177/“これ”すら出来なかった日々が消えた

-_-/一刀くん

 ───朝。それは新たなる日々の始まり。
 寝て起きることが重要であり、徹夜で迎える朝には……新たなるという言葉は合わない。
 そんな朝。

「……フゥ〜〜……」

 長く息を吐きながら窓を開ける。
 途端に流れてくる朝の空気を胸いっぱいに吸い込みながら、言うのだ。

「スゲーッ爽やかな気分だぜ。新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」

 少し体勢を斜めに、首も微妙に傾げながら言う。
 何故こんな気分なのかといえば……そう。

「娘たちとの誤解が解けた。これからはきちんと父親をやれる……」

 これだ。
 これだけだと言われればこれだけの、けれどとても大事なこと。
 夢にまで見た料理を作る娘や、子供とのキャッチボールだって出来るのだ。
 キャッチボール……黄柄なら喜んでやってくれそうだ。
 料理は丕が……でもな、俺の料理って普通だし、普通の料理なんか今さら教わりたくないだろうしなぁ。いや待て? 華琳……母から料理を教わる娘を後ろから見守る父親! ……いいじゃないか。

「……《ほにゃ》───ハッ!?」

 いかんいかん、顔が物凄く緩みきっていた!
 けど、本当に嬉しいのだ。まさかこんな日が来るだなんて思いもしなかった! ……夢にまでは見て、枕を濡らしたけど。
 でも今日から俺はその夢の先へと歩んでゆく。
 さようなら、悲しみに溢れていた昨日までの俺。
 そしてこれからの俺よ、ともにゆこう。

「さあ、いざ───!」

 俺達の戦いは始まったばかりだとばかりに歩きだし、扉を開けて部屋を出た。
 会ったらどんな話をしよう。
 世話話? よりも先に、まずはおはようだよな。
 ああ、家族らしい会話じゃないか、嬉しい。
 神様ありがとう、俺、これから少しでも神って存在のことを思うようにするよ。
 なんて思っていたら通路の角で、丕とばったり。

「お、あ───お、おは───」
「朝から腑抜けた顔を見せないで頂戴」
「よ、う…………?」

 ………………。
 一息で言って、丕はふらふらと歩いていってしまった。

「………」

 …………さて。
 チェーンソーはどこだっけ。
 神の野郎をコロがす旅に出なければ。
 ありがとう神、俺はいつでもキミを思うようにしているよ。憎悪側の感情で。
 そこまでが限界でした。
 足に氣を込め全力疾走。
 華琳の部屋の前まで来るとノックンロール(ノック乱打)。
 そして「静かにしなさい」と部屋の内側からぴしゃりと叱られ、しょんぼりする父の図。
 大した間も置かずに入室を許可されて、テンションを復活させて部屋に入る。

「朝から随分と騒がしいわね。なにかしら? まあ、大方子供たちとの悶着の結果報告といったところ《がばしー!!》ふやぁあっ!!?」

 言葉の途中、ずかずかと近づいて抱き締めました。
 急なことに驚く華琳へと、娘へとぶつけるつもりだった親の愛をたっぷりとぶつけ、頭を撫でたり軽く頬擦りしたりやっぱり頭を撫でたりいいこいいこしたり高い高いしたり《ゾブシャア!!》ギャアアアーーーーーーーーッ!!

「いだぁああああっ!!? だだだだから華琳!? いつもいつもその絶いったいどこから出してるの!? ていうか普通に手に刺すとかやめよう!?」
「うるさいわね黙りなさい!! あさっ……こほんっ! 朝からいきなりなにをしてくれるのよ!」
「だ、だって丕が! 丕がさぁ!」
「丕が? ……どうしたというのよ」

 片方の眉を持ち上げ、訝しんで訊いてくる華琳さん。
 そんな彼女に、刺された手を癒しつつも昨日の報告と先ほどのこととを聞かせた。……痛くても彼女を放さない俺は異常でしょうか。
 ともかく説明した。もちろん僕は普通でしたとも、と……自分は怪しくなかったことをアピールしつつ。顔がにやけている以外は普通だったさ! ……ほ、ほんとだよ!? 自分じゃ気づかないくらい気持ち悪いニヤケ方だったとかじゃない限り、大丈夫だって!

「………」
「か、華琳?」
「……そう。そうね、あなたもまあ、そこは仕方が無いと受け入れなさい」
「やっぱり顔が緩んでたのが悪かったのか!?《がーーーん!》……わ、解った。俺これから、世紀末覇者拳王もびっくりなほど眉間に皺を寄せたゴツ顔を目指すよ……!」
「よく解らないけれどこういう時のあなたの提案はろくな結果にならないからやめなさい」
「一息でなんてひどい!」

 でも解る気がして反論が見つからない俺って……。

「丕があなたのことを知らなかったように、あなたも今の丕を知らなかったというだけのことよ。まあ、そうね。一言で言うとあの子、朝に弱いのよ」
「朝に? ……そういえばもっと小さい頃、寝起きは随分とだらしなかったような」
「それは単に小さかっただけの話よ。朝に辛さを見せるようになったのは、警備隊の仕事を継続するようになってからだもの」
「いやそれ、俺が知らなくても当然じゃ……俺が呉に行ってる間に始めたんだろ?」
「あら。呉から帰ってきてからでも、知る努力は出来たでしょう? あなたがどこでどう覚悟を決めようが、それを知らない丕がどこで何を始めようと、知ろうとするかしないかの問題じゃない」
「うぐっ……」

