184/乙女心、奮い立つ

-_-/幕間

 ───都の、とある一室。
 普段は使われていないそこ。
 時は夜。
 守衛も欠伸をするほどに平和な現在の中、気配を殺してその場へ集う人々の姿が。
 べつに見られようがどうしようがどうということも無い筈なのだが、心境としては必要な行動であるからそうした。

「それでは、連合会議を始めたいと思う」

 集った人物の数は……数えるのも面倒というほどでもないが、大勢という言葉で括ろう。
 開始の合図を唱えた人物は美しい長い黒髪をひと房結わった女性であり、他の者たちはその言葉にごくりと息を飲みつつ頷いた。

「さて。ようやく皆の意思がひとつになった本日、こうして集えたわけだが。皆、心に偽りはないな?」
「……ねねが居ない」
「こ、こら恋っ、名は出すなとあれほどっ……!」
「愛紗も喋っちゃってるのだ」
「うぐっ!? そ、そういう鈴───お前だってだな……!」
「やれやれ、開始早々に先が思いやられる会議だ。酒の一献でも持ってくるべきだったか。……そうなるとメンマは外せんな。また主に大魔竹のメンマを作ってもらわねば」
「星っ! もとはといえばお前がいつまでも友だ友だと渋っているから───!」

 もう滅茶苦茶であることは、集った全員が確信していた。
 様々なところで苦笑と溜め息が漏れ、普通に笑っていた一人が暢気に声をあげる。

「それで、具体的にはどうするのよ。一刀を襲う? 襲うにしたって、ここ8年も子供のこの字も掠りもしなかったのに。蓮華には先を越されちゃったけど、王じゃないとはいえ私も子供は欲しいって思うし」
「産むのは勝手だが、面倒はきちんと見るんだぞ」
「冥琳よろしく」
「名前を出すなと美髪公が言ったばかりだが」

 言ってしまえばこの集い、子を産んでいない、または子を孕んでいない将の集いである。
 北郷一刀に対してそういった感情を抱いていない者は来てはいないが、それも今や音々音と焔耶だけである。猫耳フードの軍師は度外視するとして。

「しっかしよくもまあこれだけ揃ったものよね〜。一刀は幸せ者ね」
「……そうか? これだけの人数を相手にする先を思えば、必ずしも幸福とは受け取れそうにないが」
「むしろこの人数とほぼ毎日やっても子供が出来ないほうがどうかしてるんじゃない。で、どうなの他の子たちは。吐き気がしたーとかそういうの、ないの?」
「吐き気? 何故吐き気がしますの?」
「ちょ、麗羽さまっ……それはほらっ、ああいうことだから……っ!」
「? 猪々子さん? 言いたいことがあるのならはっきりと仰いなさい」
「だ〜か〜ら〜っ、子供が出来るとほらっ……!」
「うほほっ、麗羽姉さまは遅れておるの。女性は子供が出来ると、浮かれて酒を飲みすぎて吐くのじゃ! ……の! 七乃!」
「さっすがお嬢様! 間違った知識をそうまで胸を張って言ってのけるところなんて最高ですっ!」
「なんじゃとーーーっ!? 前に訊いたらそういうことじゃと言うておったであろ!!」
「はっ!? あぁんまたやってしまいましたぁっ! ただでさえ数少ないお嬢様をからかえる事実を自分で潰してしまうなんて、七乃、一生の不覚ですっ!」
「や、“また”やってしもたゆーとったやん……。なんべん一生の不覚を取んねん。……んで、凪ー? こっちじゃどないなんー?」
「知りたいなら自分で調べる努力をしてくれ……。とりあえず、魏側ではそういった話は聞いていないな。皆健康そのもの。妊婦を不健康と言うわけではないが、つわりが来ないというのも……」
「うんうん、原因はやっぱり、真桜ちゃんが言ってた通りだと思うのー」
「原因?」

 がやがやと言葉が飛び交う中、一人の声に皆が静まる。
 原因というものがあるのなら、それを改善させればどうにかなるかもしれない。
 全員がそう思ったからだ。

「やっ、ちょっ……沙和っ……! それはっ……!」
「隊長の白いあれが、水っぽいのが原因だって」
『───』

 聞いた途端、場は一気に凍りついた。
 一人だけが真っ赤になって、目から滝のような涙をたぱーと流して恥ずかしがっていたが。

「違うゆーとるのにぃ……! 風がゆーとっただけやのにぃ……!」
「おぉ……それなら確かに言った覚えがありますねー。子供が出来ない直接の原因がそれかどうかは解りませんがねー」
「……確かに水っぽく、量も少ないと感じはしましたが」
「……あのさ。もうちょっとぼかして喩えてくれない? さっきから月が真っ赤で困ってるんだけど」
「へぅぅう……!!」
「これ以上どうぼかせと?」

