122/意識するほど遠退くもの=自然

 覇王の威圧感とともに迎えた朝。
 体勢の悪さの所為もあって疲れが大して取れていないにも係わらず、誘われるままに準備をする人達の視察へと向かうことになった俺は、現在華琳と一緒に長い通路を歩いていた。

「それで、まずは何処に行くんだ?」
「そうね。まずは天下一品武道会会場へ行きましょう。といっても力を注いでいるのがここばかりだから、行く場所なんて限られてくるけれど」

 天下一品。
 武道のみならず、知性や勘などといったものも武器とした催しものをするとして、その舞台は随分と大きく用意されている。
 天和たちが“私たちもこの舞台で歌いたい〜!”とか言っていたが、まあ機会があれば。歌唱大会はあるけど、本業の方が出ては他の方があまりにも目立たない。なので数え役萬☆姉妹の出場は禁止されている。

「荒っぽいのは結局、武道会だけなのか?」
「ええそうね。それ以外はあくまで平和なものよ。一言で言えば地味なものになるわ」
「え……地味なのか? 武官同士が戦うのに?」
「知性で戦うとして、たとえば“象棋”(シャンチー)をするとしましょう? 一刀はそれを、期待して緊張しながら見ていられる?」
「………」

 象棋……たしか中国の将棋のことだったよな?
 ふむ。

(…………)

 想像してみた。
 間近で見るなら解らないなりにドキドキするかもだが、大舞台でやるとなると……遠目で見ててもなにがなんだか解らない。

「なるほど、地味だ。でもあれだ、妖術とかでばばーんとなんとか出来ないか? マイクの時みたいに盤上を妖術で空中に映し出す〜とか」
「……考えなかったわけではないけれど、力の無駄遣いって気がするじゃないの、それ」
「まあ、解る」

 妖術、なんて便利なんだ! で済ませるには大掛かりすぎるよなぁ。

「あれ? でも準備はしてるんだよな?」
「武官ばかりが目立つようでは、学校へ通う者もそうでない者も武官ばかりを目指すようになるでしょう? 一刀も知っているでしょうけど、今必要なのは武官よりも文官よ。だからこそ、地味だろうとやる意味はあるわ。もちろん、地味で無くすためにも地和には話を通してあるけれど」
「へぇえ……そうなのか」
「条件として、天下一品歌唱大会まで用意してくれと頼まれたけれど」
「ははっ、さすが、ちゃっかりしてる。その条件、飲んだのか?」
「相手の用件は聞かずに自分の意見ばかりを押し付けるわけにもいかないでしょう? 自分に妖術を扱うことが出来ないのなら、扱える者を頼るのは当然のことよ」
「そりゃそうだ」

 先ほどの気恥ずかしさはどこへやら。
 話しているうちに調子を取り戻した俺達は、普通に横に並びながらも歩いてゆく。
 視線を合わせればやはり恥ずかしくもなるのだが、それだけだ。
 むしろそんなくすぐったさが心地良い。
 あーその、なんだ。デートっぽくて、なんかいい。

「…………《じー》」
「……なによ」
「ん? いや。最初の頃に比べれば、随分と丸くなったなーって《げしっ!》痛っ!」

 足をトーキックされた。
 しかし嘘は言ってない。最初に会った時なんか、言っちゃなんだがこの体躯であの威圧感だから驚いたもんだ。
 なのに今は剥き身の刃が鞘に納まったみたいに落ち着いている。
 平和になったからって理由が大半なんだろうな、こういうのって。

(……自分のお陰だなんて考えそうになった。口にしたら笑われるな)

 自意識過剰は危険なものだ。
 もっと落ち着きを持たなきゃな……なにせもう俺は支柱なんだから。
 落ち着き……落ち着きか。

(どしっと構えてるほうがいいかな。それともニコヤカな好青年で、やさしさを具現化したような存在のほうが……?)

 国を任されるわけではないのだからとかそんな甘い話じゃないよな。
 って、ぁああまた難しく考えそうになってる。
 でもこれ考えておかないと後々大変なことに……!

(───俺らしく!《ビシィッ!》)

 俺らしくあればいいのだ。
 もう、考え方に困ったらこれでいこう。一度そうしようって思ったならとことん!
 そうじゃないともう失敗した時の言い訳を人に押し付けてしまいそうだ。
 都を任される、なんてとんでもないことなんだから。
 立つなら己の責任でしっかりと、だな。

「………」

 ………。

(俺らしくって、どうだろう。みんな“あなたらしく”って言ってくれるけど……)

 ……まあ、自然体かな? よし。

「ヤ、ヤア、いい天気だネ華琳」
「ええそうね」
「………」
「?」

 会話終わったァアーーーーッ!!
 あれぇ!? 俺らしくって本気でどうだ!? 意識すると解らないぞこれ!
 自然体って誰ェ!? 自然体って何処ォオ!!
 と、思わずビキニパンツのモンゴルマッチョ風の踊り子(挑戦)を思い出すようなことを心の中で言ってしまった途端、ひどく冷静になれた。
 のぼせ上がった体に氷柱を差し込まれたような感覚……! これは寒気だね、うん。

