ばんがいのじゅうさん/元気すぎて、苦労人

 話をしよう。
 あれは今から1秒……いや、5秒前の出来事だ。
 俺にとっては今しがたの出来事だったが、キミたちにとってもたぶん……同じことだ。
 俺には桂花に名づけられた72通りの蔑称があるから……なんと呼ばれたらいいのか……。
 確か、最初に会った時は───って、それはいいから。

「ん〜♪ やっぱり慣れ親しんだ味ってあるわよね〜♪ 日本の緑茶もいいけど、こっちで飲む緑茶も懐かしいって味がするわ」

 現在、とある茶屋で雪蓮、風蓮、擁冥の四人で茶と菓子を飲食している。
 俺はといえば、その茶の中でも紅茶を選び、風味を楽しみつつちびちび味わっているわけだが
 ……落ち着くなぁ。雪蓮が一緒なのに落ち着けるって、珍しいことだよな、うん、ほんと、まったく。
 ラプサン・スーチョンか……うん、悪くないかも。
 ただ一杯だけ淹れられて味わうのではなく、茶器ごと置いてってくれるから、味の変化を堪能できる。
 ラプサン・スーチョンは一杯ではなく回数で味わうものだって誰かが言っていた気がするけど、なるほど、これは面白い。

「〜♪ あ、父さん、お茶がないじゃない、注いであげるわ」
「お? ああ、ありがとう」

 鼻歌を歌っていた風蓮が、俺の傍にあった茶器で紅茶の茶葉を泳がし、淹れてくれる。
 一杯目はりんごのような香りだったのが、気づけば別の香りに変わっている。
 飲みながら面白いって、斬新だ。
 そして風蓮が上機嫌な理由は雪蓮の格好からだろう。
 きちんと胸元が隠され、肌の露出もとことんなく、それでいて機能性に優れ……って、着たわけじゃないから機能性云々はわからないな。

「はぁ……なんかこういうのもいいわよねー。なんていうの? のんびりお茶する〜っていうのも」
「雪蓮はいっつも、のんびりはしても酒飲んでたもんな」
「うわ、やぶへびだったわね……。まあほらほら、そーゆーのはいいから。もっと楽しい話とかするわよ? ね?」
「楽しい話かぁ……たとえば?」
「んー……そーねー……。あ、そうだ。ねぇ一刀? あのさ───」
「? うん」

 真面目な話か? と少し姿勢を正すと、雪蓮は真剣な顔で言った。

「日本でさ、げーむ、やったじゃない? あれってこっちでも出来ない?」

 瞬間、俺の脳裏にはジャージを着ながら腐った目で画面を見つめ、ポテチを食んでコーラで流し込む元呉王の姿が───

「蓮華が泣きそうだからダメ」
「え? 蓮華? なんでここで蓮華が出てくるのよ」

 勝手に口からこぼれた言葉に、雪蓮が当然の疑問を投げてくる。
 うん、そうだよな、そう思うよな。
 “そこに到ってしまう人”っていうのは、誰もがきっと最初はそう思っていないんだと思うぞ?
 もちろん少しの娯楽のためって意味でなら、いいなって頷いてやりたいのに……サボリ王として名高い雪蓮だもんなぁ。
 “そうじゃないところ”を見ている各世界の北郷でさえ、“あの孫策が!?”とか“いくらなんでも戦場とで別人すぎるだろ!”とか驚いたくらいだ。

「いや、雪蓮の場合、新しい娯楽が増えるとサボってでもそこに通い詰めになりそうだし」
「あっ、失礼ねー。私だってちゃんと考えて言ってるわよ。そんな、冥琳に小言言われることをわざわざ選ぶわけないじゃない」
「選んでたから毎度怒られてたんだろ……」

 そして、また“ぐさっ”と言葉が突き刺さったらしい雪蓮は、頬を膨らませてそっぽ向いた。
 その姿はまんま、ゲームを買ってもらえずに拗ねる子供のようだった。
 子供の前なんだから、せめてシャキっとしてください元王様。
 こんな話題が出れば、普通なら“げーむってなに?”とか訊いてくるであろう元娘たちも、雪蓮の反応を見るに“触れないほうがいいもの”として判断したんだろう、話題にノってはこなかった。
 だって、話題に乗ればこの元呉王様はニヤリと笑い、娘を盾にゲームの良さを説きまくるに違いないのだ。で、用意してあげなければ娘が風蓮が可哀相〜などと……ああうん、適当に想像してみたけど本当に言いそうだから困る。

「母さんの言うげーむっていうのがどんなものなのかはわからないけど……あ、げーむはわかるわよ?《ぽむっ》娯楽のために、町人の子たちと遊んだ記憶もあるし。ただ母さんの言うげーむが“それ”って感じはしないから……興味はあるけど。でもわたしはあの……ぱそこん? っていうのが気になるわ」
「あ、一刀、それ私も。なにあれ」
「……《こくこく》」
「1から説明するのも難しい質問が来たなぁ……」

 擁冥も頷いている。さすがに説明しないわけにもいかないわけだが、どう説明したものか。
 子供の頃とかはほら、あれだろ? パソコンってなんでも出来る秘密の箱、みたいなイメージがあったりした。
 だって、子供から見た大人っていうのはパソコンと向かい合っているイメージだったし、父親が会社へ仕事に、ってきたらパソコンを操作しに行くイメージを働かせる人って多いと思う。
 ただ、そこでなにをしていると思う? と訊かれたら、言葉は案外詰まるもので……。
 世界のパパりんや、懸命に仕事をしている青年さん方は、果たしてPCでなにをしているのか。
 ほら、説明なんて出来やしない。
 しかし執務室にどどんとPCが置いてあるのに、なんの説明もしないわけにもいかないわけで。
 かといって、ここで“夢と希望が詰まった箱サ!”なんて言おうものなら、この元王様の目はきゃらんと輝くわけだ。
 ……そんなことしてみろ、俺が冥琳に怒られる。
 なので無難な言葉で誤魔化した。娘たちよ……弱い父を許してくれ……と言うまでもなく、風蓮が“あー……”って感じの顔をしていたのが、それだけで関係の深さっていうか、娘にしっかりと行動予測されてるんだなぁとしみじみ。いや、俺がじゃなくて雪蓮が予測されているって意味で。
 擁冥もこくこく頷いてるし。
 おーい雪蓮さーん? キミ、こっちに夢中な死角の先で、結構ひどい悟られかたしてるぞー?

