197/歴史の基盤、銅鏡の欠片、そして

 そんなこんなでいろいろあって、我が自室へ。
 中庭の東屋に近い通路のさらに奥にいった先にぽつんとあるそこで、ようやく俺達は心から息を吐けた。

「たは〜っ、こらいろんな意味でたまらんわぁ。なぁかずピー? これってば夢やな? 夢やないと俺いややで?」
「ああ夢だよ。間違い無くね」

 ただし胡蝶が飛んでる。言ってしまえば、それこそさまざまな願って創られた世界なのだから、夢以外のなにものでもないのだろう。

「なぁんややっぱ夢かぁ。そら、こない都合のええ現実なんてあるわけないわなー。ま、それでも恐怖はホンモンや。かずピー、いろいろ聞かせてもらうで?」
「ん、解ってる。とりあえず前提として、これは夢である。OK?」
「おー、おっけおっけ、俺理解力だけはあるつもりやし。感覚鋭い夢も見たことあるわ。その延長やでこれ。そーに違いないわ」
「……“理解力”と“めんどいから適当に流す”のとじゃあ違うって、ちゃんと受け取っといてくれな」

 そうして説明開始。
 細かいところは適当に砕いて、大事なところをきちんと教える感じで。

「ほへー? つまりなんや? かずピーはこの世界に天の御遣いとして降りて? 孟徳さまと一緒に戦って天下統一して? 一年前に帰ってきた時のかずピーがそん時のかずピーやったと」
「ああ、そういうこと」
「なるほどなー。んでかずピー? 俺がこの世界に降りた理由はなんやねんな? 俺べつにそのー……最初のかずピー? とのことで関係なんてあらへんやん」
「それなんだけどな。お前が願ったアレな考えが、歴史にいろいろと影響を与えてる可能性がひっじょーに高いことがさっき解った」
「えー!? なんでー!? 俺べつになんもしてへんやーん!」
「あー……そうだなぁ。あ、ほら。フランチェスカに歴史資料館が出来たよな?」
「あーあれなー。俺が誘ってもかずピー一緒に行ってくれんかったやつなー」

 お陰で作文大変やったんやでー、なんてぶちぶちこぼす及川に、一言質問。

「遺物とかを見てどう思った?」
「へ? そら……壷見た時、これにはメンマが大量に入ってた〜とか、鎧を見れば、実はこれを着てたんは女の子で、そんな格好のままマニアックなエッチしてたんや〜とか」
「やっぱりお前も原因かぁこの馬鹿ぁあーーーっ!!! おぉおおお思わぬところで別の原因が見つかったァアアア!!」
「え!? なに!? 俺なんかやってもーたん!?」

 ……貂蝉さん、一刀です。
 俺と左慈だけじゃあありませんでした。
 どうしましょう、この事態。

「おかしいと思ったんだよ! 左慈が“歴史っていう基盤”、俺が“割れた銅鏡の欠片の軸”、じゃあ他の登場人物の像は!? って考えて、どうして女の子だったのかとか! どうしてメンマだったのかとか!!」
「え? 別におかしないやろ? なんやメンマやったら昔っからありそーなイメージあるし。登場人物もむっさいおっさんよかべっぴんさんのほうがえーし。頭の硬い軍師さんなんて、ちっこくて可愛いか色っぽい女教師さんみたいな人のほうがえーやん。むっちむちでー、黒髪でー、こ〜……眼鏡なんかつけてやなー……♪」

 うわぁい殴りたいこの笑顔ー。
 ていうか最後の外見、思いっきり冥琳じゃないか。

「あ、ところでかずピー? さっき集まっとった人ら、なんや俺の理想のまんまの女の子ばっかやったんやけど、やっぱ彼氏とかおったりするんかなぁ。まだやったら俺、あの猫耳フードの子ぉに……」
「…………」(←ついこの間、罰としてアレコレいたしましたとは言えない)
「でもあの孟徳さまは〜……あれやな? かずピーにぞっこんやな」
「……へっ!? そうなのか!?」
「はぁ……かずピーといいあきちゃんといい、なんでこう鈍感やねん……あんなぁかずピー? あないあからさまにちらっちらかずピーんことばっか見とったら、普通気づくやろ」

 いや、あれプルタブをどうするかで不安になってただけです。断言します。
 でも鈍感って部分は素直に受け取る。困ったことに、乙女心なんてまだまだ解らない俺だから。

「……で、なんでよりにもよって桂花……文若なんだ? あ、文若っていうのがあの猫耳フードだから」
「ぶんじゃくちゃん言うんかー。かわえかったなー。あ、そんで理由やけど。……あん中でいっちゃんかずピーんこと嫌っとったみたいやから」
「うわーいわっかりやすーい」

 思わず口から棒読みな言葉がこぼれた。
 あんな状況だったのに抜け目なく見てるなぁ。
 余裕もなく人のことを盾にしておいて、実はいろいろ観察してたのか。呆れた観察眼だ。

「これでも人を見る目はあるんやで〜? せやなかったら新しい恋なんて追えへんもん」
「……見る目があるならフラれ続けてないで一発でキメろよ……」
「ぐさっ……ひどい! かずピーひどい! 俺かて好きでフラれとんのとちゃうもん! 俺はただ、燃えるような恋が……過去を忘れられるくらいに熱い恋がしたいだけやもん!」
「や、だからさ。一回目で」
「……一回目が本気すぎたからいかんかったんやん……。親友殴ってでも手に入れたかったんやもん……」
「………」
「………」
「……え? 殴ってでもって、章仁相手に?」
「だー! もうこの話やめよ! な、かずピー! な!?」
「え、あ、お、おう……?」

