【プロローグ1】

 キィイイ……ビジュンッ……

中井出「…………っと、景色が変わったか。やっぱ飛ばされたんかなぁ……。
    あれ、でもあんまり景色変わらない……いや待てやっぱり変わってる」

 やあ僕博光。
 今日はそう、フカヒレに別れを告げた先の世界からお知らせするよ?

中井出「うむうむまあなんだ、過ぎてみれば素晴らしき。仰げば尊しとはよく言ったもの。
    “つよきす”の世界はよかったな、やっぱり学園ものは生きてるって実感がある」

 ウムスと頷いて、前の世界にさよならを。
 最後の別れの相手がフカヒレってのもまたオツってもんです。
 ほんとにベジータボイスだったから笑った笑った。いいやつだったなー、フカヒレ。
 今頃はみんなで旅行か。せめて全部楽しんでから別れたかったよ。

中井出「…………で、だ。景色が変わってるっつーか……なんで俺、ちっこいの?」

 ハッと気づけばがきんちょになっていた。
 や、こういうことは何度かあったから、事情はまあ解ってる。
 体が勝手にこうなるってことは、この世界に俺が適応するのに必要ってことだ。
 つまり今は子供であることが都合がいい状況ってわけであり……この世界は、まずガキンチョ状態から始めるべき世界ってことだ。
 えぇと、で、俺は何をすれば次に行けるのだろう。
 もちろん友や仲間を作ってこの世界を堪能するのもアリなんだが、目的意識を持ってないといろいろ危険なんだよなぁこの世界旅行。長生きの秘訣は刺激とはよくいったもんだ。

中井出「まあ……とりあえず歩くか」

 誰が情報をくれるわけでもないんだ。
 俺独りで歩くしかないのだものね。

───……。

 一日目がフケる。うろついても平和な町があるだけでした。
 つーか寝る場所がない。
 やべぇどうしよう。……と言う必要もないか。

中井出「よぅし! 今回もまたいろいろ偽装して家建てちゃおう!」

 身分証明だのなんだの、生活に必要なものを創造! 怪しまれたらブレイカー!
 この博光、もはや都合に従うことなどやめた凡夫! 凡夫って言葉、結構好きです。
 なので適当に家建てたら学校にでも通おう。
 うむ、実にクソガキャチックであるな。


───……。


 2日目。
 この場所が川神市って場所であることを知る。
 多馬川という名の多摩川があります。どうやらこの世界じゃあ川崎市が川神市になっているらしい。
 いつかフロシャイムが引っ越してきそうで、ドキドキしている僕が居る。
 そして建てた家も……まあその造形はアレだがきちんと住めている。
 住民票も作ったさ! 保険証とかもバッチリ! 社会に適合するンだッッ!!
 でも相変わらず一人ぼっちです。いいけどね、慣れたし。

中井出「これで何年目だっけ。あいつら元気にしてるかな……」

 別れることになったみんなを思う。

  “いつか忘れられたその時に、世界の最果てで”

 いつになるかも解らない、果たされるかも解らない約束をして別れた。
 真理の扉にもう一度会うことがあったら、今度は破壊してやろう。勝手に見せて、勝手に弾いて。

中井出「……ご丁寧に忘れられる呪いだけは残ってやがる。
    受け容れた呪いだから消せやしねぇし」

 ぼやいても仕方ないね。よぅし多馬川でスッポン捕まえてメシにすっべー!


───……。


 3日目。
 探検してみると、これで結構広い世界に安心する。
 そういうふうに出来ているのか、あくまで“その世界”で行ったことのある場所にしか行けないのがそれらの世界のルールらしく、こういった世界で自分の故郷を探したところで永遠に辿り付けない。
 で、ハテまでGO!と意気込んだ僕はとぼとぼとそこらへんの原っぱを歩いておりましたとさ。

中井出「OH?」

 するとどうでしょう。
 そんな原っぱで遊ぶ、二人の男を発見した。
 やっぱりヤングメンとしては、ここで声をかけないのは違うでしょう。

中井出「これ! そこな二人!」
?? 「あぁ?」
?? 「フッ……これは珍妙。この場所にわざわざ足を運ぶ愚か者が居たとは」
中井出「うわーいすげぇ子供っぽくねぇのが混ざってる!」

 声をかけてみた相手は、頭に赤いバンダナを巻いた元気っ子の男と、なんか妙に悟った顔した少年だった。

?? 「なんなんだよお前。ここは俺達のナワバリだぞー」
中井出「うむ。我は博光。中井出博光である。
    最近ここらに出没した右も左も解るナイスガイだ」
?? 「……なんか大和みたいにヘンな喋り方するやつだなぁ」
大和 「心外だな。俺はこんな気品の欠片もない喋り方などしない」
?? 「まあいいや。名乗られたなら名乗り返さないのは男じゃねぇ。
    俺は風間翔一。で、こいつが直江大和。
    中井出っていったっけ? ここにはたまたま来たのか?」
中井出「博光でよい。そしてうむ。真のブシドーとは何かを知るために、
    俺より弱いヤツに会いに行く旅をしている」
翔一 「弱いやつと戦ってどーすんだよ!
    強いのと戦って打ち勝つことのほうがカッコイイじゃねーかっ!」
大和 「フン……解っていないな翔一。
    ヤツは会いに行くと言っただけで、弱いヤツと戦うなど一言も言っていない。
    注意ではないな、ククク、それは油断というのだ」
翔一 「妙な言い回ししてないできっぱり喋れよ……」

 なんかいろいろ愉快な二人らしい。
 でもまあ面白そうだ。

中井出「なんか面白そうだしこの博光も仲間に入れてくれ」
大和 「採用試験があるが?」
中井出「いいだろう。その条件───どんなものでも飲んでやる!」
翔一 「おおっ!? なんかそのタメかっこいいなぁ!」
大和 「クク、では条件を出そう。俺達を楽しませてみろ。それだけでいいぞ」
中井出「ぬう」

 わあ、厄介なのできやがった。
 こりゃあ彼らが楽しくないって言ったらいつまで経っても許可が降りん。
 だが甘くお見でないよ? この博光に楽しいを要求したらもう───

翔一「ぶははははははっ!! だーーーっはっはっはっはっはっ!!」
大和「ぷっ……〜〜〜ぷはっ! あはははははははっ!!」

 たった5秒でコレモンよ。
 なにをしたかは秘密ですが。

翔一 「おまっ、おまえおもしろいなっ! いいぜっ!
    ずっと二人で、いい加減退屈するかもって思ってたし!」
大和 「ふぅ、俺としたことが取り乱してしまった。だが、認めてやるのも一驚か」
中井出「それ、一興の間違いだからね? あ、ところでキミらの通うガッコってどこ?
    どうせならそこに入るわ俺」
翔一 「おおっ、一種の冒険だなっ! でも好き勝手にガッコ選べるなんて何者だよお前」
中井出「博光である! それ以上でもそれ以下でもない!
    なわけだから今からソッコー手続きしてくッかンヨ!
    また明日にでも会おうぞ! フハハッ! ハァーーーッハッハッハッハッハ!!」