「で、これからどうしようか」
「え? ぱそこんの話、もう終わり? んー……一刀が決めていいわよ? こういうのって男がえーっと、えすこーと? するものなんでしょ?」
「や、だからさ、俺も報告や地図としては町の見取り図とか人の出入りとかは把握してるけど、そこでどんなことをして、誰がどう気に入れるかは完全に把握してないんだってば。あの頃と今とじゃ違うだろ? まああの頃って言ったって、俺もみんなが床に臥せるようになってからは、町に行くよりも鍛錬するか竹簡の文字を本にする作業ばっかりしてた気がするけど」
「あー、あれめんどいわよねー。冥琳に全部押し付けたら雷おっこちたことあったわ」
「全面的にお前が悪いだろそれは」
「……《こくこく》」

 擁冥にまで頷かれ、ばつが悪そうにとほーと溜め息をつく雪蓮。
 そんな母を見て、とほーと溜め息を吐く風蓮。
 溜め息吐かれまくりだなぁこの元王様。

「でもさ、結局のところ、誰に訊いたって“まだ詳しくない”としか返ってこないでしょ? だったらここは一刀がえすこーとしても同じなわけじゃない」
「む……まあ、そうだな」
「だったらほらほら、ちゃんと楽しませるべきじゃない? 女の子に退屈させちゃ、天の御遣いの名が廃るわよー?」
「今はお前も御遣いだってこと、忘れてないよな……?」

 けどまあ結局は案内する。
 何処で誰が喜んでくれるかも微妙な現在。
 あの頃のままなら、“ここの店主はああだから雪蓮なら喜ぶだろう”って予測も出来たろうに、今はそれが出来ない。
 しかしながらそれを理由にしたら何もできなくなってしまうので、結局は一度はぶつかってみなければわからないのだ。
 いや、そりゃ、挨拶がてらに回ったことはある。
 どんな店かも見たりはしたんだ。……それでもやっぱり“けど”がつく。
 こういう場合の“けど”は、記憶力云々よりもじっくり見ている暇がなかった、っていうところに落着する。
 あの頃のように一から関係を、って各国を回ったり一人一人とじっくり話したり、なんてことをしていないからだって想像はついている。
 そういった最初から自分も関わって完成させてゆくものと、もう完成してしまっているところに自分が混ざるのとでは、やっぱり理解の仕方っていうのか? が、違うのだ。

「あぁ御遣い様っ、いらっしゃい! 見てってくださいよ!」
「御遣い様じゃないですか! こっちこっち、見てってください!」

 しかし、まあその。
 歩くだけで声を掛けられまくるのは、今も昔も変わらない。
 あれこれやっている内に饅頭屋の小さな卓に座らされ、俺が座ったならと雪蓮も娘たちも座ることになり……あれ? これ、関係がどうとかってどうでもいい話になってない? むしろ歓迎されまくりな気が……なんで?
 などと困惑していると、雪蓮が肩の力を抜くようにハフーと溜め息を吐いて、言った。

「噂の御遣いの伝説が残ってて、しかもその本人が居て、しっかりと良い統治をしてるなら、慕われて、歓迎されて当然でしょ? 昔と大して変わらないに決まってるじゃない。……はぁ、ほんと、一刀と町に来ることで困ることがあるとしたら、呼び止められる回数の多さよねー……」
「ぅ……雪蓮だって自国ではずっとそうしてただろ。って、ちょ、おばちゃん、俺今日もうそんなに持ち合わせがっ……! え? お金はいい? いやいやそういうわけにはっ! っておっちゃん! だから持ち合わせっ! いやいいじゃなくて!」
「父さんの人気は相変わらずすごいわね……見習えるなら見習いたいけど、これってそういうものではきっとないのよね」
「……《こくり》」

 人気って類のものなのか? これって。嬉しくないわけじゃないけど、実際先に進めない。
 蜀の記憶でも桃香が子供たちに捕まってたって光景があったけど、まさか俺自身がこんな……。
 ……これが祭さんだったら、別の意味で捕まって大変なんだろうなぁ。
 などと、いつかの日、かけっこみたいなので祭さんと競ったのを思い出した。

「父さんにあって私にないもの……なにかしら。ねぇ循? 循、循。なんだと思う? こういうのは自分で自分を振り返るより、他者の意見が一番わかりやすいと思うのよ」
「……仁徳と人徳……?」
「ちょっとそこの路地裏まで顔貸しなさい」
「《がしぃ!》……! ……!!《ぶんぶんぶん!!》」

 はいどうぞとばかりに答えを促され、ぽろりと口にした擁冥が風蓮に腕を掴まれ、ぐいぐいと引っ張られる。
 しかし擁冥の抵抗は見事なもので、頭を横に振りながら俺の腕にしがみついて……ってやめなさい! そこで父さんを巻き込むのは!

