番外のなな/結局はどちらも悪かったのだという事実

 なんのかんのとやっている内に夜が来た。
 現代だというのにいつかのままの夜の街は、街灯もないのにちっとも怖くないとくる。懐かしさって強いなぁと笑ってしまう。
 さて、そんな風にして夜の街を歩いている理由はといえば、

(父さまとでぇと父さまとでぇと父さまとでぇと父さまと父さまとととと……!!)

 夜だというのに顔が真っ赤と解る赤さで、目をぐるぐる回してあわあわしている丕……華煉と、

「夜の風って、なんだか安心しますよね。鍛錬してばっかりだったからでしょうか」

 えへへと笑う、いつかの卑屈っぽさのかけらもない登……好蓮と、

「単に、悪党が現れたとして、自分で何とかできる安心感からじゃないですか?」

 好蓮の言葉に、大して考える間もなく、ずばりと答えを言う禅……桜花。
 彼女らと街へ繰り出す約束をしていたからだ。

「それはもちろんよ、禅。なにせ今の私は父さまの教えをそのままに、間違った鍛錬を一切せずに成長できたのだからっ《どーーーん!》」

 ふんすと胸を張って、大変嬉しそうに言う好蓮さん。
 ……そうか、なにもただ生まれ変わったってだけじゃないんだもんな。やり直した分だけの時間がきちんとあって、述も好蓮も、その時間を思うように生きることが出来たのだ。
 かつては遅れてしまったスタートラインをきっちりと存分に。それはきっと、彼女らにとってとても大事な時間だったに違いない。

「……まあ、その。そうであっても、母さまたちの氣の強さにはほとほと呆れたけれど」
「うん……御遣いの氣だよね……。あれ、ずるいよね、登姉さま……」

 ずるいって言われた。軽くショックだった。

「禅、遠慮はいらない。私のことは好蓮でいい。父さまのもと、苦楽を共にしてきた姉妹が今さらなにを遠慮する。むしろ私は呼ばれたい。私は“孫家”に生きている。その証を、名を呼ぶんだ、禅」

 言って、好蓮が両手を横に広げる。その顔は……嬉しそうだ。

「孫家、孫権が娘、孫子高が許そう。私の真名をお前に預ける。真名の価値はそれぞれだ。私は私が心を許す全ての人に、私を認めてほしいんだ。だから呼べ。私は───好蓮だっ」
「登姉さま……もらった当日に許しちゃっていいんですか? ととさま、頑張って考えたのに」
「うっ……そ、それは……あの。父さま?」
「受け取ってくれたからには、その名前はお前のものだよ、好蓮。預けるのだって好きにしなさい。……タダシ男ニ預ケル時ハタダデハオカン……!」
「ととさま……いい加減子離れしなきゃ……」
「───あ」

 そ、そうだった。そもそも俺はこの三人と、意識改革のために時間を取ったのだ。
 夜の街を歩いて、父である自分の意識をもうちょっと抑えてやるつもりで。……いやらしい方向性は断じてない。断じてだ。

「そうだな。こういう感情はもう、もしかしたら産まれるかもしれない子供に向けてやらなきゃだよな」
「う……あの、父さま? その。子作りの行為のことなのですが。やはりあれはするべきなのでしょうか……あんな、痛くて辛くて気持ち悪いものを……」
「……ああその、ちなみに。あー……殺意を抑えられないけど訊くな?」
「抑えられないこと確定なの!?」
「抑えられない。絶対だ。で、だけどな、桜花。……その痛くて仕方がなかった行為、男はどんな行動をとっていた?」

 そう。物凄く最低だし自分でもそれはないだろって質問だけど、気になるものは仕方ない。むしろそんな痛いだけの思い出しかないって、いったい……?
 案の定、かつての娘二人に“うわー……それ訊くの?”って顔で……見られない!? 華煉はなんだか真っ赤で目ぇ回したまま聞いてなさそうだからいいけど、これっていったい!?
 ……いったいもなにも、それだけ嫌な思い出しかないってこと、なのか? ───そうした嫌な予感がよぎった時、好蓮が気まずそうに言葉を放つ。

「……その。男が好き勝手に触りたいところを触って、満足したのか突き刺して、震えて、終わりました、けど……」

 それが答えだよし殺そう。

「あっはっはっはっはぁあいつの一族の家系図どこかなぁ一族滅ぼしてやるよかかってこいコラァアアア!!!!」
「父さま!?」
「ととさま落ち着いて!? そ、それは、もうあんなの嫌だけどっ! 一族っていったら私たちもだよ!?」
「ぬぐぁぅ!? くっ……く、おぉおおお……っほぉおお……!!!《メキキゴキベキ……!!》」
「ととさまやめて!? 握り締めた拳が嫌な音立ててるから!」

 じゃあなんだ? 文字通り男側が満足しただけの、女にしてみれば痛いだけのものだったと……!? 触りたいところを触って、自分が満足したら突き刺して、って……あ、やばい。聞くべきじゃなかった。むむむ娘を、娘の純潔をそんな乱暴にアガガガガあのガキブチノメーション……!!
 ああだめだ、ほんとだめだ。もう他のやつらに任せられない。絶対に幸せにする。“そういう行為”には躊躇が前に出すぎていたけど、もう覚悟完了だ。

「チナミニ桜花ハ……!? 桜花、オウカオウカカカッカ我ハハハハハハオーガナリナリナリナリ……!《ゴファァアア……!!》」
「と、ととさま落ち着いて……。目が、目が赤いよ!? あとなんか口から湯気みたいなの出てる!」
「大丈夫だよ桜花ァァ……! これはただ、怒りすぎて目が血走っているだけだからァア……!」
「全然大丈夫じゃないよ!?」
「……禅のものは、ひどかったと聞いています、父さま。そういった知識がろくになかったのか、あえてそうしたのか、興奮のあまり頭が動かなかったのか……今となっては知ることも出来ませんが、準備も無しに貫かれ、激痛に気絶したまま終わったそうです」
「………」
「あの。父さま。氣が。き、氣がっ……氣が溢れて、頭上で“滅”の字に……!」
「好蓮? 桜花? これからはお前たちに言い寄ってくる男が居たら、俺に報せなさい。大丈夫、俺の制裁は確実です。必ずや相手野郎様の息の根……ごっほげほっ! ……と、止めちゃいけなかったな。よし、接待して下剤入りのお茶でも振る舞おう」
「だめだよ!? ……と、ととさま? あのね? 危ないことするようなら、私はととさまに言ったりは───」
「大丈夫だ。危ないことはしない。ただ動けないように縛り上げて、桂花の生徒として突き出すだけだ」
「突き出したらどうなるんでしょうか」
「いい質問だなー好蓮ー♪ ……とりあえず自分がどれだけ悲しき男なのかを擦りこまれるんじゃないか?」

 よし落ち着こう。娘達……もとい、好蓮たちが恐怖している。
 そして華煉はまだ赤いままだ……どうしよう。
 そもそも……聞こえているのだろうか。声をかけたら反応は……ん、んん。

「………」
「でーと……でーとってなにをするのだったかしら……! たたたしか桂花の授業では、主に男に貢がせて困らせて苦しませて、最後にまた奢らせることを約束させる、女が得をするための行事だとか……!」
「……ふんふん」

 華煉の目の前で手を振るってみるも、反応なし。
 なので、

「華煉」
「なにかしら?《シャッキィーーーン!!》」

 声をかけてみた───刹那、高貴なる姿勢で応対をしてみせた。
 なにが彼女をこうまでさせるのかは謎だが、とりあえず呼んだ相手が俺だと気づくと一気に赤くなった顔と、そのぐるぐるお目々はなんとかしなさい。

「とにかくだ。もう決めた。お前たちは、俺が幸せにする。つか、自分で訊いておいてあれだけど、かつての娘の生々しい初体験とか何を訊きだしてんだろうな、俺は」
「あの、ととさま? 急に話を振られても、丕姉さまは反応できないと思うよ?」
「あら。馬鹿にしないでもらいたいわね、禅。───初体験? つまり未熟だと言いたいのかしら? だとしたらこの曹子桓も随分と低く見られたものね。ええそうね、確かに体験したことなどないわよ。けれど知識は誰にも負けないつもりよ」
「えぇえええっ!? そそっ、そうなのですか丕姉さま!!」
「そ、そんなっ……姉さま!? それは本当に!? こ、講師はやはり朱里様で……!? それとも雛里様……!?」
「? 凪と秋蘭だけれど……なに? 何故そこで当然のようにその二人の名が出てくるのかしら」
「だだぁあってだってだって! そういうお話で、しかも誰にも負けないだなんて言うなら!」
「そうです! 外せない筈です姉さま!」
「そ、そうなの? そんな話は聞いたことがないのだけれど」

 …………ハッ!? 意識が飛んでたような、そうでないような……!
 あぁあいやそれよりも!  丕が! 華煉が! よもやそっち系の知識に富んでいただなんて!
 しかも朱里や雛里の協力無し!? それってあれですか!? 夜な夜な独りで艶ッツヤの書物をひとり読み漁っていたと……!?

