114/謎というものは、解明されると案外どうということもないものだったりする例

 しとしとと小さな雫が見慣れた風景を打つ音を聞く。
 本日は雨天。
 昨夜から降り始めた雨によって、本日の予定は大いに狂わされ───ることもなく。

「よしっ、壁の補強終了! 次に行こう!」
「応!」
「………」

 勢いもなく、ただ静かに降り続ける雨の下、今日も警備隊という名の雑用係が街をゆく。凪と真桜と沙和には別区画に走ってもらっているため、俺と一緒に居るのは華雄と思春だった。
 どうして雨の日にこんなことをやっているのかといえば……思い返したくもないんだが、昨夜起こった騒ぎが原因だったりする。




-_-/回想

 カロカロと墨が乾いた竹簡を巻き、山を構築する材料としてまたひとつ積み上げる。
 本日曇天。
 朝から続く少し湿った空気は、天に居た頃の何処か懐かしい空気を思い出させてくれる。
 天に居た頃は、雨が降る度にだるく思っていたというのに、今では少し楽しみではある。
 それというのも……アスファルトは無いものの、雨が降ったあとの空気はどの世界でもそう変わらないからだ。
 澄んでいると言えばいいのか、それとも匂いが似ていると言えばいいのか。
 そりゃあこの世界ほど落ち着いた空気は無かったのかもしれないが、緑に囲まれたプレハブ小屋で目覚めた雨天の朝なんて、窓を開ければこんな匂いに包まれたもんだ。
 だからだろう。雨の日は静かに天のことを思い出す。
 晴天も晴天でいいけど、たまにはこんな日があってもいい。そう思えるのだ。

「よし、っと」

 日が落ち、暗くなり始めている今日という日の今、散々騒いだデザートパーティーを昨日という過去にして、現在は蓮華とともに勉強中。王になったばかりの彼女と支柱になったばかりの俺とで、これからのこと勉強しているわけだ。

「ん、んー……? 朱里、ここなんだけど」
「はい、なんでしょう」

 先生は朱里。
 知力100の頭脳を生かし、質問をしてみればスパッと答える小さな先生だ。

「ああ、これはですね。元々この邑の周りには水が豊富でして、それを知らずに居た者が苔がびっしりと生えた山の壁を掘ったのが始まりでして───」

 どこそこの邑では良い作物が取れる理由とか、小さな邑のことまで事細かに教えてくれる。歴史込みで。 

「へええ……そういうのってやっぱり調べて解るものなのか?」
「はい。何かあった時に備えて、知っておいて損をすることなんてありませんから。魏のことや呉のことも、きちんと許可を得てから見てもいいものだけを見せてもらったりしています」

 ほああ……感心するほど勉強家だ。
 読書が好きで、しかも物覚えがいいからこそ出来ることなんだろうな。
 俺もこの世界の歴史を知るのは、以前は別としても今では割りと好きだったりする。好んで読もうとは思わないが、こうして必要だからとどっしり腰を下ろして読むのは嫌いじゃない。
 そもそも三国志には割りと興味があったし、その知識だけなら及川よりはあった。
 ……もっとも、“この世界の知識”とソレとでは明らかな違いがあるわけだが。

(男だと思ってた英傑が女で、歴史はバラバラ。死ぬ筈の人が死ななくて、今も元気に笑ってる)

 一言で言ってしまえば不思議な世界。
 そんな世界にあって、孫策も周瑜も失わなかった国の王をちらりと見る。
 ……熱心に勉強をしている。
 ともに学ぼうと誘われたときは驚いたけど……熱心だなぁ。
 よし、俺も負けてられないな。
 気を引き締める意味も兼ねて、少し肩をほぐしながら姿勢を正す。
 机に向かい、気持ちも新たに筆を取ると……朱里が少し遠慮がちに声をかけてきた。

「あ、あのですね、一刀さん」
「ん? どうかしたか? 朱里ヒィ!?」

 机に向けていた視線を朱里に向ける───と、そこには恥ずかしそうに、かつ遠慮がちに突き出された一冊の書物。“朱里+書物=アハンなアレ”という方程式を瞬時に構築してしまった俺は、思わず悲鳴にも似た……いや、悲鳴をあげてしまった。
 だだだ大丈夫! 朱里だからってそんな書物とは限らないだろ!? 大体、見るときは絶対に雛里も一緒にって決めてるみたいだし! な!? そうだよな、朱里!

「え……て、天の……知識───序?」

 突き出された書物にはそう書かれていた。
 「ひゃ、ひゃいっ」と返す朱里に続けて訊ねてみれば、なんでもこれは俺が学校で“基礎として教えていた知識”を纏めた……いわば教科書のようなものなのだという。試しに見せてもらえば、俺が教えるのよりもよっぽど効率のいいやり方で、基礎から応用までのことが書かれていた。

(じいちゃん……知力100ってすげぇ)

 解り易いといっても答えがそのまま書いてあるわけでもなく、きちんと考えなきゃ解らないもの。答えを知っているからこそ納得出来る解り易さであり、つまりそのー……

(ふふ……儂に教えられるものなぞ、もはや何もないわ……)

 ……と、無駄に悟った老人っぽく言いたくなるほどの出来だった。
 普通に教科書として売れるレベルなんじゃないだろうか。

「ど、どどどどうでしょうかっ」
「や、どうって」

 それを俺に訊きますか。
 俺からしてみれば満点だってこれ。

「十分すぎるよ。これなら覚え易いし学びやすい」
「はわっ!? ほほほほんとですかっ!?」
「ん。むしろ売りに出してもいいくらい───……って、“序”?」

 “天の知識・序”……書物にはそう書かれていた。
 “序ってことは続きがあるのか?”……そう目で問うてみれば、どうしてか期待を込めた瞳を返された。まるで“それで終わりじゃないんですよねっ?”と、俺にこそ訊いているように。
 なるほど、確かに俺が学校に残した知識は小学校低学年で覚えるものばっかりだ。
 となれば、勉強熱心であればあるほど先が気になりもするんだろう。
 でもね、朱里さん。最初になにかためになることを教えられたからって、天のことならなんでも知ってるわけじゃないんだぞー……? そりゃ確かに勉強した。したけど、ほぼこの世界のためになること中心だったから、なんといえばいいか。
 学んだのは今まで手を出していなかった分野ばかりだったからなぁ。
 それらでいいなら喜んで教えられる……ん? 教え……あ、なんだ、それでいいんじゃないか。それはおかしいと感じれば、朱里や雛里、冥琳や穏、風や稟なら間違い無く言ってくれる。桂花は否定しかしないだろうから除外するとしても。

「じゃあ、それはおかしいって感じたら容赦なく言ってくれ。俺自身も図書館の本とか授業で習ったものだから、どこがどうおかしいのかには興味がある」
「ふぇっ? でででしゅがっ、そのっ」
「天の知識だからってなんでも正しいわけじゃないって。むしろ俺、そういう知識が否定されるところを見てみたくはある」

 俺が産まれた時から“それはそういうものだ”と決まっていた事柄。
 それが過去にまで遡った場所に居る人の知識で覆されるかもしれない。
 そういうのって、知識を残してくれた人には失礼かもだけど、楽しそうだ。

「……? 天の知識も完全ではない、ということ?」

 教科書に載っていた偉人の顔を思い出しながら、くすりと笑っていた俺へと言葉を放つ蓮華。考える必要もなく、完全ではない。

「確かに固定されて考えられてる物事が多すぎて忘れがちだけどさ。残された知識を使ってさらに考えるのが人間なら、知識を残してくれたのも同じ人間なんだよな。だから当然間違いもあるし、何度か過去の知識が新しい知識で覆された例もあるんだ」
「それは……ええ、それはどこでも一緒でしょう? 呉は歴史を重んじる場ではあるけど、冥琳や穏が否定した過去の知識なんてたくさんあるわ」
「だろうね……」

