144/王と遊び人と

【王のあそび】

 とある日の朝のこと。
 ドヴァーーン! と一刀の部屋の扉が開かれ、一人の女性が笑いながら突っ込んできた。

「はぁ〜いっ! か〜ずとっ!」
「うわぁっ!? なっ、だだっ、誰だよお前!」

 少し黒めの肌に桃色の髪。
 きゃらんと笑う顔は、大人のソレではなくまさしく子供をそのまま大人にしたような笑みだった。
 ご存知、元呉王さまの孫伯符である。

「あっははははははっ!? ほんとだほんとだっ、子供になってるー! どーしたのこれ! どうすればこんなになるのよーっ!」
「《なでくりわしわしっ!》うわっぷっ!? ななななにすんだよっ! 離せよっ!」
「うわーうわー! 口調も子供っぽくなっちゃって! あ、記憶も無いんだっけ!? ねぇちょっと華琳っ! この子呉で育てていいっ!?」
「いいわけがないでしょう、というか返事くらい待ってから開けなさい」

 一刀とともに部屋に居たのは、魏の王であり大陸の覇王である曹孟徳。
 一刀の仕事を見てやっていたのだが、思わぬ珍客にヒクリと口角を嫌な感じで震わせた。

「いいじゃないの、私と華琳と一刀の仲なんだから。あ、私とは“一応”初対面ってことになるのよね? じゃあえっと……こほん。初めまして、都の主。姓は孫、名は策。字は伯符。気軽に孫策って呼んでちょーだい」
「孫策!? そ、孫策!! オノレ! オノレ! ソンサクオノレ!」
「えっ? やっ、ちょっ!? なに!? なんなのっ!?」

 孫策。
 その名前を聞いた途端、彼の頭の中に華雄に叩き込まれた謎の怨敵意識が浮上した。

「ちょっと雪蓮、あなた私が見ていない間にいったい一刀に何をしたのよ」
「解ってて言ってるでしょちょっとー!! そんなニヤケた顔でよくもそんなことが言えるわねっ!」
「あら。私があなたとの会話中にどんな顔をしようと、私の勝手でしょう? それとも常時怒っていてほしいのかしら」
「常時ニヤケられるのもそれはそれで腹が立つわよ!! いいからちょっとこの子なんとかして!?」

 避ける雪蓮を追い、噛み付かん勢いでがうがうと襲い掛かる一刀。
 その目はぐるぐると渦巻状になっており、なんというか妙な洗脳を施された者のようになっていた。手はぐるぐるパンチ状態。実にグルービーだった。

「もうっ……落ち着きなさい!」
「《びくぅっ!》ぅわっ!? ………………」
「はぁ…………落ち着いた?」
「………」

 怒鳴られ、目をぱちくり。
 雪蓮を見上げるカタチで、ぼーっとしていた彼は、しかしはっきりと口にした。

「……なージョルジュ。ここって、おっぱいおばけばっかだな」

 直後、黒い笑顔で拳骨が落ち、一刀は痛がり、華琳は声を出した笑った。
 のちに「そういえば“じょるじゅ”って?」と訊ねられた一刀が、事細かにそれを話して聞かせると雪蓮が笑い、今度は華琳の拳骨が彼を襲った。

……。

 一刀が頭にたんこぶを膨らませつつ勉強に戻り、華琳が教師の役として立つ。
 そんな、先ほどまでの風景がもう一度戻ってくると、やってきたばかりの雪蓮はつまらなそうに部屋を見渡す。

「呉の時もそうだったけど、一刀ってば自分の持ち物が少ないわねー。なにか面白そうなもの、用意してると思ったのに」
「雪蓮。することがなくなったならさっさと出ていってほしいのだけれど?」
「えー? いいじゃない、することがないからここに来たんだし。まあ、元々都に来た理由自体が一刀を見るためだったわけだし、用事なんてここに来た時点で他になんにもないんだけどねー」
「仕事をしなさい。そもそも、あなたがここへ来る報せなんて届いていなかったわよ?」
「そりゃそうでしょ、出してないもの。隠居してからほぼ自由の身だし、民が都に来ることに許可が必要ないなら、隠居が来るのだって自由でいいでしょ?」
「屋敷に入るにはそれなりの許可が必要だってことくらい、知っているでしょう?」
「ああそれ? それがね、華雄が門番しててさ、目が合うや“戦えー!”って叫んできてね? そんなことより中に入れてって頼んだら“私に勝ったらいいだろう!”って。だから勝ったの」
「…………《さらさらさら》……一刀。ここに落款を落としなさい」
「? ほい《たんっ》」

 華琳が書いた書類に落款印が押される。
 華雄の減給についての書類だった。

「うわ、ひどいことするわねー……」
「天ではこういう時、“働かざる者食うべからず”と言うらしいわよ。言葉の割りに笑っているあなたはどう? 元王だからという理由に胡坐をかいて、怠惰の限りを尽くしていたりはしない?」
「平気平気。なんだかんだで冥琳と蓮華に捕まって、無理矢理手伝わされてるから。……自由に使っていいお金の数が減ったのは事実だけどね」

