39/信頼されるということ

 のちに聞いた話では、目を覚ましたのは四日後の昼。
 今はもう見慣れた天井になったソレを眺めながら、目を何度か瞬かせると起き上がる。
 体の鈍りは大したことはないが、問題があるとすれば気脈のほうだろう。

「はぁああ〜〜〜あぁああ……」

 随分と無茶なことをしたもんだと、“呆れ”をそのまま口にだしたようなよく解らん言葉が漏れるが、とりあえずは生きていることに感謝を。
 母上様、丈夫な体に産んでくれてありがとう。華琳、頑丈な御遣いとして呼んでくれてありがとう。

「んっ……ぃしょぉっ……!」

 寝床から出て立ち上がってみれば、これが案外軽いもの。
 体はむしろ以前よりも軽くなり、気脈は……随分とすっからかんな気もするが、気分的にはそう悪いものじゃあなかった。

「うん、今日もいい天気」

 窓から見える呉の風景は今日も穏やかだ。
 この回復具合から察するに“昨日”ではないんだろうが、今日もまたすっきりとした一日が過ごせそうだ。

「《ぐるるぅ……》……おおっ!?」

 差し当たり、まず最初にすることは食事の調達らしい。
 しかしそれ以前にどうも汗臭い体に苦笑を漏らす。あとは……うん、まあその、いろいろ。

「思春。思春? 居る?」

 …………。声をかけてみても反応はなし、と。
 こんな朝っぱら……じゃないな、たぶん昼頃だと思うけど、こんな頃から風呂が用意されてるとは思えないし……それに今日が風呂の日とは限らない。
 行水くらいはしたいから、一応断りを入れるくらいはしたいんだけど。誰か、居るかな。


───……。


 シンと静まった通路を歩く。
 もうすっかり慣れてしまってはいるが、この緑の香りが好きだったりする。
 部屋から出た途端が一番感じられるな。もちろん部屋に居たって十分に香るわけだけど。

「えーと」

 バッグ片手に、このまま川へ行ってしまうか、断りを入れてから行くかを考える。
 以前冥琳に怒られたこともあり、無断で出歩くことはやめようとは思ったものの……うん、どれだけ汗かいたのか知らないけど、臭う。こんな状態で外出許可を得に行くよりも、さっぱりしてから行ったほうがいいのでは、と思いたくもなる。
 さてどうしよう……。

 1:ありのままの僕を見てください(許可を得に行く)

 2:身を清めてきます(このまま川へ)

 3:否、食事が先である(厨房へ)

 4:さっぱりする前に鍛錬 (とりあえずダッシュ)

 5:冥琳や華佗が気になる(香る僕のままでGO)

 結論:……清めてきます。

 ……。

「ハハ……なんか……川にお世話になってばかりだね……俺……。悪いね……なんだか……」

 誰に言うでもなく、後頭部をカリ……と掻きながら言い訳みたいなことを言ってみた。
 いや、いーんだワカってる。我が儘言える立場じゃないもん、俺。そりゃあお風呂の日にはしっかりお世話になってるけどね。

「じゃあこのまま川へ」

 うん、と頷いて歩き出す。
 冥琳や華佗のことも気にはなってるけど、行った途端に臭いとか言われたら泣いちゃうよ俺。
 だからまずは体を清める。
 タオルも服も、全部バッグの中だ。もちろん黒檀木刀も。たとえ襲われても、それなりの対応が……出来るといいなぁ。

「…………服が胴着じゃないのは非常に気になるところだけど」

 雨に濡れたし、誰かが着替えさせてくれたんだろうか。
 そういったことを世話してくれるのは……と考えて、何故か祭さんしか浮かばない俺が居る。

(あの人、結構世話好きだよな。面倒くさがりなところもあるけど)

 思い出し笑いをしながら歩く。
 通路を抜け、出会った兵にやあと挨拶をして、擦れ違って森《がしぃっ!!》

「オワッ!? ……な、なにっ?」
「お、おーい誰かー! 北郷が! 北郷が目覚めたぞーっ!!」
「え? あれ? ちょっ───」

 いざ森を目指そうって時。何故か急に肩を掴まれ、掴んだ張本人さんの兵が声高らかに叫ぶと、ぞろぞろと駆けてくる───兵の皆様!?

「な、なに!? みんなどうしたんだ!? え? お、俺なにかやらかした!? 寝てただけだよね俺!」
「あー……悪いなぁ北郷。黄蓋様に、お前が起き出したらまず何処かへ逃げるだろうから、捕まえておいてくれって言われてるんだ」
「なんですって!?」

 こんな……こんなところに祭さんの魔の手が!?
 そんな、俺ただ体洗いたいだけなのに……! ……ていうか逃げるの確定って思われたんだね、俺。まんまとその通りに動いてしまった自分がちょっと悲しい。

「えっとさ、俺……ただ体が汗臭いから、川まで洗いに行くだけで……」
「悪い、仕事なんだ」
「アー…………じゃあ、仕方ないよな……」

 ここ一ヶ月で、兵とも仲良くはなった。しかし、仕事だと言われれば融通はきかない。だってこれで食ってるんだ、それを放棄したら給金なんて貰えない。
 俺もそれが解ってるから暴れることはせず、言われるままに部屋へと戻った。


───……。


 で……まあ。どうせ汗臭いなら何をやっても一緒だーってことで、念入りなストレッチを開始。
 はい伸ばしてー……畳んでー……伸ばしてー……畳んでー……。
 勢いで伸ばすのは危険だからやめようね。ゆっくり時間をかけて、ぐぐ〜〜〜っと伸ばすんだ。勢いでやると一気に筋が伸びて、悪い時には断裂が起こったりするから気をつけよう。
 それと息を止めるよりはしっかりと、少しだろうが呼吸しよう。
 ストレッチしていると、どうも力が入って呼吸を止めがちだけどね。むしろ伸ばしている部位に酸素を送りこむような気分でやってみよう。あ、あまり力まずに、自然に伸ばせるようにしてね。

「……うん」

 ……誰に言ってるんだろね、俺。

「ストレッチ終了、と《ぐるるぅ……》…………腹減った」

 動いた分だけ胃袋が刺激されたらしい。
 なにか食べるものはと思うものの、今が何時なのかも解らないし、むしろもう朝か昼かも解らない食事の時間は過ぎて、俺はまたしても食いっぱぐれてしまったのではと心配になる。
 そうなると不思議なもので、食えない、食いたいという思いが俺の神経を研ぎ澄ませた。
 だからだろう。ふと届いた香りに、我が双眼がクワッと見開かれた。

「この、香りは……!」

 青椒肉絲。それも、親父が作るものよりも香りからして明らかに違う……!
 ……うっ、唾液がじゅわりと……! 匂いだけで強く“食べたい”と思うのも久しぶりな感じだ。
 親父の手伝いや他の町人の手伝いをしている時は、なんだかんだと食べさせてもらったりしているから、俺が食べたいと思うよりも相手が“食わせたい”と思うかどうかで決まるわけで。
 むしろ“いいから食え、どんどん食え”って感じで食べさせてもらっている。遠慮する時はもちろんするけど。

「…………《コルルル……》…………腹減ったぁあ……」

 これはどういった拷問なのでしょう。
 良い香りがするというのに、部屋から出られない苦しみ。
 もういっそ窓から……とも思ったが、きっとそっちも包囲されているんだろう。試しに窓を開けずにこそりと外を覗いてみれば……うあ、やっぱり居る。

「なにか空腹が紛れることでも…………鍛錬!」

 空腹っ……それに打ち勝つにはやはり鍛錬ッッ!!
 よく思い出すんだ一刀、俺は煩悩を鍛錬………………じゃなくて睡眠欲と食欲とで抑えたんでしたね、ごめんなさい。
 あー……なんか俺、いろいろアレだ……。
 煩悩……ああ、もう耐えることに慣れてくると、よっぽどじゃない限りは暴走しそうにはないんだが。いつかその暴走を起こしそうで怖い。
 だったら空腹なのはむしろありがたいことなのかなぁ……腹が減っては戦は出来ぬ、こんなグルグルキューな状態で女性に手を出すなんてこと、暴走したってそうそうないだろ。

「よしっ! 鍛錬鍛錬っ! 何をすればいいのかよりも、何が出来るのかで考えよう! そして今の俺には鍛錬が出来る!」

 バッグから黒檀木刀を取り出し、まずは型から。
 ストレッチで体は温まっているから、あとは型から入って剣術用の筋肉をほぐさないとな。

「ふっ! ふっ! …………んー……」

 体が軽い……本当に軽い。
 こう、今なら自分の胸近くの高さまである柵でも、無助走で飛び越えられるんじゃないかなーって思うくらい軽い。
 試してみたいけど外には出られないし……あ、あれぇ……? 俺、気絶してただけだよなぁ? どうしてこんなに氣が充実してるんだ? さっきまで空っぽだったのに。
 鍛錬らしいことなんて、気絶しながら出来るはずも───ハテ。

「……冥琳のこと助けようって必死だったけど、もしかしてあれが原因なのか?」

 無理矢理の錬氣と絶対量拡張。
 絶対量って名前なのに拡張できるのは何故? と首を傾げたくなるような名前だが、“現在は”そこまでしか氣を溜めておけないから、“絶対量”。なんてことはどうでもよろしい。
 限界を越えてーって言葉があるけど、あれも似たようなものだろう。
 人間の限界はいろいろと高い位置にある。なにせ普段は本能的に力をセーブしてるっていうんだから、自分たち人間が出せる“限界”なんていうのは遥かに高みにある。
 その気になればデコピンでリンゴくらい破壊できるんじゃないか? もし100%引き出せたらの話だけど。