(華煉……色を知る歳かッッ!!)

 などとオーガやってないで。
 別におかしなことじゃないだろう。むしろあれだけを生きて、一度もそんなことがなかったらそっちの方がすごい。
 しかしまあその、なんだ。……ものすごーく複雑な気分だ。ある意味娘の体験談を聞くよりも複雑。ああ、好蓮と桜花の話は怒りが浮かんだ。解りやすかった。そして許せん。
 でも華煉は……なぁ。お、親としても、一人の女として見ようとしている男としても、どう反応すればいいんだろうか。

(ふむ……敵の布陣も周到か。 厄介だな……)
(孟徳さん……)

 布陣かどうかは別として、厄介なものだ。
 あれか。華煉の部屋を勝手に掃除して、出てきた艶チックな本を机にでも重ねておけばいいのか。よし落ち着けどこのお母さんだ俺。

「とっ……ととさま! ととさまぁっ! 丕姉さまが知らない間に達人さんになっちゃったよう! 頭の中でだけど!」
「やめなさい本人の前で」
「父さま……なんとかしてあげてください……。得意げに語っているのに全て知識だけだなんて、見るに堪えません……! あの人、私の姉さまなんです……!」
「だからやめなさい、本人の前で」

 あと俺の娘だった人でもあるんだから。
 俺の服を引っ張って懇願する二人とは、少し離れた位置で胸を張っていた華煉が、ハテと首を傾げる。
 なんとかしてあげろっていったって、どうしろというのか。訊けと? どんな本から得た知識だ〜とでも訊けと?

「あー……その。華煉? ちなみに、お前としてはそのー……そのテの行為は、どういったことから始めるのが普通だと思う?」
「え……そ、それはもちろん、手を繋ぐところから、なのでは」
(あ……結構まとも)
(わわっ……結構まともだぁ……!)
(姉さま……信じていいんですね? そうですよね、かつては完璧な姉だと羨んだあなたです。あなたは高き存在であってください……!)
「ほほう。で、次は?」
「えっ……それは、その。腕を組んだり……」
(……登姉さま。わたし、なんだか自分が穢れた存在に思えてきました……)
(しっかりするのよ桜花。じゃないと話を振った私たちこそが穢れそのものとなるのだから……!)
「……? 次は?」
「っ……あ、あの、父さまっ! 確かに私は先を先をと関係を急いてはいましたが、そうなったからこそその関係を大事にしたいというかっ……! ままままずはですね! 手を繋いでから腕を組むまでの期間を大事にするこも大切だと思いまして!!」
「………」

 ……うん。なんか冷静になれた。なんか違うって思ったけど、よーするにあれだ。

「好蓮。桜花」
「えっ!? あ、はい! なんでしょうか父さま……」
「なにかな、ととさま……」
「恥を飲み込む前に受け止めておけ。……華煉がしているこれは、デートの話だ」
『───…………』

 あ。固まった。

「え? あの、なにを……? でぇとの話でなければなんだと───」
「う………ぁああああああああっ!!! どうしましょう登姉さまどうしましょう私今とても死にたいです!」
「姉さまごめんなさい登は穢れておりましたもういっそ殺してくださいぃ……」
「え、えぇっ!? なにを言っているのよ!」
「だ、大丈夫です丕姉さま……! 丕姉さまはそのままで……純粋なままでいてください……!」
「むしろ姉さまをあんな考えで汚すような自分が恥ずかしい……! 姉さまが隠れて艶本を見ているだなんて……!」
「つやっ……!?《キンッ》……子高、ちょっとそこに座りなさい」
「へやいっ!? あ、え……あの、姉さま……?」
「聞こえなかったのかしら? 私は。あなたに。そこに座れと言ったのだけれど?」

 ……目の色が変わった。ああ、これは本気で怒ってる。
 でもさすがに天下の往来で女性を座らせるわけにはいかんだろう。
 なので腕を組んで冷たい眼差しで好蓮を睨む華煉の頭をわしりと撫で「ぴぃっ!?」……ると、先を促した。ぴぃってなんだぴぃって。

「華煉、行くぞ。せっかくの時間を説教なんかで潰さない。そりゃあ説教だって大事なものではあるけど、そもそも話がかみ合わなかったのが原因なんだ。それを説明するから。ほら、来い」
『は、はいっ!』

 数歩先へ歩き、けれど追ってこない三人にほれと手を伸ばすと、元気に駆け寄ってくる三人。
 さて……まず何処から行こうか。時間も時間だから、行けるところは限られてるしな。



-_-/華煉

 ───これは夢ではなかろうか。
 今、私の頭の中を支配するのはその言葉ばかりだ。
 父さまとでぇと。出かけることさえ数えられる程度だったというのに、でぇと。しかも娘ではなく女性として見るために真名まで授けてくれて、その上で歩く城下……!
 なんということだろう……夜だというのに、この街が輝いて見える。
 え、えぇと、まずどうするのだったかしら。手? そう、手を繋いで……いえ待ちなさい、曹子桓。そんな、まだ女性として見てもらい始める段階だというのに手など繋いだら、父さまのことだ。きっと甘えん坊だという認識しか抱かないに違いないわ。
 いい、子桓……いえ、華煉。女性で在りなさい。女性として足る女でありなさい。
 父さまが私を女性として見る努力をしている時に、娘として見られる行動を取るなど愚の骨頂。慕う者の努力の足を引っ張る行為など恥、というものだわ。
 隣を歩みたいのなら、傍で生きるというのなら、不快にするのではなく、足を引っ張るのではなく、互いに高めていける存在で在りなさい。
 そう、凜として前を向き、胸を張って───!

(父さまとでぇと父さまとでぇと父さまとでぇと父さまと父さまとととと……!!)

 いい気分だわ……頭の中がたったひとつの目的に向かって回転している……! 余計なものなど踏み込む余地のないひとつの刃となり、それを研ぎ澄ませてこそ自信とともに歩けるのよ。そう……それこそ、父さまの名、一刀の名の下に生まれた者として誇る道!
 …………それにしても夜だというのに暑いわね。顔がじんじんして仕方がないわ。
 けれどそれも気にならないほどの幸福の中に居る。そう……今、私は幸福だ。

「………」

 ちらりと見れば、隣に父さま。いつも通りの、あの頃のままの、ふらんちぇすかの服を着た父さま。
 本人は“卒業したのにいつまで学生気分で居なきゃいけなんだ……”とか言っているけれど、これでこそ父さまだ。あの頃は成長しなかった体に筋肉が乗ってくると、父さまは嬉しそうながらも少々窮屈そうに服を着ていた。
 もちろんと言っていいのか、父さまは太い筋肉よりも細い筋肉を目指したようで、以前見せてもらった……ぼ、ぼでびるだー? とは違い、細身のままに余計な脂肪が削げた、綺麗な体をしている。いえ、その、ぼでびるだーが汚い体というのではなく、父さまらしさを消さないままの筋肉、と言えばいいのか。
 大体、父さまの顔のまま体だけぼでびるだーにしてみれば、きっと私はそんなものを見た瞬間に気絶する。父さまは細身のままがいいのだ。そう、余計な太さなどない、けれど触れれば氣がこぼれるような、肉ではなく氣が宿った細い筋肉が。
 華佗と延が言っていたけれど、父さまの体は面白いくらいに特殊なものに“仕上がっている”らしい。長い年月を経て、父さまの持つ黒檀木刀に氣脈が出来たように、その体そのものが氣脈であるかのように。言ってしまえば髪の毛一本一本にさえ氣脈が存在するという、おおよそ生涯を氣の探求に費やさない限りは到れない世界の話なのだそうで……この時ばかりは、いつも穏やか笑顔な延の笑みも、少々引き攣っていた。

