57/良い学び舎を作るため

 カッカカッカッ───!
 黒板にチョークが走る音がする。
 教室の中は静かなもので、声を発する者など居ない。
 そんな中でチョークを走らせる手を止めて、振り向いて生徒たちを視界に納めると、

「はいっ! というわけでこの問題を───鈴々っ、解いてくれ!」

 基準も特になく、なんとなくで鈴々を指名。

「はいなのだ! 1+2+3−4で答えは2なのだ!」

 元気よく立ち上がった彼女はすらすらと問題を解き、

「素晴らしい! 素晴らしいよ鈴々! キミは最高だ!」

 ───この日。
 かつては乱世であったこの大陸に、一人の天才が誕生した───……


…………。


 と。以上、想像でした。

「こんな感じで、天の世界の勉強は成り立ってるんだ」

 学校完成を目前に控えたその日。
 今日は中庭に集まって、桃香、鈴々、関羽さんの三人で勉強会を開いていた。
 どうしていつも通り自分の部屋ではないのかといえば、ただ天気が良かったからなのだ。
 付け加えるなら、今日は読み書きをするんじゃなく、軽く天の勉強の仕方などを学んでみようか〜ってことで。

「“ちょーく”ってなんなのだ?」
「墨で書くのと違って、水分じゃなく粉とか欠片で書く物かな。ほら、粉とかは手につくと白く残るだろ? それを黒……今は緑色か。うん、緑色の板に書くんだ。墨とは違って粉さえ取れば消せるから、何枚も何枚も紙を無駄にすることもない。卵の殻とか貝殻を使って作ってるって話も聞いたことあるから……案外この世界でも作れるかな? 圧縮する方法がないなら、粘土でもいいし」
「…………よく解らないのだ」
「そ、そっか。じゃあ砂がくっつく壁に砂で文字を書くとするぞ? で、その文字は砂で書かれたもので、くっつくけど叩けば落ちるから、また何度でも書ける。……解るか?」
「それなら解るのだっ」
「そっかそっかー、偉いぞ鈴々ーっ」
「《なでなで》にゃははーーっ、褒められたのだーーっ♪」

 よく晴れた日の昼。
 日差しが暖かく、吹く風も心地よい。
 外で話し合いをするにはもってこいの陽気だった。
 相変わらず教鞭ではなく人差し指を振るって、四人で芝生に座りながら話し合う。

「えっと、お兄さん? お話の通りに考えると、答えるたびにお兄さんが“素晴らしい〜っ”て抱きかかえてくれるの?」
「いや、あれは大げさにしただけであって、べつに褒めたり褒められたりとかはないかな。出来て当然、出来なきゃ頑張れって、そんな世界だ」
「むー……」

 どうしてか不服そうだった桃香はさておき。

「それじゃあ続きだけど。授業はそれぞれ軍師が担当するとして、運動の授業……体育って言うんだけど、それを担当する教師も必要だと思うんだ」
「たいいく……ですか?」
「うん。体を育むって書いて、体育。こっちのほうは軍師向きじゃないから、武官の誰かに担当してほしいんだ。あ、もちろん自分を基準に考えず、程度を考えて教えられる人がいい」
「鈴々がやるのだっ!」
「はい却下」
「却下だ」
「ご、ごめんね鈴々ちゃん」
「なんでなのだーっ!?」

 どうしてって……経験上?
 顔合わせの時から今まで、鍛錬には付き合ってくれているが……加減が出来ない鈴々じゃあ学びに来る人たちが死ぬ。
 まずは小さなところからコツコツといくのが理想的なんだが───あ、そうだ。

「鈴々は最後の関門みたいなものだよ。まずは少しずつ慣れてもらう必要がある。だから最初の頃の体育の教師は桃香に頼みたいんだけど」
「ふえぇっ!? 私っ!? どっ……どーしてーーっ!?」
「教えるのが国の王って、結構いいことだと思うんだ。呉と重ねるわけじゃないけど、もっともっと民と近づける。民はもっと桃香がどんな人なのかを知ることが出来て、桃香も民がどんな人たちなのかをもっと知れる。悪いことじゃないと思うんだけど……どう?」
「え、う、うー……」
「一刀殿、案としては悪くはないとは思いますが、桃香さまは王であり、日々の仕事もあります。そうそう授業に出られるほど時間に余裕がある身では───」
「そこなんだよな、問題は……」

 武官の中でも程度を知っている人……自分のペースで行き過ぎない人がいい。
 民の体力も察してあげられて、かつ一緒に頑張ってあげられる───……そんな都合のいい人、居るか?
 一人で考えてもピンとこないな。せっかく話し合いの場を設けてるんだし、三人にも訊いてみよう。
 …………と、口に出してみれば三人が一斉に俺を指差した。

「? ……なにか付いてる?」
「いえ、そうではなく……」
「お兄さんが適任って意味で指差してるんだけど」
「なのだ」
「…………エ?」

 ホワイ!? 俺が!? 体育教師!?

「初日に桃香を筋肉痛にさせたような俺がそんなことやって、民が耐えられるかな」
「あれは大変だったねー。でもほら、辛かったけど、きちんと実りになってるもん。大丈夫、きっと民のみんなも解ってくれるし、お兄さんなら出来るよ」
「お姉ちゃんみたいに運動すれば、胸が大きくなるのー?」
「ふえっ……!?」
「なっ……鈴々っ! 実りというのはその実りではなくてだな……っ!」
「にゃははー、冗談なのだ」
「も、もうっ、鈴々ちゃんっ!?」

 頭の後ろで腕を組み、にししーと笑う鈴々に向かい、桃香と関羽さんが叫ぶ姿を生暖かい目で見守る。
 元気な姿っていいもんだなぁ……誓いで結ばれた義理の姉妹とはいえ、本当の姉妹みたいだ。それなのに内容が内容なために、普通の眼差しでは見守れない自分へ馬鹿野郎を届けよう。

「でも……そっか。俺でいいなら喜んで引き受けるけど……授業を受ける人たちが納得してくれるかな」
「いえ、それは問題ないかと。ここ最近では子供達や工夫、買い付け先の者から一刀殿の噂が広まっています。それに加え、呉から来た商人らの見聞も広まり、好印象はあれど悪い印象は無いはずですから」
「えと、そうなのか?」
「はい。ですからどうかご安心を。むしろ胸を張り、思うように指導すればよいのです」
「そうだよ〜。やってる最中は辛いけど、慣れてくるときちんと自分の力になってるんだ〜って実感が持てるもん。重いものを軽く振るえた時なんて、感動だったよ〜」

 胸の上で指を絡め、うっとり顔の桃香さん。
 確かに、人の話も右から左な状態で、ブンブカと木刀を振り回してたし。
 けど、それは氣を扱えたからであって、扱えない人にとっての鍛錬は結構……いや、かなり辛い。
 ただの体力作りとして体育をするならまだしも、氣の使用を目指して体を鍛えるとなれば……祭さんが言うように、十里を軽く走れるくらいになる必要が……いいや待て待て待て、あれは流石に大げさだ。
 ……そうだな、ランニングとか跳び箱とか、普通に学校でやるくらいので十分だろう。

「じゃあ……こんなところかな? あと気になることとかってあるかな」
「あ……ではひとつ質問が。結局のところ、学びに来る民たちからはいくらか……その、授業料というものを受け取ることになるのでしょうか」

