【プロローグ3】

 知っての通り、川神学園は出来の良し悪しでクラス分けをしている。
 出来の悪さが際立つものはF、逆に出来が良ければSと、成績順にだ。
 ただしSに入るかどうかは任意で決められるため、FがよければFのまま。
 ちなみに軽く学年トップの成績を納めているのは冬馬で、二位が英雄。
 時折大和が3位にくらいついた時は、FがSを馬鹿にしていたりする。
 うん、よーするに仲が悪いのだ、F組とS組は。
 なにせS組のやつらはF組のことを劣等種だの底辺だの山猿だのと馬鹿にする。
 そりゃ、反発するのも当然だ。
 エリートってことを鼻にかけやがってぇええとよく言われている。
 それというのも、金持ちが多いのだ。S組のやつらは。
 例外があるとしたら冬馬、準、ユキくらいなもの。
 だが案ずるなかれ、そこは我が友英雄が常にフォローを入れてくれている。
 家柄が良かったのはあくまで“元”である冬馬や準は、逆に不正を告発することでエリートどもに馬鹿にされ始めたわけだが、そこはどうにか上手く回ってくれている。
 ていうかね、あんまりに陰湿な場合、その人の会社を軽く脅してやってます。

 家族のためなら無茶しますよ僕は。
 その甲斐あって───ガララララッ。

中井出「オイーッス! みなさまおはよう!」
真与 「おはようございますー」
千花 「朝見てたよー。今日もモモ先輩、凄かったねー」
真与 「京さんも、おはようですー」
京  「おはよう」
千花 「ん、おはよー」

 見てください、あの人嫌いの京がきちんと挨拶するようになったんです。
 これは偉大な一歩だ。
 一時期なんて僕さえ居ればそれでいいなんて言い出してたことさえあったのだ。
 それが、“僕と小雪が居れば”になって、次に“僕と小雪とファミリーのみんなが”になって、次に冬馬と準を混ぜたみんなが居ればになって。
 段々と広がっていきました。これからはそこに、ユッキーという名のまゆっちが加わることでしょう。
 小雪はなんていうか、物怖じしない性格だから誰だろうと突っ込んでいくけど……うーむ出会ったころのおどおどさんはいったいどこに行ったのやら。
 まあ、それはそれだね。

一子「ていてい」
大和「朝からまた鍛錬か」
一子「生活の一部だからね。早く強くなって、お姉様と肩を並べるのだ!」
大和「ヒロのところでもやってきたんだろ? よく体力保つな。
   とても昔は泣き虫だったとは思えん」
一子「うーん、どうしてかヒロの家に行くと、疲れが吹き飛ぶのよね。
   空気がすごくいいっていうのかな。ご飯も美味しいし、お風呂も気持ちいいし」
大和「ああ、あの温泉は他にはないな。俺もたまに行ってる」

 窓際の席では大和とワン子がワヤワヤと談話していた。
 ワン子はハンドグリップをていてい言いながら動かし、大和はそんなワン子をすぐ後ろの席で、頬杖つきながら見守っている。
 ガクトやモロは既に来ていた男子に混ざり、女についてをワヤワヤと語り。
 京は一通り挨拶が終わると、本を取り出してソレを読み始めた。
 司馬さんの本らしい。しかしながら俺の視線を感じるやすぐにこちらを向く。どれだけ俺の視線に敏感なんでしょうかあの子ったら。
 ……ちなみに風呂は温泉なのではなく、そうなるように作った風呂である。
 そんな都合よく温泉が出るわけがねーべよ。
 そして相変わらず家の傍には癒しとマナの大樹を生やし、生活の補助をしてもらっているわけで、だからこそ疲れも吹き飛び空気も美味い。生える野菜も美味いってなもんで、かなり助かっている。
 そんな環境で育った京と小雪はとてもとても元気であり、今や普通の女子では持ち得ない身体能力を得ている。が、モモには勝てん。ありゃバケモンだ。
 と、賑やかな朝の教室風景が流れていたんだが、それも委員長である真与っちの声で一気に慌しくなる。

真与 「みなさーん! 小島先生がきますよー!」
卓也 「まずい! ちょっとそれ僕の漫画! 早く隠して隠して!」
千花 「ちょっと、そこのオタク寝てるんだけど」
岳人 「スグル、起きんと。鬼小島の来る時間だぞ」
スグル「ウォやべ……夜更かしがたたっちまった……」
大和 「ワン子、机の上にトレーニング用具出しっぱなし」
一子 「おっと危ない、ナイスアドバンテージよ」
大和 「アドバイス、な」
中井出「ところでノストラダムスって予言しただけなのにさ。
    “くたばれノストラダムス”なんてサブタイつけられて、ちょっと可哀相だよね」
卓也 「それって今言うこと!?」

 そうこう言って居る間に足音は止まり、その頃には皆、背筋を伸ばして静かに着席していた。
 やがて入ってきたのは僕らの担任、小島梅子センセ。
 この学園でもっとも恐れられている先生で、常に鞭を持ち、それで教育的指導を行う。まああれだ、Fなんていう問題児揃いのクラスには最適な先生だ。

梅子 「朝のHRを始める」
真与 「起立! 礼!」
中井出「着席!《がたんっ》」
梅子 「誰が座って良しと言った!! 中井出博光! 前に出ろ!」
中井出「ゲェエエーーーーーッ!!」