 メイド服を着た女性の願いを、眼鏡をクイッと直しながら彼女は言った。
 言ったが、先ほどから鼻に詰めている紙がどんどんと赤く染まっていっている。

「ともかく。もういい加減、私たちもいい歳だ。……認めたくはないが、一般的に子を産む時期など過ぎてしまっている」
「ふむ? べつに産めれば問題なかろうに。愛紗よ、お主は少々一般常識にこだわりすぎではないかな?」
「真っ赤になりながら“主は友だから”だのと逃げていたお前が言うか。もし誘われなければ年老いても子が居なかったんじゃないか?」
「はっはっは、私がその気になれば───」
「ご主人様以外の子を産むか?」
「───ないな。うむ、それはない。すまんな愛紗、少々強情だった」
「星が謝ったのだ!」
「お、おいおい星、大丈夫なのか? 華佗、呼ぶか?」
「お姉様っ、ここはお兄様を呼んだほうが面白───! あ、違った。と、とにかくそっちのほうがいいって!」
「ばかっ! なんのために秘密会議やってると思ってるんだっ!」
「星ちゃん……? 無理は体に毒よ……? なんだったらそこの寝台で横になっていても……」
「……素直に謝ってみればこの反応……。愛紗よ、これは新手の苛めというものか? 天ではよくあると聞くが……」
「素直に苛められる性格でもないだろう」
「ふむ。まあ、それはそうだが」

 釈然としないものの、誤魔化そうとした自分を悪と素直に受け止め、彼女は目を伏せて息を吐く。
 メンマを通じて友となり、神と崇め、やがて真に気安い相手になり、いつしか“子を為すのならこの者と”と考えるまでになっていた。
 武に生き趣味に笑み、好物に幸福を抱き、しかし“女としての何か”は未だに。
 ならばそんなことが出来なくなってしまう前に、出来る限りの全てを興じてこそ人生。
 友との酒も悪くはない。
 だが、それこそ至高と唱えるには、自分は女としての喜びを知らなすぎた。
 知らないのなら? ……知ればいい。
 そんな考えに到るまで、彼女は必死に自分の気持ちを“友として”と誤魔化してきたわけだが……ここ数ヶ月、子とともに楽しく過ごす主を見ていて、自分も何かを残したいと思えた。
 書物で何かを残すのではない。
 見て聞いて、自分の様々を受け止めて覚えてくれるなにかを。

「生きていれば、自分の考えなどころりと変わってしまうのだなぁ。……ふふっ、どれほど武に生きようと、結局は私も女であったか」

 小さく呟き、暗がりの中でくすりと笑った。
 その小さな笑みを拾った隣の女性が、「笑ったりして、どうしたのだ?」と訊ねる。

「いやなに。戦も終わり、武官はただ平和な時代に埋もれ、活躍の場もなく消え去るのみかと思っていたが……」

 まだまだ出来ることがある。
 それを思うと、女として産まれたことを感謝したくなった。
 もっとも、子を産むということが容易いことではないことなど、各国の王や呉の将を見て知っているわけだが。
 主の前では余裕の態度を取っていた彼女らだが、それ以外では随分と苦しんでいた。

(……苦しいのだろうなぁ。だが、苦しんでいるところで命を狙われるわけでもない)

 平和になったものだ。
 隣の女性への返事も半端なままにそうこぼし、適当に誤魔化して会議の続きを待った。

「というわけで、その道に詳しいことで有名な二人の軍師に協力を仰ぐことにした。伏龍殿、鳳雛殿、前へ」
「はわっ!?」
「あわっ!?」

 名は伏せているが、バレバレな呼称をされた二人の肩が跳ねる。
 途端におろおろと周囲を見るが、皆様“なるほど”という顔で二人を見ていた。
 ……二人は隠せていたと思っていたが、艶本のことなど当然周知である。