 はい、とわざわざ挙手をしてくれた関羽さんにこくりと頷きつつ、答えようとしたら……桃香が先に答えてくえた。

「あ、ううん違うよ? まずはしばらく通ってもらって、続けられそうな子には続けてもらうってことにしたの。“たいけんにゅーがく”ってお兄さんが言ってたけど、そうだよね。続けられるか解らないのに、えっと……じゅぎょーりょー? を払わせちゃうのは可哀想だよね」

 そう、結局はこの案に落ち着いた。
 そもそも税をやりくりして建てた学校なんだから、もっと民にもオープンにするべきだと思うんだが……ほら、税を払っているなら授業料免除ですよーとか。教鞭を振るった数だけ給料に色がつきますよーとか。
 しかしそういうわけにもいかならいらしい。国って難しいね。
 だからまず体験してもらい、体験してもらった人たちからの意見も取り入れ、もっと煮詰めていきましょうと。
 この時代と俺の時代とじゃあ明らかに違う部分もあるわけだから、“こんなものだろう”って考えや流れだけで動かすのは無茶なのだ。
 故に授業料はそう高いものじゃなく、いわゆる“知識をつけて国のために頑張ってください方式”……嫌な名前だなこれ。

「とまあそんなわけだから。他に気になることとかあるかな」
「ごはんはどーなるのだー?」
「現地調達」
「えぇええっ!?」
「げ、現地調達……ですか? あの、一刀殿? それはいったいどういう───」
「体育の授業の中に“狩猟”を混ぜて、野山を駆けて猪を狩ったり山菜を摘んだりして、己の食料は己で手に入れる。そんな野性味溢れる世の厳しさをみんなにも知───」
『却下ですっ(だよっ)!!』

 あっさり却下された。
 むしろ当然だった。

「や、冗談だから冗談……山菜摘みならまだしも、猪と格闘なんてしたくもないよ」
「そんなことないのだ、現地調達のほうが面白そうなのだっ!」
「? 鈴々、山菜とかって好きだったっけ?」
「違うよー? 猪を狩るのが楽しそうって言ったのだ」
「……近辺の野山で猪が絶滅するからやめようね?」

 毎食牡丹鍋なんてやってたら、果たしてどれくらいの日数で絶滅するか。
 この世界の皆様はパワフルだから、本当にやりそうで怖い。

「けどまあ、みんなでやったら楽しそうって言えば楽しそうなんだよな、山菜摘み。みんなで採ってきた山菜をみんなで調理するんだ。そうして夜空の下とか青空の下で食べる食事がまた美味しくてさ」

 いわゆる合宿とかキャンプだな。ビデオカメラ回してると、大体心霊だったりするけど。
 人が賑やかそうにしていると寄ってくるっていうけど、川でのキャンプ中とかが一番危険らしい。
 そんな世界から離れて結構経つけど、この時代でも心霊写真とかは撮れたりするんだろうか。

「うん、食事の世話まではさすがに無償じゃあ無理だから、出すのは難しいということで。実際に山菜や魚を食料にするのもアリだと思うけど、時間がかかりすぎるのが難点だ」

 大自然の恵みに感謝を。感謝とか言いつつ、一方的に奪ってるだけだけど。
 恵みとか言うわりに、俺達って自然に対してどんな対価を払ってるんだか。
 覚悟を胸に刻み始めてからここまで、本気には本気をぶつけてきてみたからこそ考えるようになったんだが……うん、特になんにもしてないよなぁ。
 感謝しか送れない僕らを許してください。いつも水浴び、お世話になっています。

「授業料じゃなくて、食事を賄える程度を払ってもらえれば、それで食事が出せるんだけどね」
「毎日っていうのはちょっと高いよね〜」
「それが問題なんだよ。まあ、最初はともかく体験してもらわないと意味がない。食事のこととかは一度後回しで、どうやって体験入学してもらうかも考えないとな」

 ただ漠然と「学校、はじめました」って冷やし中華チックに攻めてみても、きっと誰も来やしないだろう。
 こう……なにか。なにか心を揺さぶるキャッチコピーが欲しい。

「学校に体験入学してもらうために、なにか民の心を揺さぶる言葉とか、無いかな」
「心を揺さぶる……ですか」
「えっと……うーん」
「ご飯食べ放題なのだ!」《どどんっ!》
「国中の人が押しかけるよ! 潰れるよこの国! 他ならぬ愛する民の胃袋で滅びるよ!」

 元気なのは大変よろしいが、次代を支える民たちの成長を願ってのことで国を潰してどーしますか。
 元気に挙手しての言葉だったけど、当然却下とする。
 と、次は関羽さんが手を挙げて言ってくれる。

「では将や王が日々、どういったことをしているのかを覗くことが出来る、というのは」
「ぇええええっ!? みみ、みんなに見られちゃうのー!?」
「……桃香。王であるキミが一番に嫌がってどうするのさ……」
「え、えうぅ、だってぇえ〜〜……」

 ままならない。
 というか……蜀の将の日々といえば、あっち行って騒いでこっち行って騒いで、の連続な気もするんだが。

「そういうのは自然体を見せなきゃ意味がないからなぁ……そうなると、たとえば恋が昼寝していたりだとか」
「うぐっ」
「馬超さんと文醜さんがところ構わず競い合ってたりとか」
「はぐっ」
「陳宮が張々に乗りながら騎馬隊の真似をして雄々しく叫んでるところとか」
「ぐっ……」
「魏延さんが桃香のマッサージをしながら鼻血を出しているとことか、赤裸々に見てもらうことに───」
「い、いえっ、却下の方向でっ!」
「……だよなぁ」

 やっぱりままならない。
 格好いいところだけ見せても仕方ないってことを、関羽さんも解ってくれている。
 だからこそ自然体を見せるのが一番なのだが……正直喩えに挙げたものだけでも民が引きそうな気がしてならない。
 失礼だとは思うけど、昼間から酒を飲みまくっている厳顔さんなんて余計に見せられないし……。

「んー、むずかしいのだー」
「あ……じゃあこういうのってどうかな。体験入学してくれたら、今なら天の御遣いであるお兄さんと握手が出来るー、とか」

 次弾、桃香さま。
 ハイと手を挙げて言ってくれたのは嬉しいんだが……

「いや……俺との握手を望んで体験入学してくれる人なんて、居ないと思うぞ?」

 せっかくだけど却下の方向で。
 どんな人を狙えばそんなので人が集まってくれるんだろう。

「えー? 悪くないと思うんだけど……ねぇ愛紗ちゃん」
「一刀殿と握手を、ですか。噂の天の御遣いを見ることが出来ると知れば、集まる人も居るでしょうが……」
「が……? あ、あれ? なにかだめだった?」
「はい……残念ですが、それで集まるのは授業目的ではなく見物目的の民だけです。恐らく一刀殿がどんな人物なのかを見ることで満足し、授業は受けずに帰る可能性が高いかと……」
「うーん……そうなのかなー……」

 民を信じるのはいいけど、こればっかりは違うと言いきれない。
 だからやっぱり却下の方向で。

「じゃあ、私達ばっかりじゃなくてお兄さんの意見は?」
「え? 俺?」

 はた、と振られてみれば……ううん、確かに訊いてばかりだった。
 来てもらうための行為か……。

「……あ。街に繰り出して辻教師をしてみるとか」
「? あの、それはどういった行動なのでしょう」
「道行く人に片っ端から1+1=2であることを教えたり、かと思えば1+1では41になるという昔ならではの───」
「却下ですっ」
「ソ、ソウデスカ……」