 だから冗談でも勝手な行動をすれば、

梅子 「教育的指導!!」
中井出「《ヂパァン!!》ウギャ痛ぇええーーーーーっ!!」

 コレモンです。
 鞭で叩かれて、思わず柳龍光のような顔をしてしまう。

中井出「梅先生! ジョーク! かぁるいジョークだから!」
梅子 「黙れ! 集団行動を乱す者には相応しい罰を与える!
    やりすぎだと言うゆとりも居るようだが、本来ならばこの程度の体罰は当然!!」
中井出「んもう、そんな怒ってばかりだと、せっかくの可愛い顔が台無しダゾ☆ メッ☆」
梅子 「《コツンッ》…………」
中井出「《ビシベシバシビシズパパパパァン!》ウギャアーーーーーーーッ!!!!」

 舌を出してペロちゃん風に笑み、コツンと軽くゲンコツをしてみた。
 すると吹き荒ぶ鞭という名の暴風。
 そんな騒ぎのうちに一人の生徒が後ろの扉から静かに入り、無事に出席確認前に自分の席へと辿り着いた。OK、時間稼ぎは終了だ。

中井出「ごおぉおおお……痛い……!!」
梅子 「痛くなくては覚えん! 席に戻ってよし!」
中井出「うう……」
梅子 「…………《ぎろり》」
育郎 (ひぃっ!?)

 あ。しっかりバレてら。
 静かに入ってきた育郎が、梅先生に睨まれた。

梅子「……まあいい。全員座ってよし。では出欠確認をする。
   各自速やかに返事をするように。───甘粕真与」
真与「はいっ」
梅子「小笠原千花」
千花「はいっ」

 テンポ良く名前が呼ばれていく。
 梅先生には逆らわない……これがF組の暗黙のルールです。
 鞭で叩くはやりすぎだろって言う人も居るが、まあほんと、こんだけやらなきゃ覚えねぇのよ若人ってのは。いや、マジで痛いけどね? でも不思議と傷跡とか痣が残らない。叩かれても問題にしようとかそういう気にもならんし。

梅子 「中井出博光」
中井出「ワーーオ!!」
梅子 「………」
中井出「ザ・返事!!《ビシャシャシャシャシャシャ!!》ギャアーーーーーーーッ!!」

 そして返事をしてボコボコにされる僕が居ました。


───……。


 梅先生が出ていったあとはようやく空気が柔らかくなる。
 僕はといえば叩かれた場所に癒しを送ってさっさと治すと、暇を潰す方法を考えつつ時間を潰していた。つまりこれが暇潰しですね。

千花 「ちょっと中井出、あんまり笑わすような行動しないでよ。
    笑ったらこっちまで責められるんだから」
中井出「痛みよりも日々の笑いを優先したい……こんにちは、博光です《脱ぎっ》」
千花 「だから脱がないでってば!」
育郎 「すまねぇなぁ博光ぅ……俺が遅れたばっかりに」
中井出「いやなに、気にすることはござらん。
    これに懲りたら遅刻はせぬようお気をつけめされい。
    次やったら俺が折檻するから」
育郎 「折檻って、たとえば?」
中井出「モモみたいに関節外して放置する」
育郎 「早寝早起きを心がけます!」
千花 「あっはは、何言ってんの。
    モモ先輩じゃああるまいし、そんなこと出来るわけないじゃん。
    人間力測定平均以下の男にさぁ」
中井出「まったくじゃい」
育郎 「いやだっていま背筋が凍るほどの殺気が!」
卓也 「ガクト、なにか感じた?」
岳人 「俺様のログにはなにもないな」

 人間力測定。
 川神学園に存在する、まあ体力測定みたいなもんだ。
 この学園は個性を重んじるための自由な校則とユニークな行事、授業が特徴的。
 学業レベルまあそこそこ高い程度の、入ろうと思えばガクトやワン子でもギリギリ入れる学校。
 FだのSだのがあるように、生徒数はわりと多い。
 中間試験は存在せず、期末が恐ろしい。土日は休みで、しかし教えるべきはきっちり教える。遅れたらそいつが悪い。そんなとこ。弱肉強食だね。
 自由がウリというだけあってアルバイトはOK。エリートが通う割りには緩い。でも梅先生は怖い。
 で、最大の特徴というのが“決闘システム”。
 己が持つワッペンに、誰かのワッペンを重ねることで発生可能なバトルシステムだ。
 よーするに気に入らないことがあればワッペンを重ねて正式にバトれってもの。
 立会いには教師が二人必要で、決闘を行う際は放送まで走る。F組の師岡くんがS組の不死川さんと決闘です。勝負方法はおはじき、とかそんな感じに。
 白黒つけるには丁度よく、自分が勝った〜なんてウソも言えないので、ヘタにやって負ければ恥をかくわけだ。

一子 「宿題写させなさいよ大和」
大和 「300円」
一子 「なんじゃその払えそうな金額! タダにすべきだわ!」
中井出「ほれほれ〜、ワン子〜、こっちゃおいで〜」
一子 「わぁい」
大和 「ヒロ、甘すぎ」
中井出「ブゥハハハハハ! 甘いのは貴様よ大和!
    というわけでちゃんと勉強しようなワン子」
一子 「え゙っ《がしり》」
中井出「悪かったなぁ、いろいろあって通学中に教えることも出来んかった。
    今からきっちり教えちゃるけん、頑張ろうなぁ」
一子 「えぇえぇえ……!? や、大和ぉ、たす───」
大和 「300円」
一子 「たっ……ただにしなさいよぉおお……ふぇえええ……!!」

 泣きが入った。
 しかし頭を撫でて、顎も撫でてやるとトロンとした顔で落ち着いた。
 うん、犬だな。猫にも近いが。

……。

 昼休み。

岳人「うおおおおお! 開幕ダーーーッシュ!!」
育郎「ガクトてめぇ! フライングしてんじゃねぇ!」

 購買組はさっさと走り、弁当組はのんびり。
 僕はもちろん弁当なので、紙袋から出した弁当をコトリと机の上に…………並べます。

真与 「相変わらず中井出ちゃんは頑張り屋さんですねー」
中井出「やあマヨちゃん。注文あれば作ってくるよ? マヨちゃんなら無料だ。特別に」
千花 「なんでまた」
中井出「愛でたいからです」
千花 「めでたい? なにが?」
中井出「いえなんでも。っと、そろそろか」
準  「邪魔するぜーっと」
冬馬 「すいません、お邪魔しますね」
小雪 「ヒロミツー!」

