124/鈍器殴打(ドンキオーダー)

 すたすたと歩く。
 背筋はピンと伸ばし、顔はキリッと。内面はズタボロで。
 隣には霞。
 途中でばったりと会って、なにやら声をかけてくれた。
 どうにも俺と華琳の会話を聞いていたらしく、いろいろと話を振ってくれるのだが……さっき華琳と会った時も、今こうしている時も、なんというか状況を楽しんでいるようにしか見えないのですが……?

「……俺、華琳に嫌われてるのかなぁ」
「嫌いやったら嫌いゆーやろ、華琳なら」
「そうなんだけどさ」

 好きと言ってもらいたいだけなんだ。
 それだけであと10年は頑張れる気がする……ただそれだけの願いなのに。

「それより一刀〜? これゆーのも何度目か忘れたけど、いろいろ偶然が重なったこともあるんやろーけど、恋に勝つなんてすごいや〜ん♪」
「ほんと、偶然ばっかり重なった勝利だよな……なのにたまたまだって言うと恋が拗ねる」
「そら、自分をしっかり武人と認めとる相手に“偶然で勝ったんだ偶然で”なんてのは、侮辱以外のなにものでもないやろ。納得できんことはそらもちろんある。けど、それら含めていろんなもん抱えて武器を持つんが武人や。それを、武器持っといて負けたから言い訳て。そんなん自分が許されへんわ」
「ん……まあ、みんなほどじゃないにしろ、それは解る」

 そのへんのこともじーちゃんに教えられたし経験もある。
 理由の様々があるにしろ、たとえば真剣を手に対峙したならどんな言い訳も死にしか繋がらない。鍛錬中だったからとかそういうのは、それこそ言い訳にしかならないわけで。

「霞はさ、やっぱりどうせなら強い男のほうがいいって思うか?」
「ウチ? そらそーや。もし一刀と会ぅてへんかったら、一生“好き”も知らずに死んどったんちゃう?」
「う……そ、そっか。じゃあ……子供が欲しいとか考えたりは?」

 ようするに自分が好きだと言われた気がして、思わず言葉に詰まる。
 しかし気を持ち直して質問を変えてみると、霞はけらけら笑いながら首を横に振った。

「戦えるんやったらそんでよかったし。子供おったら好き勝手に動けんくなりそーやもん」
「はは、なるほど。それは確かに霞っぽい」
「あっはっは、なんやそれ。ウチなんやからウチっぽいんは当たり前やん」

 話しながら歩くと、霞の性格からかこちらも自然と頬が緩む。
 そんな俺に気づき、ぐったり夢気分からココロが解放され始めているのを霞も感じたのか、彼女は俺の腕(折れてないほう)を掴むと人懐こそうな笑顔で前を歩き出した。

「元気出たみたいやし、このまま街にでも行かん?」
「行きません《きっぱり》」
「えー? 行かへんのー? 行こー? なー? 一刀〜」
「一応視察って仕事を預かってるんだからダメ」

 笑顔でそんなこと言われても、どう見てもからかってるようにしか見えません。
 霞って時々、雪蓮と行動が被るよな……酒好きだし、戦好きだし、女の子好きなところもあるし、猫みたいに気まぐれなところがあるし。ただ、雪蓮と違って常時そういうわけではなく、“雰囲気”の中に居ると随分と大人しくなる。
 雪蓮はどうなんだろう、そういうの。
 やっぱり“体が熱い”って言って襲ってくるのでしょうか。

「………」

 にっこにこ笑顔で俺の手を引いている霞を見る。
 元気に鼻歌を歌っているところを見ると、随分と上機嫌らしい。
 これで酒とツマミでもあれば大満足ってくらいの上機嫌だ。

「で、本当に街に行くのか?」
「んや? べつに視察なら視察で構へんよ。ただ、こういう空気の中じゃ、じっとなんて出来へんからとりあえず歩いとるだけやもん」
「そっか」

 前から好きなことには無茶を通す性格だった。
 街の祭りに参加して暴れまわって怒られるなんてことをしてたくらいだ、こうしてここでボーっとしているなんて、それこそ性に合わないんだろう。
 ただまあ、だというのに手伝いもせずに人の話を盗み聞いていたってことは、それを心配された結果として仕事を任されなかったのかもしれない。釘も刺されているのだろうし。

「霞は仕事とかないのか?」
「一刀がおらへん時、手伝っとる途中で我慢がでけへんよーなって、暴れもーてなぁ……以来、こういう祭りの時には周辺の見回りだけ任されとる……」
「……なるほど」

 簡単に想像できてしまったら、もう頷くしかなかった。


───……。


 さて。
 結局街にはいかず、霞と一緒に城内を見て回っていたのだが。

「おっ? 華雄」
「む?」

 金剛爆斧を片手に通路をてこてこと歩く華雄を発見。
 霞に呼ばれた彼女がこちらを見るが、あの……なんで斧持ち歩いてるんですか?
 そんな思いを霞が代弁してくれると、華雄は「ああこれか」と斧を見せる。

「武道会用の摸造だそうだ。今日渡されたから、感触を確かめている」
「おぉっ!? 出来とるん!? 何処で配っとる!?」
「や……霞? 配るってそんな、ティッシュじゃないんだから……」
「てっしゅ? なんやそれ」

 うん……なんだろね。
 遠い目をしつつも、斧が大量生産されて街中で配布される場面を想像してみた。
 …………怖かった。
 配布はないよな、配布は。じゃあ売るのならどうだろう。

(へいらっしゃい! 今日は金剛爆斧が安いよー! どうっ、そこの綺麗な奥さんっ!)
(あらいやだ、上手いんだからっ! じゃあ、三本くらいもらっちゃおうかしらっ!)
(へい毎度!)

 …………怖いよ!
 