 あの二人が相手では、過去の偉人も形無しだ。
 それは華琳だって一緒だよな……孫子を綺麗に纏めたのも“曹操”だっていうしなぁ。

(孫子が成立する以前の“勝負は天運である”って意識なんて、この世界のみんなは軽々と覆しまくっていた気がするんだが……その時点で、成立させた知識なんて形無しだったのかもしれないよな……)

 この時代の人ってすごい。
 改めて思うこと───でもないか。ことあるごとに思い知らされてることじゃないか。

「確かに知識はたくさんあるんだけどさ。その知識も積み重なりすぎると、根底を覆すのが難しいんだ。えぇっと、べつに難しい理屈が必要ってことじゃなくてさ」
「えっと……知識自身ではなく、その知識を正であると思った人に理解させるのが、ですか?」
「そう、それ───って、朱里……」
「え? はわっ!? ち、違いましたかっ!?」

 そうじゃなくて……いきなり解るのもどうかと思う。
 話が早くていいけどさ。

「いや、合ってる。そうなんだ。知識で書物に訂正を言い放つのは楽だよ。知識が無くても乱丁本を探せば誰にだって出来るし。でもそういう意味じゃなくて……」
「かつてはその書物に知識を貰い、学んだとしても、その途中で矛盾があることに気づく。そういうことでしょう? 穏が言っていたわ」
「うん」

 信じているものほど壊れやすい。
 ただ、間違いであることを、自分が間違ったことを学んでいたことを否定したいからこそそれが間違いであることこそを否定する。
 最近覚えたばかりのことが間違いだと気づいて、学び直すならまだいいんだ。
 それが自分の生きる糧であり意味だった場合は、それこそ命懸けで否定に走るだろう。
 天の国……俺の時代では、命懸けでとは言わないまでも、負けず嫌いが多いから否定をし続ける。本当は間違いだって解っているのに、そうではないと否定したがる。
 そんなのは俺だって同じで、俺がこの世界でやってきたことが無意味だ、なんて言われたら否定を続けるだろう。それが間違っているかどうかなんてのは誰にだって解らないのかもしれないが、もし間違いだなんて言われたら……

(……命、懸けられるのかな)

 胸に手を当てて訊いてみた。
 返事は、“命懸けなんて言葉はその時に使え”だった。
 そりゃそっか。

「一刀は……その、どう? 固定された考え方に囚われたりしていない?」
「俺? 俺は───」

 考えてみる。
 言った本人である蓮華も同じく考える様子を見せ、小さく頭を振る。
 俺は…………俺も、頭を振った。

「天とここ、行ったり来たりをしてみるとさ、いろいろと考えさせられるんだ。何が合っていて何が間違っているのか。答えは自分の中にある〜なんて言葉がよく天では使われるんだけど、実際そうなんだ。答えを出すのは自分だ。散々と華琳に相談持ちかけてる俺が言えることじゃないけどさ、自分がこれだって決めて歩かなきゃ、それはただ人の所為にして生きてるだけなんだもんな」
「自分で…………、人の所為に……」
「………」

 言葉を探してみる。
 自分はどんなことをこの世界と天とで学び、どんな言葉を胸に刻んできたのかを。
 刻んだ覚悟の分だけ、探せる言葉がきっとあると、胸に手を当てて。
 “俺の答え”は───

「固定された考えももちろんある。それは譲れない俺の芯だ。固定されないものは───まだ学んでいる途中のたくさんのこと……かな」

 言ってしまえばまだまだヒヨッコ。
 俺がこれから生きていく中で学ぶことなんて、今の俺の中にある知識の倍を数えたって足りやしないし、これからも増えていくのだ。
 ここでこれはこうであるべきだなんて思わず、学べることはいくらでも学ぼう。
 ……って、そうか。だから華琳も“どれだけでも、何度だって”って。

(……ほんと、敵わない)

 “俺よりも俺のことを知っているんじゃなかろうか”とか普通に思わせる人だ。
 たまに、そんな人が自分を所有物とか言う意味を疑問に感じてしまう。
 感じてしまうだけで、好きなことには変わりがないのだから、その“たまに”がやるせなく感じることがあるわけでして。

(………)

 軽く華琳の顔を思い浮かべてみた。
 呆れる顔、訝しむ顔、怒った顔に見下す顔…………普通の顔。
 なんで普通の顔が後になってから出るのかは、恐らく目にした頻度によるのだろう。
 で、驚いた顔に照れた顔……その、痛がる顔に、………………涙した顔。
 一番最後に胸にずきりとくるのが思い浮かんだ。
 そりゃそうだ、言葉で泣かせたのなんてあれが初めてだ。
 試しにやったとはいえ、あれは罪悪感が異常だった。

「? か、一刀? 急に頭を振ってどうしたの?」
「い、いや、ひどい罪悪感がっ……!」

 正面きって覇王を泣かせたのなんて俺くらいだろう。
 あの事実は絶対に口外せず、墓まで持っていくと今誓おう。
 バレれば桂花や春蘭秋蘭に殺されるとかそういう理由ではなく、俺個人の秘密として。

「つ、続きしよう続きっ! あぁもう俺今すっごい勉強したいなぁーーははははは!!」
「あ、あのー……一刀さん?」

 人間、秘密だと認識すると、妙に重いものを背負った気持ちになります。
 でもこれが重荷だとは思いたくない。なので胸をノック。
 華琳と、彼女の武器である絶に染み付いた己の血を思い、胸に刻んだ。 
 すると不思議なくらいに動揺が治まる。

「……ん。じゃあ朱里、授業のことで気になること、言ってみて。答えられる範囲で天の勉強のこと、教えていくから」
「はわっ、は、はいっ」

 治まったのなら勉強勉強。
 頭を整理して、朱里から投げ掛けられる質問に出来るだけ答えて、自分自身の勉強も進めてゆく。
 一気にいろいろな刺激が頭に叩き込まれるが、なんとか無理矢理押し込めるように。

(聖徳太子ってすごい)

 ───そんな感想も過去においやって、やがてとっぷりと夜。
 勉強も随分と進んだものの、休憩を混ぜたとはいえ少し体が強張っていた。
 そんな体をぐぅっと伸ばしてみると、硬くなっていた体が気持ちよくリラックスするのを感じる。

(……鍛錬したいな)

 結局まだお許しは出ていない。
 華琳が戻るまで禁止ってことになってたけど、じゃあ今すぐやってもいいのかといったらそういうことでもないのだ。
 そりゃあ柔軟運動くらいはやっている。やらなきゃ固まるからやっているが、やるとこう……自然と体が“いつでもこいっ!”といった感じに構えてしまうわけで。
 構えている体に“今日はやらないんだよ……”と告げても、一年を鍛錬で過ごし、この世界に戻ってからもあちこちで鍛錬付けになった体は、そんな言葉を聞きやしない。

(だからこう、疼くっていうか)

 激しい運動がしたい。
 何日か続いている、疲れを知らない日々ではこの体はもうダメなのだ。
 たまには発散してやらないと、体も心もまいってしまう。

(……なにか起こらないかなぁ。こう、体を動かすことが自然と許可されるようなこと)

 …………。
 願っても起こるものじゃないし、そもそも不謹慎だった。


───……。


 少しして、蓮華も朱里も戻っていった。
 自然と自室であるそこに残された俺は、部屋の中心で小さく息を吐く。
 ちらりと見れば、バッグの上に寝かされた竹刀袋。
 うずりと心惹かれるままに近付き、それを氣の篭らぬ手で持ち上げてみれば、スッと感じる、もはや体の一部とも受け取れる心地良い重み。
 自然と顔が緩むのを感じて、「マテ、俺はどこの鍛錬マニアだ」と気を取り戻す。

「……た、鍛錬じゃない、鍛錬じゃない〜……振るだけ、ちょっと振るだけだから〜……」

 竹刀袋の紐を解く。
 しゅるりと緩むソレとともに頬が緩み、それに気づくや頬を引き締め、深呼吸を繰り返してから……いざ、黒檀木刀を《コンコン》

「はいぃいーーーーーっ!!?」

 ───突如聞こえたノックに素っ頓狂な声を出して、自分でも驚くほどの速度で紐をキュッと結んで竹刀袋をバッグの上に! そして氣を練って足音を殺して即座に机に座ってさぁカムイン!!