 くすんとわざとらしく鼻をすする雪蓮だったが、華琳は「自業自得でしょう」と切って捨てる。なんだかんだと長い付き合いになるが、この二人は変わらない。
 軽くふざける雪蓮を華琳が嗜め、時に華琳をからかっては雪蓮が笑う。
 まるで昔からの友人のように、その関係は重くない。

「時々思うのよねー……私と華琳が同じ場所で産まれてたら、私たち───」
「お互いに潰し合っていたでしょうね」
「あははっ、やっぱり? でも最終的にはこうして同じ部屋で笑ってたと思うわ。私が勝っても、あなたが勝っても。……もちろん、桃香が勝っても、ね」
「………」
「? なによ。不満そうな顔しちゃって」

 雪蓮の言葉に華琳が小さく溜め息を吐く。
 べつに雪蓮が勝った“もしも”や、桃香が勝った“もしも”が気に食わないと思っているわけではない。ただ考えることがあっただけだ。

「……そうね。もし、あなたが勝っても桃香が勝っても、みんな笑っていたのでしょうね」
「そうよねーって、言葉の割にはなにか続けたそうだけど?」
「ええ。ただし、“私が勝った場合”は、その限りではなかったと。そう言いたいのよ」

 目を伏せながら言った。
 それは自虐だろうか。
 適当な椅子に座って華琳を見つめる目はきょとんとしている。
 自分の机で勉強をしていた一刀も、言葉を発しながらも勉強を見てくれていた華琳の目をじっと見ていた。

「え、っと……なに? ちょっと意味が解らないんだけど。子供の勉強見てて頭おかしくなったりした?」
「相も変わらず堂々と失礼ね」
「だってそうでしょー? 華琳が勝ったから今があるのに、自分はその限りではないって」
「ええそうね。私だって別の誰かが言ったなら鼻で笑ってあげるところよ」

 「けどね」と続けて、華琳は一度言葉を区切る。
 それから一刀が筆を走らせる竹簡から視線を外して、自分を見つめる雪蓮へと向き直るとハッキリと言った。

「天の御遣いを拾っていなければ、どうなっていたか解らなかったと言っているのよ」

 一切の偽りを混ぜずに、けれど少々の悔しさを混ぜた言葉だった。
 表情はいつも通りにキリッとしている。
 言葉に見え隠れする動揺が、その意味を雪蓮に理解させた。

「…………そっか。そうね。反董卓連合の時や、それ以前に耳にした噂でも、実際に会ってみると“噂とはちょっと違う”って思った。違和感の正体は“御遣い”ってこと?」
「認めたくはなかったけれどね。誇り、意地、気高さ。それらを守るために“退くこと”を良しとせず、“そのまま突き進めば死んでいた”ということもあった。思い返してみればくだらない過去よ。今思えば、あの時の舌戦に桃香自身を出したのはいい策だったともとれるわね。桃香の理想を笑ったのなら私は退くことは出来ない。退くことをしない者を倒すことなどとても簡単。……結局、あそこで“御遣い”に止められなければ私は……」

 どう聞いても自虐。
 けれどその顔はどこか楽しげに見えた。
 あえて“一刀”と言わないのは、きょとんとしている小さな想い人に余計な混乱を与えないためか。

「赤壁の戦いでも似たようなことがあったけれど……まあ、これは言わないでおくわ。ともかく、“私だけ”で勝っていたなら、あなたたちが笑う世界があったかどうかなんて解らないのよ。もちろん半端な気持ちで天下をと立ったわけではないわ。私には私の目指した世があった」
「それはそうよ。でなければおかしいでしょ」
「ええ。けれどもね、時々笑ってしまうのだけれど……」

 小さく笑い、彼女は言った。
 少し驚いている雪蓮の目を真っ直ぐに見たまま。

「私も、あなたや桃香と変わらないのよ、きっと。私が目指した天下の世なんて、今この時からでも作り出せるものなの。桃香が目指す世が、雪蓮の目指す世が今からでも目指せるように、ね」
「……じゃあ、この天下は誰の天下よ」
「あら。訊くまでもないじゃない。私が目指したところでこの安穏に辿り着けなかったのだとしたら、そこに何が加わったことで“今”に辿り着いたのか。答えなんてそれだけで十分ではないかしら」
「………」

 言われて、ちらりと一刀を見る。
 小難しい話に飽きたのか、黙々と勉強をしていた。

「もちろん御遣いだけでは天下統一など不可能。私一人でも不可能。魏というものがあって、それら個々の意識を繋げる王と御遣いが居てこその今よ」
「以前の華琳では絶対に辿り着けなかったって言う気?」
「ふふっ……考え方の全てが変わったと言うわけではないわ。ただ───」

 机に頬杖をつく。
 おかしくて仕方が無いとでも言うかのように、その顔は笑みっぱなしだ。
 けれど目は真剣で、雪蓮も軽くからかうような顔つきながらも真剣に聞いていた。