「さあ、今まで溜め込んだその知識、存分に披露されませい!」
「そそしょっ……しょんなっ、大げしゃに言わないでくだしゃいっ……!」
「あ、愛紗さんだって、なんと破廉恥なと言って取り上げたあと、見てたじゃないですかっ……!」
「ぎっ……!? い、いやっ、私はっ……というか名前をだなっ……!」
「いいから話、進めましょ? それで? 朱里、雛里、子を簡単に孕む方法とかってあるの?」
「あはっ♪ 雪蓮姉様ってばだいたーん♪」
「雪蓮……もう少し慎みというものをだな……」
「だって話がちっとも進まないんだもん。今さら小さなことで恥ずかしがるような覚悟でここに集まったわけじゃないでしょ?」
『───』

 皆が静まり、こくりと頷く。
 さすがは元王であるとばかりに、その場を仕切る彼女はにっこり笑って続きを促した。

「は、はい、ではしょのっ……まま、まずはっ、房中術の話から始めましゅ───!」

 そして説かれる、艶本から得た知識の数々。
 最初こそ艶本の知識なんかでと困惑していた者も居たのだが、それが名軍師の口から事細かに語られてゆくと、いつしか皆が皆、息を飲んで静聴していた。

「このように、生理が始まって一週間後から十日後あたりから───」

 語っていた軍師も一周回って恥ずかしさを超越したのか、真っ赤になりながらも噛まずに説明を続け───

「男性の白いあれが蓄えられるのが、約三日とのことなので───」

 確実に妊娠するには。
 それぞれが頷き、それぞれが自分のあの日についてを照らし合わせ───

「その周期にある人が、三日ごとに一人ずつ───」

 ……女性達の計画は、男性に知られることなくゆっくりと進められていた。





185/そんな中で彼は今

-_-/かずピー

 み、妙ぞ……こは如何なること……?

「………」

 それはよく晴れた日のことでした。
 朝、目が覚めると普通に起きて普通に体操をして体をほぐして、身支度をして部屋を出た。うん、ここまではいつも通り。
 で。
 出たところに流琉がいらっしゃいました。
 困惑はしたものの挨拶をすると、きちんと挨拶を返してくれて……そのまま厨房へ連行された。
 どうせ水を飲むつもりだったからいいんだが、着いたら着いたで座らされ───

「………」

 ───現在に到る。
 目の前には朝から重過ぎるってくらいの量の料理、料理、料理。
 “え? 朝から宴会?”ってくらいの量。
 なのに座ってるのは俺だけ。

「流琉、他の人は?」
「? これ、全部兄様のですよ?」

 朝っぱらからすごい無茶振りが来た!!
 え、ど、どうしたの何事!? 俺の数少ない良き理解者のキミが、突然どういった経緯でこんな!?

「ほら、兄様最近疲れてたみたいだったから。過労で倒れたこともありましたし」
「そうだけどさ……………………それで、この量って……」

 朝からこれって……。
 細身のお方に牛丼特盛り四杯食えって命令するよりキツそうなんですが……?
 あ、でも、量は多いけど、一つ一つは胃にやさしそうなものばっかりだ。
 ……なるほど、量に驚いたけど、本当に俺の体を心配しての料理みたいだ。
 はぁ、なにやってるんだか俺は。驚いたり拒否しようとする前に、もっと素直に受け入れようって思わなきゃなぁ。

「じゃあ、いただくよ。でもこれ食べたら昼はいらなそうだな。ははっ」
「え? いえ、昼は斗詩さんと月さんと詠さんがしっかり作るそうなので、是非」
「……エッ!?」

 こっ……これを食し、昼も食せと!?
 ぬ、ぬういったいなにが起こっておるのだ、これはなんたる試練ぞ……!?
 でも“いただくよ”って言っちゃったし、退けぬ……もはや退けぬのだ、北郷……。

「イタッ……イタダキ、マス」
「はいっ、残さず召し上がれっ♪」
「ハーイ……」

 頭の中でヘーベ○ハウスが紳士的に挨拶をしていた。
 どんな時でも帽子を取っての挨拶……素晴らしい。じゃなくて、喰らう。
 一口目で口から感動が溢れ、そうなってしまったらもうペース配分がどうとかはどうでもよくなっていた。
 美味しいなら……いいじゃないか。
 食べられる喜びを噛み締めようぜ……? 素直になれよ、一刀……。


───……。


 そして昼。

「へんだな……あれだけ食べたのに、腹が……」

 なんだか唐突に。腹が…………減った。
 朝食後は胃が浄化されたみたいに“スッキリさん”で、鍛錬をしている間も体が生き生きしているみたいだった。
 そんな早く吸収されるわけがないのに。
 多分味覚からの喜びに体が驚いたのだろう。
 なので散々と動き回ったら……腹が。

