【プロローグ7】

 まゆっちのこれからを話しながら学校へと着く。
 まずは一人でも友達を作ること……なんだが。

中井出「イエイ《ジャーーーン!》」
由紀江「え……あ、の……」

 僕は早速、HR前に1−Cに降臨しておりました。
 胸にキスマークをつけられてしまった……こんにちは、中井出博光です。

中井出「さあ、一歩を踏み出す時! 多少強引でもいい、一歩を!」
由紀江「でもっ、でもあのっ、私は松風が居ないとろくに話すことも……っ!」
中井出「ならば僕が松風になろう! 僕の友達、さあともに!《ムキーン!》」
由紀江「とっても無理がありますけどっ!?」

 ジャングルボディ、ナイスポ〜ズとポージングをとってみたらツッコまれた。
 うむむ、まゆっちって絶対に驚き役が板についてるよね。
 男塾でいうと虎丸とかそっちの。
 しかしやると言ったらやりましょう。風間ファミリーは逃げ出さない。

中井出「オッスオラ松風。せっかくの逆風が吹いてる今を逃す手はねぇぜ〜まゆっち〜」
由紀江「うくっ……で、でも……」
中井出「大丈夫だー、オラが上手く話題を振るから、
    まゆっちはそれに受け答えするだけでいい〜」
由紀江「はっ……そ、そうですね、その手がありました。
    大丈夫、大丈夫……私は、私は友達の博光さんと話すだけ……話すだけ……」

 うむ、自己催眠もいいところなので、適当に誰か───ムッ!?《ギラッ!》

C組女子1「ひぃっ!?」

 見ただけで悲鳴あげられた。ふぅ、この博光の流し目も相変わらず大したもんだぜ。よもやチラ見だけで悲鳴をあげられるとは。……あれって黄色い悲鳴っていうんだっけ? ステキすぎる。ごめんウソですショックです。なにも悲鳴あげんでも……。
 ククク、だが知るがいい、この博光にかかれば、相手の交友レベルなぞ容易く知れる。

中井出「アルティメット・アイ!《パワ〜〜〜》」

 眼力で友好度を調べる!
 するとどうでしょう、まるで早乙女好雄が好感度を教えてくれるかのように、人々のまゆっちに対する友好度が見えてくるではないかッツ!!
 ふむふむ、じゃあこの中でまゆっちと仲良くなりたい者は…………

?? 「…………《もふもふもふもふ……》」
中井出「キミに決めたァアーーーーッ!!」
?? 「ばぶふっ!? ふぇっ!? な、なに!?」

 リスのように小刻みにメロンパンをかじっていたお子を指名!
 つーか今メシの時間とちゃうでホンマ!

??「え? え?」

 ズチャアとバキキャラクターのように彼女の席の前に立つ。
 すると戸惑いながらも僕を見上げるリスさん。
 そんな彼女を無造作に小脇に抱え───

?? 「ほえっ?」
中井出「炎が───お前を呼んでるぜ!」

 一気にダッシュ! ぽかんと呆れるまゆっちだったが、ハッとすると慌てて追ってくる。
 教室を抜け、一気に廊下を駆け……ず、廊下は歩いて階段近くまで。
 廊下は走っちゃいけませんよ?
 ここで教師連中に見つかったらHRまでの時間が削られてしまう。
 というわけで階段の隅に辿り着くとリスさんを下ろして、まずはニッコリスマイル。
 敵意が無いことを知ってもらった。

由紀江「なななななんてことを博光さん! こんな誘拐まがいなっ!」

 しかし後ろから来たまゆっちは相当に慌てていて、ある意味不審でした。

中井出「押忍! 自分は中井出博光! 2−Fの魔王でござんす!」
?? 「え? あ……武蔵小杉さんを負かした……」
中井出「押忍! 出来れば貴殿の名前をお聞かせ願える?」
?? 「あっとと、はい、私、大和田伊予っていいます」

 訊ねてみれば、人懐こい笑顔で教えてくれた。
 相手が上級生でも落ち着いたものである。
 知り合いに騒がしくも図々しい人でも居るんだろうか。
 しかし大和田……大和と田圃、と書くあの大和田だよね?

中井出「なんかうちの軍師をいっぱい耕せそうだね」
伊予 「?」
中井出「ナンデモアリマセン。
    で、本題なんだけど……伊予ちゃん、俺の友達になってくれ」
伊予 「《にこー》よろこんで」
由紀江「えぇええっ!? そんな簡単に!?」

 あっさり友達が出来ました。
 ククク、まゆっちを狙っている時点でなんとなく特殊であろうと踏んでいたわ。
 おそらくこのお子も友達が少ないか、まゆっちに似たなにかを持つ少女……!
 ほら、たとえば人形に話し掛けるとか、スイッチが入ると人格が変わるとか。
 や、そりゃないか。

中井出「ご紹介します、こちら僕の友達の黛由紀江。
    あなたと友達になりたかったそうな」
伊予 「え……わ、よかったよー、私も声をかけるタイミングを探ってたからー」
由紀江「エ? え……それはつまり、私と……?」
伊予 「うん。よかったら、お友達になってください」
由紀江「ウェッ!? ───……………………」
伊予 「……あれ?」
中井出「すまん、喜びのあまり気絶してる」

 目が覚めたらウェーイとか言い出すんだろうか。
 まゆっちの最後の言葉を聞いて、なんとなくそんなことを思った───とある春の、出来事〜……じゃったぁ……。


───……。


 ヘイルトゥーユーってことで戻りに戻ってマイ教室。

梅子「それではお待ちかねの転入生を紹介しよう。入りたまえ」

 ギリギリHRに間に合った僕は、ウキウキ気分で転入生を───見た、んだけど。

????「グーテン・モルゲン」

 ……男───だったのか……!
 じゃなくてどう見ても学生には見えんオジサマだった! 色白だ! そして軍人だ!
 だって軍服着てるもん! 間違いないよ!

一子  「え? あの人が転入生だっていうの? ちょっと老けてる感がないかしら」
中井出 「バカモンワン子! 人を外見で判断してはいけません!」
一子  「ハッ! そうだったわ!」
岳人  「突っ込むところはそこじゃねぇえーーーーっ!!
     なんで男なんだよ! 女だと思ってたのに!」
卓也  「いやそこも絶対違うからっ!」
大和  「ああっ!? あの時の!」
????「おおきみか。また会ったね」

 む? 大和の知り合い? …………おお、登校中に言ってた人か。

中井出「なんだ、大和の恋人候補か」
京  「そういえばフラグがどうとか言ってた」
中井出「末永くお幸せにな」
大和 「ああもうツッコミどころ満載だよな今のこの教室!」

 でも、直後に説明があって、転入生の保護者であることが判明。
 では転入生は? って話だが───促されるままに外を見てみると、なんと! 馬に乗って学園内に入ってくる金髪のお子が居るではないか!

育郎「おぉおおお! 女だぁーーーっ!! ……賭けは外したけど、女ぁーーーっ!」
岳人「ヒャッホォウテンション上がってきたぁーーーーっ!!」
卓也「誰か馬に乗ってきてることにツッコもうよ!!」
岳人「いくら俺様でも馬と繁殖行為をする気はねぇぞ……」
卓也「なんでそういう話になるのさ!」

 頭がピンクだからでしょ。

???「クリスティアーネ・フリードリヒ! ドイツ・リューベックより推参!!」

 で、グラウンドで馬に跨っているお子が叫んだんだが…………聞こえづらい。
 なんでわざわざグラウンドなんだ。

翔一  「だっはっはっはっは! 馬かよぉ! 面白ぇ! あいつ面白ぇ〜!」
????「日本では馬は交通手段だろう?」
千花  「や、あの。道路とか見ましたよね?」
????「自動車が多かったな。だがテレビでは馬が走っていた」
卓也  「それ時代劇じゃ……って、言うまでもなく誤解だってすぐに解───ぁああっ!
     よりにもよってこんな時に例外がぁあっ!!」

 モロが叫んだ。
 その視線の先には……人力車に乗った、英雄の姿が。

英雄 「フハハハハハハハ! 転校初日から馬に乗って登校とはやるな!」
あずみ「おはようございま〜〜すっ☆」
クリス「それは……ジンリキシャ!
    馬上より失礼、私はクリスティアーネ・フリードリヒ」
英雄 「そうか。我の名は九鬼英雄。皆のヒーローである!!」《バァーーン!!》

 自己紹介とともに背を見せ、黄金色の服の背に刻まれた龍の刺繍を見せる。
 と、時代劇のキーワードが示す通り、お子は目を輝かせて「まるで遠山のような……!」と感激しておったよ。
 ああ、もうね、誤解の歯車がガッチリ噛み合わさる音を聞いたよ。英雄のお陰で。
 クリスティアーネパパも「やはりか」とか言ってうむうむ頷いてるし。

大和 「間違い無い……日本を勘違いしてる人種だ……」
中井出「いやー……初めてお目にかかった。ミステリーだ」

 このテの人達は、基本人の話を聞かないからな……。これからいろいろ大変だぁ……。

……。

 で、現在。
 黒板にクリスティアーネ・フリードリヒという名が書かれた。

クリス「クリスティアーネだ。改めてよろしく」
中井出「そして俺は博光である《ビシャァン!》ギャーーーイ!!」
梅子 「発言は挙手をしてからにしろ」
中井出「ソ、ソーリー」

 なにも鞭で叩かなくたって……!