「む? のう主様? かむいんとはなんじゃ?」

 おそるおそる扉を開けて入ってきたのは美羽だった。
 もう夜だし、寝に来たのだろう。

「い、いやっ……“どうぞ入ってくれ”って意味……だといいなぁ」

 それだけ焦っていた証拠なのだろうが、どうしてそんなことを言ったのかが解らない。
 焦ったために乱れた呼吸を正して、ふぅと息を吐くのと同時に氣も鎮める。

「美羽、もう歌の練習は終わったのか?」
「うむっ、主様にも聞いてもらいたかったのじゃ。妾の美声を」

 芝居がかった動作で手を振り上げ、小さく「あ〜♪」と喉を震わせる。
 なるほど、いい声だ。

「七乃は相変わらずか」
「主様が弾ければ、ここで練習出来るのにの」
「はは……ごめんな」

 宴で歌を披露して以降、美羽は七乃と一緒に歌の練習をしている。
 俺の演奏では練習にならないのが第一の理由と、前に張三姉妹と話したように老人の層を狙う算段でもある。
 自分で仕事が出来れば俺の役に立てるに違いないと、美羽も俄然やる気だ。
 ……そのやる気が空回りしなければいいけど、今は中々安定しているようだ。

「あのけーたい、とかいうのは使えぬのかの?」
「残量が少なくなったところでこの曇天だからなぁ……もうちょっと晴れてくれればまた動かせるよ」
「陽の光で動くなど、面妖なものよの……」

 ねだられ、はいと渡した携帯電話を手にしてシゲシゲ見つめる。
 そのうちにパカッと開き、多少のバッテリーが残っているそれをいじくる。
 あまり滅茶苦茶押すなとは言ってあるから壊されることはないとは思うが……不安だ。

「……のう主様?」
「ん? どうした?」
「この中に誰ぞ入っておるのじゃ」
「へ?」

 見せてくる画面には、及川の姿。
 ……ああ、画像BOX開いたのか。

「それは写真っていって、あー……絵みたいなもんだよ」
「絵じゃと!? これは絵なのか!? ほぉおお……主様はすごいの……!」
「え? いや」

 言いながらもカチカチと適当に触る美羽。
 それはいつか、華琳がそうしていた様子を思い出させ、俺に止めるという選択肢を無くさせた。……いや、止めたほうがいいんだろうけどさ。ああもう、華琳のことになるとどうしてこう……。

「ひょわっ!? わ、わわわ妾じゃ! 妾がおるのじゃ!」

 で、適当に押しているうちに辿り着いたのか、自分の寝顔写真を見て盛大に驚いた。
 美羽は眠る自分の姿を初めて見たのか、ほおお……と食い入るよう見ている。
 ……そりゃそうか、この時代で寝てる自分を見ることなんて不可能だ。なるほどーと一人で納得しながら、興奮気味に様々な角度から自分の寝顔を見る美羽を眺める。
 楽しそうでなりよりだーと思う中、思春や華琳の寝顔は無視なのかと苦笑を漏らす。
 なにか感想があってもよさそうなのにな。

「主様は絵が達者なのじゃな」
「言いそびれたけど、それは絵であって絵じゃないっていうか……とりあえず描いたのは俺じゃない。その機械がやってくれるんだ」
「なんじゃとーーーっ!? お、おおお……! これはそんなに凄いものじゃったのか……!」

 小さな機械に改めて驚く美羽を微笑ましく眺めるが、それこそ改めて考えると凄いものだよな、携帯電話。当然のようにあるから興味って意識が薄れるけど、いったいどうしたらああいうものを創れるところまでいけるんだか。

「これがあればきっとなんでも出来るのじゃな!」
「出来ません」
「あの冷たいやつもきっと倒せるのじゃ!」
「冷たいやつ? ……あ」

 そういえば、結局アレの正体は解らず終いだったんだよな。
 なんなんだろうな、アレ。

「街は連日お祭り騒ぎ。問題起こしてお祭りを中止にさせないためにって、みんなが注意してくれるのはいいんだけど……もしその冷たい女が街に現れたらって考えると、ちょっと笑えないよな」
「顔も見れなんだしの……」

 冷たい女がなんなのか。
 雨が降ったわけでもないのに冷たい体をしている……理由は外にずっと居た〜とかで片付けられるんだろうけど、じゃあそこまで外に居る理由はって訊かれたら解らない。
 大体、城にも入れる存在で夜に徘徊する人、しかも声をかけても返事もしない人なんて想像もつかな───……恋? いや待て、美羽が見つけた時にはまだ恋は到着してなかっただろ。
 じゃあ幽霊……触れたっていうしなぁ、じゃあ質量を持った霊!?
 ……少し冷静になろうな、俺。

「うーん……なぁ美羽」
「ほわ? なんじゃなんじゃっ? 妾に何か用かのっ♪」

 用事を向けられることが嬉しいのか、姿勢を正してまで俺に向き直る美羽さん。
 ……これがあの袁術だっていうんだから……何度見ても戸惑いを隠せない。
 っと、それよりもだ。

「今日、ちょっと待ち伏せしてみようと思うんだ。美羽はどうする?」
「まちぶせ? 何をじゃ?」
「もちろん、冷たい女」
「ひうっ!? ぬ、ぬぬぬ主様は正気なのかっ!? あのような得体の知れぬ者を待ち伏せるなどっ!」
「確かに得体は知れないけどさ、正体が解らないとずっと気になったままだろ? 街でも発見報告があるんだし、民の悩みの解決にも繋がる。せっかくの祭りなのに、そんな気分で騒いでちゃ気分も冷めるよ」
「うみゅううぅぅぅ……」

 へにょへにょとしぼんでゆく。
 部屋に入った時の勢いは、既に何処にもないようだった。
 そんな美羽の頭を撫でて、大事な仕事を言い渡す。それはもちろん部屋を守ること。

「うみゅ……解ったのじゃ」
「いいか? 鍵をかけて、誰も入れないようにするんだぞ? で、誰かが来たらまず、合言葉は? って訊ねる」
「あ、合言葉……?」
「ああ。で、大体は答えられないか適当に答えるか、“遊んでいないで開けなさい”って怒るかのどれかだと思うから」
「…………最後が誰なのか、どうしてか解るの……」
「はは、まあこれはまずないだろうから。合言葉の答えは……そうだな、“アフロと軍───”ゲフッ! ゴフッ! ほ、他のにしような。じゃあ……」