「ん? どうかしたか?」
「い、いや……なんでもない」

 きょとんとした顔の華雄に訊かれれば、そう答えるしかない自分が居た。
 妙な想像はやめよう。

「よっしゃ華雄! ウチも摸造武器とってくるわ! そんで模擬戦しよ!」
「フッ……望むところ!《クワッ》」
「いや、クワッじゃなくて」

 視察はどうするんだーって言ったところで、走り去ってしまった霞に届くわけもなく。
 俺はしばらく“雰囲気”の在り方についてを考えた。

「………」
「うん? なんだ?」

 その先で、華雄が持つ“魏国製模造武器【金剛爆斧】”を見る。
 片手で楽々と持っている。
 筋肉が盛り上がっている様子もないし……「試しに持たせてくれ」と言ってみると、「模造だから別に構わんが……」と渡してくれ《ズッシィイイッ!!》

「おぶぉおおおおーーーーっ!!?」

 重っ……重ォオオオ!!?
 片手っ! 片手じゃ無理! どんな筋力してるの!?
 つか、模造だからって重さまで一緒にすることになんの意味が!? もちろん手に馴染ませるためですよね解ってましたごめんなさい!
 でもじゃあこれ持ってて筋肉が全然張らないってなんなんですか!? 筋肉の絶対量の問題!? ああもうこの世界の女性ってほんと怖い!

(でも好きなんだろう?)
(うるさいよもう!)

 脳内で、悪魔じゃなくて天使が囁いた。
 当然すぐにツッコんだが、顔が熱くなるのを止められない。
 恥ずかしさと、まあその、筋力的なものの所為で。

「ふっ、くっ! くぅううおぉおおおお……!!」

 なんとか落とさないように踏ん張るが、これはキツい。
 なので氣を籠めると、ひょいと持ち上がるソレ。
 ……それは、改めて氣の凄さを知った瞬間だったわけで。そうなれば華雄の顔をきょとんと見たくもなるわけで。

「どうした?」
「いや……華雄って氣とか使ってるのか?」
「小細工は好かん。というか使えているのかよく解らん」
「───」

 純粋筋力だこの人ォオーーーーーッ!!

(ば、馬鹿な……信じられん……! この細腕のどこにそれだけのパワーが……!)

 と無駄に“龍の球物語”っぽく驚いてないで。
 思わずまじまじと華雄の腕を見てしまい、つい触りたくなってしまう。
 やっ! 断じてエロス的な意味じゃないぞ!?

「華雄」
「なんだ?」
「回りくどいことはなしだ───腕を触らせてくれ!」
「……? べつに構わんが」
「いいの!?」

 あれぇ!? 断るとかあっさり言われると思ってたのに、なんか普通だ!
 あ、いや、触らせてもらえるならそれでいい……のか?
 まあ、そんなわけなんで金剛爆斧をハイと返して、それを受け取った右手の付け根……右腕をジッと見てから触らせてもらう。
 …………う、ううむ……氣が流れている感じはしない。
 無駄な贅肉はないものの、ゴツゴツもしてないし……ふにふにしてる。
 しかしその下には確かに緊張した筋肉があり、結構ギッチリしている。
 女の子ってもしかして、筋肉が目立たないように出来てるのか? それとも俺みたいに、目立たないほうの筋肉を育ててた……とか?
 どちらにしろ盛り上がるほどの大きさではないものの、その密度は凄まじい。
 ぐっと押すように触ってみれば、まるで鉄板のような硬さの筋肉がそこにある。
 なのに表面はふにふに……不思議だ。

「……もういいか?」
「へっ? あ、悪いっ」

 真剣な顔でぺたぺたと触っていた自分に気づき、バッと離れる。
 いやしかし……細いのに見事なもんだ。
 筋肥大よりも筋力を重視した鍛錬を重ねてきたんだろうか。

「………」
「?」

 じーっと見ていると、やっぱりきょとんとした顔で返された。
 えーっと。もしかして華雄って、氣とか使えない人?
 さっき触った時、他の武将にあるような力強い氣の巡りを感じなかった。
 春蘭にも凪にもそういうのはあるのに……華雄からは全然。

(春蘭は内側で爆発させて攻撃の威力を高めるタイプ……だよな。もし放出とか覚えたらどうなるんだろ)

 再び想像。
 ……氣が天を衝くのを見た気がした。
 8番目の最後の幻想の、天を衝く氣を振り下ろす技を思い出した。

「重くない……んだよな?」
「こんなものは慣れだ」
「うわー……」

 戦闘民族だ……戦闘民族が居る……!
 これでもし氣の扱いとか覚えたら、相当化けるんじゃないでしょうか……!?

「華雄、ちょっといいか?」

 言いつつ、もう一度触れる。
 今度は腕ではなく、背中に回って肩を揉む感じで。

「な、なにをするっ」
「まーま、リラックスリラックス……じゃなかった、楽にして。少し試してみたいことがあるんだ」
「試してみたいこと……?」
「えーと。華雄を武人と見込んでのお願いだっ」
「《キリッ》……ふむ。そう言われては引けん」

 いいんだ……自分で言っておいて、なんつーかひどいやり方だなオイ。
 ……さてと。じゃあちょっと、いつか桃香にやったみたいに氣を探って〜…………

(…………?)

 華雄を包み込むように氣を放出。
 呼吸のリズムまでを合わせて氣脈を探ってみるのだが、どうにも見つからない。
 桃香にあったような氣の色すら見つけられず、言うなれば無色の空洞が続いている感じで……み、妙ぞ。こはいかなること? 普通、誰にだって氣はあるんじゃなかったっけ?

「………」

 じゃああれだ。
 空洞である氣脈に、無色化させた氣を送ってみて〜…………あ。氣の反応が消えた。

「…………あれぇ?」

 消えた、というか、送った瞬間に食われたような感覚。
 試しにもう一度やってみるも、やっぱり蒸発するように無くなってしまった。

「む? なにやら急に活力が……」

 首を傾げる俺に気づくこともなく、背中を向けたままの華雄がゴフォォゥンと斧を振る。
 風を巻き込むように振るわれたソレは重苦しい音を出し、離れた場所にある草の数本をスパァンと切ってみせた。

『………』

 沈黙。
 え、えぇと……なに? まさかとは思うけど……華雄って練成された氣を常に戦に向けているタイプの人? いつでも戦闘体勢だから、氣が溜まることもなく常に消費されてる人?
 ウワー……ほんと小細工嫌いだー……しかも無意識だってんだから筋金入りだよ。

(でも……なんかカッコイイ……!)