「………」

 またちらりと見た父さまは、好蓮と桜花と一緒になにかを話している。なにかに向けて真剣に怒っている表情だ。話は聞けなかったけれど、その顔に見惚れた。
 するとまた顔がちりちりと熱くなって、視界がぐるぐると揺れてくる。
 その後に持ちかけられた話に呆然としたり怒ったり。艶本を見ているなどという疑いをかけられた時には、視界が変色するほどの怒りが私の頭を支配する。……ええ、したのだけれど、その頭が父さまに触れられた途端、怒りなんて感情が霧散してしまった。
 ……そう、そうだ。でぇと中なのだ。なにも怒る必要などないのよ。今を楽しむのよ華煉。怒ることなど、あとでいくらでも出来るでしょう?
 にこりと好蓮に向けて笑んでみせると、彼女はひぃと声を上げた。失礼な。ともあれ、現在は父さまに促されて、夜でもやっている飯店へ。そこで軽食を頼みながら、出された飲み物を口にして、話を戻す。

「それで、初体験というのはなにを指したものだったのかしら」
「え!? えと……それは、その……と、ととさまっ」
「へっ!? ここで俺に振るか!?」
「だって父さまは大人ですしっ!」
「お前らだって一度大人になっただろっ!?」
「ととさま……」
「父さま……なにもここでそれを出さずとも……」
「え? なにこの空気……。娘達のアレの事情を聞いた時にも流れなかった空気が、なんでこんな時に……!?」

 なんだかよく解らない空気が流れ始めた。父さまはあわあわと慌て始め、私をすまなそうな顔で見つめてくる。なんだろうか、そんなにも私に都合の悪いことだったのだろうか。
 けれど平気です、父さま。私は……華煉は力強く生き、父さまへの想いを遂げるために死をも超えた女です。今さら、己の身にかかる小さな話題程度で狼狽えたりなど───!

「……その、な、華煉。初体験っていうのは、男女の営み。つまり、子作りのことでだな」

 どかーんと頭の中で大爆発が起きた。顔、熱い。
 え? なにかしら。なにか、とんでもないことを言われた気がするのだけれど。
 男女の営み? 子作り? え、ええ、知っているわ? 知っているわよ? あれでしょう? じょ、じょじょじょ女性が、ある一定周期……排卵の時期にその、恋する男と、その……!

「な、ななななんだ、なにかと思えばそのようなこと。ふふふ? ええ、もひっ……もちろん、知っているわよ?」
(噛んだ……)
(噛みました……)
(姉さま……)

 大丈夫、大丈夫だ。私は平気。なによ、そのくらいの行為など、誰だろうとしていることじゃない。
 そんな、して当然ことでこの曹孟徳が一子、曹子桓が狼狽えるとでも?

「ももももちろん、確かに私は初めてよ? したこともないわ。大切にとっておいているのだから、当然じゃない」
「そ、そうだよね。丕姉さまには相手が居なかったもんね」
「作らなかったのよ。言い方を間違えないで頂戴」
「で、でもでもだよ? それで初めての相手がととさまになるのは……その、羨ましいと思うけど、怖くないの? あの……とっても痛いよ?」
「痛い……ああ、ええ、そうね。焦るあまりに痛くなってしまうこともあるというわね」
「その通りです姉さま。特に好きでもない相手と、子を為すためにする行為ほど気持ちの悪いものは……!」
「? なにを言っているのよ。好きでもない相手との間に、子など出来るわけがないじゃない」
『───《ぴしり》』
「?」

 私の言葉に、父さまを含めた三人が固まった。
 ? なんだというのかしら。

「……あの。ととさま?」
「ちょっと待て。可能性を拾い集めてるから。……痛い……痛くなる初めて……? コウノトリとは関係ないし……」
「禅、登、言いたいことがあるのならはっきりと、私の目を見て言いなさい」
「んー……そうだな。よし華煉、知りたいことがあるからちょっと話を聞いてくれ」
「!《グボッ! ……ソッ》」
「こらこら、言った傍から視線を逸らさない」
「は、はいぃっ!」

 真っ直ぐに目を見つめられ、顔が灼熱してつい視線を逸らしてしまった。さ、さすが父さま……! 腹に力を込めて構えていたのに、その眼光ひとつでこの華煉を屈服させてしまうとは……!

「で、なんだけどな。えーと、子供はどうすれば出来るか、知ってるか?」
「は、はい」
「じゃあ、どうすればいいか言ってみてくれ」
「!? あ、あの、父さまっ……!? 夜で客が少ないとはいえ、個室とはいえ、飯店で、そんな……!」
「む。んー……」
(と、ととさまっ、ふぁいとだよっ、丕姉さまのことだから、ととさま相手ならちょんとつっつけばすぐに折れるからっ)
(姉さまは父さまには滅法弱いから平気ですっ、さあっ……!)
「……きみらさ、姉を尊敬してんのか貶してんのかどっちなの……」

 呆れた顔で父さまが溜め息を吐きつつ、なにかを言った。けど、すぐに私を見つめて───

「……華煉。お前の口で、言ってみなさい」
「はぅっ……」

 真っ直ぐに、私だけのために伝える声で、私に向かっての言葉。それがきゅぅんと私の耳に響いた。
 そうなれば嫌だなんて言えない。まだ料理が運ばれてこないことを確認してから、意を決して子作り方法を口にした。

「そ、そのっ……恋した男女が互いを思いながら、衣服を脱ぎ捨て裸で抱き合い、そのっ……舌を絡ませるほど深い接吻をした際に、周期が来ていたのであれば身に宿すことが出来ると……!」

 言った。言ってしまえば恥ずかしさしか残らない。
 恐らく真っ赤であろう顔を俯かせながら、私は父さまの反応を待った。

「……華煉。その情報の出所は───?」
「え? あの、父さまの友人の、あの及川という男が、いつかの日に。あ、それで、そのあとは男性がその、りーど? してくれるらしいので、身を任せればいいとだけ───……あの、まさか間違っていた、と……?」
「いや、合ってる。合ってはいるんだ」

 そうは言うけれど、父さまは頭を抱えて長い長い溜め息。
 ……ええ、軽く殺意が湧いたわ、あの眼鏡男に。

「登、禅、正直に答えなさい。父さまの仰られた通り、私の知る子作りは間違っているのかしら?」
「う、ううんっ!? 間違ってないよ!? それは確かに営みだもんっ!」
「そ、そうです姉さま! それは間違いではありません! ありませんけど……! あの、何故それで痛みがどうとかと……?」
「あら、なに? そんなこと? なんでも初めての男性は、勢いのあまりに歯と歯をぶつけ合ってしまうらしいじゃない。それは、とてもとても痛いことでしょう?」
「……え、ええあの……はい、そっ……そうです、ね、姉さまっ……!」
「……ソウダヨ。ハジメテノトキ、キゼツスルホド、イタイヨ《カタカタカタ……!》」
「き、気絶するほどっ!? そんなに勢いをつけるものなの!? 〜〜〜……い、いえ、けれど父さまなら、きっとやさしく……!」
「あ……姉さまの中で、もう父さまと営みをするのは確定なのですね」
「ひぃぅっ!?《ぐぼんっ!》なひゃっ……なにを───こほんっ! ……なにを言っているのかしら? わわわ私はそういうことが言いたかったのではなく、いえ違いますあのっ、父さまとのそういうことが嫌なわけではなくてっ! そ、それはもちろんいずれは父さまとそういうことをする覚悟は昔からっ……いえがっついていたわけではなくてですね!? あ、いえ、そうと言えるほど父さまのことを想っているというか、それが答えではあると言いますかっ、あの、そのっ」

 頭が熱くて上手く思考が纏まらない。いつからこんなにも弱くなったの曹子桓……! もっときっぱりと、しゃっきりとなさい。あなたはそんな女ではないでしょう。
 もっと真っ直ぐに、力強く、思っていることなど全部伝えるつもりで……! そ、そう、今さらだと思おうが、想いを伝えることは自分の気持ちへの自信にも繋がる。いきなさい華煉。ここで前に進んで、こんな場所ででも父さまに伝えられるほど、自分の思いは強いものなのだと父さまに届けるのよ───!