 美羽に耳を貸してと促して、そっと口にする。
 それを聞いて、こくこくと頷く美羽の顔は真剣そのものだ。

「う、うむ。答えられぬ者や間違った者は入れてはならぬのじゃな?」
「ああ。じゃあ、頼んだぞ?」
「うむっ! …………うむ? のう主様? よもやもう行く……のかの?」
「え? あー……」

 寝るにしては少しだけ早く、眠りについた人もまだ少なそうだ。とはいえ何もせずに待っているのも時間がもったいない気がする。
 仮眠を取るにしても起きれる自信が無いし、アラーム機能をつけて寝たところで、恐らく途中でバッテリー切れになる。

「美羽、ちょっといいか?」
「うみゅ? おお、これじゃな」

 美羽の手の中の携帯電話をひょいと取って見てみれば、いつの間にかバッテリーは切れていた。……アラーム作戦、する気もなかったけど却下状態。
 となれば、みんなが寝静まるあたりまでは……

「よし美羽、久しぶりに話でもするか」
「……怖い話は無しなのじゃ」
「ああ、解ってる。じゃあ着替えような」
「うむっ」

 美羽が着替えを始める中、俺は後ろを向いてこれからのことをメモに書いてゆく。
 とりあえず話をして美羽を寝かせて……服は制服のままでいいだろう。むしろこれじゃないと俺が不審者として見られそうだ。
 で、城を見て回ったら街にも行ってみて、と。

(報告があったのは街からだけで、城の中で見たのは美羽だけなんだよな)

 となると、街での発見例のほうが多いのだろう。
 なんだか予想がつく気もするが、だからって最初から疑うのは違う。
 現場を押さえた上で、実際にそうであったのならじっくり訊くとしよう。


───……。


 ……。

「昔々あるところに、一人の少女が居ました」
「……? のう主様? 気になっておったのじゃがの、あるところ〜とはどこじゃ?」
「天の何処かに存在すると言われる伝説の地、“アルト=コロ”だ。そこにはおじいさんやおばあさんはおろか、童話の元となる様々な人々が存在していると言われている」
「おお……そこは一つの国なのかの?」
「ああ。王様は裸の王様で、姫様は白雪姫を始めとした何人か。海には人魚姫という娘まで居るんだ」
「王様は随分と子沢山なのじゃの」
「俺も話しながらそう思ったよ……」

 もちろん作り話なのだから、遠慮もせずに誇張する。
 そうして話す世界が、少しずつ美羽の中で広がっていく。
 昔話は既に一つの世界となって構築され、国の名前はアルト=コロ。王は裸の王様で、娘や息子が王女や王子をやっていて、お菓子が動いたり人形が動いたり、隣国の悪い女王が毒入りりんごを手に悪巧みをしたりと忙しい。

「“あると=ころ”では、猫が靴を履いて戦うのか……! すごいのじゃあぁ……!」

 そして感心される長靴を履いた猫。
 あれ、ゲームにもなったりしたけど、話の内容って案外ひどかった……よな?
 童話は一方が無惨だったりするから、いくら悪いことをしたとしても冷静になると辛い部分がある。
 ともあれ、話を続ける。
 今日も思いつく限りの捻じ曲がった話を聞かせて、自分自身でもどこまで話が広がるのかを半ば楽しみにしながら、適当に繋ぎ合わせた話が夜中あたりまで続いた。
 そして……微かな話し声も人の気配も無くなった頃。

「くー……すー……」

 眠気に抗っていた美羽は静かに寝息を立てていた。
 冷たい女に気取られないために、燭台の火はとっくに消してある。
 そんな中での昔話は結構面白いもので、修学旅行などの夜を嫌でも思い出させた。

「よし……っと」

 静かに寝息を立てる美羽の頭をさらりと撫でて立ち上がる。
 一応木刀も手にして、気配を殺しながら外へ───って、あれ?

(しまった)

 美羽が寝てたら鍵も閉められないし合言葉も意味が無い。
 そんなことに今さら気がついて、自分も大分緊張していたんだなぁと、さらに今さら自覚する。
 ……大丈夫か? まあ、俺の部屋に侵入するヤツなんて早々居ないだろうし、居たとしても籠にナマモノをたくさん詰めたどこぞの軍師様くらいだろう。
 こくりと自分を安心させるために頷いてから歩く。
 扉を開けて、まずは通路の先の見張りの兵に軽く声をかけてと。

「北郷隊長? どちらへ?」
「眠れなくてさ、ちょっと散歩がてらに体を動かしに」
「ああ、それで木刀を。お気をつけて。その、あまり大きな騒ぎを起こさないでくれると助かります」
「いや、ははっ……それはもちろん」

 お互いに苦笑してから別れ、通路の先へ。
 なんだかんだとみんなに振り回される俺を知っているからこその苦笑。
 で、騒ぎを起こせば迷惑被るのは兵だって同じであり、俺が振り回される事態でも迷惑のいくつかを被っているだろう。
 それでも苦笑で済ませられるのは、好きで振り回されているわけじゃないからと解っているから……なのだろうか。

(違うか)

 なんだかんだで、友達感覚に近いのだろう。
 顔を合わせればお互い愚痴ることもあるし笑うこともある。
 サボって買い食いすることだって───…………

「………」

 いつかそうして一緒に笑っていた兵のことを思い出す。
 あの日買い食いした桃が美味しかった。美味しければ美味しいほど、桃を見るたびに思い出す。

(……俺、少しは前より国のために生きることが出来てるかな)

 もはや話すことも出来ない彼を思い、心の中で呟いた。
 返事なんて当然ないけど、自分の思い出の中のあいつは最後まで笑顔だったから、俺も笑って歩くことにした。


───……。


 城を歩き回っても不審なものなど何も無い。
 美羽が見たという場所に行ったところで何も無く、巡回している兵を何人か見つけるだけだ。
 そんなみんなと軽く挨拶をしながら擦れ違い、やがて城の見回りを終える。

(会おうと思って会えるものでもないよな、やっぱり)

 溜め息ひとつ、ならばと街へ向かおうとするも───さすがに門番である兵に止められる。さすがに外に体を動かしに〜なんて言い訳が通るわけもなく。

「ほら、裏通りの壁、壊れてる部分があっただろ? その視察に……」
「こんな夜にですか?」
「夜だからこそだよ。誰かが穴を広げたりしてるかもしれないだろ?」
「む……」

 咄嗟だったけど、思い出したことを口にする。
 壁をどうするかってことは話し合ったことがあったし、穴のことはむしろ兵の方が知っているくらいだろう。

「解りました。北郷様にはいろいろとお世話になっておりますし。ただ、危険なことは避けていただきたい」
「当たり前だって。俺だってそんな、自分から危険に飛び込むようなこと、したくもない」
「では今回のことは?」
「……視察ってことで」
「……はぁ」

 やっぱり苦笑で見送られた。
 結局兵も解っているのだろう、木刀持って外に出る理由なんて、ここ最近ではそれくらいしか理由が追いつかない。
 兵の中にも冷たい女を見た者は居るのだろう。
 ただ、それを上に報告するのはどうかと見送った……か?

(なんにせよ、これで見つけられるのが一番だな)

 見つけた先でどうするのかは、正直自分でもよく解っていない。
 会って話をするのか、それとも話すら出来ない存在なのか。
 そもそも発見することが出来るのか否か───……って。

「………」

 こしこしと目をこする。
 で、改めて前方を見る。
 …………なんか、ぎっしょんぎっしょんと歩いてる物体を確認した。

「…………アレ?」

 え? あの……えぇっ!?
 あれって……あれぇ!?