 常に戦のみに氣を注いでいるって、日々是戦也って感じで……いや、血を見たいわけじゃなくてさ。超実戦流って名前が似合ってそうで素晴らしい。俺も祖父を師と仰いで教わってきた身だ。日々常に戦が出来る己であれとか言われたこともある。
 それを無意識のレベルでやってみせてるんだから、眩しく見えるのも自分で解る。
 ただその───

「? なんだ」

 氣を常に戦に使っている。しかも無意識に。
 その消費量が練成の幅を超えた時、彼女はきっとポカをやらかすのだろう。
 ほら、たとえば戦にしか目がいかなくなって、乗っちゃいけない挑発に乗るとか。一騎打ちになった時に前進しか考えられなくなって、張り切りすぎて氣が枯渇してズパーンと斬られてしまうとか。

「………」

 試してみたい。
 そう思った時、視界の先に飛龍偃月刀(多分レプリカ)を肩に担いだ笑顔の霞が。

「……これから霞と仕合をするんだよな?」

 死合ではなく仕合。ここ大事。

「当然だ。同じ重量に作られたものとはいえ、手に馴染まなければ意味がない」
「そっか。じゃあ───」

 自分の中の氣を解放!
 右手に収束させてから無色に変換させると、ズキュウウウンと華雄の中へと流し込んだ!
 途端に立ち眩みがするが、それよりも今はどんなふうになるのかを見届ける。とはいえ本当にふらふらするので、通路脇の柱に手をつくと、はふーと大きな息を吐いた。


……───。


 で、どうせならばと、二人は武道会の武舞台にやってきて向かい合っているわけだが。

「おおおおおおおっ!!」
「あ、あー……華雄? 華雄ー?」
「ふおおおおおおっ!!」
「華雄ー? 聞こえとるかー?」
「ほわあああああっ!!」

 華雄が壊れた。
 ここに向かってる最中にも練成した氣の悉くを流し込んでみたら、なにやら目をギラつかせて雄たけびをあげ始めた。

「はぁ……まあええわ。放たれとる気迫も十分。気合いも十分ときたら、やるっきゃないやろ」

 霞が偃月刀を構える。
 ドンと重心を落としたいつもの霞の構えだ。
 対する華雄は斧を両手で持ち、同じくどっしりとした構え。
 開戦を報せるのは俺の役目だ。
 静かな呼吸をしながら睨み合う二人の間に立ち、スッと右腕を挙げる。

『ッ───!』

 ギシリと空気が凍るのを感じる。
 手を挙げた瞬間に覚悟など完了させたのか、模擬戦でしかないはずのコレが、まるで本当の戦場に立っているかのようにな寒気を感じさせる。
 そんな空気に飲み込まれぬよう丹田に力を込めて、一気にこの手を───

「模擬戦闘! 一本勝負! 始めぇええい!!」

 振り下ろす! ───と同時に二人が地面を蹴り弾き、正面からぶつかり合う!

「つわっ!?」

 慌ててその場から離れるが、そうしている間にも連ねる撃は5を越えている。
 あんな重い武器同士だっていうのに、振りも戻しも速すぎる。
 本当に、この世界の女性はいろいろなところで普通じゃない。

「うぅぉおおおおおおっ!!」
「《ごぎぃんっ!》つあっ───!?」

 大振りの一閃を霞が防ぐ。
 完全に防いだように見えたそれはしかし、霞の足を地面から少しだけ浮かせた。

「おぉっほ! すんごい迫力やなぁ! 華雄とやってこんな冷や汗掻いたんは久しぶりや! もう慣れとったつもりやったけど、どこにそんな気合い隠しとったんや!」
「知らん! なにやら急にみなぎってきた!」
「急に!? 急にて、んなことあるかいっ!!」

 気迫と気迫のぶつけ合いは続く。
 前へ前へと愚直に突っ込む華雄と、それを受け止めてなお笑い、力技を混ぜながらも上手く立ち回る霞。
 レプリカの割りには飛び散る火花はホンモノで、それだけ本気でぶつかっているのだろうと俺でも解るのだが…………これってどうすれば終わりなんだ?

「ふんっ! ふんふんふんっ!!」
「っへへーんっ! そんな大振り当たるかいっ! そらっ、そこやっ!」
「甘い!《ギィンッ!》」
「へあっ……!? うぅわ嘘やっ! 今までこれ避けられたことなかったのに!」

 斧での大振りを避け、隙を穿っての霞の刺突。
 大振り状態であり、達人同士の攻撃だ。俺が隙を狙ってやるのとでは明らかに速度が違うそれは、しかし華雄が傾けた斧の長柄によって逸らされた。

(あー……ごめん霞、それは俺が華雄相手に最初にやった攻撃だ)

 あの時も華雄は即座に反応してみせて、俺の顔からオーバーマンマスクを剥がした。
 相手が霞だっていうのにそれを冷静に行って逸らすなんて、もしかして目で見るよりも華雄って冷静……?