梅子 「それにしても、日本語が全く違和感ないな」
中井出「すげぇだろ《びしゃあんっ!》いたやぁっ!!
    な、なして叩くの!? ほらほら、挙手!」
梅子 「お前を褒めた覚えはない!」
中井出「ソ、ソーリー」

 怒られてしまった。

岳人  「はい! はい! 質問!」
梅子  「よし! 品位を以って質問しろ!」
岳人  「よっしゃあ! え、えーと……くりすてぃあーね?」
クリス 「自分としてはクリスと呼ばれることを所望する」
中井出 「はい! だめだ《ビシャアン!!》ウギャアーーーーッ!!
     だだだだからなして叩くの! 挙手してるでしょーが!」
梅子  「品位は何処に行った!」
中井出 「あいつは星になったよ《ビシャアン!》ギャアアアア!!」
岳人  「話の腰折るなよ……で、クリス。か、彼氏は居たりするのかな?」
クリス父「そんなもの居ないに決まっているだろうガッ!!」

 ───……。
 ドバームと床を踏み叩いての、物凄い怒号でした。
 はい決定、親ばかだ。

クリス 「父様のおっしゃる通りだ」
クリス父「クリスに手を出すものは軍が殲滅する」
中井出 「はい質問。それはこの学園で行われる決闘に関してもですか?」
クリス父「ふむ、いや、それはない。決闘とは各々の力で競うもの。
     横槍などを入れれば、日本では処罰されるというものだろう」
中井出 「眩しいくらいに誤解してるけど、それはありがたいですハイ。
     しかし娘さん、めっさ嬉しそうですね」
クリス 「大好きな日本にようやく来れたからなっ」

 おお、見て解るほどに興奮してらっしゃる。
 それをパパリンに言ってみれば、大きくじっくりと時間をかけて頷いた。

クリス父「ああ。私も年甲斐もなく興奮している。噂よりもよほどに素晴らしかった」
中井出 「? なにが?」
クリス 「SUMOUだっ!
     実は昨日、軍機で空を飛んでいる際、SUMOUを見てしまってな!」
クリス父「素晴らしいものだった。相当な速度で飛んでいたにも関わらず、
     濃厚なTORIKUMIを見ることが出来た。まさに音速の攻防だ。
     しかもガラスにヒビが入ったことを知るや、
     真剣勝負の最中だというのにKIを抑えてくれたのだ。あれこそがJIHI。
     日本が初めての娘に初めて見せることが出来た存在が、
     あのようなMASURAOであったことを嬉しく思うよ」
中井出 「………………《だらだらだらだら……!!》」

 あ、あの戦闘機に乗ってたのって、こやつらだったンかァァァァ……!!
 やべぇ、関わり合いのないやつならべつにいーやって思ってたけど、思いっきり関わり合ってるじゃあねぇかァァァァ!!
 見られてた……! 僕の正体とか、大丈夫だよね……!?

中井出 「……あ、あの。SUMOUは、その。表立って話していいものでは……」
クリス父「ああ、そうだった。すまない、つい嬉しくてね。
     到着してからもテレビでSUMOUを見たのだが、
     修正版もやはり熱いものがある。
     DOHYOU際のギリギリの攻防など、手に汗握るものがあるな」
中井出 「お、押忍」

 ともかくこれ以上深く係わり合いにならんように……YES! それだ!
 そうすればバレることなどあんまりない!

梅子  「クリスの面倒は風間たちに一任する」
中井出 「ゲゲェエーーーーーーッ!!!!」
クリス父「不服かね?」
中井出 「《ゴリッ……!》ウワハァイ嬉しいナァァアアッハァアッ!?
     だからコルトパイソン押し付けないで!?
     でも梅ちゃん質問です! なんで僕らに一任!?」
梅子  「それはクリスが島津寮に入るからだ」
翔一  「ああ、そういや二階の部屋、空いてたっけ。
     でも誰かが入るなんてこと、聞いてなかったけどなぁ」
大和  「話も聞かずに放浪してたからだろ」
翔一  「風のように走る男だからな!《テコーン♪》」
大和  「光も無しに歯を輝かせるなって」

 もはや挙手とか無視になってる。
 梅ちゃん、結局はこうなるのかって感じで無視してるし。
 ……あれ? なんで俺だけ叩かれたんだろ。

翔一 「いーぜ、べつに。クリスって面白そうだしなぁ」
梅子 「では島津寮への案内は直江大和、お前がしろ」
大和 「はい。けど荷物とかは?」
クリス「今頃、寮に届けられているはずだ」
翔一 「麗子さん、知ってて黙ってたんだろうなぁ。
    ずりーよなぁ、知ってたらもっとやることもあったのによぅ」
千花 「それはそれとしてクリスさん、ほんとに機嫌よさそうね?」
クリス「ああ。友達から日本のよさをいっぱい聞いていた。
    日本のドラマも沢山見ている。それを、これからは普通に見られる。感激だ。
    大和丸夢日記や鬼兵などは秀逸だな! あれはいいドラマだ!」
卓也 「……やっぱり誤解してるね……」
大和 「面白がられて友人にウソを教えられるタイプか……」
岳人 「しかもそれを疑いもしないと。いいねぇ、そーゆー子大好きだよ俺様!」
京  「ちなみにガクトがモテモテであると誰が言っても、クリスは信じないと思う」
岳人 「うるせーよ!!」

 クリスの言葉を聞いて、クラスの皆様がやっぱりかといった顔になった。
 大和丸夢日記、鬼兵は日本では有名な勧善懲悪時代劇。そしてこの性格。キリっとした物腰を考えるに、曲がったことが大嫌いなお子と見た。
 そりゃあ、友人にヘンな知識をつけられたりもするだろう。
 そして親ばかな親とくれば、娘がひけらかす受け売り知識を信じきるに決まっている。
 ナルホドー、そうやってこんな状態になったのかー。

クリス 「実はここに来る前に、京都にも観光に寄ったのだ」
中井出 「戦闘機で?」
クリス父「ああ、時間がなかったからね」
中井出 「誰かこの親子を止めてください……」
クリス 「ドラマ(時代劇)そのものの場所で感動した!」
卓也  「映画村だよね……絶対。こうまで人を疑うことを知らないなんて」
翔一  「純粋なんだろー? 目ぇ綺麗だし。俺クリスのこと気に入ったよ」
中井出 「態度見りゃ解るよ。で、クリスに質問。日本のどんなところが好き?」
クリス 「!」

 あ。なんか今、その質問を待っていたって顔になった。
 ビッと姿勢を整えるや不敵に笑み、一言。

クリス「武士道精神!」

 その一言に、寝そうになっていた一子の耳(髪の毛の一部が犬の耳のよう)が跳ねた。

クリス「自分は騎士道精神を父様より教わったが、日本の武士道も実に壮絶で美しい。
    ドイツでもボクシングを見ていたが、
    驚いたことに日本のボクサーは負けると切腹をするという」
卓也 「亀田だね」
中井出「あー、しかもやらなかった。試合中に亀田バスターまで出しておいて」
クリス「なんと誇り高い! ボクサーまでサムライとは!」
中井出「そして全然聞いちゃいねー……」
クリス「そして何よりSUMOUのRIKISHIのKIは全てを貫通するという!
    この目で見たが、あれこそがまさに神技!」
卓也 「それはネット上のコラージュだよ……って、
    そういえば戦闘機で見たって……あれ?」
クリス「そういえば空中でTORIKUMIをしている二人のRIKISHIは、
    MAWASHIこそつけていたもののここの制服を着ていた気がする。
    許されるのなら是非とも会いたいんだがっ」
大和 「……この学校で、そんな無茶が出来るっていったら……」
卓也 「モモ先輩……しか居ないよねぇ」
岳人 「だとしても相手は誰になるんだよ」
翔一 「よく解らねぇけど面白いならいい! そっかーモモ先輩空飛べるのかー」
卓也 「人としての反応でそれはどうかと思うけどなぁ!
    ……なのに、確かにあの人ならって思ってしまう自分がちょっと悲しい」