「うぅ……いらないとか言っておきながら、これじゃあなぁ」

 言いつつも厨房へ。
 すると斗詩が笑顔で迎えてくれて、卓に案内されて……相変わらずのメイド服姿の月と詠が料理を運んできてくれて、俺が何を言うでもなく召し上がれを告げられた。

「………」

 もしかして何かが動き始めている? もしくは既に動いている真っ最中?
 過労で倒れたっていっても……うん、もう結構経ってるよな……。
 なのに今さら健康管理とか言われても……やっぱり妙ぞ。いかなることかと疑いたくもなる。
 が、解らないので食う。
 どうせ訊いてもはぐらかされるだろうし、喰らう。

「ほあっ……」

 で、美味しいわけだ。
 腹が空いて、ご飯が美味しいとくれば、一体何を迷う必要がありましょう。
 手が動く。顎が動く。喉が動く。
 じっくりゆっくりと味わって食べたいのに、どうにも箸が止まってくれない。
 うおォンとか言いたくなるような心境の中、次々と運ばれてくる料理を喰らい続け、結局はまた、無理だろうと思うほどの量を食べてしまった。
 料理の数は、積み重なった皿の数が示している。
 いったい俺一人で何人前を食べたのか。
 鈴々と同じくらい? はたまた恋と同じくらい?
 考えるだけで気が遠くなりそうだが、入ってしまった。

(……スゴイね、人体 《ニコリ》)

 某・トラサルディーさんの料理は食べてみたいと思っていたものの、まさか食べれば食べるほどお腹が空く料理があったとは……。
 あれか。満腹中枢を刺激しない食べ物か、それともそっち方面の感覚を鈍らせるものが入っていたのか。
 薬膳料理……なんとも奥が深い。これが薬膳料理であったかなど、俺には解らなかったが。
 けどね、入ったは入ったけど、苦しいです。
 どれだけ満腹中枢を鈍らせようが、物理的な限界というものは当然あるわけで。
 だが言おう。いや、頭の中で響かせよう。
 苦しくなろうが、この味を舌に味わわせたことに後悔はない。
 ……なんて思ってみると、偉そうな感じでいやだなぁ。
 食材と調味料、作ってくれた人への感謝。これで十分だ。

「ごちそうさま、美味しかった」

 素直にこう言える料理を食べたのって、この時代に降りてからくらいじゃないだろうか。
 美味しいものはそりゃああったけど、食べたところで“うまかったー”で終わる気がする。
 作ってくれた人に感謝出来る時代に感謝……ってことでいいのだろうか。
 と、感謝をする俺の言葉は届いたのかいないのか、三人はじぃいいーーーっとこちらを見てくる。
 ……思えば、本当にこの時代の女性って外見年齢変わらないよなー。
 鈴々とか璃々ちゃんとか、元から小さかった子はもちろん成長したけど……うん、月も詠も変わったんだけどさ。

「………」
「?」

 斗詩……変わらないなぁ。
 アレか。野菜星人のように、長く戦えるように若い姿の期間が長いとかいうアレなのか。
 ていうか俺、なんで見られてるんだ?
 ……ハッ!? もしかしてこれ、俺だけで食べちゃマズいものだったとか!?

「ご、ごめんっ! 美味しくてつい全部っ……! みんなの分もあったんだよな! あぁあ……普通の味でいいなら俺が作るからっ! ほんとごめんっ!」
「あ、いえ、全部ご主人様のためのものだったので、それはいいんですが……」
「エ?」

 それはそれでちょっと待てとツッコミたいのですが。
 ああいや、それよりも。食べてよかったっていうのに、“それはいいんですが”ときた。
 他になにか、じぃっと見つめる理由があるに違いない……!