「はぁ……。んっ」

 肩の力が抜けるのを感じた。もう大丈夫だ。
 見もしないでいい天気だと言った空を見上げると───そこには通路の天井があった。

「………」

 思うだけで緊張が抜ければ誰も苦労はしませんね、はい。
 笑顔のままで天井を見つめる俺を、立ち止まって呼んでくれる華琳を追って歩き、溜め息を吐いた。


───……。


 視察。
 現地・現場に行き、その実際の様子を見極めること。
 つまり祭りの準備現場に行って、進行状況を見極めようってもの。
 国の王の視察といえば、それこそ馬にでも乗って遠出をしてというのが多かったが、今回はそんなこともない。徒歩で辿り着くような場所を回り、挨拶もそこそこに調子を訊いてみるものだ。

「おっ、よぅアニキー!」
「うん? あ、猪々子か。なにやってるんだ? こんなところで」

 天下一品の舞台の脇、作業していたらしい猪々子に声をかけられ、華琳に断ってから近寄ってみれば……なんだこれ。

「おいおいアニキぃ、なにやってるんだはないだろー? 今日が準備の最終日だってことくらい、アニキなら解ってるだろ?」
「や、そりゃそうだけど。猪々子ってなにかやるんだったっけ? 武道会に使うものじゃないよな、それ」

 なんだこれ、と考えたモノを見る。
 猪々子が作っているもののようだが……台? まさか鈍器じゃないよな?

「え? あ、あー……これはさ……ほら、歌唱大会あるだろ? 麗羽さまが急に、“美羽さんが出るというのなら同じく袁家であるこのわ・た・く・し・も! 出ないわけにはまいりませんわぁ〜!”って言い出してさ。でも“他の方と同じ目線で歌など歌えるもんですか”って、あたいにこんなもの作るように命じてきてさー……」

 で。出来たのがこの台だと。
 これに乗って歌うのか……? と、思ったことと同じことを訊いてみると、彼女は疲れた様子でコクリと頷いた。おまけに「あたいと斗詩も一緒に歌わされるんだ……」とこの世の終わりのような顔で呟いて。

「お供っていうのも大変だな……」
「いやまあ好きでやってるってのも確かにあるんだけどさー。麗羽さまに巻き込まれてやることって大抵恥を掻くことばっかりだってことに最近気づいて……」
「最近なのか……」
「あたいは斗詩と一緒ならそれでいいかなーって、あまり考えずにしてたから」

 いや、そこは考えなきゃまずいだろ。相手はあの麗羽なんだし。
 ……でも、斗詩か。

「ところで猪々子。衣装とかは考えてあるのか?」
「衣装? これでいーだろ」

 疲れた表情で、クイッと自分が着ている服の端を摘む。
 それはそれでよく似合っているんだが、どうせならってやっぱり思う。

「もったいなくないか? 恥を掻くって気づいたのになんの得もないまま終わらせていいのか? なんだったらお前が見立てた服を斗詩に着せて歌わせるとか───」
「おおおおお!! アニキそれ最高! やる気出てきたぁあーーーっ!!」
「………」

 ……ごめん、斗詩。
 これも元気な人を落ち込ませないためだから……。
 祭りには祭りに相応しい、騒ぐ人が必要なんだ。
 だからその……静かに十字を切る俺を許してほしい。

「ところでその斗詩は?」
「ああ、木材もらいに行ってる。麗羽さまのことだから、こんなただの台じゃ絶対納得しないだろうから、飾り付けをって斗詩がさぁ」
「作ったら作ったで、こんな飾りでは〜とか言いそうだなぁ」
「うぅ……って、そぉ〜じゃんっ! なぁアニキぃっ、アニキのほうから何か口添えできないかなぁ! ほら、“可愛い麗羽には可愛い舞台が似合ってるよ”〜とか!」
「……で、猪々子も斗詩もその可愛い舞台で歌って踊るのか」
「あ゙」

 言われて思い出したらしい。
 自分が考えた可愛い舞台で自分が歌って踊るイメージをしてみたのか、珍しくも真っ青になっていた。

「あ、あにきぃい〜……」
「頼むからチビみたいな呼び方はやめてくれ……」

 真っ青な顔でふるふると震えながら、涙を溜めてひっしと服の袖を掴んでくる。
 いや、俺にそんな目を向けられたって俺にどうしろと? いやでもはい、これがギャップでしょうか。可愛いです。

「え、えっとな猪々子《ゾクゥ!》ヒィ!?」

 殺気!? 誰!? ……と、辺りを見渡してみれば、こちらを睨んでらっしゃる孟徳様。
 あ、あれ? なんで睨まれてるんだ? ちゃんと断ってから来たよな?
 ……もしかして必要以上にひっついてるからとか? や、そりゃないだろ。
 じゃああれか。可愛いって思ったのが顔に出てたとか? ……だろうなぁ。
 でもマテ、もしそうだとしても、“何故誰ともそういうことをしないの”とか仰ってた人の行為とは思えないぞそれは。じゃあ……?

