【プロローグ4】

 で、だ。

由紀江「ん……んあ…………あれ……?」
中井出「や、お目覚め?」
由紀江「あ…………はい……んしょっ……」

 自室の布団で寝てもらってました。三人でも余裕で寝れる無駄に大きい布団です、はい。
 目を覚ました由紀江サンは結構冷静みたいで、慌てることもなくむくりと上半身を起こすと、まずは刀を探して枕元にあるそれを見て安堵する。

中井出「で、どうだった?」
由紀江「……全力を出しました。……全力で、負けました。
    やっぱり世界はとても広いです。安心と同時に…………少し、悲しくなりました」
中井出「交流を捨ててまで習得した刀が通じなかったことが?」
由紀江「……っ……《こくり》」
中井出「まあ、実力や技量なら明らかにユッキーが跳び抜けとるんよ。
    ただ俺のは少しズルい力でさ。だから、無茶かもしれんけどあんまり気にするな。
    足りないならもっと強くなればいいのだ。限界なんて作るもんじゃないぞー?
    戦いたくなったら、鍛えたくなったらいつでもここに来るといい」
由紀江「………」
中井出「んで、アドヴァイス。百人の友達よりも、たった一人の親友。
    由紀江が人と交流することが出来なかったのは、
    大切な誰かを決めるためだったって思いなさい。
    思い切り自分を出して、全力でぶつかって、それでも手を伸ばす人なんて稀だ。
    そんな稀をこの博光が担いましょうぞ。
    そして、風間ファミリーもまた、きっと由紀江を受け容れる。
    視野を広げてみなさい。まずは一人。
    その一人の友達とも手を繋いで、じっくり広げていけばいいさ」
由紀江「………」
中井出「立てなくなったら支えてやる。寂しくなったら一緒に居てやる。
    願うなら友にも仲間にも家族にもなろう。
    だから、一度しかないこの長くも短い人生を謳歌なさい。
    キミがキミである限り、この博光。絶対に裏切らぬことをここに誓いましょう」

 言って、俯いたままの由紀江の頭を撫でる。
 ……と、ぽろぽろと布団に落ちる雫。

由紀江「っ……自惚れていたわけじゃないのに……。
    でも、信じてはいたのに……負けてしまって……なのに私は喜んでいて……。
    本当に……一緒に居てくれますか……? 友達でいてくれますか……?
    仲間でいてくれますか……? 願えば……家族でいてくれますか……?」
中井出「二言はいくらでも吐いてやれるけどね。
    確認よりもまず、由紀江。キミがどーしたいかだ。
    顔色を伺う必要はないぞ? お前がやりたい、望みたいことを実行しなさい。
    謙虚も行き過ぎれば鬱陶しいとかうざいとか言われる世の中だ。
    しかし謙虚と遠慮は別物。
    故に僕は人が望む希望と絶望を受け容れ、相手に楽しいを贈りましょう。
    さあ、あなたの願いはなんじゃらほい?」

 暗くなりがちな空気を明るくするために、軽くおどけてみせる。
 軽口で促すなら、願いもきっと言い易いってなもんだ。
 ……さあ、彼女の反応は?

由紀江「……親友になりたいです」
中井出「自分を卑下しないことが条件。了承」
由紀江「……一緒に、居てほしいです」
中井出「ファミリーに入ることが条件。了承」
由紀江「悩み事、もっといっぱい聞いてほしいです……!」
中井出「自分から打ち明け、どうしたいかを口に出す勇気を持つことが条件。了承」
由紀江「……っ……もっと、遠慮なく声をかけてほしいですっ!」
中井出「由紀江からももっと声をかけてくれることが条件。了承」
由紀江「もっと……! 過去の自分を後悔しないために、もっと強くなりたいですっ!」
中井出「振るう勇気を、誰かを傷つける勇気を、
    んでもって相手を負かす覚悟を決めることが条件。はいこれも了承」
由紀江「っ……それでもやっぱり、友達100人欲しいですっ!」
中井出「ごめん無理」
由紀江「えぇえええええっ!!?」

 適度に息を抜いてやらないとパンクしちゃいそうなお子でした。
 だが安心するんじゃポルナレフ。この博光が友となったからには、退屈などさせぬわ。

中井出「うむ。驚いて息も抜けたかな? 考えるのも大事だけど、考えすぎはよくない。
    どれ、メシと風呂をご馳走しよう。休んでいくがええ」
由紀江「え…………お風呂、ですか?」
中井出「我が家の中井出温泉は素晴らしいぞー? 疲れが一気にトブノデス。
    そして安心めされい、人の入浴を覗く趣味は持ち合わせておらぬ。
    つーかその行為が友や家族への侮辱行為になるから絶対にやりませぬ。
    ……安心して、入ってきなさい。僕は夕餉作っておるから」
由紀江「…………は、はい……」

 OK、ならば風呂だ。
 といっても汚れないお風呂だから掃除も必要ないんだ。ずっと張りっぱなしだし。

中井出「じゃあまずこの家の説明ね。風呂は───」

 ……。


───……。


 それから、一時間という時間が流れた。

由紀江「あ、ああああのっ……下着が、いえっ、着替えがっ……」
中井出「うむ、こっちで勝手に用意させてもらったけど、サイズとか平気だった?」
由紀江「はははははいっ……はい……!
    まるでサイズを知っているかのようなジャストフィットでして……!」
中井出「そりゃあなにより。ご飯ももう出来ておるから、座って待っておりなさい」
由紀江「あ、手伝いを───」
中井出「だーめ。今日は親友をもてなすと決めたのだ。
    きっちり最後まで世話するからなー?」
松風 『た、大変なことなってきたぜまゆっち、ここはどうするべきなんだ?』
由紀江「あああああの、ここはやはり、親友である───……親友、親友……《ぽー》」
中井出「?」

 親友って言葉を自分で言って、感動しているようだった。

中井出「ほい出来た。ほら、好きなところ座って」
由紀江「は、はいっ! えと……ではここに」

 精一杯の勇気といった風情で、僕が座った場所の正面に座る由紀江サン。
 顔を真っ赤に、目をぐるぐる回し、テンパッた状態で震えている。

中井出「ほらほら緊張しない。ほいじゃあいただきます」
由紀江「いたっいたたっ、いたがきますっ!」
中井出「………」
由紀江「いえ違うんですこれはっ! ちらりと見た漫画のお話で場を和ませようとっ!」
松風 『おぉおお落ち着くんだまゆっち!
    ここで慌て続けたらせっかくの友好条件がパーだぜー!』
由紀江「そ、そうです! そうですとも! だから───」
中井出「あ、まゆっちー? 友達100人計画の前提条件としてアドヴァイス。
    本当に大事なことは、絶対に松風じゃなく自分の口で言うんだよ?
    じゃないと、いつか友達が出来ても傷つけることになるやもしれぬ」
由紀江「ふぐっ!? う、ううう……は、はいぃ……っ……」
中井出「うむ。さ、お食べ。
    これでも味に自信はあるけぇ、お行儀なぞ気にせずたーんとお食べ」
由紀江「は、はいっ《クワッ!》」
中井出「……そーだった。あと、その引き攣った笑みもなんとかしないといけないな」
由紀江「うぇええ……やることが多すぎて、もうどうしたらいいか……」
松風 『頑張れまゆっち〜、ここで挫けたら試合終了だぜ〜?』