 前側の扉から、引き戸を開けてやってくるのは準と冬馬とユキ。
 机の前には京やワン子も集まっていて、それぞれが一つずつ弁当を手に取る。

冬馬 「いつもすいませんね、博光」
中井出「気にしなさんな。それよりお前、また痩せたんじゃないか?
    線の細さを維持するのはケッコーだが、痩せすぎは毒だぞ」
冬馬 「では博光が毎食、私のために食事を作るというのはどうでしょう」
中井出「家に戻ってくるならフツーに叶うが?」
冬馬 「それは私の覚悟の問題なので却下させていただきます」
準  「博光のメシは美味いからなぁ、若がこう言わなけりゃ、素直に頷いたが」
中井出「あ、ちなみに準の弁当には育毛効果があるから、生えたら盛大に喜べ」
準  「おいィィィィ! この頭気に入ってるって言ってんだろーがァァァァ!」
小雪 「ねーねー、僕のはー?」
中井出「食べると幸せな気持ちになれます」
京  「そして私のは食べると淫らな気持ちに……!」
中井出「なりません」
京  「予想以上に冷静なツッコミ。10点。ちなみに淫らになるのは博光《ぽっ》」
中井出「なりませんての!」
冬馬 「ふふふ、賑やかですねぇ」

 賑やか通り越してやかましいです。
 でもこれが中井出家の日常。

準  「んで? お前んとこのリーダーは」
中井出「知らん。朝から居ねーんだわ。ああ、ちなみにワン子の弁当は───」
一子 「ふおおおおおおおおおおっ!!?」
中井出「頭が良くなる」
卓也 「それってどんなドーピング弁当!?」
大和 「じゃあワン子、自分が難しいと思う問題を自分で言って、答えも言ってみてくれ」
一子 「京とユキが博光を襲わなくなる方法は───」
中井出「おおっ!? なにやら難しい問題が解かれそうな予感!」
一子 「誰かと一緒になっちゃえばいい」
準  「……あー、そりゃそーだわ」
京  「それでも私は博光が好き」
小雪 「僕もー♪」
中井出「誰かと一緒になっても襲われそうなんですが」
京  「むしろ既成事実を作ってしまえば、責任感の強い博光なら……」
小雪 「…………《じゅるり》」
中井出「やめて!? 人を見ながら唾すすらないで!?」

 怖っ! 赤い眼も相まって怖いよユキちゃん!
 けどまあ、本気で襲いかかってきたことは一度もないから平気……だと思いたい。

冬馬 「誰も咎めませんから、
    結婚などと重く考えず、家族のまま関係を結ぶというのはどうでしょうか」
京  「トーマいいこと言った。10点」
中井出「それってただ俺が最低人間に見られるだけでは……」
冬馬 「ふふふ……私や準を庇い、家族に迎えてくれた時、
    体裁なんて気にしないと言ってくれたのはあなたでしょう」
中井出「ここでそれ出すかこの野郎」
準  「自分は正義でなく悪だとも言ってたな」
中井出「あっ! このハゲ! ここで加勢とかずるいだろ!」
準  「だーからハゲ言うなってのォォォォ!!
    つーか弁当食っても生えてこねぇじゃねぇかァァァァ!!
    何が育毛効果で《ニョキリ》………………ルヴォァアアアアアアッ!!?」

 毛が伸びた。眉毛だけ。

準  「テメェェェェ!
    どんだけピンポイントな成分混ぜれば眉毛だけ伸びんだァァァァ!!
    もうこれ育毛剤っつーか眉毛成長剤だろーがァァ!!」
中井出「お前最低な……人が家庭のことで話し合ってるのに自分のことばかり……」
京  「ハゲ悪いこと言った。0点」
小雪 「ハゲー」
準  「オィイイイ!? え!? なに!? これ俺が悪いの!?
    つか眉毛だけ伸びた俺に無反応!?」
卓也 「うわぁあ! キャップがテレビに映ってる!」
一子 「居ないと思ったら埼玉まで行ってたの!?」
中井出「お? なになに?」
準  「俺の話は無視でテレビの話題ならいいのかよ!!」
真与 「井上くん、別のクラスでは静かにっ」
準  「ハイF組委員長さん! 井上準、静かにします!!」
中井出「……相変わらずマヨちゃんには弱いのな」
準  「ロリは至宝だからな《ニコリ》」

 菩薩のような笑みだった。
 体型がロリなら年齢は気にしないらしい。
 ともあれ、教室に備え付けてある“ニュースのみ見て良し”と許可されたテレビを見てみれば、確かにキャップが。
 限定メニューを先に注文された恨みで本気で追い掛け回したんだとか。つまり相手は食い逃げ犯。
 つーか埼玉でなにやってんだあの馬鹿は。