 知る努力、大事ですね。
 でも俺も、未来を目指すっていう重大な覚悟を決めたばっかりだったんだよぅ。
 その時はそれが正しいって本気で、心の底から思っていたんだ。
 周りに相談出来るようなことでもなかったし、“夢を見たんだ、信じてくれ”なんて言えなかったんだ。
 そりゃ、みんなきっと信じてくれたと思う。苦笑だろうと爆笑だろうとしたあとに、きっと信じてくれた。信じた上で、“みんなが死んだあとに起こること”を話して聞かせなきゃいけなかったんだ。
 死んだあとだ、出来ることなんてきっとない。
 だったら、何も知らずにそのまま穏やかに生涯を過ごしてほしいって思う。
 そう……“今度は俺が守るから”って。

「………」

 そんなこと言ったって、きっとみんな受け取らない。
 死ぬ間際まで、俺なんかに守られてたまるかとか言いそうだ。
 ……今ならそれでいいんだと思えるし、そのあとのことは……自分でなんとかしようって思える。その時に傍に居るみんなで、出来ることなら……覇道の果てを守りたい。

「あ、あー……でもさ、丕はなんだかんだで華琳に似てるよな。仕草とか口調とか……」
「? なによ急に。……まあ、そうね。似たというか、似せたのでしょうけれど。……おまけに頭痛持ちも遺伝したのか、頭が痛いと相談することもあったわね」
「いや、それは多分あの将ら───」
「? なによ」
「ア、イヤー……」

 それは多分、あの将らに囲まれてる所為だと思う。
 そう喋りそうになった口はしかし、途中で止まってくれた。
 ……言ったら大変なことになる、落ち着け俺。そう思った時には、固まっていた思考も少しは柔らかくなってくれて、余裕が持てた。

(……ん)

 でもまあ。
 そう。でもね? 解るんだよ? 俺もよく“頭いたい……”ってなるし。
 だからそこは大丈夫。きっと大丈夫。むしろ重要なのは頭痛よりも、“寝起きだから”と平気であんなことを言ってしまう丕がだな……!
 などと頭の中で相談ごとを組み立てていると、部屋の扉が再びノックされる。結構荒々しい。

「はあ。まずはそこで用件を言いなさい。というか、静かになさい、丕」
「!?」

 丕!? 丕ですって!?
 ……母はすごいですね、おじいさま。よもやノックの仕方で相手が解るなど。

「かっ……かかか母さま! わたっ……わたしっ! せっかく父さまが朝の挨拶してくださったのに、寝惚けたままでとんでもないことをっ!! ち、知恵をっ……こんな時、父さまはどんなことをすれば機嫌を直してくれましたか!?」

 ……なんか心がほっこりしました。
 前略神様、チェーンソーが見つからなかったから、見つかった時にまた挨拶にいきます。
 心が暖かくなって、無意識に右手で心臓の上あたりに触れて、天井ともとれないどこかを見上げていた俺を見た華琳が苦笑をこぼす。「たった一言で随分と賑やかになれるのね、あなたたちは」と。

「そうね、なら……丕。今から厨房へ行くわよ。料理を教えてあげるから、一刀に料理を振る舞ってあげなさい」
「!?」
「りょっ……料理を!? 母さまが!? ───あ、あはっ……! はいっ! 頑張りますっ!」

 嬉しそうな丕の声と、驚愕のあまりに驚いた顔のままで固まる俺。
 そして思い出すのだ。
 産後、動けない華琳の傍で、娘としたいことやりたいことをごちゃごちゃと言いまくっていた頃のことを。……ああいや、動けるようになってからでも平気で言ってましたね、ごめんなさい。
 ともかくその中には当然、母と娘が料理を作るところを見たいというものもあって……。
 えっとその、つまり……。

(おっ……覚えてて……くれた……!?)

 普通“こういう反応”って男女逆ではなかろうか、なんて思うのはヤボですか?
 でもやばい、これはやばい、嬉しい。
 驚きの顔から喜びの顔へと変わる過程をじいっと見ていた華琳は、片目を閉じつつ照れた顔で「な、なによ」なんて言っている。腕を組んでそっぽを向きそうなところを、自分から目を逸らすのは気に入らないとかなのか、必死に耐えている。なにと戦ってらっしゃるんだ覇王さま。
 でも未だ抱き締めたままなので、顔は逸らせても逃げられはしません。
 むしろありがとうが溢れ出て、一層に頭を撫でてしま《チャキリ》絶怖い!!

「うぅう……華琳? 感謝くらい素直に受け取ってくれよ……」
「あなたの感謝はいちいち大げさすぎるのよ。感謝を表したいのなら言葉で伝えなさい」
「……自分は察しなさいで済ませるくせに」
「ぐっ……! あなた、本当に言うようになったわね……!」

 どれだけあなたがたに囲まれているとお思いか。
 多少の反撃くらいは出来るようになりましたさ……そして多くの場合、倍にして返されるのです。けれど、それを受け止めるのも男の甲斐性というものでしょう。女性って案外言葉を選ばずストレートに来る時が多いので、突き刺さる場合もまた多いのですが。
 そんな人たちに遠慮もなく囲まれて生きた8年。
 ……そりゃ、この北郷とて多少は成長もいたしましょう。