 ……しばらくは様子を見ながらってことになりました。
 言われてすぐに実行できるほど、人って上手に出来てないもんね。


───……。


 食事は大好評でした。
 そもそも作ってもらうことすら懐かしいらしく、それが異性でしかも友達だっていうんだから、感動もひとしおだったとか。
 で、ただ今はといいますと。

由紀江「あ、あぁああああの……」
中井出「む? どうされた」
由紀江「いえあのっ、どうして膝枕なのかなと……!」
中井出「早く人に慣れるため。まずは横になってゆっくり息を吐く。
    こんな状況に慣れてみなさい。人の膝に頭を乗っけて密着する。
    そんな状態でもフツーに話せるようになれば、対人会話なんて楽勝楽勝」
由紀江「そうなんでしょうか……」
中井出「そんなもんそんなもん」

 まゆっちの頭を膝に乗せて、のんびりと頭を撫でております。
 場所は縁側。ゆるりとした風が吹くこの場所で、癒しとマナに包まれながらのんびりしてもらっている。
 この条件化で落ち着けないとくると、もうお手上げだ。
 なのでまずはこの条件下で落ち着くことをハードルに、膝枕なのです。

中井出「〜〜〜♪」

 歌はおまけだ。俺がみんなと最後に歌った歌を、全ての世界で歌い続けている。
 HAPPYっていったっけ。
 ほんと、いつまでも一緒に歌い続けていられたらよかったのに。

由紀江「……不思議な……歌ですね」
中井出「いい歌だろ。俺が居た場所で、大事なやつらと最後に歌った歌だ。
    いろんなものに絶望して、いろんなものに涙して。
    でも、いろんなものに感謝して、いろんなものと生きてきた。
    そんないろんなものとも別れなくちゃいけなくなって、今は一人で歌ってる」
由紀江「………」
中井出「“生き続ける意味も解らない。
    だけどいつか解る日が来るなら───歩みを止めた道の先で、独りきりで謳う”。
    ふざけて付けた歌詞が真実になりそうで、それでも行く先々で人を求めて。
    でも、いつか気づいた。
    誰かが悲しんでいて、自分にもそんな悲しみを消すことが出来るなら、
    そこにはちゃーんと生き続ける意味がある。
    悲しみは喜びで消せる。でも、喜びだって悲しみで消える。
    何かを為すには対価が必要で、それはいつだって何にだって存在する。
    誰かに祈った程度で救われるならそれでいい。
    誰と戦って、何に勝って自分を守れるのか。
    答えを探し続けようにも、永遠に続く旅の歩き方なんて誰も教えてくれなかった。
    痛みばっかりが増えていって、でも恋しいから人を求める。
    恋しいから、気づいたものを胸に人を求めた」
由紀江「……はい」
中井出「そしたら誰かが笑ってくれて、それだけで救われる自分が居た。
    いつか離れ離れにならなきゃいけなくなっても、
    せめて自分だけは覚えていようって、ずっと笑って生きてきた。
    でも、やっぱりいつか気づいた。自分が笑うよりも大切なものがあるって。
    笑っているよりも、ただ繋いでいたい、繋ぎ止めていたい手があるって」
由紀江「あ……百人の友達よりも、一人の親友……」
中井出「ん。百人居たって、きっと顔なんて覚えてられない。
    百人居たって、きっと関係を保っていられない。
    だから、自分の全てをさらけだしても嫌わない誰かと手を繋ぎたかった。
    自分を見ても、なんだそんなことかって笑ってくれる誰かが欲しかった。
    ……たった一人でよかったんだ。自分の味方が欲しくてもがいた。
    でも、自分のことはどうにもならないくせに、誰かを守ることばっかりが出来た。
    そのたびに誰かは笑ってくれるんだけど、真実を知れば忘れられた」
由紀江「《なでなで》……はうう……」
中井出「───……ん。
    経験から言えることは、あまり作ろう作ろうって思わないことかな。
    その時が来たら、自然に出来るさ。友達って、そういうもんだと思う。
    だからその時がきたら、自分から一歩を踏み出してみなさい。
    俺みたいに重く考えちゃったら、もう……笑うことしか出来なくなるから」
由紀江「………あ……」

 由紀江が僕を見上げる。
 そこには笑顔の僕。
 独りでも笑顔でいようと頑張って、いつしか本当の顔なんて笑顔だけになっていた、偽りの永遠を旅するモノ。そんな自分でも救えるものだけは困ったことにあって、でも……気が向かない限りは、大抵のものを見捨ててきた。
 そんな俺が笑っている。
 それは、英雄を信じる人にとってはとても滑稽で無様に映ることだろう。

中井出「……はい、お話終了。どう? まだ恥ずかしい?」
由紀江「え? あ……」

 ハッとする由紀江の顔が、かぁああと赤くなっていく。
 しかしテンパりそうになる自分を押さえつけると、一度キュッと目を瞑ったあとに僕の膝に頬をこすりつけた。すぅ、と息を吸って、吐く。

由紀江「まだ目を合わせるのも怖いくらいですけど……。
    他の人に比べると、楽になった気がします」
中井出「そっか。ん、それでいいや。のんびりゆっくり行こう。
    時間はまだまだた〜んとあるんだから」

 この世界がどんな結末で終わるのかは知らんが、多分……リュウゼツランが咲くその日まで。

……。

 ふと気が付くと、由紀江サンは膝の上で寝ていた。
 僕はといえばそんな彼女の頭を撫でたまま掛け布団を創造し、かけてやる。
 そうこうしているうちに京が、その少しあとに小雪が帰ってきて、こんな状態の僕を見て襲いかかってきた。
 説明したって聞きやしないよこのお子めら。
 そんなこんなで今日が終わる。
 ドタバタしっぱなしの日だったものの、まあ終了。
 せっかくなのでまゆっちにはここに泊まってもらって、京と小雪から僕を守ってもらった。三人きりになると、いろいろやばいんだもの。
 まゆっちはまゆっちで、“友達の家でお泊り会”チックな状況に顔を緩ませ───ずに、引き攣った笑みを浮かべていた。やっぱり笑うのは苦手らしい。


───……。


 翌日。
 朝食、鍛錬、植物の手入れ、お風呂と、いつもの行動にまゆっちを混ぜた朝が始まる。
 いつも通りにワン子が来て、鍛錬をして、手入れをして風呂へ。
 まゆっち以外は新鮮な状況に僅かながら燥ぎ様を隠せないようだったが、まゆっちはかなりテンパっておられた。そりゃそうだ。

一子 「……メロンだった」
中井出「感想言わんでよろしい」

 いつものように髪の毛を拭いてやり、ドライヤーをゴシャーと。
 それを京、小雪の順に終わらせると、きょとんとしたまゆっちを手招き。
 いっつもおさげをしていた髪はさすがに結わう前で、綺麗なストレートがそこにある。
 丁寧に拭いて、ドライヤーでシュゴーと。

由紀江「あぁあああの、あの……その、自分でっ……ああいえ、
    けどせっかくやってくださるというのに厚意を無碍にしては……
    でもでも、あぁああ……!」