 いろいろ常識破っとりますからね、あのお子は。

梅子  「父君、そろそろ」
クリス父「解った。皆、娘をよろしく頼む」
岳人  「ン任せてくだっさぁーーーい!」
クリス父「重ねて言うが、手を出せば軍が秘密裏に始末する」
岳人  「死体役は任せたモロ」
卓也  「だから僕に話を振らないでってば!」
クリス父「クリス、なにかあれば戦闘機で駆けつけるからな」
育郎  「物凄く私情に権力を使う軍人だな……」
中井出 「よっぽど偉いんだろうね……」

 オジサマは俺達に一礼し、出て行った。
 そんなわけで緊張から解き放たれた好奇心旺盛の皆様から、いろいろと質問が飛んでは返りをしていたが、そんな中でも特に、ワン子がうずうずした調子で……ンバッと、とうとう挙手───!

一子「はーい質問! 何か武道をやってるのかしらー!?」

 あ、それ僕も気になってた。
 ほら、騎士道精神がどうとか言ってたし、もしかしてサムライソードで悪を斬るのが夢だったとか言われたら泣けるし。

クリス「フェンシングを、幼い頃からずっと」
中井出「なんの!
    俺なんて子供の頃にフェンスをビッグバンクラッシュで破壊した経験が」
一子 「YES! 梅先生提案! 転入生を歓迎してあげたいと思いまーす!」
中井出「あれぇ無視!?
    フェンスとフェンシングをかけたハイセンスダジャーレなのに!」
大和 「駄洒落の駄がついてる時点でハイセンスじゃないだろ」
中井出「あら痛い!」

 それもそうだった。
 でも言ったモン勝ちだと思うんだ、ダジャレって。笑えればもうけもんだもの。

梅子 「血気盛んだな川神。だがそれは面白い。
    ……クリス、そこのポニーテールがお前の腕前をみたいそうだ」
中井出「え? 俺?《いそいそビシャーーン!!》ギャーーーイ!!」
梅子 「いそいそとポニーテールを作るな!!」
中井出「うう、ちくしょう」
大和 「そういえば急に髪伸びたけど、何事?」
中井出「ちょっとMAGEをね……」
大和 「曲げ? ……?」

 意味は通らなかったらしい。
 まあOK。

クリス「……なるほど、新入りの“歓迎”か」
中井出「うむ! 食べ物用意しておくから、
    クリスはテブラデスキーさん状態で《ビシャーーン!》ウギャーーリ!」
梅子 「あのなぁ中井出博光。私はな、円滑に、話を、進めたいんだ。解るな?」
中井出「知らないや《ビシャシャシャシャシャシャ!!》ゲファーーリゴフォーーリ!!」

 鞭乱舞されました。KOFのウィップみたいに。
 座ってる相手に、周囲に被害を与えぬようにしてるというのにこの業……!

一子 「えっと……」
中井出「いつものことだから続けて続けて」
一子 「うん。博光の言う通りにするー」
中井出「おうおう、ワン子はいいお子だねぇ。金平糖をやろう」
一子 「ありがとー」
梅子 「中井出! HR中に菓子を食うな!」
中井出「見える!《シェェエイ!!》」
梅子 「なにっ!? 避けた!?」
中井出「ゲハハハハそう何度も見せられれば《ビシャーーン!》イェエーーーイッ!!?」
梅子 「私語は慎め!」
中井出「いやあの……せめて最後まで言わせて……」

 踏んだり蹴ったりだけど自業自得なので気にしないことにした。
 ほらごらん、笑ってる人がおる。みんなの笑顔が僕の笑顔です。最強。

一子 「《ころころ……》んむんむ……おいひー……♪
    あ、えっと。川神学園には決闘っていう儀式があるの」
中井出「うむ。その通り。金髪のドイツ人を贄にささげて」
梅子 「《ギロリ》」
中井出「……梅ちゃんてば美人!《ビシャーーン!》いたぁい!」
梅子 「つまらん世辞はいい」
京  「そして嫉妬する私が誕生した」
中井出「京はかわゆいよ」
京  「《なでなで》はぅー……」
梅子 「こら椎名っ! 許可無く席を立つな!」
京  「もう座ってる。10点」
中井出「人の膝の上に勝手に座らんでよ……」

 でもまあ暖かいので抱き締めておくことにした。
 抱き締めながら頭をなでる。うんステキ。
 梅ちゃんが額に手を当てて俯いてるけど別にいいや。
 そうこうしている内に、ワン子がクリスへの決闘の仕方を教え終えていた。
 あっさり決闘を受理したクリスは不敵に笑い、ワン子もまた無邪気に笑んでいた。

岳人 「いいねぇ、キッパリしてて気持ちがいいや」
京  「教室で気持ちがいいなんて、とうとうそんなプレイに目覚めて……」
岳人 「“俺様+気持ちいい=そっち的なもの”って考えを捨てやがれ!」
千花 「マジ? 決闘久しぶりに見れるんだ!」
中井出「や、俺やったばっかだけど」
岳人 「そして当然のごとく無視すんなよ!」
梅子 「待て。肉体を使用する決闘の場合は職員会での了承が必要だ」
中井出「問題ないっしょ。川爺、さっきから廊下に居るし」
梅子 「なに?」
鉄心 「こりゃ! 人の登場シーンをぶち壊しにするでないわ!」
卓也 「うわぁあほんとに居た! ……ってなんでヒロが呆然としてるのさ!」
中井出「い、いや……ほんとに居るとは……! きっとストーカーなんだよ」
鉄心 「学長相手にほんに好き勝手じゃのぅおぬし……」
中井出「差別、嫌いなんで」

 ともあれ川爺の特権で了承決定。
 会議することもなくあっさりと受理された。
 新人歓迎なんて勢いが大事だものね。来たばっかの時じゃなけりゃあ、こんな勢いは出せまいて。つまりこれは───実力を知り、新人を知るチャンスなのだ!

一子 「ふふーん、日本対ドイツってわけね!」
中井出「いや、違うな。ワン子対クリスだ。
    何も気負うこたぁない、ワン子はワン子として戦いなさい」
一子 「おっと、それもそうだわねっ」
京  「……ワン子、相手強いよ。多分私よりも」
中井出「う、うむ……あの気迫、只者で無し……!
    恐らくはこの博光よりも強く、あと三回変身を残している……!」
一子 「ちょ、ちょっとぉお……驚かさないでよぉおお……!」

 泣きが入った。
 ……ワン子は朝、ウチに鍛錬しに来ることもあって、多少なりとも俺の力を知っている。
 一応他のヤツには言うなーってことにしてあるし、律儀に守ってくれてるからOKだが、そんな俺より強いと知るや少し震えていた。

京  「博光より強いんじゃ、お手上げ」
中井出「色眼鏡で人を見すぎです。まあ強いのは確かだね、クリスってば」
一子 「けどやるって決めたからにはやる! ゆーおーまいしん!」
中井出「ああこれこれ、冷静に冷静に」
一子 「あっとそうだった。一撃に感謝ー、一撃に感謝〜……はふー」

 ワン子の行動は力任せなのが多いから、冷静になることを仕込んだ。
 一撃一撃を大切にしなさいと教え、ソレを実行できるようになってからは大分隙が消えた……と思う。それでもクリスと五分かそれ以下か。

一子「……でも京より強いってほんと?」
京 「“見切り”が強そう。やるなら早期決着が望ましい。見切られたら終わるよ」
一子「うぐっ……様子を見てから攻撃してくるタイプって嫌いだなぁ……」