 言うだけ言って退散。
 さあ、やることが増えてきました。どーせ何をすれば終わる世界なのかが解らんのなら、思い切り楽しまないと損だってね。


───……。


 翔一や大和とツルむようになってからしばらく。どこからかおなごがやってきた。
 一子、という名前の泣き虫だった。
 孤児らしく、どこぞのおばあさんが引き取ったお子らしい。

中井出「なんか……お前の声聞いてると、詠ちゃん思い出すなぁ」
一子 「えいちゃんて……誰……?」
中井出「この博光の、大切な仲間の一人である。ま、それよりほら、お菓子をあげよう」
一子 「う、うん《ぼとり》あっ……ふぇええ……」
中井出「あぁこれこれ泣くんじゃあありません。てかスゲー速度で落としたなオイ。
    まあいいや、この博光の分を差し上げよう。ほら、口をあけなさい。あーん」
一子 「ぐすん……あ、あーん……」

 三人から四人に。

───……。

 ……。

ガキャア「おうおめぇらか! 最近ここらへんででかい顔してるやつらってのは!」
翔一  「そうだ! 人呼んで……風間ファミリー!」
中井出 「おお、仲間に入りたいのだな貴様!
     フハハハハハ! いいだろう! 特別に仲間に」
ガキャア「ちげぇよっ! 最近調子に乗ってるみたいだから、
     俺様が潰しにきてやったんだよ!」
中井出 「そっちのもう一人は?」
??  「あ、僕はつきそいで……師岡卓也っていうんだ」
中井出 「モロオカ……ステキな苗字ッスネ。どうも、中井出博光です。
     大変でしょう、頭の中まで筋肉でいっぱいのダチつくると……」
ガキャア「うるせーよ! とにかく!
     俺が勝ったらこの遊び場を俺様に《マゴチャア!》おびゃああーーーっ!!」
中井出 「よっしゃ勝ったーーーっ!」
大和  「出直せィ!!」

 ナックル一閃、黙ってもらいました。
 しかしすぐに起き上がり、顎を拭って襲いかかってくる!
 お、おおお!? 子供の腕力とはいえ、結構強めにいったのに……!

中井出 「よろしい! では試験をしてやろう!
     俺に一発当てられたら、キミも僕らの仲間入り!」
ガキャア「ハッ! 余裕だぜぇ!」
中井出 「《どごっ!》へぶっ!」
ガキャア「ほおらみろぉ! 余裕すぎて───」
中井出 「ようこそ、風間ファミリーへ」
ガキャア「へど、が………………あれ?」
中井出 「お? なんだ? もしかして男のくせに、勝負内容を確認しないで殴ったの?
     しかもそのくせ後になってからいちゃモン? お? マジで?
     へー! ほー! ふーん! …………男らしくねー……」
ガキャア「ぬぐっ……!? お、おぉおおおおっ……!
     俺様は島津岳人だ! よろしくされてやるよこのやろー!」
中井出 「お友達が増えるよ!」
翔一  「やったねヒロちゃん!」
卓也  「なんかもう、めちゃくちゃだね……」
大和  「クク、ここは概ねこんな感じだ」

 四人から六人に。

───……。

 ……。

岳人 「ちくしょう! あいつら上級生だからって調子に乗りやがって!」
卓也 「仕方ないよ、それにあの人数だし……」
翔一 「……助っ人が必要だな、このファミリーに。用心棒みたいな格好いい存在が」
中井出「ぬう……せめて我とガクトが居る時に来ていれば、血祭りにあげられたものを」
岳人 「ひきょーなんだよあいつら!」
大和 「…………俺に考えがある」
中井出「なんですって!?」
大和 「相手が上級生ならこっちも上級生だ。
    川神百代って知ってるだろ? あの人に、頼み込んでみる」
岳人 「しょ、正気かよ! あの川神百代だぞ!?」
中井出「そうだこのタコ! 正気かテメー!!」
卓也 「いや確認だけでそれは言い過ぎでしょ!」
中井出「俺、モロのそういうツッコミ、好きだよ。
    で川神さんっていえば、川神院の娘さんだったよね」
翔一 「そう。無敵って話だぜぇ……用心棒には最適だろ!」

 翔ちゃんがバンダナを縛り直してゴシャーンと歯を輝かせた。
 なるほど、無敵人種を味方に……それは素晴らしい。

中井出「面白い人だといいなぁ」
大和 「味方につけるならいろいろと下準備が必要だな。俺が行こう。
    相手が何を好きでどんな条件を好むかを調べてくる」
中井出「お、俺も行くぜ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 当時4年だった僕らは、一子(ワン子)を人質にとられ、6年のガキャアに初めての敗北を味わった。俺とガクト(筋肉担当)が駄菓子を買いに行っていた隙をつかれての出来事だった。
 用心棒が必要だ。誰かがファミリーを守っていられるために。
 狼はそこまで群れを生さんが、家族は意地でも守る。あれ? それってコヨーテだっけ。

……。

 そんなわけで武術の最高峰、川神院。
 そこの娘さんを前に、俺と大和はゴクリと喉を鳴らした。
 ぬうう……お子だというのにこの尋常ならざる力の波動……! 将来が楽しみ……!

百代 「ふぅん、話は解ったぞ。面白そうだな」
大和 「力を貸してくれるのですか?」
百代 「ああ。修行修行で退屈していたところだ。ただ条件があるな」
中井出「なんと!? ぬうう、了承してから条件を持ち出すとは……! なんぞや!」
百代 「そっちのお前。私の舎弟になれ」
大和 「え……? 舎弟……?」
百代 「そうだ。川神院では娘であろうとヒイキはせず、同じように修行をさせる。
    私は兄弟子たちにコキつかわれて、いい加減ストレスも限界だ。
    だから私も舎弟が欲しい」
中井出「息子をお願いします……!」
百代 「任されたっ……!」
大和 「こっちの了承もなしに!?」
中井出「だがそうすれば力を貸してくれると! さあ気にしないでひと声! 姉さんと!」
百代 「お、解ってるなお前。姐御とかはなんか違うんだ。私のことは姉さんと呼べ」
中井出「ではこの博光のことは適当にどうぞ。僕も適当に呼ぶから」
百代 「百代さんでいいぞ。謙虚だからな」
中井出「うるぼれるでない! 貴様なぞモモンガで十分ぞ!」
百代 「…………早速暴れたい気分なんだが、いいか?」
中井出「いいだろう! ならば僕が勝ったら貴様とは対等の関係でいさせてもらう!」
百代 「勝てたらな!」
大和 「え、や、ちょっ……わわわ解った解った、舎弟になるから姉さん!」
百代 「おお……可愛いやつだなお前は。お姉さんゾクゾクしてきたぞ」

 六人が七人に。
 ちなみにこの契約がもとで、大和は成長したあともモモの舎弟扱いになっている。
 ご利用、契約は計画的にね!