 算数となぞなぞの違いを説くっていう、子供達の関心を惹かせるようなことをしようと思ってたんだけど……だ、だめかぁ……。
 子供達は街では見かけても、学校には来なさそうだからなぁ……きっかけを作って誘おうって作戦を言う前に却下されてしまった。

「あ、お兄さんっ。もし来てくれるのが子供でもいいなら、“おやつあげるから一緒においで〜”って言って、連れてくれば───」
「桃香さん。それ、天でも有名な誘拐の手口だから」
「えぇっ!?」《がーーーんっ!!》
「驚かない驚かないっ……! この世界でだって十分にありそうだろ、それ……!」
「そうかなぁ。乱世だった頃なんて、“あげるから〜”って言葉なんて、きっと誰も信じなかったよ? だって、自分が食べるだけでも大変だったんだもん」
「あげてばっかりだったお姉ちゃんが言っても、説得力ないのだ」
「ふふっ……確かに」
「うくっ……も、もーーーっ! 二人ともひどいぃいっ!」

 実に微笑ましい義姉妹だった。

「ははっ……あ。じゃあ、もし“あげる”って言った人が豪華な服を着ていたりしたら、どうだったと思う?」
「あ……つ、ついていっちゃってたかも……」
「お姉ちゃんだったらそうじゃなくてもついていきそうなのだ」
「えぇ〜? あははっ、いくらなんでもいかないよ〜っ。ね、愛紗ちゃんっ?」
「…………《ふいっ……》」
「……あれ? なんで目、逸らすの? …………あっ……愛紗ちゃぁあ〜〜〜んっ!!」
「い、いえ、私はなにも……」

 説得力っていうのは武器だ。
 それをどう組み立てて証明するかで、交渉などは決まると思う。
 糧を餌に誰かを騙す人も、それなりの用意はしているんだろうし……引っかかったら引っかかったで、身包み剥がされたり殺されたりなんて、黄巾の乱の頃を思えば“無い”だなんて言えやしない。
 ……一応、降り立った途端に身包み剥がされそうになった、天の御遣いの経験論です。

「むー……難しいのだー」
「考えすぎって逆によくないよな……案外お茶でも飲んでホッと息を吐いたら、簡単に思いつけることっていうのもあるんだけど……」
「一刀殿自身、他に案は?」
「ん……地道に広めていくしかないと思う。で、来てくれた人には初日から厳しくいかないこと。段階を追って少しずつ難しいものを教える。それだけかなぁ……」

 来てくれるようにするっていうのは難しい。
 まずは少しずつ、必要になれば対処法を。
 天の時代とは異なった現在で学校を始めるんだ、全てが手探りに近くなるのはどうしてもこう……うん、仕方がないことだ。

「うー……お兄さんはまず、来てくれた人にどんなことを教えるの……?」
「拗ねない拗ねない。大丈夫、前までの桃香を俺は知らないけど、今の桃香なら糧に惹かれてホイホイついていくような娘じゃないよ」
「《ぱぁあっ……!》だよねっ!? そうだよねお兄さんっ! ほら愛紗ちゃん、鈴々ちゃんっ、お兄さんはそうじゃない〜って言ってくれたよー!?」
「“前までのお姉ちゃんは知らない”って言ったのだ」
「《ぐさぁっ!》はぐっ! …………う、うぅうう〜〜〜……お兄さぁあ〜〜ん……」
「あぁはいはい、情けない声出さないの」

 目からたぱーと涙を流して寄ってくる桃香の頭をポフポフと撫で、落ち着かせる。
 ……ほんともう、示しがどうとかって次元じゃなくなっている気がする。
 ほら、関羽さんだって溜め息吐いてるし。……そして桃香さん? 何故僕の横に座り直しますか?
 あぁこらこら鈴々さんっ!? だったら鈴々も〜とか言って人の膝の上に乗らないっ!

「桃香さま……甘えるなとは言いませんが、その……少々甘えすぎでは?」

 おお関羽さんっ、言ってやって、もっと言ってやってよ。

「愛紗ちゃんも甘えてみればいいのに。えへへぇ〜、なんだかねぇ、頭撫でられると“ほにゃ〜〜”ってなるんだよー?」
「知りませんっ! まったく、こんなところを兵や部下に見られたらどうするつもりで……!」
「いや、なんかもう見られてるんだけど」
「なっ……!?」

 つい、と促してみれば、城壁の上で自分を見上げられ、わたわたと慌てる何人かの兵士。
 そんな彼等は関羽さんの眼力一つで「ヒィ」と叫ぶと、そそくさと持ち場へ戻った。

「あぁ……っ……なんと締まりのつかない……っ……!」

 あ。頭抱えた。

「今さらって感じもするけど……。桃香、最近じゃあところ構わず甘えてくるし、兵の間じゃあ結構有名になってるし……」
「……桃香さま《ぎろり》」
「ひゃうっ!? だ、だって愛紗ちゃん……」
「だってではありませんっ! 確かに私は桃香さまが誰かに甘えることを良しと思いはしましたが、ところ構わず甘えることを望んだ覚えはありませんっ!」
「で、でも〜……」
「でもでもありませんっ!」
「う、うー……あ、だったら愛紗ちゃんも甘えてみたらどうかなっ!」
「うなっ!? なっ……ななななにを言い出すのですっ! 私はっ、そんなっ……!」
「赤くなったのだ」
「なってなどいないっ!」

 …………無だ。
 一刀よ、無になりなさい。
 貴方は会話に関わってはなりません。
 関われば…………もう、解っていますね?

「ねー? お兄さんもそう思うよねー?」

 そして、関わらなくても巻き込まれることも……解っていますね?
 神様……俺、どこか女性関連のトラブルが無いところへ行きたい……。

「エート。来テクレタ人ニ、マズ何ヲ教エルカ、ダッタヨネ?」
「お兄さんっ!? そんなことはあとでもいーのっ!」
「えっ……とと桃香!? これキミが言い出したんだよね!? ちょ……あれぇ!?」

 俺に無は無理だった。
 ただそれだけの結果が残ったよ神様……。

「はぁああ……えと……関羽さん……?」
「うくっ……わ、私はべつに甘えたいなどとは……。大体、頭を撫でられたくらいでどうにかなるなど有り得ません」
「あはっ♪ じゃあじゃあっ、撫でられても平気だよねっ、愛紗ちゃんっ」
「は? あ、いえ、今のはそういう意味では───」
「じゃあお兄さん? …………やっちゃってください」
「任されましょう」
「はわぇあっ!? かかっかかか一刀殿!? このような茶番に付き合う必要は───!」
「大丈夫大丈夫。茶番じゃなくて、俺自身がしたいことでもあるから」
「なっ……!」

 ひとまず膝の上の鈴々を抱き上げ、隣の芝生へ下ろす。
 そうしてから立ち上がり、てこてこと歩いて関羽さんの真正面に屈むと……何が不安なのか、少しだけ怯んだ顔で俺を見る関羽さんの頭に手を伸ばす。

