番外のじゅう/いつも通り=平穏とは限らない

 とある日、とある一室……かつては御遣い様の子を身籠るための作戦会議が開かれた場所で、その御遣いが立ち、揃いも揃った皆さま方に意見を投げていた。
 祀瓢を連れて服屋を巡り、着飾ってみることになると、我も我もと手を挙げる者が居た。
 もちろんと言うべきなのか、筆頭として沙和。次に楽しそうだからと鈴々。いやきみ、途中で道草くって食事処行くことしか考えてなかったりしない?
 次いで数え役萬☆姉妹が挙手し、麗羽が高笑いとともに参戦を望んだあたりで止めに入る。

「ちょっと一刀さん? なぜわたくしが……このっ、わ・た・く・し・がっ! 喋っている最中に割り込んできますの!?」
「麗羽……お前の美的センスが最先端すぎて、他の人だとまだまだ追いつけないからだ」
「あ、あら……せんす? なんですのそれは」
「んんー……つまりはですねー麗羽さん。お兄さんは風たちの目指す美しさでは、麗羽さんには届かないと言いたいのですよー……」
「……つまりわたくしが語る至上の美しさの前には、あなたがたの理解が追いつかないということですのね? それならばまあ解らないでもないけれど……おーーーっほっほっほっほ!!」

 高笑いしつつ、なんでかちらちら見られる俺。目が合うと途端に高笑いが止み、顔を赤くしてもじもじされる。
 こうなると次は近くに居るみなさまに見られたりつんつんされたりして、“早く”と急かされた。
 ああうん、まあある意味ではいつものことだったけどさ。
 けれどそれさえすれば理解は早く納得も早いので、俺は麗羽の傍まで歩いて、

「ごめんな麗羽。今度“可愛い服”とかを見に行く時は、お前を頼るから」

 言って、頭を撫でる。
 重要ワードは“かわいい”。
 それとともに頭を撫でれば、いつものどこか上からっぽかった不敵な笑みではなく、くすぐったそうな、安心を得たようなふわりとしてほにゃりとした笑みが麗羽の顔に浮かぶ。

「いいなー……麗羽ちゃん」
「しっ……! いけません桃香様っ……!」

 ちなみにこの時、下手にあたしもわたしもあたいもなどと挙手して、しかも俺がそれに答えると拗ねてしまうから、いつからか便乗は却下となった。
 あの時代、あの世界から見て、ほぼ全員が俺と同じ年齢あたりになった今、この麗羽の安心したような笑みは凶器の類だと思うの。
 年上女性の安心した笑みに心動かないでもないが、と考えて思い浮かぶのは桔梗が奏でる音色に安心を得たあの夜。
 あの時の笑みは……ああいやいや、ここで別のこと考えてたら麗羽が拗ねる。どうしてか俺の知る女性というのは、こういうことには鋭いから。
 心でも読めるんじゃないだろうかって疑いたくなったのは何度だろうなぁ……。

「そ、そういうことでしたら仕方ありませんわね。ええ、一刀さんがどうしても……ど〜〜〜してもと、わたくしが可愛くてどうしてもとおっしゃるのだから、ここでわたくしがその、せんす? を押し付けるのは残酷な話ですから。……ですわよね?」

 きっぱり言ったあと、どうしてか上目遣いで俺に確認を取ってくる。
 不覚に思うことなんてないけど、トキメいてしまったので撫でる手にも自然と力が入ってしまう。いや、やさしさって方向での力だ。べつに乱暴にするつもりはない。

「う、うー、うー……! 鈴々もなでなでしてほしいのだー……!」
「こらえろ鈴々……! ここで立っては余計に長引くだけだ……!」

 むしろ愛紗、いつもありがとう。
 次に誰をと言われたら、迷わずキミを労いたい。

「そんなわけで、なんというか押し付けるんじゃなくて、見守る側に立てる人に頼みたい」
「はいはい! はーい! 沙和が───」
「却下」
「隊長ひどいのー!」

 沙和が元気に挙手までしてくれたが当然のごとく却下。
 キミは見守る側には向いていない。ファッション系だと特に。

「ていうかそもそもなんでこんなに集まったんだよ……。俺、白蓮にしか相談してない筈なんだけど」
「お、おいおい北郷っ? まさか私のことを疑ってるのかっ?」
「いや、白蓮はこういうことでそういう、言いふらすみたいなことはしないって知ってるし信頼してるから」
「え……あ、そ、そうか…………〜……そうか……信頼……はは、信頼……そっか……」
「つまり、ここに来てもらった瞬間を誰かが見ていて、それを伝え合った結果ってことに……」

 ここでちらりと予想出来る相手を見てみれば、物凄い速さで首ごと視線を逸らし、同じ背格好で歳の似たくらいの……いやまあここにはそんな人しか居ないし、そもそもこの時代に来てから全員の年齢が統一されたみたいだが、ともかくそんな相手をお嬢様と呼び、突如として話題を逸らし始めた。
 まあようするに七乃である。……あえて言おう。またお前か。

「ならば主様! 妾を頼るがよいのじゃ! 袁家で養われた美的……せんす? と、主様とともに歩むようになって磨かれたこの〜……な、なにかの? あたたかい何かを以て、主様も満足する服を選んでみせるのじゃっ!《どーーーん!》」
「さっすがお嬢様! ちょっと話題を振っただけで物凄い食い付きですっ! よっ、三国一のお調子者っ♪」
「うほほほほ! そうであろそうであろ! もっと褒めてたも!」
「───」