「“敵に対して、私は先に拳を示す。殴って殴って殴り抜いて、降った相手を慈しむ。私に従えば、もう殴られることはないと教え込む”……舌戦の中、私が桃香に言った言葉よ。今でもこの考え方の根本を変えるつもりはないけれど、“ただ”、と繋げてしまうのよ」
「前より“殺すこと”に意味を見い出せなくなった〜とか?」
「ええそうね。殺すよりも生かして、別のことに活かす道を選ぼうという考えがまず出るようになったわ。もちろん、乱す気が無くなった者を限定的に捉えてのことだけれど」
「以前のかず……御遣いが捕らえた山賊なんかは乱す気しかなかったから、それはまあしょうがないわねー。まあ、いい意味でも悪い意味でも民たちへの刺激や戒めになったわよ。今の世の平和を乱す者は容赦なく始末される。それは御遣いが支柱に収まった今でも変わらない。そういう引き締めは必要だって、冥琳と話していたところだったしね」
「“甘い御遣いが支柱ならば、多少の悪さは許される”と思っていたでしょうからね。ともかく、そういうことよ」
「そういうこと、って……殴られる前に殴るが、多少待ってあげてから殴るに変わっただけじゃない」
「あら。とても大きな変化だと思わない? 自分の考えこそがと我を貫くことしか考えていなかった過去に比べれば、随分と落ち着いたものよ。もちろんなにもかもを否定してきたわけではないけれど、自分の道と違えるのであれば、私は“力”で潰してきたわよ?」
「………」

 一応全部聞いてはみたものの、雪蓮は軽く引きつつ「うわぁ……」と素直に口にした。
 それを見て満足そうに笑う華琳は、一度目を伏せてから「もちろんそれはこれからも、今を守るためにはしなければいけないことよ」と言う。
 “しなければいけないこと”から戦へ向けての思考時間が無くなると、自由な時間は乱世の頃よりは随分と増えたと言える。仕事が無くなることは当然無いが、趣味に費やす時間は増えたのだ。
 だからこそ酒も作れれば、自国のことを将に任せてこうして別の仕事も出来る。
 王の仕事というのは案外退屈なものだ。
 日々様々を考えることが主だが、あまり変わり映えがしない。
 下から送られる落款が必要な書類や、別の方向から送られる楽しくもない書類、何処だかでくだらない諍いが起きたことや、面倒ごとを纏めただけのゴミのような確認書類の整理。
 つまりは後処理がほぼなのだ。
 街の発展など輪郭さえ考えれば、あとは軍師任せでも完成する。
 暴動に備えての兵の調練も武官に任せられるし、どう育てればよいかも文官と武官が相談し合えば、よほどのことがない限りは良い結果に終わる。
 王がする仕事など、それらの確認と輪郭の構想と、視察や落款調印などなどだ。
 もちろんそれらの仕事が少ないかといえばそうでもないが、それら一つ一つを各国の将がきちんと取り締まり、整理すればするほどに数は減る。
 その結果が、こうして支柱の代わりを務めることが出来る今だ。
 戦をしていた頃の方がまだ忙しかった。

「えーっと。で、華琳はさ。これから目指すとしたら、どんなものを目指したいのよ。面白かったら遠慮なく笑ってあげるから、教えて?」
「その言葉の時点で十分に遠慮がないわね……。まあ、そうね。強いて言うのであれば、今の世を、これからの世を楽しむことの出来る時代を作りたいわね」
「へ? ……楽しむための?」
「ええそうよ。王という者はもちろん必要だけれど……言ってしまえばあなたと同じよ。天下統一は成って、民が、兵が、将が得物を取らずに住む世界には至ったわね。ええ、それはとても過ごしやすい世界でしょうね。けれど、ではそこまで人々を導いた王はどうかしら。平和さえ築いたなら用済みの人間ではなくて?」
「……ま、考えたことがなかったわけじゃないけどね。よーするに華琳は自分が余裕を以って楽しめる時間がほしいわけだ。言っちゃえば、誰かに王の座を譲って隠居生活〜とか」
「そこまでは言ってないわよ。あなたじゃあるまいし」
「《ぐさっ》…………何気に突き刺さる言葉言ってくれるわねー……。じゃあなんなのよ」

 早々に王を辞めるつもりはなかった。
 なにせ非道な王になったなら討ちにきなさいとまで言った。
 もっと、より一層に国というものが自分で歩むようになるまで続ける。
 それは自分にとっての責務といってもいいものだ。

「王の仕事はもちろんする。その上で、少しずつ民にも自分で立ってもらうのよ。そのための学校もあるし、それらを導ける知識を持つお人好しも居るわ」
「それって御遣いのこと?」
「ええ。退屈だけはさせてくれない、面白い知識を随分と提供してくれる“御遣い様”よ。私はね、雪蓮。非道な王になるつもりも、だからといって退屈に埋もれて死ぬ王になるつもりもないの。せっかく手にした天下を、手にしただけで満足するのは勿体無いでしょう? だから楽しむのよ。今の世も、これからの世も」
「へー、いいじゃないそれっ。あ、じゃあ手始めになにするのよ、私も混ぜなさいっ」
「手始めに、まずは“したことのないこと”をしてみるつもり……だったのよ。あんなことにならなければね」
「あんなこと? …………あ〜ぁ……」

 ちらりと見れば、勉強が終わってなにやらポーズを取っている一刀少年。
 なんとなく賢そうなポーズを取っているらしく、眼鏡をつけているわけでもないのに眼鏡の位置を直すような動作をしていた。