 額あたりを紫に、目の辺りを赤く、頬辺りを青くするという相変わらず怒った顔が恐ろしい及川の迫力に負けて、つい頷いてしまう。
 ……まあ、そうだよな。だめだったっていうなら、思い返すのは辛いだろう。

「暗い気持ち払拭するためにも、なんか明るい話しよ! あんな大人数のべっぴんさんらに囲まれとんのやから、ちっとくらいアハンな話とかあるんやろ? かずピー」

 ちょっとというか…………うん。
 これ、馬鹿正直に話していいこと……じゃないな、断じてない。
 事後をカメラに納める以上にない気がする。

「い、いや、俺より……及川のほうはどうなんだ? 俺としてはむしろこっちでの生活が長すぎるくらいだから、久しぶりにそっちの話が聞きたいかなーって」
「聞きたいもなにも、俺かてさっきえーと、天? で、シャワーに行くかずピー見送ったばっかやし。情報なんてたぶん変わってへんよ?」
「それでもだよ。鍛錬ばっかで、情報なんててんでだったんだ。どんな話でも新鮮に聞けると思う」
「……そか? まあ、かずピーがそこまで言うんやったら」

 こほん。
 珍しくわざわざ咳払いから始め、彼は語りだした。

「なぁかずピー。アニメとか漫画の水着回ってなんの意味あるんやろなぁ」

 直後に殴りたくなる俺が居た。

「俺なー? 女の子の笑顔、好きやねん。でも一回目の痛烈な失恋のあと、解ったことがあるんねんけど…………俺、恋してる女の子の笑顔が好きやってんなぁ」
「恋する女の子の? ……へぇ」

 あ、なんか解るかも。
 ほにゃって安心するみたいな笑顔を見ると、“あ、可愛い”って思うよな。
 ……それが恋する乙女の笑顔かどうかなんて、俺には解らないわけだが。

「で、水着回に戻るんやけどな? あんな動き止めながらウフフ言うだけの回に、恋する乙女のウフフ劇場以上のどんな価値があるっちゅーねん。普段より多い肌の露出? いーや、そないなもんと恋する乙女を見守るハラハラ感は秤に合わん。もちろんこれを秤に出すんやったら外せんのは───」
「続けて温泉回とかぬかしたらグーで殴る」
「………」
「………」
「デコピンに負かられへん?」
「引き下がる選択肢を作れ」

 やっぱり及川は及川のようだ。
 ちょっと安心するとともに、妙に力が抜けている自分に気づくと……苦笑が漏れた。どれだけ頑張ってみても、馴染んでも、力というものは入ってしまうようだと実感。
 仕方ないよな、慣れれば慣れるほど、期待もされる場所に居るんだし……みんなが上手くやっている中で、自分だけ失敗っていうのも嫌だし。それに何より……国に返したいって思いが全く消えないのだ。

「ほんなら別の話やな。ここに住んどんのやったら、ほれ、こー……むっふっふ、お風呂覗いたりとか〜……やったことあるんやろ?」
「いや、ないな」

 覗くどころか一緒に入りました。
 はい、もちろん言いません。

「かーっ! このへたれっ! ジブンそれでも男かいっ! かずピーはまさかアレかっ!? オトコの園でごきげんようなんかっ!?」
「うん、時々思うんだ。俺、漢でいたかったナーとか」
「? 男やないんか?」
「や、漢な。こう、さんずいの方の」
「男と漢って……なにが違うねん。……ハッ!? やっぱりアニキ的なアレなんか!?」

 どうしてこいつはこう、妙にホモチックに走りたくなるのだろうか。
 早坂(兄)と一緒に居る時も、彼に向けて唇突き出していた時とかもあったしなぁ。
 まあ、例に漏れずBAQQOOUUUNと殴られてたけど。

「意識の違いだろ。ほら、男っていうのは女にだらしがなくて、漢っていうのは力強く守る〜みたいな。もちろん男女差別せず守る方向で」
「りょっ……《ごくり……!》両刀使いっちゅうやつやな《バゴォンッ!》はぐぅんっ!?」
「そういう意味じゃねぇよ! ───ハッ!?」

 しまった口調口調!
 いやまずい、及川が相手だからか、どうにも前までの口調が……!
 ていうか結構強く殴っちゃったんだけど大丈夫か!?

「やー、せやったら俺、漢っちゅうんは無理やなぁ。俺、女の子好きやし」
「………」

 なんかケロリとしてました。

「……えと。殴られたところ、痛くないのか?」
「フッ……甘いなぁかずピー。そんな拳で俺を倒せる思っとったんか? 男のツッコミの拳なんぞ、女の子にビンタされてフラレた時の痛みに比べれば軽いもんやでっ!《どーーーん!》」
「………」
「………」
「……お茶、飲むか?」
「……おおきに」