……。

 笑顔のままに卓へと着く。
 釜戸の前に立つは母と娘。
 その後姿を見守るは父ことこの北郷め。
 部屋に俺が居たことに大層驚いた丕だったが、素直に頭を下げられたので例の語調で、大丈夫であることと問題もなかったことを告げた。少しおどけた風情の俺の雰囲気に丕も緊張を解いたのか、なんだか久方ぶりにぱあっと微笑んでくれまして。……もうそれだけで泣きそうになった。
 人生……まだまだ捨てたもんじゃないなぁ。人生を捨てるつもりはなかったけど、青春を捨てる気ではあったから危なかったよ。

「はあ……」

 さて、そんな俺ですが。
 並んで歩く母と娘を後ろから見守りつつ歩き、通路を見回りで歩いていた兵に驚かれた。
 なんでも相当なえびす顔をしていたらしい。目尻が下がりすぎていて、顔だけ見たら俺であることさえ認識できなかったと真顔で言われた。
 少し自分というものを考えつつ、今はこうして卓について、キリっと見守っているわけだ。

「…………《ほにゃあああ……!!》」

 多分、今の俺ほどキリっとした父などそう居ない。
 いや、親ばかみたいに言うんじゃなくて、そんな根拠のない自信が溢れ出て仕方ない。
 で、自分で思う場合、俺は特にそうでないことが多いとは華琳の言葉。
 きっとでれでれに違いない。

「母さま、これはこの時に?」
「それはもう少し火が通ってからになさい。先にこっちよ」
「はい」

 親子がエプロンをつけてのお料理教室。
 親から子へ受け継がれる料理……! これだよ、これですよ……!
 そ、そしてここでこう! これだ!

「あ、あー……その。なにか手伝おうかー……?」
『黙って座っていなさい』
「……!《じぃいいいん……!!》」

 丕は反射的に言ったようだけど、華琳は素で仰った。
 そしてそんな突き放される言葉に感動する俺。
 い、いい! いいね! こんな瞬間を夢見ていた! 実際手持ち無沙汰だけど!
 ああいや落ち着こうな俺。テンションが高すぎて引かれてもアレだ。
 しかし反射で言った言葉を気にしてか、ちらちらとこちらを伺う丕が可愛い。
 そんな娘を見て顔が緩みっぱなしになりそうな俺は気持ち悪い。
 だが、それがどうして悪いことだと言えましょう。
 ようやく訪れた家族団欒の瞬間……俺はそれを胸いっぱいに受け止めることができた。
 それが勝利なんだ。
 それでいいジョルノ……それで。いやジョルノじゃなくて。

「?」

 ところどころで丕の動きがぎこちないなーと感じる。
 ハテ、と思考にフケるとすぐに答え。緊張とかもそうだろうけど、筋肉痛だろう。
 いくらなんでも昨日だけで無茶をさせすぎてしまった。反省。

「………」

 それでもついてきた彼女は、ただひたすらに俺に謝りたかったのだろうか。
 ありがとう。お陰で今、いろいろと噛み締められております。
 おりますが……ひとつだけ言わなきゃいけないことがある。訊かなきゃいけないことがある。
 それを思うと気が重いけど、訊かないとマズイ。
 俺はそれを父として男として、どうしてやればいいのだろう。
 緩んだ頬はふとした瞬間に真顔に戻って、ちらちらとこちらを見ていた丕がそんな俺に気づいて、どこかおろおろとした風情で、話しかけようかどうしようかを迷っているようだった。
 それに苦笑を返して……また考える。
 別に料理への不安を思っているわけではない。
 どんなものが来ようとも食べるし、春蘭や愛紗に比べれば食べられるものだという確信もある。……それ以上だろうと“食べきってみせる”という凄みが今のこの北郷にはあるッッ! …………まあ、凄みだけで何事もクリアできたら誰も苦労はしないよなぁ。

(なんとかなるといいな)

 何もかもを否定する気は無い。
 せっかく理解を得られた家族なんだ、“もう一度ここから”をなにも、一日で潰すことはないのだ。だから俺は歩み寄ることを考える。どんなものだって、歩み寄って理解を得られれば、ともに頷けるものだってあるはずだから。

……。

 少し経って、料理は完成した。
 いくつもの皿に載せられたそれらをおずおずと卓に並べる丕は、その顔に不安をたくさん乗せている。
 その後ろで腕を組んで不敵な笑みを浮かべる華琳をちらり。
 ……俺の視線に気づいてか、不敵な笑みのままに俺を見た。

(…………アレー)

 不思議だ。
 桃香に料理を教えて、味付けを忘れた瞬間とやたらとかぶる。
 もしやまた忘れたりとか……いや、華琳は同じ失敗を二度しない。
 ならばこれは美味しい筈だ。むしろ娘の手料理である、美味しくない筈がない。

「……どっ……どうぞ、父さま」

 卓に並べられた皿……その数、…………いくつですか丕サン。
 あ、あれ? 朝にしてはちょほいと量が多いのデハ……?
 あっ、やっ、きっとアレだね!? 機嫌直してほしくて、ちょっと張り切っちゃったんだよね!? ああもう可愛いなぁ我が娘は! だから一緒に食べましょう!? お願い食べて!? ちょっと量多すぎるよ!? ねぇ! 笑ってないで卓に着いてってば華琳さん!
 そんな視線を送ってみるも、なんだかちょっと華琳の顔が苦しそうに見えた。
 ……幸せの絶頂の只中に居たからあまり気にしてもいなかったが、そういえばちょくちょくと味見を頼まれていたような。…………あれ? もしかして俺、これ一人で食べるの? 華琳さん、味見だけでお腹いっぱいですか!?
 いや食べるけどさ、それでもこの量は……あ、そうだ、少しすれば鈴々も来るだろうし、みんなと食べよう。悪い気もするけど、残してしまうよりかはいい筈だ。