「………」

 …………。

「ハッ!?」

 あ、あまりの出来事に本気で放心しかけた!
 あれ……あれだよな?
 確かに暗がりでちょっと解り辛いけど、道のド真ん中をぎっしょんぎっしょんと歩いてる…………その、歩き方がまるで、テレビとかで見るような人型の機械の動き方。
 それを見るだけであれが生き物ではないと解ったし、機械に近いものといえば……この国、もといこの世界では一人しか居ないわけで。

「………」

 無言で歩いて、無言でソレの前に回り込み、無言でその顔を見た。
 ……華琳が居た。ただし表情は変わらないまま、ぎっしょんぎっしょんと歩いている。
 どうしよう、頭がとっても痛いんだが。

「見ぃいいたぁああなあぁあ〜〜〜……!!」

 で、正体を見たら現れる黒幕さん。
 区画ごとの脇道からゾロォ……と現れたのは、我らが魏武の大剣さまと、絡繰技師さんだった。

「いや……二人ともなにやってるのさ……」

 呆れとともにモシャアアアアと吐き出される溜め息が、そのまま言葉となった。
 だというのに真桜は仲間を得たって顔でにししと笑うと、

「んっへっへ〜、見られたからには隊長にも協力してもらわんとな〜♪」

 笑顔のままにそんなことを仰った。
 こんな時間にこんなところでとかそんな言葉は一切抜きで、仲間に引き込もうとしていらっしゃる。しかも真桜の言葉を聞いた春蘭が真顔で仰られた。

「なに? 斬り捨てるんじゃないのか?」

 と。っていやいやいや!!

「見た相手誰も彼もを斬り捨てる気でこんなことをやってたのか!?」
「なにぃ!? こんなこととはなんだこんなこととは!」

 じょ……状況は、解った。多分。なんとなく。
 何がやりたかったのかもなんとなく。
 この二人が犯人で、冷たい女がコレなのだという考えもなんとなく。

「……華琳に報告《ヒタリ》ヒィ!?」
「させると思うか?」
「た〜いちょ♪ こうなったら隊長も仲間や。今、春蘭様が新たに作った型をもとに、絡繰華琳様を作っとるんよ。似てるだけやない、きちんと動く華琳様人形! 最初は適当に動くだけで満足やってんけど……ほら、隊長が言った“氣動自転車”? あれの構造聞いてから“もう我慢できん!”てなってなー……」

 ニヤリと笑む春蘭に剣の腹で頬を撫でられ、にこりと笑う真桜に説明される。
 まさか氣動自転車の話がこんなところで利用されているとは……!

「え……じゃあこの人形、氣で動いてるのか……? つか春蘭、剣どけて」
「せやでー? ウチの氣ぃで動いとんのやけど……どうにもこう、キレが悪いんよ。動くには動くねんけど……な〜にが足らんねやろなぁ……」

 ふんと吐き捨てて剣を納めてくれる春蘭を前に、ちらりとまだ歩く絡繰華琳様を見る。
 なるほど、今まで民や美羽が見てきたものは、その試運転中だったってことか。

「氣で動くのは解ったけど、直線に歩くだけか?」
「さすがに人のように精密に動いたりできんなぁ。ん、そこはこれからの課題やな。で、隊長にちぃ〜っとばかし相談があるねんけど〜……」
「金なら出さないぞ」
「金とちゃう。や、そら金も欲しいけど……こう、な? 御遣い様の氣で動かしてみてほしいんよ」
「………」

 俺の氣で? 絡繰華琳様を?

「ちょっと待った。それって協力した時点で、もし華琳に見つかったら───」
「当然隊長も捕まるなぁ」
「実家に帰らせていただきます《がしぃ!》離せぇえーーーーっ!!」
「たぁあいちょ〜〜〜っ、ええや〜〜〜ん、ちょっと、な? ちょぉっとだけやから〜」
「ちょっともたくさんも関係あるかっ! 協力した時点で共犯なら、俺は絶対に協力しないぞ!?」

 そんな、俺の氣で華琳が動くだなんて……………………ちょ、ちょっといいかもとか思ってないぞ!? ほんとだぞ!?
 とにかく目立った行動をして、また鍛錬禁止とか言われたらいろいろと耐えられない! ただでさえ日々いろいろと溜まってるのに、体が動かせなくなるなんて拷問もいいところだ!

「なら氣動自転車作ったらへんもん」
「うぐっ───」

 まるで霞みたいな物言いで、つんとそっぽを向く。
 あればきっといろいろと楽になるであろう氣動自転車。氣で動かせるという素晴らしき乗り物。思いついた時は心が躍ったが、その計画がパアになるかもしれない。
 だがっ……でもっ、ああしかしっ……!

「あ、あー……春蘭じゃだめなのか?」
「せやから、御遣い様の氣ぃでのことを調べてみたいんやって。華佗の兄さんに聞いてんけど、隊長の氣ってウチらとちぃと違うんやろ? それを込めたらどんな反応が見れんのか、それが気になってなー……そんなわけで、な? えーやろー?」
「………」

 一歩を踏み出せば共犯。
 とはいえ、逃げる方向には何故か春蘭がズチャリと立ち塞がって不敵な笑みを浮かべている。ええはい、逃げ道はとっくに塞がれているわけですが。むしろ来いとばかりに右手一つで大剣担いで左手で挑発してらっしゃる。
 ……選択肢はないようだった。

「はぁ……解ったよ。ただし氣を込めるだけだからな? 何かが起こっても知らないぞ」
「おおー! おーきになーたいちょー! あいしてるでー!」
「調子いいよなぁお前……」

 棒読みのようにも聞こえたけど、月明かりの下でも解るくらいに顔は赤かった。
 そんな笑みや言葉に多少は報いるためにも、いっちょ気合いを入れてみましょう。

「で、どうやって入れればいいんだ?」
「まず両手を構えて、絡繰華琳様の胸を鷲掴んで《ずびしぃっ!》あだっ!?」
「ど・う・や・っ・て、入れればいいんだ?」
「ううー……隊長のいけずー……ほんの冗談やーん……」

 とりあえずデコピンしておいた。
 あんまりにもニシニシと笑うもんだから、すぐにウソだと理解した。
 そんなわけで教えてもらう。
 ……結構単純らしく、手を握って氣を送り込めばそれでいいんだそうだ。

「隊長は木刀にも氣ぃ込めたり出来るから、これも楽勝やろ」
「どうだろな。……んっ……」

 集中。
 自分の中で練った氣を、握った手を通じて絡繰華琳様に流してゆく。
 が……なんだか思うように入っていかない。

「んー……隊長、ちゃんと流しとる? ちぃとも動かへんやん」
「流してるって。でも……なんだろ、思うように流れていかない」
「ええいなにをやっているっ、そんなものはこう、ガーーッとやってドバーーッとだな!」
「その効果音でなにをしろと!?」

 ガーっとやってドバーっとって言われてもな。
 あ、あー……とにかく集中しよう。

「───……」

 さらに集中。
 繋いだ手を自分のものって意識を高めて、中々思うように流れない氣を……流すのではなく絡繰自体を包むように。それから少しずつじわじわと染み込ませるようにして…………う、うう? なんだ? やっぱり上手くいかない。
 真桜もなんだかじれったそうに「隊長〜」と言ってる。
 言ってるんだが、それは俺だって同じ気持ちだ。
 もっとすんなりいけると思ったんだけどな。

「木刀と同じ感覚でやるからいけないのか? じゃあ───」

 いろいろと試してみるんだが、やっぱり上手く流れない。
 試しに真桜にやってみてもらうんだが、あっさりと流れて絡繰華琳様はギシシ……と動いた。つまり流れる状態にあるのは間違い無い。

「……氣が足りないのかもしれないな。よし、じゃあ全力でやってみよう」
「おっ、隊長もなんのかんのとやる気なんやないの〜」
「ここまで来て自分だけ出来ないのって、負けた気がしてなんかヤなんだよ」

 細かいことでも負けないようにと決めた。
 だったらここで動かしてこそ、負けにはならないのだと知れ! 北郷一刀!
 動かす……絶対に!