 悩んでいるようだったのでその隙にさっさと終わらせましたとも。

由紀江「あの。いつもこういったことを……?」
中井出「大体は。自分でやりなさいって言っても聞きやしないんだ、このお子めらは」
一子 「にへへー」
京  「この身は博光に捧げた。ならば私は博光の敵を討つのみ!」
中井出「ベリナスさんはお帰りください」
小雪 「ヒロミツにやってもらうとー、ほわーってなって気持ちいいんだよー♪」
中井出「誰がやっても同じだばかもん。
    んー……よし、っと。はい完成。綺麗なおさげの出来上がり」
由紀江「あ。ありがとうございます」
中井出「んむ。じゃあいきましょか」
一子 「おー!」
京  「うん……イク。だからツッコンで」
中井出「返事に困る言い回しはやめなさい」
小雪 「ヒロミツー、今日のお弁当はなにー?」
中井出「美味しい博光弁当だ。今日はバランス主体。
    まゆっちのも作ってあるから、今日は昼に教室に来てくれ」
由紀江「え───わ、私のも? いいんですか?」
中井出「うむ。一緒に食べよう」
由紀江「いいんでしょうか、上級生の教室に……」
中井出「俺が許す!」
小雪 「僕も許すー!」
京  「問題ない。あなたは気にせず来ればいい」
一子 「べつに来られて困るものじゃないしねー」
由紀江「あ……は、はい、それではお昼に」
松風 『おぉおおまゆっち〜、お昼に友達とお弁当囲むなんてレベル高け〜ぜ〜!』
由紀江「そそそそそうですね松風。
    なにせ今日まで、私以外の周りの人は全員机を囲んで……くぅっふぅう……!!」

 あ、泣いた。自分で言ってて悲しくなったようで、笑顔のままに涙が。
 そりゃね、常に刀持っててケータイストラップの黒い馬と一人漫才してるヤツが居れば、きっと誰も声をかけない。

一子 「……なに、あれ」
中井出「まゆっちのお家芸だ。ツクモ神が宿ったストラップと会話が出来る」
京  「どうみても腹話術」
小雪 「あれくらい僕にもできるよー? こうやって腕を突っ込んでー♪」
一子 「《もぞもぞ》うひゃうっ!?
    ななななんでアタシの制服に腕突っ込むんだよぉお……!」
小雪 「ほらワン子ー、喋ってー?」
一子 「うう……わ、ワレワレハ、“チュージ・ウー”デアル……」

 宇宙人であると言いたいらしい。
 そしてこれは腹話術でもなんでもない。

京  「私も博光に突っ込んでもらえば、自分の意思とは関係無く色っぽい声が」
中井出「新入生の前でそういうことを堂々と言わないっ!」
京  「欲しいのはツッコミじゃないのに……」
中井出「ええい誰が上手いこと言えと言った! とにかくほら、行きますよ!」
由紀江「───はっ! 考えてみればこれが初めての大人数での登校!
    ああ……生きていてよかった……《たぱー……》」
中井出「………」

 友達との登校に涙する人を、僕は初めて見ました。


───……。


 ややあっていつもの場所でファミリーと合流。
 今日はキャップもちゃんと居て、風間ファミリー勢揃いだ。

中井出「というわけで、いろいろ条件付きで試験期間中。
    みんなからの了承が得られれば晴れてファミリー入りってことで」
翔一 「お前さー、キャップである俺を差し置いてそーいう面白いことすんなよー……」
中井出「埼玉で美味いモン食ってたお前が悪い」
卓也 「初めての年下かぁ……気を使っちゃいそうでちょっと辛いかなぁ」
岳人 「どーせだったら年上にすればいいのによー。
    せっかくいろいろ育ってたって、俺様は年下には興味ねぇんだよー……」
卓也 「うわ、そういうこと本人の前で言う?」
中井出「モロも人のこと言えないって」
百代 「ていうかな。このファミリーは別に、お前の好みを集めるためのものじゃないぞ。
    むしろここは私の好みを集める場所だ」
中井出「おおガクト! お前が好みだってさ!」
岳人 「おいおいついに俺様の肉体美に惚れちまったか。《ムキーン》
    さ、百代。俺様の厚い胸板に飛び込んでき───」
百代 「どさくさまぎれに呼び捨てか。いい度胸だなぁガクト」
岳人 「え? いや、ちょっと勢いで《ゴバキャア!》いってぇええーーーーーっ!!!」

 あ、腕の関節外された。

中井出「モロー、ジャソプの新連載どうだったー?」
卓也 「ああ、あれはだめだねー。流行の絵だけど、絵だけって感じだったよ。
    たぶんすぐに打ち切りだね」
岳人 「少しは気にしろよ!!」
京  「ガクト。身の程を知ったほうがいいよ」
小雪 「世の中にはねー? モテる男とモテない男が居るんだよー?」
岳人 「ちげーって! 俺様だってマッスルシャインをなんとかすりゃモテるんだって!」
中井出「…………大和ョゥ……」
大和 「……ごめん、言っても聞かなくて……」

 マッスルシャインの誤解はまだ解けていなかった。
 ……まあ、いいか。いつか気づくさ。
 言ってる間に変態の橋にさしかかり、しかし昨日とは明らかに違うものを発見。
 端の先で、なんか中国武術の衣装っぽいのを着た男が立っているのだ。

中井出「おや。ありゃあ……またモモへの挑戦者かな?」
百代 「なにっ!? おお、きたきたっ! 昨日の連中じゃあ物足りなかったんだっ!」

 変態の橋には時折、川神鉄心……川爺に挑戦すべく、世界中から腕に自信のある者が訪れる。や、川神院に行ったところで、川爺が“百代に勝てんようでは儂の相手なぞ無理”といったことを吹聴しているようで、こうして百代の通学路で待つのが恒例となったのだ。

男  「あなたが……川神百代か」
中井出「え? 俺? 俺は中井出博光だが?」
男  「いや、お前じゃなくてだな」
岳人 「俺様は島津岳人様だ《ムキーン!》」
卓也 「うわ、もう腕直したんだ」
男  「違う、私はそちらの女性に用があるんだ」
京  「ごめんなさい。博光以外の男に興味ないの」
男  「誤解でフラれた!?」
百代 「あーこらこら、人の楽しみをからかうなよ。
    ───私が川神百代だ。ジジイに言われて来たのか?」
男  「そういうことだ。しかし、川神鉄心……噂だけの男だったか!
    そうだろう? こんな美人の女子学生と戦えなど、正気の沙汰では───」
中井出「───《キッ》」
男  「《ぞくうっ!!》ヒィイッ!?」

 ややっ!? しまった! 川爺のこと悪く言われたから、つい殺気が……!
 うわー、モモがこっち睨んでる……!
 で、でもさ、だってさ、川爺にはワン子がお世話になってるし可愛がってもらってるそうだし、そんな川爺を馬鹿にされたらそりゃあ……家族を馬鹿にされたもの同然ぞ?