百代 「あうっ!」
中井出「成敗!」《ジャーーン!》
百代 「ま……まけ、た……!? わたしが……!?」
中井出「ホーホホホ、まだまだ甘い甘い。
    おぬしは確かに強い“KI”を持ち合わせておる……じゃが、まだまだだ。
    KIが強いだけで、生かしきれておらぬのだ。持ち腐れというやつだな」
百代 「ぐ、くっ……ま、まけ……負け……!」
中井出「悔しいか? ……悔しいのなら、精進せい。
    負け無しで通ってたなら、もう一度勝って挽回すればええ。
    川神院にはこのことは報告せぬよ。
    本当に悔しいのならば、きちんと修行もするじゃろうしのう」
百代 「〜〜〜〜っ……!!」
中井出「おうおう、ものすごい目つきよ。だが、知りなさい。
    今のままではこの博光には到底敵わん。強くなりなさい。
    戦うことが楽しいというのなら、この博光はこの高みでキミを待とう。
    ……と、それはそれとして、勝ったから年下年上関係なく付き合わせてもらおう」
百代 「《なでなで》うわっ!? な、なんで頭撫でるんだ! 馴れ馴れしいぞ!」
中井出「そういう条件だったから。うむうむ、モモはかわいいなぁ」
百代 「かわっ……く、くそっ!
    次には絶対に勝って、この条件を無くしてもらうからなっ!」
中井出「勝てたらの。勝てたら」
百代 「くううっ……! おいっ! 喧嘩売ってきたってやつはどこだ!
    そいつでうさばらししてやる!」
中井出「うむうむ、ついてらっしゃい」

……。

6年生「や、やめろよ! 俺は釜中の三宅くんを知ってるんだぞ!」
百代 「よし、そいつも連れてこい。二秒で片付けてやる」
中井出「12人相手に二秒だったくせに、それ言うかいモモ」
百代 「いいんだよ、時間がかかるだろうって思ったほうが楽しいじゃないか。
    弱すぎるんだ、こいつら」
中井出「弱すぎる? 違うな……キミが強すぎるのさ」
百代 「…………」

 やあ、睨まれた。

百代 「次やったら勝つのは私だからな」
中井出「もちろんだ。それまで励まれよ。
    川神院にはキミの敗北は知らせてないから、
    思い切り鍛錬して、それからかかってくるがよい」
百代 「人の無敗記録にケチつけたのはお前が初めてだよ……」
中井出「世界は広いですから。で、こいつだけど───」
6年生「ひっ……」
中井出「翔一の耳に、ピアス穴だ〜とかほざいてコンパスで穴空けやがったそうだな。
    人が居ないのをいいことに、人質までとって。
    消毒もしていない薄汚ぇコンパスで、人の仲間をよォォォォォ……!!」
百代 「ん? 怒ってるのか?」
中井出「当たり前だ。家族を傷つけられて怒らぬコヨーテはおらぬ。
    貴様はどこに穴あけてやろうか? 同じく耳か? それとも……!」
6年生「やめろ、やめろよっ! お、俺は本物のワルなんだぞ!?
    子猫だって平気で殺せる!
    俺になにかしてみろ、今度はどんな手を使ってでも───!」
中井出「───モモぉ。俺、なんだか急にあの建物の三階に行きたくなっちゃった」
百代 「奇遇だなぁ。わたしもだ」
6年生「え、え───!?」

 その後。ギャースカわめくお子を三階……いわゆる屋根から突き落しました。
 度胸試しで高いところから飛び降りるーどころではなく、おもむろにドーンと。

中井出「おいおいィィィィ、危ないだろぅ、こんなところで足滑らせてェェェェ」
百代 「まったくだなぁ。いくら度胸試しとはいえ、
    後輩に格好いいところを見せたかったとはいえ、やりすぎだろう?」
翔一 「お、おいおいやりすぎだろ……!」
大和 「うわ……あれ、足イってないか……?」
6年生「うぐっ……い、いたっ……いた、いた、い……!」
中井出「これからはよォ……遊び場とかにゃあ気をつけようなぁ?
    人様の家庭に勝手に入り込んできていいわけがないだろぉ?」
百代 「そうそう。不法侵入すれば警察行きだ。
    それを一緒に遊んでやるっていうのに足を滑らせるなんて」
6年生「ひ、ひぃいいいいいいいっ!!」
百代 「あ、それとな。猫を殺すなんてフザケた話を聞いたら、
    今度はもっと高い場所で遊びたくなるかもな」
中井出「まぁああた誰かさんが滑っちゃうかもなぁああ……!」
6年生「もっ……もうしませんっ……こ、今回は僕が勝手に足を滑らせたんです!
    だからもうっ……!」

 こうして、6年に奪われたナワバリを取り返しました。
 ちなみに用心棒のモモは、俺に必ず勝つと言うわ、ファミリーが気に入ったとか言うわでなし崩し的にファミリーに。
 一子はモモの強さに惚れ込み、随分と懐くようになった。

百代 「はっはっはっは、いい子だ」
一子 「《なでなで》ほわぁ〜〜……」
中井出「こうして見ると姉妹みたいだなぁ」
百代 「姉妹か。いいなぁ、弟分だけじゃなくて妹まで出来た。
    ここはいーなー、居心地がいい」
中井出「はっはっはっは、いい子だ」
百代 「《なでなで》ってどうしてわたしを撫でる!」
中井出「対等だから。わはは、悔しかったら勝ってみせい」
百代 「ぐぐぐぎぎ……! じじいみたいなこと言いやがって……!」

 ファミリーも随分と賑やかになりました。
 いいことです。

───……。

 そのしばらくあと。
 ようやくガッコに入る準備が出来て、僕はガッコに行くことになった。

先生 「今日からこのクラスに転入する───」
中井出「フハハハハハ! 覇王・中井出博光である!」《どーーーん!!》
翔一 「おー! 博光じゃねーかぁっ!」
中井出「おお! そこなる者は我が友、風間翔一ではないかっ!
    む? 大和はどうした。同じクラスではないのか?」
翔一 「あー、大和なら別のクラスだぜ。
    なーんでか全員一緒のクラスにならないんだよなー」
中井出「むう……これ教師、なんとかせよ」
先生 「いきなり上から目線で何様だ。いいから座りなさい。お前の席は───」

 学校生活スタートです。
 フフフ、伊達に何度もいろんな世界回っちゃいねー。
 天下の回し方なぞ、この覇王たる博光にかかればちょろいものぞ!
 ……いやまあ、年齢オッサンにして外国飛んでカジノでイカサマ儲けして換金しただけなんだけどね。時間止めればイカサマなんてし放題です。最強。
 カジノが一つ潰れたけど気にすんな。弱肉強食だ。
 資産は兆を下らんし、なんだかんだで“世界”は日本が舞台なのが多い。通貨が同じだと貯まるもんも貯まるってこったね。
 まあともかく学校生活だ!
 思い切り楽しまなくてはいかんのう!


