【プロローグ9】

 ……んで。

中井出「お前さ、結構後先考えないだろ」
百代 「後先考えたら日々の刺激なんて得られないだろ」

 土曜を越えた翌日の日曜……の、超早朝。
 モモに引きずられて川神院に来ていた。
 まだ眠たいってのになんてことを。

中井出「ちくしょうせめて朝飯くらい食わせろよ……」
百代 「いいぞ? なにが食いたい」
中井出「雑穀米ご飯、少量の微塵切り長ネギと鰹節を入れた納豆、
    ワカメとニラと輪切り長ネギと溶き卵の味噌汁」
百代 「そんなんで力出るのか?」
中井出「俺の朝はいっつもこれなの。京とユキには別の食わせてるけど。
    つーか、あぁああ……あいつらの朝飯もまだじゃねーか、なんなのモモちゃん」
百代 「ああ。じじいの前で私と戦え。
    お前の強さを見てもらって、強引に認めさせる」
中井出「OK開始1秒で負けよう」
百代 「本気だせ」
中井出「武をたしなむ者が敵対する相手に、間違っても“本気をだせ”なんて言わないの。
    敵なんて油断してるところを滅ぼすのが一番なんだから」

 つーかどこまで引きずっていくつもりなのかこのお子は。
 うう、俺の日曜がぁああ……。

中井出「植物たちが朝の水を待ってる。
    戻らないとヘソ曲げて、おいしく実ってくれないんだ」
百代 「植物と会話でも出来るのかお前は」
中井出「………」
百代 「お……おいぉおおいおい!? ほんとか!? どこまで万能なんだお前は!」
中井出「ナナナナニイッテンノ!? ソンナコト───うう、ちくしょう……」

 引きずられる中で、綺麗に咲いたお花と目が合ってしまった。
 植物にはウソはつきたくない……ドリアードと付き合ってた影響だねこれは。

中井出「あーそうだよ出来るよ。ちなみにそこの花が、いつも水をくれてありがとうって。
    修行僧にお礼言っておいてって言っとるわ」
百代 「おお……そういえば手入れしてるヤツが居たな」
中井出「じゃあ僕帰るね?」
百代 「だめだ」
中井出「いいから離せぇええええっ!!
    稽古がデートって、どれだけ戦いに餓えてんだお前はっ!
    んーなもん挑戦者とだけ戦ってりゃいいでしょうが!
    今までなんのために川爺に勝った負けたを報告しなかったと思ってんの!」
百代 「自分の平穏のためだろう? その常識を壊させてもらう」
中井出「なんですって!? この博光相手に常識ブレイクとは!
    ……ところでもし俺が勝ったりしたら、四天王扱いとかは……」
百代 「するのは決闘じゃなく、あくまで稽古扱いだ。それは動かないし公言もしない」
中井出「……キミ解ってる? じじいの前で負けるかもなんだよ?」
百代 「ほーう? なんだぁ、もう勝つ気でいるのか?」
中井出「断言する。勝てる。お前じゃ無理だ」
百代 「……おお、ぞくりと来た。少しの不安も迷いもない、まさに“断言”だ。
    いいな、是非その自信を叩き折ってやりたくなった」
中井出「…………ヤブカラスネェーク……」

 もはや抵抗は無駄なようだった。

……。

 で、決闘場まで連れてこられた俺は、座り込んだまま状況を見守っていた。

鉄心 「よもやお主がモモに挑戦するとはの。どういう風の吹き回しじゃ」
中井出「俺が訊きたいよ……せっかく寝てたのにモモが僕をこんなところまで……。
    ってちょっと待って川爺、挑戦してきたのはモモであって僕じゃないよ?
    そういうことになってるなら僕帰る。そもそも戦う理由なんてないもの」
鉄心 「フム? 今さら怖気づいたのか?
    まあ気にするでないわ、どうせこの場にはワシとモモとおぬししかおらん。
    急に戦わせろなどと起こされたワシもいい迷惑じゃわい」
中井出「じゃあもう逃げちゃおうよじっちゃん……僕眠いよ……」
鉄心 「だめじゃ。どういうわけかモモの氣の荒れが落ち着いておる。
    良い傾向にあるといえる。
    それにおぬしが関係しているのなら、この戦いは必ず執り行う」
中井出「こんのジジッ……! 可愛い生徒がハーフブッコロされそうだってのに……!」
鉄心 「ほっほっほ、ワシもじじいじゃ、孫は可愛いでの。
    まあ無茶を頼むんじゃ、おぬしの無茶も可能な限りは聞こう」

 「じゃあ帰」「だめじゃ」───即答でした。
 はい、そんなわけで今に至り、絶対にじじい以外にこの戦を見せない知らせないことを条件に、飲むことになった。

鉄心 「では早朝稽古扱いとしてこの戦いを認めよう。双方前に出て名乗りをあげい」
百代 「3年F組、川神百代!」
中井出「2年F組、中井出博光!」
鉄心 「モモの提案により、殺人以外のありとあらゆる行為を認める!
    では……はじめえぇい!!」
中井出「なんでもありすぎやしません!? むしろ初耳ルールすぎる!」
百代 「もう始まってるぞ……問答はあとにしろ!」

 掛け声とともに一気に迫るモモ。
 そういえば胴着のモモを見るのってどのくらいぶりだったかしら?
 だが甘し! 強さというものをさりげなくかつアグレッシヴに、優雅にそして力強く見せてやろう!

百代 「しっ!《ブワッ!》───ぃ?」
中井出「轟天弦月流───空気投げ!」

 殴りかかってきたモモを、触れずに投げる。
 攻撃の勢いそのままに僕の後方へとスポーンと吹っ飛ぶモモを見送り、しかし着地するや突撃を仕掛けてくるお子に、どうしたものかと頭を掻く。
 や、ナメとるとかじゃなくさ。戦いで心を埋めていたような人を本気でツブしたら、そういう人ってどうなるんだろうって本気で考えた。
 俺は楽しさで心を埋めてたから、日常が壊れた時に……いろいろとコワレた。
 そんな辛さが解るから、こんな時に躊躇が走った。

百代 「せいっ!《ガズベシャア!》ふぐぅっ!?」
中井出「渋川流合気術、オリバ殺し!」

 振るわれた拳をパンッと受け止め絡めて力の方向を下へと向けてやる。
 するとモモはへたり込むのではなく落ちるように地面にズドンと座り、目をぱちくりさせていた。
 だが即座に意識をスイッチさせて水面蹴りを放つ。俺はそれを足で受け止めると、リフティングをするように力の向きを上へと蹴り上げ、モモを空中に放る。

鉄心「むぅ……なんと……!」
百代「くっ!」

 体勢を立て直し、すぐに空中から手刀が落とされる。
 それに軽く手を添えて横へずらすとモモの体が自分の力の勢いのままに回転。
 そのまま踵落としに移行されるとは思わなかったが、それも一歩前に出て逆さのモモを抱き締めることで止める。で、せっかくなのでパイルドライバー。

百代「《ごすっ!》うきゅっ!」

 かわゆい声が聞けました。
 パッと離れるとモモも起き上がり、頭を押さえながら僕を睨んでおります。

中井出「まだやるかい」
百代 「当たり前だ」

 花山さんの真似をしても無駄でした。

中井出「モモちゃん、戦うことを日々の楽しみにしてるヤツが、
    戦いってものを否定されたらどうなるか、想像つかないわけじゃないだろ?」
百代 「本気も出していないヤツがそれを言うか……そっちの方がよっぽど屈辱だよ」
中井出「あー……まあ、出してほしいなら出すけどさ。
    あのね、俺、支えを壊されてコワレちまった馬鹿のこと、よく知ってんの。
    お前にそうなってほしくないの。解る?」
百代 「なにを言ってるんだ、強ければ強いほど燃えるじゃないか……!」
中井出「………」

 だめだこのお子……ほんともう力に飲まれそうになってる。
 ……ちらりと川爺を見てみれば、出来ることなら負かせてみせいって頷いてるし。

中井出「わーかったー! んじゃあ容赦無く潰すぞー!
    お前の強さへの自信も、燃えるって言葉もー!
    お前が想像してる俺の強さの限界も全部───その常識ごと破壊してやる」	

 きゅっと拳を握る。
 意識は薬指に。それが成ると久しぶりに腕に霊章が奔り、意識を戦闘に向けさせる。

中井出「さァアアて後悔するなら今が旬!
    フゥウウウルッ! ブラストォオオオオッ!!」

 ユグドラシルに宿る属性の種から力を引き出し、ラインゲートを発動させてから全ての能力を解放。
 バーストじゃなくてブラストなのは、僕自身が凶器みてーなもんだからです。
 景色が突然大自然の只中になったことに驚くモモと川爺だが、すぐに俺に意識を戻す。
 戻す、が……

中井出『お望みのフルパワー博光です』《ジャーーーン!》
百代 「……、……っ……ふ、ふっ……ふぅっ……!」

 目は見開いたまま、呼吸は荒れ、体は震えていた。
 霊章からは金灼の炎が溢れ、両手にはジークムントとジークリンデ。
 背には十八翼が伸び、大地には深闇の火闇。
 普通の“日常”に居たのでは見られない“幻想”を前に、モモは息を飲むばかりだ。

中井出『ごらんのとーりだ。俺はこの世界の人間じゃないの。
    ある世界で仲間の未来を“俺が”守りたかったから無茶して、
    その結果……“全てに忘れられ続ける呪い”を宿した。
    仲間だったやつらからは魔王、人殺し、悪魔、いろんな呼び方で怯えられて、
    世界を救ったところで俺に残されたのは永遠の孤独。
    そんな呪いと一緒に永遠を生き続ける、ただの人間だ』

 一歩踏み出す。
 威圧が一歩分モモに近付き、彼女は息を飲んだ。
 二歩目。
 震えは増し、モモの顔に汗が吹き出る。
 三歩目。
 本能からか、威圧から身を守るためにモモの体から吹き出る黒い氣が彼女を覆い、直後に踏み込みと同時の拳が繰り出された。
 だが───それは俺に届くより先に火闇に焼かれ、爆発し、吹き飛んだ。

百代「あ…………え……?」

 戸惑いの声が漏れる。
 直後に川爺が決着の声を上げたから、その腕は瞬時に接合、癒すことで元に戻った。
 同時にラインゲートも消し、俺も元に戻る。

百代「………」

 残ったのは、決闘場の石床にへたり込み、どこでもないどこかを呆然と見つめるモモだけだった。


───……。


 ……。

中井出「ワハハハハハハ! うわぁっはっはっはっはっはっは!!」
百代 「う、うるさいな! 笑うなよ!」

 稽古は実に3分もせず終わったわけだが、僕は僕で笑っておりました。
 何故って、モモちゃんがまた腰を抜かしたというのですから。

中井出「だ〜から言ったじゃない?
    武をたしなむ者が相手に対して本気で〜とか言うなって。
    あたしゃこれでも世界を救ったことのある魔人サマですよ?」
百代 「し、しかたないだろ……?
    私は私より強いヤツになんか会ったことなかったんだよ……」

 だから今はモモを負ぶって我が家へ向かっておるところ。
 冷や汗を思いっきりかいたモモちゃんですから、ちゃんと汗は流さないと。
 なんで川神院で流さないのかといえば、これが僕が勝ったことへの賞品だからです。
 勝ったからには賞品をいただかなければ。
 なので恥かきやがれこの野郎とばかりに、川神院から僕の家まで負ぶっております。
 でも失敗した。早朝だから人居ねーよちくしょう。

百代 「……なぁ。お前はどっから来たんだ?」
中井出「んー……別次元?
    詳しく言えばさ、元居た世界で“真理の扉”を見て、そいつに弾かれた。
    真理を知った者を元の世界には帰せない〜って。
    で、それからず〜〜〜っと独りで生きてる」
百代 「…………これが最後でいいから聞かせてくれ。お前、何歳だ?」
中井出「56億8986万4991歳」
百代 「………………」
中井出「生まれも育ちもフツーの誰かと変わらない、平凡な一市民“だった”よ。
    子供の頃は妙に大人ぶってて、そこんところは大和みたいだったのかな。
    まぁほんと、家族全員が死んじまう前までは、あくまで普通だったと思う。
    けどある日を境に世界は反転した。
    ただ仲間たちと楽しんでいたはずの俺は人殺しになっちまって、
    仲間にも妻にも娘にも拒絶されて、独りになっちまった」
百代 「なっ……妻子持ちかお前!」
中井出「あれぇ!? 人殺しスルー!?
    あ、あー……その時に、敵さんに呪いがかけられたんだ。
    “中井出博光を忘れる”って呪い。
    そいつは未来からやってきたかつての友達だったんだけど……」
百代 「…………待て、忘れられるって、まさか」
中井出「友達、仲間、妻も子も、俺のことを忘れた。一瞬にして孤独を味わった。
    だけど夫が居ないのに子供が居るのはおかしいってんで、
    世界が辻褄あわせを始めた。結果───妻は、他の男の妻になってたよ」
百代 「………お前」
中井出「子供から送られた言葉なんて、死んじゃえばいいんだ、だよ?
    あの日からこれまで、どれだけの時間を歩いても、ずっとその言葉が消えない。
    別の誰かを好きになってもそれはずっと娘からの最後の言葉で、
    結局俺は、その人には一切手を出さなかった。
    出さないままに世界から弾かれて、今この場所に居る」
百代 「その二番目の相手は、お前を忘れなかったのか?」
中井出「ドリアードって知ってるか? ゲームとかでよく居る」
百代 「ああ。そいつが───って、おい」
中井出「ああ。そいつが相手。ゲームの中の話じゃないぞ?」
百代 「………」

 やっぱり呆然と僕を見た。
 肩越しでも呆れるくらいに顔を近づけて、まじまじと俺を見てる。

中井出「……愛してた。すっごく好きだった。
    彼女は俺の中に核……まあ自分の心臓みたいなものを埋め込むことで、
    俺と繋がりを持ってたから俺を覚えていられた唯一の人だった。
    でも彼女とも、世界から弾かれる時に核ごと離れ離れにされた。
    当時の俺はいろいろあって不老不死の誰かさんと融合してて、
    お陰で不老不死だったんだが……当然その時に不老不死じゃなくなった」
百代 「全部マジ話か?」
中井出「うん。全力見せたなら説明しないと強さに納得できないっしょ?
    でね、弾かれた時が丁度56億7千万歳。
    俺は生命の希望たる弥勒菩薩を見るためにずっと生きてみてたんだけど、
    やっぱ人間が“救い”ってものにすがりたかっただけだったんだねって思った。
    弥勒は降りなかったんだ。それを理解した途端に真理の扉が開いた。
    生命の意味ってのを教えるためだったんだろうね。
    勝手に開いたくせに勝手に俺を弾いて、
    お陰で独りでもう2千万年近くを生きてる」
百代 「不老不死じゃないのにか」
中井出「俺の今の能力は武具と、
    蓄積されるTPや諸力や魔力、マナと癒しのお陰で保ってるんだ。
    俺の家の敷地内に入ると空気がよくなるだろ? あれが癒しとマナの効果。
    あれがないと俺は死んじゃうの」
百代 「なっ……」

 重要なことをさらりと言ってみれば、モモは僕の肩をゆっさゆっさと揺らしてグオオ脳が揺れる……!!