百代「時と場所は今この場で。服もこのままでいい。そちらは?」
男 「あ、あ、ああ……そ、それで、構わない」

 モノスゲー引け腰でした。
 あの、すんません、睨まないでくださいモモさん。

……。

 結論から言えば、戦いは一秒も保たなかった。

百代 「……つまらないなぁ……《わしゃわしゃ》わぷっ!? お、おいこらっ!」
中井出「はいはい腐らないの。ガッコ終わったら家に来なさい。
    川爺にバレん程度に思い切りやろう」
百代 「え……ほんとかっ!? お前ここ数年、誘ってもずっと躱してたくせにっ!」
中井出「あのね。あんな辛そうな顔でつまらないとか言われちゃあ、
    楽しいをお届けする博光としては黙ってられません。
    いいね? 時は放課後。場所は我が家で」
百代 「ああっ、ああっ! それでいい!」

 うわー、すげー嬉しそう。
 よっぽどストレス溜まってたんだねぇ。強いのも考えものだ。

大和 「物凄いテンションだな……なんて言ったんだ?」
中井出「あ、すまん。今日俺ン家にモモ招いた。
    いっつもお疲れサンってことで、料理を振る舞おうと思ってね」
大和 「ああそれで」

 ちらりと、燥ぐモモを見て頷く大和。納得がいったらしい。

中井出「まゆっちも来るか?」
由紀江「あ、はい。お邪魔します」
岳人 「おお……ヒロとは随分とテンパらずに返すんだな」
由紀江「うゎえいえいえいえいえ、べべべつに他のみなさんと話すのがまだ苦手とかそうい
    った意味ではなくてですねあのその!」
一子 「ちょっとガクト〜、あんまり怯えさせちゃ可哀相でしょー?」
岳人 「俺様がいったいなにをしたよ!」
小雪 「筋肉筋肉〜♪」
岳人 「筋肉がもはや罪だって言いたいのかよっ! それじゃあ俺様罪の塊じゃねーか!」

 今日も平和です。ええ平和だとも。

……。

 さて、そんなこんなで時間は過ぎて、昼。

中井出「モグモグゥ、オーダンゴッテオイシイナー」

 まゆっちも引き入れた2−Fでは、購買組の机を借りてささやかなメシパーティーが開かれていた。

中井出「でさ、梅ちゃんの話だと、金曜に転校生が来るらしいじゃない。
    しかもドイツのリューベックから」
卓也 「ギャルゲーとかだとこのパターンは美人って決まってるけど」
中井出「いや。ここは意外性をついてドイツ軍人が……!」
大和 「ヒロが言うと冗談に聞こえない」
中井出「え? そう? あ、まゆっちこれもお食べ。
    まだまだ若いんだから、いっぱい食べてすくすく育ちなさい」
由紀江「あ、ありがとうございます」
一子 「…………むー」
京  「それ以上育てさせて、博光はどうしたいの?」
中井出「どうもしませんけど……え? ど、どうにかしないといけなかったの?」

 ええお子に育ちなさいって意味だったんだけど……あれぇ?

大和 「そういえば今日は冬馬とかは来ないんだな」
中井出「英雄と一緒に食うんだとさ。一応弁当は渡してある」
大和 「そっか。ユキも一緒?」
中井出「うむ」

 わやわやと談笑しながら食べた。
 話題はほぼ転校生の話。
 男か女かを話し合っていたんだが、それを耳にしたキャップがニヤリと笑い、大和を連れて教室を出て行った。……なにかをやらかすつもりか。つーか話題の方向性からして、男か女かで賭けるだけだろうなぁ。

中井出「転校生が女だったとして、どうなのかな。
    やっぱり“ここ”にわざわざ転校ってことは……」
京  「うん。何かに長けた武術家とかかも」
卓也 「ドイツっていったらなんだろうね」
中井出「ドイツ……ドイツねぇ……」
育郎 「おっぱいぷる〜〜んぷるんっ!!《ドスッ!》ベン!」
中井出「おいィ? 今なにか聞こえたか?」
京  「いや」
一子 「アタシのログにはなにもないわねっ」

 突然現れた変態の顎を的確にシュートして黙らせました。
 つーか購買組が戻ってきた。
 だがどかぬ! この席は、メシを食い終えるまで我らの席ぞ!

卓也 「で、ヒロはこの子のこと、なんて呼んでるんだっけ」
中井出「昔はユッキー。今はまゆっち。
    松風がそう呼んでたから、そのほうがいいのかなと」
由紀江「あ、いえ、むしろ博光さんならユッキーのほうがその───」
京  「まゆっちだね《キッパリ》」
卓也 「まゆっちかぁ。なるほど」
由紀江「いえあのっ……あうあうあうあう……」

 あ、テンパった。
 まあ、ほんとにすぐにやれというのは無理な話で。ゆっくりね、ゆっくり。

ラジオ『ハァイエブリバディ、春といえば恋だよね。
    でも浮かれて妙な病気にかかるのだけは勘弁な。
    今週もラジオ番組LOVEかわかみが始まるよー。
    パーソナリティーは俺、ハゲこと2年の井上準と』
ラジオ『人生、喧嘩上等諸行無情、3年の川神百代だ』

 唐突に始まるラジオに思わず耳を傾ける。
 なんか人の話し声よりも耳に届くんだよね。音量の所為だって言われたらそれまでだけど。

ラジオ『今日も百代さんに相談のメールが沢山来てますよ。
    準さん、百代さん、こんにちは、はいこんにちわー』
ラジオ『よ。というか、前置きはいいから本文読めハゲ』
ラジオ『ハゲだけどハゲハゲ言われる人の気持ちを考えてください。
    えー……好きな子ができました。どう接すれば良いですか』
ラジオ『私が味見してやるからその娘を紹介してみろ』
ラジオ『ちなみに本気で言ってますから注意してくださいね。
    はい次ー。モモ先輩好きです付き合ってください!』
ラジオ『寝言は寝て言えハゲ』
ラジオ『いや俺じゃなくてメール! メールですからね!?
    つーかまるで語尾みたいにハゲハゲ言うのやめません!?
    まるで俺が禿げ頭って意味じゃなくてハゲって生物みてーじゃないすか!』
ラジオ『もうハゲでいいだろお前』
ラジオ『ハイ次ー! えー……百代さんはどんな映画が好きなんですか。
    あ、ちなみに俺は可愛い児童達が活躍する映画かな。なごむ』
ラジオ『来世からやり直せ』
ラジオ『来世でもきっとロリコンとして生まれ変わります』
ラジオ『……ひたすらアクション映画だ』
ラジオ『はいスルーいただきましたー!
    俺はなんでこのラジオが人気あるのか解りません』
ラジオ『お前の危ない思考がだだ漏れなのがいいんだろ』
ラジオ『危なくない! そもそも可愛い者を見守るという行為は父性のそれと同等であり決
    してやましいものなぞ1ミクロンもないと命を賭けて言い切れる! だいたいなぁ
    ロリコンなんて言葉が流行したからいけないんだ。俺はただ、小さい女の子とお風
    呂に入りたいだけだ! それだけの、純粋な粉雪の心なんだ!』
ラジオ『暴走すんなハゲ!』

 ゴバキャアッ!!

ラジオ『………………あ。気絶させてしまったな。まあいい、曲流すぞ』

 ぐだぐだなラジオだった。
 しかも曲とか言いながら、何故か聞こえてくるのは「麻呂ー、麻呂麻呂ー、耽美な麻呂ー」なんていう訳の解らん歌だったし。


───……。


 放課後になった。
 本日はモモと予定があるから家に戻らねばならぬ。や、そりゃフツーは戻るんだけど。

京  「私は部活」
小雪 「んー……ヒロミツが部活もしろーっていうから、ミヤコのを見てくー」
卓也 「僕はスグルとゲーセンに寄っていくよ」
スグル「ストV稼動中だ。ザンギュラ使いとして行かねば」
中井出「ウリアッ上か」
スグル「そうだ。解っているじゃないか」

 眼鏡をツ……と上げて、目を伏せてニヤリと笑うオタクさまが居た。
 まあそれはそれとして……うむう、今日は一人で下校か。
 まゆっち居るかな?