「あ、あの丕───」
「父さまっ……申し訳ありませんっ!」

 声をかけた途端に、遮るような謝罪。
 それを聞いた瞬間、長年を将らに囲まれて生きてきたこの北郷めは悟ったのです。
 ……ああ、これダメなパターンだ、と。

「疲れていたとはいえ、父さまにあのような返事を……! りょ、料理などで機嫌伺いをした上での謝罪など、と怒られるのを覚悟で、その……っ!」
「あ、い、いいからっ! 俺は気にして……イ、イナイヨ? 誤解だって解れば、もう気にすることなんてなにもなかったから! ……な?」

 慌てて言って、最後に宥めるように。
 丕は不安げな顔で俺を見ていたが、笑みとともに「大丈夫、怒ってないよ」と返すと、たちまち笑顔で頷いてくれた。
 だが……そんな丕へとこの北郷は、食べる前から敗北宣言を告げなければならぬのだ。

「そ、それでなんだけどな、丕。この量は───」
「は、はいっ、聞けば父さまは連日連夜、仕事に追われて疲れていると! ででですので、元気になってもらえればと母さまに疲れが取れる料理をっ!」
「ウワァアアァァ……!!」

 多すぎるんじゃと言おうとしたら矢継ぎ早に言われ、しかも言葉を返し辛い理由が組み込まれて、逃げ道ばかりが塞がれてゆく。
 こ、これが血か。
 覇王たる者の娘、無意識にも相手の逃げ道を塞いでくるか。
 フフフ、お、恐ろしい娘よ。我が娘ながらなんと恐ろしい。

「あ、で、でもな、丕。この量は」
「あ、りょ、量ですか? 母さまが言うには、これらは全てを食べることで効果を発揮するらしく、皿の数はどうしてもこうなってしまうとのことです!《キリッ!》」
(あらかわいい……!)

 じゃなくて! 皿の量を訊いているのではなくて、皿の上の量の問題なんですが!?
 どうですかすごいでしょって顔で見られても素直に褒められない!
 結局これ全部俺が食うんですね!? そういうことなんですね!?

「そっ……そ、っかァアア……! あ、じゃ、……いただこう、かな……!?」
「は、はいっ!」

 以前の華琳的口調もどこへやら。
 いつかの素直な丕のままの口調で喋る娘の前で、口調は変えないと思ったのにな、なんて、ごくりと喉を震わせつつ覚悟を決めて、まず一口。
 覚悟とは言うが、全てを食べる覚悟ではないのであしからず。

「んっ……───ん、おおっ!? すごいなっ、ちゃんと華琳の味だっ!」
「……その一品は私が作ったのだから当然でしょう?」
(アレーーーーッ!!?)

 ひぃ、と喉が鳴りそうな状況に、ちらりと見てみれば……不安そうな顔の丕サン。
 ああ違う、違うヨ!? 今のは味に恐怖していたから言ったわけじゃなくて!

(娘よ、うぬは知らぬのだ……華琳の味を真似るということが、どれほど困難かを……!)

 だからきちんと華琳と同じ味がするというのは、たとえ娘であれど大変だと思った故の言葉でございましてね? 自称“華琳様直伝”の春蘭の料理の前に、儚く意識を散らせた経験があるパパとしてみれば、今の驚愕は当然だったわけで……!

(ていうか娘の料理をいただくというだけで、何をこんなに緊張しているんだ俺は)

 少し冷静になろうか。
 はい深呼吸。
 …………よし、追いついた。
 ただ食べて、思いのままを伝えてあげればいいのだ。
 美味しくないから不味いと言うのではなく、オブラート先生に包んだ上で。
 こぼれた苦笑が微笑みに変わって、ああ、なんて笑顔が弾けた。
 一家団欒。
 “これ”すら出来なかった日々が、今……消えてくれた。そう思えた。
 大事にしよう。ずっと、壊れないように。

「改めて、いただきます」
「は、はいっ、めしあがれっ」

 どことなくおかしな雰囲気に、俺と丕が顔を見合わせたのちに笑い合う。
 つい先日までは有り得ないと思っていた光景の中に、俺は居る。
 その上で手料理まで食べられるのだ。
 これ以上は望まなくていい。俺……十分幸せだ。

「ん……」

 ぱくりと頂く。
 日本とは違い、やたらと長い箸で摘んだそれをおかずに、ほっかほかのご飯を食べる。
 少し形が崩れていたが、美味しいソレ。
 肉じゃがを作る際に崩れやすいじゃがいもを使ってしまった、とでも言うようなものだから、別にそれをとやかく言うつもりはない。むしろ崩れていたほうが多く手料理を食べられると意識を変えて、喜んで頂いた。
 食べる食べる。
 これは、なんというか……華琳の味に近いものの、どこか違う。
 明らかに華琳が作るものの方が美味いと断言は出来る……けど、それとは違った暖かさがこれにはあった。
 たとえば…………そう、たとえば。
 憧れの先輩にお弁当作ってきてしまった青春娘のお弁当のような───……マテ。