「じゃあ、他になにか……? じいっと見てくる理由とか、あるんだよな?」
「や……ほら。作っておいてなんだけど、まさか本当に全部食べられるなんて。あんたの胃袋ってどうなってるの?」
「え、詠ちゃんっ……!」
「………」

 訊ねてみたら、胃袋の性能を疑われた。
 いたって普通だと思う。むしろ普通じゃなきゃ怖い。

「はぁ……そっか、よかった……。ちょっと引っかかるけど、食べてよかったなら安心だ。けど……はは、この分だと今度こそ、夕餉は入らないな……」
「あ、あの……ご主人様? 夜は呉の黄蓋さんが、青椒肉絲を作ると───」
「ちょっと運動してくる! うおおおおおおおおっ!!」
「へぅうっ!?」

 好物には弱い……それってきっと、男の弱みと繋がると思うのだ。
 厨房から飛び出して運動。
 仕事の時間になれば、多くはない仕事をして、終わるや再び運動。
 ともかく消化を急ぎ、夜の美味のためにと体を動かしまくった。

……。

 しかしながら、まあその、なんだろう。
 食いすぎるとほら、腹を空かせることが出来ようが、なんだか気持ち悪くなるものなのだ。
 頭がぼーっとするというか、妙な気持ち悪さだ。
 季節がら、夕餉時でもまだ明るいと思える空の下、祭さんに呼ばれ、やってきました厨房の卓。

「ほれ北郷、たーんと食えぃ」
「いただきます!」

 そして喰らう。
 え? 気持ち悪さはどうしたかって?
 ……そんなもの、目の前の美味の前には関係ございません。
 むしろ食事を前にしたら、食欲が勝りましたとも。
 こうなると、昼の薬膳料理の中身が気になるところだけど……もういいや、美味しい。

「んんっ、んまーーーいっ! やっぱり青椒肉絲っていったら祭さんだよなぁっ! 親父のも美味いけど、ガツガツ食うなら祭さんのだっ!」
「かっかっか、応、まだまだそこらの料理人に負けるつもりはない」
「けど急にどうしたの? 子供が出来てからは滅多に作らなかったのに」
「うむ……それがな。策殿が急に北郷に馳走してやれと言い出してのう。まあ久しぶりだったこともあって、二つ返事で返したわけじゃが……」
「………」

 雪蓮が、俺に?
 ウワー、絶対にコレ、なにかアルー。
 雪蓮が考え無しに人のプラスになることをやる筈がない。
 むしろ今日一日の食事事情……絶対ヘンだ。

「祭さんは何か聞いてない? 朝餉から夕餉まで、今日に限ってやたらと豪勢なんだよ。記念日ってわけでもない筈なんだけどさ」
「今日に限ってか。策殿に訊いてはみたが、“面白いことをしている”としか答えなんだ」

 やっぱりなにかあったァアアーーーーーッ!!
 え、な、なに!? 何が起きてるんだ!?
 食事になにか!? いやっ、だとしたら何も知らない祭さんに頼むのはおかしい!
 ああそれにしても美味しい! 考えながらも箸が止まらない!

「むぐんぐんぐ……んぐっ。……そういえば祭さん、柄は? 今日一日、見てないんだ。いつもなら邵と中庭に居るんだけど」
「うん? ……いや、儂も見ておらん。朝に飛び出ていったきりじゃのう」

 部屋を飛び出て、果たして何処へ行ったのか。
 ただ遊びに行った〜とかならいいんだが……天ではこういう時に油断すると、なんらかの事件や事故が起こったりするからなぁ。
 ……よし、食べ終わったら運動がてらに探そうか。
 とか思っている間に完食。

(…………)

 自分の胃袋にここまで驚かされた日はなかった。
 よく入ったなぁ……本当に。
 よしっ、じゃあ探しに行こうか。

「祭さん、ごちそうさま。ちょっと気になるから柄を探してくるよ」
「心配性じゃのう。何事かに襲われようとも、襲われるままになど育てておらんぞ?」
「だとしても、鍛錬と実際とじゃ違うよ。天でもそういってなにかしらを過信するから事件が絶えないし」
「ほぉ、そうか。天というのも案外物騒じゃのう」

 言いながら笑わないでよ祭さん。
 ……まあ、きっと平和続きで退屈してるから、何か起こってほしいってことなんだろうけど。
 起こったら起こったで、相当心配するんだろうなぁ。
 こう言うのもなんだけど、妙なところで性格がじいちゃんに似てるからなんとなく予想出来る。

……。

 さて、厨房を出て、いざ探索。
 完全に暗くなる前に見つけられるといいんだが。

「柄〜」

 呼べば、何処で聞いていたのかすっ飛んでくることもしばしばな柄だが。

「柄〜?」

 今日は現れない。
 見張りをしていた兵に訊いてみれば、今日は見ていないとのこと。

「んー……」

 行動範囲を考えて、中庭に出てみるも、やっぱり居ない。

「柄〜」

 一応声を放ってみても反応無し。
 ただ、城壁の上の見張りが、親切にも今日は見てませんよと教えてくれた。
 次だ。

「柄ー」

 城内を探し終えたので外へ。
 この時間に外に出るのは珍しい。
 物騒なことなどそうそう起こらない昨今だが、だからといって平和を信じ切るのは難しい。
 足も自然と速くなり、早歩きのような状態で探し回った。