「んん? かず……御遣いが必要で、したことのないこと? …………子育てでもしようとしたの?《ズパァンッ!!》はぶぅぃっ!!?」

 にんまりとしながら、一刀を見ていた視線を華琳に向けた途端、どこから出したのかも解らないハリセンが雪蓮の頭部を襲った。

「〜〜ったぁあーーーい!! ちょ、ちょっとなによそれー! どっから出したのー!?」
「一刀が天での遊び用に作ったものよ。“じゃんけん”をして、勝ったほうが叩いて負けたほうが防ぐ、というものらしいわね」
「防ぐって、手で? ……丁度退屈だから、それやらない?」
「手ではなくて、この兜でよ」
「兵のじゃない、それ。子供が持つには、っていうか遊びでやるには重いんじゃない?」
「一刀が頼んだら真桜が一日で作ったわよ」
「………」
「………」
「ま、まあ過程はさておき、さっさと始めましょ」
「そうね。雪蓮、じゃんけんは知っているかしら」
「呉でも子供たちがよくやっているわよ。学校の影響ってすごいわね。人を通じて各地に広まってるんだもの」
「それと同様に、いらない知識が広まるのは遠慮願いたいところね」
「そこはもっと大きく構えてもいいんじゃない? そりゃ私も前は不安に思ってたけど、今のところ問題らしい問題も起こってないんだしさ。胸が小さい分、懐はおっきくーとかさ、あははははっ」
「………」
「………」

 同時にふふっと笑った二人は一刀の机を挟み、華琳がコサッと置いたハリセンと“安全第一”と書かれた軽量メットとを見つめ、頷き合う。
 やがて二人の緊張がいい感じに高まった瞬間───!

『じゃんけんぽんっ!』

 再び同時に動き、二人の手が異なる形を取る。
 勝利した華琳がハリセンを手に、流れる動きで雪蓮を叩きにかかるが、それを雪蓮がメットで防ぐ。

「ちぃっ……さすがに早いわね……!」
「ちょっと……ねぇ華琳? 今、殺気……放ってたわよね?」
「さあ? 気の所為じゃないかしら」
「へーえ……あぁそー……ふーん」

 睨み合う。
 顔は微笑みに満ちているというのに、見る人が見れば二人の間に視線の火花が散っているようにさえ見える空気がそこにあった。

『───じゃんけんぽんっ!!』
「もらったぁっ!」
「甘いわよっ!《ボコッ!》」
『じゃんけんぽんっ!』
「このっ!」
「《ボコッ》あははっ、遅い遅い〜っ♪」
『じゃんけんぽんっ!』

 しばらく、攻防は続く。
 どちらも武の心得があるだけはあり、双方ともに器用に攻撃し、防いだりを繰り返していた。
 …………のだが。

『じゃんけんぽんっ!!』
「もらっ《スカッ》って、え、な、ちょ《ズパァンッ!》ふぴゅうっ!?」
「あ゙っ……!」

 何度も連続で行われたソレはしかし、段々と夢中になり、目が落ち着いたものから虎の目に変異した雪蓮のミスにより、華琳の頭頂にハリセンが落ちることで停止。
 もちろん叩いた方もハッと正気に戻って、華琳の頭の形にヘコんだままのハリセンと俯いたままカタカタと震えている覇王さまとを見比べているわけで。

「…………《くいっ》」
「ひぃっ!? あ、やー……あの、華琳〜……?」

 顔を上げた華琳が、無言で机を指差したまま腕を上下させる。
 さっさとハリセンを置け、と言いたいらしく、顔は笑顔なのにその笑顔がとても怖い。

「どうしたというのよ雪蓮。遊びなのだから、遊びで決着をつけなければ終わらないじゃない。ああそうそう、取る物を間違えた時点で“お手つき”として、一度の敗北ということになるそうだから。決めていなかったけれど、勝利数は3回先に取った方の勝ちとしましょう? ええ……とてもとても楽しそうね」
「あ……そ、そうねー……その、楽しい、のかしら……ね……?」
「そして私が勝ったら勝者権限で力いっぱいあなたを殴るわ《ニコリ》」
「えぇえぇっ!? か、華琳!? 落ち着きなさいって! 目が凄く怖いわよ!?」
「……大丈夫よ。あなたの前でだけだから」
「その言葉を言われて嬉しくないって思える日が来るなんて思わなかったんだけど!?」

 ……その後、二人の女の戦いは続いた。随分と長く、いつしかいっそ血生臭いほどに。
 ただし武器がハリセンであるからして、血は出なかったものの痛いものは痛かった。
 ズパン、パカン、ビシャンッ、ボコォッ、様々な音が鳴る中で、二人はいつしか周囲のことさえ気にならなくなるほどに熱中していった。
 殺気さえ放つほどの熱中っぷりだが、これで結構仲はいい…………はず。

「このっ……いい加減当たったらどうなの! ……っしょ! ちぃっ!」
「一撃一撃にっ……このっ! っしょっ! それだけ殺気込めておいて……っしょ! よく言うわよ! っしょ! まったく!」

 既にじゃんけんの合図も“っしょ”だけとなり、忙しく手を動かしてはギャーギャー。
 そんな騒がしさの中にあって、一刀少年はその体裁きに「ほぉお〜〜……!」と興奮していた。自分でもあそこまで出来るだろうかと、ショーウィンドウ越しのお高い楽器に憧れる少年のような純粋な瞳で、二人の攻防を見守っていた。