「そっかそっか……」

 と、限界の話はべつにしても、冥琳を救おうとしてやったことが、どうやら気脈や体にとって善い方向に進んでくれたらしい。
 氣が練られる速度も上がっているようで、それでも凪のようにすぐに手に溜める〜とかそんなことは出来ないが……それでも。

「集中、集中……!」

 今までの自分にしてみれば、かなりの速度で氣の集束が可能になった。
 よかったー……ちゃんと学べてるんだな、俺……。
 一か八かすぎたけど、なんとかなってよかったよ………………冥琳が五体満足かは、まだ確認出来てないけどさ。
 でも、診たのは華佗だ。一方的ではあるけど、人を救いたいって言って大陸中を旅する人を信じないで、誰を信じろっていうんだ。
 信じるだけで救われるなら苦労しないけどさ、一方的に押し付ける信頼なら、だめだった時は俺だけ落ち込めば済むことだ。
 ……もちろん、冥琳が助からなければ、悲しむ人は俺一人じゃあ済まないけど。
 兵たちのあの様子から察するに、そう悪いことにはなっていないはずだ。

「───はぁあああ……」

 さて、と息を吐く。
 氣の移動の仕方、溶け込ませ方は実戦というか気絶する前のことで大体掴めた。必死だった分、体が“忘れちゃいけない”と刻み込んでくれたみたいに……いやむしろあの時、俺の中に少しだけ逆流してきた冥琳に流した氣が……俺にそれを覚えてて、と言っているかのように、忘れさせてくれない。

「ん、んー……んっ!」

 では応用を。
 今回は一人かめはめ波はやらずに、木刀に氣を流し込んでいく。
 もちろん気脈なんて無いものだから、伝導させる意味も含めて“触れている”必要がある。少しずつ、少〜しずつ自分の氣が手から木刀に伸び、覆っていく。
 肉眼で自分の氣をハッキリ見れるところまで来れたことに、若干どころかトキメキさえ覚えているのが現状だ。
 頑張ったな、俺……うん、俺、頑張った。ありがとう凪……………俺、お前と出会えて本当によかった。
 お前に出会わなきゃ、きっと救えなかった命が…………えと、救えたよね?

「……っ……は、はぁっ…………ふぅう〜〜……!」

 ごちゃごちゃ考え事をしていたためか集中が乱れて、覆い尽くすまでに時間がかかってしまった。
 うっすらと額に出た汗をバッグから取り出したタオルでポンポンと拭いつつ、片手に持ったままの木刀を見て誇らしげに笑う。

「……うん、鮮やかな金色だ」

 氣っていうのはこういうものなんだろうか。
 むしろ黒紫色っぽかったら、“第六天魔王、降臨せん!”とか言いたいような気分だったんだけど。

「これって、氣の錬度によって硬度が増したりとか……はは、まさかそんな、ゲームみたいなこと……」

 試しに、「えいやー」と笑いながら机の隣にある二つの椅子のうちのひとつに、木刀を振り落としてみた。
 すると《ばごきゃあっ!!》…………。

「あっははは、ほ〜らオワァアアアーーーーーッ!!!」

 ヒビッ……ヒビ割れッ……!?
 そんな、いや、でもまさかそんなアワワーーーーッ!!?
 なんて想定外なっ……! こんな、綺麗にヒビがっ……《どんどんどんっ!》……ホワッ!?

「一刀〜、ちゃんと居る〜?」
「ヒアーーーーッ!!?」

 雪蓮!? 貴女がノックなんて珍しい! じゃなくてああもうなんでこんなタイミングで来るのさっ!
 いやいつ来たって結局直しようもないんだけどさぁっ! いやむしろ貴女、普段からノックなんてしないのになんだってこんな時だけ!?
 ひょっとして俺をからかうための勘が働いていらっしゃるの!? だったらひどいプレッシャーだぞこれ! 僕もうお家帰りたい!
 どどどうする!? 故意ではないにしたって、椅子を破壊したとか……うああああ! 弁償できる金なんてないぞ俺!

  コマンドどうする?

 1:にげる(気配を殺して逃げてみる)

 2:ぼうぎょ(寝床に潜って震えてみる)

 3:じゅもん(私は椅子になりたい)

 4:どうぐ(タオルをヒビの部分に被せて逃げ切る)

 5:たたかう(ひたすらに謝ってみる)

 結論:……ろくな選択肢がない……ああ、たたかうが一番下なのは仕様だからほうっておいてほしい。

 ……。
 バターーーン!!

「キャーーーッ!!?」
「やっほー一刀〜♪ あ、起きてる起きてる〜♪」

 しかもノックをしようがやっぱり返事も待たずに侵入。
 誰ですか、この傍若無人を王様にしようなんて仰ったのは。

「ヤ、ヤアシェレンサァ〜ン、キョーモオウツクシイ……!」
「なに隠してるの?」
「たった3秒でバレたぁあーーーっ!!」

 もうダメ! 俺隠しごととか苦手みたい!
 それにしてもバレるの早すぎだよなにやってるの俺!

「ばれた、って……一刀。貴方普段から女性を褒めるようなこと言わないでしょ? 特に私達には。魏のために〜とか言って、出来るだけ私達の領域に足を踏み込まないようにしてる」
「うぐっ!」

 そしてこっちもバレていた。
 自分から線を引いておかないと、あとあと大変なことになるんじゃないかと思っていたからだ。
 だっていうのに自分から首を突っ込んではいろいろやっているわけで……だめだ、自分から関わってしまっている以上、なにか言われても断り切れる自信がない……。

「…………」

 ……このままじゃ……いけないよな。

「雪蓮、聞いて欲しいことがある」
「え? なに? もしかして冥琳のこと? 大丈夫、気にしないで。冥琳が病気だったってことは、私も知ってた───」
「……俺、次に朱里たちが呉に来たら、一緒に蜀に行こうと思う」
「───から……?」

 だから言った。……言ったら、びしりと停止する目の前のにこにこ笑顔の王様。
 凍りついたにこにこ笑顔が、少し心にさっくりと痛い。

「…………えーと。一刀? 今なんて言ったの? な、なんか、蜀に行く〜とか聞こえた気がしたんだけど……」

 そんな彼女が耳の近くをとんとんと指で突き、「疲れてるのかな……」とかぶつぶつと言っている。
 俺は……訊き返す彼女に迷うことなく、同じことを噛み砕いて言ってみせた。

「……朱里と雛里が呉に来て、次に学校のことについてを纏めに蜀に戻る時……俺も一緒に蜀に行く、って……そう言った」

 真っ直ぐに、いつものように彼女の目を見ながら。
 すると雪蓮は一瞬悲しそうな顔をしたあとに───

「やだ」
「へ?」

 拗ねた子供のような顔で、とんでもないことを仰った。

「だめ、却下、認めないっ。なんで急にそんなこと言うかなぁ一刀は! せっかく呉にも慣れて、民からも兵からも笑顔ば〜〜っかり向けられるようになったのにっ! ……だめ、とにかくだめ。華琳もそうかもしれないけど、私だって気に入ったものを簡単に手放す性格してないんだからねー!?」

 …………。あー……目の前で、ぶーぶーと口を尖らせる女性は本当に一国の王なんでしょうか。俺、ちょっと自信なくなってきたかも……。

「いやあの……雪蓮さん? なにをそんな、子供みたいな……。もともと俺は客だろ? それに、最初にってほどじゃないけど、華琳から言われてるはずだ。俺に命令する権利はあるけど、縛り付ける権利はないって」
「はぐっ! ……ねぇ一刀? 華琳ってこうなることを見透かしてたんだと思う……?」
「……まあ。俺が誰からの誘いも受けないことを見越して、手を出していいって言ったのも含めてね」
「ふーん……信じ合ってるんだ」
「ははっ、そうじゃなきゃ、一年離れても好きでなんかいられないって」
「…………むうっ……」

 というかどうしてここまで渋るのかが解らん。
 いつものように飄々と、「そーなんだー、あははー」くらい言えばいいのに。……いや言わないか、こんなこと。
 変な想像は置いておくとしても、雪蓮はどこかつまらなそうな顔で口を開いた。

「……ねぇ一刀。華琳のこと、好き?」

 俺の顔を覗くように、体を少し折って。
 不貞腐れたような顔はもうやめたのか、真剣に訊いてきていた。
 だったら俺もと、にやけることもなく真っ直ぐに雪蓮の目を見つめ返して、言った。

「……ああ。愛してる」
「ふあっ───!?《ぐぼんっ!》」

 キリッとしたつもりでも、うっすらと笑んでしまうのは仕方ない。
 心から出た言葉がどれほど届くのかは解らないが、それでも胸一杯に広がるこの思いを雪蓮に解ってもらおうと、真っ直ぐに伝えた……んだけど、雪蓮さん? 何故貴女が赤くなりますか?

「…………うあー……まいったなぁ。まいった……うう、まいったぁああ……」

 しかも何かがまいったらしい。
 赤くなった両の頬に手を当てながら、うんうんと唸っている。
 なんだか知らないけど、俺の言葉に思うことがあったってことで……いいのか? 俺、そんな唸るほどヘンテコなこと言ったっけ?