「おぉ? そこを奇妙に駆けるのはお兄さん。なにやらただならぬご様子。何事ですかー?」

 と、街中で風と遭遇。
 人々が夕餉だ夕餉だと賑わう中で会うとは、珍しい。

「風、柄を見なかったか? 祭さんに訊いても知らないって言うんだ」

 ちょっと見えないくらいで大げさだとはよく言われることだ。
 が、しすぎるのは確かにやりすぎかもしれないが、かといって心配しないのは違う。

「柄ちゃんですか。柄ちゃんでしたら邵ちゃんと、猫を追うべく駆けてましたねー」
「やっぱり外か! で、で!? どっちに!?」
「外れの方へ駆けていきましたよ。お昼のことですがね」

 昼のことなの!?
 じゃあもう高い確率で居ないのでは……?
 いやいやっ、貴重な情報なんだ、居ないと予感が走ろうが、そこを目指すことに意味がある! 居るかもしれないし!

「そっかっ! 情報ありがとなっ!」
「あぁちょいとそこゆくお兄さん。風は少し歩きすぎて、足が痛いのですが。どこかに心の優しいお兄さんが居たら教えてくれませんかねー」
「思いっきり“お兄さん”って言っておいて紹介ってなに!?」
「ちょっと言ってみただけです。暇なので風も連れていってくれると嬉しいのですよ。今ならお礼に飴をあげましょう」
『おぅにーちゃん、女の尻ばっかり追いかけてねーで、たまにはおれっちと仲良くしよーや』
「…………まあ。久しぶり、宝ャ」

 どうやっているのか、ソイヤーとばかりにペロペロキャンディを突き出してくる宝ャさん。
 一応それを受け取って、じゃあとばかりに風に背を向けてしゃがむと、乗ってきた風とともに道を駆けてゆく。……走ってるの俺だけだな。

……。

 やってきた街外れ。
 猫がよくうろついているそこにて、

「柄ー!」

 声を上げてみるも、いらっしゃらない。

「既に去ったあとでしたかー」
「去ったなら城に居てもいいよな……! ま、まままままさか誘拐……!?」
「町人で柄ちゃんに勝てる人が居るなら、ですがねー」
「いやもしかしたら食事に誘われて食べちゃって料理の中に睡眠薬とかが入ってて眠ってる間にアワワワワァアアーーーーッ!!!」
「お兄さん、ちょっと落ち着きましょうねー……はいとんとんー」
「ふがふが……ってべつに鼻血は出てないから!」

 でも少し落ち着いた。
 そうだ、ここで焦りすぎても、なにかしらの情報を見逃してしまうかもしれない。
 落ち着こう、より一層。
 ということで……

「にゃー」
『にゃーお』

 夜。目が光る猫に、暢気に語りかけている風さんに、その猫の心情を訊ねてみた。

「彼……なんて?」
「夜の物陰、黒猫の我輩は目を閉じれば何人にも見つからない。ただし自分も前が見えない。と仰っておりますよー。ちなみに“彼”ではなく“彼女”です。さすがお兄さんですねー」
「いろいろツッコミどころありすぎるなぁもう!」

 あの“にゃーお”ひと鳴きにどこまで情報が詰まってるんだよ! 冗談だろうけど!

「じゃあもう行きそうなところを片っ端にだ! 風、いこう!」
「おぉっ……今日のお兄さんはとても元気ですねー。なにかありましたか……?」
「料理食べたら体が元気! それだけだ!」

 そんなわけで走った。
 時にキャンディーを舐めつつ、時に騒ぎつつ。

「柄ー!?」

 呼びかけることも忘れずに、ただただ探し回る。

「柄ーーーっ!」

 町人に情報を訊くことも忘れずに。
 大体がモノを食べていたという情報ばかりなのは……まあ、子供だものなぁ。

「柄ぃいいいっ!!」

 しかしこうなればこちらもヤケになるもので。
 探せば探すほど、訊けば訊くほどメシを食っている情報ばかりで、心配よりもツッコミばかりが増えると、もうとりあえず見つけて息を吐きたい気分になっていた。ていうか脇腹痛い。食ってすぐのダッシュは辛すぎた。
 まあ俺のことはどうあれ、実際、聞こえてくる声など……