 美羽は……アレだな。
 違う外史の美羽とくっついたことで、ま〜た騙されやすくなってるのかもなぁ。
 その場面を見る機会があまりなかった所為か落ち着いてたけど、見えてないところだと随分とからかわれてるんだろうなぁ。
 この容姿でこの純粋さ。ある意味ずるいというか……まあ、ずるいよな。うん。
 俺の中の様々な北郷がざわめきだすほど綺麗で可愛いから困る。そりゃあ、こんな人に一途に純粋に真っ直ぐに想われたら、心も頭も動揺しまくりだろう。
 だが残念ながらだが、今回は遠慮してもらおう。
 ついてきても漏れなく七乃が付属してきて、場を引っ掻き回す様が簡単に想像できるし。そもそも美羽も、そういうところに行ったら自分の趣味に走って…………いや、しないか。他の外史の美羽がどうあれ、打ち解けられた美羽は空気も読めるようになったし頑張り屋だった。

「………」

 なんだか突然ありがとうを伝えたくなって、歩み寄って、頭を撫でて、感謝を伝えた。
 申し訳ないけど留守番していてくれとも。
 少ししょんぼりしたけれども、切り替えも早く、胸を張って「うむ! 留守はどどんと任せてたも!」と言ってくれた。胸おっきい。落ち着けどこぞの北郷、この娘をそういう目で見るんじゃありません。

「ええっと、美羽にも言った通り、騒がず押し付けず、な人がいいんだが……あ、白蓮は確定で」
「わっ、私かっ!? ……あ、ああ、まあ、うん。……わかった」
「あとはえっと……───あの。みんな? なんでそこで一斉に姿勢正しく座り直すの」

 あとはえっと、と指名しようとすると、ざわざわと嫌でも賑やかであった場がシンと静まり、慣れた体(てい)でどっかと座っていた人たちがシャキッとしゃらんと居住まいを正した。
 みんなどれだけ服屋行きたいの。

「じゃあ思春───」
「! ま、待て、待て北郷。信頼を置いてくれるのはありがたいが、その……私にはそういったものを選ぶ感覚というのか、そういうものがない。それはお前も知っているだろう……すまないが私は遠慮させてもらう」
「え……そ、そっか。じゃあ他に……」
「……護衛はするが《ぽそり》」
「え? 思春今なんて?」
「なんでもない。お前は安心して思うままに動け」
「………」

 頼もしい微笑みで迎えられてしまった。
 心から気を許して、守ってくれようとする思春さんの“頼り甲斐”が、下手な男性よりもよほどに高いってすごいね。男の俺から見てもいろいろとアレですよ。いや、いい意味でね?
 いつもなら“なんでもない”を押しのけて、言ってくれるまで訊きまくるところだが、思春が笑みとともになんでもないというなら……それは信じよう。ただし、笑みに違和感を感じたならば、即座に、問答無用で、なにがなんでも訊くつもりだ。
 けどそうか、思春がダメとなると……

(ここで思い浮かぶのが真っ先に紫苑とか桔梗ってあたり、璃々ちゃん絡みで見守る人としての経験が多い人に頼りたいって気持ち、滲み出てるよなぁ)

 おかしいね、大体の人が母親をやった筈なのに、紫苑の母性に勝てる人がとても少ない。
 いや、今の思春が子供を宿したら、それはもう大変なことになりそうだけど。きっと、述の時の倍以上は。

「じゃあ……紫苑、は居ないか。桃香、紫苑は───」
「うん。今日は仕事だって」
「はい。その。女性としての、というよりは母親らしさを学ばせるための一環として、街に出て授業をしていると聞きました」
「紫苑はいつだってお母さん役なのだ!」

 愛紗の言葉に、“ああ……そういえばそんなこと書いてあった書類があったような”と思い出す。
 いや、ちゃんと確認してから落款というか、GOサインは書いてるぞ?
 でもさ、母親らしさを学ぶ授業って……って呆れるだろ、普通。
 長い間“そういう環境”だったんだから仕方ないといえば仕方ないけど。

(………)

 となると……華琳は居ないし、居たとしても華琳のセンスを全力で押し付けたものになりそうだ。女性に着せて自分が喜ぶ側のな。もちろんのちに閨に招くことを前提に置いた服選びをしそうなので却下。
 当然ながら桂花も居ないから、まあそれはいい。
 雪蓮が居ないのは意外なものの、正直助かる。場を引っ掻き回すの好きだからね、あの元王様は。
 ……蓮華、は居ないのか。
 思春が居ると、もしや居るのではと思ってしまうものの、今や思春はほんとに俺についていてくれているから、蓮華もたまに“思い切り羽が伸ばせるわ”とこぼしている。……まあもちろん、ちゃんと、傍に思春が居るかどうかを調べてから言っているが。

「ちょっといい?」
「お……詠?」
「ようするに慎ましく見守って、やさしく支えられて、そっと助言をくれるような人がいいのよね? なら最初から決まってるじゃない」
「あ……そうだな」
「そうよ、最初から解らない方がどうかして───」
「じゃあ頼むな、詠」
「あんたボクの言葉のなにを聞いてたのよ!」
「いや、月を誘えば詠も来るだろ? ……え? 来ないのか?」
「うぐっ……ぃゃっ……そりゃ、行くけど」
「よし。じゃあ決定だな。あとは───」

 つつっと視線を移動させると、楽しそうに場を見守る姿を発見。
 卓に片肘を突き、こめかみを乗せるような恰好でクックと笑っている。

「桔梗、頼む」
「おっと。まさかわしにくるとは。だがまあ好奇心のみでここに来たのだし、それが原因で任されることも含めての好奇心でしょうな。相解った、託されたならば請け負おう。……まあ、その手のものは璃々のことで慣れておりますからな」