「…………、」

 ふぅ、って感じに鼻から息が出た。いつか雪蓮にされたみたいな、仕方ないなぁって感じの苦笑めいた溜め息だ。
 うんうん唸っている雪蓮は、普段の子供っぽさもあってか本当に子供のように見えて……だからだろう。俯いている彼女の頭が丁度いい位置にあったっていうのも手伝って、いつかのように彼女の頭を撫でていた。

「ふ、あ…………? 一刀……?」

 少し潤んでいた目が、きょとんと俺を見上げる。
 その顔もまた、先にある不安に怯える子供のようで───そんな彼女を落ち着かせるように、やさしくやさしく頭をなでる。

「そんなに悩むことなんてないんじゃないかな。親父たちにも言ったけど、もう二度と来ないわけじゃないんだ。来たいと思えばまた来れるし、会いたいと思えばまた会える。だって……俺はこの大陸に、確かに存在してるんだからさ」
「……かず……」
「だからさ、そんなに悩まないでくれ。雪蓮には、今までみたいに真っ直ぐにみんなの笑顔を求めてほしいよ。俺……言ったろ? 頑張るって。だから……お前も。頑張れ……頑張れ、雪蓮」

 心を込めて、何度も何度も。
 頑張れって言葉のたびに、自分の言葉が勇気になるようにと。

  ……今にして思う。これは、明らかに地雷だったと。

 雪蓮が抵抗らしい抵抗も、嫌がる素振りも見せないために、いつしか俺は雪蓮の頭を胸に抱くようにして頭を撫でていた。
 汗臭くないだろうかと不安にも思ったものの、雪蓮はやっぱり嫌がる素振りも見せず、撫でられるがままに…………あれ? ていうか反応が───

「雪蓮っ?」
「《びくっ!》はっ!? うわわわーわわわっ!!」

 気になって声をかけてみれば、まるでたった今撫でられていることに気づいたみたいに、俺の手から逃れる雪蓮。
 数歩離れた位置に立ち、真っ赤な顔で俺を睨むと、離れる時に変な声を出していた自分を恥じ入るように頭を抱えて落ち込み出した。
 ……今日はやけにいろいろな雪蓮を見れるなぁ。
 今だって据わった目で俺をねめつけるように……あれ?

「決めた……決めたわ」
「あ、あのー……雪蓮さん? 前にその言葉を言ったあと、華琳がものすごーく迷惑してたって記憶が俺の中にあるんですが……?」

 宴の席で、華琳が雪蓮に絡まれてギャーギャー叫び合っていたのを思い出す。

「一刀。冥琳の命を救ってくれて、ありがとう」
「え? あ、……そ、そっか。無事だったのか…………〜〜〜っはぁあ……よかったぁ……!」

 雪蓮がこんなに陽気で元気だったんだから、死んだりとかはしてないとは思ってたけどさ。こうしてきちんと伝えられると、本当に安心する。

「それでね? 是非その恩賞を一刀にあげたいんだけど」
「や、それはいらない《きっぱり》」
「だめ。受け取らないと許さない」
「恩賞与えようとする王の言葉じゃないだろそれっ!! だ、大体俺は国に返すために動いてるのに、これで恩賞とか報酬とかもらってたんじゃあいつまで経っても返しきれないだろっ!?」
「あ、大丈夫大丈夫。これはちゃ〜んと国に返すことになるから。むしろこれ以上に国に返すって言葉が似合うことなんて、きっとないって思うんだけどなー、私」
「……え?」

 またも、にこーと笑う雪蓮の言葉にハッとする。
 そうだ……内容を言われる前に断るのって、あんまりにひどいんじゃないか? 雪蓮は良かれと思って言ってくれてるんだし、せめて内容を聞いた後でもいいはずだ。
 ……なのに、俺の中で警鐘が鳴り響いているのはどうしてだろう。

「えっとね。いくら私達がいい国にな〜れ、って国を善くしていっても、次代を担う子が居なくちゃ意味がないでしょ? だから、一刀にはこの呉で、みんなの種馬になって貰───」
「長い間お世話ンなりましたァアアーーーーーーッ!!!」
「えっ? あ、ちょ───一刀ーーーっ!!?」

 逃げたね。ああ逃げたさ。脇目も振らずに、開けっぱなしだった扉から逃げ出したさ!!
 さあ、これから何処に行こうか……。何処だっていいさ、この足が健康なら、俺は何処までだって走っていける。
 俺達の冒険は───始まったばかりだ…………っ!


───……。


 まあ……そんなこともあって。

「そっち行ったわよ! 蓮華!」
「はいっ! 雪蓮姉さまっ!!」

 雪蓮が適当な理由をつけて呼んだ援軍が俺を捕まえようと躍起になり。

「ほれ亞莎っ! そこじゃっ!」
「ひゃうっ!? ごご、ごめんなさい一刀様っ!」
「ごめんって言いながら暗器を飛ばっ……っと、たわっ!?《ジョリィッ!》ギャアーーーーッ!!」

 鍛えた体と氣を駆使して逃げるが、やはり多勢に無勢。

「あ、あっ……あのなぁ雪蓮んんっ! 病み上がりの人にこの仕打ちってどうなんだー!?」
「一刀が逃げるからでしょー!? 大人しくお礼受け取ってって言ってるのにー!」
「冥琳が無事だったならそれでいいじゃないかっ! なのにそのお礼が呉の女性とよよよ夜をともにするとかっ……滅多なこと言うなこのばかっ!」
「あー! 馬鹿って言ったー! 一国の王を馬鹿呼ばわりしてただで済むって思わないでよ一刀ーーーっ!」
「みんなが冥琳のことをどれだけ大切に思ってたのかは、そのお礼の内容だけで十分解ったからっ! だだだけど俺は魏に全てをだなっ……!」
「ぶー、いいじゃなーい、華琳から許可は得てるんだしー! いっそほらー、蜀の子たちも落としちゃって、大陸の父になっちゃえばいいのよ。私、今さら誰か適当な男との間に子供なんて欲しくないし───って、あー! 逃げたーっ!!」
「逃げるわぁあああっ!!」

 亞莎に暗器で狙い撃ちされそうになるわ、角を曲がったところで蓮華に斬り殺されそうになるわ、祭さんに矢で射抜かれそうになるわ……!
 雪蓮はいったいどんな理由でみんなを集めたんだ!? 明らかに殺意が篭ってるだろこれっ!!

「うえぇえっ!? あ、あのっ、孫策さまっ!? わわ私、一刀様が国の宝を持ち逃げしようとしたとっ……!?」
「うん? 策殿、儂は北郷が、儂に贈られるはずだった酒を独り占めしたと聞いたが───」
「なっ……どういうことなのですか姉さま! 私には北郷が姉さまの大事なものを奪ったと!」
「しぇぇえええれぇえええええええええんっ!!! どれだけウソ並べてるんだお前はぁあああああっ!!!」

 聞いてみれば捏造上等もいいところ! そしてみんなもそんなウソをポンポン信じないでください!

「こ、細かいことはどーでもいいからっ、とにかく捕まえて! このままじゃ一刀、蜀に行っちゃうんだからっ!」
「! ったぁああああっ!!《ヒュバァッ!!》」
「《ジャラララビシィッ!!》うおぉおっ!? え!? なっ……く、鎖分銅!?」

 亞莎の長く余った袖から伸びた幾束の鎖が、俺の左腕へと巻き付いた!
 なんてこと……亞莎が! 亞莎が何故か積極的に俺の捕縛に踏み出した!? しかも、戦いに身を置く男として、地味にだけど一度は体験してみたかった腕縛りまでして! ……なんか物語の主人公になったみたいでちょっぴり嬉しい……!

「ほお……帰るか。それは事実か、北郷」
「祭さんっ、ほおとか暢気に構えてないでっ! 事実は事実だけど、まず助けてからにしません!? ……つーか痛っ! 鎖痛っ!!」

 何気に痛い! 何気っていうか普通に痛い!
 こんなの巻き付けられて踏ん張れる人、凄いよ素直に! 俺も踏ん張ってるけどさ!

「か、一刀様……帰ってしまうんですか……?」
「あ、亞莎まで……! 確かに帰るけど、またいつか遊びに来るからっ、ていうかさ、みんな勘違いしてないか!? 俺はなにも今すぐ帰るだなんて言ってないぞ!?」
「だが帰るのだろうっ?」
「蓮華……それは、うん。帰る」
「! …………うぅうぅぅううぅぅ〜〜〜……!!」
「《ギリギリギリギリ》ぎゃだぁあーーーーだだだだっ!!? ちょちょちょ亞莎!? 痛っ! 引っ張らないで引っ張らないでぇえーーーーっ!!!」

 引っ張られると、ミリミリと肉が……腕の肉がぁああっ!!
 鎖ってよく出来てるなぁ! 交互に横と縦とが混ざってて、相手を絞め付けるのに丁度いいったらない!
 けどこうして踏ん張ってる限りは……たとえ格好悪くても無理矢理抜け出す!

「……! ……!《じゃらじゃらじゃら……!》」
「わっ! 分銅引っ張って一つずつ外しにかかってる! 亞莎、もっときつく引っ張って!」
「千切れるわぁっ!! あーもうっ───《じゃらぁっ!》頼むから落ち着いてくれぇえええーーーっ!!」
「! 逃げたわ! 追うわよ明命!」
「はい蓮華さま!」
「あれぇーーーっ!!? 明命までいつの間に!?」

 で、鎖を丁寧に解いて逃げ出してみれば、いつから居たのか明命までもが謎の捕り物帳に参戦!
 いやむしろ、逃げるたび追い詰められるたびに人数は増え……───


───……。


 で…………

「ゴメンナサイ……もう逃げませんから……追い続けるの、勘弁してください……」

 いつしか、中庭の中心で自主的に正座して、呉のみんなに囲まれている俺が居た。
 追われるのって辛いね……神経がジリジリと磨り減っていく気分だよ。

「じゃあ一刀、呉の父に───」
「あ、それは嫌だ」
「えー? ……むー、じゃあ仕方ないか」
(ほっ……)

 拒む俺を前に、少し口を尖らせたものの、本当に仕方ないって顔で頷いてくれる雪蓮。
 ……うん、話して解らない人じゃないんだ。ちゃんとこうして、真正面から嫌だって伝えれば───

「じゃあ命令ね? 一刀、呉の───」
「おわおあうぇあいあぁああああああああっ!!!! なななななんてこと命令しようとしてるかぁあーーーーーっ!!!!」

 前言撤回! 話しても解ってくれませんこの人!!