「う、う……」
「?」

 小さな唸り。
 しかし覚悟を決めて姿勢を───正されるより先に、その頭を撫でた。

「はうっ───」

 やさしくやさしく、心を込めて。
 戸惑う視線が、座ったわけではなく屈んだだけの俺を軽く見上げるカタチで向けられるが───

「……いつも気にかけてくれてありがとう。正直……あの時の関羽さんとの会話が無かったら、いろいろなものに気づけないままでひどいことになってたと思う。だから……うん、状況を利用するみたいでごめんだけど、ありがとう」

 普通に面と向かって言うのでは恥ずかしいし、改まって言うのもむしろ言いづらい。
 だったらと、状況による勢いを利用させてもらった。
 感謝は本物だ。感謝してもしきれないほどのありがとうが、自分の中には存在している。
 それはもちろん、気づくためのきっかけを与えてくれた桃香にもだ。

「な、な、わ……《かぁああああああっ……!!》」
「……?」

 しかしなんだろう。
 感謝と真心を込めて撫でているにも関わらず、何かがゴリリと動き始めているような。
 これはなんだろう……寒気? 未来に対する尋常ならざる不安?
 俺の心が“今すぐ手を離さないと大変なことになる”と告げている。
 や、でもな、心よ。これは感謝の意であって、べつにやましいことをしているわけじゃないんだぞ? それに相手はあの関羽さんだ。時に厳しく時にやさしく、この国でまだ解らないことがある俺に、いろんなことを教えてくれる人。そんな人のいったい何が危険だって───

「何かお礼をさせてくれると嬉しいんだけど……関羽さん、俺に何かしてほしいことってないかな」
「肩車してほしいのだっ!」
「や、鈴々じゃなくて」
「政務をもっと手伝ってほしいっ!」
「桃香さん!? それはキミがもっと頑張ろう!? そりゃ手伝うけどさっ! はぁ……で、どうかな、関羽さん」
「《チクリ》……そう、ですね……」

 どうしてか赤い顔のまま、俯いたあとに再度俺を見上げる関羽さん。
 そんな関羽さんを、まだ撫でたままの俺。
 ……驚いた、髪がすごくさらさらだ。
 黒髪っていうのも珍しいよな……知っている中でも数人しかいないから、少し安心する。
 これも郷愁みたいなものなのかな。

「抱っこしてほしいのだっ!」
「やっ、だから鈴々じゃなくてっ!」
「あ、じゃあ私はこのあいだ恋ちゃんがやってたえーーと、おひめさま……だっこ? してほしいなー♪」
「桃香さん……そういうのは俺の腕が完治してからね……?」
「あ……そっか。えーと片腕で出来ることって……」
「あの。二人とも、話聞いてる? 俺、関羽さんのお礼にって切り出したよね?」
「《チクリ》…………」

 言ってみたところで、二人は想像することをやめてはくれない。
 これはこれで脳を鍛えることになっているのかなぁとか考えたが、これはなにか違う気がする。

「むー……難しいのだー」
「お兄さんにはいろいろとお世話になっちゃってるからねー……出来ればお兄さんも嬉しいことをしてほしいんだけど」
「あ、じゃあとっておきのがあるぞ? 今の鈴々と桃香にしか出来ないことさっ」

 努めて明るく餌を蒔いてみた。すると、

「え? なになにっ?」
「なんなのだー!?」

 ……物凄い勢いで食らいついてくれました。
 だから言いましょう。

「うん。関羽さんがしてほしいお礼を決めるまで、桃香と鈴々は静かにしといてください」
「いやなのだ」

 あっさり断られた。
 頭の後ろで手をくみ、きょとんとした顔でキッパリ鈴々さん。

「もーお兄さん? それ、お礼じゃないよー」

 笑顔で返す、俺の言ったことを冗談として受け取っちゃったらしいにっこり桃香さん。

「え? 関羽さんへのお礼なんだから当たり前じゃ……? いやあのええと……あれ? これって俺がおかしいの?」

 ……俺の明日ってどっちだろ。
 何処を向こうと明日を無視して、明後日辺りに突っ走っているような気がしてならない。

「《…………もじもじ》」

 と。それはべつとして、撫でられっぱなしの関羽さんが赤い顔をしつつ、どうしてかもじもじと視線を彷徨わせていたりするのだが……なにかおかしなこと言ったかな、俺。
 それとも撫で続けていたのが気に障った? ……普通そうか? そうだよな、俺も黄忠さんに撫でられたままだった時、恥ずかしかったし───と。手を引っ込めようとしたのだが。

「それでは、あの……真名で……愛紗と呼んでいただけますか?」
「え───…………」

 いきなり関羽さんにそう言われ、それが“お礼”だと気づくまでしばらく時を要し。
 答えを得たと思えば今度は思考停止。
 ───停止状態から復活してみれば、今度は停止した分、一気に疑問が沸いて出てきた。
 あれ? 急に真名? いや落ち着け、慌てる時じゃない。時じゃないけど忙しい。

「愛紗が男の人に真名を許したのだっ」
「あれ? もしかして初めて……かな?」
「な、何を仰るのですかっ! 男性に真名を許す者が極端に少ないだけの話でっ……鈴々や桃香さまとて一刀殿が初めてでしょう!」
「そういえばそうなのだ」
「そっかー、そういった意味では、お兄さんってすごいねー」

 感心される時でもない気もするけど……。
 だがしかし、冗談なんかで真名を預けようとするわけもない。
 どうしてこの場面でなのかは考えてみたところで解らなかったが、きちんと受け取ろう。

「じゃあ、うん……喜んで。えと……でもさ、そのー……あ、愛紗さん?」
「はいっ《ぱぁあっ……!》」
(うわっ、すごい笑顔っ……)

 真名で呼ばれることがそんなに嬉しいのか、親に褒めてもらった子供のような輝く笑顔で俺を見上げる関……もとい、愛紗さん。
 み、妙ぞ……こはいかなること……!? もしかしてずっと呼ばれたかった……? いやいやまさかそんな。

「愛紗、嬉しそうなのだ」
「私や鈴々ちゃんが真名で呼ばれてて、愛紗ちゃんだけ関羽さん〜って呼ばれてた時、なんだか寂しそーだったもんねー」
「うなっ!? ななななにをっ! わわ私はそんなっ! 気の所為ですっ!」

 気の所為らしい……よかった、嫌な気分にさせたりとかはしなかったようだ。
 魏のみんなや呉のみんなに言わせれば、俺はどうも女心というものが本当に解らない男らしいから、気の所為であってくれたなら本当によかった。
 ……なのに、何故か愛紗さんが俺のことをキッと睨んできた。ハテ?

「その。それから、言わせてもらうのならばですが……一刀殿。鈴々はおろか、蜀の王である桃香さままで呼び捨てにしているというのに、私だけ“さん”をつけるのはその、どうかと思います。ここは私も呼び捨てにされて然るべきかと───」
「え? でも今まで関羽さんって呼んでたのに、真名になった途端に呼び捨てはいろいろと気安すぎやしないかなって」
「そうかなー。私の時は“さん”を取ってくれたよ?」
「鈴々は鈴々なのだっ」

 あの、はい……それはそうなんですけどね?