「誰の人徳が残念だっていうのよちょっと! 言って言うのよ言いなさい!」
「こーら、紹〜? 自分から訊ねといて、気に入らなければ絡むのは性質が悪いぞー」
「だ、だって循が!」
「言われたことにムッと来た時はだな、自分が本当にそうでないかを考えてみるんだ。しっかり考えてみて、“そうでない”と胸を張れるなら怒れ。妙に納得した場合は諦めろ」
「〜〜……むうっ。たしかにそれはそうだわ。父さん父さん、人徳や仁徳ってどうすれば鍛えられるのかわかる? これでも人を邪険にした覚えはないはずなの。ていうか人の手伝いばかりしてたわりに、人徳がないとか言われるのは軽く胸に突き刺さる言葉だわ。たとえ褒められたくてやっていたことじゃなかったとしても」
「そうねー、紹の場合はもうちょっと落ち着いて物事を見る、って意識を働かせたほうがいいかもよ?」
「血を見ると暴れ出す母さんに言われたくない」
「《ぐさっ》…………《ぼてっ》」

 雪蓮、言い返されて、卓の上に組んだ腕に顔から突っ伏すの図。
 ほんと、どうしてこの元王様はこんなに、細かな弱点があるのか。
 全部自業自得とはいえ、もうちょっと庇ってやれる存在であってほしい。
 と、そんな時、饅頭屋から離れた道の先、あそこは───……な、なに屋だったか? ともかく店っぽい場所から出てくる冥琳を発見。
 俯きながら、卓に乗せた両手の指をこねこねして暇を潰していた擁冥が、ぱっと顔を上げて……冥琳を発見。
 俺の服の端をきゅっと摘んで、くいくい引っ張ってくる。
 あ、うん、気づいてる、気づいてるからやめて? 服、伸びちゃうから。キミたち武官だろうが文官だろうが妙に力強いからやめて?

(……たまに、いらないこと考える時ってあるよね)

 こんな時、以心伝心とかって可能なものなのだろうか。ほら、今も擁冥が、俯いていたにもかかわらず冥琳に気づいたみたいにこう……ピキュリリィイインって。
 そんなことを考えてしまったので、やるだけやってみようか? なんて結論に至ってしまう。
 饅頭屋でのんびりしているのに、大声で呼ぶのもなんだ、とか思ってしまったのがそもそもなんだが。

(ただ“助けて冥琳”とか念じるのもなんだし……うぅん)

 意識して……飛ばす!
 言葉にせずに伝えるとか、普通は目で通じ合う〜なんてことがなければ無理なんじゃないだろうか。
 しかしものは試し。遊び感覚だろうと真剣に思念を飛ばすつもりでやってみる。

(地獄よりの使者が今まさに貴様の存在を呼び求める……! 冥琳……冥琳! 罪深き汝の名は冥琳───! 汝、今こそ盟約の名の下に呼びかけに応えよ……!)

……なんか邪神召喚の儀式めいた言葉になったけど、遊びってこういうものだと思う。
 なので無駄に氣も込めたつもりで思念を送ったつもりになると…………遠くに見る冥琳の肩がびくりと跳ねるのを確認。
 電波的ななにかでも受信して、悪寒が走ったんだろうか……少しキョロキョロして、俺達を……というか冥琳から見て丁度背中しか確認できない雪蓮の姿を見ると、隠すこともせず盛大に溜め息を吐いているようだった。
 いや、だってほら、片手を額に当てて、それはもうわかりやすい行動で“はぁああ……!”って溜め息ついてますな様相だし。
 それでも律儀にこっちに歩いてくるあたり、やっぱり冥琳って…………冥琳だなぁと。当たり前のことなんだけど、面倒事でもきちんと首を突っ込んでくれて、解決解消を手伝ってくれる。
 ……うん、むしろ巻き込んでごめんなさいって罪悪感さえ浮かんできた。

「雪蓮」
「え? あ、冥琳じゃない」

 やってきた冥琳にどうぞとばかりに椅子を用意すると、そこにきちんと座る。
 擁冥と雪蓮の間に座るかたちになったんだが、その過程で大きくお揺れになったたわわさんを見て、擁冥がぴしりと硬直。
 風蓮を見て、俺を見て、冥琳と雪蓮を見比べて、《くいくいくいくいくい》だ、だからやめなさい! なんで服を引っ張るの! やめて!?
 自分の体はいくらでも鍛えようがあっても、服は鍛えようがないんだから!
 惑星崩壊級のダメージをくらっても案外無事なドラゴンなボールの世界の服とは違うんだからね!?
 と、冗談はここまでにして…………いや、冗談ってことにしないと、結論から言って俺の懐の中身とかが……。

(……なんで呉の皆さまってほんと、露出度高いんだろうなぁ)

 雪蓮の姿が落ち着いたものになったからだろう、冥琳の露出度がかえって目立ってしまっている。
 さらに言えば冥琳と擁冥は姿が酷く似ていることもあり、まるで双子が並び、一人がほぼ胸が見えているような格好をしているとなると、大人しい擁冥の顔も赤くなるというもので《くいくいくいくいくい》だ、だから! 赤くなって俯きながら人の服引っ張るのはやめなさい! わかった! 買うから! 俺が欲しいものとか我慢すればいいだけの話だから!

「冥琳」
「うん? どうした、北郷」
「……、ええっとその」

 あれ? でもちょっと待て。
 こういうのってどう切り出せばいいんだ?
 雪蓮もそうしたから冥琳もついでに、なんて言うのは───他世界の北郷さんがたが必死に“やめておいたほうがいい”って止めてくれた。むしろ俺もそれはないって思う。
 じゃあ小細工抜きで“露出が気になるから服を買いに行こう!”って……あ、なんかネチネチと説教されそう。顔を赤くしながら目を伏せ、しかしガミガミ。
 ならば……そう、こう……ね? ひとりの男子がひとりの女性に服を贈りたいって状況になれば───……そんな状況ってなんだ?

  …………デート?

 ポンと生まれた結論に、ぶわあっと恥ずかしさが浮かび上がってくる。
 おぉおおお落ち着け、落ち着くんだ、でぇとなんてあの時代にもう何度もやったことだろう、ていうか慣れれば慣れるほど、ああいうのってデートって意識がなくなるから、出掛けたって意識しかないんだが!?
 改まってするとなると、逆に意識しちゃって落ち着かないぞこれ!
 だがやろう。
 子に期待されたらば、親といふものは立ち上がるものなのでございましゃう。
 ちょっと口調がおかしくなったけど気にしない。
 なのできょとんとしている冥琳に…………冥琳に…………

(……あれ? この状況下で、デートしようぜっ! とか言うの?)