「………」
「…………!《どきどきどきどきどきどきどきどき……!!》」

 めっちゃ見てる。
 手は少々胸の前あたりにガッツポーズ気味に持ち上げられ、褒められるか落とされるかを待ちわびているようだった。
 味は、ハッキリ言えば普通以上。俺よりは確実に美味いですハイ。
 まだ少々首を傾げるような部分はあるものの、この年齢でこれなら十分だろうってレベル。
 だから俺は、口で伝えるよりも行動で示した。
 きっと不安に感じているであろう娘の前で元気に食事をして、ご飯が無くなったところで椀を差し出して、

「おかわり! 大盛りで!」

 まるで子供のセリフだなと心の中で苦笑しつつも、きっと顔は笑顔だった。
 何も言われずに、不安が募っていた丕は……これで笑顔に。ご飯をよそって俺に渡すと、何故か卓の反対側に座って、俺が食べるさまをにこにこ笑顔で眺めてくる。……アレ? さっきまで横で見てたのに、何故? や、べつに座るなって言いたいわけじゃないからいいんだけど。
 どことなくくすぐったい気持ちに襲われつつも、黙って……は無理だったので、素直に美味しい美味しい言いながら食べた。
 そんな俺に“どんな感じに美味しいですか”と訊ねる娘は、さすが華琳の娘であった。
 味というものにとても真剣でございます。
 もちろんこの北郷、伊達に8年以上を華琳とともに在るわけではござんせん。
 普段から華琳が欲するような言葉回し、受け取りやすい言葉で事細かに説明。
 丕は小さな黒板メモに小さなチョークで文字を走らせて、ふんふん頷きながらもところどころで笑顔をこぼした。
 くすぐったそうな笑顔が、見ていて心地良い。

(家族っていいなぁ)

 誤解したままだったなら。
 武のみを受け入れて突っ走っていたなら、こんな幸福も受け取れなかったのだ。
 けど……その時、俺は本当にそんな幸せすらも“この世界を守れるなら”と、見ないようにしていた。出来る筈だったんだ、“守るためなら”って。
 でも、だめだなぁ。
 覚悟を、と……叩いた胸に申し訳なさが込み上げた。

(いっつも空回りな覚悟ばかりを決めてごめん)

 覚悟というものは、真実を見つめられない場合がほとんどだと祖父は言う。
 “ソレ”に向けて覚悟を決めたつもりでも、数歩歩いて思い返せばズレた位置の覚悟を目指しているものだと祖父は言う。
 本当の意味で覚悟を決めて、それを追い続けることが一番の困難であると祖父は言う。
 人は辛さに弱いから。
 誰かが手を差し伸べてくれるなら、決めていた筈の覚悟が僅かにズレてしまうのだ。
 差し伸べられた手を断ったところで、もう遅い。
 それを嬉しいと感じてしまったら、元の覚悟はもう見えないのだそうだ。
 だから間違えて、後悔する。
 たとえ手を差し伸べられなくても、苦しみを抱き続けていればまた、目指す位置も変わるのだろう。
 悲しみも苦しみも、楽しさと同じで……ずっと同じものを抱いて歩くのは難しい。
 ふと気づけばそれが当然のように思えてしまった時点で、もう同じ楽しいは抱けない。
 でもまあ、その時に感じるひとつひとつが嘘なわけではないのだから……

(……おいし)

 好物を口に、頬を緩ませたところで感じるコレも、嘘なんかではないわけで。
 浮かぶ感情は歓喜。
 考えることはこれからのことであり、未来への不安でもあった。
 ごちゃまぜになる感情に戸惑うけど、なにもそんな戸惑いをここで持つ必要はないとも思える。

(コォオオオ……!!)

 ならばと、心を愉快に。
 呼吸法とともに胃袋に氣を送って活性。(させたつもり)
 消化を促進させて、たとえ無理な量でも食ってみせると意気込んで立ち向かった。
 娘の料理を残す? 美味しいのに残す? 馬鹿を言っちゃいかん。
 それが彼氏のために作られたものならいざ知らず、俺のために作られたものならば残すことなど有り得ぬわ。
 知りなさい、娘よ。この北郷、たとえ食事ではないと思えるほどの味の、魚が顔を覗かせたチャーハンだろうと、死神が鎌を手に手招きをするような杏仁豆腐でも、全てを食らってみせる修羅ぞ。あ、でも口に含んだ途端に気絶するようなものは無理なので、勘弁ですごめんなさい。

「なぁ丕。この料理は───」

 ともあれ、丕にも何処を頑張ったのか、何処を改善したら食べやすいかなどを訊いたり言ったりしながら食事を続けた。
 丕は終始笑顔で、時折に見せる照れた顔や、何故か目を潤ませる瞬間の顔などに“ああもう”という気持ちが溢れてくる。つまり……娘可愛い。俺のっ……俺の娘は世界やぁーーーっ! って叫んでも恥ずかしくないほどの愛しさが、今のこの北郷にはございます。
 で、そんなでれでれな俺を見て、盛大に溜め息を吐きそうになるも、耐えてみせるのは華琳様。
 その目が言っている。
 “誰もが幸せでないと、呉側の夢が叶わないでしょう?”と。
 なんかもうそれだけで、この覇王様に一生ついていこうって思えました。
 こんな時でも周囲を見てらっしゃるよ。さすがすぎるよ。
 これで、味見だけでお腹がいっぱいじゃなければまだ格好よかったのに。
 “親子で娘の手料理を食べる”っていうのもきちんとした夢だったから、それはちょっと残念だった。他の娘達は料理がアレだからなぁ……。やろうとしないのが大半で、やっても失敗も大半。
 仕事で忙しい俺に、夜食として禅が料理を作ってきた時は驚いたものだ。
 驚きついでに誰に習ったのかを、解っているくせに訊いたんだ。
 ……だって、チャーハンから魚が飛び出していたのだもの。案の定愛紗だった。え? ええ、完食した翌日に腹を壊しましたよ? 癒しの氣を送ってもしばらくは治りませんでした。
 だから美味しいというだけでこんなに癒される。
 娘の手料理とくれば、より一層にございます。