「う……じゃあえと……あ、愛紗」
「…………《ぽむっ》」
「赤くなったのだっ」
「なってなどないっ!!」
「よかったねー愛紗ちゃんっ、これで三人とも真名を許した仲だよー♪」
「桃香さまっ!? 私はそのべべべつにそう呼ばれたかったから許可したのではなくっ!」
「じゃあ取り消すの?」
「しません!《キッパリ》」

 物凄い即答だったという。

「……流れからして、関───愛紗まで俺のこと兄とか呼んだり……しないよね?」
『───《ピタリ》』

 何気なく思ったことを口に出してみれば、ピタリと止まる三人の動き。
 そして、“ハテ?”と首を傾げると同時に浮かび上がる嫌な予感───あ。やばい地雷踏んだ。

「ごめん今の無しっ! 何も聞かなかったことに───!」
「なるほどー、それは気がつかなかったよー。私も鈴々ちゃんもお兄さんとかお兄ちゃんとか呼んでるんだから、愛紗ちゃんも───」
「お構いなくっ!? 聞いて!? お願いですから聞いてください突っ走らないで! 一刀殿でいいから! ほんと一刀殿でいいからぁっ!!」
「だいじょぶなのだ、お兄ちゃんはお兄ちゃんだから、鈴々はお兄ちゃんって呼ぶのだ」
「り、鈴々……《じぃいいん……!》ってあれ? 今そのためにいろいろマズイことになってるんじゃなかったっけ?」

 考えてみれば蜀の王にお兄さんとか呼ばれて、俺の立ち位置ってどこらへんなんだ?
 蜀の王にお兄さんと呼ばれ、甘えさせて、魏の王に私物扱いされてて、呉の王に種馬にならないかって誘われて……う、うおお……目ぇ回ってきた……!
 などと両手で頭を押さえて蹲りたい心境の僕の前で、未だに撫でられっぱなしの愛紗が、うっすらと赤く染めた表情を上目遣いで覗かせて、一言。

「あ、あ……う、……あ……あに、あにに……兄、上……?」
「───はうっ《ツキューーーン!》」

 う、あ……やややばい可愛い……! この、彼女の頭と髪を撫でる手でめっちゃくちゃに撫で回してあげたい衝動が込み上げて……!
 いやいや乱暴はよくないだろ、ここは紳士的に湧き出る思いをそのまま手に込め、さらにさらにやさしく撫でてだな……!
 いや、順番は守ってもらわんと。ここはやはり彼女の頭を胸に掻き抱き、中庭の中心で愛を叫ぶくらいの思いをストレートにぶつけてだね……!

(出すぎだぞ! 自重せい!)
(も、孟徳さん!)

 ハッと正気を取り戻してみれば、頭がクラクラしたままでいろいろ考えすぎていた自分。
 落ち着け、まず落ち着くんだ俺。とか思いつつ、頭を撫でることをやめないこの手は……いったいなにを考えてらっしゃいますの!?

「はぁ……ふぅ……───うん。愛紗、自分の呼びやすい呼び方でお願い。そんな、真っ赤になってまで言うんじゃあ言いづらいと思うし」
「うぐっ……申し訳ありません……」
「それと出来ればその敬語もやめてほし」
「お断りします《きっぱり》」
「いな───って即答!?」

 どうしてか口調に関しては即答を以って断られた。

(俺からでも意思は受け取れた、か……)

 俺は愛紗と同じ道を歩んでられたわけじゃないのにな。
 力を振るう意味を受け取ることは出来ても、たとえばその人が敵だったら……“振るう意味”のために迷わずその人を斬ることが出来るだろうか。

(ん……)

 同盟を結ぶことで、この大陸に確かな平穏は訪れた。
 呉国に居る親父たちのように、納得出来ずに苦しむ人もまだまだたくさん居るのだろう。
 それら全てを救うなんてことは、悲しいけど不可能だと断言できる。
 いつか、とても長い時間が哀しみを癒してくれると信じるほかないのだろう。
 行動することで笑ってくれる人は確かに居た。
 けど同時に、手を取ることを拒否し、ただ生きることを望む人も居た。
 だったら……今でこそ希望を抱けぬ心にも、いつかは希望が舞い降りると信じよう。
 そのためにも、何かを出来る誰かが頑張らなきゃいけない。
 いい国を、それこそいつか、“みんなで”目指せるように。
 そのために…………そぅだなぁ。

「悪と正義を説こう」
「なんですか急に」

 ぽんと口から出た言葉に、本気で疑問符を浮かべた顔で言われた。
 うん、そうだね。口調のことを話してたのに、急だよね。

「愛紗、悪と正義だよ。天の国には“戦争を知らない子供たち”って歌があるんだけどね、戦争は恐ろしいものだと伝える授業をしていったらどうかなって。もちろん、それだけじゃなく国語算数理科社会、体育や……英語はいらないよな。まずは少しずつ覚えることが重要だし」
「悪と正義……それを、民に教えるのですか?」
「戦争ってものを忘れない程度でいいんだ。現在より次代へ、次代よりさらに先へと伝えていくことが重要だ。些細なことで国と国とが喧嘩でも起こせば、それだけでどれほどの人が死ぬか解らない。だから……舞台が必要だ」
「舞台? お兄さん、それって数え役萬☆姉妹が立つみたいな───」
「いやいやそういう舞台じゃなくてっ! あ、いや、それでもいいのか? えーと……!」

 一休さん、俺に力を貸してくれ。
 戦争なんてものじゃなく、時にはどっちが上かを遊び感覚で決めるなにかが必要だ。
 学力テストで競い合う? いや、そうなると“学校”がある蜀が優位だ。下手をすればどっちが上かで、他国を見下したり悪口言ったりする民が出てくるかもしれない。
 そんなことは無いって断言してやりたいけど、俺だって国に生きる全ての人の性格を知っているわけじゃない。断言は出来ないんだ。
 民と民がぶつかるようなことはやめておいたほうがいい……となると、将と将がぶつかり合う企画か? 年に一度大会を開いて、誰が三国無双であるかを決定する舞台……その名も天下一品武道会を開催する! とか……いや待て、いろいろ待て。

「なにも武道会にすることないよな。それだったら軍師に辛い点が浮かぶし……だったら分野ごとに分けて、それぞれの三国無双を決める舞台を……」
「お兄ちゃんがぶつぶつ言い出したのだ」
「お兄さん? お兄さーん?」
「奇妙な集中力ですね……声が聞こえていないのでしょうか」

 武を競う舞台、知を競う舞台、料理を競う舞台、技術……たとえば馬術を競う舞台や、足の速さを競う舞台……いっそのことオリンピックでも開こうか?
 そこに学校で学ぶことも混ぜるとすると……と考えながら、撫でる手を止めて彼女の正面に座る……と、鈴々が今だとばかりに足の間に座りこんできた。
 …………ええい、思考よ回転しろっ、細かいこと───ではないけど、気にするなっ!