 茶器を使ってお茶を淹れる。
 もう手馴れたそれで振る舞うお茶は、及川に長い長い溜め息を吐かせた。

「俺かて……俺かて好きでフラレとんのと違う。とっかえひっかえ言われようと、これでも真面目に付き合うとんねんで? けど、いっつも最後は“私を通してどなたかを見ていらっしゃるのね”とか言われて……。俺。そないなつもりも自覚もないのに、そんなんあんまりやん! だからかずピー! 俺……この夢の中で女の子と付き合ぅて、もっと経験積んで乙女心っちゅーもんを学んでみよ思うんや!」
「……えーと。出鼻挫いて悪い。あそこに集まってたの、ほぼ全員……えーと、人妻、でさ」
「んなぁっ!? ……あ、んあぁ……ああまあ、うん、せやろなぁ、なんか納得出来るわ……トホホイ。ほんならあのー……まだちっこかった子ォを今の内に俺に惚れさせて、将来的には」
「───娘に手ぇ出したら氣も込みで全力で殴る《ヴォソォリ》」
「《ゾクゥ!》ウヒィッ!? やちょぉおおちょちょちょ何事かずピー!! なんか今めっちゃ寒気が! え!? なに!? 今かずピーなんて言ったん!? ねぇ!」
「あっはっは、なんでもないぞーぅ? ところで誰を誰に惚れさせるってー?」
「あぁ、あっはっは、ほらあの子やって。あの黒の混ざった金髪の、ツインテールのちっちゃな」
「よし。忘れずに墓碑に刻むから眠れ。迷わず……いや、迷ってもいいからとっとと眠れ。大丈夫、立派な墓を作るよ。ところで刻む名前はビッグタスクドリルでよかったか?」
「俺いつからマンモスマンになったん!? “たすく”は合っとるのに前後に余計なもんついとる所為で必殺技になってもーとるやないかい! ってかなんで殺す気満々やねん!」

 なんで? なんでって……及川が丕を自分に惚れさせるなんて言い出したからだ。
 もしそれが叶ったら、及川が俺の義理の息子に……!?

「なぁ及川。日本じゃ昔っから、娘を男に託す時って相手を殴るっていうよな」
「へ? あ、あー……そういうんもあったなー。あ、やっぱかずピーん家も古い家系言うとったさかい、そーゆーのあるん?」
「そうだな。託すわけでもないのに全力で殴りたい《ぱああ……!》」
「なんでそれを俺見て笑顔で言うねん!!」

 理由ならさっき言……───思った。

「なんか背筋ぞくぞくするから別の話、しよ。そんでえーと、文若ちゃんも相手がおるねんな?」
「……まあその、一応」
「へー……ほんなら孟徳さまの相手って誰やねん。かずピーんこと見る目、随分と信頼を置いた目ぇに見えとったんやけどー……それでも他に相手おるん? それともかずピーの独り相撲?」
「そうだなぁ。主に俺が空回ってる感じは、確かにあるかも」

 好きって言われた時の喜びはとんでもないものだった。
 それでも今も空回りをすることは度々あるのだから、なんとも上手くいかない。
 そうなる度に、やっぱり丕は自分の娘だなぁとニヤケるとともに申し訳ない気持ちになるわけで。こんな空回りファーザーですみません。

「ふぅむ。ま、女の子の話もえーけど、ちぃっと真面目な話もしよか。俺が原因の一部みたいなよー解らんこと言っとったけど、結局なんのことやねん」
「……及川。お前ってさ、普段おちゃらけてるのに、真面目な時ってどうしてそう核心にずずいと踏み込んでくるんだ」
「あほやなぁかずピーは。おちゃらけてるからこそ周りから情報を得られて、ここぞって時に真面目なこと言うから芯の方で信頼されるんやん。相手がほんまに困る軽口は言わん。変わりにそういうとこつついて、相手のもやもやを引きずり出して吐き出させる。“友達”っちゅーんはな、かずピー。そん時大事なやつを傍で見といて、相手が困った時に客観的な助言与えられるくらいが丁度ええんやって」
「あー……“自分で気づかなきゃ意味がない〜”とかか?」
「あ、それ違う。俺もうそれ、あきちゃんの時で懲りたわ。あーゆーのんは言ってやらな最悪の状態まで落ちる。そっから助言出しても“俺は悪くねぇ”的な妙な意地張ってもーて話にならんから」
「……まあ、確かに早坂兄って妙な集中をすると、人の話を聞かないところはあったよな」
「普段はそこをつつくのがおもろいねんけどなー♪ けど、いきすぎると話は聞かない、人の所為にする、自分は動かない。そーゆーひどいことになってまうわけや」
「そういう時は?」
「そら、解らんアホや動かん機械は殴るに限るやろ」
「……なるほど」

 想像した通りだったわけだ、このばかものの生き様は。
 普段は重くないけど、いざって時は本気で向き合ってくれる。そういうタイプの馬鹿のようだ。

「で、俺が原因って話やけど」
「いや、そこ別に流してくれてもよかったんだが」
「俺が知りたいのに流してどないすんねや! ……そんで? いろいろ話してくれる約束やろ?」
「……まあ、うん。えっとな、この世界はな、あー……人に願われて作られた世界だ」

 頭をコリコリと掻きつつ頭の中で軽く纏めながら、言葉にする。
 どう説明したものか。
 これでも成績はいい及川だから、理解力は無駄にあるはずだ。
 それも踏まえてどんな説明を……と。

「おお、つまりこの世界には俺の願いも影響されとるわけやな?」
「“も”っていうか、ほぼだと思うぞ」

 反発することなくあっさり受け入れた。
 説明しておいてなんだけど、それでいいのか及川よ。
 夢だから、っていう前提としての受け入れやすさもそりゃああるんだろうけどさ。