(……ヤキモチだったら嬉しいなぁ)

 平和なことを考えてしまった。
 だって、そういうのって理屈じゃないだろうし。
 俺も国のためになるんだったらって条件を出されたら、嫌でも何かの条件を飲むさ。
 それと同じで、もし華琳が“自分が認めた者に気に入らない者の子を産ませたくない”という考えを自分で飲み込んだとしたら…………う、うぁっ……うぁあああっ……!! や、やばいまずい! なんか顔が勝手に笑って……! それならほんとにヤキモチかもとか思って喜ぶなんて、どこの青春真っ盛りの学生さんだ! ……学生さんだった!

「……どうしたんだよアニキ、さっきから頭抱えてうねうね動いて。天の踊りか?」
「……み、“身悶えする者の舞い”とイイマス」

 俯き盛大に溜め息を吐いての言葉が、腹の底からボシュウウと吐き出された。
 あぁ……そうだなぁ、とりあえず……───

「とりあえず、麗羽のことは別の方向へ褒め倒して納得させるしかないんじゃないか?」
「うあー……やっぱそうなるかぁ。ちぇー、アニキが可愛いって言ってくれりゃあ一発だろーに」
「それ、さっきも言おうと思ったけど……言った分だけ麗羽に嘘つくことになるだろ? だから、言われたい一言を利用して誘導するのは気が引けるんだよ」
「えー? 褒め倒しと大して違わないじゃん」
「騙そうとしてるのと本気の違いがあるんだよ。多分、言えば麗羽は素直に受け取ると思うよ。でも、もしそれで喜ばれたら喜ばれた分だけ言葉が軽くなる気がしてさ」
「………」
「………」

 ん……ん? なんだ? 猪々子のやつ、人の顔見たまま動かなくなった。
 ……かと思いきや、後頭部を掻きながら驚いた表情で溜め息。

「ふはー……驚いたぜー。麗羽様の周りに集まる男といえば、上辺ばっかで地位のことしか考えてないうすっぺらなヤツらばっかだったのに。アニキっておかしなヤツだな。本気で麗羽さまのことを考えて傍に居る男なんて、あたいでも初めて見たかもな」
「……そうなのか?」
「ははっ、だってあの麗羽さまだぜー? 男より女って意識はそりゃああったけどさ。男はほぼ下男扱いだったし、気に入らなきゃ女だって無視するし。なのにアニキを男として認めますなんて書簡まで渡して、しかも可愛いって言われると真っ赤になってさ。いやー、苦労してでも麗羽さまと一緒に居てよかった。あんな麗羽さまが見れるなら、今までの苦労はむしろ楽しみの前の……ね、捻挫?」
「……もしかして前座か?」
「あーそれ、たぶんそれ。蜀でちょくちょく学校の授業受けてるんだけど、いまいち覚え切れないんだよなー。なんか小難しいこと言われても頭に入ってこないってゆーか。でも知ったことって、アニキだってとりあえず言ってみたくなるだろ? 街の子供たちに頭いいねーとか言われた時なんか、胸がきゅんって鳴ったんだぜー?」

 腰に手を当てて、祭さんみたいにあっはっはっはー! と元気に笑う。
 どうやら知識を披露して褒められたことがよっぽど嬉しかったらしい。うん、子供たちに遊びを教えて、喜んでもらえた時とかも嬉しいしな。その気持ちは解る。気持ちの方向性が違う気もするけど。
 ……というか、麗羽の話はもういいのか?

「で、アニキは魏の大将と様子見か?」
「ああ。珍しく二人とも時間が取れたから」
「そっかそっか。んじゃーあんまり引き止めるのも悪いし、あたいも作業が残ってるから」
「そだな。じゃ、明日に疲れを持ち越さないようになー」
「おー!」

 猪々子に軽く手を振って歩くと、華琳のもとへ。
 華琳自身も別の人の視察を済ませたようで、腕を組みながら俺を迎えた。

「随分と楽しそうだったじゃない」
「実際楽しかったよ」

 苦労人って何処にでも居るんだなーって、再度確認できただけでも嬉しかった。
 相手にとってはいい迷惑だろうが、ある方向での仲間が出来たみたいでこう……ねぇ?
 華琳は「そう」とだけ返すと、特に表情を変えることもなく歩き出す。
 ……やっぱり気の所為だな。ヤキモチとかそっちのは。
 気持ちを落ち着かせるためにも、ひとつ