「よく解らんが今日の私は絶対に負けない……そんな気がしてならない!」
「気がするだけかい!」
「気がするだけだ!」

 だが、と。続けて口にした華雄が金剛爆斧を振るう。
 霞はそれを両手で構えた飛龍偃月刀の柄で受ける。
 先ほどまでならそれをいなして霞が反撃に出るパターンだったのだが、

「ふんっ!《ボコォッ!》」

 気合一閃。
 ギュリィと金剛爆斧を握り締めた手。
 その先の細い腕が、見た目で解るくらいに隆起する。
 それに気づいた時には霞は防御の姿勢のまま吹き飛ばされていて、そんな空中の霞と視線が合った。「え?」って、目が語っていた。

「お、おわわっ……!?《ズザァッ!》っ〜〜〜とととっ……え? あれ? ウチ、今空飛んだ!?」

 やがて着地した霞がパチクリと目を瞬かせるが、既に華雄は駆けている。
 肉薄し、ハッとする霞へと振るわれる一撃は上から下へと振り下ろされる渾身。
 咄嗟に飛龍偃月刀を寝かせて両手で構える霞だったが、

「我が一撃、一閃にして瀑布が如し!!」

 水の一滴ではなく滝の一束であると放つ一撃が、霞が構え持つ飛龍偃月刀の柄を強打する。
 耳を劈く轟音と、直後に耳の奥に響くキーーーンという音。
 勢い余って武舞台を叩いた一撃はそのまま舞台に亀裂を生み、その上部……霞が構える飛龍偃月刀は、構えた彼女の手の中心でバックリと二つに両断されていた。

「フッ……武器破壊か。我が一撃もなかなか《ごすんっ!》いたっ!?」

 振り下ろした姿のままに目を伏せ、フッ……と静かに笑んでいた華雄の頭頂に、折れた飛龍偃月刀の刃の部分が叩き落された。……うん、いい音が鳴った。

「な、なにをする!」
「なにをするはこっちの台詞や! このだぁほっ!! どーしてくれんねんこの武器! 明日大会やってのに真っ二つて! お前どんだけ張り切れば模擬刀で模擬刀破壊出来んねん!」
「なにも考えずに渾身を振り下ろせばいい《キリッどごすっ!》はうっ!?」
「凛々しい顔で腹立つこと言いなやっ! そらなにかっ、ウチの飛龍偃月刀がヤワやっちゅーことか!」
「模造の耐久など知らん!」
「おーそーかい! せやったら今度はウチがその金剛爆斧を破壊したる!」
「お前には出来ないかもしれない《キリッどがすっ!》痛っ!」
「出来るかどうかはウチが決めることやドあほっ!」

 また飛龍偃月刀が華雄の頭に振り下ろされ、いい音が聞こえた。
 それからはギャーギャーと騒ぎながらの攻防が始まり、もうなにを持って決着とするべきなのかが解らなくなってしまった俺は、ただ呆然としたのちに……てこてこと歩き、そこらへんで作業していた工夫に声をかけ、手伝いを始めた。


───……。


 で……それからしばらく。

「うあーーーん! かぁあずとぉお〜〜〜っ!!」
「《がばしぃーーっ!》ほわぁーーーっ!!?」

 作業に夢中になり、汗水流しながらも笑顔になっていた俺へと、突然のタックル。
 何事かと見てみれば、霞さんが俺の腕に抱き付いてきておりました。

「な、なんっ……どうした、霞……」

 とりあえず冷静になろう。
 スッと息を吸って丹田に力を籠めると、キリッと表情を戻して語りかける。
 するとどうでしょう。霞が涙目になりながら俺に何かを見せてくるではありませんか。
 その何かは……無惨に砕けた飛龍偃月刀でした。
 ちらりと武舞台の上を見てみれば、砕けた斧を手にがっくりと項垂れる華雄の姿。

「あの……二人して武道会前日になに武器破壊してるの……?」
「か、華雄が悪いんよ!? ウチ悪ないもん!」
「どっちが悪いとかじゃなくて! 手に馴染ませるって話だったのに本気で破壊に走るからだろっ! あ、ぁあああもう! とにかく追加で作ってもらえるよう頼みにいこう!」
「あ、この際ホンモンでも───」
「祭りで凶器振り回すことは許しません!! いいから来る! ほらっ、華雄も!」

 祭りの細かなところは一応、書類などに目を通すことで知ってはいる。
 もっともそれはどこでなにをしているのか、程度のものであり、誰が何処で何をしているのかまでは知らない。
 だから朱里が象棋部門担当だったことも知らなかったし、何処に行けばレプリカ製作をしているのかは知っていても、誰がやっているのかまでは知らなかった。
 真桜だったりするのかなと考えながら、しょんぼりとしている二人を促して駆けた。

……。

「えっ……えぇえええっ!? こわっ……壊しちゃったんですか!?」

 最初に聞こえたのはそんな言葉だった。
 熱気と鎚を打つ音が聞こえるそこで、頭に布を巻いた青年がたまげていた。……そりゃそうだ。

「刃引きしてあるとはいえ、材質もそこまで変わらないはずなのに……」
「うう……ごめん。困った持ち主に渡ったと諦めてもらうしか……」
「えー? なんで一刀が謝るん〜?」
「キミたちが謝らないからですがなにか!?」

 鍛冶場。
 ごんごんと熱が吐き出される炉の傍で、汗水流して武具を鍛える人達の中、項垂れながらも状況を説明していた。
 驚かれるのも当然ながら、項垂れるのも当然の状況である。
 しかし話してみれば「材料費さえきちんと出してもらえるのなら」と頷いてくれる、快い青年。なんでも修行中らしく、腕を磨く機会が増えるのは望むところなんだとか。

「んんっ? つまりあれか? 修行中のあんたが作ったからあーも簡単に折れ《がぼしっ》んぐっ!? むー! むーーっ!」
「()ち方に問題があるとか以前に! あの材質を叩き折れる力を持ってるほうがどうかしてるんだってば!! あと壊しておいて偉そうに説教しようとしないっ!!」
「むぐぅうう……」

 痛いところを突かれたのか、暴れていた霞ががっくりと動かなくなる。
 そんなやりとりを見ていた華雄が「ほぅ……」と声を漏らし、顎に指を当てていた。
 ……ハテ? なにか感心するようなことしたっけ?