「ん……丕は食べないのか?」
「え、えぅ? え……えへへぇ」

 試しに訊ねてみると、娘はホニャーリと頬を緩ませて笑った。
 あれか。いっぱい食べてる姿を見ていたらお腹いっぱいとか、そんなのか。
 それは普通、自分の子供かわんぱく彼氏さんに言う言葉だろう。

(彼氏……《ミシリ》)

 いつかは連れてくるのだろう。
 そして、そやつはこの北郷すら食べたことのない、上達した料理を食べるのだろう。
 やがて俺に……俺に、娘さんを僕にくださいとかって! とかって……! トトトトトトカ、トカカカ……!!

「じゃ、じゃあ少しだけ……」
「やらんっ! 絶対にやらんぞぉおおおーーーーーーーっ!!!」
「ひゃうっ!?《びくーーーん!》」

 おのれ誰がやるものか! 娘を貴様に!? 冗談ではない!
 おぉおおおおおお本当に考えただけでも忌々しい! まだ見ぬ彼氏め、五体満足で帰路を歩めると思うな!?

「え、あ、え……あ、あの……父さま……?」
「───ハッ!?」

 声をかけられてハッとする。
 見れば、丕が料理に箸を伸ばしていたところで………………ア、アレ? 僕、なんと言いましたか?

「あ、いやっ! 今のはそういう意味じゃなくてだな! こんな風に料理を作ってくれる丕が、いつかは男を連れてくるのかとか考えたらっ! しかもその男が娘さんを僕にくださいとか言い出したらおのれおのれおのれぇええええええっ!!!《ずぱぁん!》痛い!!」

 喋っている途中で暴走しだしたら、華琳に頭を叩かれた。
 坊主頭を思い切り引っ叩いたような、激しい音が鳴りました。
 ええ、それだけ痛かったです。

「娘の料理を食べながら、なにを暴走しているのよ」

 そして溜め息。
 いや、違うんだよ華琳、だってしょうがないじゃないか。
 想像上の彼氏の野郎が娘さんをくださいとか言いながらドヤ顔で俺を見てくるんだ。
 あんたの娘はもう俺のもんだァァァァとかねちっこい目で見てくるんだよ?
 そりゃ殺意だって湧きましょう。
 義理とはいえ親子なんだからスキンシップでもしましょうよぅと、天の言葉まで使ってにじりよってきた日には、スキンシップが鍛錬地獄になっても構わんという愛が俺にはあるのです。

「あ、う……ごめんな、丕。べつにその、丕の料理を独り占めしたくて言ったわけじゃ……」
「…………」
「丕、あなたね。そこで嬉しそうにしてどうするのよ」
「はうっ!? だ、だって独り占め……!」

 …………あとで聞いたんだが、絶対にやらんぞと言われて、なんだか嬉しかったらしい。
 いや、そういうことは彼氏に言われて喜びなさい。連れてきたら吊るすけど。
 ともあれ、話に参加しだした華琳とともに、料理を摘む。
 少しお腹も落ち着いたからと微笑んでくれた華琳には、感謝してもしきれない。
 少し摘むだけ、なんてことは普段ならばやらないだろうに、今日の華琳はとても優しい。叩かれたけど。

「ああ、なんか幸せだなぁ。今日のこれだけで満足しちゃ《がぼしっ》ふむぐっ!?」

 満足しちゃいそう、と言おうとした口に、華琳が海老を突っ込んできた。
 ちゃ、の部分で開いた口を狙うとは……覇王め、やりおるわ。ではなくて。

「《もぐもぐ……》あの、急になに?」
「軽々しく満足などと言わないで頂戴。あなたにはこの程度で満足してもらっては困るのよ」
「うっ……そ、そうです、父さま。私はまだまだ上達しますから、こ、この程度……」
「よし華琳、デコピンしていいかい? その額が赤く染まるまで」
「どうしてあなたはそう、娘のことになると強いのよ!!」
「だぁああからっ! 料理に関しては華琳の“この程度”は当てにならないの!! その言葉でこの8年、どれほどの料理店が潰れたと思ってんの!」
「うっ……け、けれど私は、」
「けど禁止! 料理に対して真面目になるなとは言わないけど、俺達からすれば完璧すぎる料理よりも、みんなで気軽に行けて楽しめる店を求めてるんだから。ほんと、この8年で季衣と鈴々がどれだけ肩を落としたと……!」

 珍しく立場逆転。
 ……そう、華琳の飯店突撃癖は直っていない。
 新しく出来た店に興味は持つものの、時間の都合で行けないことなど多々あり……しかし俺と季衣と鈴々が足しげく通っていることを知ると、時間に無理矢理都合をつけて出動。
 店に入り、味を知り、そして始まるのだ。完璧へ近づくための華琳様のお料理教室が。
 同じ材料、同じ機材で作ったのに明らかに違うその味に、店主が泣いて店を畳むパターンをこの8年で何度も見た。
 いつからか“都で店を続けられた者は天上料理人だ”とまで言われるようになって、各国で腕を磨いた料理人が“俺……ここで成長したら、いつかは嫁と一緒に都に店を持つんだ……”とフラグ、もとい夢を語ってやまないという。
 で、多くの場合は挫折。
 都に店を持つも、心を折られて元の国へ戻るのだ。
 そんなことが繰り返しあったため、都で店を持ちたいのなら、まずは屋台から始めること、みたいなのが暗黙の了解になっていて、それこそ多くの者が屋台の時点で店を畳む。