 はっはっはと笑う姿は、あの時代の頃よりよっぽど若く、たまに“誰だっけ”と首を傾げることもあったが、いい加減慣れた。
 同年代の姿になったってだけで、印象なんて呆れるほどに変わるもんだ。
 小さかった人や大人だった人が同年代に、なんて奇跡が起きたあの日から、はちゃめちゃながらもよく無事で……と思わないでもない。無事じゃなかったから、つじつま合わせなんていうそれこそ奇跡みたいなことが起こったんだろうが……まあ、苦労して外史統合した甲斐もあったってもんだろう。

「じゃあ、こんなところでいいかな」
「待つのです北郷一刀! 見守るだけなら恋殿にだって出来るのです!」

 ほら、ねねだってあんなにすらっとしゃらんと。
 ていうか成長してもその姿っていろいろと目に毒っていうか……前から思ってたけど、なんでこの人ったら破けたジーパンみたいなのを履いてるんでしょうね。
 そこからすらっと成長したおみ足が伸び、その少し先は白と黄色の縞ニーソで包まれ……って、なにを丁寧に説明している、俺。
 まあ、その、ともかく。胸も成長したようでよろしいのではないでしょうか。
 髪は後ろで結わず、ストレートで腰まで伸びて、頭には黒い帽子。ちっこいパンダシンボルがちょこんとついているのは変わらない。のだが、うん。
 ええと。どこぞの艦隊をこれくしょんするゲームの、ドイツ艦のでかい暁っぽいって言えば解るだろうか。うん、まあ、そんな感じ。薄緑に近い色の髪のあの人が、ねねの着ている服(大き目)を着ていると想像していただければ……って、だから誰に説明しているんだ、俺。
 いや、けど……あの時代でも成長するたび綺麗になるなぁなんて思ってたけど、こっちはもっとだ。なんというか、統合される際に、本人の意見とかも汲まれたりするのでしょうか。……まさかなぁ。
 っとと、ねねの話の続きだ。

「まあ、うん。恋は見守ることも出来るし、いっそ護衛としても最強だよな」
「ふふふもちろんです! もっと褒めてくれていいですよ!」

 でかい暁っぽくても、その意識は恋に向いているらしい。

「でも、服は選べないだろ」
「うぐぁ!」

 そしてヘンな声が出た。
 それに、護衛なら言わないまでも思春がしてくれるだろうし。
 服は選べないって言ったんだ。きっと、そっちはやってくれるだろう。なんかそんな気がする。
 無責任に信頼を押し付ける〜とかじゃなくて……なんだろうな、そんな気がするのだ。

「あんまり居てもアレだろうし……今回はこの四人に頼む」
「贅沢ですね〜一刀さん。これだけの美女に囲まれて、しまも選び放題だなんて。よっ、三国一の種馬っ♪」
「シャレになってないからやめてくださいマジで」

 魏の種馬から始まって、すっかり三国だの大陸だのの種馬扱いだよ。
 しかも今度はかつての娘にまで手を出してるとくる。
 いい加減納得したとはいえ、そういうふうに言葉でつつかれたかったわけじゃないから、結構複雑だ。
 溜め息ひとつ。ともあれ、こうして黄柄……祀瓢の服選びは始まったのだった。

「ところで白蓮さん? あなたこれからわたくしとお仕事でしょう?」
「え? …………あーーーっ!」

 ……始まったのである。四人が三人になって。
 え? 麗羽? うん、仕事ならしてるぞ? 今時珍しい高飛車ロングドリルお嬢系モデルとして。外からわざわざ撮影しに来る人が居るくらい、人気はあるそうだ。
 白蓮はその付き添い……ってわけでもないが、普通系モデルとして。ただ、結構人気はあるらしい。俺達がこの時代で出来る仕事は何か、って李さんを始めとしたいろいろいな人に訊いてみたところ、紹介された仕事はぽつぽつとは届いた。
 都だけに視点を絞らず、もっと広く見てみれば仕事なんて腐るほどあるのだ。それを紹介してもらうと、少しずつだが仕事は回ってきた。まあ、やっぱりいっぺんに全員、ってわけにもいかないから暇な人は多いわけだが。

「ううぅう……北郷ぉお〜〜……」
「あぁ……そんな泣きそうな顔しないでくれ……。ほ、ほら、また今度な?」
「あ……ああっ、今度なっ、今度っ!」

 白蓮は元気に手を振って、麗羽とともに出掛けて行った。
 それを見送って、一人減ってしまった人をどうしたものかと思ったが……下手に増やすよりはこのまま行こうと頷いて、歩き出したのでした。
 だって残り一人ってなると揉め事起こるだろ、絶対。

……。

 都の城下に来ると、見慣れた景色を歩いてゆく。
 多少の様変わりはしていようが、店がある場所はそう変わっていない。
 警備隊だった頃の感覚をそのままに歩いて、立ち止まってみれば目の前に服屋。
 特に意識せず感覚だけで歩いてても、案外覚えてるもんだ。
 警備隊の頃の知識や各国で生きてきた知識があるとはいえ……なぁ。
 それぞれの国、それぞれの街での店の位置は知っていても、“都”の街の店の位置を知ってるのって“俺”だけだもんなぁ。
 え? 今日までの日々の中、服屋には来なかったのかって?
 ……来たけど別の店だったって言えば通じるだろうか。
 店によって、こう、ええと。好み? が違うんだ。元気っ子に合うのはこっち、清楚っぽいのはあっち、色っぽいのはそっち、とか。
 しかしまあアレだ。元気っ子ってのはあまり多くの替えの着衣を欲さないというか。
 俺と出掛ける時は服選び以外のことを望むし。むしろそれまでに自分で用意して、その時に着て驚かす、というのをやってくれる。結構ほっこりするから楽しみではあるんだが。
 というわけで、元気っ子側の服屋は懐かしいのである。
 べつにここが子供っぽいものばっかり、ということはない。
 きちーんと機能性重視というか、派手すぎず、しかし目立たないわけでもない、ともかく色気よりも動きやすさとか明るさをイメージに出した意匠というのか。ともかくそういうタイプの服がそろっている。