───……。


 ワヤワヤワヤ……

ガキ 「なぁなぁしってっかよ中井出ー」
中井出「うむ。発言を許可する。申せ」
ガキ 「えっらそうだなぁお前……まあいいや、
    この学校にはさぁ、椎名菌ってのがあってさぁ」
中井出「しいなきん?」

 ハテ? なんだそれは。新種のヴィフィズス菌かなにかか?

中井出「なるほど、それは胃腸に良さそうであるな」
ガキ 「なに言ってんだよ、椎名菌ってのは触ると危ないんだぜ〜?」
中井出「なんと!? ならば何故どうにかせぬのか!」
ガキ 「だってあいつ近付くと怖いし。遠くから馬鹿にするのが一番じゃん」
中井出「?」

 ぬうわけがわからん。
 この博光のわんぱく思考をもってしても…………………………いや。
 あったわ、予想できること。
 今でも目を閉じて耳を澄ませば聞こえてくる。
 ババゴロシ。オヤゴロシ。

ガキ 「おい、お前も俺達と友達になるなら、椎名菌には気をつけろよなぁ〜」
中井出「否である。我は貴様のような輩と友になるつもりなど皆無。友は己で決める。
    だが、貴様は有り得ぬ。心を改めてから出直すがよい」
ガキ 「なっ……んっだとぉっ!?」
中井出「ふむ……」

 その椎名という者……性別までは解らんが、興味が沸いてきた。
 どれ……どういった者か、見にいこう。

───……。

 「うわ、しいなだ、クセー!」───……たしか、最初に聞いた言葉はソレ。
 別のクラスだというのに、その耳障りな声はよぅく耳に届いた。

ガキ1「こいつのははおや、インバイってやつらしいぜ!」
ガキ2「せいびょーで死んじゃうらしいな!」
ガキ3「つまり椎名菌だ。こいつにもついてるぞー!」
椎名 「うう……」

 クラスの奥側にちょこんと座るそいつは、随分と明るくない服を着た、俯いたままって印象を初見でも持たせるような……女だった。

ガキども『いーんばい! いーんばい! いーんばい!』
椎名  「う……ううっ……ぐすっ…………あ」
大和  「……………」
椎名  「………」
大和  「なにこっち見てんだ?」
椎名  「あの……」
岳人  「あー! 会話したー! お前椎名菌がうつるぞー!」
椎名  「う……」
岳人  「危なかったな、俺様に感謝しろよ」
大和  「ふんくだらぬ(ニヒルに)」
岳人  「しっかしあいつガリガリだよな。お前に何か言いたそうだったぞ、色男」
大和  「ふざけんなよ、いい迷惑だ」
椎名  「…………あ…………う……」

 ……なるほど。椎名菌ね。
 いや、よくあることだ。上手く人の輪を保つために、誰かがいじめてるヤツをイジメる。
 仲間外れになりたくないなら、迷わずそうするべきだ。
 それで広がる知り合いの輪ってのもあるだろう。
 だが───だがだ。

岳人「んあ? あれ、博光じゃねぇか。こんなところまで何しに来たんだ?
   って、椎名菌に近づいてるぞ!? あいつなんにもしらねーのかよ!」

 なんか“今日から俺は!”の今井くんみたいなヤツがギャースカ喚いている。まあ岳人だけど。
 しかし構わず、俺は椎名と呼ばれている少女の席の前に立った。
 既に机は濡れていて、それが彼女の目からこぼれるものだと知ってなお、周りからの淫売コールはやまない。
 けどまあそれがどうしただ。
 俺はおそるおそる俺を見上げる椎名サァンに手を差し伸べ、一言言った。

中井出 「我は中井出博光という者。今日この学校に転入してきたばかりだが、
     我は貴様こそと決めた。我と友にならぬか」
椎名  「え───?」
ガキども『ざわざわっ……!』

 しかし周囲にとっては信じられない事実なのか、周囲はざわめいた。
 だがそれがどうしただ。
 椎名さんたら自分がなにを言われているのか解らないって顔で俺を見上げるが、俺は構わず手を差し伸べ続けた。

ガキ1「うわー、あいつ椎名菌に触りにいったぞ!」
ガキ2「あいつも椎名菌だー!」
椎名 「あ……」
中井出「なに、構わぬ。覇王とは雑音など気にせぬ素晴らしき意思。
    ……俺は覚悟を以ってお前に手を伸ばす。お前はどうしたい?
    俺が裏切るかもしれなくて怖いか? それとも…………」
椎名 「───…………」

 見上げる目が彷徨う。
 今も周りからは椎名菌だのおまえらつきあうのかよだの、身勝手な声が聞こえる。
 だが、んなこと気にして友達が出来るかっての。

岳人 「おい博光! 知らないだろうから教えてやるけどな、そいつは───」
中井出「母親が淫売。ああ、それなら先ほど耳にしたな」
椎名 「っ……!」
岳人 「だったらわかるだろ〜? そいつに触ると」
中井出「だがそんなものは親に言うべきことだ。親がそうだからその娘にも菌がある?
    ハッ、笑わせる。そんな菌があろうとなかろうと、
    俺は自分が友達になりたい者と友達になる。それだけの覚悟を持っている。
    貴様らのように集団の安心感に飲まれるまま、
    慈愛を無くしたクズにはなりたくないのでな」
岳人 「なっ……なんだとぉ!?」
中井出「孺子。貴様、名をなんという」
岳人 「島津岳人さまだ! って、知ってるだろーが!」
中井出「そうか……では岳人よ。貴様は知らんだろうが貴様の親は淫売だ」
岳人 「なんだとてめぇっ! 俺のかーちゃんはそんなことしねーよ!」
中井出「ああそうだろうな。当然お前も関係ない。
    そう言える頭を持っていながら、親がそうだからと娘もと何故決め付ける」
岳人 「そいつが菌持ってるからに決まってるだろーが」