「っ……きりがないわね……。いっそ“めっと”で殴ってくれようかしら……!」
「ひえっ!? ちょ、ちょっとー!? いくらなんでもそれは危ないでしょー!?」
「だったらその勘頼りのくせに防御率が異常な反射速度をなんとかなさい!! 散々防がれて、理由を訊けば“勘が当たらなかったら危なかった”!? どうなっているのよあなたの勘は!」

 真面目に武力を練磨する武官や兵らを馬鹿にするなとばかりに繰り返される攻撃……と防御。ジャンケンルールなので、攻撃だけしていては反則負けだ。
 しかしここに来て渾身の一撃が放たれ、防がれた瞬間。とうとうハリセンが度重なる攻防に耐え切れずにモゴシャッという奇妙な音とともに破れた。

「…………!」
「…………っ……」

 両者、地味に肩で息をしながらの睨み合い。
 傍から見れば“遊びでなにもそこまでムキにならなくても”と言いたくなるような光景ではあるが、ムキになれるからこそ、心から夢中になれるからこそ“遊び”とは楽しいのだ。
 そんな、見ている人は引き、当人達は燃え上がる状況の中、華琳は少年を見ぬままに声を発する。

「一刀」
「うわっ!? は、はいっ!?」

 さすがにあんな攻防乱舞を見せられた後で、生意気な口は利けなかった。
 ビッと姿勢を正した一刀は続く言葉を決して聞き漏らすことのないよう、姿勢に続いて気も引き締めて───

「……別の遊びを教えなさい」
「……ホエ?」

 ───そのまま、脱力したという。

……。

 次なる遊び。
 言われ、思考した一刀が用意したものは、ハリセンの残骸と用済みになった適当な厚紙だった。
 それらを整った形に切ると、紙の束にそれぞれ一枚ずつ文字を書き込む。
 いわゆるトランプもどきだった。

「とらんぷ? ……まあ、名前はこの際いいわ。それで、何が出来るの?」
「二人ともすっげー腕とか早かったから、やっぱりスピードだろ!」
「すぴーど?」

 さて。
 机に積まれた二つの紙の束。
 それから四枚ほどを二人の前に並べて、彼は説明を始めた。

1:二人の間に二枚のカードを置く

2:そのカードの数字の前後の数字が手持ちの札にあれば、それを乗せられる

3:数は1〜13までであり、1が中央にあった場合は2か13が置ける

4:手持ちに札が無い場合、4枚まで山札から引くことが出来る

5:手札は常に4枚を維持すること

6:ただし連続して出せる札がある場合は、全部出してから補充しても良し

7:双方ともに出せる札がない場合、二人同時に山札から一枚札を出す

8:出す際には掛け声的なものがあると良し。一般的には「スピード」

9:先に山札を0にした方の勝ちとする

 以上の説明をしつつ、華琳が厚紙に書かれた数字に修正を入れる。
 文字通り1〜13だったので、文字を変えたのだ。

「……ええ、遊び方は解ったわ。つまり的確に数字を認識する速度、手の速度、ともかく速度が必要な遊戯ということね?」
「そゆこと。自分から見て右が自分の山札な」

 軽い説明を混ぜての実践をしてみせると、華琳と雪蓮はにやりと笑った。
 二人で不敵に笑いながら、やはり机を挟むようにして立ち、その机に両手をどっしとついて戦闘体勢に入る。

「じゃ、合図で同時なー。せーのっ───スピード!」
『っ!』

 二人の手がシュバッと動く。
 目は真剣そのもので、自分の手札と相手の手札、中央の札を何度も忙しく見つめ、次から次へと自分の手札を減らしてゆく。

「弐、壱、弐、参……!!」
「肆《ダンッ》あぁちょっと華琳っ!? そこ私が置こうとっ……って言ってる暇はないわね……っ!」

 出せる札が無くなれば次。
 そのまた次も出せなかったら次と、山札の数が減ってゆく。
 しかし四枚をキープしながら次々と出しているにも係わらず、手の速さは速いままで息もてんで乱れていない。それどころか二人とも戦でもしているかのような獣の光を目に浮かべ、口はうっすらと笑っていた。
 そんな状態での殺気さえ満ちるトランプゲームは続き───

「そこぉっ!」
「《ダンッ!》っ……!? くっ、次がない……ですって!?」
「はい伍、陸、伍、肆、参っ! あ〜がりっ!」
「なっ……!」

 果たして、戦に勝ってみせたのは元呉王、孫策であった。

「あっははははははっ♪ 面白いわねーこれっ! 特に相手が置こうとしたところに割り込んで置く瞬間っ! 相手が悔しがってるところに続けて置いて、しかも勝てるなんて最高じゃないっ!」
「〜〜〜っ……一刀っ、次!」
「え、えぇっ!? え、と……次、次は〜……」
「あ、ちょっと待った。次の前に、私が勝ったんだから華琳になにかしてもらわないとね〜? 確か華琳は私を力いっぱい殴るつもりだったんだから、勝者権限で私にもそういうものがあってもいいのよね?」
「くっ……ええ、二言は無いわ。好きになさいっ」
「じゃあ……」
「《もにゅり》ふわぁっ!? ちょっ……雪蓮!?」
「いや〜〜〜……桃香がよく揉んだりしてたから、一度触ってみたかっ《コポォーーン!》はぶぅぃっ!?」