岳人 「俺様はプロテインが切れたから買いにいくぜ」
一子 「アタシの分けてあげよっか?」
岳人 「お前のは瞬発力用だから、筋力用の俺様のとは違うんだよな」
中井出「俺持っとるよ? 要る?」
岳人 「ああいや、自分の好みもあるからちと見てくるわ。じゃなー、また明日ー」
中井出「ワン子はどうする? 要るなら渡すぞ」
一子 「うん、一個ちょーだい? 今月厳しくってさー」
中井出「うむうむよしよし」
一子 「《なでなで》あうっ、……はうー……」

 なんか撫でたくなるんだよね、ワン子。
 よし、じゃあまゆっち探しに行ってみようか。

中井出「じゃあこれな。無くなったらまた言いなさい」
一子 「ん、あんがと。アタシ鍛錬して帰るから、一緒は出来ないけど」
中井出「ええよええよ。ばっちり鍛錬してきなさい。
    っと、金曜、家には来られそうか?」
一子 「出来るだけ出たいけど、ちょっと解らないかも」
中井出「そかそか。まあ、来れそうだったらな」
一子 「りょーかいっ」

 手を振ってお別れを。
 さてさて、まゆっちを連れて家に戻りますかぁ。


───……。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

由紀江「《ミキッ! ビキッ! バキッ!》…………《ゴゴゴゴゴゴ……!!》」

 で、一応一年でまゆっちを発見した……んだけど。
 何故か席に座って、顔面をビキバキ鳴らしていた。
 ……なにやってんだろねあの子ったら。
 いや待て? もしかして……愛想を振り撒いている……!? 怖いよ!?

中井出「まゆっちー、おーい」
由紀江「ハッ!? あ、ひ、博光さんっ」
一年 『ざわっ……!!』
中井出「む?」
生徒1「黛さんが人に向かって喋ったわ……!」
生徒2「ストラップじゃなくて人と……!」
生徒3「うわ……なんか笑顔可愛くね?」
生徒4「でもいっつもあんな顔だぜ……? 俺達嫌われてんだよ絶対」
中井出「………やべぇ泣ける」

 頑張れば頑張るほど空回りだよまゆっち。
 涙を軽く拭いつつ、「いつもまゆっちがお世話になってます」と挨拶をして歩き出す。
 さてさて、教室のざわめきを耳にしながら行動開始だ。
 なんだか授業参観に親が来たみたいにカチンコチンで、俺の三歩後ろを歩くまゆっち。
 そんな彼女にきちんとこれからのことを説明して、さらに友達は三歩後ろを歩きませんときっちり教え、隣に立ってもらう。
 そうこうしているうちに3年もHRが終わったのか、抑えきれぬKIを撒き散らしながらのモモ参上。何処まで楽しみにしてたんだー、コノヤローって言いたいくらい、その目は喜びに満ちていた。
 そんなモモとまゆっちとともに、川神市をのんびりと歩いた。

  ───川神市。

 関東の南に位置する政令指定都市で人口全国第9位。
 江戸時代から栄えていた歴史ある街で、武家も多く、市の北端には馬も多かった事から名づけられた“多馬川”が流れる。
 武家云々が示し、川神と名がついている通り、川神院が武術の総本山としても有名。
 日本はおろか外国から勝負しに来る気骨ある者も案外多かったりする。
 モモに瞬殺されたあの拳法家もそんな感じだろうねぇ。
 まあともかく、何かと土地柄的に武家の血を継ぐ人間が多いのです。
 直江とか島津とか源とか、そーいう苗字が集中しているのもその所為だと思う。
 ゲンさんなんて忠勝だもんね。強そうだ。
 家を出た京も、実は弓術の伝統を誇る由緒正しき家柄だったりする。
 母親が最低だっただけで、弓の腕は確かだった。
 ほんと、女子が武道派揃いの幼馴染み集団ってのもおかしなもんです。

  ちなみに。

 ワン子に言った家に来られそうかっていうのは、俺達が時として集う集会のことだ。
 見晴らしのいい場所を土地ごと買って建てた我が家は、皆様の中で秘密基地チック扱いになっている。
 自分で建てたものを改築したソレは、以前の微妙な見てくれよりもよほど立派な日本家屋。しかしなんつーかこう、子供心を擽るような仕様。結構広い土地だったから道場扱いの広い場所を作るのにも難儀しなかったし、設計ミスで飛び出た場所に作った基地は、敢えて屋根ではなく屋上チックにしたそこから眺める川神の景色は絶景ともいえる。
 面白がって孺子どもが寄って来ないようにと人払いの膜も張ってあるから、極力人は寄りませぬ。許可してある人はフツーに来るけどね。

 で、そんな我が家にはファミリー室。いわば隠し部屋みたいなのがあって、風間ファミリーのみんなで好きなものを持ち込んで、ゆったり空間にしているのだ。
 集合するのは金曜日。金曜集会と呼んでいる、週に一度のファミリー集会だ。
 温泉もくつろぎ空間もあるってんで、泊まっていくヤツは結構居る。

 そんなこともあって、ここでの交流がままあった冬馬と準は、怨敵Sクラスではあるもののファミリーと仲が良い。ユキは言うまでもないし。
 そんな冬馬と準は、甘えすぎないようにと自分らだけでの生活を始めた。
 が、バイトなぞもしたことなかった二人だ、四苦八苦しているらしいさ。親が病院の院長と副院長なんだ、働く理由もなかったに違いない。そりゃあ初体験の連続だ。
 「そういった世界を自分らで味わってこそ、きちんと自分の足で立てるのだと思うのです」───そう言って立ち上がった冬馬と、それを追った準は今、安アパートで二人暮らしをしている。
 必要最低限の仕送りだけを送るから、気の済むまでやってみなさいってのは俺の言葉。
 現在……結構切り詰めているようで、ただでさえ痩せてたのがさらに痩せてきている。
 いつでも戻ってくるようにとは言ってあるんだけどね。あ、あと一応ファミリー扱いとして、金曜集会にも出るようにって。


───……。


 脳内纏めもそこそこに、辿り着いた我が家で早速準備開始。
 まゆっちの時と同じくシールドを張って、KIが漏れないようにする。

中井出「じゃ、一応恒例として。時と場所は?」
百代 「時は今、場所はこの場で。格好はこれでいい」
中井出「ようがす。ではまゆっち、立会いよろしくね」
由紀江「───はい」

 張り詰めた空気に、さすがにどもることもなくキッとした表情で返した。
 OK、準備は完了している。

中井出「ルールは簡単。5秒動かないヤツの負け。では参る!」
百代 「ああ───来い!」

 モモがKIを解放する!
 するとモモの体から黒いオーラが吹き荒れ、モモの目が真紅に染まってゆく。
 断っておきますが生粋ヒューマンです。信じられんでしょうが、KIでマジに空飛ぶ人種です。

中井出「せぇえいやぁああーーーーっ!!」
百代 「おぉおおおーーーーーーっ!!」

 疾駆は一瞬、攻撃は刹那に。
 当てる気で放つ一発一発はしかし躱し躱され、当たったと思えば威力を殺され即座に反撃される。しかしその攻撃さえも利用しての一撃を叩き込み、吹き飛べば追い、反撃を受けても無視して殴り、空振りすれば暴風を発生させるほどの一撃を刹那に五十は放ち、しかしほぼを躱してゆく。