「ちょっと、ここでいいの? あんたが自信満々にずかずか歩くからついてきたけど」
「ふぅむ……お館様、これは少々減点やもしれませんなぁ」
「いや、ここで間違ってないぞ? 減点されたって構うもんか。よし祀瓢っ、好きなの選んでいこうっ! 見つからないなら次行くぞ次ぃっ!」
「《ぐいぃっ!》えっ、あ、わっ、わっわっ……! ち、父っ……!?」
「ほらほら月もっ! あぁそれとな祀瓢。俺は俺のために自分の趣向を捻じ曲げて着飾る女性より、自分の好みを押し付けてくれる人のほうが好みだ。だから、遠慮はするな、自分の“楽しい”を全力で謳歌しろ。で、これは俺の押し付けだけど。……女としての喜びってやつも、きちんと噛みしめること。そのための努力を支える努力を、俺は父としても男としても全力でやっていくから」
「ち……父……」
「ご主人様……《ぽぽぽ……!》」
「ほんと、言うことだけはいっちょまえなのよね、この男は……」
「ではお館様、次の機会があればわしも、若き女性としての“楽しき”を存分に味わわせてもらえるのでしょうな」
「お、応、まま任せとけっ!」

 なんとも頼り甲斐のない情けない返事が漏れた。それに対して、桔梗はからから笑ったあと、「減点発言は取り下げさせていただきたい」なんておどけるように言った。
 いや、けどさ。どれだけ多くの女性と一緒になろうとさ? かつては自分より年上だった人が同年代の、まだ幼さの残る美人さんに若返ったんですよ? そんな人にデートの期待を持たれてみなさいよ、動揺するでしょ普通。
 女性を食い物にしてヘラヘラ笑う度胸なんて俺にはないし、そんなことしたら何回首が飛んだって許されないだろうし、そもそも俺には“女性はステータス”とかそういう考え方は無理だ。
 大変、大ッッ変ッッに気が多い話だが、全員を確かに愛しているんだから、だからこそ一夫多妻のこの国に居るわけだし、結婚式のことだって考えたのだ。

「………《コリコリ》」

 頬を掻いて、早速楽しげに服選びを開始した祀瓢を見守る。
 楽しそうでなによりだ。つまらない顔とか、見栄を張って好きでもないものを選ぶ顔をさせちゃあつまらない。
 デートってのはまず楽しむことが重要だ。古くは、お互いを知るために男女が出掛けることを指すという情報もあるくらいだ。知るとしたら何を知りたい? 暗い部分? 鬱屈した部分? どうせ知るならまずは笑顔だろう。
 その笑顔を忘れないで、そこから暗さも鬱屈も受け止めて、知っていることを増やしては、ゆっくりと笑顔も増やしてやればいい。
 ようするに知る努力からだな。うん。

「父! これとこれはどうだ! ……あっ、口調……」
「そのままでいい。お前が自然に出せる口調が、俺の好きな口調だ」
「おおっ、さすがだな父! 解る男は格好いいぞ! かっ……かっこ……か……《ぼしゅぅうう……!!》」
「……まあ、うん。気持ちは解るから、好きなだけ赤くなれ。こういう時に赤くなるなとかは無粋だってよーく知ってるから」
「無駄に経験だけは積んでるからね、このばかちんこ」
「はいそこ伏字くらい使おうね。言葉でいうならこう、“ん”の部分で間を取るとか」
「え、詠ちゃん……! こんなところでそんな……! へ、へぅう……!《かぁああ……!》」
「あ、わ、わぁあごめん月ごめんっ! 〜〜っ……《キッ!》」
「いやこれ俺は悪くないと思うなぁ!」
「はっはっはっは! お館様は相変わらずですなぁ! くっふふ……! 誰と出掛けてもこうなのだと思うと、どこか安心してしまう……やはりいいな、お館様は」

 詠に睨まれて桔梗には笑われて、店員には苦笑されて店に来ていた客には“またですか”って顔されて。
 なんというか、俺ってほんと……ああいや、いいか。苦笑だろうと笑むことが出来るならそれでいい。
 今日は楽しむって決めたんだからな。

「よしっ、じゃあお互いの気に入りそうなのをとことん押し付けてみるぞ! あ、ちなみにさっきので選ぶなら、俺はこっちの方が好みだ」
「むむ……私としてはこっちなんだが……この、肘の部分に余裕があるのがいいと思わないか、父よ」
「いやいや、お館様に柄よ、ここはこちらのこの虎柄をだな」

 始まる服選びだが、結構祀瓢がノリノリだから選ぶ方にも力が入る。
 と思えば桔梗が虎のガラの服を持ち出して、いきなりそれで来ますかってツッコミたくなる。
 ここは派手さを控えたものを……といってもこの店で派手さを控えても、天と地ほど差があるものなんてそうそうないわけでございますが。

「月はどう思う?」

 しかし言わせてもらおう。あえて月に、この店で一番であろう大人しめな服を選んでもらう。
 彼女ならきっと……きっといいものを……!