「だって仕方ないじゃない。一刀、頷いてくれないんだもん」
「頷けるわけないだろっ! 俺の全ては魏のもので───」
「その魏の象徴である華琳が、手を出していいって言ったんだけど?」
「い、やー……そ、それはそのー……そ、それにしたってさ、俺の意思くらいは尊重されるべきじゃないか?」
「うん。だから命令で───」
「それ一番尊重してないからァアアアアッ!! 俺の意思全然関係ないからァアアアッ!!」
「んー……そうでもないでしょ? だってほら、命令を受けるのは民の罪を被ったからで、一刀が進んで頷こうとしたものじゃない? 私ね、一刀はたとえ華琳が言い出さなくても、民が助かるんなら〜って言いそうだと思うの」
「………」

 空いた口が塞がりません。
 それどころか話せば話すほど、どんどんと逃げ道を塞がれていっているような……!

「ね、一刀。私はべつに、一刀に無理矢理な要求をしてるつもりはないの。一刀が本当に私達とは関係を持ちたくないっていうなら、もうこの話は終わり」
「雪蓮……いいのか?」
「いいわよ。強要しても頷いてもらえないなら仕方ないし。……でもね、覚えておいて。私達はいずれ男を受け入れて子を成すわ。誰のためでもない、国のために。たとえ相手のことが好きじゃなくても、いつかは強制されることになるかもしれない。一刀は……そういうの、手放しに祝福できる?」
「い、いやっ、けどさっ! みんなだって俺のこと、そういう意味で好きでもないんじゃ───」
『そんなことないですっ!』
「うわっと!?」

 好きでもないんじゃないか、と続けようとした俺に、明命と亞莎の声が重なった。俺は思わず息を呑み、正座したままの状態で硬直。
 自分の声に驚いているのか、同じく固まっている二人に「ア、アノー……?」と小さく声をかけると、二人は真っ赤になりながらも言葉を並べてくれた。

「か、一刀様っ、私は……子を宿すなら、一刀様との子がいいですっ」
「わ、わわわ、わたっ、わたひはっ……! 私もっ……他の人となんて、考えるだけでも……! …………怖い、です……!」
「………」

 けど、結論から言えば、俺は二人の言葉を聞くべきじゃあなかったんだ。
 俺は結局断ることしか出来ない。魏を思えばこそ、辛い鍛錬にも耐えられたし、魏に戻りたいと思い続けたからこそ、今の自分が居る。
 もしそういった意味で二人が“俺がいい”と言ってくれるのなら、俺は余計にその告白を受け容れられない。

「……かっ、いい若いモンが何をうだうだ悩んでおるか……北郷!」
「《びくぅっ!》は、はいっ!?」

 悩んでる最中に、よく通る祭さんの声が俺の耳と貫く。
 俯きかけていたために猫背になっていた体がシャキーンと伸び、そんな俺を見下ろしながら祭さんは続ける。

「どうせ国がどうとか魏がどうとか考えておるのだろうから訊くがな。お主の気持ちはどうなんじゃ。肝心なのは魏でもなんでもなく、そこじゃろう」
「……それは」
「男ならばはっきりと言ってみせんか。好きか嫌いか。結局はこの二択だろうに」
「………」

 あのー……祭さん? それが難しいからいろいろ悩んでいるんですが?
 俺は“魏が”好きだから、同盟国だからって他のところに手を出したくないんだ。

「みんなのこと、嫌いじゃない。むしろ好き……なんだと思う。でもさ、じゃあ祭さんはどうなんだ? 子を成すにしても、俺みたいなヒヨッコ相手でもいいって頷けるのか?」
「む? …………な、なに?」
「え? ……あ、いや、だから、俺なんかで───」
「………」
「………」

 しばし沈黙。
 祭さんは何を言われたのかが解らないといった風情で、しばらく顎に手を当て目を線に、口をへの字口にして考えこんでいる。

「あー……つまりなんじゃ? お主は儂とまで子作りをしたいと。そう言いたいのか? いやそもそも、この老人まで孕ませるつもりでいたと」
「ふえぇえあぁあぅ!? え、えっ!? そういう意味で言ってたんじゃないの!? ───違うの!?」
「ふ……ふわっははははは!! いやいや結構! そうかそうか、それも悪くないやもしれんっ!」

 急に上機嫌になった祭さんは、豪快に笑いながら正座中の俺の横に屈むと、バシバシと背中を叩いてくる。
 ああ、なんだろうかこの地雷臭は。踏んでしまったが最後、逃げることも出来なければ死を選ぶのを俺が嫌だと思うこの八方塞の状況。
 いや、解ってる。拒否すればいいんだ。俺は魏が好きだから、みんなとは一緒になれない、って。どれだけ泥を被ろうとそうすると決めたなら、そうしないのが逆に不自然…………なのに。

「まさかこの歳で子を育てることになるとはのぉ……世の中、一手先も見えんものだわ」
「うー……祭さんはさ、それでいいの? その……相手が俺なんかで」
「うん? なんじゃ、そんなことを気にしておったのか。その答えならば、策殿が似たようなことを言っておったじゃろう。儂は自分が認めた者以外の男の子を成すなど、許容しきれんわ」
「……それが国のためであっても?」
「真に必要ならば埒も無し。儂の意見など無視されて然りじゃ。……が、今はお主がおるじゃろう。この老人の発言が通されるのであれば、生娘的な意見ではあるが、どうせならばお主との子を選ぶじゃろうな」

 言いながら立ち上がり、両腰に片手ずつを当て、けらけらと笑う。
 いつも楽しそうだよなぁこの人……じゃなくて。“どうせなら”って……これは喜ぶところなのかがっくりするところなのか? 

「なんじゃ。どうせなら、という部分が不服か? 物事がどちらに傾いているかなど、時と次第によるものじゃろうが。自分に傾いているうちは、手放しに喜んでおればよいわ。男ならどしっと構えんかい」

 言いながら、祭さんがどしっとした構えをする。
 ……この人を前にどしっと構え続けられる人が居るなら、見てみたいよ俺。

「ほら一刀。賛成ばかりみたいだけど?」
「賛成って……まだ明命と亞莎、祭さんくらいじゃないか」
「そんなことないわよー。私に蓮華に小蓮に───」
「姉さまっ!? いつ私が賛成などと言いましたかっ!」
「わっ、ちょっと蓮華、急に怒鳴らないでよ」

 指折りに名前を挙げる雪蓮に、横に立っていた蓮華が待ったをかける。
 俺はそんな景色を横目に、中庭の広さを眺めながら現実逃避を……したかった。問題が問題なだけに、適当にはぐらかすわけにはいかなかったのが理由である。
 というか祭さんがどいた途端に背中、というか首に抱き付いてくる小さな暖かさに苦笑し、それどころじゃない。
 ああ……目に見える東屋の近くで、亞莎とごまだんごを食べた平和さが懐かしい……。

「あのー……雪蓮? いろいろ問題が出てくるだろ。シャオだってまだこんななんだし」
「あーっ! ちょっとそれってどういう意味ー!?」

 首に抱き付いているシャオが耳元で叫ぶが、話を通すなら多少無茶をしなければいけないときがあるんだっ……!
 ……あるんだよ? あるのに、自分で自分の首を絞めている気がするのはどうして───はっ!?

「え? 問題ないでしょ? だって一刀、魏でも季衣や流琉に手、出してるんだし」
「《ぐさぁっ!》ぐはっ……!」

 気づいた時には手遅れ。というかその情報源は何処ですか?
 ともあれ自分で逃げ道を塞いでしまった俺は、ぷんすかと怒るシャオに絡まれるためだけの発言をしてしまったことに、激しく後悔した。
 いいんだ……僕もういろいろといい……。草むらを走る蟻でも眺めてよう……。

「ひ〜と〜り〜が〜大好きさ〜……。ど〜せ死ぬときゃ……ひとり〜きり〜……」
「……? 一刀、それなに? なんの唄?」
「いや……なんでもない……」

 首に抱き付いたまま、肩越しに俺の顔を覗いてくるシャオの頭をぽんぽんと撫で、いっそ目の横の面積分、滝の涙を流したいような気分でがっくりと項垂れた。こういう時に限って見つからない蟻に、僅かな逆恨みを飛ばしながら。

「………」

 顔をあげれば、ギャースカと騒ぐ雪蓮と蓮華。それを酒の肴にでもしたいといった風情で笑う祭さんと、目を閉じつつ何も言わない思春。
 そして、「一刀様の子供……」と言いつつ、顔を真っ赤にしている亞莎と明命。
 俺の首にはシャオが抱き付いていて……で、そんな俺の正面に屈み、にこーと笑う影ひとつ。

「なぁ、まさか陸遜までこんなことに賛成とか……言わないよな?」
「いえいえぇ、私は賛成ですよ〜? ……他でもない、私のあんな姿を見てしまった殿方ですからぁ」
「……あんな姿もなにも、呼ばれて行ったら勝手にあんな姿してたんじゃないか……」
「あぅ、あれはその、耐えられなかったといいますかぁ……」
「とにかく俺は《ぎゅみー!》あいーーーっ!?」

 喋り途中の俺の耳を襲う謎の痛み! いや、謎なんて何もなく、首に抱き付いていたシャオが俺の耳を引っ張ったんだが……!