中井出「マッハァッ!」
百代 「《ゴバァォンッ!!》っ……くはっ───!!」

 滅茶苦茶な速度の中にも技術が加われば一歩を先んじる。
 音速拳がモモの腹に突き刺さり、刹那の時、動きを鈍らせる。
 それを確認するより早く振るった居合い蹴りがモモの顔を蹴り上げ───た頃には胴回し回転踵落としが顔面に突き刺さり、勢いのままにモモを地面に叩き落としていた。
 地面に立っているのに“叩き落とす”という比喩が示す通り、“倒れた”では済まない衝撃と、地面を凹ませ盛り上げるクレーター。
 が、出来たクレーターに埋もれるより早く蹴り上げ足を掴んで後方の地面に叩きつけると、その背に向けて渾身の正拳打ち下ろしを叩き込む───筈が、即座に起き上がったモモがその腕を極め、一瞬で折る。激痛が走るが知ったことかと、折れた腕を振り回して再度地面へ叩きつける!!
 折れた腕は即座にくっつけ、その一瞬で既に起き上がったモモと、正面からぶつかり合う。

百代 「はははははは!! いいなぁいいなぁ! あの頃より全然強い!
    いや! あの頃は手加減されていたってことか!」
中井出「フハハハハハ! まだまだ我の実力はこんなものではないぞぉお!!
    知るがいい! 我はまだKIすら使っていないということを!」
百代 「だったらすぐに使わせてやる! 川神流奥義! 無双正拳突き!!」
中井出「技宣言ありがとさん! 奥義、因果応報!!」

 左手を前に、モモの一撃を受け止める!
 その呆れるくらいの威力を流し、右手に装填して───無防備な体に向けて、自分の力も上乗せして返す!
 これぞ仏ゾーンの千手観音奥義、因果応報!!

百代「な《グァボギャアッ!!》あぐあぁああああああっ!!!」

 体の中心を穿つ。
 骨は砕け、身は吹き飛び、大地に叩きつけられて幾度も跳ねる。
 しかしやはりモモは起き上がり、痛みに涙しながらも傷を回復させ、俺を見た。

中井出「瞬間回復ネー……厄介なものを習得したものヨ」
百代 「もっとだ! もっとお前の本気を、壁ってものを見せてくれ!
    最強最強と謳いながら一分も保たない挑戦者じゃない!
    そんな、広いくせに狭い世界よりも、狭いくせに広い身近な力を!」
中井出「OKその身に焼き付けろ! 人器解放! ───壊れんなよモモォ!」
百代 「壊せるものなら《ドボオォッホォンッ!》は、あぐっ───!? 速っ……」

 烈風脚で一瞬。肘を腹にめり込ませ、次ぐ絶招通天砲が顎を打ち、空中へと飛ばす。
 すぐに体勢を立て直すモモだが、既にその行動を未来視、合わせるように振るったチョッピングライトで地面に叩き落とし、落ちたらビッグバンインパクトで地面ごと破砕。
 骨を砕く音を、感触を腕を通して感じたが、血を吐いてでもすぐに回復、起き上がったモモは、俺を視界に捉えた瞬間には顔面を殴られ地面に叩きつけられていた。
 すぐさま起き上がって反撃とばかりに振るう拳をその拳ごと殴り砕き、驚愕した顔面を掴んで後方の地面目掛けてブン投げるッッ!! しかし掴んだ瞬間にはサブミッションへとチェンジしたモモは、その遠心力を利用してやはり腕を折ろうとする。

中井出「腕はくれてやる」
百代 「───! しま《ガゴチャアッ!》───っ! うあぁあああああっ!!」

 クレーターによって突き出て岩石に、その頭が叩き付けられる。
 あまりの激痛に、回復はしても叫んでしまう体を痙攣させ、それでも戦いをと腕を離そうとはしない。

中井出「よーく掴んでろ───奥義! “音速鞭”!!」

 腕は掴まれたまま、しかしイメージを開始。
 多関節のバケモノをイメージし、振るう腕は掴まれているにも関わらず超脱力。
 折るのなら好都合だとばかりに徐に振るい、全ての関節にて加速を使用。
 肩から先は真の音速へと至り、しかし振り切る筈のそれは途中で戻され───……景色が、爆ぜた。
 音の壁を越えたことによるショックウェーブがモモを吹き飛ばし、俺の腕さえもズタズタに破壊する。だがすぐに回復だこんなもん。
 当然モモも回復し、起き上がりながらも俺を見る。

百代「……全力をぶつけても倒せない男……いいなぁ……!」

 ニヤリと笑った彼女はやはり疾駆。視認するのがいい加減疲れる速度で迫り、殴られても蹴られても突っかかってくる。
 埒も無し。
 いい加減暴れ回っただろとばかりに殴りまくり、しかし反撃をくらいまくりつつもやはり仕返し、仕返しされ、殴り合いは続いて……

中井出「“震”ッッ!!」

 もう休みたまえとばかりに放った一撃がモモの胸に激突。
 振動を伝わせる奥義であるそれは、モモの心臓はおろか血液の流れ、神経伝達を狂わせ、彼女をその場へへたり込ませた。

百代 「あっ……か、かはっ……あ、は、はぁっ……は、あ……!!」
中井出「ん、はいここまで。5秒以上動かなかったら負けってルールね」
百代 「く、う……! こ、こらっ……なにをした……!」
中井出「ちと衝撃を内部にぶつけた。お前の大きすぎるKIを揺らすようにね。
    するとほれ、KIばかりが馬鹿高いお前さんは自分のKIにこそ体を揺らされ、
    てんで動けなくなるってわけ」
百代 「く、うっ……お、おいまさかこれで終わりじゃないよな……!
    まだやるだろ!? まだ全然暴れたりないぞ!」
中井出「……はぁ。不満が残る?」
百代 「当たり前だ! まだやれるのにそんなの納得できるかっ!」
中井出「……OK、了承。じゃあ痺れを解くから……“全力で”潰すよ?」
百代 「上等だ……!《ピリッ》───戻った!
    っ……はぁあぁぁぁあ《ゴヴァッ───!》」

 …………。


───……。


 ……きっかり十分後の中井出家の寝室。

百代 「ン……ん、んあっ!? 勝負は!?」
中井出「お前さんの負ーけー。治った瞬間一撃で気絶したよ」
百代 「…………そうか。気絶させられたか」
中井出「そゆこと。で、ちったぁスッキリした?」

 たはー、と溜め息を吐くモモを見下ろす。
 どんな状況かというと、まああれだ、膝枕。
 布団に寝かせ、その枕を我が足が務めております。
 こうしたほうが癒しとか流しやすいってだけですが。
 え? ヘンな気? ヤハハ、起こすわけないじゃないこの博光が。

百代 「ああ。思い切り殴られて、鬱憤がどっかに飛んでいった気分だよ。
    やっぱり強いな、お前」
中井出「人間の全力出しても生きていられるお前に俺が驚きだよ。
    どっか痛むところとかないか? さすがにやりすぎた」
百代 「ん、んん……言われてみると、頭が痛い。
    乙女の柔肌を岩盤に思い切り叩き落としてくれたからな」
中井出「えぇ!? だ、大丈夫か!?
    ごめんなぁ、あんまりぶつかってくるもんだから、あんなこと……!」
百代 「へ? ………………ぷっ、あっはっはっはっはっはっは!
    いや、はっはっはっはっは! はははははは! ははっ、冗談だよ、冗談。
    まさかそんなに親身に心配してくれるとは、ははははははっ」
中井出「心配もするわっ! ……友で、ファミリーでしょうが」
百代 「…………ん、すまん。言っていい冗談と悪い冗談があったな」