 そんな性格だしね、ワン子。

……。

 ───話をしよう。
 あれは今から36万……いや、1万4000秒前だったか……。
 まぁいい、私にとってはついさっきの出来事だが、キミたちにとっては多分……これから知る出来事だ。
 彼女には72通りの名前があるから、なんて呼べばいいのか。
 確か最初に会ったときは───……岡本一子。
 そう、あいつは最初から言う事を聞かなかった。
 私の言うとおりにしていればな……。
 まぁ、いいやつだったよ。

 ───と、妙な前置きは置いておいて。
 さて、梅ちゃん先生の指示で、レプリカの武器を手に取って外に出るワン子とクリス。
 校庭で、川爺の前に二人が睨み合う。

鉄心 「では双方! 前に出て名乗りをあげよ!」
中井出「2年F組! 中井出博光である!!」《バァーーーン!!》
百代 「川神百代だ」
中井出「あれぇ!?
    ちょっとしたジョークを受け止めちゃった恥知らずな3年が居た!?」
百代 「面白そうな放送が入ったから来てみれば、まさか私に挑戦したかったとは。
    いいぞ? 思い切りやろう」
中井出「ア、アゥワワワワ……!!」

 俺ならノリで名乗りをあげると知っていたのか、わざわざ律儀にも待っていたらしい。
 そして僕のことはパーペキに無視して、さっさとワン子とクリスの決闘を進める川爺。
 ……一部の生徒がこちらに視線を向けているのを知ってしまえば、僕は逃げるわけにはいかなかった。エンターテイナーは逃げてはいけないのだ。僕違うけど。
 ところでパーペキって言葉、聞かなくなって久しいよね。パーフェクトと完璧を混ぜた造語だっけ? 意味同じなのにね。

中井出「望むところじゃ男じゃわしゃあーーーっ!! ディスイズワッペェーーーン!!」

 ワッペンを取り出して地面に叩きつける!
 するとモモがニヤァと笑んでワッペンを叩きつける!
 さよなら俺のハートフルライフ! そしてようこそ俺のハートフルボッコライフ!!
 野郎め俺が人前では実力出せないことを知ってニヤついておるわ!

鉄心 「正式なる受理を認める!」
中井出「ギャアしかも目ざとく見てやがったこの爺!!」
鉄心 「決闘を受理しとらんのに大袈裟に広めても迷惑じゃろが」
中井出「ごもっともデスネェィ」

 なんかもう泣けた。
 だがいいだろう、この博光とて男だ。だが差別は好かんので両生類扱いで。
 この博光も両生類だ。なんとかして一泡吹いてやるぜ!
 ……あれ? ソレだと俺、負けてる?
 あぁあ、ワン子とクリスはさっさと勝負始めちゃったし……!
 あ、でも僕らまだ決闘方法決めてないや。ゴハハハハ、ならばゲームで勝負!

鉄心 「決闘方法はなにかな?」
百代 「もちろん拳だ」
鉄心 「あい解った!」
中井出「ゲゲェエーーーーーッ!!」

 キッパリ言っちゃったよこの人! しかも即効で許可された!
 おいィィィィ! 許可するのは俺であっててめぇじゃねぇだろ川爺ィィィィ!!

鉄心 「では双方前に出て名乗りをあげよ!」
中井出「名乗ったでしょうが!」
鉄心 「黙れい! 様式美というものがあるんじゃ!」
中井出「なら仕方ないね。中井出博光である!!」
百代 「川神百代だ」
鉄心 「使用武器は己が肉体! 決着はどちらかのギブアップか、戦闘続行不能とする!
    では───始めぇえい!!」

 クワッと見開いた目、そして放たれる気迫が心の中の決闘のドラを鳴らした。
 こうなりゃヤケです。
 僕はズチャッ……と構え、相手の出方を見た。むしろ視た。

中井出「フッ……まずは相手の出方を見るッッ! ……これ言うヤツって大抵負けるよね」
百代 「お前にはいろいろとされたよなぁ……いや、別に私怨はないぞ?
    むしろ感謝しているくらいだ」
中井出「死ねぇえええーーーーーーっ!!」
百代 「おいおい、いきなり奇襲か?」

 拳を突き出したがあっさり避けられた。
 うむ、やはり奇襲も通用せんし、周囲からモノスゲー卑怯者呼ばわりです。

中井出「ありがとー! 声援ありがとー! ワハハハハハ! 見るがよいわモモ!
    貴様のファンすら俺へと声援を飛ばしておるわ!」
百代 「どう聞いたって罵声だろうが」
中井出「うるさいよもう!」

 しかし話しながらも再び距離をとりました。どんどん、ゆっくりと、詰められてますが。

百代 「どう可愛がってやるかなぁ……はっはっは」
中井出「フッ……ならば可愛がり返す!
    知るがいい。可愛がる、ということは……可愛がられる覚悟もあるということだ」
百代 「……例えの所為で格好つかないな」
中井出「だからうるさいってば!」

 しかし話をしていても埒が空かぬのも事実!
 僕は郭海皇の息子のニセピクルさんのように駆け、一気に間合いを詰めたッッ!!

中井出「グォゴゴゴ《バゴシャア!》ギャアーーーーッ!!」

 そしたらあっさり殴られた。
 その間、僅か二秒!! ……いや、そんなにもかからんかった。

百代 「おいおい……力抑えてると本当にその程度なのか……?」
中井出「フッ、今、全ての力を頭脳に回しているから頭脳以外はフツーなのさ」
百代 「頭のいい行動にも見えなかったんだが」
中井出「ほっといてよもう!」

 もう……もういい、ならばこちらにも考えがある!

中井出「モモちゃん……そちらの考えはよーく解った。
    この博光に道化になる瞬間を与えてくれたばかりではなく、
    よもや周りに僕を笑わせることで笑顔を齎すとは……」
百代 「いや、情けないーとか笑われてるだけだろ、お前」
中井出「フッ、俺は誰かの苛立ちよりも嘲笑だろうが笑いを取る。むかつきゃ殴るけど。
    なので俺も意外性で走ることにした。覚悟せい」
百代 「実力を抑えたお前に出来ることがあるのか?」
中井出「その考えが命取りよッッ! ちょいさぁーーーーーっ!!」

 殴られフラついている、“モモ先輩に負けて当然”の俺なぞより、ワン子とクリスの戦いの方が見ていて気持ちがいいに決まっている。
 そんな、みんなの視線がワン子とクリスに視線が行ってしまう一瞬の隙をついてのAGIマックス烈風脚!!

百代「!? 視認出来ないだと!? 私が《がばぁっ!》うわぁっ!?」

 刹那! より刹那! 一秒もかからん内に“意外性”を実行した僕は、その状態のまま雄々しく立っていた。
 対するモモは……ポカンとするしかなかったわけで。

中井出「奥義! 公然お姫様抱っこ!!」
百代 「……? ………………〜〜〜〜っ……《かぁあああっ……!!》」

 俺が奥義の名を語り、その声に皆様の視線が戻ったあたりでようやく事態に気づき、赤くなるモモちゃん。ええ、当然殴られました。蹴られました。ボッコボコです。宣言通りのハートフルボッコライフです。

中井出「グビグビ……」
百代 「はっ、はぁっ……、はぁあっ……!!」

 もう、モモが息を荒げるほどのフルボコりタイムでした。
 ふふっ……手も足も出せんかったわ……。

鉄心  「勝者! 川神百代!」
ファン1「キャーーッ! モモせんぱぁーーーい!」
ファン2「ステキーーーーッ!」
中井出 「握手してーーーっ!!」
ファン 『キャアアーーーーーッ!!?』
中井出 「ホイ?」

 で、変わり身の術でさっさと決闘の場から逃げていた僕は、ファンと一緒に叫んだら叫ばれた。な、なにごと?