「あんな姿ってなに!? 一刀ってばシャオっていう妃が居ながら、他の女とーーーっ!!」 
「だだ誰が妃だーーーっ!! 最初っから言ってただろぉっ!? 俺は魏と、華琳とぉおあぃたたたたぁあーーーっ!! 耳っ! 耳千切れるいだぁたたたたぁあっ!!」
「なぁにっ!? この期に及んでまだ他の女の名前を出すのっ!?」
「だからっ、他の女もなにもっ! 俺は華琳あぃだだだぁああーーーーっ!!!」
「あぁ〜、そうでしたそうでした。一刀さん、私のこと、これからは穏と呼んでくださいね?」
「うわっ! さらりととんでもないこと言われた気がっ! ちょっ……陸遜!? そういうのはもっとこう、こんな騒がしさのない場面で……!」
「冥琳様を救ってくれたんですから、これくらい当然ですよぅ? ……むしろ今まで真名で呼ばせてほしいそぶりを全然見せてくれなかったのが、穏的にはとても寂しかったといいますか……」

 あ、いじけた。

「でもですね、こうなれば本のことも解決すると思ったんですよ一刀さぁん。なにせ、興奮してしまったら……《ポッ》……一刀さんに鎮めてもらえばいいんですからぁ」
「《ぞぞぞぞわぁっ!!》ヒィッ!? な、なにやら寒気がっ……!?」

 一度足を踏み入れたら、足腰立たないまで絞り尽くされる未来を、我が五体が案じているような……!
 え? 案ずるより産むが易し? 易くなる前にべつのものが産まれるからっ!! むしろ一線踏み越えてる時点でアウトだアウトッ!!

「こっ……ここ、こ……!」

 こんな時、普段からみんなを諫めてくれる存在……冥琳が居ないのはとても辛い。……辛いのと同時に、普段から冥琳にどれだけの苦心があるのかが少しだけ解った気分だった。

「……あ、あのさ。俺、どちらにしてもそれを受けるわけには……」
「一刀はシャオが知らない男に孕まされちゃってもいいっていうのー!?」
「こらこらこらこらこらぁあっ! 孕ますなんて言葉を軽々しくだなぁっ!」
「か、一刀っ! 貴方はっ……小蓮に変な言葉を教えてどうするつもりなの!?」
「蓮華さん!? 話聞いてた!? 俺はむしろ叱ろうとしてたところで!」
「というわけで決定ね? 私達は呉に天の御遣いの血を受け容れる。で、一刀にはその手伝いをしてもらう方向で」
「待ってぇええーーーーっ!!!」

 ワーイ俺へのお礼だとか言いながら俺の意思は完全無視だーーーっ!! もうほんとどうしてくれようかこのお天気国王様はぁああっ!!

「ハッ!? そ、そうだ! お礼だっていうなら、一つだけ叶えてほしいことがあるっ!」
「えー……?」
「なんでそこで嫌そうな顔するの!? おっ……お礼だろ!? お礼なんじゃないのか!?」
「じゃあ今決めたことを否定するようなお礼は無しね? これは命令。いい?」
「でも否定以外の言葉でお礼が成立したら、そもそもお礼としての口実は無くなるわけだから断っていいんだよな?」
「じゃあやっぱりだめ」
「おっ……王様がそう簡単に発言を撤回しないでくれ頼むからっ……!」

 そうは言うものの、「言うだけ言ってみて」と拗ねた顔で言われたために、話を進める。
 叶えてもらいたいものっていうのはあれだ、壊してしまった椅子。厳密に言えばヒビというか亀裂が走ってしまった木製の綺麗な椅子のこと。

「実はさ、部屋で鍛錬してたら木刀が椅子に当たっちゃって……少し亀裂が入っちゃってて、それを許してくれればなーと……」
「…………」

 口にして聞かせてみると、雪蓮は困ったようながっくりしたような重い面持ちで顔を片手で覆い、

「一刀……あれはね、実は我が孫家の家宝で───」
「家宝が置いてある部屋を他国の客が寝泊りする場所に宛がうヤツが居るかぁっ!!」
「わっ、もうばれた」
「………」

 あ……なんかもう悩んだり叫んだりで疲れた……。
 このままここに居たら、俺……いつか誘惑に負けちゃいそうで怖いよ……。

「あ、あのさ……朱里と雛里はまだ蜀から戻ってないのか?」
「…………ああっ!《ぽむっ》」
「?」

 俺の言葉に、雪蓮がポムと手を叩く。名案だっ、といった顔で。
 あのー……なんですかその、じゃー朱里たちが蜀から来なければいーんだー、みたいな顔は───ってそれが答えかっ!

「もし朱里と雛里が来ないようだったら、俺一人でも蜀に行くからな?」
「えー? 一刀ずるーい!」
「ずるくないずるくないっ……!」

 本当にやる気だったのか……雪蓮、怖いコッ……!
 と、いい加減話を進めないといつまで経っても正座のままだ。
 ……いい、もうぶつけよう。真正面から、逸らすことなく。

「……みんな、聞いてくれ」

 真剣な面持ち、真剣な声に、みんながいろいろと言葉を投げるのをやめ、視線を俺へと向ける。
 そんな中で俺はすぅ……と深呼吸をしてから───言葉を紡いだ。

「俺は……魏に全てを捧げたつもりだし、魏のために生きて魏のために死ぬ。その覚悟もある。たしかに呉に来てからは“呉のために尽くそう”って覚悟は決めたけど、それは魏のみんなに後ろめたいことをしてまで、やらなきゃいけないことじゃない。だから……悪いけど、この話は受けられないよ」

 噛み締めるようにしっかりと。みんなに届くようにはっきりと言葉にして、息を吐く。どんな理由があろうとも、たとえ華琳が許可していようとも、華琳以外のみんなが頷いてくれるとは限らない。
 そもそも俺がそれを頷けないんだ、仕方ない。

「……はぁ。一刀って結構強情なんだ。なに言われても曖昧にうんとかああとか言うだけかと思ってた」
「この世界に下りる前の俺だったらそうだったかも。けど、この世界で戦を知って、人の生き方っていうのを知ったらさ。きっともう、曖昧なままでなんていられない」
「………………惜しいなぁ。一刀がそもそも呉に下りてくれてたら、こんなややこしいことにならなかったのに」
「俺が呉に? ……みんなの足を引っ張るイメージしか湧かないけど」
「そ? 結構頑張ってくれたんじゃないかなーって思うんだけど。ほら、頑張り屋だし」
「はは、頑張り屋になったのは華琳たちと別れてからだから。どの道役には立てなかったよ。大方、思春に怒られてばっかりでひぃひぃ言ってたと思うよ」

 そう。“起こること”についての助言は出来ても、解決は出来ないと思う。
 もし時間軸ってものがあるとして、並列上に呉に下りる俺が居たとしたら、いったいどんな道を歩んだだろう。
 あの時の俺が自分を削りながら秋蘭を守ろうとしたように、雪蓮を守るために身を削ったんだろうか。冥琳が死なないようにと頑張れたんだろうか。
 考えたところで解るはずもないんだけど……どうしてだろうな。最後はきっと笑っていられたって、そんな気がした。

「じゃあもうあれね。ようは後ろめたいことじゃなくしちゃえばいいのよ」
「…………へ?」

 話の結末がどうあれ、ようやく正座も終わらせていいかなって頃。
 にこーと笑って再び話を蒸し返さんとする雪蓮さんが居た。

「一刀、頑張って蜀の子たち落としてね? そしたら三国共通財産、同盟の証として一刀が───」 
「だからそういうのはやめてって言ってるだろーーーっ!?」
「同盟の証としてなら、魏の子たちだって文句言わないでしょ? それともなに? 魏の子一人一人に許可を取りに行ってほしい?」
「───……《サァッ》」

 気が遠くなるのを感じた。たぶん真っ青だよ俺。
 魏のみんな一人一人に許可を得に……? そんなことしたら───



-_-/軽いイメージです

「なにぃ? 北郷の血を呉に入れる? 北郷一人の血で呉を血まみれにできるのか?」
「姉者、それは意味が全然違う。……我々は華琳様が良しとするなら異論はない」
「北郷の血を? 血なんて言わないで北郷ごと貰ってほしいくらいだわっ、汚らわしいっ」
「へぇ、一刀の血ぃを……そんならいずれは呉が一刀の子ぉでいっぱいになるっちゅうことか。っははー、そら面白そうやー♪ けど断る。一刀はウチらのもんや、誰にも何処にも渡さへん。それが天であってもや」
「せやなー、姐さんの言う通りや。ただでさえ魏の将全員に手ぇ出しとるゆーのに、呉なんかに流れた日には……」
「きっと呉が妊婦だらけになるのー!」
「自分は反対です。が、隊長の判断に委ねるつもりでいます。……自分は隊長を信じていますから」
「はー……やっぱり予想通りに呉の皆さんに手を出しちゃったんですねー……。お兄さんは本当に見境なしです。もはや女の子だったらなんでもいいんですかー?」
「わざわざ呉王自らが許可を取りに来るとは……はっ! まさかすでに責任問題になるほどのことを……う、ぶぶ……ぶーーーっ!!」
「血を入れるってどういう意味だろ……よく解らないけど、もし兄ちゃんを傷つけるようなことだったら、ボクが許さないから」
「血を入れるって……わ、わわ……兄さま、他国の人にまで……」
「だめだめだめだめぜ〜〜ったいだめー! 一刀は私のなんだからー!」
「ちょっと姉さんっ、一刀にはちぃが先につばつけたんだから、一刀はちぃのものよっ!」
「ちぃ姉さん、つばとかそういうことは、あまり大声では言わないで。それと、一刀さんは三人のもの、でしょう?」



-_-/一刀

 …………。ちらりと想像してみても、とても微妙だった。
 いろいろあるみたいだけど、どう転んでも“華琳任せ”になりそうな予感。その華琳が許可を出しちゃってるっていうのに。
 そうなったら……あれ? 俺が断り続ける意味、もしかしてない?