 素直に謝る珍しいモモさんの頭をさらさらと撫でる。
 表情は、ほんとに鬱憤が晴れたみたいにすっきりしていた。
 これでしばらくは大丈夫……と思いたいが。

百代 「……なーヒロ〜?」
中井出「んー? どしたー?」
百代 「お前はさー……強すぎる自分にがっかりしたこと、なかったかー……?」
中井出「んー……ないなぁ。俺は戦うよりも楽しめればそれでよかったし。
    この力だって必要だったから手に入れた力で、
    実際手に入れてみれば楽しむ以外にはあまり使わんかった」
百代 「産まれついての力ってわけじゃないのか」
中井出「そらそーだ、だって俺、元々氣なんて使えない、才能ゼロのただの凡人だったし」
百代 「…………冗談だよな?」

 僕を見上げるモモの顔が驚愕と呆れに染まっていた。
 目をぱちくりしてらっしゃる。ホホ、愛いのう。

中井出「んにゃ、真実。実際、技術らしい技術なんてなかったろ?
    ただのケンカスタイルだ」
百代 「……たしかに素人丸出しのスタイルだったが……油断させるためだと思った」
中井出「まあ、ふつーはそう思うよなぁ。けどホントにホント。
    武術なんて習ったことないし、
    全部どうすれば隙を殺せるかってがむしゃらに動いた結果なの。
    いろんなもののお陰で強くなった俺自身は、キミが敗北を知るほど強くない」
百代 「鍛えてみようとかは思わないのか?」
中井出「俺はね、凡人なままの自分が大好きなのだ。
    力を持たなきゃ辿り着けない未来があって、力を持ったから全てを失った。
    モモ? 戦いが好きなのはいいけど、戦いに飲まれるのだけはするなよ?
    じゃないと、いつか全部を無くすよ。……あんな絶望、繰り返しちゃいけない」
百代 「たかだが十と何歳の男が、随分と重いことを言うんだな。
    しかも失う? 意味が解らんぞー」
中井出「キミらと出会う前は地獄に居たってこと。
    世界の本当の広さも知らないガキが、
    世界を見えているようなつもりで大人を気取ってさ。
    ハッと気づけば一人ぼっちな俺誕生。
    子供は子供なりにいろんなもの背負ってるってことだよ。
    こればっかりは生き方の問題だ」
百代 「そういえばお前、親とかの話……全然しないよな」
中井出「両親は近所のおっさんに殺された。
    ばーさんは崩れ落ちる天井から俺を庇って目の前で死んで、
    じーさんは保険金目当てに親戚に毒殺された。
    家は差し押さえられて、俺だけ一人路頭に迷った」
百代 「…………よく、生きていられたな」
中井出「助けてくれたヤツが居たから」
百代 「ていうか、だ。お前、本当は何歳だ?」
中井出「ん。ヒ・ミ・ツ♪」
百代 「《わしゃわしゃわしゃ》わぷぷっ! こ、こらっ!」

 頭を軽く乱暴に撫で、笑ってやる。軽くなのに乱暴なパワー配分がステキ。
 実年齢知ったらたまげるだろうね。なにせ56億生きてるし。

中井出「今日は泊まっていきんさい。散々暴れて、汗もすごいだろ」
百代 「うー……解ったよ、泊まってく。……そういえばまゆまゆはどうした?」
中井出「料理が得意だっていうから、晩飯を頼んだ。
    ところでモモちゃん? 一応布団に寝かせてはあるけど、気づいてる?」
百代 「気づいてるよ。見たらコロスぞ」
中井出「はいはい。それだけ言えりゃあもう大丈夫だね。
    着替え用意してあるから、ゆっくりしちぇけ。風呂の場所は言う必要ないね?
    さっぱりしたらすぐメシにするから」
百代 「あー」

 軽い返事を聞きながら、ソッとモモの頭を膝から下ろす。
 ……まあね、あれだけ暴れりゃ服も吹き飛ぶってもんです。
 なので困ったことに今モモちゃんたら裸族。
 もちろん吹き飛んだ瞬間に毛布を創造、巻きつけたからどこもなーんも見ておらぬ。
 見たところで今さら興味も沸かんからいいんだが、それは相手にとっても平気ってことにはイコールせんからね、見ませんよ。
 長く生きると妙なところで悟っちゃっていやぁねぇ。どうせならエロにでも再び目覚めれば最低最悪な魔王になれたろうに。
 ……どうせ、置き去りにしてきた彼女も、俺のことは忘れてしまったのだから。

  いつか必ず、忘却の最果てで。

 そんな約束もただの言葉になったと理解したのはいつだったのか。
 不老不死を謳ってはいるが、全ての意思やモノから乖離された俺は、意思無き武具たちと生きるただの人間。冒険者の居ないフェルダールやユグドラシルに充満するマナによって生かされた……そう、不老不死でもなんでもない、ただの人間なのだ。
 ドリアードの核もドリアード自身に戻され、俺の中には核の無いユグドラシルのみが残された。幸いだったのが種を宿していたことで、マナや癒しは未だに精製されていること。
 ただ……そう。ジークンら棒人間と乖離されたことで、不老不死の要因を取り除かれた俺は、マナや癒しが枯渇した時点で本当に死ぬ、寿命なんてとっくに尽きた、マナで生きる人型みたいなもの。
 もはや誰もが俺を覚えていられないと知ってなお、それでも約束をしたから───最果てに辿り着くまでは決して死ねない。

 だからこうしてマナと癒しの樹を植え、負担を減らしながら蓄積を続けている。
 順応の回路は本当にありがたい奇跡を芽吹かせてくれた。
 不老不死とまではいかないまでも、力さえ供給されるのなら生きていけるという能力。
 それを糧に……世界中を敵にしても、誰も俺を知らなくても、いつか必ず最果てに辿り着くことを、ガラにもなく真剣に夢見ている。

 ……ほんと、誰かに恋をしたりしたら、その感情に身を任せるのもいいかなって思う。
 もう、原中なんてものは存在しない。
 フェルダールを駆ける冒険者はおらず、ヒロラインはただのゲームに戻った。
 それでも彼ら彼女らがゲーム世界の住人であったことに感謝した。
 武具らに宿った意思は全て取り払われたけど、“ゲームとして創られたもの”は消えなかったから。ツーテールの少女……ミクを思い出したりもしたが……それは……───

中井出「……今度、モモでも放り込んでみようか。きっと大を通り越して超喜びされる」

 それもいいかもしれない、なんて思いながら部屋をあとにした。
 なんか言ったかーなんて声が聞こえたが、聞こえないふりをしてシカート。
 意思が消えてしまってからはずぅっと、誰も招かずにいたフェルダール。
 恋姫世界の跡も、トリステインも、麻帆良も、その全ての跡が綺麗さっぱり無くなり、元のフェルダールだけが残された。
 きっともう、誰を、何を取り込んでも削られるだけなのでは。
 それを知るのが怖くて、ずっと招きはしなかった。
 でも、そろそろいいのかもしれない。
 幸い戦い好きのモモっちだ。
 喜びこそすれ───…………いや、どうなんだろうな。
 俺をバケモノ呼ばわりでもするだろうか。
 それとも受け容れた上で、レベル上げまくって今以上のバケモノになるのか。
 わあ、想像したくねぇ。