 あらら、話にならんぞこれ……。

中井出「……あら大和くん、キミもイジメる側?」
大和 「………」
中井出「ニヒル気取ってて、面白いやつだって思ってたのにな。とんだ見込み違いだ。
    いや、そりゃあいいぜ? 楽だもんなぁ周りに合わせるのって。
    でもさ、お前それで椎名が自殺したりしたら、まだ笑ってられる?
    調子合わせてニヒルでいられる? くだらぬ、なんて死んだヤツを前に言える?」
大和 「………」
中井出「そうなら、俺はお前を友達なんて呼びたかねぇな。
    誰かに向かうなら自分の意思で向かいやがれ。
    集団思考じゃなく、自分が、どうして、
    なんでそいつをイジメなきゃいけないのか。それを知った上で。
    じゃないとお前……最低に格好悪いぜ」
大和 「………………お前に、そいつを庇いきる覚悟、あるのかよ。
    そいつを庇ったら全員から仲間はずれに───」
中井出「仲間はずれ! ハッ!
    仲間でもないクズどもから遠ざかることになんの憂いがある!
    そんなものは望むところだ! 貴様らこそイジメているということは、
    人の死を見届ける覚悟があるというのだな!?
    救うことにももちろん覚悟が要るが、イジメることにも覚悟は必要だ!
    人数が多いから個々の罪が軽くなることなどあるものか!
    ───宣言しよう! 俺はこの椎名を貴様らから守りきる!」
椎名 「え……?」

 菌だなんだとやかましいわ!
 守ることは嫌いだが、こうまで周りがクズでは話にならぬ!
 故に守ってくれる! その証として、触るだけでも嫌われることになるらしい彼女を支え、無理矢理立たせ、その震える体を抱き締めてみせた。

椎名 「───!」
ガキ4「うわきたねぇ! あいつ椎名菌にやられたんだ!」
中井出「……ほざきたいヤツはほざいておるがよいわ。
    だがな……貴様らがなんと言おうと、
    どう罵倒しようと───人の命は、もっと尊い」

 震える体を思い切り抱き締めてやる。どうかその震えが止まりますようにと。
 けれど中々止まらない震えに困って、軽く離して様子を見てみると……椎名さんたら泣いておりました。

中井出「………」

 だから、ゆっくりじっくり頭を撫でてやった。
 驚いた顔をして、持ち上げられた瞳が僕を見ますが、構わず。

中井出「友と言ったからには、もうお前は独りじゃないぞ。俺が、ずっと一緒に居てやる」
椎名 「───!」(↑これが愛の告白に聞こえた)
岳人 「うぅわっ! 告白しやがった!」
ガキ1「ヒューヒュー! 椎名菌! 椎名菌ー!」
中井出「───さて。これで俺たちは友達だ。……えーと椎名、名前教えて」
椎名 「っ……ぐすっ……し、椎名……椎名京……」
中井出「しいな、みやこ、か。いい名前だな。俺は中井出博光だ。今日からお前の友達。
    で───友達を傷つけるヤツは全力で許さん性質でな。
    貴様ら覚悟しろよ。今まで人様をイジメて笑ってきた報いを受ける時だ」
岳人 「……やるっていうのかよ。ファミリー相手によ」
中井出「友達が間違った方向に向かったら、それを止めてやるのが友達ってもんだ。
    一緒になって最低行為を行うのは、ただの逃げでしかねーのさ。
    だから……俺は殴るぞ。ガクト、大和、お前らは友達だからな」
岳人 「〜〜っ……わかんねー野郎だな! 俺達までイジメられる側に回ったら、
    俺達だけじゃねぇ! ワン子にまで危害が及ぶだろうが!」
中井出「───OK、多少は救いのある言葉をきけた。
    やっぱお前ら、根っこからの悪人には向かねーわ」

 言葉のあとに動いた。
 集団思考のままに動いたイジメっ子どもは、十数えないうちに床とキスをしていた。


───……。


 放課後、ナワバリの原っぱにて。

中井出「えー! ちゅーわけなんでー! 僕の新しい友達の椎名京です!」
京  「あ……え、と……その……」
翔一 「椎名って……ああ、友達になったんだな。
    なんかイジメとかあったらしいじゃん、
    気持ち悪くて嫌だったんだよ、そういうの。
    俺はいいと思うぜぃ? 博光の友達なら俺の友達!
    親が淫売とか言ってるけど、親関係ねぇじゃん? お前はお前っ!」
京  「……!」
岳人 「……いいけどよ。ワン子のこと、どうするつもりだよ」
中井出「家族は守るもんだ。モモも俺も、もちろんみんなだってワン子を守るだろ。
    だから一件落着!
    で、親が理由で淫売だのなんだの言われてるなら、京は俺が引き取る!!」
百代 「引き取るって。お前親は」
中井出「え? 俺、家族なんていねーけど?
    俺にとっては風間ファミリーだけが家族だし」
百代 「居ないって、じゃあどうやってお前は学校に───」
中井出「自力です。で、どうする京。お前がいいって頷くなら、俺はお前を受け容れよう!
    ずーっと一緒に居てやる。いじめなんて撲滅させてくれる。
    迷惑なんじゃ、なんて考えるなよー? 俺は家族のためならなんでも出来るんだ」
百代 「ほんとにやりそうだからな───ってそうじゃなくて。
    親居ないのに、家とか大丈夫なのか? 普段なに食べてるんだ」
中井出「体にいいものいろいろ! 野菜とかかな」
岳人 「だめだなぁ、もっと肉を食わなきゃ俺様みたいにナイスガイになれないぜ?」
中井出「まあま、好みなんてそれぞれさ。で、どうする?」

 京に声をかける。
 目が合った途端に俯くことで目を逸らし、だが笑顔のままで待つ僕をもう一度真っ直ぐに見て───

京  「守って……くれる?」
中井出「守る!」
京  「ずっと、一緒に……」
中井出「居る!」
京  「わ、わたしの家族に───」
中井出「なる! 友達で家族だ!」
京  「〜〜〜……」
中井出「ただし、依存……んー……と。自分で何もせずに甘えてばかりなのはダメ。
    ちゃんと自分でいろいろ出来るようになりなさい。
    そのためのことをたくさん教えよう。人との付き合い方も、笑わせ方も。
    料理も教えよう。そしてもちろん、自衛が出来るように武術も」
翔一 「無駄に強いからなぁ博光って」
中井出「フフフ馬鹿め……この博光は四天王になれたのが不思議なくらいの弱者。
    俺を倒したところで第二第三の博光が───」
岳人 「何人居るんだよお前!」
卓也 「あはははははっ」
一子 「博光ってほんと変わってるよねー」
京  「……、…………」

 解りづらかったけど、小さく微笑んだ。
 俺はそんなことが嬉しくて、しかしそうまで愛を知らなかったこのお子が悲しくて、もう一度抱き締め、頭をやさしく撫でた。
 すると、「うー……」となにやら少し嬉しそうな声が聞こえたから、思う存分撫でた。
 その後は自己紹介などをしたりして、そういえばファミリーだというのに間をとった呼称をしていたことに気づく。なので岳人をガクトと、卓也を師岡の師をとってモロと呼び、モモとひと悶着あった末にリーダーとなった翔一をキャップと呼ぶことになった。
 大和は頭脳戦が得意そうなので軍師。
 こうして───風間ファミリーは完成形へと至ったのだ───!!