「えっとな、さっきも説明したけど……まず舞台。左慈って存在が物語の基盤になっていて、一番最初にそいつと関わって、銅鏡を割っちまったらしい俺もそこに影響を与えた。まあ……いろんな軸から考えて、登場人物のひとつ、天の御遣いって存在に祀り上げられたわけだ」
「へー。っつーても俺、そのどーきょー? なんて知らへんで?」
「俺だって知るもんか。資料館には確かにあった気がするけど、それを“俺”が割ったわけでもないし」
「ともかくそのー……どーきょー? が、関係しとるっちゅーわけやろ? なに? それ、願いを叶える魔法のなんたら〜とかそんなもんやったん?」
「らしい。なんでも持ち主の願う“世界”を創り出すとか……いや、単純に願いを叶えるっていったほうがいいか。でも、世界規模で影響するものだから、滅多な願いはひどい結果しか生まないっぽい」
「……あ、かずピー質問。かずピーはなんでそんなこと知っとるんや?」

 当然の質問がきた。
 なので、夢で見たことやそれを経て積み重ねた予想を話して聞かせる。

「へー……つまりこの世界は孟徳さまが主軸の世界やから、強く願えば、その願いが叶う可能性がある、と……?」
「多分俺と及川は、原因の一端だから呼び寄せることが出来たんだろうけどな。そんな誰でも呼び寄せられたら、なんか……俺の家族とか既にここに居るような気がしてならないし」
「あ、それ言えとるわ。それに俺の場合、かずピーのケータイにあった写真も影響しとんのやろーなぁ。いろんな人の願いで構築されとるんやとしたら、なにも俺だけが原因の一端ってわけやないやろ? 他の原因の誰かさんも呼べなぁおかしいやん」
「……俺達が知らないだけで、他の軸じゃあ知らない誰かとかいっぱい居そうだけどな」

 それこそ俺の代わりに御遣いしてたりとか。
 まあ、それこそもしもか。

「けど、随分とまああっさり納得したなぁ。もっと説明に梃子摺るかと思ってたのに」
「かまへんかまへん、楽しいほうがえーやん。こない貴重体験、夢の中でしかでけへんやろ? ほんならまごまごしとるより受け入れたほうが、楽しいこと逃さずに済むっちゅーもんやん」
「そりゃそうだけど」

 ……いや、ほんとまいった。口調が砕ける。
 でもたまにはいいか。いいよな。
 これから及川にいろいろ教えなきゃいけないんだし、今から気を張ってたら……というかこいつ相手に気を張ってたら、それこそ疲れ果てそうだ。

「じゃ、まず文字の勉強からな」
「おー、早速勉強なんてかずピーさっすがー! 最近やたら勉強しとる思たら、まあこんな世界知ってもーたら勉強せんわけにはいかへんよなー! ……あれ? 夢なんやから勉強とか……あれ? あ、ちょっと待ったかずピー、いろいろこんがらがってきたわー……」
「難しいこと考えるよりも、今のこと考えようぜ。な、及川」
「おー、解っとるやんかずピー! で、勉強ってなんやねんな? ちゅーごくゆーたら……《ごくり》……ぼ、ぼーちゅーじゅちゅとかか?」
「文字だっつっとろーがこのエロメガネ」
「えー? 絵で学べる漢文講座〜とかないの〜? 俺、アハンな絵でならかつてない速さで学べる思うんやけどなぁ」
「あーそーだろーなー、そーゆーやつだよおまえはー」
「わーお、かずピーものっそい棒言葉」

 言いつつ、用意した本を取る。
 机に並べられてあるそれらは、及川用にと用意したものだ。

「まあ、絵本ならあるぞ? 俺も今でも読んでるくらい、受け入れやすい絵本とかもあるし」
「今でも学べるほどのエロ本やて!?《クワッ!》」
「無理矢理“ロ”を入れるなドアホウ」

 先行きは不安だった。

……。

 そうして始まった勉学。
 まずは常識的なこと、やってはいけないことを中心に教えて、その合間に文字を教える方向で。

「ほへー、教科書で見る漢文と違てるところとか、結構あるんねやなー……」
「現代に残された文字とこっちじゃ、そりゃ違いはあるだろ」
「っへへー、なんややってみるとけっこーおもろいもんやね。あ、この黒板とチョークってかずピーが出した案やろ」
「最初はチョークがボロボロ崩れて大変だったよ。ていうかな、天の御遣いとか言われたけど、正直日本で得た知識が無ければとっくの昔に役立たずとして捨てられてたよ」
「学んどる過程でもその様が簡単に想像出来るわ。物騒やなぁほんま」

 用意した小さな卓で、書き取りをする及川の図。
 最初の俺と比べてみても、その在り方は堂々としている。
 ……やっぱり、こういうところは敵わないなぁと思うのだ。
 どこに居ても自分のペースを崩さないっていうのか。

「あ、ところでかずピー? この夢、いつ頃覚めるん?」
「あ……そうだな。俺はあと何十年後かに覚めると思う。及川は願われ方もあれだし原因としての関わり方もアレだから……多分だけど、最初に呼ばれた俺と同じくらいか、もっと短いものか……それとも華琳……孟徳さまが満足した時点で覚めるかのどれかだろ」

 そういった意味では、華琳は結構気まぐれだから……気づいたらいつの間にか消えていた、なんてこともあるかもしれない。
 それを思えば……

「及川、ケータイ貸してくれ」
「へ? どしたんかずピー。もしかして俺のこと撮りたなった? って、自分のケータイどしたん? 太陽光で充電できるの、買ったやん。もしかして忘れたん? やー、かずピーはドジっ子やなー」
「及川のケータイ、赤外線通信で画像受信出来るタイプだっけ」
「人の言葉無視してこっちの情報を得ようとかかずピー鬼畜! でも出来るでー、コミュニケーションには外せんことやしねー」