百代 「お前さっきまでそこに倒れてただろーが!」
中井出「擬態さ《ニコリ》」
百代 「何者なんだよお前は……」
中井出「漬け物だ。美味いぞ」

 直後に殴られました。
 同時にワン子とクリスの決着もついたらしく、勝者はクリス。
 いいところまでいったらしいが、相手の隙に欲をかいて大技を狙ったワン子の負け。
 あのお馬鹿……冷静にって言ったのに。
 つーか……と、気になったので人垣を乗り越えてワン子のもとへ。
 どうやら肩を突かれたらしく、苦しげに押さえて蹲っていた。レイピアか。レプリカといえど、尖ったものと技術を合わせれば箒だろうと凶器になる。痛かったに違いない。
 まあそれよりもだ。

中井出「キミね、重り外した?」
一子 「はうぐっ……ぜ、全部つけたまま……」

 言いつつ、僕の許可を得てから全部を外すワン子。
 どんがんどんがんと地面に落ちるソレは、必要なときだけ外しなさいと教えたものだ。

千花 「うわっ、なにあれっ! すごい音が鳴ったわよ!?」
真与 「あわわ、今まであんなものをつけながら戦ってたんですか……!」
中井出「はぁ。自業自得ですなぁ。あとワン子、ちゃんと体休めたか?
    ずっとつけっぱなしにしてても負荷がかかるだけで意味がないって教えたろ」
一子 「あ、あぅううう……」
中井出「まさかそれをつけっぱなしで休みもせずに鍛えてた、とか?」
一子 「あわわわゎゎゎゎ……!」
中井出「私刑」
一子 「《がしぃ!》わやぅっ! やっ、や《どがぁん!》ふぴうっ!?」

 ……綺麗なアーチを描き、M11型デンジャラスアーチが炸裂した。
 ワン子は頭を押さえて地面をビトゥンバトゥンと跳ね回って悶絶。
 やっぱり今回もだめだったよ。こいつは話を聞かないからな。
 そんなわけで、旧姓岡本一子さんのお話でした。長かったね。

中井出「“決闘”をする時は常に真剣でと教えたであろうにこのお子はーーーーっ!!
    普通の戦いなら良い! だが決闘に最初から全力を出さんとは何事!!
    それは今まで鍛えてきた体!
    そして相手に対する侮辱以外の何者でもないぞワン子くん!!」
一子 「う、うぅう……怒らないでよぉおお……。
    さすがに初日で大怪我は可哀相だって思ったんだよぉぉお……」
中井出「ぬう! なんと眩しいJIHIの心! 許せる!
    でも反省はしましょうね? はい、なでなで〜」
一子 「はぅー……癒されるー……」

 そりゃ、撫でながら癒してますし。
 と、癒すまでは癒してと。

中井出「ほれ、戦った相手には?」
一子 「敬意!」
中井出「よろしい。じゃあ歓迎してきんさい」
一子 「うんっ!」

 立ち上がり、クリスのもとへと駆けてゆくワン子を見送る。
 代わりにやってきたモモがやたらと黒い笑みを浮かべています。
 そんなモモが、周りに聞こえないように小声で話し掛けてきた。

百代 「痛みも消せるのか」
中井出「癒しです。刺されても安心」
百代 「……さっくり聞くぞ。出来ないことはあるか?」
中井出「死人を生き返らせることはしない。
    できるけどしない。そういうルールを持ってます」
百代 「それ以外は出来るってことか。流派はないのか?」
中井出「我流じゃよ。流派に混ざっても最初から破門レベルの無礼奴(ブレイド)だし」
百代 「それはいえてるな」
中井出「うむ。ほれほれ、キミもどーせクリスが気になっとるんじゃろ?
    丁度ワン子もクリスにあだ名をつけたところだし、
    お姫様抱っこでもしてらっしゃい」
百代 「お前を抱っこして視線の只中に突っ込んでもいいか?
    お返しをしたい。是非」
中井出「さんざんっぱら殴ったでしょーが!」

 笑いながら「きこえないなー」なんて言って、さっさと行ってしまった。
 僕はそんなモモを見送ると、そろそろお開きカナーと思いつつ教室に戻る準備を───

声 「あなたが川神百代か!
   そして恐らく───昨日のSUMOUをしていた者の一人!」

 早急に行うべく、地面を蹴っていた。

百代 「逃がさん」
中井出「《がしぃ!》やだぁあーーーーーーーっ!!!!」

 そしてあっさり捕まった。
 一瞬であの距離を詰めるとは……! げに恐ろしきは女子高生の強さよ……!!


───……。


 時は流れて終わりのHRが終了、やってきました放課後。
 ソレまでに散々と捏造した事実を素直に受け取ってくれたクリスに感謝。
 ふう、僕の話術はもはや芸術だね。バレたらひどい目に遭いそうだけど。

クリス「そうか……学生服を着ていると思ったが、
    あれはKIの所為でそう見えただけなのだな……」
中井出「モモが誰と戦ってたか知らんけどね」

 言うだけならタダである。うん僕知らない。
 ということで、モモが戦っていた相手はRIKISHIであることを捏造した。
 RIKISHIにはアンコ型とそっぷ型があることもきっちり加えた上でだ。
 アンコ型ってのはまるまる太ったRIKISHIで、そっぷ型は逆に痩せ型のRIKISHIのことを指します。

クリス「しかしお前はSUMOUに関して詳しいな。そういえば父様とも話していた」
中井出「え゙ッ……いや、それを言うなら軍師大和のほうが詳しいよ? うん僕知らない」

 関わり合いになってはならぬ。バレればいろいろ面倒だ。

クリス「そんな筈はないだろう。
    SUMOUのことでここまで細かに説明してくれたのはお前が初めてだ。
    アンコ型やそっぷ型なんてものがあるとは知らなかったんだぞ自分は。
    食が足りないか、食いすぎというだけの違いだと思っていたんだ。
    しかしどうしてアンコなんだ? 餡子のように甘いものを食べているからか?」
中井出「いえ、あれは餡子じゃなくてアンコウ。
    魚のアンコウのような体型だからそうつけられたの。
    でもアンコウ型だと語呂が悪いし、続けて言ってる間にアンコになったの。
    でも注意。肉つきが良くてもきっちり締まってるRIKISHIに向かって、
    アンコというのは失礼に値する」
クリス「呼び方ひとつひとつでも誇り高いのだな。さすが日本だ、よく解った。
    そしてやはり詳しいんじゃないか。またひとつ知識を得たぞ」
中井出「あれ? …………ゲェエーーーーーーッ!!」

 自らの首を絞めてしまったオウマイガァ!(おかしすぎるわよ!)

クリス「よければお前が島津寮まで案内してくれないか?
    お前は遠慮がなくて話しやすい」
中井出「ぬう。案内をしてあげたいのはやまやまだが、
    あたしゃこれから家に戻って夕食の仕込みをせねばならんのよね」
クリス「なっ……なにっ!? 自炊をしているのか……!?」
中井出「うむ。ウチ、親がおらんので。今は───っと、来た来た」
小雪 「ヒロミツー、終わったよーっ♪」
中井出「はいな、ご苦労さま」

 終了と同時にS組から走ってきたのか、無断で教室に入り飛びついてきたユキを抱き止めて、背中をポムポムと撫でてやる。うむ、まるでマーキングするかのように頬擦りしてきよる。ホホホ、かわゆいヤツめ。

中井出「紹介いたそう。ウチの家族の小雪。で、今小雪をベリャアと剥がしたのが京。
    苗字は違うけど家族です」
京  「むしろ妻……《ポッ》」
中井出「ただの仲良し家族です」
クリス「仲がいいんだな。自分はまだ一人だから、仲良くしてくれると嬉しい」
京  「それはとてもとても難しい。博光は友達も仲間も家族も大事に───
    とてもとても大事にするけど、ただの友達から仲間になるのはとても大変」
クリス「……そうなのか? 割と軽い気配を持っているから、そうでもないのかと思った」
中井出「友達の前は知り合いです。
    けどクリスの父のお陰と決闘のお陰でどういう人物かは見えてきたから友達で。
    でも仲間って部分はとてもハードル高いヨ」
小雪 「うんうん、高いよー? マユマユを迎えたのは驚いたけどねー」
中井出「まゆっちは幼い頃に馴染みがありましたから」

 で、肝心のクリスは口に軽く握った手を当て、考え事の真っ最中。

クリス「いや待て? 家族といったが……歳は同じなのか? 双子か?」
中井出「んにゃ、血は繋がってない。
    二人とも親がひどい人でね、任せられなかったから俺が引き取った。
    だから苗字は違うけど家族なの」
クリス「それは……いいのか? 親が心配しているんじゃ……家出はよくないぞ」
中井出「…………言いたかないけどね。金要求してきやがったのよ。
    くれてやるから金を出せ〜ってね。だから買った。家出じゃない」
京  「買われた身。でも幸せ」
小雪 「買われたほうがよかったんだよ。だって僕、幸せだもん」
クリス「そ、そうか……。すまない、立ち入ったことを訊いてしまった。
    だがその、親とは尊敬するものであり、よく話せば解ってくれたんじゃ───」
中井出「はいストップ。……クリス、その先はダメ。
    自分を基準にした考えでしか相手を気遣えないんじゃあ、
    たとえ心配してるように言っても気遣いとは言えない。
    俺達は3人とも親は居ない。そう割り切ったほうが幸せな家族だってあるんだよ」
クリス「…………そうか。すまない」
中井出「うむうむ、そこできちんと謝れるならOK。
    ここで自分は間違っていない! なんて言ってたら───」
小雪 「ツブシテたねー……? あはははハハははハ……?」
京  「誰かの幸せはその誰かにしか解らない。不用意なのはとても駄目」