「あ、あのっ!」

 ぐるぐると回る目はきゅっと閉じ、手を伸ばしてその手を取る。
 驚いたような、戸惑いの声が耳に届くけれど、そんなものはもう気にしない。今まで様々な将たちの行動を見て、それはないと思ったことなど忘れなさい。
 父さまはこう見えて鈍い。想いはきちんと、解る言葉で、届かせなければ絶対に届かない人だ。
 だから迷うな想っていること全部をぶちまけて───!

「私はっ! あ、あなたのことが───好きです! ですから、そういった行為も───!」

 閉じていた目を開け、掴んだ手を引き寄せるようにして引っ張る。
 自分を見ているであろう目を、より一層、自分の目の奥を見てもらうように。
 引っ張って……引き寄せて……そして、固まった。

「お……おやおや、こりゃあ嬉しいねぇ。でもごめんねぇ、あたしにゃ旦那が居るから」

 ……いつの間にか、父さまが軽く太ったおばさまに変貌して、照れ笑いをしていた。
 え? なにこれ。
 ちらりと見れば、その奥に父さま。私の手は、持ってきた皿を卓に置くために手を伸ばしたおばさまの手を掴み、それを無理に引っ張ってしまったらしい。零れ落ちそうだった皿を父さまが抱えていて、なんだか絶望を含んだ表情。
 その表情が語っていた。“華煉……お前まで、お前まで女好き……しかも熟女好きで人妻好きだなんて……!”と言ってい───待って!? 待ってください父さま! いくら誤解でもそれはないです! あんまりです! とか慌てているうちにおばさまは戻り、温かな料理だけが残された。




-_-/かずピー

 コーーーン……

「あー……その、華煉? 華煉〜……?」

 華煉が卓に突っ伏してしまった。
 こう、なんというか……女性が突っ伏して泣くあの格好っぽいアレなアレで……ええと。まず、左腕を脇から肘まで卓につけます。その二の腕に右手をポンと乗せて、その右腕に目元を乗せるように突っ伏して、空いている左手を頭の上に乗せます。はい、女性泣きポーズの完成です。その際、二の腕に置く右手はポンとおかずに、自分の頭を抱くようにキュッと締めてもいい感じです。本人泣いてるけど。

「だ、大丈夫だぞ華煉。ととさまは、お前が熟女好きでも人妻好きでも応援する!」
「《ズドドドブシャアッ!!》〜〜〜───…………《がくり》」
「あぁあああ! 丕姉さまに言葉の|刃雨《じんう》が!」
「父さまさすがにあんまりです!」
「えぇっ!? 理解のある父になろうとした直後にダメ出し!?」
「ととさまぁ……状況をもっと考えようよぅ……。さっきの丕姉さまは《がしぃっ!》ひうっ!?」

 仕方ないなぁって顔で、人差し指をピンと立てた桜花が、七乃みたいに指をくるくる回し始めた途端、その指を華煉に掴まれた。
 目を真っ赤にしてジト目な彼女は、それでも眼光を腐らせたりなどしていない。涙目だけど。あら可愛い。

「よっ……ぐしゅっ……余計なことは謹んでもらいたいものね……。誰がいつ、私の代わりに想いを伝えろなどと言ったのかしら……?」
「あぅ……で、でも丕姉さま、またポカやらかしそうだし……」
「ほっ、ほうっておいて頂戴! 〜〜……父さま!」
「え? は、はい?」
「私は女性好きなわけではありません! この心はあの日より今まで、ずっと、ずぅっと一人を想ってきました!」
「華煉───……お前、そこまで明命のことを」
「ちぃいがうって言ってるでしょうがいい加減本気で怒りますよこの鈍感大王!!」
「鈍感大王!?」

 かつての娘に鈍感大王言われた!
 や、やっ……だって目の前で飯店のおばさまへ向けた娘の熱烈告白なんてやられてみろ! あんなのの後に落ち着けってほうが無茶だろ!

「う、いや、解ってはいるんだっ、落ち着けっ! 今さらお前の気持ちを茶化すようなことを言って悪かった! で、でもだな、目の前で飯店のおばさまに熱烈な告白をしているかつての娘を見た俺の気持ちだって華煉には解らないだろ!」
「はぅぐっ!? ……〜〜〜……で、ですからぁああっ……! あれはただの勘違いとか間違いとかそういった類のものでっ……! 私だって自分の気持ちを、欠片でも他の誰かに向けることを屈辱と思っているのにっ……よりによって……よりによって父さまの前で、あんな……!」

 言ってる途中で堪えられなくなったのか、再び卓に突っ伏して泣いてしまった。
 ……好きって言葉にこれほど想いを乗せられるって、素直にすごいと思える。俺も時代という名の遠距離恋愛は経験済みだけど、それだって何十年どころか1800年っていう華煉には負ける。
 だから、こればっかりは茶化すのは可哀想だ。やっておいてなんだけど。素でやっておいてなんだけど。混乱していたとはいえ、なんだけど。

「悪かった。ごめんな、華煉。焦っていたのは本当だけど、誤魔化しがなかったって言えば嘘になる。……ほんと、ごめんな。けど、もう大丈夫だ。父さん───いや、俺はきちんと、お前の気持ちから逃げずに、誤魔化さずに、受け止めるから」
「…………ぐすっ……ほんと……ですか……?」
「ああ。二言はないっ」
「本当に本当ですか……?」
「もちろんっ」
「じゃあ私と一番最初にその、いとなみ? してくれますか……?」
「おうっ! …………OH?」
「……やくそく、ですからね?」
「………………OH…………」

 その後。涙をぬぐいながら「さ、食べましょう」と匙子を動かす華煉を前に、今度は俺が女性泣きポーズで人生についてを深く深く考え始めたのは言うまでもない。
 好蓮や桜花に散々と慰められてもしばらく立ち直れず、けれど二人の“自分たちの初体験は最悪でしたから”という言葉に覚悟を決め、この北郷の持ちうる限りの経験を武器に、彼女を満足させることを胸に誓ったのでした。
 幸せにすると決めたのなら、そこから逃げるわけにはいかないのです。義務としてでなく、親としてでもなく、ただ一人の、女性の幸福を願う男として。

「……そうだな。いつまでも距離がどうとか言ってる場合じゃないもんな。俺も、もういろんな覚悟を決めてきた。その覚悟だって、いっつも自分に自覚や認識が不足していただけ、っていうのが毎度のオチだったんだ。で、多分それは今回もだ」
「父さま……?」
「解ったよ、華煉。俺ももう受け入れる。だから───」

 引き伸ばすのももうやめだ。全部受け入れて、その上で幸せにする。だから早速、今夜にでも───と。提案をしようとしてみれば、流れでなにかを察したのか好蓮と桜花が止めてくる。

(ととさまっ!? なんで急にそんなにやる気なのっ!? あ、えと、それが駄目って言いたいわけじゃないけどっ!)
(その通りです父さまっ……! 大体ここで真正面から何を言うつもりですかっ……! 言わなくていいと言っているわけではなく、言葉を選んでくださいっ、姉さまが気絶します……! 姉さまは基本、こういうことには疎すぎるくらいなんですからっ……!)
(いきなり言葉を選べと言われてもな……なんだ? つまり、華煉が引きそうなくらいの言葉を選べってことか? 疎いなら、それも相当に引きそうな)
(そ、そうだね、それがいいと思うよっ、ととさまがんばって!)
(姉さまは一度、心を落ち着かせてから挑むべきです……! ここで無理にその気になっても、きっとあまりの痛みに受け入れたことを後悔することに……!)
(……とりあえず、お前らのかつての相手に一層の殺意が芽生えたのだけ報告しておく)