京  「それで、博光は食べないの?」
中井出「んあっと、そうだった。食う食う」
京  「じゃあ……召し上がれ♪《ぴとっ》」
中井出「食いますよ? 食いますから離れて?」
準  「相変わらず熱いねぇご両人」
中井出「ハゲにはこの苦労は解らんよ」
準  「髪生えてたって同じこと言いそうだよなァお前さん。
    つーかこれ食う度に眉が伸びるんだがなんとかならんか」
中井出「大丈夫だ、代わりに髪の毛の毛根が死滅していくだけだから」
準  「それってどんな等価交換!?」
中井出「せめてお前は社会の中で輝ける光になってくれ。物理的に」
小雪 「あははははっ、ハゲハゲー、ツールツールハゲッハゲー♪」
準  「だから妙な歌謳うのやめなさい!」
中井出「ツルツル〜、輝くハゲ〜♪ 真珠の〜光のよぅに〜♪」
小雪 「閃光〜、刺激光なんとかし〜て遮ろう♪」
京  「天然、閃光、眩しく放て、GOGO!」
中井出「ハーゲハーゲ!」
小雪 「ハーゲハーゲ〜♪」
京  「ハーゲハーゲ」
準  「ちょ、ちがっ、ハゲだが理由が───!」
中井出「ハーゲハーゲ!」
小雪 「ハーゲハーゲッ!」
京  「ハーゲハーゲ〜」
準  「ハゲって言うほうがハゲなんだよ! つーかやっかましぃいいーーーっ!!!」

 怒られてしまった。

中井出「とまあいつもの冗談はここまでにしてと。
    ニュースになってるってことは、もうキャップ、帰ってきてるかな」
卓也 「そもそもどうして埼玉にいたのかが問題だよ」
中井出「大方バイト先の誰かが埼玉育ちで、
    あの店の何かが美味いとか言われて突っ込んだってオチだろ」
卓也 「うわ……キャップなら有り得る」
大和 「なにせ自分の行動に金を惜しまないやつだからな」
中井出「まああれだ。
    どーせ今頃寮に戻って、大和の部屋でねぎラーメンでも食ってるところだろ」
大和 「具体的で恐ろしいからやめてくれ」
冬馬 「いやいや、しかし相変わらず博光は料理が上手ですね」
一子 「トーマ、そのウインナーちょうだい、にくにくっ」
中井出「ほら、俺のやるからがっつかない」
一子 「ありがとー博光ー♪」
中井出「お手」
一子 「わんっ」
中井出「おかわり」
一子 「わんわんっ」
中井出「ハグ」
一子 「わうー!」
中井出「《がばしーっ!》ぬわーーーっ!!
    ちょ、冗談だ冗談! 急に抱きつくんじゃあありません!
    おひゃあああっひゃっひゃっひゃ!? 顔も舐めるなー!」
京  「───! これは迂闊……! 犬の真似なら様々なナメナメプレイが可能……!」
小雪 「僕もー! わおーん!」
京  「いただきます」
中井出「なにを!? いやちょっ……いやぁああーーーーーーーーっ!!!
    なんで服を脱がす! なんでなまめかしい顔で近付いてくる!
    やっ! いやっ! やめてっ! 初めてなのっ……!」
小雪 「だめー♪」
中井出「ノゥ小雪! こういう時は面白い反応で返すものだって教えたでしょ!?
    そして京さん!? 息が荒いのは何故ですか!?
    ワン子もいつまでも舐めてないで!」
準  「仲いいね、お前ら」

 こんな感じの毎日を送っている。
 現在それほどの波風もない。
 波風を波風と思っていないだけなのかもしれないが、自覚出来ない波風なんて波風じゃなくて美風だ。美しい。


───……。


 ……ぐったりしながら帰路を歩む。

中井出「あー……酷い目あった……」
大和 「いつもお疲れ」
中井出「お前はスルーしすぎなんだよぅ……もうちょっとファミリーをいたわれよー……」
大和 「危うきには近寄らず、しかしここぞという時は助けて交流を広げる。
    ヒロのは自業自得なんだから、自分で解決するべきだろ」
中井出「うう、何処で育て方間違えたかなぁ……」

 特に京。あれがかつては淫売呼ばわりで苛められてたお子とは思えん。
 しかしながら一人を本気で愛するなら、それは淫らを売ることにはならないと断言している。俺も賛成だ。しかし何もその矛先が俺じゃなくてもいいと思うんだが。

岳人 「そういや……なんでお前、ミートボールくせぇの?」
中井出「……弁当食べた犬三匹に舐めまわされた……」
大和 「ある意味正しいな」
卓也 「刺激が強すぎたよ……ヒロがズボン下ろされたときは、どうなることかと」
中井出「本気で操の心配した俺が居ます」
京  「人前でなんてやらないよ。見ていいのは博光だけ」
中井出「今俺が“京、好きだ”って言ったら、そんなこと言ってられるか?」
京  「───…………」
中井出「あれ? 京? 京〜? み〜や〜こ〜?」
卓也 「例え話の段階でも嬉しすぎて停止しちゃってるけど」
岳人 「……つーかよ。例え話って理解してなかったらやばくね?」
中井出「………」

 ジリリと、思わず足が後ろへ下がる。
 停止しているのに眼はしっかりと俺を追うあたり、恐らくは言葉を何度も頭の中で再生しているんだろうが───よし逃げ《がしぃ!》やだぁーーーーっ!!

京  「ちょっとそこの茂みにいこうか」
中井出「なんで!? いや、ちょ、今のは冗談! 冗談だからな!?」
京  「冗談でも言っていいことと悪いことがあるんだッッ!!」
中井出「ああ違った冗談じゃなくて例えばの話だろ!?」
京  「それでも期待を持たせた分は支払うべき!」
中井出「なにを!?」
京  「《ぺろり……》濃厚なミルクが欲しい」
中井出「ミルク!? ミル───なるほど!
    僕のお乳をお飲み《脱ギャぶちゅぅう!》オヒャーーーーーーイ!!!」

 脱いだ途端に吸い付いてきたァアーーーーッ!!
 ギャアアこんな切り返し始めてェェェェ!!!