中井出「ははは…………お、おや?」

 知らず、笑ってる自分に気づいた。
 ……あれま。なんだ、まだまだ自然に笑えるじゃない。

中井出「……腐ってられないな。うん、よしっ」

 ちったぁ元気になってみるか。
 その第一歩として、もっともっと学園生活を楽しもう。
 まっすぐぅううう───ゴーーーッ!!
 おっと、モモちゃんを泊めるなら、川爺に連絡入れておかないと。
 えーと川神院の電話番号は〜〜っと。ジーコロジーっと。

中井出「あ、もしもし? うん僕博光。今日モモをウチに泊めるね?
    え? 可愛い孫を男の家に泊められるか? 孫離れなさいこのジジーソン!
    とにかく泊めるもんねー! 貴様の意見なぞ知ったことじゃねーわ! さらば!」

 ゴシャーン♪
 黒電話独特音を立てて、受話器を置いた。
 やあ、やっぱ電話っつったら黒電話でしょ。
 さて、一応モモにも電話入れといたってことを報告しとかんとね。
 ということでノックしてから中に入って、もう一度の様子見がてらに近こう寄る。
 上半身を起こしてはいたけど、僕からみれば正面。背中も見えないし、布団で隠してるからなんの問題もナッスィンです。
 とりあえず傍らにあぐらかいて説明をばドギャッ!!

中井出「むっ!?」
百代 「あ」

 侵入者反応! つーか既にこの部屋に来てる。川爺だ。
 どれくらいの速度で走ればあの老体がこんな短時間で此処まで来れるのか。いやまあそれは別にどうでもいいとして、だ。

鉄心「《ビキビキビキ……!!》ム、ヌ、ゴゴゴ……!」

 川爺のコメカミがバルバル躍動している。
 原因はといえば、可愛い孫が全裸。そして布団。傍らに男。泊まる宣言。

鉄心 「万象一切灰燼と為せ……!」
中井出「いやちょっと待ったその顔でその言葉はマズギャアアアアアア!!」

 その日。
 僕は世界最強の実力を目のあたりにしたのでした。


───……。


 しゅぅううう……

鉄心 「なんじゃ、それならばそうと早う言え。
    おじいちゃんちょびっとだけハッスルしちゃったではないか」
中井出「問答無用で襲いかかってきといて、言いたいことはそれだけかジジイ……!!」

 なんなのこのじーさん。マジで炎出してきたんスけど。
 氣を炎に変えるとか、フツーじゃないよもう。

鉄心 「喝っ! 大体おぬしが中途半端な連絡をするから悪いんじゃろが!」
中井出「うるせー! ていうかなんで普通に卓囲んでメシ食ってんの! 帰れよもう!」
鉄心 「黙らんか! 孫と夕餉を食べたいお爺ちゃんの心境くらい察してみせぃ!」
中井出「じゃあメシ食ったら帰れ」
鉄心 「ワシも泊まっちゃダメ?」
中井出「家主として断言します。ダメ。風呂とか覗きそうだし」
百代 「見破られているな、ジジイ」
由紀江「あの、学園長に向かってそんな言い方は……」
鉄心 「おおお、解っておるのぅ黛のお嬢ちゃん。飴をやろう」
中井出「いかん! 眠り薬が混ざってるから舐めちゃだめだ!」
由紀江「えぇえっ!?」
鉄心 「チィバレておったか……!」
中井出「マジでかよこのクサレジジイ!」
鉄心 「ほんの冗談じゃ。入れるわけがなかろうが」
中井出「……なぁモモ? お前のエロスってジジイからの遺伝?」
百代 「……少し控えようって本気で思った。ダメージのデカイツッコミは勘弁してくれ」

 あまりにも珍しい客に、帰ってきた京も小雪も口数減らしちゃってるし。
 つーかワン子もじーさん追ってやってきてちゃっかり食ってるしで、もうどこから突っ込んでいいやら。

一子 「ぐまぐま……」
中井出「ああほら、ぽろぽろこぼれてるぞ。
    口周りもひどいことに……ほら、拭いてやるからこっち向け」
一子 「む、むーむむむー《フキフキ》……むふぅ、うん、ごくろーさま」
中井出「はいはい、落ち着いて食べなさい」
鉄心 「ふぅむ……妙に一子が懐いておるのぅ。じいちゃんちょっぴりジェラシー」
中井出「はいはいお爺ちゃん、口周りがすごいことになってますよ。こっち向いて」
鉄心 「《フキフキ》……おお、すまんのぅ。って、なにをするんじゃ恥ずかしい!」
中井出「? や、俺差別とかしないし。汚れてれば拭きますよ? 老若男女問わず」
百代 「こーいうやつなんだよ。こいつと間違いが起きるって思うほうが恥ずかしい」
鉄心 「ふぅむ……ならば百代よ。
    何故裸だったんじゃ?《ゾブシャア!》みげーーる!!」

 いきなりな質問にモモのサミングが炸裂!! ジジイ悶絶!

百代「いちいち蒸し返すなクソジジイ!」
鉄心「ごぉおおお……! このワシに一撃当てるとは……!《ズキズキズキズキ……》」

 一度モモがキッと睨んできますが、一切見てませんのゼスチャー。
 しかし裸と聞いては黙っていられなかったのか、京がいやに密着してきました。

中井出「ミャーコ、食べ辛いっす」
京  「私が食べさせてあげるよ」
小雪 「あーん♪」
中井出「《ジュウウウ!!》ギャアアアやめなさいユキ!!
    アツアツの若鳥の照り焼きを押し付けるのはァアア!!」
由紀江「……なんだか、一家団欒みたいですね」
中井出「当然この博光がパパよ!《シャキーン!》」
京  「そして私が最愛の妻《ぽっ》」
中井出「小雪が爛漫長女で、まゆっちが次女、ワン子が三女。
    モモが金が無くてメシたかりにきた京の姉って感じで……」
百代 「ジジイが信楽焼きだな」
鉄心 「せめてナマモノにせんか!」
一子 「なんでアタシが三女なのよぉ!」

 まゆっちが作ってくれた料理を食べる。
 なんとも暖かく家庭的な料理……うん、いいぞ。
 なんかいかにも家庭的って感じの料理だ。
 ツバが出てきた。

中井出「あぐ……はふ、はふ」

 うんうまい。
 自分で作ってばかりだった日々に、この料理は正解だった。

中井出「ズズゥ」

 このスッキリとした味噌味!
 インスタントではない博光味噌とまゆっちの技術が織り成す味わいが味覚にありがたい。
 うーん、こうなると白米が食べたくなるぞ。

中井出「もぐ、もぐ、もぐ……」

 汗が出てきた。
 そろそろ夏だな、衣替えも考えないと。……まだ四月だけどね。
 それにしてもうまい。
 自炊ばかりしていると、誰かの手料理が食べたくなるっていうけど本当だ。

鉄心「……こやつは何故、急に老けた顔で食事を始めておるんじゃ?」

 こういうのっていいなシンプルで。
 ソースの味って男の子だよな。
 そんな調子で、終始ゴロちゃんスタイルで食べました。
 川爺にはず〜っと不思議な目で見られとったけど。




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