 勝者権限を行使して華琳の胸に触れた途端、彼女の頭をメットが襲った。
 のちに……“とても小気味のいい音が鳴った”と、少年は語る。

「いったぁあーーーーいっ!! ちょっとなにするのよ華琳っ!!」
「権限行使をするにしてももっとましなことに使いなさいっ!!」
「自分は私を殴るつもりだったくせによく言うわよー! ていうかそれにしたってこれで殴る!? 頭にすごい響いたわよ!」
「うっ、うるさいわね! 大体さっきの勝負だってあなたのお手つきで私が勝っていたんだから、丁度その清算をしたと考えれば十分でしょう!?」
「〜〜っ……だったらもっと揉ませなさいよねー!? これじゃあ割りに合わないわ!」
「なっ、ちょっ……させるわけがないでしょう!?」
「なによこのけちんぼ! 覇王のくせに懐狭くて胸もちっさいなんて、小覇王って華琳のためにあるような言葉じゃない! 譲ってあげるから今日からそう名乗ればいいんだわこの“じょるじゅ”っ!!」
「《ぶちり》っ……〜〜……こ、ここっ、ここここのっ……! 一刀!! 次よ! 次の遊びを準備なさい!」
「えぇえぇっ!? や、でもさっ、俺これから鍛錬」
『さっさとするっ!!』
「はぃいいっ!!」

 かつての王二人にギンと睨まれ、怒鳴られれば従う他ないでしょう。
 それはきっと、民であっても兵であっても、将であっても。

……。

 一時間後。

「………………これっ!」
「ふふっ、生憎ね。“ばば”よ」
「うぇえあぁああっ!!?」
「ふふふふふふっ……体ばかり成長したあなたにはぴったりの札ね」
「さっき自分だって持ってたのによくそこまで言えるわよねー……! ほらっ、さっさと引きなさいよ」
「なー、ねーちゃんたちさぁ……。ババ引くたびに悪口言うの、やめないかー……?」
「悪口ではないわ。お互いの闘争本能を引き出しているだけよ」
「うんまーそういうことよ、一刀。心配しないでも私が勝つからだいじょーぶ」
「はい、それじゃああがりよ」
「え? あ、あれっ?」
「ねーちゃんだっせー……」
「《ぐさっ》うぐっ……ちょっと華琳! ばばに細工したでしょ!」
「妙な言いがかりはやめてもらえるかしら。私はあなたのように卑劣な手は使っていないわよ。ええ、あからさまに札の端に傷をつけておくような卑劣な真似は、ね?」
「わっ、バレてたっ」
「……ねーちゃんだっせー」
「うわっ……改めて言われた! くぅう……次! 次よ!」
「その前に勝者権限を行使させてもらうわ。雪蓮、目を閉じて顔を突き出しなさい」
「え? や、あの、華琳? 私、あなたと違ってそういう趣味は自国の者にしか」
「なにをたわけた妄想してるのか知らないけれど、その綺麗な顔に髭を描いてあげるから、早く突き出しなさいと言っているのよ」
「いくらなんでもやりすぎでしょそれー!!」
「ねーちゃん、さっきジョルジュに“負けた奴が逆らうなー”って言って笑ってたよな」
「《ぐさり》ふうぐっ……! …………〜〜〜〜」
「そうそう、それでいいのよ、ふふふっ……ふくっ……ふっ……あはははははは!!」

 髭が、描かれた。
 それは普通に過ごしていたのでは決して見ることの出来ない光景であり、華琳はそれはもう笑った。一刀が警備隊の編成にいろいろと手を尽くした時のように、しかしさらに腹の底から。

「…………か〜〜り〜〜〜ん? 次負けたら、どうなるか解ってるわよねー……?」
「ようは負けなければいいのでしょう? 受けて立ちましょう」
「……小覇王のくせに《ぼそり》」
「あ、あなたねぇ! 自分の通り名をそこまで虚仮にして楽しいの!?」
「楽しいわよぅ! だから次よ次! その綺麗な眉毛をぶっとくしてやるんだから!」
「なっ……なんて恐ろしいことを考えつくのよあなたは!」
「華琳に言われたくないわよ!!」

 女の戦いが続く中、少年は思った。というか言った。「女って怖ぇえなぁ……」と。

……。

 一時間後。

「あっははははははははは!! あはははははっ!! あはっ!? あはははははは!!」
「〜〜〜〜〜…………!!」

 連敗に続く連敗で、顔がすっかり黒くおなりあそばれた麒麟児さんと、その視線の先に居る太い黒眉毛の覇王様。
 とうとう勝利を治めて眉毛を描いた瞬間、彼女と少年は笑い転げていた。

「かっ……一刀。少し黙りなさい」
「やっ、やっ……だってしょーがないだろっ!? ねーちゃんのこと笑ってるとき、ジュルジュだって“もっと笑ってやりなさい”って言ってたじゃんか!!」
「くぅっ……!」

 腹筋が痛いのか、腹を押さえながらもよろよろと歩いた雪蓮が手鏡を持ってくる。
 まずはそれを自分が覗いて自分で爆笑。さらに華琳に渡して、固まる華琳を見て爆笑。
 華琳もいい加減口角がヒクついていたが、負けたのは事実だと受け入れると……諦めたように笑った。
 ちなみに途中で思春が一刀を迎えにきたのだが、中に入って雪蓮の顔を見た途端に顔を背け、いずこかへ走り去ったまま戻ってこなかった。