 ろくなことじゃない。古くからの房中術云々なんて言葉があろうが、その術を身に着けている人がどれほどいるのかって話だ。
 学んでいたとして、実践出来る人こそどれほど居るのか。……いや、今は殺意もほうって、俺の言葉を待っている華煉に……こう、多少どころか一発で冷静になれる言葉を贈ろう。
 確かにさっきから真っ赤っかで、冷静じゃないところが確実にあるから。
 だから俺は、その言葉を頭の中でイメージして、先ほど彼女が俺の手を掴もうとしたようにこちらから手を引き寄せ、自分も傍にゆき、抱き締めつつ言ったのだ。

「なぁ・・・スケベしようや・・・・」

 あ、無理だ。なんかいっそかつて築いた親子仲まで崩壊するほどの何かが俺の中に走った。
 いろいろなものが終わりを告げる、無慈悲なる堕天使、もとい駄天使のハンドベルが脳内に響く中、華煉は顔を真顔にする───どころか真っ赤な顔のままに俺の背に手を回してきて、なにも言わずに静かにこくりと頷いた。

(((あれぇえええええええっ!!?)))

 俺を含めた、娘たちの困惑の絶叫が心に響いた。
 馬鹿な、ぬかりは無かったはず。完璧に、誰もが引く言葉を選んだ筈なのに! 引くどころか目まで潤ませて頷くって、何事!?

「ひひひひひ丕姉さまっ!? お気を確かに持って!? そんな、初めてのお誘いをそんな言葉で頷いていいの!?」
「言わせといてひどいなお前! 桜花きみちょっとそこ座りなさい!」
「あわぁあわわ違うんだよととさま! だって丕姉さまはいろいろ初めてなのに、よりにもよってそんな言葉で受け入れなきゃいけないなんて!」
「《フッ……》平気よ、禅。営みには少々抵抗があるけれど、父さまの言うスケベというのは“助平”、男女の愛の確認のことでしょう? 男女が普段思っていても中々口出せないことを互いに伝えながら、ゆっくりと想いを確かめ合うことだと聞いているわ」
『───……』

 うん。とりあえず、誰が教えたのかは解らんけど、その人物にはおしおきしよう。……俺達三人の思いは、今確かにひとつになった。

「華煉? それをきみに教えたのは誰だい? 父さんに教えてくれるかな」
「え? あ、はい……いつかの日、翠がえろえろ魔人だのすけべ大王だのと言っていたので、蒲公英に助平とはどういう意味かと聞いたら、今のような答えが」

 蒲公英ぉおおおおおおっ!! お前かぁああああっ!!
 似たような方向性なだけあって、ま〜た桂花かとも思ったけど、“あいつがスケベを肯定的な意味で教えるわけないもんなぁもう!!”とか脳内が“どのようなお仕置きをしてくれようかァアア!!”と叫んでいる中、華煉は顔を赤くしたまま、潤んだ瞳のままに背中に回していた手を離すと、俺の胸にぽむすと顔をおしつけ、胸部分の服を掴んでこしこしぐりぐりと顔を擦り付けてきた。
 ギャアーーーアアアア罪悪感がひどぃいいいっ!! まさか受け入れられるとは思ってもみなかったから、実質これが華煉への口説き文句みたいなものになるわけで!! あっ……アーーーッ!! アアーーーーッ!! いっそ殺してくれぇえええっ!! かつての娘への口説き文句がスケベしようやって! スケベしようやってぇえええっ!!

「好蓮……桜花……八つ当たりって解ってるけど、あとでお仕置きな……」
「えぇえええっ!!?」
「とっ、父さま!? それはあんまりではっ!? そそそれは私たちが言い出したことではありますが、内容を考えたのは父さまでっ……!」
「この反応見れば、引くとか関係無しに真っ直ぐなこと言ってやったほうがよかったって解るだろ……俺、今罪悪感がひどい……」
「うひぅっ……!? そ、それは、私もですが……!」
「ああ……あんなので幸せそうにしてる丕姉さまが眩しいよぅ……」

 桜花……言った俺もアレだけど、あんなの呼ばわりは心が抉られるから勘弁してくれ……。
 ともあれ、食事は温かい内に食べないともったいない。まだ俺の胸にぐりぐりと顔を押し付けてきている華煉の頭を撫でて、メシ食うぞーと合図を送る。と、ぽ〜っとした顔で俺を見上げてきて……あの、やめてください可愛いから。ああもう、我が娘ながら……ああもう娘じゃなかった。えーと、慕ってくれる子ながら、なんでこう可愛いのか。
 少しずつ娘じゃない娘じゃないって言い聞かせてた所為もあってか、やたらとこう、可愛く見えて仕方ない。が、今は食事だ。勘違いとはいえ、華煉が熱烈告白をした相手が作ってくれた料理……ありがたく頂こう。

「でも、いいよね、ああいうの。ぜ……私の時は、相手は特になにも言ってくれなかったなぁ」
「ああ、それは私もね。あくまで次代の子を身籠るための相手でしかなかったということよ。愛を確かめ合うという意味では、素直に姉さまが羨ましいわ」
「うーん……言わなくても解るだろって態度が嫌いだったなぁ、私」
「ああ、それはあったわね。それで不都合があればこちらを睨んできたり」

 席に着き、いただきますを唱えてみれば、盛大なる男への文句が飛び交い始める。華煉はぽーっとした表情のままに箸を持ち、けれどその視線は俺に向けたままだったりする。

「そのくせととさまに知られることには怯えててね」
「それだ、あのびくびくとした態度! だというのに二人きりになると途端に態度を大きくして!」
「あの時の柄姉さまはすごかったねー」
「お陰ですっきりしたわね。男どもが黙りこくってしまって」
「うちべんけー、だっけ? とにかく、登姉さまと二人きりだと思って大きな態度で現れた相手を、柄姉さまが壁に激突するほど思いっきり殴った時は……すっとしたなぁ」
「私も、あの時は王の娘だからと気を張りすぎていたわ。問題を起こせば父さまや母さまに迷惑がかかると、我慢をしすぎていたのよ」
「それは私もだけどね。でも、考えてみるとあの頃からだよね、男の人が私たちを怖がるようになったのって」
「仕方ないわ。男どもがこぞって、嫁を見下していたのだから。婿になったなら上に立てるだなんて、どうして思い至ったのだか」
「ぷふふふふっ……柄姉さまの相手は、逆にいっつもびくびくしてたよね……!」
「行為の時にあまりの痛さに泣かされて、その腹癒せに“痛いだろこのばか!”と言って殴って、相手も泣かせたというのだから……くっふふふふふ……!!」

 そして……かつての娘達の会話が怖いです。
 いろいろぶちまけたいこととか、あったんだなぁって。
 代わりに、そういう相手が居なかった華煉は、妹たちの痛み云々に反応を示し、顔の赤みを瞬時に消して真顔になっていた。

「あなたたちの相手は、それほどまでに最低だったの?」
「あ、うん。やさしさもないし感謝もないし、いつもなにかに怯えながら、なんていうのかな、“相手をしていた”って感じの関係だったかな」
「好きになる努力もなく、本当に務めていたという感じでした。あれを見てしまえば、いっそ私たちも姉さまのように父さまを好きなままで居れば、と後悔したほどです」
「───それは、姉妹全員がそうなのかしら?《めらり》」
「ひうっ!? え、えっと、丕姉さま……? 飯店で殺気はまずいよぅ……?」
「姉妹のほぼが同じ意見です。期待してなど居なかったという者が大半、こんな筈ではなかったと思うものも大半。……父さまと母さま方の関係を見ていれば、きっと幸せな筈だと信じてしまうのも、仕方のないことなのですが」
「そうだねー……私も、絶対に幸せになれるって思ってたのになぁ」