小雪 「あー! ミヤコばっかりずるーい! 僕も飲むー!」
中井出「いや出ませんよ!? ノリで脱いでみただけで、
    なんで出ることが前提みたいにワヒャヒャヒャヒャヒャ!!?
    ウギャアくすぐってぇええーーーっ!! チロチロ舐めないでぇええええっ!!」
卓也 「……なんだかえっちな筈なのに、ヒロの叫び声で全部ぶち壊しだね」
岳人 「でもなんか、やっぱエロイよな」
中井出「って思い出したァア! 京お前今日部活は!」
京  「……チッ」

 舌打ちしたよこのお子ったら!

京  「それじゃあ夜までおあずけ」
中井出「せんでいい」
京  「じゃあ今すぐ最後まで……《ぽっ》」
中井出「せんでいい!」
京  「むー……なかなか落ちない」
中井出「落ちるもんですか!」

 高級料理を食べた人みたいに優雅にハンケチーフで口元を拭う京が、それじゃあと言って道を戻っていく。
 僕はきちんと見えなくなるまで見送ると、未だにティクビに吸い付いているユキをベリャアと剥がしてあぁあーーいだだだだだぁあーーーーっ!!! ちょぉ、こらぁっ! 離れなさい!!

小雪 「ミルク、でないよー?」
中井出「出てたまるもんですか! ……マシュマロで我慢しなさい、ほら」
小雪 「わーいもふもふー!」

 大和たちに見えないようにマシュマロを創造、小雪にハイと渡してやる。
 もちろん小雪にも見えないようにだが。能力が知れるといろいろ面倒だしね。

中井出「しかしなぁ、ユキはなにか部活、やらないのか?」
小雪 「僕はヒロミツと同じ帰宅部だよ?」
中井出「京は弓道部いってるんだし、
    なにかしらかじってみるのもいいと思うんだが《かぷり》ギャオオーーーッ!!」

 ティクビをかじられました。

中井出「いやそーいう意味じゃなくてね!? つーか脱ぎっぱなしな俺が悪いかこれは」
岳人 「噛むほうがどうかしてると思うが。つーわけで俺様のも噛んでくれ。さあ!」
小雪 「やー! ばっちいー!」
岳人 「ばっちくなんかねーよ! いっつもぴっかぴかに洗ってるっての!」
中井出「ち……乳首だけをか……。いや、洗い方にもいろいろあるよな、うん」
卓也 「ガクト……」
大和 「そんな趣味があったのか……」
岳人 「ちげーって! なんでそんなマニアックな話になってんだよ!」

 服を着直して歩く。
 向かう先は島津寮。ちと用事があって、向かうことになりもうした。
 途中で会えればよかったんだけど、居ないんだもの。

岳人 「あー、どっかに俺様のことが好きで好きでたまらないねーちゃん、居ねぇかなー」
卓也 「外国とかならウケがいいかもね」
岳人 「おお、解ってるじゃねーかモロ。
    そう、俺様のスケールはもはや国内では納めきれないところまで……!」
中井出「んで、確認だけど、水曜に朝礼、木曜に人間力測定だったよな」
大和 「そうそう」
岳人 「聞けよっ! ここでスルーとかあんまりだろ!」
中井出「わかったわかった、解ったから言ってやる。ほんとは黙ってようと思ったけどな。
    あのな、お前がモテない理由は、お前が格好よすぎるからだ。
    溢れ出すマッスルシャインが女を近づけさせなくしてるんだよ。
    だからお前はモテないんだ。だからこれから先も決してモテない」
岳人 「なん……だと……!? お、俺様にまさか、そんな悲しい欠点が……!」
中井出「じゃ、行こう」
卓也 「ガクト、本気にしちゃってるっぽいけど」
大和 「すぐに現実を知るだろ」
小雪 「チョウチョ〜♪」
中井出「あーこらこら、車道に出るのは危ないからやめなさい」

 少し歩けば再び変態の橋。
 そっからはまた川沿いに歩いて、逸れる道を三人と一緒に歩けば……島津寮。

卓也 「じゃ、ここまでだね」
岳人 「よっしゃあ、そんじゃあ俺様は溢れ出るマッスルシャインを抑えるために、
    多少格好悪くしねーと。フフ、美しすぎるのも罪だぜ」
大和 「……現実知るより宗教にハマりすぎた主婦みたいなことになりそうだ」
中井出「同感。悪い、気が向いたらツッコミ入れといてくれ」
大和 「はいはい」
小雪 「クッキー、居る?」
大和 「居ると思うよ。ただいまー」

 島津寮にお邪魔するのは一回や二回じゃない。
 寮母たる島津麗子さんとは既に随分と顔馴染み。苗字の通り、岳人の母親だ。
 月曜から金曜までは料理を作ってくれて、土日は自分でやりなさいなパワフルかーちゃん。そうだね、銀魂で言うと、お登勢さんと八郎のかーちゃんを足したような感じだ。

中井出 「ちーっす、遊びにきたぜ〜〜〜〜っ!」
クッキー『博光じゃないか、久しぶりだね。今日はなにしに来たんだい?』

 目の前に存在する卵型で紫色のマシン。それがクッキー。
 何故クッキーなのかといえば、恐らくは九鬼財閥が作った機械だからだろう。
 様々な物事に長け、料理や洗濯なんでもござれ、その気になれば変形して戦闘も可能な万能ロボである。
 ……ちなみに背丈は京くらいある。これが変形すると俺よりデカくなるんだから恐ろしい。声を聞いてるとどこぞの逃げちゃダメな少年を思い出す。第二形態ではどこぞの合衆国ニッポンを作ろうとした誰かさんを思い出すし。
 ワン子に惚れてるキンピカさんがワン子に送ったものなのだが、今ではマイスターがキャップ。元のマイスターはワン子で、そのまた前のマイスターは英雄ってことになってた筈だ。