中井出「な、なにすんのちょっとやめなさい!」
百代 「だってお前! 前にSUMOUであんなに暴れて……!
    周囲をあれだけ破壊して、マナっていうのは大丈夫だったのか!?」
中井出「あー、大丈夫大丈夫。一応自分の中にもマナと癒しは蓄積しておけるから」
百代 「……はぁ、そうか。安心した」

 …………あれ? もしかして僕、心配された?

百代 「それでだ。お前のその忘れられる呪いってのは、今も続いてるのか?」
中井出「んむ。いつかお前らにも忘れられちまう。仲良くなっても忘れられるんだ。
    だからあまり深く関わらないって思ってたんだけどさ。
    ……ほんと、どうしてだろうなぁ。
    お前らと居るのがあんまりに楽しいから、いつの間にか俺も必死になっちゃって。
    誰かを助けたっていいことなんてないし、
    結局忘れられるんだから辛くなるだけなのになぁ……」
百代 「……京とユキか」
中井出「準と冬馬もだよ。ワン子はお前が救ってくれたから。
    だからせめて一人でもなんとかやっていけるようにっていろいろ教えてる。
    家はそのまま京とユキのものになるだろうし、財産も一緒だ。
    世界の辻褄合わせが動いて、“俺が居なくてもそうなった今”が構築される」
百代 「……ひとつ聞かせろ。辛いか?」
中井出「他の世界だったら我慢できたよ。でも、ここでは係わり合いすぎた。
    子供の頃からずっとだぞ? 俺はウソつきだけど、ウソで友達や仲間は作らない。
    家族ならなおのことだ。大事だから、大切だから今も“家族”って呼んでる。
    それなのに、そこに俺が居なかったことになって、お前らに忘れられるんだ。
    ……辛くないはずがないじゃないかよ」

 こつんと、道端に落ちていた石を蹴った。
 カカッと跳ねたそれは道で止まり、しかしもう一度蹴る気なんて起きやしない。

百代 「世界っていったよな。お前の世界とこことで直接繋がってるわけじゃないのか?」
中井出「外史って言えば解るか?
    世界ってのは、住んでる人が知らないってだけで、
    名前を変えて様々な世界が存在する。
    たとえばモロあたりが知ってるゲーム世界。
    クリハンとかは、俺の世界じゃモンハンって名前のゲームだった。
    そして、俺が跳ぶ世界ってのが、そういった世界。
    ……係わり合ったのはお前からだからな、心して聞けよ。
    俺がこの世界の前に下りたのは、“つよきす”ってゲームの世界だ。
    そこには、武道四天王の鉄乙女さんが居た」
百代 「───…………な、に……? 待て、それはゲームの話で───」
中井出「その前に下りた世界、君が主で執事が俺でって世界には九鬼揚羽さん。
    俺は、そういった外史に落とされたイレギュラーってやつなんだ。
    そして……残ってる知識では、この世界は真剣で私に恋しなさいってゲーム。
    その世界に、俺は降りた」
百代 「………」

 道を歩く。無言で、静かに。
 ずっとこの状態が続くのかなと思ったが、モモは小さく笑い、俺の首に腕を巻きつけて身を寄せた。

百代 「ゲームか。私たちの一生が、既に決定されたものだったと」
中井出「あ、それ違う。ゲームって“一定の軸”は存在するけど、
    イレギュラーがそこに参加することで、世界は曲がるんだ。
    じゃないと京と小雪は不幸なままだろ?」
百代 「………」
中井出「安心しろって。ゲームとして存在する世界でも……言ったろ?
    名前を変えて存在する世界だって。
    俺の世界ではあくまでそういう名前だってだけであって、
    ここはまた違った空間なんだ。
    こうして俺がお前に何かを話すことでも、常時世界は変わってる。
    俺が忘れられるまで、どこまでその常識を破壊できるかだな、ようは」
百代 「…………ははっ、そっか。それは大変だな……世界を相手に戦ってたのか、お前」
中井出「そゆこと。でも……絶対に幸せにしてやる。
    俺はここに、泣きたくなるくらいの悔いを残していくだろうけど、
    それでもお前らは笑ってくれ。それが俺の幸せに繋がる」
百代 「そっかぁ……忘れるのか……。
    それは…………京やユキを受け入れられないわけだよな……」

 妻や子に忘れられた一人の男が居た。
 そんな事実を知ってしまえば、56億の生を知らないヤツが簡単に“それでも”なんて言えるはずがない。だからこそ───

百代 「───なんて諦めると思ったかっ!」
中井出「なんと!?」

 ───だからこそ、こいつは、こいつらは諦めない。
 いつだってガキなりに困難にぶつかってきて、それでも結局なんとかしてきた奴らだから。そして、俺もそんなこいつらだからこそ好きになったのだから。

百代 「ふふふ……余計にお前を放したくなくなったぞ?
    せっかくじじいにも認めさせたんだ、手放してたまるか」
中井出「我が儘言うんじゃあありません!
    どうしようもないことだってアルノデスよ!?」
百代 「世界と戦ってるくせに随分と弱気じゃないか。
    お前、私たちにウソをついてたのは最初からって言ってたよな?
    それはつまり最初から諦めるための覚悟を決めてたってことか?」
中井出「そうだ」《どーーん!》
百代 「少しはどもったり濁したりしろよお前はぁああ……!!」
中井出「《ギュギュウウ》アモギェエーーーーーッ!!!!」

 首に絡ませていた腕が凶器に変わった! く、苦しい! これは苦しい!
 だが僕は負けませんよ?《キリッ》
 なににかは知りません。

中井出「エッフエフ! ごほっ……あ、あのねぇ……後のことはどうあれ、
    始まりの時点では今までが今までだったんだから諦めてるに決まってるっしょ?
    じゃなきゃ忘れられるって解ってるのに、ずっと一緒に居てやるなんて言えるか。
    俺は忘れられて、辻褄が京たちを救う。
    それでもいいから楽しいを教えてやりたかったんだよ」
百代 「勝手だな」
中井出「自分のためだからね」
百代 「それでも私は言うぞ。足掻け」
中井出「……忘れるのはキミらなのに、無茶言うね。泣くの俺なんだよ?
    お前、俺がどんだけキミらのこと大切に思ってるか解ってて言ってる?
    ある日突然忘れられて、お前誰?って、それが当然みたいに言われて。
    そんな風に傷ついたまま次の世界に飛ばされるんだ。解ってる?」
百代 「知らん。私がそうしてほしいから足掻けって言ってる。
    私より強いくせにそんな後ろ向きな考えなんて、許せないだろこれは。
    いーから足掻け。足掻いて足掻いて、もっと私たちのことを大事にしろ。
    忘れたら別れる瞬間までにもっと仲良くなれ。それでいーだろ……なぁ」
中井出「………」

 ふと思い出したのはフカヒレ。
 最後の瞬間まで唯一一緒に居れた、馬鹿だった。
 だけど違う。レベルが違う。親密度が違う。
 かつての仲間に否定された時でさえ、心が壊れる音を聞いた。
 なのに、中学の頃どころじゃない。ほんとにガキの頃から今までを一緒に歩いたこいつらに否定されたら……今度こそ、俺は……。

百代 「お前、あれだけの力があるなら何か無いのか? 呪いを砕く力〜とかさ」
中井出「あるよ?」
百代 「あるのかよ! じゃあ使え今すぐ使え使えよほらほらほらぁああ!!」
中井出「ややっ!? これっ! 背中で暴れるなど! なんとはしたない!
    つーかね! 聞きなさい! あのねぇ! 使えるもんなら使ってるっつの!
    あるだけで、使えない理由があるんだよ!」
百代 「理由……?」
中井出「〜〜っ……ああもう結局全部話すんじゃねぇの……!
    あのね、今の俺はただの人間なの。
    癒しとマナでなんとか生きていられてる、仮初の不老不死。
    ……俺はずっとずっと昔に、馬鹿な間違いをやらかしちまった友人を救うために、
    この呪いを受け入れた。それしかもうそいつとの繋がりがなかったから、
    それを受け入れることでそいつの魂と意思を救った。
    お陰でそいつは56億を俺と一緒に生きる中で、
    自分が間違えちまった“守る”ってことをようやく否定できて、満足して消えた。
    俺はその時不老不死だから、もう生きて馬鹿やるしかなかったわけだけど───」

 そう、ルドラは笑顔のままに逝けた。
 俺の中の別の固体、忘却の猫は俺に不老不死を譲り、未来の地界の神社の前で、刀の状態から解放したみさおちゃんの腕の中で逝った。
 それらはソレが最善だったと思ってる。ソレは今でも変わらない。
 けど……生きたその先で、扉を見てしまったことがそもそもの間違いだった。

中井出「扉に真理を見せられて、
    全てから乖離されても、意思とは違った呪いだけは外れなかった。
    俺は56億ってペナルティを一気に“ただの人間の体”に刻むことになって、
    けれど癒しとマナとでなんとかそれを保つことが出来た」

 そう。ドリアードの核もその時に外され、“基盤”の中で俺達と関わることで意思を生み出していたヒロラインってゲームの世界の住人、猫やモンスターや竜族……そしてナギーやシードたちまでも、意思を無くして“ただのゲームキャラクター”に戻ってしまった。
 まゆっちに一歩を歩ませるために使った泉の精霊も、俺が喋らせていたにすぎない。
 だから金灼で包む必要があった。ただ光らせるだけなら他にいくらでも方法がある。

中井出「俺の武具には、友人の能力で“デスティニーブレイカー”ってのがある。
    運命を、最初から決まっている物事を破壊しちまうなんていう能力だ。
    それを使えば呪いなんてものは破壊できるけど───」
百代 「…………使えば……」
中井出「そう。56億って時間は長すぎた。
    ウソをつき続けて、今さら“本当”に戻るには遅すぎたんだ。
    呪いはそれだけ俺に根付いて、
    その運命を破壊するにはマナも、癒しも足りなすぎた。
    使った時点でさ、全てが枯渇して俺も死ぬんだ。それが解ってるから使えない。
    ずっとずっとそうやって、忘れられるしかない道を歩いてきた」
百代 「そのマナとかはどうすれば───」
中井出「この世界を花で覆いつくしても足りないくらいの自然が必要」
百代 「それは…………無理、だな」

 そう、力じゃ無理なんだ。
 “過去、俺が呪いを受け入れた”って事実を破壊したところで、辻褄がすぐに俺を追い、食い尽くす。
 大きすぎる運命を破壊するにはそれだけの力が必要。そして、俺にはもうそれをするだけの力が残されていなかった。
 いつか、時間操作で魂を補っていた彰利に、千年の寿命が必要だったのと同じこと。

百代 「いや、待て。マナってやつを蓄積させつつ、
    56億をいっぺんに処理するんじゃなく、
    少しずつ運命を変えるってのはだめなのか?」
中井出「お前らのこと好きになってから、とっくにやってる。
    でも………………ははっ……届かないんだよなぁ……。
    こんなに好きなのに、こんなに忘れられたくないのに」

 56億は長すぎた。
 解ってるんだ、もう。彰利でさえ、十数回の歴史の繰り返しで魂が磨耗していた。
 なのに俺は56億だ。たとえ運命を破壊できたとしても、もう……魂がもたない。

百代 「なぁ……お前のことを忘れる時期っていうのは、あるのか?」
中井出「俺がその世界から消える少し前だ。
    俺がそこでするべきことってのが無くなると、
    少しずつ存在率ってのが次の世界に移っていくらしい。
    忘れられ続けるのが癪で、歪みを分析してみたらそうなってた」

 そういやブラックノートン先生もそれっぽいこと説明してくれてたね。

百代 「存在率が移動するのを破壊する方法は」
中井出「それもやった。マナがごっそり削られただけで、成功しなかったよ」
百代 「じゃあ私たちがお前を忘れるって運命を壊せ!」
中井出「揚羽さんに試してみた。この世界ではまるで知らんって顔されたよ」
百代 「っ……」
中井出「……うん。辛い。辛いなぁ…………だから踏み込んでほしくなかったんだ」

 出してくれる案の悉くを否定するしかない。
 必死になって考えてくれるのに、それを否定することしか出来なくて、苦しい。
 ここでようやく、モモも無力って言葉を知ったんだと思う。
 苦しげに声を絞って、俺の首にぎゅっと抱き付いてきた。
 無敵でいられたら、どれほど幸福だろう。
 知らないことで打ちのめされて、力だけでは解決できなくて、なのに力が欲しくて。

中井出「……俺のことを忘れるまで、どうか幸せであってくれ。
    そして、俺のことを忘れたら……どうか、辻褄の先で幸せに」

 だから届けた。ずっとずっと苦しんで悩んで、それでも自分もずっと一緒に笑っていられる未来を願って……そんな未来が見えなくて。
 そうした先でこそ今ここ立っている自分が届けられる、精一杯の言葉を。

百代 「いやだ」
中井出「あれぇ!?」

 そしてシリアスはブレイクした。
 OKようこそ愉快なひと時!

百代 「泣き寝入りみたいな行為は趣味じゃないし、
    お前が言う先でお前が幸せじゃないのはもっと嫌だ!
    おいお前ら聞こえたな!? 家族が泣いてるんだ、いい案出せ!!」
中井出「ひょ? ……ア、アアーーーーッ!!」

 なんのこと? と思ってたら、モモがなにやらごそごそとやって、僕の目の前にケータイとかいうものを! しかもきっちり通話状態!!