「反面教師って言葉を利用しよう。目上の人、もしくは先人の恥を教訓に、ああはなるまいと誓って己を生きる在り方を」
「反面教師……ですか? それをどのように?」
「そう。正しい道を目指してばっかりじゃ、邪道の中にある光を見つけられない。邪道に生きるだけじゃ、正道はただの盲目的な道。だったら、どっちにも目を向けられる自分を生きることこそが、自分の責任を以って進むってことなんだって……じいちゃんが言ってた」
「つまり?」
「一年に一度……何年かに一度でもいい、三国で競い合いの催しをしよう。武力知力技力、様々な力の中で三国無双を決める戦を。人を殺める戦なんかじゃない、終わったあとには笑っていられるような戦を何度も何度も続けて、血で血を洗う歴史の全てを教訓に出来る未来を作ろう」
「にゃ? みんなで戦うのー?」
「もちろん殺しはご法度。もちろん将同士のぶつかり合いを見て、戦を思い出す民だって居る。殺し合いじゃない戦が出来るんだったら、どうしてもっと早くしてくれなかったんだって言う人だって、やっぱり居るんだと思う。それは呉だけの話じゃないんだろうから」
「大丈夫なのだ、その時はまたお兄ちゃんが刺されて───」
「刺されないよ!? 説得=俺が刺されるってわけじゃないから! 刺されないから! ていうかそれのどこが大丈夫なの!? 少なくとも俺一人が物凄く大丈夫じゃないよ!?」
「にゃはは、冗談なのだ」
「勘弁してください……お願いだから」

 心からがっくり鬱気分をお届け。
 無邪気ににししと笑う鈴々の頭を撫でながら、それでも出る苦笑は楽しげだ。
 自分で自分にいろいろとツッコミたい部分もあるが、冗談に振り回されるのも悪くない。
 そんなことを思っていると、隣に座る桃香が顎に人差し指を当て、空を仰ぐように首を傾げた。

「……? ねぇお兄さん? 今のお話の中のどのへんに、反面教師に当てはまることがあるのかな」

 次いで出たのは「ああ確かに」と頷ける疑問。
 反面教師って言葉に合う言葉はそういえば説明できてなかったなと頷く中で、俺は七乃の真似をしてピンと立てた指をくるくると回した。

「まず、戦が終わって平和になったっていうのに、祭りめいたものとはいえまた争うことで、多少の緊張感を持ってもらう」
「うんうん、それで?」
「民たちは“戦”って聞いて嫌な顔もするだろうし、それが遊びとくれば笑う人も居ると思う。それを見て聞いて、“一年程度経ったばかりなのにまた戦か”って嫌悪するならそれでいい。血生臭い戦じゃないなら楽しもうって思うならそれでいい。戦を嫌悪するなら、自分はそんな戦好きにはならないように戦を嫌い続ける。楽しい戦を喜ぶなら、血生臭い戦なんてつまらないって思うだろ?」
「つまり、出来るだけ民に学ばせる形で物事を起こすと……そういうことでしょうか」
「なんでも思う通りに上手くいけば苦労はないんだけどさ、もちろん今挙げた心情以外を持つ人だってきっと居る。自分は関係無いって一線を引く人だって居るだろうし、真意を知らなきゃ“こんなやつらに国は任せられない”って怒る民も居るんだろうし……」
「んー……難しいのだー……」
「任せられない〜って怒られちゃったら、あとが怖そうだね……」

 唸りながら、足の間に座る鈴々がポフリと体重を預けてくる。
 桃香は桃香で目を線にしていろいろと考えているらしく……愛紗だけが、真っ直ぐに俺の目を見ていた。
 そんな彼女が小さく緊張を緩ませ、ふぅと息を吐くようにして言う。

「……つまり、怒る民にも先を見てもらうと。そういうことですね?」
「一応、そういうつもり」
『?』

 やれやれこの人は……といった感じに目を伏せる愛紗とは別に、空を仰ぐように俺をみる鈴々と、隣に座る桃香が首を傾げた。

「桃香さま、つまりはこういうことです。反面教師の話になりますが、我々が他国と競い合うことで、“また戦を”と思う者が戦を嫌えばそれで良し、楽しむための血が出ない戦ならと喜ぶならばそれも良し。そして、こんなやつらに国は任せられないと思う者が居るのであれば、その者は知恵を身に付け、いずれ城に立ち、より良い国作りに貢献してくれるでしょう」
「───あ……」
「当然、全てがそう上手く運ぶはずもありません。そういった者を集わせ、国に牙を剥くとも限りませんが……」
「その時は鈴々がやっつけるのだっ!」
「こらこら……そうだけどそうじゃなくて……」
「そう。少なくとも、乱世の中を駆け、生き残った我らへと牙を剥くのは得策ではありません。戦をその目で見ていない民だろうと、それは理解出来るはずです」
「最初から全部を解ってもらおうなんて思ってないよ。だからさ、態度で教えられないそこらへんは……ほら、学校の出番ってわけで」
「……あ、そっかぁっ!」

 ポンッと桃香が両手を叩き合わせた。
 ……地味にいい音が鳴った。

「にゃ? そこでお兄ちゃんが悪と正義を教えるの?」
「やっぱり受け売りだけどね、心を込めて届けたいって思う。子供の頃は呪文みたいな言葉だったけど、今はなんとなく……解る気がするから」
「悪と正義、ですか。あの、よろしければ───」
「へ? ……あ、うん、こんな話でよければするけど……案外つまらない話だぞ? 教えようってもののことをそんなふうに言うのもどうかと思うけど」
「いいっていいって、聞かせて聞かせてー?」
「楽しそうだね、桃香……」

 ワクワクウキウキ状態の桃香の横で、その勢いに少したじろいだ。
 さて……悪と正義、なんだって正義が後で悪が先なのかといえば、じいちゃんの話に影響されたから……だと思いたい。
 そうして俺は、三人に悪と正義の昔話をし始めた。
 なんの盛り上がりもない、静かで淡々とした、つまらないお話を。



幕間/悪と正義


 ───誰かのために生きることは悪ですかと問う。

  問われた人は、悪ではないが正義では決してないと謳ってみせた。

 それは何故ですかと問う。

  問われた人は、誰かのために生きることは、誰かの所為にすることと同じだと謳ってみせた。

 ならば何のために生きれば正義となれるのでしょうと問う。

  問われた人は、正義を謳うのならば己のために生きなさいと謳ってみせた。

  決して曲がることなく、誰の所為にするでもなく、全てを己の所為にして生きてみなさいと謳ってみせた。

  それを貫き通した時、あなたが辿った道の全てがあなたにとっての正義となります。

  正義とは己です。他人の中にあなたの正義はないのですから、あなたの正義はあなたのみがあなたのために振りかざしなさい。

  問われた人はそう言って、笑むわけでもなく背を向けた。

 背を向けた彼に、しかし己のためのみに生きれば、それは悪となりますでしょうと問う。

  問われた人は、ようやく笑います。悪こそが正義であり、正義こそが悪なのですと謳ってみせて。


───……。


 ───……子供の頃、世界は大きな図書館だった。
 見るもの全てが知識であり、目には見えない空気や、“見えている”はずなのに掴むことのできない光。見るもの全てに興味を示し、走り回っては少しずつ、けどたしかに頭の中に“世界”を刻む。
 子供は無邪気だ。
 泥で汚れることも、傷を負うことさえも勲章みたいに誇らしげに構え、泣きはするけど逃げることをしなかった。
 逃げることを知ったのはいつだろう。
 傷つくことが怖くて逃げて、怒られることが怖くて逃げて。
 ふと気がつくと……大きな図書館だった世界は、自分にとって恐怖を教える場所でしかなくなっていた。
 怖さが満ちる世界……そんな中で、生きていくための知識を教わっていくと、子供は少しずつだけど視野を広め、小さな怖さを忘れる代わりに大きな怖さを知っていく。