中井出 「お、クッキー居たか。いや、ちょっとユッキーに会いにね。帰ってる?」
クッキー『まだみたいだよ。マイスターなら戻ってるけど』
大和  「やっぱり戻ってるのか……」
クッキー『なんかねぎをいっぱい持ってたよ。お土産だって』
中井出 「そか。そりゃいいことだ。んじゃ、行くか。小雪はどうする?」
小雪  「クッキーで遊んでるー」
クッキー『“で”ってなんだよここは“と”って言うところだろ!?』

 ネギか。いいよな、ネギは。
 つい昔を思い出し、ネギを持って燥いでいたツーテールの少女の姿が浮かぶ。
 それを掻き消しながら、俺はさっさと歩いていく大和を追って彼の部屋へと辿り着いた。

翔一「ずぞぞー」

 そこではわざわざ声に出してねぎラーメンを食うキャップが。

大和 「ほんとにねぎラーメン食ってるし……」
中井出「よぉキャップ、なんかお手柄だったらしーじゃん」
翔一 「んぉ? よぉ大和にヒロ! ただいまおかえりー」
中井出「お、それねぎラーメン? ちと食わせろ」
翔一 「残念。もう汁しか残ってねーよ」
中井出「それで構わんよ。スープが命。味がスープで解るなら、それで十分だ」

 そんなわけでスープを一口。

中井出「……うん。なんていうか、ねぎラーメンって感じのねぎラーメンだ。
    バランスばかりの食事のなかで、脂っぽいいい味だ」
翔一 「なんでヘンな顔しながら感想言ってるんだ?」
大和 「孤独なグルメだろ。キャップ、土産は?」
翔一 「ねぎだ! いやー、バイト先のやつが埼玉のアレが美味いーとか言うもんだから、
    異様に食いたくなっちまってさー」
中井出「ビンゴだな」
大和 「ビンゴだ」
中井出「んじゃー俺も今度行ってみっかなーっと。
    限定メニューってさ、やっぱそいつで終わったりした?」
翔一 「そーじゃなきゃ追いかけるもんかよ。ったく、食いたかったのに……」

 キャップはまるで、行く先々で食いたいものこそ食えないゴロちゃんのような顔で涙した。だよなー、食いたくて行ったのに、自分の番で食えなくなるとショックだよなー。……それまで行列に並んでたら尚更。

翔一 「っと、バイトの時間だ。俺行くな」
中井出「おうよ。しっかり稼いできな」
翔一 「なんでお前が偉そうなんだよ」

 外側から来ていたのか、縁側に脱いでおいた靴を履き、キャップはさっさと行ってしまった。ほんと、落ち着きのないヤツだ。

大和 「で、新入りさんに会ってどうするんだ?」
中井出「やー、ファミリーに入れられないかなーって」
大和 「勝手にやるとキャップ……はまあ笑って通すだろうけど、
    京あたりが怒りそうじゃないか?」
中井出「まあそこのところはおいおいってやつで。
    ええ娘やし、仲間に入れて損はしないさね。
    せっかくこの寮に居るんだ、誘わないのはもったいない」
大和 「それはいえてるかも。ゲンさんが入ってくれればなー」
中井出「だよなー、惜しいよなー。タッくん、きっと馴染むと思うんだけど。
    なにがいけないんだろうか。日々をあんなに熱烈アタックしているというのに」
大和 「その誘い方がいけないんだと思うが……たとえば?」
中井出「キミが欲しい!」
大和 「他には?」
中井出「キミを入れたいんだ!」
大和 「……つ、次」
中井出「一緒にイイことしようゼッ☆」
大和 「………」
中井出「な?」
大和 「断られて当然だっ!」
中井出「ええっ!? なんで!?」

 訳が解らない! 僕の勧誘はパーフェクトゥなはずなのに!
 だが挫けません。きっと彼は心揺らいでいるはずだ。なにか……きっとなにか、彼を入れる方法があるはず!

中井出「じゃあ贈り物で釣ってみるとか」
大和 「贈り物……たとえば?」
中井出「ワン子呼び出し用の笛とか」
大和 「……ワン子を売るようで心が痛いから却下で」
中井出「だな……言ってて、こりゃねーワって思ったよ。ま、やっぱりこれもおいおいだ。
    さってと、ユッキー戻ってこないみたいだし、ちょっと探しに───」

 と立ち上がろうとした途端、玄関側から「ただいま戻りました」との声。
 おっしゃあ帰ってきた!
 僕はまるで光のような速さで走り、縁側を駆け、玄関へと飛んだ。
 するとそこには黛さん家の由紀江さん。

中井出「ユッキー!」
由紀江「ひゃいっ!? あ……博光さ───」
中井出「キミが欲しい! 家族に紹介するから一緒に来てくれ!」
由紀江「───……ん…………───」

 停止。
 世界が停止した。
 そして、玄関でクッキーと遊んでいた小雪の笑顔もびしりと停止。
 ただし、捕まっているクッキーの頭がバキッビキッミシッと嫌な音を立て───

由紀江「はう───《ぼてっ》」
中井出「ややっ!? ユッキー!?」

 ユッキーが立ち眩みを起こしたようにへたりこみ、やがて倒れた。

中井出「ユッキー!? どうしたユッキー! 呼び方が古かったから気絶したの!?
    えぇ!? なにその気絶原因! い、いや待て! これはもしやゴルゴム……否!
    クライシスの仕業か!!」

 お、おのれぇクライシス! なんということを《ガブリ》ウギャアアアアアアッ!!!