「え? えっと……その、こちらのほうが……柄ちゃんには似合ってるかな……って……その……」
「そうよね! 柄にはこっちのがお似合いよね!」

 選んでくれた。詠が付属で。
 この娘ったら相変わらず月至上主義で自分の意見を前に出しやしないよ。
 どうせなら全員の……女性の意見を聞きたいのだが。
 でも素直に訊いたところで月の意見に賛成することしかしなさそうだし……ならどうするか? アレでしょう。

「……詠。大事な人のために自分の意見を殺す人は、今ここには必要じゃあないんだ」
「ぐっ……! あ、あんたぁあ……!!」

 必要という部分で揺さぶる。
 今ここには必要じゃない=城へ帰っていいですよ。
 つまり月を残して詠に帰ってもらうという意味をちらつかせて、彼女の素直な感想やオススメを《ガドォッ!》ベンケェエーーーッ!!

「だっ! いっ! いきなりなにす《ばふっ!》ぶっ!?」
「ボクはこれがいいっ! 文句あるっ!?」

 泣き所を蹴られたのち、顔面に押し付けられた柔らかな感触。
 距離を取ってみると、なるほど、祀瓢に似合いそうな明るめないい感じの服がそこにあった。

「よし。祀瓢、片っ端から試着だ。気に入ったのがあったら言え、買ってやる」

 大丈夫、俺もいい加減覚悟を決めて、きちんと金も溜め直してるし過去の遺産もある。
 どすっ、と胸を叩いて見せて、“まっかせろいっ!”と言わんばかりの態度を取ってみせると、ハテ。何故か服を選んでくれていた桔梗やら詠やらがそそくさと服を持ってきて、俺に見せるのだが……え? なに? もしかして俺のために選んでくれた……とか?《ポッ》……違いますよね! どう見ても女物ですもんね!

「おお、ではお館様、わしはこの服が───」
「月、月にはこれが似合うって前に来た時から思ってたの。ボクから贈らせて。あいつのおごりで」
「へぅうっ!? え、詠ちゃんっ、それはっ……!」

 やっぱり違ったよ! 見たまんまだったよ!

「おぉおおいぃ!? 俺祀瓢に言ったんだけど!?」
「なによ、けちけちしないでよ、どうせお金ならたんとあるんでしょ?」
「無駄遣いは出来ないんだよっ……! こういうところで買うもの全部含めて、結婚式用の資金みたいなもんなんだから……!」
「えぁっ……あ、…………そ、そう。そうなの。じゃあ、えっと……あ、そ、そういうことは先に言えってのばかちんこ!」
「だからそういうことをハッキリとだな……! ほら見ろ、店員もお客さんも慌てて視線逸らして誤魔化し始めたじゃないか……!」
「ぁ……〜〜〜……!!《キッ!》」
「だから睨まれても俺は悪くないだろ!」

 睨んでくる詠を宥めつつ、なんか行く先々で騒ぎが起きるのはどこの時代でも変わらないなーとか、それどころか何処の世界だろうと変わらないなーなんて事実に少し涙をホロリ。
 俺の立ち位置ってどの世界だろうと変わらないのね、ほんと。
 溜め息を吐きつつも祀瓢を試着室に押し込んで、さてさてと待機。
 待っている間はあーでもないこーでもないと、持ってきた服について語り合う。
 こっちなら祀瓢よりも述に似合いそうだーとか。……言った途端、なんか背後の空気がほわりと暖かくなった気がするんですが、気の所為ですよね?
 元気ってほどでもなく、思春によく似た述だが、だからといって明るい服が似合わないわけじゃない。この服とか着てみれば、きっと気に入ると思うんだけどな。渡したって素直に着てくれるかどうか。
 人の見てないところで試着してみて、鏡台の前でくるくる回転して顔を赤くするくらいじゃないだろうか───おおう、すごい見てみたい。

「ち、父、どうだろうか」

 カシャアと試着室のカーテンが開かれると、そこにはさきほど手、というか両腕に積んでいたうちの一着を着た祀瓢が。
 元気っ子にはよく似合う、ズボンタイプの着衣……当然ながらよく似合う。
 桔梗も詠も「ほほう」とか「へえ……」とか言って頷いている。
 そうだろうそうだろう、宅の娘は可愛かろう! ……いや落ち着け俺。

「ああ、よく似合ってるぞ。今すぐにでも走り出しそうな明るさが感じられて、なんというかこれぞ元気って感じだ」
「そ、そうか……じゃあこれを買おう」
「いやいや待て待て、全部試着してみてからだ。ほらほら」
「あ、あ、ああ……」

 わたわたする祀瓢を試着室に押し込み、またあーでもないこーでもないと服を選ぶ。
 そうしてまたカシャアと動くカーテンの音に振り向くと、そこには桔梗が持ってきた虎柄の着衣を身に着けた祀瓢。

「ち、父……?」

 元気っ子は元気っ子でも、力強さを嫌でも感じさせるその着衣……当然ながらよく似合う。
 桔梗も詠も「うむぅ……」とか「これは……」とか言って頷いている。
 そうだろうそうだろう、宅の娘は可愛かろう! ……だから落ち着け俺。

「ああ、デートで買う服としてはちょっと……って思うものもあるけど、似合ってるぞ。ただ買うなら少し仕立て直しが必要だな」
「ああ、やっぱりか。私もそうではないかと思ったが……というか、父? 私的にはその、これはないと……」
「いや、実際似合ってはいるぞ? 俯いてないで堂々と胸を張ってみろ。ほら」
「え、あ、ああ……こ、こうか?」
「もっと。自分は力強いって考えを前に押し出す感じにして」
「───こうかっ!《クワッ!》」
「うむ。そうだな、そういったものを着るのであれば、顔を赤くして俯いてはいかんなぁ。はっはっは、お館様はやはり人を見る目がある」
「目っていうか、こうだったら似合うかもを口にしているだけなんだけどな」
「そ、そうか……似合うのか…………そっか……《ぽぽぽ……!》よ、よし! ではこれを頂こう! 店主! 店主は居るか!」
「だーから落ち着きなさいっての一直線」
「《ディシィッ!》痛い!」

 真っ赤な顔で店主を呼んだ祀瓢にデコピン一閃。もちろん軽く。痛いってのは反射的なアレだろう。
 そそくさと近寄ってきてくれた店主にもうちょっと待ってと言うと、また試着室に押し込んであーでもないこーでもない。
 おかしい、静かに見守る人を願った筈なのに、どうしてこう騒がしく……俺の所為? いや、俺別に騒いでないよな?