中井出「も、モモてめぇ謀ったな!?」
百代 「家族に内緒はいけないなぁ。とはいえとんでもないことが解ったのは事実だ。
    大和、なにかないか」
声  『まずヒロがどんな能力を持ってるのか。それ教えて。
    なにかチェス盤をひっくり返すようなものがあるかもしれない』
中井出「あ、僕どうせひっくり返すなら将棋盤がいいな」
声  『いやそういう問題じゃないでしょ今!!』
中井出「あ、今のモロ? ありゃま……みんな居るの?」
声  『事実を知ってなお好きです』
中井出「家族で」
声  『事実を知ってなおフラれた……』
声  『よーするに常識外れな資金とかは能力から来てるってことか。
    まあ俺も若もそれに救われたんだし今さらどうこう言わんさ』
声  『博光、早く“帰宅”してください。
    あなたの家はここであり、次の世界の見知らぬ誰かのもとではないのですから』
声  『僕の一番の家族は、ヒロミツとミヤコなんだから。
    ツジツマなんかに埋められるの、僕やだよー』
声  『まあそーゆーことで。キャップとして命じる! ……さっさと帰ってこい。
    お前の家はここだ。風間ファミリーにこそ帰ってこいっ!!』
中井出「───…………」

 とくん、と……胸が鳴る音を聞いた。
 それは麻衣香と一緒になった時、紀裡が産まれた時、ドリアードを好きになった時、セシルに助けられた時にだけ聞いた音。
 …………まだ、間に合うのかな。
 まだ……手を伸ばせば、届くのかな……。

中井出「まだ…………っ……ひぐっ…………手……伸ばしても……いいのかなぁ……。
    また……誰かによりかかっても…………いいのかなぁ…………っ……」

 処理された心は一瞬で喉を詰まらせ、沸き上がる感情は涙となって景色を歪ませた。
 本当に久しぶりだったんだ。
 こんなにも暖かくて、こんなにも心から家族って思える仲間が居て。
 魔王でもなく魔人でもなく、敵でもなく疫病神でもなく……そして、提督でもなく一人の人間として、純粋に笑っていられたのは。
 長い長い旅をして、永い永い時間を孤独に生きた。
 もう慣れたと無理矢理思っても独りは寂しくて、繋いでみた二つの手は俺を引っ張ってファミリーって輪へと導いてくれた。
 難しいことを考える必要もなく、ただの子供として張り切って、それでも足りないものは無理矢理なんとかして。楽しくて、嬉しくて。
 忘れていた感情が浮き上がると、最果てまでの過程でしかないと割り切っていた世界が初めて色づき始めて、眩しくて、恋しくて。

声 『当たり前だろー? 最初は俺達三人だったファミリーだ!
   つーかさ、追ってくる辻褄なんてものがあるなら、
   その辻褄を“ヒロじゃなきゃ出来ないもの”にしちまえばいいじゃねーか。
   そうすれば万事解決! お前はここに居なくちゃいけなくなるっ!!』
総員『───……あ』

 キャップの声に、全員の声が重なった。

百代 「……時々、あいつの子供っぽい考え方には異様に感謝したくなるな」
中井出「…………」
百代 「で、どうだ、ヒロ。我らがキャップに賭けてみる気は、まだあるか?」
中井出「……っ……っく、……うっ……」
百代 「ほらほら〜、泣いてないで答えろよ〜」
中井出「鬼だねキミ! この博光のマジ泣きがどれほど貴重か解っておいで!?」
百代 「───解ってる。56億年分の涙だ。絶対になんとかしてやる。信じろ」
中井出「───っ……」

 “誠”の言葉が胸を突いた。
 過去、俺達がふざけて原中魂なんて言っていたのと同じように、川神にも川神魂なんてものがあった。

  光灯る街に背を向け、我が歩むは果て無き荒野。
  奇跡も無く標も無く、ただ夜が広がるのみ。
  揺るぎない意志を糧として、闇の旅を進んでいく。

   是即ち“勇往邁進”

 それらを纏め、“誠”と称した意思を以って、モモが言ってくれた。
 それだけで胸が苦しくて、そんな懐かしい“嬉しい”だけで、溢れ出る涙は止まらなくなっていた。

中井出「……っく……う、う、ひうっ……っ───!
    う、うぁあああああ……! ぁあああああ……!!」

 ……声をあげて泣いたのはどれくらいぶりだったろう。
 ばーさんが目の前で死んでしまった時?
 両親が殺され、初めて親無しと呼ばれ、イジメられ……父と母はもう居ないのだと理解した時?
 じーさんが俺の所為じゃないと頭を撫でてくれた時?
 それとも……

百代「……ああ。ようやく、“お前”に会えた」

 モモが俺の背から降りると、正面に立って俺を抱き締めた。

百代「子供っぽいのに妙に悟ってるところがあって…………でも、やっぱり子供だ。
   出来ないことばっかのくせに無理して、潰れそうになって。
   ……もっと頼っていいんだ。もっと寄りかかれ。そのためのファミリーだろう?
   世界を救ったとかなにを倒したとか以前に、
   お前は中井出博光で、私たちの家族なんだからな」

 強く、ぎゅうっと抱き締められ、頭を撫でられた。
 涙は止まってくれない。
 ありがとうを届けたいのに、胸を突く暖かさが嗚咽になり、喋ることを許してくれない。
 だからせめて、心の中で感謝した。
 また、こんな気持ちにさせてくれてありがとうと。
 みんなの家族になれて、俺は確かに……心からよかったと思えていると。

  永い旅を歩く中で、人生ってもの丸ごとで答えるのなら解らない。

 やっぱりいつか消えてしまうのだとしても、忘れられてしまうのだとしても、きっとこの涙を流す前よりは悔いは残らないのだと信じている。
 信じているから、届けよう。
 忘れられたとしても、消えなきゃいけないのだとしても。
 自覚出来るような人生ではなかったけれど、俺はきっと幸せだったと。


───……。


 ……家に戻ってから、秘密基地にみんなを招いて全部ぶちまけた。
 今まで隠していたこと、そしてこれからしたいこと、全部を。
 もちろんファミリーに加えてまゆっちもクリスもその場に居て、それらを知って唖然としていた。
 ええと、まあその。ぶっちゃけて言うと、我が過去の全てを見せました。
 ゲームに戻っちまってはいるけど、きちんと残っている“創世の猫”を開くことで。
 ただ……それをしてしまってはもはや取り返しなどつかず、俺はただ下されるであろう反応を待つことしか出来なかった。
 いや。
 もう下されているのかもしれない。
 この場が、重い沈黙に支配されている時点で。

百代 「気ぃ効かせてなんか喋れよハゲェ……」
準  「なんでここで俺!?」
百代 「間が持たないだろうが……ほら早く」
準  「軍師大和! パス!」
大和 「なんでこういう時のって俺に回るかね……いや、ここは意表をついてまゆっちで」
由紀江「はい? ………………ふぅううええぇええええっ!!?
    ここっここここで私ですか!? えぇっとそのあの!」
中井出「…………」
由紀江「…………無力な私をゆるしてくださいぃい……」

 泣いてしまった。
 その涙が自分が原因で流れたと考えてしまうと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 なによりこの空気。
 今まで、ファミリーの間にこんな空気が流れたことなんて無かったのに。
 それを今、俺が原因で……空気を重くするどころか、沈黙さえ持たせてしまっている。
 …………やっぱり、だめだったんかな。
 俺が、もう一度心の底から全てを打ち明けて、家族を……なんて。

中井出「…………《ぽろぽろぽろ……》」
総員 『!?』

 お、おや? 景色が歪んできたよ? なんで?
 僕もっと歪みねぇのがいいのに…………あれ? 俺、なんでこんな思いしてるんだっけ。
 誰にも何も知られず、ただ暖かさと楽しいの中に居られればよかったのに。
 ……俺が誰かに楽しいを届けるまでもなく、周りが楽しいを提供してくれるなんて、久しぶりな世界の中で、ただ笑っていたかっただけなのに。

中井出「あ、あっは……ご、ごめんなみんな、こんな重い空気背負わせちゃって……。
    で、でも大丈夫だからっ、俺すぐ居なくなるからっ!
    そしたらみんなでまた、俺抜きでも楽しく───《ぶわっ》うっ……!
    お幸せにぃいいいいいいいいいっ!!!」

 だから───逃げ出した。
 最後の言葉はどうかと思ったけど、後味の悪さを残すよりも幸せを願ったさよならでいたかった。
 ありがとう最高の居場所。
 でも……打ち明けたりせず、ただ平穏を選べばよかったって、どうしても悔いが残るよ。
 なにか聞こえたけど、聞こうとするだけで胸が苦しくて、立ち止まることさえこの体が許してはくれなかった。