中井出「いだぁーーーだだだだいやちょギャァアヤヤァアーーーーーッ!!!
    小雪こゆこゆユキユキユキィイーーーーッ!!
    なんで噛むのなんで腕がいだったただだぁーーーいだぁーーーーーっ!!!」

 なんてこと! クライシスがユキを洗脳して僕に嗾けてきた!
 おのれぇ許すまいぞクライシス! いや、今なら許してやってもいいから洗脳といて! 腕が腕が食いちぎられるゥウウーーーーーーッ!!!


───……。


 ……。

中井出「というわけで。べつにヘンな意味じゃなかったんだよ……」
由紀江「へっ、やっ、は、はい……そうですよね、私ごときを」
中井出「ごとき禁止っ!」
由紀江「ごめんなさいっ!? そ、そうですよね、私なんかを」
中井出「卑下禁止っ!!」
由紀江「ごめんなさいっ!? え、えと、こんな素晴らしくも高貴な私を」
中井出「真面目に話す気があるのかねキミは!!」
由紀江「でででですけどぉっ!!」

 気絶から回復、説明の初っ端から涙目だった。
 そんな彼女を正面に、噛まれた腕にフーフーと息をかける。

中井出「おーいて……まったく、少しは考える時間を設けろというのにこのお子は……」
小雪 「ヒロミツは僕やミヤコとずっと一緒に居るんだもん。他の人なんてダメー」
中井出「あ、妹の小雪です。そして俺が博光よ《どーーん!》」
由紀江「妹さんですか……綺麗な妹さんですね」
小雪 「妹じゃなくてお嫁さん二号だよーだ」
由紀江「…………エ?」
中井出「まあ、厳密に言うと血は繋がってなくて、ウチで引き取った娘なんだ。
    京ともども、俺達は血が繋がっていない家族で構成されている。
    まあそれはそれとして、ユッキー! あ、まゆっちのほうがいい?」
由紀江「あの……それは、えと。私のあだ名……か、なにかなんでしょうか」
中井出「うむす。嫌だったら別のを考えますが」
由紀江「いぃいいいえいえいえいえいえとんでもないです!
    ここここんな私にあだ名を」
中井出「卑下禁止だっつーのに!」
由紀江「ごめんなさいっ!?」

 ゴッドよ、彼女は本当に剣術少女か? いくらなんでもおどおどしすぎだろう。
 ……いや、まさか、待てよ? それこそまさか?

中井出「あー、えっと。まさかの質問いいか? まさかとは思うが……由紀江。
    お前ってまさか、もしかして、あの時の俺以外と、人との交友が───」
由紀江「───…………《たぱー……》」

 笑顔で、滝のような涙だった。
 聞けば黛十一段に教わるままに剣術を習い、いついかなる時でも剣術に打ち込んだ結果、剣術の腕は上がったものの、人との交流ゼロ。友達もおらず、ようやく交流を始めようとしてもどう接すればいいのかも解らず、現在友達一人。その一人も俺だという。

中井出「そりゃ……ある意味モノスゲーなぁ……」
由紀江「は、はいっ、ですから博光さんにいただいたこのキーホルダーは家宝として、
    常に肌身離さず持ち歩いて……! 時には語りかけ、毎日磨いて───」
中井出「それだよ友達が出来ない理由!!」
由紀江「えぇええええっ!!?」

 キーホルダーに語りかけちゃだめだろ! しかも校務仮面なキーホルダーに! 絶対におかしな子だって思われるって! そこまで大事に思ってくれるのはそりゃあ嬉しいけどさ!

中井出「ヌムゥ、しかしそうか……この博光が渡したものが原因で……」
由紀江「原因だなんてとんでもないですっ!
    わ、私……このキーホルダーにどれだけ励まされてきたか……!」
声  『そうだぜヒロちゃんよ。まゆっちにはこのキーホルダーが必需品だったのさ!』
中井出「…………で、その馬のストラップ、なに?」
由紀江「はい? あ、この子は松風といって、一人ぼっちだった私のお友達です。
    松風は凄いんですよ、ストラップにツクモ神が宿ったものでして───」

 もういっちょ友達が出来ない理由が存在した。
 つーかハタから見てると、作る気あるのか解らんぞこのお子。
 そしてツクモ神と言いながらただの腹話術にしか見えん。

中井出「……とりあえず話を進めよう。
    由紀江はなにか、こっちでやらなきゃいけない用事とかってあるか?」
由紀江「あ、いいえ、特には」
中井出「学校終わったら帰るだけ?」
由紀江「は、はい、そうなります」
中井出「よしOK! じゃあ由紀江、改めて俺と友達になろう!
    そして家族に紹介するから、俺と一緒に来てくれ!」
由紀江「───…………えぇえええええええっ!!?
    かかっかかかっ……ごご、ご家族に、ですか!?
    そんな私なんかがハウアッ!? なんかじゃなくてごときじゃなくてえっとその」
中井出「落ち着きなさい」
由紀江「は、はいぃ……《ふしゅううぅう……》」

 テンパりやすすぎですね、このお子。
 なるほど、よほどに人との交流が少なかった……もとい、皆無だったと見える。

中井出「えーと。もしかして習得した力を見せて、誰かに引かれたりした?」
由紀江「…………《ず〜〜〜〜ん……》」
中井出「ビンゴかぁあ……」

 そりゃ交流も亡くなるわ。無くなるどころか亡くなってる。ご臨終だ。
 しかも交流が無くなるほどともなれば、相当に強いってことになってくる。

中井出「うし、じゃあ本気、出してみろ」
由紀江「え?」
中井出「受け止めてやらぁ。そしたらトラウマなんてバイバイだ」
由紀江「え、いえいえいえいえいえっ! だって理由がありません!」
中井出「理由ならある。ダチがトラウマを背負ってる。それを解消できるかもしれねぇ。
    理由なんざぁそんなもんで十分よ」
由紀江「……ですが……」
中井出「友達を信じろィ!
    ここで一歩踏み込まなかったらおめぇ、ずっと一人かもしれねぇぜィ!?」
由紀江「………」