「すごい……あの母さまが……」

 珍しくもガミガミ言う俺と、その珍しさからびっくりしているのか反論もせずに聞いている華琳を見て、丕が驚きと……なにやら別の感情も混ぜたような目でホウと熱い溜め息を吐く。
 と、華琳は居心地悪そうに俺をじと目で睨んできた。

「……ねぇ一刀? 言うにしても、場所というものを……」
「普段春蘭秋蘭桂花にやってることを考えれば、別に気にしないでもいいんじゃないか?」
「私にその趣味はないわよ! ……はぁ。知らなかったわ……父って強いのね。丕の前では随分と強気に出るじゃない」
「や、ただの見栄だって自覚はあるって。むしろほぼ完璧な華琳が隙を見せるのが珍しいくらいだ」
「……油断ね。まあ、解るわ。こうしてみれば、あなたの夢も悪くないと思ったもの」

 俺の夢? ……ああ、家族に求めるあれこれか。
 そういえば華琳、さっきから顔が緩んでいた。
 笑顔で居てくれてるんだなーとか思っていたけど、自然とそうなっているだけのようだ。
 だけ、とはいうけど……俺にはそれが嬉しい。

「あぁ……」

 なんか、本当に嬉しい。
 嚊天下(カカアデンカ)で、愛を確かめたくても“察しなさい”で、家庭のささやかな幸せよりも仕事を取るんだろうなあって思っていた華琳が、こんな……こんな風に悪くないとか思ってくれるなんて……!
 ……マテ? 家庭もなにも、俺結婚とかしてないぞ?
 アレ? なんかいろいろあって支柱とかみんなのもの認定されたけど、俺って……。

「? どうしたのよ、急に頭抱え込んで」
「あ、いやその……俺ってさ」
「?」
「その……誰とも……結婚してないよな、って」
「ええそうね」
「そんなあっさり!?」

 本当にあっさり言われた! それがどうしたのよって感じであっさり言われた!
 え!? これって俺がおかしいのか!? ああそりゃそうだよな、じゃなきゃみんなのもの認定なんて認められるわけないもんな! 嫌がってたのって俺と桂花だけだったし!

「………」

 じゃあ、結婚してなければ家庭に喜びを得てはいけないと?
 ……そんなことないな。
 ああ、なんだ。その、解決した。
 混乱したけど、それはそれとしてだ。
 ああそうだな、まずは茶でも用意しよう。これでも茶を淹れるのは得意なんだぞー、なんて笑いながら言いつつ、華琳と丕と、最後に俺の分を用意して卓に着く。
 早速飲んでみた丕が目を輝かせる様が眩しい。
 華琳もなんだか……ええと、何故かどこか得意げというか、どう? みたいな笑みを浮かべて。
 ……地味に俺が認められるのが嬉しいのかな。違うだろうなぁ。

「ところで丕」
「? なんですか、父さま」

 急に話を振られて、きょとんとする愛娘。
 そんな彼女に重大なことを訊く心の準備をする。
 料理は……気づけば腹に収まっていた。
 華琳も丕も食べてくれたお陰だ。苦しいけど。
 そんな俺だが……そう、丕に言わなければ、確認しなければいけないことがある。

「丕……お前、好きな人が居るか?」
「え───」
「ぽぶっ!?《ブフゥッ!》」

 予想外の言葉だったのか、丕が一層にきょとんとする。
 対して、華琳がブフゥッ!と茶を噴き出した。

「げっほごほっ! かっ……一刀っ、あなた、なにっ……ごほっ! けほっ!」
「いや、この際だから華琳にも聞いてほしくてさ。せっかくの団欒に水を差すみたいだけど、どうしても訊いておきたかったんだ」

 ハイ、と差し出したハンケチーフで口元を拭う華琳さん。
 そんな母をよそに、丕は首を傾げたままだった。

「好きって……あの。よく解りません」
「えっとだな。たとえばその人を見ていると、こう……胸のあたりがどきどきしたり、その人の笑顔を見るのがやたらと嬉しかったり、喜ぶ顔を見た日には、自分のことじゃないのに自分まで一日中幸せな気分だったり」
「一刀。それは誰を喩えにした話?」
「え? 俺が華琳を見てると感じるも───の……って待った今の無し子供の前でなに言ってんだ俺!」
「〜〜〜……!!《かぁあああ……!!》」

 熱心に話している途中だったもんだから、急に振られてぽろりと話してしまった。
 訊いておいて真っ赤になる華琳も華琳だけど、俺も相当顔が熱い。
 ほんと、娘の前でのろけとかやめてください俺……。

「む、胸がどきどき、その人のことを考えるだけで嬉しくて、幸せで……、……《ちらり》」
「へ? あ、あー……丕? 今のは是非聞かなかったことにー……」
「《ぽむっ》ひゃうっ」

 オウ?
 ……目が合っただけで顔が赤くなって、妙な声を出されたのだが。
 もしやあれか? 今さら父と顔など合わせたくもないという拒絶の心が……!?