「《カシャァッ!》父っ、どうだっ?」

 さて、三度ともなると多少自信も沸いたのか、今度は胸を張ってのご登場。
 そうして見る祀瓢は……詠が選んだ、この店にしてはちょっとピシッとした服を着ていた。
 中身は元気っ子なのに、服は少し大人しめだけど何処か相手を威圧するような“正しさ”というか、曲がらないなにかを感じさせるようなキッチリした着衣……当然ながらよく似合う。
 桔梗も詠も「んん……?」とか「似合ってないわけじゃないけど……」と言って、じっくり観察するように頷いている。
 そうだろうそうだろう、宅の娘は可愛かろう! よし落ち着こう。
 なんでもかんでも“似合ってる”しか言えてないじゃないかよ俺。ちゃんと見ろ。いや、見た上で似合ってるんだが。

「似合ってないわけじゃないけど、少しこれはちょっと違うかなってのはあるな」
「うーん……選んだボクが言うのもなんだけど、やっぱりこれはないわね」
「柄よ、元気に出てきたところをすまんが、次を頼む」
「じ、自信を持ってみようかと思えばこれだ! だから着せ替えの見世物など……うう……!《カシャァッ!》」

 あ、いじけて試着室に戻ってしまった。

「あっ……柄ちゃっ……! へぅ……」
「月、助けてくれ。娘の乙女心が解らない」
「あんたの場合、誰の乙女心も汲めてないでしょ」
「日々努力してるんだけどな。なんていうか、価値観の違いをたまに思い知る時がある。こう……あれ、なんだっけ。臨機応変で頼むって仕事を任されたのに、上司の気分ひとつで内容がコロコロ変わって、だからこそ臨機応変に対応するのにそうじゃないってその上司に言われるみたいな……ええっと」
「それは臨機応変ではなく、そやつの我がままでしょうに」
「あ、やっぱりそう?」

 たとえば華琳に言われたことをきっちり守ろうと頑張るのに、春蘭がそこに加わっただけですべてがしっちゃかめっちゃかになる、みたいな状況、といえば解るだろうか。
 華琳が俺に頼みごとをして、俺が実行しようとするときに春蘭が混ざると、まず成功しないってのはこわい事実である。華琳が渋々ながら納得した韓非子の孤憤篇とか特に。依頼として喩えてランクをつけるなら、消化不良もいいところのCランクだろう。
 きっちり書物を届けて春蘭も納得させた上で届けなきゃSには届かないあたり、春蘭相手じゃ無理に近い。絶対とは言わないのは……ほら、アレだ。いつかは解ってくれるかなぁという希望というか。

「《カシャア……》……ほら。どうだ。また好き勝手に言うがいい。私はそれしきでは折れたりはしないのだから《プイッ》」

 ああ、そして滅茶苦茶すねてる。頬が膨らんでる。
 月が選んでくれた大人しめの服を着て、そっぽを向く祀瓢は、なんというか……。

『………』
「う……」

 俺と桔梗と月と詠、四人でしばし停止。
 元気っ子の服が集まる中でも大人しく綺麗と思える意匠は美しく……当然ながらよく似合う。
 桔梗も詠も、今度は月までもが「おお……!」とか「やっぱりね! 月の見立てが一番!」とか「わああ……! 柄ちゃん、とってもよく似合ってるよ……!」と心から言った上で頷いてくれている。
 そうだろうそうだろう! 宅の娘は───……

「………」

 ───……意識をひとつ、ことりと動かす。
 チェスで駒のひとつを気軽に進めるように、簡単に。
 動かしたのは自分の中にある親としての自分だ。
 いいからちょっと黙ってなさいと、心を占める親としての感情をひとまず横に置いた。
 そして、言うのだ。この、少し拗ねてしまっている……娘ではなく、少女に。
 よく似合っている、可愛いと。綺麗だと。

「え、あ、う……? あ、あぅう……!」

 みるみるうちに赤くなり、わたわた。
 それを隠すように言葉を並べられるけど、知ったことかと真正面から褒めて褒めて褒めまくった。
 すると顔を真っ赤にしたままぷるぷると涙目で震え、俺を睨んだかと思えば試着室に引っ込み、すぐに着替えて出てきた。

「し、祀瓢?」
「………」

 店主を呼び出し、最後に試着したやつと、俺が選んだものを突き出し、ぽかんとしている俺達を放ったままどんどんと先を急いで、言われるままの金額をぽんと出して清算が終わると、ずかずかと一人で店の外へ行ってしまった。
 ここまできてようやくハッとして追う。

「祀瓢、どうした? 祀瓢ー?」
「〜〜〜……!!」
「お館様、今はつつかず噛みしめさせてあげなされ。純粋に、真っ直ぐに褒められたのが恥ずかしかったのでしょう。お館様に“女”を覚醒させられ、その者のために綺麗になろうと立ち上がり、その者自身に可愛いと、綺麗だと真っ直ぐに言われれば、初めての感情に戸惑うのも理解できるというものです」
「そ……そっか」