 ……あー……殺意が。なにをやっているんだあの頃の男たち……!
 幸せにするどころか後悔ばっかりさせて、それでいて報復受けて怖がって、って……ああもう情けない。
 怖いって部分なら、そりゃあ解らんでもない。静かに怒った時の魏武の大剣様とか、もう恐怖の権化だろ。けど、きみらの持つ恐怖はそういうのじゃないだろう、男達よ。
 ……大方、初夜の……行為の際、痛がったり涙したりした相手を見て、自分でも屈服させられるとか勘違いしてしまったんだろう。もしそんな理由を最初に行為をして経験した男に聞いて、前戯も半端にわざとそうしたというのなら、男が見下されていたことなんて、むしろ自業自得だとさえ思えてしまう。
 さらに言えば、自分までもが情けなくて仕方ない。そんなことさえ知らず、みんなとの別れや左慈との最後ばかりを考えていたのだから。

(……もっと、この娘たちのことも、考えるんだ。あの頃にしてやれなかった分まで)

 目を閉じて、いつかは完了出来なかった覚悟を胸に叩き込む。
 そうして目を開けてみれば……自分の見ている世界は、また随分と色を変えてくれた。
 ……女性を泣かせる時は幸せの涙を。歌などによくある言葉を思い出して、静かに笑う。そうしてから……穏やかな気分のままに、気づけば俺の顔を見ながらもくもくと料理を食べている華煉へ、苦笑を返すのだった。

「あ、あの。それで、父さま。その……すけべ、は。いつするのでしょうか」
「おぼっふ!?」
「うぶぅっふ!?」

 とほー、と溜め息を吐いてから、喋り疲れて飲み物を飲んでいた好蓮と桜花が噴き出した。そりゃあ、時折ポカをする以外完璧だった姉の口から、すけべしますか宣言とか相当驚くだろう。

「そうだな。戻ってからするか」
「えぇええええーーーーーーっ!!?」

 その直後の爆弾投下で、華煉を見ながらわなわなと震えていた好蓮が、こちらをゴキィと振り向いて絶叫。……のちに首の後ろを押さえながら静かに震え始めた。振り向くならバッと振り向く程度にしておきなさい。なんだいゴキィと振り返るって。

「えなぁああちょちょちょととさまっ!? え!? 戻って、って、えぇっ!?」
「は、はいっ、頑張りますねっ《ぱああっ……!》」

 で、俺の返事に幸せそうなはにかみ笑顔を見せる華煉を前に、好蓮と桜花は目をぐるぐるさせて俯いていた。

「……登姉さま……私、もう状況に付いていけないよぅ」
「くっはぁああ……! 痛……いたぁあ……! ───……えっ!? あ、そ、そうね、仕方ないわよ禅……! だって、あの父さまが、こんなに早く、この問題に対して決断を下すだなんて、誰も思わないもの……!」
「でも、これで丕姉さまも大人の階段を……」
「……母さま方が惚れ込むほどの相手が初めての相手……私も、我が儘で居ればよかったな……」
「だ、大丈夫だよぅ登姉さまっ、これからは、そうなれるんだからっ」
「……そうよね、そうだったわね。もう忘れましょう、あんな忌まわしい過去なんて」
「……でもやっぱり怖いから、丕姉さまの体験を聞いてからにしようカナ……」
「そ、そうね。それがいいわね。ごめんなさい姉さま……私たち、やっぱりまだ怖いです」

 華煉がてれてれと恥ずかしがってもじもじしている間、二人の妹はそんな会話をしていたらしい。らしいというか聞こえたんだけど……聞こえなかったことにしてやるのもやさしさだと思うのだ。

  ……で、それからのでぇとだが。

 なんだか全員がもじもじしてしまって、親密になる〜どころの話ではなく、それどころか好蓮と桜花が“夜は長いほうがいいから”という奇妙な理由で俺と華煉を押し帰し、中断みたいな形で終了。
 結果として俺の自室へと華煉とともに戻ることになり───部屋の中心で二人、見つめ合った。

「で、ではそのっ……ととと父さまっ、すけっすけけっ……」
「いや待て華煉、それはもう言わなくていい」
「けべっ!?」

 愛を確かめ合う行為=スケベって認識をしてしまっている華煉さんは、なんともアレだった。なのでなんとか落ち着かせようとするも、彼女はそれどころではないらしい。
 ああ、目がまたぐるぐる回ってる。色も変色したり戻ったりで忙しいし、けれど視線を外すのは不安なのか、頑張って俺の方をじぃっと見ている。そんな彼女の頭をぐりぐり撫でると、きしりと寝台に座り、隣をぽむぽむと叩いて着席を促す。特に抵抗もなくとすんと座った華煉は、なんだか楽しそうだ。

「それで、ええと、まずは手を繋ぐんですよね?」

 隣の少女は、教えられた知識を思い出すように、きちんと段階を踏んでの先へと到ろうとしている。そんな彼女にそれは違うというのも気が引けるわけで。
 ならばと、段飛ばしではあるけれど、そこまで不自然ではない方向から進むことにした。
 自分の手を見て顔をむずむずさせている華煉。その手をやさしく掴んで、引っ張るようにして彼女を胸に抱く。ぽむすと胸に納まった彼女は、「え?」なんて戸惑いの声を上げた。───その戸惑いが混乱に進む前に、自分の座っている位置を素早く変えて、軽く持ち上げた彼女を深く座った足の間にぽすんと落ち着かせる。
 そこまでしても「え? え?」と混乱している華煉の、握ったままの手をそのまま撫でて、後ろからきゅむと抱き締めた。途端、「はわわーーーっ!!?」と、どこぞの軍師さまのような言葉が裏返って放たれる。

「とととっとと父さま父さまこれはあのそのスケベするにしても上級者向けと言うかわたったたたた私たちにはまだ速いのではいえもちろん父さまにこうされることが嫌なわけでは」
「だからスケベ言わない」

 月明かりしか灯りがない状態でも解るほど、華煉は見事に真っ赤だった。そんな彼女の頭を左手で撫でて、右手ではお腹辺りをやさしく撫でる。いつか、天下一品武道会の席で、星にやったように氣を込めて。
 すると俺と華煉の氣が混ざり合うようになって、やがて呼吸も同調すると、こうしていることこそが自然だと思えてくる。
 まるで熱の中で溶け合っているような、ただただ相手のことばかりを考えて……いや、自分のことのように考えられるのだから、呼吸が合わされば、自然と近しくなる。距離がどうと言うのではなく、ただ、近しく。
 そうして、俺達は語り合った。お互いがお互いをどう思っているのか、どう思っていきたいのか、様々なことを。心と体を繋ぐようにして、時に見下ろし、見上げられ、目が合えば微笑む。
 娘だった子だから大事にしたい、ではなく、この子だからこそ大事にしたいと意識を変えてゆき、それも波長を華煉に溶け込ませているからか、思いのほか上手くいく。
 次第に見つめ合う回数が増え、笑む回数も増え、照れる回数も増え。
 やがてどちらともなく目を閉じると、互いの唇が重なった。
 深くなく、ただ軽く触れるだけのくちづけ。
 華煉は“ほう……”と熱っぽいため息を吐くと軽く離れ、顔を赤くしたままに「す、すけべ……してしまいました」と言った。……だからやめなさい、ムードさんが全力で逃げてゆくから。

(───でも)

 華煉がこれで終わりだ、と思っているなら、それでいいんじゃないだろうか。これから先は、きちんと知識を得てからでも───

「せ、接吻をしてしまいました……! これで私にも、子供が出来るのでしょうか……!」

 前言撤回、このままこの娘を人々の前に出せば、質問責めにされたのちにキスして妊娠したとか言いかねない。なので驚かないように、ゆっくりと、ゆっくりと、行為を進めてゆく。

「……華煉。えっとな、言わなきゃいけないことがあるんだが」
「え……はい……?」

 幸せそうな、ぽうっととろけた表情で俺を見上げる華煉に、現実と事実を伝えることにする。ただ知らないだけなのだから、きちんと教えてあげればいいのだ。それはなにも悪いことじゃない。