 竹刀を持ったのはいつだったか。
 竹刀が木刀に変わったのはいつだったか。
 連想ゲームをするみたいに思考を回転させるけど、子供の頃の記憶なんて曖昧なもので。
 鮮明なつもりでも、少し前に思い出したものと、今思い出したものとでは少し内容が違っていたりする。
 そんな曖昧さに思い悩んでも、どんなことがあっても変わらないであろう記憶っていうものは、大抵ひとつは存在する。
 些細なことでも、それが心の中に残るものであるのなら。

 いつだったか、ブラウン菅の中で格好よく戦う変身ヒーローになりたいと思った。
 子供の頃だ、今は違う。
 小さな体を目一杯に振って、変身のポーズを取ってはギャーギャーと騒いでいたのを覚えている。そんな俺に、じいちゃんが軽口のつもりで言った言葉が“正義とはなんだと思う”だった。
 俺の答えはといえば、「強くて格好よくて、悪いやつをやっつけること」、なんてものだ。じいちゃんは笑いもしないで、小さく溜め息を吐いてコメカミあたりをコリコリと掻いていた。

  今思えば、孫に対してなんて質問をしたんだあの人は。

 なにも言ってくれない祖父に、子供心にムカッと来たのか、俺は「じゃあ悪ってなんなの?」と問いかけてみた。
 返ってきた言葉は、なんと“正義だ”だった。

  “悪は挫けない。悪は悪のみを真っ直ぐに行い、自分が正しいと思う道を突き進む。それこそが真の正義というものだろう”

 ……あの日のことを、今でも時々思い出す。
 じいちゃんが言った言葉を子供独特の生意気な態度で否定した。
 それでもブラウン管の中のヒーローは、俺に現実を教えた。
 突き進み続ける悪と、己の行動に迷いを見せるヒーロー。
 果たして己の道を恥じぬと断じて悪を行い続ける悪と、正義を謳っているはずなのに迷い続ける正義……どちらが本当の正義なのか。
 いつしか考えることが怖くなって、ブラウン管に変身ヒーローが映ることはなくなった。
 そうして、まだまだガキだった俺は、正義と悪なんてものは誰がどう見るかで決まるものなんだと知った。
 悪にとっての悪は正しいことで、正義にとっての悪は悪でしかなくて。
 悪でしかないものなんてのは無くて、視野を広げてみれば、この広すぎる世界に生きる全てのものの数だけ、悪と正義が存在していた。
 自分だけが正しいんじゃない。
 自分が正しいのだと思った時にこそ、一度立ち止まって考えてみるべきなのだろう。
 悪を知り、正義を知ることが、自分たちが言う“正義”に最も近づける方法なのではないか、と……───




-_-/一刀

 …………と。

「こんな感じなんだけど」
「解らないのだっ」
「即答でしかも笑顔!?」

 話し終えてみれば、くるりと向き直った鈴々の笑顔がそこにあった。
 さっきまでとは違い、俺と向き合うかたちでにっこにこ笑顔である。
 楽しい話をした覚えは全然無いのだが………………不思議だ。

「なるほど……確かに悪は行動を躊躇わない。その行動力には時折感心することもありましたが……」
「だよねー。いくら“だめだよー?”って説き伏せても、すぐに問題起こしちゃうし」
「やっつけてもやっつけても全然懲りないのだ」
「うん。不思議なんだけどさ、正義よりも悪のほうが行動力と根気があるんだ。正道を歩く人が学ぶべきは、その歪んでようと諦めない心。いいことをしようって頭を働かせても閃かないのに、悪いことを考えてみると呆れるくらいに思い浮かぶ。そういったところを上手く取り入れるのも、そう悪いことじゃないと思うんだ」

 聞いていた三人が「ほぉおおー……」と感嘆にも似た熱い息を吐いた。
 感心を得られるとは思っていなかったから、こちらとしても「ほぉおおー……」だ。

「悪だからって叱るだけじゃあだめだ。見習うところは見習う。そういうところを教えていければって思うんだけど」
「ふむ……いい考えだとは思うのですが……」
「? だめかな」

 愛紗がむう、と小さく唸る。
 いや、実際言われるまでもなくこれはダメじゃないだろうかとは思っているんだ。
 悪にも学ぶべきは確かにあるんだが、学ぼうとして悪を見ていれば……その、解るだろ?

「学ぼうとして悪を見ていれば、悪の中にある“楽に物事を達成する”といった、邪な部分も学んでしまう可能性があります。それでは大人はもちろん、子供の成長に良くないかと……」
「あちゃ……やっぱりか」

 愛紗も同じ考えに至ったらしい。
 難しいところだが、“いいところだけを取り入れる”のは楽じゃないのだ。
 なにせ、実際に見て、感じて、学ぶのは俺達じゃなく生徒だ。
 それをあーだこーだと説き伏せるばかりじゃあ、生徒の独創性を奪うことになる。
 なるほど、教師ってやつはこれで案外大変だ。
 テスト内容を考える時も、こうしてうんうん唸っていたんだろうか。
 …………いや、案外意地悪く難しい引っ掛け問題ばかりを選んでいたのかもしれない。
 そう思ってしまう自分は、やっぱりただの学生なんだなぁと実感してしまう。
 学生だったら……いや、人間だったら大体が思うだろう。
 楽して強くなりたい、楽して高い成績を取りたいと。
 当然俺だってそうだ。だって学生だもの。

(今も勉強が好きってわけじゃないけどね)

 多少の努力の精神を得たからとはいえ、好きになれるものじゃない。
 が、教えるのはこれで案外楽しかったりするから、学ぶことの何がどちらに転ぶのかは解らないものである。

「じゃあ悪と正義じゃなく、学ぶべきことを教えていけばいいのか。難しく考えないで、これはいけないことですよ、これはいいことですよって」
「うーん……それが一番なんだと思うけど、たぶんそれが一番難しいと思うよ?」

 とは桃香の言葉。
 俺もまったくだと心で納得してしまうあたり、人からの理解を得るのは大変難しいのですってことなんだろう。
 ……だったら昔話風に説いてみようか。
 悪いだのいいだのを説くんじゃなくて、物語として悪と正義を覚えてもらうつもりで。
 朱里と雛里に話して聞かせた桃太郎のように……その、童話にありがちな残虐なところを出来るだけ省いて。
 不思議なんだけど、童話って案外怖いの多いんだよな。
 マッチ売りの少女とかは人の無関心さを浮き彫りにしていると思うんだ。
 誰もが少女を助けずに、明け方の死体を見てから哀れむんじゃあ誰も救われない。
 しかも、誰も少女がしていたことを理解できていないのだ。
 確かにマッチの火で暖まろうとしてはいた。
 が、そもそも売れていればそんなことをせずに済んだのかもしれない。
 かと言って、誰もが買ってやれるほど裕福なわけじゃないだろう。

(それはたぶん……この世界で、あの乱世の頃に売ろうとしても一緒だったんだろうな)