 相変わらず乙女心とは難しい。店から出た蒼空の下、しみじみ思う。
 でも桔梗? 今そうして桔梗に言われたことで、自分の状況に戸惑うだけだった祀瓢が驚いた顔で身悶えてるんですが? 足を止めて振り向いてまでの驚愕だったし、あれ相当驚いてるぞ? どうするのあれ。

「………」
「柄ちゃん、嬉しそうです……」
「だな。ありがとうな、月。俺だけじゃ、ああはならなかったと思う」
「そうね。どうせ無難なものを選んで、あんたからの贈り物だって部分だけで喜ばせただけなんじゃない?」
「え、詠ちゃんっ、だめだよそういうこと言っちゃ……!」
「いや……我ながらそうするだけだったかもって納得しちゃってるから、間違ってはいないんだ。見ていたつもりでも、つもりはつもりってことか。……今度はちゃんと、二人で来るくらいのことをしてやらなきゃ男じゃないよな」
「でぇとに他の女を連れてくる時点で相当あれじゃない。あ、もちろんボクの時は月が居たほうがいいけど」
「おお? 詠よ、それはお館様とでぇとがしたいという催促か?」
「え? なに言って───……あ《ボッ》」
「詠ちゃん……そうだったんだ……! あ、わ、私には遠慮しないで、たまにはご主人様と二人きりで出掛けたって……へぅう……!《かぁあ……!》」
「わああ違う違うってば月! 今のは言葉のあやだし、月と一緒じゃないなら誰がこんなやつとっ!」
「……詠ちゃん?」
「あっ……やっ……こ、こここんなやつっていうのは言葉の綾っていうか勢いで……!」

 良くも悪くも、詠は月に弱すぎである。
 苦笑をこぼしつつ、赤くなったり拗ねたり戸惑ったりの祀瓢にちょいちょいと手招きをして、びくりと肩を弾かせつつも俯いててこてこ戻ってきた彼女の荷物を取り、手を繋ぐ。
 「あ……」と漏れた言葉に「次、行くか」と返して、靴選びだのなんだのに連れまわす。
 エ? 下着? ウン僕知ラナイ。ソノタメニ他ノ人ヲ呼ンダンダシ。
 だだだってほらっ、女性としての喜びとかを知るっていうなら、なんというか下着選びも楽しいものなんだろ!? 沙和情報だけど! あぁああ今更だけど沙和って時点でなんかいろいろ間違ってたんじゃないかって思える俺はおかしいのか!?
 いやいやファッション側であいつが適当なことを言うとは思ってないけど……!
 よ、よーしよしよし、心を強くお持ち、北郷一刀。
 お前には割れた数だけの北郷一刀がついておるよ。
 …………全員北郷一刀って時点で、なんかあまり役に立たなそうって思った俺って、自虐心が強いって証明でいいんでしょうか。

「おぅいお館様! そのようなところで頭を抱えていないで早うこちらへ!」
「そうそう、こっちこっち。はい、新しいの買ったからこれ持っといて。ああ、ちゃんと柄のだから安心してよね。柄を喜ばせるための場で自分の荷物を、なんて思ったりしないから」
「それってそれ以外だったら自分のも持たせるってことか……?」
「黙ってたって勝手に取るじゃないの、あんた」
「……ごもっとも」
「あ、ご、ご主人様っ、重かったら私も……!」
「いや、軽い軽い。それよりせっかく外に出たんだから、月も楽しんでくれ。確かに祀瓢のためのお出掛けみたいなものだけど、周囲も楽しまなきゃ祀瓢は喜ばないと思う」
「おおっ、ならばお館様、丁度そこに良い香りを風に乗せる酒屋が───」
「酒は却下」
「……楽しみが半分以上消えましたぞ、お館様……」
「だったらもう半分を半分以上にする努力から始めてくれ、頼むから」
「ほほう? 言いましたなお館様。では左腕などを失礼して」

 言うや、ニヤリと笑んだ桔梗が祀瓢とは反対の俺の左腕にしゅる、と腕を絡めてくる。
 まだ出会った頃のあの時代ほど大きくはないが、それでも大きいと言える胸がもにゅりと俺の腕で潰れ……ってなにしてんのちょっと!

「わしの楽しみの残り半分の大半がお館様との恋である以上、柄の手番だからと遠慮をする必要もありますまい。なにせ、お館様が直々に努力をしろと言ったのですからなぁ」
「……!」
「ふふん?」

 右腕に抱き着く祀瓢が桔梗を睨み、桔梗は余裕の笑みを浮かべ……俺は今すぐ頭を抱えたい状況に襲われた。ていうか人に荷物持たせておいて、腕に抱き着くとかなんなんですかアータら。
 詠に助けてとばかりに視線を送ってみれば、自分でなんとかしなさいよとため息とともにジト目を送られ、月を見てみればあわあわわたわたと慌てさせることになってしまい、詠にめっちゃ睨まれた。どうしろと。

「ああ、もう……。まあその、せっかくまた若い頃から始められてるんだし、堪能しなきゃ嘘だって気持ちは本当だから……さ。桔梗も、楽しめそうなことは、遠慮なく言ってくれな」
「お館様も随分と器が大きくなられた。会ったばかりの頃はいろいろと思うこともありましたが───《こつんっ》はっ!?」

 からからと笑う桔梗の額に、手……は祀瓢に抱き着かれているので動かせないので、額をこつんとぶつけ、その上で真っ直ぐに言う。

「そういう大人な言葉とか大人ぶった言葉じゃなくて。今の、年相応の“お前”を楽しめ。これは命令だ」
「は…………───」

 からかわれたり余裕なる大胆攻撃ばかりだったから、たまには威圧的に命令なんてものをしてみる。
 もちろん、日々思っていたことをぶつけたってのもあるにはあるが───……って、あの? 桔梗? 桔梗さん? なんか顔真っ赤ですよ? 目が潤みまくりで……と、なにやら嫌な予感がして顔を離す……と、桔梗がぎゅうう〜〜……っと左腕を強く強く抱きしめてきて、そのまま腕に顔をこしこしとこすりつけてきた。