「あのな、人は、これだけじゃ妊娠しないぞ」
「え……ですが」
「好蓮や桜花が言っていた痛みっていうのは、歯と歯がぶつかるとかそういうのじゃないんだ」
「そうなのですか……? あの……父さまはそれを、私に……?」
「お前はどうしたい? 俺は……でぇとの間中、ずぅっと自分の意識と戦ってた。常識がどうとか娘がどうとか。で、結論だ。常識で捉えれば問題は無いし、そもそも娘じゃ無くなってる。お前のことは大事だし、他の男に任せるのは嫌だって心から思っちまった。幸せにしてやりたいって……俺が、幸せにしてやりたいって思っちまったんだ。そこから問答を繰り返したってなにも変わらないし終わらない。だから───」
「だから……?」
「俺の判断が遅れた所為で、お前が別の誰かに泣かされるとか、そんなのは俺が嫌だ。“きっと幸せになる、平和になった国が育んだ男だから娘を幸せにしてくれる”。そんな考えはただの願望でしかなかったって思い知らされた。……全員が全員そうじゃないことくらい知ってる。それでもな、華煉。……俺は、女性が男に身を委ねる場面で、相手を傷つけることで優位に立とうとする男に、大事だと思う存在を任せて笑い続けられるほど、平和を過信しちゃいない」
「あ、の……それはいったい《ぎゅむっ》ひゃうっ!?」

 みんなで辿り着いた平和があった。みんなで築いた平和があった。
 けれどそこには女性が優位である事実が当然としてあって、男は確かに肩身の狭い思いをしてきたんだと思う。
 でもだ。そんな女性が、“男に体を許す”なんて場面を復讐めいたことのために使うなんて、とても許せたものじゃない。時を戻せるのなら、その場所まで素っ飛んでいって、その下衆の顔面を力いっぱい殴ってやりたい。国の問題になる? 上等だ、娘を泣かす奴は敵である。
 ……華煉を抱き締めたまま、寝台にぽすんと倒れた。当然、足の間に座っていた華煉は俺の上に寝転がるように倒れる。

「は、はわっ、はわわわわ……! て、てをっ……手を繋ぐどころか腕を組んで、その上相手の上に寝転がるなんて……!」

 彼女の中で、彼女のスケベレベルが物凄い勢いで上がっているらしい。そんな彼女はもぞりと体を動かして、俺と向き合う形で俺の上に寝そべった。
 相変わらず目を潤ませて、なにかを期待して、なにかを恐れているような顔だ。あぁ、その、なんだろう。表情はどこかむず痒そうなのに、目は揺れている。そんな感じだ。

「……父さまは、私が───私たちが泣かされるのは、いやなのですね」
「ああ、嫌だ」
「では……父さまは幸せにしてくれるのですか?」
「おう、するつもりだけはたくさんあるぞ」
「…………あのですね、父さま。私たちは───……」

 くすりと笑って、華煉が言う。恐れはなく、嬉しそうな顔で。けれど、困惑も少しだけ混ぜながら。「父さまになら、泣かされたっていいと、思っているのですよ」と。

「華煉……」
「だって、父さまは泣いている人をほうってはおきません。泣いていると何処からでも現れるって、登が自慢していたことがありました」
「あ、あー……そうだな。で、慰めるはずが拒絶されて、後ろから蹴られるわけだ」
「それは言わないであげてください。登、とても後悔していました」
「今さら蒸し返したりなんかするもんか。でもな、華煉。俺は故意に人を泣かすつもりなんてこれっぽっちもないぞ? むしろ華琳に試しに怒ってみろとか言われて、やってみれば華琳が泣いたほどだ」
「母さまが!?《がーーーん!》あ、あぁああ、あのあの、あの、母さま、が……泣く……? 人前で……?」
「…………」
「…………《ごくり》」
「いやごくりじゃなくて。べつに怒ったりしないし泣かせもしないって。言っただろ、幸せにしてやりたいんだ。偉そうに言うつもりもないし、上から目線で言いたいわけでもない。自分の在り方ってものを解った上で、支えたいし支えてほしい。一人で誰かを支え切れるほど、強くないからなぁ俺」
「あの、正気ですか父さま」
「この距離で正気を疑うのはやめてくれ、ダメージがひどい」

 息さえかかるほどの至近距離。そんな距離で父の正気が疑われた。
 え? ううん? 泣いてないよ? 僕強い子だもん。

「言いたいことは解るよ。誰があの頃の都を支えてきたと思ってるんだ、とかだろ?」
「当たり前です。父さまが居なければ、母さま方が亡くなってからの三国は様々な部分が崩れていました」
「ウワー、ソレハ初耳ダー。じゃあ俺が消えたあとの三国は、さぞかしガッタガタだったんだろうな〜」
「…………父さま」
「はいはい、睨まない。……ここまで三国の在り方を引っ張ってきたお前が、ソレを否定しちゃだめだろ? まあ盛大なブーメランなんだろうけど、どれだけ頑張っても一人の力は一人の力なんだ。俺が出来たのは書類整理と見回り程度だった。その他をやってくれたのはみんなであって俺じゃない。柱ではあっても、全てを支えられたわけじゃない。だろ?」
「………」

 じっと俺の目を見る目は、納得なんて言葉とは無縁らしい。それでも、じと目とさえ取れるほどの苛立ちを含んだ目を真っ直ぐに見て、言葉を紡いだ。

「な、華煉。人が幸せになるために必要なものってなんだと思う? 溢れるほどの金か? 争いが一切ない平和な世界か?」
「……人、それぞれ……?」
「はい正解」

 正解者は抱き締めの刑だとばかりに、ぎゅ〜っと抱き締めてやる。
 やっぱりはわはわ言って慌てるすぐ傍で、俺は表情を崩さないままに天井を見ていた。

「“その生き方”を心底嫌わない人が、小さな幸せのために手を取って、それで街が出来ている。街が重なって町になって、町が連なって国になる。そこから齎される幸せなんてのはさ、華煉。誰がそこを支えているかっていうのはもちろん大事だけど……たった一人に寄り添わなきゃ成り立てない世界なんて、結局どこか壊れてる。だから支えるものを支える人が居て、その人を支える人が居る。……幸せのかたちなんてのは、ただ隠れて桃を食って笑う。そんなことでだって噛み締められるものなんだ。そんなちっぽけを糧に生きるのだっていい。そんな些細を喜びにして生きる人だって居る」
「……私の喜びや幸せは、小さなことなんかではありません」
「そっか。それは頼もしいな。でも、“あの曹孟徳が泣くわけがない”なんて決め付けてる時点で、まだまだ視野はちっぽけだよ。“泣いてたら俺が必ず来てくれる”、なんて信じ続けるのもダメダメだ」
「あぅ……」
「で、だ。華煉? 今日のお前の目標はなんだった?」
「え? もくひょ───はぅ!?」

 間近で見る表情が落胆に変わる。いや、俺へじゃなくて、自分への落胆で。だと思いたい。

「はは、そうだなぁ……ズバリ、俺に女として見てもらうこと。じゃないか?」
「〜〜〜〜っ……《かぁあああっ……!!》」
「……やっぱりか。なのに泣いて俺の到着を待とうとするなんて、まだまだ甘え足りないんじゃないか?」
「───……」

 あぅ、と小さく呟いて、一瞬悔しそうな顔をするのだが……結局、なにも返せずに俺の胸にごしごしと額をこすりつけてくる。
 で、言うのだ。「今日の父さまは意地悪です」と。

「うむ。父とて人なのだよ、娘よ。だから、愚痴も吐くし泣きもする。……で、吐いたからにはこれで終わりだ」
「え?」
「嫌だと思うことも、苦しかったことも、辛かったことも……悲しかったことも。吐き出せばきりがないことでも、悔しいけどいつかは確実に思い出ってものになるんだよな。でも、確かにそれは俺の中にあるものだから、今さらそれを疑ったり否定したりはしない。それでいいって思える」
「あ、の……あの、え? あの……仰る意味が……」
「幸せにしてやりたいって思って、他のやつには任せたくないって思って、他の誰かがお前の傍に居る光景を想像したら、嫉妬だってした。答えはそれだけでいいんだって、納得する。だから」
「だから……?」
「今から、本当の子作りをする。あ、嫌だったら全力で抵抗すること。痛かったら我慢しないこと。やめてほしくなったらすぐに言うこと。いいな?」
「………………《こくり》」