───……。



【SIDE】  ……。 百代「だめだ。屋上から空飛んで逃げたぞ、あいつ」  屋上へと続く扉から、百代が降りてきた。  溜め息がどうしようもなく出るのは、中井出が耐え切れなくなる前になにかしらを言ってやれなかったことへの罪悪感からか。 翔一「まいったな……な〜んも言ってやれなかった」 大和「……予想以上に重すぎたよ。気休めを言ってやれるような道、歩いてなかった」  この中では一番付き合いの長い翔一と大和もまた、溜め息を吐いていた。  その目で見てしまった、操られるままに人を殺して泣き叫ぶ幼馴染の姿が、頭から離れない。そう、予想を上回りすぎていたのだ。  携帯電話を通して多少は知ったつもりであったが、あそこまでとはと。 クリス「人を殺した罪は重い。だが……それは自分らがとやかく言うことではないし、     彼はもう十分に苦しんだと思う。罪の意識からは逃れられないとは思うが……」 岳人 「つーか……俺様達べつに殺された奴らのことと関係ねーしなぁ」 卓也 「知らなかったらずっとあのままだったし、     知ったからって人殺しって掌返すのもどうかなぁ……」  ぽつぽつと会話が増えていく。  今さらフォローしたところで無意味だと解っていながらも、そうしなければ罪悪感に押し潰されそうだったのだ。 準 「つーかだよ? ……そもそも俺達が知りたがらなけりゃ、    あいつは泣かずに済んだんじゃねーか。    隠していたいことは誰にだってあるでしょーよ。    それがあいつの場合は重すぎた。なのに俺達を信じて、打ち明けてくれた。    その返答が重い沈黙じゃあ泣きたくもなるわなぁ……」 翔一「んー……急ぎすぎたか? それとも遅いくらいだったのか」 京 「私の答えは最初から決まってる。    博光が居なかったら、私はどうなってたか解らないし」 小雪「僕もだよー?」 冬馬「ええ、当然私も、準もです。彼が何者であろうと、    私と準に手を伸ばしてくれたことには変わりはありませんしね。    ───……父の裏の姿に絶望し、    幸せそうにしている者全てを恨むだけの存在になっていたかもしれない私は、    あの手に確かに救われたのですから」 京 「……《スッ》」 卓也「あ……京、何処に?」 京 「決まってる。“家族”を、探しに」  京はソファから立ち上がり、一言そう言って歩き出す。  小雪も冬馬も準もそれに習い、風間ファミリーだけがその場に残された。 由紀江「…………今、探して……間に合うでしょうか。     まだ間に合うのかと泣きながら言っていた博光さんに、     何も言ってあげられなかった私たちでも……。     まだ、言ってあげられる言葉があるんでしょうか……」 岳人 「……解んねぇ。いっつも飄々としてるヤツだった分、     マジの泣き顔があんなに見てて辛いとは思わなかったぜ……」 卓也 「いっつも笑ってたもんね……」 百代 「……? おい、ワン子はどうした?」 大和 「え? 姉さんのすぐ後に出ていったけど……」 クリス「…………まさか、追ったのか?」 翔一 「……見たなら解るだろ?     あいつは泣き虫だったから、特にヒロに構ってもらってたんだ。     常にやさしく、時に厳しく、けど甘えさせてくれる存在だった。     ……そんなあいつが泣いたんだ、じっとしてなんかいられなかったんだろ」  ……沈黙。  泣いた、という言葉に、自分たちが泣かせたのだという意味が重く圧し掛かった。  見れば見るほど、知れば知るほど悲惨な道だったのだ。  普通に生きてきたはずなのに、些細な出来事がきっかけで人を殺め、仲間に嫌われ、忘れられ、だというのに最後の最後まで自分のためと称しながら仲間の未来のために戦った。  そんな、理屈抜きで仲間を大切にするヤツを泣かせた。  身勝手に知ろうとしておいて、いざ知れば、かけてやる言葉を見つけられなかった。  それは百代も同じであり、あれだけの強さを得るための過程というものを、修行だのなんだのという方向からしか見ていなかった。  あれだけ笑顔だったのだ、忘れられたということも、そう重いものではないに違いないと、心のどこかで軽く見ていた。  今まで力でほぼが解決出来たという視点が、ものの見方を狭めていたのだ。 翔一「あいつの過去は解った。    人殺しは確かにヤバいけど、操られたり正当防衛だったりだ。    なによりあいつは俺達のことが呆れるくらいに好きで、信じた上で教えてくれた。    それにあんな面白ぇヤツを忘れるなんて冗談じゃねぇ!    よっしゃ覚悟決まった! 俺は行くぜ!」 大和「行くって、行ってなんて言ってやるつもりだよ」 翔一「考えで飾った言葉なんか今は知らねぇ!    今のあいつが欲しいのは、全てを知った俺達が感じた素直な言葉だ!    だから考えねぇ! このまま突っ走ってそのままぶつかる!」 卓也「うわ……無茶苦茶だ」 翔一「それにこのままだとあいつ、自分から居なくなりそうだし。    56億年前のことなんて時効だ!    むしろそんな前のことで泣けるあいつがあんなに苦しんでんだ!    ここで守ってやらなきゃ家族じゃねぇ!!」 百代「……それが解ってるなら、こんなところで座ってる場合じゃないだろ?    まゆまゆならもう行ったぞ。あとはお前達だ」 卓也「うん、僕も行くよ。空界の人は可哀相だとは思ったけど、    あの猫の過去を見ると、素直に同情できないや。    むしろ千年の寿命でのうのうと生きていることが腹立たしく思えたくらいだしね」 百代「おお、怖いなモロロ。その顔でヒロに会いに行くのはやめとけ」 卓也「あっとと……」  鋭い目つきになっていたのを注意された卓也が、苦笑いをしながら軽い笑みを作る。 岳人「仲間に忘れられるってことの怖さ、見ちまったからな。    でもよ、もし今追いかけても、    いつか俺様達があいつにそんな顔させるのかもしれないんだぜ?    俺様達だけ笑ってて、あいつは泣いてるかもしれねぇ。    あえて訊くけどよ、今追いかけることって正解か?」 大和「当然」  岳人の言葉に、大和が即答で返した。  ソファから立ち上がり、携帯電話であらゆるところにメールを飛ばす。 大和「家族が泣いてる。それを追わないのは間違いだ。    さっき何も言えなかったんだとしても、許せるから友達で、仲間で、家族だ。    すごく卑怯で、一度傷つけたあいつのやさしさにつけ入るひどい方法だけど、    あいつは言葉を届ければ受け入れる。だから……今度はそこから始めればいいさ。    今度は間違えない。いや、これも正解だったって思える未来を掴む。もちろん、」 翔一「家族全員でだっ!」 大和「そゆこと」 岳人「………」  小さく息を吐き、頭を掻く。  それから立ち上がり、自らの筋肉を引き締めて不敵に笑った。 岳人「そうだな。いつかあいつをまた泣かすんだとしても、    それまでは飽きるほど笑わせてやりゃあいいんだ。    まぁ誰が忘れても俺様は忘れる気はないがな」 翔一「馬鹿言えぇ、俺だって忘れないぞー?」 卓也「ていうか、あれだけ大事にされて大事に思われて、    こっちだけ忘れたりしたら最低だよね」 大和「ああ。どれだけ大切に思われてるか、男ながら惚れてしまうくらいによく解った」 卓也「あはは……途中、照れて見てらんなかったもん。    ヒロの考えてることまで聞こえるなんて、反則だよ」 翔一「友情だなっ! それなのに何も言えなかったさっきの俺が情けなく思える。    つーわけだ! いくぜぇ野郎どもぉっ!」 岳人「……俺様、キャップは永遠に性に目覚めなくていいと思う」 大和「同感」  決まってしまえば早いもの。  男衆は秘密基地を飛び出し、さっさと家族を追いかけ始めた。  何処に行ったのかも解っていないというのに。  しかし大和の携帯が鳴ると、“川神一子が走っていくのを見た者”の証言を追い、走った。 百代 「あとはお前だけだな、クリ」 クリス「……。自分には奴を追う資格があるでしょうか。     会って間もない、話も満足にしていない相手だというのに」 百代 「お前、それ本気で言ってるのか?」 クリス「え……?」 百代 「ヒロはお前がここに居ても自分の過去を見せたろーが。     その意味が本当に解らないなら、確かにクリ、お前には資格がないな」 クリス「………自分に…………過去を見せる意味……」 百代 「いい機会なのかもしれないな。ここでじっくり考えていけ。     理解して、それでも一緒に居たいなら追ってこい。     自分には受け入れられないって思ったら、そのまま帰れ。     向かう先は大和が知っている。ん〜……ほら、ケータイの番号だ。     追うならかけろ。追わないなら、さっき言った通りだ」 クリス「あ───」  それだけ言うと、百代は徐に窓を開け、そこから飛び出す。  二階であることなど考えず、そのまま着地して疾駆。  本気を出せば音速を超えられるという言葉の通り、それこそ彼女は音の壁と競うように駆けていった。 …………。  ……。 一子「はっ、はっ、はっ……ん、んぐっ……っ……はっ、はぁっ……!!」  追いすがる。  空をゆく男性を追って……いや。既に建物の所為で何処にいったのかも解らない相手を追って。  方向だけを頼りに走り、朝の賑やかさに包まれようとする町を駆けた。 一子「どこ……どこ───!? ヒロが……博光が行きそうなところ……!」  思考を巡らせてみる。  だが、該当するところなどない。  ずっと一緒だったというのに、自分は彼のそんなことさえ知らなかった。  与えられるばかりで、満たされるばかりで、彼の涙さえ知らなかった。  歩けば歩幅を合わせてくれて、走れば応援してくれて、疲れれば癒してくれて、痛めれば自分よりも痛そうな顔をしてくれた。  なのに自分はなにも知らなかった。  知ろうともしなかった。  それが悔しくて、川神一子は走っていた。 一子「〜〜〜〜〜っ……」  気ばかりが焦る。  浮かぶ思いは“あいつを一人にしてはいけない”という思いばかり。  なのに見つけられず、歯がゆくて歯を食い縛った。 一子「はっ……」  息があがっても駆けてゆく。  時折声をかけられるが、きちんと謝ってからなおも走った。  直江がどうとか聞こえたけど、今はそれよりも走らなきゃいけない。 一子「“居なくなるから”って言った……! 居なくなるって……!」  自分を突き動かす理由などそれだけで十分だった。  絶対に止めなきゃいけない。  自分が混ぜてもらった時には既に居た人が居なくなる。それは嫌だ。  祖母が死んだ時、真っ先に迎えてくれようとした人が居なくなる。それは嫌だ。  いつも笑顔で、間違った時にはきちんと叱ってくれた人が居なくなる。それは嫌だ。  嫌だ。嫌だ、嫌だ嫌だ。嫌だから走れ。届かなくても届かせるんだ。  そんな思いが彼女を動かし、しかし焦る気が呼吸を乱し、いつもならばもっと遠くまで走れる体を疲労で包ませていた。 一子「どこっ……!? 何処……何処行ったんだよぉお……!!」  涙が滲む。  向かう先が解るのならきっと止まらない足も、既になにも無い空を見上げた時点で力を失いつつあった。 一子「………」  その時、ふと期待したのはなんだろう。  自分が泣いた時、いつも誰かが傍に居た。  でも必ず同じ人が居てくれるわけでもない。  川神院で泣いた時は百代が近くに居てくれたが、それ以外では───自分が泣けば、いっつも飛んでくる誰かさんが居たのだ。 一子「うぅう……」  でも、今回ばかりは来てくれない。  沈黙するばかりで何も言えなかった自分ならば、それは仕方ないのだと思った。 一子「………っ」  だから走る。走って、謝ろう。  居なくなるのは嫌だときちんと届けよう。  なにも言えないまま忘れるなんて絶対に嫌だから。 一子「はっ、はっ…………あ、あれ……?」  しかし足は震え、いつしか歩みに変わっていた。  拒絶されたらどうしよう。  今さら言われても救われないなんて言われたら。  そんな言葉が頭によぎると、もう走れなかった。  じゃあどうする? 歩く? それとも、もう諦め─── 一子「嫌だっ!」  浮かぶ思考を吹き飛ばした。  そして歩く。空に見えないのなら近くに降りたに違いない。  違いないから探す。  探して、無理にでも引っ張って……帰るんだ、秘密基地に。アタシたちの家に。 一子「だから動け。動きなさいよ……!」  走ろうにも、怯えは拭えない。  56億の過去を見ればこそ、自分だけで説得出来るか不安なのだ。  自分でも解っている。  しかし周りを見渡したところで、一人で飛び出した自分の周りには誰も居な─── 京 「やあ」 小雪「やー」  …………居た。  今辿り着いたばかりなのか、少し息を弾ませている。  その後ろからはハゲと黒い人が。 準 「やれやれ、随分と遠くまで来たねぇ」 冬馬「ははは……ゲフッ! は、がほっ! げっほ!    それだけ、辛かったという、げっほ! ことでしょう……ごっほ!」 準 「若ー? あんま無茶な走り方すると死にますよっと」  それを見た一子は呆然とする。  涙を滲ませた目を軽くこすってから、訊きたいことをまず訊くことにした。 一子「……あんたたち……どうして……」 京 「どうして? 家族だから」 小雪「だよー♪」 準 「恨みはねぇが恩ならある。    それ差し引いたって、俺ゃああいつにゃあ幸せになってもらいてーのよ。    つーかな、あいつが過去にどんなことやらかそうが関係ねぇ。    世界が違うなら罪なんて関係ねーのさ」 冬馬「ええ、その通りです。ですから迎えにきたというわけですよ。家族をね」 一子「…………お姉様たちは?」 準 「今頃走ってんじゃねーのかねぇ。ま、それならそれでいいさね。    それよりワンコロ、博光はどこだ」 一子「え…………そ、それが……見失っちゃって……。    でも、ここらへんなのは間違いないわ。    建物の所為で見えなくなって、そこを抜けたら空には居なかったから」  言葉と同時に空を見て、京らもそれに習った。  朝の青空がそこにあり、しかし飛んでいるものなど鳥くらいなもの。 準 「となると、ここらの建物の上ってことか。    転移なんて厄介なもん使ってなけりゃ、だが」 一子「あ……」  その可能性を考えていなかった一子が顔を俯かせる。  次の瞬間にはハゲが小雪に頭をビシャーンと叩かれて叫んでいたが─── 由紀江「みなさんっ、こちらですっ! 早くっ!」  ───そこへ駆けつけた由紀江が、息を弾ませながらも行き先を示す。 一子 「え……? わ、解るの? なんで?」 由紀江「人を探すのには慣れているんです!     博光さんの氣は特殊ですから、間違えようがありません!」 京  「───ワン子っ」 一子 「う、うんっ! 案内よろしくまゆっち!」 由紀江「はいっ!」  女性陣が一斉に駆ける。  対して男二人はその元気っぷりに、多少疲れ気味だ。 準 「やれやれ、元気だねぇ……。若? もうひと踏ん張りいけますか?」 冬馬「いかないわけにはいかないでしょう。っと、大和くんに連絡を入れなければ」 準 「んじゃ、行きますか」  ぼやくように言いながらも、決して嫌な顔はしていない二人が駆ける。  向かった先は、回りに回って……住んでいる場所からはそう遠くない、ひとつの灰ビルだった。