「は、はー……はぁ〜〜〜ああああ…………。ふぅ、それで、もういい加減やめるんだよな? 遊びのネタ、もうないよ。道具があれば別だけどさ」
「……ええ、そうね。随分と久しぶりに騒ぐことが出来たし、今日はもういいわ」
「あっ、じゃあもう一回っ、最後に一回だけやりましょっ!? そして私が勝ったら今日一日中その眉毛でいること、って勝者権限を───」
「今すぐやめるわよ」
「えーっ? なんでよー」
「……あなたね。その顔でその条件、逆に突きつけられたいの?」
「やめましょう《キリッ》」
「……でしょうね。あと、その顔で凛々しい顔つきになってもおかしなだけだからやめなさい」
「描いたの華琳でしょー!? ていうか、これ落ちるんでしょうね……落ちなかったらもう呉に帰れないわよ私……」
「ええそうね。私の場合は魏に帰った途端、春蘭と秋蘭と桂花があなたを殺しにかかるかもしれないわね」
「眉毛で始まる戦争なんて聞いたことないわよ……あ、一刀、ちょっとお水もらってきてくれる? 桶にたっぷり」
「川行った方が早くない? 流せるし」
「…………それもそうね」

 頷いてみれば早かった。
 すぐに出かける準備をすると、部屋を出て川を目指す。
 ただし、覇王や元王様などは顔を厳重に隠した状態で歩き始めた。

「……なぁねーちゃん。前、見えなくないか?」
「……少し見づらいかも。ね、一刀。手、繋ぎましょ?」
「え? や、いいけど」

 歩いている途中にキュムと握られる手は、散々っぱら遊んだり笑い転げたりした所為で熱くなっている。なにもこんなになるまで笑わなくてもとは思ったものの、自分も笑ったのだから人のことは言えない。
 そんなことを苦笑しながら思っていると、逆の手が華琳に掴まれた。

「んあ? ジョルジュ?」
「だからその呼び方はやめなさい。……いいから、早く川へ行くわよ」
「ん。連れていけばいいんだよな? まっかせとけっ」

 珍しくも頼られていることが嬉しいのか、一刀はニッコニコ笑顔だった。
 そんな笑顔を見下ろすに至り、二人は“やっぱり子供だ”と再確認する。
 ……頭に大量の布を巻きつけた状態で。その風貌はまるで黄の王ジェレマイアの如し。
 通路や町を通る中、様々な人が驚いていたが、顔はともかく服装を見ると誰もツッコんだりはしなかったそうな。

……。

 川である。
 さらさらと流れる水の音が耳に心地よい。
 すぅ、と息を吸えば、少しだけ心が安らぐのを感じた。
 しかしその場に立っている二人は“黄衣の冠”を身に着けたような二人で、安らぎとは程遠い存在だった。

「なぁ……二人とも、そんなに巻かなくてもよかったんじゃないか……? どうせ服装でバレるんだしさ」
「だとしても、いろいろと問題があるのよ……!」
「華琳はまだいーわよー! 私なんて顔がほぼ真っ黒じゃないのー!」
「あら。戦って勝ったのだから、それくらい当然でしょう? だからこそ私も甘んじて受けたのだから」
「……眉毛でっかい状態で言われても、笑い話にしかならないわね」
「ぐっ……! あ、あなたねぇ……!」

 ともあれ取っ払った布を傍に置いて、川で顔を洗い始める二人。
 幸いにして多少は梃子摺ったものの墨は落ち、二人は一刀に落ちたかどうかを確認させると心底安堵の溜め息を吐いた。
 一応二人で確認してはみたものの、雪蓮は嘘をついているかもしれない、華琳は面白がって嘘をついているかもと互いに疑り合っての一刀への質問。
 悪戯書きを残したまま民の前に出るわけにはいかないのだから、仕方ない。

「おー……! なんか見たことない虫が居る……! なんだこれ……!」

 二人が溜め息を吐いている中で、一刀はといえば川辺の石をどかしたりして虫探しをしていた。よく解らないウゾウゾとしたものが発見されたが、それは日本では見たことのない生き物だった。

「はぁ……子供は暢気でいいわねー」
「おかしなことを言うわね。そういう、子供が笑っていられる天下が欲しかったから戦っていたんじゃない」
「まあ、そうだけど。……はぁ〜……なんかいいわよねー、こういうの。平和って感じ」
「それこそおかしなことよ。事実、平和なのだから当然じゃない」
「どうしてそういう捻くれた言い方しか出来ないのかしらね〜華琳は。華琳ってば、当然のことを当然として受け止めすぎよ。もっと面白い捉え方とか出来ないの?」
「余計なお世話よ。というか、当然のことを面白おかしく受け止めるという行動の意味こそが解らないわ」
「ようは楽しく生きろってことよ。“天下の曹孟徳”って、音に聞けば震える者は数知れず。でも、怖いままだと畏れでしか統率できないじゃない。それこそ“支配”よ。だから、もっと心を柔らかくして楽しみましょって言ってるの」