「覚悟───完了!」

 こんなことに覚悟決めてどうするんだって話だが、譲れないものを譲れぬと断ずるならば、たとえくだらないことだろうと全力で取り組む! それがじいちゃんの教えだ!

「錬氣、解放!!」

 今自分に出せる氣を全力で解放。
 両手に込めたそれを、繋いだ絡繰華琳様の手を握ることで準備を終え、流す行為と練成する行為を同時に行う。流れていこうとしなかろうが無視して、流れない分で絡繰を包み、染み込ませるようにして氣を浸透させてゆく。いっそ、次々と練成する氣で氣が染み込まない場所をとことんまでに潰していくように。

「───〜〜〜っ……!!」

 それでも中々流れない。
 ムキになって錬氣を続けるんだが、そろそろ疲れてきた。
 どうしてこう上手くいかないのかを考えてみて、いつかの冥琳のことを思い出す。

(あ)

 そうだ。
 これが氣で動くものなら、動く要素に似せた氣を入れてあげなきゃいけない。
 自分以外の氣なんて、治癒能力を高めてやるものでもない限りは毒にしかならないのだから。それはきっと、無機物だって同じなのだ。
 ならばと包んでいる氣で絡繰華琳様を探り、どんな氣が合うのかを知ろうとする。
 解らないなら知る努力を。
 単純だけど、大事なことだ。

「───」

 最初に感じたのは真桜の氣の残り。
 そして、真桜の氣が流れ込んだであろう氣を溜めているであろう場所。
 そこに触れるように意識して、流すのではなく受け取ってもらうつもりで《キュボッ!》

「《ガクッ》う、おおあっ!?」

 蓄積されていた氣の全てが一気に流れた。
 絡繰華琳様を包んでいた氣も同じで、本当に一気に。急に氣を持っていかれた途端に膝が笑い、持ち直そうと意識した時には片膝をついていた。……絡繰華琳様の手を掴んだままに。
 それはまるで、王の手を取って跪くどこぞの騎士のようだった。
 いや、あくまで格好だけで言えばだが。

「おおおっ! 流れたっ! さ〜あ絡繰の大将っ、どないな反応見せてくれるんっ!?」

 すぐに錬氣を始めて、少しずつ持ち直す過程で絡繰華琳様から手を離す……と、体が自然と尻餅をついた。
 俺は絡繰華琳様を見上げる格好になり、現状として見上げる彼女(?)はといえば……
 ガガガガショッ、ガガガガガッ……と震えだし、うっすらと笑みを浮かべた表情のままに頭をがっくんがっくんと前後に振り出して───って怖ッ!! 表情が表情なだけに怖ッ!!

「まままままま真桜!? まおっ……真桜さん!? なんか怖いんですけど!?」
「ウチもこんな反応初めてや……隊長いったいなにやってしもたん?」
「言われるままに氣を流しただけですが!?」

 ていうかどうしていつの間にか俺だけが悪いみたいな言い方になってる!?
 頼まれてやったんですよね!? 俺! あぁああでも断ろうと思えば断れたし、春蘭からも逃げればよかったわけだからあぁあああああ自己責任んんんんんん!!!

「どうするんだよこれ! なんか頭とかてとか物凄い勢いで回転して───怖ッ!!」

 せめてあのうっすらとした笑みはなんとかならないか!?
 あの表情のまま頭だけがぐるぐる回るのって物凄く怖いんだが!?
 かといって無表情ってのも怖いし! しまった打つ手が無い! ───じゃなくてっ!

「強引に止めるにしたって、もう気色悪いくらいに回転し始めてるし……」
「貴様ぁああ! 私が作った華琳様人形を、こともあろうに気色悪いだとぅ!?」
「そういう意味じゃなくってな!?」
「あー……ほな隊長、一応隊長の氣ぃで動いとんのやし、なんとかでけへん?」
「物凄く無茶言うなお前!」

 けど待とう、冥琳に氣を流し込んだ時も、集中して彼女の深層意識に手を伸ばすことが出来た。だったら今も集中さえ出来ればなんとかなるんじゃ───?

「え、遠隔操作〜……」

 自信もなく、ムンッと力を込めてみる。
 …………こころなし、絡繰華琳様の頭の回転速度が上がった気がした。

「……あのさ、真桜。もうちょっと人が出来る稼動限界っての、考えるべきだと思うんだ」
「ん……ウチも反省しとる……」

 ギュイイイイと大回転なさっておられる絡繰華琳様の頭。
 無駄に精巧に作られているため、かなり心苦しい光景だ。
 さっきまで強気だった春蘭も、なんだか覇気を失っておろおろとしているほどだ。
 そんな状況が出来上がってしまったらこう、妙にテンションも下がってしまって。

「……どうしよ、これ……」
「あー……どうにかならへんの?」
「これ以上俺にどうしてほしいんだよお前は……」

 一応遠隔操作が出来ないものかと試し続けてはいる。
 しかしながらなんの反応もなく《ビタァッ!》……お? ……おおっ!? 止まった!?

「お、おー、止まった、止まったで隊長!」
「よしっ! 誰かが来る前に回収するぞ! さすがに稼動部分が大回転する王の姿なんて、たとえ作り物でも見たくないだろ!」
「もっちろんやっ! 隊長の氣ぃの所為でこうなったんやけど」
「さりげなく責任全部押し付けようとするなっ!」

 止まってしまえばこちらのものと、一気に回収にかかる。
 いや、かかったのだが、伸ばした手がひらりと躱された。

『へっ?』

 俺と真桜の声が重なる。
 状況を認識しかけた頃には絡繰華琳様は駆け出していて、呆れるほどの速度をもって許昌の街の中で風と化していた。

『速ぁあーーーーっ!?』

 またも重なる声。
 しかし悠長なことを言ってもいられない。
 すぐに止めないと……! 民の一人にでも見られれば限りなくアウトだ!

「春蘭! 全力で止めよう!」
「なぜだ? 動く様が見たかったんだろう?」
「いやあれもう動きすぎだから! あのまま誰かに見られたりしたら、華琳に迷惑がかかる!」
「なんだとぅ!? それを先に言え!!」

 言うや、春蘭が姿勢を低くしてから地面を蹴り弾いて疾駆。
 その速度はいつぞやの鍛錬前の準備運動で見せた速度よりもよほどに速く、走り去った絡繰華琳様にも追いつけるほどの速度だった。
 ただ……追いつく前に体力が尽きないかどうかが心配だ。
 なにせ相手は筋肉の疲労を心配する必要もない、氣で動く絡繰。
 春蘭がいくら超人めいた能力を持っていても、やっぱり人間だ。あの速度で追っていけばいずれは体力にも限界がくるだろう。
 とはいえ馬鹿正直に追っても追いつける速度でもないわけで……ああもう。

「絡繰が走っていった場所から考えるに───」

 だったら俺は警備隊として追いかけるまでだ。
 さすがに無いだろうが、自己防衛機能でも搭載されてるのかって疑いたくなるくらい、壁に激突したりはせずに綺麗に曲がっていったから……よし、なんとかなるかもしれない。───とか思ったら、すぐ横の脇道から絡繰華琳様がゴヴァーと飛び出し、そのすぐ後ろから大剣を振り回す春蘭が───って危ない危ない危ないって!!