「でもいいなぁ鍛冶。男なら多分誰でも憧れるんじゃないだろうか」
「ぷはっ……そうなん? 一刀が鍛冶って…………たはっ、似合わんっ」
「いや、そんな吹き出されてもな。鍛冶はやり続けてこそ風格が現れるものというか。だから今の俺をそのまま鍛冶屋に見立てたって似合わないのは当然で、ほ、ほら、やり続ければ似合うかもしれないだろ? いやきっと似合うって!」
「や、そんな必死にならんでもええやろ」
「だ、だって自分の刀を自分で作るとかやってみたいだろ! そりゃ人殺しのためとかじゃないなら木刀でも十分だけど、作ってみたい気持ちは譲れません! 男だもの!!」

 丹念に鍛って、磨いて、完成する俺だけの刀……!
 それはどんなものも斬れて、どんなものよりもカッコイイ……!
 そんなものに憧れるのは、武器が好きな男の浪漫だと思います。
 ……現実がそーじゃないってのには気づいてる。でも、そんな夢に浸るのも浪漫だろう。

「一刀、今の武器に不満でもあるん? 氣ぃ飛ばせてかっこええやん」
「いや、あれは別にあの木刀だから出せるってわけじゃなくてさ。まあ黒檀独特のあの深い黒は、渋さも含めてかなり素晴らしいとは思うけど」
「……何気に自慢していないか?」
「はは……馴染んだものだから、やっぱりね」

 華雄に言われてまんざらでもない自分が居る。
 武器はいいね。
 コレクターになりたいわけじゃないが、こう……持っていると眺めていたくなる。
 黒檀木刀だって値段はとんでもないものだし、バイトで溜めた金の……4ヶ月か5ヶ月分くらいの値段かな? 時給のいいところで働けばもっと早く稼げるだろうけど、そもそもバイトが出来るならの話だし。……日本刀に比べれば安いもんだ。それでも高いけど。

「んー……考えてみれば案外悪ぅないもんやな。もう敵を斬る必要がないんやったら、一刀みたく斬れんものを鍛えてもらうんも」
「斬れる刃が無かったら無かったで、文句言いそうだけど?」
「……えへへー♪」

 言ってみれば、霞がにぱっと笑って右腕に抱き付いてくる。
 何事!? と思うより先に、

「一刀、ウチと羅馬行ってくれるんやろ? せやったら斬れる武器なんて無くても“楽しい”を探せるやん」
「あ……そっか」
「むっ? なんや、もしかして忘れとったん?」
「まさか。忘れたことなんて無いって。それどころか華琳に許可を貰ってたところだよ。都暮らしに慣れたら代役を立てて、旅に出れるくらいの休暇が欲しいって」
「え───ほんまっ!?」
「ほんまほんま」

 ぴょこんと出た猫耳(幻覚だろう)がハタハタと動き、きらきらと目を輝かせた霞が、腕に抱きついたまま俺を見上げる。
 一瞬見せた不機嫌そうな顔もどこへやら、犬の尻尾があれば千切れそうなくらいに振っているであろう喜びを隠そうともせず、きゃいきゃいと燥いでいる。
 それを横で見ていた華雄が口を開く。

「なんだ? 何処かへ旅に出るのか」
「羅馬を目指して、ちょっと」
「ほう……? ろうま……老馬、と書くのか?」

 感心した声を漏らしつつ、折れた金剛爆斧の柄で地面に文字を書く。
 それにズビシとツッコミを入れつつ、羅馬の字を書く。ついでに馬ではないことも伝えると、もう一度顎に手を当てて「ほう……」と納得する華雄。
 まあ、馬って文字があるから解らなくもないけどさ。
 ていうか、霞さん? こんなところで抱きつかれると、鍛冶場の人達が困ると思うのですが。いや、むしろ困ってる。先ほどの青年が「あ、あ〜……」って言いながら頬を掻いて、その師匠らしいおやっさんが「ここは愛情を鍛える場所じゃありませんぜ」とニヤケ顔でからかってくる。

「っと、そうでした。北郷さま、このたびは三国の同盟の中心になられたとかで」
「様はやめてくださいお願いします」
「うぇっ!? ほ、北郷さまこそそんなっ、敬語なんてやめてください!」
「むぅ……じゃあそっちも様をやめてくれ。俺も敬語はやめるから」
「いや……しかしそれは」

 困った様子でカリカリと頭を掻く。
 そうしながらもちらちらと俺の顔を見ては、「うぅ……」と唸っていた。

「頼むよ、せめて様以外で」
「と、言われても……あの。北郷さまこそ、少しご自分の立場というものを考えたほうがいいのでは……あっ、無礼なことを───」
「……え? 俺ってそんなに偉いの?」
「一刀……」
「北郷……」
「え? な、なに? なんでそんな、疲れた顔で……」

 呆れた声に視線を向けてみれば、霞も華雄も、目の前の青年も困った顔で溜め息を吐いていた。唯一、師匠っぽいおやっさんだけは笑っていたが。

「まあ、たとえそんなに偉くなってたとしても、権力なんて振り翳すつもりはないし……俺は国に返していきたいだけだから、身構えられるとかえってやりづらいとも思うんだ。三国にはそれぞれの国王が居るのに、それを結ぶ支柱まで怖い顔してたら、みんなちっとも休めないじゃないか」
「あー……♪ それって華琳が怖い顔しとるって言っとるんと同じ? な、同じ?」
「え゙っ!? あっ、いやっ!? コレハソノッ!? ちちち違う! 断じて違うぞ!?」
「せやなー、三国それぞれゆーとったし、三国の王の顔が怖いて───」
「違いますよ!? 違うからそんな人の弱みを掴んだ華琳みたいな顔やめて!?」
「ん、やめるー♪ やから昼奢ったって? それで忘れたる」
「…………ね? 俺の扱いなんてこんなもんだからさ……様とか、似合わないだろ……」
「あ、あはは……」

 泣きそうな顔で巾着を開く俺を見て、青年は困った顔で笑っていた。
 しかしそれでも真っ直ぐに俺の目を見て、苦笑のままでも言ってくれた。
 「でもそれは、きっと北郷さまにしか出来ないことですよ」と。