 難易度どころか難度しかない状況に、早速自ら突っ込んでしまった。俺の馬鹿。

「そっ───」
「そ?」
「……相談が、あるんだ」
「?」

 それなら言ってみればいい、という様相のまま、冥琳は逃げも隠れもしないから話してみろって顔で俺を見る。
 違うんですそうじゃないんです。ここじゃないどこかで話し合いません? 具体的には呉服屋とかで。
 ならば今こそと以心伝心を飛ばしてみると、冥琳じゃなくて雪蓮が“ははぁん?”みたいな顔をした。お前が受け取ってどうすんの!

「そうね、丁度いいからもう真っ直ぐ言っちゃいなさいって一刀。私とか紹と循はここで待ってるから」
「雪蓮?」

 突然の言葉に、冥琳がなんのことだとばかりに雪蓮を見る。
 そんな隙に、俺は俺でこれから一世一代の告白劇でも始めますみたいな状況の作り方はやめてくれない!? って意思を瞳に込めて雪蓮を睨んだ。
 当然、楽しそうな笑顔を返されたよ。

……。

 で……冥琳と二人、呉服屋に来たわけだが。
 いや、さっきのとは別の場所ね?
 冥琳に似合う服を考えると、あっちはちょっと……と思ったが故。
 この北郷、ただ歩いているだけではない。常にどの場所にどの店があるのかくらい、きちんと目を動かしておりますとも。
 そんなわけで……

「北郷? その……突然、なにがどうしてこういう話に……」
「どうして、って……俺が冥琳に贈りたいんだ、純粋に(露出を抑えるために)」
「雪蓮も珍しく落ち着いた服を着ていたが……紹殿あたりになにかを言われたか? いや、この場合は循か」
「(言われ……いや、引っ張られただけだな)いや、なんも」
「───……、……そ、うか……」
「…………これなんかは……いや、冥琳ならこっち……?」
「……いつか───」
「? 冥琳?」
「あ、いや」
「?」
「…………(いつか、あの三羽烏が言っていたのを耳にしたな。北郷に服を贈られるということは…………その)」
「あ、こっちのなんかいいかもだな」
「…………〜〜《かぁあああ……!!》」

 雰囲気的に似合ってそうなものを選んでは、立って待っている冥琳の姿に合わせてみる。
 これがまた随分と似合うのだ。
 派手じゃないかなーなんて思うようなものでも、冥琳が着ると落ち着いて見える気がするのだから、その人の印象ってのはすごいもんだと思う。
 しかし今回の目的はあくまで落ち着いたものであり、露出を控えさせることなのだから、そこで派手さを求めても仕方ない。何故って、露出を控えようがスタイルがよすぎるから、結局のところ目は惹くのだから、落ち着いたものにしたほうが冥琳も気分的に落ち着けるだろう。
 どうせ贈るのだ、妥協は無しで。

「ほ、……こほん。北郷」
「ん、どうかした?」
「いや、ああまあその、なんだ。……お前は私に対しても、そうあってほしいと思うのか?」
「?」

 そうあってほしい? ……ああ、冥琳だもんなぁ、そりゃ気づくか。
 露出度を抑えて欲しいって意味だよな?

「気にならないわけじゃないからね」
「っ、そ、そうか。ではその……(男子が女性に服を贈るということは、閨にてそれを脱がす喜びがどうのと。あの時はなんとも女性然とした考えだな、なんどと思ったものだが……いざ自分が、となると、これは……)」
「?」
「…………《ふしゅううう……》」

 なにやら冥琳が赤かった。
 目を伏せ、胸やお腹当たりに腕を回すようにして身を捩り、口を波線みたいに閉じてもじもしている。
 ……言われてみて、露出度が気になったってパターンだろうか。
 けれどその姿は、ふと思った時に頭を撫でて、いつかの約束通りに彼女を褒めた時の様子にも似ていて、なんだかこう、口に出すわけにもいかないんだが、可愛く見えた。

「……、北郷」
「っと、さっきからどうかした? 顔も赤いしなにかを言おうとしては、やめてってことが多いし」
「いや、そのだな。……さっ……」
「さ?」
「最近、……真名───そう、真名を与えていっているそうだな」
「え……ああ、そのことが訊きたかったのか。そうなんだよ、似合うかどうか、それは嫌だとか言われたらどうしようか、とか考えながら。名前の時はみんなに任せっぱなしだったけど……いや、真名って難しいな。その上で、“大事にしてもらえるのが嬉しい”って思える。預けられなきゃ口にしちゃいけないっていうのも、名付けてみれば嬉しいルールだったりするしさ」

 それが原因で、うっかり呼んで喧嘩になるとかは本気で勘弁だが。
 地味にありそうで怖いんだよなぁ、雪蓮がうっかり呼んで、“オノーレ!”って娘たちと争いが始まるとか……。
 いや、うっかり具合でいうなら白蓮……いや、白蓮はそういうところはしっかりしてるしな。
 ……怖いのは麗羽か。間違いなさ過ぎて本気で怖い。

「循の真名は……いや。これは私がきちんと循から受け取るべきだな。親であろうと真名は真名だ」
「やっぱりそうなるのか。親の場合って真名は無条件で口にしていい、とかだったらどうしようかって思ってたんだ」
「お前が考えてお前が名づけた真名だ。お前のことが大好きな娘たちが、それを許すことがないことくらい、少し考えればわかることだろう」

 顔の赤さもどこへやら。
 冥琳はいつもの調子で胸の下で腕を組み、目を伏せてフッと笑むように言った。
 こういう時の冥琳って、落ち着いてくれてるんだなーって受け取れて、こっちも安心する。
 なんて言えばいいんだろうな、ほら。
 雪蓮と一緒に居る時の冥琳って言えばいいのか? その中でも東屋とかで一緒に酒を呑んでる時の気安さに似ている。
 ……つまり、自分はそれだけ気を許されているってことで。

(……まあ)