「春蘭っ!? 街中で抜刀は! ってあぁああもう今さらすぎるけどまずいだろ!」
「言っても聞かず、このまま華琳様の迷惑になるのならいっそ私の手で破壊する!」
「おお春蘭さまっ、職人の鑑やなっ!」
「それ以前に破壊した壁に目を向けような!?」

 飛び出すのと同時に、脇道横の壁が破壊された。
 そんな事実に動揺している間にも絡繰華琳様は飛び出した勢いのままに壁に激突。
 しかし勢いを止めることなく別方向へと身を翻し、そこへ振り下ろされた剣が崩れかけた壁を粉砕した。

「…………ウチ、用事思い出し《がしぃっ!》あぁあん見逃してぇ隊長〜〜っ!!」
「これが見逃す見逃さないで済む問題かぁっ!! いいから止めるぞ! せめてこれ以上被害が───あ、あぁあーーーっ!!」

 言ってる傍からまた破壊音。
 俺と真桜は顔を向き合わせると同時に頷き、全速力を持って暴れる彼女らを追った。


───……。


 ……コトが治まったのはそれからしばらく後のこと。
 治まったというからには終わっていて、とりあえず絡繰華琳様は見事に大破。
 ようやく追いついた頃には、春蘭が涙をこぼしながら、壊れた絡繰の傍に立っていた。
 で……問題なのが……

「どーすんだこれ……」
「どないしょ……」

 壊れた街の修理……だよなぁ。
 衣服や毛髪などはもう絡繰から剥いであって、顔は無惨にも潰されてるからこれが華琳似の絡繰だったと解る者は居ないだろうが……これはなぁ。

「せや、こないな時こそ園丁†無双のみなさんに───」
「やめとけ……それこそ華琳に大激怒される……」
「せやなぁ……───お? と、なると…………自分らでやるしかない、わけやな……」
「だよなぁ……」

 ちょっと気が遠くなった。
 久しぶりに走り回ることが出来たといっても、これはあんまりだ。
 神よ、俺があんなことを望んだからこんな試練をよこしやがったのでしょうか。
 謝りますので平穏を返してください。

「うだうだ落ち込んでても仕方ないか。怒られるのは確定なんだから、さっさと修繕作業に入ろう」
「えぇえ〜〜っ? ね、寝て朝になってからにせぇへんの〜〜っ?」
「誰の所為でこんなことになったと思ってるんだよっ!」
「隊長」
「作ったのが春蘭と真桜で氣を入れたのが俺! 三人の責任!」
「え〜……? やけど隊長があんな氣ぃ込めな───《ポム》おあっ? た、たいちょ?」

 ごねる真桜の両肩に両手を置いて、息を吸って吐き、極上の笑みをあなたに。

「や・る・よ・な……!?」
「《ギリギリギリ……!》あ、や、ちょ、いたっ、いたたっ、たいちょ、いたいっ」

 加えて言うなら手には不機嫌を具現化したかのような力が込められ、真桜の肩を圧迫した。何をやるのもべつに構わないが、自分で言い出しておいて逃げようとした挙句に手伝いもしないのはいただけない。
 力で解決しているみたいで嫌な気分にはなるが、だからといってこれは絶対に言葉じゃ納得しないパターンだ。

「うう……なんかあれやな……帰ってきてからの隊長は暴力的やな……」
「最初から言葉で受け取ってくれてれば、脅す必要もないって解ってくれよ頼むから」

 出来れば脅しめいたことなんてしたくないんだからと続けて、ともあれ歩き出す。
 修繕用の道具を隊舎から持ってこないといけない。

「んー……そらそうやけど、こう……妙なむず痒さっちゅうかなぁ……ほら。なんや知らんけど隊長のこと困らせたくなるんよ、最近」
「全力で“なんで”と問いたいんだが」
「自分でもよー解られへんねよなぁ……あ、あれとちゃう? 構ってほしくて悪戯する子供みたいな」
「………」

 その言葉にポムともう一度肩を叩き、目の前に広がる現実を見てもらった。

「……あー……悪戯のたびに街壊してたら、首がいくつあっても足らんわ……」
「だろ……?」

 同時に出た溜め息が、まだ暗い空へと消えたわけで。
 そんなこんなで始まった作業は夜通し続き、直した先から春蘭が壊したりするのでこれが案外捗らなかったりする。
 「強度はしっかりしているんだろうな」とか言って殴ったりするのだ。
 ああもう、華琳様人形を作る時は恐ろしく集中するんだろうに……。

「うあぁあ〜……隊長〜……ウチもう眠い〜……」
「それは俺も同じだけどな。真桜、朝からの仕事の都合は?」
「うっ…………や、休み……」
「よし。じゃあ頑張ろうな」
「こういう時って、なんでこう巡り合わせが悪いんやろぉなぁ……」

 たぱーと涙を流し、しかし黙々と作業を続ける。
 もはや口を動かしている暇があったら手を動かして、早く終わらせて休みたいという気持ちしかなかった。俺も、きっと真桜も。春蘭は……どうなんだろうか。
 懸命に作業を続け、あれだけ騒いだのに民が起き出して来ないことに安堵しながらの作業……だったのだが、本当に神様ってのは冷たいお方でいらっしゃる。

「ん、んんー……んあっ!? 雨!? 雨降ってきよったで隊長!」
「神よ……」

 空を見上げながら呆然とした。
 いやいや、それこそそんなことをしている暇があるならだ。
 しかし壊した場所と人手があまりにも見合わず、そうこうしているうちに朝が来て───





-_-/一刀

 で、現在に至るわけだ。
 途中から蓋を差しながらの作業になったために、進んではいるけどもたもたしている速度での修繕は続く。
 無言で参加してくれた華雄や思春には感謝してもしきれない。
 そして当然、華琳からは激怒が待っていたわけで。
 本当に馬鹿なことをした。

「ごめんな、華雄、思春。こっちが勝手にやって勝手に壊したのに」
「貴様の周囲で騒ぎが起きるのは、もはや呉に居た時から解っていることだ」
「ソ、ソウデスネ」

 思えば思春との付き合いも長いなぁなんて今さらなことを思いつつ、熱心に作業を続ける華雄に習って作業を続ける。
 壊れた部分に木材をあてがい、釘を打ち込む。
 単純なもののこれが結構な重労働で、しかしながら“これも鍛錬”なんて思うと面白くも感じたりする。単純だな、なんて自分を笑いながら、作業は続いた。

「うーん……もうちょっと衝撃に対する耐性もつけといたほうがいいかな」
「壁にか?」
「いや、俺自身の話。鎚打ってるとさ、結構振動が来るだろ? そういうのを受け続けても手を痺れさせて武器を落とす〜なんてことがないように」

 言ってはみたものの、それって人体の構造上可能なのだろうか。
 俺の場合、手が痺れても氣で無理矢理落とさないようにしてるからなぁ。

「………」

 考えるのをやめて鎚を振るう。
 あちこちで聞こえるトントンカンカンと釘を打つ音を耳に、賑わい始めた街を横目に。
 ただ、その賑わいも雨の下では晴天の時ほどではない。

「なんか、もはや将が街のどこかを壊してしまうのが当然みたいになってるのが悲しい」
「……今さらだな」
「ああ、今さらだな」

 ……考えてみて、そうかもと思ってしまった。
 乱世の頃を思えば、あの凪だって悪を働いたものを捕まえるために、氣弾をブッ放してどこぞの店の看板とか破壊していたのだ。改めて言うほどのことでもないのかもしれない……と納得してしまう自分も少し悲しかった。
 だってさ、民がさ……「おや、またですか」とか気軽に声をかけてくるんだよ。
 悲しくもなるだろ……?