 ……。  ゴォオオオオオ…………!! 中井出「フ〜〜〜ア〜〜〜ムア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜イ!!!」  ……。 中井出「気が全然晴れないや」  灰ビルの屋上でたそがれた。  見える景色はこんなにも鮮やかな青色なのに、自分の心の中はとても暗かった。 中井出「……これからどうしようかな」  誰も来ない場所でひっそり生きる……それくらいしか出来ない。  解ってるじゃないか、じゃあそうして生きればいい。  せいぜい、この世界での生きる時間が潰れるまで。  やらなきゃいけないことを探すのなんて、もういいじゃないか。  時間が経てばきっと消える。  俺はもう、何にも期待せずに消え続ければいいんだ。  その先の最果てまで行って、ずっとそこで生きればいい。  そう。何にも期待せずにさ……忘れられたものが辿り着く場所で、朽ちればいい。  核や意思っていう繋がりを外された今、ドリアードやみんなは俺を覚えていない。  いつか最果てでなんて言ったって、期待するだけ無駄だって解ってる。  それでも死だけは選べない俺は、いったいなにに期待して生きているのか。 中井出「………」  ここでしょんぼり生きていこうか。  なんか誰も居ないっぽいしさ。  もう誰にも声かけずにさ、世界を眺めていればいいんだ。  こんなに辛いなら………………もう何も信じなければいいんだ。  だから、そのための覚悟を今─── 中井出「………」  軽く持ち上げた右手を見下ろした。  コレに魔法の言葉をかけて、胸をノックすればいい。  そうすれば覚悟は決まって、俺はようやく休むことが出来るのだ。  最後が来るまでを、何にも期待することなく。  ……もう……疲れただろ?  もういいじゃないか。  俺はもう……このまま…… 中井出「…………。ごめん。さよなら、みんな。     ───覚悟、完《マゴチャア!!》あぽろぉおおっ!!?」  ……このまま、覚悟を決めようとしたら、顔面に何かが刺さった。何かっていうか、靴?  しかしすぐ離れ、何事!?と辺りを見渡してみれば。 一子「ふっ……ふ、ふぅっ……ふぅうっ……!!」  息を切らせ、涙を目一杯に溜めて俺を睨むワン子が。  いやあの、ここ灰ビルの屋上で……え? どっから飛んできた? 一子 「いま……覚悟決めようとしてた……!」 中井出「へ? あ、うん……だって、俺はもう……」 一子 「なにを刻もうとしたの!? 別れ!? なんで!?」 中井出「だ、だから、俺はもう……」 一子 「アタシは嫌っ! やだよっ! ファミリーから誰かが居なくなるなんて!」 中井出「……安心なさい。すぐに忘れるんだから。     ファミリーは俺を除いた数が当然になる。     ワン子も嫌だろ? 殺人鬼が家族なんて」 一子 「ヒロならいい……気にしない!」 中井出「……でもね、世の中はそうは───」 一子 「他の世界のことなんて知らないって言ってるの!!     博光はこの世界でアタシたちと家族になったヒロだもん!!     そんな昔のことなんて知らない!     アタシにとっては、会ってからのヒロが全部なんだから!!」 中井出「…………」  面をくらった。  よもやそんなことを、正面から迷いもせず言われるとは。 冬馬 「その通りですよ、博光」 中井出「冬馬…………京にユキも……おまけにハゲも」 準  「なんか俺扱いひどくない!?」 京  「今はツッコミ入れる場面じゃない」 準  「なんか納得いかねーが、まあ解るからスルーしよう」 由紀江「……博光さん」  屋上の扉からぞろぞろと人が集まる。  恐らくは、下からワン子を飛ばし、それから登って来たんだろう。  結構ここ高いのに……無茶すんなぁ。 中井出「みんな、どうして……」 冬馬 「家族だからです。それ以上に説明が必要ですか?」 京  「私は風間ファミリーである前に博光の家族だし」 小雪 「当然僕もだよ? 僕にとってはヒロミツが居るからこそのファミリーだもん。     もちろんみんな好きだけどねー♪」 準  「まあそんな感じなわけよ。観念して戻ってきなさい?     短い家出はここまでにしよーや」 中井出「き、貴様ら……」 準  「いや映像見た時も思ったけどこういう場面で貴様はどーよ!」  準にツッコまれた。  ……無意識なんだからしゃーないでしょ。  でも……でも。 中井出「まゆっちまで……何故来なすった。     友達だって出来たし、仲間もファミリーも出来た。     念願かなったんだから、俺に構っとる暇なぞ───」 由紀江「友達だからです。一番最初に出来た友達で、     別れたあともずっと会いたいと思っていた友達だからです」 中井出「でも俺はまゆっちを騙したよ? 松風奪って精霊気取って、泣かせたりもした」 由紀江「悶着も無しにずっと仲のいいままの友達なんて居ない、ですよね?     博光さんの映像の中は、その意味と答えがたくさんありました。     私はむしろ良かったと思ってます。     一人で何かに向かう怖さと、それでも頑張ってみようと思う強さを知れました」 中井出「…………」 由紀江「さっきの時点で何も言われなかったのは、     博光さんにとってはとても辛い時間だったと思います。     私は……人との間の沈黙の重さは、多少は解っているつもりですから……。     話を振られて何も言えなかった私が今さら、とも思うでしょうけど」 中井出「……うん」 由紀江「何も考えずに我が儘だけ言ってしまいますね。     突然あんなものを見せられて、平気で話せるほうがどうかしていると思います」 中井出「───ホエ?」  きっぱり言われた。  片付け中だった頭の中を、それはあっさりと蹴散らして唖然とさせるような言葉だった。 由紀江「私は今までの日常のほぼを鍛錬ばかりで埋めてきました。     ですから誰がどんな経験をしてここに立っているのかを、他の人ほど知りません。     ものを見る視野だって、とても狭いものだと思います。     だからこそ言います。あんな人生を見せられて、     それでも軽く口を出せる人は───よほどの楽天家か、     人の心の痛みを知らない人だと思います」 中井出「…………まゆっち……キミ……」  今さら気がついた。  ハキハキと喋ることに驚いていたが、まゆっちは震えていた。  見れば刀の鞘袋を持つ片手ずつには松風と校務仮面キーホルダーが握られており、表情だって平静を装ってはいるが…… 由紀江「さっきは言えませんでした。ですが今は言います。     整理が出来たから、遅れてしまったけれど、言います。     私はっ……嫌ですっ! 博光さんが居なくなるのも博光さんを忘れるのもっ!」  言い切った。  言い切った途端に彼女は周囲が気づくほどに震えだし、その場にへたり込んでしまった。  目には涙を溜めて、返される言葉を想像しながら、来るかもしれない拒絶に怯えている。 準  「あーあ、泣ーかした」 中井出「……準」 準  「難しい話はいいから、戻ろうって笑っちまいなさいよぉ。     お前これだけ想われてるのに断ったら、神経疑っちゃうよ?」 冬馬 「常識破壊を常とした魔王ですか。世の中のくだらない常識を壊すのは結構ですが、     あなたの中の家族としての常識だけは、壊さないでほしいものです。     ……あなたは家族を泣かせたまま、消えるような人ですか?」 中井出「冬馬……」 京  「当然違う」 小雪 「泣いたらいつ来たか解らないくらいの速さで、傍に居てくれるんだもんねー?」 中井出「京、ユキ……」 京  「そして抱き締めて、撫でて、甘い言葉を囁いて、     キスをして愛撫して高まってあれでこれで……!」 準  「はい妄想禁止! こんな場面で危ないこと言わないの!」  ……準のツッコミを前に、冬馬がやれやれと苦笑を漏らす。  そうこうしている間にワン子もまゆっちも本格的に泣き出してしまう。 中井出「……誰かを泣かせちまうヤツが、残る意味なんてあるのかな……」 一子 「! な、泣いてないわっ!」 由紀江「なな、泣いてません!」 中井出「……誰かに強がりをさせるヤツが、居てもいいのかな」 一子 「誰かの許可を得なきゃ強がれないほど、ファミリーは厳しくないわよっ!」 京  「好きな時に集まって、気楽に付き合うのがファミリー。     今の博光はちょっと気負いすぎ」  ワン子と、京の言葉が胸に刺さる。  でも……仕方ない思いだって当然として胸にあるんだ。 中井出「……気負うよ。気負うに決まってるじゃないかよ。     あんな過去を見せて、みんなが黙っちまって。     怖くないわけがない……大事だから、無くしたくないから怖いんだ。     いつだって怖かったから、表面では楽しそうでも心で壁を作ってきたんだ。     そんな外史を、ずっと怯えながら歩いてきたのに……」  ここで、お前達に会ってしまった。  ガキの頃から馬鹿みたいに燥いで、なにも死んでしまうことはないのだと思ったから家族として迎え入れたのに、いつの間にかそんな心の壁なんてものは壊されてしまっていた。  いつしか“自分の顔”で笑っている自分が居て、自分の感情を久しぶりに思い出した自分さえ居た。けれどもそれはとてもとても怖いことで、忘れられ続けた俺には……壊れ続けた俺の心には、もうこらえようのない未来を予想させるものでしかなくなっていたんだ。  孤独に生きて忘れられて、それでもやっと自分で居られる人達の中にあって、なのに忘れられてしまう恐怖に怯えなきゃいけない。 中井出「嬉しかったんだ。力なんかじゃない、万能を持ってるからでもない。     ただ“俺に居てほしい”って言ってくれたのが。     俺が居るだけで嬉しいって言ってくれたのが。     なんの力も見せてなくても、     傍に居てくれるだけで嬉しいなんて言ってくれる人が……     俺にはもう一千万年以上も居なかったから」  だから壁は容易く崩れた。  なんとなく迎え入れた、子供の頃の京と小雪によって。 中井出「幸せにしてやりたいって思った。     それは家族だけじゃなくて、大切なファミリーだって例外じゃなくなってた。     幸せにして、幸せになってもらって……それで忘れられるのが俺だけなら、     きっとまたいつものことだって……諦めて、俺が泣くだけで済んだのに……っ!」  それなのに泣かせてしまった。  友達だと言った人を、いつか家族として迎えようとした人を。 中井出「なんでそんなにお節介なんだよ……。     俺が忘れられるだけじゃない。     お前らだって、忘れる瞬間に悲しみを味わうかもしれないんだぞ……!?     ずっと笑ってればいいじゃないか……俺のことは忘れて笑ってればさぁ……!」 京  「……それは、笑えない。傍に居て欲しい人が居ないのに、どうして笑えるの?」 中井出「そんなの……誰かが笑わせてくれるだろ!?     友達、仲間、家族……たくさん居るじゃないか!     俺じゃなくてもいいものが揃ってるんだ!     俺が頑張っても、そんな頑張りさえ辻褄なんてものに消されちまうんだよ!」 京  「それでも、笑えない。誰がたくさん居ようと、博光が居ないんじゃ意味がない」 中井出「っ……どうしてぇ……っ! なんでわざわざ辛いほうを選ぶんだよ!     忘れられるヤツなんてほうっておけばいい!     ずっと一人で生きて、誘われれば馬鹿みたいに喜んでついていって、     最後は忘れられて泣きながら次に飛ぶ……そんな馬鹿なんてほっとけよ!     さっき解ったんだよ……! 手を差し伸べられたのが嬉しかった……!     まだ間に合うんじゃないかって思った時、泣くくらい嬉しかったのに……!     それ以上に忘れられることが怖かったんだよ……!     怖くて……! だから……! なのに……!」  やさしくするなと心が叫ぶ。  どうせ忘れるくせに、もうこれ以上近寄らないでくれと。  幸せだったんだ。  泣いてしまうくらい幸せだったから。  もういいって思えてしまうくらい幸せだったから。  もう許してくれ。  もう俺は、心を砕いてしまうほどの悲しみを、大切なものを失う悲しみとして受け入れたくない。 京  「……誰かが言った。     命をかけて誰かを助けるのは、誰かの幸せのためにやることじゃない。     死んでしまったら助けられた誰かは全然嬉しくないし、     だからって自分が死んでもいいわけじゃない」 中井出「……みや───」  ……涙がこぼれる頬に、静かに手が添えられた。  見上げる目はとてもやさしく、それは……いつか、俺が与えたやさしさに「嬉しいな」と返してくれた、あの時の笑顔だった。 京  「それでも───誰の得にならなくてもいい。     助けようとしなかったために誰かが傷ついてしまったのだとしても───     それでも、生きて傍に居てほしいと思う。     生きていてよかったと思わせてくれたあなただから、     もし、長い間を生きてきて、     今この世界で生きていてよかったって少しでも思ってくれたなら、     たとえ辛くても……私はあなたに生きていてほしい」 中井出「っ……」  それもまた、“誠”だった。  我が儘でごめんなさいと謝られようと、きちんと胸に届く“誠”だった。  なんて暖かい。  それなのに、心はまた、どんどんと壁を作っている。  もうたくさんだ、もうやめてくれと泣きながら。  彰利と同じだ。  いつか壊れ、砕けた心の数だけ心が逃げている感覚。  子供の頃の俺が壁を作り、壁の先の小さな部屋で自分ひとりで幸福の夢を見続けている。  魔王だ人殺しだと呼ばれるのは俺だけで、壁の向こうの子供の俺は、幸せなくせに無表情で夢を見続けていた。 準 「おいおいぃ、女にここまで言われて、本気で動かない気かよ」 冬馬「博光。心が動くままに私たちは行動したまでです。    ならば次は、あなたの心を見せてください」  震える心に後押しがされる。  なのにもう一歩が踏み出せない。  それは、心の奥の子供の俺が許さなかった。  諦めることほど楽なものはないと、心ってものは知っているのだ。  それが子供の頃の心ならばなおさらだった。  子供の頃の俺には友達なんて呼べる相手が少なかった。  ばーさんが死んでからはババゴロシなんて言われて、余計に距離を取られた。  両親が死んだ時はオヤナシと呼ばれ、ババゴロシと合わさってオヤゴロシとさえ言われたことがある。  怒り任せに暴力を振るった俺だけが呼び出され、訳も解らず呼び出されたじーさんが、悲しそうな顔で謝っていたのを覚えている。  そんな手が俺を撫でてくれた。俺の所為ではないと、言ってくれた。 中井出(………)  勇気を出そう。  あの日、じーさんがくれたやさしさに手を伸ばすように。  これが最後だって構わないって、歩いてみればいい。  もう心は壊れていて、破片だらけでとても痛いけど…………これが最後でいいから、我慢してみないか?  ……心の壁の向こうの自分に問いかける。  けれどそいつはこちらを向くこともせず、どうせ無駄だと呟いた。  だって、どれだけ言ってくれようが他のやつらは居ないじゃないか。  お前はもうファミリーに捨てられたんだよ。  そう、子供の俺がくだらないものを見る目で俺に言った。  途端に諦めそうになるのに、一歩を踏み出したユキが俺に言う。 小雪 「……ね、ヒロミツ? 僕たちはヒロミツにい〜っぱいいろんなもの貰ったから、     次は僕たちがそれを返す番なんだよ?」 中井出「………」 小雪 「でもヒロミツは言いましたー。     自分から手を伸ばさない人には、     よほど心配じゃない限り手を差し伸べてはいけませんよと」 中井出「む、う……」 小雪 「ヒロミツは今どうしたいの?」  にっこり笑顔で、けれど手は決して差し伸べたりせずに。 小雪 「楽しいを知らないキミに、楽しいを教えてあげる。     僕は家族を裏切らない。だから、手を伸ばして掴み取ろ?」 中井出「ユキ……」  それはいつか、俺が言った言葉。  名前も知らない白い髪の少女を、そうやって家族として迎えた。 中井出「───」  手が動く。なら伸ばせ。今なら届く。  伸ばして、本当の笑顔で笑える“楽しい”を掴み取れ。  なにに遠慮する必要もない家族の中で、ずっと本当の笑顔で笑えばいい。  他の誰がそれを与えてくれなくても、この家族なら───ドバァーーーーーン!! 翔一「はっ……はぁっ……俺、風となって登場! やっと見つけたぜヒロぉっ!!」  ……ああ。この家族となら、終わりの時まで絶対に笑い合っていられる。  その終わりってのが忘れられることでも、彼ら彼女らの臨終の時でも構わない。  