「それで次は?」
「朱里を探すわ。象棋の準備はあの子に任せてあるから」
「朱里に? ……やっぱり朱里も象棋、強いのかな」
「先の先を読まなければ勝てないものなのだから、知将としての力が必要になることは間違いないわね。そう考えれば、諸葛孔明が弱い筈がないでしょう?」
「そうなんだけど」

 普段のあの“はわわ”ぶりを見てるとなぁ。
 や、俺も勉強のことで随分と助けられてるよ? そりゃあもちろんありがとうばかりを口にしたい相手だし、あの諸葛孔明にものを教わるなんて普通は在り得ないことなんだ。彼(ここでは彼女)を尊敬する人にしてみれば、泣いて羨ましがられるほどの事実だ。
 でもやっぱりあの“はわわ”ぶりを見てるとなぁ。

「それで、その朱里はどこに?」
「仕事内容の確認は各国の王に任せているから、私は知らないわよ。報告に来てくれはするけど、客の行動を逐一報告するように言うのは持て成す者としてはあまりに醜いじゃない」
「じゃあ、桃香を探しに?」
「他の視察をしながらでも構わないわ。先に見つけられればと思っただけだもの」

 そっかと頷いて歩く。
 大会会場は大きな舞台となっており、そこを一周するだけでも地味に時間がかかる。
 某・龍の球のお話の武道会場もこんな感じだったっけ?
 ……いや、思ってないよ? あの舞台の上でかめはめ波を撃ってみたいなんて。

「なにをそわそわしているのよ……」
「ウェッ!? しっ……してたか?」
「ちらちらと舞台を見ているじゃない。まるで褒美をちらつかされた春蘭だわ」
「微妙に例えが嬉しくないんだけど……なのに解り易いのが悲しい」

 俺、そんなトロケた顔してたのか。
 頬を染めてトロケた表情の春蘭を思い浮かべてみたら、春蘭には悪いけどちょっとだけ空を見上げたくなった。だって、そうまで露骨に顔に出てたなんて。

「その……俺のことはいいから。それより視察視察っ」
「……はぁ。まあ、いいけど」

 ちらりと俺と舞台を交互に見てから、止めていた足を動かす。
 そんな華琳が次に向かったのは、目に見える位置に居る人物……鈴々だった。

「鈴々」
「にゃ? あ、華琳なのだ!」
「……目を合わせた途端、人を指差して妖でも見たような反応をしないでほしいわね」
「にゃはは、似たようなものなのだ」
「似ていないわよっ!」
「……華琳、反応がまんま愛紗だぞ」
「へぇ……!? 一刀は、普通に声をかけたのに妖と同等の扱いを受けて怒らない者が居るとでも……!?」
「ん」

 とりあえず手を挙げてみた。
 相手によりけりだが、鈴々相手ならまず怒らない自信がある。
 軽くふざけているだけって解るし、本気なんだとしても……なぁ?

「それに、三国を纏めたって意味では、ある意味で妖でも叶わないくらいのことをやってみせてるじゃないか」
「比喩対象に問題があるでしょうっ!?」
「怒ったのだ!」
「怒るわよ!」

 ……ごめん華琳。これなら妖も逃げ出すかもって本気で思ってしまった。
 とりあえず祭りの雰囲気がゴシャーって逃げ出してしまうので、怒気を鎮めてくれると助かるんだが。

「……あれ? そういえば鈴々、ここでなにやってるんだ? 武道会に向けての練習?」
「違うのだ。天下一品駆けっこ大会のための鍛錬なのだ!」
「華琳さん。なんでも天下一品つけりゃあいいってもんじゃないと思うんだ、俺」
「名づけたのは私じゃないわよ……」

 溜め息を吐かれてしまった。
 うん、やっぱり随分丸くなったよなぁ。
 他国の将にこんなにも感情を露にするなんて、前の華琳だったらしなかった。

「お兄ちゃんはなにをやってるのだ?」
「う……デ、デデデデート?」
「視察よ」
「視察です《キリッ》」

 いや、いいんだ解ってる。視察だもの。
 華琳とは買い物したりしたこともあるけど、あれを考えれば向こうのほうが全然デートっぽいもんな。……男に下着を選ばせるとか、とんでもない経験させてくれたし。

「にゃ? デートってなんなのだ?」
「む。難しい質問だな。んー……まあ、好きな人と楽しく過ごすこと、でいいのか?」
「だったら今は毎日がデートなのだ」
「へ? …………そっか。そうだな、ははっ、そうだなっ」

 言われてみて、納得してしまった。
 そうだよな、そんな理屈で言うなら毎日がデートだ。
 楽しくない日なんてほぼ無い。好きな人は傍に居る。条件は十分じゃないか。
 でも、デートか。
 この世界を知らず、フランチェスカに通っていた頃は随分と憧れたなぁ。
 お嬢様学校の中にあって、そんな世界に憧れぬ輩が居るはずもない。
 青い空の下、手を繋いで歩くだけでもいい。
 ステップアップすれば腕を組んだりとかして……バカップルなところまで行ったら、後ろから目隠しされて“だ〜れだ?”なんて言われたりして。
 ぐいぐいと押し付けられる胸の感触が、なんというかこう、背中に広がって心地良くって、とかなんとか………………はぁあ。落ち着こう、俺。