───……。

 いや、完成形だったはずだったんだけどね。

おなご「………」
中井出「むっ!?」

 いつものようにナワバリで遊んでいると、視線をキャッチした僕が居た。
 生憎とキャップはおらず、モモも修行だそうで居ない。
 なのでその二人を除いたみなさまで遊んでいたのだが。

中井出「ハッと気づけば少女に見られる魔王が居た なのできょうきょこれからのことを考
    えることになった俺は高速で思考を考えて難しいか鬼なる しかし考えても仕方な
    いので自分がナイスんガイであることをアッピルしながら話し掛けてみるとなんと
    相手は白髪赤眼のアルビノだった 白いなさすがアルビノしろい」
おなご「え、え……?」
中井出「やあ少女よ! この博光になにか用かい!?
    ……って、およ? それ、マシュマロ?」
おなご「……ん、んっ……」

 急に話し掛けられて驚いているのか、少女はあたふたしながらもこくこくと頷く。
 離れた位置でガクトがなにしてんだよーと叫んでいるが、ゴホホ、弱いヤツほどよく吼えよるわ……。いや、俺勝負で負けたばっかだけどね。
 で、そんなお子が僕に向けてマシュマロを差し出してくる。
 それ一つしかないらしく、しかも握り締めてぐちゃぐちゃになってしまったソレを。
 ……つーか、このお子ずいぶんとボロボロじゃないか。
 こりゃあれか? お魚くわえたドラネコでも追っかけて、激しくこけたのか?
 戦利品がこれしかないから、なんとなく僕に差し出してみたとか。
 …………な、なるほどっ……全てのつじつまがあった……!!(注:アホです)

中井出「というのは冗談として。くれるの?」
おなご「う、うん……だから、だから……」

 ごくり、ごく、ぐっ……と、お子は喉を鳴らしたり拳を握ったり、忙しい。
 だが僕は、つい最近にもこんな様子を見た。
 京だ。
 だがこれは恐らく京以上のダークネス。
 これは……学校がらみじゃあねぇだろうね。
 確かに学校でもイジメられたりしてるだろうが、この痣とかは子供がやって出来るものじゃあねぇと判断する。…………親か。
 何処にでも居るもんだなー、最低の親ってのは。
 月空力で過去を覗いてみれば案の定だよ。ちと行為としては最低だが、救うためだ、許されい。俺だけが最低扱いならそれで十分よ。

中井出「よしっ。お前、名前は?」
おなご「えっ……あ、う………………小雪」
中井出「小雪、な? よし、じゃあ小雪! 略してユキ! お前、俺の家族になれ!」
小雪 「え……?」
中井出「この博光、現在家族募集中なり! 家族は現在、俺と京のみ!
    あ、京ってのは僕の友達で家族だ。
    大丈夫、楽しいを知らぬキミに楽しいを教える!
    俺は家族は裏切らぬ! だから、さあ! 手を伸ばして掴み取るのだ!
    あ、マシュマロありがとね?」

 マシュマロを受け取り、ボーゼンとする小雪を抱き締める。
 一瞬顔をしかめたが、その痛みも癒してみせる。

小雪 「あ、あれ……?」
中井出「人の愛は人を救います。あなたの親は、あなたを愛していなかった。
    だがこれからは……この博光がともに居よう。
    さあ、家を出て新しい何かを探す決断を。こればっかりはキミが決めなさい。
    俺は拒まぬが《きゅむっ》ハオッ!?」

 決断は一瞬だった。
 小雪はなにやらかけがえのないものを見つけたといった風情で俺に抱きついてきて、抱き締めたままの俺もまた、数瞬戸惑いはしたものの、抱き締め返した。
 家族が増えるよ。やったねヒロちゃん!
 …………今さらだけど、抱き締めといて手を伸ばせはなかった。反省。

……。

 じーーー…………

中井出「というわけで、新しい家族です」
小雪 「…………《じー……》」
京  「…………《じー……》」

 小雪の両親を社会的に抹殺してきた僕は、いろいろ破壊して小雪を家族に迎えた。
 現在、とある空き地(購入済み)に建てた家にて、小雪と京と三人きり。
 きちんと風間ファミリーにも紹介を済ませて、これでファミリーは8人に。

中井出「家族として、支え合っていきましょう。
    我らは風間ファミリーであり、同時にひとつの家族なのですから」
小雪 「家族……ほんとに、いい……?」
中井出「私は一向に構わんッッ!! ……京は?」
京  「…………」
中井出「《きゅむ》オウ?」

 京がたとたとと歩み寄り、僕の服の端をちょこんと摘む。
 するとそれに気づいた小雪は俺の手をとった。
 すると京が腕に腕を絡ませてきた。
 すると小雪が腕に抱き付いてきて、すると京が体に抱き付いてきて、すると小雪が───アオアーーーーッ!!

中井出「ほっほっほ、そうそう、家族なのだから暖かくあろうねぇ。
    我ら三人、これから頑張っていきましょう」
京  「《なでなで》……はう〜〜……!」
小雪 「《なでなで》……はーーうーー……!」

 ……なんか知らんけど、このお子めら撫でられるのと抱き締められるのがめっさ好きみたいなのよね。今まで愛情を知らなかったからかしら。
 なので僕は決めたのです。愛情を以って育てていこうと。俺も子供だけどね。

京  「博光……やさしい……嬉しいな」
小雪 「僕、こんなふうにあったかいの、はじめて……」
中井出「こんなことは当然だ。
    これからもっともーっと笑えるようになるから、覚悟しておけよー?」
京  「《きゅむ》あ……はう〜……」
小雪 「《きゅむ》……はううー……」

 そんなこんなで適度に物事を教えつつ、きちんと愛情を以って抱き締めたり撫でたり、しかし時には厳しく接し続けた結果の一年後。

京  「博光……」
小雪 「ヒロミツー」
中井出「む? どうされた?」
京  「好き(はぁと)」
小雪 「好きー(はぁと)」
中井出「………」

 育て方、間違えた。


───……。


 ともあれ、そうして仲良くつるみ続けて訪れたある日のこと。

一子「うぐっ……ひ、ひうっ……うぅうあぁあああん……」

 ワン子が泣いていた。
 誰かに苛められたのかと俺の怒りが有頂天に達しかけたが、どうやらそうではないらしい。泣き方がちょっとおかしかったのだ。
 聞けば……里親になってくれていた一子のばーちゃんが亡くなったらしい。
 元々寂しかったからとワン子を受け容れたばーちゃんだ。急に一人になったワン子の寂しさは、きっと想像がつかないものだろう。俺も経験があるから、想像は……つくにはつくが。

中井出「そうか……ばーちゃん、逝っちゃったか……」
岳人 「おいおい……じゃあワン子、どうなるんだよ……!」
大和 「里親が居ないんじゃ、ちょっと……このままだと孤児院に逆戻りだ」
卓也 「うん……そうなるだろうね」
岳人 「なっ……やべぇじゃねぇかよ!」
一子 「やっ……やだよぅ……みんなと別れるなんて、やだよぅ……!」
翔一 「博光のところでもう一人とか、だめなのか?」
中井出「え? いいけど」
総員 『いいのかよ!!』