「え、ちょ、桔梗? き、桔梗っ?」
「……あんたってほんと、見境無しね……。何回落とせば気が済むのよ……」
「なにが!? 俺思ったこと言っただけなんだが!?」
「狙ってやったわけじゃないってところがほんと…………はぁ。ああでも、まあ、そうなのかもね。あんた別に惚れさせたとかそういうのじゃないのよね。あの時代だと恋っていうよりは信頼だった気がするし」
「うん……そうかも、だね。詠ちゃん」
「あんたほんと気をつけなさいよ? あんたの言う通り、今のボク達の年相応を願うなら、それこそ今更“信頼”が“本気の恋”に変わる人だって絶対に居るんだから」
「え……え? え?」

 信頼。
 とても素晴らしい言葉ですね。
 でも何故か、確かに、今の桔梗とあの時代の桔梗とは外見以外にも違うものを感じたのです。
 あの頃の余裕の笑みや器の大きさが信頼からくるものだったならば、今のこの“たった今、この時”を大事にしようとする輝きは…………ああなるほど、これが恋か。
 …………エ? いやいや……エ?

「お……っ……お館様、その……不覚ながら、少々腰が砕けたというか……! しばらくこうして、腕を抱いていても……」
「え、い、いや……それは、べつにいいけど……」
「そ、そうか。それはその……た、助かりましゅる……《ほにゃり……かぁああ!!》」
「───!」

 うわっ……う、ううわーうわーうわー!
 ちょ、あの、桔梗さん!? 桔梗さん!?
 若返った顔でその寄りかかってますって笑顔、反則すぎるんですが!?
 ていうか口調とかちょっとおかしくない!? ……って、耳赤っ! 俯いても解るくらい顔とか首とか赤っ!! あ、今噛みました!? 噛みましたよね!? そりゃ赤くなるよ!
 いや、けど、これってば……え? あの、もしかして、だけど。
 今さら、って言葉はあれだけど、恋……してらっしゃる?
 い、いやもちろん俺だってそういうものをつついて楽しむつもりはないし、言った通り今の自分を楽しんでるってことに繋がるんだからむしろおめでとうってことで───相手俺ですが!? この場合俺からおめでとうってなんか違くない!?

「………」
「……ま、がんばんなさい?」
「あの……きちんと、受け止めてください……ね?」
「……ウン」

 うん僕頑張る。
 誰かに言われると、どこか他人事に思えたことが自覚として芽生えるのを感じた。
 そ、そうだよな。信頼で、じゃなくて、きちんと恋した上で信頼も得られるよう、頑張ろう。
 それは受け止める側の俺がきちんとすることだから。
 でも……恋か。恋かぁあ……!
 え? もしかしてこれから、こんな風に信頼が恋に変わる人がいっぱい出てきたり?

「………」

 俺、無事に済むのだろうか。
 そんなことを、私も私もとねだり、柄に額への頭突きをされながら……思ったのでした。
 ていうかなんでいきなり? 信頼が恋に発展するようななにか、あった?
 俺がしたことなんて、額くっつけて、生意気にも威圧感出して言葉に氣を乗せるようにして命令をしてみただけですよ?
 …………もしかして一度そういうことされてみたかったのかしら。
 い、いやっ、まさかね? まさかねぇ! あはは、あはははは……!
 …………あれ? でもあの、夜のアレの時とか、強引に押されるのとか強気で攻められることに弱かったような……アレ?

「………」

 とりあえず恥ずかしさを頭から逃がすために、祀瓢とごすごすと頭突きし合って忘れることにした。
 はっはっはこやつめ、ノリにノって何度も頭突きしてきよるわ。
 もちろんそんな強くはやりませんがね。
 ああ、もう、恥ずかしいったらない。


 ネタ……はあったようななかったような。  なんにせよいろいろ書き直しての投稿で───あ。 *これは命令だ  逃げるな! 生きることから逃げるな! これは命令だ!!  そんなつもりはなかったのに、ふと見たら思い出しました。  ゴッドイーターバーストより、珍しい主人公ボイス。  ズヴァーと書いたものの、どうしてもキャラが書きやすい人寄りになってしまうので、一考。  そこにきゃっほうさんからのツッコミがあったので蜀メンバーの中から。  元々は白蓮さんが主なお話でした。あとはいつもの……というのもあれですが、書きやすいキャラばかり。  実際スピード重視にするなら書きやすいキャラを書きまくるに限るんですけどね。しかしそれなら恋姫でやる意味はあまりないのかもしれません。せっかく平和な世界でのお話ですもの、もっと広く浅くなA型チックに書きましょう。  というわけで投稿。  関係ないですけど“坂本ですが?”のOPが個人的に気に入りました。  あくまで個人的に。  いやぁそれにしても声優陣が豪華なアニメです。 *04/12:修正  冒頭にて雪蓮が服選びに参加のため挙手してるのに、少しあとだと出掛けてることになっている部分を軽く修正。  風路さん、ツッコミありがとうございました。  服とかに興味があって楽しいことが好きそうなお子っていったら誰かなーと考えたら、とりあえず浮かんだのが蒲公英だったのですが、きっと彼女は筋肉痛中だと思うのでスルー。  行き当たりばったり感がすごいですが、プロットもなにもないノリと勢いだけの後日談なので、むしろ失敗も笑いのタネとして受け取ってくださると幸いです。   Next Top Back