 川の傍の大きな岩に腰掛け、足を組み───その上に頬杖をつくようにして、雪蓮はけらけらと笑う。
 華琳はそんな彼女を見て、少しの思考ののちに溜め息を吐く。

「恐怖と平和は表裏一体にした方がいいのよ。逆らえばどうなるかを私が教え、静かで居ればどれだけいいかを一刀が教える。ただ平和なだけの天下など、いずれ刺激を求めた馬鹿が崩しにかかるわ」
「だからって四六時中尖ってる理由にはならないでしょ? ……い〜い顔してたわよ? 私とムキになって遊ぶ華琳」
「なっ!」

 普通の生き方をしていたら、自分はどうなっていたか……考えなかったわけではない。
 しかし、それは今となってはどうでもいいことだ。
 自分は確かに自分の欲しいものを手に入れ、目指した理想に辿り着き、失くしたものまで戻ってきてくれたのだから。
 だが、果たしてそれで満足していていいのだろうか。
 日々平和になり、揉め事も減り、大半の仕事を他へ回せるようになった昨今。戦のための作戦などに回す時間が無くなった分の隙間は、確かに大分自分のための時間を作ってくれた。
 だからこそ酒を作ったり街を見て回ったり、こうして一刀の代わりに都を纏める仕事をすることも出来る。
 それは確かに新鮮ではあるし楽しいとは思う。
 だが。

「ねぇ華琳? 一度、全部忘れて楽しんでみたらどう? 王だのなんだのなんて忘れて、政務なんてものも忘れて、ただひたすらに楽しむの。言っちゃなんだけど、悪くないわよー? 一度味を知ったら、なんていうかこう……もう堅苦しい王の仕事なんてしたくないなーって思えるくらい」
「あなたは一度、思い切り仕事をするべきだと思うわ」
「へー……じゃあ、私が仕事をする代わりに華琳が遊ぶ、っていうのはどう? 一日中いろんなことが出来るわよー? お酒の世話も自分で出来るし春蘭や秋蘭と一日中話せるし、桂花をいじめ続けることだって出来る。……ていうかそうしなさい。例え話を挙げようとしても、ろくな行動がないじゃない。面白味がないと、いつか一刀に嫌われるわよ」
「なっ、あっ、あなたにそんなことを言われる筋合いはっ───!」

 言われ、バッと川の方を見る。そこでは一刀少年が即席で作ったらしい釣竿のようなもので釣りをしていた。どうやら枝と蔓とで作り、針は特にないらしい。自分の名前が出たような気がして、「んー? なんか言ったー?」と声を張り上げている。

「や、だって考えてもみなさいって。仕事仕事仕事で、お酒のお世話も桂花にやらせて、たまに休みが入れば春蘭と秋蘭を連れて美味しい食べ物を求めて徘徊。言葉で相手をいじめて、失敗を見つければあとで可愛がってあげるわーって。……娯楽らしい娯楽がてんで無いじゃない。私だったら絶対に気が狂うわよ」
「……人の楽しみ方をとやかく言う権利があなたにあるのかしら?」
「権利はなくても発言の自由くらいはあるでしょ。別に華琳にとっての悪いことを言ってるわけじゃないんだし。ていうかさ、真剣に考えてみなさいって。仕事漬けで、趣味が春蘭とか桂花虐めで、料理が好きで。そんな相手と一緒になって、一刀が疲れないと思う? というか、一緒になった一刀が楽しめると思う?」
「………」
「少しくらい“普通の楽しみ方”を知っておくのも、悪くはないと思うのよねー、私は」

 葛藤。
 様々な考えが頭の中で高速回転して、しかしそれを顔には出さずに処理する。
 だが素直に受け取るのはなんだか癪だったので、やはり出てくる言葉は皮肉を混ぜたような言葉だった。

「……そうね。あなたが珍しくも仕事をするだなんて言っているのだから、受け入れてみるのもいいかもしれないわね」
「ふふっ、はいはい。仕事の方は任せときなさいって。こう見えても本気を出したらすごいんだから」
「………………期待しないでおくわ」
「ちょ、ちょっとー! そこは嘘でも期待しておくところじゃないー!?」

 言ってはみたが、少し、自分のあり方についてを考える双方だった。
 そんな二人の様々な考えなど知ることもなく、一刀少年はてんで釣れないお手製釣竿を見てケラケラと笑っていた。




ネタ曝しです。  *ぐるぐるパンチ  烈士烈海王のぐるぐるパンチ。  でもあれって当たると結構痛いですよね。  *ぐるぐるパンチでグルービー  私立! ジャスティス学園!!  エディットキャラを大して育成させずに使用できるようにすると、なんか使える。  「ぐるぐるっ! パァ〜〜ンチ!」の声がステキすぎました。  ジャス学は2より1の方がエディットキャラの声がよかったなぁ。  *黄の王ジェレマイア  ダークソウルより。  絵画世界の外れで、生身の状態だと出現する闇霊。  倒すとイバラムチが手に入って、絵画世界から出る場所でジェレマイアの死体を発見、  調べると黄衣の冠などの一式装備が手に入る。  デモンズソウルでもあった、渦巻き状のデカイ布装備。  向こうほど幅広くはない。    94に続くアマス  ところで94って文字を見るとKOFを真っ先に思い出すのは自分だけでしょうか。 Next Top Back