 なんか叫ばれた。

中井出「え? え? な、なんで怒るの? あれぇ!? 僕なにか悪いことした!?
    だがたとえそうだとしても構わん! ワン子、キミは俺が守る!
    今日からキミも中井出家の一員だ!」
百代 「…………いや。一子は川神院で引き取る。わたしの妹分だからな。
    じじいを無理矢理にでも説得して、わたしの本当の妹にする」
一子 「え……ほんと……? アタシ、いいの……?」
百代 「当たり前だっ。だからお前は今日から……川神一子を名乗れ!」
中井出「だめだ」《どーーーん!!》
百代 「ヒロ! べつにお前には言ってないだろーが!」
中井出「やだいやだい! ワン子はこれから中井出一子を名乗るんだい!」
百代 「川神だ!」
中井出「中井出だ!」
百代 「ぬぬぬぬぬぬぬ〜〜〜〜……!」
中井出「ふかーーーーっ!!」
翔一 「よかったなぁワン子。お前、里親には事欠かないみたいだぞ」
一子 「ぐすっ……ふ、あははっ……うん。お、お姉様も、博光も、みんなも、大好き」

 なんかもうぐだぐだ状態だけど、俺とモモはワン子が笑うのを見て、顔を見合わせてニヤリと笑った。……そう、家族が泣くのなら笑わせる。困っているのなら助ける。
 俺達は、家族ですけぇのォ。

中井出「おお! ほれみたことか! ワン子はこの博光が好きと!」
百代 「いーやわたしのほうが呼ばれたのが早かったね!」
中井出「なにを言うかこの桃太郎め! 僕なんか名前で呼ばれたもんねー!」
百代 「こ、ここここんのぉおおおっ……!!」
中井出「ゲハハハハハ! じゃあワン子ー、今日からキミも中井出を───」
百代 「待て。そこまで言うならもう一度勝負といこうじゃないかヒロ。
    あれから修行して強くなったわたしの力、見せてやる」
中井出「ばかもん! 妹を救おうとしているのに、それを拳で解決しようなど!」
百代 「ばっ……!?」
中井出「……ワン子、キミ……強くなりたい? このモモのように、強い自分に」
一子 「…………うん。だから、───」
中井出「……よしっ! じゃあ川神院に行っておいで。そこで武術を習ってくるといい。
    才能が無いと言われようが、頑張って。
    そして、壁にぶつかってしまった時にこそ、この博光のところへ来るといい」
一子 「博光……」
大和 「けど、逃げ道になるつもりはないんだろ?」
中井出「当然である。伸び伸びと生きてほしいから、
    休む場所にはなっても逃げ道にはなりません」

 傍に寄って、その頭をやさしくやさしく撫でてやる。
 寂しい思いをするのが辛いことなど、この博光は人の億倍知っておる。
 涙の冷たさも、孤独の寂しさも、全てだ。だから悲しいというのなら絶対に救ってやろうと思ったのだ。

卓也 「博光のところ、居心地よさそうだもんね」
京  「うん……いい《ぽっ》」
小雪 「あったかいよー♪」
中井出「どこでどう間違えたのか、このお子めらがべったりになってしもうて……」
百代 「いいことじゃないか。はっはっは、さあ京、ユキ、お姉さんが抱き締めてやろう」
岳人 「じゃあ俺様も───」
百代 「よぅしなら一番最初はガクトだ。こいつはメチャゆるさんよなァーーーッ!!」
岳人 「うぎゃいてぇえーーーっ!! どうしてバックブリーカーするんだよー!!」
小雪 「あはははは、ガクト逆さまー!」
一子 「お姉様……すごい」
中井出「なぁに、お前もすぐにあれくらい出来るようになるさ。
    だから、“まずは”、“なにか一つ”を頑張ってみなさい。
    泣きたい時に泣いてええ。胸くらいはいつでも貸そう」
一子 「うんっ! アタシ、頑張るっ!」
翔一 「おおお……なんかじっとしてられなくなってきた! 俺も頑張るぜ!
    具体的にはなにを頑張ればいいのか解らねーけど!」
卓也 「まずはワン子が川神院に入れるかどうかを気にしないとだめでしょ」
百代 「心配するな。刺し違えてでも頷かせるから」
卓也 「そっちのほうがよっぽど心配だよっ!」
大和 「モロってツッコミ上手いよな。聞いてるとなんか安心するよ」
中井出「まったくだ」
卓也 「いや……うれしくないんだけど、それ……」

 後日、ワン子が川神院に引き取られることが決定した。
 いろいろともめた……なんてこともなく、川神鉄心っていう、BLEACHでいう山本幻柳斎重国にメッチャ似てる爺さんに許可を得て。
 ちなみに俺はその人に“川爺”のあだ名をつけた。
 BLEACHが山爺なら、川爺でと。

百代「なぁじじい、あいつ───ヒロのこと、どう思う?」
鉄心「どうもこうも、どう見ても普通の少年じゃが?」
百代「そうなんだよなー……氣も感じないし、強そうにも見えないのに……」
鉄心「しかし随分と慕われておるようじゃのぅ。両手に花とは羨ましい」
百代「孤独な少女に手を差し伸べてってやつだ。
   じじいも頑張れば、一子に懐かれるだろ」
鉄心「孫が可愛げなく育ってしまったからのぉ……どぅれ、ひとつ甘やかしてみるかな」
百代「犯罪行為には走るなよー」
鉄心「お前はおじいちゃんをなんだと思っとる!」

 こうして時間は流れる。
 解らなかった互いのことを知っていき、遊ぶ場所を増やして、どんどん仲良くなって。
 キャップの放浪癖に付き合って、ただ滅茶苦茶に走り回った夏休みにもいろいろなことがあった。いや、ほんと家に帰れなくなるんじゃないかって本気で心配したさ。
 京もユキも家に置いてきちゃったし。
 そんなこんだで迷いに迷って、辿り着いたのが───…………何処だろう。
 うん、解らん。
 解らん時はとりあえず大きな場所に行って現在地を聞く。これ、人間の知恵。

中井出「たのもー! たーーのもーーーっ!!」

 ちなみにキャップとはいつの間にかはぐれていた。
 どこまで自由奔放なんだか。

中井出「ぬう返事がない。ならば中に入ってみよう。
    不法侵入だがどこもおかしくはないな」

 だって僕悪だし。
 てなわけでいろいろと歩き回り……道場を発見。
 中を覗いてみると、小さなお子が竹刀を手に素振りをしていた。
 ふむ? 一個下って程度の年齢かな? あくまで外見判断で。

中井出「もし、そこの方」
???「《びくうっ!》ひゃいっ!?」

 返事はひゃいだった。
 あら面白い。

中井出「失礼。拙者、中井出博光と申す者。
    ちと訊ねたいことがあってお邪魔しているのだが」
???「あ、あああ、あの、えっと……」
中井出「ぬ?」
???「その、う、あう……」
中井出「………」

 あらぁ……なんか出会った頃の京と小雪を思い出す。
 もしや口ベタってやつでしょうか。
 だが大丈夫! そんなあなたもしばらく話していればあっという間に慣れるさ!