(……俺の意思ってどこにあるんだろ……)

 もちろん俺の中だけにだろう。
 そんな俺が断り続けても、だめ、却下、と言われるのなら……もういっそ、みんなに委ねるべきなのだろう。

「解った。けど俺は断ったってこと前提で話をしてほしい。じゃないと───」
「じゃないと?」
「…………俺が八つ裂きにされそうだから」

 想像するだけで怖い。
 特に春蘭と秋蘭あたりには冗談抜きで殺されるんじゃないだろうか。
 「貴っ様ぁああ! 華琳様に仕える身でありながら呉の人間に手を出すとはぁああっ!」……って……痛っ! 胃ぃ痛っ!! ああ……ああもう……どうして俺ばっかりこんな目に……。

「ほんと一刀って意思がしっかりしてるのか弱いのか、解らないわよね。キリっとしてるかと思えば簡単に怯えたりするし。鍛錬の時とか国の話をするときは、すごく真っ直ぐだったりするのに」
「一番最初に“揺るがない”って言ったのに、聞いてくれない誰かさんが居るから苦悩するんだろ……?」
「……えへー♪」
「なんで嬉しそうなの!?」

 俺の顔をぺたぺた触り、何故かにへら〜と笑う陸遜……穏の後ろに立ち、表情を緩ませて笑う雪蓮。
 こんなふうに女性に囲まれて、事実上では誘われているという状況の中……嬉しくないと言えばウソにはなるけど、喜べはしないのは、やっぱり状況が状況だからだろう。
 うん、たしかに……そもそも呉に下りてきたりしたなら、こんなに悩んだりはしなかったとは思う。

「じゃ、この話は終わりね? あとはこれを冥琳には内緒で魏に通して、と……」
「話そう!? そこは話そうよ! 軍師を通さず国の問題を進めるって大変なことすぎるだろっ!?」

 心の中でのブレーキ的な人をあっさりスルーしようとした雪蓮に、全力で待ったをかける!
 冥琳なら……冥琳ならきっと止めてくれる! そう思ってたのに、あっさりスルーするなんてあんまりだ!

「大丈夫よ一刀。冥琳もきっと頷いてくれるから。むしろ頷かせるから」
「事前に頷かせてくださいお願いしますから!! 事後じゃあ頷かなくても意味がないってそれ!」
「むー……あ、祭ー? 冥琳起こしてきてもらっていいー?」
「おう、任されたっ」

 上機嫌であっさりと承諾、中庭から通路へ歩いていってしまう祭さんを成す術なく見送り、死を待つ死刑囚な気分で項垂れた。
 や、そりゃあ死刑囚がどんな気持ちで死を待つかなんてのは解らないけどさ。この、どうなるか解らない状況はとても心に毒というか……。

(い、いやっ、先延ばしはよくないっ! 冥琳に訊いて、ダメだって言われればきっとこの話も終わる!)

 “なにせ冥琳を救ったお礼”って意味らしいから、冥琳がそれを断れば全てが治まるはずなんだ!
 大丈夫、希望は捨てない! むしろこれでダメだったら、魏に戻ったあとにどうなることか……! みんなきっと断ってくれるだろうけど、“俺が呉のみんなを口説き回った”とかあらぬ噂が蔓延するに決まってるんだ……主に桂花の口あたりから。
 い、いけない……それはとてもよろしくないっ! せっかく帰ってきたのに、兵はおろか民たちからも白い目で見られるなんて冗談じゃないっ!
 冥琳……冥琳! キミだけが頼りだ! ……そもそも呉王が僕の話をちゃんと受け容れてくれてれば、こんなにややこしいことにはならなかったはずだけど。
 けど、いくら雪蓮でも冥琳の言葉だけは聞くはず! そう、冥琳……キミさえ……キミさえ───あれ? 冥琳?

「……はっ!? 雪蓮!? 冥琳ってもう目が覚めてるのか!? そうじゃないなら、無理に起こすのは危険なんじゃ───」
「あぁ、大丈夫よ、うん大丈夫。華佗が言うには、気脈が一刀の氣で満たされてるから、体が慣れるまでは上手く動けないそうなんだけど……病魔は滅ぼしてあるから、体自体に異常はないんだって」
「そ、そうなの?」
「うん。でも一刀も思いきったことするわよねー、自分が死にそうになっても他人のためになんて、普通できないわよ? その人に忠誠を誓ってるならまだしも、他国の将のためになんて」
「ここに居る間は、呉に尽くすって決めたから。それなのに呉の人を救わないのはウソだし、なにより……“俺が”死んでほしくないって思ったから」

 天の御遣いだからなんでも出来る、なんてことはない。
 呉に来る前に氣を教わらなければ、祭さんに絶対量の増加法を教わらなければ、華佗に氣を鍛えておいてくれと言われなければ、結局自分にはなにも出来なかったに違いない。
 だから……確信できる。“求めていてよかった”と。
 誰かのために出来ることを、魏との絆として、凪から教わっていてよかったと。

「……ほんと、華琳……一刀のことくれないかしら」
「? 今何か言ったか?」
「うん。華琳、一刀のこと私にくれないかなーって。血のためじゃなくて、私の伴侶として」
「んなっ……!?」

 なんてことを仰るかこの人は! 散々と魏に生き魏に死ぬって言ってるのに、どうしてこういうことをハッキリ言えるかなぁこの人!
 などと思っていると、首に抱き付く圧迫感がさらに増し───

「むふー♪ 残念でしたー♪ いくらお姉ちゃんでも一刀は渡さないからねー? 一刀はもう私の夫なんだから〜」

 背中におわす小蓮さままでとんでもないことを仰りました。
 ああ……こうなるともう流れが読めてきたような……。

「小蓮! なななにを言っている! 一刀がお前の夫だなどと! お前はまだまだ子供なのだぞ! お前にはもっと相応の年齢の相手をだな……!」
「そんなこと言ってぇ〜……一刀のことシャオに取られるのが嫌なんでしょ〜♪」
「ななななななぁあーーーーーっ!!? そそそんなことはないっ! 私はかずっ……北郷のことなどなんとも……!」
「……すぐそーやって隠す。シャオ知ってるんだからね? このあいだ、東屋の傍で一刀に膝枕してもらって、ごろごろ甘え切ってた───」
「わあーーーーっ!! うわぁああーーーーっ!! しゃっ……しゃしゃしゃ小蓮んんんっ!!! い、いつからっ……!!」
「“貴方だけには甘えてもいいんでしょう? この一時だけ、私が休める場所でいて……”ってところから」
「〜〜〜っ……!!《しゅかぁあああっ……!!》」

 うわ赤っ!! 涙目になって凄く赤くなってる!
 シャオの言い方はやたらと大げさで、冷静で居られてればウソだって思われそうなものなのに……そこまで真っ赤になったら、もう事実だって認めてるようなものじゃないか……。

「まあぁ〜……♪ 蓮華さまったら一刀さんにそんなことを〜♪」
「へー……蓮華も結構やるわね……ほんとなの? 一刀」
「や、それは───」
「っ!《ギンッ!!》」
「ヒィッ!? サッ……サーイェッサー!! 黙秘します!!」

 怖ッ! 眼力で人を殺せるよ今の蓮華! 正座しながらつい敬礼しちゃったよ!

「あはは、まあその態度で丸解りだから、訊くまでもないか。一刀も罪作りな男ね〜♪ 孫呉の将全員に気に入られるなんて」
(……俺もう逃げたい……)

 どう気に入られたら、こんな胃に穴が空くくらい睨まれるんだろう。
 シャオが首に抱き付いて、さらに頬を俺の頬に摺り寄せるたびに、蓮華から放たれる殺気が増してくる。
 雪蓮も何故かシャオを羨ましげにしてるし、そんな視線に気を良くしたのかさらにすりすりって……うあああああ殺気が……殺気が増して……!