 や、二人とも目が笑ってないよ?
 でもその雰囲気は受け取ってくれたらしい。クリスも静かに頷いてくれた。

中井出「まあともかく、このお子めらの夕飯を作らなきゃならんから、えー……軍師大和」
大和 「いいよ、引き受けた。直江大和だ、よろしく」
中井出「あ、どうも。中井出博光です」
大和 「じゃあ案内任せた」
中井出「ノォ嘘ウソです待ってぇえええっ!!」

 自分にくると踏んでいたのか、それとも交流を増やすためにあっさり受け入れたのか。
 スムーズだったのがありがたくて、大和の自己紹介に自己紹介で返した僕はこれまたあっさり案内を任された。もちろん大和も冗談だったようで、笑いながら再度頷いてくれる。

クリス「むっ……おい、ウソはいけないぞ。
    正直に真っ直ぐに進んだほうが気持ちがいいだろう」
中井出「あ、ごめん。俺正義とか真っ直ぐって言葉、大嫌いなんだ。
    俺は悪が好きだから」
クリス「な、なに? 何故だ、正義のほうが素晴らしいだろう!」
中井出「なにを仰るか! 悪のほうが素晴らしいよ! ねぇ大和!?」
大和 「ここで俺!? ……まあ、俺も悪役のほうに目がいくかな。
    大和丸夢日記とかでも闇丸が好きだし」
クリス「闇丸……!? 金をもらって人を殺す外道ではないか!」
中井出「あ、それ。僕の好きな言葉」
クリス「なっ……外道が好きだというのか!?」
中井出「え……大好きですが?」
大和 「子供の頃からだよな、ヒロの場合」
小雪 「意味がいろいろおかしいけどねー♪ すりすり〜♪」
京  「博光の外道発言、久しぶりに聞いた。すりすり……」
中井出「なんで二人して擦り寄ってくるの!? ちょ、今話してるでしょう!?」

 何故か二人が腕に抱きつき、すりすりと体を密着させてきた。
 ……どうやら新しきお子の前ってこともあって、僕が自分らのものであることをキッチリと解らせたいっぽい。……って大和がアイコンタクトで教えてくれた。

中井出「で、クリスの好きな言葉は……まあ想像つくけど。“義”とか“正義”っしょ」
クリス「ああそうだ。素晴らしいじゃないか」
中井出「ボカァ嫌いです」
大和 「嫌いまではいかないけど苦手だ。義はいいけど正義はどうも」
京  「私も正義は嫌い」
小雪 「僕も嫌い」
クリス「……義はよくて、何故正義が気に入らないんだ?」
中井出「OK、よくぞいきなり怒らず訊いてくれた」
京  「そこは偉いよ。10点」
大和 「じゃあまず質問。クリスはどうして悪や外道が嫌いなんだ?」
クリス「もちろん卑怯卑劣だからだ。
    正々堂々、いざ尋常にという言葉があるように、卑怯卑劣は義に背く行為だ」
中井出「ふむ……」

 尋常に。たしか───見苦しくない様、いさぎよい様とか、そういった意味だっけ。
 立派に、とかそういう意味もあったね。

中井出「たとえば僕が誰かを罠に嵌めたとします。あなたはどうしますか?」
クリス「当然理由を訊く。聞いた上で注意する」
中井出「しかし罠に嵌めなければ救えない人が居ました。あなたはどうしますか?」
クリス「罠でなくてはいけない理由があったのか? やはり理由を聞く」
中井出「誰しもが強いわけじゃないし、強くなっても上が居ます。
    では質問を変えましょう。一人の子供が毒の入った瓶を持っています。
    それは貯水湖に流されるとたくさんの命が奪われる劇薬です。
    しかし子供は毒を貯水湖に流さなければ母が殺される状況にあります。
    あなたはどうしますか?」
クリス「人質とは卑怯なっ……当然犯人を捕まえる!」
中井出「しかし犯人を捕まえていては子供を止める暇がなく、
    子供を止めれば母が殺されます。あなたはどうしますか?」
クリス「っ……誰かに助力を求める!」
中井出「よろしい。あなたは子供を止めにいきました。
    母は無事救出されました。しかし子供はそれを知りません。
    自分を止めるあなたを、子供は邪魔者として認識し、襲いかかってきました。
    あなたはどうしますか?」
クリス「当然説得、それでもだめなら無力化を狙う」
中井出「…………ふむ」

 なるほど、理想的だね。本当に、全てが上手くいけばだが。

中井出「ならば次で最後ね。あなたには大切な人が居ます。とてもとても大切な人です」
クリス「父様やマルさんだな。それで?」
中井出「ある日、大切な人が正義を唱え、あなたの正義を挫こうとします。
    あなたはどうしますか?」
クリス「…………父様が自分の正義を挫くなど有り得ないぞ?」
中井出「どうしますか?」
クリス「いや、だから───」
中井出「どうしますか?」
クリス「…………父様は絶対だ。父様の正義を貫く」
中井出「それがこの学園の破壊であってもですか?」
クリス「!? 父様がそんなことをするわけがないだろう!」
京  「……失格。0点」
小雪 「ダメダメー、だね」
大和 「……これだ。正義には絶対に迷いが生じる。
    だから憧れても、実行なんてしようとも思えない」
クリス「なに……?」

 言われたことの意味が解らず、クリッさんが戸惑う。
 意地悪い問題だったけど、知ったほうが絶対にいい。

中井出「いいかクリス。まずは聞いてほしい。あ、歩きながらにしよっか。
    でね、正義と悪についてだけど」
クリス「……ああ」
中井出「まず一つ。クリスの正義は対面する者にとって悪であることを自覚すること」
クリス「なにっ!? そんなことはない! 自分は───」
中井出「聞いてってば。あのさ、どうして悪が悪として存在するか、考えたことある?」
クリス「悪だからだろう!」
小雪 「ぶっぶー♪」
京  「続いて0点」
大和 「悪人もまた、自分の正義のために動いてるからだよ。
    ただ、それが常識として悪って認識されてるってだけ」
クリス「それは……極論だろうっ」
中井出「生きるために外道になる人が居る。そうしなきゃ生きられない人が居て、
    そういう人にしてみりゃそれを止める人全てが悪だ。
    で、俺はそういうタイプの人種。
    京や小雪、ファミリーのみんなが笑うならなんでもするさね」
大和 「難しく正義正義って考えないでさ、一度自分を悪と認めてみればいいさ。
    悪として自分を見てみる。ここで否、自分は正義でしかないなんて言ってたら、
    一生かかっても見えやしないものが解るはずだ」
クリス「………」

 思考。
 靴を履き替えながらも考えているように、綺麗な顔がしかめっ面になったままだ。

クリス「……お前は悪にどんな意識を持っているんだ?」
中井出「ホイ? おお、素敵な質問です。解らないなら訊く。イイコト。
    俺は自分が悪であると自覚した上で、自分のために動いてます。
    利益にならんことをいくら続けても、満たされんからね」
クリス「自分のため……!? それこそ悪では───!」
京  「0点。博光は自分のために、私たちを幸せにしてくれる」
クリス「なに……? ど、どういうことだ?」
大和 「少し考えてみると、案外簡単なことなんだけどさ。
    自分のために誰かをってのは、大抵の人が意識せずにしてることなんだ。
    で、ヒロの場合はこう。“自分が京の笑顔を見たいから幸せにする”。解る?」
クリス「え……そ、それはその、その者のため、じゃないのか?」
大和 「困ったことに誰かのため、なんて恩着せがましい考えをしないんだ、こいつ。
    自分が自分の意思ばっかりを押し通す悪であるって自覚してるから、
    誰かの意思が間違いであるーなんて否定はしないし。
    例外があるとしたら、
    正義正義って言っておきながら、詰め寄られると迷うヤツを相手にした時だ」
クリス「む………」
大和 「貫く覚悟がないなら正しい義なんかじゃない。
    でも何が正しいかなんて、考える人や環境によって様々だろ?
    だからこいつは悪を名乗ってる。
    “義”は自分の中だけにあるんじゃなくて、自分以外の中にもあるだろ?
    それを少しも尊重してやらないヤツを正しいだなんて認めたくないんだ」
クリス「それは誤解だっ! 正義とは───」
大和 「言葉をどれだけ並べても、
    誰かの意思を砕いて自分の意思を通すことに変わりはないだろ?
    それをした先で、もしそいつが迷いでもしたら、砕かれたヤツが浮かばれない」
クリス「くっ……!」