「それで……その駆けっこ大会っていうのは? 鈴々が考えたのか?」
「鈴々と明命とで話し合ったのだ。お兄ちゃんとの鍛錬で走り回った者同士、どっちが上かを知りたいのだ」
「思春だな」
「思春ね」
「むー! 鈴々なのだっ! それにふんどしねーちゃんは参加しないのだ!」

 褌ねーちゃん!? なんか予想外の言葉が出てきた!

「ふんどっ……ぶふっ!《ヒタリ》キャーーーッ!!?」
「貴様……なにを笑っている……!」
「イ、イイイイラッシャッタンデスカァーーーッ!!?」

 思わず吹き出してしまった瞬間、例のごとく首に曲刀が……!
 つーかもうどっから出てくるのこの人!

「いつも警備ご苦労さま、思春。変わりはないかしら?」
「はい華琳さま。国の支柱がしゃんと立っていないこと以外は問題ありません」
「え? それって俺?《ヒタァアア……!》って切れる切れる! 支柱折れちゃう!」

 あぁああ青い空の下! 解放してくれるだけでもいい! 関係がステップアップすれば殺気を向けなくなってくれるとかして、そんな彼女への警戒態勢を緩めるところまでいったら、なんか突然後ろから目隠しされて“質問に答えろ”なんて言われたりして! じゃなくてもっと平和なのがいい!
 ぐいぐいと押し付けられる鈴音の冷たい感触が、なんというかこう、喉から様々な筋を通して全身に回って、寒気ばっかりで生きた心地がしなくってェエエエ!!

「貴様は成長しないな……」
「これでもさ……ずっと前に比べれば、随分と度胸と氣は身についたんだよ……」

 なのに自分の立ち位置はあまり変わっていない。
 アニキさんたちに刃を向けられたり春蘭に刃を向けられたり華琳に刃を向けられたり、なんで俺っていろんな場所で誰かに刃を向けられているんだろうか。
 軽く両手を挙げて降参を示すと、音も無く思春が離れてくれる。
 振り向いてみれば、庶人服に身を包み、髪を解いたいつもの思春。

「ふんどしねーちゃん、どこから来たのだ?」
「………」
「にゃ?」
「ふんどしねーちゃんはやめろ……私は常に華琳さまの警護に立っている」
「……全然気づかなかったのだ」
「だよなぁ」

 ……慣れてたつもりの俺でも全然解らなかった。
 本気を出すと、もうさすがとしか言えないよ、思春。
 そんな思春が鈴々に振られた話を、ひどくぐったりした様子で返す。

「よく春蘭や桂花が許したよな」
「あのねぇ一刀? あの二人に警護をさせたら、私はいったいいつ休めばいいのよ」
「いつって」

 いつ……? うーむ。




-_-/想像

 蒼の空の下、覇王と、その姿を守る大剣と軍師の姿があった───!

「華琳様華琳様! 次は何処へ行きましょう!」
「うるさい! 馬鹿が伝染るから離れていなさいよ!」
「なんだとぅ!? 桂花こそ華琳様が溜め息を吐いているから離れろ!」
「ふふん? 自分が原因であることにすら気づけないなんて本当に馬鹿ね。あぁ、確認するまでもない馬鹿なのだから当然だったかしら」
「なんだと貴様ぁあああ! そういう貴様こそ頭ばかりで警護の役に立っていると思っているのか! ただ傍を歩くだけなら動物にだって出来る! ……あぁ、動物だからその耳がついたような被り物をいつも着ているのか」
「なっ……なんですってぇえええっ!!? 華琳様華琳様! この馬鹿が私を───!」
「華琳様! こんな動物の言うことなど聞く必要は!」
「華琳様!」
「華琳様ー!」

 ……。




-_-/一刀

 …………だめだな。うん。なにがとかそういう説明以前にいろいろだめだ。
 終始溜め息を吐いている華琳の姿が軽く浮かんだよ。

「いつかどうかはべつとして、やっぱり妖だな」

 頷きながら、自然と言葉が出た。
 そんな俺を視線を真っ直ぐに受け止めながら、口の端をヒクリと歪めて僕を睨む覇王様。
 ───はうあ! なに本人の顔見ながら妖とか言ってんだ俺!