それでもいいから手を伸ばしたいって思える感情が今、ようやく湧き出した。 百代「鍛えが足りないぞお前ら。これくらいの距離で情けない」 卓也「し、仕方ないでしょっ……」 大和「あっちこっちからワン子を見たって証言があって、    正直どこを信じればいいのか解りゃしない……はっ……はぁっ……」 岳人「よーするにヒロが、あっちへふらふらこっちへふらふらしてたってことじゃねーか」 百代「そういうことになりそうだが……ほらヒロー、とっとと帰るぞー。    プチ家出してセンチメンタルを十分味わったろー?    必要なことはそこの中井出ファミリーが喋ったと思うから割愛!    詳しく言うなら家に帰って私にジュースを奢れ。それで私は謙虚になれる」 大和「姉さん、言ってること滅茶苦茶……」  顔に浮かぶのは笑みだろうか、涙だろうか。  どっちでも構わない。  迎えに来て、帰ろうと言ってくれることがこんなにも嬉しい。  しかもそれが真っ直ぐな顔で、自分をきちんと受け入れる気持ちを固めてきてからの言葉だったから、胸を打つ感情がやさしくて温かくて、たまらなかった。 中井出「……お、俺は……」 翔一 「おうっ」 中井出「人、殺したよ……?」 翔一 「他の世界のことなんて知らん!」 中井出「ひどいこともたくさんしてきたよ……?」 大和 「善人だから仲良くしたいわけじゃないって」 中井出「利己的で、自分勝手で……」 卓也 「裏を返せばそれ、みんなやってることじゃない」 中井出「自分のためとか言って、無茶ばかり押し通すし……」 岳人 「んーなこと今さらだろうが。     それでもいいっていうからここにこれだけのやつらが居るんだよ」 中井出「忘れられたらそれまでだし、覚えていても一緒に死んでやれないんだよ……?」 百代 「だったらその瞬間まで一緒に傍で笑ってろ。     忘れられたならまた手を伸ばせ。死にゆく者は笑顔で見送れ」 中井出「……ずりぃよそれ……。また俺だけ泣くんじゃねぇか……」  言いながらも泣いていた。笑顔で。  “それでもいい”は、もう心の壁なんかとっくに砕いていた。  きょとんとする子供の俺を、俺が掴み上げて笑う。  心なんて何度でも砕けばいい。  その砕いた数だけ大切な仲間を増やして、砕いた数だけ笑っちまえ。  だからお前も“誠”を見せろ。俺もやっと、“誠”で笑えそうだから。  この、ようやく掻き集めることが出来たちっぽけな勇気で、たった一度でいいから手を伸ばそう。たとえもう二度と手を伸ばす勇気が出せなくなっても、今この手を掴んで貰えたなら、そんな勇気くらいまた何度でも沸き上がってくる……そんな気がするから。 『───』  全員が俺を見守っていた。  これがとてもちっぽけで、きっとここだけの勇気だということをなんとなく理解してなお、けっして焦らせることなく待ってくれている。  手を伸ばそう。  もう一度この手で、本当の自分でいられるように───!   ……青空の下、手を伸ばした。  真っ青な空は小さな俺を見守ってなお雄大で、吹く風が自分を後押ししてくれるようで心強い。耳に届く鳥のさえずり、犬の遠吠え、空をゆく飛行機の音。そんな音の全てが、真っ暗だった俺の心に日常を思い出させてくれるようで……!   ズシャアッ!! クリス「クリスティアーネ・フリードリヒ! 推参!!」  …………それら全てが、突然間に降ってきた金髪さんに、ぶち壊された。  伸ばした手は思わず引っ込めてしまい、振り絞った勇気は霧散して─── 中井出「う、うあ、う……お、お幸せにぃいいいいいいっ!!!」  俺はその場から逃げ出した。  屋上から飛び降りて、全力で駆けることで。 クリス「あぁっ!? こらっ! 何故逃げ《ガシッ》……おおっ?」 百代 「クリぃい……空気は読もうな……?」 クリス「? え、え?」 全員 『………』 クリス「い、いや、自分は覚悟を決めたならば全速力で来なければとっ……!」 準  「だからってなにもこのタイミングで来るこたぁねぇだろうがァァァァッ!!!」 京  「とりあえず正座。     そしてこの“私は悪いことをしました看板”を首から提げて猛省するべき……!」 翔一 「それに戦闘機使って空から登場なんて青春してねーだろ!     ここは走ってこねーと!」 卓也 「いやそういう問題じゃないから!」 岳人 「どーすんだよこれ! このままだとかなりやべぇぞ!?」 冬馬 「や、やれやれ……本当に一筋縄ではいかない家族ですねぇ……」 大和 「ていうかまたワン子が居ない!? もう追ったのか!」 小雪 「おー、はやいー!」 準  「いった! 犬行った! メイン犬行った! これでかつる!     なんて言ってる場合じゃねぇだろーがァァァ!!」 百代 「……ワン子が追ったならなんとかなるさ。今度は飛んでるわけじゃない。     とりあえずまずはクリにおしおきが必要だ」 由紀江「覚悟してください……《ギンッ》」 クリス「えっ……い、いやっ、自分はっ、自分はぁああーーーーーーーっ!!」  後ろから誰かの絶叫が聞こえた。  けれど気にせず逃げ出していると、泣きっ面で走っていた所為だろう。  石に躓いてズガガガガガガガ!!! 中井出「ちぇるしぃいいーーーーーーーーっ!!!」  盛大にコケた。ていうか顔面で地面を滑った。  その痛さに悶絶していると、どんどんと惨めになって……ついにはマジ泣きした。  なにやってんのか。  勇気も半端に手も伸ばしきれず、迎えに来てくれた仲間から逃げちまって。  自分が情けない。  覚悟を決めなきゃなんにも出来ないのは、どうやら相変わらずらしかった。  本当に、なんて弱い。 中井出「しっかりしろよぉお……56億歳ぃい……!」  もはや恥がどうとかではなく、心が泣いてしまった。  期待させておいて自ら逃げ出す自分に、心が。 中井出「───……」  それでも、今一度。  諦めたくないって頭が思えるならもう一度……いや、何度だって。  勇気を掻き集めるんだ。  それからならきっとまた、頑張れる。  自分から逃げてしまったけど、勇気さえ得られれば─── 中井出「あ…………」  でもさ。もう呆れられてるんじゃないか?  逃げておいて、またかよって。呆れられドガズガガガガガァア!!! 中井出「ちぇるしぃいいいーーーーーーーっ!!?」  最悪の思考が浮かび上がった途端、突然なにかにぶつかられ、また顔面で地面を滑走。  大激痛に震えながらも起き上がってみれば、……起き上がってみれば…… 中井出「……ワン子……」  キュッと目を閉じて、その目に涙を溜めて、俺に抱き付いているワン子が。  ……え……? 追ってきて……くれた……? 中井出「ワ、ワン子、お前」 一子 「っ!《キッ!》」 中井出「へ? あ、いや《ボグシャア!!》デネヴ!!」  声をかけた途端にキッと睨まれて殴られた。顔面ストレートです、ハイ。 一子 「ばかっ!」 中井出「っ……てて……! ば、馬鹿だとも!!」 一子 「じゃああほっ!」 中井出「あほですが!?」 一子 「間抜け!」 中井出「人生いつでも間が抜けてたほうが楽しめる!」 一子 「〜〜〜っ……」 中井出「《バゴドゴゴスガスガンガンガン!!》ジェーーーン!!」  そして展開される、涙目の少女にタコ殴りにされる男の図。  正直に答えたはずなのに、ワン子は答えなんて得られないって顔で殴ってきていた。 一子 「ばかっ! ヒロはばかっ!     みんな心配してるのに、どうしてっ……どうして逃げるんだよぉお……!!」 中井出「…………ばかだから逃げたんでしょ《べぱぁん!!》あわば!」  綺麗なキックでした。頬に、まるで鞭のようにヒットした。 中井出「ごぉおおお……! き、貴様……!     よもやこの博光にキックをかますとは……!」  思えば初めてかもしれない。  こんなにも敵意剥き出しの、怒りの攻撃をワン子にされるのは。 一子 「悪いことをしたら本気で怒れって言ったのはヒロでしょ!?」 中井出「え? 俺? …………言ったっけ?《にこりバゴシャア!》ギャアアアス!!」  言った途端に殴られた。  …………うん、いい。いや、痛みがとかじゃなくて、少しずつ……勇気を掻き集められている。もっと自分を出せ。殴られたって、それは逃げた分だと思えば……とても痛い。でも、そうだ。痛くなければ覚えない。痛いから覚えられるんだ。 一子 「アタシは嫌だ! ヒロが居なくなるのも忘れるのも嫌!     何度だって言うから! 戻ってこないなら何度だって追いかけるんだっ!     それが嫌ならっ………………帰ってきてよぉお……!」 中井出「…………あらまあ」  殴ろうとした拳が力を失い、俺の胸にとすんとぶつかった。  ワン子は肩を落として泣き始めてしまい、お、おぉおお……!? あ、あの!? まだ僕勇気が溜まっていないのですが!? いやそんなこと言ってる場合じゃっ……ワワワワン子を泣かせてしまった! つーかさっきも泣かせてしまった! 中井出(…………アホゥ)  何も言わずに抱き締めた。それでいい。抱き締めて、頭を撫でる。  ずっとしてきたことだ。  そして─── 一子「〜〜〜〜っ」  ギュムと背中に手を回される。放すものかときつくきつく。  これも俺が言ったものだった。  どんなにいがみ合おうがぶつかり合おうが、許せるから友達で仲間で家族だと。  つまり俺は………… 中井出「ああ……なんだ。俺、許されてたのか……」  とっくに許されていた。  殴られて泣かせて、なのに抱き締めただけで。 中井出「ワン子。俺はまだ……家族でいられるか……?」  ……返事はない。  けれど回された腕に力がこもる。  …………俺にはそれだけで十分だったんだ。  十分だったから、もう我慢することはしなかった。  今まで独りで歩いてきた約二千万年分の涙を流すように、ワン子を抱いて涙した。  それに引っ張られるようにワン子も涙を流して……俺達は、人通りの少ない道端に座り込んで、二人でわんわんと泣いた。 ───……。  そして……再び秘密基地へ。  今さらどんな顔をして顔を合わせればいいのか、恐らくは互い互いが思っている。  だからこその沈黙があって、俺達ファミリーはただただ黙っていた。  ……まあ、逃げようにも隣に、というか密着して胴に抱き付いているワン子が放してくれないのですが。 クリス「……ああ、その……なにをどう口に出せばいいのかは解らないが……。     まずひとつだけ言わせてくれ」 翔一 「あ、ああ。ほいクリスッ」  静寂が場を支配する中でクリスが立つ。  キャップは少し呆然としていたが、クリスの声を聞いてハッとし、指名。 クリス「その……すまない。まずは謝りたい。     私はその、先ほどの映像を見る前に、とんでもないことを考えていた」 翔一 「とんでもないこと?」 クリス「もちろん今では改まってはいるが……この基地のことをよく思っていなかった。     わざわざここに集まる必要もなければ、     こんな出っ張った部分を作り変えたものなど、     いっそ壊してしまえばいいとさえ思っていたんだ」 京  「───《ぞわり》……」 小雪 「…………《ミシ……》」 クリス「待ってくれ、聞いてほしい。本当にすまないと思っている。     人にとっての大切なものなど、     他人の物差しでは計れないことなど解っていたはずなのに、     私はそれを意識下に入れずにけなすところだった。     お前達がここをどれだけ大切にしているのかを映像で知って、     しかし思ってしまったからこそ謝りたいと思ったんだ」 京  「………」 小雪 「………」 京  「……いい。何も知らないくせにそんなこと言ってたら許さなかったけど……」 小雪 「うん。でも次に似たようなことしたらひどいよー?」 クリス「ああ、二度と言わないと誓おう。本当にすまなかった」  ……。  話はしたものの、やっぱり沈黙が溢れる。  その無音な時間はとても苦しく、逃げ出したくなるほどのもので……。 中井出「………………あの……やっぱり俺……《がしっ》あ……」 卓也 「ちょっと待った! そうじゃないって!     言いたいこといっぱいあるんだよっ! でも纏められなくてっ!」 百代 「よぅしよく掴んだモロ! そのまま告白だ!」 卓也 「なんでそうなるのさ! しないよ!」 岳人 「あー……っと、なんて言えばいいんだか……え?     つまりそのー……ヒロって英雄?     俺様達、英雄と幼馴染でファミリーやってんの?」 中井出「あ、いや、英雄は嫌いなので魔人とでも魔王とでも」 卓也 「そこはしっかり否定するの!?」  ……あら。一瞬にして場のどんよりした空気が飛んだ。 百代「モロロ……お前のツッコミはやっぱりここにはなくてはならないものだな」 翔一「ああ。お前のツッコミのお陰で、一瞬でいつもの空気が戻ったぜ!」 京 「モロ、ナイスツッコミ。10点」 卓也「いや……そう思うならツッコミだけじゃなくて、    僕の存在を褒める言葉をひとつくらいだそうよ……」 小雪「ツッコミのないモロモロ? んー…………」 総員『………』 卓也「いやいやちょっと! そこで黙らないでよ!」  あとはいつもの談笑。  ようやく戻った空気に、知らずに緊張していた体も落ち着いてくれた。 準  「はぁ……これからは多少明るいことを話そーや。     で、ところでなんだが……。     モモ先輩を圧倒しちまったってこたぁ、川神最強ってコレ?」 中井出「コレです」《ヴァアーーーン!!》 卓也 「ていうか、いろいろとんでもない映像だらけで流しちゃうところだったけど、     ヒロって、ええっと、モモ先輩に、その……」 京  「好きです」 中井出「家族で」 小雪 「好きー」 中井出「家族で」 百代 「私のものになれ」 中井出「家族で」 岳人 「羨ましすぎんだろおい! なんでそれ断れんだよ!」 中井出「いや、僕自身家族愛の方が強いからなんともかんとも」 大和 「姉さんはそれでいいの?」 百代 「いずれ落とす。決闘も恋路も手強いほうが燃えると解った。     というかな、本気で戦って負けてみて解った。これ結構悔しいぞ」 総員 『今頃!?』  悔しいってことも知らんかったとくる。  子供の頃とかはさほど全力じゃあなかったってことかな? 一子 「むむむ……お姉様がヒロを落としたら、ヒロは川神博光? お兄様?」 中井出「ヒギャアアアアア!!《ぶつぶつぶつぶつ!》おやめなさいお兄様なんて!     僕下流階級チックな呼ばれ名がいい! ヒロでいいよ! 博光でいいよ!」 翔一 「おおっほ、すげー勢いでサブイボが出たなぁ」 冬馬 「まあそれはそれとして。具体案はありますか?     映像を見る限り、生半可な関係では辻褄に潰されてしまいますが」 由紀江「は、はい……そうですよね。     仲がよろしかった学友さんたちにまで忘れられてしまったわけですし……」 大和 「いや、その学友……原中って部分は基準に置かないほうがいい」 クリス「うん? 何故だ? 彼の大切な仲間だろう」 中井出「あ、僕博光。ヒロでもなんでも、好きに呼んで?」 クリス「そ、そうか。では……ヒロと」 中井出「うす。ではキミはクゥと」 クリス「それはなんか嫌だっ!」 中井出「ええっ!? なんで!?」  人間にもらった名前っぽくていいのに。  まあいいや、先を続けてもらいましょう。 大和 「まずひとつ。原中と俺達とで違うところは、     あのルドラってやつが直接能力を送り込んで忘れさせたか否かってこと」 岳人 「あん? つまりなんだ?」 卓也 「いや少しは考えようよ。えっと、あのルドラって人の力が直接関わってない分、     探せば逃げ道があるかもしれないってこと?」 大和 「そう。ドリアードみたいに、     なにか繋がりを埋められれば一番てっとり早いんだけど……」 京  「あなたの子供で繋がりを」 中井出「うぐっ」 百代 「《ぴくり》」 翔一 「おっ」 冬馬 「……? ああ、なるほど」  あらやだ! なんか可能性を見い出された!? 中井出「い、いや、そりゃ俺も考えたことはあるよ?     ルドラの強すぎる強制力ならともかく、時間が経ち過ぎた呪いなら或いはって!     