「そうかな。俺じゃなくても支柱の仕事なんて誰にでも───」
「無理です《キッパリ》」
「……そ、そう?」

 きっぱり言われてしまった。
 苦笑も混ぜたものだけど、目がマジでした。

「たとえば今噂の学校、という場所で見事な成績を修めた人が居たとして、今の北郷さまのように立ち回っていられると思いますか?」
「出来るだろ。むしろ俺よりも上手く」
「将のみなさんとも?」
「ゔっ」

 またしても想像してみる。
 …………頭がキレて運動神経もよい、素晴らしく好青年でした。って、想像の第一段階で既に故人っぽくなってる!?
 い、いやいやさすがにそれは! 考え方が悪かったんだって! な!?
 だから今度は冷静に〜〜…………朝起きて美羽と体操。食事を摂ったら勉強。警備隊の書簡整理。時間が空くと誰かしら部屋に突撃してきてその相手をして、華琳がデザートを作りなさいと言えば作って、材料が無くなれば駆けて、休憩時間が終われば勉強して、三日毎に鍛錬。へとへとになった夜は美羽が寝るまで話をして、寝てる最中も寝相の悪い美羽の蹴りで起こされて、朝起きて体操。もちろんこれだけじゃなくて他にもいろいろとございますわけで。
 あ、あれー……? なんでだろ。冷静に考えれば考えるほど、素晴らしい好青年が吐血して「もう無理ッス」って言ってる場面しか思い浮かばない。

「なにも夜逃げすることないだろ……」
「ん? 夜逃げってなに? 一刀がするん?」
「しない」

 俺の想像は、好青年が目尻に溜まった涙を輝かせて振り返る姿で幕を下ろした。
 なんでだろうなぁ……仕事は上手くやるのに、将のみんなとの付き合いで吐血するイメージばかりが浮かぶ。散々振り回されて、多少は上手くなったつもりの戦術を疲労……もとい、披露しても振り回されるばかりで、知力でも武力でも勝てずに心の芯をぼっきり折られる姿が…………なぁ、想像の中の好青年よ。ある程度のところで譲歩しておかないと、胃が死ぬよ……?
 と、想像の中の好青年にやさしく言えるくらいにはなっている自分が、少し悲しい。

「あっと。とりあえず資金さえ出せば作ってくれるんだよな?」
「はい、それはもちろん。無茶なものでもない限りはしっかりと働かせて頂きます」

 青年はドンと叩いた胸を張ってみせるが、途端におやっさんに「十年早ぇえよ、若造が」と笑われていた。
 ……なんかいいなぁ、こういう関係。青年も苦笑してる。

「んー……と……使わないやつで、なにか代わりになるようなもの、ないかな」
「おう、そんだったらそこいらに転がってるやつでも使ってくんな、御遣いさんよ」
「そこいら? ……おお」

 おやっさんに言われて視線を工房の奥に向けてみれば、ごろごろと転がっている(多分出来損ないの)武器たち。
 一応断りを入れてから工房の奥へと進むと、さらなる熱が体を襲うが、それよりも武器のことで頭がいっぱいでした。腕にしがみ付いたままの霞もそうらしく、転がっている武器に近付くや早速手に取って、自分が扱いやすそうなものを物色し始めた。

「おっ、焔耶の鈍砕骨みたいな武器発見。……こっちは猪々子の斬山刀みたいなのか」

 斬山刀(多分失敗作)を片手で握ってみる。
 ……しかし持ち上がらない。
 ならばと氣を籠めるとようやく持ち上がる重さに、鍛冶職人の腕力や技術力を見直すこととなりました。と、それはそれとして。

「んー」

 ちらりと霞を見る。
 ……さらし。前を開けた衣服。喧嘩っ早いところ。そして斬山刀。
 これって某浪漫譚の斬左さんみたいになれるんじゃなかろうか。

「霞、ちょっとこれ持ってもらっていいか?」
「ん? ええよー」

 疑問も抱かずに持ってくれた。
 そして片手で軽く振り回すと、スチャッと肩に担いでみせる。

「で、これがどないしたん?」
「……いや、やっぱり結構似合うな、って」

 斬馬刀だったらパーフェクトだった。なにがとは言わないが。

「おおっ? これって凪の閻王のレプリカか?」

 んむんむと頷いていると、その視界の隅に篭手と具足を発見。
 体術も浪漫だよなーと装着を試みるも、左手は包帯ぐるぐる巻き状態だから右手だけしか装備できない。しかもサイズが合わないからギチギチでとても痛いです。

(銀の手は消えない!《クワッ!》)

 ……もちろん、そんなことを心の中で叫んだところで、篭手が左手の代わりになるわけもなく。俺はがっくりと項垂れながら篭手と具足を元の位置に置いたのでした。

「んんー、たしかにこれで敵バッタバッタと吹き飛ばせたらおもろいやろなー♪」
「フッ……私ならばこの鈍砕骨だな」
「だと思った」
「やな」
「む? 何故だ?」
「いや、なんとなく」
「華雄が選ぶんやったらそれやろなーってな」

 片手で、見るからに重いだろって鈍砕骨をモゴシャアと持ち上げる。
 ああ、モゴシャアというのは地面に軽くめり込んでいたのを持ち上げたために鳴った音でございます。どんだけ重いんだ、あれ。
 おやっさんも青年も目を見開いて硬直してる。
 作ったはいいけど動かせなかったんだろうなあって予想が出来るくらいのモノだった。
 なのにそれを片手で、だもんなぁ。

「なぁ霞。華雄って武力は高いんだよな……?」
「戦だけなら相当強い……んやけどなぁ。馬鹿正直に突っ込むことしか知らんし、無駄に誇り持っとるから引き際も見極められん。冷静さを手に入れるか一層の力があれば相当なもんなんやろーけどなぁ……あ、でもさっきのは素直に驚いたわ。いつもの前に突っ込んでくる戦い方やのに、華雄の……どう言えばええんやろ。氣……とも違うし……空気? ああ、空気やな。それに飲まれるみたいに、思うように動けんかった」
「へぇっ……!? 霞でもそういうことあるのかっ!?」
「人間やもん、そらあるて」