 いつか、鞄を落とした時でさえ離さなかった鞘袋をぎゅっと握る。
 由紀江サンは俯いたままに肩を震わせ、ずっとそんな状態を続けたのち───

由紀江「……ずっと、友達でいてくれますか?」
中井出「ここでその質問は受け付けません。
    逆に問おう。言葉が無ければ友達で居たくないか?」
由紀江「───! ……いえ、いえ!
    博光さんは楽しいを知らなかった私に楽しいを教えてくれました!
    本当に楽しかったんです、あの幼少時代……!
    だから……だからこそ失いたくなくて、だから───」
中井出「うむ! ならば我にこそ力を示せ!
    その全て、まさに全てだというのなら受け止めよう!
    表出ろコノヤロー!!」
由紀江「うぇええええっ!? どうしてここで喧嘩腰にっ!?」
中井出「何事も楽しくだ! あったりまえじゃい! つーわけで───いくぜ?」
由紀江「───……すぅ……はぁ───《キッ》───はいっ!!」

 あらら、いい貌になっちゃった。
 なるほど、こりゃあ強そうだ。モモあたりなら喜んで食いつきそうなKIを感じる。
 なればこそ、僕は由紀江を外へと招き、靴を履いた時点で───拉致した。

由紀江「えっ、はわっ!? あわぁあわわわぁあーーーーっ!!」
中井出「ここじゃあみんなに見られるかもだから、ちと我が家に移動しますよ!
    あそーれ突貫ァーーーーーン!!」

 由紀江をお姫様抱っこで抱き上げ、ステータス移動を完了すると一気に地を蹴る。
 さあ参ろう! 友の心の闇を取り払うために、今僕は───戦う!!

由紀江「ひやわぇああぁあっ!? 高っ……えぇええええっ!!?」
中井出「ワハハハハハ! 隠していたがこの博光、とてもとても強いぜ!?
    その気になれば音速だって超えられる魔王さまよ! だから全力で来い!
    そうでなければ相手への侮辱になるぞい!」

 地面を蹴って大空を舞う。一応風と光を操って視覚反射で姿を隠してはいるが、僕らが見る景色は大空さ! で、文字通りひとッ跳びで僕の家までスチャリと。

由紀江「あ、あわ、あわわ……」
中井出「うーしゃー! ではまずはこの場をKIが漏れないように構築してー!
    はいOK! いつでも来い!」

 僕の家の敷地内一帯を世界というシールドで覆う。
 これ、モモと戦う時もやってたりします。川爺にバレないように。

由紀江「……《ごくり……》……本当に、いいんでしょうか」
中井出「うむ。この博光を叩き伏せるくらいの……いや。
    斬り捨てるくらいの意気込みで来ませい!」

 マナは使わず、まずはステータス割り振りのみで対峙。
 由紀江サンは喉を鳴らしてから鞘袋から刀を取り出すと抜刀。
 構えるとともに意識を集中出来るようにしたのか、さっきまでとは別人ってくらいに冷静になった。

中井出「いざ!」
由紀江「尋常に───」
中井出「勝負!!」

 まず一歩《フィビシィッ!》うおっほ!?

由紀江「───! 一刀目で見切られた!?」

 一歩踏み出した途端に一閃が来た。
 集中してなきゃ斬られてたってくらい、呆れるくらいの速度。
 それを手で摘むことでなんとか押さえたが、発生する剣閃がズバシャアと手を切り刻んだ。

中井出「ギャアーーーーッ!!」

 思わず離してしまった僕を前に、即座に戻し、払いを一瞬で行う由紀江サン。
 それに対して烈風で一気に背後までを回り込むと、拳に力を溜めて《フィビシィッ!》ヒィッ!? だ、だから反応早すぎでしょ!?

由紀江「二刀目も……!」

 わあやばい! ユッキーってば一発一発でどんどんと集中力高めるタイプ!?
 さっきよりよっぽど速度が速いんですけど!
 もはや油断だの心配だのを消した、刀士の目で僕を見るユッキー。
 対する僕も最大限の礼として、本気でかかる。あくまで人器解放のみの状態で。

由紀江「すぅ……はぁ……いきます!」
中井出「来い!」

 返事をした途端に景色が歪んで見えるほどの連撃。
 止められることなど考慮しない数多の剣閃が俺を襲い、それらを全て躱しながら近づく。
 が、刀が届く範囲に踏み込めば容赦無き居合いが刹那にて駆け、避けたつもりが鼻先が少し切れる。戻しの袈裟が踏み込みと同時に放たれ、上体を逸らした状態の俺では避けられる筈も───否、今一度烈風で駆け、制空圏から逃れ……た途端に再び剣閃乱舞。
 それに気を取られた瞬間、「ひゅっ」と小さく息を吸ったユッキーが地面を蹴り、間合いを詰めるや逃がす気などさらさらない、大振りの居合い一閃。
 俺の体は横一文字に切断され、

中井出「はい残像です」
由紀江「!?《がばしっ!》はうううーーーーーーーっ!!?」

 既に後ろに回ってた僕は、彼女を後ろから抱き締めるとその頭を撫でた。

中井出「いやー、由紀江ちゃんたら強い強い。
    まさかこうまで焦らされるとは思わなんだ」
由紀江「あ、あう、あわ……わわ……《なでなで》……うぅう〜〜《ふしゅううう……》」
中井出「ありゃ? ……ひょっ!? すごい熱じゃ!」

 撫でてたら目を回して、くたりと動かなくなってしまった。
 ……どうしよう。




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