「もし仕事が別にあったら、そっちを優先させてくれな。こういう単純作業なら、俺一人でも頑張れるから」
「そして風邪を引くんだな?」
「いや、引きたいなんてこれっぽっちも思ってないからな?」

 思春の呆れた視線が俺を射抜く。
 蜀で風邪を引いてしまった例がある手前、大丈夫なんて断言は出来ないのが情けない。
 ……よし、だったらそんな過去を払拭するためにも気合いを入れて───!

(なんて意気込むと絶対に風邪を引くから、適度に頑張ろう。うん)

 各国を歩く中で、少しは世の歩き方というのを学んだと思いたい。
 そんなわけで作業は続く。
 雨は時折に激しくもなり静かにもなり、急に吹いた突風に蓋を吹き飛ばされながらも作業を続行。そんなド根性劇場を面白がってやってきた鈴々や猪々子も混ぜて、なんかもう濡れても構うかとばかりの修繕作業が続いた。
 もうこうなると子供の意地をぶつけたような状況だ。

「なんかこうちまちましてても面倒だなー……よし、斗詩を呼んで金光鉄槌でどかーんと」
「壁がまた壊れるだろ!! 釘を打つどころじゃないよそれ!」
「突撃! 粉砕! 勝利なのだ!」
「突撃はいいけど粉砕はダメ! ていうかこの状況で、いったいなにに勝ちたいんだよ!」
「よく解らないけどとりあえず負けるのは嫌なのだ」
「………」

 似たような理由で絡繰華琳様に氣を送り込んだ自分では、もはやなにも返せなかった。
 そうなれば作業をするしかなく、コロコロと気分を変える空の下、いつの間にか賑やかになった修繕作業は……終わりを告げた。
 ハッと気づいてみれば結構な数の将。工夫に頼むわけでもなく、あくまで罰としての作業だったものの、各国の将たちがなんのかんのと手伝ってくれたらしい。
 「かえって工夫の仕事を奪っちゃったんじゃないか」と呟く中で、いつの間にか傍に居た冥琳が「それは違う」と……独り言を拾った。

「冥琳? 違うって……」
「頻繁にやるのなら奪うことにもなるが、民の仕事を知るのも上に立つものの務めだ。私たちは……少なくとも私は、北郷。お前にはそういう部分で期待をしている点もある」

 期待? ……ああ、支柱としてのか。
 警備隊として街を見たり、各国に回って民と接触したりをしていたことが多いからこその期待……そういう意味でいいんだよな?

「しかし、慣れない作業を急にするものではないな。肩に響く」

 あ。そういえばここに居るってことは、冥琳も作業を手伝ってくれていたってことか。
 軍師が鎚を打つ姿……想像してみたけど貴重だ。しかもそれがあの“周瑜”とくる。

「なんだったら鍛錬が許可されたら一緒にやる?」
「ああ、それもいいかもしれん。こちらにも暇を持て余して酒ばかり飲んで居る馬鹿者が居るのでな。そいつを引っ張って付き合わせるとしよう」

 それが誰なのかを瞬時に理解してしまうあたり、彼女の勘の鋭さは理解出来ずとも、彼女の行動自体は解りやすいのかもしれない。

「で、その誰かさんは───……ごめん、やっぱりいい」
「ああ。あれの勘は想像の外を行くが、行動自体は解りやすい。問うまでもないだろう」

 どうせ何処かで酒を飲むか騒いでいるんだろう。
 出る溜め息は笑顔で。
 苦笑ととれるそれも、すぐに笑いに変わり、くっくと肩を震わす冥琳とともに笑った。
 雨もすっかりと止み、晴れた空を見上げてみる。
 綺麗な青がそこにはあり、ようやく本来の許昌の賑わいを見せる街の中で、俺は───

「さて。随分と汗を掻いてしまったな。雨で衣服もびしょ濡れだ」
「あ、っと。華琳がお風呂の手配してくれてる筈だから、先に入っちゃって。俺は点検してから行くから」
「精が出るな。手伝いたいところだが、お言葉に甘えよう」

 くすりと笑み、冥琳が歩いてゆく。
 話を聞いていたらしい他のみんなも立ち上がり、俺はそれを見送りながらも歩き───作業が終わっても一緒に作業をしていた将と話し合っていたみんなに声をかけて、それと一緒に点検を済ませる。

「あ゙ー……なんとか穏便にすんでよかったわー……。華琳さまにバレた時は心臓飛び出るか思たもん……」
「散々と人の所為にしようとしておいて、よく飛び出るだけの心臓を持っていられるな、お前は」

 体内にしっかりと根を張って、ちょっとやそっとじゃ飛び出なさそうだ。
 そんな俺の言葉に真桜はにししと笑い、「済んだことやしもうえーやん」と言う。
 ……まあ、箇所は多かったものの本当の意味での“破壊”じゃなかったことに感謝だ。
 家とかを完膚なきまでに破壊されてたら、さすがに怒られる程度じゃ済まなかった。

「ほら、そんなことよりも風呂。ちゃんと温まってこい」
「おー。あ、なんやったら隊長も一緒に入るー?」
「なっ───他国のみんなも居るのにそんなこと出来るかっ!!」

 またしてもにししと笑いながら言う真桜に、勢いのままに返した。
 しかしハッと気づいてみれば、その言葉が明らかにおかしいことを自覚する。
 顔に熱が篭るのを感じながら訂正しようとした時にはもう遅い。

「おーなるほどなるほど、他国の将がおらへんかったら一緒に入りたかったと。最近大人し思とったのに、やっぱ隊長やなー」
「い、いや違っ! …………はぁああ……」

 一瞬、違わないのかもとか考えてしまった。
 やっぱりいろいろと溜まっているのだろうか。

「お? 隊長ー? どこいくんー?」
「……久しぶりに川。昼以降の仕事にはちゃんと間に合わせるから」

 少し精神統一が必要だ。
 鍛錬とは別に、川になったつもりで氣を鎮めよう。
 もちろん、点検が終わってから。
 歩きながら振り返り、城へ向かおうとする真桜に手を振ってからまた歩く。

(さて……今日は魚を掴めるくらいまでいけるかな)

 そんなことを考えながら点検を済ませ、部屋にバッグを取りに行ってから向かった。


  ……ちなみに。
  雨の所為で川が増水していることに気づいたのは、川に辿り着いてからだった。
  氣を静かな川の流れと同調させようと思っていた俺にとって、その荒々しさは今の自分を見ているようで……少しだけヘコんだ。




ネタ曝しです。  *カムイン  ミスター・アンチェイン、ビスケット=オリバ氏。“バキ”より。  「オー、ブルーマウンテン」  「恐れ入ります」  の流れが好きです。  *アフロと軍───  合言葉はアフロと軍曹。ケロロ軍曹(アニメ)です。  えーはい、68話、平凡な日をお送りします。  特にこれといった盛り上がりも見せずに終わるから平凡な一日。  散々引っ張った冷たい女はこんな感じです。  いえ、本当はこんな後でやるつもりはなかったんですけど。  せっかくの三国連合なのに魏成分が多いのは仕様です。ごめんなさい。  今月も残り僅か。  根性出せばもう一話くらい出来ないかしら。  それが出来るなら散々とUP出来ているのでしょうが。  それではまた次回で。 Next Top Back