「へぇ……考えて、人の顔を見てから言う言葉がそれなの」
「ちょっと待てっ、ヘンな意味じゃなくてっ! あの春蘭と桂花にきちんと慕われてる時点で、俺にとっては十分物凄いことだって言ってるんだって!」
「……そういう意味では貴様も妖と変わらん気がするが」
「え? 思春、今なんて───」
「お兄ちゃんは化物なのだ」
「バケモノ!?」

 ショッ……ショックだ! 面と向かってバケモノ呼ばわりされた!
 しかもその原因にまるで心当たりがなく、それは一生解決されない気がする……教えてもらえるまでッッ!!
 ……などと奇妙にショックを受けていないで。

「バケモノ呼ばわりはその……原因を聞くのが怖いからスルーするとして。鈴々、駆けっこ大会は走るだけなのか?」
「ほんとは国同士で、代表を決めて走ろうかと思っていたのだ。お兄ちゃんの国の……えとー……なんだっけ。りれー?」
「あ、リレーか。それは確かに面白そうかも」

 各国ごとに代表を何人か選出、先に外壁を回りきったほうが勝ちとかなら、選手によっては相当盛り上がりそうだ。

「ふぅん……? それに関しては蜀が有利そうね」
「はは、たしかに……って、華琳はリレー、知ってるのか?」
「蜀の“教科書”で興味を引くものは読んだもの。せっかく訪れたのに、未知に目を通さないのはもったいないでしょう?」

 教科書。蜀でその名で呼ばれるのは学校での教本くらいだ。
 なるほど、あれを読んだのか。
 体育のことも書いてあったはずだから、そこから知ったんだろう。

「逆に呉は不利なのだ」
「そうね。足が速そうなのが明命くらいしか思い当たらないもの」
「………」
「あの。思春サン? どうしてそこで俺を睨むんですか?」
「もし“りれー”とやらをすることになったなら、貴様が呉のために駆けろ。不足を補うのも支柱の役目だろう」
「え……この腕でか? あー……そりゃ、華佗に頼めば一時的に痛みを止めてもらうことくらい出来るかもだけど、俺で力になれるか?」
「お兄ちゃんが出るなら、次こそ鈴々が勝つのだ!!」
「発案者はこう言っているけれど?」
「………」

 俺をキッと見上げる鈴々の目が“出るのだ〜……大会に出るのだ〜……”と語っていた。
 ここでノーと言ったらどうなるんだろうか。いや、そもそも怪我の所為で本調子なんて出せるもんか。痛み止めを鍼でしてもらったとして、だからって元気に振り回せるわけでもない。
 明日完治するならまだしも、華佗には武道会参加は無理だって言われてるんだ。
 走ることだってそりゃあもちろん却下されるに決まってる。

「悪い、鈴々。腕がこの調子だから腕を振って走るなんて無理だよ」
「にゃ? だったら振らなきゃいいんじゃないのー? 明命みたいに背中の剣を掴んで走れば問題ないと思うのだ」
「思うよ? じゃなくて。その掴む手が動かせないんだってば。掴んで固定なんて無理」

 頭の後ろで手を組んで“にしし”と笑うちびっ子さんに、自分の状態を事細かに説明してやる。すると、「だったら鈴々が支えるのだっ!」と決意に燃える顔で言われた。

「出場するとしたら同じ競走相手でしょーが! なのに俺を支えてどーする!」
「怒ったのだ!」
「怒ってないっ!」

 ツッコんだだけである。
 言ってはみたが解っていたようで、やっぱり頭の後ろで手を組みながら、にししと笑う。
 そんな鈴々の頭を溜め息を吐きながら撫でてやると、猫のように自分から顔を押し付けてきた。両手が使えるんだったら、頭と一緒に顎でも撫でてみたいもんだとか普通に考えてしまった俺は、いろいろと危ないですか?

「………」
「なによ」

 ちらりと華琳を見て、頭と顎を撫でる想像をしてみる。
 ……両手が吹き飛びそうだった。主に魏武の大剣さまの手によって。
 う、うーん、せっかくのデートなのに、想い人になにも出来ないヘタレさんの気持ちってこんなのなんだろうか。いや、ヘタレヘタレ言うけどこれでも結構考えてるんだぞ!? 一歩が踏み出せないだけで、ヘタレだって頑張ってるさ! でもそのために必要な勇気が、手を失う覚悟とか殴られる覚悟とか、曲刀を首に押し付けられる覚悟に勝らなきゃいけないのはいかがなものかなぁ!!