 妙なところで素直な相手で話が早い。
 ほい、と渡してくれた及川のケータイに、今まで撮ってきた写真を送る。
 ……これで、いつかこのケータイが壊れても、及川が戻ってしまっても、思い出は残る。

「ところでかずピー……俺前から思っとったんやけど……コミュニケーションとコミニュケーションって間違えやすいよなー?」
「交流って意味なんだから、コミュニティって覚えておけば問題ないだろ。さすがにコミニュティって言う人は…………居るかも」
「つか、かずピーなにしとるん? 赤外線で画像送信? ……お? なに? 写真くれるん? ───はあぁっ!? もしやべっぴんさんのアハンな写真とか!? グ、グッジョブ! ええ仕事やでかずピー! 俺かずピーの親友でよかったわ!」
「答えを聞く前に暴走するなよ! お前が期待するようなものなんか一切ないから!」

 そう、もちろんエロォスなものなんてない。
 あったとしても、そういうものを送ったりなどするわけがない。
 まあ、あるとすれば……

「お、終わった? 見せたって見せたってー♪ あー……………………《ポッ》」

 ケータイを返し、止める間も無く画像を開いた及川。
 そんな彼が突如、ピタっと止まって頬を染めた。
 …………回り込んで覗いてみれば、いつかの思春の無防備な寝顔があった。

「おぉおおんどれこないなもん間近で撮る機会にどうやって恵まれたんやぁああっ!! 膝枕やろこれ! 膝枕やろぉおお!!? しかもこんな無防備なっ……! これかずピーの彼女!? 彼女居ない暦更新中やったかずピーにまさかの美人さん!? フランチェスカで可愛い子ちゃんに誘われても動かんかったんはこれが原因かぁああっ!!」
「お、おぉお……落ち着け及川、人の写真を勝手に見て怒るな。な? あと顔色怖い。顔より顔色が怖いから」
「こォオれが怒らずにおられるかいぃいっ! どーせこのぎょーさんある画像も、このべっぴんさんとの甘ったるいので埋め尽くされてるんやろ!? こーなったら見たる! 全部見て、ほんで文句のあとにお幸せにって祝福したる! ……ほんでなんで次が孟徳さまの寝顔やねん! どないなってんねやかずピー!!」
「だ、だから……な? 人の写真を……つかお前顔色大丈夫か? どうなってるんだお前の体内組織。むしろ色素」
「そーかそーかこれ寝起きどっきりとかに使った写真やろ!? せやな!? せやゆーて!? それとも俺んことほっといてかずピーったらここで、俺より女性経験豊富に……!? 彼女を取り替えては膝枕してーを繰り返したん!?」
「いや……ほら……な?」
「かーっ! 羨ましいやっちゃなぁかずピー! やー、しゃあけどさすがにちゅーまではいってへんよな? お昼寝しとる女の子の部屋ぁ忍びこんで、膝枕して撮った〜とか、そんなもんやろ?」
「よーしいっぺん殴らせろこの野郎」
「恥ずかしがらんでえーって! かずピーがどんだけ奥手かは俺も知っとるしー? かずピーがこっちで10年近く生きとる言われたって、俺ほんぎゃあああああああっ!!!?」
「《ビクゥッ!》ほぉぅわっ!? おっ……及川……!?」

 怒ったり叫んだりして、しかし急ににっこにこ笑顔になっていた及川が、急に叫んだ。
 覗いたその写真の中には……まだちっちゃな頃の璃々ちゃんを抱いて、こちらをやわらかな笑顔で見つめる紫苑がいらっしゃいました。

「こっ……こどっ、こど、どどど……!? もしや、もしやもしやかずっ、かず、ぴ、ぴぴぴ……!?」
「断言するけど俺の子供じゃないぞ?」
「せやろなー♪ んなわけあらへんよなー♪ 信じとったでかずピー!」
「………」

 なんだろう。力ずくでも見るのを止めないと、やばいような気がする。
 主に娘たちの写真に辿り着いた時とかに。

「…………………………」
「お、及川? そろそろいいだろ?」
「…………なぁかずピー? なんで……なんでこの写真のべっぴんさんら、みぃんな……───んあー……《コリコリ》」
「及川?」
「なぁかずピー? 俺、恋する女の子の笑顔、好きゆーたよな?」
「───」

 “恋する女の子の笑顔が好き=写真の中のみんながそんな笑顔”!?
 うああ……! しまった……! これもう言い逃れ出来ない状況だ……!

「この写真撮ったの、み〜んなかずピーやねんな?」
「チガウヨ?」
「ちっちっち、かずピー嘘はいかんなぁ。知っとった? かずピーは嘘つくとき、口角がちぃとばかし持ち上がるんや」
「お前は顔が紫色に変色するんだ。知ってたか?」
「マジで!?《がーーーん!》」

 人の嘘のクセより、自分の変色具合に驚いたらしい。

「ところで絵本なんだけどな、及川」
「強引に話題変えてきよったな……なはは、まあえーけど。好きになる前に予約済みとか解ってよかったわ。んで、かずピーは誰が本命なん?」
「かっ───」

 ───反射的に華琳、って言いそうになった時、自室の扉や窓の外からガタタッと謎の音が。
 及川に悟られないようにソッと窓を見てみれば……なんか普通に部屋を覗いてらっしゃる三国無双さん。