だって俺の時は四千年で自分を取り戻せたんだから、     俺が取り戻せた“写真”以上にインパクトのあるものならって!     で、でもさぁ……そのために子供作るとか、さすがの俺も……」 大和 「好き合ってる場合なら問題ないだろうけど、さすがに最終手段だね。     じゃ、次。繋がりを埋める以外の方法となるとやっぱり辻褄を利用すること。     失敗すれば後戻りが出来ないだけあって、繋がりよりも博打に近い。     ただ、男はさすがに子供を作れないから」 百代 「ヒロは女になれるだろ? なら逆にお前らの子を孕めば」 男衆 『大却下!!』  全力で却下させてもらいました。  勘弁してくれ……って、なにまんざらでもなさそうな顔してるの冬馬!!  やめてよ! 僕にそんな趣味ないよ! 大和 「じゃあ次で。“ヒロじゃなきゃ作れないもの”を作る。     そしてその完成には俺達も必要っていうのがあれば、確率は上がる。     ようはヒロの存在率が次の世界に飛ばなければいいんだし」 中井出「んむ。それはきちんと呪いを受け入れる時にブラックノートン先生に調整された。     でもこの世界でやるべきことが無くなったら次の世界に飛ばされるなら、     これまたいろいろ難しいかもだ」 翔一 「調整したの、スピリットオブノートっていったっけ。     あいつの不可能を可能にする力は?」 中井出「すまん、ある意味運命破壊よりマナを使う」 翔一 「あちゃー……っと、いいこと思いついた! さすが俺!」 準  「あん? どしたい」 翔一 「俺達でヒロの霊章内の世界に入って冒険する!     で、ゲームの中のやつらにもう一度意思を芽生えさせる!!     そうすりゃ俺達にしか出来ないことで、ヒロが居なきゃ出来ないことが成立!」 冬馬 「それではまだ五分にもいきませんね。必要なのは“この世界との繋がり”。     フェルダール、といいましたか。     そこでの冒険は、なにもここでなければいけない訳ではないので……。     ええ、どうにも“必要性”が緩いんですよ」 翔一 「あ。ちぇー、いい考えだと思ったのによー……」 冬馬 「もちろん確率は上がるのですから、やるべきではあります。     他の世界でも出来るといっても、私たちはこの世界にしか居ないのですから」 翔一 「じゃあいいんじゃねーかよぅ!」 冬馬 「ええ。単的ではなくきちんと考えてみてくださいという忠告です」 京  「じゃあきちんと考えてみた。全世界の女子、博光の嫁計画」 中井出「絶対やりませんからね?」  つーかそれやったらキミにこそ刺されそうだよ。  でも心配して、出したくもない提案をしてくれてるのは解ってる。  だからありがとうの意も込めて、もはや隠す必要もなくなった能力を使って京を転移。膝の上に乗せ、きゅむーと抱き締めた。 一子 「おおぉ、マジックだわっ」 岳人 「実際に見るとすげぇなぁ……!」 卓也 「普通に生きてたんじゃあこんな体験できないよね」 百代 「ふむ……いいこと思いついた。     全員が飛び降り自殺をして、ヒロが転移で助けるなんてどうだ?     ヒロにしか出来ないぞ」 卓也 「一歩間違えれば死ぬよそれ!?」 準  「そんでなに?     そーゆーインパクトの強いもんでも、辻褄合わせが実行されると……」 中井出「んむ。辻褄合わせに邪魔な場合は消去される。     たとえば俺がここで───京、朝食でなにか食べたいものある?」 京  「博光のおいなりさん《ぽっ》」 中井出「と言ったとして、僕がいなり寿司を創造したとします《ポムッ》」 岳人 「おおっ、ほんとに出たっ」 一子 「一家に一台、博光ね……」 中井出「で、これをあえてクリスにあげるとします」 クリス「? あ、ああ、ありがとう……?《ぱくり》…………っっっ!!!?」 中井出「で、これでもしもクリスがいなり寿司をめっちゃ好きになったとしても、     べつに俺じゃなくても時間がくれば好きになったんじゃ? という強制力が働く」 翔一 「……おーい、なんか知んないけど、     クリスが涙流して“味に目覚めたー”って言ってるぞー」 中井出「あれぇ!?」  いや、まあ強制力の話だから、目覚めても悪いことはないんだけどさ。  でも気に入ってもらえたならいいや、どんどん創っちゃる。 百代 「創れないものはないのか?     ね、願わくばなんでも言うことを聞く裸のねーちゃんが欲しい」 中井出「どこの横島ですかキミは。     で、も一度言うけど俺の能力のほぼは、もう俺個人の力じゃ引き出せないの。     マナと癒しとTPがあって、初めて使える。もちろん創造だって同じだ。     だからあれも欲しいこれも欲しいって言われても無理なもんは無理」 百代 「冗談だよ……なんだよ、少しは嫉妬しろよぅ……」 中井出「おのれこのハゲ俺の京をジロジロ見やがってぇえええ……!! はい嫉妬」 百代 「私のためにしろよー!」 準  「つかなんで俺が対象!?」 京  「念願が叶った……嫉妬された……♪ ほぅ……♪」 小雪 「じー……」 中井出「おいで、ユキ」 小雪 「! おー!」  じーと羨ましそうに京を見つめるユキを招いて、近寄ってきたところを抱き締める。  ワン子とは逆の位置に下りてもらった京が横から抱き付いてきたが、構いません。  ……暖かいなぁ、人のぬくもりだ。  あったかい……離れたくないなぁ……。 クリス「…………なぁまゆっち。ヒロは本当に、この集まりを大事にしているのだな」 由紀江「(まゆっち!?)えぁ、は、はい、そうですね……。     初めて会った時もとても寂しい思いをしながら生きてきたことを聞きました。     そんな中であんなにもやさしい笑顔になれるなら……博光さんにとって、     この風間ファミリーという場所は本当に大切なんでしょうね……」 クリス「ああ。……自分も、もっと歩み寄りたいと思う。     せっかくこうして招かれ、全てを見せてくれたんだ。     自分はその思いに応えたい。そして、ヒロの記憶に残る自分でいたい」 由紀江「はい、私もです」 クリス「互いに頑張ろう、まゆっち」 由紀江「は、はい、えと、ク、クリス、さん」 クリス「くすっ……ああ」 由紀江(《きゅっ》……あ、握手してしまいましたぁぁぁぁぁ!!     と、とうとう私の交友関係も海を渡った世界まで……!     ままま松風! 友達100人計画がついに海峡を越えます!) 松風 (イェアー! その調子だぜまゆっちー! 外国語もばっちり学ぶんだー!) 由紀江(……でもクリスさん、日本語ペラペラですよね) 松風 (そういえばそうだったなー……)  チラリと見た二人は、なんだか連帯感のようなものが生まれていた。  キャップを見てみれば嬉しそうに頷いてる。 翔一 「よしっ、考えてばっかでも始まらねぇし、     悩んでばっかよりもヒロだって楽しいほうがいいだろ。     せっかくの日曜なんだし、なにかスカッとすることしよーぜっ!」 京  「博光は私がスカッとさせる《キリッ》」 中井出「あの。なんか余計に積極的になったんですけど」 京  「忘れるなんて絶対に嫌だから。むしろ博光もイジメられてたことに共感。     なのに私を救ってくれた。嬉しい。全人類が忘れても私は覚えていたい」 中井出「………ええお子やなぁ……」 京  「《ぎゅうう〜〜っ》はうぅう〜〜……♪」  抱き締めると落ち着きます。俺が。  この世界に来てから、随分と誰かを抱き締めることが多くなった気がするよ。  これってやっぱり大切な人が多いから?  いい変化だよね、きっと。 冬馬 「では私は大和くんをスカッとさせましょう」 大和 「うおおいつの間に背後に! ちょ、こらっ、へんなもん押し付けるな!」 小雪 「じゃあ僕は準でスカっとするー♪」 準  「一応訊いときたいんだが……具体的にはどうやって?」 小雪 「バットでボールを叩くんだよー? コキーンって」 準  「なんか怖っ! 効果音怖っ!!」 岳人 「下腹部がキュッときた!」 準  「やめましょうね誰かが痛いスカっとは!」 中井出「はっはっは、ユキは考え方がユニークだなぁ」 由紀江「ユニークで片付けていいんでしょうか……」 一子 「?? こきーんと打つと、ほーむらん?」 百代 「うへへへへまゆっちぃ〜……? 純粋さで差が出てるぞぉ〜?」 中井出「お前が一番邪悪だけどね」 百代 「純粋じゃないか。ただし私的に」  おーそりゃ純粋そうだ。  いろんな意味で。 小雪「んー……よく解んないけど……ヒロミツ以外が潰れれば、    必然的に世界がヒロミツを必要とするようになる〜ってヤマトが言ってたよ?」 岳人「よぉおっしゃいい度胸だやぁあまとくぅううん!!」 準 「お兄さんたちといいことしましょ? 具体的には若がする」 大和「うわっ、誤解だっ、罠だっ、俺はそんなこと言ってないぃいっ!!」  大和が連行されてった。  ……んむ、肩の荷がひとつ下りた感じだ。  やっぱり、最初っから全部話しておくべきたったのかな。  それとも今だから受け入れられたのか。  まあいっか。どちらにせよ、こうして笑ってられるのは事実なんだから。 百代 「……ヒロ。今までの経験からして、いつまでだ?」 中井出「ふむ。恐らくガキの頃から数えての50年後。     リュウゼツランが咲く頃までだと思う。     経験上、ガキの頃の約束ってのは結構強いね。     それか、キミらがなにかしらを達成したら、かもしれない」 一子 「もしやアタシが師範代になったら……!?」 京  「もしや私が博光と結ばれたら……!?」 小雪 「もしや準に髪の毛が生えたら……!?」 準  「はいちょっと待ちなさーい!? これは剃ってるだけですよー!?」 京  「……可能性は十分ある。だからハゲはずぅっとハゲで居るべき」 準  「好きでハゲやってんだからほっときさないっ!」 京  「ロリコンは?」 準  「人生だ《ニコリ》」  いろいろダメそうな人生だった。 卓也「ていうかワン子以外まともな達成目標とかないの?    ロリコンを人生とか言い出しちゃったし。    ……あれ? 大和連れて屋上行ったんじゃなかったの?」 準 「あっちはあっちで頭いい同士で悩んでるのさ。    筋肉はもしものためのストッパーだ」 卓也「まさか、ホントに襲ったりはしないでしょ」  そのまさかがありそうだから怖いんだが。  だって冬馬、たまに大和の尻とか見て舌なめずりしてるし。 百代 「しかし達成目標って言ってもなぁモロロ。     運命ってものがあって、その所為でヒロが消えるっていうなら、     今の私たちの目標はあまりアテにならんぞ。     最初から日数が決められているものなのかもしれない。     そもそも存在率の所為で忘れてしまうなら、存在率を減らさない方法をだな」 卓也 「や、だからそれが“ヒロがここに居るべき理由”に繋がって、     だったら辻褄に負けないくらい、この世界にはヒロが必要だって認識が作れれば」 京  「つまり博光の交友関係を広く濃厚にすればいい」 小雪 「僕たちとはもう濃厚だよー?」 京  「全然足りない。だから私たちも屋上で……」 中井出「先に行ってなさい。ずっと行かないから」 京  「あぁああん……! 放置プレイ……!」 翔一 「いーから終わり終わりー! まずは朝食にしようぜ!     つーかクリスが食ってるところから一つもらったんだけど、     このいなり寿司ウんメー!! バイトしてた寿司屋じゃ敵わねーよ!」 中井出「もちろんだ! 何を隠そう、俺は寿司握りの達人だぁああーーーーっ!!」 卓也 「だからそんなスキル初めて聞いたってば!」 中井出「そしてもちろん初めて言った! 最強!」  ズビシとポーズを決めて立ち上がる。  うっしゃ、朝食ならばこの博光が腕を振るおう!  いろいろ吹っ切れたから、よき料理が出来そうな気がするんじゃい……!  そうだよなっ! 家族だもんなっ! 俺……ようやく本気で頑張れそうだよ!  ありがとうワン子、あとで美味しいもん食わせちゃるけぇのぉ。 由紀江「朝食……あ、あのっ、それでしたら私にやらせてくださいっ!」 中井出「なんと!? よしじゃあ一緒にやろう」 卓也 「驚いたわりにあっさりすぎない!?」 中井出「まあまあ。何かこれたべたーいってリクエストある?     まゆっちと一緒に頑張ってきます故」 京  「博光が食べたい……じゅるり」 中井出「みんなの分を用意しろと?」 京  「それは困る。やっぱり無しで」 翔一 「おお、新たなる切り返し技を見た」  まあ特にリクエストがないならあるものでいってみましょう。  さあっ、りょーーりドンッ!! ───……。  その後、美味しくいただきました。 由紀江「えぇっ!? せっかくの見せ場が終わりですか!?」 中井出「いや〜、まゆっち料理上手だね。     アルティメットひぃお爺ちゃん、驚いちゃったよ」 由紀江「いえいえまだ作ってもいませんからっ!」 中井出「えー? だってこういう時って“出来ているものが〜”って」 由紀江「ううう〜〜……」  ひょっ!? 普通に睨まれてる!? 中井出「わーわわわ解った解った! だから泣くでないよ!     よしよし、ほいじゃあ二人でうまか料理を作って驚かせてやろうねぇ」 由紀江「博光さんはいっつも驚かせてるじゃないですか」 中井出「あれは具材のお陰だと思うけどね。まあいいや、材料ならなんでもお任せ!     どんな材料欲しい? もやし? 雪国もやし?」 由紀江「どうしてもやしに限定されてるんですか!?」 中井出「いや、実はモモバトルで本気出したお陰で結構マナ残量がキツくて。     もやしなら出せる! 信じられぬくらい美味いもやし。     ちなみに消費無しでは花の種が出せます。晦がハトで俺が花」 由紀江「花ですか……いいですね」  ちなみにこれ、植えるとモノスゲー勢いで生えます。  周りから栄養吸収して育つのですよ。 中井出「ではここでおもむろに料理を始めます」 由紀江「えぇえ!? 種のお話はっ!?」 中井出「気にしない気にしない、まずは材料をそろえます。     皿も用意しておきましょうね。もちろん調味料等も先に。     半熟加減などが大切な卵料理などを作る際、     皿を用意してないと皿を出している最中に半熟加減が殺されますから」 由紀江「えと……はい、大事なことですよね」 中井出「美味しいオムレツを作るなら卵は3つじゃなくて2つだ。     よくミルクを混ぜるヤツが居るが、それは大きな間違いだ」 由紀江「オムレツ、作るんですか?」 中井出「え? 作らないよ?」 由紀江「え、えぇええ……? なななんのための説明だったんですか……?」 中井出「んー……」  あわあわしているまゆっちの頭を撫でる。  なんのためのって、もちろんツッコミ入れてもらうためのだが。  わざわざ言うことでもないやね。  こうして少しずつ、言いたいことをハッキリ言えるお子になってもらおう。 中井出「では料理開始! まずフビライカーンを温めます」 由紀江「はい! ……はい!?」  んばっ!とこちらを見て驚いてくれました。  はい、こんな感じで終始ゴー。  フビライカーンじゃなくてフライパンを温めましょうね。 ……。  じゃじゃーーーん!! 中井出「完成!」 総員 『おおーーーっ!!』  出来た料理を基地へと運び、そこでサワヤカスマーイル。  同じく運んできたまゆっちはぐったりしてましたが。 由紀江「…………普段の数倍、不慣れなことをした気分ですぅう……」 中井出「貴重体験」 由紀江「ええ……はい、確かにかつてないほど話し込みましたっ!     一人で贈り物を誰かに渡す練習をしていた時よりもきっと!」 中井出「そこで無意識に暴露しちゃうあたり、キミっていいお子よね……」  ちょっと耳年増なところがありそうだけど。  しかしそんなことも含めて、定位置についた我らはいざ、とキャップを見た。 翔一「よぅし準備はいいかぁ!? グラスはみんなに渡ってるかー!?」 松風『よっ、大統領〜!』 