 気安く頭を撫でても怒らないって事実が、既にそれを物語っているわけだが……そういう滲み出る空気と安心感って、頭を撫でて良いか悪いかにイコールするわけじゃない。
 たとえば俺が町のおやっさんに頭を撫でられようが、俺はそれを拒まないだろう。
 けど、じゃあこんな安心した空気が出来るかっていったら違う。どちらかというと、気安い親戚のおっちゃんと居るような、騒がしい空気になるだけだ。
 だから、つまり、その。
 嬉しいものなのだ、何気ないことでも、それに気づくことが出来れば。

「そっか。じゃあ、好まれるためにも服は素直に贈られてくれな?」
「───《ぽむっ》」

 あ。また真っ赤になった。きょとんとした顔が瞬間的に。
 いきなりなにを言い出すんだ、って言葉があったとして、“いきな”辺りであっさり理解に到って赤くなったような……待て待て待て、服贈るだけでどうして赤くなるんだそもそも。
 そんな、好きな人からのプレゼントで一喜一憂する、恋に夢見る乙女じゃあるま───……ぃ、し…………───

「………」
「………」

 いや。乙女でいいんだろうな。
 あんな血生臭い時代を駆け抜けて、愛だ恋だよりも地位や軍略のために人を娶るような世界を生きたんだ。
 それを俺に対して、今さらだろうが抱いてくれているのなら、俺はそれを邪魔するつもりはないし、むしろ応援したい。応援っていうか相手俺なのか、やっぱり。
 ……そ、そっか。服、贈られると嬉しいってことだよな。うん。そっか、うん。
 ななななんだろな、なんか嬉しいぞこれ。
 露出を抑えるためだとかそんな理由で選ぼうとしていた自分が、逆に恥ずかしくなるくらい。

(ん)

 真心込めて贈ろう。
 もちろん、露出はしない方向でだ。
 多少は値が張ろうとも、決めたのなら突き進むのみである。
 男はね、意地っ張りで見栄っ張りなんだ。
 だから金銭面でピンチだろうとへっちゃらフェイスで乗り越える。
 それでいい。それでいいけど、のちに背中で大・号・泣!
 男ってそんなもんだと思う。

「冥琳」
「っ、あ、ああ、その。……決まった、か?」
「ああ」

 言って、大人し目だけど動きやすそうな服を用意。
 冥琳に見せると、ほう、と息が漏れて、若干赤さが引いた気がした。

「なるほど……こういうもの(を脱がすの)が好みか」
「俺の好みっていうか……冥琳に似合うかどうかだな。で、似合うと思うんだ、とっても」
「そ、そうか」

 そしてまた真っ赤である。
 目を伏せ、口を波線みたくして、眉はハの字。
 わかりやすく言うと困ってますって顔なんだろうに、感じられる雰囲気は、べつに嫌がっているとかそういうものではないとくる。
 これはそのー……この北郷めのこれまでの経験から語る、乙女心の分析から察するに……あれか。どんな顔をしていいのかわからないって顔だな。
 なまじ頭がいいと、そういう素直な感情を表情に出すのが難しくなるのかもしれない。
 特に相手に悟られないようにって、常に気を引き締め続けなければいけないような世界に生きたんだから、それは必然とも言えるわけで。

(ふむ)

 じゃあその困惑に近い感情に、その感情をぶつけられるなにかをパスしてあげればいい。
 サイズが違ったら仕立て直す方向で考えるとして、とりあえずは店主のもとへ服を持っていって、商談を済ませる。
 そうしてお金も支払い終えると、冥琳に感情のぶつけどころ、衣服を紙袋ごとプレゼントした。

「………………、北郷……」
「着てみてくれないか?」
「いっ───今かっ!? ここでかっ!?」
「へ? な、なんだ? そんな驚くことか?」
「いや………………そう、だな。服とは着て、慣らさなければ、服と呼ぶよりは飾りに近いのだろうな」
「ああ、はは、それは確かにそうかも。なんていうか、ふわふわ浮いてるようなものを体につけてるだけってイメージ、あるよな」
「〜〜……」

 俺の言葉に冥琳は軽く俯き一層に赤くなると、俺の手から受け取った服を手に試着室へ移動。
 俺はそれを見送って、店長と一緒に彼女が出てくるのを待った。

……。

 そして、その後。

「へー! 冥琳も一刀に買ってもらったの? 似合ってるじゃない、へー、へー、へー……!」

 雪蓮たちと合流すると、冥琳が少しの硬直ののち、俺を見て一言「……よもやとは思うが北郷、お前はまさか雪蓮と同時に……!?」なんて、よくわからないことを言い出した。
 なんのことだろうか。
 同時……同時? あ、デートのことか?
 あぁ……確かにデートだと思ってたら別の女性と一緒に行動することに、とか……あまり嬉しいものじゃないかも。
 しかし先約というか、先に一緒に居たのは風蓮や擁冥なわけで。
 いや、それ以前にデートといっても、もう俺の財布の中身が枯れ果てそうだから、現代風に言うと……あ、今現代だった。
 えーと……普通に言うならウィンドウショッピング的なものになるんだが。
 ……あ。冥琳を見てニヤリと笑った雪蓮が、冥琳にべしりと額を叩かれた。

「たはー……あはは、それで一刀、これからどうするの?」
「どうするもなにも」

 俺は最初から、雪蓮の服を買うことで紹や循の気を済ます以外に、とくに理由はなかった筈なんだが。
 それが何故か風蓮や擁冥や冥琳の服も買うことになって、我が財布の中身が……。
 い、いや、男なら気にすまい。
 なんならこれから四人の女性とデート(ウィンドウショッピング)が出来ると考えれば、及川ならウッヒャッホォーイな状況だろう。
 ポジティブにいこう……たとえそれが、やかましさと注意と溜め息だらけの歩き回りにしかならなそうだとしても……!
 いやほら、雪蓮が騒ぐだろ? 冥琳が注意するだろ? 風蓮が溜め息を吐くだろ? 雪蓮が風蓮に絡んで、擁冥がそれを阻止しようとして、巻き込まれて、冥琳が怒って…………あれ? 俺大丈夫かこれ。
 騒ぐ雪蓮にも注意する冥琳にも溜め息を吐く風蓮にも巻き込まれる擁冥にも、その全てに俺こそ巻き込まれそうな気がするんだけど。

「………」

 おっ………………男なら、気にすまい……!
 これは試練だよきっと……男ならば、大事な女性の心さえ満たせる男であれ……!