(ちょぉっ! 恋っ! ちゃんと隠れときっ!)
「そうすると見えない……」
(見えんでええんやって! 今は声が聞こえたらそれでええ!)
「ん……わかった」

 ……覗かれている側が見守る中、ゆっくりとしゃがんで、視界から消える三国無双さん。ていうか今思いっきり声聞こえてましたよ、霞さん。

「………」

 訪れた静けさの中、遠くで謎の鳥が鳴いていた。

「及川さんや」
「はいはいなんですかー、北郷さんや」
「……絵本読もう」
「艶本とかないん?」
「それについては師範とも呼べる人が居るな」

 自信を持って頷いたら、扉の向こうで何かがどべしゃあと倒れる音が!
 ……うん、なんかもうきっと、みんなでこの部屋囲んでるんだろうね。逃げられん。

「まさか艶本の師範……エロ師範の存在を教えてもらえるとは思ってもみぃひんかったわ。てっきりあきちゃんみたく殴りかかってくるかと〜」
「そんな暴力的であってたまるか。これでもじいちゃんからいろいろ教わって、口調とかだって気をつけてるんだからな?」
「せやなー、前のかずピー、もっと口調汚い感じやったもん。あれで金持ちとかやったら、いけすかない越小路のぼっちゃんみたくなっとったのとちゃう?」
「剣道をあんな方向に扱うヤツみたいにはなりたくないなぁ」
「なはは、剣道で勝てへんかったら仲間呼んで囲みそうやもんなー、あいつ。ところでかずピー?」
「ん? どしたー?」
「……いつの間にか部屋の隅に女の子立っとんねんけど、あの人誰? ユーレイ?」
「いつ入ってきたの思春さん!!」

 言われて振り向いてみればほんとに居たよ! いつから居たの!? っていうか居たなら声くらいかけて!? それとも偵察的ななにかをしていたのですか!? 偵察……てい……ちょっとなにやってらっしゃるの錦帆賊の頭さん! 確かにそれっぽい役どころな気もするけど、むしろそういうのって明命の仕事でしょ!?
 とか驚愕に染まる頭でいろいろ考えていたら、つかつかと歩いてきた彼女は“くっ……!”って目を伏せながら言いました。

「許せ……! 蓮華さまに頼まれては嫌とは言えん……!」
「その割りに依頼主はあっさり吐くんだな……」

 でももういい加減、嫌って言ってもいいと思うんだ、俺。
 悲しみを分かち合いながら、おーよしよしと頭を撫で《べしぃっ!》……払われた。

「お? お、おおー。おーおーおー! せやせや! 写真の中におった子ぉやな! やっぱべっぴんさんやなー! あ、俺及川祐いいます、よろしゅー頼んますわ」
「む……甘興覇だ。あまり気安くするな。私にとっての貴様は、ただの北郷の友人というだけの存在だ」
「ぬっふっふ〜、おー、それでえーよー? 間違ぉてへんもん。けど人の出会いっちゅーもんはそんな些細なとこから始まるもんやしなー。ちゅうわけで俺のええ人になってください!」
「無理だな《ずっぱり》」

 膝から崩れ落ちる男を見た。
 まさか自分以外にこれをやる人を見られるとは……!

「あ、あのー……理由とか、聞いてもええです……? や、女々しいのは百も承知なんやけど」
「自分の全てを置く場所は既に決まっている。他に流れるなど有り得ん」
「うわーーおう!《きゃらーーーん!》」
「んぐっ……!《かああ……!》」

 キリッとした表情でキッパリ言い切る思春に、及川は目を輝かせて俺は赤面。
 まさかあの思春がこんなことを言ってくれるなんて……!
 …………いや待て、それってちゃんと俺のことなのか?
 曲がり曲がって蓮華のことでは? だってあの思春が俺の前で、真顔であんなことを! じゃなかったら俺はなにか悪い夢でも見ているのでは……ああきっとそうだ、だってこんなあっさり友人が現れるとか都合よすぎるもん!

「ええな! ええなぁ! ここまできっぱり言える子って俺めっちゃ好きやー! 言えずにうじうじしもじもじするのもええねんけど、やっぱりタイミング逃してがっくりしとんの見るよりはざっくり言ったほうがえーよなー!」
「思春……きみはそんな風に思っていたんだな───」
「う……わ、悪いか。自分の気持ちに気づいたからには、きちんとだな……!」
「───蓮華のことっ」
「……貴様は一度死んだほうがいい」

 真顔で死んだほうがいいと言われた。
 ……え? 蓮華のことじゃなかったの!?

「かずピーってやっぱり鈍感やねんなぁ……普通女の子にそこまで言われたら、気づかんほうがおかしいで……そんであれか? “今なんか言ったか?”とかゆーて、“ううん、なんでもっ”とか言われて流される人生。っかー! 情けないっ!」
「いや。この男は聞き逃したことはこちらが吐くまで詰め寄ってくるぞ」
「マジで!? かずピーいつの間にそんなレベルアップしたん!?」
「いや、だってさ、あのパターンってどうしてか男が悪いことになるだろ? なにか言ったかって訊き返してるのに喋らない女だって悪いのに。だから意地でも聞き直すことにしてるんだ」
「うわー……それはそれでウザイわー……」
「ええいじゃあどうしろっていうんだ」

 気持ち、解らないでもないけどさ。

「まあとにかく絵本だ絵本。まず字を覚えなくちゃなにも出来ないだろ」
「せやなー。あ、なぁなぁかずピー、俺結構悪役〜っちゅうの? そういうのは覚えるの得意なんやけど〜……ほら、三国志ゆーたら董た《がぼしっ》むぐっ!?」
「……及川。死にたくなかったらそれはやめとけ」
「んぐむごごむぐむむーむむ!?(訳:何気ない会話でも死ぬゆーんか!?)」