「おっ、兄ちゃん。どしたいこんな時間に。……? 柄ちゃんかい? ここで豚まん食べて、向こうへ行ったな」
「あっち!? よしっ! ありがとおっちゃん! 柄っ! 柄ー!」

 とか、

「───ん? 柄ちゃん? ここでラーメン食べて向こうへ行ったけど……」
「あ、あっちか……柄ー!?」

 とか、

「柄ちゃんならここで邵ちゃんと猫の話をしたあと、城に戻るって。……え? ええ、ついさっきだったかしら」
「柄……」

 ……終いにはそんな有様で。
 で、城の厨房に戻ってみれば、祭さんと会話をしている娘を確認。

「HEEEEEEEEEEEYYYYYYYY!!!!!」

 そんな、“あァァァんまりだァアァァ!!”とか叫びたくなる状況に辿り着くわけで。
 走った時間だけ無駄をした。そう思わずにはいられなかった。
 が、娘が無事だったことに何を嘆く必要がありましょう。
 俺は走った分だけ安心を得られた……それが勝利なんだ。
 それでいいジョルノ……それで。

「ど、どうしたんだ、父……!」

 ところで叫んでしまったからにはもう遅いんだジョルノ。
 どうしたらいいジョルノ。教えてくれジョルノ。

「へ……柄。今まで何処に……?」
「え、っと……外で食べ歩きを……。父こそどうしたんだ……? そんなに息を切らせて……」
「へ? あ、あー……」

 焦って探すあまり、氣で体をコントロールするのを忘れていた。

「祭さん、言ってないの?」
「それはそうじゃろう。儂は最初から心配なぞしとらんかったからな」

 そうでした。
 言っても“北郷が探しておったぞー”くらいで、どうして探していたのかなんて説明するとも思えない。
 基本、面倒臭がりとは言わないけど自由な人だもんなぁ、祭さん。

「あーほら。その、あれだ。朝から見てなかったから、心配だから探してた」

 で、俺はといえば別に隠すことでもないからと正直に。
 ぽかんとしていた柄だったが、少しすると吹き出して、元気に笑った。

「父は妙なところでおかしいなぁ。私が誘拐されるとでも思ったか? されそうになったところで返り討ちにしてくれようっ!《どーーーん!》」
「そっかそっかー! じゃあ父さんが今から誘拐犯役をするから、上手く対処しろなー」
「応! どーんと来いだっ!《がしぃ!》うひゃーーーーっ!!?」

 あっさり捕まえた。
 で、米のように肩に担ぐと溜め息ひとつ。
 その過程で降りてもらった風が、「おおっ、さすがはお兄さん。娘であろうと女の子に手を出す速度が普通ではありませんねー」……ってべつにそういう理由で捕まえたわけじゃないんですが!?
 い、いや、ここで慌てたら風の思う壺だ。冷静にいこう、冷静に。

「じゃあ祭さん、この自称・誘拐犯キラーさんを風呂に放り込んでくるから」
「おう、遠慮せずぶちこんでやれぃ」
「こ、このっ! ずるいぞ父よっ! あんな一瞬で捕まえにくる誘拐犯なんて居るわけがないだろう!」
「馬鹿だなぁ柄。今この場でこの北郷が支柱を辞めて誘拐犯になったらどうするんだ」
「───はっ!? い、言われてみれば……!」
「納得する前にツッコみなさい」

 ぺしりと額を叩いてみる。
 漫画とかだとよく自分の向く方向に下半身がくるように担ぐが、あえて逆にした。
 べつに大した理由はなく、掴んだ途端に暴れたから回転させながら担いだ結果だ。

「おおっ、つっこみですか。そうですねー……お兄さんが支柱をやめたら、同盟が崩壊してそれはもう大変なことになりますねー……」
「そうかな。べつに俺一人が抜けるくらいでどうにかなったりはしないだろ」
「各国の王や将がお兄さんの正妻の座を巡って血で血を洗う戦争を───」
「よぅし柄、父さんまだまだ頑張るぞぅ? だだだだだ大丈夫、大陸の平和は僕がマモル」
「おおぅ……ある意味で間違ってなさそうなので、言った風も少し罪悪感ですよ……」

 風……たとえ多少違っていたとしても、結構大事になることがあるんだ……。
 たとえば俺が支柱をやめたとして、じゃあ俺についてきてくれる人って何人居るだろう。
 多いか? 少ないか?
 ……惨めになりそうであまり考えたくないけど、恋は来てくれそうな気がするわけでして。
 三国無双様がデスヨ? それってもう本当に一騎当千で、誰かとぶつかりあったらただではすまないわけで。
 ヤヤヤヤヤッパリ大陸の平和はいつの間にか俺に……!