「ご、ごめんなぁ丕、やっぱり質問自体を無かったことに───」
「は、はいっ! ありますっ! どきどきしますし、うれしくて、幸せです! そ、そそそそうですか! これが、これが恋ですか! こい……えぇええええっ!!?」

 自分で言って自分で納得して、自分で驚いている。
 すごいな覇王の血。まさかのなんでも一人でやってみせる根性。
 こんな小さな頃から既に王への道を歩んでいるというのか。

「あー……その。それだけ驚いてるってことは、実際はまずいこと、っていうのは……解ってるんだよな?」
「…………いけないこと、でしょうか。私は……せっかく生まれたこの気持ちを、否定したくは……。だ、だって本当に嬉しいんです、幸せなんです。なのに周囲に理解されないからと諦めるのは………………辛いです」
「…………本気、なのか?」
「その。なにに対して本気か、と問われると、解りません。でも、捨てたいとは思えません」
「………」

 重い。
 まさか丕がここまでだったとは。
 ……俺も、もっと早くに気づいてやるべきだったのかもしれない。
 そうすればこうなってしまう前に、向きを変えてやることくらい出来たかもしれないのに。

「……そっか。じゃあ、もう父さんは何も言わない。自分の思うがまま、自分の道を歩いてみなさい」
「え……いいの? ……あ、で、ですかっ?」
「もう相手が居て、子供だって居る。それでも好きになったなら、想いをぶつけるくらい許されてもいいだろ。ただし、断られたらすっぱり諦めること」
「う……も、元の関係には……?」
「それは双方の気持ち次第だろうなぁ」

 俺はべつにいいと思っている。
 誰かに想いを届けるのは、そりゃあ場合によっては迷惑になるのだろうが、嫌っているわけではないのだから。

「言われて悪い気はしないと思う。丕に好かれたなら、本望だ」
「……!《ぱあああっ……!》と、ととさま……!」

 丕が頬を赤らめ、目を潤ませて……何故か急にととさまと呼んできた。
 ……ハテ? 俺、今なにか丕が喜ぶようなこと、言ったっけ?
 ああそっか自信を持たせてくれたって意味でかな?
 じゃあもう一押し。
 華琳がなんだか額に人差し指当てて、難しい顔してるけど、一押し。
 それも、出来る限りのやさしい笑顔で。

「じゃあ、想いを届けなさい。心を込めて」
「は……は、はいっ!」
「───明命に」


  ……その日。

  鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの轟音とともに───

  僕の頬に強烈な娘ビンタが炸裂いたしました。




ネタ曝しです *スゲーッ爽やかな気分だぜ  ジョジョの奇妙な冒険第四部より、東方仗助のセリフ。  新しいパンツをはいた爽やかな正月元旦か……僕はそれどころじゃあないです。 *世紀末覇者拳王  北斗の拳でいうラオウ様。  北斗の拳で誰が好き? と訊かれたならば、迷うことなく言いましょう。  アサム王です。 *例の口調で大丈夫であることと問題ないことを  大丈夫だ、問題ない  エルシャダイPVより。今でも時折見ています。 *オブラート先生  ……ネタではなく、でんぷん。  オブラートに包むという言葉は、苦い薬などを包んでいた薄い膜時代へと遡る。  でんぷんで出来た薄い膜で苦味を包み、容易に飲めるようにしたカプセル前の勇者。  使用例───  「ひどいなお前! もっとオブラートに包めよ!」  「ひどいなお前! もっとでんぷんに包めよ!」  「オブラートじゃ足りないくらいにひどいなお前! もう光合成しろよ!」  「このピグマイオイ!」───など。  苦い薬⇒キツい言葉  薬⇒人生の薬⇒身に染みる説教  などの例をとって、オブラートに包むと…………なっていたらいいなぁ。 *ピグマイオイ  FF11に出てくるマンドラゴラ種モンスター。  この種には光合成という特殊能力があり、光を浴びながらくるくる回る。  ちなみに凍傷はじゃがいもの葉の実験で光合成という言葉を覚えた。  じゃがいもとでんぷんの関わりもここで覚えた。懐かしい。 *華琳、デコピンしていいかい? その額が赤く染まるまで  SHUFFLE!シリーズより、緑葉樹が好む言い回し。  稟。殴っていいかい? この手が血に染まるまで。 *華琳様のお料理教室  ベジータ様のお料理地獄的なあれ。  カカロットと人参の関係についてがよく解るような解らんような。  125話をお届けします、凍傷です。  誤字チェックを何度もしまして、その度に誤字脱字が発見され、ひどくがっくり。  気晴らしに小説を読んでいたら物凄い時間が経っておりました。  えーと、只今はY,A様の作品、“八男って、それはないでしょう!”という小説を読んでおります。  異世界憑依ものですね。  思えば異世界ものはよく見るけど、そのまま日本で、というのはあまりないですね。  攻略なんぞされてたまるか、という小説が大好きですが、思えばこれもゲームの中のお話でした。  死んで、日本で他人の子に転生、は何かあったでしょうか。  今度探してみます。  そんなわけで125話。  凍傷が書く一家団欒なんてこんなオチばかりに違いない。  次回は丕視点で恋と鈍感についてを語るわけでございますが、ええとまあ、やはり半分くらいは書けておるのですが、書くよりいっそ誤字チェックの方が時間がかかっている気がしてならないです。  のんびりと付き合ってやってくださいませ。  それではまた次回で。  追伸:書いていると、甘述が黄柄の姉だという事実をよく忘れます。 Next Top Back