中井出「いや、そう緊張なさるな。よかったら名前を教えていただきたい。
    ではもう一度。拙者は中井出博光。あなたは?」
???「あ、の……黛……黛、由紀江、です……」
中井出「まゆずみ、ゆきえ、か。じゃあユッキーだな。
    俺のことは好きなように呼んでくれ。で、早速なんだけど…………ここどこ?」
由紀江「え……?」

 出会いはこんな感じだった。
 しかし子供ながらに、おどおどしながらに隙が無い。
 この道場の一人娘なのかね。なんつーか大和撫子って感じで、トキメキドキュンです。

由紀江「べ、べべべ別の地域から……い、いらっしゃったんですか……」
中井出「うむ。で、ほら、もっと気を抜いて。場所を教えてもらいに来ただけなんだから。
    仕方ないなぁユッキーは」
由紀江「《なでなで》はうっ……!?」

 落ち着きますようにと頭を撫でてみた。
 するとそれがとんでもなく意外だったのか、ピュンと離れてしまう。
 おおう、まるで小さなザリガニのように素早いバックステッポ。
 ここでエビのような、と言わないのが子供っぽいハイセンス。よし意味が解らん。

中井出「そっかぁ、こんなところに居たのかぁ。これは戻るの大変そうだ」
由紀江「《おずっ……》あ、あの……あなたは、どこから……?」
中井出「ん? 川神って場所。ほら、こっちの」
由紀江「……………………りょ、旅行かなにか……です、か……?」
中井出「いや……違うな。旅をね、仲間と一緒に。でも道に迷っちゃってさ。
    あ、そだ。その仲間が見つかるまで、ここに来てもよいですか?
    ただ待つには退屈でして」
由紀江「え……でも……」
中井出「友達になりましょうぞ。出来ればでよいのですが」
由紀江「友達………………え……い、いいんですか……?
    だってわたし、こんな……」
中井出「一向に構わんっ! ほら、握手」
由紀江「………………はいっ」

 手は繋がれました。
 こうして僕は、キャップが見つかるまでの間、黛の道場へと通っていたわけだが。

由紀江「……ふっ! ……せいっ! ……やあっ!」

 ユッキーはとても真面目だった。
 集中しだすと周りのことなんて見えやしない。
 太刀筋も綺麗で、まあこれはあとで知ったんだが……この道場、相当に有名なお方の道場らしい。黛十一段と聞けば、様々な武術家が息を飲むというほどだという。
 剣では敵無し。体術もそれなりに強く、万一刀を奪われた時にも対応出来るというステキな武術だ。

中井出「すごいなユッキー……もう刀を持たせてもらってるのか」
由紀江「と、とと時々だけです……。持つ時は必ず父が見てくれていますし……」

 ちなみに僕はといえば、常に気配を抹消しつつ現れるから、毎度ユッキーには驚かれてた。気配探知が得意らしいから、そりゃ驚くわな。

中井出「で、な。ここはこうやって……いくぞ? ツッ───せいっ!」

 ヒュヴォアファギギギギギギギィンッ!!!

由紀江「わ……あ、わわーーーっ!?」

 お近付きの印(?)に、飛燕虚空殺を見せてみた。
 懐かしの仕込み杖奥義ですね。

由紀江「すごい……一瞬で九回も斬るなんて……!」
中井出「エ?」
由紀江「?」

 奥義はあっさりと見破られた。
 しっかり九回っておっしゃったよ。明命でさえ見切れなかったのに。
 とまあそんな感じで仲良くなっていきました。
 基本、他の人にはバレないようにと忍びながら。
 しかしそんな日々にもやがて終わりは来ます。
 夏休みの終わりが来た時点でようやく見つかったキャップとともに、川神に戻ることになったのだ。

由紀江「………」
中井出「そんな顔しないの。また会えるさ。
    俺は多分ずっと川神に居るだろうから、いつか来る用事があったらまた会おう。
    俺達は友達だ。その証に、これをキミに」
由紀江「? これは……」
中井出「校務仮面キーホルダーだ。俺が作った」
由紀江「え? え? わ、わたしに……?」
中井出「ああ。いつか成長して顔が解らなくなっちゃってても、それがあれば一発!
    まあそんなに変わらないとは思うけど、またいつの日か、同じ大地で必ず会おう。
    それまではさよならだけど……大丈夫だ、必ず会えるさ……って何故泣く!?」
由紀江「はっ……あ、いえ……。誰かに何かをもらったの、初めてで……」
中井出「………」

 キーホルダーを胸に抱いて、黒髪の少女は泣いておりました。
 ぬおお、まさか校務仮面グッズで泣いてくれる人がおるとは……!
 やばい、今さらだけどこの子、バツグンに可愛いぞ。
 と、子供特有のドッキンコハートを抱いてしまうくらいにめんこかった。
 なのでその気持ちを落ち着けることも含めて、ユッキーの頭をやさしく撫でた。

由紀江「ふやうっ……!?」
中井出「相変わらずこういうのには慣れないかぁ。
    最後だから、たっぷり撫でていこうと思ったのに」
由紀江「───……さいっ…………最後じゃ……ないです……」
中井出「む?」
由紀江「必ず、会えるんですよね……? だから……最後じゃ……」
中井出「……ふむ。そうさな。その通りよな。ならば最後は撤回である」

 ならばと大胆に、ユッキーの頭を引き寄せ、胸に抱いて撫でた。

由紀江「えっ? えっ? え、えぇっ?」
中井出「しばし別れだ。
    武術のみを極めんとしたことで、いろいろと辛いことも起こると思う。
    でもな、その時は自分にはちゃあんと友達が居ることを思い出せ」
由紀江「………」
中井出「じゃあ……お別れウオッ!?」

 スッと離してみれば、ユッキーは眼を回して気絶していた。
 うおう、人に慣れていない人にいきなり抱きつきは、やりすぎであったか。
 ……まあ、いいか。せめて布団や枕を創造して、寝かせておこう。
 えーと、安心素材で疲れもとれて、汚れないステキ素材を使用!
 子供用ではなくしっかり大人になっても使えるものを〜〜っと。はい創造!

中井出「……達者でなぁ、僕の友達」

 世界は基本、俺が世界から消える前に俺の記憶を消そうとする。
 だから幼年期から始まる世界は俺にとっては楽しめる世界であり、俺はそのスタートから歩ける世界をわりと気に入っていた。
 きっとこの世界でも楽しく生きていける。
 そんな勝手な確信を抱きながら、俺はキャップとともに川神へと戻った。




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