「なぁ風。ぶっちゃけた話……俺が支柱を下りたとして、なにか変わるのかな」
「お兄さんが出ていかない限り、なんにも変わりませんよ。同盟の証として認められているからこそ、お兄さんは今ここい居るのですから。もっともお兄さんが、三国の王や将に子供を産ませた上で逃げ出すような男だったのなら、そうする前に死んでいると思いますけどねー」
「俺もそう思う」

 そんな男に騙されるほど、この時代の人は平和に浸っていない。
 そんなことを企んで近づこうものなら、華琳に見破られて春蘭に両断されたり、愛紗に見破られて両断されたり、雪蓮に見破られた上で散々玩具にされたあと思春に寸止め無しの鈴音で斬られたり、ろくな死に方はしないだろう。
 それを思えば、俺はむしろ助かった未来を歩んでいると言っていい。
 余計な事情なんて知らないほうがいいのだ。
 数多の外史の中、降りた俺があっさり殺される軸を望んだ人だって居るのかもしれないんだし。

「じゃ、柄の無事も確認出来たことだし───」
「早速お風呂ですねー。人を抱えて散々と走って、お兄さんは最初からそのつもりだったのですか?」
「……たまに七乃と言動がかぶるから、そういうこと言うのやめようね? あと負ぶってくれっていったの風だからな?」

 ともあれ。
 ばたばた暴れる柄を担いだままに浴場へ。
 一緒に入ることはせず、風に任せて浴場をあとにした俺は、自分がのんびり入れる時間になるまで適当に体を動かすことにした。




ネタ曝しです *ヘーベ○ハウス  ハーイ♪  ヘーベルハウスのCMのアレ。  帽子……頭?を取って、紳士的にハーイ♪ *なんだか唐突に。腹が………………減った。  ドラマ、孤独のグルメより。  腹が減るときの合図。  あの時の音、好きなんですよね〜。  コロロロロロロロトントントントントン、ポン、ポン、ポ〜〜〜ン♪って。  わさび丼とソーキソバと汁無し坦々麺が気になってしょうがない。 *何かが動き始めている?  何かが動き始めていた。  親友キースの突然の失踪。  謎のサイキッカーの襲撃。  そして力の覚醒。  サイキックフォースより、バーン・グリフィスのストーリー。 *うおォン  これまた孤独のグルメより。焼肉、食べたくなる。  なお、オナニーマスター黒沢の最終話に登場する焼肉屋の名前でもある。  今さらだけど横田さん、もとい横田先生、いろいろおめでとうございます。  漫画は“戦下に咲く”しか読めてないけど、なんだか嬉しかったので。  ツンバカとか痴漢男とか、大好きです。ブーンはかなり切ない……。  だからツンバカは救い。  オナマスが更新されるのを待っていた時代が懐かしいや……。 *スゴイね、人体  マホメド・アライスマイル。  バキより、マホメド・アライ。  この人のスマイルは、まあなんといいますか、よくも悪くもスマイルって感じ、しますよね。 *某トラサルディーさん  トニオ・トラサルディー。ジョジョの奇妙な冒険より。  彼の料理を食べたいと思う人は、イタリア料理を食べにいこう!の回を見た人なら間違いなく全員だと思うんだ。 *外見年齢  サイヤ人はより長く戦えるよう、全盛期の容姿のままの状態が長いそうです。 *HEEEEYYYYY!!  あァァァんまりだァァァァ!!  ジョジョの奇妙な冒険より、エシディシの叫び。  登場シーンが独特かつ半裸どころか9割裸っぽい外見だったので、  兄にケツディシと呼ばれていたエシディシ。  子供の頃はヘエエエエイイイなのかヒイイイイイイなのかが解らなかった。  英語苦手ですもの。  フフフ、よくぞ読み終えた。  しかし132話は我ら四天王の中でも最弱。  次は133話たる133話が相手ぞ……!  はい、意味はありません。 Next Top Back