 恐らく皆様に囲まれているであろう現在。董卓───月の話題はマズイ。
 他の話題ならまだいいかもしれないし、知ってる人だってそりゃあ居るけど、あまり好ましくないことは事実だ。
 だから別の話を───

「ぶー……せやったらあれやな。なんやすぐ歴史の陰に消えてまう公孫《がぼしっ》さぶむっ!?」
「お前はなにか!? 死にたいのか!? いくら殴られ慣れてたって命はひとつなんだぞこの馬鹿!」
「むぶーーーっ!?(訳:えぇーーーっ!!?)」
「貴様らな……勉強はどうした……」
『あ』

 思春さんのツッコミで勉強に戻りました。
 とはいうものの、及川はやっぱり物覚えもよく、応用も利く。
 教えた先から絵の雰囲気で文字を予測して、頭の中で言葉を作ってみては当てはめて……次々と覚えていく。

「おー、絵本ってのはええもんやなー。ちっと幼稚やないかーとか思っとった自分をしばきたいわ」
「俺で良ければ全力で殴るぞ?《ニコリ》」
「なんでそんな殴る気満々なん? あ、ところでえーと……興覇さん?」
「なんだ」
「えーと、かずピーとはどんな関係です? 俺てっきり、かずピーは孟徳さまとそーゆー関係や思とったんやけど。や、それ以前にみぃんな人妻みたいなもんやーゆーとったから、かずピーも一人寂しい思いをしとるんやないかって」

 ……じとりと睨まれた。
 貴様は何故堂々と説明しないのだといわんばかりの眼光にござる。
 いえ違うんです思春さん。
 この世界と僕らの世界とじゃあ、一般常識からしていろいろと違うといいますか。
 呉や蜀に回る前に、既に多数の女性と関係を持ってたからって、天でもそういうのが許されるってわけではなくてですね? ……どー説明しろっつーんじゃぁああっ!!
 なに!? なぜこんな事態に!? 俺べつになにもやってないよな!?

「ア、アー! ところで及川ー!? お前って多数の女性と関係持ってる男ってどう思うー!?」
「……爆発してえーんのとちゃう?《ニコォオオオ……!!》」
「お前やっぱいろいろな物事の原因の一部だと思うんだ、俺」
「え? なにがー?」

 答えずに勉強に戻りました。
 なんかもう逃げられないなら、さっさと喋ってしまってもいいとは思うんだけどさ。

「ところで興覇さんー? 随分お若いですけど、子供とかいてはるんですかー?」
「居るがどうした」

 うわぁお正直!《がーん!》

「お、俺と娘さんの清い交際を認めてつかぁさい!《どーーーん!》」
「死ね」
「えぇえーーーーっ!!? うあーんかずピー!」

 感情を込めない、道端の石でも見るような目で即答された及川が、ビワーと泣きついてきた。
 ……ていうかなんで広島弁になった。

「今までフラレるにしてもあんなっ……あないなっ……即答で死ねとかっ……!」
「はっはっは、落ち着けって及川。そんないきなり現れた男に、娘さんを僕にくださいなんて、いっぺんブチコロがすぞとか言われても文句言わせて貰う前に死ね貴様」
「あれぇかずピー!? 慰めの言葉が途中から死亡願望になっとらん!?」
「気の所為だ。それより勉強勉強。ほら、ここに文字書くから読んでみれ〜?」
「うう、かずピー……俺のためにわざと砕けた口調で……! おおきにかずピー! 俺頑張るわ! 今の俺やったら簡単な文字くらいどどんと読める……なんかそんな感じがする! ほーれ書かれた文字かて一発読破! “大・往・生”! …………やっぱり死んどるーーーっ!!《ガァアーーーン!!》」

 「あとこれ別に漢文習ぉてへんでも読めるやぁああん!」と泣きながら叫ぶ彼をとりあえずスルー。授業を続けました。
 解ってくれ……これも一応、お前の命のためなんだ……!
 むしろ華琳に用済みだと思われたら、なんかすぐにでも消えてしまいそうな気がして……! だからまず字を覚えてくれ。そして働いてくれ。己の価値を高めるんだ! じゃないとこの世界では生きていけない……!

「…………」

 あれ? この場合むしろ、俺が脱線の原因ではございませんか?

「よし及川、勉強だ」
「お、おお! 今の流していいジョークやってんな!? ほんなら俺、真面目に勉強して興覇さんの娘さんに相応しい男になるー! 未来に繋ぐ行動ってこーゆーことのを言うねんな! 俺……一回目が成功すれば、以降も頑張れる気がする! さあかずピー!? まずなにしたらええの!?」
「死ね」
「以降に何も出来ませんが!?」

 あ、素に戻った。
 たった一回大阪に行っただけなのに、どうしてこう関西弁を好んでいるのだろうか、この男は。

「北郷」
「へ? あ、ああ、なんだ? 思春」
「とりあえずこの男は殺していいのか?」
「なんでいきなりそんな物騒な確認が!?」
「……貴様は普段の自分がどれだけ相手に生易しいかを考えるべきだ」
「ナマッ……!?」

 生易しいって……え、いや、うん……? や、優しいじゃなくて、ナマヤサ……!?

