  と叫んでおられる。 *14キロの砂糖水  奇跡が起こる。(*起きません)  バキより、烈海王が用意した14キロの砂糖水。  ほんのり烈海王風味がする、素手で掻き混ぜられたバケツいっぱいの水。  飲もうとすると直前に食べた料理全てが胃袋から消滅すると言われている。  凍傷小説ではおなじみといえばおなじみのネタ。  115話をお送りします、凍傷です。  小説の読みすぎで目が霞んでおります。読んでないで書けですね、ごめんなさい。  ヤマグチノボル氏の永眠を知ってから、ゼロの使い魔の二次創作小説を読み漁っておりました。なんだかやるせない気持ちでいっぱいです。  うぬ、いろいろ書こうと思っていたのに文字が出てきませぬ。  ええと……むう。  こ、今回は上手くいかない人の在り方、というのを書いてみたわけですが……あー……。  すいません、今回はここまでで。言葉が出てきませんです、はい。  ではまた次回で。 Next Top Back