(………)
「《なでなで》うわぁっ!? ほ、北郷!? どっ……〜〜……」

 これから苦労をかけるって意味で、冥琳の頭を撫でた。
 大層驚いていたけどすぐに赤くなって、手をどかしにかかるでもなく……ふしゅううと俯き大人しくなる冥琳に癒されつつ、デートもどきは始まったのだった。



ネタ曝し……は、既に被るネタなようなので、今回は無しです。  では、既に二日ですが……新年、あけましておめでとうございます。  あけましてって、不思議と漢字で書くよりひらがなのほうが丁寧って感じ、ありますよね。  やっぱり個人的には“あけめして”が印象に残っている凍傷でございますが。  いやー……遅くなってごめんなさい。  いえ、小説自体は書いてたんですよ? 別の小説ではありましたが。  息抜きやリハビリのつもりが、そっちに夢中になってしまったとか、なんともアレな理由ですけど。 >久遠さん  Q:オーバーマンマスクってどうなった?  A:破け、のちに回収はされたものの、川の近くの岩の上に放置されたままやがて忘れられ、どこぞの町人に拾われたのち、劣化して滅んだと思われます。  おまけの番外は考えない方向で(^^; >しょーさん  戦国恋姫、興味はあるんですけど時間がどうにも……。  以前のように心に余裕が欲しいです。  仕事の時間が増えてからは余計にゲームに回している時間が無くなりまして、他者様の小説を読み漁るという行為もあまり出来ていない始末です。  溜まる鬱憤……! 焦る内心……! なんともままなりません。  まだ読んでいてくださるなら、お待たせしました、本当に。 >ななし無双さん  大変お待たせしております。  期待していたものとは違うのでしょうが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。 >ななしのよっしんさん  やっぱりギャフターは本編のまま終わったほうがよかったんじゃないかしら。  いえまあ新作の方はなかなか、最初の違和感はすごかったですねー……。  ただその後を書いたらどうなるのかをちょほいと書いてみたかっただけなのに、どうしてこうなった……。 >キヨポンさん  あけましておめでとうございます。  あけてしまいました。1日にUPする予定だったのに、安定の寝落ちです。あ、どのみち明けてますね。  今年もよろしくお願いします。  時間に余裕のある一年になるといいなぁ。  仕事の時間が増えて、給料は確かに上がったんですけどねー……。  代わりに趣味の時間がゴリゴリ減りました。  さて、そろそろ休憩時間が終わるので、これにて。  どおれ夜もしっかりと仕事をしてやるとするか〜〜〜〜〜〜〜っ!!  ではまた次回で。  ……。  あ。そうでしたそうでした、書いている途中でちょっとボツ案が出たので、せっかくだからあとがきに載せておきますね。  “なろう!”での掲載がアウトだった場合はソーリー。  お話は雪蓮が一刀にげーむのお話を振ったところまで戻ります。  /つまりサーヴァントとかなんかそういう北郷さんのお話。  真面目な話か? と少し姿勢を正すと、雪蓮は真剣な顔で言った。 「日本で、あにめ、見たじゃない? 私もさ、ほら、語り継がれた英雄ではあるんだから、なにかしらの能力とか使えたりしない? ほら、えーっと、ほーぐって言ったっけ? あいおにおんへたいろい、とか使ってみたいのよねー!」 「………」  ああうん、雪蓮だった。まあ、雪蓮だったよ。  真面目かと思えば実に雪蓮だった。雪蓮だもんなぁ、そりゃ雪蓮だよ。 「こう、しゃらぁんって剣構えてさ、“集えよ我が同胞!”って! いいわよねーあれ!」 「使えたとして、何人集まるかであの頃の信頼のされ具合が解りそうだから、逆に怖いだろ」 「うっ……それが一番怖いのよねー……。これでもほら、そのぉ……ねぇ? 慕われてたとは思ってるのよ? ……兵よりは民に、だとは思うけど」 「母さんは言うほど人気はなかったと思うわ。だって、町で見かければ大体飲み食いしていたから。民と話している時に酔いで顔を赤くしている母さんを見つけた時、私がどれほど恥ずかしい思いをしたか、知らないでしょ?」 「《ぐさっ》うぐっ……」 「雪蓮……前から言おうと思ってたんだけどさ。あ、前っていうのはあの時代の頃からな?」 「……あんまり聞きたくないから言わなくていいかも」 「雪蓮。お前、言われて胸に突き刺さる言葉、多すぎ」 「《ぐさっ!》はぐぅっ! ……気にしてたのに……!」  図星というか、今まさに考えていたであろうことを指摘されて、雪蓮は頬を膨らませてそっぽ向いてしまった。 「ふーんだ。いいわよねー、一刀は。一刀がえぇっと、へたいろい? を呼んだら、きっと係わった人全員が現れるわよ。そしたらそこに私も居て…………あっ。それも案外悪くないかも」  「然り然りも言ってみたかったし」なんて、既にケラケラ笑っている。自由な人だなぁほんと。 「父さん父さん、そのー……へたいろい? ってなに?」 「…………《こくこく》」  笑う親をよそに、風蓮とその隣の擁冥は疑問をぶつけてきた。俺に。  ……雪蓮じゃまともに答えなさそうだもんなぁ。脚色するだろうし。 「小説、漫画、アニメ……いろんなものに登場する英雄が使う、能力のことだよ。俺の国にな? 過去の英雄を召喚して戦わせるっていうお話があるんだ。召喚される英雄には、逸話を元にした能力があって、まあ、王の軍勢……アイオニオン・ヘタイロイっていうのはその中のひとつだ。自分と戦場をともに駆けた勇者を連続召喚する結界を作る……言葉にするだけでも滅茶苦茶な能力だな」  口にしてみれば、風蓮は「なにそれ! すごい!