「あ、ああ、まあ……確かに俺、人に“死ね”なんて言わないよなぁ」
「呆れるほどにな。その影響か、先ほどから外から複数の殺気が漏れてきている」
「え? あ、ほんとだ! 自分の殺気の所為で気づかなかった!」
「かずピー!?《がーーーん!》」

 なんかいろいろ重なって及川が大変ショックを受けていた。
 ともかく外の皆様には冗談であることを伝えて、勉強の続きを…………

「……隠れる意味ないよな、これ」
「言ってやるな」

 堂々と外に話しかけてみても、誰ひとりとして入ってこないこの状況。
 ……ああうん、隠れて聞きたいお年頃なのよきっと。そういうことにしておこう。

「ところでさっきの……俺と及川の話、聞いてた?」
「? よく解らんが、私たちが周囲に集まったのは、そこの男が“おんどれ”などと叫んでからだ。その前は知らん」
「……そか」

 よかったのかそうでないのか。
 まあ、あとのことなんて残される者の仕事か。

「え、えーと……かずピー? 結局俺、どーなるん?」
「夢から覚めるまで、頑張って働こうな」
「そんな俺の頑張りを見て惚れる娘多数!」
「惚れたとして、元の世界の恋人は」
「大丈夫! 居たらかずピーら男どもを誘って遊びに〜なんて考えへん!」
「……思えばお前は人のバッグにアルコール詰め込んで、どこに遊びに行くつもりだったんだ」
「何処て〜…………てへっ♪」
『……よし殴ろう』

 朱色の君と意見が合った。
 ゴキベキと拳を鳴らして動き出す俺達に、及川の悲鳴が響き渡る。
 拳の雨が振り、拳の突風が吹き荒んだ。
 そして───

「あ、ところでかずピー? これなんて読むん?」
「“唔該”……ムゴーイ。してくれたことに感謝するって意味だよ……っていうかお前の体っていったいなにで出来てるんだ?」
「ニッケルクロモリ鉱?」
「砕けろ合金鋼」
「わお! かずピームゴーイ!」
「変態かお前は!」
「いやこれ普通にムゴイって意味やで!? 合金鋼扱いされて感謝するとか俺どんだけ変態やねん!」

 思春に殴られても平然と勉強に戻る変人を前に、俺も思春も大層驚いた。
 ああうん、頑丈ってだけで、それだけでこの世界では優遇されてるんだと思うよ。
 きっと空飛んだってすぐに回復できるよ。
 ていうかこの場合、及川の氣ってどっち側なんだろうね。
 俺と一緒で二つあったりするのかなぁ。

「………」
「? なに? かずピー」

 あったとしても、天でもここでも守りの氣のような気がする。
 むしろ絶対そうだと、本人の意思を全く無視して決定した。

「お、及川〜……? ちょっと握手しないか〜……?」
「お? もしかして友情の確かめ合いってやつ? ええでええで〜? や〜、やっぱ夢の中ってだけあってかずピーもノリええなぁ。ほい握手」

 握手と書いてアクセスと読む。そして彼の中に俺の氣を沈めて、早速氣の探知を開始。
 ………………。

「………」
「? どないしたん? かずピー」

 …………そっと手を離して、自分の机に着く。
 そして机に肘を立て、静かに俯き、手を頭へ。
 すぅっと息を吐いて……長く長く吐き出した。
 さて結論。

(どうしよう……! こいつ、ほんとに守りの氣しかない……!)

 しかも滅法微弱。
 なのにあの頑丈性。
 ああそうか、こいつ……生物学的にも変態だったのか。

「なぁ。お前ってなんでそんな頑丈なの……?」
「いややなー、俺かて殴られれば痛いでー? あきちゃんと殴り合って、動けなくなってまうくらいに。普通や普通」
「お前今すぐ“普通”の人たちに謝れ」
「んー……あきちゃんが言うにはこう……“ギャグ体質”?」

 えっ……? えあっ……え!? それで納得していいのか!? 人としてどうなんだ!? あ、もしかしてこいつ人じゃないのか!?
 ……言っておいてなんだけどものすげぇ説得力だどうしよう!

「シリアス空間で殴られるとこう……芯に響くみたいな? や、そーゆー時ってケロリとしとると空気読め〜って感じになるや〜ん」
「……まあ、普通に考えたらツッコミで本気で殴るヤツ居な───……マテ。お前早坂兄に殴られてる時、わりと血とか吐いてなかったか?」
「芸人体質の男はいつも口の中にケチャップ袋仕込んどんねんで?」
「そこはウソでも血糊にしとこうな?」
「あぁほら、プロレスラーかて毒霧仕込んどるやろ? 同じ同じ〜♪」

 同じなのか? ていうかケチャップってぺっとりしててあんまり血っぽくないよな考えてみれば。そこはトメイトジュースとか……あれも血って言うには色が薄いよね本当!
 じゃあどうすればそれっぽくなるのか!?

「……勉強、するか」
「せやな」
「何度脱線すれば気が済む……」

 律儀に見守っている思春も、なんというかご苦労さまですって感じだった。




ネタ曝しです *水着回or温泉、お風呂回  動かずにアハハウフフ言うだけの回。  どのアニメでも、なぜか作画はあまりよろしくないと言われている。  ちなみに凍傷はこの水着回などが好きではありません。  ……男子高校生の日常の水着回では、“めんくい”後のビンタで笑いましたが。 *ビッグタスクドリル  ウギャアキン肉マーーーン!!  もうね、このウォーズマンの台詞だけで、僕は笑ったのですよ。  真面目な場面なのにガリガリガリガリウギャアキン肉マーンですもの。  ウギャアじゃなかったらきっと平気だった。  ちなみにアニメだと「グアアッ! キン肉マーン!」になっている。 *ニッケルクロモリ鉱  ニッケル、クロム、モリブデンの合金鋼。  ゴッドイーターで採取できる。  ゲームで例えないのであれば、ニッケルクロムモリブデン鉱が正しい。 Next Top Back