 しかも相手が華雄だったのにか。
 “張遼”の武力って95とか96で、華雄は92とか93だっけ?
 その大体3くらいの差が、果たして俺の氣なんかで埋まったのかどうか。

「……目の前で軽くそんな重そうなの振り回してると、なんていうかそんな感じが全然しないな」
「ん……一刀はか弱い女の子のほうが好き?」
「好みがどうとかじゃなく、好きになったらその人が好きな人物像だな。自分が思い描いていた好きな人っていうのはアテにならないって、この世界で知ったよ」

 気が多いと言えばそこまで。
 節操無しと言われても仕方ないが、好きなのだ。それこそ仕方ない。
 誰かに言われて嫌いになれるものでもないんだし。

「……北郷。一度訊いてみたかったのだが……」
「ん?」

 華雄が鈍砕骨を片手で持ちながら、平然とした顔で問いかけてくる。
 ……あの。なんかソワソワするんでやめません? 武器置きましょうよ、一応。

「お前は様々な女に手を出したと聞くが───」
「ちょおっと待った華雄!」
「おおっ? なんだ、霞」

 華雄の言葉を遮ってまで待ったをかける霞。
 そんな彼女が真面目な顔でじろりと華雄を見ると、

「一刀は“手ぇ出した”んとちゃう。受け入れてくれただけや。誤解されやすいから言っとくわ。真面目に考えたら一刀から手ぇ出したことなんて、ほぼ無いと言っても許されるくらいや。大抵は迫られて受け入れるか、華琳に命令されるかやもん」
「……そうなのか?」
「まあ……実は」

 そう。種馬とか言われている所為で周囲からの印象はアレだけど、俺自身から迫ったことは案外少ない。自分から向かうことが少ないくせに雰囲気には流されやすい……まあ、気の弱いことだ。
 相手に恥を掻かせたくないって思うことや、なにより自分が相手のことが嫌いじゃないということもあり、受け入れ続けてきたが……相手が納得してなかったら、これってただの尻軽男だよなぁ……。

「ちゅーわけやから“手を出した”は心外や」
「ふむ、解った。そういうわけだ、北郷」
「へ? そういうわけって───」
「お前は様々な女を受け入れたと聞くが───」
「仕切り直し!? あ、いや、うん……続けて……」
「うむ」

 こくりと頷く華雄を前に、俺と青年は頭を掻いた。
 なんかこう……長くなりそうだなぁと思いながら。


───……。


 ……さて、話も長くなりそうなので、再び武舞台に戻ってきてから話をしていた俺達。
 その話も終わり、今は鈍砕骨を片手で持ちつつ舞台に立たせながら、顎に指を当て頷く華雄を前にしていた。

「なるほど。半端な気持ちで受け入れたわけではないと。色恋はよくは解らんが、霞とは知らん仲ではない。探るような真似をしてすまなかったな」
「華雄……あんた……!」
「きちんと知っておかなければ、霞がお前を壊しかねないからな」
「うぉおい!? そっちかいっ!!」

 鋭いツッコミであった。

「? 他になにかあるのか?」
「かっ……一刀を壊そうなんて考えるやつこそをウチが壊したるわ! っちゅーか華雄! この話の流れでどーしてウチが一刀壊すことになるんや!」
「お前は大事にしているものほど壊すだろう」
「うぐっ……す、好きでそうしとるんやないもん……」

 胸の前でつんつんと人差し指同士を合わせ、拗ねた顔をする霞。
 そういえば以前それっぽい話で、飛龍偃月刀の装飾の部分がどうので真桜と言い争いしてたっけ……。

「そ、それよりもやっ! そないなこと訊いてどーするつもりなん、華雄」
「ふむ。それなんだが……偶然とはいえ恋に打ち勝った北郷だ。その力を認め、腕が治ったら再戦願いたい。だが霞に壊され続けては治るものも治らな───」
「やからなんでウチが一刀壊すんやっちゅーねん!!」
「いや、正直私も戸惑っている。あの霞が男相手に抱きついたり笑ったり。思わずお前は誰だと言いたくなってしまった」
「…………そんな変わった? ウチ……」
「月に詠、恋や音々音、誰に訊いたところで頷くだろうな」
「うぅう……! ああぁもうええ! 構え、華雄!」
「応!!」

 顔を赤くした霞が斬山刀を。
 ニヤリと笑った華雄が鈍砕骨を構える。
 ……ていうかさ、二人とも? もうその武器、刃引きがどうとか関係ないよね?
 当たればグシャリとかグチャリの世界だよね?

「一刀! 合図!」
「あ、あーの、二人とも? せめて武器を軽いなにかに───」
「一刀!! 合図!!」
「うぅっ……あーもう解ったよう! ちくしょー支柱がなんだー! 結局みんな俺の言うこと全然聞いてくれないじゃないかー!」

 それでも切れない絆……プライスレス。
 “言うことを聞く=支柱の影響力”じゃないってのは解ってるから、べつに本気で怒っても悲しんでもいない。ただずっとそんな調子でいられても困るから、抗議はきちんとしなきゃいけない。

「鈍器戦闘! 一本勝負! 始めぇえい!!」
『っ───!!《ダンッ!》』
「ヒィ!?」

 合図のために振り上げた手が下りるや否や、二人は同時に疾駆して同時に武器を振るう。
 直後に鐘の端でも思い切り叩いたような音がこの場に響く。
 片や、相手の顔を見飽きればファイナリティブラストを放てそうな鈍器大剣の霞。
 片や、当たりさえすれば一撃で致命傷を与えられそうな大金棒の華雄。
 思うさまにそれらをぶつけ合い、鈍器で激しい楽曲を奏でるように幾度も鈍い音が響く。