「策殿〜!」

 と、今まさに胃袋が血の海になりそうな緊張の中。ついに届いた祭さんの声!
 正座のままに首だけ動かしてみれば、肩を貸すことで冥琳を連れ出していている祭さん! …………って……

「……なぁ雪蓮……。これってさ、そもそも俺達が冥琳の部屋に行けばよかったんじゃないかな……」
「あ」

 あとには、恥ずかしそうに「頭の中が一刀のことばっかりで、回らなかったわ」という雪蓮だけが残された。


───……。


 さて、そんなわけで……くたりと辛そうに座る冥琳。
 そう、上手く動けないのをいいことに、何故か俺の肩にもたれるように座らせられている冥琳。
 シャオも陸遜も俺からは離れて、肩を寄せ合って座る俺達をニコニコ笑顔で見ていたりする。
 ……もう一度言うが、寄せ合ってというよりは寄せ合わされて座っている。

「ね、冥琳。ちょっと訊きたいんだけど」
「……はぁ……なんだ?」

 冥琳はひどく気だるげだ。
 いくら変換したとはいえ、気脈が他人の氣で満たされているなら仕方の無いことなのかもしれない。

「あのね、呉はこれからどんどん大きくなっていくでしょ? 騒ぎを起こす民も、一刀のお陰で随分減ったし」
「……そうだな」
「それを維持するためには、ここから先のことももっと考えなくちゃいけない。そうでしょ? だから私達もそろそろ後継を考えないといけない」
「ほう……? お前の口からそんな言葉が聞けるとは……思ってもいなかったが……」
「むぅ、失礼ねー……まあいいわ。で、その後継の話なんだけど。現在の呉王の座を蓮華に譲って、私は一刀と子作りに励もうと思うの」
「姉さまっ!?」
「お姉ちゃん!?」

 ……………口を挟むなよ北郷一刀。
 口を挟めば……絶対に矛先がこちらへ向かいますよ。
 僧になりなさい。如何なる騒音さえも草花のそよぐ音を感じ取れるところまで、悟りを開くのです。

「なにを勝手な! この、民の信頼が集中してきた大事な時に王を辞めるなど! 王はこれまで通り姉さまが続けるべきです!」
「えー……? じゃあ蓮華が一刀の子、産むの?」
「なぁああああーーーーーーーっ!!? そそそそれとこれとは話が別です! 私には国を担うほどの力がないと言っているのであって!」
「そうそう、お姉ちゃんじゃあきっと、一刀を満足させてあげられないもん。一刀の子はシャオが産むから、まっかせて〜?」
「小蓮! お前はまたそのようなことをっ!! 私は国を動かす力が無いと言ったのであって、一刀を満足させられぬ、と……は……かか……っ……!?」
「わお、蓮華ってば大胆♪」
「《ポピィーーーッ!!》かかかか一刀ぉおおっ!! 貴方の所為でぇええっ!!」
「ええぇっ!? なんで俺!?」

 お湯でも沸かしましょうかってくらいに真っ赤になった蓮華が、何故か矛先を俺に向けてきました。
 はい、口を挟もうが挟むまいが、どうあっても俺は巻き込まれるらしいです。
 なんとかならないもんでしょうかと困り果てていると、ついに僕等の救世主が気だるそうに口を開いたのだ……! ……さっきから開いてはいるけど。

「はぁ……将の前で、あまり騒ぎ立てるものではありませんよ、蓮華様。それから雪蓮、お前も少しは冷静になれ」

 溜め息と同時にそうこぼすのは、無理矢理に連れてこられた冥琳。
 連れてきておいて蚊帳の外にでもしようかってくらい騒いでるんじゃ、冥琳もいい迷惑だろうに。

「し、しかし冥琳!」
「私、冷静なつもりだけど?」

 けれどさすがというべきか、双方にとって僅かでも気になる言い方をすることで、二人の意識はきちんと冥琳に向き……そうなれば一人で騒げるはずもなく、シャオの意識も冥琳へと向いた。
 そうしてから改めて咳払いをすると、

「そもそもだ。好きでもない者の子を宿すのが嫌、という話だが、それは北郷にも言えることだろう。魏を愛す北郷にとって、雪蓮。お前との間に子を作ることが、お前の言う好きでもない者との間に子を作るのとは違うと言い切れるか?」
「むー……ねぇ一刀。私のこと嫌い?」
「好きだよ。大切な友達だと思ってる」
「わ、即答なのは嬉しいんだけど、望んでた答えとちょっと違う……」

 そんなこといわれたって、似たようなことを何度も言ったはずなんだけどな……。

「さらに、北郷には“騒ぎを鎮めてくれ”とは頼んだが、“子作りを手伝ってくれ”などと頼んだ覚えはない。招き、逃がさないようにしてから“気が変わった”と告げるのは、いささか卑怯ではないかな? 孫伯符殿」
「うっ……それ言われると弱い……」

 おおっ……! 雪蓮が……雪蓮が押されている! すごいや、さっすが天下の周瑜さんだ!
 あの雪蓮を言葉だけで追い詰めている!

「しかし公瑾よ。後継を残さんとする意思は、早いに越したことはなかろうよ。策殿が逸る気持ちも解らんでもないだろう?」
「祭殿、これはただ北郷を手放したくないだけです」
「うわっ、これ扱いだ……理由に関しては否定はしないけど」

 しないんだ……。

「あ、でも勘違いしないでね一刀。気に入ったからってだけじゃなくて、傍に居て欲しいな〜って思うのは本当よ? 一緒に居ると退屈しないし、一刀なら〜って思えるし」
「そんな、今はそうでもあとで俺よりよっぽどいい男に会え───」
「やだ《きっぱり》」

 ……物凄い早さの即答でした。
 しかも会えないとかそういう文句じゃなく、きっぱり嫌だと。

「むー、どうして解らないかなぁ。あのね、一刀。私は一刀がいいって言ってるの。そりゃあいつかは一刀よりもいい男が現れるかもしれないわよ? でもそれって何年後の話? すぐ? それとも10年も先? 今目の前に居る一刀を逃して、いつ来るか解らない男を待つよりも、一刀を選んだ方が楽しめる時間が長いに決まってるじゃない」
「うわー、この人楽しむことしか考えてない」
「あっはは、当たり前当たり前〜♪ なにをするにしても、楽しいほうがいいに決まってるんだから。戦も政治も食事も、もちろん恋愛もね」
「うぐっ……」

 ひどく正論……なんだけど、戦を楽しむのはどうかなぁ。
 そりゃあ、後味が悪すぎる戦よりも快勝出来たほうがいいに決まってるけどさ。

「そんなわけだから冥琳、一刀の血を孫呉に入れるわ。打算的に言えば一刀って支柱を糧に同盟としての在り方も強化できる。華琳の許可も得て、私は本気なんだから文句はないはずよね?」
「あの……俺の意思は?」
「一刀……政略的な物事に当人の意思なんて関係ないのよ?」
「うそだっ! このこと自体が雪蓮の意思だけで構築されてるようなものじゃないかっ!」
「失礼ねー。ちゃんとみんなの意思も入ってるわよ。ね、明命?」
「はうわっ!? は、はふぁっ……ふふふふふふふつつかものですがーーーっ!!」
「待て明命、早まっちゃだめだーーーっ!! 雪蓮もっ! 急に明命に話を振って混乱させないっ!」
「だって一刀が私だけが悪いみたいに言うんだもん。いいじゃない、明命だって賛成みたいだし」

 だもんって……貴女何歳ですかもう……!
 しかしこのまま突っ込まれ続けると勢いだけで負けてしまいそうな……というかいくら断っても話が終わらないのは何故?
 と、助けを求める視線で冥琳を見ると、冥琳はもう本当に気だるそうにしながら雪蓮を見た。……むしろ盛大に溜め息を吐きながら。

「わ……物凄い溜め息」
「雪蓮。大切な友達、とまで言ってくれる者に無理矢理襲いかかるものではないだろう? 少し冷静になれ。今は友でものちにどうなるかなど、誰にも解らん」
「あ、そっか。ようは時間かかっても、一刀が納得する形で子供が作れればいいのよね。上手くすれば華琳よりも私のこと好きになるかもしれないし」

 にこー、と面白いオモチャを見つけた子供のように微笑む王様がいらっしゃったとさ……って、いいのか? これ。
 たしかに時間があれば、どうなるかなんて断言できたものじゃない。ないけど、逆だって当然あるわけで。
 現時点で言えることは、たしかに呉のみんなに好意は向けられるし、“大切なものの中のひとつ”にはとっくになっているが、一番ではない。こんな暖かな場所に居る今でさえ、俺の中には魏に勝る故郷が無いのだ。
 だから、言えることは一つだけ。“今”の俺に、誰かから向けられる恋慕を受け止めることは出来ない。
 難しく考えなければいいっていうのは解ってるんだけどな……そう簡単にはいってくれない。
 複数の女性と関係を持ってしまっている自分が言えたものじゃないけど、国の先を決める大事なことなんだから、もっと冷静になって考えてみてほしい。
 今さら一人二人増えたところで変わらないだろ? なんて言えた状況じゃないんだ。だ、だって他国の重鎮だぞ? 重鎮じゃなければ手を出すとかそういう意味じゃなく、それ以前に無理。自分に向けられる好意こそが信じられないくらいだ。
 実は好意ではなく悪意でしたって言われたほうが、ショックは受けるだろうけどまだ納得できる。

「とにかく。“今の私”は一刀以外は考えられないわ。時間が経てば心変わりするかもだし、そればっかりはいくら勘を働かせたって解ることじゃない。他のみんながそうじゃないって言うなら、べつの誰かと一緒に子を成せばいいだけのことだし、それは各自に任せるべきよ」
「じゃあ僕魏の人限定で───」
「それはだめー♪」
「ひ、ひどい! なんてひどい!」

 基本的に俺の希望は除外済みらしい。
 うう、“命令”がある分、下手なことは言えないし……華琳、これはいったいどういった試練ですか? 過去に打ち勝つどころの試練じゃない気がするよ。
 いっそ泣き出しながら逃走したい心境の中で、ただただ黙して見守ってくださる呉の皆様がいっそ厳しい。もっと踏み込んでツッコミ入れてください、“俺なんかとは子作りなど出来ません”とか。
 念を込めつつ、ざっと皆様を見渡してみるのだが。亞莎、明命は目があっただけで真っ赤になって俯いてしまい、蓮華は目が合うより先にフンッといった感じにそっぽを向かれ、シャオと祭さんと穏は満面の笑顔で雪蓮の行動を見守り……思春はずっと沈黙を守っている。
 ……アー……なんかもう……だめっぽいやー……。

「さて、北郷。これがこう言い出した以上、相手が納得するか自分が心変わりをするかしなければ、いつまでも話が終わらないわけだが。お前はどうしたい?」
「うわ……さらりとまた“これ”扱いした……」