 ……帰路を歩みながら、マジ話をする僕ら…………これって青春?
 でも言いたいことは言い切るべし。邪魔はせん。

大和 「んー……で、結局はなにが言いたいかっていうと、
    押し付けるなら正義は名乗っちゃだめ。他人には他人の考えがある。それだけ。
    他は……注意はするけど、“必ずしもそうしなければ”ってのはないかな」
クリス「な、なに? 確固たる意思もないのに、自分は注意されたのか?
    それは少し納得がいかないぞ」
大和 「真っ直ぐなのが悪いとは言わないって。
    でも友達を作りたいなら考えとして必要だって話。
    “自分の考えは正しいからお前は間違いでしかない”。
    そんなことを言われ続ければ、友達関係が嫌になるやつだって出てくる」
クリス「む……」

 解ってくれればいいけどなぁと期待しながら、川神商店街を通る。
 普段は通らないが、どうせなら通りましょうと誘った道だ。
 店とか入ると、料理のイメージとか刺激されるよね。……え? しない?

中井出「あ、タイムセールしてら。1パック60円……いいね!
    大和ー、クリスー、ちと買い物手伝ってー。京も小雪もお願いね」
大和 「了解」
京  「元よりそのつもり。でも最初に呼ばれなかったのが地味にショック」
中井出「そんなことでショック受けないの。気持ち解るけど」
小雪 「マシュマロ買お?」
中井出「うむうむ、良い子にしとったから、二つまでならなんでも買っちゃるよ」
京  「博光とその愛が欲しい!《キッ》」
中井出「生憎と非売品です」
京  「うー……」
小雪 「じゃー婚姻届けと博光のはんこー♪」
京  「! その手があった!」
中井出「ありませんよ!」

 当然却下させていただきました。
 そんなわけで店に入ろうとしたわけですが───クリスが待ったをかけた。

クリス「な、なんだ? なにをするんだ?」
中井出「オウ? ああ、買い物買い物。ほれごらんなさい、卵が1パック60円だ」
クリス「しかしお一人様に1パックに限りと書いてあるぞ? 自分は必要ないんだが……」
中井出「うむ。だから手伝って? 金出すから」
クリス「待て。そんなことをしては他に買いたい者が買えないだろう」
中井出「……ワオ」

 なんとまあ……こんなところでも正義の心が。
 ジャ、ジャスティスハート? 僕ジェノサイドハートの方が名前好きです。
 いや、たまには主婦……じゃなくて主夫したいなって思っただけだからいいけどさ。
 創造すりゃいいんだし、どうしても欲しいってわけじゃない。

中井出「みんなケッコーやってるよ?」
クリス「皆は皆、お前はお前だ」
中井出「いいね、その考え大好き。だが俺は俺の意思できちんと欲しいと願っている」
クリス「だめだ。決まりごとは一人一人がもっと注視するべきだ」
中井出「ヌウ……ならばよし。言っておきながらキミの考えを否定してばっかだったし、
    ここは素直に折れましょう。集団思考とかは俺も嫌いだ」
クリス「そうだろう。卑怯はいけないからな」

 誇らしげな金髪娘がおった。
 むう……卑怯卑劣は全否定か。必要悪も納得しない性質ですか?

京  「予想以上に頭が固い。やっぱりいらないと思う」
小雪 「居てもいいけどつまらないならいらないよー?」
中井出「せめて離れてから言おうねキミたち」

 一応声を潜めてくれたのは感謝だけどさ。
 いやしかしほんとガンコそうだ。なんとかならんかキャップよ。
 このままじゃあ絶対に基地のことを言われるぞ? なんと言うかは予想つかんが。

中井出「……はてさて、どうなることやら」

 今日は金曜集会。
 それとなく話して、これからのこととか考えてみようかね。

中井出「大和ー、話すこと、きちんと話しておいたほうがよさそうだぞー」
大和 「だな。どうせならわだかまり無くだ」
クリス「? なんだ? わだかまり?」
中井出「うむ。実はな」

 僕らは賭け事のことを賭け対象本人に話ました。
 もちろん、事前に相手が女であることを知った上で賭けたことも。
 案の定つっかかってくるクリス。
 なんとか宥めながら帰路を歩んだが、結局は無言のままに別れることになった。


───……。


 ……。

大和「ってなことがあったんだけど」

 金曜集会IN秘密基地。
 我が家の奥の奥にある隠し扉、その先の螺旋階段を上った先にあるそこは、我らファミリーだけのやすらぎ空間。建物の大きさを考えると外観が微妙に大きく見える程度の錯覚の先にある。だからあまり怪しまれません。
 ちなみにここからじゃないと屋上には登れない。
 ガッコの屋上よりも天に近いって、モモにも気に入られている自慢の物件さ。
 そんなところにみんなで集まって、最近あったことや気になったことを纏めたりする。
 元は寂しがりな京と小雪のために、週一に必ず集まろうって約束したのがきっかけだ。

京  「キャップ、本当にまゆっちやクリスをここに呼ぶの?」
小雪 「あんまりいい空気、持ってないよー?」
翔一 「嫌になったらスッパリ切る! 平気そうならそのまま仲間! それでいーだろ」
大和 「上手くいけばいいけどね。
    あいつらを招くことでここの空気が悪くなるのだけは勘弁だな」
京  「大和がいいこと言った。10点」
大和 「10と0しかないのかお前は。で、クリスだけど。
    一応注意事項はそれとなく混ぜといたけど、正義論に心が持っていかれすぎだ。
    自分がこうと信じたら、もう周りの言うことなんて信用しないタイプだぞ、あれ」
京  「まず博光が私の夫であることを信じさせよう」
中井出「やめなさい」
小雪 「僕は二号さん。えへへー」
中井出「やめなさいって!」

 どさくさ紛れでなんてことを教え込もうとしとるのか。
 と、そんなやりとりを聞くと、一緒に居た冬馬と準がほほうと頷いていた。

準  「新メンバー加入なんて、また珍しいことしてんなぁ」
中井出「や、ちゃんと鍋の時に話したでしょーが」
準  「肉が美味すぎて忘れてた」
小雪 「眉毛切った?」
準  「今さら眉毛の話題か!? どんだけ気にしてねーんだよ!」
冬馬 「あの一年生はどうするのですか? 黛……といいましたか」
京  「まゆっちはまあ……現状ならそう悪くもないかもだけど。
    他人は気を使う。もっと間をとってもいいくらい。いきなりここはいやだよ」
卓也 「それにもうちょっと自分を出してほしくはあるかなぁ。
    なにかっていうと一歩下がっちゃって、少しやりづらいよ」
岳人 「同族嫌悪ってやつか? 自分も昔はそうだったくせに」
卓也 「う……そりゃ少し実感はあったけどさ」

 金曜集会には何気に毎度参加している冬馬や準とともに、ぼんやりと光るランタンの光の中で、それぞれが思い思いの定位置に座り、話し合う。
 ここにしかないここだけの空気の中でのんびりと過ごす……それが金曜集会。

卓也 「そういば二人ももう結構長いよね、金曜集会」
冬馬 「ええ。博光に拾われなければ、今頃どうしていたことか」
準  「路頭に迷って───辞世の言葉を残すとしよう。
    俺は紙面に迷わずこう綴る。死ぬ前に一度だけでもいい。保父さんになって、
    幼児に“大きくなったら準先生のお嫁さんになる”宣言を聞きたかった───。
    ……おいおいぃ、名言きたんじゃないの? 自分で言ってて心震えちゃったよ俺。
    死に際の自分を褒めてやりたくなったよ。ロリコンの鑑じゃねーかよコレ」
中井出「絶対に自分を映してほしくない鏡だなオイ……あ、この場合は“鑑”か」
小雪 「鏡って光を反射して眩しいよねー。あははははーっ♪」
準  「そりゃ頭のことを言ってんのかいお嬢さん」