「ふんっ! でぇい! せいやぁっ!」
「フッ! おぉっ! うぉおおっ!!」

 重さの所為もあってか、振る時に自然と出る声も気合の入ったものになっている。
 重苦しく風を切ってはゴドンガゴンと響く音。
 もちろん音を鳴らしたくて武器目掛けて振るっているのではなく、互いに相手を狙った結果とそれを防ぐために振るう結果が武器との衝突なだけ。
 見ているほうこそ心臓に悪い模擬戦闘を前に、俺はハラハラするしかない。

「う、うわ……本気で火花が散ってる……! 音がもう武器と武器の衝突って感じじゃないし、そもそも振る速度が人間的じゃないって……!」

 俺が振ったって、音で表すなら“ブンッ……ドゴンッ”程度だよきっと。
 でも目の前の剣舞……もとい、鈍舞は、“ヒュゴドガァン!”って感じの速度だ。
 あんなに重いのに普段の武器とそう変わらない速度で振るっている。
 俺ももっと氣を扱えるようになれば、あんなふうになれるのかしら。
 木刀でならばまあ……加速を使えばあそこまでいける……かな? いや、さすがにあの鈍器相手に立ち回るのは怖すぎる。焔耶相手にやったことはあるけれど、鈍器が自分の近くを通り過ぎるのってそれだけでも怖いんだ。
 そんなことを思ってしまうと、なんだか火花がこちらまで飛んできそうな気がした。なのでもう少し離れてみる。

「っつぅう〜〜っ……さすがによぉ響くわ……!」
「ふっはっはっはっはっは! なるほど! 当たれば敵を潰せるのなら、これほど効率のいい武器はないな!」

 で、離れた直後に華雄さん暴走。
 鈍砕骨を頭上に掲げ、両手でゴファンゴフォンと回転させ始めた。
 そして遠心力が乗りに乗ったところで一気に振りかぶり、霞目掛けて疾駆!
 霞もそれを見てニヤリと笑むと、手を庇うフリをして捻っていた体を一気に戻し、斬山刀の刃を武舞台に閊えさせると、それを閊え棒代わりにして渾身を振るう。まるで居合いの要領のように地面から解き放たれた鈍の刃は華雄が振り下ろす鈍へと向かい、本日最大の激突音を奏でると……双方ともに砕けた。

「嘘でしょう!?」

 思わず目を疑ったが、現実として鈍のカタマリがドッガゴッシャと武舞台に落ちていっている。二人は至近距離でキリッとした顔で見詰め合って…………少しののち、手を庇って震えだした。
 あ、あー……あんなのをあの速度でぶつけ合うから……。
 苦笑しながら二人に近付いて、引き分けを宣言。
 すると二人から“まだやれる”と抗議が飛ぶが、武器がないでしょーがとツッコむと、二人してしゅんとしてしまった。

「うーわー……」

 で、俺が見下ろす武舞台には、無惨に砕かれた鈍二つ。
 一欠けらだけでも結構な重さのソレなのだが、二人は戦う時以外はほぼ片手で振り回していた。
 ……少しifを想像してみる。
 たとえば全員を受け入れた未来。軽いもつれから喧嘩になる僕ら。
 そしてとある拍子に首を絞められる僕。……飛び散る鮮血空飛ぶ生首。

(ヒィッ!?)

 怖っ! 怖い怖い! でも腕力や握力があるってそういうことですよね!?
 さすがにおふざけでそんなことにはならないだろうけど、それはとっても怖いです!

「つか……せっかく代車───もとい、代えの武器もらったのに、早速壊してどーするんだよ……」
「あ……」
「む……」

 砕け散った瓦礫を見て、霞も華雄も困り果てた顔をした。
 そして少しののち、その目が俺へと向けられる。
 俺……便利屋でもなんでもないんだけどなぁ……。




ネタ曝しです。  *龍の球物語  ドラゴンボールのこと。  *8番目の最後の幻想の、天を衝く氣を振り下ろす技  FF8のブラスティングゾーン。  技的に好きですが、最初からガンブレードを前方に向けて構えてたらどうだっただろう。  オリジナル小説の技、レイジングロアはこの考え等から来ています。  *戦闘民族  某ゲームで言うところの野菜星人。  バーダックが大好きだ。  *超実戦流  グラップラー刃牙より、本部以蔵の流派。だったと思う。  *鍛つ  “鍛える”に“つ”を足して“うつ”と読む。  Fate/stay nightより。  中二病だのなんだのと言われようが、なんかステキと思えたら使ってみるのが人です。  でも「造語には読み仮名を振ってくれ」が、プレイ当時の僕の意見でした。  なんと読むのか解らなかったので独自解釈で“うつ”と読んだけど、  今でも合っているかどうかは不安でございます。  *お前には出来ないかもしれない  ダブルハードより。主人公の少し自信なさげなキメセリフ。  *某浪漫譚の斬左  るろうに剣心より、斬馬刀の左之助。通称斬左。ざんざ、と読む。  素手より斬左の方が好きです。でも一番好きなのは鵜堂刃衛。  *銀の手は消えない!  ロマンシングサガ3より。ミューズ様の夢の中にある防具の一種。  夢から出てくると全てのアイテムは消えるのに、銀の手は消えない。  サガシリーズで一番やったゲームです。二番目がサガフロンティア。  凍傷がやると龍神烈火拳を閃くのが何度やっても“ゆきだるま”でした。  黄龍剣のエフェクトが大好きです。  ロマサガ3ではハリード、サガフロではT260Gでプレイしておりました。  ……サガフロ2でギュスターヴばかりを育てていたのに、必ず死ぬと知ったときの絶望といったらもう……。  *ファイナリティブラスト  ヴァルキリープロファイルより、アリューゼの奥義。  突きの状態で突進、相手と擦れ違うと元の位置まで跳躍するとともに斬撃。  着地すると剣で敵を斬り上げ、爆発させる。  どうやって爆発させているかは謎である。  「てめぇの顔も見飽きたぜぇ」が掛け声。  後半へ、続く。 Next Top Back