 案外この世界にもマッチ売りの少女のような子が居たのかもしれない。
 誰にも気づかれず、空腹のままに死んでしまった少女か少年が居たかもしれない。
 そう思うと、とても胸が苦しくなった。
 自分に誰かを救うほどの力はない……誰だってそうだ、一人で出来ることなんて限られている。国という巨大な組織が、たった一人で機能しているわけではないのと同じように。
 それでもと思うのなら、自分が目指すことは一つ。
 そんな子を出さないためにも、もっと暖かな国を作っていきたい。
 みんなで、将だけじゃなく民とともに、国に返すことで。
 ……そう。そう思ったら、今度は胸の苦しみじゃなく、暖かさや希望が沸いて出た。
 もっと頑張りたい。安心して笑って燥げる子供達、それを見て微笑む大人達を見たい。
 自分一人で国を動かせるわけじゃないと思ったばかりなのに、動かずにはいられない衝動が俺の中で暴れ出していた。

「いや。難しいからって諦めたらそこで終わりだ。難しくても、理解されなくても一つずつ説いてみるよ。小難しい話じゃなくてもいいんだ、面白い話に喩えて説明するのもいい。自分の目の高さだけで説明する必要なんて、ないんだもんな」
「自分の目の高さで……?」
「子供には子供の視線の高さ……物事を考える基準がある。それなのに大人の考えかたばかりを押し付けてたら、子供らしさが無くなると思う」
「ならば、大人には大人の考えかたでぶつかると?」
「臨機応変……かな。背伸びしたい子にはそれなりの高さで、甘えたい大人にはそういった甘えも必要だと思う。えーと、つまり〜……もっとよく人を見ることから始めるってことで。民として見るんじゃなく、ちゃんと人一人ずつとして見るんだ。大変だけど、そこまでしなきゃ誰のことも覚えられないよ。相手を知る努力をまずしていかなきゃ」
「それはまた、随分と難しい考えかたを……」

 軽く規模を考えるだけでも眩暈がしそうだが、それでも……将の名前を、性格を覚えられるのであれば、いつかは民の名前も覚えられるだろう。
 ずっとそうやって過ごして、みんなのことを知っていく。
 生徒の名前も知らない先生っていうのは、ちょっと恥ずかしいだろうし。

「でも、その努力のお陰で桃香や鈴々、愛紗ともこうして笑顔で話せてる。大事なことだし、必要なことだよ、絶対に」
「う……それは、その。はい……その通りですが」
「愛紗、顔真っ赤なのだ」
「なっ……赤くなどっ!」
「愛紗ちゃんが男の人と仲良くするところって、あまり見ないもんね〜♪」
「ぐっ……そのようなことはっ……!」 

 普段ならカッと眼光を光らせ、二人に喝を入れるような立場の愛紗が、こういう時だけは弱気だった。
 どうして顔を赤くしているのかは解らなかったけど、もしそれが照れからくるのなら、喜んでもらえたって考えていいのかな……と暢気に考えているうちに、やっぱり爆発愛紗さん。
 怒声という名の雷が落ちると、桃香と鈴々はしょんぼりと正座し、愛紗にガミガミ怒られていた。
 なるほど、やっぱりこういう力関係らしい。
 そんな三人の様子を思わず笑ってしまった俺まで正座させられ、まとめて怒られたのはまあ……いずれいい思い出になるだろう。
 そんなこんなで、今日も一日が過ぎていく。
 話と説教だけで一日が終わるなんて、どんな一日なんだろうと呆れてしまうくらいだ。

「うぅう〜〜……愛紗ちゃ〜〜〜ん、足、痺れてきたよぅ〜……」
「何を軟弱なっ! 日々、一刀殿からの鍛錬を受けながらそのようなっ!」
「せいざなんて習ってないもん〜……」
「それでもですっ! 一刀殿は平気な顔で座っておられますよ!?」
「いや……正座はいいんだけど、そろそろご飯の時間じゃ───」
「なりませんっ!」
「えーーーっ!? 鈴々お腹空いたのだ〜〜っ!」
「全員がきっちり反省するまでずっとこのままですっ! まったく! 何かにつけて、赤くなっただの照れているだの! わわ私はべつにそんなっ! 照れてなどっ!」

 ちなみに説教は、夕方を過ぎて夜まで続いた。
 気を利かせて賈駆さんや董卓さんがお茶を淹れてくれたり、点心を小分けして持ってきてくれるまで……つまり、「反省するまで食べることは許しませんっ!」と叫んでいた愛紗のお腹が可愛らしく鳴くまで。
 ……そこで鈴々が「やっぱり赤いのだ」なんて言わなければ、そこで終了だったのかもしれないのだが。

「鈴々……」
「鈴々ちゃん……」
「うー……ごめんなのだ……」
「聞いているのですかっ!?」
『聞いてますっ!!』

 授業へ向けての相談はその日、ただのお説教日和と化した。
 せめて部屋の中で話をしようと提案したものの悉く却下。
 元気に説教となる言葉を叫び続けた結果、翌日には風邪でぶっ倒れた愛紗の姿があった。

「……黄忠さんに弓を教わる約束、してたのになぁ……」
「うう……申し訳……ひっくちっ!」
「いや、いいよ。黄忠さんも納得してくれたし、病気の時は支え合わなきゃ。病気の時って不思議と心細くなるし。学校完成までには治そう? どうせならみんなで完成を喜びたいし」
「一刀殿……けほっ……は、はい……!」

 賈駆さんと董卓さんが用意してくれた水桶で布をよく絞り、額に乗せる。
 風邪独特の症状なのか目は潤み、寝台に伏せる愛紗はいつもよりも歳相応の、か弱い女の子に見えた。
 だからだろうか……俺の口調も自然のいつもよりもやさしい感じになっていた。

「あ、そういえば風邪は人に伝染すと治るっていうな。愛紗、俺に伝染せば良くなるかもしれないよ?」
「ふふ……ならばその時は、私が看病を……けほっこほっ!」
「ああほら、あんまり喉に刺激与えないでっ……って、俺が話し掛けたからか、ごめん」
「い、いえ……」

 そうした会話を続けながら、先日話し合ったことを頭の中で纏めたりしていた。
 もちろん看病もきちんとやりながらだ。
 厨房を借りて卵酒を作ったり、お粥を作ったり、こまめに額の布の交換もして、話をしてほしいと乞われれば天の話をしたりして。
 お粥はふーふーと息を吹き掛けて、あーんと食べさせたりもしたが、嫌がっていたわりにはきちんと食べてくれた。
 さすがに体を拭くのは無理だから、賈駆さんと董卓さんに頼んだけど。
 そうして、鍛錬の日を丸々潰して看病を続けた結果、元々の強靭な精神のためもあってか愛紗は一日で復活。
 そして俺は───……見事に風邪を伝染され、寝台の上で自分の“伝染せば治る”発言を呪っていた。
 神様……俺は本当に馬鹿なんでしょうか……。




ネタ曝し  *1+1が41  =でないことが大前提。なぞなぞですね、いわゆる。  昔はよくやってたけど、今はどうなんでしょう。  1と+をくっつけると4。そこに1を並べて41。そんなもの。  *関羽さん、言ってやって、もっと言ってやってよ  日本人ならお茶漬けやろがぁ! 永○園より、お茶漬けのCM。  最初はラモスさんだけが、後半はラモスさんと老人が頑張っておりました。  言ってやってェ、言ってやってェよォゥの声が、今も思い出の中に。  間違ってる可能性もありますが。  *中庭の中心で愛を叫ぶ  世界の中心で、愛を叫ぶ。  正直に申しますと、世界の中心が何処なのかを凍傷は知りません。  東シナ海あたり? って、それじゃあ東か。名前好きなんだけどね、東シナ海。 Next Top Back