《ぽむんっ!》」と興奮気味に手を合わせた。  擁冥は微妙に首を傾げている。 「つまりさ、過去に為した偉業に関わるなんらかの能力が付くんだ。思春なら錦帆賊関連の能力を使えるだろうし、鈴々なら……たぶん、攻撃もそうだけど“守り”に関しての逸話も能力になると思う。恋は言うまでもなく三国無双の強さが……って、最強すぎて怖いな。絶対に身体能力強化側だよ」 「へー! へー! じゃあ、じゃあ父さんは!? 父さんが英雄としてー……その、召喚? されたら!?」 「いや、俺はそんな大したことはないだろ」  だって俺だぞ? なんて苦笑しながら言ってみると、擁冥が服をちょこんと引っ張りつつ、ふるふると首を横に振るう。  ……。だってな。俺にどんな能力が期待できると? 「そうねー……一刀なら、王はもちろん、武官文官問わず兵にも民にも慕われて、逸話を語り継ぐ人の数ならそれこそ大陸全土って感じで……私に勝ってみせたあの時の実力とか、呂奉先を吹き飛ばして勝ってみせたあの瞬間とか、剣から光の波動を放てるとか攻撃を腕で受け止めて倍返しするとか、ほっとけば丸一日走ったり鍛錬できたりする呆れるくらいの持続力とか、三日毎とはいえ猛将連中と鍛錬を続けてた異常とか、」 「う、うん……」 「料理は普通だけどお菓子作りは最高とか、二種類の氣を持ってる……のは、もう私たちもだけど、他にもまだまだあるでしょ。あ、子孫がずうっと守ってきた、一刀のための宝物庫。あれも一刀の信頼から出来たものだし、逸話になるんじゃない? あ、武器がなくても素手でも将と渡り合えたっていうのもあるかも」 「───」  考えてみたら結構ヤバかった。  なにその逸話だけで馬鹿みたいに強化されそうな存在。俺が望まなくても、話がエラ呼吸になるほどに尾ひれどころの話じゃなくなってる。  えぇっとつまり? 俺単体でアイオニオン・ヘタイロイが使えてエクスカリバーもどきが使えてゲートオブバビロンが使えて、素手でもマジカル☆八極拳とまではいかなくても、呆れた戦闘を繰り広げることが出来て……たとえバーサーカーで召喚されても、日々を“落ち着け”を合言葉に生きてきた俺にとって、暴走なんてものは取るに足らないものかもしれなくて、ていうか王の軍勢……この場合天の軍勢か? 召喚出来たら戦局覆るよな、うん。  どんなに離れてても、全てのクラスのサーヴァントを召喚するみたいなもんだし、遠距離からの弓矢の宝具連射で、その時点で勝てるんじゃないかしら。軍師はキャスターとして召喚されるだろうし、朱里と雛里が召喚されたら、暴風を巻き起こして鎖で相手を縛って業火で焼き尽くす宝具とか普通に使いそう……!  ……まあ、考えるだけならタダか。 「日本の娯楽ってすごいわよね。なんでもかんでも楽しいことに変えちゃうんだもん」 「まあその分、金にがめついところもあるとは思うけど」 「努力してお金を得ることは悪いことじゃないんじゃないの? もちろんやり方にも寄るけど、誰かが楽しめるなら、えーと……うぃんうぃん? じゃない?」 「なら、雪蓮はもっと頑張らないとな」 「冥琳みたいなこと言わないでよ、人がせ〜っかくのんびりしてるところに」  くぴくぴとラプサン・スーチョンを飲む擁冥をなでくりしつつ、頬杖ついてとほーと溜め息。  そんな母を見て、娘もまたとほーと溜め息。  「これで、格好いいところのひとつでも見せてくれたなら……」とか呟いている。  格好いいところもあるんだぞぅ? 戦の中でばっかりだけど。  怖いところだってもちろんある。戦の中でばっかりだけど。  あ、でも興奮すると手がつけられないってところもあるな。戦の中でばっかりだけど。  閨で興奮しすぎると同じことにもなるから、それを宥めるのも大変苦労はしますが。……宥めるというか……実力行使で屈服?  仕合後で見切りの攻防を繰り広げ、俺が勝利して、悔しいからと何度も戦って、それでも勝利して、目が虎っぽくなった雪蓮に首根っこ掴まれて雪蓮の部屋まで引きずり込まれて、そこで押し倒された日もあった。  ええまあ、床の上ではほぼ勝利を手にするこの北郷、彼女が満足するまでとことん付き合って……ちょっと、その、泣かせてしまった経験まであったりするのですが。体が疲れても氣で体を動かして、って、華琳の時にもやったことがある方法で。  あの時のいじけ具合といったら…… 「《ぎうー!》いだだだだだだ! ちょ、なにすんの雪蓮!」 「んっふふー? 一刀〜? なんかヘンなこと考えてたでしょー」  卓を挟んで正面から、身を乗り出してまで頬を抓られ、なにをするだァーと言ってみれば、説明しづらい質問。  考えてたけど……言えと? 言いましょう。言えないとでもお思いか? 「連続して仕合って、連続して俺が勝って、雪蓮が俺を自分の部屋に」 「いい! やっぱり言わなくていいから! ちょっと一刀!? こんなところでなんてこと考えてんのよもー!!」  怒られてしまった。  ……ほぼが自由な元呉王様に、そんなことを言われるなんて思ってもみなかった。 「母さん? 顔を真っ赤にして隠したがるようなこと、父さんとしたの?」 「べっ…………べつに、ほら、ね? かかか一刀に関わることで恥ずかしさがないってこと自体……珍しいことじゃない気が〜……しない?」 「発見するたび遊んでるか酒を呑んでるかサボって寝ているかの母に比べたらとても誇れる父だけど」 「ひどい! 一息で娘がひどい! うわぁん一刀ー! 一刀の所為で娘がー! なんか言ってやってよもー!」 「泣きつきたいのか文句言いたいのか助けてほしいのかどっちなんだお前は……」  せっかく持ち直していた娘からの評価がだだ下がりっぽいぞ元王様。  