 すまん、軽く吹き出した。

翔一「ま、どちらにしろクリスもまゆっちも招いてからってことだな。
   それよりバイトの残りの寿司食えー! ……全部卵だけどな!」
岳人「いいねぇ! 俺様の筋肉がたんぱく質を求めているっ!」
卓也「筋肉にはマグロがいいって聞いたけど?」
岳人「なに言ってんだよ肉つけるのに肉食わないでどーすんだ」
卓也「とか言いつつ、今食べてるのはなにさ……」

 卵を食らう。卵寿司ってなんかこう……微妙な物足りなさ感あるよね。
 ナマモノ食えない人にとってはいいエモノなんだけど。

百代 「おい舎弟、ショーユとってくれショーユ」
中井出「SHOW、YOU! 手品いきます!」
翔一 「いきなりだな。けどいーぞやれー!」
中井出「まずは右手にハトが出ます!《ポムッ》」
岳人 「うおおっ!?」
卓也 「え? えぇ!? ほんとにハトが出た!?」
中井出「左手にもハトが出ます!《ポムッ》」
準  「おいおいお前何者? 何度訊いたか解らんが、漬け物は勘弁だぞー」
中井出「な、なぜこの手品のオチが解った!?」
準  「オチじゃなくて返事に対して言ったんだよ!
    何者って訊いたら漬け物って大体返すだろうがァァァ!!
    つーかこの手品がどうすれば漬け物で落ちンのォォォォ!?」

 特に返事もしないままに醤油渡して終わりました。最強。

中井出「いやしかし、バイトの残りをもらえるとか、キャップは人望あるねぇ。
    俺がやってたら卵どころかガリくらいしか貰えないんでない?」
翔一 「それもいいな。俺ガリ結構好きだぜ」
一子 「あぐあぐまぐまぐ……!」
岳人 「あ! ワン子てめぇ! 俺が狙ってたものにまで手ぇだすな!」
中井出「これこれ、喧嘩しないの。ワシの分をあげましょう。
    しっかり食べて、明日もモ〜リモリモリモモ〜〜リモリ!!」
岳人 「そんな気色の悪い音と俺様の健康を一緒にすんじゃねぇ!」

 ハトを外に逃がしつつの会話。
 やぁ、やっぱりここは落ち着く。
 最初こそはリラックス酸素を創造していたりしたけど、今はそんなもんがなくても自然と落ち着けるよ。……まあ、ここが一番マナと癒しに覆われてるんだけどさ。
 埃も出ない親切空間。お掃除要らずです。
 水も通ってるし電源完備! ゲームだって容赦なく出来るさ!

翔一 「しかしよくもまあ、こんな場所を作れたもんだよなぁ」
準  「外観は日本家屋だってのに妙に一部でっぱってやがる。
    最初は欠陥住宅だと思ったが───」
中井出「いや、むしろ欠陥住宅でした。
    設計ミスだったんだよ……まさか柱の長さと屋根の大きさを間違えるとは」
岳人 「で、完成してみりゃ壁から柱が飛び出て、屋根は足りずにバランス最悪だったと」
中井出「盛大に笑いましたとも。で、それならって感じで埋めたらここが完成。
    でも部屋にするには狭苦しくてねぇ。
    なので階段設置して二階の物置をいじくって繋げて、こうして完成!」
翔一 「家の二階の物置、やけに狭いもんなぁ。
    それでも言われなけりゃ解らないから実にいい。
    外から見たら焼却炉にしか見えねーもんなぁここ」
京  「木造造りなのに焼却炉と融合している外観がとても素敵。そして好きです」
中井出「家族でお願いします」
小雪 「家族でいいから愛してー?」
中井出「普段から愛情いっぱいに接してるのですが、これ以上どうしろと」
京  「今日、夜に部屋にいくね?《ぽっ》」
中井出「だから同じ部屋でしょーが布団一緒でしょーが」

 ほんとに焼却する機能なんてないから、見せ掛けだけだけどね。
 きちんと外には焼却炉が設置されてるし。見せ掛けだけの。

京  「またフラれた……」
百代 「では私が慰めてあげよう。さあ、しっぽりとして、それでいて熱い夜を過ごそう」
京  「あ、助けて博光、寝取られる、狼に食べられる、奪われる……!」
中井出「京は可愛いな」
京  「告白された……結納は今日がいい《ぽっ》」
準  「オイー、奪われる発言はもういいのかー」
京  「ハゲの頭から毛根を奪う」
準  「なんで対象が俺の毛根になってんだ!?」

 談笑が続く。
 皆が各々、好き放題やっても不快にならない空間……いいもんだ。
 そんな空間に他人を混ぜるのは本当に博打で、今まで保っていた空気を壊すんじゃないかという恐怖は、恐らくみんなが持っている。
 しかしその上で新たな刺激がほしいとキャップは言っているのだ。
 なにせ、誰かを入れようって言い出すこと自体、ここ数年なかったのだから。

中井出「いい風が吹くといいけどね」
百代 「ふむ……なぁヒロ。お前、キレたことってあるか?」
中井出「多分、覚えてる限りじゃ一度だけ。
    暴力には走らんかったが、それは言葉で言うべき時だったからで───
    次がどうなるかは解らん。あ、でも二度あったか?
    そうなるとあっちはキレたとは……ムムー」
百代 「……おいおい〜、殺人事件は勘弁だぞ〜?」
中井出「人殺し確定スカ」

 薄ら笑いだから冗談だろうけど、確かにキレたらどうなるか解らんのだし。
 実際、望んで人間やめたヤツ相手にキレた時はちとヤバかった。
 うーむ、もっと我慢を覚えなきゃね。
 けなされたら殺すじゃああまりにも怖いです。

中井出「………」

 ちらりと横目で、本棚の上に立てかけられた写真立てを見た。
 大きく咲く花の前に、子供な俺達が笑って立っている。
 リュウゼツラン。竜舌蘭と書く。
 50年に一度、大きく芽吹くとされる巨大な花だ。
 かつて遊んでいた原っぱ、いわゆるナワバリに存在したもので、その原っぱも今や大きな建物が建ってしまっている。
 ならばと慎重に掘り返し、移したのがこの中井出家の裏手だったりする。
 50年後にもう一度みんなで、同じポーズで写真を撮るのはどうか。
 キャップの一言から始まったこの外史の果てへ、俺はのんびりと歩いていた。

中井出「あんまり食うと風呂が辛くなるからほどほどにね」
一子 「これくらい余裕っ!」
中井出「デザートもあるが?」
一子 「甘いものは別腹っ!」
中井出「抹茶アイスに見立てたわざびアイスだったんだが。そっか、わさびって甘いのか」
一子 「え゙っ……」
京  「わさびではなく唐辛子を所望」
中井出「辛いのは熱いものにこそよく合う気がする」
京  「熱さが余計に刺激を高める。あれはいいものだね」
小雪 「でーでーげでーん♪ 紙芝居が完成したよー♪」
準  「また唐突だなオイ。会話に混ざる気全然ねーだろオイ」
冬馬 「おや、ユキの紙芝居も久しぶりですね」
準  「博光譲りに破天荒だから終始オチが読めん」
中井出「え? 僕譲りだったらとってもステキじゃん。岳人に話を振ったら」
岳人 「ナイスガイ《ムキーン》」
中井出「と返ってくるくらい自然ですよ?」
卓也 「それって返事としてどうなの!?」

 正直微妙だと思いますが、ノリでOK。
 なので僕らはのんびりと、ユキの紙芝居を見届けることにした。



───……。



 ……とひょおおお…………

由紀江「うぇええ……! 精霊さん……松風……返してくださいぃいい……!」

 のちにまゆっちのことを思い出すに至り、夜中に走る僕が居ました。
 川の前で涙するまゆっちを見たとき、ほんと悪いことしたなぁと素直に思いましたさ。
 や、ちゃんと精霊操って松風も返したし、我慢強いところを褒めつつも頑張りなさいと応援もしましたが……フォローはしましょう。今度買い食いにでも誘います。全力で。




Next
Menu
Back