「いや、なんでもない」

 いろいろと頭の中で整理してからの返事。
 ちらりと見た先で華琳と目が合ったっていうことは、華琳も俺を見てたのかなーなんてことを考えてしまうが、なんていうか……ほんとどこの学生さんだって感じだよな。一緒に乱世を潜り抜けて、体まで重ねたのに、今さら視線が合っただけでも嬉しいとかもっと話をしたいとか……うう。
 まるで恋人になりたてのカップルじゃないか。
 いや、こんなふうに思ってるのは俺だけなのもだけどさ。

「ねーねーお兄ちゃん、腕が折れるのってどんな気分なのー?」
「容赦ないね鈴々……」

 そんな、どこか乙女チックな心境をあっさり破壊してくれたのが鈴々さんでした。
 ……いいんだけどね。

「折れてはいないけど、とにかくやたらと不便だ。動かせないし腕は痒くなるし、片手だけだと上手く出来ないことだって山ほどあるし」

 氣の鍛錬に支障が出ないのはいいことだ。氣を使うだけなら腕は要らない。
 ただ、木刀を構えるのにも右手一本だと結構心許ないというか、不安になる。
 常に左腕には氣を流してはいるものの、なかなか治るもんじゃない。
 時間が空く限り、華佗が診てはくれるんだが……うん、正直俺が一日中氣を流すよりも、華佗の鍼の一撃のほうが治癒力が高かったりする。かなりショックだ。
 そんな俺だが、華佗に氣の扱い方を教えてもらう約束を取り付けてある。
 いつからになるかは未定ではあるものの、それこそいつか華佗が言っていたように、医術のために自分の氣を役立てることを目指して覚えるのも悪くない。
 といっても、そうなると腰を落ち着けてから───都での暮らしが落ち着いてからってことになる。気の早い話でもあり、気の長い話でもある。
 でも……そうだな。医術を覚えて、霞と旅をしながら人を救うのも悪くない。
 都暮らしを始めたらそんなことが出来るのかって不安になるが、それまでに誰か代役を立てるのもいい。俺より優秀な人なんて、この世界には余るほど居るんだ。

「華琳」
「なに? まさかやっぱり駆けっこをしたいとか言い出す気? それとも武道会かしら」
「や、そうじゃなくて。都暮らしに慣れたら、しばらく休暇が欲しいんだ。あ、もちろん都が出来てもいない今に言うことじゃないことは解ってる。でも、口約束でも先に了解が欲しいかなって」
「たとえ口約束だろうと、私が破りたくもないと解ってて言っているのだとしたら、随分と気の早い仕掛けね」

 何故か、どこか嬉しそうな顔でフッと笑って言う。
 いつもの顎を少し上げて人を斜に見る姿勢のまま。華琳ってこの姿勢好きだよな……でも、見下したような視線として受け取れないのは慣れですか?

「支柱にはなったけどさ、たぶんそれって必ずしも俺がそこに居なきゃいけないってものでもないと思うんだ。今はそう思ってくれてたとしても、先のことは解らないし。慣れる頃には俺がやる仕事なんて片手間で出来る人材が出来てるんじゃないか?」
「ええそうね。“仕事だけなら”あなたじゃなくても出来る者が居るわ。売るほどにね」
「うぐっ……容赦ないな、ほんと」
「言わなきゃ解らない馬鹿には、それこそ言ってやらなきゃ解らないでしょう? あなたね、いちいち自分を低く見すぎよ。少しは自分に自信を持ったらどう?」
「自信? ……自分に?」

 自分を指差して言ってみるが、そんなことは無茶ってもんだ。
 確かに何度か考えたことだ。胸を張って、自分の責任で自分の道を歩こうって。
 しかしながら世の中そう上手くはいかない。
 失敗すれば誰でも落ち込むように、自信だってどんどんと落ち込んでいくものだ。
 ……さらにしかしながら、そんな上手くいかない世の中でも何処かには抜け道が転がっているものでありまして。たとえそれが“自信を持つ”ってものに繋がらなくても、自分を低く見ないようにするってことは出来るのでしょう。

「自信は難しいから、とりあえず自分を低く見ない努力をしようと思う。で、俺ってどこらへんが低いんだ?」
「庶人相手にへらへらしているところや、腰が低いところだな」
「思春さん!? それってただの付き合いなんですが!?」

 そんなことも許されないんですかこの世界は!
 きっ……近所付き合いの“き”の字も許されない勢いだぞ!?

「それもだけれど、自分を軽く見ていると言っているの。どうせ、自分の代わりなどいくらでも居ると思ってるんでしょう?」
「む……まあ」

 正直、乱世を抜けてしまえば“天の御遣い”って名前にさほどの価値はない。
 俺が俺に出来ることを、って探し回っているのはその所為っていうのもあるだろう。
 みんなに会いたくて戻りたいと願って、会えたらそれで終わりってわけでもない。
 ただ……その。みんなの傍に居る男は自分でありたいとは思ってる。
 独占欲が強いんだ、結局。
 うううむむ、だめだ。難しく考えないようにって構えれば構えるほど、深みにハマっていく。どうしたらいいんだろう。もうなにもかも受け入れてしまえばいいのか?

「華琳。俺、難しく考えすぎだよな?」
「……今さらなに?」
「今さら!?《ガァーーーン!!》……い、いや、再確認したかっただけだから……うん。よしっ! じゃあもうなんでもズバッと決められる俺でいよう!」
「そう? なら早く子種を求める者に注ぎなさい」
「断る!《どーーーん! げしっ!》痛っ!」

 力いっぱい否定したら再び弁慶が泣かされた!
 思わず両手で弁慶を庇うようにすると、左腕にズキーンと走る激痛!