 で、ぴたりと視線が冥琳で止まると、待ってましたとばかりに投げかけられる質問。“お前はどうしたい?”と……そう訊いてくれたのだ。
 もちろん俺の意思はNOしかない……が、たしかに未来のことを断言できる人なんてそう居ない。知る限りでは華琳くらいだろう。いっそ無鉄砲とも思える行動ばかりだけど、それを未来に繋げる“力と意思”を持っている。
 俺にもそういった意思があればなぁ……望みすぎか、それは。

「……解った。たしかに一歩先さえが解らない今で、頭っから否定ばかりなのは卑怯だ。今の意思がどうであれ、どれだけ経っても“同じ気持ちだ”って決まってるわけじゃない」
「ああ、そうだな」
「今解ってるのは、今頷いておかないととんでもない命令が飛び出しそうってことくらいだし……」

 ちらりと見れば、満面の笑みを浮かべているシャオとか祭さんとか穏とかが、怪しい眼光で俺を見ていたりした。

「受けるよ、その条件。けど、“揺るがない”って言ったのは一年前から今にかけての俺の意思だ。捻じ曲げるつもりは全然ないから、頑固者って言われようが知ったことじゃないからな」
「ふふっ……ああ、それでいい。雪蓮も、それでいいな?」
「うんうん、これで無理矢理じゃなくなるわけだし、十分よ。“揺るがない”って言った一刀の意思が相当強いっていうのも知ってる。その上で、私は絶対に一刀に“うん”って頷かせるつもりだから。無理矢理はよくないわよね、無理矢理は」
「それ……今まで散々と、人のことを命令で引っ張り回したやつの台詞か?」
「あれ? 本気で嫌がる命令、した覚えなんてないけど?」
「ぐっ……」

 これだ。雪蓮は本当に見るところをよく見ている。
 される命令はほとんどが結果的には民が喜ぶことばかりで、俺が断る理由が存在するものなんて、一度たりとも無かったと言える。
 その分、シャオの命令はとことんまでに予定破壊を前提としたものばっかりだったけど。世の中って上手くバランスが取れてるもんなのかな。

「えと……じゃあその。話はこれでおしまいでいい……のかな?」
「まだでしょ? 一刀のこと、ちゃんと話さないと」
「俺の? って、そうだった」

 突然追われることになったもんだから忘れてた。言わなきゃいけないことがあったよな。
 大事なことなんだ、どさくさで流していいことじゃない。
 え、えぇっと……どう説明するか。ストレート? それとも遠まわしに…………だめだな、呉の人は遠まわしが嫌いなイメージがある。ここは直球で。

「あのさ。俺……次に朱里や雛里が呉に来て、話を纏めに蜀に帰る時、一緒に蜀に行こうと思うんだ。だから、呉に滞在する期間はそれまでってことになる」

 直球。言葉のひとつひとつの中で呉の皆の目をきちんと見ながら、自分の予定を報せていく。きちんと、心を込めて。正座のままなのは気にしないでくれるとありがたい。
 すると明命と亞莎は驚きと寂しさを混ぜた目で、蓮華と祭さんはきょとんとした顔で俺を見て……

「ふぇええ〜〜〜っ!? そんなぁ、真名を許した途端にお別れなんてあんまりじゃないですかぁ〜」
「だめだめだめーっ! 一刀はずぅっと呉の、シャオの傍で暮らすのーーっ!」

 ……極一部、元気に騒いでらっしゃるお方もおります。
 せっかく離れててくれたのに、ぷんすかしながら俺に抱き付いてくるシャオと、とほー……と肩を落として口から魂でも出しそうな陸遜……じゃなかった、穏。
 程度の違いはどうあれ、この二人ってなにをやるにも全力っぽいよね。シャオはもうちょっと加減を知ってくれればなぁとは思うけど。

「途端じゃなくて、朱里や雛里が戻ってきてからだから。そこのところは───」
「祭〜! 二人が来たら牢に閉じ込め《がばぁっ!》やぁんっ!」
「シャオさん!? あまり物騒なこと言わないで!? 些細なことから誤解が生まれてせっかくの同盟がっ……みんなの努力が水泡に帰すよ!? ……ていうか“やぁん”ってなに!? ただ口を塞ごうとしただけだよね!?」
「口を塞ごうと、なんて……一刀ったら気が早いんだから〜♪」
「手で! 塞ごうとしたのは手でだから誤解を招くような言い方を───」
「かかか一刀っ! お前はっ……小蓮にまで手を出す気かっ!! どこまで手が早いのだお前という男はぁああっ!!」
「アレェエーーーッ!!? ちょ……目の前! 目の前で展開されている事態に目を向けて!? 人の話はちゃんと聞かないと、いい大人になれないんだよ!?」
「問答っ……問答無用だっ! お前は誰にでもそうやってやさしくしてっ……! なぜそうなのだっ! お前は王ではなく警備隊長だろう! 王のように大衆に目を向けるのではなくて、もっと範囲を狭めて……その、もちろん隊長というからには視野が狭すぎるのも問題だが、民から兵から、そんななにもかもに目を向けるのではなく……そうっ、たとえば、たとえばだぞっ!? 小蓮よりもより成熟した私ひとりにやさしくすべきで───!」
「お願いだから話を聞いてくれぇええーーーーーっ!!!」

 はい……一月経とうが一年経とうが、きっと変わることはないんだと思います。呉のみんな、基本的に僕の話を聞いてくれない。
 一番の原因は話し始めたら他のことが見えなくなることにあるんだと、ここまでの付き合いで解った気がする。
 あ。あと焦ると目の前の誰でも見えなくなるというか……うん、ともかく巻き込まれてばかりだといい加減涙も乾きます。枯渇って意味で。

「じゃあこれから朱里や雛里が帰るまで、一刀にはいろんな命令をしましょ。やっておきたいこととかあったら、後悔のないようにしておかないとだめよ?」
「一刀〜、シャオと一緒に遊びにいこ〜?」
「だめ。今日は俺が気絶してた所為でできなかった、明命との割りと本気の鍛錬があるんだから」

 でも言うことは言いましょう。断ることは断りましょう。
 命令だと言われない限りは断る権利が俺には存在して───

「だめー。命令だから一刀はシャオと遊ぶんだよ〜?」

 ───あっさり権利が剥奪されました。

「こ、こらシャオっ! 前にそれで亞莎を傷つけたの、もう忘れたのかっ!? 人の都合に割り込んだ命令は禁止っ!」
「うー……!」

 渋々といったふうに引き下がってくれる。
 解らない子じゃないんだよな……ただ強引すぎて人の話を聞かなくてある意味で歳相応なのにある意味で歳相応じゃないというか。
 この、妙に大人びた思考がなければもっと素直でいい子なんだろう。残念のようなこれでいいような……はぁ。
 なんて溜め息が、次の瞬間には驚きに変わった。

「あ。じゃあこうしよっか。ここに居るみんなで、一度一刀と戦ってみよ? もちろん一人ずつで、武器は刃引きしたものを使うこと」

 それは安堵には程遠い、とても重苦しい状況の到来であった。

「おお、それはしごき甲斐がありそうじゃっ」
「へわっ!? かか、一刀様と、たた、た、たたかっ……!? む、むむむ無理です、無理です〜〜〜っ!」
「一刀様……覚えててくださいました……《ほわー……》」

 三者三様。
 雪蓮の一言で一気に騒然とした中庭で、俺は今もなお正座をしながら、隣で盛大な溜め息を吐く冥琳と一緒に天を仰いだ。

「……すまないな。あれは真実、これと決めたら意思を曲げない」
「いやー……いいよ。辛くなりすぎない程度に纏めてくれた。ありがとう、冥琳」

 皆が騒ぐ中で、視線を合わせず空を見上げながらの会話。
 ぎゃーぎゃーと響く騒ぎの只中にあって、それでも凜と耳に届く冥琳の声に、素直に感謝を届ける。
 すると、隣からくすぐったそうな、苦笑にも似た笑みが聞こえて……

「ふふ……“友達”を庇うのは当然のことだろう?」

 そう言って、視線を下げないままに、俺の手に彼女の手が重ねられ───

「お前を信頼しよう、北郷。いつか全てが落ち着いたら、絵本の感想でも聞かせてくれ」

 それだけが伝えられると、俺は……はっとしたあとに込み上げてくる嬉しさがくすぐったくて、こんな騒ぎの中だっていうのに可笑しくなって、笑った。

  “私はあまりお前に期待はしていない”

 そう言われてから今まで、自分は期待に応えられるだけのことが出来たのかは解らないまま。信用だって増やせたのかも解らなかった。
 そんな、“人柄への信用”しかされてなかった俺が、“信頼しよう”とまで言われたら嬉しくないはずもなく……みんなが驚いて注視するのも気に出来ないまま、俺は……声を出して、綺麗な蒼へと笑いを届けた。




 ───……ちなみに。

 このあと本当にみんなと手合わせすることになり、ボッコボコにされたのは……言うまでもないと思う。

 途中まではいい線いけたと思うんだけど……まだまだだなぁ。




ネタ曝し  *第六天魔王、光臨せん!  信長様。無双OROCHIより。  *俺達の冒険は、始まったばかりだ───!  打ち切りに愛される言葉。  似たようなもので、四天王にはかかせない言葉がある。  しかしヤツは四天王になれたのが不思議なくらいの弱者、など。  *ひ〜と〜り〜が〜大好きさ〜  アニメ・ギャラクシーエンジェルより。  どういう時に歌ってたかは覚えていません。  *ひどい! なんてひどい!  ガラスの仮面……だったかな。ごめんなさい、よく覚えてないです。  *過去に打ち勝つ試練  ジョジョの奇妙な冒険第五部、ディアヴォロの台詞より。  これは……試練だ。過去に打ち勝てという試練と……俺は受け取った。 Next Top Back