翔一「大統領じゃねぇ俺はキャップだ!」 松風『おおぅそこで怒るのかーーーっ!?』  ツッコミつつもグラスを持ち、次なる言葉を待った。  キャップは一度コホンと咳払いをして、俺達全員を見渡す。 翔一「今日だけで一気にいろんなことがあって、頭がこんがらがってるかもしれねぇ!    でも相手の過去になにがあろうが俺達ゃ仲間だファミリーだ!    大切に思ってくれてるのに、    あーだこーだケチつけるなんてつまらねぇ真似はしねぇ!    一緒に楽しく過ごそうぜ! それだけだ! カンパイッ!!」 総員『カンパァーーーイ!!』  みんなが身を乗り出し、グラスをぶつけ合う。  ワン子の勢いが強かった所為で中身が少し飛んだが、ご安心めされい! 容器は木製!  グラスのようにゴバシャアと割れたりなどはせぬ! 多少は! 翔一 「さぁって食うぞー! まずはこの、ひとつだけ豪華な厚焼き玉子を」 百代 「秘技ツバの舞!《ぺぺっ!》」 翔一 「うわぁ汚ぇ! って、ああーーーっ! 俺の卵!」 百代 「ふふ……《もぐもぐ……》一つだけやたら豪華な卵があれば誰しもが狙う。     誰だってそうする。私だってそうする」 京  「でもさすがにツバは危険」 岳人 「つーかモモ先輩ならそんなことしなくても取れたっしょ!」 百代 「手強いヤツが居るから強引な手段で…………ん、んん? 歯ごたえがおかしい?」 中井出「フッ……愚かな。それは既にマシュマロだ」 百代 「なっ───どうりでやたらと甘いと!」 卓也 「いや食感で気づこうよ!!」 準  「うおーう……きっちり速さでモモ先輩を圧倒してるよ」 冬馬 「これはなかなか、面白くなってきましたね。是非とも忘れたくないものです」 一子 「ぐまぐま……んんー、おいひー♪」  そんなこんなで食事は進む。  落ち着き無くがつがつ食う者や、のんびりマイペースで食す者。  まゆっちやクリスは静かに食べてる……わけでもないか。  クリスが日本料理に頬を痺れさせ、感激している。 クリス「しかし驚いたぞヒロ。お前がモモ先輩と戦っていたRIKISHIだったとは」 岳人 「おお、あれは俺様もたまげた。SUMOUってあんなに激しかったんだな。     普段TVで見てるのが修正版だったなんて、驚きだぜ」 卓也 「ガクトにはこの前見せたでしょ鬼無双シリーズ!」 翔一 「おおっ、この魚うまいなぁ。まゆっち、これなんて魚だ?」 由紀江「あ、え、ええと、     確か名前はカルナバールアボルトナブルムサムラリカレスト・ザ・サカナです」 中井出「あれ覚えたの!?」 翔一 「スゲー名前だなぁ! しかも美味い!」  うん、この名前だけでも誰の思考がベースになったかとか考えに易いもんです。  間違い無く原中生でしょう。  カタカナのくせにサカナとついているのがニクイ、ステキなフィッシュです。  しかも“ザ”とかついてるとプロレスラーっぽい。 中井出「フェルダールの南西にだけ生息する海魚です。     食べた者を幸福にするって言い伝えがあって、     古くから婚約指輪の代わりに釣って、プロポーズに使う者も居たくらいだ」 冬馬 「それは……ふふ、随分と生臭そうなプロポーズですね」 京  「……もくもく…………はっ!? なら私たちは告白された……!?」 百代 「おおっ、そうなるな」 冬馬 「…………《ぽっ》」 中井出「頬染めないで!?」  いや、絆がもっと深まるようにって、取り出しただけですからね!?  そんな誰彼構わずプロポーズとかしませんよあたしゃあ! 小雪 「間接告白されたー♪ 重婚でも蹴落とすから今はいいよー?」 京  「……先に言われた」 中井出「よくないよ!? 改めて絆が深くなりますよーにって用意しただけだから!」 一子 「ちょっとクリ、そこのショーユを取りなさいよ」 クリス「そこのわさびとトレードだ」 翔一 「俺はそっちのラー油を」 準  「おかずラー油ってニクイ味だよねぇ。     メシにかけたあとの、あの最後の脂っぽさと微量の寂しさといったらもう」 由紀江「これはにんにくがいい味を出しているんであって、ラー油単体の味では……」 準  「よーするにラー油とにんにくは合うってことだろうお嬢ちゃん。     ヤボは言いっこなしってことで。ああそこなワン子さん? ご飯おかわり」 ワン子「超盛りね!?」 準  「普通で結構です」  一度騒ぎ始めればもう止まらない。  クリスとワン子の騒ぎを渦に、台風のように落ち着きの無い食卓になった。  だが構いませぬ、今日は無礼講。  むしろ毎日が無礼講な気がしないでもないが、いいじゃない?  だってみんな笑顔だもの。 翔一 「なぁなぁヒロー、メシ食い終わったら早速冒険してみたいんだけど、いいか?」 中井出「んむ、構いませぬ。でも現実をおろそかにするのはいけません。     ヒロラインを理由にガッコやバイトをサボるなら、プレイは認めません」 翔一 「大丈夫だ!」 卓也 「なんの根拠もないのに、よくそこまで自信たっぷりに言えるよね……」 翔一 「だってまずはやってみねーとわかんねーもん。     大和、お前もあそこで鍛えれば強くなれるぞ」 大和 「あの映像見ておいて、鍛えるって発想が出来るのはさすがキャップだ」 百代 「うずうずするじゃないか……! 一度でいいから竜とは戦ってみたかった……!     修行よりも修行って感じがしていい……実にいい……!」 準  「あーあぁなんかヘンな火ついちゃってない?     ヒロちゃん? 止められるのキミだけだからよろしくね?」 中井出「ヒロちゃん言うのやめなさい」  まあ、これからどうなっていくかは完全に僕ら次第だね。  足掻けば足掻くほどこの世界に居られるかもしれないなら、全力で足掻こう。  ヘタをすれば50年も居られないかもしれない世界だ。  せめて一秒でも長く、こいつらと居られるように。 翔一「じゃあ新メンバーが二人も増えたんだし、改めて自己紹介でもしてみるか。    風間翔一! 人生いつでもフリーダム! 風のような男だ!」 京 「これがリーダー」  サムズアップして歯を輝かせた。 大和「直江大和。一応知識担当で、武器は頭脳ってところか」 京 「軍師だね。人との交流担当。ケータイには恐ろしい数の番号が」 大和「人脈は武器にもなるし」  自己紹介中にケータイが鳴った。相変わらず顔が広くて落ち着かんヤツです。 中井出「中井出博光である。常識破壊担当で心は小者の平凡一市民」 京  「私の夫です《ぽっ》」 中井出「違いますからね?」  まあ、僕は適度に飛ばすとして。 一子「川神一子よ。武器は薙刀、好きな文字は勇気の勇! 好きな言葉は勇往邁進!」 京 「ちなみに犬担当」  もはや諦めてるのか犬呼ばわりでも気にしてない。ていうかメシ食ってる。 岳人「島津岳人、ナイスガイ担当の色男だ。    好きな女性タイプは年上の色気ムッチリな───」 京 「ただの筋肉担当だから気にしないでいい」 岳人「うるせーよ京! 最後まで言わせろ!」  はい筋肉担当です。  同年代か年上好きという好みがブレるナイスガイだ。  年下には頼り甲斐がありそうって思われてるのになぁ……。 卓也「えと、師岡卓也。細かな情報収集担当かな。    最近は便利だよね、なんでもインターネットで調べられるから」 小雪「んー……? ツッコミ担当じゃないのー?」 卓也「違うからねっ!? 断じて違うからっ!!」  ノートパソコンを持っており、PCの知識は深い。  アニメや漫画の情報なら彼だ。あと豆知識とかも。 百代 「川神百代だ。武器は拳一つ、好きな言葉は“誠”!」 京  「そして綺麗なねーちゃんと可愛い後輩が大好きな人。     ……このまま自己紹介に入るけど、べつに私が女好きなわけじゃない。     椎名京。武器は弓。好きな言葉は仁……女は愛。そしてあなたが好き」 中井出「この場合何担当になるんだお前。ちなみに家族でお願いします」 京  「……妻担当《ぽっ》」 中井出「誰か医者呼んでくれ。頭のほうのな」 京  「正気なのに……でもそんなあなたが好き」 中井出「はいはい好きですよー家族として。ほらユキ、次いっちゃって」  モモの紹介が霞むほどの嫌に濃厚な自己紹介だった。  クール担当でいいだろ京は。モモは…………傍若無人担当? 用心棒か、用心棒。 小雪「うん。中井出小雪、武器はテコンドーだから足だねー。    好きな言葉は……マシュマロー♪」  ユキ。色白。髪が白くて目は赤い、アルビノさんだね。  たまにやる紙芝居が常識破りで結構好きざんす。  京よりは他人に関心があって、ほぼ誰とでも打ち解けられる……かも。  準をハゲにした張本人で、それ以来結構仲がいい。  生まれつきの身体能力が異常で、タガが外れれば人間もコワせる恐ろしいコ。  ガキャアの頃に、家族になったばかりの冬馬をイジメたガキ、半殺しにしたし。 準 「はいはいマシュマロは言葉じゃないからねー? ちなみにポケポケ担当な。    あー、次俺か。井上準だ。こう見えて強いお兄さん。    好きな言葉は慈愛で、好きなものは幼児。主に女の子。ショタではない、ロリだ」 百代「一年女子も居るんだから少しは慎めハゲ」 準 「誇れるものを誇り続けず慎むのは主義に反するのです。南無」 京 「ハゲとロリコン担当。キャップより強い」  井上準。べつに家が寺でもないのにハゲ頭で(ユキの所為だが)、その所為か拝み手をするのが好きになった男。ちなみに実際キャップより強い。結構なんでも出来るのにな、キャップ。 冬馬「葵冬馬です。大和くんと同じく知識担当ですね。    厳密に言うと私と準は風間ファミリーではないのですが……今さら野暮ですね。    趣味はバイセクシャル、男の子と女の子、どちらでもいけます」 京 「ようするに薔薇担当」  かつて存在していた葵紋病院の息子。  ガキャアの頃にユキをいじめる輩を屠りに、隣のガッコに乗り込んだ時に知り合った。  大和と同じく交友関係が広くて、味方に引き込めればユキを守れると思ったのですよね、最初は随分打算な僕でした。  でもハラグローリィだったら困るってんで、当時病に侵されていたワン子の薬探しと一緒に身辺調査をしてみれば……親がいろいろあくどいことやっててね。良い病院だって噂も表だけで、裏を見れば黒すぎた。  そんな表の父を目指していた冬馬のショックはデカくて、しかし“目指していたからこそ”と準と一緒に冬馬を説得して告訴。  親が捕まって、院長の息子の冬馬にも、副院長の息子の準にもいろいろと問題が降りかかったが───なんのこたーない、全てもみ消してやったわ! あくまで冬馬と準に降りかかるものだけね。親は知らん。  そんなこともあって、川神学園に入るまでは一緒に住んでいたわけです。  元の家じゃ住みづらいだろうし、いろいろ嫌がらせもされるだろうからね。  ……実際、交友関係が広くてモテた冬馬に対してイジメをした輩も居たわけだが……これもなんのことはなく、俺と準とでシメました。ユキは加減を知らんから我慢してもらって。 冬馬 「そして薔薇担当のあとに自己紹介を始めるのは黛さんです。良いお尻ですね」 由紀江「なんだかすごいことを綺麗な笑顔で紹介されました!?     あ、えと、黛由紀江です。刀を使います。礼を尊びます」 京  「電波担当」 由紀江「そんな位置づけなんですか!?     ちちち違います! 松風は九十九神でして決して電波ではっ!」  まゆっち。剣聖と呼ばれた黛十一段の娘で、妹さんが居る。  何気に強く、本気を出せばモモの次に強いと僕は見る。  モモはほら……超回復とかあるからさ、フツーにやったんじゃ勝てないし。  ともかく、今でも僕があげた布団を大事に使ってくれてる良きお子です。 クリス「クリスティアーネ・フリードリヒ。武器はレイピア。義を重んじる」 一子 「ドイツ担当?」 クリス「どーいう担当だそれは!」 中井出「あの勝負以来、いっつもワン子と喧嘩してるから猿でいーんでない?」 クリス「だとしても何故猿がっ!? ……いや待て?     ……おお、犬猿の仲、というところを差しているのか。     なるほど───だがそれとこれとは話が別だっ!     正義担当! これでいいだろう!」 中井出「ならば俺は悪担当となろう!」 クリス「なにっ!?」  クリス。軍人の娘で、親は超がつくほどの親ばか。  転校初日からワン子と決闘をして勝利を得た、真面目一直線なお子。  策をねちねちと練るのが嫌いなフシがあり、そういった意味では大和と冬馬が嫌い。  友達としては十分だろうが、その性格はなんとかならないかって口に出してくるタイプ。  義を重んじると言いつつ、案外他人の義はどうでもよさそうな気が……気の所為?  まあ間違い無く、戦に出たら全軍突撃命令しか出さなそうだ。 クリス「お前の人生を見て学べることはあったが、     悪として自信を以って貫き続けるならお前も正義を名乗ればいいだろう!」 中井出「正しいことだなんて押し付けを続けてられるもんですか!     勝てばいいのよ勝てばよォォォォ!!」 大和 「同感。負けたら守りたいものも守れないし」 冬馬 「ええ、こればかりは譲れません。布石を敷くのは軍師の役目。     それら一つ一つが前線で戦う仲間の命を一人でも多く救える。     正しきよりも人の命。当然ではありませんか」 クリス「ぐっ……確かにそうだが、だからといって卑怯卑劣をし尽くすのは!」 中井出「モモは正々堂々戦っても、     超速回復ですぐにケロリとして、フツーに戦っては負けを知りませんが?     ん? これも正々堂々なの? ん?」 クリス「あ」 百代 「人を見て固まるとはいい度胸だなぁクリぃ……そんな子にはおしおきだっ!」 クリス「い、いや自分はっ、うあぁあああーーーーーーっ!!?」  連れていかれた。  うん、俺達は何も見なかった。 中井出「美味いな……」 準  「ウン美味い……」 翔一 「美味い……」  あとは黙々と食べる僕らが残された。  いろいろ聞こえてきちゃいるが、あえて無視で。 岳人 「な、なんか艶かしい声が天井からっ……!」 由紀江「こここここっ、これはいったいっ……!」 中井出「どうせマッサージでもしてるんでしょ。期待するだけ無駄だよガクト」 京  「いい加減ガクトはお約束を知るべき」 岳人 「解ってんよそんなことはぁ!     大事なのはイメージで、興奮できるかどうかだろ! なぁモロ」 卓也 「だからヘンな会話の時ばっかり僕に振らないでってば!」 小雪 「らんらんるー♪」 準  「はいいきなり危ない言葉禁止」 京  「博光、I'm lovin it」 準  「だからやめなさい!?」 中井出「そうだぞー? 言うからにはもっと愛を込めて。     ラン! ラン! ルゥーーーーーッ!!」 京  「ルー」 小雪 「イー」 卓也 「いやそれ先生の名前だからっ!」  ルー・イー先生。体育教師です。  とまあ終始そんなノリで、騒いで笑って、今日という休日は過ぎてゆきました。  いろいろと問題も山積みですが、それもなんとかしていきたいと思います。  なにより、今久しぶりに感じているこの轟然たる我が心の胎動……このメンバー全員が居ればなんでも出来るって気持ちが、どうしようもなくこれからの日々に期待を持たせてくれた。 中井出(───……みんな。俺は、楽しくやってるよ)  本当に久しぶりに、この報告が出来た。  ただ歩いていくだけしかしなかった自分に、懐かしい感情が芽生える。 中井出「そうだ。クマちゃんがグルメマップのまとめが出せそうって言ってたから、     そろそろ川神の歴史書を完成させようと思うんだけど」 クリス「歴史書! それは面白そうだな!」 翔一 「つーかさ、金の解決だろうとヒロはオヤジを救ったんだし、     それはそれでお前にしか出来ないことじゃないか?」 中井出「ダメじゃない? だってキミ、金稼ぎに外国飛んで百万くらい稼ぎそうだし」 総員 『言えてる……』  ───そう。  全員で新たに親睦を深めたその日。  俺はたしかに……真剣に、この家族に恋していた。 Next Menu Back