「お兄ちゃんが痙攣してるのだ! それ、なんて遊びなのだっ!?」
「真剣に痛がってるんですが!?」
「痛いのは繋がっている証拠だ。呂奉先を相手に命があっただけ、まだ良かっただろう」
「……両腕で来られた時は、胴体が千切れる未来が脳裏にチラついたよ」

 命拾いました。本当に。
 と、それはそれとして。

「と、ところでその……かかかっかかか華琳は、その……」
「?」

 痛みに涙を浮かべ、蹲りながら華琳を見上げる。
 胸を張って、下から見ると踏ん反り返っているようにも見える姿勢の華琳は、体勢を少しも変えないままに俺を見下ろしている。
 そんな彼女に俺は……エ、エート。

(コッ……コココッコココ子種トカ、欲シクハナイノデスカ?)

 …………言えるか!!
 いやっ、でもっ、一番最初は華琳がいいなって気持ちはホンモノでして!
 相当最低なこと思ってる自覚はあるんだけど、それでもやっぱりこういう気持ちは!

(でも……華琳って“他の人と”って推すばっかりで、自分はあんまり……むしろ全然)

 …………俺、一人で空回りしてるのかな。
 や、でも抱き締めた時、嫌がられなかったし……さっきから“でも”ばっかだな俺。
 いやいや北郷一刀よ、悩むより突っ走れだ。もう迷うな。
 悩むことは大事だ。そりゃ大事だ。しかしよく考えた上で出た答えはすぐに口にする。そんな勇気を持ちなさい。

「かか華琳! 華琳はそのっ……こここっここっ……子供っ! 欲しくないのカッ!?」

 顔がちりちりと熱を持つのを自覚しながら一気に言った! 言ってしまった!
 だがもう後には引けぬし退けぬし引かぬし退かぬ!! 幸運を! 勇気を!
 ……と、いっぱいいっぱいになりながら見上げる華琳さまは、硬直したままでございまして……しかしその顔がみるみる赤くなっていき、俺を見下ろしていた目がキッと鋭くなると、どこから取り出したのかも解らない絶を俺目掛けて振るってオワァアーーーーッ!!?

「くぅおっ!《ゴイィンッ!》」
「!?」

 咄嗟に伸ばした氣を纏わせた右手で、絶の刃ではない長柄の部分を押さえる。
 顔を逸らしていたからいいものの、あのまま動かなかったらサックリ行ってました……よね? つか、手が痛い。押さえた手の骨に柄がゴインとぶつかって、痺れてる。
 氣で勢いも威力も吸収、咄嗟に地面に逃がしたはいいけど、お陰で少し地面が少しヘコんだ。どんだけ力込めて振るったんですか、華琳さん。

「あの……華琳? 今わりと本気で殺しにきた……?」
「あ、かっ……ずっ……あなっ……あなたっ……一刀が妙なことを言うからよ!!」
「おおうっ!?」
「ここっ子供!? 子供と言ったの!? 私に!? 私が!?」
「や、ちょ……華琳? 落ち着こう? な、なんか目がぐるぐる回ってるぞー……?」
「うぅううううるさいわね落ち着いてるわよ!! ちょっと黙ってなさい!」
「はい黙ります!」
「それでどうなの!? 言ったの!? 〜〜〜〜……なんとか言いなさいよ!」
「どうしろと!?」

 顔をこれ以上ないってくらい赤くした華琳は、もはや何を言っているのか解らない。
 落ち着きなくあちらこちらに視線を彷徨わせるのだが、絶だけは俺の首に添えられたままでございまして。

「にゃ? お兄ちゃん、子供がほしいの?」
「ほほほ欲しいか欲しくないかでいえば欲しいカナッ!? もちろんそうなる前に、俺ももっといろいろなことが出来るようにならなきゃって思うケドサッ!? 学んでいる途中だってのにそれは気が早いだろとは思うし、きっと手も回らないんだろうけど───好きな人との間にカタチが出来るのは、それだけで嬉しいかなって」
「!?《グボッ!!》」
「うわっ!?」
「にゃー!? 華琳が真っ赤になったのだ!」
「か、華琳さま!?」

 絶をヒタヒタと俺の首筋に押し付けていた華琳の顔が、爆発するくらいの勢いでより赤くなった。目は潤み、涙が滲み、絶を持つてはカタカタと震えてイタッ! 痛い! ちょ、軽く切れてる! 切れてます華琳さん!

「か……華琳?」
「………」
「……華琳?」
「………」
「華琳? 華琳さーん?」
「───……」
「…………立ったまま気絶してる……」

 しかも目を見開いたままだった。なんか渦巻き状に見えるのは気の所為ですか?




 後半へ、続きます。   Next Top Back