 抱き締めたまま語りかけると、すぐ傍で頷く気配。
 背中に回していた左手を、自分の左肩に顎を乗せるようにしている彼女の頭に乗せると、そのままもう一度抱き締めた。

「けれど、父さま……。その、お恥ずかしながら、私は父さまの仰る“本当の子作り”とやらのやり方がまったく解りません……」
「……昔の日本じゃ、こういう時は天井のシミ云々を言うらしいけどな」
「天井の染みを……? ええと、どうするのでしょうか」
「数えればいいらしい。その間に終わってるって、そういう文句だ」

 月明かりを頼りに天井の染みを数えろというのは、結構難しい。月明かりがたくさん差し込む場所ならまだしも、そう上手くはいかないもんだ。
 そして我らが娘達は、書物などを読む速度が速読並みだ。案外あっという間にシミの数さえ確認してしまうのではないだろうか。

「……嫌です」
「うん?」

 きゅむ、と抱き締め返される。考え事の途中でダメとか言われると結構驚くもので、すぐ横にある華煉の顔を見てみれば、その顔は少し膨れっ面だった。

「どうしてそんなことを言うのですか。父さまとする初めての行為なのに、その間中、天井なんてものに意識を向けておけと言うのですか? 嫌です、冗談じゃありません、誰なんですかそんな世迷言を言い出した人は。私が直々にその愛から目を逸らす根性を叩き直してくれます……!」
「俺、この文句にその返し方をする人、初めて見た」

 それでも華煉に取っては大事なことらしく、俺を抱き締める腕に強い力が込められてゆく。俺はといえば、そんな彼女の頭をやさしくぽんぽんと叩いて、落ち着きなさいと宥めてゆく。

「あぅ……それは、父さまは経験豊富だから余裕があるのかもしれませんが……」
「余裕ナイヨ。イロイロナ葛藤、殺シテイルトコヨ」
「え?」

 いざとなれば緊張はするし躊躇もする。が、今や自分が唱える心の問題以外に、常識的な問題などなにもない。
 血の繋がりだって従妹どころの薄さじゃないし、年齢の問題だってない。あるのは、俺が彼女らへ向ける“娘とそういう行為”をという躊躇だけだ。
 娘達からしてみれば迷惑この上ないこと……───というか、娘達にそういう葛藤がないのが驚きなくらいだ。それとも───あるんだろうか、彼女らにも、そんな葛藤が。俺みたいに頑張って、“娘”ではなく“彼女”と意識する、なんてことをしていたりするのだろうか。

「………」

 考えても仕方のないことを、軽く溜め息を吐いて頭から追い出す。今するべきことはそんなことじゃないし、かといってそれを誤魔化すために抱き締めるのも違う。
 ならどうするのか? ……より、溶け合おう。理解しよう。考えるだけじゃなく、きちんと訊いて、知って、氣も、体も、心も、全部を解け合わすように重ねてゆく。
 そんな考えが多少の違和感や動きとして、氣を通して伝わったのだろうか。華煉は少しみじろぎをするも、自らも一層に抱き付く力を強め、こくりと頷いた。

「………」
「………」

 やがてどちらともなく、申し合わせていたかのように動いて……くちづけを交わし、氣を、心を、体を、ひとつにするように解け合わせていった。




ネタ曝しです。 *あのガキブチノメーション  4年1組起立より。  パンセンはなんだか好きだった。 *我ハハハハハオーガナリナリナリナリナリ  カプコンの格ゲー、ヴァンパイアシリーズより、アナカリス。  我ハハハハハ王ナリナリナリナリ。 *大丈夫、俺の制裁は確実です  大丈夫、私のナイフは確実です。  親愛なる殺し屋様より、ヤシロさんのナイフ口上。 *色を知る歳かッッ!!  最強より最愛理論。バキより。  愛による力を手に入れたら用済みだとばかりに登場しなくなったヒロイン。 *見るに堪えません。あの人、私の姉さまなんです  男子高校生の日常より。ヨシタケの姉物語。 *言葉の刃雨  鋭い言葉は胸を抉る。その刃が雨のように降り注ぐ恐ろしい状況。 *なぁ・・・スケベしようや・・・・  これを抱き締めながら言われて、台無しだと思わない人って居るのかな。  こう、ムードがあって、次に体重を預けたくなるような心にクる言葉を言われたら、全てを委ねたいって時にスケベしようや。  破壊力がすごいですよね。いえ、女性をオトすテクニック的な破壊力ではなく、雰囲気を破壊する方向の破壊力って意味で。  2ちゃんねる掲示板、“女の子のに抱きつきながら一番気持ち悪い事いった奴が優勝”より。  “女の子のに”はそのままです。  ハローアゲェイン。凍傷です。  11日時点で一話分余裕で出来ていた筈なのに、むしろその日の夜にでもUP出来るつもりだったのに、書いていたら終わらない。  なんかずるずる伸びていって気づけば4日後ですよチクショイ。字数も8000字ほど増えましたよチクショイ。  おかしい、こんな筈じゃなかったのに。  あれか、どおれUPするとするか〜〜〜って時に早出してくれって頼まれて、考える余裕が出たのがまずかったのか。  ともあれ“番外なな”です。  うーん、やっぱりラストまでの話が纏まりません。  突発番外って難しいですねほんと。  とりあえず6月過ぎれば多少の時間的余裕は出る筈……もうちょい頑張りましょう。   ……え? 真名は決まったか?  ……タスケテとしか。いえ考えます! 考えますとも!  しかしこう……英雄譚では姿が無いモブさんにまで真名をつけるとくるから、魏、呉と楽しみなのも事実。でもあまり出されすぎると被りそうなので勘弁……! ようやっと思いついた呉の子供たちの真名が、魏編か呉編でモブと一緒だったとかひどいオチは勘弁してください。  アー! 呉編タノシミダナー!  さて。次のUPは今月中に出来たらなぁと思います。  って、こういう書き方してると大体間に合わないから、未定とだけ。  ではまた次回で。  ……え? 濃厚なるエロス描写? いえ、朝に鳥がチュンと鳴きます。むしろその描写すらない可能性も。  ではー。  あ。  英雄譚1はやったのですが、アペンドのことで頭を悩ませました。  なにせアペンドディスクが入っているのが、ネクストンパスポートで手に入るアレと、よりにもよってエロォスな雑誌。  ゲーム雑誌と割り切ればいいのだろうけど、こちとらエロスブッグなぞ買ったことがないとくる。初エロスブッグがBugbugで、しかも表紙がアレなわけで。……いやっ、そんなレベル高くないです僕!  いろいろ悩んでいるうちに時は流れ、今や通販でも中古が残るのみ。  ……中古登録されているだけで、新品だとは書いてあるものの……。  たとえば─── 1:男は悩んだ。恋姫愛のためにエロスブッグを得るか否か。 2:結局買う。悔いはなかった。 3:後日、転生小説名物トラックさんが彼に熱烈アタック、彼は潰れた。運転手の人生も潰れた。相手は転生してウハウハだってのに、オウマイガァ!(おかしすぎるわよ!) 4:しかしのちに、彼が死んだあとの家にとある本が届き、丁度いた家族がそれを受け取り……それこそが彼の遺品となった。 5:彼は地獄で悔いたという。 結論:いやぁああああああっ!!?  なんでだろう……エロゲ買うのにもはや抵抗はないのに、どうして雑誌ともなるとここまで……!  え? ええ、凍傷はエロ本買うよりもエロゲ買うのが先だったタイプです。  ギャルゲーから入って、そういう物語に惹かれて……まあ大体のきっかけは輝く季節へだったわけですが。  いろいろありましたが、まあ、あれです……。  しばらくは出費を極力殺して生きます。  では、また次回で。 ネタ曝しです。 *オウマイガァ!(おかしすぎるわよ!)  アウトブレイクバイオハザードにて、キャラは「オウマイガァ!」と言っているのに、字幕では“おかしすぎるわよ!”と書いてあった現象。  ……たしか、そうだった。 Next Top Back