見なさい、この子ったらまた、とほーと溜め息ついておるでよ。  こんな時はアレだね、日本の道場でみんなを住まわせている時に身に着けたスルースキルで、思考の海にでもどっぷり浸かって…… -_-/イメージです  軽くイメージ。  そう、軽くでいいんだ。ちょっぴり自分が格好いい立場になれるっぽいイメージとか。  ほら、こう、さっきの話の続きとか……さ?  というわけで……───二人の騎士の前に立ち、自身の武器たる黒檀木刀の先で地面を突き、高らかに名乗りを上げた。 「我が名は天が御遣い北郷一刀! 此度の聖杯戦争においてはバーサーカーのクラスを得て現界した!」  なんて言って、騎士二人や征服王に、名を隠すことなく戦に挑むとは、とかなんかそれっぽいこと言われてみたいとか、バーサーカーのクラスでああも自我を保っていられるものかとか言われてみたい。  や、どうせ落ち着け落ち着け考えることが多い俺だから、正気を保っていられるだけってオチだろうけど。  で、そのあと登場した英雄王様に、湖の騎士さんのように華麗に立ち回れずにボコボコにされる自分が簡単に想像できた。  イメージなんだからもうちょっと強くあろうよ、俺。  そ、そう、格好よく、ね?  ほら、木刀と篭手と具足で飛んでくる武器を弾いてさ、なんならさっき、雪蓮が言ったみたいにこっちも宝物庫を開いて反撃とか。  ……あ、だめ。なんか飛んでいく財宝の中に桃が混ざってる。あっさり貫通された。桃ぉーーーっ!! (もうちょっと、格好よくいこう、ね?)  あの頃の宝物っていったらほら、みんなの武器も当然入っているわけだから、きっと強いよ?  恋とか愛紗とか星とか、持っていた武器を勢いよく飛ばすわけだ。  その中には当然、その時代に生きた者が鍛えたものや作ったものまであるわけで、たとえば黄金の波紋に弾かれて勢いよく飛ぶ絡繰華琳様とか、お菊ちゃんとか───…………なんで想像した! なんで想像した俺!! ていうかそうだよ! あれどうなったの!? まさか本当に宝物として残ってないよね!?  ……落ち着こう。うん、想像して早々だけど、ほんとこんな調子じゃバーサーカーになっても冷静でいられそうだよほんともう……。 (宝物のことは忘れよう……)  遠い目で現実逃避した。  次は……ほら、ライダーじゃないけど、片春屠くんには乗れるし、その逸話がスキルになってる可能性もあるわけだ。  遥かなる蹂躙制覇とか……ああうん、片春屠くんじゃ名前の由来通り、ただの轢き逃げアタックになりそうだね……。  ならアレだっ、木刀からの剣閃の逸話が昇華したスキル!  エ、エクスカリバーっぽいものになってたら格好いいよな!  放つ剣閃がレーザーみたいにこう……! い、いい! 格好いいじゃないか! で、切り離しを忘れると氣の全部を持っていかれて、一発で塵になるんだね。  …………なんで余計なことばっか考えちゃうかな俺……。  じゃあ次だ! 七度の瞬間錬氣! 淀みを解放したことで出来る氣力ブースター! 全力の一撃を放ったあとでも瞬時に回復! 敵に「なん……だと……!?」とか言わせられるかもしれない!  ……でも俺、その七つ全部使って、ようやく英霊様たちと戦える程度の実力しかなかったりするんじゃないだろうか。わあ、ありえそう。 (〜〜……だから余計なこと考えるなってば俺ぇえええ……!!)  いいんだよ! 想像なんだからもうちょっと強くあろうよ!  回復も多少は出来るから、傷があっても癒せるとか、氣を使った加速が出来ますよとか!  硬身功……とは違うけど、氣で拳を硬質化、加速で鋼鉄の拳を音速まがいの速度で敵に叩き込めるとか凄いじゃないか! ……で、筋痛めてギャアアと叫ぶと。  だめだ……なんかもう俺、いろいろと自分のオチが理解出来ちゃってる……!  もっと、もっとなにか、俺なら確実に、っていう逸話めいたものがあれば……! それを自信にして、今までのイメージをもっと格好いいものに変えるんだ……!  なんでもいい、なにか、なにか───! “これぞ俺!”っていうなにか!  これぞ……! これぞ! これ───…………こ………… 「………」  ……種馬?  ◆種馬  対女性スキル:EX  触れた女性、分類に限れば女であろうと雌であろうと誰であろうと孕ませる。  付加スキルとして“女たらし:EX”が存在する。 -_-/北郷一刀  …………コーーーン……。 「……母さん。父さんが顔を両手で覆ってしくしく泣き始めたんだけど」 「たまにあることだからそっとしといてあげなさい」  もうやだおうち帰りたい。  桂花に言われるならまだしも、自分でそこに思い当たるとか、俺ってほんと愚か者。  ああ、擁冥が頭を撫でてくれる……ありがとう、情けないけどありがとう。 ───────────────  ではここまで!  また次回にお会いしましょー! さようならー!  あ、あと近い内……には無理かもですが、時間が取れたら小説の大半をハーメルンに移そうかと思っております。  あそこで全部管理したほうが楽かなぁとか思ったもので。  まぁその時間が取れるかが一番の問題なんですけどね。  最初の頃のお話も、修行したいから〜って理由でフランチェスカに特別に許可をもらって実家から通ってる、って設定にしたほうが描きやすい気がしたんですよね。  そこらへんも踏まえて、少し修正しつつ移していこうかと。  さてそろそろ時間が、本気でヤバいのでこれにて!  え、え? 次はいつUPするのか? …………かっ……完成したら?  口にして守れないとこちらも辛いので、ぼかしますごめんなさい! 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